説明

呼吸信号の解析装置

【課題】呼吸状態の判定精度をより一層向上させることができる呼吸信号の解析装置、解析システムおよび解析プログラムを提供する。
【解決手段】呼吸信号の解析装置1は、被験者の頭部の下側に配置された第1計測部20および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部21,22でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部20および前記第2計測部21,22の呼吸信号を個別に生成する信号生成手段4と、前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段6と、仮判定手段6により前記第1計測部20の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の下側に加わる荷重変化を計測し、計測値に基づいて生成される呼吸信号を個別に解析して呼吸状態を判定する呼吸信号の解析装置、解析システムおよび解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群の判定方法としては、被験者に呼吸センサ(鼻や口における気流をモニタ)、胸腹部ベルトセンサ、脳波計、筋電計、パルスオキシメーター、心電計等の計測器を取り付けて終夜睡眠中の身体の状態を測定するPSG検査を実施し、それらの測定値を解析して判定するのが世界標準判定方法とされている。この方法は、呼吸による気流を直接測定し、合わせて血中の酸素濃度の変動等を測定するものであるから呼吸障害の程度を客観的に把握することができる。その反面、多種類のセンサを身体に直接取り付けるので被験者の身体的負担が大きく、また専門解析技師が終夜立ち会いかつ多数の検査機器を使用することで検査費用が高額になるという問題点がある。
【0003】
上記のPSG検査に対し、被験者の身体的負担を軽減し、簡易な計測装置による判定方法として、シート式荷重センサを用いて呼吸状態を判定する方法がある。この方法は、呼吸に伴う身体の動きに着目し、被験者の下に配置した荷重センサで身体の動きを荷重の変化として計測し、荷重変化に基づいて生成した波形の呼吸信号を解析して呼吸状態を判定するというものである。
【0004】
シート式荷重センサによる呼吸状態を判定する装置および呼吸状態の解析方法が、特許文献1、2に開示されている。特許文献1、2に記載された発明の何れも、シート式荷重センサを就寝者の胸部から腹部の位置に設置して呼吸状態が判定される。
【0005】
特許文献1に記載された解析方法は、寝具に加わる荷重変化を呼吸信号として生成し、呼吸信号の振幅が低下し、その後、当該呼吸信号の振幅が増大し、かつ振幅が低下した時の前記呼吸信号の周波数に対して、振幅が増大したときの呼吸信号の周波数が高くなったとき、前記呼吸信号の振幅低下状態を無呼吸状態もしくは低呼吸状態と判定する、というものである。
【0006】
また、特許文献2は特許文献1の解析方法よりも判定精度を向上させたものであって、
第1工程として、ノイズとなる体動(四肢の動き)の影響を除去するために複数の振幅の平均値に基づいて呼吸障害の数をカウントし、カウントした呼吸障害数より重度であると判断した場合に、第2工程として単振幅データに基づいて呼吸障害数を再カウントする、というものである。この方法によれば、体動が多いとされる軽度の被験者に対しては体動に起因するノイズを除去でき、重度の被験者に対しては無呼吸または低呼吸後の努力呼吸が1または2振幅程度でしか含まれない呼吸障害パターンも検出可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−113340号公報
【特許文献2】特開2007−181613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
四肢の体動は呼吸による体動よりも大きく、呼吸信号では大きい振幅、つまりノイズとして現れる。四肢体動は、胸部、腹部の呼吸信号へのノイズとして現れやすく、頭部の呼吸信号へのノイズとしての影響が比較的少ないことがわかっている。しかし、頭部の呼吸信号へも、歯軋りおよび嚥下などの口腔内動作がノイズとして現れる。
【0009】
頭部、胸部或いは腹部の何れかで検知された単一部位の荷重変化に対応する呼吸信号から無呼吸状態もしくは低呼吸状態を判定すると、誤判定となって判定精度が低下する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、呼吸状態の判定精度をより一層向上させることができる呼吸信号の解析装置、解析システムおよび解析プログラムの提供を目的とする。
【0011】
即ち、本発明は下記[1]〜[7]に記載の構成を有する。
【0012】
[1] 被験者の頭部の下側に配置された第1計測部および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部および前記第2計測部の呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段と、
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析装置。
【0013】
[2] 前記第2計測部は前記被験者の胴部の下側で複数の異なる部位に配置され、
前記信号生成手段は、前記第2計測部の複数の異なる部位における呼吸信号を個別に生成するものとなされ、
前記第2計測部の異なる部位ごとの前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間のうち少なくとも一つが前記第1期間と重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する前項1に記載の呼吸信号の解析装置。
【0014】
[3] 前記確定手段において、前記第2計測部の複数の異なる部位のうち過半数の部位において無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間が所定時間を超えて重複する場合に、前記重複した期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する前項2に記載の呼吸信号の解析装置。
【0015】
[4] 前記信号生成手段によって異なる部位に対応して個別に生成された前記呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)と予め設定された上限閾値(Kmax)との積と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成する信号形成手段を備え、
前記仮判定手段は、前記みなし呼吸信号(S’)が示す振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または呼吸状態を仮判定する前項1〜3のいずれかに記載の呼吸信号の解析装置。
【0016】
[5] 前記仮判定手段において、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判定する振幅の低下閾値(Kdec)を設定して、前記みなし呼吸信号(S’)の振幅の移動平均(M’)を順次計算し、
振幅の移動平均値(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が所定時間以上継続すると、無呼吸状態または低呼吸状態であると仮判定する前項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【0017】
[6] 被験者の頭部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う頭部の荷重変化が計測される第1計測部と、
被験者の胴部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う胴部の荷重変化が計測される第2計測部と、
前記第1計測部および前記第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段と、
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析システム。
【0018】
[7] コンピュータを、
被験者の頭部の下側に配置された第1計測部および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部および前記第2計測部の呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段、として機能させるための呼吸信号の解析プログラム。
【発明の効果】
【0019】
上記[1]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、頭部および胴部の荷重変化が計測され、各部位の荷重変化に基づいて信号生成手段により第1計測部および第2計測部の呼吸信号が個別に生成される。仮判定手段では、前記呼吸信号の変動に基づいて頭部および胴部における無呼吸状態または低呼吸状態の有無が仮判定され、頭部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、胴部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複すると、頭部の仮判定結果が重視されて呼吸状態が確定される。
【0020】
四肢の体動の影響が比較的少ない頭部における仮判定結果が重視されて無呼吸状態または低呼吸状態にある期間が確定されるので信頼性が向上する。また、頭部を含む複数の部位で無呼吸状態または低呼吸状態と個別に仮判定された結果に基づいて呼吸状態が確定されるので、呼吸状態の判定精度がより向上する。
【0021】
上記[2]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、第2計測部で体動によるノイズが影響して無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定されなかった部位があっても、少なくとも一つの部位で無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された期間が、四肢の体動の影響が比較的少ない第1計測部の無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された期間と重複していれば無呼吸状態または低呼吸状態と確定されるので、呼吸状態の確定結果の誤りが低減される。
【0022】
上記[3]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、第2計測部に備えた過半数の部位で無呼吸状態または低呼吸状態であると仮判定された期間が所定時間以上重複する場合には、当該重複期間に第1計測部で誤判定により正常と仮判定されたとしても第1計測部の仮判定結果に関わらず、前記重複期間が無呼吸状態または低呼吸状態であると確定する。第2計測部の過半数の部位で同時期に仮判定された結果に基づいて呼吸状態が確定されるので判定精度がより向上する。
【0023】
上記[4]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、呼吸信号Sからみなし呼吸信号S’を形成する信号形成処理においては、呼吸信号Sに対し、上限閾値Kmaxによって四肢体動による振動成分が取り除かれ、かつ取り除く成分を決定する際には振幅の移動平均Mを用いた処理が行われるので周期的な四肢体動に起因するノイズも取り除かれている。かかる処理により、みなし呼吸信号S’は呼吸による振動を呼吸信号Sよりも正確に表す信号に加工される。当該みなし呼吸信号S’に基づいて呼吸状態が判別されるので、判定精度がより向上する。
【0024】
上記[5]に記載の呼吸信号の解析装置によれば、仮判定手段において、みなし呼吸信号S’について振幅の移動平均値M’×低下閾値Kdecよりも小さい振幅が所定時間以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定される。この判定は四肢体動による振動成分が取り除かれた各部位ごとのみなし呼吸信号S’を解析したものであり、かつ振幅の移動平均M’を用いてなされるので判定精度が高い。
【0025】
上記[6]に記載の呼吸信号の解析システムによれば、頭部および胴部の荷重変化が計測され、各部位の荷重変化に基づいて信号生成手段により第1計測部および第2計測部の呼吸信号が個別に生成される。仮判定手段では、前記呼吸信号に対応した振動の変動状態に基づいて頭部および胴部における無呼吸状態または低呼吸状態の有無が仮判定され、頭部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、胴部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複すると、頭部の仮判定結果が重視されて呼吸状態が確定される。
【0026】
四肢の体動の影響が比較的少ない頭部における仮判定結果が重視されて無呼吸状態または低呼吸状態にある期間が確定されるので信頼性が向上する。また、頭部を含む複数の部位で無呼吸状態または低呼吸状態と個別に仮判定された結果に基づいて呼吸状態が確定されるので、呼吸状態の判定精度がより向上する。
【0027】
上記[7]に記載の呼吸信号の解析プログラムによれば、頭部および胴部の荷重変化が計測され、各部位の荷重変化に基づいて信号生成手段により第1計測部および第2計測部の呼吸信号が個別に生成される。仮判定手段では、前記呼吸信号に対応した振動の変動状態に基づいて頭部および胴部における無呼吸状態または低呼吸状態の有無が仮判定され、頭部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、胴部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複すると、頭部の仮判定結果が重視されて呼吸状態が確定される。
【0028】
四肢の体動の影響が比較的少ない頭部における仮判定結果が重視されて無呼吸状態または低呼吸状態にある期間が確定されるので信頼性が向上する。また、頭部を含む複数の部位で無呼吸状態または低呼吸状態と個別に仮判定された結果に基づいて呼吸状態が確定されるので、呼吸状態の判定精度がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態にかかる呼吸信号の解析装置の構成、および横たわった被験者の下側に第1計測部および第2計測部を配置した状態を示す断面図である。
【図2】被験者の呼吸信号Sと、この呼吸信号Sを上限閾値Kmax=5で処理してみなし呼吸信号を生成する方法を説明するグラフである。
【図3】図2における区間(a)の部分拡大図である。
【図4】第1計測部および第2計測部の仮判定結果に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を確定する方法を説明する説明図である。
【図5】第1計測部および第2計測部の仮判定結果に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を確定する方法を説明する説明図である。
【図6】第1計測部および第2計測部の仮判定結果に基づく呼吸状態の確定手順を示すフローチャートである。
【図7】第1計測部および第2計測部の仮判定結果に基づく呼吸状態の確定手順を示すフローチャートである。
【図8】第1計測部および第2計測部の仮判定結果に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を確定する方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1において、本発明の一実施形態である呼吸信号の解析装置1は、制御部3で構成される信号生成手段4、信号形成手段5、仮判定手段6、確定手段7およびフィードバック手段を含み、さらに図示しないモニタ、プリンタ等の出力機器を備えている。
【0031】
前記制御部3は、例えばマイクロコンピュータなどのコンピュータを含んで構成され、前記各種手段および前記出力機器などを制御している。
【0032】
横たわった被験者の下側に加わる荷重は生体活動に伴って変化し、その生体活動には呼吸に伴う体動と寝返り等による四肢の体動とが複合している。
【0033】
前記呼吸信号の解析装置1では、頭部および胴部の各荷重変化の計測値に基づいて生成される波形信号から呼吸に無関係の成分或いは呼吸に無関係である可能性の高い成分を除去して各部位の呼吸状態を仮判定することで、判定精度を向上させている。
【0034】
さらに、四肢の体動による影響が頭部では比較的少ないことに着目し、頭部および個別に仮判定された他の部位の仮判定結果に基づいて呼吸状態を確定することで判定精度をより向上させた信頼性の高い装置である。
【0035】
〔荷重変化の計測と呼吸信号の生成〕
図1に示すように、ベッド10に横たわった被験者の下側にはマット11を介してパネル型荷重センサ2である第1計測部20および第2計測部21,22が配置され、ベッドサイドに配置された解析装置1の制御部3によって荷重信号の検出が行われる。
【0036】
第1計測部20は、被験者の頭部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う頭部の荷重変化が計測される。第2計測部21,22は、被験者の胴部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う胴部の荷重変化が計測される。
【0037】
上述の解析装置1、前記第1計測部20および前記第2計測部21,22などを含めて、呼吸信号の解析システム100が構成されている。
【0038】
本図では、頭部および胴部における荷重変化を計測するために頭部の下側に第1計測部20、胴部の下側で複数の異なる部位として胸部および腹部に第2計測部21,22が配置されている。しかし、胴部における荷重変化を1つ或いは3つ以上の部位で計測するのであってもよく、その場合は任意の計測位置に荷重センサ2を配置すればよい。
【0039】
本発明において、第1計測部20はマット11上、第2計測部21,22はマット11下に配置されているが、各計測部20,21,22で呼吸による体動を検知できる限り配置位置に関して限定されない。
【0040】
また、胴部における荷重変化の計測位置についても呼吸による体動を検知できる限り限定されない。しかし、頭部を含めた少なくとも2箇所以上で計測を行う必要がある。そのような構成により、呼吸信号へのノイズの影響が比較的少ない頭部の仮判定結果が重視されて呼吸状態が確定されるので、本解析装置1の判定精度が向上する。
【0041】
前記荷重センサ2の構造や種類は限定されず、例えば被験者の生体活動に伴って発生する敷き板の歪みの変動を検出する歪みセンサによるものが用いられる。
【0042】
第1計測部20および第2計測部21,22で計測された荷重信号は、信号生成手段4において第1計測部20および第2計測部21,22の呼吸信号である原呼吸信号Sとして各部位個別に生成される。原呼吸信号Sは荷重の時間的変化を表すものであり、その振幅は体動の大きさに対応している。
【0043】
図2,3に示した原呼吸信号Sはその一例である。これらの原呼吸信号Sは荷重変化を振幅として表わしたものであるから、呼吸に伴う体動と四肢の体動とが複合したものである。
【0044】
〔解析方法〕
制御部3は、信号生成手段4において、第1計測部20および第2計測部21,22で計測された各荷重の変化に基づいて波形の原呼吸信号Sを個別に生成する。
【0045】
原呼吸信号Sにおける大きい振幅が四肢の体動による成分であると判断されると、信号形成手段5は、原呼吸信号Sからその成分を取り除く処理を行ってみなし呼吸信号S’を形成する。
【0046】
仮判定手段6では、各部位個別に形成されたみなし呼吸信号S’で示す振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態の仮判定がされる。各部位個別の当該仮判定結果に基づいて、被験者の無呼吸状態または低呼吸状態の確定がされる。
【0047】
以下に、就床から起床までの間に継続して計測した各部位個別の荷重変化に基づいて生成された原呼吸信号Sから呼吸状態を判定する方法について詳述する。尚、何れの部位の荷重変化でもあっても当該方法は同様である。
【0048】
信号生成手段4により原呼吸信号Sが生成される。続いて、信号形成手段5により、振幅の移動平均Mが順次計算される。
【0049】
移動平均Mの計算に用いる振幅数は適宜設定すれば良く、一定の振幅数または一定時間内の振幅数とする。例えば、10〜100回の振幅または1〜10分間の振幅数によって計算する。振幅の移動平均Mを算出することで、原呼吸信号Sから周期的な四肢体動などのノイズ成分を減少させることが出来るようになる。
【0050】
信号形成手段5において、例えば、n回目の振幅の大きさAを、M×Kmaxと比較する。上限閾値Kmaxは、原呼吸信号Sのn回目の振幅(nは任意の数)が、呼吸体動、四肢体動のどちらに起因するものであるかどうかを判断するための予め設定された値である。
【0051】
上限閾値Kmaxは、設定値が過小であるとみなし呼吸信号S’からあえぎ呼吸に起因する成分が除外される可能性が高くなり、過大であると寝返り等の呼吸とは無関係の四肢体動に起因する成分がみなし呼吸信号S’に取り込まれる可能性が高くなる。これらはいずれも判定精度を低下させるものである。
【0052】
かかる観点より、前記上限閾値Kmaxは2〜20の範囲内で設定することが好ましい。また、原呼吸信号Sを保存しておけば上限閾値Kmaxを変更してみなし呼吸信号S’を再形成することができるので、みなし呼吸信号S’を再形成によって判定精度のさらなる向上が可能である。
【0053】
A<M×Kmaxであれば、その振幅が呼吸に起因するものであって、四肢体動に起因するものではないと判断して、原呼吸信号Sにおける振幅Aをみなし呼吸信号S’におけるn回目の振幅として取り込む。一方、A≧M×Kmaxであれば、その振幅が四肢体動に起因するものであると判断して、みなし呼吸信号S’におけるn回目の振幅AをM×Kmaxに置き換えて、振幅成分のうちのM×Kmaxを超える部分を除外する。
【0054】
A≧M×Kmaxである場合、つまり振幅が突出して大きい場合でもその振幅成分の全てを除外しないのは、大きい振幅にはあえぎ呼吸による体動も含まれている可能性が高く、且つあえぎ呼吸は安静時の呼吸よりも振幅が大きいので、M×Kmax以下の部分を呼吸に起因する成分であるとみなし、M×Kmaxを超える部分を四肢体動に起因する成分であるとみなして処理する。換言すれば、大きい振幅の成分を呼吸に起因する成分と四肢体動に起因する成分とに振り分けている。呼吸に起因するとみなした成分はみなし呼吸信号S’に取り入れて呼吸状態の判定材料とする。
【0055】
例えば、図2を拡大した図3において、Kmax=5である場合の3個の極大値P,P,Pに着目して説明すると、PおよびPとM×5はP<M×5、P<M×5の関係にあるので、PおよびPはみなし呼吸信号S’においても振幅の極大値となる。PはP≧M×5の関係にあるので、P’=M×5=M×Kmaxがみなし呼吸信号S’における振幅の極大値となるのである。
【0056】
尚、前記移動平均Mの計算に用いる振幅は、n回目の振幅を含む過去の振幅、またはn回目の振幅を含まない過去の振幅のどちらであっても良い。
【0057】
信号形成手段5は、このような処理を繰り返して最後の振幅までM×Kmaxとの比較を行うことで、就床から起床までのみなし呼吸信号S’を形成する。
【0058】
みなし呼吸信号S’は、原呼吸信号Sに対し、上限閾値Kmaxを用いることによって四肢体動による振動成分が取り除かれ、且つ取り除く成分を決定する際には振幅の移動平均Mを用いた処理を行うことにより周期的な四肢体動に起因するノイズも取り除かれている。このため、みなし呼吸信号S’は呼吸による振動を原呼吸信号Sよりも正確に表す信号に加工されている。
【0059】
続いて制御部3は、仮判定手段6において、信号形成手段5で形成したみなし呼吸信号S’を解析して呼吸障害の有無を判定する。各荷重センサ2の荷重の変化に基づいて、各部位に配置された前記荷重センサ2ごとに無呼吸状態または低呼吸状態の仮判定がなされるのである。
【0060】
仮判定手段6では、呼吸障害の有無を判定するための、振幅の低下閾値Kdecおよび低下継続時間Tが設定される。
【0061】
振幅の低下閾値Kdecおよび低下継続時間Tは、標準判定基準に従って適宜設定する。例えば、米国睡眠医学会(AASM)が提示している国際的なガイドライン(成人用)であるシカゴクライテリア(1999年)では、10秒以上の気流の停止を無呼吸とし、ベースラインから50%以上の低下が10秒以上継続した場合に低呼吸としている。また、同学会の2001年の臨床定義のメディケアクライテリアでは、気流または呼吸運動の30%以上の低下および酸素飽和度4%以上の低下が10秒以上継続する場合に低呼吸としている。本発明にこの判定基準を当てはめると、前記低下閾値Kdec=0.7、低下継続時間T=10秒である。
【0062】
仮判定手段6は、振幅の移動平均M’を順次計算する。これにより、みなし呼吸信号S’から周期的な四肢体動などのノイズ成分を減少させることが出来る。移動平均M’を計算するための振幅数は適宜設定すれば良く、原呼吸信号Sの場合と同じく、一定の振幅数または一定時間内の振幅数とする。
【0063】
M’×Kdecよりも小さい振幅が所定時間(低下継続時間T)以上継続しているかどうかを調べ、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判定する。この判定は振幅の移動平均M’を用いてなされるので判定精度は高い。
【0064】
M’×Kdecよりも小さい振幅の継続時間が所定時間以下であれば、仮判定がなされた部位に対する呼吸状態は仮正常と判定され、M’×Kdecよりも小さい振幅の継続時間が所定時間以上であれば、無呼吸状態または低呼吸状態であると仮異常と判定される。
【0065】
このようにして、仮判定手段6では、みなし呼吸信号S’の最後の振幅までM’×Kdecよりも小さい振幅が所定時間以上継続すると、無呼吸状態または低呼吸状態であると仮判定するのである。
【0066】
尚、以降では、仮判定手段6により無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定されると仮異常、無呼吸状態または低呼吸状態でない、即ち呼吸状態が正常であると仮判定されると仮正常と記す。
【0067】
(確定手順)
[第一の確定手順]
第1計測部20および第2計測部21,22の全ての部位に対する荷重の変化に基づいた仮判定が完了すると、制御部3は、仮判定手段6での全ての仮判定結果に基づいて被験者の呼吸障害(無呼吸状態または低呼吸状態)の有無を確定する。
【0068】
図4(a)〜図4(c)、図5(d),(e)に示す仮判定結果、例えば、第1計測部(頭部)20、第2計測部(胸部)21および第2計測部(腹部)22の仮判定結果に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を確定する方法を説明する。
【0069】
第1計測部20、第2計測部21,22の太い実線は仮異常と判定された期間であることを示し、確定結果の太い実線は無呼吸状態または低呼吸状態と確定された期間であることを示している。
【0070】
図4(a)に示すように、時刻t1から時刻t3で示す期間に第1計測部20で仮異常と判定され、時刻t1から時刻t4で示す期間に第2計測部21、時刻t1から時刻t2で示す期間に第2計測部22で何れも仮異常と判定されている。
【0071】
第1計測部20で仮異常と判定された期間(以降、「第1期間」と記す。)と、第2計測部21,22で仮異常と判定された期間(以降、「第2期間」と記す。)とが重複している。この場合、四肢体動の影響が比較的少ない第1計測部20での仮判定結果が重視され、被験者は前記第1期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。
【0072】
図4(b)に示すように、時刻t5から時刻t6で示す期間に第1計測部20で仮異常と判定され、前記第1期間において第2計測部21,22では何れも仮正常と判定されている。この場合、第1計測部20で仮異常と判定されていても、被験者は無呼吸状態または低呼吸状態ではないと確定される。
【0073】
図4(c)に示すように、時刻t7から時刻t8で示す期間に第1計測部20で仮正常と判定され、第2計測部(胸部)21で仮異常と判定されている。この場合、第2計測部(胸部)21で仮異常と判定されていても、被験者は無呼吸状態または低呼吸状態ではないと確定される。
【0074】
図5(d)に示すように、時刻t9から時刻t13で示す期間に第1計測部20で仮異常と判定され(第1期間)、時刻t9から時刻t10、時刻t11から時刻t12で示す期間に第2計測部21,22の何れかで仮異常と判定されている(第2期間)。
【0075】
第2計測部(腹部)22で仮異常と判定されている期間は2回あるが、第1計測部20の仮判定結果が重視されるため、被験者は第1期間の1回で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。
【0076】
このように、第2計測部(腹部)22の時刻t9から時刻t12に示すような体動などによるノイズにより無呼吸状態または低呼吸状態の仮異常の判定が分断される場合であっても、第1計測部20の第1期間に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態の有無が1回確定される。
【0077】
図5(e)に示すように、時刻t14から時刻t15で示す期間に第1計測部20で仮異常と判定され(第1期間)、同じく時刻t14から時刻t15で示す期間に第2計測部(胸部)21で仮異常と判定されている(第2期間)。
【0078】
前記第1期間において、第2計測部(腹部)22で仮異常と判定される期間はないが、胸部21で仮異常と判定された期間(第2期間)があるため、第1計測部20の仮判定結果が重視されて、被験者は第1期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。
【0079】
尚、第1期間と重複した期間に、第2計測部で仮異常と判定された部位が第2計測部(腹部)22のみであった場合でも、被験者は第1期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。また、いずれの場合であっても、第1期間と第2期間が必ずしも一致している必要はなく、重複する期間が存在すればよい。
【0080】
このように、第2計測部21,22の異なる部位ごとの前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間のうち少なくとも一つが前記第1期間と重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定される。
【0081】
これにより、四肢の体動の影響が比較的少ない第1計測部の無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、第2期間の少なくとも一つが重複していれば無呼吸状態または低呼吸状態と確定されるので、呼吸状態の確定結果の誤りが低減される。
【0082】
図6のフローチャートに基づいて、確定手段7により第1計測部20および第2計測部21,22の仮判定結果に基づく確定手順について説明する。
【0083】
制御部3は、仮判定結果に基づいて第1計測部20で仮異常と判定される期間(第1期間)があれば(SA1,YES)、当該第1期間で第2計測部21,22に仮異常と判定されている期間(第2期間)があるか確認する(SA2)。
【0084】
ステップSA2で第1期間と重複する第2期間があれば、被験者は前記第1期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定して、1回の呼吸障害としてカウントする(SA3)。
【0085】
ステップSA2で第1期間と重複する第2期間がない場合には、被験者は無呼吸状態または低呼吸状態ではなく呼吸状態が正常であると確定される(SA4)。
【0086】
尚、ステップSA1で前記第1計測部20で仮異常と判定された期間がなければ、後述する図7に示すフローが実行される。
【0087】
上述したように、制御部3には、仮判定手段6により前記第1計測部20の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部21,22の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段7を備えているのである。
【0088】
四肢の体動の影響を受け難い頭部と胴部に配置された複数の部位の計測結果に基づいて、頭部および胴部の呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態であるとそれぞれ仮判定された期間が重複している場合に無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。複数箇所で同時に無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定されている場合に呼吸状態が異常と確定されるため、判定精度の信頼性が高くなるのである。
【0089】
尚、第2計測部21,22の何れかの部位に対する仮異常と判定された期間が、第1計測部20の仮異常と判定された期間と少なくとも重複していればよい。
【0090】
[第二の確定手順]
上述では、確定手段7により第1計測部20および第2計測部21,22の何れかの部位で無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された結果に基づいて呼吸障害の有無が確定されたが、第1計測部20で呼吸状態が仮正常と判定されている場合であっても、第2計測部21,22の両方で無呼吸状態または低呼吸状態であると仮判定する各第2期間が所定期間以上重複する場合には、第2計測部21,22で仮異常と判定された重複期間は、無呼吸状態または低呼吸状態であると確定されてもよい。
【0091】
図7に基づいて、第1計測部20の呼吸状態が仮正常と判定されている場合の、確定手段7による呼吸状態の第二の確定手順について説明する。
【0092】
第1計測部20の呼吸状態が仮正常と判定されていれば(SB1,YES)、例えば、胸部および腹部に配置された第2計測部21,22で仮異常と判定される期間があるか確認する(SB2)。第1計測部20の呼吸状態が仮異常と判定されていれば(SB1,NO)、上述の図6に示した確定手順が実行される。
【0093】
ステップSB2で第2計測部の胸部21で仮異常と判定された期間(第2期間)が存在し、胸部21で仮異常と判定された第2期間に第2計測部の腹部22でも仮異常と判定された第2期間があれば(SB3,YES)、胸部21および腹部22で仮異常と判定される各第2期間の重複期間が所定期間(例えば、10秒)以上あるか確認する(SB4)。
【0094】
ステップSB4で第2計測部の胸部21および腹部22で仮異常と判定された各第2期間の重複期間が所定期間(例えば、10秒)以上であれば(SB4,YES)、被験者は前記各第2期間の重複期間は無呼吸状態または低呼吸状態であると確定して、1回の呼吸障害としてカウントする(SB5)。
【0095】
例えば、図8に示すように、第1計測部20で仮正常と判定されている場合であっても、第2計測部(胸部)21で仮異常と判定された時刻t16から時刻t18までの期間、第2計測部(腹部)22で仮異常と判定された時刻t17から時刻t19までの期間で所定期間以上重複すれば、重複した時刻t17から時刻t18の期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定される。
【0096】
つまり、第一期間で正常と判定される場合であっても、各第2期間の重複した期間が所定期間以上であれば、当該重複期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定されるのである。
【0097】
ステップSB2において第2計測部21,22で第2期間がない、ステップSB3において胸部21で仮異常と判定された第2期間に腹部22で仮異常と判定された第2期間がない、またはステップSB4において第2計測部21,22で仮異常と判定された各第2期間の重複期間が所定期間に満たない場合には、被験者は無呼吸状態または低呼吸状態ではなく呼吸状態が正常であると確定する(SB6)。
【0098】
尚、前記所定期間は、前述の低下継続時間Tと同一期間であってもよいし、第1計測部20および第2計測部21,22で個別に無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定する場合と同様に、標準判定基準に従って適宜設定するなどすればよい。
【0099】
このように、前記第二の確定手順においては、第2計測部21,22の各測定部位で重複して仮異常と判定された期間が、所定期間以上重複している場合に、被験者は重複期間で無呼吸状態または低呼吸状態であると確定されるのである。
【0100】
前記第二の確定手順では、第2計測部に2つの測定部位を備えた場合で説明したが、3つ以上の測定部位を備えるのであってもよい。その場合、第2計測部の複数の異なる部位のうち過半数の部位において無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間が所定時間を超えて重複する場合に、前記重複した期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する。
【0101】
上述したように、第2計測部21,22が胴部の異なる部位に複数配置され、各部位ごとに無呼吸状態または低呼吸状態が個別に仮判定されるので、呼吸状態の判定精度がより一層向上するのである。
【0102】
尚、以上で説明した原呼吸信号Sおよびみなし呼吸信号S’、これらの信号の振幅の移動平均M,M’、その他の解析に用いられるデータは、解析結果とともに出力機器に出力される。
【0103】
上述したように、ステップSA1〜SA4,SB1〜SB6の処理が最後の振幅まで繰り返し実行されることにより、被験者の就床から起床までの間での呼吸状態が確定されるのである。
【0104】
(呼吸状態確定後)
このようにして、上述した就床から起床までの呼吸障害(無呼吸状態または低呼吸状態)のカウントが完了すると、就床から起床までの計測時間と計上した呼吸障害の数に基づいて単位時間あたりの呼吸障害指数RDIが計算される。
【0105】
そこで、計算された呼吸障害指数RDIに基づいて、症状の程度を判定するとともに、みなし呼吸信号S’の形成に用いた上限閾値Kmaxが症状の程度に適合していたかどうかを調べ、上限閾値Kmaxにフィードバックさせるフィードバック手段を制御部3に設けるのであってもよい。
【0106】
例えば、フィードバック手段は、症状の程度を判定するための軽症基準値Xmiおよび重症基準値Xを設けて、Xmi≦RDI<Xのときは症状が中程度であり、前記上限閾値Kmaxが適正であったと判断して解析を終了する。
【0107】
RDI<Xmiのときは、症状が軽度であると判断する。また、前記上限閾値Kmaxを低い値に変更し、変更後の前記上限閾値Kmaxに基づいてみなし呼吸信号S’を再形成する。再形成したみなし呼吸信号S’に対し、再度呼吸状態の仮判定をする。上限閾値Kmaxを下げることで、前記上限閾値Kmaxの変更前より四肢体動による成分として除外する範囲が拡大される。軽症の場合はあえぎ呼吸が小さくなる傾向があるので、この処理によって軽症の場合の判定精度が高まる。
【0108】
RDI≧Xのときは、症状が重度であると判断する。また、前記上限閾値Kmaxを高い値に変更し、変更後の上限閾値Kmaxに基づいてみなし呼吸信号S’を再形成する。再形成したみなし呼吸信号S’に対し、再度呼吸状態の仮判定をする。上限閾値Kmaxを上げることで、前記上限閾値Kmaxの変更前より四肢体動による成分と見なして除外する範囲が縮小される。重症の場合はあえぎ呼吸も大きくなる傾向があるので、この処理によって重症の場合の判定精度が高まる。
【0109】
重症者は振幅の大きいあえぎ呼吸をすることが多いという現象に鑑みると、重症者の振幅の大きい部分に呼吸成分が含まれている可能性が高く、逆に軽症者の振幅の大きい部分に呼吸成分が含まれている可能性は低い。従って、原呼吸信号Sから呼吸以外の成分を取り除き、かつ呼吸成分を取りこぼすことなくみなし呼吸信号S’に取り込むには、前記上限閾値Kmaxを重症者では相対的に高い値に設定し、軽症者では相対的に低い値に設定すれば良い。みなし呼吸信号S’が呼吸による振幅を正確に表しているほど、呼吸状態をより正確に検知でき判定精度が高まる。しかしながら、検査前は症状の程度が不明であるから、1回目は中程度の上限閾値Kmaxを設定して仮解析し、1回目の解析結果である呼吸障害指数RDIに基づいて上限閾値Kmaxを変更し、再形成したみなし呼吸信号S’で2回目の解析を行うことにより、1回目よりも正確な解析結果を得ることができる。
【0110】
本発明の解析装置1は、上限閾値Kmaxを設けて原呼吸信号Sから四肢体動による成分を取り除いたみなし呼吸信号S’を解析対象とすることにより判定精度を高め得るものであるが、このような複数回の解析を行うことによってさらに判定精度を高めることができる。
【0111】
前記上限閾値Kmaxの設定例として、1回目の上限閾値Kmaxを中程度の症状に適した4〜6とし、2回目の上限閾値Kmaxを、軽症の場合は2〜5、重症の場合は6〜20を挙げることができる。前記設定例は一般成人に適した上限閾値Kmaxであり、小児などの場合は別途適切な上限閾値Kmaxを設定する。また、上限閾値Kmaxの変更による解析回数は2回に限定されず、3回以上行う場合も本発明に含まれる。また、例示した1回目の上限閾値Kmaxは被験者の症状を予測できない場合に適した推奨値であり、本発明における1回目の上限閾値Kmaxを規定するものではない。過去の解析結果や他の診察結果等から症状の程度を予測できる場合は、1回目から軽症者または重症者に適した上限閾値Kmaxに設定して解析を行った場合も本発明に含まれる。
【0112】
本発明の解析装置1は、信号形成手段5において上限閾値Kmaxを設けて原呼吸信号Sから四肢体動に起因する成分を取り除いたみなし呼吸信号S’を、仮判定手段6における解析対象とすることにより判定精度を高め得るものであるが、フィードバック手段によって上限閾値Kmaxを変更して複数回の解析を行うことによってさらに判定精度を高めることができる。
【0113】
前記解析において、症状の程度を判定する軽症基準値Xmi、中等症基準値Xmo、および重症基準値Xも標準判定基準に従う。米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインでは、PSG検査において、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index、AHI)が5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症に区分しているので、本発明にこの判定基準を当てはめると、軽症基準値Xmi=15、中等症基準値Xmo=15、重症基準値X=30である。ただし、日本では軽症・中等症の境界をAHI=20とすることが多い。このため、本発明を日本で実施する場合は、中等症基準値Xmo=20、重症基準値X=30と設定することが好ましい。
【0114】
〔その他の解析方法〕
上述した解析フローでは、説明の便宜上、就床から起床までを予め設定した上限閾値Kmaxでみなし呼吸信号S’を形成し、一晩分のみなし呼吸信号S’の解析を終えてから上限閾値Kmaxの再設定の要否判断およびみなし呼吸信号S’の再形成を行った例を取り上げた。
【0115】
しかし、本発明は上記フローに限定するものではない。
【0116】
例えば、荷重変化を計測しながら追いかけるようにみなし呼吸信号S’を形成して解析し、その結果を直ちにみなし呼吸信号S’の形成にフィードバックさせることもできる。上限閾値Kmaxの見直し(同値の継続を含む)を行う時間間隔は適宜設定すれば良く、例えば20分〜1時間毎に見直しを行う。このようにすれば、荷重変化の計測終了とほぼ同時に精度の高い判定結果を得ることができる。
【0117】
さらに、本発明は、みなし呼吸信号S’が示す振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定するための手法は、移動平均を用いた上記のフローに限定するものでもない。みなし呼吸信号S’は、原呼吸信号Sから四肢体動による振動成分を取り除いて呼吸体動をより正確に表す信号に加工されているので、他の解析手法を適用した場合でも判定精度が高まる。
【0118】
他の解析手法として、閉塞型無呼吸時には胸腔内が陰圧になるため、その影響で呼吸信号の振幅が大きくなることに着目した方法を例示できる。この解析手法では、胸部下また腹部下におけるみなし呼吸信号S’に対し、振幅の上昇閾値Kincおよび上昇継続時間Tincを設定し、振幅の移動平均値M’×上昇閾値Kincよりも大きい振幅が上昇継続時間以上継続した時に無呼吸状態または低呼吸状態であると判定するものである。前記上昇閾値Kincを1.3、上昇継続時間Tincを10秒に設定した場合は、移動平均値M’の30%以上大きい振幅が10秒以上継続したときに、無呼吸状態または低呼吸状態であると判定される。
【0119】
また、1つのみなし呼吸信号S’に対して複数の解析手法を適用することも可能である。例えば、胸部下のみなし呼吸信号S’に対し、振幅の移動平均値M’×低下閾値Kdecよりも小さい振幅が低下継続時間T以上継続した時、振幅の移動平均値M’×上昇閾値Kincよりも大きい振幅が上昇継続時間以上継続した時の両方を無呼吸状態または低呼吸状態であると判定することもできる。複数の解析手法は順次実施することも並行して実施することもできる。さらに、荷重変化の計測位置によって異なる解析手法を適用することも可能である。
【0120】
上述した呼吸信号の解析装置1は、第1計測部20および第2計測部21,22を備えない装置として説明したが、第1計測部20および第2計測部21,22を備えた呼吸信号の解析装置であってもよい。
【0121】
上述したような呼吸信号の解析は、例えば、解析装置1の制御部3に備えたフラッシュROMなどの記憶媒体である記憶部に記憶された呼吸信号の解析プログラムが実行されることによって実現される。
【0122】
前記解析プログラムは、コンピュータ3を、被験者の頭部の下側に配置された第1計測部20および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部21,22でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部20および前記第2計測部21,22の呼吸信号Sを個別に生成する信号生成手段4と、前記呼吸信号Sの変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段6と、仮判定手段6により前記第1計測部20の前記呼吸信号Sに基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部21,22の前記呼吸信号Sに基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段7、として機能させるのである。
【0123】
尚、前記記憶媒体は、制御部3の外部に実装される媒体であってもよく、また前記記憶媒体の種類については特に限定しない。
【0124】
以上説明した実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明の作用効果を奏する範囲において具体的構成などを適宜変更設計できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0125】
1…(呼吸信号の)解析装置
2…荷重センサ(第1計測部、第2計測部)
20…第1計測部(頭部)
21…第2計測部(胸部)
22…第2計測部(腹部)
3…制御部
4…信号生成手段
5…信号形成手段
6…仮判定手段
7…確定手段
100…(呼吸信号の)解析システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の頭部の下側に配置された第1計測部および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部および前記第2計測部の呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段と、
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析装置。
【請求項2】
前記第2計測部は前記被験者の胴部の下側で複数の異なる部位に配置され、
前記信号生成手段は、前記第2計測部の複数の異なる部位における呼吸信号を個別に生成するものとなされ、
前記第2計測部の異なる部位ごとの前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間のうち少なくとも一つが前記第1期間と重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する請求項1に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項3】
前記確定手段において、前記第2計測部の複数の異なる部位のうち過半数の部位において無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された前記第2期間が所定時間を超えて重複する場合に、前記重複した期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する請求項2に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項4】
前記信号生成手段によって異なる部位に対応して個別に生成された前記呼吸信号(S)の振幅の移動平均(M)を順次計算してn回目の振幅(A)を振幅の移動平均(M)と予め設定された上限閾値(Kmax)との積と比較し、A<M×Kmaxのときにその振幅(A)をn回目の振幅(A)とし、A≧M×Kmaxのときにn回目の振幅(A)をM×Kmaxに置換してみなし呼吸信号(S’)を形成する信号形成手段を備え、
前記仮判定手段は、前記みなし呼吸信号(S’)が示す振幅の変動状態に基づいて無呼吸状態または呼吸状態を仮判定する請求項1〜3のいずれかに記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項5】
前記仮判定手段において、無呼吸状態または低呼吸状態の有無を判定する振幅の低下閾値(Kdec)を設定して、前記みなし呼吸信号(S’)の振幅の移動平均(M’)を順次計算し、
振幅の移動平均値(M’)×低下閾値(Kdec)よりも小さい振幅が所定時間以上継続すると、無呼吸状態または低呼吸状態であると仮判定する請求項4に記載の呼吸信号の解析装置。
【請求項6】
被験者の頭部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う頭部の荷重変化が計測される第1計測部と、
被験者の胴部の下側に配置され、被験者の生体活動に伴う胴部の荷重変化が計測される第2計測部と、
前記第1計測部および前記第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段と、
を備えることを特徴とする呼吸信号の解析システム。
【請求項7】
コンピュータを、
被験者の頭部の下側に配置された第1計測部および被験者の胴部の下側に配置された第2計測部でそれぞれ計測された荷重の変化に基づいて前記第1計測部および前記第2計測部の呼吸信号を個別に生成する信号生成手段と、
前記呼吸信号の変動に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態を仮判定する仮判定手段と、
前記仮判定手段により前記第1計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第1期間と、前記第2計測部の前記呼吸信号に基づいて無呼吸状態または低呼吸状態と仮判定された第2期間とが重複する場合に、前記第1期間を無呼吸状態または低呼吸状態と確定する確定手段、として機能させるための呼吸信号の解析プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182919(P2011−182919A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50498(P2010−50498)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】