説明

周波数ホッピング送信機

【課題】 周波数ホッピング送信機の全体を区分して、電力増幅部の増幅率と、フィルタ回路の損失量とを個別に算出し、自動的に送信出力を一定に保つことができる周波数ホッピング送信機を提供する。
【解決手段】 この発明の周波数ホッピング送信機100の制御部46は、検波器36,42が検出した出力に基づいて、各ホッピング周波数に対応する電力増幅部35の増幅率およびフィルタ回路41の損失量を自動的に算出し、算出した増幅率および損失量に基づいて、フィルタ回路から規定送信出力の送信が行われるように、送信部の出力を自動的に設定するので、フィルタ回路からは規定送信出力が自動的に送信される。したがって、周波数ホッピング送信機の全体が適切に区分され、多大な労力を費やすことなく送信出力を自動的に一定に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数ホッピング送信機に関し、特に、シンセサイザからのホッピング周波数を利用してIF信号をRF信号に周波数変換し、APCで制御された送信信号を出力する送信部と、送信信号を増幅する電力増幅部と、電力増幅部の出力を濾波して空中線から送信するフィルタ回路とを有する周波数ホッピング送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、この種の周波数ホッピング送信機の従来例を示すブロック図である。この周波数ホッピング送信機200は、ベースバンド部10と、IF部20と、RF部50と、空中線60とから構成されている。また、RF部50は、シンセサイザ31と、D/Aコンバータ32,33と、送受信部34と、電力増幅部35と、スイッチ40と、フィルタ回路41と、検波器42と、A/Dコンバータ43と、記憶部44と、I/O部45と、制御部56とから構成されている。
【0003】
RF部50において、送受信部34は、制御部56の制御の下で、シンセサイザ31からのホッピング周波数を利用してIF部20からの信号をRF信号に周波数変換する。送受信部34の出力FP1は電力増幅部35で電力増幅されて出力FP2となり、スイッチ40を介してフィルタ回路41に与えられる。フィルタ回路41は、与えられた出力FP2を濾波し、帯域制限を加えて送信出力FP3として空中線60から送信する。この場合、周波数ホッピング送信機200は、高速度であることを要求されために、送信出力レベルを設定するためのデータを予め記憶部44に記憶するなどしておく。そしてこのデータを用いて送信出力を一定に保つようにしている。
【0004】
なお、周波数ホッピング送信機において、APC(Automatic Power Control)を用いることによってフィルタ回路の周波数による偏差を無くし、一定の送信出力を得るという技術が下記の特許文献1開示されている。また、同様な目的で、デジタルアテニュエータを用いる技術が下記の特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平5−22161号公報 (第2―3頁、第1図、第2図)
【特許文献2】特開平9−139694号公報 (第3―5頁、第1−8図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術による周波数ホッピング送信機においては全体の系を組んで必要なデータを作成することや扱う周波数が広帯域になるために、データを作成するのに多大な労力を要する。また、個々の周波数ホッピング送信機の間に個体差が存在する場合には、人手を用いて別々にデータを取得しなければならず、この場合にも多大な労力を要することとなる。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、周波数ホッピング送信機の全体を区分して、各ホッピング周波数における変動要素となる電力増幅部の増幅率と、フィルタ回路の損失量とを個別に自動的に算出でき、算出の結果に基づいて自動的に送信出力を一定に保つことができる周波数ホッピング送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、シンセサイザからのホッピング周波数を利用してIF信号をRF信号に周波数変換し、APCで制御された送信信号を出力する送信部と、送信信号を増幅する電力増幅部と、電力増幅部の出力を濾波して空中線から送信するフィルタ回路とを有する周波数ホッピング送信機において、電力増幅部の出力を検出する第1の出力検出部と、フィルタ回路の出力を検出する第2の出力検出部と、第1,第2の出力検出部が検出した出力に基づいて、各ホッピング周波数に対応する電力増幅部の増幅率およびフィルタ回路の損失量を自動的に算出し、算出した増幅率および損失量に基づいて、フィルタ回路から規定送信出力の送信が行われるように、送信部の出力を自動的に設定する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
上述したように構成されているので、この発明の周波数ホッピング送信機の制御部は、第1,第2の出力検出部が検出した出力に基づいて、各ホッピング周波数に対応する電力増幅部の増幅率およびフィルタ回路の損失量を自動的に算出し、算出した増幅率および損失量に基づいて、フィルタ回路から規定送信出力の送信が行われるように、送信部の出力を自動的に設定するので、フィルタ回路からは規定送信出力が自動的に送信される。したがって、周波数ホッピング送信機の全体が適切に区分され、多大な労力を費やすことなく送信出力を一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の周波数ホッピング送信機の実施の形態を示すブロック図、図2は、図1の制御部の送信出力指示値に対する送受信部の送信出力を示すグラフ、図3は、図1の電力増幅部の入出力関係を示すグラフ、図4は、図1のフィルタ回路の損失量の算出を説明するためのグラフ、図5は、図1の電力増幅部の出力と、フィルタ回路の出力との関係を説明するためのグラフ、図6は、フィルタ回路の損失電圧と、APC補正電圧の関係を説明するためのグラフ、図7は、送信信号の経路に利得変動が生じた場合の制御部の動作を説明するためのグラフである。なお、図1の周波数ホッピング送信機は、受信の機能部分も含んでいるが、この発明は送信に関するものなので、特別に記載しない限り、以降では送信に関する機能についてのみ説明する。
【0010】
図1で示される周波数ホッピング送信機100は、ベースバンド部10と、IF部20と、RF部30と、空中線60とから構成されている。また、RF部30は、シンセサイザ31と、D/Aコンバータ32,33と、送受信部34と、電力増幅部35と、検波器36,42と、A/Dコンバータ37,43と、スイッチ40と、フィルタ回路41と、記憶部44と、I/O部45と、制御部46とから構成されている。
【0011】
RF部30の送受信部34は、シンセサイザ31からのホッピング周波数を利用してIF部20からの信号をRF信号に周波数変換する。この場合の送受信部34の出力レベルFP1は、制御部46からD/Aコンバータ32を介して与えられる送信出力指示値FSAに基づいて図2に示されるように決定される。送受信部34の出力FP1は図3に示されるように電力増幅部35で電力増幅されて出力FP2となり、スイッチ40の端子a,cを介してフィルタ回路41に与えられる。スイッチ40は、端子a,bとフィルタ回路41に接続された共通端子cとを有し、送信機能を働かす場合、共通端子cは端子aに接続される。この場合、送受信部34の出力FP1の範囲(W1〜W2=電力増幅部35の入力範囲)で電力増幅部35の出力FP2が図3のように線形に変化する(多くの場合は、このように看做すことが適当であろう)のであれば、電力増幅部35の増幅率MAは、各ホッピング周波数に関して変化せず、一定の増幅率MCであるとしてもよい。
【0012】
上述の場合、電力増幅部35の出力FP2は、検波器36により検波され、A/Dコンバータ37によってA/D変換されて制御部46に与えられる。これにより、制御部46は、電力増幅部35の出力FP2の出力レベルを知ることができる。フィルタ回路41は、スイッチ40を介して与えられた出力FP2を濾波し、出力FP3として空中線60より送信する。この場合、フィルタ回路41の送信出力FP3は、検波器42によって検波され、A/Dコンバータ43によってA/D変換されて制御部46に与えられる。これにより、制御部46は、フィルタ回路41の送信出力FP3の出力レベルを知ることができる。
【0013】
制御部46は、シンセサイザ31を介して送受信部34の送信のためのホッピング周波数を順次に変更するとともに、そのホッピング周波数に対応する送信出力FP1を指示する送信出力指示値FSAをD/Aコンバータ32を介して送受信部34に与える。したがって、送受信部34は、指示されたホッピング周波数を用い、指示された送信出力指示値FSAに基づいて送信出力FP1を出力する。この場合、図2に示されるように、送受信部34は、APC(Automatic Power Control)機能によって、送信出力指示値FSAに対応する送信出力FP1を出力する。
【0014】
制御部46は、検波器36およびA/Dコンバータ37を介して電力増幅部35の出力FP2を、検波器42およびA/Dコンバータ43を介してフィルタ回路41の出力FP3をそれぞれ検出するので、既知の出力FP1と検出した出力FP2との差分(FP2−FP1)から、各ホッピング周波数における電力増幅部35の増幅率MAを算出できる。また、制御部46は、検出した出力FP3と出力FP2との差分(FP2−FP3)から、各ホッピング周波数におけるフィルタ回路41の損失量LS(減衰量)を図4に示されるように算出できる。
【0015】
そこで、上述のように、各ホッピング周波数毎に算出できた電力増幅部35の増幅率MAおよびフィルタ回路41の損失量LSを実際の送信が行われる前に、記憶部44に記憶する。このように記憶した増幅率MAおよび損失量LSを用いて、各ホッピング周波数において、フィルタ回路41から出力される送信出力FP3を例えば、規定の送信出力GP3に設定することは、以下に述べるように確実に行うことができる。
【0016】
すなわち、フィルタ回路41の送信出力FP3を規定送信出力GP3にするためには、図5に示すように、電力増幅部35の出力GP2を(GP3+LS)にする必要がある。電力増幅部35の出力GP2を(GP3+LS)にするには、電力増幅部35が増幅率MAを有するので、電力増幅部35の入力、すなわち、送受信器34の送信出力GP1を(GP3+LS)/MAとなるようにしなければならない。そこで、制御部46は、送受信部34に対して送信出力GP1を(GP3+LS)/MAとする送信出力指示値FSBを算出し、記憶部44に記憶する。
【0017】
上述の制御部46の送信時の動作について更に説明すれば、制御部46は、シンセサイザ31に対して指示するホッピング周波数毎に、記憶部44から読み出した送信出力指示値FSBをD/Aコンバータ32を介して送受信部34に与える。送受信部34は、与えられた送信出力指示値FSBに対応する送信出力(GP3+LS)/MAを出力する。この送信出力(GP3+LS)/MAを電力増幅部35は増幅率MAで増幅し、送信出力(GP3+LS)を出力する。この送信出力(GP3+LS)がフィルタ回路41を通過すると、フィルタ回路41が損失量LSを有するので、フィルタ回路41からの出力は、{(GP3+LS)−LS}となり、規定出力GP3を送信することとなる。
【0018】
上述の場合、電力増幅部35の増幅率MAが図3に示されるように、その動作範囲W1〜W2において、各ホッピング周波数における送受信部34の出力FP1に関し、同一の増幅率MCを有すると看做される場合には、上述の増幅率MAに代えて各ホッピング周波数に対応して一定な増幅率MCを記憶部44に記憶しておいて、各FP1にその増幅率MCを適用すればよい。また、フィルタ回路41による損失電圧と、それを補償する送受信回路41のAPC補正電圧との対応を予め記憶しておけば、図6に示されるように、制御部46は、フィルタ回路41による損失電圧に基づき、APC補正電圧を指示できる。
【0019】
電力増幅部35あるいはフィルタ回路41などの構成部品が交換などされ、設定しておいた規定送信電力GP3に変動が発生した場合について図7を参照して説明する。例えば、APC設定電圧として、送信出力指示値FSBが送受信部34に与えられ、理想の変化直線CAに従って、フィルタ回路41から出力GP3が出力されている。その場合に、変化直線CAが変化直線CBに変化してしまったとすると、フィルタ回路41からの出力GP3は、変動分ΔGだけ増大して出力HP3となってしまう。この変化を認識した制御部46は、送信出力指示値FSBを送信出力指示値FSCに変える。そこで、フィルタ回路41からの出力HP3は、変動分ΔGだけ減少して再び出力GP3となり補正される。
【0020】
上述したように、制御部46は、検波器36およびA/Dコンバータ37を介して電力増幅部35の出力を、検波器42およびA/Dコンバータ43を介してフィルタ回路41の出力をそれぞれ検出し、電力増幅部35の増幅率MAおよびフィルタ回路41の損失量LSを算出し、適切な送信出力指示値FSAを設定し、これらを記憶部44に記憶することにより、フィルタ回路41を経て空中線から送信する送信出力を自動的に一定に保つことができる。したがって、これらの機能を設定するのに多大な労力を要しない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の周波数ホッピング送信機の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1の制御部の送信出力指示値に対する送受信部の送信出力を示すグラフである。
【図3】図1の電力増幅部の入出力関係を示すグラフである。
【図4】図1のフィルタ回路の損失量の算出を説明するためのグラフである。
【図5】図1の電力増幅部の出力と、フィルタ回路の出力との関係を説明するためのグラフである。
【図6】フィルタ回路の損失電圧と、APC補正電圧の関係を説明するためのグラフである。
【図7】送信信号の経路に利得変動が生じた場合の制御部の動作を説明するためのグラフである。
【図8】周波数ホッピング送信機の従来例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0022】
10 ベースバンド部、20 IF部、30,50 RF部、31 シンセサイザ、32,33 D/Aコンバータ、34 送受信部、35 電力増幅部、36,42 検波器、37,43 A/Dコンバータ、40 スイッチ、41 フィルタ回路、44 記憶部、45 I/O部、46 制御部、60 空中線、100 周波数ホッピング送信機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンセサイザからのホッピング周波数を利用してIF信号をRF信号に周波数変換し、APCで制御された送信信号を出力する送信部と、送信信号を増幅する電力増幅部と、電力増幅部の出力を濾波して空中線から規定送信出力の送信信号を送信するフィルタ回路とを有する周波数ホッピング送信機において、
電力増幅部の出力を検出する第1の出力検出部と、
フィルタ回路の出力を検出する第2の出力検出部と、
第1,第2の出力検出部が検出した出力に基づいて、各ホッピング周波数に対応する電力増幅部の増幅率およびフィルタ回路の損失量を自動的に算出し、算出した増幅率および損失量に基づいて、フィルタ回路から規定送信出力の送信が行われるように、送信部の出力を自動的に設定する制御部とを有することを特徴とする周波数ホッピング送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−25271(P2006−25271A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202598(P2004−202598)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】