説明

周囲監視装置

【課題】 作業機械の周囲で作業する各作業者に送受信器を所持させることなく、作業機械の操作者に作業者を容易に認識させることができる安価な周囲監視装置を提供するものである。
【解決手段】 周囲監視装置100は、ヘルメット300の表面に付されるマーカ10と、油圧ショベル200の周囲を撮影する撮影手段20と、撮影手段20により撮影された撮影領域を撮影画像として表示する表示手段30と、表示手段30に表示される撮影画像における、撮影手段20から所定の距離内にあるマーカ10に対して、仮想物体1を重畳して合成画像を生成する合成画像生成手段40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張現実感(Augmented Reality:AR)技術を利用して、作業機械の周囲を監視する周囲監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の土木工事現場における作業安全監視システムは、各作業員の通信状態から危険領域に入っているか否かを判定,監視しており、作業員が危険領域に入っていると判定した場合、その作業員に対してブザーなどの警報手段に対して警告を発する。同時にバックホウの動作は制動される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の建設・土木作業車両の作業安全監視システムは、油圧ショベルに搭載され、作業車両周囲のカメラ映像データを取得するカメラと、油圧ショベルに搭載され、操作者による操作ミスを想定した最大可動域を危険領域と判定する危険領域判定処理部と、カメラからのカメラ映像データに、判定された危険領域を重ね合わせるスーパーインポーズ処理部を有する安全監視コントローラと、油圧ショベルの操作室に設定され、カメラ映像に危険領域を重畳した画像を内部警告表示として映し出す画像モニターと、を備える(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138518号公報
【特許文献2】特開2009−121053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の土木工事現場における作業安全監視システムは、各作業員に送受信器をそれぞれ携帯させる必要があり、システムの低コスト化が図れないと共に、送受信器が電池切れを起こした場合に、その送受信器を携帯する作業員に対して警告を発することができず、作業員の安全性を確保することができないという課題がある。
【0006】
また、従来の建設・土木作業車両の作業安全監視システムは、操作者の画像モニター上で、危険エリアに居る外部作業者が、近赤外線レーザービームの照射により、鮮明に浮かび上がり、これを利用した画像認識処理により、作業者が危険エリアに存在するか否かを判断する。このため、従来の建設・土木作業車両の作業安全監視システムは、近赤外線レーザービームを照射する投光器が必要であり、システムが複雑になり、低コスト化が図れないという課題がある。
【0007】
本発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、作業機械の周囲で作業する各作業員に送受信器を所持させることなく、作業機械の操作者に作業員を容易に認識させることができる安価な周囲監視装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る周囲監視装置においては、監視対象の表面に付されるマーカと、作業機械の周囲を撮影する撮影手段と、撮影手段により撮影された撮影領域を撮影画像として表示する表示手段と、表示手段に表示される撮影画像における、撮影手段から所定の距離内にあるマーカに対して、仮想物体を重畳して合成画像を生成する合成画像生成手段と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る周囲監視装置においては、所定の領域に侵入した監視対象を作業機械の操作者に容易に認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は第1の実施形態に係る周囲監視装置の概略構成を示すブロック図であり、(b)はマーカの一例を示す説明図であり、(c)は図1(b)に示すマーカに対応する仮想物体の一例を示す説明図である。
【図2】(a)は図1(a)に示す周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す左側面図であり、(b)は図1(a)に示す周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す平面図であり、(c)は監視対象であるヘルメットの一例を示す正面図であり、(d)は監視対象であるヘルメットの一例を示す平面図である。
【図3】図1に示す周囲監視装置による処理の一例を示すフローチャート図である。
【図4】(a)は図1に示す表示手段に表示される撮影画像の一例を示す説明図であり、(b)は図1に示す表示手段に表示される合成画像の一例を示す説明図である。
【図5】(a)は第2の実施形態に係る周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す左側面図であり、(b)は第2の実施形態に係る周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す平面図である。
【図6】第2の実施形態に係る周囲監視装置による処理の一例を示すフローチャート図である。
【図7】(a)はマーカの他の例を示す説明図であり、(b)は図7(a)に示すマーカに対応する仮想物体の一例を示す説明図であり、(c)は図1に示す表示手段に表示される撮影画像の他の例を示す説明図であり、(d)は図1に示す表示手段に表示される合成画像の他の例を示す説明図である。
【図8】第2の実施形態に係る他の周囲監視装置による処理の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の第1の実施形態)
周囲監視装置100は、図1に示すように、監視対象の表面に付されるマーカ10と、作業機械の周囲を撮影する撮影手段20と、撮影手段20により撮影された撮影領域を撮影画像として表示する表示手段30と、表示手段30に表示される撮影画像における、撮影手段20から所定の距離(範囲)内にあるマーカ10に対して、仮想物体(CG:computer graphics)1を重畳して合成画像を生成する合成画像生成手段40と、を備える。
【0012】
なお、本実施形態に係る作業機械は、図2(a)及び図2(b)に示すように、長い腕を持つ作業部機構210(ブーム211、アーム212、バケット213)と、前進及び後進可能な足回りの下部機構220(走行体)と、下部機構220に対して旋回可能であり、運転室231やエンジンなどの主要装置のある上部機構230(旋回体)と、を備える油圧ショベル200を例に挙げて説明するが、操作者が搭乗して操作する作業機械であれば、油圧ショベル200に限られるものではない。
また、本実施形態に係る監視対象は、図2(c)及び図2(d)に示すように、作業機械(油圧ショベル200)の周囲で作業する作業者400が被るヘルメット300を例に挙げて説明するが、作業者400が着用する作業服や作業靴であってもよいし、他の作業機械や、建物、塀又は電柱などの地上に設置された工作物500であってもよい。
【0013】
マーカ10は、例えば、図1(b)に示すように、正方形の黒枠(以下、「マーカ枠11」と称す)と、マーカ枠11内に配置した文字、図形、記号又はこれらの結合である絵柄(以下、「内部パターン12」と称す)とからなる。
なお、マーカ枠11は、正方形の形状である必要はなく、三角形又は五角形などの多角形や円形などであってもよい。また、マーカ枠11は、一重枠である必要はなく、二重枠や三重枠などの複数枠であってもよく、黒枠に限られるものでもない。
さらに、図1(b)に示す内部パターン12は、数字の「1」であるが、このパターンに限られるものではなく、白黒又はカラーの図案であれば、任意のパターンを設定することができる。
【0014】
また、本実施形態においては、マーカ10を印刷した紙をシールとして、ヘルメット300の正面301、背面302、左側面303、右側面304及び上面305に貼着しているが、監視対象の表面にマーカ10を付すのであれば、貼着に限られるものではなく、例えば、ヘルメット300の表面にマーカ10を印刷してもよい。
【0015】
撮影手段20は、動画を撮影するビデオカメラであり、少なくとも操作者の死角となる領域を撮影できるように1台又は複数台のビデオカメラが作業機械(油圧ショベル200)に設置される。
なお、本実施形態に係る撮影手段20は、油圧ショベル200(下部機構220)の後進時に後方の安全確認を行うために、上部機構230の後方に1台のビデオカメラが設置され、油圧ショベル200の後方を撮影する。しかしながら、撮影手段20は、必要に応じて(操作者が肉眼で確認できるのであるが)、油圧ショベル200(下部機構220)の前進時に前方の安全確認を行うために、上部機構230の前方にビデオカメラが設置され、油圧ショベル200の前方を撮影してもよい。また、撮影手段20は、必要に応じて(操作者が肉眼で確認できるのであるが)、油圧ショベル200(上部機構230)の旋回時に側方(特に、作業部機構210により操作者の視野が遮られる右方)の安全確認を行うために、上部機構230の側方にビデオカメラが設置され、油圧ショベル200の側方を撮影してもよい。
【0016】
表示手段30は、油圧ショベル200の運転室231内に設置される液晶ディスプレイなどの出力表示装置であり、運転室231にある運転席に操作者が着座した状態で、操作者の前方の視野を遮らない位置に設置される。
【0017】
合成画像生成手段40は、マーカ10の情報(内部パターン12のパターン情報、マーカ10を特定の方向から撮影した数千枚程度の静止画像、マーカ10の三次元位置を特定するための情報)、当該マーカ10に対応する仮想物体1の情報及び後述する所定の距離(範囲)の情報を格納する記憶部41を備える。
【0018】
また、合成画像生成手段40は、撮影手段20から入力された撮影画像(撮影データ)を二値化処理する二値化処理部42と、二値化処理部42により二値化処理された撮影画像(二値化データ)からマーカ10を検出するマーカ検出部43と、を備える。
特に、マーカ検出部43は、二値化された撮影画像(二値化データ)をラベリング処理するラベリング処理部43aと、ラベリング処理部43aによりラベリング処理された撮影画像(ラベリングデータ)から正方形領域を抽出する正方形領域抽出部43bと、正方形領域抽出部43bにより抽出された正方形領域内にある内部パターン12を記憶部41に格納されたマーカ10の情報に基づいて識別するパターン識別部43cと、を備える。
【0019】
また、合成画像生成手段40は、マーカ検出部43により検出されたマーカ10の4頂点の画像中での座標値(マーカ座標系)と撮影手段20のパラメータ(カメラ座標系)とに基づいて撮影手段20に対する当該マーカ10の位置(距離)及び姿勢を計算する位置姿勢計算部44と、位置姿勢計算部44により計算されたマーカ10の位置(距離)に基づいて当該マーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にあるか否かを判断する接近判断部45と、を備える。
【0020】
ここで、所定の距離(範囲)は、任意に設定可能な距離であり、例えば、油圧ショベル200の作業部機構210の最大可動域における上部機構230の旋回並びに/又は下部機構220の後進に伴う油圧ショベル200の加速度及び/若しくは移動量に基づき、適宜設定する。
【0021】
また、合成画像生成手段40は、接近判断部45によりマーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にあると判断された場合に、当該マーカ10の位置(距離)及び姿勢の情報に基づいて、当該マーカ10に対応する仮想物体1を記憶部41から読み出して撮影画像上に描画する仮想物体描画部46を備える。
【0022】
つぎに、周囲監視装置100の処理について、図3及び図4を用いて説明する。
なお、以下の説明においては、油圧ショベル200(下部機構220)の後進時について説明するが、油圧ショベル200(下部機構220)の前進時及び油圧ショベル200(上部機構230)の旋回時については、撮影手段20により油圧ショベル200の前方又は側方を撮影する処理以外は同様の処理となるので、説明を省略する。また、周囲監視装置100の合成画像生成手段40の記憶部41には、図1(b)に示すマーカ10の情報と、当該マーカ10に対応する図1(c)に示す仮想物体1の情報と、所定の距離(範囲)の情報とが予め格納されているものとする。
【0023】
まず、油圧ショベル200の操作者は、周囲監視装置100を起動させる(ステップS1)。なお、周囲監視装置100の起動は、例えば、油圧ショベル200の下部機構220の操作用レバー(足元から出ている2本のレバー)で後進を指示する操作(2本の操作用レバーを後方に倒す)を行うことをトリガーとすることが考えられる。
【0024】
周囲監視装置100の撮影手段20は、油圧ショベル200の後方の撮影を開始し、合成画像生成手段40の二値化処理部42に撮影データを入力する(ステップS2、図4(a))。
二値化処理部42は、入力された撮影データの第1フレームを抽出し(ステップS3)、抽出したフレームに対して二値化処理を行ない、マーカ検出部43のラベリング処理部43aに二値化データを出力する(ステップS4)。
【0025】
ラベリング処理部43aは、入力された二値化データに対してラベリング処理を行ない、正方形領域抽出部43bにラベリングデータを出力する(ステップS5)。
正方形領域抽出部43bは、入力されたラベリングデータから正方形領域を抽出し、パターン識別部43cに抽出データを出力する(ステップS6)。
【0026】
パターン識別部43cは、正方形領域抽出部43bから抽出データが入力されると、記憶部41に格納されたマーカ10の情報を参照し、抽出データの正方形領域内にある内部パターン12が、記憶部41に格納されたマーカ10の正方形内部パターンに一致するか否かを判断する(ステップS7)。なお、本実施形態においては、作業者400のヘルメット300に付された図1(b)に示すマーカ10が撮影領域に含まれる場合に、パターン識別部43cは、記憶部41に格納された図1(b)に示すマーカ10の情報に基づいて、抽出データの正方形領域内にある内部パターン12が記憶部41に格納されたマーカ10の正方形内部パターンに一致すると判断する。
【0027】
パターン識別部43cは、ステップS7で、抽出データの正方形領域内にある内部パターン12が記憶部41に格納されたマーカ10の正方形内部パターンに一致しないと判断した場合に、判断結果を仮想物体描画部46に出力する(ステップS8)。
【0028】
仮想物体描画部46は、入力された判断結果に基づき、撮影手段20により撮影された撮影画像(抽出フレーム)に仮想物体1を重畳(合成画像を生成)することなく、表示手段30に撮影画像(抽出フレーム)を表示する(ステップS9)。
【0029】
そして、二値化処理部42は、撮影手段20から入力された撮影データに、表示手段30に表示された抽出フレームの次フレームがあるか否かを判断する(ステップS10)。
二値化処理部42は、ステップS10で、撮影データに次フレームがないと判断した場合に、周囲監視装置100の処理を終了する。なお、撮影データに次フレームがない場合とは、撮影手段20による撮影を終了した場合であり、撮影の終了は、例えば、油圧ショベル200の下部機構220の操作用レバーを元の位置に戻した(前方に倒した)ことをトリガーとすることが考えられる。
また、二値化処理部42は、ステップS10で、撮影データに次フレームがあると判断した場合に、次フレームを抽出し(ステップS11)、前述したステップS4に進む。
【0030】
また、パターン識別部43cは、ステップS7で、抽出データの正方形領域内にある内部パターン12が記憶部41に格納されたマーカ10の正方形内部パターンに一致すると判断した場合に、判断(検出)結果を位置姿勢計算部44に出力する(ステップS12)。
【0031】
位置姿勢計算部44は、検出されたマーカ10の4頂点の画像中での座標値(マーカ座標系)と撮影手段20のパラメータ(カメラ座標系)とに基づいて、撮影手段20に対する当該マーカ10の位置(距離)及び姿勢を計算し、計算結果を接近判断部45に出力する(ステップS13)。
【0032】
接近判断部45は、位置姿勢計算部44から計算結果が入力されると、記憶部41に格納された所定の距離(範囲)の情報を参照し、計算結果であるマーカ10の位置に基づいて、当該マーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にあるか否かを判断する(ステップS14)。
【0033】
接近判断部45は、ステップS14で、マーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にないと判断した場合に、判断結果を仮想物体描画部46に出力し(ステップS15)、前述したステップS9に進む。
【0034】
また、接近判断部45は、ステップS14で、マーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にあると判断した場合に、判断(検出)結果を仮想物体描画部46に出力する(ステップS16)。
【0035】
仮想物体描画部46は、位置姿勢計算部44により計算されたマーカ10の位置(距離)及び姿勢の情報に基づいて、当該マーカ10に対応する仮想物体1を記憶部41から読み出し、撮影画像中のマーカ10の位置(距離)に姿勢を反映した仮想物体1を重畳して合成画像(フレーム)を生成し、表示手段30に合成画像(フレーム)を出力する(ステップS17)。
【0036】
表示手段30は、入力された合成画像(フレーム)を表示し(ステップS18、図4(b))、ステップS10に進む。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る周囲監視装置100は、表示手段30に表示された撮影画像における監視対象(マーカ10)に、撮影画像に対して強調される仮想物体1を重畳させるため、作業機械の操作者は、監視対象を容易に認識することができるという作用効果を奏する。
【0038】
特に、本実施形態に係る周囲監視装置100は、マーカ枠11及び内部パターン12を紙に印刷するだけでマーカ10を作成することができるため、作業員に送受信器を携帯させることや近赤外線レーザービームを用いることなどの従来技術と比較して、システムの導入コストを大幅に抑制することができるという作用効果を奏する。
【0039】
なお、本実施形態に係る周囲監視装置100は、マーカ10が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にある場合に、表示手段30に合成画像を表示することで、作業機械の操作者に作業者400を視認させる構成であるが、作業者400が作業機械の周囲にいることを警報により操作者に報知してもよいし、作業機械を停止することで操作者に報知してもよい。
【0040】
また、本実施形態においては、ヘルメット300の正面301、背面302、左側面303、右側面304及び上面305に同一のマーカ10(内部パターン12)をそれぞれ付した場合について説明したが、ヘルメット300の各面に同一のマーカ10を付す必要はなく、例えば、正面301に付されるマーカ10と、ヘルメット300の背面302、左側面303、右側面304及び上面305に付されるマーカ10とを異ならせてもよい。
【0041】
そして、表示手段30に表示される撮影画像における、撮影手段20から所定の距離(範囲)内にあるマーカ10のうち、ヘルメット300の正面301に付されたマーカ10に重畳される仮想物体1と、ヘルメット300の背面302、左側面303、右側面304及び上面305に付されたマーカ10に重畳される仮想物体1とを異ならせる。
【0042】
これにより、操作者は、ヘルメット300の正面301に重畳される仮想物体1で、作業者400が作業機械(油圧ショベル200)に正対していることがわかり、作業者400が作業機械の存在に気付いている可能性が高いと判断でき、危険度が低いと考えることができる。これに対し、操作者は、ヘルメット300の背面302、左側面303、右側面304又は上面305に重畳される仮想物体1で、作業者400が作業機械に正対していないことがわかり、作業者400が作業機械の存在に気付いていない可能性が高いと判断できるため、作業者400に対して警告音を発するなどの措置を取ることができる。
【0043】
なお、ヘルメット300の各面に対して、全て異なるマーカ10をそれぞれ付して、作業機械に対する作業者400の向きを特定してもよい。しかしながら、マーカ10の種類を増加するということは、記憶部41に格納する情報(各マーカ10の情報、各仮想物体1の情報)の情報量が多くなり、マーカ10の検出処理並びにマーカ10の位置及び姿勢の計算処理に時間を要する。このため、作業者400と作業機械とが正対していることのみを判断できればよいのであれば、記憶部41に格納する情報の情報量を必要最低限に抑制するために、ヘルメット300の正面301に付されたマーカ10と、それ以外の面に付されたマーカ10とを異ならせることが好ましい。
【0044】
(本発明の第2の実施形態)
図5(a)は第2の実施形態に係る周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す左側面図であり、図5(b)は第2の実施形態に係る周囲監視装置を備えた油圧ショベルの一例を示す平面図である。図6は第2の実施形態に係る周囲監視装置による処理の一例を示すフローチャート図である。図7(a)はマーカの他の例を示す説明図であり、図7(b)は図7(a)に示すマーカに対応する仮想物体の一例を示す説明図であり、図7(c)は図1に示す表示手段に表示される撮影画像の他の例を示す説明図であり、図7(d)は図1に示す表示手段に表示される合成画像の他の例を示す説明図である。図8は第2の実施形態に係る他の周囲監視装置による処理の一例を示すフローチャート図である。図5乃至図8において、図1乃至図4と同じ符号は、同一または相当部分を示し、その説明を省略する。
【0045】
本実施形態に係る周囲監視装置100は、第1の実施形態の構成に加え、監視対象(例えば、ヘルメット300)の表面(例えば、正面301、背面302、左側面303、右側面304、上面305)に付されるマーカ10(以下、「第1のマーカ10a」と称す)に換えて又は監視対象の表面に第1のマーカ10aを付したうえで、当該第1のマーカ10aと同一の又は異なるマーカ10(以下、「第2のマーカ10b」と称す)を映す投影光51を作業機械(例えば、油圧ショベル200)の周囲に投射する投影手段50を備える構成である。
【0046】
なお、投影手段50による投影光51を投射する投影範囲は、撮影手段20による撮影領域を包含する範囲であればよいが、撮影手段20による撮影領域に一致する範囲にすることが、撮影領域外への無駄な投影光51の投射を省略するうえで好ましく、地上からの高さが作業者400の背丈を越える範囲(例えば、2m以上)を対象外にするにすることが、作業者400の存在しない撮影領域を監視対象外にするうえでより好ましい。
また、投影手段50による投影光51の投影方法は、投影範囲に対して、投影光51を一時(放射状)に投射してもよいし、投影光51を走査により順次投射してもよいし、投影光51をランダムに投射してもよい。
【0047】
なお、本実施形態に係る投影手段50は、図5(b)に示すように、横方向の投影範囲として撮影手段20による横方向の撮影領域(例えば、油圧ショベル200の中心軸を中心に左右45度)に一致させ、図5(a)に示すように、縦方向の投影範囲として地上から所定の高さ(例えば、1m)に設定しているが、この投影範囲に限られるものではない。
また、本実施形態に係る投影手段50は、投影方法として、投影手段50から撮影領域の横方向に等角度で(例えば、前述した所定の距離(範囲)で、50cmの等間隔になるように)、一時に投影光51を投射しているが、この投影方法に限られるものではない。
【0048】
つぎに、周囲監視装置100の処理について、図6を用いて説明する。
なお、図6に示すフローチャートのうち、投影手段50による処理に対応するステップ(ステップS1a、ステップS10a)以外のステップについては、図3に示すフローチャートにおける同一符号のステップと同様の処理となるので、説明を省略する。また、以下の説明においては、油圧ショベル200(下部機構220)の後進時について説明するが、油圧ショベル200(下部機構220)の前進時及び油圧ショベル200(上部機構230)の旋回時については、撮影手段20により油圧ショベル200の前方又は側方を撮影する処理及び投影手段50により油圧ショベル200の前方又は側方に投影光51を投射する処理以外は同様の処理となるので、説明を省略する。
【0049】
また、投影手段50は、図1(b)に示すマーカ10(第1のマーカ10a)とは異なる図7(a)に示すマーカ10(第2のマーカ10b)を映す投影光51を、前述した投影範囲及び投影方法にて投射するものとする。また、周囲監視装置100の合成画像生成手段40の記憶部41には、図1(b)に示すマーカ10(第1のマーカ10a)の情報及び当該第1のマーカ10aに対応する図1(c)に示す仮想物体1(以下、「第1の仮想物体1a」と称す)の情報と、図7(a)に示すマーカ10(第2のマーカ10b)の情報及び当該第2のマーカ10bに対応する図7(b)に示す仮想物体1(以下、「第2の仮想物体1b」と称す)の情報と、所定の距離(範囲)の情報とが予め格納されているものとする。
【0050】
まず、油圧ショベル200の操作者は、周囲監視装置100を起動させると(ステップS1)、周囲監視装置100の投影手段50は、前述した投影範囲及び投影方法にて、投影光51の投射を開始し(ステップS1a)、撮影手段20は、油圧ショベル200の後方の撮影を開始し、合成画像生成手段40の二値化処理部42に撮影データを入力する(ステップS2、図7(c))。
【0051】
そして、ステップS3からステップS9(ステップS18(図7(d)))までのステップを経て、二値化処理部42は、撮影手段20から入力された撮影データに、表示手段30に表示された抽出フレームの次フレームがあるか否かを判断する(ステップS10)。
二値化処理部42は、ステップS10で、撮影データに次フレームがないと判断した場合に、周囲監視装置100の投影手段50は、投影光51の投射を終了し(ステップS10a)、周囲監視装置100の処理を終了する。
【0052】
なお、この第2の実施形態においては、投影手段50を備えるところのみが第1の実施形態と異なるところであり、後述する投影手段50による作用効果以外は、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0053】
本実施形態に係る周囲監視装置100は、マーカ10(第2のマーカ10b)を映す投影光51を作業機械の周囲に投射することで、マーカ10(第1のマーカ10a)が付された監視対象(ヘルメット300)を所持していない者、他の作業機械及び工作物500の表面にマーカ10(第2のマーカ10b)が投影され、監視対象(ヘルメット300)を所持することと同様に、拡張現実感技術を用いて、作業機械への接近を監視することができるという作用効果を奏する。
【0054】
ここで、地上に設置された工作物500は、工作物500自身が移動しないため、作業機械に接触する危険性が低い。このため、工作物500を監視対象から外し、人や動物や他の作業機械などの移動体のみを監視対象にすることが、適切な情報(仮想物体1)のみを表示手段30に表示するうえで好ましい。
【0055】
このため、合成画像生成手段40は、撮影手段20の撮影位置及び撮影方向に変化がない状態で撮影手段20により撮影され表示手段30に表示される撮影画像における、当該撮影手段20から所定の距離(範囲)内にあるマーカ10(第1のマーカ10a、第2のマーカ10b)のうち、当該撮影手段20に対する距離又は姿勢が変化したマーカ10(第1のマーカ10a、第2のマーカ10b)のみに対して、仮想物体1(第1の仮想物体1a、第2の仮想物体1b)を重畳して合成画像を生成する。
【0056】
この場合の周囲監視装置100の処理について、図8を用いて説明する。
なお、図8に示すフローチャートのうち、合成画像生成手段40の接近判断部45による処理に対応するステップ(ステップS14a)以外のステップについては、図6に示すフローチャートにおける同一符号のステップと同様の処理となるので、説明を省略する。
【0057】
接近判断部45は、ステップS14で、マーカ10(第1のマーカ10a、第2のマーカ10b)が撮影手段20に対して所定の距離(範囲)内にあると判断した場合に、抽出フレームにおけるマーカ10(第1のマーカ10a、第2のマーカ10b)が前フレームにおける対応するマーカ10(第1のマーカ10a、第2のマーカ10b)から距離又は姿勢が変化した否かを判断する(ステップS14a)。
【0058】
そして、接近判断部45は、ステップS14aで、抽出フレームにおけるマーカ10が前フレームにおける対応するマーカ10から距離又は姿勢が変化したと判断した場合に、判断(検出)結果を仮想物体描画部46に出力する(ステップS16)。
【0059】
また、接近判断部45は、ステップS14aで、抽出フレームにおけるマーカ10が前フレームにおける対応するマーカ10から距離又は姿勢が変化していないと判断した場合に、判断結果を仮想物体描画部46に出力する(ステップS15)。
【0060】
なお、地上に設置された工作物500に第1のマーカ10aを付さないのであれば、第1のマーカ10aが付される監視対象は移動体であるので、第1のマーカ10aをステップS14aの処理対象から外してもよい(第1の仮想物体1aを撮影画像に常に重畳させてもよい)。
【0061】
この場合に、合成画像生成手段40は、撮影手段20の撮影位置及び撮影方向に変化がない状態で撮影手段20により撮影され表示手段30に表示される撮影画像における、当該撮影手段20から所定の距離(範囲)内にある第2のマーカ10bのうち、当該撮影手段20に対する距離又は姿勢が変化した第2のマーカ10bのみに対して、仮想物体1(第1の仮想物体1a、第2の仮想物体1b)を重畳して合成画像を生成する。
【符号の説明】
【0062】
1 仮想物体
1a 第1の仮想物体
1b 第2の仮想物体
10 マーカ
10a 第1のマーカ
10b 第2のマーカ
11 マーカ枠
12 内部パターン
20 撮影手段
30 表示手段
40 合成画像生成手段
41 記憶部
42 二値化処理部
43 マーカ検出部
43a ラベリング処理部
43b 正方形領域抽出部
43c パターン識別部
44 位置姿勢計算部
45 接近判断部
46 仮想物体描画部
50 投影手段
51 投影光
100 周囲監視装置
200 油圧ショベル
210 作業部機構
211 ブーム
212 アーム
213 バケット
220 下部機構
230 上部機構
231 運転室
300 ヘルメット
301 正面
302 背面
303 左側面
304 右側面
305 上面
400 作業者
500 工作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の表面に付されるマーカと、
作業機械の周囲を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影された撮影領域を撮影画像として表示する表示手段と、
前記表示手段に表示される撮影画像における、前記撮影手段から所定の距離内にある前記マーカに対して、仮想物体を重畳して合成画像を生成する合成画像生成手段と、
を備えることを特徴とする周囲監視装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の周囲監視装置において、
前記監視対象が、ヘルメットであり、
前記マーカが、前記ヘルメットの正面、背面、左側面、右側面及び上面に付され、
前記ヘルメットの正面に付されたマーカが、前記ヘルメットの背面、左側面、右側面及び上面に付されたマーカと異なり、
前記表示手段に表示される撮影画像における、前記撮影手段から所定の距離内にある前記マーカのうち、前記ヘルメットの正面に付されたマーカに重畳される仮想物体と、前記ヘルメットの背面、左側面、右側面及び上面に付されたマーカに重畳される仮想物体とが異なることを特徴とする周囲監視装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の周囲監視装置において、
前記監視対象の表面に付されるマーカに換えて又は前記監視対象の表面にマーカを付したうえで、当該マーカと同一の又は異なるマーカを映す投影光を前記作業機械の周囲に投射する投影手段を備えることを特徴とする周囲監視装置。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載の周囲監視装置において、
前記合成画像生成手段が、前記撮影手段の撮影位置及び撮影方向に変化がない状態で当該撮影手段により撮影され前記表示手段に表示される撮影画像における、当該撮影手段から所定の距離内にある前記マーカのうち、当該撮影手段に対する距離又は姿勢が変化したマーカのみに対して、仮想物体を重畳して合成画像を生成することを特徴とする周囲監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9267(P2013−9267A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142137(P2011−142137)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】