説明

吸音材の製造方法とその吸音材および吸音構造

【課題】 型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体に高い吸音性能を付与する。
【解決手段】 型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を、圧縮比率P=(L1−L2)/L1×100(ただし、L1は圧縮前の圧縮方向の長さ、L2は最大圧縮時の圧縮方向の長さ)としたときに、圧縮比率Pが25%〜70%の範囲となるように圧縮し、その後、圧縮を止め復元させる。圧縮処理を施すことにより、圧縮処理を行わないものと比較して吸音性能は大きく改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体に吸音性を付与して吸音特性の良い吸音材とする吸音材の製造方法およびその吸音材、並びにその吸音材を用いた吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡樹脂成形体、特に型内成形法によって成形される発泡樹脂成形体は、成形性、加工性、軽量性、断熱性および低価格等の理由から、多くの分野で使用されている。このように多様な特性を有する発泡樹脂成形体であるが、通常の製法により成形される発泡樹脂成形体は通気性に欠けることから、吸音性能をほとんど有しない。
【0003】
そこで、発泡樹脂成形体に吸音性能を付与する試みがなされており、発泡樹脂成形体に人為的に所定の開孔率で貫通孔を形成するようにしたもの(特許文献1)や、所定の空隙が形成されるように発泡樹脂粒子を融着成形したもの(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−25361号公報
【特許文献2】特開平7−80873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように、人為的に所定の開孔率で貫通孔を形成するものは、成形型内に多数の針状物を設置する、あるいは多数の針状物を有する金属成形治具を使用することが必要であり、製造が容易でない。また、特許文献2に記載のように、内部に空隙を有するように発泡樹脂粒子を融着成形する方法は、そのような融着成形自体が容易でないと共に、成形体の所定箇所に安定して空隙を形成するのも難しく、成形品毎に吸音性能が異なるものとなり易い。
【0006】
そこで、本発明は、製造も容易でありかつ安定した吸音性能を備えることのできる、発泡樹脂成形体を基材とする吸音材およびその吸音材を用いた吸音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは多くの試行錯誤を行うことにより、型内成形法により得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体をその厚さ方向に圧縮しておき、その後、圧力を開放して自然復帰させることにより、圧縮処理を施さないものと比較して吸音性能が大きく改善されることを見い出した。また、圧縮処理が施されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体からなる吸音材は、従来吸音材として使用されているフェルトや軟質ウレタンなどと比較して、材料強度が大きく、従って、単に吸音材としてのみならず、強度が必要とされる構造部品や衝撃吸収材としての効果も期待できることを見い出した。
【0008】
本発明による吸音材の製造方法は、このような知見に基づいてなされたものであり、型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を、圧縮比率P=(L1−L2)/L1×100(ただし、L1は圧縮前の圧縮方向の長さ、L2は最大圧縮時の圧縮方向の長さ)としたときに、圧縮比率Pが25%〜70%の範囲となるように圧縮し、その後、圧縮を止め復元させることを特徴とする。また、本発明は上記の製造方法によって製造された吸音材も開示する。さらに、製造される吸音材は十分な材料強度を保持していることから、当該吸音材を車両の内部、特に車両フロアパネルとフロアカーペットとの間に設置した吸音構造をも開示する。
【0009】
スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得る方法は、従来知られた型内成形法によればよく、例えば、物理型発泡剤を含浸させたスチレン改質ポリエチレン系樹脂(発泡性ビーズ)を5倍〜60倍に予備発泡して得られた1mm〜6mm程度の予備発泡粒子を使用し、それを成形型内に注入し、蒸気加圧により発泡した粒子間を融着させるような方法であってよい。予備発泡させないスチレン改質ポリエチレン系樹脂の発泡性粒子を型内発泡させてもよい。物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類などが挙げられる。これらの物理型発泡剤は単体で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0010】
型内発泡した成形品を冷却した後、型から取り出す。これらスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体はそれぞれが独立気泡であり、そのままではまったく通気性がないのが通常の状態である。得られた板状のスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を、ロールもしくはその他の圧縮機により上記圧縮比率の範囲で強制圧縮する。その後、圧縮を止めると、自然に復元させることができる。
【0011】
本発明者らの実験では、吸音特性は圧縮量に比例して向上するが、復元後の吸音材(スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体)の圧縮強度は圧縮量に反比例して低下した。従って、吸音材の機能と実使用に適用できる材料強度との兼ね合いから、前記のような範囲の圧縮比率で圧縮することが好ましい。さらに、本発明者らの実験では、後の実施例に示すように、圧縮比率30%程度で得られた本発明による吸音材は、1.6kHz〜5kHz付近において吸音率が特に高くなることを知った。この周波数域の音は車両内で会話明瞭度に大きな影響を与える。従って、上記の吸音材を車両の内部、例えば、車両フロアパネルとフロアカーペットとの間に嵩上げ材を兼ねて設置する使用方法は、本発明による吸音材を用いた吸音構造として特に有効である。
【0012】
本発明において、型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体の圧縮は、徐々に行うことが望ましい。具体的には、圧縮速度が1分間に1mm〜50mm程度となるように徐々に圧縮することが望ましい。圧縮速度が1mm/分より遅いと、発泡粒子が破泡されにくく吸音性能が付与されがたい。また、圧縮速度が50mm/分を超えると復元後の強度が低下しやすくなり、いずれも好ましくない。
【0013】
最大圧縮距離L2まで圧縮した状態で数秒ないし数分間放置し、その後、圧力を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を大気圧下に放置すると、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体は次第にもとの状態に復帰する。この復帰の速度は、圧縮下に放置した時間に関係する。すなわち、放置時間が長い場合には、復帰が緩慢に行われ、短い場合には、復帰が急速に行われる。あまり長い時間、例えば24時間も圧縮した状態におくと、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体はもとの状態に復元する力を喪失するので好ましくない。
【0014】
スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体の発泡倍率などによっても変動するが、例えば、20〜50倍程度に発泡させたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体の場合、圧縮方向の長さL2がもとの長さL1の40%となるまで圧縮(圧縮比率P=60%)した後、圧力を開放して大気圧下に放置した場合、もとの長さの70%程度にまで復帰する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体に圧縮という簡単な処理を加えるのみで、吸音特性に優れた吸音材を得ることができる。基材がスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体であることから、所要の材料強度を備えており、吸音材としての効果のみならず、強度が必要な構造部品や衝撃吸収材としての効果も期待できる。そのために、本発明による吸音材を、車両(特に自動車)の内部、特に車両フロアパネルとフロアカーペットとの間に嵩上げ材を兼ねたものとして設置することにより、効率よい吸音構造を得ることができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
【0017】
[実施例1] スチレン改質ポリエチレン系樹脂(商品名:ピオセランPOOP,積水化成品工業株式会社製)の発泡粒子(ビーズ)を所定の倍率(30倍程度)に予備発泡させた。直径3.5mm〜4.5mm程度であるこの予備発泡粒子を成形金型に充填し、加熱蒸気を使用して型内発泡させて、発泡倍率30倍であり、縦1000mm、横1200mm、厚み28(L1)mmの板状体の発泡樹脂成形品を得た。直径150mmである一対の鉄製(表面:フッ素加工)ロール間を約17mmに設定し、その隙間に上記の成形体を通すことによって、成形体を、圧縮時の厚みL2がもとの厚みL1の40%(圧縮比率60%)となるまで圧縮し、その後、荷重を開放して大気圧下で自然復元させた。復元後の厚みL3は20mmであった。
【0018】
復元したスチレン改質ポリエチレン系発泡樹脂成形品の吸音性能を、JISA1409の残響室法吸音率の測定方法に準じてテストした。テストは、残響室の容積を64mとし、測定試料の面積を1.2m(1000mm×1200mm)のものとして行った。その結果を図1に曲線Aとして示す。
【0019】
[比較例1]
実施例1で使用した試験片を、圧縮工程を加えることなく、そのままで、実施例1と同じ吸音性能テストを行った。その結果を図1に曲線Bとして示す。
【0020】
[評価]
図1から、同じスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形品であっても、圧縮処理を施すことにより吸音特性が改善されていることがわかる。特に、実施例品では、1.6kHz〜5kHz付近において吸音率が高くなっており、これは自動車部品として車室内の会話明瞭性に影響を及ぼす2kHz付近での吸音性能向上に有効であることが示される。このことから、本発明による吸音材は自動車内装品として使用するのに特に有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による吸音材の吸音性能をテストした結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内成形法によって成形されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を、圧縮比率P=(L1−L2)/L1×100(ただし、L1は圧縮前の圧縮方向の長さ、L2は最大圧縮時の圧縮方向の長さ)としたときに、圧縮比率Pが25%〜70%の範囲となるように圧縮し、その後、圧縮を止め復元させることを特徴とする吸音材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られた吸音材。
【請求項3】
請求項2に記載の吸音材を車両の内部に設置した吸音構造。
【請求項4】
請求項2に記載の吸音材を車両フロアパネルとフロアカーペットとの間に設置した吸音構造。

【図1】
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【公開番号】特開2006−62224(P2006−62224A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248015(P2004−248015)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592048431)株式会社中外 (9)
【Fターム(参考)】