説明

吸汗性不織布とその製造方法

【課題】アレルゲンを吸着する微細無機物粒子の脱落を防止できる吸汗性不織布。
【解決手段】90〜30重量%の親水性繊維と10〜70重量%の疎水性繊維とからなり、疎水性繊維が表層部に偏在する一方、親水性繊維が中層部に偏在した吸汗性不織布10が、汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子25と親水性繊維21とを含み、微細無機物粒子25が水性エマルジョン型接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤を介して親水性繊維21の表面に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子が含有される吸汗性不織布とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスク等の雑貨品において、それを使用することによってアレルギーの発症予防効果をあげることを目的として、その雑貨品に使用する不織布にアレルゲン吸着性微粒子を含有させたものが知られており、それには例えば特開2002−167332号公報(特許文献1)がある。この文献に記載された不織布は、pH3〜7の水性媒体に、カオリン、タルク、セリサイト、雲母、シリカ、ケイ酸、無水ケイ酸、酸化チタン、活性炭等の粉体を配合して得られるアレルゲン吸着組成物を含有している。
【特許文献1】2002−167332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アレルゲン吸着組成物が配合された水性媒体を含むこの不織布は、その水性媒体が蒸発して不織布が乾燥すると、粉体であるアレルゲン吸着組成物は不織布を形成している繊維間隙にとどまって、主として繊維どうしによって機械的に保持されることになるから、不織布を使用する際に生じる折れ曲がり等の変形や不織布に加えられる衝撃等によって、その粉体が不織布から脱落して不織布本来の機能を発揮することができないということがある。
【0004】
そこで、この発明は、汗中のアレルゲンを吸着可能な微細無機物粒子を乾燥状態においても安定的に保持することのできる吸汗性不織布の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するためのこの発明は、吸汗性不織布に係る第1発明と、その不織布の製造方法に係る第2発明とを含んでいる。
【0006】
吸汗性不織布に係る前記第1発明が前提とするのは、汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子と吸汗性の親水性繊維とを含み、厚さ方向において互いに反対側の関係にある第1表層部と第2表層部とを有する吸汗性不織布である。
【0007】
かかる不織布において、第1発明が特徴とするところは、前記微細無機物粒子が水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤を介して前記親水性繊維の表面に付着した状態で含有されていること、にある。
【0008】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記吸汗性不織布が、90〜30重量%の前記親水性繊維と10〜70重量%の疎水性繊維とを含み、前記不織布の厚さ方向において、前記第1表層部と、前記第2表層部と、前記第1表層部と前記第2表層部との間の中層部とを有する。前記疎水性繊維は、前記第1表層部と前記第2表層部とのうちの少なくとも前記第1表層部に偏在した状態にある一方、前記親水性繊維は、前記第2表層部と前記中層部とのうちの少なくとも前記中層部に偏在した状態にあり、かつ前記第1表層部には前記親水性繊維が混在している。
【0009】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記疎水性繊維が前記第1表層部と前記第2表層部とに偏在した状態にある一方、前記親水性繊維が前記中層部に偏在した状態にあり、かつ前記第1表層部と前記第2表層部とには前記親水性繊維が混在している。
【0010】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記親水性繊維は、その表面に前記親水性繊維の長さ方向へ延びる複数条の溝を有するものである。
【0011】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記親水性繊維としてレーヨンを含む。
【0012】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記微細無機物粒子が前記中層部に偏在している。
【0013】
第1発明の実施形態の一つにおいて、前記吸汗性不織布に含まれる前記微細無機物粒子の量は、前記吸汗性不織布が1m×1mの大きさのものであるとしたときに、少なくとも0.1gである。
【0014】
吸汗性不織布の製造方法に係る第2発明が前提とするのは、親水性繊維と汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子とを含む吸汗性不織布の製造方法である。
【0015】
かかる第2発明が特徴とするところは、前記親水性繊維を含む不織布を前記微細無機物粒子と、水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤と、水との混合液に浸漬し、しかる後に脱水・乾燥処理して前記吸汗性不織布を得ること、にある。
【0016】
第2発明の実施形態の一つにおいて、前記親水性繊維で形成されたウエブの少なくとも片面に疎水性繊維で形成されたウエブを重ねることによって、前記親水性繊維が90〜30重量%を占め、前記疎水性繊維が10〜70重量%を占める積層ウエブを得た後、前記積層ウエブを高圧柱状水流で処理して前記積層ウエブからスパンレース不織布を形成し、前記スパンレース不織布を汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子と、水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤と、水との混合液に浸漬し、しかる後に脱水、乾燥処理することにより前記吸汗性不織布とする。
【0017】
第2発明の実施形態の一つにおいて、前記疎水性繊維で形成されたウエブは、前記親水性繊維で形成されたウエブの片面に重ねられる一層のウエブであるか前記親水性繊維で形成されたウエブの両面それぞれに重ねられた二層のウエブであるかのいずれかの態様にある。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る吸汗性不織布は、汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子が水溶性接着剤を介して親水性繊維の表面に付着しているから、吸汗性不織布が乾燥状態にあるときに、その微細無機物粒子は吸汗性不織布から簡単に脱落するということがない。
【0019】
また、この発明に係る吸汗性不織布の製造方法によれば、不織布の両表面のうちの少なくとも一方を含む不織布の表層部が疎水性繊維によって形成され、その表層部よりも内側の部分が親水性繊維によって形成されている不織布を微細無機物粒子と水溶性接着剤と水との混合液に浸漬し、その後に脱水、乾燥処理するから、微細無機物粒子と接着剤との多くを疎水性繊維ではなくて親水性繊維に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】吸汗性不織布の模式的断面図。
【図2】吸汗性不織布の断面写真。
【図3】図2の被写体をトレースした図。
【図4】図2の写真の部分拡大図。
【図5】図4の被写体の部分拡大図。
【図6】吸汗性不織布の製造工程。
【図7】おむつの平面図。
【図8】おむつの着用試験結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
添付の図面を参照して、この発明に係る吸汗性不織布とその製造方法との詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0022】
図1は、吸汗性不織布の一例である不織布10の模式的断面図である。不織布10は、肌に接触させて使用するのに好適なもので、20〜70g/mの坪量を有しており、レーヨンやポリノジック、キュプラ、テンセル(登録商標)等のセルロース再生繊維の他に、コットン繊維、粉砕パルプを一例とするパルプ繊維等で形成されていて90〜30重量%を占める親水性繊維21と、熱可塑性合成繊維で形成されていて10〜70重量%を占める疎水性繊維22とを含んでいる。不織布10はまた、第1表層部16と、第1表層部16の反対側に位置する第2表層部17とを有し、第1表層部16と第2表層部17との間の寸法として規定される厚さが3g/cmの加重下で測定したときに0.2〜5mmの範囲にある。疎水性繊維22は、第1表層部16と第2表層部17とに偏在している。親水性繊維21は、その第1表層部16と第2表層部17との間である中層部18に偏在している。ただし、第1表層部16と第2表層部17とには、中層部18との間に延びる親水性繊維21が混在している。親水性繊維21の表面には、多数の微細無機物粒子25が接着剤を介して付着している。不織布10の厚さ方向において、厚さ0.5mm当りの微細無機物粒子25の個数は、中層部18において最も多く、第1、第2表層部16,17においては中層部18よりも少なくなる。微細無機物粒子25は、ヒトの汗に含まれるアレルゲンを吸着できる公知の粒子、例えば多孔質シリカや活性炭、ゼオライト等が使用される。接着剤は微細無機物粒子25を親水性繊維21の表面に付着させる媒体となるもので、アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョンやポリビニルアルコール、デンプン等の水溶性のものが使用される。これらの接着剤は、微細無機物粒子25を後記の図6の工程において不織布68に付着させる際にはエマルジョンまたは水溶液の状態にあるが、不織布68に対する脱水、乾燥等の処理後には固化し、不織布68が不織布10となった後では汗等の水分が不織布10に付着したとしても、それらの水分によっては溶出するということがないものであることが望ましい。
【0023】
不織布10が、それを肌に接触させて使用することを目的とするものである場合に、その不織布10に含ませるべき微細無機物粒子25の量は、不織布10が1m×1mの大きさのものであるとしたときに、粒子25が例えば粒径3〜25μmの多孔質シリカであれば、少なくとも0.1gであることが好ましく、水溶性接着剤の量は少なくとも0.1gであることが好ましい。これら微細無機物粒子25と接着剤の量は、微細無機物粒子25のアレルゲン吸着性能に応じて変化させることが好ましい。
【0024】
このように形成されている不織布10は、汗をかいている肌に例えば第1表面11を当てると、第1表層部16に混在している親水性繊維21が汗を吸い取り、その汗を中層部18へ移行させることができる。中層部18では、そこに存在する多数の微細無機物粒子25がその汗を吸収することに伴って汗中のアレルゲンを吸収することができる。その結果として、汗をかいたことが原因となって発生するかゆみやあせも等のアレルギー反応を抑制することができる。
【0025】
不織布10では、微細無機物粒子25が水性エマルジョン形接着剤や水溶性接着剤を介して親水性繊維21に付着していることによって、簡単には不織布10から脱落することのないものになる。また、その親水性繊維21は中層部18に偏在しており、したがってまた微細無機物粒子25も中層部18に偏在していることによって、微細無機物粒子25は第1表層部16と第2表層部17との疎水性繊維22によって被覆保護された状態にあるから、不織布10が曲げられたり伸ばされたりしたときや、衝撃を受けたときでも微細無機物粒子25の親水性繊維21からの脱落や不織布10からの脱落が少なくなる。また、不織布10が汗を吸収したときには、その汗が中層部18の親水性繊維21へと移行する一方、第1表面11とその反対面である第2表面12とが主として疎水性繊維22で形成されているから、汗を吸収した不織布10が肌に接触していても湿潤感が強くなるということがない。
【0026】
図2,3は、不織布10の実例の断面を150倍に拡大して示す写真と、その写真における被写体をトレースした図である。図2の不織布10は、親水性繊維21として繊度1.5dtex、繊維長44mmのレーヨンを21.2g/m含み、疎水性繊維22のうちの第1疎水性繊維22aとして繊度1.3dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維を11.2g/m含み、第2疎水性繊維22bとして繊度1.7dtex、繊維長45mmの変性ポリプロピレン/ポリプロピレンで形成された同芯複合繊維を5.6g/m含んでいる坪量38g/mのスパンレース不織布を使用して得られたものである。第1疎水性繊維22aは、第1表層部16と第2表層部17とに偏在しており、第2疎水性繊維22bは、例えば図示の部位27において二条のものが互いに溶着して、不織布10の強度向上に寄与している。微細無機物粒子25は、主として親水性繊維22に付着して、中層部18に集まっている。ただし、図2において、接着剤の存在を識別することは難しい。
【0027】
図4,5において、図4は図2の部分拡大図であり、図5は図4の被写体をトレースした図である。これらの図において、微細無機物粒子25である多孔質シリカは、第1疎水性繊維22aや第2疎水性繊維22bではなくて、主として親水性繊維21として使用されたレーヨンに付着している。また、親水性繊維21と第1疎水性繊維22a(図3参照)と第2疎水性繊維22bとが錯綜し、互いに交絡した状態にある。第2疎水性繊維22bは、部位27において互いに溶着しており、交絡している繊維どうしがほぐれることを防いでいる。この発明において、親水性繊維として使用されるセルロース系再生繊維は、レーヨンの他にポリノジック、キュプラ、テンセル(登録商標)等があるが、レーヨンは図4,5に参照符号21で示されているものであって、繊度1.5dtexを有し、その繊維21のそれぞれの表面には繊維21の長さ方向へ延びる複数条の溝20が形成されている。粒径3〜20μmの多孔質シリカで形成された多数の微細無機物粒子25のなかには、その溝20の内側において親水性繊維21の表面に付着しているものがある。このように付着している微細無機物粒子25は、それが円形の断面を有するポリノジックやキュプラ等の繊維の表面に付着する場合に比べて、繊維との付着面積が大きくなる傾向にあり、繊維から脱落することが少なくなる。
【0028】
図6は、不織布10の製造工程の一例を示す図である。図において、機械方向MDの上流側からは、親水性繊維21で形成された第1ウエブ61が供給され、第1ウエブ61の上面には疎水性繊維22で形成された第2ウエブ62が供給され、第1ウエブ61の下面には疎水性繊維22で形成された第3ウエブ63が供給されて、積層ウエブ64が得られる。積層ウエブ64は、ノズル65からの高圧柱状水流66の噴射を受けた後に、乾燥室67を通過してスパンレース不織布68となる。スパンレース不織布68は、処理液69に浸漬された後にニップロール71で脱水処理され、さらに乾燥室72を通過して吸汗性不織布10となって巻き取られる。積層ウエブ64から得られるスパンレース不織布68では、その両表面層の近傍に疎水性繊維22が偏在し、両表面層の間の中間層に親水性繊維21が偏在することになる。処理液69は、所要濃度に調整された微細無機物粒子25と、水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤いずれかの接着剤と、水との混合物であって、スパンレース不織布68がこの処理液69に浸漬され、脱水処理されると、微細無機物粒子25とこの接着剤とが主として親水性繊維21に付着して、疎水性繊維22には殆ど付着していない状態になる。この状態にあるスパンレース不織布68が乾燥処理されると、図1や図2に例示の吸汗性不織布10となる。不織布10のこのような製法によれば、微細無機物粒子25の大部分を不織布10の中層部18で保持する一方、その粒子の脱落を第1、第2表層部16,17で防止することが可能であり、しかも原料となった積層ウエブ64の厚さに比べるとはるかに薄い不織布10を得ることができる。
【0029】
不織布10のこのような製造工程において、第1、第2、第3ウエブ61,62,63のそれぞれには,親水性繊維21や疎水性繊維22をカード機等で開繊処理して得られるウエブを使用することができる他に、第2、第3ウエブ62,63の少なくとも一方には不織布を使用することもできる。親水性繊維21は、繊度や長さ、親水度等の異なる複数種類の親水性繊維の混合物にすることができる。疎水性繊維22もまた複数種類の疎水性繊維の混合物にすることができる。例えば、不織布10の剛性を高めるためにポリエステル繊維を使用することができる。疎水性繊維22どうしの溶着を容易にするためには低融点の樹脂成分を含む複合繊維、例えば変性ポリプロピレン/ポリプロピレンとの複合繊維を混合することができる。疎水性繊維22どうしの溶着は、乾燥室67または72の温度を調整することによって可能になる。図の工程においてはまた、疎水性繊維22の全体を第2ウエブ62と第3ウエブ63とに配分することについては格別の規定はない。その配分は、不織布10の用途を勘案して決めればよいもので、不織布10の両表面を区別することなく使用したい場合には、第2、第3ウエブ62,63の坪量を同じにすることができる。また、不織布10の片面だけを肌に当てることが決まっている用途では、疎水性繊維22の全量を第2ウエブ62または第3ウエブ63に割り当てることができる。第2ウエブ62および/または第3ウエブ63として供給される疎水性繊維22には、親水化処理した熱可塑性合成繊維やレーヨン等の親水性繊維を40重量%を限度として混合しておくこともできる。不織布10が含有する微細無機物粒子25の量は、処理液69における粒子25と水溶性接着剤との濃度によって調整することができる。ただし、不織布10において、接着剤は粒子25の表面を被覆して、粒子25の吸着性能を低下させる傾向にあるので、処理液69におけるこれら粒子25と接着剤との濃度は、不織布10の肌に当てる面の大きさを1m×1mとしたときに、その不織布10に粒子25が0.1〜2g、接着剤が0.05〜1.0g含まれるように調整することが好ましい。
【0030】
なお、不織布10が第1、第2表層部16,17に親水性繊維21の混在を必要としない用途のものである場合には、図6の第1、第2、第3ウエブ61,62,63のそれぞれに不織布を使用し、それらの不織布を溶着したり接着したりすることによって積層ウエブ64を得ることも可能である。
【0031】
この発明における微細無機物粒子25は、例えば、多孔質シリカのように、汗と接触し、その結果として汗中のアレルゲンを吸収することによって、アレルギー反応を抑制しようとするものである。そのアレルギー反応は、汗に刺激された好塩基球に脱顆粒が起こって遊離したヒスタミンが原因となって引き起こされる。そのような微細無機物粒子25の抑制効果の程度は、汗が原因となって生じるヒスタミンの遊離をどの程度にまで抑えられたかということを示すヒスタミン遊離抑制率によって判断される。ヒスタミン遊離抑制率は、例えば、下記のような方法で求められる。
【0032】
1.不織布/汗混合試験液の準備
(1)所定量の多孔質シリカが付着する不織布0.1gを裁断して20mlチューブに投入
(2)チューブにリン酸緩衝液2ml、汗0.3mlを添加し、振盪、上清液をろ過
(3)ろ液を不織布/汗混合試験液とする。
2.ヒスタミン遊離抑制率
ヒスタミンは、不織布/汗混合試験液を準備した後、文献(Koro,O.et.al. J.Allergy Clin.Immunol.,Volume 103,Number4,April 1999,P663-670)記載の方法により遊離の定量化(遊離率の測定)を行う。ヒスタミン遊離抑制率は、不織布/汗混合試験液に血清懸濁液を混合させ、その上清と血球沈殿の混合液中のヒスタミン濃度と上清液中のヒスタミン濃度の割合である遊離率を算出することで、下記数1の式により、求められる。
【0033】
【数1】

(注)汗だけでの遊離率とは、「1.不織布/汗混合試験液の準備」において、不織布を使用せずに、汗とリン酸緩衝液だけを使用して調製したサンプルについての遊離率を意味する。

【0034】
発明者らが行った測定においては、多孔質シリカを0.30g/m、水性エマルジョン形接着剤を0.20g/m固着した不織布では、ヒスタミン遊離抑制率が51%、多孔質シリカを0.32g/m、水性エマルジョン形接着剤を0.22g/m固着した不織布では、ヒスタミン遊離抑制率が56%となり、多孔質シリカを1.04g/m、水溶性接着剤を0.37g/m固着した不織布では、ヒスタミン遊離抑制率が63%、となるなど、ヒスタミン遊離抑制率が50%より大きくなり、ヒスタミン遊離を抑制する効果が見られた。
【0035】
図7は、市販のパンツ型の使い捨ておむつ50を平面状に展開した図である。このおむつ50は、前後方向の寸法が465mm、横方向の寸法が365mmの幼児用Lサイズのもので、図には、この発明に係る吸汗性の不織布10で作られた評価用の吸汗性シート60を取り付ける位置が仮想線で示されている。おむつ50は、前後胴周り域57,58と股下域56とを有し、前後胴周り域57,58は、側縁部どうしが合掌状に重ねられて図示の部位59aどうし、59bどうしが溶着されてパンツ型となるもので、透液性内面シート51と不透液性外面シート(図示せず)との間に体液吸収性の芯材52を介在させてある。その芯材52は、股下域56を中央にして前胴周り域57と後胴周り域58とにまで延びている。吸汗性シート60は、38g/mの坪量を有し、21.9g/mのレーヨンと、11.2g/mのポリエステル繊維と、5.6g/mの変性ポリプロピレン/プロピレンの複合繊維とを含み、図における前後方向Aの寸法が65mmで横方向Bの寸法が285mmのものである。この吸汗性シート60には、図5の工程を使用して、多孔質シリカを1.0g/m、接着剤としての水性アクリルエマルジョンの固形分を0.35g/m含有させてある。吸汗性シート60は、ホットメルト接着剤(図示せず)を使用して、図示の位置に取り付けられる。
【0036】
図8は、図7の市販品のおむつ50と、このおむつ50に吸汗性シート60を取り付けた改良おむつとの着用試験の結果を示すものである。この着用試験では、おむつで被覆される身体部位に中等度以上の皮疹がある幼児を被験者として13名選び、10日間おむつ50を着用させた後に、改良おむつを10日間着用させて、幼児のかゆがる様子について幼児の母親に感想を求めた結果である。この結果から、吸汗性シート60には、かゆみを抑制する効果のあることを確認することができる。また、図8の結果とヒスタミン遊離抑制率を考慮すると、吸汗性シート60を作るための坪量10〜70g/m、厚さ0.2〜5mmを有する吸汗性の不織布10は、少なくとも0.1g/m、より好ましくは0.3g/mの微細無機物粒子と、少なくとも0.15g/m、より好ましくは0.2g/mの接着剤とを含有していて、ヒスタミン遊離抑制率として50%以上の値を有するものであることが好ましいと考えられる。
【0037】
使い捨ておむつへの使用例によって説明したこの発明に係る吸汗性不織布は、アレルギーの発症を予防するための不織布としておむつ以外の用途に幅広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子と吸汗性の親水性繊維とを含み、厚さ方向において互いに反対側の関係にある第1表層部と第2表層部とを有する吸汗性不織布であって、
前記微細無機物粒子が水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤を介して前記親水性繊維の表面に付着した状態で含有されていることを特徴とする前記吸汗性不織布。
【請求項2】
前記吸汗性不織布が、90〜30重量%の前記親水性繊維と10〜70重量%の疎水性繊維とを含み、前記不織布の厚さ方向において、前記第1表層部と、前記第2表層部と、前記第1表層部と前記第2表層部との間の中層部とを有し、前記疎水性繊維が前記第1表層部と前記第2表層部とのうちの少なくとも前記第1表層部に偏在した状態にある一方、前記親水性繊維が前記第2表層部と前記中層部とのうちの少なくとも前記中層部に偏在した状態にあり、かつ前記第1表層部には前記親水性繊維が混在している請求項1記載の吸汗性不織布。
【請求項3】
前記疎水性繊維が前記第1表層部と前記第2表層部とに偏在した状態にある一方、前記親水性繊維が前記中層部に偏在した状態にあり、かつ前記第1表層部と前記第2表層部とには前記親水性繊維が混在している請求項1記載の吸汗性不織布。
【請求項4】
前記親水性繊維は、その表面に前記親水性繊維の長さ方向へ延びる複数条の溝を有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の吸汗性不織布。
【請求項5】
前記親水性繊維としてレーヨンを含む請求項1〜4のいずれかに記載の吸汗性不織布。
【請求項6】
前記微細無機物粒子が前記中層部に偏在している請求項1〜5のいずれかに記載の吸汗性不織布。
【請求項7】
前記吸汗性不織布に含まれる前記微細無機物粒子の量は、前記吸汗性不織布が1m×1mの大きさのものであるとしたときに、少なくとも0.1gである請求項1〜6のいずれかに記載の吸汗性不織布。
【請求項8】
親水性繊維と汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子とを含む吸汗性不織布の製造方法において、
前記親水性繊維を含む不織布を前記微細無機物粒子と、水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤と、水との混合液に浸漬し、しかる後に脱水・乾燥処理して前記吸汗性不織布を得ることを特徴とする前記製造方法。
【請求項9】
前記親水性繊維で形成されたウエブの少なくとも片面に疎水性繊維で形成されたウエブを重ねることによって、前記親水性繊維が90〜30重量%を占め、前記疎水性繊維が10〜70重量%を占める積層ウエブを得た後、前記積層ウエブを高圧柱状水流で処理して前記積層ウエブからスパンレース不織布を形成し、前記スパンレース不織布を汗中のアレルゲンを吸着する微細無機物粒子と、水性エマルジョン形接着剤および水溶性接着剤のいずれかの接着剤と、水との混合液に浸漬し、しかる後に脱水、乾燥処理することにより前記吸汗性不織布を得る請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記疎水性繊維で形成されたウエブは、前記親水性繊維で形成されたウエブの片面に重ねられる一層のウエブであるか前記親水性繊維で形成されたウエブの両面それぞれに重ねられる二層のウエブであるかのいずれかの態様にある請求項9記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−263842(P2009−263842A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52342(P2009−52342)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】