説明

呼吸信号から呼吸パターンを検出して識別する方法

【課題】家庭で設定使用できる小型の携帯機器と併せて適切なソフトウェアを使用することにより流量読み取り値又はオキシメータ読み取り値からチェーン・ストークス呼吸を診断するための方法及び装置の提供。
【解決手段】患者の呼吸を表す信号が長さの等しいエポックに分けられ各エポックから一次特徴が抽出される。統計値を使用して全体のエポックを表す1つ以上の二次特徴が生成される。各二次特徴は全体のエポックから抽出される1つ以上の他の特徴とともにグループ化されエポックパターンを組み立てる。パターンが適当な分類器アルゴリズムを用いて操作され、信号が病状(チェーン・ストークス、OSAなど)を表し得る確率が生成される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
[0001]本願は、2004年12月23日に提出された米国特許仮出願第60/638169号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
[0002]本発明は、睡眠呼吸障害パターンの検出のため、及び、閉塞性睡眠時無呼吸症、中枢性睡眠時無呼吸症、チェーン・ストークス呼吸、混合性睡眠時無呼吸症などの異なる病状のパターン間の識別のための方法、アルゴリズム及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0003】
呼吸障害
[0003]睡眠呼吸障害(SDB)は、呼吸パターン又は換気の質が睡眠中に異常である一群の障害を包含している。最も一般的な(成人人口の4〜5%が発症している可能性がある)そのような障害である閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、上気道が繰り返し閉塞し或いは潰れるとともに呼吸が部分的又は完全に減退することを特徴としている。閉塞は、通常、上気道の筋肉が閉塞を取り除く働きをする際に患者が一時的に覚醒することにより終了される。閉塞及び覚醒の繰り返しサイクル中に、OSA患者は常に呼吸しようと「努力」し続ける。すなわち、中枢性の又は脳を媒介とする呼吸サイクイルの中断はない。
【0004】
[0004]逆に、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)において、脳又は制御中枢を起源とする呼吸の中断がある。チェーン・ストークス呼吸(CSB)は、より一般的なCSAの形態のうちの1つである。チェーン・ストークス呼吸は、換気量が増大して衰えていくという律動性の交互周期が存在する患者の呼吸調節の異常リミットサイクルの不安定性によって引き起こされる。心不全(心臓が適切に膨張収縮しない状態)を伴う患者は、多くの場合、特に状態が悪化するにつれて或いは治療によって心臓による有効な補償を行えなくなった場合にCSAを有する。チェーン・ストークス呼吸は、心不全患者において見られる1回換気量における周期的な変化として現われる。サイクルは、無呼吸又は呼吸低下と、しばしば(常にではないが)「シドニー・ハーバー・ブリッジ」形状のような特徴的な円背形態を成すその後の度を越した過呼吸とから成る。CS呼吸のはっきりとした原因は完全に理解されていない。しかしながら、増大して徐々に弱くなる特徴的なサイクルは、不適応ゲイン又は不安定なフィードバックループ遅延を伴う調整が悪い制御システムにおけるリミットサイクルを強く連想させる。
【0005】
[0005]睡眠呼吸障害は、睡眠の仕組み(様々な形態の睡眠のパターン及び均衡)を混乱させて日中の眠気を引き起こすため、その全ての形態において望ましくない。換気の反復的な中断又は減退は、血液酸素飽和レベルの(時として劇的な)低下を引き起こす。これら及び他の合併症は、恐らく心血管状態の既存の続発症に関与している。
【0006】
[0006]OSAに関して一般に好まれる治療は、Sullivanによって最初に説明された持続的気道陽圧法(CPAP)である[SullivanCEら.Reversal of obstructive sleep apnea by continuous positive airway pressure applied through the nares.、Lancet 1981年4月18日;1(8225):862−5]。また、CPAPは、CSA及び鬱血性心不全(肺における流体)を伴う一部の心不全患者を治療するために使用される。しかしながら、チェーン・ストークス呼吸は、CPAPによって効果なく治療され、サーボ換気の適用を必要とする場合がある[Teschler Hら.Adaptive pressure support servo−ventilation:a novel treatment for Cheyne−Stokes resipiration in heart failure. Am J Respir Crit Care Med. 2001年8月15日;164(4):614−9. Berthon−Jones Ventilatory assistance for treatment of cardiac failure and Cheyne−Stokes brething. 米国特許6,532,959号]。
【0007】
複数の信号からの診断
[0007]SDB及び睡眠時無呼吸の診断のための判断基準は、睡眠ポリグラフ(PSG)、すなわち、睡眠研究室で一泊している間の多数の生理的信号の測定及び記録である。簡単に言うと、PSG信号アンサンブルは、通常、患者呼気流率信号(換気量の計算及び無呼吸・呼吸低下の検出のため)、複数の脳電図(EEG)信号、眼電図(EOG)信号、筋電図(EMG)信号(患者の睡眠状態の決定、位置、睡眠からの覚醒の検出のため)、呼吸努力信号(胸部・腹部膨張バンド又は食道内圧測定カテーテル)、いびき振幅、酸素飽和度などの呼吸パラメータを示す1つ以上の信号を含んでいる。SDBを診断する他の方法はポリグラフィ(PG)であり、これにより、患者が寝ている間に少ない数のパラメータが記録される。これらのパラメータは、鼻/口腔呼気流、いびき振幅、酸素飽和度、呼吸努力(胸部及び腹部)及び身体位置を含んでいる。
【0008】
[0008]PSG及びPGのいずれにおいても、OSA事象をCSA又はチェーン・ストークス呼吸から識別できるようにするために呼吸努力信号が記録される(第3のタイプの事象も想定し得る−混合性無呼吸−この場合、事象は、呼吸活動の中枢介在欠如により開始され、気道閉塞及びその後の覚醒で終了する)。経験の浅い観察者が少なくとも流量信号及び呼吸努力の測度を参照することなく無呼吸のタイプを確実に決定することは不可能である。しかしながら、経験豊かな訓練を受けた観察者(専門家)は、多くの場合、事象(無呼吸/呼吸低下)の実行パターンを簡単に検出して、内在する病気を確実に決定することができる。これは、特に、換気が増大して徐々に弱まる非常に特徴的なパターンを有するチェーン・ストークス呼吸に当てはまる。
【0009】
簡単な記録装置
[0009]PSG又はPGの実行は、訓練された技術者を必要とし、高価であるとともに、時間がかかり、それ自体睡眠障害をもたらす可能性がある。また、睡眠研究所の不足が現在のSDB患者−言うまでもなく、膨大な診断未確定の人々−の診断及び治療を妨げていることも周知である。このため、ある種の「スクリーニング」装置(例えば、ドイツのMAPから市販されているmicroMesan(登録商標)又はResMedから市販されているApneaLink(登録商標))が、睡眠呼吸障害を患っていることが疑われる患者を検査するために利用できる。そのような装置は、小型であり、たった1つ又は2つの生理的信号を記録するとともに、スクリーニング研究のために患者が容易に持ち帰ることができる。例えば、患者の鼻気流量は、記録することができるとともに、その後、パーソナルコンピュータ及び装置への接続を使用して医師が検査できる。その後、装置からデータを読み取り、統計値を示し、疑わしい睡眠関連の病状に関する提言を行うためにデータソフトウェアパッケージを利用できる。
【0010】
診断分類器
[0010]無呼吸−呼吸低下指数(AHI、1時間当たりの平均した事象の数)の計算は、治療又は全PSG又はPGを用いた更なる検査の方向性をガイドするために定期的に使用される手段である。記録された呼吸パターンに基づいて様々な内在する病状間の識別を更に可能にするコンピュータプログラム又はアルゴリズムは、臨床的進路への付加的なガイダンスを行う。チェーン・ストークス疾患の強力な兆候は、例えば、睡眠時無呼吸のより一般的な形態と比べて全く異なるフォローアップを暗示する。
【0011】
[0011]分類器の概念は、対象物又は対象物の内在する状態を多くのクラスのうちの1つに対して割り当てることが望ましい多くの分野に共通している。この概念は、例えば、音声認識(この場合、音声バイトが様々な言語又は音節として分類される)、レーダー検出(この場合、視覚信号が敵/味方ターゲットとして分類される)、医学的診断(この場合、患者の病状を分類するために検査結果が使用される)の分野で使用される。分類器の設計はパターン認識の分類に入り、また、分類器は監視型(分類器は、監督者又は「専門家」により予め分類されたトレーニングデータから構築される)を成し或いは非監視型(この場合、データの自然な順序付け又はクラスタリングが様々なクラスを決定する)を成し得る。時間信号分類は、通常、「特徴」を有する特定の時間点の信号を表示することに依存している。特徴は、単に、時間点における信号の本質、すなわち、圧縮の形状を引き出す数である。特徴のセット(又はベクトル)は「パターン」と呼ばれる。分類器は、パターンを取得するとともに、適当なアルゴリズムを使用してそのパターンを操作し、多くの各クラス毎に確率値を生成する。パターンは、最も高い確率を有するクラスに対して割り当てられる。
【0012】
[0012]米国特許6,839,581号には、一晩中にわたるオキシメータ記録のスペクトル解析を行って分類ツリー及びトレーニングニューラルネットワークの構成で使用できるパラメータのセットを得ることにより鬱血性心不全を伴う患者のCS呼吸を検出するための方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
[0013]要約すると、睡眠呼吸障害は、非常に異なる治療選択肢を必要とする様々な内在する疾患タイプを伴う一般的な症候群である。現在の睡眠研究室に存在する治療障壁を取り除くのに役立ち得る小型で比較的安価なスクリーニング装置の必要性がある。特定の病状に関連する呼吸パターンを検出できる専門家の能力を再現可能なアルゴリズム及び診断装置は、睡眠呼吸障害に関して選別される患者、又は、既に治療を受けている患者を監視することに関して選別される患者の診断及び治療を向上させる。必要なものは、分類器の形態を成すフローデータのためのアルゴリズムである。
【0014】
[0014]特に望ましいものは、家庭で設定使用できる小型の携帯機器と併せて適切なソフトウェアを使用することにより流量読み取り値又はオキシメータ読み取り値からチェーン・ストークス呼吸を診断するための方法及び装置である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[0015]本発明のCS診断システムは、デジタルコンピュータ上でパターン分類技術を使用して流量信号のみを検査することによりCS状呼吸の期間を特定する。通常、CS呼吸の決定的な診断は、「エフォート」信号、すなわち、腹部又は胸部からの食道内圧信号又はエラスティックバンド信号に依存する。エフォートの不存在は、閉塞性無呼吸又は混合性無呼吸から区別することが困難な場合がある中枢性無呼吸を示している。混合性無呼吸は、中枢性無呼吸(エフォートが無い)から始まってその後に活力が戻ると閉塞呼吸の領域が続く。
【0016】
[0016]他のチャンネルを伴わないApneaLink(商標)鼻流量データは、それを明らかにチェーン・ストークス(CS)呼吸として或いは殆どそうであるとして分類しその後に迅速な専門家確認のために医師に対して起こり得る記録を示すために処理される。ApneaLink(商標)レコーダは、単チャンネルバッテリ電源式呼吸圧センサシステムであり、睡眠中の呼吸圧の記録を提供する。ApneaLink(商標)は、ResMedにより製造される小型(手持ち式)の装置であり、患者の胸部に巻き付けて装着される家庭仕様に設計されている。この装置は、鼻感圧カテーテルを使用して鼻流量を(間接的に)記録するだけである。睡眠中の全ての関連する呼吸情報が鼻圧カニューレによって収集される。これにより、心臓内科医はそのような患者を更に都合良く管理することができる。例えば、CS患者は、必要に応じて可能なAutoSet CS治療のための完全睡眠ポリグラフ(PSG)精密検査へ移行する。非CS患者は、必要に応じて内在するOSAを治療するためにAutoSetへ移行する。PCを使用する鼻流量信号の適切なオフライン処理の後、以下の事象、すなわち、無呼吸、呼吸低下、流量制限、いびきを検出して表示することができる。
【0017】
チェーン・ストークス検出アルゴリズム
[0017]CS検出アルゴリズムは、ResMedのApneaLink(登録商標)などの装置からの鼻流量信号又は少なくとも1つの呼吸パラメータを示す他の信号をパターン認識技術とともに使用して、記録された流量の各30分エポックに対してCS呼吸の確率を割り当てる。この発明では、初期フィルタリング及び「事象」検出を詳述する。この場合、事象は、CS呼吸の呼吸低下−過呼吸シーケンス特性の領域として規定される。このような事象の検出は、過呼吸の持続時間が閾値を超える場合、或いは過呼吸の領域の持続時間の統計値が閾値を超える場合、過呼吸の1つ以上の領域の持続時間から決定されてもよい。このような統計値は、平均値又は標準偏差又は以下で定められる他の統計値であってもよい。
【0018】
[0018]パターン分類技術は、統計学的であるとともに、いわゆる「トレーニング」データセットに依存しており、このトレーニングデータセットにより「分類器」をトレーニングさせて特定の「パターン」、この場合はCS呼吸を認識することができる。パターンは特徴のグループ又はベクトルである。特徴は、検査される信号の何らかの性状を表す数である。特徴の一例は無呼吸長さである。パターンは、無呼吸長さ、過呼吸長さ、「ハーバーブリッジ」に対する過呼吸形状の近似度を表す数を含むグループであってもよい。
【0019】
[0019]本発明の一態様は、好ましくは高い信頼レベルをもって睡眠障害の存在を良好に診断できる方法及び装置又はシステムに関する。診断は、呼吸パラメータを示す信号を解析して呼吸低下から過呼吸までの領域内における信号の増加率を決定するとともに、増加率がゆっくりとした増加である場合にチェーン・ストークス呼吸が存在しているという判断を下し、増加率が急激な増加である場合にチェーン・ストークス呼吸が存在していないという判断を下すことを含んでいてもよい。
【0020】
[0020]本発明の一態様において、患者の呼吸を表す信号は、望み通りに長く(記録全体)又は短くてもよい(代表的な呼吸低下−過呼吸シーケンスの長さ)等しい長さのエポックに分割される。好ましくは、信号は、ノイズをフィルタ除去して例えばベースラインをゼロにするために前処理ステップに晒される。
【0021】
[0021]好ましくは、各エポックから、1つ以上の一次特徴が信号事象の圧縮表示としての機能を果たす信号から抽出される。事象とは、例えば、無呼吸、呼吸低下、過呼吸のことを意味する。エポック全体を表す1つ以上の二次特徴を生成するために、統計値が一次特徴に対して適用される。各二次特徴は、複数のエポック事象からではなくエポック全体から抽出される1つ以上の他の特徴とともにグループ化される。特徴のこの最終グループは、エポックパターンである。
【0022】
[0022]エポックパターンは、信号が表し得る可能な各クラス(例えば、チェーン・ストークス呼吸、OSAなど)毎に1つの確率を生成するため、適した分類器アルゴリズムを用いて操作されることが好ましい。エポックは、最も高い確率を有するクラスに対して割り当てられ、また、確率の強さ及びクラスは、内在する病状の表示として報告できる。
【0023】
[0023]分類器アルゴリズムは、人間の専門家によって予め分類されたトレーニングデータセットから学習されることが好ましい。この意味で、分類器は、監視機械学習型のものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】患者の呼吸信号から、前処理、エポックに基づく特徴抽出を経て、分類へと至る信号処理経路のブロック図である。
【図2】多くの事象(この場合、無呼吸−過呼吸シーケンス)を含む典型的な呼吸信号エポックを示している。幾つかの一次特徴がはっきりと示され(2.1無呼吸/呼吸低下長さ、2.2過呼吸長さ、2.3サイクル長さ)或いは暗示されている(2.4過呼吸の形状特徴、2.5過呼吸の初めにおける最初の「ジャンプ」を表す特徴)。
【図3】一次特徴の計算の詳細を示している。3.1は過呼吸形状特徴の決定で使用される基底関数を示している。3.2は図式的に示されたジャンプ特徴の計算とともにOSAの典型的な過呼吸を示している。3.3はCS呼吸の更に一般的な過呼吸の類似する描写を示している。いずれの場合も、計算されたジャンプ特徴及び形状特徴が表に示されている。
【図4】例えば棒グラフを使用するエポック分類の例を示している。
【図5】過呼吸信号中の正規化された最大ジャンプの分布を示している。
【図6】CS患者及びOSA患者のクラスタ解析を示している。
【図7】LD(一次)分類器からの結果を示している。
【図8】QD(二次)分類器からの結果を示している。
【図9】ベースラインオフセットのためのデータの修正を示している。
【図10】典型的な患者におけるチェーン・ストークス流量波形、長期換気量、左シフト10秒換気量を示している。
【図11】過呼吸に対応する流量波形の部分を示している。
【図12】約15分にわたるチェーン・ストークス患者の鼻流量信号を示している。
【図13】患者のSpo2信号(飽和)及び換気量信号(ローパスフィルタ処理された流量の絶対値)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[0037]図1は分類プロセスの一実施形態を示している。以下では逐次プロセスに関して説明される場合があるが、非線形プロセス、非逐次プロセス、非段階的プロセスを使用してプロセスを実行することができ、或いは、プロセスの順序が変えられてもよいことは言うまでもない。また、図1は全体のプロセスを記述しているが、本発明の態様がそのプロセスの一部のみに関与していてもよい。データ取得システム及びメモリを含むロギング装置を使用して、呼吸を表す信号が最初に患者から記録される。その後、呼吸信号は、記録装置によりオンボードで処理され、或いは、コンピュータを使用してオフラインで処理される。
【0026】
[0038]信号は最初に前処理されることが好ましい。例えば、信号は、望ましくないノイズを除去するためにフィルタ処理され、また、適切な場合にはベースラインがゼロにされる。また、信号は、呼吸を検出するために使用されるトランスデューサに応じて線形化されてもよい。
【0027】
[0039]次の段階において、信号は、長さが等しいn個のエポックに分けられる。エポックの長さは、記録全体と同じ長さであってもよく、或いは、呼吸パターンを検出できる実行可能な程度の短さであってもよい。好ましい一実施形態において、エポック長は30分である。
【0028】
[0040]図2は、チェーン・ストークス呼吸を伴う患者における典型的なエポック記録を示している。曲線の形状は、シドニー・ハーバー・ブリッジの形状を連想させるものであり、時としてその名前で称される(図10も参照)。記録は8個の「事象」から成り、各事象は1つの呼吸低下(この場合は無呼吸も)とその後の過呼吸とから成る。各事象毎に、事象の長さ、例えば無呼吸/呼吸低下長さ及び過呼吸長さを計算できるように始点及び終点を検出するためのアルゴリズムが使用される。事象が無呼吸/呼吸低下−過呼吸の正しい順序に従わない場合に事象を拒絶するため、更なるアルゴリズムが使用されてもよい。理にかなった長さスケール限界を超える事象を拒絶するために他の更なるアルゴリズムが使用されてもよい。
【0029】
形状特徴の決定
[0041]各過呼吸は、4つのいわゆる「形状特徴」を得るために更に処理される。これらの特徴は、異なる形状の過呼吸(例えば、ベル形状と三角形状)を示す。形状特徴は、以下のように過呼吸換気量信号の特異値分解を使用して計算される。すなわち、最初に、過呼吸が呼吸信号から抽出され、換気量信号を与える呼吸信号の絶対値が取得される。換気量信号は、値Vhyperpのベクトルを与えるためにその平均値によってスケーリングされる。数学的便宜のため、過呼吸の時間基準[0..T](Tは過呼吸の終わり)が区間[0..2π]へマッピングされる。4つの直交関数の組が計算されて4×m行列として配列される(mは過呼吸信号における値の数)。直交関数の都合の良い組は以下の通りである。
【数1】


ここで、tは0〜2πの過呼吸にわたる時間基準である。基底関数が図3.1にプロットして示されている。その後、4つの形状特徴が、
【数2】


のように計算されるとともに、次式によって正規化される。
【数3】

【0030】
[0042]行列Mの擬似逆元Mは、逆行列の一般化であり、任意の(m,n)行列Mに関して存在する(便宜上、m>nと仮定する)。そのような行列Mが最大階数(n)を有している場合には、M=(MM)−1と規定する。その結果、Mx=bの解は、x=Mbとなる(擬似逆元は、F=Mvが問題MF=vに対する最短長の最小2乗解であることを述べている一般的な定理であるため役に立つ)。
【0031】
ジャンプ決定
[0043]過呼吸の初めにおける換気量/流量の突然の急上昇(ジャンプ)はOSAの特徴であるため(図2参照)、流量の任意の突然の増大の程度を示す所謂「ジャンプ」特徴を得るために各過呼吸が以下のように更に処理される。先と同様に、過呼吸が呼吸信号から抽出され、換気量信号を与える呼吸信号の絶対値が取得されるとともに、以下のように換気量信号の包絡線を概算するためにドループピーク(droopy peak)検出器が使用される。
【数4】


ここで、e[i]は近似包絡線であり、fはサンプリング周波数であり、<[i]は換気量信号である。包絡線は、e(無呼吸区間同士の間)を与えるために新たな2秒時間基準(おおよそ呼吸の時間長となるように選択される)にわたって補間される。(2秒区間にわたる)最大プラス差eli−el(i−1) は、包絡線の初めと包絡線がその最大値に達する点との間の区間で補間された信号において求められる。最後に、最大差は、「ジャンプ特徴」を与えるために換気量信号の平均値によってスケーリングされる。図3.2及び図3.3はこのプロセスを2つの代表的な過呼吸に関して図式的に示している。
【0032】
二次特徴決定
[0044]二次特徴は、後述する統計値(変動の指標)を使用して一次特徴から計算される(なお、logは底がeの対数を示している)。最初に本発明者らは以下のように標準偏差を規定する。
【数5】


長さの指標(例えば呼吸低下長さ)及びジャンプ特徴に関して4つの特徴は以下の通りである。
【数6】

【0033】
[0045]過呼吸形状特徴に関して4つの特徴は以下の通りである。
【数7】

【0034】
付加的特徴決定
[0046]付加的特徴はエポック信号全体(例えば30分)を使用して計算できる。1つのそのような特徴は、エポック信号の分光写真から得られるとともに、信号がピークを有していることを分光写真が示す場合にチェーン・ストークス呼吸が存在することを決定することにより得られる。この特徴は以下のように計算される。すなわち、最初に、呼吸信号の平均値が計算されて呼吸信号から差し引かれ、結果として得られる信号がn個のスライスに切り刻まれる。これらのスライスは、スライス長の正確に半分だけ互いに重なり合う。各スライスは、次に、好ましくはハニング窓を使用して窓が掛けられる(エッジ効果を減少させるため)。
【0035】
[0047]FFTのためのデータを用意するためのハニング窓の使用は以下の通りである。すなわち、FFT機能は、それが受けるN個のサンプルを、まるでこれらのサンプルが反復波形の基本単位を形成したかのように処理する。すなわち、人が多くのサンプルを取得した場合、それらのサンプルは、(N+1)番目のサンプルが最初のサンプルと同一となるように正確に繰り返すものと仮定する。通常のケースは、人のN個のサンプルがサイクル中の1つの点から始まる場合にそれらのサンプルが特定の他の点で終了し、それにより、人が実際にループ内でこれらを再生した場合に最後のサンプルと最初のサンプルとの間で不連続性を得るというものである。そのため、人はサンプルの組の両端をゼロまで徐々に減らし、それにより、ループされている場合にはこれらのサンプルが常に完全に並ぶ。このプロセスにおける正式名は「窓掛け」であり、また、「窓関数」は、本発明者らがデータに掛け合わせる形状である。窓関数が「二乗余弦」1+cos tである場合には、窓がハニング窓と称される。他の窓をもたらす他の周期関数を使用することもできる。
【0036】
[0048]次に、CSデータが周期的に見えるため、それぞれの窓が掛けられたスライスに対して高速フーリエ変換が適用され、それにより、各スライス毎に複素ベクトル結果が得られる。スライス毎に実数値のベクトルを得るため、各複素数結果の絶対値が取得される。1つのベクトルを得るために、結果として得られる複数のベクトルの平均が取得される。その後のベクトルの自然対数が取得され、周波数範囲0Hz〜0.075Hzの値が抽出されて、サブベクトルが形成される。このサブベクトルは、その後、非トレンド処理(de−trended)される。0Hz〜0.075Hzの範囲に信号がピークを有していることを分光写真が示している場合には、チェーン・ストークス挙動が存在する。
【0037】
[0049]簡単に言うと、非トレンド変動解析方法は、長期的な相関関係の程度を時系列で明らかにする際に役立つ。この場合、時系列はデータ対(t,x)のベクトルであり、tは時間を表し、xは測定される変数を表している。非トレンド処理は、データに適合したn次の多項式を使用して計算された値をx値から差し引きことから成る。例えば、0次において、多項式は単に全てのx値の平均であり、この平均は最初の値から差し引かれる。1次に関して、多項式は単にデータ((t,x)に対する線形適合度である。最良の線形適合を使用して計算される値は、その後、最初の値から差し引かれる(そのため、任意の線形「トレンド」を除去する)。2次において、適合された多項式は二次式であり、3次においては三次式などである。
【0038】
[0050]その後、特徴は、最大値−非トレンド処理されたベクトルの平均として計算される。或いは、FFTのエントロピーをそのピークの代わりに計算することができる。
【0039】
[0051]付加的特徴は、ウェーブレット解析を各エポックに対して適用することにより得ることができる。この場合、ウェーブレット係数又はウェーブレット係数から得られる統計値がエポックのための特徴として使用される。これはピークの位置を適時に与える。ウェーブレット解析では、有限の持続時間を有し且つ特定の周波数を伴う1つの波束が、差異の解析のための窓関数として使用される。この「ウェーブレット」は、特定の周期の波を組み入れ且つ大きさに限りがあるという利点を有している。適切なウェーブレット(モーレットウェーブレットと呼ばれる)は、ガウス包絡線が掛け合わされる正弦波である。
【0040】
分類
[0052]特徴のサブセットは、その後、分類器による使用のために選択される。特徴の全てのセットよりも特徴の特定のサブセットの方が正確な分離を行えることが知られている。これは、いわゆる「次元の呪い」によって部分的に引き起こされ、これにより、トレーニングサンプルの必要数が、使用される特徴の数に伴って増大する。次元の呪いにより、多数の無関係の入力を伴うネットワークは、比較的悪く振る舞う。すなわち、入力スペースの次元が高い場合、ネットワークは、その資源の殆ど全てを使用してスペースの無関係部分を表す。
【0041】
[0053]トレーニングデータに基づいて最良のサブセットを選択するために1つのアルゴリズムが使用される。理想的には、特徴の全てのサブセットが精度に関して検査され、最良のサブセットが選択されるべきである。サブセットの数は2−1である。この場合、nは特徴の数である。特徴の数が少なくない場合、全てのサブセットの調査は非現実的であり、いずれにせよ、精度測定は騒々しくなる傾向があり、また、最良のサブセットの検索を妨げる。「良好な」サブセットの選択を可能にする他のアルゴリズムとしては、「最良優先(best first)」、「最悪除去(remove worst)」、「ランダムな加算から始めて除去(random start with add and remove)」、「シミュレーションアニーリング(simulated annealing)」、包括的なアルゴリズムが挙げられる。
【0042】
[0054]精度を測定するためにしばしば使用される方法は10−foldクロスバリデーションである。トレーニングデータは10個のグループ又はfoldに分割され、10個の異なる精度検査が行われる。それぞれのケースにおいては、foldの9/10がトレーニングのために使用され、残りの1/10において、結果として得られる分類器(分類子)が精度に関して検査される。精度の指標を与えるために、10個の結果に関して統計が行われる。
【0043】
分類器のトレーニング
[0055]特徴サブセットが選択されると、トレーニングデータセットの全体を使用して分類器がトレーニングされる。Baysean最大尤度一次判別器及び二次判別器、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシーンを含む多くの分類器タイプを利用できる。それぞれのケースでは差別関数が計算され、この差別関数は、分類されるべき新しいデータから計算される特徴に対して適用されると、異なるクラスのための確率概算値を与える。データ(エポック)は、確率が最も高いクラスに対して割り当てられる。
【0044】
[0056]特定の一実施形態において、差別関数は、(特徴サブセットと同じ長さの)2つの重みベクトル及び2つの定数を含んでおり、好ましくは2つの重みベクトルと2つの定数とから成る。呼吸エポックから所望の特徴サブセットが抽出されると、差別関数及び確率は以下のように計算される。
【数8】


ここで、W、Wはベクトルであり、C、Cは定数である。
【0045】
[0057]確率カットオフは0.5に設定されてもよく、その場合、1.0の確率がクラスAと同じであり、0.0の確率がクラスBと同じである。カットオフは所望の感度及び特異性に適するように調整できる。これは2方向分類である。適したトレーニングデータを用いると、3方向分類も可能であり、更に高いn方向分類でさえ可能である。
【0046】
[0058]特定の一実施形態において、各エポックの分類は、図4に示されるように、棒グラフで表示することができる。フレーム4.1は、多くのエポックが呼吸のクラス(この場合、CS呼吸)の高い確率を示す棒グラフを示している。これは、患者記録の「一見した」表示を与えている。フレーム4.2は、1つのエポックだけが強いCS傾向を見せている棒グラフを示している。これは、患者記録の中のどこで更に詳しい検査が必要とされるかについての表示を与えている。
【0047】
流量信号又はSpo2信号又はこれらの両方に基づくチェーン・ストークス分類器
[0059]ApneaLink装置は、本明細書で説明したアルゴリズムへの入力として使用できる患者の流量信号の概算値を測定することができる。同様に、パルス酸素測定により評価された血液中の酸素ヘモグロビンの飽和度SpO2を測定して記録できる類似の携帯機器がある。パルス酸素測定は、酸素が浸透されるヘモグロビンのパーセンテージ(Hb)を監視する簡単な非侵襲的方法である。パルスオキシメータは、コンピュータユニットに結合され且つ患者の指又は耳たぶに取り付けられたプローブから成る。
【0048】
[0060]SpO2は一般にパーセンテージとして報告され、95%を超える値は正常であり、95%を下回る値はある程度の低酸素症(血液中の酸素の欠乏)を示している。患者が無呼吸又は呼吸低下を来たしている場合には、通常、ある程度遅れるものの、SpO2信号も換気量に付随して下がる。チェーン・ストークス呼吸中、SpO2信号は、換気量の特徴でもある良く知られた増大して弱まっていくパターンを来たす。
【0049】
[0061]したがって、チェーン・ストークス、OSA、混合性無呼吸などが一般的である呼吸パターンを分類するために本明細書で説明したアルゴリズムが流量信号概算値(換気量)又はSpO2信号又は両方の信号を使用することも考えられる。
【0050】
[0062]図12は、約15分間にわたるチェーン・ストークス患者の鼻流量(鼻漏)信号を示している。図13は、同じ患者のSpo2信号(飽和度)及び換気量信号(ローパスフィルタ処理された流量の絶対値)を示している。これらの信号は、同じグラフで表示するために正規化されてシフトされている。同じパターン認識技術が両方の信号に適用されてもよい。例えば、信号を呼吸低下/過呼吸に分け、呼吸低下の形状を解析し、サイクル長さ及び空間比率を決定し、分光写真(多くのFFTの絶対値の平均)を行い、CS周波数における分光写真のピークを決定し、両方の信号の形態学的特徴、例えばジャンプ特徴を決定し、両方の信号に関して連続的なウェーブレット変換を行い、リッジファインディング技術を使用して経時的な任意のCS周波数成分を追跡する。
【0051】
例1
[0063]OSA事例及びCS事例に分類されるべき流量データの能力を検査するためのデータのセットは、それぞれ約8時間の90人の患者研究対象から成っていた。検査の目的で、両方の鼻の圧力、流量、2つのエフォート信号(腹部&胸部)が記録され、それにより、内在する病気の可能性の診断が確かめられた。セットは、30人の患者から成る3つのグループ、すなわち、OSA(閉塞性無呼吸)、CS、混合に分けられた。データは、30分のタイムビンを基本に更に分類(最初に)された。時間は、以下のカテゴリー、すなわち、時間内(<5)に無呼吸又は呼吸低下が無い;主にCS呼吸(>90%);主にOSA(>90%);主に(>90%)無呼吸と呼吸低下との混合タイプ(すなわち、その後に多くの閉塞性呼吸を伴う中心成分を有する);異なる事象の組み合わせ、一般的には短い期間のCS又はOSA間に散在する混合性無呼吸;患者が動いており、信号の質が非常に低いために使用できない;に分類された。
【0052】
[0064]一般に、CS疾病が存在する場合には、少なくとも20〜30分の大きなブロックでCS呼吸が起こる。データセットは、 「純粋な」混合性無呼吸の非常に僅かな期間を含んでいた。むしろ、30人の患者から成る混合性のグループは、OSA、CS呼吸又は複雑な状況を含んでいた。
【0053】
特徴解析
[0065]異なるグループ(OSA、混合、CS)における分布を計算することにより全ての特徴が解析された。分布は、適当な関数の適用により正規化され、例えば、図5は、底がeの対数の適用後のピーク流量の時間と過呼吸の初めとの間の呼吸低下信号中の正規化された最大ジャンプの分布を示している。最も左側の曲線は、「正常」又はガウス分布を表している。図から分かるように、対数関数の適用が分布を正規化しており、また、この特徴がCS(左)グループとOSA(最も右側)グループとの間の良好な分離を示している。
【0054】
クラスタ解析
[0066]特徴分離能力を視覚化するためにk−meansクラスタリング技術及びファジーk−meansクラスタリング技術の両方が利用された。最初に特徴が患者毎に平均化され、その後、クラスタ解析を使用して、正しいグループへの正規クラスタリングを実証した。図6はそのような解析を示している。2つのクラスタ中心のそれぞれからのユークリッド2−ノルム距離が互いに対してプロットされている。当然、CS患者及びOSA患者は、一人のCS患者を除き、2つのグループに分かれる。混合性の患者は、様々な呼吸パターンで夜間に費やされる時間の長さに応じて、1つのグループ又は他のグループに入る。図中の分離対角線は、患者毎のグループ分けに適した単純な分類子(分類器)を表している。そのような分類子が行うことができないことは、そうでなくてもOSAが支配的な夜間から短い期間のCS呼吸を見つけることである。
【0055】
特徴時間的平均化
[0067]個々の事象に対して割り当てられるパターンを使用する分類器のトレーニングは厄介である。計算量を減らしつつ統計的検出力も(潜在的に)高めるために時間平均化が使用された。最良の第1推測として30分タイムビンが選択された。時間的平均化後、タイムビン毎のパターンの新たなセットが形成される。使用される生の特徴(グループの目に見える分離)は、呼吸低下長さ;過呼吸長さ;第1のフーリエ形状特徴;第2のフーリエ形状特徴;正規化された最大ジャンプであった。検査されて時間平均化された30分ビン特徴は(std=標準偏差、meansq=値の平方の平均、sqrt=平方根、shift=時間的な差の計算を可能にする)であった。
【0056】
分類器トレーニング及び検査
[0068]データが処理されて「専門家」の診断が行われると、1440個の30分ビンから成るグループが分類器トレーニングのために利用可能になった(90人の患者×16ビン)。
【0057】
分類器選択
[0069]例えば、最近隣解析、ニューラルネット解析、クラスタ解析など、n次元データからの分類器のトレーニングのための統計学的方法は多数存在する。しかしながら、データは線形分離可能と「思われた」ため、Bayesian決定理論が使用された。この理論(内在する正規確立密度関数に依存する)は、判別面を計算するためにベイズエラーの最小化を使用する。そのような面は、データをn個(この場合は2個)のカテゴリーから成るデータに分ける。一次差別関数及び二次差別関数の両方が利用された。前者はm次元(mは特徴の数)の超平面を用いてデータを分離し、一方、後者は超二次曲面を用いてデータを分離する。超平面判別手段は、最小のデータカバレージの領域で振る舞う傾向があるため、(同じ次数の精度であれば)常に好ましい。
【0058】
楽観的過ぎるトレーニング及び検査
[0070]分類器はトレーニングセットを使用してトレーニングされ、その後、同じデータを使用して分類器が検査される。これにより、人が直感的に期待するため、感度及び特異性の楽観的過ぎる値が得られる。しかしながら、先と同様に、これは洞察力に富んだプロセスであり、結果を視覚化するために最小の特徴セット(≦3)を使用することができる。図7はLD分類器を示している(平面は等確率面を示している)。図8はQD分類器を示している(二次曲面は等確率面を示している)。
【0059】
結果
[0071]各検査中、最良の精度を有する現在の特徴セット(又は、特徴セットのグループ)であったため、精度、感度、特異性が注目された。精度、感度、特異性の概算値はそれぞれ91%、91%及び96%程度の結果であった。
【0060】
例2
流量フィルタリング
[0072]最初に、望ましくない興味のない高周波内容を除去するために流量がフィルタ処理される。使用されるフィルタは、矩形窓を使用するフーリエ方法を用いるようになっているデジタルFIR(有限インパルス応答)フィルタである。フィルタは、0〜0.9Hzの通過帯域、0.9〜1.1Hzの転移帯域、1.1Hzを超える拒絶帯域を有している。フィルタの項数はサンプリング周波数とともに変化する。流量信号は、フィルタベクトルを用いて時系列点単位で畳込むことによりフィルタリングされる。
【0061】
換気量計算
[0073]流量信号に対して適用される簡単なローパスフィルタを使用して長期換気量信号ylongが計算される。200秒の時定数が使用される(チェーン・ストークス呼吸の想定し得る最も長いサイクルよりも長い)。換気量(平均流量ではない)を測定するため、流量信号の平方に対してフィルタが適用され、フィルタ出力の平方根が取得される。次に、10秒換気量y10が計算される(より「最近の」測定値)。この測定値は、流量信号の平方を1の領域を有する10秒方形波すなわち10秒長移動平均で畳込み、その後、結果の平方根を取得することにより形成される。このフィルタは、対象の周波数範囲にわたって5秒遅延定数を有する。このため、信号は、5秒分だけ左へシフトされ、それにより、タイミング目的で最初の信号とともに「並ぶ」。図10は、典型的な患者におけるチェーン・ストークス流量波形(大きな振幅の急速に変化する曲線)、長期換気量(小さい振幅のゆっくりと変化する曲線)、左へシフトされた10秒換気量(適度に変化する曲線)を示している。
【0062】
換気量信号からの事象検出
[0074]事象(呼吸低下−過呼吸シーケンス)の検出のための下側閾値及び上側閾値を形成するために10秒換気量信号が使用される。閾値は以下の通りである。
【数9】


事象のタイミングは以下のアルゴリズムを使用して計算される。
1.y10<threshlowとなる全ての点を求める。
2.上記点の全ての連続部分を求める。これらは暫定的な呼吸低下である。
3.y10>threshhighとなる全ての点を求める。
4.ステップ2で特定された全ての呼吸低下にわたって繰り返す。ステップ3で特定される点(過呼吸)が呼吸低下nと呼吸低下n+1との間に入らない場合には、呼吸低下n&n+1が合わせられ(これらの間で過呼吸が特定されなかったため)、1つの呼吸低下が形成される。全ての繰り返しに関して反復される。
5.このとき、呼吸低下が確かめられる。全ての呼吸低下間領域が過呼吸と見なされる。各呼吸低下−過呼吸「事象」は1つの想定し得るチェーン・ストークスサイクルを構成する。例えば、図10には5つのサイクルが示されている。
【0063】
事象タイミングの計算
[0075]以下のように、各事象毎に事象タイミングが計算される。
【数10】

【0064】
[0076]明らかに、前記事象は何らかの望ましくない「不要データ」を含んでいる。例えば、チェーン・ストークス呼吸によりそれぞれの側でひとくくりにされる1時間の長さの期間の正常な呼吸は、1時間長さの過呼吸のように見える(y10は常に閾値よりも大きい)。そのため、以下の目的に適った限界が事象に対して適用される。
τhypopnoea: 最小=10秒、最大=100秒
τcycle: 最小=15秒、最大=250秒
τhypopnoea: 最小=5秒
【0065】
[0077]これらの限界から外れる全ての事象は拒絶されて処理されない。ここで、本発明者らは、事象タイミングと、更なる解析のために流量波形の部分を抽出する能力とを有する。例えば、本発明者らは、全ての事象にわたって繰り返すことができるとともに、過呼吸に対応する流量波形の部分を選定することができる。図11は、本発明者らが前記シーケンスから過呼吸を選び出してそれを別個にプロットした一例である。全ての更なる処理のため、1Hzフィルタ処理された流量信号が特徴抽出のために使用される。
【0066】
[0078]現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものに関して本発明を説明してきたが、本発明が開示された実施形態に限定されず、逆に、本発明がその思想及び範囲内に含まれる様々な変形及び等価な構成を網羅しようとするものであることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の呼吸を表す信号を前処理して、ノイズをフィルタ除去し、ベースラインをゼロにするステップと、
信号を等しい長さのエポックに分けるステップと、
信号事象の圧縮表示として機能する信号からの1つ以上の一次特徴を各エポックから抽出するステップと、
統計値を一次特徴に対して適用して、全体のエポックを表す1つ以上の二次特徴を生成するステップと、
各二次特徴を全体のエポックから抽出される1つ以上の他の特徴とともにグループ化して、1つのエポックパターンを形成するステップと、
分類器アルゴリズムを用いてエポックパターンを操作して、信号が表し得る可能な各クラス毎に1つの確率を生成するステップと、
最も高い確率を有するクラスに対してエポックを割り当てるステップと、
確率の強さ及びクラスを、内在する病状の表示として報告するステップと、
を備える、睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項2】
等しい長さのエポックが記録全体と同じ長さである、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項3】
エポック長がおおよそ代表的な呼吸低下−過呼吸シーケンスの長さである、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項4】
各事象が、無呼吸、呼吸低下又は過呼吸である、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項5】
信号が表し得る可能なクラスがチェーン・ストークス呼吸又はOSAを備える、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項6】
分類器アルゴリズムが好ましくはトレーニングデータセットから学習される、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項7】
分類器が、トレーニングデータセットが人間の専門家によって予め分類された監視機械学習型のものである、請求項1に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項8】
データ取得システム及びメモリを含むロギング装置を使用して、患者からの呼吸を表す信号を記録するステップと、
呼吸信号を記録装置によりオンボードで処理し、或いはコンピュータを使用してオフラインで処理するステップと、
信号を長さが等しいn個のエポックに分けるステップと、
1つの呼吸低下とその後の過呼吸とから成る事象を記録するステップと、
各事象毎に始点及び終点を検出するステップと、
事象の長さを計算するステップと、
各過呼吸を処理して形状特徴を得るステップと、
を備える、睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項9】
最初にノイズを除去するために信号がフィルタ処理され、ベースラインがゼロにされる、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項10】
信号が線形化される、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項11】
事象が呼吸低下/無呼吸−過呼吸の正しい順序に従わない場合に事象を拒絶する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項12】
所定の長さスケール限界を超える事象を拒絶する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項13】
形状特徴が、
呼吸信号から過呼吸を抽出するステップと、
呼吸信号から換気量信号を形成するステップと、
値のベクトルを与えるために換気量信号をスケーリングするステップと、
行列として配列される直交関数の組を計算するステップと、
行列の擬似逆元と値のベクトルとの積から形状係数を計算するステップと、
により過呼吸換気量信号の特異値分解を使用して計算される、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項14】
直交関数の行列が、
【数1】


であり、tが0〜2piの過呼吸にわたる時間基準である、請求項13に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項15】
形状特徴を
【数2】


として計算し、換気量信号が値Vhyperpのベクトルを与えるためにその平均値によってスケーリングされる、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項16】
呼吸信号から過呼吸を抽出するステップと、
呼吸信号の絶対値から換気量信号を形成するステップと、
ドループピーク検出器を用いて換気量信号の包絡線を概算するステップと、
によって各過呼吸毎にジャンプ特徴を得る、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項17】
換気量信号の包絡線を概算するために以下のドループピーク検出器が使用され、
【数3】


(ここで、e[i]が近似包絡線であり、fがサンプリング周波数であり、v[i]が換気量信号である)
を与えるために1つの時間基準にわたって包絡線を補間し、
包絡線の初めと包絡線がその最大値に達する点との間の区間で、補間された信号における最大プラス差を求め、
ジャンプ特徴を与えるために換気量信号の平均値によって最大差をスケーリングする、請求項16に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項18】
以下の方程式によって一次特徴から二次長さ指標特徴を計算する、
【数4】


、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項19】
二次長さ指標が呼吸低下長さである、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項20】
呼吸を表す信号の包絡線からジャンプ特徴を計算する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項21】
呼吸を表す信号の包絡線から過呼吸形状特徴を計算する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項22】
呼吸信号の平均値を呼吸信号から差し引き、
差し引かれた信号をn個のスライスに切り刻み
ハニング窓を使用して各スライスに窓を掛け、
窓が掛けられたそれぞれのスライスに対してフーリエ変換を適用して、各スライス毎に複素ベクトル結果を生み出し、
スライス毎に実数値のベクトルを得るために各複素数結果の絶対値を取得し、
1つのベクトルを得るために、結果として得られる複数のベクトルを平均化し、
その後のベクトルの自然対数を取得し、
周波数範囲0Hz〜0.075Hzの値を抽出して、1つのサブベクトルを形成し、当該サブベクトルを非トレンド処理し、
最大値−非トレンド処理されたベクトルの平均として特徴を計算する、
ことにより、エポック信号の分光写真からエポック信号全体から付加的特徴を計算する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項23】
ウェーブレット解析を各エポックに対して適用することにより付加的特徴を得る、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項24】
ウェーブレット係数又はウェーブレット係数から得られる統計値をエポックのための特徴として使用する、請求項23に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項25】
分類器によって使用するための特徴のサブセットを選択する、請求項8に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項26】
トレーニングデータに基づいて最良のサブセットを選択するためにアルゴリズムを使用する、請求項25に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項27】
アルゴリズムが、最良優先、最悪除去、ランダムな加算から始めて除去、シミュレーションアニーリング、包括的なアルゴリズムから成るグループから選択される、請求項26に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項28】
最良のサブセットを選択するためにクロスバリデーションを使用し、このクロスバリデーションが、
トレーニングデータをグループ又はfoldに分割するステップと、
複数の精度検査を行うステップと、
それぞれのケースにおいてfoldのサブセットをトレーニングのために使用するステップと、
残りのfoldにおいて、結果として得られる分類器を精度に関して検査するステップと、
を備える、請求項26に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項29】
トレーニングデータセットを使用して分類器をトレーニングする、請求項25に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項30】
分類器が、Baysean最大尤度一次判別器及び二次判別器、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシーンから成るグループから選択される、請求項29に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項31】
差別関数を計算するステップと、
分類されるべき新しいデータから計算される特徴に対して差別関数を適用することにより、異なるクラスのための確率概算値を与えるステップと、
確率が最も高いクラスに対してデータ(エポック)を割り当てるステップと、
を更に備える、請求項30に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項32】
差別関数が(特徴サブセットと同じ長さの)2つの重みベクトル及び2つの定数を備えている、請求項31に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項33】
差別関数及び確率が、所望の感度及び特異性に適するように確率カットオフを設定することにより計算される、請求項31に記載の睡眠障害の存在を診断するための方法。
【請求項34】
患者のチェーン・ストークス呼吸の存在又は不存在を検出するための方法であって、
(i)患者の少なくとも1つの呼吸パラメータを示す信号を決定するステップと、
(ii)過呼吸の少なくとも1つの領域を検出するために信号を解析するステップと、
(iii)検出時に、前記少なくとも1つの過呼吸の持続時間を決定するステップと、
(iv)前記持続時間が閾値を超えるときにチェーン・ストークス呼吸が存在していると決定するステップと、
を備える方法。
【請求項35】
複数の領域が解析される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
過呼吸の前記複数の領域の持続時間の統計値を計算するステップを更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
統計値が平均値及び標準偏差のうちの1つ以上である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
呼吸パラメータが流量である、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
呼吸パラメータが酸素飽和度である、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
患者のチェーン・ストークス呼吸の存在又は不存在を検出するための方法であって、
(i)患者の少なくとも1つの呼吸パラメータを示す信号を決定するステップと、
(ii)過呼吸−呼吸低下の少なくとも1つの領域を検出するために信号を解析するステップと、
(iii)検出時に、呼吸低下から過呼吸までの領域内における信号の増加率を解析するステップと、
(iv)増加率がゆっくりとした増加である場合にチェーン・ストークス呼吸が存在しているという判断を下し、増加率が急激な増加である場合にチェーン・ストークス呼吸が存在していないという判断を下すステップと、
を備える方法。
【請求項41】
呼吸パラメータが流量である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
呼吸パラメータが酸素飽和度である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
信号の増加率を解析するためにドループピーク検出器が使用される、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
過呼吸−呼吸低下の複数の領域が解析される、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
チェーン・ストークス呼吸が存在する領域の数の統計値を計算するステップを更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
患者のチェーン・ストークス呼吸の存在又は不存在を検出するための方法であって、
(i)患者の少なくとも1つの呼吸パラメータを示す信号を決定するステップと、
(ii)前記信号の分光写真を決定するステップと、
(iii)信号がピークを有していることを分光写真が示す場合にチェーン・ストークス呼吸が存在していると決定するステップと、
を備える方法。
【請求項47】
信号が0Hz〜0.075Hzの範囲にピークを有していることを分光写真が示す場合にチェーン・ストークス呼吸が存在していることが決定される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
分光写真が高速フーリエ変換を使用して決定される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
患者のチェーン・ストークス呼吸の存在又は不存在を検出するための方法であって、
(i)患者の少なくとも1つの呼吸パラメータを示す信号を決定するステップと、
(ii)過呼吸の少なくとも1つの領域を検出するステップと、
(iii)過呼吸の前記少なくとも1つの領域の形態を決定するステップと、
(iv)前記少なくとも1つの領域がシドニー・ハーバー・ブリッジの形状を有している場合にチェーン・ストークス呼吸が存在していると決定するステップと、
を備える方法。
【請求項50】
請求項40の方法及び46の方法を備える患者のチェーン・ストークス呼吸の存在又は不存在を検出するための方法
【請求項51】
請求項34及び49のうちの少なくとも一方の方法を更に備える、請求項50に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−161641(P2012−161641A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−98897(P2012−98897)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2007−547093(P2007−547093)の分割
【原出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(500046450)レスメド・リミテッド (192)
【氏名又は名称原語表記】RESMED LTD
【Fターム(参考)】