説明

周期性構造物の作製方法および該周期性構造物を用いた光学素子

【課題】異なる周期長が組み合わされた周期性構造物を、欠陥等が少なく、精度がよく、簡易に作製できるようにする。
【解決手段】微粒子Bと材料E、微粒子Dと材料Eの材質は互いに異なる場合に、(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Bを周期的に配列させることにより、第一の周期性構造物を作製する工程と、(b)コロイド溶液を用いて、基板Cの上に微粒子Dを周期的に配列させることにより、第二の周期性構造物を作製する工程と、(c)上記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を、互いに向かい合うように配置し、固定する工程と、(d)上記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を基板が外側になるように配置し、固定する工程と、(e)微粒子Bおよび微粒子Dの微粒子間、および周期性構造物間の空隙を材料Eにて充填する工程と、(f)上記(e)の工程において充填された材料Eを固化もしくは固定化する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子を周期的に配列させた微粒子周期構造物およびその反転構造を利用した光導波路、光共振器などのフォトニック結晶光学デバイス、または表示デバイス、センサーなどに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップにより、結晶中に光を閉じ込めることが可能なフォトニック結晶は、光学デバイスとしての利用が期待されている。フォトニック結晶形成技術として、光学媒質(微粒子)の自己組織化を利用した方法がある。フォトニックバンドもしくはストップバンドは、特定の波長域に対して、反射率測定ではピーク、透過率測定できディップとして観測される。自己組織化を利用して配列された微粒子膜(周期性構造物、フォトニック結晶)は、高品質、大表面積になると期待される。
【0003】
例えば、特開平7−116502号公報および特許第2828386号公報(特許文献1参照)には、コロイド溶液を用いた『微粒子薄膜の製造方法』が提案されている。これは、液体の毛管力を利用して、溶媒の蒸発速度、微粒子の体積分率を制御することにより集積される結晶の高品質化を図ったものである。
また、2枚の平行な面の間の狭い間隙にコロイド結晶を成長させる方法も、ピュージ、ピーター・ニカラス等により、特許第2693844号公報(特許文献2参照)を始めとして報告されている。
【0004】
微粒子としては、単分散の良いシリカやポリスチレンが用いられるのが一般的である。しかしながら、これらの物質では、デバイス材料としては屈折率が十分に高くない。屈折率のより高い微粒子膜を作製するために、上記の方法により作製された微粒子膜を利用した例が報告されている。微粒子膜の微粒子間の空隙に光硬化性樹脂などのモノマーを流し込み、固体させた後、微粒子をエッチングにより取り除いて、ポリマーによる周期性構造物(反転構造、逆オパール構造、インバースオパール構造と呼ばれる)(特許文献3、非特許文献3,4参照)を得るインバースオパール法と呼ばれる方法である。その結果、自己組織化によって最初に得られた周期構造とほぼ同等な周期性構造物を材質が変わった形で得ることができる(例えば、Science,Vol.291,pp.453〜457)。
【0005】
異なる周期長からなる複数の周期性構造物を組み合わせた構造物は、これまでいくつか提案されている。例えば、特開2004−233408号公報(特許文献4、非特許文献8参照)では、微粒子集積体の上に、それとは異なる粒径からなる微粒子集積体を2つ形成し、反射型スクリーンとして利用することが提案されている。しかしながら、光学素子としての利用を考える場合には、微粒子の積層構造を形成するだけでは応用用途が限られ、構造物間で微粒子の粒径が異なることや、作製の繰り返しの影響により周期構造が乱れるなど、最終的に作製される構造物の精度も良好ではない。
【0006】
また、微細加工を用いたフォトニック結晶では、線欠陥導波路を利用した欠陥エンジニアリングにより、大きさの異なる欠陥により、特定の波長の光を分波する報告がなされている(例えば、S.Noda,et al.,Nature 407,pp.608,2000.(非特許文献5,6,7参照))。微細加工による作製では、装置に加工精度が求められるほか、作製に多大なエネルギーを要するため、代替となる簡易な作製方法を提案することが必要となる。
【0007】
【特許文献1】特開平7−116502号公報(特許第2828386号公報:永山等、毛管力を利用した微粒子膜形成)
【特許文献2】特許第2693844号公報(ピュージ,ピーター・ニカラス等、2枚の基板を用いた微粒子膜形元)
【特許文献3】特開2003−2687号公報(V.L.Colvin等、インバースオパール法)
【特許文献4】特開2004−233408号公報(周期性構造物の組み合わせ)
【非特許文献1】B.T.Mayers,et al.,Advanded Materials,12,No.21,pp.1629−1632,2000.(Younan Xia等、下部基板に型を施し、形成される粒子の形状を制御)
【非特許文献2】S.H.Park,et al.,Advanded Materials,11,No.6,pp.462−466,1999.(同上)
【非特許文献3】P.Jiang.et al.J.Am.Chem.Soc.121,pp.11630−11637,1999.(V.L.Colvin等、インバースオパール法)
【非特許文献4】K.M.Kulinowski,et al.,Advanded Materials,12,No.11,pp.833−838,2000.(同上)
【非特許文献5】S.Noda,et al.,Nature 407,pp.608,2000.(フォトニック結晶)
【非特許文献6】Y.Shinoda,et al.Appl.Phys.Lett.,vol.79,pp.3627−3629,2001.(同上)
【非特許文献7】K.Yoshino,et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,vol.38,ppL786−788,1999.(同上)
【非特許文献8】P.Jiang,J.F.Bertone,K.S.Hwang and V.Colvinn;Chemm.Mater.11(1999)2132(周期性構造物の組み合わせ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、従来提案されているうち、1)永山等による毛管力を利用した微粒子膜形成の方法、および、2)ピュージ、ピーター・ニカラス等による2枚の基板を用いた微粒子膜形成の方法で作製された物質では、デバイス材料としては届折率が十分に高くないという問題がある。また、3)Younan Xia等による下部基板に型を施し、形成される粒子の形状を制御する方法では、微細加工による作製の際に、装置に加工精度が求められるとともに、作製に多大なエネルギーを要する。また、4)V.L.Colvin等によるインバースオパール法で作製された物質では、自己組織化により最初に得られた周期構造とほぼ同等な周期性構造物を変わった材質の形で得ることができる。また、5)フォトニック結晶では、線欠陥導波路を利用した欠陥エンジニアリングにより、大きさの異なる欠陥によって、特定の波長の光を分波することがわかっている。また、6)周期性構造物の組み合わせによる方法では、光学素子としての利用を考える場合には、微粒子の積層構造を形成するだけでは応用用途が限られるという問題がある。
【0009】
(目的)
本発明の目的は、異なる周期長が組み合わされた周期性構造物を、欠陥等が少なく、精度がよく、簡易に作製できる作製方法および周期性構造物を用いた光学素子を提供することにある。
また、工程中において、第一の周期性構造物と第二の周期性構造物を精度よく配置し、固定することができるようにする周期性構造物の作製方法を提供することにある。
また、簡易に精度のよいインバースオパール構造を作製することが可能な周期性構造物の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学素子の作製方法は、微粒子Bと材料E、微粒子Dと材料Eの材質は互いに異なる場合に、(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Bを周期的に配列させることにより、第一の周期性構造物を作製する工程と、
(b)コロイド溶液を用いて、基板Cの上に微粒子Dを周期的に配列させることにより、第二の周期性構造物を作製する工程と、
(c)上記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を、互いに向かい合うように配置し、固定する工程と、
(d)上記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を基板が外側になるように配置し、固定する工程と、
(e)微粒子Bおよび微粒子Dの微粒子間、および周期性構造物間の空隙を材料Eにて充填する工程と、
(f)上記(e)の工程において充填された材料Eを固化もしくは固定化する工程
を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第一の周期性構造物と第二の周期性構造物を別々の基板に作製し、それらを組み合わせる作製方法であるため、周期性構造物の組み合わせを精度よく行うことができ、最終的に作製される周期性構造物の精度を向上させることができる(請求項1)。
また、インバースオパール構造を作製することができるため、微粒子を除去しない場合に比較して変調を強くすることができる(請求項2)。
また、周期性構造物では特定の波長に反射率ピーク(透過率測定ではディップ)が見られるため、反射率、透過率などの光学特性を測定することにより、精度よく、周期性構造物を組み合わせることができる(請求項3)。
【0012】
また、比較的簡易な粒子を試料とすることにより、単分散性の良い粒子を作製することができ、精度のよい周期性構造物を形成することができる(請求項4)。
また、モノマーの重合を利用して周期性構造物を作製するため、設計通りの届折率を持つ周期性構造物を簡易に作製することができる(請求項5)。
また、ナノスケールの粒子の固定を利用するため、微粒子間への充填が簡易であるのみならず、精度の良い周期性構造物を作製することができる(請求項6)。
また、液相における化学反応を利用するため、簡易に微粒子を除去することができる(請求項7)。
【0013】
また、熱による微粒子の除去を利用するため、簡易に微粒子を除去することができる(請求項8)。
また、本発明の方法で作製された光学素子は、基板上に形成された周期性構造物を利用して信頼性の高い光学素子を作製することができる(請求項9)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の各実施例を、図面により詳細に説明する。
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1により作製された光学素子の模式図であり、図2は本発明における微粒子による周期性構造物の作製方法の概略図である。
実施例1(請求項1〜5,7,9に対応)を実施し、その結果として作製された光学素子を図1に示す。
【0015】
図1では、空隙周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは、実際に作製した構造物とは異なるが、簡単に模式的に示している。図1に示す光学素子は球形の空隙の周期構造2つが組み合わさった構造を持つ光硬化型樹脂からなる。
1は光硬化型樹脂などの微粒子間充填材料、2は直径約300nmの空隙、3は直径約400nmの空隙である。
すなわち、図1において、下側の周期構造は、周期間隔300nm、層数約20層である。また、図1の上側の球形空隙の周期構造は、周期間隔400nm、層数約20層である。また、2つの周期構造の間には、周期構造を持たない箇所が存在している。
【0016】
以下、図1の光学素子の作製方法を、図2により説明する。まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のシリカ微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml)を用意した。図2において、4はコロイド液、5は微粒子からなる周期性構造物、6は石英基板である。石英基板6を図2に示すように、水面がほぼ垂直になるように溶液に浸し、基板6の上部を固定した。数日程度そのまま放置し、溶液内の溶媒を乾燥させた。その後、基板6を取り出し、十分に乾燥させた。その結果、基板表面には、シリカ微粒子による薄膜がほぼ一定の周期性構造物が形成された。基板6上の微粒子膜の硬度を高めるために、600℃にて1時間の加熱を行った。直径400nmのシリカ微粒子を用いた場合についても、同様の周期性構造物の作製を行い、石英基板6上にシリカ微粒子の規則構造を作製した。
【0017】
作製した2つの周期性構造物の反射率を測定し、ストップバンドに起因するピークをもとに構造物同士が平行になる位置を探し、その後スペーサーを介して固定した。この時点で、2つの周期性構造物の間には空隙が生じている。2つの周期性構造物間および各微粒子間の空隙にモノマーである光硬化型樹脂を流し込み、紫外線を照射し、重合により硬化させた。その後、フッ酸中にシリカおよび石英基板6が除去されるのに充分な時間だけ浸し、純水にて洗浄した後に、乾燥させた。その結果、図1に示すように光硬化型樹脂からなる、異なる2つの周期を持つ球形空隙からなる規則構造体を得た。
【0018】
図1に示す光学素子は、コロイド溶液の毛管力、微粒子の自己組織化を利用して微粒子からなる周期性構造物(微粒子膜)を作製した後、微粒子間を光硬化型樹脂により充填し、その後のシリカの除去により、空隙の周期構造を得たものである。一つのブロックの中に異なる2つの周期性構造を持つ構造物を作製するのは、通常は困難であるが、本実施例による方法では、精度よく作製することができる。2つの異なる周期構造は、異なる波長の光の反射を可能にし、また、2つの周期性構造物間に形成された箇所に光を局在させることも可能である。このような周期性構造物は応用範囲が広く、導波路や光フィルターなどのフォトニック結晶のほかに、気体・液体の透過量や吸着量の測定からセンサーとしての利用も可能である。
【0019】
フォトニック結晶としては、微細加工による作製では困難な3次元周期構造であり、光を閉じ込める効果は高い。微粒子が自己組織的に配列する現像を利用したボトムアップ手法では、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であるため、省資源・省エネルギーであり、環境面でも優れている。従来においては、導波路などのフォトニック結晶は微細加工を施す方法でしか作製することができず、環境面で問題があった。しかしながら、本発明により、環境面に優れたフォトニック結晶を作製できるようになった。
【0020】
(実施例2)
図3は、本発明の実施例2により作製された周期性構造物(光学素子)の正面図である。
実施例2(請求項1〜5,9)を実施し、作製した光学素子の模式図が図3である。
図3では、空隙周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは実際に作製した構造物とは異なるが、簡単に模式的に示している。図3に示す光学素子は球形の空隙の周期構造2つが組み合わさった構造を持つ光硬化型樹脂1からなる。
図3において、全ての周期構造は、直径300nmで周期間隔300nmの複数層の空隙を持つ。また、ほぼ中央部には、周期構造を持たない箇所が存在する。
【0021】
以下、図3の光学素子の作製方法を、図2により説明する。
まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のシリカ微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml)を用意した。
石英基板6を図2に示すように水面がほぼ垂直になるように溶液に浸し、基板6の上部を固定した。数日程度そのまま放置し、溶液内の溶媒を乾燥させた。その後、基板6を取り出し、十分に乾燥させた。この際に、基板6の表面にはシリカ微粒子による薄膜のほぼ一定の周期性構造物が形成された。基板6上の微粒子膜の硬度を高めるために600℃にて1時間の加熱を行った。
【0022】
作製した周期性構造物の反射率を測定し、ストップバンドに起因するピークをもとに構造物同士が平行になる位置を探し、その後、スペーサーを介して固定した。周期性構造物のピーク波長が一致する場合には、周期性構造物は互いにほぼ平行である。固定した時点で、2つの周期性構造物の間には空隙が生じていない。2つの周期性構造物間および各微粒子間の空隙にモノマーである光硬化型樹脂を流し込み、紫外線を照射し、重合により硬化させた。その後、フッ酸中にシリカおよび石英基板6が除去されるのに充分な時間浸し、純水にて洗浄後、乾燥させた。その結果、図3に示すような光硬化型樹脂からなる、異なる2つの周期を持つ球形空隙からなる規則構造体を得た。
【0023】
図3に示す光学素子は、コロイド溶液の毛管力、微粒子の自己組織化を利用して微粒子からなる周期性構造物(微粒子膜)を作製した後、微粒子間を光硬化型樹脂により充填し、その後のシリカ除去により、空隙の周期構造を得たものである。1つのブロックの中に異なる2つの周期性構造を持つ構造物を作製するのは、通常は困難であるが、本発明による方法では、精度良く作製することができる。2つの異なる周期構造は、異なる波長の光の反射を可能にし、また、2つの周期性構造物間に形成された箇所に光を局在させることも可能である。このような周期性構造物は応用範囲が広く、導波路や光フィルターなどのフォトニック結晶のほか、センサーとしての利用も可能である。
【0024】
(実施例3)
図5は、本発明の実施例3により作製した光学素子の模式図である。
実施例3(請求項1〜4、6,8,9に対応)を実施し、作製した光学素子が図5である。図3では、空隙周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは、実際に作製した構造物とは異なるが、簡単に模式的に示している。
図5に示す光学素子は、ほぼ球形の空隙の周期構造を持ち、ナノスケールのチタニア粒子からなる。図5の場合の周期構造は、周期間隔300nm、層数約20層である。また、ほぼ中央部に周期構造を持たない箇所が存在する。
【0025】
以下に、図5の光学素子の作製方法を説明する。
図4は本発明の実施例2に係る図3の光学素子を作製するための概略図である。
図4において、5は微粒子からなる周期性構造物、6は石英基板、1は光硬化型樹脂などの微粒子間充填材料、2は直径約300nmの空隙である。まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のポリスチレン微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml)を用意した。基板6を図2に示すように水面がほぼ垂直になるように溶液に浸し、基板6の上部を固定した。数日程度そのまま放置し、溶液内の溶媒を乾燥させた。その後、基板6を取り出し、十分乾燥させた。その後、フェムト秒レーザを用いて、ポリスチレン微粒子の数箇所を除去した(図4(a))。
基板6上の微粒子膜の硬度を高めるために、80℃にて1時間の加熱を行った。
次に、別の基板6を用意し、同様の周期性構造物の作製を行い、石英基板6上にポリスチレンの規則構造を作製した。
【0026】
作製した2つの周期性構造物の透過率を測定し、ストップバンドに起因するディップ波長をもとに構造物同士が平行になる位置を探し、重ねて固定した(図4(b))。周期性構造物を形成する各微粒子間にナノスケール(約10nm)のチタニア粒子を含む溶液を充填させ、乾燥させた。その後、500℃、5時間の加熱を加えることにより、ポリスチレン微粒子を除去した。その結果を図5に示す。ほぼ球形の空隙の周期構造を持ち、ナノスケールのチタニア粒子からなる周期性構造物を得た。
【0027】
図5に示す光学素子は、コロイド溶液の毛管力、微粒子の自己組織化を利用して微粒子からなる周期性構造物(微粒子膜)を作製した後、フェムト秒レーザにより所望のパターニングを行い、他の周期性構造物と組み合わせることにより、目的の位置に非周期構造(欠陥)を持つ周期構造体を作製したものである。作製された非周期構造物には光を局在させることも可能である。このような周期性構造物は応用範囲が広く、導波路や光フィルターなどのフォトニック結晶のほか、センサーとしての利用も可能である。
【0028】
(実施例4)
図6は、本発明の実施例4により作製された光学素子の模式図である。
本実施例4(請求項1,3〜5,9に対応)を実施することで、作製した光学素子が図6である。図6では、空隙周期構造の周期間隔や層数、基板6に加工された箇所の形状や大きさなどは実際に作製した構造物とは異なるが、簡単に模式的に示している。図6に示す光学素子は、シリカ微粒子の周期構造2つが組み合わさった構造を持つ光硬化型樹脂からなる。図6において、シリカ微粒子およびその空隙を埋める光硬化型樹脂からなる周期構造は、周期間隔300nm、層数約20層である。また、周期構造物内には、周期構造を持たない箇所が存在している。
【0029】
以下、図6の光学素子の作製方法を説明する。まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のシリカ微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml)を用意した。
石英基板6を、図2に示すように、水面がほぼ垂同になるように溶液に浸し、基板6の上部を固定した。数日程度そのまま放置し、溶液内の溶媒を乾燥させた。その後、基板6を取り出し、十分乾燥させた。この際に、基板6の表面にはシリカ微粒子による膜厚がほぼ一定の周期性構造物が形成された。基板6上の微粒子膜の硬度を高めるために600℃にて1時間の加熱を行った。
【0030】
次に、別の石英基板6を用いて、前と同様にシリカ微粒子からなる平担な規則構造を作製した。作製した2つの周期性構造物を、光学特性(反射スペクトル)を測定して組み合わせるのに適当な位置を探して、その後、スペーサーを介して固定した。この時点で、2つの周期性構造物の間には空隙が生じていないが、先に微粒子除去を行った箇所には空隙が生じている。その後、2つの周期性構造物間および各微粒子間の空隙にモノマーである光硬化型樹脂を流し込み、紫外線を照射し、重合により硬化させた。その結果、図3に示すようにシリカ微粒子、およびその間隔を埋める光硬化型樹脂の空隙からなる規則構造体を得た。
【0031】
図6に示す光学素子は、コロイド溶液の毛管力、微粒子の自己組織化を利用して微粒子からなる周期性構造物(微粒子膜)を作製した後、微粒子間を光硬化型樹脂により充填し、その後のシリカ除去により、空隙の周期構造を得たものである。1つのブロックの中に異なる2つの周期性構造を持つ構造物を作製するのは、通常は困難であるが、本発明による方法では、精度良く作製することができる。2つの異なる周期構造は、異なる波長の光の反射を可能にし、また、2つの周期性構造物間に形成された箇所に光を局在させることも可能である。
【0032】
このような周期性構造物は応用範囲が広く、導波路や光フィルターなどのフォトニック結晶のほか、気体・液体の透過量や吸着量の測定からセンサーとしての利用も可能である。
このような光学素子では、微粒子もしくは空隙と、その間を充填する材料との屈折率差を大きくするほど、効果は大きい。本実施例では、微粒子を除去する工程が含まれないため、他の実施例ほどの屈折率差はとれない。しかしながら、微粒子除去を行うことによる周期性の若干の乱れなどに関しては懸念する必要はない。
【0033】
以上、各実施例を説明したが、本発明はこれらの実施例に留まることなく、応用できることは言うまでもない。微粒子の種類は、同様の原理による作製が可能であるシリカ、ポリスチレン以外の粒子も選択することができる。微粒子径は、通常、数nmから数百nmのものが市販されているが、この値に限定されない。微粒子周期性構造物を作製するために使用する微粒子径を変えることにより、閉じ込める光の波長を選択することができる。
【0034】
微粒子周期性構造物の作製方法は、基板を水平に設置する、基板に加工を施すなど、他の作製方法による周期性構造物であってもよい。周期性構造物は基板間に作製して、一方の基板を取り外す場合と、最初から1枚の基板表面に作製する場合とがある。作製される周期性構造物、使用する基板等の大きさ等は限定されず、材質は請求項を満たす範囲で限定されない。周期性構造物作製時における溶液濃度、温度などは限定されない。周期性構造物の微粒子間にナノスケールの粒子を充填して固定化する場合には、チタニア粒子を含む溶液を使用する場合のほか、シリカ、硫化亜鉛など他の粒子の選択も可能である。なお、粉末状の固体を用いて固定化する場合もある。
【0035】
また、微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法では、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であるため、省資源・省エネルギーであり、環境面でも優れている。
トップダウン方式では、真空装置は真空ポンプ、ピータなども用いるので、電力を大量に長時間使用する上、材料が無短になる。一方、本発明などのようなボトムアップ手法では、基板を微粒子分散液に浸すことにより、微粒子が集積し、周期性構造物が形成されるので、作製に要するエネルギーが格段に小さく、プロセスそのものも省エネルギーになる。作製プロセスに用いる溶媒なども回収が容易であり、省資源かつ環境に優しい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1により作製された周期性構造物の正面図である。
【図2】本発明の各実施例に係る微粒子による周期性構造物の作製方法の概略図である。
【図3】本発明の実施例2により作製された周期性構造物(光学素子)の正面図である。
【図4】本発明の実施例3に係る周期性構造物作成方法の概略図である。
【図5】本発明の実施例3により作製された周期性構造物(光学素子)の正面図である。
【図6】本発明の実施例4により作製された周期性構造物(光学素子)の正面図である。
【符号の説明】
【0037】
1:光硬化型樹脂などの微粒子間充填材料
2:直径約300nmの空隙
3:直径約400nmの空隙
4:コロイド液
5:微粒子からなる周期性構造物
6:石英基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子Bと材料E、微粒子Dと材料Eの材質は互いに異なる場合に、
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Bを周期的に配列させることにより、第一の周期性構造物を作製する工程と、
(b)コロイド溶液を用いて、基板Cの上に微粒子Dを周期的に配列させることにより、第二の周期性構造物を作製する工程と、
(c)前記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を、互いに向かい合うように配置し、固定する工程と、
(d)前記第一の周期性構造物と上記第二の周期性構造物を基板が外側になるように配置し、固定する工程と、
(e)微粒子Bおよび微粒子Dの微粒子間、および周期性構造物間の空隙を材料Eにて充填する工程と、
(f)前記(e)の工程において充填された材料Eを固化もしくは固定化する工程と
を有することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の周期性構造物の作製方法において、
前記(f)の材料Eを固化もしくは固定化する工程の後に、以下の工程(g)を加えることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
(g)前記基板Aあるいは前記基板Cの少なくとも一方を除去する工程。
【請求項3】
請求項1または2に記載の周期性構造物の作製方法において、
前記(c)第一の周期性構造物と第二の周期性構造物を互いに向い合うように配置し、固定する工程は、前記周期性構造物の周期に起因する、特定波長域での反射率でのピークもしくは透過率でのディップの観測を利用することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の周期性構造物の作製方法において、
前記微粒子Bもしくは微粒子Dの少なくとも一方は、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、二酸化チタン、硫化亜鉛からなることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の周期性構造物の作製方法において、
前記材料Eは、モノマーからなることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の周期性構造物の作製方法において、
前記材料Eは、ナノスケールの微粒子を含む溶液からなり、溶媒の乾燥によりナノスケールの粒子を固定化することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の周期性構造物の作製方法において、
前記工程(g)にて使用する基板Aまたは基板Cの一方を最終的に除去する工程は、液相における化学反応による除去であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項8】
請求項2〜6のいずれかに記載の周期性構造物の作製方法において、
前記工程(g)にて使用する基板を最終的に除去する工程は、熱による除去であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の作製方法により作製された周期性構造物を用いた光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−243452(P2006−243452A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60253(P2005−60253)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】