説明

吸音用セプタム・キャップ・ハニカム体

【課題】ハニカム体を用いて、ジェット・エンジンや他の騒音源で生じた騒音を低減させるのに有用なナセルおよび他の音響構造体を製造すること。
【解決手段】本発明によれば、内部にセプタム・キャップが配置されたセルを有するハニカム体を含む音響構造体が提供される。セプタム・キャップは吸音材シートから形成され、共鳴器部分およびフランジ部分を含む。フランジ部分は固定面を有し、この固定面は、音響構造体の製造中にキャップがハニカム体に挿入されたときにハニカム・セルに対するセプタム・キャップの摩擦係合をもたらす。恒久的な接合をもたらすために、キャップをハニカム・セルに挿入した後、セプタム・キャップの固定面に接着剤が塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、騒音を減衰させるために用いられる音響システムに関する。より詳細には、本発明は、ハニカム体を用いて、ジェット・エンジンや他の騒音源で生じた騒音を低減させるのに有用なナセルおよび他の構造体を製造することを含む。
【背景技術】
【0002】
特定の音源によって発生する過剰騒音に対処するには、騒音を音源で処理するのが最良の方法であることが広く認められている。これは通常、騒音源の構造に音響減衰用の構造を加えること(音響処理)によって実施される。特に問題のある騒音源の1つは、ほとんどの旅客機に用いられているジェット・エンジンである。音響処理は通常、エンジン入口、ナセルおよび排気構造体に組み込まれる。これらの音響処理は、比較的薄い吸音材または格子を含む音響共鳴器を含み、これらの吸音材または格子は、エンジンによって発生する音響エネルギーに対する音響インピーダンスを生じさせる何百万もの孔を有する。技術者が直面する基本的な問題は、所望の騒音減衰を提供するために、こうした薄く可撓性のある吸音材をどのようにジェット・エンジンおよび周囲のナセルの構造要素に加えるかということである。
【0003】
ハニカム体は比較的強く軽量であるため、航空機および宇宙船用の一般的な材料になっている。音響上の用途での目標は、ハニカム・セルが閉鎖されるように、または覆われるように、何らかの方法で薄い吸音材をハニカム構造体に組み込むことであった。セルが吸音材で閉鎖されると、共鳴器の基礎である音響インピーダンスが生じる。
【0004】
薄い吸音材をハニカム体に組み込むための1つの手法は、サンドイッチ設計と呼ばれる。この手法では、薄い吸音シートを2枚のハニカム体の間に配置し、適所に接合して単一の構造体を形成する。この手法は、正確な寸法に編み込まれ、穿孔され、またはエッチングされた精巧な吸音材の設計の利用を可能にし、且つ接合工程が比較的簡単になるという利点を有している。しかし、この設計の欠点は、構造体の強度が2枚のハニカム片と吸音材との間の接合によって制限されることである。また2枚のハニカム片の間の接合面は、ハニカム体の縁部に沿った表面領域に制限される。さらに、吸音材の孔の一部が、接合工程中に過剰な接着剤で閉鎖されることがある。これによって共鳴器の有効な音響領域が失われる恐れがあるため、孔が閉鎖されないようにすることが重要である。
【0005】
第2の手法は、ハニカム・セル内の適所に個々に接合される、比較的厚く中実(solid)の挿入物を用いるものである。適所に配置した後、挿入物を穿孔、あるいは他の方法で処理して、挿入物が吸音材として機能するために必要な孔を形成する。この手法によって、2枚のハニカム片を互いに接合する必要がなくなる。その結果、内部で挿入物がしっかりと接合された強い構造体がもたらされる。しかし、この手法にもいくつかの欠点がある。例えば中実の挿入物に数百万もの孔をあけなければならないことによる費用および複雑さは、重大な欠点である。さらに、比較的厚く中実の挿入物によってハニカム体が硬くなり、ジェット・エンジン用のナセルなどの非平面構造体に成形することを難しくする。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、個々の吸音材シートがセプタム・キャップ(septum cap)に形成され、これらセプタム・キャップがハニカム・セルに挿入された、ハニカム形の音響構造体が提供される。セプタム・キャップは、実質的に吸音材より厚いフランジ部分を有し、これはセプタム・キャップをハニカム体の壁に取り付けるために用いられる固定面を形成する。セプタム・キャップは初めに、固定面とセル壁の間の摩擦係止によってセル内の適所に保持される。この摩擦係止は、セプタム・キャップが接着剤によって適所に恒久的に接合されるまで、それを適所に保つのに十分なものである。
【0007】
本発明の音響構造体は、ジェット・エンジンや他の動力装置などの騒音源の近くに配置されるように設計される。構造体は、騒音源の最も近くに配置される第1の縁部、および騒音源から離れたところに配置される第2の縁部を有するハニカム体を含む。ハニカム体は、ハニカム体の第1の縁部と第2の縁部の間に延びる複数の壁を含む。ハニカム体の壁が複数のセルを画定し、それぞれのセルは、ハニカム体の壁に対して垂直に測定される横断面積、および第1の縁部と第2の縁部の間の距離によって画定される深さを有している。
【0008】
本発明の特徴としては、セプタム・キャップがハニカム・セルの少なくとも1つの内側に配置され、セルの横断面積全体を覆う。セプタム・キャップは、ある厚さおよび周囲長さを有する1枚の吸音材シートから製造される。シートは長方形であることが好ましい。セプタム・キャップは、ハニカム壁に隣接して配置される外縁部を有する共鳴器部分、および共鳴器部分の外縁部と吸音材シートの外周部との間に延びるフランジ部分を含んでいる。フランジ部分は、前駆構造体を形成するために最初は摩擦係合によってセル壁に取り付けられる固定面を有している。セプタム・キャップとハニカム壁の間に必要な大きさの摩擦係止をもたらすように、固定面は実質的に吸音材シートの厚さより大きい幅を有している。最終的な音響構造体は、前駆構造体を利用して、固定面およびセル壁に接着剤を塗布してセプタムを適所に恒久的に接合することによって製造される。
【0009】
本発明は、既存のハニカム形の音響構造体にないいくつかの利点を提供する。例えば構造を弱めるような2枚のハニカム片の間の継ぎ目は存在しなくなる。セプタム・キャップをハニカム・セル内の異なる高さに配置することができ、それによって、よく知られているヘルムホルツ共鳴器の原理に基づく騒音減衰の微調整を可能にする。複数のセプタム・キャップを1つのハニカム・セル内の異なる高さに配置して、複数の空洞およびインピーダンス格子を作製することもできる。異なる吸音材から製造されたセプタム・キャップを、同じハニカム構造体に、あるいは同じハニカム・セル内に用いることもできる。フランジ部分は比較的大きい固定面領域を形成し、それによって構造体の寿命の間、セプタム・キャップをセル壁にしっかりと接合することを保証する。さらに、比較的薄く可撓性のあるセプタム・キャップがハニカム体の可撓性を低下させることはなく、これはナセルや他の非平面の音響構造体にとって重要な事柄である。
【0010】
本発明の先に論じた利点、および他の多くの特徴的且つ付随的な利点は、添付図面と共に取り上げる以下の詳細な説明を参照することによってさらによく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による例示的な音響構造体の斜視図である。
【図2】本発明による例示的なセプタム・キャップの斜視図である。
【図3】図2に示した例示的なセプタム・キャップの面3−3で得られる横断面図である。
【図4】2組のセプタム・キャップがハニカム・セル内の2つの異なる深さに配置された、本発明による例示的な音響構造体の横断面図である。
【図5】各ハニカム・セル内に2つのセプタム・キャップが配置された、本発明による例示的な音響構造体の横断面図である。
【図6】セプタム・キャップが吸音材シートから形成され、ハニカム体に挿入されて前駆構造体を形成する、音響構造体を製造する製造工程の一部を概略的に示す図である。
【図7】セプタム・キャップのフランジは接着剤に接触するが共鳴器部分は接触しないように前駆構造体を接着剤のプールに浸すことによって、セプタム・キャップの固定面およびハニカム壁に接着剤を塗布する例示的な好ましい方法を示す断面図である。
【図8】互いに組み合わされて図9に示すタイプの音響構造体を形成する一枚外板、音響構造体および有孔外板の一部を示す分解斜視図である。
【図9】騒音源(ジェット・エンジン)の近くに配置される、一枚外板と有孔外板の間にはさまれた吸音ハニカム体を含む例示的な音響構造体(ナセル)の部分断面図である。
【実施例】
【0012】
本発明による例示的な音響構造体を、図1および図6に全体的に10で示してある。音響構造体10は、騒音源の最も近くに配置される第1の縁部14、および第2の縁部16を含んでいる。ハニカム体10は、2つの縁部14と16の間に延びて複数のセル20を画定する壁18を含んでいる。セル20はそれぞれ、2つの縁部14と16の間の距離に等しい深さ(コア厚さとも呼ぶ)を有している。各セル20はまた、セル壁18に対して垂直に測定される横断面積を有している。ハニカム体は、金属、セラミックスおよび複合材料を含む、ハニカム・パネルの製造に用いられる通常の材料の任意のものから製造することができる。
【0013】
本発明の特徴として、セル20の内側にセプタム・キャップ22が配置される。セプタム・キャップ22を、すべてではないにしてもほとんどのセル20の中に配置することが好ましい(ただし、そうする必要はない)。状況によっては、所望の音響効果をもたらすために、一部のセルだけにセプタム・キャップ22を挿入することが望ましい場合もある。あるいは、1つのセルに2つ以上のセプタム・キャップを挿入することが望ましい場合もある。
【0014】
例示的なセプタム・キャップ22を、図2および図3に示す。セプタム・キャップ22は、吸音材シートから、このシートを折り曲げ、ハニカム・セルの横断面積に合うような大きさに合わせた六角形のキャップにすることによって成形される。セプタム・キャップ22は、図6に示すように、プランジャ63を用いて吸音材シート60をキャップの折り曲げダイ62に押し込むことによって成形されることが好ましい。シート60はやや長方形状であることが好ましく、吸音材のロール64から切断される。シート60は、図3に示す厚さ(t)および周囲長さ65を有している。シート60の大きさおよび形は、シートが挿入されるハニカム・セルの形/大きさ、シート60の厚さ、および使用される特定の吸音材に応じて広い範囲にわたって変えることができる。
【0015】
図2および図3を参照すると、セプタム・キャップ22は外縁部25を有する共鳴器部分24を含んでいる。セプタム・キャップ22はさらに、初めは摩擦係合によってセル壁18に取り付けられ、続いて適切な接着剤を用いて恒久的に接合される固定面27を有する、フランジ部分26を含んでいる。固定面27は、ある幅(W)を有している。
【0016】
固定面の幅(W)は、セルの横断面積、吸音材の厚さ、吸音材のタイプおよび接着剤を含めたいくつかの要素に応じて変えることができる。6.35〜25.4mm(1/4〜1インチ)のセルを有する典型的なハニカム体の場合、0.0254mm〜2.54mm(0.001インチ〜0.10インチ)程度の厚さを有する吸音材には、1.27mm〜12.7mm(0.050インチ〜0.500インチ)程度の固定面の幅が適している。0.1016〜0.1524mm(0.004〜0.006インチ)の厚さを有する標準的な吸音材の場合、固定面の幅は少なくとも5.08mm(0.20インチ)であることが好ましい。一般には、固定面の幅が実質的に吸音材の厚さより大きいことが好ましい。「実質的に大きい」とは、固定面の幅が吸音材の厚さの少なくとも5倍超、好ましくは、少なくとも20倍超であることを意味している。
【0017】
標準的な吸音材の任意のものを用いて、セプタム・キャップを形成することができる。こうした吸音材は通常、騒音減衰をもたらすように設計された穴あき、多孔性または目の粗いメッシュ繊維である比較的薄いシートとして提供される。様々な材料(金属、セラミックス、プラスチック)の穴あきおよび多孔性シートを用いることもできるが、吸音材がモノフィラメント繊維から織られた目の粗いメッシュ織物であることが好ましい。繊維は、ガラス、炭素、セラミックまたはポリマーから構成することができる。ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド6(ナイロン、6PA6)およびポリアミド12(ナイロン12、PA12)から製造されたモノフィラメントのポリマー繊維は、わずかな実施例にすぎない。高温の用途には、PEEKから製造された目の粗いメッシュ織物が好ましい。吸音性の目の粗いメッシュ織物、および本発明によるセプタム・キャップを形成するために用いることができる他の吸音材は、様々な市販向けの供給元から入手することができる。例えば、吸音性の目の粗いメッシュ織物のシートは、SEFAR America Inc.(バッファロー事業本部、ニューヨーク州 14043、デピュー、111 カルメットストリート)から、SEFAR PETEX、SEFAR NITEXおよびSEFAR PEEKTEXという商品名で入手することができる。
【0018】
セプタム・キャップ22をハニカム・セルに挿入して、様々な音響設計を提供することができる。例えば図4の22aおよび22bに示すように、セプタム・キャップをハニカム体12a内の異なる高さに配置してもよい。このタイプの設計によって、音響構造体の騒音減衰特性の微調整が可能になる。図4に示す2レベル(高さ)設計は、本発明によって可能になる様々な実現可能な複数レベルのセプタム配置の一実施例として企図されるにすぎない。当業者には理解されるように、実現可能な異なるセプタム配置の高さの数はきわめて多く、特定の騒音を減衰させる要求を満たすように調整することができる。
【0019】
セプタム・キャップ22に対する挿入構成の他の実施例を図5に示す。この構成では、2組のセプタム・キャップ22cおよび22dがハニカム体12bに挿入されて、2つのセプタム・キャップを備えたそれぞれのセルを提供する。明らかであるが、所与のセルに3つ以上のセプタム・キャップが挿入された実現可能な他の構成も多数考えられる。さらに、図4に例示した複数レベルの挿入物の設計を、図5に例示したセルごとに複数の挿入物を有する設計と組み合わせて、無限の数の実現可能なセプタム・キャップの挿入構成を提供することも可能であり、それを用いて、所与の騒音源に対する最適な騒音減衰をもたらすように音響構造体を微調整することができる。
【0020】
既に言及した、キャップの折り曲げダイ62およびプランジャ63を用いてセプタム・キャップをあらかじめ成形する、セプタム・キャップをハニカム体に挿入するための好ましい方法を図6に示す。図6でハニカム構造体を識別するために用いている参照番号は、構造体が、まだセプタム・キャップをセル壁に恒久的に接合していない前駆構造体であることを示す「p」を含むことを除けば、図1と同様である。
【0021】
個々の吸音材シートからセプタム・キャップを成形するためにキャップの折り曲げダイ62を使用することが好ましいが、それが必要とされるわけではないことに留意すべきである。ハニカム体を型として使用し、プランジャ63を用いてシート60をセルに押し込むだけでセプタム・キャップを成形することも可能である。しかし、ハニカム・パネルは通常、製造工程中により大きいハニカム体の塊から切断されるため、多くのハニカム・パネルの縁部が比較的ぎざぎざになる傾向がある。したがって平坦な材料シートを強制的にセルに直接挿入すると、ハニカム体の縁部が吸音材をひっかけ、引き裂き、または汚す傾向がある。したがって必要に応じて、ただしハニカム体の縁部が粗い縁部またはぎざぎざの縁部を取り除くように処理された場合に限り、キャップの折り曲げダイを省くことができる。
【0022】
後の前駆構造体の処理中にセプタム・キャップを適所に保持するように固定面とセル壁との間に十分な摩擦接触を提供する一方、吸音材を損傷することなくセプタム・キャップをセルに挿入し得るように、吸音材シートの大きさ/形、およびダイ/プランジャ(あるいは、ダイを使用しない場合にはプランジャのみ)の大きさ/形を選択することが重要である。通常の実験法により、固定面を接着剤でセル壁に恒久的に接合する前に前駆構造体の適所でのセプタム・キャップの必要な摩擦係止または保持を達成するために必要とされる、吸音シートの様々な大きさおよび形を決定することができる。摩擦係止および保持の程度は、処理中に前駆構造体をうっかり落とした場合にも、セプタム・キャップがハニカム体から脱落しないような十分なものとすべきである。
【0023】
通常のガラス繊維/フェノール樹脂材料から製造された標準的な9.525mm(3/8インチ)の複合ハニカム体の場合、典型的な目の粗いメッシュの吸音材シート(0.1016〜0.1524mm(0.004〜0.006インチ)厚)に好ましい大きさは、12.7〜17.78mm(0.50〜0.70インチ)×15.24〜20.32mm(0.60〜0.80インチ)の範囲の寸法を有する長方形である。吸音材シートは切込みがないこと、あるいはシートの折り曲げ性を高めるように切断されていることが好ましい。切込みがない場合、シートが折り重なり、セプタム・キャップのハニカム壁への接合性を高める固定面のしわを有するセプタム・キャップになることが見出された。また切込みは、さもなければセプタム・キャップのフランジ部分に存在するはずの外向きの張力または偏倚力の一部を解放する傾向がある。この外向きの張力または力は、折り曲げられたシートが本質的に偏倚して、折り曲げられていない位置に戻ることによって生じるものである。この外向きの偏倚または力は、セプタム・キャップとセル壁の間の摩擦係止の重要な部分である。
【0024】
セプタム・キャップ22が摩擦係止のみによって適所に保持されている前駆構造体を、図6に10pで示す。既に言及したように、摩擦係止は、セプタム・キャップが適切な接着剤を用いて恒久的に接合されるまで、それを適所にしっかりと保持するのに十分なものでなければならない。使用される接着剤は、ハニカム・パネルの製造に用いられる通常の接着剤の任意のものとすることができる。好ましい接着剤には、高温(149〜204℃(300〜400°F))で安定であるものが含まれる。例示的な接着剤には、エポキシ類、アクリル類、フェノール類、シアノアクリレート類、BMI類、ポリアミド−イミド類およびポリイミド類が含まれる。
【0025】
様々な既知の接着剤塗布手順を用いて、接着剤を固定面/セル壁の境界面に塗布することができる。重要な事柄は、接着剤をフランジの固定面/セル壁の境界面のみに選択的に塗布し、セプタム・キャップの共鳴器部分には塗布しないようにすべきことである。接着剤が共鳴器部分に塗布されると、メッシュまたは他の吸音材の開口を閉鎖すること、あるいは少なくとも大きさを減じることになる。接着剤を固定面/セル壁の境界面に選択的に塗布することができる任意の接着剤塗布手順を用いることが可能である。
【0026】
例示的な接着剤塗布手順を図7に示す。この例示的な手順では、セプタム・キャップ22pのフランジ部分だけを接着剤に浸すように、ハニカム体12pを接着剤のプール70に浸けるだけである。浸漬前にセプタム・キャップが正確に同じ高さに配置されていれば、この浸漬手順を用いて接着剤を固定面/セル壁の境界面に正確に塗布できることが分かった。セプタム・キャップが異なる高さに配置される場合には、複数の浸漬ステップが必要になる。あるいは、ブラシや他の特定の場所のための塗布技術を用いて、接着剤を塗布することもできる。こうした技術のいくつかを用いて、セプタム・キャップを挿入する前にコア壁に接着剤を塗布してもよい。あるいは、コアへの挿入前に接着剤をセプタム材の上にステンシル塗りし、実施することもできる。
【0027】
図7に示した接着剤を塗布するための浸漬手順は、折り曲げられた吸音材シートに存在するしわが、毛管作用によって接着剤を上方へ運びやすくする小さい流路を固定面とセル壁の間に形成するため、特に適切に機能することが分かった。この上向きのウィッキング(吸上げ)によって、共鳴器部分の外縁部とセル壁の交点にフィレット(fillet)が形成される。共鳴器部分の縁部に接着剤のフィレットが形成されると、セル壁に適切に接合することが可能になるだけはなく、接着剤と共鳴器部分の間に明確な境界が設けられ、共鳴器部分の音響特性が接着剤による悪影響を受けないことが保証される。
【0028】
本発明による音響構造体は、騒音減衰が必要な様々な状況において使用することができる。構造体は、通常、騒音減衰が問題になる動力装置システムと共に使用するのに適している。ハニカム体は比較的軽量の材料である。したがって本発明の音響構造体は、特に航空システムでの使用に適している。例示的な用途には、ジェット・エンジン用のナセル、大型タービンまたは往復機関用のカウリング(カバー)、および関連する音響構造体が含まれる。
【0029】
本発明の基本的な音響構造体は通常、最終的なエンジン・ナセルの形に熱成形され、次いで外板(スキン)または外側材料シートが、成形した音響構造体の外側の縁部に(1つまたは複数の)接着層によって接合される。この完成したサンドイッチ状のものを保持具の中で硬化させる。保持具は、接合中、複雑なナセルの形を維持する。例えば図8に示すように、音響構造体10は最終的なナセルの形に熱成形される。サンドイッチ状の部分は、一枚シート(solid sheet)または外板80を接合具の中に配置することによって作製される。次に、接着剤の層を外板上に配置する。これに続いて、成形した音響構造体10を加える。接着フィルムの第2の層、次いで一番上の外板82を加える。これでサンドイッチ状のものが完成する。熱および圧力を用いて、組立体を接合する。最終的なナセルの形は、接合具によって制御される。次いでパネルは、図9に90で図示したジェット・エンジンのまわりに沿うようになる。
【0030】
実施例には以下のようなものがある。
以下の実施例は、本発明による例示的な吸音用のセプタム・キャップ・ハニカム体に関する詳細な説明を与えるものである。様々な寸法、ハニカム材、吸音用メッシュ材および接着剤を用いることが可能であることが当業者には理解されよう。一般に、特定の構造上および音響上の用途によって、コアの密度、セプタムの深さ、音響インピーダンス、コアの厚さ、薄片の長さ、薄片の幅およびメッシュ材の寸法を含む、様々な設計要件が決まる。
【0031】
例示的なセプタム・コア製品:
例示的な吸音用セプタム・キャップのコアは、9.525mm(3/8インチ)のセルを有するガラス繊維のハニカム体から製造した。セプタムは、厚さ31.75mm(1.25インチ)のコアの縁部から12.7mm(0.500インチ)のところに配置した。セプタム・コアの音響インピーダンスは、70raylであることが分かった。
【0032】
材料:
ハニカム体は、Hexcel Corporation(カリフォルニア州、ダブリン)によって供給され、部品番号−HRP−3/8−4.5ポンド/立方フィート(pcf)(フェノール樹脂を用いた0/90度ガラス繊維構造)として識別される。ハニカム体の密度は、72.1kg/m(4.5ポンド/立方フィート)であった。
吸音用メッシュは、SEFAR America,Inc.より入手し、部品番号−17−2005−W022(45〜64raylの範囲の音響インピーダンスを有する非金属の織物メッシュ)として識別される。
接着剤は、Hexcel Corporationより入手し、部品番号−899−55として識別される。接着剤は、商標登録をもつ材料であるポリアミド−イミド系のものである。必要に応じて、エポキシ類、アクリル類、フェノール類、シアノアクリレート類およびポリアミド類など、他の接着剤を用いることもできる。
【0033】
吸音コアの寸法は、以下の通りであった。
コア・セルの大きさ:典型的なセルの大きさは、壁から壁まで測定した六角形の内側寸法が10.06mm(0.396インチ)であった。薄片の厚さは、概して31.75mm(1.250インチ)であった。六角形のセルに挿入されるメッシュは、概して11.78mm×16.51mm(0.700インチ×0.650インチ)の長方形であった。メッシュを折り曲げてキャップを形成し、ハニカム・セルに挿入した。キャップの上部は、セルの形および大きさ(10.06mm(0.396インチ)の内側寸法を有する六角形)に一致するようになされている。キャップの側面は、接着剤の取り付けのためにハニカム・セルの壁に一致するようになされている。キャップの側面は、概して4.76mm(0.1875インチ)の長さであり、セプタム・キャップをハニカム体に取り付けるために接着剤に浸される。
【0034】
接着剤の浸漬および硬化工程:
各セルにセプタム・キャップが挿入されたハニカム・コアを、以下のように浸漬させる:
(a)セプタムの上部を上向きに配置した状態で、コアを接着剤の槽に入れる。
(b)薄片を所定の高さまで下げて、接着剤がハニカム片の厚み部分を上方へ移動し、キャップの底面側を覆うようにする。
(c)キャップの側面に沿った接着剤の浸漬高さは、概して3.81mm(0.150インチ)である。接着剤は、通常残りの0.9525mm(0.0375インチ)を毛管作用によって上昇して、メッシュ繊維を閉鎖および固定し、キャップをハニカム壁に接合する。
接着剤の硬化サイクルは、以下のように行われる:
浸漬および排出の直後に、コアを149℃(300°F)のオーブンに入れる。接着剤を、149℃(300°F)で30分間、177℃(350°F)で30分間、および204℃(400°F)で30分間の硬化サイクルにかける。
【0035】
メッシュおよびセプタム・コアの音響試験:
(1)SEFAR America,Inc.によって提供される前述のメッシュは、供給業者によって25〜120raylの音響インピーダンスの範囲を与えるように調整される。
(2)セプタム・コアに対する音響インピーダンスの範囲を、メッシュ上に配置する接着剤の量によって調整することもできる。50raylのメッシュの実施例を用い、それをハニカム体に挿入する。接着剤の浸漬高さがキャップの側面に沿って2.54mm(0.100インチ)である場合、接着剤のラインより上の密閉されていないその他のメッシュによって、セル内の最終的なコアのインピーダンスは典型的には42raylまで低下する。これは、この設計を用いて得られる最低のインピーダンスである。接着剤によって4.76mm(0.1875インチ)の高さまで密閉した場合、典型的なインピーダンスは70raylになる。
【0036】
メッシュおよびコアのための試験方法:
音響評価のために2つの試験方法を用いることができる。レールメータ(Raylometer)、または通気性に対する個々のセルの真空試験である。レールメータの単位はraylであり、個々のセルの真空度の単位はキロパスカルである。以下の表は、前述のようにキャップがメッシュのみ(接着剤なし)の場合、および接着剤を用いてキャップを適所に接合した場合の吸音用セプタム・キャップ・ハニカム体についての音響評価の結果を示している。
【表1】


メッシュのみのコアに対する真空度の読取りは、開口に対して密閉されたメッシュを備えた内径6.35(.250)の真空試験ヘッドを用いて行った。セプタム・コアに対する真空度の読取りは、9.525mm(3/8インチ)の1つのセプタムセルの内側で行った。これは、内径10.06mm(0.396インチ)の試験ヘッドと同様である。真空ヘッドは、大気に対して開放したときを20キロパスカル、および大気に対して完全に密閉したときを80キロパスカルの真空示度として較正した。
【0037】
メッシュの領域が増える(孔が増える)と、音響インピーダンスの示度が低下することに留意すべきである。典型的な共鳴器のメッシュは、2%〜4%の孔面積を有している。音波が吸音用メッシュを通過すると、波の圧力がメッシュの粒子を移動させる。音響インピーダンスとは、圧力とそれがメッシュ内に発生させる粒子速度との比である。言い換えれば、音響インピーダンスとは、瞬間的なメッシュの粒子速度によって分割されるメッシュに対する音波の圧力である。先に言及したように、ここでの音響インピーダンスの測定単位はraylである。実際のrayl単位は、「パスカル−秒/メートル」である。メッシュ材全体にわたる音響インピーダンスおよび真空圧力の低下は、孔面積(単位面積あたりの孔の数および大きさ)の関数である。
【0038】
例えば、Sefarのメッシュ(部品番号17−2005−W022)を用いたとき、(前述のように作製した)セプタム・コアにおける様々な大きさの円形メッシュの面積に対する圧力低下は以下の通りであった。
【表2】


この表は、メッシュの面積と共に孔の数が増えるにつれて、大きくなるセプタムのメッシュ面積全域での圧力低下が小さくなることを示している。
【0039】
前述のように、例示的なセプタム・コアに用いたSefarのメッシュ(部品番号17−2005−W022)はセプタム・キャップ・メッシュに直径9.017mm(0.355インチ)の開口を有し、それによって、この設計に対する真空示度は31キロパスカルを、Raylの示度は70Raylを示した。
【0040】
9.525mm(3/8インチ)のハニカム・セル内の吸音用メッシュ全体で真空度の低下を測定すると、その示度は25〜35キロパスカルの範囲になる可能性があり、9.525mm(3/8インチ)のハニカム・セルにおけるメッシュの音響インピーダンスは、50rayl〜120raylの範囲になる。
【0041】
前述の実施例から明らかであるように、セプタム・キャップをハニカム体に接合するのに様々な量の接着剤を使用することによって、六角セルにおける有効なメッシュ面積の量を増減させることが可能になる。これによって、音響上のrayl値を制御することが可能になる。例えば、セプタム・キャップに60raylのメッシュを使用した場合、キャップの上側面のまわりのメッシュを接着剤で被覆しないようにすることによって、セルのインピーダンスを50raylまで下げることができる。この手法によって、セル内のメッシュの孔面積が大きくなり、有効な音響インピーダンスが低下する。接着剤が、キャップの垂直な側面とセプタム・キャップの水平な頂部との間の各側面、および半径部分を完全に被覆している場合、インピーダンスは75raylまで高まる。
【0042】
このように、本発明の例示的な実施例について説明してきたが、当業者は、開示の範囲が例示的なものにすぎず、本発明の範囲内で他にも様々な変更、改造および修正を行うことが可能であることに留意すべきである。したがって、本発明は前述の好ましい実施形態および実施例に限定されず、添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0043】
10 音響構造体
12a、12b ハニカム体
14 第1の縁部
16 第2の縁部
18 セル壁
20 セル
22 セプタム・キャップ
24 共鳴器部分
25 外縁部
26 フランジ部分
27 固定面
60 吸音材シート
62 折り曲げダイ
63 プランジャ
64 吸音材のロール
65 周囲長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源の近くに配置されるように適合された音響構造体を製造する方法において、
前記騒音源の最も近くに配置される第1の縁部、および第2の縁部を有するハニカム体を提供するステップであって、前記ハニカム体が、前記第1の縁部と第2の縁部の間に延びる複数の壁をさらに有し、前記壁が複数のセルを画定し、前記各セルが、前記壁に対して垂直に測定される横断面積、および前記第1の縁部と第2の縁部の間の距離によって画定される深さを有しているステップと、
所定の厚さおよび外周部を有する少なくとも1つの吸音材シートを提供するステップであって、前記吸音材が、モノフィラメント繊維から織られた織物シートを有しているステップと、
前記織物シートをセプタム・キャップに折り曲げるステップであって、該セプタム・キャップは、前記セルを横断して延びる共鳴器部分、および前記壁と平行に延びるフランジ部分を有しており、前記共鳴器部分が、前記壁に位置する外縁部を有し、前記フランジ部分が、前記共鳴器部分の前記外縁部と前記吸音材シートの前記外周部との間に位置し、また前記フランジ部分が固定面を有し、該固定面が実質的に前記織物シートの厚さより大きい幅を有しているステップと、
前記固定面が前記壁に隣接するように、前記セプタム・キャップを前記セルに挿入するステップであって、前記固定面の幅が、前記セプタム・キャップを前記セルの中に摩擦係止するための適切な摩擦力を前記固定面と前記壁の間にもたらすのに十分なものであるステップと、
前記固定面を前記壁に接着接合するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記ハニカム体の第1の縁部に有孔外板を接合し、前記ハニカム体の第2の縁部に一枚外板を接合する追加のステップを含む請求項1に記載の音響構造体の製造方法。
【請求項3】
前記セプタム・キャップに形成される前記吸音材シートが、長方形を画定する外周部を有している請求項1に記載の音響構造体の製造方法。
【請求項4】
前記固定面を前記壁に接着接合する前記ステップが、前記フランジ部分は接着剤に接触するが前記共鳴器部分は接触しないように、接着剤を含むプールに前記ハニカム体を浸すことを含む請求項1に記載の音響構造体の製造方法。
【請求項5】
騒音源の近くに配置されるように適合された音響構造体の製造に使用するための前駆構造体を製造する方法において、
前記騒音源の最も近くに配置される第1の縁部、および第2の縁部を有するハニカム体を提供するステップであって、該ハニカム体が前記第1の縁部と第2の縁部の間に延びる複数の壁をさらに有し、前記壁が複数のセルを画定し、前記各セルが、前記壁に対して垂直に測定される横断面積、および前記第1の縁部と第2の縁部の間の距離によって画定される深さを有しているステップと、
所定の厚さおよび外周部を有する少なくとも1つの吸音材シートを提供するステップであって、前記吸音材が、モノフィラメント繊維から織られた織物シートを有しているステップと、
前記織物シートをセプタム・キャップに折り曲げるステップであって、前記セプタム・キャップは、前記セルを横断して延びる共鳴器部分、および前記壁と平行に延びるフランジ部分を有し、前記共鳴器部分が、前記壁に位置する外縁部を有し、前記フランジ部分が、前記共鳴器部分の前記外縁部と前記吸音材シートの前記外周部との間に位置し、また前記フランジ部分が固定面を有し、該固定面が実質的に前記織物シートの厚さより大きい幅を有しているステップと、
前記固定面が前記壁に隣接するように、前記セプタム・キャップを前記セルに挿入するステップであって、前記固定面の幅が、前記セプタム・キャップを前記セルの中に摩擦係止するための適切な摩擦力を前記固定面と前記壁の間にもたらすのに十分なものであるステップと
を含む方法。
【請求項6】
エンジンの近くに配置される、請求項1に記載の方法によって製造された音響構造体を含む動力装置システム。
【請求項7】
請求項1に記載の音響構造体を含む航空機。
【請求項8】
ジェット・エンジン、および該ジェット・エンジン用のナセルを含む動力装置システムであって、前記ナセルが請求項1に記載の方法によって製造された音響構造体を含む動力装置システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−190027(P2012−190027A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102112(P2012−102112)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2008−504091(P2008−504091)の分割
【原出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(503308494)ヘクセル コーポレイション (15)
【Fターム(参考)】