説明

周波数解析装置

【課題】除算を不要として演算時間を短縮した周波数解析装置を得る。
【解決手段】離散化された解析対象信号に窓関数を乗算して所定の周波数間隔で離散的に周波数解析する手段と、周波数解析されたスペクトラムに基づき真のピーク周波数fを算出する演算手段とを備える。演算手段は、周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数を抽出する手段S101と、ピーク周波数およびピーク周波数に隣接する周波数を用いて真のピーク周波数を求める真のピーク演算手段とを含む。真のピーク演算手段は、離散周波数の間を複数の区間に区切り、ピーク周波数の振幅aと、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅amaxとに対し、各区切り位置に応じた個別の係数を乗算した各値の大小を比較し(S105、S107)、真のピーク周波数fが複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周波数変調レーダ装置などに適用可能な周波数解析装置に関し、特に、解析対象信号を周波数解析してピーク周波数を決定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、周波数解析装置においては、離散化された観測信号に対して周波数変換を行い、ピーク周波数を決定するために、離散フーリエ変換や高速フーリエ変換(FFT)を用いる方法が一般的に知られている。
この場合、ピーク周波数の分解能は、観測時間の逆数に制限されてしまうので、ピーク周波数の精度の向上を図る技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は上記特許文献1に記載の従来の周波数解析装置による処理動作を示すフローチャートである。また、図8は窓関数を施した場合の離散スペクトラムの様子を示す説明図である。
図7において、まず、サンプリングされた観測信号を取り込み(ステップS401)、以下の式(1)に示すハニング(von Hann)窓関数Whan(t)を乗算する(ステップS402)。
【0004】
【数1】

【0005】
式(1)において、Tは観測時間である。
続いて、FFT演算を実行し(ステップS403)、図8に示すような離散スペクトラムを取得する。
【0006】
図8において、横軸は周波数[×1/T](Tは観測時間)、縦軸は振幅を示しており、fはピーク信号(離散スペクトラムにおいて極大である信号)の周波数、aはピーク信号の振幅である。
また、fn−1、fn+1は、ピーク信号の両側に隣接する信号の周波数であり、an−1、an+1は、ピーク信号の両側に隣接する信号の振幅である。
【0007】
さらに、fは真のピーク周波数、aは真のピーク振幅であり、δ[×1/T]はピーク信号の周波数(ピーク周波数)fと、真のピーク周波数fとの差である。
なお、言うまでもないが、FFT演算により得られる離散スペクトラムは、図8に示すように、ピーク信号がハニング窓の連続スペクトラムを包絡線とする形状(○印)に広がる。
【0008】
図7に戻り、次に、FFT演算(ステップS403)により得られた離散スペクトラムからピーク信号を探索し、ピーク値として、ピーク信号の周波数fおよび振幅a(図8参照)を得る(ステップS404)。
【0009】
続いて、ピーク信号の両隣の信号を抽出し、両隣の信号について各振幅an−1、an+1を取得する(ステップS405)。すなわち、ピーク信号よりも離散的周波数が1つ小さい信号の振幅an−1と、ピーク信号よりも離散的周波数が1つ大きい信号の振幅an+1とを得る。
【0010】
ここで、各離散スペクトラムは、特許文献1に示されるように、真のピーク周波数fからの周波数ズレ量δに応じて、真のピークの振幅aに、以下の式(2)に示す係数Ahan(δ)を乗算した大きさとなる。
【0011】
【数2】

【0012】
次に、式(2)の性質に基づき、各振幅an−1、an+1の大小関係に応じて、周波数ズレ量δを、以下の式(3)にて算出する(ステップS406、S407、S408)。
【0013】
【数3】

【0014】
最後に、以上のように算出された周波数ズレ量δと、ステップS404で探索されたピーク周波数fとから、以下の式(4)を用いて、真のピーク周波数fを算出する(ステップS409)。
【0015】
【数4】

【0016】
すなわち、従来の周波数解析装置による上記技術においては、周波数ズレ量δの算出の際に、式(3)のように除算を用いているので、多くの演算時間が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2008−76152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来の周波数解析装置では、周波数ズレ量の算出に除算を用いているので、多くの演算時間が必要になるという課題があった。
【0019】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、演算時間を短縮した周波数解析装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明に係る周波数解析装置は、離散化された解析対象信号に所定の窓関数を乗算する窓関数乗算手段と、窓関数を乗算した信号を所定の周波数間隔で離散的に周波数解析する周波数解析手段と、周波数解析されたスペクトラムに基づき真のピーク周波数を算出する演算手段とを備えた周波数解析装置において、演算手段は、周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数を抽出するピーク抽出手段と、ピーク周波数およびピーク周波数に隣接する周波数を用いて真のピーク周波数を求める真のピーク演算手段とを備え、真のピーク演算手段は、周波数解析手段における離散周波数の間を複数の区間に区切り、ピーク周波数の振幅と、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅とに対し、それぞれ、複数の区間の各区切り位置に応じた個別の係数を乗算した各値の大小を比較することにより、真のピーク周波数が複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定するものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、ピーク周波数の振幅と、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅とに対し、乗算のみを用いた値の比較結果に基づき周波数ズレ量の絶対値を求めることにより、除算を行わずに真のピーク周波数を決定することができるので、演算時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1〜3に係る周波数解析装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1による演算装置の具体的処理を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1による演算装置においてハニング窓関数を用いた場合のレベル比の様子を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2による演算装置の具体的処理を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態3による演算装置の具体的処理を示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態3による演算装置においてハミング窓関数を用いた場合のレベル比の様子を示す説明図である。
【図7】従来の周波数解析装置による処理動作を示すフローチャートである。
【図8】一般的な離散スペクトラムの様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る周波数解析装置の概略構成を示すブロック図である。また、図2は実施の形態1による演算装置4の処理を示すフローチャートである。
図1において、周波数解析装置は、観測信号1をデジタル信号に変換するAD変換器2と、デジタル信号に基づきFFT演算を行うFFT演算器3と、FFT演算結果に基づき真のピーク周波数の存在区間を決定する演算装置4とを備えている。
【0024】
FFT演算器3は、窓関数乗算手段および周波数解析手段を構成している。
FFT演算器3内の窓関数乗算手段は、離散化された解析対象信号に所定の窓関数(ハニング窓関数)を乗算する。また、FFT演算器3内の周波数解析手段は、窓関数を乗算した信号を所定の周波数間隔(1/T間隔)で離散的に周波数解析する。
【0025】
演算装置4は、FFT演算器3によって周波数解析されたスペクトラムに基づき、真のピーク周波数fを算出する演算手段を構成している。
演算装置4は、周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数fを抽出するピーク抽出手段と、ピーク周波数fおよびピーク周波数に隣接する周波数fn−1、fn+1を用いて真のピーク周波数fを求める真のピーク演算手段とを備えている。
【0026】
演算装置4内の真のピーク演算手段は、周波数解析手段における離散周波数の間を複数の区間に区切り、ピーク周波数fの振幅aと、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅amaxとに対し、それぞれ、複数の区間の各区切り位置に応じた個別の係数を乗算した各値の大小を比較することにより、真のピーク周波数fが複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定する。
【0027】
なお、複数の区間は、等間隔に区切られることが望ましい。
また、複数の区間は、周波数解析精度の低下を抑制するために、ピーク周波数fを含む区間に隣接した3つ以上の区間に区切られていることが望ましい。
【0028】
観測信号1は、まず、AD変換器2を介して、離散化されたデジタル信号に変換され、FFT演算器3に入力される。ここでは、観測サンプル数として、たとえば512点分のサンプルが入力されるものとする。
【0029】
FFT演算器3は、離散化されたデジタル信号に対し、前述の式(1)に示すハニング窓関数Whan(t)を乗算した後、FFT演算により離散スペクトラムを算出し、得られた離散スペクトラムを演算装置4に入力する。
以下、演算装置4は、離散スペクトラムに基づき図2の演算処理を行い、真のピーク周波数が存在する区間を決定する。
【0030】
図2において、ステップS101、S102は、前述(図7)のステップS404、S405と同様の処理である。
演算装置4は、まず、離散スペクトラムからピーク信号を探索し、ピーク信号の周波数fおよび振幅aを取得する(ステップS101)。
続いて、ピーク信号の両隣の信号を抽出し、両隣の信号について各振幅an−1、an+1を取得する(ステップS102)。
【0031】
このとき、前述(図8)のように、振幅an−1は、ピーク信号よりも離散的周波数が1つ小さい信号の振幅であり、振幅an+1は、ピーク信号よりも離散的周波数が1つ大きい信号の振幅である。また、真のピーク周波数fおよびピーク周波数fが「f≧f」の関係を満たす場合には、an+1≧an−1となり、「f<f」の関係を満たす場合には、an+1<an−1となることは、図8から自明である。
【0032】
以下、演算装置4は、ピーク信号の振幅aと隣接する信号の各振幅an−1、an+1との関係に基づき、除算演算を使用することなく、離散スペクトラムにおけるピーク周波数fと真のピーク周波数fとの周波数ズレ量δ[×1/T]の絶対値dを算出する。
なお、周波数ズレ量の絶対値d(=|δ|)は、図3とともに後述するように、除算を用いずに比較処理に基づくので、連続的な値ではなく、0、1/4、1/2の値に設定される。
【0033】
まず、雑音の影響をより受けにくくするために、隣接する信号のうち小さくない方の信号の振幅amaxを、以下の式(5)のように求める(ステップS103)。
【0034】
【数5】

【0035】
式(5)において、max(an+1,an−1)は、両隣信号の各振幅an+1、an−1のうちの小さくない方(an+1=an−1の場合は、任意の一方)を表す。
ここで、ハニング窓関数を用いた場合の、離散スペクトラムの振幅分布を示す前述の式(2)に基づき、ピーク信号の振幅aと式(5)により求めた振幅amaxとのレベル比「a/amax」を求めると、以下の式(6)のように表される。
【0036】
【数6】

【0037】
式(6)において、周波数ズレ量δとしては、−1/2≦δ≦1/2の範囲内のみの値を考えるものとする。なぜなら、|δ|>1/2の場合は、ピーク周波数が隣の周波数に存在することを表すので、除外可能と見なせるからである。
【0038】
図3は式(6)から求まるレベル比「a/amax」を示す説明図であり、横軸は周波数ズレ量δ、縦軸はレベル比である。
図3から明らかなように、|δ|≦1/2の範囲内においては、周波数ズレ量δの符号(正負)が決まれば、レベル比「a/amax」と周波数ズレ量δとが1対1の関係となっているので、レベル比「a/amax」の大きさから、周波数ズレ量δを見積もることが可能なことが分かる。
【0039】
ここで、演算装置4は、周波数を1/(4×T)ごとに(たとえば、図8内のf〜fn+1を単位区間として)区切り、真のピーク周波数fがいずれの区間に存在するかを決定する。
【0040】
つまり、図3において、レベル比が5/3以上の区間では、周波数ズレ量の絶対値|δ|=0と決定し、レベル比が5/3未満で13/11以上の区間では|δ|=1/4と決定し、レベル比が13/11未満の区間では|δ|=1/2と決定する。
【0041】
まず、周波数ズレ量δの絶対値d(=|δ|)を定義すると、図3から明らかなように、以下の式(7)を満たしていれば、d≦1/8であり、周波数の単位を1/4としていることから、d=0に決定可能なことが分かる。
【0042】
【数7】

【0043】
ただし、レベル比「a/amax」を直接計算しようとすると、前述のように、多大な演算時間を要する除算を行う必要がある。
そこで、演算装置4は、除算演算を排除して、以下の式(8)(式(7)と同義)を満たすか否かの比較処理を行う(ステップS105)。
【0044】
【数8】

【0045】
演算装置4は、ステップS105において、式(8)を満たす(すなわち、YES)と判定されれば、d=0に決定し(ステップS106)、式(8)を満たしていない(すなわち、NO)と判定されれば、次の比較処理(ステップS107)に移行する。
【0046】
ステップS107において、演算装置4は、次の区間での演算からも除算を排除するために、レベル比「a/amax」が13/11以上であるか否かを判定する代わりに、以下の式(9)による比較処理を行う(ステップS107)。
【0047】
【数9】

【0048】
演算装置4は、ステップS107において、式(9)を満たす(すなわち、YES)と判定されれば、d=1/4に決定し(ステップS108)、式(9)を満たしていない(すなわち、NO)と判定されれば、d=1/2に決定する(ステップS109)。
【0049】
次に、真のピーク周波数fを決定するために、まず、ピーク信号の両隣の振幅an+1、an−1の大きさを比較し、真のピーク周波数fがピーク周波数f以上か否かを判定する(ステップS110)。
【0050】
ステップS110において、an+1≧an−1(すなわち、YES)と判定されれば、真のピーク周波数fとして「f+d」の値を決定し(ステップS111)、図2の処理ルーチンを終了する。
【0051】
一方、ステップS110において、an+1<an−1(すなわち、NO)と判定されれば、真のピーク周波数fとして「f−d」の値を決定し(ステップS112)、図2の処理ルーチンを終了する。
【0052】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図3)に係る周波数解析装置は、観測信号1(解析対象信号)を離散化するAD変換器2(離散化手段)と、離散化された解析対象信号(デジタル信号)に所定の窓関数(ハニング窓関数)を乗算する窓関数乗算手段(FFT演算器3)と、窓関数を乗算した信号を所定の周波数間隔で離散的に周波数解析する周波数解析手段(FFT演算器3)と、周波数解析されたスペクトラムに基づき真のピーク周波数fを算出する演算装置4(演算手段)とを備えている。
【0053】
演算装置4は、周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数fを抽出するピーク抽出手段と、ピーク周波数fおよびピーク周波数に隣接する周波数fn−1、fn+1を用いて真のピーク周波数fを求める真のピーク演算手段(ステップS103〜S112)とを備えている。
【0054】
真のピーク演算手段は、周波数解析手段における離散周波数の間を複数の区間に区切り、ピーク周波数の振幅aと、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅amaxとに対し、それぞれ、複数の区間の各区切り位置に応じた個別の係数(「3、5」、「11、13」)を乗算した各値の大小を比較することにより、真のピーク周波数が複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定する(ステップS105〜S109)。
【0055】
さらに具体的には、真のピーク演算手段は、各値の大小を比較した結果に応じて、ピーク周波数と真のピーク周波数との間の周波数ズレ量の絶対値dを決定し(ステップS106、S108、S109)、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数の振幅an−1、an+1の大きさを比較し、真のピーク周波数fがピーク周波数f以上か否かを判定する(ステップS110)。
【0056】
この発明の実施の形態1によれば、ピーク周波数fに関連した各振幅値に対し、複数の区間の各区切り位置に応じた個別の係数を乗算した各値の大小を比較することにより、真のピーク周波数fがいずれの区間に存在するかを決定するので、多大な演算時間を要する除算を行わずに、真のピーク周波数fを決定することができ、演算時間を短縮することができる。
また、周波数間隔を等間隔「1/(4×T)」に区切ることにより、偏りなく真のピーク周波数fを決定することができる。
【0057】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図2)では、演算装置4において、ピーク周波数の振幅aと、振幅が小さくない隣接周波数の振幅amaxとに対して、それぞれ個別の係数を乗算した各値の大小を比較(ステップS105、S107)したが、図4のように、ピーク周波数の振幅aと隣接周波数の振幅amaxとの振幅和Cおよび振幅差Cを求め(ステップS204)、振幅差Cのみに区間の区切り位置に対応した所定の係数を乗算して、振幅和Cとの大小を比較(ステップS205、S207)してもよい。
【0058】
図4はこの発明の実施の形態2による演算装置4の処理を示すフローチャートである。
図4において、ステップS201〜S203、S206、S208〜S212は、前述(図2参照)の各ステップS101〜S103、S106、S108〜S112と同様の処理であり、ステップS205、S207は、前述のステップS105、S107に対応した比較判定処理である。
【0059】
また、この発明の実施の形態2に係る周波数解析装置の全体構成は、図1に示した通りである。したがって、観測信号1がAD変換器2で離散化され、FFT演算器3でハニング窓関数が乗算された後にFFT演算が実行され、離散スペクトラムが演算装置4に入力されるまでの動作は、前述と同様である。
ただし、この発明の実施の形態2において、演算装置4における数値は、固定小数点演算である。
【0060】
図4において、離散スペクトラムからピーク信号の周波数fおよび振幅aを探索し(ステップS201)、ピーク信号に隣接する各信号のうち小さくない方の信号の振幅amaxを求める処理(ステップS202、S203)については、前述と同様である。
【0061】
以下、ピーク信号の振幅aと、隣接信号の小さくない方の振幅amaxとの関係から、真のピーク周波数fがどの周波数区間に存在するかを決定するが、この場合、演算装置4は、前述の式(8)を変形して、以下の式(10)のように比較演算を行う。
【0062】
【数10】

【0063】
同様に、次の区間に対応した前述の式(9)を変形して、以下の式(11)のように比較演算を行う。
【0064】
【数11】

【0065】
以上の式(10)、式(11)に基づき、演算装置4は、真のピーク周波数fを以下のように決定する。
ステップS203に続いて、まず、ピーク信号の振幅aと、隣接信号の小さくない方の振幅amaxとの振幅和(=a+amax)および振幅差(=a−amax)を、それぞれ変数C、Cとして代入する(ステップS204)。
【0066】
次に、式(10)に基づく以下の式(12)を満たすか否かの比較判定処理を行う(ステップS205)。
【0067】
【数12】

【0068】
ステップS205において、式(12)を満たす(すなわち、YES)と判定されれば、周波数ズレ量δの絶対値dを0に決定し(ステップS206)、式(12)を満たしていない(すなわち、NO)と判定されれば、次の比較処理(ステップS207)に移行する。
このとき、式(12)の左辺の演算は、4倍(2のべき乗)演算であるのでビットシフト演算を適用することができ、高速に演算を行うことが可能である。
【0069】
ステップS207において、演算装置4は、式(11)に基づく以下の式(13)を満たすか否かの比較判定処理を行う(ステップS205)。
【0070】
【数13】

【0071】
ステップS207において、式(13)満たす(すなわち、YES)と判定されれば、周波数ズレ量δの絶対値dを1/4に決定し(ステップS208)、式(13)を満たしていない(すなわち、NO)と判定されれば、d=1/2に決定する(ステップS209)。
【0072】
以下、前述と同様に、決定された周波数ズレ量δの絶対値dに対して符号を決定し、真のピーク周波数fを算出する(ステップS210〜S212)。
この場合、比較演算処理(ステップS205、S207)の式(12)、式(13)が異なるのみで、他の演算内容は前述の実施の形態1と等価なので、前述と同様に真のピーク周波数fを決定することができる。
【0073】
以上のように、この発明の実施の形態2(図1、図4)に係る周波数解析装置の演算装置4(演算手段)内の真のピーク演算手段は、周波数解析手段(FFT演算器3)における離散周波数の間を複数の区間に区切り、ピーク周波数fの振幅aと、ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅amaxと、の振幅和C(a+amax)および振幅差C(a−amax)を求め、複数の区間の各区切り位置に応じた所定の係数(「4」、「12」)を振幅差Cに乗算した値と、振幅和Cとの大小を比較することにより、真のピーク周波数fが複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定する。
【0074】
これにより、真のピーク周波数fを求める際の1回あたりの比較処理における乗算回数は、式(12)、式(13)から明らかなように、1回までとなっているので、前述の効果に加えて、さらに高速に真のピーク周波数fを決定することができる。
【0075】
また、比較処理において乗算される所定の係数は、整数、または「2のべき乗」に設定されており、特に後者の場合は、ビットシフト演算を用いることができるので、さらに高速に真のピーク周波数fを決定することができる。
さらに、周波数間隔を等間隔「1/(4×T)」に区切ることにより、偏りなく真のピーク周波数fを決定することができる。
【0076】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2では、所定の窓関数としてハニング窓関数を用いたが、ハミング(hamming)窓関数を用いてもよい。
特に、上記実施の形態2(図4)にハミング窓関数を適用する場合には、図5内のステップS305、S307において近似演算に基づく所定の乗算係数を用いることにより、等間隔の区間に対する真のピーク周波数fの算出が可能になる。
【0077】
図5はこの発明の実施の形態3による演算装置4の処理を示すフローチャートであり、ハミング窓関数を乗算してFFT演算後の離散スペクトラムに対して、前述の実施の形態2(図4)の処理を適用した場合を示している。
【0078】
図5において、ステップS301〜S304、S306、S308〜S312は、前述(図4参照)の各ステップS201〜S204、S206、S208〜S212と同様の処理であり、ステップS305、S307は、前述のステップS205、S207に対応した比較判定処理である。
【0079】
また、この発明の実施の形態3に係る周波数解析装置の全体構成は、図1に示した通りであり、観測信号1がAD変換器2で離散化され、FFT演算器3に入力されるまでは、前述と同様である。
ただし、この場合、FFT演算器3は、離散化された解析対象信号(デジタル信号)に対して、以下の式(14)に示すハミング窓関数Wham(t)を乗算する。
【0080】
【数14】

【0081】
続いて、FFT演算器3は、FFT演算を実行して離散スペクトラムを算出し、離散スペクトラムを演算装置4に入力する。
以下、演算装置4は、図5のように、真のピーク周波数fが存在する区間を決定する。ただし、この場合、演算装置4における数値は、固定小数点演算である。
【0082】
図5において、離散スペクトラムからピーク信号の周波数fおよび振幅aを探索し(ステップS301)、ピーク信号に隣接する各信号を抽出し(ステップS302)、各隣接信号のうち小さくない方の信号の振幅amaxを求め(ステップS302)、ピーク周波数の振幅aとの振幅和Cおよび振幅差Cを算出する処理(ステップS304)は、前述(図4)と同様である。
【0083】
なお、ハミング窓関数を用いた場合の離散スペクトラムの振幅分布は、公知文献(たとえば、前述の特許文献1)によれば、以下の式(15)で表される。
【0084】
【数15】

【0085】
式(15)に基づいて、ピーク周波数の振幅aと隣接周波数の振幅amaxとのレベル比「a/amax」を求めると、以下の式(16)のように表される。
【0086】
【数16】

【0087】
図6は式(16)の関係を示す説明図であり、前述の図3に対応している。
図6において、周波数ズレ量δとしては、前述の実施の形態1と同様に、−1/2≦δ≦1/2の範囲内の値のみを考えることとする。
図6から明らかなように、以下の式(17)を満たしていれば、周波数ズレ量δの絶対値は、d≦1/8となり、周波数の単位を1/4としていることから、d=0に決定可能なことが分かる。
【0088】
【数17】

【0089】
ただし、演算装置4は、式(17)の右辺「665/351」を「(3+1)/(3−1)」で近似して、以下の式(18)の比較処理を行う。
【数18】

【0090】
すなわち、図5において、演算装置4は、ステップS304に続いて、式(18)を満たすか否かを判定する(ステップS305)。
ステップS305において、式(18)の関係を満たす(すなわち、YES)と判定されれば、d=0に決定し(ステップS306)、式(18)を満たさない(すなわち、NO)と判定されれば、次の比較処理(ステップS307)に移行する。
【0091】
ステップS307においては、次の区間でのレベル比演算値「5083/4125」を「(10+1)/(10−1)」で近似することにより、以下の式(19)を満たすか否かの比較判定処理を行う。
【0092】
【数19】

【0093】
ステップS307において、式(19)の関係を満たす(すなわち、YES)と判定されれば、d=1/4に決定し(ステップS308)、式(19)を満たさない(すなわち、NO)と判定されれば、d=1/2に決定する(ステップS309)に移行する。
以下、前述と同様の処理(ステップS310〜S312)により真のピーク周波数fを算出する。
【0094】
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、ハミング窓関数を用いたFFT演算結果に対し、近似演算に基づく所定の係数(「3」、「10」)を振幅差Cに乗算し、振幅和Cとの大小比較により真のピーク周波数fを決定するので、前述と同様に高速に演算を行うことができる。
【符号の説明】
【0095】
1 観測信号(解析対象信号)、2 AD変換器(離散化手段)、3 FFT演算器(窓関数乗算手段、周波数解析手段)、4 演算装置(演算手段)、amax 隣接信号のうち小さくない方の振幅、a ピーク周波数の振幅、C 振幅差、C 振幅和、d 絶対値、f ピーク周波数、f 真のピーク周波数、S101、S201、S301 ピーク抽出手段、S105〜S112、S205〜S212、S305〜S312 真のピーク演算手段、δ 周波数ズレ量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離散化された解析対象信号に所定の窓関数を乗算する窓関数乗算手段と、
前記窓関数を乗算した信号を所定の周波数間隔で離散的に周波数解析する周波数解析手段と、
前記周波数解析されたスペクトラムに基づき真のピーク周波数を算出する演算手段と
を備えた周波数解析装置において、
前記演算手段は、
前記周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数を抽出するピーク抽出手段と、
前記ピーク周波数および前記ピーク周波数に隣接する周波数を用いて前記真のピーク周波数を求める真のピーク演算手段とを備え、
前記真のピーク演算手段は、
前記周波数解析手段における離散周波数の間を複数の区間に区切り、
前記ピーク周波数の振幅と、前記ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅とに対し、それぞれ、前記複数の区間の各区切り位置に応じた個別の係数を乗算した各値の大小を比較することにより、前記真のピーク周波数が前記複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定することを特徴とする周波数解析装置。
【請求項2】
離散化された解析対象信号に所定の窓関数を乗算する窓関数乗算手段と、
前記窓関数を乗算した信号を所定の周波数間隔で離散的に周波数解析する周波数解析手段と、
前記周波数解析されたスペクトラムに基づき真のピーク周波数を算出する演算手段と
を備えた周波数解析装置において、
前記演算手段は、
前記周波数解析されたスペクトラムの中からピーク周波数を抽出するピーク抽出手段と、
前記ピーク周波数および前記ピーク周波数に隣接する周波数を用いて前記真のピーク周波数を求める真のピーク演算手段とを備え、
前記真のピーク演算手段は、
前記周波数解析手段における離散周波数の間を複数の区間に区切り、
前記ピーク周波数の振幅と、前記ピーク周波数の両側に隣接する各周波数のうち振幅が小さくない方の周波数の振幅と、の振幅和および振幅差を求め、
前記複数の区間の各区切り位置に応じた所定の係数を前記振幅差に乗算した値と、前記振幅和との大小を比較することにより、前記真のピーク周波数が前記複数の区間のうちのいずれの区間に存在するかを決定することを特徴とする周波数解析装置。
【請求項3】
前記所定の係数は、整数からなることを特徴とする請求項2に記載の周波数解析装置。
【請求項4】
前記所定の係数は、2のべき乗の値からなり、
前記真のピーク演算手段は、前記所定の係数を乗算する際にビットシフト演算を用いることを特徴とする請求項3に記載の周波数解析装置。
【請求項5】
前記複数の区間は、等間隔に区切られていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の周波数解析装置。
【請求項6】
前記複数の区間は、前記ピーク周波数を含む区間に隣接した3つ以上の区間に区切られていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の周波数解析装置。
【請求項7】
前記真のピーク演算手段は、
前記各値の大小を比較した結果に応じて、前記ピーク周波数と前記真のピーク周波数との間の周波数ズレ量の絶対値を決定し、
前記ピーク周波数の両側に隣接する各周波数の振幅の大きさを比較し、前記真のピーク周波数が前記ピーク信号の周波数以上か否かを判定することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の周波数解析装置。
【請求項8】
前記所定の窓関数は、ハニング窓関数であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の周波数解析装置。
【請求項9】
前記所定の窓関数は、ハミング窓関数であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の周波数解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−68035(P2012−68035A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210597(P2010−210597)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】