説明

吸音用板状構造体、酸素濃縮装置

【課題】1kHz以下の周波数の騒音を生じる装置において、大型化、重量化を抑制しつつ、騒音を低減することを目的とする。
【解決手段】酸素濃縮装置の外装ケースとして機能する吸音用板状構造体100は、コンプレッサ21等の内部に設置されている装置を収容する外装用の筐体110と、コンプレッサ21から生じる音を低減するための空気層130を、筐体110の内側に形成するように構成されている内側板状部材120とを備える。酸素濃縮装置の前面パネルは、筐体110と、内側板状部材120の前面部分に接するように構成されている。すなわち、前面パネル5が吸音用板状構造体100に装着されることにより、枠体110と内側板状部材120との間に、閉空間である空気層130が形成される。このように構成することにより、酸素濃縮装置1の作動中の騒音は幅広い周波数帯域において低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1kHz以下の周波数の騒音を生じる装置の騒音抑制技術に関し、特に、酸素よりも窒素を優先的に吸着可能な吸着剤を利用して酸素濃縮ガスを生成する圧力変動吸着型の酸素濃縮装置が生じる騒音の抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性気管支炎等の在宅酸素療法で利用される医療用酸素濃縮装置として、窒素を優先的に吸着する吸着剤を用いた圧力変動吸着型の酸素濃縮装置が利用されている。このような酸素濃縮装置は、通常、吸着剤を充填した吸着筒を少なくとも2本以上有し、各吸着筒毎に、コンプレッサを介して吸着塔内に高圧空気を供給することによって酸素濃縮ガスを生成する加圧工程と、吸着塔内の圧力を減じて吸着剤に吸着された窒素を排気することで吸着剤を再生する減圧工程とを、交互に繰り返し行うことによって、酸素濃縮ガスを連続的に生成する(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−62932号公報
【特許文献2】特開昭61−155204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンプレッサは回転数に対応した周波数の騒音を発生することが知られている。例えば、酸素濃縮装置に備えられているコンプレッサからは、概ね80Hzの周波数の騒音が発生する。酸素濃縮装置には、騒音源であるコンプレッサの作動に応じて発生する騒音を低減するために、例えば、コンプレッサを吸音材や消音箱で囲むことにより消音対策を行うものがある。
【0005】
しかしながら、騒音源の放射音を遮蔽するために防音ボックスを設置すると、防音ボックス内部において放射音による圧力変化により防音ボックスの側面が振動し、この振動により別の騒音が発生するという問題が生じる。振動による騒音を低減するために、従来、防音ボックスや外装ケースの板厚を厚くして重量を増加させる方法が用いられているが、このような方法では、酸素濃縮装置全体の重量が増大するという問題が生じる。
【0006】
上述の課題は、酸素濃縮装置に限られるものではなく、コンプレッサなどの騒音源を内部に備える種々の装置に共通する課題である。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、1kHz以下の周波数の騒音を生じる装置において、大型化、重量化を抑制しつつ、騒音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
1kHz以下の周波数の音を生じる装置を覆うように設けられる吸音用構造体であって、前記装置を収容する筐体と、前記筐体の内側に空気層を形成するように構成されている内側板状部材と、を備える吸音用板状構造体。
【0010】
適用例1の吸音用板状構造体によれば、装置から生じる音を低減するための空気層が、筐体の内側に形成するように内側板状部材が構成されている。騒音源である装置から生じた音は、一部が内側板状部材により反射されるとともに、残りの一部が内側板状部材を通過し、空気層を伝って筐体に到達する。そのため、装置が作動することにより生じた騒音は、減衰されて筐体の外側に到達する。よって、酸素濃縮装置の作動中の騒音は幅広い周波数帯域において低減される。また、内側板状部材の固有振動数付近の音波が板に衝突した時に板が揺らされ、空気層がバネの役割をすることによりその音波のエネルギーが熱に変換され消費される。よって、装置の動作に起因して生じる所定の周波数の騒音の騒音レベルを低減できる。
【0011】
適用例1の吸音用板状構造体において、前記内側板状部材は、特定の周波数の音を低減するように構成された少なくとも一つの貫通孔を備える。適用例1の吸音用板状構造体によれば、内側板状部材には特定の周波数の音を低減するように構成された複数の貫通孔が形成されている。従って、貫通孔の径の大きさを変化させることにより、所望の周波数の音を特に低減できる。
【0012】
適用例1の吸音用板状構造体において、前記内側板状部材は、前記貫通孔を、単位面積あたり約400個備える。適用例1の吸音用板状構造体によれば、吸音効果を向上できる。
【0013】
適用例1の吸音用板状構造体において前記貫通孔の孔径は、約5mm〜約10mmの範囲に含まれている。適用例1の吸音用板状構造体によれば、80Hz付近の低周波数帯域の騒音を低減できる。
【0014】
適用例1の吸音用板状構造体において、前記筐体は、複数の区画を構成するように形成されたリブを有しており、前記貫通孔は、前記複数の区画の少なくとも一つの区画内に位置するように形成されている。適用例1の吸音用板状構造体によれば、貫通孔がリブに対向しない部位に形成されている。従って、リブによって筐体を補強できるとともに、内側板状部材の吸音性能を維持できる。
【0015】
適用例1の吸音用板状構造体において、前記内側板状部材は、多孔質材料により形成されている。適用例1の吸音用板状構造体によれば、内側板状部材が多孔質材料により形成されている。多孔質材料は80Hzより高い中・高周波数帯域の音に対する吸音特性を有しているため、低周波数帯域の音のみでなく。中・高周波帯域の音を低減できる。
【0016】
適用例1の吸音用板状構造体において、前記空気層には、吸音性能を有する材料により形成された吸音部材が配置されている。適用例1の吸音用板状構造体によれば、空気層に吸音部材が配置されているので、吸音性能を更に向上できる。
【0017】
[適用例2]
酸素濃縮装置であって、空気中の窒素を優先的に吸着して酸素濃度を高める吸着手段と、酸素濃縮装置の周囲の空気を取り込んで前記吸着手段に送気するコンプレッサと、前記コンプレッサおよび前記吸着手段を収容する筐体と、前記コンプレッサが作動することにより生じる音を低減するための空気層を、前記筐体の内側に形成するように構成されている内側板状部材とからなる吸音用板状構造体と、を備える酸素濃縮装置。
【0018】
適用例2の酸素濃縮装置によれば、騒音源となるコンプレッサの動作により生じる音を低減するための空気層が、筐体の内側に形成されるよう内側板状部材が設けられた吸音用板状構造体が備えられている。従って、コンプレッサの動作により生じる音の音波が内側板状部材に衝突した時に内側板状部材が揺らされ、空気層がバネの役割をすることによりその音波のエネルギーが消費される。よって、静粛な酸素濃縮装置を提供できる。
【0019】
本発明において、上述した種々の態様は、適宜、組み合わせたり、一部を省略したりして適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
A.第1実施例:
A1.システム構成:
尚、本実施例では、空気中から窒素吸着剤を用いて窒素を吸着して除去することにより素を濃縮し、この高濃度の酸素を含む酸素濃縮ガスを患者に供給する据置型の医療用酸素濃縮装置(以下、本明細書では酸素濃縮装置と呼ぶ)を例に挙げる。まず、本実施例の酸素濃縮装置の構成について図1,図2を参照して説明する。
【0021】
図1は本実施例の酸素濃縮装置を斜め前方から見た状態を表す斜視図である。図1に示すように、酸素濃縮装置1は、略直方体形状の外装ケース100内に各種構成部品を収納したものであり、外装ケース100の前面パネル5の上部は傾斜面となっている。この傾斜面には、酸素濃縮ガスの運転状態を表示する各種の表示装置2や、酸素濃縮ガスの排出流量を外部操作により設定するための操作部6など、酸素濃縮装置1の操作やその動作状態の表示を行うための各種部品が組み付けられている。なお、外装ケース100は、酸素濃縮装置の稼働時に生じる騒音を低減するための構造を備える吸音用板状構造体である。以降、本明細書では、外装ケース100を吸音用板状構造体100と呼ぶ。酸素濃縮装置1は、運搬を簡易とするためのキャスター160が設けられている。
【0022】
吸音用板状構造体100の前面パネル5において、操作部6等が組み付けられる斜面よりも下方には、生成した酸素濃縮ガスを加湿する加湿器7や、この加湿器7にて加湿された酸素濃縮ガスを排出するための排出口9等が設けられている。
【0023】
図2は、本発明に係る酸素濃縮装置1の概略構成を示す配管系統(ブロック)図である。本形態の酸素濃縮装置1は、この回路図に示したように、空気取入れ口2から取込んだ空気を、防塵フィルタ4a、吸気フィルタ4b、さらに吸気マフラ4cを通して圧縮空気供給源であるコンプレッサ21で圧縮し、圧縮された空気を、2本並列的に配置された窒素吸着容器(吸着筒)31、32に供給するための加圧用の配管(加圧用配管)で接続されている。なお、窒素吸着容器31,32にはその内部に図示はしないが、酸素よりも窒素を選択的に吸着する窒素吸着剤として例えばゼオライト粉末が充填されている。また、コンプレッサ21と窒素吸着容器31,32と配管の途中には、冷却ファン23、熱交換器24及び圧力センサ25が設けられている。
【0024】
そして、加圧用配管は、圧力センサ25よりも2次側において、管路が2つに分岐されて各窒素吸着容器31,32に配管接続されている。そして、その各分岐配管の途中には、窒素吸着容器31,32への加圧用の切換え弁(開閉弁)41,42として、ともにパイロット方式の電磁弁(2ポート弁)であって、主弁(図示せず)がダイヤフラム式のものが取り付けられている。
【0025】
また、この加圧用の各切換え弁41,42と各窒素吸着容器31,32とを接続する配管途中には、窒素吸着容器31,32を加圧した後において、内部に吸着された窒素を外部に排気するための減圧用の配管がそれぞれ分岐され、その管の各部位に減圧用の切換え弁(開閉弁)51,52として、ともにパイロット方式の電磁弁(2ポート弁)であって、主弁(図示せず)がダイヤフラム式のものが取り付けられている。そして、本形態では、減圧用の切換え弁51,52の二次側で減圧用の配管が結合されて1本の排気管とされ、その外側端部(排気口)に排気マフラ60が取り付けられている。本形態では、このような各切換え弁(電磁弁)41,42,51、52を切換え制御することで、左右の窒素吸着容器31,32が、それぞれ交互に加圧、減圧を繰り返し行うようにされている。
【0026】
一方、2つの窒素吸着容器31,32の2次側(図1上方)には、生成された高酸素濃度ガスを製品タンク71に送り込む配管が接続され、それぞれ1本の主配管に接続されて製品タンク71に接続されている。なお、本形態では、各窒素吸着容器の2次側にそれぞれ逆止弁61,62が設けられており、その逆止弁の1次側であって、2つの窒素吸着容器31,32の2次側を、2方弁(直動式電磁弁)64を介して配管接続している。この2方弁64の作用については後述する。また、タンク71の2次側の配管には、その酸素出口95に至る間に、レギュレータ(流量調整弁)73、バクテリアフィルタ75、流量設定器77、酸素センサ79、圧力センサ91及び加湿器92等が取り付けられている。
【0027】
このような本形態の酸素濃縮装置1では、空気取入れ口2から取り込んだ空気をコンプレッサ21で圧縮し、加圧又は減圧のための切換え弁41,42,51,52を切換え制御することで、各窒素吸着容器31,32において、窒素の吸着による高濃度酸素ガスの生成と吸着剤の再生のための加圧、減圧を一定サイクルで交互に繰り返すことで高酸素濃度ガスを連続して生成、供給するように構成されている。そして、タンク71へ送り込まれた高酸素濃度ガスは、流量の調整等、適宜の処理が施された後、酸素出口95からカニューラ等の導管を介して患者に供給される。
【0028】
吸気フィルタ4b、吸気マフら4c、コンプレッサ21,冷却ファン23,熱交換器24,切換え弁41,42,51および52は、稼働音低減のために、板金で形成された板金室150に収容されている。
【0029】
A2.吸音用板状構造体:
図3は、第1実施例における吸音用板状構造体100を例示する斜視図である。図4は、第1実施例における吸音用板状構造体100の側面を表す透過図である。図5は、第1実施例における内側板状部材120を例示する斜視図である。図6は、第1実施例における吸音用板状構造体100の断面図である。図7は、第1実施例における吸音用板状構造体100の構成を説明する分解図である。図4は、吸音用板状構造体100を図面右側の側面を表している。図6は、図3におけるA−A断面での切断面を表している。
【0030】
吸音用板状構造体100は、図3および図4に示すように、コンプレッサ21等の内部に設置されている装置を収容する外装用の筐体110と、コンプレッサ21から生じる音を低減するための空気層130を、筐体110の内側に形成するように構成されている内側板状部材120とを備える。筐体110の下部には、矩形形状かつ中空状に形成された箱体により構成される排気室140が設けられている。排気室140は、左右面および後面(背面)および下面が、筐体110に接するようにかつ、上面が内側板状部材120に接するように構成されている。図4では、板金室150にコンプレッサ21が収容されていることを表すために板金室150の前面が開放された状態で示されているが、実際には、板金室150の前面には板金が設置されており、コンプレッサ21は板金により覆われている。板金室150は、排気室140上に設置される。なお、前面パネル5(図3では図示無し)は、筐体110と、内側板状部材120の前面部分(斜線ハッチングで示す)に接するように構成されている。すなわち、前面パネル5が吸音用板状構造体100に取り付けられることにより、枠体110と内側板状部材120との間に、閉空間である空気層130が形成される。
【0031】
筐体110は、底面111、左側側面112、右側側面113、上面114および背面115を構成する5枚の板状部材が接合されることにより形成されている。各板状部材111〜115は、樹脂材料、例えば、プラスチックを利用して形成されている。各板状部材111〜115には、板状部材の補強のために、空気層130側に突出し、予め規定された高さを有するリブ116(図4、図7参照)が略格子状に形成されている。
【0032】
内側板状部材120は、図5に示すように、左側側面121、右側側面122、上面123および背面124を構成する4枚の板状部材が接合されることにより形成されている。各板状部材121〜124は、多孔質体の樹脂材料、例えば、木材、多孔質セラミックス、発泡金属などを利用して形成されている。内側板状部材120の各板状部材121〜124は、酸素濃縮装置1の大型化および重量化を回避するために、薄く形成することが好ましい。第1実施例では、内側板状部材120は、2.5mmの厚みに形成されている。また、内側板状部材120は、図6に示すように、筐体110の内側に形成される空気層130の厚みがdとなるように形成されている。空気層130の厚みdが大きいほど、低い周波数を効果的に低減できるが、厚みdの増大に伴い酸素濃縮装置1が大型化してしまう。そのため、第1実施例では、吸音用板状構造体100は、空気層130の厚みdがd=10mmとなるように構成されている。
【0033】
排気室140は、上面に図示しない排気入口と、床板部に図示しない排気出口が形成されている。冷却ファン23から送風された空気は、板金室150中を流れてコンプレッサ21等を冷却し、熱交換されて、排気室140の排気入口から排気室140内に流入し、排気出口から酸素濃縮装置1の外部に排気されるように構成されている。
【0034】
図7を参照して、筐体110と内側板状部材120の接続部分について説明する。図7(a)は、吸音用板状構造体100を分解した状態を表している。図7(b)は、ボス200の一例として、リブ116の線上に位置するボス200(図4のボス200a)を説明する斜視図である。図7(a)に示すように、筐体110には、筐体110の補強用のリブ116と、内側板状部材120を筐体110に接合するためのボス200が設けられている。図7(b)に示すように、ボス200は、ねじ220の先部分を受け容れる雌ねじ部201を有している。また、リブ116の線上にボス200が位置する場合には、ボス200を挟むようにリブ116が形成される(図7(b))。内側板状部材120には、ねじ220を貫通させるための貫通孔が形成されている。貫通孔には、雄ねじ部221のねじ溝に対応する溝が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
【0035】
内側板状部材120を介して、ねじ220をボス200にねじ込んで締結することにより、内側板状部材120が筐体110に取り付けられる。ボス200の高さが空気層130の厚みとなるため、ボス200の高さを空気層130の厚みと同じ値とすることにより、簡易に空気層130の厚みを設定できる。リブ116の高さはボス200の高さ以下であることが好ましい。
【0036】
以上の構成を有する酸素濃縮装置1では、コンプレッサ21から生じた音は、一部が内側板状部材120により反射されるとともに、残りの一部が内側板状部材120を通過し、空気層130を伝って筐体110に到達する。そのため、コンプレッサ21が作動することにより生じた騒音は、減衰されて筐体110の外側に到達する、よって、酸素濃縮装置1の作動中の騒音は幅広い周波数帯域において低減される。
【0037】
また、内側板状部材120の固有振動数付近の音波が板に衝突した時に板が揺らされ、空気層130がバネの役割をすることによりその音波(内側板状部材120の固有振動数付近の音波)のエネルギーが消費される。よって、装置の動作に起因して生じる音のうち、内側板状部材120の固有振動数付近の音波の騒音レベルが特に低減される。
【0038】
また、内側板状部材120が多孔質材料により形成されている。多孔質材料は80Hzより高い中・高周波数帯域の音に対する吸音特性を有しているため、低周波数帯域の音のみでなく、中・高周波帯域の音が低減される。
【0039】
A3.実験結果:
図8は、第1実施例における酸素濃縮装置1の騒音値の測定結果を表すグラフである。図8(a)は、0Hz〜10KHzの周波数帯の騒音値を表している。図8(b)は、
0Hz〜500Hzの低周波数帯の騒音値を表している。騒音の測定条件は、「JIS T 7209」である。図8(a)および図8(b)において、縦軸は騒音値(dB(A))を表しており、横軸は、周波数(Hz)を表している。また、実線は、内側板状部材120が設けられている第1実施例の吸音用板状構造体100を用いた酸素濃縮装置1の騒音値を表しており、破線は、内側板状部材120が設けられていない従来の酸素濃縮装置1の騒音値を表している。
【0040】
図8(a)に示すように、筐体110の内側に空気層130を形成するように内側板状部材120を設けた吸音用板状構造体100を用いた場合、0〜10KHzという幅広い周波数帯域で騒音が低減された。また、図8(a)に示すように、酸素濃縮装置1の動作時に生じる騒音は、低周波数帯域(0Hz〜1000Hz(1kHz))が支配的となっているが、図8(b)に示すように、低周波数帯域においても、騒音が低減された。なお、支配的な周波数帯とは、本明細書では、他の周波数帯域に比して高い騒音レベルの周波数帯を指す。
【0041】
表1に、上記実験の測定値の平均値を表す。平均値は、フーリエ変換により算出した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、第1実施例の吸音用板状構造体100を用いた酸素濃縮装置1の騒音値の平均値は33.7dBであり、内側板状部材120が設けられていない従来の酸素濃縮装置1の騒音値の平均値は34.7dBであった。すなわち、第1実施例の酸素濃縮装置1は、従来の酸素濃縮装置1に比して、騒音値が1Hz低減された。
【0044】
B.第2実施例:
第2実施例では、内側板状部材120aに複数の貫通孔が形成された吸音用板状構造体100aを備える酸素濃縮装置1について説明する。なお、第2実施例の酸素濃縮装置1は、吸音用板状構造体100aの内側板状部材120a以外の構成は第1実施例の酸素濃縮装置1と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0045】
B1.吸音用板状構造体:
図9は、第2実施例における内側板状部材120aを説明する説明図である。図9(a)は、内側板状部材120aを表す斜視図であり、図9(b)は、内側板状部材120aを側面から見た透過図である。図10は、第2実施例における図9のB−B断面での断面図である。図9(a)に示す内側板状部材120aは、第1実施例と同様に、左側側面121a、右側側面122a、上面123aおよび背面124aを構成する4枚の板状部材が接合されることにより形成されている。各板状部材121a〜124aは、多孔質体材料を利用して形成されている。また、第2実施例の内側板状部材120aは、特定の周波数の音を低減するように孔径、数が構成された複数の貫通孔125を備えている。具体的には、図9(a)、図9(b)および図10に示すように、内側板状部材120aの各板状部材121a〜124aには、孔径φの複数の貫通孔125が形成されている。第2実施例では、複数の貫通孔125を、0.133m2に対して54個、すなわち、単位面積当たり約400個形成した。貫通孔125の孔径は、実験の結果、所望の周波数の騒音が低減された値である。後述する実験の結果、コンプレッサ21の作動により支配的に生じる80Hz周辺の騒音を低減するためには、貫通孔125の孔径φは5mm〜10mmに形成されていることが好ましい。
【0046】
筐体110は、第1実施例と同様に、複数の区画を構成するように形成されたリブ116を有している。内側板状部材120aの貫通孔125は、内側板状部材120aを筐体110に取り付けた状態で、複数の区画の少なくとも一つの区画内に対応する位置に形成されている。言い換えれば、貫通孔125はリブ116に対向しない位置に形成されている。
【0047】
また、内側板状部材120aは、第1実施例と同様に、空気層130が厚みd=10mmとなるように、かつ、筐体110の内側に形成されるように、構成されている。
【0048】
第2実施例の吸音用板状構造体100aに示すように、貫通孔125の形成された板状部材121a〜124aの貫通孔125に音が入射すると、ある特定の周波数において共鳴振動が発生する。この共鳴振動によって、貫通孔125の口部分で空気が激しく振動し、音エネルギーが減衰することにより騒音が低減されると考えられる。特に共鳴周波数付近の周波数帯では、高い吸音性能を発揮する。一般的に貫通孔の大きさが小さく、数が多いほど吸音効果が高まる。
【0049】
図11は、第2実施例における酸素濃縮装置1の騒音値の測定結果を表すグラフである。図11(a)は、0Hz〜10KHzの周波数帯の騒音値を表している。図11(b)は、0Hz〜1000Hz(1kHz)の周波数帯の騒音値を表している。図12は、0Hz〜100Hzの周波数帯の騒音値を表している。騒音の測定条件は、「JIS T 7209」である。図11および図12において、縦軸は騒音値(dB(A))を表しており、横軸は、周波数(Hz)を表している。また、実線は、内側板状部材120aに孔径φ=10mmの貫通孔125が単位面積当たり400個形成された第2実施例の吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置の騒音値を表しており、一点鎖線は、内側板状部材120aに孔径φ=5mmの貫通孔125が単位面積当たり400個形成された第2実施例の吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置の騒音値を表しており、破線は、内側板状部材が設けられていない従来の酸素濃縮装置の騒音値を表している。
【0050】
図11(a)に示すように、筐体110の内側に空気層130を形成するように内側板状部材120aを設けた吸音用板状構造体100aを用いた場合、0〜10kHzという幅広い周波数帯域で騒音が低減された。また、図11(a)に示すように、酸素濃縮装置1の動作時に生じる騒音は、低周波数帯域(0Hz〜1000Hz(1kHz))が支配的となっているが、図11(b)および図12に示すように、低周波数帯域においても、騒音が低減された。
【0051】
表2に、上記実験の測定値の平均値を表す。平均値は、フーリエ変換により算出した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、内側板状部材120aに孔径φ=10mmの貫通孔125が形成された吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置1の騒音値の平均値は33.8dBであり、内側板状部材120aに孔径φ=5mmの貫通孔125が形成された吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置1の騒音値の平均値は34.0dBであり、内側板状部材120aが設けられていない従来の酸素濃縮装置の騒音値の平均値は34.3dBである。すなわち、内側板状部材120aに孔径φ=5mm〜10mmの貫通孔が形成された吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置1は、従来の酸素濃縮装置1に比して、騒音値が0.3dB〜0.5dB低減された。例えば、表2に示すように、従来の酸素濃縮装置1に比して、内側板状部材120aに孔径φ=10mmの貫通孔125が形成された吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置1は、騒音値が0.5dB低減され、内側板状部材120aに孔径φ=5mmの貫通孔125が形成された吸音用板状構造体100aを用いた酸素濃縮装置1は、騒音値が0.3dB低減された。
【0054】
以上説明した第2実施例の酸素濃縮装置1によれば、吸音用板状構造体100aの内側板状部材120aには特定の周波数の音を低減するように構成された少なくとも一つの貫通孔125が形成されている。従って、貫通孔125の径の大きさを変化させることにより、所望の周波数の音を特に低減できる。また、第2実施例の酸素濃縮装置1によれば、貫通孔125の孔径を5〜10mmに形成することにより、コンプレッサ21の動作によって生じる80Hz付近の低周波数帯域の騒音が低減された。
【0055】
C.変形例:
(1)第1実施例および第2実施例では、外装ケースとしての筐体110aの内側に内側板状部材120bが設けられて吸音用板状構造体100bが構成されているが、例えば、コンプレッサ21を覆うように設けられる板金室を吸音用板状構造体100bとしてもよい。
【0056】
図13は、変形例における吸音用板状構造体100bを例示する斜視図である。変形例の吸音用板状構造体100bは、矩形状に形成された筐体110aと、筐体110aの内側に空気層130が形成されるように設けられた内側板状部材120bとから構成されている。外装ケース100は、酸素濃縮装置の外装ケースである。吸音用板状構造体100bの内部には、騒音源となるコンプレッサ21が設置されている。吸音用板状構造体100bは、外観形状以外は、第1実施例の吸音用板状構造体100bと同様の構造を有する。なお、図13では、説明のために吸音用板状構造体100bの前面を開放して示しているが、変形例では、実際には前面にも筐体110aと内側板状部材120bを構成する2枚の板状部材が設けられていてもよい。本変形の吸音用板状構造体100bを用いた酸素濃縮装置1によれば、コンプレッサ21の作動に起因して生じる騒音を低減できる。
【0057】
(2)第1実施例および第2実施例では、空気層130には空気のみが存在しているが、例えば、空気層130内に、吸音性能を有する部材を設置してもよい。
【0058】
図14は、変形例における吸音用板状構造体100cを例示する断面図である。図14は、図3のA−A断面での断面に対応する。図14に示すように、変形例の吸音用板状構造体100cは、空気層130内に、吸音性能を有する吸音部材135、例えば、多孔質体の樹脂(グラスウール、フエルト、ウレタン等)が設置されている。こうすることにより、酸素濃縮装置1の動作に伴って生じる騒音の吸音性能を向上できる。
【0059】
(3)第1実施例では、内側板状部材120の形状は、筐体110の形状に略類似するように構成されているが、例えば、筐体110は、上記第1実施例の形状で形成され、内側部材は、矩形状に形成されていてもよい。この場合、形状や大きさによっては、空気層130の厚みが部分的に異なることになるが、吸音性能には特に問題はない。こうすれば、内側板状部材120を構成するための板状部材を少なくでき、コスト削減を図ることができる。また、酸素濃縮装置を軽量化できる。
【0060】
(4)第1実施例では、前面パネルを吸音用板状構造体100に取り付けることにより、空気層130を閉状態にしているが、例えば、吸音用板状構造体100の前面に予め板状部材が設けられていてもよい。すなわち、内側板状部材120および筐体110は、前後面、上下面、左右面の6面の全てに板状部材が設けられていてもよい。
【0061】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施例における酸素濃縮装置を斜め前方から見た状態を表す斜視図。
【図2】第1実施例における酸素濃縮装置1の概略構成を示すブロック図。
【図3】第1実施例における吸音用板状構造体100を例示する斜視図。
【図4】第1実施例における吸音用板状構造体100の側面を表す透過図。
【図5】第1実施例における内側板状部材120を例示する斜視図。
【図6】第1実施例における吸音用板状構造体100の断面図。
【図7】第1実施例における吸音用板状構造体100の構成を説明する分解図。
【図8】第1実施例における酸素濃縮装置1の騒音値の測定結果を表すグラフ。
【図9】第2実施例における内側板状部材120aを説明する説明図。
【図10】第2実施例における吸音用板状構造体100aの断面図。
【図11】第2実施例における酸素濃縮装置の騒音値の測定結果を表すグラフ。
【図12】第2実施例における酸素濃縮装置の騒音値の測定結果を表すグラフ。
【図13】変形例における吸音用板状構造体100bを例示する斜視図。
【図14】変形例における吸音用板状構造体100cを例示する断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…酸素濃縮装置
2…表示装置
4a…防塵フィルタ
4b…吸気フィルタ
4c…吸気マフラ
5…前面パネル
6…操作部
7…加湿器
9…排出口
21…コンプレッサ
23…冷却ファン
24…熱交換器
25…圧力センサ
31…窒素吸着容器
41、51…弁
60…排気マフラ
61…逆止弁
71…タンク
75…バクテリアフィルタ
77…流量設定器
79…酸素センサ
91…圧力センサ
92…加湿器
95…酸素出口
100、100a、100b、100c…吸音用板状構造体
110、110a…筐体
111〜115…板状部材
120、120a、120b…内側板状部材
121〜124,121a〜124a…板状部材
125…貫通孔
130…空気層
135…吸音部材
140…排気室
150…板金室
200、200a…ボス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1kHz以下の周波数の音を生じる装置を覆うように設けられる吸音用構造体であって、
前記装置を収容する筐体と、
前記装置から生じる音を低減するための空気層を、前記筐体の内側に形成するように構成されている内側板状部材と、
を備える吸音用板状構造体。
【請求項2】
請求項1記載の吸音用板状構造体であって、
前記内側板状部材は、特定の周波数の音を低減するように構成された少なくとも一つの貫通孔を備える、吸音用板状構造体。
【請求項3】
請求項2記載の吸音用板状構造体であって、
前記内側板状部材は、前記貫通孔を、単位面積あたり約400個備える、吸音用板状構造体。
【請求項4】
請求項2記載の吸音用板状構造体であって、
前記貫通孔の孔径は、約5mm〜約10mmの範囲に含まれている、吸音用板状構造体。
【請求項5】
請求項2または請求項4記載の吸音用板状構造体であって、
前記筐体は、複数の区画を構成するように形成されたリブを有しており、
前記貫通孔は、前記複数の区画の少なくとも一つの区画内に位置するように形成されている、吸音用板状構造体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5いずれか記載の吸音用板状構造体であって、
前記内側板状部材は、多孔質材料により形成されている、吸音用板状構造体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6いずれか記載の吸音用板状構造体であって、
前記空気層には、吸音性能を有する材料により形成された吸音部材が配置されている、吸音用板状構造体。
【請求項8】
酸素濃縮装置であって、
空気中の窒素を優先的に吸着して酸素濃度を高める吸着手段と、
酸素濃縮装置の周囲の空気を取り込んで前記吸着手段に送気するコンプレッサと、
前記コンプレッサおよび前記吸着手段を収容する筐体と、前記コンプレッサが作動することにより生じる音を低減するための空気層を、前記筐体の内側に形成するように構成されている内側板状部材とからなる吸音用板状構造体と、
を備える酸素濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−102192(P2010−102192A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274574(P2008−274574)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】