説明

吸着材および体外循環用カラム

【課題】
顆粒球や単球などの細胞を除去し、かつ残存した細胞に対し、活性化を促すよう
なサイトカイン類も、残存した液成分中に残らない吸着材を提供する
【解決手段】
ゼータ電位が−20mV以上であって、血液中の顆粒球および/または単球と、サイトカインとを同時に吸着することを特徴とする吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中から白血球を除去する、いわゆる白血球除去療法に好適に用いられる吸着材および血液処理カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液中には、血球、サイトカインその他液性成分など様々な成分が含まれ、これらの血液成分は体内の免疫のバランス調整において重要な役割を果たしている。
【0003】
また、リポ多糖に代表されるエンドトキシンは、血液中で発熱、血圧低下、血管内凝固、ハーゲマン因子の活性化など種々の生物活性を示す。特に臨床の場では、例えば外科手術後に患者血液中に混入したエンドトキシンに起因する重篤な敗血症を引き起こしたり、エンドトキシンによって刺激を受けた白血球より癌壊死因子、インターロイキン1、インターロイシン6、インターフェロンなどの種々のサイトカインや、酸過酸化物が放出されて、これら過剰なサイトカインが生理的悪影響を及ぼすことなどが知られている。患者血液中に混入したエンドトキシン、特に重篤な患者の血液に混入したエンドトキシンに起因して、白血球より癌壊死因子、インターロイキン1、インターロイシン6、インターフェロンなどの種々のサイトカインや、酸過酸化物が放出されること、また、これら過剰なサイトカインが生理的悪影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
これまでに、白血球除去や、顆粒球除去を目的としたカラム(特許文献1,2)や、サイトカイン吸着を目的としたカラム(特許文献3,4)がそれぞれ開発されてきている。
【0005】
これらのカラムの担体においては、白血球そのものの除去、顆粒球そのものの除去、サイトカインそのものの除去には効率化が施されているが、血球が情報応答する液性因子については除去することができないため、残存した細胞の正常化が不十分となる。
【0006】
白血球と毒素を同時に吸着することを目的としたカラム(特許文献5,6)も開発されているが、サイトカインなどの細胞が産生する生理活性物質吸着については何ら除去することができないため、残存した細胞の正常化が不十分となる。
【0007】
ゼータ電位が0mV以上であることを規定した白血球除去担体の発明はあるが(特許文献7)、血球除去についての開示にとどまり、残存した細胞の正常化が不十分となる。
【特許文献1】特開昭60−193468号公報
【特許文献2】特開平5−168706号公報
【特許文献3】特開平10−225515号公報
【特許文献4】特開平12−237585号公報
【特許文献5】特開平14−113097号公報
【特許文献6】特開平14−172163号公報
【特許文献7】特開平6−142196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】

本発明は、顆粒球や単球などの細胞を除去し、かつ残存した細胞に対し、活性化を促すようなサイトカイン類も、残存した液成分中に残らないようにすることが課題である。このためには、細胞除去と同時に異常に増加するサイトカインをも除去できる機能を吸着担体に付与することで、これらの問題点が解決できると考えた。
【0009】
本発明者等は、体液中に存在し、サイトカイン放出の原因となっている体液中のエンドトキシンや顆粒球や単球表面に付着したエンドトキシンなどを吸着除去し、またはエンドトキシンによる過剰なサイトカインの生産を予防することによって、エンドトキシン含有血液の状態を改善することが重要な課題であることを知るに到った。本発明は、体液中のエンドトキシンを吸着材に吸着させることによって直接的に、また顆粒球或いは単球などの白血球成分への付着性のエンドトキシンを、顆粒球或いは単球を本捕捉材に付着させることによって間接的に、血液中より除去しようとするものである。更には該エンドトキシンに起因するサイトカインをも除去して血液中のサイトカイン濃度の上昇を予防しようとするものである。
【0010】
すなわち本発明は、エンドトキシンや、顆粒球や単球などの細胞を除去し、かつ残存した細胞に対して活性化を促すようなサイトカイン類も、残存した液成分中に残らないようにすることが課題であり、かかる課題の解決のために、本発明は、細胞とエンドトキシンおよびサイトカインの両方の吸着、両方の除去に好適に使用し得る高機能材料、およびそれを用いた高機能血液処理カラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の構成を有する。
【0012】
1.ゼータ電位が−20mV以上であって、血液中の顆粒球、単球およびサイトカインを吸着することを特徴とする吸着材。
【0013】
2.顆粒球の吸着率が50%以上、かつ単球の吸着率が50%以上であることを特徴とする前記1に記載の吸着器。
【0014】
3.リンパ球の吸着率が40%以下であることを特徴とする前記1または記載の吸着材。
【0015】
4.前記サイトカインがインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、TNF−α、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)および免疫抑制酸性蛋白(IAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の吸着材。
【0016】
5.水不溶性担体に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を結合してなる前記1〜4のいずれかに記載の吸着材。
【0017】
6.ゼータ電位が−15mV以上であって、1vol%牛胎仔血清(FCS)溶解生理食塩水中で90%以上のリポ多糖(LPS)吸着能を有することを特徴とする前記1に記載の吸着材。
【0018】
7.前記吸着材の形状が、繊維、膜、中空糸及びビーズから選ばれる形状であることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の吸着材。
【0019】
8.官能基を結合してなる水不溶性担体を含むことを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載の吸着材。
【0020】
9.前記水不溶性担体の形状が、繊維径が3μmを超える繊維あるいは中空糸、及び表面の突起の径が3μmを超えるビーズから選ばれる形状であることを特徴とする前記8に記載の吸着材。
【0021】
10.前記水不溶性担体の形状が、繊維径が4〜8μmの繊維あるいは中空糸、及びビーズの表面の突起の径が4〜8μmのビーズから選ばれる形状であることを特徴とする前記8に記載の吸着材。
【0022】
11.前記水不溶性担体の形状が、繊維径が4.5〜8μmの繊維あるいは中空糸、及びビーズ粒子の表面の突起の径が4.5〜8μmのビーズから選ばれる形状であることを特徴とする前記8に記載の吸着材。
【0023】
12.前記水不溶性担体の形状が、繊維径が10〜50μmの繊維あるいは中空糸を更に含むことを特徴とする前記9〜11のいずれかに記載の吸着材。
【0024】
13.水不溶性担体に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を結合してなる前記8〜12のいずれかに記載の吸着材。
【0025】
14.4級アンモニウム塩がN、N−ジメチルヘキシルアミン、N、N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、テトラエチレンペンタミンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする前記13に記載の吸着材。
【0026】
15.白血球除去療法に用いられることを特徴とする前記1〜14のいずれかに記載の吸着材。
【0027】
16.前記1〜15のいずれかに記載の吸着材を容器に充填してなる血液処理カラム。
【0028】
17.血液を循環させることを特徴とする前記16記載の血液処理カラム。
【0029】
18.白血球除去療法に用いられることを特徴とする前記16または17に記載の血液処理カラム。
【0030】
19.生物との体外循環後150〜180時間経過後に、体外循環前に比べ、リンパ球数の増加と顆粒球数の減少を示す前記16〜18のいずれかに記載の血液処理カラム。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、過剰に増殖した顆粒球や単球などの人体に不要な白血球やこれら細胞に対し情報伝達するサイトカインを同時に除去し、かつ、過剰に増殖した顆粒球や単球などの人体に不要な白血球やこれら細胞に対し情報伝達するサイトカインと、白血球を活性化するLPSを同時に除去することにより、潰瘍性大腸炎、クローン病、自己免疫疾患などの際の血液処理や治療に有用な吸着材および血液処理用カラムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
続いて、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0033】
本発明の吸着材として好ましい態様は、ゼータ電位が−15mV以上の吸着材である。
【0034】
吸着材の基本的な構成としては、水不溶性担体に官能基を固定化したもの、もしくは官能基を固定化した水不溶性担体を基材にコーティング等したものが好ましい。
【0035】
本発明で用いる水不溶性担体としては、水に不溶で、官能基を固定化できるものであれば良く、特に制限されない。生体適合性の観点からは、ポリプロピレンやポリエチレンなどのオレフィン系樹脂が好ましく、ポリアミドやポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステルが好ましいが、加水分解には注意が必要である。
【0036】
本発明の吸着材においては、細胞表面にある糖タンパク質上のシアル酸や,リン酸を認知したり、サイトカインなどに結合した糖鎖上のシアル酸やリン酸などを認識する上で、ゼータ電位が高い方が好ましい。通常のポリプロピレンやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどの高分子材料は、ゼータ電位としてはマイナスの値を持ち、概ね−30mV程度である。そこで本発明者らは、水不溶性担体に特定の官能基、たとえば4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化することで、ゼータ電位を−20mV以上に設定したところ、これらの吸着特性が良好であることを見出し、本発明に到達した。
さらに、ゼータ電位は−15mV以上であるとリポ多糖(LPS)に対する吸着特性がいっそう優れるので好ましく、−10mV以上になるとより効果が高く、−2mV以上がさらに好ましい。
【0037】
また、本発明においては、顆粒球、単球およびサイトカインへの吸着能を有すると同時に、吸着材がLPSの吸着能を有することが好ましい。LPSは後述するように一般にグラム陰性菌の持つ毒素である。LPSは白血球上のTLR−4などのレセプタータンパク質と結合し、活性化し以上状態を導出することがわかっている。顆粒球およびまたは単球、およびサイトカインを除去することで、これらに起因する異常状態を軽減できるが、たとえば炎症性部位・潰瘍部位などから侵入した菌より発生したLPSが残存すると、患者の状態が正常状態に近い状態へ移行したにもかかわらず、再度異常状態に陥ることがある。本発明の吸着材に、白血球、サイトカインの吸着能と同時にLPSをも除去することに好ましい機構を付与することで、効率良く潰瘍性大腸炎、クローン病、自己免疫疾患などの血液処理や治療に有用に用いることができる。また、かかる多機能的吸着材を用いることで、治療用カラムのコンパクト化が可能である。
【0038】
なお、本発明においてゼータ電位とは、吸着材表面のゼータ電位をいう。表面ゼータ電位は、流動電位測定装置によって、流動電位と液体を流すために加えた圧力及び、液体の比伝導率を測定することによって計算より求めることができる。本発明の吸着材は、ゼータ電位が−20mV以上のものであることが好ましく、−15mV以上がより好ましく、−2mV以上が特に好ましい。上限については、赤血球の溶血等を防止する観点から10mV以下とすることが好ましい。
【0039】
本発明において、水不溶性担体の形状は特に限定されないが、加工性や、血液処理カラムとした時の圧力損失等の点から、繊維、膜、中空糸又はビーズの形状であることが好ましい。もちろん、これらの組み合わせでもかまわない。
【0040】
また、本発明における吸着材は、血液中の顆粒球、単球およびサイトカインを吸着する能力を有し、特に、血液からの顆粒球の吸着率が50%以上であり、かつ単球の吸着率が50%以上であることが好ましい。ここで、本発明における吸着率とは、血球を例に取る場合、吸着材を充填したカラムに血液を1回通過させたときの通過前後の血球量を血球分析装置により測定して、以下の式より求められるものである。カラムの大きさ、形状、血液の通過速度等の条件は、実施例に例示する方法によることができ、これと同等の結果を有する条件であれば問題ない。
【0041】
吸着率(%)=[(カラム通過前の血液中の血球量)−(カラム通過後の血液中の血球量)]/(カラム通過前の血液中の血球量)×100
なお、本発明の吸着材は、血球を吸着する作用を有するものであるが、さらに濾過作用を有するものであってもよい。この場合の上記吸着率の算出対象は、吸着により血液中から除去される血球だけでなく濾過により除去される血球も含まれることになる。
【0042】
顆粒球、単球等の細胞を吸着除去させるためには、本発明の吸着材を水不溶性担体として用いることが好ましく、中でも、繊維、中空糸の繊維径、あるいはビーズ粒子の表面の突起の径(大きさ)等(以下、繊維径等)が3μmを超えることが好ましい。特に、これより径が小さくなると、リンパ球の吸着除去が多くなるため、メモリーセルの除去に繋がりあまり好ましくない。ただし、繊維の径については、リンパ球の吸着除去率を抑制するためには、より好ましい範囲は4μm以上であり、更に好ましい範囲は4.5μm以上である。さらに、リンパ球の除去率をより抑え、かつ顆粒球や単球の除去率低下につながらないようにする観点からは、繊維の径を5μm以上とすることがより好ましいこともある。しかしながら、繊維の径が8μmを超える場合は、顆粒球、単球の除去率が低下傾向を示し、繊維の径が10μm以上になると顆粒球や単球の除去率が低下してしまうため、好ましくない。実用上の観点からは繊維の径が20μm以下であることが好ましい。
【0043】
一方、上記繊維(繊維Aとする。)に対し、主に血球の除去以外の目的、すなわち、吸着材の強度を一定以上に保つ目的から、より太径の繊維を繊維構造体などとして混合することがある(繊維Bとする。)。かかる繊維Bの径はこの限りではなく、繊維Bの繊維の径としては、10μm〜50μmが好ましい。10μmを下回る場合は、繊維Bの混合の主目的である強度維持の効果を期待できないことがある。50μmを上回る場合は、繊維Aとの混合が困難になることがある。
【0044】
リンパ球の除去は、メモリーセルの低下につながりにくい理由から40%以下が好ましく、さらに安全性の観点で好ましくは30%以下である。
【0045】
本発明の吸着材としては、上記水不溶性担体に、官能基として4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化したものが好ましい。4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を水不溶性担体に固定化するための反応性官能基としては、ハロメチル基、ハロアセチル基、ハロアセトアミドメチル基、ハロゲン化アルキル基などの活性ハロゲン基、エポキサイド基、カルボキシル基、イソシアン酸基、チオイソシアン酸基、酸無水物基などをあげることができるが、とりわけ、活性ハロゲン基、中でも、ハロアセチル基は、製造が容易な上に、反応性が適度に高く、4級アンモニウム塩およびまたは直鎖状アミノ基の固定化反応が温和な条件で遂行できると共に、この際生じる共有結合が化学的に安定なので好ましい。
【0046】
固定化される官能基としては4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基が好適であり、これらはアンモニア、第1〜3級アミノ基がポリマに化学的に結合した状態のものを意味する。さらに、1〜3級アミノ基としては、炭素数で言うと、窒素原子1個当たり炭素数18以下であるものが反応率向上のために好ましい。さらに、1〜3級アミノ基の中でも、窒素原子1個当たり炭素数3以上18以下、とりわけ、4以上14以下のアルキル基を持つ第3級アミノ基を結合して形成された4級アンモニウム基を固定化したものが、サイトカイン吸着性の観点で優れている。そのような第3級アミノ基の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N、N−ジメチルヘキシルアミン、N、N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N−メチル−N−エチル−ヘキシルアミンなどがあげられる。また、直鎖状アミノ基を有する化合物の例としては、テトラエチレンペンタミン等があげられる。
【0047】
本発明における4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基の結合の密度は、水不溶性担体の化学構造および用途により異なるが、少なすぎるとその機能が発現しない傾向にあり、一方、多すぎると、固定化後の担体の物理的強度が悪くなり、吸着材としての機能も下がる傾向にあるので、該密度は水不溶性担体の繰り返し単位あたり0.01〜2.0モル、より好ましくは0.1〜1.0モルが良い。なお、4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化させる(4級化)方法としては、ヨウ化カリウムを触媒とする反応がよく用いられるが、これに縛られずに公知の方法によることが可能である。
【0048】
一方、本発明の吸着材は、水不溶性担体に対し、上述のように官能基を固定化させると共に、またはこれに代えて、疎水性部位を付与したものであってもよい。
【0049】
本発明の吸着材が吸着するサイトカインは、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)および免疫抑制酸性蛋
白(IAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種のサイトカインである。これらは、
すべて白血球除去療法適用が考えられている、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性関節リウ
マチなどでその病態への関与が指摘されているサイトカイン等である。
【0050】
これら吸着すべきサイトカインの種類によって、固定化する4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を適宜選択すればよい。たとえば、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)、免疫抑制酸性蛋白(IAP)などは、N、N−ジメチルヘキシルアミン、N、N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミンなどを固定化すると吸着性を付与することができる。また、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)などは、アミン成分としてテトラエチレンペンタミンを固定化することで吸着性を付与できる。また、複数の種類の官能基を組み合わせて固定化することもでき、たとえば4級アンモニウム塩および直鎖状アミノ基の両方を用いることも可能である。複数の種類の官能基を組み合わせて用いることにより、吸着されるサイトカインの種類に幅をもたせることができるために好ましく、所望のサイトカイン吸着特性を高めるなどの利点がある。
【0051】
本発明において、これらサイトカインの吸着除去性の評価は、すべて天然型のタンパク質を用い、EIA法(酵素免疫測定法)にて測定したものをいう(条件は、37℃で2時間振とうし、バッチ吸着させる。)。例えば、IL−1、IL−6については、実施例に記したバッチ吸着法においてそれぞれ40%以上、50%以上の吸着率があることが好ましい。さらには、残存細胞への影響を低減するためには50%以上、60%以上の吸着率があることが好ましい。
【0052】
前述の通り、吸着材の形状としては特に限定はないが、カラムとして用いる場合には、ビーズ、繊維、膜、中空糸、さらには繊維を編織した編地、織物や不織布等の繊維構造物が好ましい。水不溶性担体がそれのみで形態保持できれば単独での使用も可能であるし、形態保持性が低ければ適当な基材にコーティングなどの方法で固定したり、他の吸着材と混合して一つのカラムとして用いることもできる。固定化あるいは混合などの操作は、上記形状に加工する前に行っても良い。
【0053】
本発明の吸着材においては、形状は不織布とすることが特に好ましい。その場合、不織布の嵩密度は、大きすぎると目づまりしやすく、逆に小さすぎると形態保持性が悪くなるので、0.02g/cm以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。また、上限としては、0.15g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15g/cm以下であるものが使用される。
【0054】
本発明において用いられる不織布は、単独繊維からつくられるものであってもよいが、特に好ましくは海島型複合繊維からつくられる。すなわち、かかる複合繊維を用いて公知の方法によって不織布にしてから、この不織布を、形態保持性を良くするため、および嵩密度を調整するために、ニールドパンチした後、海成分を溶解することによって、容易に製造することができる。
【0055】
水不溶性担体として好ましい素材は疎水性繊維、すなわち、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの、ポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、テフロンをはじめとするフッ素化ポリマなどであるが、このほかにも表面修飾により各種アルキル基を付加することでも達成できる。単独で使用可能な4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を固定化するポリマとして好適なものの具体例としては、ポリ(p−フェニレンエーテルスルホン):−{(p−C)−SO−(p−C)−O−}n−やユーデル・ポリスルホン:−{(p−C)−SO−(p−C)−O−(p−C)−C(CH−(p−C)−O}−のほか、−{(p−C)−SO −(p−C)−O−(p−C)−O}−、−{(p−C)−SO−(p−C)−S−(p−C)−O}n−、−{(p−C)−SO−(p−C)−O−(p−C)−C(CF−(p−C)−O}−などで代表されるポリスルホン系重合体、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン、アクリルポリマなどで、かつ、アミノ基を共有結合で固定化できる反応性官能基を持つものが使用される。そのなかでも、ポリスルホン系重合体は安定性が高く、また形状保持性が良いので好ましく用いられる。
具体的な例としては、反応性官能基を結合させたクロルアセトアミドメチル化ポリスチレン、クロルアセトアミドメチル化したユーデル・ポリスルホン、クロルアセトアミドメチル化したポリエーテルイミドなどが使用される。さらに、これらのポリマーは有機溶媒に対し可溶であるものが、成形のしやすさの上から、特に好ましく使用される。
【0056】
本発明の吸着材は、かかる4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を有するポリマを水不溶性担体自体を繊維、中空糸及びビーズに成形して製造する他、繊維、中空糸及びビーズ、特に生産性の面から好ましくは不織布等の基材に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を有するポリマをコーティングして製造することもできる。その際に、該ポリマを溶媒、たとえば塩化メチレン、テトラヒドロフラン、N,Nージメチルホルムアミドなどに溶かし、この溶液に該不織布を浸したのち、該溶媒を蒸発させることにより容易に製造される。
【0057】
また、4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を水不溶性担体に固定化するさいの反応溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが好ましく用いられる。
【0058】
また、本発明の吸着材および血液処理カラムは、その安全面を考慮して、血液処理した際に血液凝固因子XIII(凝固第XIII因子)の活性が低下しないことが好ましい。特に潰瘍性大腸炎やクローン病患者では血液凝固因子XIIIが低下傾向にあり、本因子が欠乏することで出血傾向に陥る危険がある。血液凝固因子XIIIの吸着率が30%以下であれば安全に使用できるが、20%以下であることがさらに好適である。かかる吸着率は、実際に処理される血液量(本発明では、血液とは、全血、血漿、血清、腹水、胸水を指す)に対し、用いられる担体量の比を計算し、クエン酸を採血した健常者ボランティア血液から調製した血漿を用いて1時間、37℃での振盪前後での血液凝固因子XIII活性から求めることができる。血液凝固因子XIII活性については株式会社SRLに委託して、合成基質法により測定することができる。
【0059】
本発明の吸着材および血液処理カラムは、1vol%牛胎仔血清(FCS)溶解生理食塩水中で90%以上のリポ多糖(LPS)吸着能を有するものであっても良い。
【0060】
このようにリポ多糖吸着能を持たせることにより、例えば外科手術後に患者血液中に混入したり、炎症性部位・潰瘍性部位などから混入したエンドトキシン等のリポ多糖による過剰なサイトカイン生産を予防できるだけでなく、エンドトキシン自体を効率よく吸着でき、エンドトキシンの生物活性に由来する発熱、ショック、血管内凝固、リンパ球活性化などに対する予防、治療効果を得ることができ、特に免疫賦活療法において有用な吸着剤となる。更に、顆粒球、単球、サイトカイン吸着能だけでなくリポ多糖吸着能をも兼備させることにより、一つの吸着剤による同時処理が可能となる点でも好ましい。
【0061】
リポ多糖とは、リピドAの構造を含む分子を意味し、血中に存在しうるLPSの代表的なものとしては、代表的なものとしてはグラム陰性菌の持つ毒素を挙げることができる。
【0062】
エンドトキシンは、血液中に過剰に存在すると、白血球からの癌壊死因子、インターロイキン1、インターロイキン6、インターフェロンなどの種々のサイトカインや酸過酸化物の過剰な放出を引き起こすことが知られている。本発明の吸着材及び血液処理カラムが更に、本発明の吸着材にLPSの吸着能を付与することにより、リンパ球、特にTh1タイプのリンパ球が活性化されることに起因すると推測される、インターフェロンガンマの産生向上効果を得ることもでき、免疫賦活療法において有用である。このようなリンパ球の活性化の詳細なメカニズムは不明ではあるが、吸着されたLPSに処理血液中の血球が接触することに起因するものと推測される。
【0063】
LPSの吸着量は和光純薬製のトキシノメーターで測定することができる。1%FCS添加生理食塩水中に規定量のLPSを混合し、4時間37℃水浴中でインキュベーションを行った上清中に残存したLPS量を測定し、同様にトキシノメーターにて測定した添加液中のLPSとの差および比から除去量および除去率を求めることができる。除去量は100pg/mg以上が望ましく、更に好ましくは200pg/mg以上である。本発明の体液中の顆粒球および/または単球と、サイトカインとを同時に吸着し、1%FCS溶解生理食塩水中でLPS吸着能を有する能力は、それぞれ別の吸着材を一つのカラムに組み込んだり、カセットタイプの別々の吸着材を組み合わせることによっても実現は可能であるが、後者の場合は特にコンパクト性が犠牲になりやすく、一つにまとまった吸着体を用いる方が便利である。なお、これに限定して考える必要性はなく、必要に応じた形態を適宜選択することが可能である。
【0064】
本発明の血液処理用カラムは、本発明の吸着材をカラム容器に充填することによって製造することができる。カラム容器としては、公知の血液処理用カラムの容器を用いることができる。カラムの構成としては、吸着材を平板状に形成し、これを重ねて充填したカラム、吸着材が円筒形状に巻かれてなる円筒状フィルターが、両端部に血液入口と血液出口とを有する円筒容器に納められているカラム、吸着材が円筒状にまかれてなる中空円筒状フィルターが、その両端部を封止された状態で血液入口と血液出口とを有する円筒状容器に納められており、容器の血液出口は前記中空円筒状フィルターの外周部に通じる部位に、また容器の血液出口は前記中空円筒状フィルターの内周部に通じる部位にそれぞれ設けられているカラムが好ましい。そのなかでも、円筒中空状フィルターを用いたカラムは、
血液中の炎症性白血球の大部分が、円筒形状フィルターの外周部の大きな面積の不織布で
迅速に除去され、除去されずに残ったわずかな炎症性白血球も、円筒形状フィルターの内
周部に到って、その小さな面積の不織布でも十分に除去され、効率的な炎症性白血球除去
が可能であるので、最も好ましい。特に本発明の吸着材の形態を不織布とする場合には、癌治療用体外循環カラム調製にあたり、後述するようなネットとの2層構造、好ましくは、ネットを不織布で包み込んだような構造とした状態で円筒状に巻く等することにより形態保持性を高めることができる。
【0065】
本発明の血液処理用カラムは、白血球除去療法や免疫賦活療法に用いることができる。また、後述するように本発明の血液処理用カラムを用いて、生体との体外循環終了後150〜180時間経過すると、体外循環前に比べ血中の白血球、特に顆粒球数が減少し、リンパ球数が増加する。このことは、本発明の血液処理用カラムが免疫状態を矯正する機能を有すことを示唆する。特に、進行癌患者では顆粒球の増加と、リンパ球の減少がみられ、免疫状態は抑制されていることが知られているが、本カラムを用いることで、その状態は正常な状態へと矯正される。この効果は体外循環後長時間続くものではなく、おおむね1週間を過ぎると再び顆粒球増加、リンパ球減少傾向が現れるため、1週間に1回程度の処置が望まれる。
【0066】
以上説明した本発明の各種吸着剤は、体外循環カラムなどの血液処理カラムとして利用することができる。体外循環カラムとして利用する場合、カラム容器に充填する吸着材の量、血液の循環速度にもよるが、通常は、1時間から2時間の生体との体外循環実施の後、その終了時刻から150〜180時間後に、体外循環前に比べ、リンパ球数の増加と顆粒球数の減少を実現させることができる。よって、本発明の吸着材及び血液処理用カラムは、白血球除去療法及び免疫賦活療法において有用である。
【実施例】
【0067】
以下、実験例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0068】
[実施例1及び比較例1]
(ゼータ電位の測定)
表面ゼータ電位は、流動電位測定装置(ZP−10B(島津製作所製))によって、流動電位と液体を流すために加えた圧力及び、液体の動電率誘電率を測定することによって計算より求めた。流動液は、1mM KCl水溶液を使用し、pH6±1、温度20±5℃で測定した。
【0069】
(サイトカイン吸着評価)
牛胎仔血清にヒト天然型IL−1、IL−6を添加し、それぞれ500pg/mlに調製した。この血清に吸着担体を添加し、37℃2時間で振とうし、上清を採取し、サンプルとした。担体:血清量=30mg:1mlの固液比で統一し、振とう前後のサイトカイン量を求め除去率を測定した。
【0070】
[作製例1]
(不織布)
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90重量%、ポリプロピレン10重量%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比);芯:鞘:海=44:44:12
この繊維85重量%と、直径20μmのポリプロピレン15重量%からなるシート状物を作製した後、ニードルパンチすることによって不織布を得た。次に、この不織布を90℃水酸化ナトリウム水溶液で処理して、海成分のエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステルを溶解することによって、芯鞘繊維の直径が5μmで、嵩密度が0.05g/cm(総目付250g/m)の不織布を作製した(不織布1)。
【0071】
(中間体)
次に、ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これに5gの上記原糸1を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで良く洗った後、水洗し、乾燥して、7.0gのα−クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(中間体1)を得た。ゼータ電位は−21mVであった。
【0072】
(吸着体(吸着材、吸着担体))
N,N−ジメチルオクチルアミン50gとヨウ化カリウム8gを360mLのDMFに溶かした溶液に5gの中間体A1を浸し、85℃のバス中で3時間加熱した。繊維をイソプロパノールで洗浄後、1mol/L濃度の食塩水に浸漬した後、水洗し、真空乾燥して、8.3gのジメチルオクチルアンモニウム化繊維(吸着体1)を得た。ゼータ電位は−1mVであった。
【0073】
また、N,N−ジメチルヘキシルアミン50gとヨウ化カリウム8gを360mLのDMFに溶かした溶液に5gの中間体1を浸し、85℃のバス中で3時間加熱した。繊維をイソプロパノールで洗浄後、1mol/L濃度の食塩水に浸漬した後、水洗し、真空乾燥して、9.3gのジメチルラウリルアンモニウム化繊維(吸着体2)を得た。ゼータ電位は1.2mVであった。
【0074】
[実施例1]
健常者ボランティアの血液50mlをヘパリン採血し、その中へ、500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。
【0075】
吸着材1および吸着材2をそれぞれ150mgを内容積2mlのカラムに充填し、37℃で1時間、上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−1、IL−6の量をEIA法にて定量した。循環前後の差から吸着率を算出した。吸着体1ではリンパ球吸着率19.5%、顆粒球吸着率78%、単球吸着率85%であり、IL−1吸着率、IL−6吸着率、はそれぞれ37%、32%であった。同様に、健常者ボランティア血液を用い作成したクエン酸血漿で、凝固因子XIIIの活性低下を見たところ12%であった。吸着材2では、リンパ球吸着率21%、顆粒球吸着率75%、単球吸着率83%であり、IL−1吸着率、IL−6吸着率はそれぞれ37%、40%であった。同様に、健常者ボランティア血液を用い作成したクエン酸血漿で、凝固因子XIIIの活性低下を見たところ16%であった。
【0076】
別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、吸着材1では吸着率はIL−1、IL−6で、それぞれ56%、88%、吸着材2では吸着率はIL−1、IL−6でそれぞれ74%、93%であった。
【0077】
[比較例1]
中間体1を用いて、実施例1と同様の試験を行った(血液量は25ml)。リンパ球吸着率は19.5%、顆粒球吸着率は78%、単球吸着率は78%であり、IL−1吸着率、IL−6吸着率は、それぞれ2%、3%であった。同様に、健常者ボランティア血液を用い作成したクエン酸血漿で、凝固因子XIIIの活性低下を見たところ16%であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、吸着率はIL−1、IL−6で、それぞれ12%、13%であった。
【0078】
以上の実施例1及び比較例1の結果から明らかなように、ゼータ電位を−20mV以上の吸着材である本発明は、高い効率で血液中の顆粒球および単球を吸着でき、さらにはサイトカインをも同時に高い効率で吸着することができる。
[実施例2〜7]
顆粒球・単球の吸着率と繊維径の相関を取るために、ヒト健常者の血液(Ht=43%)を用いて、以下の手順で吸着試験を行った。
【0079】
(顆粒球・単球の吸着率の測定と繊維径の相関)
繊維径がそれぞれ、2μm、3μm、4μm、6μm、10μm、17μmの繊維を準備し、20mg/mlの固液比になるように健常者ヒト血液中に浸漬し、37℃に保ち、毎分3回の転倒混和を5分間行った。この後繊維を取り除き、浸漬前の全血中、および浸漬後の全血中の顆粒球(好中球の値を代用した)、単球、リンパ球の数をそれぞれシスメックス社製血球計算機(XT1800iv)を用いて測定し、吸着率を測定した。各血球の吸着率(除去率)を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(吸着率と繊維径の相関の考察)
顆粒球・単球の吸着率と繊維径の相関を取るために、ヒト健常者の血液(Ht=43%)を用いて、吸着試験を行った。この検討では、カラムでの循環に対し、1/2程度の除去率として得られる。この結果、表1から明らかなように、検討を行ったこの範囲の繊維径ではリンパ球の吸着率は低率でかつあまり変動が無いこと、顆粒球(好中球)・単球の除去率をカラムにおいて50%以上の高率に保てる範囲が繊維径が約3ミクロンを超える領域であることがわかった。
[実施例8〜10及び比較例2〜4]
以下の実施例では、ゼータ電位とリポ多糖吸着能の関係、及びインターフェロンガンマの産生促進効果について調べた。
【0082】
(ゼータ電位の測定)
表面ゼータ電位の測定は、上記実施例1と同様の条件で行った。
【0083】
(サイトカイン吸着評価)
サイトカイン吸着評価は、牛胎仔血清にヒト天然型IL−1、IL−6を添加し、それぞれ500pg/mlに調製した。この血清に吸着担体を添加し、37℃2時間で振とうし、上清を採取し、サンプルとした。担体:血清量=30mg:1mlの固液比で統一し、振とう前後のサイトカイン量を求め除去率を測定した。定量はEIA 法を用い、市販のキット(IL−1:R&D System社製ヒトIL−1βELISAキット、IL−6:鎌倉テクノサイエンス製)を用いて行った。
【0084】
(インターフェロンガンマ産生評価)
ヒトボランティア血液10mlを用い吸着体を0.3g充填した内容積2mlのポリプロピレン製円筒型カラムに血流速2ml/minで通過させ、吸着体刺激血液を得た。カラム通過有無の血液をそれぞれフィコール密度勾配遠心法でリンパ球分画を分離する。吸着体接触前の血液と接触後8時間後のリンパ球濃縮液に、1〜10μgのPHA(フィトヘマグルチニン−L:和光純薬製)で刺激し、刺激前後でのインターフェロンガンマの濃度を測った。定量はEIA法を用い市販のキット(ENDOGEN社製ヒトインターフェロンガンマELISAキット)を用いておこなった。(刺激後インターフェロンガンマ濃度/刺激前インターフェロンガンマ濃度)を求め、インターフェロン産生活性を求めた。
【0085】
(血球数の測定)
体液中の血球数の定量、ヘマトクリット値の測定は、シスメックス社XT−1800iVを用いて行った。
【0086】
(LPSの測定)
LPSの吸着量は和光純薬製のトキシノメーターで測定した。1%FCS添加生理食塩水中に10ng/mlとなるように和光純薬製LPS(カタログ番号:120−04531)を分散させ、300mgの吸着材と4時間、37℃の条件で水浴中でインキュベーションを行った。上清中に残存したLPS量を測定し、同様にトキシノメーターにて測定した。添加液中のLPSとの差および比から除去量および除去率を求めた。規格値は除去率90%以上、吸着量は100pg/mg以上のLPS吸着能を有することである。
【0087】
[作製例2]
(不織布)
36島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合によりなるものを次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
島の芯成分;ポリプロピレン
島の鞘成分;ポリスチレン90重量%、ポリプロピレン10重量%
海成分;エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル
複合比率(重量比);芯:鞘:海=44:44:12
この繊維75重量%と、直径20μmのポリプロピレン25重量%からなるシート状物を作製した後、ニードルパンチすることによって不織布を得た。次に、この不織布を90℃水酸化ナトリウム水溶液で処理して海成分のエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステルを溶解することによって、芯鞘繊維の直径が4.5μmで、嵩密度が0.03g/cm(総目付200g/m)の不織布を作製した(不織布1)。
【0088】
(中間体)
次に、ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解した。これを20℃に昇温後直ちに5gの上記原糸1を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで良く洗った後、水洗し、乾燥して、7.0gのα−クロルアセトアミドメチル化ポリスチレン繊維(中間体2)を得た。ゼータ電位は−23mVであった。
【0089】
(吸着体)
N,N−ジメチルオクチルアミン50gとヨウ化カリウム8gを360mLのメタノールに溶かした溶液に5gの中間体2を浸し、50℃のバス中で3時間加熱した。繊維をイソプロパノールで洗浄後、1mol/L濃度の食塩水に浸漬した後、水洗し、真空乾燥して、8.1gのジメチルオクチルアンモニウム化繊維(吸着体3)を得た。ゼータ電位は−0.3mVであった。
【0090】
また、N,N−ジメチルヘキシルアミン50gとヨウ化カリウム8gを360mLのメタノールに溶かした溶液に5gの中間体3を浸し、50℃のバス中で3時間加熱した。繊維をイソプロパノールで洗浄後、1mol/L濃度の食塩水に浸漬した後、水洗し、真空乾燥して、7.3gのジメチルヘキシルアンモニウム化繊維(吸着体4)を得た。ゼータ電位は2.2mVであった。
【0091】
[実施例8]
健常者ボランティアの血液50mlをヘパリン採血し、その中へ、500pg/mlになるようにヒト天然型IL−1、IL−6を溶解し、以下の検討を行った。
【0092】
吸着材3および吸着材4をそれぞれ150mgを内容積2mlのカラムに充填し、37℃で1時間上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器(シスメックス社製XT−1800iV)で調べ、また、IL−1、IL−6量をEIA法にて定量した。吸着体A3ではリンパ球数14.5%減少、顆粒球72%減少、単球82%減少が見られ、IL−1、IL−6、はそれぞれ33%、52%減少していた。吸着体A4ではリンパ球数21%減少、顆粒球75%減少、単球83%減少が見られ、IL−1、IL−6はそれぞれ37%、40%減少していた。
【0093】
LPS除去率については、吸着体3で98%、吸着体4で97%であった。
【0094】
別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、吸着体A3では除去率はIL−1、IL−6、それぞれ56%、88%、吸着体4では除去率はIL−1、IL−6、それぞれ74%、93%であった。
【0095】
[実施例9]
(体外循環治療)
吸着体3を0.3g、内径1cm、内容積2mLのポリプロピレン製円筒形カラムに充填して、体外循環カラムを調製した。12週令のWKAH:Hkmラット(雄)の背部皮下に4−ジメチルアミノアゾベンゼン誘発肝癌細胞KDH−8{矢野 諭、北海道医誌、68巻5号、654−664(1993)}を1×10個接種した。癌細胞は100%の確率で生着した。(通常、接種1週間後から腫瘍が大きくなり、接種後5.5週間で死亡する。)体外循環カラムは、体外循環前に1000単位のヘパリンナトリウムを含む生理食塩水で予備洗浄し、さらに500mLの生理食塩水で洗浄して用いた。
【0096】
KDH細胞接種2週間後のラットに、体外循環治療を行った。大腿動脈から採血し、体外循環前の顆粒球およびリンパ球の数を自動血液分析器で確認したところ、顆粒球は9300個/μL、リンパ球は8100個/μLであった。体外循環カラムを通した後、大腿静脈に返血する回路を作製し、2ml/minの血流で、1時間、体外循環した。体外循環中はヘパリンナトリウム注射液(味の素(株)製)を200U/hの速度で持続注入した。体外循環カラムは体外循環前に1000単位のヘパリンナトリウムを含む生理食塩水で予備洗浄し、さらに500mLの生理食塩水で洗浄して用いた。体外循環実施後、縫合等の処置を行い、160時間後に採血を行い、自動血液分析機により顆粒球およびリンパ球の数を測定したところ、顆粒球は6700個/μL、リンパ球は11400個/μLであり、処置前に比べ、リンパ球は増大し、顆粒球は減少していた。このラットをさらに3週間飼育した後、KDH細胞接種2週間後と同じ手技で体外循環を行った。体外循環前の顆粒球およびリンパ球の数を自動血液分析器で確認したところ、顆粒球は28000個/μL、リンパ球は7400個/μLであった。体外循環160時間後に採血を行い、自動血液分析機により顆粒球およびリンパ球の数を測定したところ、顆粒球は26700個/μL、リンパ球は8400個/μLであり、処置前に比べ、リンパ球は増大し、顆粒球は減少していた。
【0097】
[比較例2]
中間体2を用いて、実施例8と同様の試験を行った(血液量は25ml)。リンパ球数19.5%減少、顆粒球78%減少、単球78%減少が見られ、IL−1、IL−6、はそれぞれ2%、3%減少していた。LPS除去率については、78%であった。別途、サイトカイン吸着評価を行った結果、除去率はIL−1、IL−6、それぞれ12%、13%であった。
【0098】
[比較例3]
中間体2を0.3g、内径1cm、内容積2mLのポリプロピレン製円筒形カラムに充填して、実施例8と同じ手法でKDH細胞接種2週間後のラットに、体外循環を実施した。大腿動脈から採血し、体外循環前の顆粒球およびリンパ球の数を自動血液分析器で確認したところ、顆粒球は10300個/μL、リンパ球は8400個/μLであった。縫合等の処置を行い、160時間後に採血を行い、自動血液分析機により顆粒球およびリンパ球の数を測定したところ、顆粒球は15200個/μL、リンパ球は8100個/μLであり、処置前に比べ、リンパ球は減少し、顆粒球は増大していた。
【0099】
[実施例10]
ヒト末梢血を用いて吸着体4を用いてインターフェロンガンマ産生能の評価を行った。吸着体未処理の場合は、インターフェロンガンマ濃度比が20.4倍であった。これに対し処理時には35.2倍となり、免疫活性が向上していることがわかった。
【0100】
[比較例4]
ヒト末梢血を用いて中間体2を用いてインターフェロンガンマ産生能の評価を行った。吸着体未処理の場合は、インターフェロンガンマ濃度比が20.1倍であった。これに対し処理時には21.2倍となり、免疫活性状態は変化がないことがわかった。
【0101】
以上の実施例8〜10及び比較例2〜4の結果から、ゼータ電位が−20mV以上の吸着材である本発明は、高い効率で血液中の顆粒球および単球を吸着でき、さらにはLPSの吸着やサイトカインをも同時に高い効率で吸着することができる。体外循環治療後の顆粒球やリンパ球数の変動は、メカニズムはわからないものの、正常状態と考えられる比率へ変化することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明により、血液中の白血球、炎症性、免疫抑制性サイトカインを効率よく吸着除去し、かつ血液中の有用成分の除去率を低くすることが可能な吸着材が提供される。係る本発明の吸着材は白血球除去療法、免疫賦活療法、癌治療等の各種用途に提供できる。
【0103】
またこの材料は、シャーレ、瓶、膜、繊維、中空糸、粒状物またはこれらを用いた組み立て品などの成形品の形で、アフィニティークロマトグラフ用カラム、治療用血液カラム、特に体外循環カラムとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位が−20mV以上であって、血液中の顆粒球、単球およびサイトカインを吸着することを特徴とする吸着材。
【請求項2】
顆粒球の吸着率が50%以上、かつ単球の吸着率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸着器。
【請求項3】
リンパ球の吸着率が40%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着材。
【請求項4】
前記サイトカインがインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−10(IL−10)、TNF−α、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ(TGF−β)、血管新生増殖因子(VEGF)および免疫抑制酸性蛋白(IAP)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸着材。
【請求項5】
凝固第XIII因子の吸着率が30%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
ゼータ電位が−15mV以上であって、1vol%牛胎仔血清(FCS)溶解生理食塩水中で90%以上のリポ多糖(LPS)吸着能を有することを特徴とする請求項1に記載の吸着材。
【請求項7】
前記吸着材の形状が、繊維、膜、中空糸及びビーズから選ばれる形状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の吸着材。
【請求項8】
官能基を結合してなる水不溶性担体を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吸着材。
【請求項9】
前記水不溶性担体の形状が、繊維径が3μmを超える繊維あるいは中空糸、及び表面の突起の径が3μmを超えるビーズから選ばれる形状であることを特徴とする請求項8に記載の吸着材。
【請求項10】
前記水不溶性担体の形状が、繊維径が4〜8μmの繊維あるいは中空糸、及びビーズの表面の突起の径が4〜8μmのビーズから選ばれる形状であることを特徴とする請求項8に記載の吸着材。
【請求項11】
前記水不溶性担体の形状が、繊維径が4.5〜8μmの繊維あるいは中空糸、及びビーズ粒子の表面の突起の径が4.5〜8μmのビーズから選ばれる形状であることを特徴とする請求項8に記載の吸着材。
【請求項12】
前記水不溶性担体の形状が、繊維径が10〜50μmの繊維あるいは中空糸を更に含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の吸着材。
【請求項13】
水不溶性担体に4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基を結合してなる請求項8〜12のいずれかに記載の吸着材。
【請求項14】
4級アンモニウム塩がN、N−ジメチルヘキシルアミン、N、N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、テトラエチレンペンタミンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項13に記載の吸着材。
【請求項15】
白血球除去療法に用いられることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の吸着材。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の吸着材を容器に充填してなる血液処理カラム。
【請求項17】
血液を循環させることを特徴とする請求項16記載の血液処理カラム。
【請求項18】
白血球除去療法に用いられることを特徴とする請求項16または17に記載の血液処理カラム。
【請求項19】
生物との体外循環後150〜180時間経過後に、体外循環前に比べ、リンパ球数の増加と顆粒球数の減少を示す請求項16〜18のいずれかに記載の血液処理カラム。

【公開番号】特開2006−312804(P2006−312804A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97170(P2006−97170)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】