説明

呼吸事象検出システムおよび方法

【課題】心肺パラメータの誘導性体積変動記録からのデータ処理を改良するシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】一般に呼吸体積変動記録法、特に、移動性記録のために外皮上に装着した呼吸誘発体積変動記録センサからの呼吸信号を処理する、改良型システムおよび方法を対象とする。アーチファクト除去のために信号のフィルタ処理を改良し、肺容積を示す出力を生成するために、センサ・データの較正を改良する。更に、肺容積信号をどのように測定し求めたのであっても、これを処理し、呼吸パラメータの決定を改良し、選択した呼吸事象の認識を改良する、改良型システムおよび方法も提供する。更に、この改良した処理によって可能となる、咳や嘆息のような間欠的な生理的事象の検出システムおよび方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理的パラメータの移動性記録、特に心肺パラメータの誘導性体積変動記録
からのデータ処理を改良するシステムおよび方法を提供し、更に、この改良した処理によ
って可能となる、咳や嘆息のような間欠的な生理的事象の検出システムおよび方法も提供
する。
【背景技術】
【0002】
2003年4月10日に出願された、Sackner InmanおよびWilhelmによる"System and
Methods for Respiratory Event Detection"(呼吸事象検出システムおよび方法)と題す
る米国仮特許出願第60/461,738号、および2003年9月26日に出願された
、Sackner Coyle、Keenan Inman、およびWilhelmによる"Systems and Methods for Respi
ratory Event Detection"(呼吸事象検出システムおよび方法)と題する米国仮特許出願
第60/506,9044号の優先権を主張する。これら2件の特許出願の内容は、ここ
で引用したことにより、全ての目的に対してその全体が本願にも含まれるものとする。
【0003】
生理的パラメータの連続的移動性監視は、日常生活の臨床関連徴候の基準や、いかにそ
の経験が被験者の併発活動および挙動によって形作られるかということについて、我々の
理解を広げることができる。有望な新技術が開発されているが、移動性監視データは解釈
が難しいことが多い。主な問題の1つは、肉体的活動が、研究所または診療所にいるとき
のように制御されないことであり、気が付かないと、通常の運動によって誘発される肉体
的変化と病気の指示との混乱を招く可能性がある。したがって、臨床関連移動性監視シス
テムは、運動性活動を登録し、評価できる内容を提供することによって、医師がいずれの
異常値(例えば、ECGまたは呼吸パターン)でも肉体的運動に帰することができるのか
、または生理的不規則性(dysregulation)を表すのか判断できる有益性を備えてしかるべ
きである。日常的に、監視対象被験者の活動、姿勢、および居所を紙と鉛筆で、または電
子的に記録すれば、より多くの関連情報を提供することができ、踏み込んだ医学的解釈に
役立てることができる。しかしながら、日記だけを用いるのでは、居所や活動レベルの変
化を報告する際に記録が不正確なことが多いため、不十分である。
【0004】
発話(speech)は、特に呼吸を移動性監視と混乱する可能性のある重要な活動である。発
話状態の出現は、最も頻繁に見られる肉体的活動および挙動の一種であり、肺機能に加え
て、種々の生理的系統を変化させる可能性がある。例えば、脈拍は、会話的発話によって
、毎分5回から10回増加するのが通例である。脈拍の増加は、社会的に要請がある状況
では一段と高くなる可能性がある。マイクロフォンによる聴覚的記録が、発話活動を定量
化するために用いられてきたが、監視対象の人の声以外にも、周囲の音や他の人の発話と
いうような音も拾い上げるので、限界がある。咽喉マイクロフォン(throat microphone)
の方が選択度が高いが、長時間装着することは不便であり、監視対象被験者が周囲の注目
を引くので望ましくない。
【0005】
誘導性体積変動記録法(IP:inductive plethysmography)は、心肺機能の非影響呼
吸監視のための科学的および医療的に受け入れられている業界標準(gold standard)であ
り、医療および研究用設定において広く用いられている。呼吸については、この技法は、
胸郭および腹区画双方の拡大および縮小を、正弦波状に配した電気配線から成りこれを可
撓性帯に埋め込んだIPセンサを用いて、測定することにより、呼吸器系によって移動さ
せられる空気量を近似する。高周波低電圧の発振電流が配線を通過して、コイルの自己イ
ンダクタンスを測定するために必要な磁界を発生する。これは、帯が包囲する断面積に比
例する。胸郭および腹帯(abdominal band)の較正後、2つの信号の加重和は、一回換気量
に対応または比例する。
【0006】
したがって、当技術分野では、肉体的活動、特に発話を登録または検出し、活動情報を
利用して、移動性監視データの解釈を改良し一層の信頼性向上を図るためにシステムおよ
び方法の改良が必要となっている。このようなシステムは、誘導性体積変動記録法による
移動性監視に直接適用可能であるとよい。
【0007】
この章または本願のいずれの章においても、いずれの参考文献の引用または特定も、こ
のような参考文献が本発明の従来技術として使用可能であるとは解釈しないものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、呼吸パラメータ、例えば、肺容積(Vt)を求めることができる肺モデ
ル、好ましくは二区画肺モデルを特徴付けるのに十分なパラメータの移動性記録からのデ
ータ処理を改良するシステムおよび方法を提供することによって、従来技術における欠陥
を克服することである。つまり、好ましい入力パラメータは、胸郭(RC)および腹部(
AB)の断面積、円周、または半径(あるいは同様の幾何学的変数)の指示を得るという
ようなことにより、RC体積およびAB体積を特徴づける。このような好ましいパラメー
タは、外皮内に混み込むというようなことにより、検査対象被験者の胴体に対して固定し
たセンサを用いた、電気的、光学的、またはその他の技術に基づく呼吸体積変動記録法に
よって決定することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
呼吸誘発体積変動法(RIP)は好ましい測定技術であるが、本発明のシステムおよび
方法は、他のセンサ技術への適用も容易である。このようなセンサ技術には、例えば、身
体インピーダンス・センサ、水銀含有シラスティック(silastic)歪みゲージ、ベローズ呼
吸運動描写器、体積呼吸運動描写器、差動線形変換器、身体周囲の誘導性変換器、身体の
直径を検知する磁気記録計、局部的な移動を測定する圧電変換器、光の反射による移動分
析等が含まれる。更に、本発明および方法は、身体周囲、直径、距離、および移動の複数
のパラメータを反映する複数の信号を発生するセンサ技術への適合化も容易であり、これ
らを合わせると、少なくとも、二区画呼吸モデル、および/または胸郭および腹部の形状
変化のような、その改善の証印(indicia)が得られる。加えて、これらの方法は、熱電対
、サーミスタ、終末呼吸二酸化酸素センサ、鼻圧力(nasal pressure)および流套管(flow
cannulas)呼吸マスク、空気流差圧センサ等を含む、種々の空気流モニタが発生する信号
のような、空気流を反映する信号にも適用することができる。
【0010】
本発明の別の目的は、好ましくは、肺容積の時間経過、連続呼吸の一回換気量等のよう
な、呼吸を反映する生理的データの処理を改良し、呼吸停止、減呼吸、咳、嘆息等のよう
な、生理的事象を検出するシステムおよび方法を提供することによって、従来技術におけ
る欠陥を克服することである。これら別のシステムおよび方法に対して入力するデータは
、多くのセンサおよび多くのセンサ技術によって求めることができる。好ましくは、この
入力データは、二区画肺モデル、即ち、呼吸モデルを特徴付けるのに十分な移動性記録か
ら求める。
【0011】
ここでは、主に移動性記録に応用した場合について本発明を説明するが、そのシステム
および方法の一部または全ては、研究所、診療所、または病院におけるような、その他の
設定にも適用可能であることは当然認められよう。
【0012】
ある種の実施形態は、添付した特許請求の範囲に要約されている。
特許および印刷刊行物を含む種々の引例が本願全体を通じて引用されている。このよう
な引用された引例の内容は全て、ここで引用したことにより、あらゆる目的に対して、そ
の全体が本願にも含まれるものとする。
【0013】
本発明は、以下の本発明の好適な実施形態の説明、本発明の具体的な実施形態の図示例
、および添付図面を参照することにより、一層深く理解することができよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、好ましい呼吸誘発体積変動記録(RIP)技術から得られる入力データを主に
参照しながら本発明について説明するが、記載するシステムおよび方法は、他のセンサ技
術から得られるデータとでも使用できることは理解されよう。例えば、どのようにして求
めたかには係わらず、二区画呼吸モデルを特徴付けるデータに、暫定的信号処理を適用す
ることができる。また、不可欠な入力データをどのようにして得ようとも、肺容積の指標
の時間過程(連続または離散)からの呼吸事象の決定は有用である。
【0015】
更に、本発明には様々な特徴や形態があり、以下では主に単一のシステムおよび方法の
構成要素として説明する。また、本発明は、そのような単一の実施形態には限定されるの
ではなく、これらの特徴および形態のその他の組み合わせや部分的組み合わせを有するそ
の他の実施形態も含み、これらには独自の有用性があることも理解されよう。また、本発
明のシステムおよび方法の記載および図は、ある順序になっているが、この順序は唯一で
も限定でもないことは理解されよう。ステップ、特徴、および形態は、記載するデータの
従属性が一致するのであれば、他の時間的順序でも実施することができる。
5.1 好ましい体積変動記録システム
端的な背景という目的で、呼吸体積変動記録法(RP)および呼吸誘発体積変動記録法
(RIP)について次に説明し、続いて、このセンサ技術の好ましい実施形態について端
的に説明する。「体積変動記録法」は、ここでは、例えば、肺、血管中の血液等のような
、含まれる流体の体積変化による器官の容積判定を意味するものとする。
A.RIP技術の概要
RPは、呼吸機能、例えば、被験者の胸郭(RC)を通る1つ以上の断面または被験者
の腹部(AB)を通る1つ以上の断面の面積(直径、半径等)を特徴付けるために十分な
、時々刻々の容積を反映する指標を判定する。このような判定から、呼吸の二区画モデル
を参照して、肺の容積、心臓の容積等を判定することができる。
【0016】
RIPは、このような指標を決定する際に、被験者の身体の対象の断面周囲に配した配
線ループの自己インダクタンスを測定する。自己インダクタンスは、ループによって囲ま
れる断面積に大きく依存する。好ましくは、ループ自己インダクタンスを測定する際に、
ループを発振器に含ませ、発振周波数を測定する。例えば、2001年4月17日出願の
米国特許出願第09/836,384号(移動性誘導性体積変動記録システムの改良)、
2000年4月4日発行の米国特許第6,047,203号(センサ外皮を含む移動性誘
導性体積変動記録システム)、2002年1月29日発行の米国特許第6,341,50
4号(誘導性体積変動記録センサのための伸張可能な導電性繊維)、1989年2月28
日発行の米国特許第4,807,640号(伸張可能な誘導性体積変動記録変換器)、1
994年7月26日発行の米国特許第5,331,968号(誘導性体積変動記録センサ
および回路)、および1994年4月12日発行の米国特許第5,301,678号(伸
張可能な誘導性体積変動記録変換器)を参照のこと。
【0017】
具体的には、呼吸の測定では、RCおよびAB RIPループから得た信号をフィルタ
処理し、平滑化し、較正して、時々刻々の肺容積を反映する指標を求めると有益である。
例えば、1992年11月3日発行の米国特許第5,159,935号(個々の肺機能の
測定)、1989年3月28日発行の米国特許第4,815,473号(呼吸容積の監視
方法)、1983年1月5日発行の米国特許第4,308,872号(呼吸容積監視方法
)、2002年7月2日発行の米国特許第6,413,225号(誘導性体積変動記録呼
吸モニタの較正方法)、1989年5月30日発行の米国特許第4,834,109号(
誘導性体積変動記録呼吸モニタの較正方法)、および1983年2月15日発行の米国特
許第4,373,534号(誘導性体積変動記録呼吸モニタの較正方法)を参照のこと。
【0018】
加えて、誘導性体積変動記録法を用いると、他の生理的指標を判定することもできる。
例えば、時々刻々の心臓容積、心臓出力、および心室壁の運動を反映するデータを、中胸
部センサ・ループから抽出することができ、センサ・ループから、先端部または首に関す
るデータを抽出することができ、動脈および静脈拍を反映するデータを抽出することがで
きる。例えば、2002年3月26日出願の米国特許出願第10/107,078号(心
室容積信号の抽出のための信号処理技術)、1993年1月12日発行の米国特許第5,
178,151号(心臓出力の誘導性体積変動記録測定方法)、1991年8月20日発
行の米国特許第5,040,540号(中央静脈圧の誘導性体積変動記録測定)、199
1年1月22日発行の米国特許第4,986,277号(中央静脈圧の誘導性体積変動記
録測定)、1984年6月26日発行の米国特許第4,456,015号(首部容積変化
の測定)、および1984年6月5日発行の米国特許第4,452,252号(首および
口の容積測定による心臓パラメータの判定)を参照のこと。

B.好ましいRIPシステム
図1は、本発明のシステムおよび方法によって分析する信号を測定するのに適した、好
ましい(しかし限定的ではない)RIPシステムを示す。この好ましいシステムは、外皮
1、データ記録部3、および分析用ソフトウェア・パッケージと共に構成され、オフライ
ンおよび対話式信号分析、表示、および報告の作成を行う分析用コンピュータ4を含む。
図示した好ましい外皮(ここでは、「シャツ」とも呼ぶ)は、選択可能で再利用可能な伸
縮性材料で作られ、ぴったり装着し被験者の身体と共に伸縮することができ、1つ以上の
埋め込みRIPセンサ帯を含む。センサは、導電性配線ループで構成され、身体の断面周
囲に配置され、例えば、正弦波状配列を有することにより、伸縮自在に構成されている。
RIPセンサのインダクタンスは、電気および電子技術分やでは周知の方法を用いて、電
気信号、通例では周波数信号に変換される。
【0019】
センサをシャツの中に埋め込むのは、被験者の胴体に対するそれらの正確で持続性のあ
る配置を確保するためである。呼吸を測定するためには、2つのセンサが好ましい。胸郭
の高さにあるセンサ5、および腹部の高さにあるセンサ6である。心臓パラメータを測定
するためには、剣状突起の高さの真下に位置する中央胸RIPセンサ(図示せず)が好ま
しい。シャツは、他の種類のセンサを含んでもよく、即ち、取り付けてもよく、電磁セン
サ7、身体の姿勢および運動を検知するための1つ以上の加速度センサ(シャツ内にある
ように図示されている一例の加速度計8、他は図示されていない)等、マイクロフォン、
パルス酸素計(図示せず)、カプノグラフ、1つ以上のEEG電極等を含む。病院、診療
所、または研究所では、広範囲の生理的センサから他の信号を得ることもできる。図示し
たRIP技術は現時点における好適な実施形態であり、今後の外皮構成およびセンサのパ
ッケージングによっては、例えば、追加のRIPセンサおよび他の技術の体積変動記録セ
ンサを内蔵することもあり得る(例えば、光センサを採用したり、被験者との相互作用の
後における電磁または音響エネルギにおけるドプラ・シフトを検知する)。そして、以下
に記載する方法は、追加のセンサを含むこのようなデータにも適用可能である。
【0020】
図示のシャツに装着したセンサは、ケーブル2によってデータ記録部に取り付けてもよ
く、他の周辺診断デバイス(図示せず)を補助ケーブル10によってデータ記録部に取り
付けてもよい。あるいは、ローカル・ワイヤレス・リンク、光リンク、あるいはシャツま
たはその繊維内に埋め込んだリンクを、離散ケーブルの代わりに用いてもよい。データ記
憶ユニット3は、帯上に装着したり、ポケットに入れたり、またはシャツ内に埋め込むこ
とができるように、小型で軽量であることが好ましい。このユニットは、完全公開格納(f
ull disclosure storage)およびオフライン分析のために、十分な精度および確度でセン
サ波形を格納すること、および/または内部である種の処理および分析を行うこともでき
る。データは、着脱自在の標準化されたメモリ・カード11(例えば、フラッシュ・メモ
リ・カード)によって分析コンピュータ4に転送されるか、あるいはセル電話技術を用い
た伝送のようなワイヤレス・リンクによって転送される。データ記録ユニットは、ディジ
タル日記帳を実現するために、タッチ・スクリーンを含んでもよく、そのデータも分析デ
ータに転送し、センサ読み取り値と相関付けるとよい。
【0021】
本発明のシステムおよび方法は、分析コンピュータ4(および、任意に一部データ・ユ
ニット3において)実行する分析ソフトウェアによって実現する。このソフトウェアは、
メモリ・カードからデータを読み取り、あるいはそれ以外の方法でセンサ・データを受け
取り、本発明の方法にしたがって、毎分換気量、一回換気量、呼吸速度(respiratory rat
e)、呼吸流量(respiratory flow rate)等のような、被験者の呼吸パターンを特徴付ける
種々の生理的パラメータを抽出し表示する。分析ソフトウェア・パッケージは、分析コン
ピュータのユーザが対話的に制御する利点がある。また、本発明は、本発明の方法を実現
する分析ソフトウェアの選択部分全てを、プログラム製品として入手可能とし、これをC
D−ROMのようなコンピュータ読み取り可能媒体上で分析コンピュータに転送すること
も想定している。
【0022】
加えて、分析ソフトウェアは、RIP信号と共に、またはこれらと組み合わせて、他の
センサからの信号も処理するという利点がある。例えば、パルス酸素計の信号は、同時発
生の動脈酸素飽和情報を提供することができ、加速度計信号(および同様のセンサからの
信号)を処理して、被験者の姿勢および活動の指標を提供することができる。姿勢および
活動は、同時に測定する心肺測定値について挙動内容を定めるので重要である。

5.2 呼吸信号処理
図2を参照して、呼吸信号処理方法の好適な実施形態についてこれより説明する。簡略
化のため、そして限定ではなく、この記載を組織化するために見出しを用いる。

5.2.1 入力信号
必須の入力信号は、非侵襲的に、好ましくは、二要素呼吸モデルにしたがって、呼吸容
積を決定するためのパラメータを定める。例えば、Stern et al. Phychophysiology Reco
rding(心理生理学記録)、 Second Edition, Oxford University Press, Oxford, U.K.
の第10章(呼吸器系)を参照のこと。端的に言えば、二要素モデルは、胸郭(大きさが
可変の円筒と同様)の直径、および横隔膜(円筒内のピストンと同様)の位置から、肺の
容積を概念化する。横隔膜の位置は、腹部の容積によって反映され、その比較的圧縮でき
ない内蔵が横隔膜によって圧縮される。したがって、好適な実施形態では、1対の呼吸信
号21がRCおよびABの大きさを反映し、前述のRIP技術センサからというように、
呼吸体積変動記録センサ(RP)から入力する。あるいは、入力信号は、出力Vtおよび/
またはVol信号(後に説明する)、または同等物を出力する別の呼吸モデルに対するデー
タを定めることもできる。このような出力信号は、二要素モデルから発生したか否かには
係わらず、呼吸事象認識方法、即ち、本発明によって処理することができる。
【0023】
他の実施形態では、複数の入力信号が、胴体の寸法、動き、または形状を反映すること
ができ、IPまたはRIP技術以外によって発生することもできる。例えば、RIPと同
様に、光または光ファイバ系RPも使用することができる。また、胴体形状の数個のパラ
メータを反映するセンサも、本発明に入力することができる。このような形状反映信号を
処理して、RCおよびAB信号を発生し、後に、例えば、周知の再帰法によって決定され
る係数との線形結合によって用い、再帰法によりこのような線形結合と同時RPまたはR
IP信号との間の差を最少にすることができる。あるいは、このような形状反映信号は、
例えば、QDC法の拡張版によって処理して直接Vt信号(以下で説明する)を発生したり
、例えば、同時実空気流情報に適用する線形再帰法によってVol信号(以下で説明する)
を発生することもできる。具体的には、このような形状反映信号が被験者の胴体の表面上
で規定される距離の適当な複数の指標を含む場合、このような信号は、数学の技術分野で
は既知の方法(具体的には、微分幾何法)によって処理し、胴体の形状の表現を得ること
ができる。二次元表面(メトリック)上に十分な距離を定義すれば、その表面の形状を三
次元空間内に構築できることは公知である。比較的小さな形状変化のみを伴う呼吸監視で
は、この構造は、静止している胴体の形状を中心に線形化すればよい。したがって、この
幾何学的構造は、線形統計モデル構築方法によって、距離反映信号を較正空気体積に線形
的に当てはめることによって、回避することができれば好ましい。
【0024】
1つ以上の加速度計、パルス酸素計、およびマイクロフォンからの追加の信号は、呼吸
信号と共に処理すると有利である。被験者上に位置し、例えば、胴体上、または脚部上、
または足部上(例えば、靴の中)に装着した1つ以上の加速度計(図1における8)から
の信号は、被験者の姿勢および運動即ち活動の指標を与える。このような情報は、同時生
理的データの挙動内容を定め、(以下で説明するように)RP信号からのモーション・ア
ーチファクト(motion artifact)をフィルタ処理または適応的フィルタ処理するために用
いることができる。周囲の音響からの妨害を最少に抑えて被験者の発声を捕獲するために
装着する頚部マイクロフォン(図1における9)のようなマイクロフォンを用いると、発
話の有無を判定することができ、咳、嘆息、およびその他の呼吸事象を判別する際に役立
てることができる。その他の任意のセンサも、呼吸の解釈または処理に関連する追加情報
を提供することができる。

5.2.2 入力信号のディジタル化
信号処理における最初のステップは、信号のディジタル化25およびフィルタ処理27
である。以下の説明は、好ましい一連のステップに従っており、25においてアナログ・
ドメイン信号を最初にディジタル化し、次いで27において公知のディジタル・フィルタ
リング技法にしたがってディジタル化した信号をフィルタ処理する。余り好ましくはない
が、信号を全体的にアナログ・ドメインでフィルタ処理し、次いでディジタル化してもよ
い。しかしながら、好ましい一連のステップにおいてでさえ、ディジタル化するアナログ
信号がサンプリング・レートの半分よりも大きい周波数の成分を有さない(ナイキスト条
件)ように、予備的な明示または暗示アナログ・フィルタ処理ステップを実行することは
理解されよう。
【0025】
好ましくは、生のアナログ信号をディジタル化するには、シャツに装着した電子回路、
またはディジタル形態での記録および転送のためのデータ記憶ユニットにおける電子回路
のいずれかを用いる。信号は、少なくとも8ビットで、更に好ましくは16ビットで量子
化(A/D変換)する。必要であれば、呼吸信号のみを16ビットで量子化し、他の信号
(加速度計、マイクロフォン等)を8ビットで量子化してもよい。好ましいサンプリング
・レートは、信号の種類によって異なる。
【0026】
RIPセンサから発生したアナログ信号は、通常、約50Hzサンプリング・レート(
20ミリ秒のサンプル時間)での処理に合わせてディジタル化するので、実際の信号は、
25Hzまで、および40ミリ秒期間まで表される。更に周波数が高い呼吸現象の処理の
ため、そして更に精度の高いディジタル化信号の時間微分計算のためには、400Hzま
でのサンプリング・レート(2.5ミリ秒のサンプリング時間)を用いることもできる。
あるいは、30〜40Hzという低いサンプリング・レートを用いると、携帯型データ記
憶ユニットにおいて記憶の必要性を制限することができる。これらのサンプリング・レー
トは、例えば、2001年4月17日に出願した同時係属中の特許出願第09/836,
384号に記載されている。
【0027】
加速度計信号は、好ましくは、約10Hz(100ミリ秒のサンプル時間)(8〜16
Hzの範囲)でディジタル化することが好ましく、加速度「G」の単位で定量化すること
ができる。音質(強度)の判定のために、マイクロフォン信号を、好ましくは、約10H
zでディジタル化し、デシベル単位で定量化するが、発話、いびき、咳等を区別するのに
十分な音響特性を得るためには、1kHzから10kHzまでのサンプリング・レートが
好ましい。

5.2.3 入力信号のフィルタ処理
信号のフィルタ処理27は、信号を測定しているときに、そしてそれらを移転可能なメ
モリ・カードに記録する前に、好ましくはディジタルで行うとよい。あるいは、ディジタ
ル化したがフィルタ処理しない信号をメモリ・カードに記録しておき、後に分析コンピュ
ータ上においてソフトウェアでフィルタ処理してもよい。
【0028】
加速度計信号は、実施形態の中には、呼吸信号の適応フィルタ処理を行うために用いる
と有益な場合もあり、ディジタル化し、処理して、被験者の姿勢、および/または活動、
および/または運動の指示を与える。好ましい処理では、入力信号をフィルタ処理して、
姿勢および/または位置に対して敏感なローパス成分と、活動および/または運動に対し
て敏感なハイパス成分とを得る。ハイパス/ローパスの帯域分離は、姿勢変化(恐らく、
被験者毎に特性がはっきり分かれる)に特有の周波数、例えば、0.1Hzと1Hz(好
ましくは0.4−0.6Hz)との間で選択することが好ましい。次いで、姿勢の指標を
、ローパス・フィルタ処理した加速度計信号から判定することがでできる。例えば、胴体
において加速度計が観察する重力加速度の方向は、着座/起立位置と仰臥位置との間で区
別することができ、一方腿に装着した加速度計は、同様に、着座/仰臥位置と起立位置と
の間で区別することができる。したがって、外皮に装着した加速度計および腿に装着した
加速度計からの信号を組み合わせると、仰臥、着座、または起立位置の指標を得ることが
できる。また、活動または運動の指標は、ハイパス・フィルタ処理した信号から判定する
ことができる。例えば、活動強度は、ハイパス信号における全エネルギによって反映され
る。活動の速度または種類は、ハイパス信号内にあるモード周波数(modal frequency)に
おいて反映される。更に、足または靴に装着した加速度計は、歩行または走行中に発生す
る力の指標を与えることができる。
【0029】
RPまたはRIPによって測定するRCおよびAB信号は、勿論、呼吸を反映し、心臓
活動、アーチファクトによって誘発した活動または運動、およびノイズを反映する成分も
含有する場合もある。図3Aは、RCおよびABが発生したことがわかっているスペクト
ルを示す(一定比率ではない)。最初に、呼吸信号50は、全体的に中程度の振幅を有し
、基本周波数が約0.2〜0.5Hz(14〜30呼吸/分)で、高調波が約1.0〜1
.5Hzまで達している。信号52に含まれる心臓信号は、全体的に振幅は呼吸振幅の1
0〜20%以下であり、基本周波数が1〜2Hz(60〜120回/分(しかし、場合に
よっては0.74Hz、即ち、45回/分と、低くなることもある)、高調波は3Hz以
上である。特に移動性監視では、モーション・アーチファクトが大抵の場合見られる。こ
れらのアーチファクトは、信号52にも含まれており、振幅および周波数スペクトルが広
範囲にわたって変動するが、通常の運動の多くでは、モード周波数が約1〜2Hzであり
、これよりも高い高調波がある。最後に、その他の発生源からのノイズは、センサに固有
のノイズ、および信号処理によって混入したノイズを含むが、一般に振幅は小さく、対象
範囲ではスペクトルは平坦である。
【0030】
その結果、好適な実施形態では、RPまたはRIP信号をフィルタ処理して、呼吸信号
およびその高調波を今後の処理のために保持しつつ、心臓、運動、およびノイズ成分を抑
える。一実施形態では、呼吸成分を非呼吸成分全般から最良に分離するように、単一のロ
ーパス・フィルタを選択し、RCおよびAB信号に適用する。あるいは、一団の被験者が
いる場合には、個々の被験者毎に個別化する。図3Aは、理想的なこのようなローパス線
形フィルタ54を、全体的な周波数応答と共に模式的に示す。通過帯域は0.0Hzから
約1.3Hzであり、減衰が増加するロール・オフ帯域は約1.3Hzから約1.5Hz
であり、拒絶帯域は約1.5Hzよりも上である。本発明のこのディジタル・フィルタお
よびその他のディジタル・フィルタは、当技術分野では、重み係数選択型有限インパルス
応答(FIR)フィルタとして知られている。例えば、Smith, 2nd ed. 1999, The Scien
tist and Engineer's Guide to Digital Signal Processing(科学者および技術者のため
のディジタル信号処理の指針), California Technical Publishing, San Diego, CAを参
照のこと。このようなFIRフィルタは、100〜250個の係数を有し、必要に応じて
1000個以上の係数を有することもできる。
【0031】
別の実施形態では、RPおよびRIP信号のフィルタが非呼吸信号の測定可能な特性に
調節するか、またはこれに適合すると、特に移動性内容の場合に、呼吸信号の非呼吸信号
からの分離の改善に至ることがわかっている。このような別の「オープン・ループ」型実
施形態の1つでは、異なる通過帯域を有する複数のフィルタの1つ(または通過帯域が調
節可能な単一のフィルタ)を、加速度計信号から決定される運動または活動特性に応じて
、場合毎に選択する。運動および活動が活発になるに連れて、モーション・アーチファク
トは一般に低い方の周波数まで延びていくことが分かっているので、このような実施形態
では、運動または活動強度が増加(減少)するときには、通過帯域が短い(長い)フィル
タを選択することができる。運動活動は、例えば、フィルタ処理した最新の加速度計信号
の根二乗平均として判定することができる。
【0032】
図3Bは、このような実施形態の1つを模式的に示す。ここでは、フィルタ特性54(
図3Aにおける特性54と同様)が選択されるのは、被験者の運動が殆どまたは全くない
ときであり、約1.1〜1.2Hzから1.3〜1.4Hzまでにロール・オフ帯域を有
するフィルタ特性58が選択されるのは、被験者に平均的な運動がある場合であり、被験
者に大きな運動がある場合には、約0.9Hzから1.1Hzまでにロール・オフ帯域を
有するフィルタ特性60を選択する。ある種の被験者では、約0.1〜0.2g(重力加
速度)未満の過渡被験者加速度が、被験者に殆どまたは全く運動がないことを示し、約0
.1〜0.2gから0.3〜0.5gの過渡加速度が平均的な運動を示し、約0.3〜0
.5gを超える過渡加速度が大きな運動を示す。この実施形態は、3組以上のフィルタ重
み係数を予め計算し、1つ以上の加速度計またはその他の運動センサからの過渡入力の(
RMS)平均振幅にしたがって係数集合から選択することによって実現することができる

【0033】
更に適応的な実施形態も、適応信号処理または信号推定の既知の原理にしたがって構築
することができる。非呼吸信号成分を抑えるために適応的に構築した実施形態の1つでは
、フィルタ処理した加速度計データと、モーション・アーチファクトによる信号成分との
間の相関、およびECGまたはパルス酸素計信号からの心拍データと、心臓成分(cardiac
component)による信号成分との間の相関を利用する。更に、加速度計の信号は、RPま
たはRIPの呼吸成分とは無関係である。同様に、心拍データも呼吸成分とは総じて無関
係であるが、呼吸によって誘発される脈拍の変動(variability)および振幅による何らか
の相関がある場合もある。モーション・アーチファクトは、時々刻々の適応処理、または
加速度計信号をノイズ信号基準として用いてRPまたはRIP(あるいはその他の)信号
をフィルタ処理する(このようなフィルタ処理は一般にディジタルである)ことによって
抑えることができ、一方心臓信号は、一般に、心拍データをノイズ信号基準として用い、
更に時々刻々の適応処理またはフィルタ処理を行えば抑えることができる。適応干渉抑制
手順が、当技術分野では公知であり、信号および多数のノイズ源双方に適用可能である。
適応処理は、好ましくは、LMSアルゴリズムに基づく。例えば、Widrow eta al. 1985,
Adaptive Signal Processing(適応信号処理), Pearson Education, Singapore、特に
第12章(適応的干渉相殺)を参照のこと。
【0034】
個々の被験者毎にフィルタおよび適応パラメータを個別化することが好ましい場合が多
い。例えば、競技者についてのこのようなパラメータは、心肺疾患を患っている者とは異
なると思われる。個々のパラメータは、較正期間において被験者に種々の選択した強さの
運動または活動を行うように命令し、この期間における測定から決定すればよい。

5.2.4 呼吸信号の較正
ディジタル化したRP信号は、非呼吸成分を抑えるためにフィルタ処理されていること
が好ましく、次にこれらを較正する(29)。この処理は、これらの信号、好ましくは、
RCおよびAB RIPセンサの処理済み出力を組み合わせ、実際の時々刻々の肺容積(
ここではVtで示す)に比例する別の信号を生成する。2つよりも多いRPセンサからの
データが使用可能な場合、先のディジタル化およびフィルタ処理を全てのセンサ信号に対
して行うことが好ましく、全ての信号に対する線形当てはめにより、肺容積に比例する単
一の信号を決定するために、容易に分かる方法でこの較正ステップを拡張する。このステ
ップおよび後続のステップは、センサ信号を受け取る毎に実行することができ、あるいは
信号を用いて後から実行してもよい。
【0035】
二区画呼吸モデルによれば、以下の線形組み合わせにより、時々刻々の肺容積に比例す
るVt信号が得られる。
【0036】
【数1】

【0037】
(あるいは、RCおよびABの全体的に線形の組み合わせを用いてもよい)。実際の呼吸
空気体積(または流量)の測定値が使用できるのであれば、Vtを更に較正して、実際の
肺容積(ここではVolで示す)を密接に反映する信号とすることができる。Volは、Vt信
号の線形スケーリングによって得ることができる。
【0038】
【数2】

【0039】
Mはこれら実際の空気体積の同時適正較正Vt信号に対する比率への最良の当てはめで
ある。実際の空気体積の測定は、移動性内容には好ましいバッグ(rebreathing bag)、肺
活量計、統合呼吸気流計等を用いて測定することによって行うことができる。被験者には
、ある回数(例えば、3〜10回)の呼吸の間、最大限息を吸入し、そして最大限吐き出
し、バッグ(例えば、800mlの)を最大限へこませ、次いで最大限膨らませるように
命令する。次いで、例えば、最少二乗当てはめによって、既知のVolおよび較正したVt
信号からMを求めることができる。
【0040】
図5Aは、静止時における安定した呼吸の間に監視した実際の被験者から得たRCおよ
びAB信号の一例を示す。以下で説明する方法で決定したKを用いて、これらの信号を組
み合わせて、図示のVt信号を得る。更に、Vt信号を調整(scale)してVol信号(図示せ
ず)にすることもできる。後続の処理の多くは、このVt信号(および/またはVol信号
)と、これから抽出した呼吸パラメータとに基づくことができる。

A.基本的な較正
Kは、好ましくは、改良した定量的診断較正(QDC:Quantitative Diagnostic Cali
bration)手順によって決定する。まず、基本的QDCについて説明し、次いで、改良し
た手順の説明が続く。例えば、米国特許第6,413,255号および第4,834,1
09号、ならびにSchaf (ed.), 1989, Heart Lung Interactions in Health and Disease
(健康体および病患体における心肺相互作用), (ISBN 082477986X), pp676-678を参照の
こと(ここで引用したことにより、あらゆる目的に対して全てが本願にも含まれるものと
する)。
【0041】
基本QDCは、後続の監視において目立つ挙動状態を表す挙動状態において正常に呼吸
する被験者によって測定したRCおよびAB信号から、Kを決定または較正する。例えば
、睡眠の研究では休止仰臥(rest supine)、移動の研究では安定した歩行中の較正である
。大抵の場合、被験者は適正な呼吸および活動について、ならびに較正手順について命令
を受け、RCおよびAB信号自体によって、または同時加速度計信号によって、遵守を確
認することができる。較正測定は、好ましくは、少なくとも100回の呼吸(約5分)を
含み、更に好ましくは250回の呼吸(約10〜15分)、そして更に一層好ましくは、
それよりも多い呼吸(1時間および1200回の呼吸まで)を含む。較正測定期間が長い
程、特に、移動性の設定が実際に近い程、精度向上には有益である。信号は、モーション
・アーチファクトが比較的少ないか、あるいはフィルタ処理して抑えなければならない。
【0042】
次に、RCおよびAB信号における全ての吸入および吐出差を判定する。これは、各最
少信号とその直後の最大信号との間の差、および各最大信号とその直後の最少信号との間
の差である。少なくとも200から500(または2000まで)通りの差の集合が得ら
れなければならない。最後に、AB信号において測定した全ての吸入および吐出差の標準
偏差の、全てのRC信号において測定した全ての吸入および吐出差のSDに対する比とし
て、Kを推定する。式で表すと次の通りである。
【0043】
(数3)
K = SD (AB吸入および吐出差)/SD(RC吸入および吐出差)

B.較正の改良
Kの決定および較正を改良することにより、較正の目的で用いられるRCおよびAB信
号において測定した吸入および吐出差の集合の中にある異常値の排除を更に進める方法が
得られる。これらの較正方法は、振子空気現象、即ち、各肺または2つの肺間の内部呼吸
に依存するので、差が、小さい標準偏差で一定する周期性呼吸を表すように、差の集合か
ら異常な差の値を厳格に排除することは有益である。本発明者は、以下のマルチステップ
異常排除方法を発見した。
【0044】
改良した方法の一実施形態では、RCおよびAB信号において測定した全ての吸入およ
び吐出差の集合の平均および標準偏差(SD)を別個に判定する。次いで、平均から±3
SDよりも大きな差の値(第1異常値)を破棄し、吸入および吐出差の第1縮小集合を得
る。次に、これら吸入および吐出差の第1縮小集合の平均および標準偏差(SD)を判定
し、±2SDよりも大きな全ての差(第2異常値)を破棄して、RCおよびAB吸入およ
び吐出差の第2縮小集合を得る。RCおよびAB吸入および吐出差の第2縮小集合の平均
および標準偏差(SD)を判定し、平均から±1SDよりも大きい差を全て(第3異常値
)破棄し、RCおよびAB吸入および吐出差の最終集合を得る。次いで、これらの最終集
合を用い、前述の式にしたがってKを判定する。
【0045】
更に一般的には、この改良した方法は、異常値排除のステップを削減または増加する方
法や、差排除判断基準を有する方法も含む(排除判断基準は、後のステップ程、前のステ
ップよりも増々厳格になる)。例えば、安定性が高いデータには二ステップ方法を適用可
能であり、約±2.5SDおよび±1.5SDの排除判断基準を採用する。安定性が低い
データに適用可能な別の実施形態では、連続的な判断基準±4SD、±3SD、±2SD
、および最後に±1SDを採用した4つの排除ステップを有する。
【0046】
更に較正を改良するには、複数の較正係数集合(Kおよび任意にM)を採用する。各集
合は、被験者の特定の挙動状態に当てはまり、被験者がその挙動状態を取るときに用いら
れる。これが有益なのは、較正係数(複数の係数)が監視対象被験者の状態に依存するこ
とが観察されているからである。即ち、Kは、被験者の姿勢、例えば、仰向け、傾斜(rec
lining)、着座、および起立に影響され、更に被験者の活動の強さにも影響される(呼吸
速度に影響を及ぼすためである)。この改良の一実施形態では、較正に適したRCおよび
AB信号を時々刻々測定する。被験者には、周期的に較正プロセスを、例えば、30分毎
、1時間毎等で実行するように命令し、記録されるRPデータが、較正係数(複数の係数
)を判定し直すのに必要な較正情報を有するようにするとよい。また、恐らくはデータ記
録ユニット(図1における3)における入力によって、または加速度計データの処理から
、挙動状態の大きな変化が通知されたときに、被験者に較正プロセスを実行するように命
令してもよい。
【0047】
更に別の実施形態では、後続の監視期間中に予期されるそれぞれの挙動状態において、
被験者の監視の開始時に、呼吸較正(breathing calibration)を行う。例えば、呼吸較正
データは、被験者の仰向け、着座、静止起立、安定した歩行等によって得ることができる
。このデータから較正係数(複数の係数)を計算し、被験者の状態とインデックスさせる
。後に監視中に、加速度計(またはその他の運動検出器)の信号から、現在の挙動状態を
判定し、この現在の挙動状態に対応する所定の係数を用いて、ディジタル化しフィルタ処
理したRCおよびAB RPセンサ信を、Vt(および/またはVol)信号に組み合わせ
る。挙動状態−姿勢、および活動は、前述のように、フィルタ処理した加速度計信号から
判定することができる。
【0048】
更に別の実施形態では、最適線形推定技術、特に、カルマン・フィルタ技術を採用する
。ここでは、挙動状態によりインデックスした較正係数(複数の係数)(Kおよび任意に
M)の多数の集合が、線形呼吸モデルを形成する。このモデルに対する入力は、RP信号
、好ましくは、RCおよびAB RIPセンサ信号、ならびに、例えば、同時加速度計デ
ータから得られるような挙動状態の指標である。これによって較正された出力は、高い分
解能レベルで、時々刻々、監視対象被験者の現在の挙動状態に応答する。モデルの出力(
複数の出力)は、Vt(および/またはVol)信号であり、これを実際の測定値または現
在判定されているVt(またはVol)値と比較すればよい。したがって、カルマン・フィ
ルタまたは予測−補正技術は、当技術分野では公知のように、繰り返し適用し、相対的ま
たは実際の現肺容積の最適な推定値を得ることができる。例えば、Maybeck, 1979, Stoch
astic models, estimation, and control(統計モデル、推定、および制御), Academic
Press, New Yorkを参照のこと。更に、較正信号によって、適応技術を繰り返し適用し、
以前に決定したモデル係数を改良即ち洗練化することもできる。例えば、Widrow et al.,
1985, Adaptive Signal Processing(適応信号処理), Pearson Education, Singapore
、特に、第9章(適応モデリングおよびシステム同定)を参照のこと。

5.2.5 アーチファクトの認識および基準線の決定
次に、直前のRPまたはRIP信号の処理から得るのが好ましいが必ずしもそうとは限
らないVt信号、および任意にVol信号を更に処理し(図2における31)、呼吸パラメ
ータを決定し、(直前のフィルタ処理後に残っている)アーチファクトを排除し、呼吸事
象(例えば、咳、嘆息等)を認識する(図2における35)ために有用な呼吸パラメータ
に対して基準線値を確立する。Vt信号は、肺容積に比例し、任意の単位でよい。Vol信
号は、実際の肺容積変化を反映し、リットル単位とするとよい。また、元のディジタル化
しフィルタ処理したRPセンサ信号も、次の処理のために利用可能である。図4Aは、4
回の正常な呼吸の場合におけるVt信号の一例を示す(時間は右に向かって進んで行く)
。また、その時間微分信号dV/dt(図4AではdVtで示す)も示す。これは、公知の数値微
分法によって計算することができる。Vtは肺容積に比例するので、dV/dtは呼吸空気流
に比例する。
【0049】
これらの信号から種々の呼吸パラメータ、例えば、Vt信号において呼吸74について
のパラメータ、およびdV/dt信号において呼吸76についてのパラメータを得ることがで
きる。例えば、呼吸74の吸入体積78は、この呼吸のVt最大値(最終吸入体積)と、
直前のVt最小値(直前の最終吐出体積)との間の差であり、この呼吸の吐出体積80は
、この呼吸のVt最大値(最終吸入体積)とその直後のVt最小値(現在の最終吐出体積
)との間の差である。この呼吸のピーク吸引流(PIF)82は、dV/dtの最大値であり
、そのピーク吐出流(PEF)84はdV/dtの最小値である。更に別の呼吸パラメータ(
図示せず)に吸入/吐出率(IE率)があり、これは、呼吸の吸入時間のその吐出時間に
対する比率であり、吸入時間とは、呼吸のVt最大値(最終吸入体積)とその直前のVt
最小値(直前の最終吐出体積)との間の時間であり、吐出は、呼吸のVt最大値(最終吸
入体積)とその直後のVt最小値(現在の最終吐出体積)との間の時間である。更に別の
呼吸パラメータも、これらのパラメータおよび入力信号から機械的に得ることができる。
【0050】
連続呼吸に対して決定した呼吸パラメータは、時間順に並べた値の系列を形成する。こ
れら呼吸パラメータの時間的系列は、Vt(および/またはVol )信号および任意に主要
センサ・データと共に、更に別の処理、特に、アーチファクトの除去、基準線の決定、お
よび呼吸事象の認識(図2における35)のために利用することができる。

A.アーチファクトの除去
アーチファクト呼吸およびそれから得られるパラメータを更に認識し、多くの場合は破
棄することが好ましい。このようなアーチファクトの認識は、呼吸信号解釈および生理学
の専門家が作成した評価を表す1つ以上の規則を適用することによって行うことが好まし
い。一般に、これらの規則は、既知の規則に基づく処理の枠組によって適用するとよく、
これにしたがって、規則エンジンが、コード化した規則を適用する。これによって、更に
別の規則を追加し、特定の規則集合を特定の用途に選択することもできる。以下の規則は
、広範囲で有用であることが認められている。
【0051】
第1の「異常値排除」規則は、極値パラメータによって呼吸を破棄する。図3Cは、特
定の呼吸パラメータの値の振幅のヒストグラム例であり、横軸上にパラメータの振幅、縦
軸上にパラメータ値の相対数を有し、対応するパラメータ振幅が測定シーケンスにおいて
見出される。通常、このようなヒストグラムによって、多数の小振幅事象と大振幅事象の
末端との間の広範な振幅範囲が明らかとなる。振幅閾値70よりも左側にある小振幅事象
は、大抵の場合、残留ノイズ、心臓、およびその他の非呼吸成分に起因する。振幅閾値7
2よりも右側にある大振幅事象は、大抵の場合、残留する運動および同様のアーチファク
トに起因する。したがって、第1規則は、低振幅閾値未満のパラメータ値、または大振幅
閾値よりも大きいパラメータ値によって、呼吸を破棄する。嘆息、咳等のような有効な呼
吸事象を破棄しないために、これらの閾値は、大抵の場合、平均または振幅ヒストグラム
のモードから約±3SD以上に設定する。
【0052】
ここでは、「25%未満規則」および「実在呼吸規則」として知られる更に別の規則が
ある。「25%未満規則は、吸入または吐出、あるいは双方の体積が所定の閾値未満であ
ることを、呼吸にマークする。マークされた呼吸は、以後の処理では考慮されず、これら
の期間から得られたパラメータ値は、破棄することが好ましい。好ましくは、所定の閾値
は、初期Vt較正に所定の比率を乗算して求める。初期Vt較正(Vt-cal)は、較正期間
中(または初期較正期間における5分間の窓内)に測定した吸入または吐出あるいは双方
の体積の平均である。したがって、Vt-calを求めるために用いられる体積は、単一ステッ
プまたはマルチステップの異常値排除を克服したそれらである。一般的に好ましい所定の
比率(r1)は、20%と30%との間にあり、更に好ましくは24%と26%との間に
あることが分かっており、以下では25%を用いる。しかしながら、この比率は、被験者
の測定値および評価を用いて低振幅アーチファクトを最良に認識することによって、被験
者毎に個別化するとよい。
【0053】
「実在呼吸規則」は、直前の最終吐出体積(直前の最少Vt)および現在の最終吐出体
積(直後の最少Vt)の差が固定比にVt-calを乗算した値未満である場合、呼吸がアーチ
ファクトよりも「真の」呼吸に近いと思われるものとして、呼吸に印を付ける。一般的に
好ましい固定比率(r2)は、200%と300%との間にあり、更に好ましくは240
%と260%との間にあることが分かっており、以下では250%を用いる。この場合も
、被験者の測定値および評価を用いて低振幅アーチファクトを最良に認識することによっ
て、この比率を被験者毎に個別化するとよい。

B.基準線の決定
次に、呼吸行為(performance)における偏差を評価する際に続いて用いるために、呼吸
信号およびパラメータ系列の基準線値を決定する。基準線値は、好ましくは、移動メディ
アン・フィルタ(moving median filter)によって決定する。これは、観察群の統計的中心
値を返すことが知られている。適用すると、メディアン・フィルタで処理された、呼吸パ
ラメータの現時点における値は、現時点を含む時間窓内で発生したこの1組のパラメータ
の値(有効であり、アーチファクトではない)の統計的中心値となる。
【0054】
窓は、変化に対する応答性(窓の大きさが小さい程高い)と、ノイズおよびアーチファ
クトに対する不感性(窓の大きさが大きい程高い)との間の折衷案として選択する。各パ
ラメータは、異なるレートの変化、ノイズ特性、アーチファクト感度等を有する可能性が
あるので、パラメータ毎に別個に窓特性を選択することが有益である。一般に、好ましい
窓の大きさは、1から1.5〜3、そして5分までで様々な値を取り、1〜2分が大抵の
場合に相応しい。また、パラメータによっては、窓の位置が、現時点の時刻よりも進んで
いる場合、ここを中心とする場合、これよりも遅れている場合がある。例えば、1分を中
心とする窓は、一般に呼吸体積には有用であることがわかっているが、0.5分(約9回
の呼吸)窓(約0.5秒)は、一般に呼吸時間(例えば、吸入時間)に有用であることが
わかっている。また、個々の被験者に記録した信号の特性にばらつきがあるような場合、
これらの被験者の窓特性を個別化すると有益であると考えられる。

5.3 事象の認識
呼吸事象は、呼吸信号の時間的経過、および既に決められている呼吸パラメータの系列
から認識する。本発明は、呼吸停止37、減呼吸39、嘆息41、咳43、および発話4
5の、多くの場合1つよりも多い方法による、自動事象認識35を含む。追加の事象も、
同様に、信号およびパラメータ系列から認識することができる。信号および処理済み医療
データの、担当介護士による手作業での検討が、患者に適正な方策を求めるために必要と
なる場合が多い。

5.3.1 呼吸停止認識
1つ以上の呼吸体積パラメータ、吸入、吐出、または一回換気量が、所定の閾値に当該
呼吸パラメータの現中心基準線(running median baseline)を乗算した値よりも小さい場
合、呼吸がほぼない期間を呼吸停止として認識する。呼吸パラメータの現中央基準線は、
現在の呼吸よりも前の1から5分の窓を用いて決定することが好ましい。好ましくは、所
定の閾値は、1と50%との間であり、更に好ましくは、15と30%との間である。更
に、呼吸減少期間が、5および60秒の間の所定期間、更に好ましくは8および20秒の
間続くはずである。多くの被験者では、2分の窓、25%の閾値、および10秒の期間と
すると、適当な呼吸停止認識が得られる。これらの値は、過去の監視データを参考にして
、個々の被験者毎に個別化するとよい。
【0055】
呼吸事象の呼吸体積パラメータが基準線よりも25%以下の場合、以前のアーチファク
ト除去ステップによって破棄されている可能性があるので、代わりに、2回の真の呼吸(
直前の章を参照のこと)が5秒よりも長い時間と60秒よりも長い時間との間、更に好ま
しくは合計時間が8秒よりも長い時間、更に一層好ましくは10秒よりも長い時間である
場合に、呼吸停止を認識してもよい。呼吸停止期間は、呼吸パラメータの現中心値から除
外することが好ましい。
【0056】
図5Bは、実際に睡眠中の被験者から観察した呼吸停止期間の一例を示す。時点110
および112の間、呼吸体積が実質的に直前の基準線の25%未満となったことが容易に
分かる。時点110および112の間の時間は、約19秒である。

A.呼吸停止分類
呼吸停止は、概略的に、閉鎖性呼吸停止(気道の閉鎖)、中枢性呼吸停止(central apn
eas)(CNS呼吸駆動の減少のため)、または混合呼吸停止(閉鎖および駆動減少の要素
による)に分類することができる。この判断基準にしたがって認識された呼吸停止は、追
加のパラメータを用いて、呼吸位相関連(「ePhRL」または「位相関連」として知られて
いる)、および呼吸努力評定(「努力」)(respiratory effort rate)を生ずるとして、
分類することができる。
【0057】
位相関連は、呼吸毎に、ディジタル化しフィルタ処理したRCおよびAB信号を参照す
ることによって決定する。RCおよびABは、双方の信号が同じ方向の移動を反映し、双
方が吸入の間増加するか、吐出の間減少すれば、同相(または協調されている)と考えら
れる。これらの信号は、逆方向の移動を反映する場合、位相外れ(または非協調)と考え
られる。この位相関連の好ましい数値尺度に、RCおよびAB信号が位相外れになってい
る呼吸の時間の割合がある。ePhRLが約40%未満である場合、正常な呼吸から軽い呼吸
非協調を意味し、約40%よりも大きい値は、中程度から激しい呼吸非協調を意味する。
したがって、閉鎖性呼吸停止は、1に近い割合によって特徴付けられ、中枢性呼吸停止は
正常に近い割合によって特徴付けられる。低および高割合を分離するために好ましい閾値
は、20%と60%との間であり、一般に40%が相応しい。閾値は、個々の被験者毎に
個別化するとよい。
【0058】
また、図5Bもこれらの呼吸位相関連を示す。図示した呼吸停止期間の外側、即ち、時
点110以前および時点112以降に、この図の観察では、RCおよびAB信号が同相と
なり、双方とも、ePhRLが正常な範囲内で、吸入および吐出において一緒に移動している
。呼吸停止期間、時点110および112の間、これらの信号は位相外れとなり、RCは
吸入しようとし、一方ABは吐出しようとし、あるいはその逆であり、ePhRLは1.0に
近く、閉鎖性プロセスを意味する。
【0059】
努力評定とは、呼吸努力の評定であり、呼吸努力は、呼吸体積パラメータが、当該パラ
メータ対する現中央値(running median)の1%および25%の間であることによって認識
される。好ましくは、呼吸努力は、一回換気量が現中央値の一回換気量の5%および25
%の間であることによって認識され、中央値は、好ましくは、先行する2分窓から取る。
呼吸努力評定に対する基準線は、中央呼吸評定であり、中央値は先行する10回の呼吸の
窓からであることが好ましい。
【0060】
これら追加のパラメータに関して、呼吸停止期間を、ePhRLが約40%よりも大きく、
呼吸努力評定が基準線呼吸の約75%よりも大きい場合に、閉鎖性に分類することが好ま
しい。呼吸停止期間は、ePhRLが約40%未満である場合、あるいは呼吸努力評定が基準
線の約0から25%よりも低い場合に、中枢性に分類する。

5.3.2 減呼吸認識
減呼吸期間は、呼吸停止認識に用いた呼吸パラメータによって、減呼吸と認識すること
ができるが、閾値は緩和されている。好ましくは、減呼吸、即ち、減少呼吸は、現呼吸に
先行する1から5分の期間を有する窓からの現中央値との比較によって認識する。好まし
くは、所定の閾値は20および80%の間であり、更に好ましくは、現中央値基準線の2
5および50%の間である。呼吸停止認識におけると同様、減呼吸の期間は、5および6
0秒、更に好ましくは8および20秒の所定期間続くはずである。多くの被験者では、2
分の窓、50%未満で25%よりも大きい呼吸体積閾値、および10秒の期間によって、
適切な減呼吸認識が得られる。これらの値は、過去の監視データに鑑み、個々の被験者毎
に個別化するとよい。
【0061】
減呼吸期間は、呼吸停止と同様の分類のように、閉鎖性、中枢性、または混合に分類す
る。減呼吸期間は、呼吸パラメータの現中央値に含まれることが好ましい。

5.3.3 嘆息認識
本発明は、嘆息も認識する。嘆息の頻度が普段よりも多い場合、心配事に対する反動ま
たは鬱状態のような、心理学的窮状を意味することが多い。心配事は、肺疾患の間に起こ
る呼吸困難の期間に増加することが多い。
【0062】
最初に、モーション・アーチファクトを除外するために、嘆息は、吐出期間が好ましく
は0.25から3秒の範囲を有する所定の閾値よりも大きい、真の呼吸(直前の章で定義
した)であるとする。好ましい閾値は約1秒であり、個別化してもよい。これらの要件を
満たす呼吸は、その吸入または吐出あるいは一回換気量が所定の閾値に現中央点基準線値
(好ましくは、先行する2分窓から判断する)を乗算した値よりも大きい場合、嘆息であ
ると認識する。Vtの好ましい閾値は、例えば、100および1000%の間であるが、
多くの被験者では、閾値を約250%とすると、適切な嘆息の認識が得られた。この閾値
は、過去の監視データに鑑み、個々の被験者事に個別化してもよい。
【0063】
図4Bは、実際の被験者から記録したデータにおける嘆息90を示す。ここでは、Vt
90が現中央値Vt基準線の約600%となっている。この嘆息は、空気流信号dV/dtに
おいても、容易に視認できるピーク92として表されており、このピークは、呼吸体積の
増大を比例的に反映し、確認する。

5.4 発話認識
監視対象の被験者が発話しているか否かの認識は重要である。何故なら、発話は、呼吸
、心臓、およびその他の生理的信号の意味を限定する内容を規定することが多いからであ
る。発話中における生理的活性化(physiological activation)の量および質は、音の大き
さや迅速性のような、認知的、感情的、そして多くの場合関連する身体的要因に依存する
ことは知られている。これらは、発話および誘出される感情を引き起こす交流(interacti
on)の社会的および相互人間的な質によって変動する可能性がある。したがって、発話の
生理的効果は、秘匿対公開設定、つまらない会話対魅力のある会話、および軽い会話対論
争のような討論では異なると思われる。個性、社会的不安、内気等は、これらの反応に影
響を及ぼすが、移動性設定においては現在では利用されていない。日常生活における殆ど
の社会的交流は発話を伴い、発話の発生を監視することによって、社会的交流を定量化す
ることができる。ある不規則性は、社会的行動の増加(例えば、熱中)または減少(鬱状
態)によって特徴付けることができる。社会的隔絶が高齢者において頻繁に観察され、自
律神経系の機能の望ましくない変化に関連することが示されている。
【0064】
発話は、一層複雑で潜在的に個別の行動であり、対応して呼吸に影響を及ぼし得るので
、この章では最初に発話認識に適したパラメータおよび閾値を決定できる概略的な方法を
、続いて健康な被験者群への適用を紹介する。

5.4.1 パラメータおよび閾値の決定
本発明は、個々の被験者および同様の被験者群において発話を認識するためのパラメー
タおよびそれらの閾値を選択する系統的な方法も提供する。以下では発話に関して記載す
るが、これらの方法は、咳、嘆息などのような他の呼吸事象を認識するための代わりのパ
ラメータを選択するためにも適用することができる。一般に、これらの方法では、種々の
発話および非発話状態における測定、次いで測定データの処理による、発話(またはその
他の呼吸事象)の認識に最も適したパラメータおよび閾値の決定を伴う。
【0065】
したがって、第1ステップでは、意図した被験者、または意図した被験者群の代表に、
発話活動および非発話活動に加わるように命令する。非発話活動は、着座、休憩、歩行、
軽い活動等を含むことができる。発話活動は、これら非発話活動によって達成されても、
されなくてもよい。更に別の発話活動は、種々の社会的設定、例えば、朗読または多人数
の会話において発生することもある。呼吸信号およびパラメータの移動性RIP記録は、
これら様々な種類の活動の間に行われ(好ましくは前述のように)、測定値を分別し活動
毎に分ける。
【0066】
種々のパターン認識および分類技法を集合化データに適用し、データ群を適した精度で
区別することが可能なパラメータおよび値のパターンを識別することができる。生理的内
容を得るために発話を認識するのに適した精度は、20%および10%以上の間の偽陰性
または陽性率とすることができる。他の用途では、別の精度レベルを要求することもある
。パターン分類技法は、分散技術の再帰、判別、および分析のような統計的手法、あるい
は、例えば、k−平均クラスタリングまたはニューラル・ネットワークによる自動集合化
または整列を含むことができる。例えば、Duda et al, 2000 2nd ed., Pattern Classifi
cation(パターン分類), Wiley Interscience, New Yorkを参照のこと。好ましい出力は
、単一のパラメータまたは数個のパラメータの関数、および発話または非発話の認識、そ
して任意に発話種類の認識に用いることができる閾値である。

5.4.2 発話認識
この方法は、移動性被験者からのRIP記録における発話期間および非発話期間を認識
するためのものである。一般に、線形判別分析から、数個の単一パラメータ、および2〜
4個のパラメータの線形結合を識別し、1〜15%レベルの偽陰性または陽性認識精度が
得られる。これらのパラメータおよび組み合わせは多大な計算を必要とせず、数時間から
半日以上の移動性記録に定期的に適用することができる。
【0067】
好ましい認識パラメータは、吸入/吐出(IE)率、分別吸入時間(fractional inspir
atory time)、吸入流量、および吐出時間、ならびにこれらの変種の線形結合および割合
係数を含む。これらのパラメータは全て発話を検出する際に良く機能したが、IE率、即
ち、吸入時間の吐出時間に対する比率(約0.52の閾値による)は、他よりも一貫性が
あり、最も好ましい。この単一パラメータの利点は、以下を含む。1)例えば、吸入流量
のような体積較正を必要としないので、測定が容易である。2)個々の呼吸毎に判定する
ことができるが、変動性パラメータ(variability parameter)は少なくとも1分の測定期
間を必要とする。このような発話認識については、第6章において更に説明する。
【0068】
カットオフを0.52に固定したIE率は、健康な人々には最も好ましいが、ある種の
他の母集団、例えば、慢性閉塞性肺疾患または喘息の患者には、異なるIE率のカットオ
フ、あるいは異なるパラメータまたは結合さえも必要となる場合もある。更に、発話認識
パラメータは、他の母集団に対して個別化することができ、同じ方法、例えば、線形統計
分析を用いる個人でさえも、個別化することができる。

5.5 呼吸困難およびFEVの監視
本発明は、医療上重要である患者の呼吸困難およびFEV/VC双方に対する指標お
よび代用品(surrogate)を連続的に監視する方法を提供する。

A.呼吸困難の監視
呼吸困難は、困難なまたは苦しい呼吸の間隔、呼吸停止の感じ、または呼吸努力が完全
に満たされないという体感であり、多くの人によって、肺過膨張の直接または間接的な結
果であると考えられている。過膨張は、換気効果と実際の吸気との正常な関係、または吸
気の知覚を乱し、患者が呼吸しようとしても、意図した空気量が移動しない。例えば、過
膨張は、横隔膜の静止時の長さを変化させ、肋間筋肉をそれらの最適範囲の外側に変化さ
せ、発生する力を弱め、これによって所与の神経呼吸駆動に対する空気流も減少させる。
【0069】
呼吸困難は、喘息の患者または慢性閉塞性肺疾患(COPD)、例えば、肺気腫および
慢性気管支炎の患者には一般的であり、これらおよびその他の疾患の評価および管理には
重要な兆候である。喘息は過膨張に至る虞れがある。何故なら、関連する気管支収縮が気
道の抵抗を著しく高め、COPDもそうする可能性があるからである。何故なら、関連す
る肺容積弾性係数の増大が、肺の反跳を減少させ、こうして空気流が制限されるからであ
る。これらの状態が悪化すると、空気流は、呼吸駆動の増大には正常に応答しなくなり、
心配になり、場合によっては恐怖に陥る。
【0070】
呼吸困難は、主観的な評価であり、患者に質問することによって、現在は評価している
。しかし、患者は質問の繰り返しにうんざりしたり、呼吸停止の感覚に慣れてしまうこと
もある。したがって、換気駆動の客観的尺度が呼吸困難の感覚に繋がることが示されれば
、医療的に貴重であろう。所与の活動レベルにおいて、このような換気駆動尺度は、比較
的一定でなければならず、したがって換気駆動の増大は患者の困難を示すことになる。
【0071】
本発明は、呼吸困難に関連する通気努力のこのような客観的指標を提供するが、重要な
のは、これが、前述のVtおよび/またはVol信号から容易に決定可能な呼吸パラメータ
に依存するということである。好ましい呼吸困難指標は、微小換気体積(VE)のピーク吸入
流量(P1F)に対する比率、即ち、比率VE/PlFである。この比率は、最終肺容積(EELV
)が増加するに連れて、即ち、進行する過膨張と共に高くなり、したがって、先に論じた
ように、呼吸困難と関連付けられる。図6は、肺過膨張に対するVE/PlFの依存性を実証す
る。ここでは、過膨張は、正の終端吐出圧力(PEEP)である10cmHOに被験者
を置くことによって誘発させた。PEEPが開始した後、被験者の肺が正の終端吐出圧力
によって膨張すると、EELVは劇的に約3リットル増加し、PEEPが終了した後、E
ELVは正常に戻り始める。EELVの増加(過膨張)に伴う力学的変化によって、空気
流がVに減少する。次いで、被験者は、呼吸神経駆動を横隔膜および肋間筋肉に対して
増大させることによって補おうとして、PlF(空気流)の増加に至る。したがって、VE/Pl
F比は、ここでは、少なくとも1/3に減少する。このように、過膨張は、呼吸困難に伴
い、VE/PlFの減少を招く。
【0072】
要約すると、VE /PlFは、呼吸筋肉効率および呼吸停止のインデックスとして役立つ。
これは、Pif/Vtによって測定した呼吸中枢からの駆動を、通気によって測定した呼吸系の
出力に繋げる。動的肺過膨張のために非効率的な呼吸筋肉収縮を有する患者では、この比
率が低下するように、通気のいずれの変化に対しても不釣り合いな程度まで呼吸駆動を増
加させる。
【0073】
被験者のVE /PlF比は、本発明のシステムおよび方法によって、連続的に、またはほぼ
連続的に、または間欠的に、あるいは偶発呼吸困難や規定した診断閾値のように、必要に
応じて、容易に監視することができる。VEは、1分のような時間期間に発生する吸入また
は吐出体積(図4Aにおける78および80)の和として、または平均吸入または吐出体
積の呼吸速度との積によって容易に決定することができる。PlF(図4Aにおける82)
は、呼吸体積曲線の導関数として決定することができる。VE/PlF比の値は、これらのパラ
メータを、肺容積に比例するVt曲線から測定したのか、または実際の肺容積の変化を反
映するVol曲線から測定したのかには実質的に依存してはならない。更に、VE/PlF比の閾
値は、母集団または個人のいずれについても決定することができる。例えば、第1閾値を
主観的な呼吸困難のいつもの開始時に選択することができ、第2閾値を危険な可能性のあ
るレベルの呼吸困難の開始時に選択すればよい。

B.FEVの監視
FEVとして知られる1秒間の強制吐出体積は、気道の妥当性および開通性の尺度と
して容認されている。この標準的な測定を行うには、被験者に、できるだけ迅速に最大肺
容積(最大吸入の後)から最大努力で吐出させ、残留容積までずっと続ける。肺疾患およ
びその進行の重要な指標の1つは、FEVの肺活量(VC)に対する比率、即ち、FE
/VCである。通例、健康な被験者の比率は少なくとも80〜85%であり、一方喘息
またはCOPDの被験者のFEV/VC比率は70%以下である。この値は、COPDが
悪化するに連れて、または喘息の発作が始まり進行するに連れて低下する。
【0074】
FEV/VCは広く用いられ信頼されているが、この比の測定は、間欠的であっても疲
れる。FEVは、概念的には単純であるが、被験者からの最大の努力を要求する。同様
に、単純であるが、VCの測定では、被験者が完全に吐出することを要求するが、これは
、肺容積が残留容積に近いと特に厳しい要求となる。したがって、FEV/VCの測定を
繰り返すことは、特に、そもそも被験者が肺に問題を抱えている場合には、重荷であり、
したがって、精度が低い場合が多いと思われる。したがって、通常の呼吸中に容易に測定
可能なFEV/VC(またはその切迫した変化)の代用物または指標があれば、広範囲に
わたって有効であろう。
【0075】
本発明の方法およびシステムは、組み合わせて発見した換気パラメータの連続的監視を
行い、現在のまたは切迫した気道障害の、高感度であるが侵襲性の低い尺度とする。これ
らの組み合わせは、一般に、FEV/VC比の代用または指標として用いることができる
。このような組み合わせの1つに、ピーク吸入流PlFの一回換気量VTに対する比率がある
。この比率、即ち、PlF/VTは、FEV/VCを反映するように流量の変化に対して感度が
高いことが発見されている。更に別の組み合わせは、ピーク吐出に達するまでの時間を吐
出時間で除算したものである。ピーク吐出に達する時間とは、吐出の開始(Vt信号の最
大値)からdVt/dtの最小値(最大外方空気流)までの時間であり、吐出時間とは、吐出の
開始から終了までの全時間である。多数の線形回帰によって評価されている、20%より
も大きなFEV1.0の変化を追跡する変数の更に別の組み合わせ(感度および特定性は0
.90に等しく、ROC分析は、0.89の曲線(AUC)の下のエリアを解明した)に
は、吐出周期性流量のピーク対平均の比率(PEF/MEF)、一回換気量に対する胸郭の寄与(
%RC)、および胸腹収縮不同時性による吐出時間の分画(fraction)がある。これらのパ
ラメータを、本発明のシステムおよび方法によって既に説明したように連続的にまたは間
欠的に監視すれば、PlF/VT、PEF/MEF、%RC、および胸腹収縮不同時性による吐出時間
の分画の呼吸毎の分析が可能となる。
【0076】
これらのパラメータおよび指標は、既に説明したVt(および/またはVol)信号の処
理の検査から容易に判断できる。したがって、これらの指標は、患者の努力や、不適当な
患者の努力に伴う要因が混同する可能性には無関係に、気道の障害を監視することを可能
にする。その結果、この努力に無関係な気道開通性の評価は、実際の疾患や慢性疾患中の
危機における気道変化の開始または初期段階を示す、早期警告を与えることができる。

5.6 咳検出方法
これは、咳検出および分類方法(図2における43)の代替実施形態を含む。咳の検出
は重要である。何故なら、例えば、咳の頻度が高まることは、心不全を伴うことが多い、
実際の肺水腫の早期兆候でもあるからである。一般に、これらの方法を進めると、AB、
RC、およびV信号を含む入力呼吸パラメータからの呼吸事象候補、ならびに任意に音
声入力からの音響事象候補を認識する。次いで、呼吸事象候補および関連する音響事象候
補の特定の組み合わせから咳事象を検出する。咳の種類および重大度は、呼吸および音響
事象パラメータの値によって判別することができる。

5.6.1 第1の咳認識方法
第1の咳検出方法によれば、咳は、好ましくは、0.25から3秒の範囲を有する所定
の閾値よりも長い吐出期間によって、真の呼吸と認識しなければならない。有用で好まし
い閾値は、約1秒であり、個別化してもよい。次いで、これらの判断基準を満たす呼吸を
、咳として認識するのは、そのピーク吐出流(PEF)が、先行する二分窓から判定した
現中心基準線PEF値の所定の閾値よりも大きいときである。好ましいPEF閾値は、現
中心基準線PEF値の100%と1000%以上との間である。多くの被験者について、
PEF閾値を約250%よりも大きくすると、適切な咳の認識が得られた。この値は、過
去の監視データに鑑み、個々の患者毎に個別化してもよい。
【0077】
図4Cは、実際の被験者から記録したデータにおける2回の咳94および98を示す。
PEFは、dV/dt曲線から判定する。この曲線では、同じ2回の咳96および102が、
短く鋭い呼気として容易に視認可能である。ここで、咳96に対するPEFは現中心PE
F基準線の約400%であり、一方咳102については、PEFは基準線の約380%で
ある。

5.6.2 代わりの咳認識方法
図7は、特定的に音響入力を咳検出の補助として組み込んだ、代わりの咳検出方法を示
す。この副章におけるこの図以降では、入力データおよび派生データを、多くの場合以下
の略語で示す。
【0078】
【表1】

【0079】
要約すると、図7は、最初に、高周波数ノイズおよび低周波数移動アーチファクトを更
に抑える(未だ十分に抑えられていない場合)ように設計された2つの帯域通過フィルタ
によって、帯域通過のフィルタ処理をVtおよびAB信号に施すことを示す。フィルタ処
理した信号のピーク・ピーク電力(または呼吸振幅、即ち、最大吐出および最大吸入の差
)が既定の閾値−Tを超過している場合、呼吸および音響信号双方を更に詳しく検査して
、咳事象の存在を検出する。
【0080】
音声信号(例えば、咽喉マイクロフォンからの)を発話認識フロント・エンドで処理し
、音声事象が有声または無声音声を含むか否か判定を行う。この判定に重要なのは、派生
信号PITCHmである。これは有限期間におけるピッチ値の平均である。被験者が発話してい
るかまたは会話に加わっている場合、この平均レベルは大きく上昇するはずであり、咳の
場合には上昇しないはずである。ピッチ値を計算するには、ケプストラムまたはメル周波
数ケプストラム係数(MFCC:Mel Frequency Cepstral Coefficient)内にあるピーク
・ピーク電力を測定する。別の重要な派生信号に、PITCH信号がある。音響信号処理から
出力されるのは、図9におけるEVT形跡によって示されるようなパルスであり、タイミン
グおよび期間は、入力音響データにおいて検出される有意の音声事象のそれに等しい。
【0081】
音響事象がない場合、咳は検出されない。音響事象がある場合、その期間によって、フ
ィルタ処理した呼吸信号のどれを咳痕跡検出器に印加すべきか判断する。音響事象の期間
が比較的長い場合(即ち、中心有意音響事象(median significant sound event)よりも長
い)、例えば、≧600ミリ秒の場合、低周波数帯域通過フィルタ処理した呼吸データLF
Bを、咳検出器によって分析する。音響の期間が比較的短い場合、即ち、中心有意音響事
象よりも長い)、例えば、≦600ミリ秒の場合、高周波数帯域通過呼吸データHFBを分
析する。この信号選択は、移動およびモーション・アーチファクトの適切な濾過に繋がる
ので、咳の痕跡を一層明確に検出できることが分かっている。種々の咳の痕跡を、後に図
9、図12A、図12B、図13A、図13B、図14Aおよび図14Bに示す。

5.6.3 ステップの詳細−ディジタル・フィルタおよびピーク電力の判定
一回換気量形跡Vtは、RCおよびAB帯域の線形加重和であり、並列な2つのFIR
帯域通過フィルタを通され、(フィルタ処理した信号の最大値が反映する)ピーク電力を
測定して、可能な事象の存在を判定する(ピーク電力が閾値Tを超過した場合)。入力呼
吸信号のフィルタは、好ましくは、有限インパルス応答(FIR)設計であるが、位相ず
れや時間遅延を最少に抑えた無限インパルス応答(IIR)フィルタを用いてもよい。こ
こでは、対応する音響信号と時間的に一致したままでいるように、呼吸信号の位相が十分
に落ちついていなければならない。
【0082】
1024というフィルタ長は、十分に尖鋭な特性を得るのに好ましい長さとして決定し
た。図8Aおよび図8Bは、前述の低および高帯域通過フィルタの周波数および位相応答
を示す。表2.1は、これら好ましいそれぞれのフィルタのパラメータを纏めた。
【0083】
【表2】

【0084】
これらのフィルタは、MatlabTMFIR最少二乗法を、モデル次数(model order)102
4と共に用いて設計した。前述のフィルタのパラメータは、胸郭および腹部から取り込ん
だ十分な呼吸移動(RCおよびAB)を保持しつつ被験者の肉体の移動が可能な範囲で、
フィルタ処理するように選択する。

A.電力閾値
ピーク・ピーク電力は、ここでは正方向に向かう信号上の最大点から負に向かう信号上
の最少点までを測定したものと定義することが好ましく、咳事象候補がフィルタ処理した
呼吸信号の中にあるか否か判定を行うために用いられる。この閾値を超さない場合、有意
な咳があるとは見なされない。信号LFB、HFB、およびFABを測定してこの判断を
下す。FABはABをフィルタ処理した形跡からのフィルタ残余であり、RCおよびAB
が位相外れでVtに対して減算効果を有し、帯域内における真の成果(true effort)を減
少させる場合に有益である。閾値−Tは、漠然とした全体的に約200mlの吐出体積で
あるが、特定の個人の個々の母集団毎に調節することができる。

5.6.4 詳細なステップ−音声事象検出器
図9は、マイクロフォン入力の一例−形跡MICから得た、音響包絡線の一例−形跡S
Eを示す。音響包絡線は、全ての呼吸帯域と同じサンプリング周波数にダウン・サンプリ
ングすることが好ましい。これは、50Hzであることが好ましい。これによって、フィ
ルタ残余および呼吸信号の微分(derivation)の影響を最少に抑える。このダウン・サンプ
リングは、マイクロフォン・ストリームからの30サンプル毎の平均化を伴い、1500
Hzにおいてサンプリングして、50Hzの音響包絡線が得られる。
【0085】
次に、音声事象検出および期間判定のために音響包絡線を処理する。音声事象の開始が
認識されるのは、音響包絡線が、較正背景ノイズ閾値の倍数に決定してある閾値を超えた
ときである。好ましくは、ノイズ閾値は、長期間のマイクロフォン記録(240時間まで
を用いた)から較正し、音響包絡線信号の30のレベルを表す+1および−1の間の信号
の変動を監視することによって決定する。ノイズ閾値の2倍、即ち、60の値が、有効な
事象閾値であることが分かっている。音声事象が終了するのは、音響包絡線がノイズ閾値
未満(ここでは、30の値)に再度低下したときである。咽喉マイクロフォンを使用する
ことにより、背景ノイズの影響を最少に抑える。音声事象は、EVT形跡において、振幅
が10で期間が音声事象の長さに等しいパルスで印される。図9は、音声事象と、関連す
るHFB信号も示す。

5.6.5 ステップの詳細−咳痕跡検出器
有意な音声事象が、呼吸事象の可能性がある事象と一致した場合、これらの信号から1
つを、音声期間に応じて選択し、咳痕跡について更に分析する。有意な音声咳事象の期間
を判定した後、LFB信号またはHFB信号を更に分析して、咳痕跡の存在を調べる。分
析する通過帯域の選択を補助するために、音声事象咳期間を測定する。音声事象の期間が
短い場合、即ち、約600ms未満の咳事象の場合、HFB信号を分析する。何故なら、
咳事象は、短い程、高い周波数成分を有すると思われるからである(咳をより短時間で終
わらせるため)。逆に、咳の期間が長い程信号の周波数は低くなるので、咳痕跡検出のた
めにはLFB信号を選択する。
【0086】
図9のHFB形跡に典型的な咳痕跡を示す。咳痕跡は、HFBまたはLFBあるいは双
方の痕跡において、終末が鋭く(高ピーク吐出流に対応する)、続いて鋭い吸入が生ずる
ことが好ましい。この吸入は、咳事象に分類された音声事象に伴って発生する。HFBま
たはLFBが残す最も低いサンプル値は、関連する音声事象の中央領域近くに位置するこ
とが好ましい。中央位置は、音声事象の開始から音声事象期間の33%よりも大きく、事
象の終了から事象期間の33%未満の時点として規定する。更に、この最小値は、−T値
を超過し、当該事象の期間における中心サンプルのいずれの側にも一定の傾きを有してい
なければならない。この場合の−T値は、静かな呼吸または落ちついた呼吸と識別された
領域において計算した、個々の被験者についての平均呼吸体積に基づいて計算すればよい
。したがって、各サンプル間の差[x(n)-x(n-1)]は、痕跡の中心よりも前では負であり、
中心の跡および終了の前では正のはずである。ノイズは信号から濾過されており、計算に
影響を及ぼすことはない。
【0087】
更に、最小値のいずれの側においても、HFBまたはLFBの形跡の傾き(およびこれ
らの傾きの傾斜(gradient))は、以下の制約に該当することが好ましい。第1に、痕跡は
最小値の中心サンプルの各側において同様の傾きとほぼ対称であるとよい。中心サンプル
即ち最小値の各側における各傾きの終点は、信号が最大振幅に達し減少し始める前の点で
ある。これらの終点は、事象の終了の通過後または事象の終了前で、事象時間期間の50
%よりも長い時間期間を超過してはならない。これらの厳しい制約を適用することにより
、咳状事象を誤って検出する可能性は大幅に低下する。あるいは、閾値を指定し、ピーク
吐出流および連続するピーク吸入流がこの閾値を超えなければならないとしてもよい。

5.6.6 ステップの詳細−フロント・エンド処理
このステップは、音声波形を簡潔なパラメータ表現(好ましくは、周波数対置換の表現
形態)に変換し、咳の音響を発話音響と区別できるようにする。一般的に、前者の方が周
波数が低く、後者の方が周波数が高い。したがって、周波数関連閾値を簡潔な表現の中に
規定し、閾値未満の信号が咳の音響である可能性が高くなるようにするとよい。
【0088】
咳の呼吸痕跡を有する事象候補は、それに伴う音響事象が咳の音響を含むと判定されな
い場合、咳であると見なされない。逆に、咳の音響痕跡を有する事象候補は、それに伴う
呼吸事象が十分な咳特性を有していない場合、咳であると見なされない。代わりの検査で
は、咳−発話閾値よりも高い信号電力があっても、咳−発話閾値よりも低い信号電力が増
大すると、この音響事象を咳として受け入れる。事象候補は、PITCH値がある閾値よりも
高い場合も、真の咳とは見なされない。PITCH値がこの閾値の直ぐ下である場合でも、PIT
CHm値がこの閾値よりも高ければ、事象候補は咳とは見なされない。PITCHmは既定の時間
期間内における全てのPITCH値の平均である。これらPITCH値の平均がこの閾値よりも高い
場合、この事象の前後に発話があり、したがってこの事象は恐らく発話であると推測する

【0089】
発話音声信号の特性は、約10ミリ秒の時間増分の間固定であると見なされ、したがっ
てこのようなセグメントの間に分析を行う。発話信号の固定部分の一例を図11Aに示す
。長い期間では、発話信号特性は、異なる音声音響が生成されることを反映して、変化す
ることが確実である。短時間のスペクトル分析は、音声信号をそのように特徴付ける公知
の方法である。
【0090】
パラメータを用いて音声信号のピッチ特性を抽出し表現する技法には、線形予測符号化
(LPC)、メル周波数ケプストラム係数(MFCC)等のように、数種類ある。MFC
Cは、咳検出方法には好ましいことがわかっている。一般に、MFCCは、人の耳の臨界
帯域幅の既知の変形に基づいているので、これらの係数は、メル周波数目盛りで表され、
1000Hz未満の周波数では線形であり、1000Hzよりも高い周波数では対数表現
である。これらのフィルタは、発話の音素的に重要な特性を取り込む。

A.MFCCの判定
図10は、MFCCを計算する好ましいプロセスのフローチャートである。これは、1
500Hzでサンプリングした音声入力を処理する。このサンプリング周波数は、発話お
よび咳の成分を解明するために選択したものである。このプロセスの最初のステップ、即
ち、フレーム・ブロック化ステップは、連続する発話信号をNサンプルずつのフレームに
ブロック化する。隣接するフレームは、M個のサンプル(M<N)によって分離されてい
る。最初のフレームは、最初のN個のサンプルから成る。2番目のフレームは、最初のフ
レーム後のM番目のサンプルから始まり、N−Mサンプルだけ重複する。同様に、3番目
のフレームは、最初のフレームの後の2M番目のサンプル(即ち、2番目のフレーム後の
M番目のサンプル)から始まり、N−2Mサンプルだけ重複する。このプロセスは、音声
全体を1つ以上のフレームにブロック化するまで続ける。好ましいブロック化パラメータ
NおよびMは、N=64(〜40ミリ秒の窓処理(windowing)と同等であり、高速radix-2
FFTが容易に行われる)、およびM=32である。
【0091】
この窓処理ステップは、個々の各フレームを窓処理し、フレーム境界における信号の不
連続を最少に抑える。連続で円滑な窓を用い、各フレームの開始および終点において0に
なるように信号を徐々に低下させることによって、スペクトル歪みを最少に抑える。ウィ
ンドウをw(n)、0≦n≦N−1と定義すると、窓処理の結果は次の信号となる。ここで、
Nは各フレーム内のサンプル数である。
【0092】
【数4】

【0093】
好ましくは、本発明ではハミング・ウィンドウを用いる。これを次のように定義する。
【0094】
【数5】

【0095】
テキスト処理ステップは、高速フーリエ変換であり、N個のサンプルから成る各フレー
ムを時間ドメインから周波数ドメインに変換する。FFTは、離散フーリエ変換(DFT
)を実施するための周知のアルゴリズムであり、以下のように、N個のサンプルの集合{x
n}に対して定義する。
【0096】
【数6】

【0097】
一般に、Xnは複素数である。得られる系列{Xn}は、以下のように解釈される。ゼロ周波
数はn=0に対応し、正の周波数0<f<F/2は値1≦n≦N/2−1に対応し、負
の周波数−F/2<f<0はN/2+1≦n≦N−1に対応する。ここで、Fはサン
プリング周波数を示す。このステップの結果は、多くの場合スペクトル・ピリオドグラム
と呼ばれている。図11Bは、図11Aの信号のスペクトルを示す。
【0098】
次のステップは、メル周波数ラッピング (mel-frequency wrapping)である。精神物理
学の研究によって、発話信号に対する音響の周波数内容の人による知覚は、線形の目盛り
には従わないことが示されている。したがって、Hz単位で測定した実際の周波数fの各
トーン毎に、「メル」目盛りと呼ばれる目盛り上で主観的ピッチ(subjective pitch)を測
定する。「メル」目盛りは、1000Hz未満では線形周波数間隔を有し、1000Hz
を超えると対数的間隔を有する。基準点として、認知聴覚閾値(perceptual hearing thre
shold)よりも40dB高い、1kHzトーンのピッチを、1000メルと既定する。した
がって、以下の近似式によって、Hz単位で所与の周波数fについてメルを計算する。
【0099】
【数7】

【0100】
通常、主観的音声スペクトルのシミュレーションは、フィルタ・バンクによって行われ
、図11Cに示すように、メル目盛り上にフィルタを均一に離間して配置する。最初のバ
ンクは、三角形状帯域通過周波数応答を有し、間隔および帯域幅は、一定のメル周波数イ
ンターバルによって決定される。入力信号S(ω)のメル・フィルタ処理したスペクトルは
、したがって、S(ω)が入力であるときのこれらの周波数の出力電力から成る。メル・ス
ペクトル係数Kの数は、通例、18および24の間で選択する。尚、このフィルタ・バン
クは、周波数ドメインにおいて適用され、したがってこれは単に、図11Cの三角形状窓
係数に、図11Bの時間周波数スペクトルを乗算したに過ぎないことに注意すること。こ
の方法では、低サンプリング・レートのために、K=10メル・スケールのフィルタ・バ
ンクを、入力信号周波数スペクトルに適用することが好ましいことがわかっている。
【0101】
ケプストラム判定の最終ステップでは、対数メル・スペクトルを時間に逆変換し、メル
周波数ケプストラム係数(MFCC)を求める。発話スペクトルのケプストラム表現では
、所与のフレーム分析に対する信号の局部的スペクトル特性の表現が得られる。メル・ス
ペクトル係数(およびそれらの対数)は実数であるので、これらは、離散余弦変換(DC
T)を用いて時間ドメインに変換することができる。したがって、最終ステップの結果で
あるメル電力スペクトル係数をS~k, k=1,2,...,Kとすると、MFCCのc~nは次のように
計算することができる。
【0102】
【数8】

【0103】
尚、最初の成分c~0をDCTから除外すると好都合であることに注意すること。何故な
ら、これは話者特定情報を殆ど搬送しない入力信号の平均値を表すからである。
図11Dは、図11A〜図11Cに既に示した発話信号に対するケプストラム出力を示
す。咳および無声発話音響は、一般に、メル周波数閾値の1.5〜2を下回ることが分か
っている。有声発話が信号例にあることは明白である。何故なら、ピッチが高くなると、
信号電力がこの閾値よりも高くなるからである。PITCHm信号は、メル周波数スペクトルの
単純平均、または電力加重平均等として得ることができる。PITCH信号は、離散余弦変換
から得られる最大メル周波数ケプストラム係数として得られる。

5.6.7 咳の例
A.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、一般に、呼吸機能の漸進悪化に至る1群の肺障害の
ことである。肺への空気流を徐々に阻害するCOPDに共通する2つの原因は、気管支炎
および気腫である。慢性気管支炎では、気道が遮断され膨張し、気管支内にある粘液生成
腺が拡大し、過剰な量の粘液が肺内に分泌される。したがって、この形態のCOPDでは
、この過剰な粘液を排出するために咳をする必要性が高くなる。
【0104】
図12Aおよび図12Bは、システムに入力した音声およびビデオ入力、ならびにソフ
トウェア・アプリケーションで実施した本発明の方法によって特定したCOPD咳を示す
。HFBおよびLFB形跡は、図12Aにおける真の咳が、鋭い(短期間および大きい空
気流)吐出、およびそれに続く鋭い吸入によって特徴付けられていることを示す。更に、
音声事象が、咽喉マイクロフォン入力から検出され、低いピッチを有することを特徴とし
、咳の音響を含む可能性が最も高い。図12Bは、COPD患者からの数種類の咳でない
事象および1つの真の咳事象を示す。咳でない事象は、低ピッチ音響事象として見られ、
関連する呼吸上の咳指標(LFBまたはHFB信号における鋭い吸入および吐出)が欠如
していた。一方、真の咳事象は、伴う音響および呼吸事象が適正な特性を有することを特
徴とする。

B.膵胞性繊維症(CF)
膵胞性繊維症(CF)は、生命を脅かす多系統状態であり、主に肺および消化器系を冒
す。CFは、粘りのある粘液の分泌を招き、気道を閉塞し、気道から粘液を排出しようと
するために、頻繁に咳をする必要性が生ずる。咳をすると、粘液が緩み、呼吸が楽にでき
るようになる。
【0105】
図13Aおよび図13Bは、二人のCF患者からの咳を示す。関連する形跡、特にHF
BおよびLFB形跡の検査から、これらの咳は、COPDの咳よりも激しく、大きな振幅
および/または高い空気流を有することが明らかである。更に、振幅が十分なので、咳の
痕跡は、フィルタ処理しない一回換気量(Vt)の形跡において特定が容易である。

C.感染後の咳(PIC)
感染後の咳(PIC)は、上気道のビールス感染後に最もよく見られ、いかに粘液分泌
が増大しようと、それに係わらずに永続する炎症により、咳を誘発する。図14Aおよび
図14Bは、PIC咳を2例示す。

5.6.8 咳の重大度および分類
検出した咳事象は、更に、バンドパス・フィルタで処理した肺容積データ、LFBおよ
びHFB信号の特定的な特性を抽出することによって分析することもできる。この特性に
は、咳痕跡の深さ即ち振幅、および咳痕跡終端における反射吸入駆動(reflex inspierato
ry drive)が含まれる。咳の病理的原因の判別を可能にする尺度には、咳の深さの、安静
で緊張のないときの呼吸の特定した期間における、被験者毎に計算した平均吐出体積との
比率が含まれる。これによって、個別の較正に基づいて重大度を判定することができ、し
たがって肺疾患の判定に役立つ。更に、このような尺度には、咳事象中における吐出およ
び吸入体積双方の変化率が含まれる。更に別の処置は、咳のセグメントを分析し、咳事象
の異なる間隔で体積の変化率を比較することである。
【0106】
簡略化する場合には、これらの信号(咳の音量)の振幅およびそれらの傾き(空気流量
)を組み合わせて、咳の種類を互いに判別するための診断用判断基準を得ることができる
。これらのパラメータは、例えば、咳の異なる深さ、および咳事象の終端における反射的
吸入活動を反映する。フィルタ処理していないVtにおける咳痕跡の外観は、特にひどい
咳の別の指標となる。より単純なこれらの鋭さ判断基準を用いると、前述の例によって示
したように、CF咳は、その重大度が高い可能性が高いために、COPD咳は、その重大
度が低い可能性が高いために、そしてPIC咳は、その重大度が中間である可能性が高い
ために、認識できることがわかっている。フィルタ処理していない一回換気量形跡Vtに
咳痕跡がある場合、最も高い重大度の咳が伴う。

6.例
この章では、第5.5章の方法による発話認識について説明する。
A.方法
測定被験者には、9人の男と9人の女が含まれ、平均年齢(±SD)が21.3(±1
.2)歳であり、全員肉体的には非常に健康であり、現在喫煙しておらず、呼吸器系疾患
の病歴もない。実験手順を全て説明した後、参加者全員が告知に基づく同意を承認し、そ
の書式に署名した。次いで、被験者はRIP記録外皮(図1における1)−VivoMetrics,
Inc. (Ventura, CA)からのLifeshirt(登録商標)を装着し、測定を開始するに当たり、
800mlのバッグの吸入および吐出を7回行い、それを完全に充満させそして空にする
ことによって、デバイスの呼吸センサの較正を行った。較正は、着座および起立姿勢にお
いて行った。次いで、被験者は静かに着座し(安静着座、4分)、連続して発話(過去1
週間の経験について)(発話、4分)、質問書に記入した(書き込み、>4分)。次に、
彼らは通常の1日を送り、翌朝モニタを取り外して帰宅した。
【0107】
メモリ・カード上に記憶されているデータを、パーソナル分析コンピュータ(図1参照
)にダウンロードし、本発明の分析および表示ソフトウェアによって処理した。記録上に
較正期間を印し、自動的に分析してKおよびM係数を求めた。これらの係数を用いて、V
tおよびVol信号をRIP信号から計算し、記録全体にわたって各呼吸毎に種々の呼吸パ
ラメータを、VtおよびVol信号から計算した。実験期間(安静着座、発話、書き込み)
を印し、4つの1分セグメントに分割した。呼吸数、一回換気量、毎分換気量、吸入流速
(平均)、吸入時間、吐出時間、IE率、端数吸入時間(全時間で除算した吸入時間)、
および一回換気量に対する胸郭の寄与を計算し、それらの呼吸毎の変動性を、変動の係数
(CV%)にインデックスさせた。つまり、CV%は、傾向線周囲の標準偏差を、あらゆる線形
傾向を除去した後の平均で除算した比率であった。呼吸期間の最初の3回の1分セグメン
トの判別分析によって、各パラメータのF比率、期間の%補正分類、および最適カットオ
フ・スコアを計算した。パラメータおよびそれらの分類特性の線形結合も判定した。事前
に省略した最後の1分セグメントのデータについて、判別関数の妥当性を判断した。

B.結果
表1および表2は、発話を他の2つの活動と区別するために、1〜3分における呼吸パ
ラメータを、その有効サイズによってランク付けして示す。これらの表において、「F」
は、F比率であり、df=1.17、「cutoff」は条件を判別するための最適なカットオ
フ評価点であり、「%false」は、このカットオフを用いた偽分類の割合である。
【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
分析によって、吸入/吐出(IE)率、分別吸入時間、吸入流量、および吐出時間(な
らびにこれらのパラメータの変形の百分率係数)は全て、発話を認識するのに適すること
がわかった。発話対書き込みに対する判別分析では、IE率を最初に取り上げた。これは
、発話を書き込みと区別し、カットオフ判断基準を0.52としたときに、約98.5%
の正しい分類が行われ、発話を安静着座と区別する際にも同様に成功した。IE率は、発
話を書き込みと対比するための最も高いF比率が得られた。これらの表から、タイミング
、タイミングの可変性、および体積パラメータの複合線形関数も、発話を他の2つの状態
から分離するのに有用であると言えることが示唆されている。呼吸パラメータの一部、例
えば、呼吸速度または肋骨寄与は、発話をはっきりと示さなかった。発話を安静着座と対
比するには、タイミング可変性の4つのパラメータが最も大きなF比率を有した。恐らく
、これは、安静着座では、非常に規則的な呼吸パターンが呼吸毎に得られたからであろう
。ヒストグラムから、IE率は、作業の範囲内ではほぼ正常に分布し、安静着座および書
き込みについての分布は、発話中のそれらとは殆ど重複しなかったことが明らかとなった

【0111】
ここに記載し特許請求する発明は、ここに開示した好適な実施形態によってその範囲が
限定される訳ではない。何故なら、これらの実施形態は、本発明のいくつかの形態の例示
であることを意図するからである。同等の実施形態も、本発明の範囲に該当するものとす
る。実際、ここに示し説明した実施形態に加えて、本発明の種々の修正が、以上の説明か
ら、当業者には明白となろう。このような修正も、添付した特許請求の範囲に該当するも
のとする。
【0112】
この中で多数の引例を引用したが、その開示内容は、ここで引用したことにより、全て
の目的に対してその全体が本願にも含まれるものとする。更に、これらの引例はいずれも
、先にどのように特徴付けたかには係わらず、ここに特許請求する主題の本発明に対する
従来技術としては認めないこととする。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、好ましい体積変動記録および分析システムを示す。
【図2】図2は、好ましい信号処理エレメントを示す。
【図3A】図3Aは、信号分布およびフィルタ特性の一例を示す。
【図3B】図3Bは、信号分布およびフィルタ特性の一例を示す。
【図3C】図3Cは、信号分布およびフィルタ特性の一例を示す。
【図4A】図4Aは、呼吸信号の一例を示す。
【図4B】図4Bは、呼吸信号の一例を示す。
【図4C】図4Cは、呼吸信号の一例を示す。
【図5A】図5Aは、別の呼吸信号の例を示す。
【図5B】図5Bは、別の呼吸信号の例を示す。
【図6】図6は、肺過呼吸の影響を示す。
【図7】図7は、咳検出の代替方法を示す。
【図8A】図8Aは、好ましいディジタル・フィルタ応答を示す。
【図8B】図8Bは、好ましいディジタル・フィルタ応答を示す。
【図9】図9は、咳の間に記録したデータの一例を示す。
【図10】図10は、音声信号における好ましいピッチ判定方法を示す。
【図11A】図11Aは、音響信号の一例におけるピッチ判定を示す。
【図11B】図11Bは、音響信号の一例におけるピッチ判定を示す。
【図11C】図11Cは、音響信号の一例におけるピッチ判定を示す。
【図11D】図11Dは、音響信号の一例におけるピッチ判定を示す。
【図12A】図12Aは、COPD患者の咳の一例を示す。
【図12B】図12Bは、COPD患者の咳の一例を示す。
【図13A】図13Aは、CF患者の咳の一例を示す。
【図13B】図13Bは、CF患者の咳の一例を示す。
【図14A】図14Aは、PIC患者の咳の一例を示す。
【図14B】図14Bは、PIC患者の咳の一例を示す。
【図14C】図14Cは、PIC患者の咳の一例を示す。
【図14D】図14Dは、PIC患者の咳の一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理する方法であって、
非呼吸起源の信号成分を低減するために前記呼吸信号をフィルタ処理するステップであ
って、該フィルタ処理が前記監視対象被験者の挙動状態に適応的に応答する、ステップと

胸郭(RC)の大きさを示す少なくとも1つのフィルタ処理した信号と、腹部の大きさ
(AB)を示す少なくとも1つの信号との組み合わせから肺の容積を示す信号(Vt)を
求めるステップと、
を備えている、方法。
【請求項2】
請求項20記載の方法において、前記挙動状態は、仰臥、着座、起立、歩行、および走
行の群から選択した少なくとも1つの状態から成る、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、被験者の挙動状態を、前記被験者の位置および加速度に
応答する少なくとも1つの加速度計からの信号によって示す、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記フィルタ処理は、適応的に応答して、少なくとも2
つの異なるフィルタを異なる時点において前記呼吸信号に適用し、前記適用するフィルタ
を、被験者の挙動状態に応じて複数のフィルタから選択する、方法。
【請求項5】
請求項3記載の方法において、前記鼓動状態が、被験者の運動減少を示すときに適用す
る少なくとも1つのフィルタの通過帯域は、前記挙動状態が被験者の運動増加を示すとき
に適用する少なくとも1つのフィルタの少なくとも過帯域を含む、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記被験者の運動は、該被験者の位置および加速度に応
答する加速度計からの少なくとも1つの加速度計信号の全てまたは一部の電力によって示
される、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記フィルタ処理は、適応的に応答して、前記フィルタ
処理した呼吸信号におけるモーション・アーチファクトを、前記被験者の運動を示す1つ
以上の更に別の基準信号に時々刻々応じて低減する、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、被験者の運動を示す前記基準信号は、前記被験者の位置
および加速度に応答する少なくとも1つの加速度計からのハイパス・フィルタ処理した信
号から成る、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、前記フィルタ処理は、適応的に応答して、前記フィルタ
処理した呼吸信号における心臓アーチファクトを、前記被験者の心臓活動を示す1つ以上
の更に別の基準信号に時々刻々応じて低減する、方法。
【請求項10】
請求項10記載の方法において、被験者の心臓活動運動を示す前記基準信号は、ECG
入力および/またはパルス酸素計から得た信号から成る、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記呼吸信号は、呼吸体積変動記録信号から成る、方法

【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記呼吸信号は、呼吸誘発体積変動記録信号から成る、
方法。
【請求項13】
監視対象被験者の呼吸を反映する3つ以上の独立した信号を処理する方法であって、
非呼吸起源の信号成分を低減するために、前記呼吸信号をフィルタ処理するステップと

33つ以上のフィルタ処理した信号全てに依存する組み合わせから、肺容積を示す信号
(Vt)を求めるステップと、
を備えている、方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記フィルタ処理した信号に依存する前記組み合わせ
は、線形モデルから成る、方法。
【請求項15】
請求項13記載の方法において、前記呼吸信号は、被験者の胴体の形状変化を規定する
のに十分であり、前記組み合わせは、胴体形状変化の指標を判定することから成る、方法

【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記組み合わせは、胴体形状のモデルを構築すること
から成る、方法。
【請求項17】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理する方法であって、
非呼吸起源の信号成分を低減するために、前記呼吸信号をフィルタ処理するステップと

胸郭(RC)の大きさを示す少なくとも1つのフィルタ処理した信号と、腹部の大きさ
(AB)を示す少なくとも1つの信号との線形結合から、肺容積を示す信号(Vt)を求
めるステップと、
を備えており、
前記線形結合の少なくとも1つの係数は、
(i)同時RCおよびAB信号から判定した吸入および/または吐出体積の集合を選択
し、
(ii)異常値を検出し破棄するために、前記選択したRCおよび/またはAB体積の
集合に対してマルチステップ・プロセスを実行し、
(iii)異常値を破棄した後の前記RCおよびAB体積の集合から少なくとも1つの
係数を求めること、
を含む較正手順から求める、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記係数は、前記RC体積の集合の標準偏差(SD)
の前記AB体積の集合のSDに対する比率、および/またはこの比率の逆として求める、
方法。
【請求項19】
請求項17記載の方法において、前記マルチステップ・プロセスは、
入力した肺容積集合の標準偏差(SD)を決定するステップと、
前記入力した集合の内所定のSD閾値を超過する肺容積を破棄した後の肺容積の集合を
出力するステップと、
前記先行する決定および出力するステップを少なくとも1回繰り返し、後続の決定ステ
ップにおける前記入力集合は、前回の供給ステップの出力集合であり、所定のSD閾値が
単調に減少するステップと、
を備えている、方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記マルチステップ・プロセスは、連続的に3、2、
および1を所定のSD閾値に採用して、決定および供給ステップを3回含む、方法。
【請求項21】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理する方法であって、
非呼吸起源の信号成分を低減するために、前記呼吸信号をフィルタ処理するステップと

胸郭(RC)の大きさを示す少なくとも1つのフィルタ処理した信号と、腹部の大きさ
(AB)を示す少なくとも1つの信号との線形結合から、肺容積を示す信号(Vt)を求
めるステップであって、前記線形結合が、前記監視対象被験者の挙動状態に適応的に応答
する、ステップと、
を備えている、方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、前記挙動状態は、前記挙動状態は、仰臥、着座、起立
、歩行、および走行の群から選択した少なくとも1つの状態から成る、方法。
【請求項23】
請求項21記載の方法において、被験者の挙動状態を、前記被験者の位置および加速度
に応答する少なくとも1つの加速度計からの信号によって示す、方法。
【請求項24】
請求項21記載の方法において、前記線形結合は、適応的に応答して、当該線形結合の
少なくとも1つの係数を、被験者の挙動状態に応じて複数の係数から選択する、方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、前記係数は、被験者の挙動状態において示される位置
および/または姿勢に応じて、複数の係数から選択する、方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法において、被験者の挙動状態において示される位置および/姿勢
は、前記被験者の位置および加速度に応答する2つ以上の加速度計からの信号をローパス
・フィルタで処理し、比較することによって示す、方法。
【請求項27】
請求項24記載の方法において、特定の挙動状態に対して選択する前記係数は、前記特
定の挙動状態を表すように選択した前記RCおよびAB信号から判定した吸入および/ま
たは吐出体積の集合に適用する較正プロセスから求める、方法。
【請求項28】
請求項24記載の方法において、前記線形結合は、適応的に応答して、当該線形結合の少
なくとも1つの係数を、被験者の挙動状態において示される運動に応じて複数の係数から
選択する、方法。
【請求項29】
請求項21記載の方法において、前記線形結合は、フィルタ処理したRCおよびAB信
号入力に応答して、更に被験者の挙動状態を示す1つ以上の更に別の入力信号に時々刻々
応答して、Vt信号を出力する線形モデルを備えている、方法。
【請求項30】
被験者の肺容積を反映する少なくとも1つの信号(Vt)を処理する方法であって、
前記Vt信号から、1つ以上の呼吸パラメータの1つ以上の時間的系列を求めるステッ
プと、
前記呼吸パラメータ系列の1つ以上に1つ以上の規則を適用することによって、アーチ
ファクトを認識するステップと、
アーチファクトであると認識された呼吸パラメータ系列の部分、および前記Vt信号の
対応する部分を破棄するステップと、
を備えている、方法。
【請求項31】
請求項30記載の方法において、
非呼吸起源の信号成分を低減するために前記呼吸信号をフィルタ処理するステップと、
胸郭(RC)の大きさを示す少なくとも1つのフィルタ処理した信号と、腹部の大きさ
(AB)を示す少なくとも1つの信号との組み合わせから肺の容積を示す信号(Vt)を
求めるステップと、
を備えている方法によって、監視対象被験者の呼吸を反映する信号から前記Vt信号を求
める、方法。
【請求項32】
請求項30記載の方法であって、更に、呼吸パラメータの1つ以上の系列に対して、前
記パラメータ系列の移動平均フィルタ処理値(moving median filtered value)として基準
線を決定するステップを含む、方法。
【請求項33】
請求項30記載の方法において、前記規則は、呼吸の吸入および/または吐出体積が、
閾値因数(threshold factor)に、前記監視対象被験者に対して個別に較正した固定体積を
乗算した値よりも小さい場合、アーチファクトであると認識するステップを含む、方法。
【請求項34】
請求項30記載の方法において、前記規則は、異常値除外規則を含む、方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法において、前記異常値除外規則は、ある因数に標準偏差を乗算し
た値を超えて平均値から逸脱する値を、アーチファクトであると認識する、方法。
【請求項36】
請求項30記載の方法において、前記規則は、25%未満規則を含む、方法。
【請求項37】
請求項36記載の方法において、前記25%規則は、吸入および/または吐出体積が閾
値よりも低い呼吸を、アーチファクトであると認識する、方法。
【請求項38】
請求項30記載の方法において、前記規則は、実在呼吸規則を含む、方法。
【請求項39】
請求項38記載の方法において、前記実在呼吸規則は、現在の最終吐出体積の前回の最
終吐出体積との差が閾値を超過する呼吸を、アーチファクトであると認識する、方法。
【請求項40】
請求項39記載の方法において、前記閾値は、閾値因数に、前記監視対象被験者に対し
て個々に較正した固定体積を乗算した値から成る、方法。
【請求項41】
検査対象被験者の呼吸における呼吸事象を認識する方法であって、
前記監視対象被験者から受け取った複数の呼吸信号から、肺容積を示す信号(Vt)を
求めるステップと、
前記Vt信号から、1つ以上の呼吸パラメータの1つ以上の時間的系列を求めるステッ
プと、
前記求めた呼吸パラメータの時間的系列の少なくとも1つに応じて、1つ以上の呼吸事
象を認識するステップと、
を備えている、方法。
【請求項42】
請求項41記載の方法であって、更に、時間的系列を求めるステップに続いて、
前記呼吸パラメータ系列の1つ以上に1つ以上の規則を適用することによって、アーチ
ファクトを認識するステップと、
アーチファクトと認識した前記呼吸パラメータ系列の部分、および前記Vt信号の対応
する部分を破棄するステップと、
を含む、方法。
【請求項43】
請求項41記載の方法において、吸入および/または吐出体積パラメータの時間的系列
を、前記Vt信号から求める、方法。
【請求項44】
請求項43記載の方法において、呼吸停止の期間を、閾値呼吸停止体積未満となった体
積パラメータに応じて認識し、前記閾値呼吸停止体積は、現中央基準線(running median
baseline)肺容積、および/または閾値呼吸停止時間よりも長く、肺容積が前記閾値未満
となった期間に応じて変動する、方法。
【請求項45】
請求項44記載の方法において、呼吸停止期間を、胸郭の大きさを反映する信号と、腹
部の大きさを反映する信号との間の位相関係に応じて分類する、方法。
【請求項46】
請求項43記載の方法において、閾値減呼吸体積未満であるが閾値呼吸停止体積よりも
大きい体積パラメータに応じて、減呼吸期間を認識し、前記閾値減呼吸および呼吸停止体
積は、現中央基準線肺容積、および/または閾値減呼吸時間よりも長く、肺容積がこれら
の閾値の間であった期間に応じて変動する、方法。
【請求項47】
請求項41記載の方法において、呼吸が、前記実在呼吸規則によればアーチファクトで
はなく、閾値嘆息体積よりも大きな体積パラメータを有する場合、この呼吸を嘆息である
と認識し、前記閾値嘆息体積は、現中央規準−肺容積に応じて変動する、方法。
【請求項48】
請求項41記載の方法において、ピーク吐出流(PEF)パラメータの時間的系列を、
前記Vt信号から求め、呼吸が、前記実在呼吸規則によればアーチファクトではなく、閾
値咳PEFよりも大きなPEFを有する場合、この呼吸を咳であると認識し、前記閾値咳
PEFは、現中央基準線PEFに応じて変動する、方法。
【請求項49】
請求項41記載の方法において、前記パラメータ吸入/吐出(IE)比率、前記分別吸
入時間、前記吸入流量、または前記吐出時間の内1つ以上に応じて、1つ以上の呼吸を、
発話から成るものであると認識し、これらのパラメータの各々の時間的系列をVt信号か
ら求める、方法。
【請求項50】
請求項41記載の方法において、毎分換気体積および吐出流(PEF)パラメータを前
記Vt信号から求め、これらのパラメータの比に応じて呼吸困難を認識する、方法。
【請求項51】
請求項41記載の方法において、ピーク吐出流に至る時間および吐出時間の時間的系列
を前記Vt信号から求め、これらのパラメータの比に応じて、1秒間における強制吐出体
積の肺活量に対する比率の変化を認識する、方法。
【請求項52】
請求項41記載の方法において、前記ピーク吸入流および一回換気量の時間的系列を前
記Vt信号から求め、これらのパラメータの比に応じて、1秒間における強制吐出体積の
肺活量に対する比率の変化を認識する、方法。
【請求項53】
請求項41記載の方法において、前記ピーク吐出流および平均吐出流の時間的系列を前
記Vt信号から求め、これらのパラメータの比率に応じて、1秒間における強制吐出体積
の肺活量に対する比率の変化を認識する、方法。
【請求項54】
請求項41記載の方法において、胸郭の前記一回換気量に対する寄与の時間的系列を前
記Vt信号および胸郭の大きさを反映する信号から求め、このパラメータに応じて、1秒
間における強制吐出体積の肺活量に対する比率の変化を認識する、方法。
【請求項55】
請求項41記載の方法において、胸腹同調運動不能による吐出時間の分別の時間的系列
を、胸郭の大きさを反映する信号および腹部の大きさを反映する信号から求め、このパラ
メータに応じて、1秒間における強制吐出体積の肺活量に対する比率の変化を認識する、
方法。
【請求項56】
請求項41記載の方法において、ピーク吸入流および一回換気量の時間的系列を前記V
t信号から求め、これらのパラメータの比に応じて、1秒間における強制吐出体積の肺活
量に対する比率の変化を認識する、方法。
【請求項57】
監視対象被験者において咳を認識する方法であって、
マイクロフォン信号の入力レベルが音響事象閾値を超過したときに音響事象候補を認識
するステップであって、前記マイクロフォンが前記被験者の発声に応答する、ステップと

前記音響事象候補の特性に応じて肺容積信号(Vt)をフィルタ処理するステップと、
前記選択しフィルタ処理した一回換気量信号が、吐出、および振幅閾値よりも大きい振
幅を有する後続の吸入を呈しても、呼吸事象候補を認識するステップと、
前記音響事象候補が時間的に前記呼吸事象候補と一致した場合、咳の発生を判定するス
テップと、
を備えている、方法。
【請求項58】
請求項57記載の方法において、前記音響事象閾値は、前記監視対象被験者の近傍にお
いて判定した背景ノイズ強度の所定の倍数である、方法。
【請求項59】
請求項58記載の方法において、音響事象候補が継続するのは、前記入力信号レベルが
前記音響事象閾値を超過したときから、前記入力レベルがもはや前記音響事象閾値を超過
しなくなるときまでである、方法。
【請求項60】
請求項57記載の方法において、前記振幅閾値を、監視対象被験者に対して個々に較正
する、方法。
【請求項61】
請求項57記載の方法において、前記振幅閾値は約200mlである、方法。
【請求項62】
請求項57記載の方法において、前記音響事象候補の期間が期間閾値よりも長い場合、
前記Vt信号をフィルタ処理して周波数帯域を低下させ、前記音響事象候補の期間が前記
期間閾値よりも短い場合、前記Vt信号をフィルタ処理して周波数帯域を高くする、方法

【請求項63】
請求項62記載の方法において、前記期間閾値は約600ミリ秒である、方法。
【請求項64】
請求項62記載の方法において、前記HFBは、前記LFBに含まれる低周波数範囲を
除外する、方法。
【請求項65】
請求項64記載の方法において、前記除外される周波数範囲は、約0.4から約1.1
Hzであり、前記周波数帯域は約4.9Hzに及ぶ、方法。
【請求項66】
請求項57記載の方法において、呼吸事象候補が鋭い吐出と、関連する音響事象の中央
領域において発生した最少肺容積と、鋭い吸入とを呈する場合にのみ、咳を更に判定する
、方法。
【請求項67】
請求項57記載の方法において、前記音響事象候補が、咳−ピッチ閾値よりも低いピッ
チ特性を有する場合にのみ、咳を更に判定する、方法。
【請求項68】
請求項67記載の方法において、前記ピッチ特性は、前記入力マイクロフォン信号の短
期間スペクトル分析によって決定する、方法。
【請求項69】
請求項68記載の方法において、前記短期間スペクトル分析は、メル周波数ケプストラ
ム係数を決定することを含む、方法。
【請求項70】
請求項69記載の方法において、前記咳−ピッチ閾値は、メル周波数ケプストラム係数
で約1.5から2.0である、方法。
【請求項71】
基準呼吸事象から特定の呼吸を判別することができる呼吸パラメータを決定する方法で
あって、
呼吸信号が1つ以上の特定の呼吸事象と、1つ以上の基準呼吸事象とを含むように、一
人以上の監視対象被験者から前記呼吸信号を受信するステップと、
個々の呼吸パラメータおよび呼吸パラメータの組み合わせの、前記特定の呼吸事象と前
記基準呼吸事象との間で統計的に判別する能力を評価するステップと、
しかるべき判別能力を有する個々の呼吸パラメータまたは呼吸パラメータの組み合わせ
を選択するステップと、
を備えている、方法。
【請求項72】
請求項71記載の方法において、前記評価するステップは、線形判別分析を含む、1つ
以上の線形統計方法を実行することを含む、方法。
【請求項73】
請求項71記載の方法において、前記評価するステップは、k−平均クラスタリング(k
-means clustering)を実行することを含む、方法。
【請求項74】
請求項71記載の方法において、偽陽性または偽陰性の率が20%以下である場合、パ
ラメータまたはパラメータの組み合わせはしかるべき判別能力を有するとする、方法。
【請求項75】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理する方法であって、
非呼吸起源の信号成分を低減するために、前記呼吸信号をフィルタ処理するステップで
あって、前記フィルタ処理が前記監視対象被験者の挙動状態に適応的に応答する、ステッ
プと、
胸郭(RC)の大きさを示す少なくとも1つのフィルタ処理した信号と、腹部の大きさ
(AB)を示す少なくとも1つの信号との組み合わせから、肺容積を示す信号(Vt)を
求めるステップであって、
前記線形結合は、前記監視対象被験者の挙動状態に適応的に応答し、
前記線形結合の少なくとも1つの係数を、
(i)同時RCおよびAB信号から判定した吸入および/または吐出体積の集合を選択
し、
(ii)異常値を検出し破棄するために、前記選択したRCおよび/またはAB体積の
集合に対してマルチステップ・プロセスを実行し、
(iii)異常値を破棄した後の前記RCおよびAB体積の集合から少なくとも1つの
係数を求めること、
を含むる較正手順から求める、ステップと、
前記Vt信号から、1つ以上の呼吸パラメータの1つ以上の時間的系列を求めるステッ
プと、
1つ以上の規則を前記呼吸パラメータ系列の1つ以上に適用することによって、アーチ
ファクトを認識するステップと、
アーチファクトであると認識された、前記呼吸パラメータ系列の部分および前記Vt信
号の対応する部分を破棄するステップと、
求めた呼吸パラメータの時間的系列の少なくとも1つに応じて、1つ以上の呼吸事象を
認識するステップと、
を備えている、方法。
【請求項76】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理するコンピュータ・システムであって、プ
ロセッサと、該プロセッサと通信するメモリとを備え、該メモリが、請求項75記載の方
法を前記プロセッサに実行させる、コード化命令を備えている、コンピュータ・システム

【請求項77】
コンピュータ・システムに、監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理させるプログ
ラム製品であって、請求項75記載の方法を前記システムに実行させるコード化命令を有
するコンピュータ読み取り可能媒体を備えている、プログラム製品。
【請求項78】
監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理するコンピュータ・システムであって、プ
ロセッサと、該プロセッサと通信するメモリとを備え、該メモリが、請求項55の方法を
前記プロセッサに実行させる、コード化命令を備えている、コンピュータ・システム。
【請求項79】
コンピュータ・システムに、監視対象被験者の呼吸を反映する信号を処理させるプログ
ラム製品であって、請求項55記載の方法を前記システムに実行させるコード化命令を有
するコンピュータ読み取り可能媒体を備えている、プログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2012−166037(P2012−166037A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85712(P2012−85712)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【分割の表示】特願2011−76794(P2011−76794)の分割
【原出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【出願人】(510204998)アディダス アーゲー (30)
【Fターム(参考)】