説明

周波数掃引回路

【課題】簡易な構成で高速な周波数遷移が可能な周波数掃引回路を提供する。
【解決手段】周波数を変調する周波数掃引回路であって、単一の周波数を発振する単一周波数発振器10と、時間的に変化する操作信号を入力し、当該操作信号に従って位相回転量を変化させることにより、前記単一の周波数を変調させる可変位相器20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作信号に従って基準周波数を変調させる周波数掃引回路に関する。
【背景技術】
【0002】
FM−CWレーダーは、対象物との距離測定を行うレーダーの一種であり、気象変動の測定や障害物測定などに用いられる。FW−CWレーダーは、のこぎり歯状波で周波数変調した送信波を発射し、ターゲットによって散乱してきた受信波を送信波の一部と合成することによってターゲットまでの距離に比例した周波数を得ることができる(非特許文献1参照)。よってFM−CWレーダーを実現するにあたっては、のこぎり歯状波の周波数変調信号を発生可能な周波数掃引回路が必要となる。
【0003】
周波数掃引回路として最もよく用いられる手法がVCO(Voltage Controlled Oscillator)を用いる手法である。VCOとは、発振する周波数を印加電圧によって制御可能な発振器であり、印加電圧を適切に変化させることにより、のこぎり歯状波に周波数が変化する信号を発射させることが可能である。VCOは、共振回路の共振条件を電圧によって変化させることによって発振周波数が可変となるが、温度などの条件によって共振周波数が変化し易いことから、PLL(Phase locked loop)を併用することが多い。
【0004】
図4に、PLLを使用した周波数発振器を示す。PLLとは、水晶振動子から発振される高精度な基準信号と、VCOの出力信号とを位相比較器で比較して、フィードバックをかけることによりVCOの発振周波数を高精度化する技術である。
【0005】
PLLを使用した周波数掃引回路については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電子情報通信学会 編「アンテナ工学ハンドブック」、オーム社
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−150856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PLLを使用するVCOでは、水晶振動子の発振信号との比較を行うために、周波数変化に要する時間が長い。その結果、周波数掃引の時間が長くなるという問題がある。周波数掃引の時間が長くなると、FM−CWレーダーの最大測定距離が不必要に増大し、周波数掃引幅の使用効率が劣化する。以下にこの問題の一例を挙げる。
【0009】
必要な最大測定距離が1.5kmで周波数の最大遷移幅が100MHzの場合を考える。この場合、10マイクロ秒を周波数掃引の繰り返し時間とすれば、ターゲットまでの距離が0〜1.5kmの時の受信波の合成周波数が0 〜100MHzとなり、周波数遷移幅全てを使用した距離測定が可能である。しかしながらVCOによる周波数掃引時間の制限により、1ミリ秒を周波数掃引の繰り返し時間とした場合、ターゲットまでの距離が0〜1.5kmの時の受信波の合成周波数が0 〜1MHzとなり、周波数遷移幅の99%にあたる1MHz〜100MHzの周波数範囲を使用しないことになる。
【0010】
周波数掃引速度を向上させるため、PLLを用いない手法が考えられるが、その場合、気温などによる周波数シフトが大きいため、使用を許可された周波数帯外に信号を発信してしまう恐れがある。
【0011】
このような問題に対して、特許文献1では、PLLに加えてメモリ回路を用いることによって高速・高精度な周波数変調を可能とする周波数掃引発振回路を提案している。しかしながら、特許文献1の構成においては、PLLの構成に加え、メモリ回路、CPUなどが必要となり、回路規模および作製コストが増大するという問題がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡易な構成で高速な周波数遷移が可能な周波数掃引回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、第1の本発明は、周波数を変調する周波数掃引回路であって、単一の周波数を発振する単一周波数発振器と、時間的に変化する操作信号を入力し、当該操作信号に従って位相回転量を変化させることにより、前記単一の周波数を変調させる可変位相器と、を有することを要旨とする。
【0014】
また、第2の本発明は、前記第1の本発明において、前記入力される操作信号は、時間に対する所定の1次関数で表される電圧であって、前記可変位相器は、前記入力される電圧に対し、所定の2次関数に従って変化させた位相回転量で、前記単一の周波数を変調させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な構成で高速な周波数遷移が可能な周波数掃引回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る周波数掃引回路の構成図である。
【図2】可変位相器の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る周波数掃引回路の構成図である。
【図4】PLLを使用した周波数発振回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る周波数掃引回路を示す図である。
【0018】
本実施形態の周波数掃引回路は、単一周波数発振器10と、外部からの操作信号によって内部の実効的な電気長を変化させる可変位相器20とを有する。可変位相器20を通過時の位相回転量を変化させることによって、単一周波数発振器10から入力される単一の周波数を変調する点が特徴である。
【0019】
なお、可変位相器20に入力される操作信号は、時間とともに変化する操作信号であって、当該周波数掃引回路を適用する装置が所望する周波数変調を行うために適切な操作信号である。例えば、周波数掃引回路をFM−CWレーダーに適用する場合、FM−CWレーダーが要求する所定の周波数掃引幅ののこぎり波状の周波数変調を行うために、周期的に時間変化する適切な操作信号を入力する。
【0020】
以下に本実施形態の動作原理を説明する。
【0021】
単一周波数発振器10から発生した周波数f0の信号の位相について、可変位相器20に入力時を2πf0t、出力時をθ(t)とすると、それらの関係は下記の式1で記述することができる。
【数1】

【0022】
ここでGは、可変位相器20で発生する位相回転量であり、可変位相器20の電気長が変化しない場合は定数となる。さらに式1の両辺の時間微分を取って、可変位相器20の出力における角周波数ω1を求めると、下記の式2となる。
【数2】

【0023】
このように時間変化する操作信号によって可変位相器20の電気長を変化させ、位相回転量を変化、即ち位相回転量Gを時間変化させることによって、周波数を変化させることができる。
【0024】
本実施形態の周波数掃引回路においては、基本周波数であるf0の発生源には単一周波数発振器10を使用することができる。そのため、本実施形態では、VCOとその制御回路を必要とせず、周波数掃引回路を安価に製造可能である。すなわち、本実施形態では、簡易な構成で周波数遷移が可能な周波数掃引回路を提供することができる。
【0025】
また、本実施形態による周波数遷移の周期は、位相回転量Gの変化速度に依存するため、例えば高速動作が可能な半導体回路による可変位相器20を用いた場合、高速での周波数変調が可能である。可変位相器20としては、例えば、導波管及び同軸線路などの導波路の長さを物理的に変化させるものや、可変接地容量を配した伝送線路を設計し、容量を変化させることによって、実効的な電気長を変化させる手法などが挙げられる。しかしながら本発明はこれらに限定されず、掃引したい周波数の信号が通過可能であり、所望の位相範囲が変化可能な可変位相器であれば何でも良い。
【0026】
なお、本実施形態の周波数掃引回路から出力される周波数変調信号は、例えば、FM−CWレーダーの送信波の変調、または分光などに適用することができる。
【0027】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態に係る周波数掃引回路を示す図である。
【0028】
本実施形態は、入力されるコントロール電圧に対し位相回転量Δθが下記式3の2次関数で記述できる可変位相器20Aを使用している点において第1の実施形態と異なり、FM−CWレーダーなどへの適用がより容易となる。
【数3】

【0029】
ここでα及びβは、位相回転量Δθが印加電圧Vの2次関数として記述される際の所定の係数と定数である。このα及びβは、設計者の任意で設定可能である。
【0030】
第1の実施形態においては、FM−CWレーダーが所望するのこぎり歯状の周波数変調を行うためには、適切な操作信号を可変位相器20に入力する必要がある。例えば、操作信号として電圧を使用する場合、複雑な時間変化の操作信号(電圧)を発生させる信号発生器を作製する必要がある。
【0031】
本実施形態では、入力される電圧に対し、式3に従って位相回転量を変化させる可変位相器20Aを使用することによって、単純な時間変化の操作信号(電圧)でものこぎり波状の周波数変調が可能となる。以下に本実施形態の動作を説明する。
【0032】
本発明の可変位相器20Aに印加するコントロール電圧を、以下の式4とする。
【数4】

【0033】
ここでγ及びηは、電圧Vが時間の1次関数として記述される際の所定の係数と定数であり、設計者の任意で設定可能である。式3および式4を式2に代入すると、下記の式5となる。
【数5】

【0034】
すなわち、可変位相器20Aから出力される周波数f(t)は、以下の式6となり、時間に対する所定の1次関数で記述することができる。
【数6】

【0035】
すなわち本実施形態の構成を用いて、時間に対する所定の1次関数で表される電圧を印加することによって、可変位相器20Aから出力される周波数も1次関数で変化させることができる。このような本実施形態で用いる電圧の電圧源は、例えばのこぎり波を発生させる電圧源を用いても良いし、可変抵抗を使った電源回路を構成しても容易に実現可能である。
【0036】
図3は、本実施形態の可変位相器20Aの一例を示す構成図である。図示する可変位相器20Aは、少なくとも1つの伝送線路22と、少なくとも1つの電界効果トランジスタ(FET)23とから構成される位相器と、当該位相器にコントロール電圧を印加するための電圧回路21とを有する。位相器は、電界効果トランジスタ23の寄生容量であるゲート−ドレイン間容量と、ゲート−ソース間容量とを、電界効果トランジスタ23のゲートに印加する電圧によって変化させることにより、位相回転量を調整することが可能である。
【0037】
位相の可変量は、本可変位相器20Aにおいて接続されている電界効果トランジスタ23の数で調整できるため、設計者が任意に設計可能である。また、高速動作が可能な電界効果トランジスタ23を用いることによって、コントロール電圧の急激な変化に対しても十分な応答性で位相回転量を変化させることができる。
【0038】
以上説明した本実施形態では、第1の実施形態と同様に、基本周波数であるf0の発生源には単一周波数発振器10を使用することができため、VCOとその制御回路を必要とせず、周波数掃引回路を安価に製造可能である。すなわち、本実施形態では、簡易な構成で高速な周波数遷移が可能な周波数掃引回路を提供することができる。
【0039】
また、本実施形態の周波数掃引回路から出力される周波数変調信号は、第1の実施形態と同様に、例えば、FM−CWレーダーの送信波の変調、または分光などに適用することができる。
【0040】
なお、本実施形態において、可変位相器20Aは、位相回転量が電圧の2次関数に従って変化するものであるが、厳密な2次関数でなくてもよく、近似できれば良い。さらに、所定の電圧範囲に限定して成り立つ2次関数の近似でも実施可能である。
【0041】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 単一周波数発振器
20 可変位相器
20A 可変位相器
21 電圧回路
22 伝送線路
23 電界効果トランジスタ(FET)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数を変調する周波数掃引回路であって、
単一の周波数を発振する単一周波数発振器と、
時間的に変化する操作信号を入力し、当該操作信号に従って位相回転量を変化させることにより、前記単一の周波数を変調させる可変位相器と、を有すること
を特徴とする周波数掃引回路。
【請求項2】
請求項1記載の周波数掃引回路であって、
前記入力される操作信号は、時間に対する所定の1次関数で表される電圧であって、
前記可変位相器は、前記入力される電圧に対し、所定の2次関数に従って変化させた位相回転量で、前記単一の周波数を変調させること
を特徴とする周波数掃引回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147005(P2011−147005A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7123(P2010−7123)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】