説明

哺乳動物プロジェニター細胞をインスリン産生膵島細胞に分化させる方法

本発明は、プロジェニター細胞をインスリン産生膵島細胞に分化させる方法ならびに上記細胞を使用する組成物および方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年5月22日出願の米国特許仮出願第61/055,341号に対する優先権を主張するものであり、上記仮出願の全開示は参照により本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、概略的には、特定の細胞タイプの哺乳動物プロジェニター細胞の別の細胞タイプへの分化に関する。より具体的には、本発明は、幹細胞を含む哺乳動物プロジェニター細胞をインスリン産生膵島細胞に分化させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
真性糖尿病(Diabete mellitus)(「糖尿病(diabetes)」)は、米国における罹病率および死亡率の主因の1つである。糖尿病に罹患している患者は、代謝異常、および異常に上昇した血糖値(すなわち、高血糖)を有し、これは、低いインスリン産生レベルの結果として生ずる。
【0004】
膵臓のランゲルハンス島において見られるベータ細胞(「膵島β細胞」)が、インスリンを産生する。I型および(より少ない程度に)II型糖尿病において、インスリン産生の不全は、機能性インスリン産生膵細胞の量が不適切であるために起こると考えることができる。この細胞喪失の原因は、それらの細胞に対するウイルス、化学的及び自己免疫の少なくとも一つによる攻撃および破壊であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような原因に鑑み、喪失または損傷した細胞にドナー膵細胞を補給することによって糖尿病の発症を改善または予防する試みがなされてきた。この種の細胞ベースの療法が有望であることは示されたが、膵細胞、特にヒト膵細胞の供給は、研究や移植に用いるには量の点でも質の点でも永続的供給不足状態にある。本発明は、非膵臓組織を含む任意の組織からのプロジェニター細胞を使用してインスリン産生膵細胞に至ることができるようにすることにより、この不足している供給量を一部増加させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させる方法を提供し、この方法は、(a)2mmol/Lの酪酸ナトリウムを含む誘導前用無血清培地(serum−free pre−induction media)中で上記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、その後、(b)ノックアウト置換血清を含む誘導培地中で上記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、を含み、および十分な時間にわたって上記プロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させることを含む。上記プロジェニター細胞は、肝幹細胞、臍帯マトリックス幹細胞、または脂肪幹細胞であり得る。好ましくは、上記プロジェニター細胞は、ヒト組織に由来する。上記誘導培地は、約2%のノックアウト置換血清をさらに含んでもよい。
【0007】
本発明のもう1つの態様は、化合物の毒性をインビトロで評価する方法を提供し、この方法は、本発明に従ってプロジェニター細胞から分化させた膵β島様細胞を上記化合物と接触させること、および上記膵β島様細胞の生存度を測定することを含み、上記化合物の不在下での生存度と比較して上記化合物の存在下での生存度の低下は、上記化合物がインビボで毒性であることを示す。
【0008】
本発明のさらにもう1つの態様は、化合物の活性をインビトロで評価する方法を提供し、この方法は、本発明に従ってプロジェニター細胞から分化させた代謝活性膵β島様細胞を上記化合物と接触させること、および上記膵β島様細胞の代謝活性を測定することを含み、上記化合物の不在下での代謝活性と比較して上記化合物の存在下での代謝活性の減少または増加は、上記化合物がインビボで活性であることを示す。
【0009】
本発明のさらなる態様は、その必要がある個体の膵臓におけるβ島細胞の喪失または枯渇を治療する方法を提供し、この方法は、本発明に従って臍帯マトリックス細胞から分化させた膵β島様細胞の集団を個体に投与することを含む。上記患者は、糖尿病と診断されている場合がある。
【0010】
本発明のさらなる態様は、本発明の膵β島様細胞のパネルとインスリン産生および遺伝子発現の少なくとも一方を測定するための少なくとも1つの試薬とを含む薬物スクリーニングキットを提供する。1つの態様において、上記キットは、上記プロジェニター由来膵β島様細胞を培養するための少なくとも1つの培地を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に従って膵β島様細胞に分化させたヒト肝幹細胞から採取したcDNAのPCR分析の結果を提供する図である。レーン1(Pdx)、レーン2(インスリン)、レーン3(グルカゴン)、レーン4(ソマトスタチン)、レーン5(glut2)、レーン6(GADPH、対照)。
【図2】図2は、本発明に従って膵β島様細胞に分化させたヒトUCM細胞からのインスリン産生の免疫組織学的染色を示す図である。褐色の(濃い)着色は、インスリンの存在を示す。(倍率10倍)
【図3】図3は、本発明に従って膵β島様細胞に分化させたヒトUCM細胞から採取したcDNAのPCR分析の結果を提供する図である。左から右へ:レーン1−Pdx−1、レーン2−グルカゴン、レーン3−インスリン、レーン4−glut2、レーン5−ソマトスタチン、レーン6−GAPDH(対照)。
【図4】図4は、本発明に従って膵β島様細胞に分化させたヒトUCM細胞によって培地に分泌されたインスリンの量(第5日)を示すグラフである。NSB:非特異的結合(対照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、膵臓または非膵臓組織からのプロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させる方法を提供する。本発明の教示を用いることにより、脂肪プロジェニター細胞、肝性プロジェニター細胞および臍帯マトリックスプロジェニター細胞をはじめとする任意の組織のプロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化するように誘導することができる。
【0013】
本明細書では、用語「プロジェニター」細胞は、より「成熟した」細胞に分化する能力を有する任意の細胞を定義するために広く用いられている。従って、用語「分化する」は、単一の細胞タイプや系統内の細胞の(例えば、肝幹細胞から肝芽細胞への)「成熟」ばかりでなく、1つのタイプや系統から別のものへの(例えば、肝細胞から膵細胞への)細胞の「転換」も指す。
【0014】
例として、本明細書において用いる場合の用語「肝性プロジェニター」は、完全に成熟した(すなわち、分化した)肝細胞および胆管細胞ではない任意の細胞をも含むように広く定義される。従って、「肝性プロジェニター」は、肝幹細胞とそれらの子孫未成熟子孫の両方を包含する。「子孫」は、自己複製肝幹細胞、肝芽細胞、それらからの両能性プロジェニターと、特定の細胞タイプに分化するように運命づけられているプロジェニター(例えば、胆管細胞への分化が運命づけられているプロジェニターまたは肝細胞)の両方を含み得る。本発明によると、肝性プロジェニターは、膵細胞へも「分化する」ことができる。
【0015】
本明細書におけるプロジェニターの記述および例の、すべてではないにせよ、大部分は、ヒト由来の細胞集団(成人性と胎性の両方)に関するものとなるが、本明細書における教示は、ヒトに限定されるものではない。実際、通常の当業者が本明細書における教示を一般に哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌなど)からのプロジェニターの単離および分化に適用することは予想できる。従って、本発明の範囲は、任意のおよびすべての哺乳動物のプロジェニターを含むことが意図されている。
【0016】
肝性プロジェニター細胞
肝性プロジェニター細胞の上述の集団(例えば、「幹細胞」、「肝芽細胞」又は「肝細胞」)のそれぞれを、それらのそれぞれのサイズ、およびそれぞれの集団に特有のマーカーの特異的配列の少なくとも一方によって同定することができる。下の表1を参照のこと。
【0017】
【表1】

【0018】
肝幹細胞(HSC)は、胎児および新生児の肝臓の胆管板(限界板とも呼ばれる)ならびに小児および成人の肝臓のヘーリング管において見られ、テロメラーゼの発現で自己複製の形跡を示し、移植されたとき成熟肝臓細胞を形成することができる、多能性細胞である。これらの細胞は、EpCAM+、NCAM+、ALB+、CK8/18+、CK19+、CD133/1+であり、ならびに試験したすべての造血マーカー(例えば、CD34、CD38、CD45、CD14)、間葉細胞マーカー(CD146、VEGFr、CD31)に対して、およびP450sまたはアルファ−フェトプロテインの発現に対して陰性である。HSCは、肝芽細胞をおよび胆管への分化が運命づけられている(単能性)プロジェニターを生じさせることがわかっている。
【0019】
肝芽細胞(HB)は、胎児および新生児の肝臓の実質のいたるところで見られる、ならびにヘーリング管の末端に係留されている単個細胞または細胞の小集合体として見つけられる、多能性細胞である。HBは、HSCに由来する。HBは、HSC上に存在するのと同じ抗原も多数有するが、重要な違いも含んでいる。例えば、HBは、NCAMを発現するのではなく、ICAM1を発現し、ならびに有意な量のアルファ−フェトプロテインおよび胎児型P450sを発現する。これらのHBは、単能性プロジェニター、肝細胞および胆管への分化が運命づけられているプロジェニターを生じさせる。
【0020】
分化が運命づけられている肝性プロジェニターは、肝細胞系統および胆管系統のいずれかの単能性プロジェニターである。それらの抗原プロフィールは、HBのものとオーバーラップする。しかし、胆管への分化が運命づけられているプロジェニターは、CK19を発現するがAFPまたはALBを発現せず、これに対して肝細胞への分化が運命づけられているプロジェニターは、AFPおよびALBを発現するが、CK19を発現しない。胆管への分化が運命づけられているプロジェニターは、肝幹細胞に直接由来し、肝芽細胞にも由来する。
【0021】
間葉細胞(MC)は、支質(間葉幹細胞)、内皮(血管芽細胞)、星状細胞(星状細胞前駆体)および様々な造血細胞(造血幹細胞)をはじめとする、(成熟細胞(およびそれらの前駆体)としてリストされる)多数の異なる間葉細胞タイプの様々な系統段階の細胞を含む。
【0022】
肝性プロジェニター細胞の単離
本発明によるインビトロ単離および分化に適する肝性プロジェニターは、いずれかの特定の方法によって単離または同定されるものに限定されない。例として、肝性プロジェニターの単離および同定方法は、例えば、米国特許第6,069,005号ならびに米国特許出願第09/487,318号、同第10/135,700号、同第10/387,547号および同第11/560,049号に記載されており、これらの開示は、それら全体が参照により本明細書に援用されている。
【0023】
肝幹細胞および肝芽細胞は、特徴的な抗原プロフィールを有し、上記のプロトコルによって単離することができる。例えば、肝幹細胞および肝芽細胞は、非常に多数の抗原(例えば、サイトケラチン8、18および19、アルブミン、CD133/1、ならびに上皮細胞接着分子(「EpCAM」)を共有し、ならびに造血マーカー(例えば、グリコホリンA、CD34、CD38、CD45、CD14)および間葉細胞マーカー(例えば、CD146、CD31、VEGFrまたはKDR)に対して陰性である。
【0024】
あるいは、肝幹細胞および肝芽細胞は、サイズ(幹細胞は7〜9μm、肝芽細胞は10〜12μm)により、培養中の形態(幹細胞は、密度が高く形態学的に均一なコロニーを形成するが、肝芽細胞は、明瞭なチャネル、予定小管が点在する帯様構造を形成する)により、一定の抗原の発現パターンの相違(EpCAMは、肝幹細胞のいたるところで発現されるが、肝芽細胞では細胞表面に限られる)により、または異なる抗原プロフィール(N−CAMは、肝幹細胞中に存在し、これに対してアルファ−フェトプロテイン(AFP)およびICAM1は、肝芽細胞によって発現される)により、互いに区別することができる。
【0025】
1つの実施形態では、一次肝幹細胞を上述のとおりヒト肝臓から得る。簡単に言うと、全肝臓肝細胞の単個細胞上清を得て、単独の、またはコラーゲンとラミニンとを含む細胞外タンパク質のマトリックス上の、組織培養プラスチック上にプレーティングする。その後、それらの細胞を、血清を含む培地中で、懸濁した細胞がそのプレートに接着するために必要な時間(通常は1〜2日)インキュベートする。
【0026】
その後すぐに、その血清含有培地を除去して、無血清であり特異的成長因子が補充されている「クボタヒロシ培地(Hiroshi Kubota’s Media)」(HK)で置換する。より具体的には、HKは、銅を含有せず、低濃度のカルシウム(<0.5mM)を含有し、およびインスリン(5μg/mL)と、トランスフェリン/fe(5μg/mL)と、高密度リポタンパク質(10μg/mL)と、セレン(10−10M)と、亜鉛(10−12M)と、精製アルブミンに結合した遊離脂肪酸の混合物7.6μEとを補充した、無血清基礎培地(例えば、RPMI 1640)である。この培地の詳細な調製方法は、ほかの場所に発表されている。例えば、Kubota H,Reid LM,Proceedings of the National Academy of Sciences(USA)2000;97:12132−12137(この開示は、その全体が参照により本明細書に援用されている)。
【0027】
これらの条件下で、5〜14日の期間にわたって、肝幹細胞のコロニーが上記プレート上で比較的迅速に形成する。
【0028】
臍帯マトリックスプロジェニター細胞
臍帯マトリックス(UCM)プロジェニター細胞は、当分野において公知の、例えば米国特許第5,919,702号ならびに米国特許出願公開第20040136967号および同第20080019949号(これらの開示のすべては、それら全体が参照により本明細書に援用されている)に記載されている、任意の技術を用いて単離することができる。UCM細胞(ワルトン膠質細胞としても知られる)は、臍帯を有するほぼいずれの動物においても見られ、その中で集められたワルトン膠質から得ることができる。発育中の胎児または新生児に付随する臍帯から得られるワルトン膠質からUCM幹細胞を得ることは、上記細胞およびそれらから分化したインスリン産生膵細胞の少なくとも一方によるどんな免疫拒絶反応をも最小にすることができるような上記細胞の「胎」性のため、有利であり得る。結果として、そのような細胞は、その必要がある任意の被験者において使用するための膵島細胞またはベータ様細胞の生産のための「ユビキタスドナー細胞」として有用であり得る。
【0029】
全UCM細胞を臍帯から単離し、分化を伴わないUCM細胞成長を刺激する因子であって、培養したときにUCM幹細胞の基材表面への選択的接着を可能にする因子を含有する培地にそれらを添加する。その検体−培地混合物を培養し、非接着物質をその基材表面から除去する。任意の適するタイプの培養基を使用して本発明のUCM細胞を単離することができ、その培養基に例えば血清をはじめとする1つ以上の成分を補充することができる。
【0030】
十分な期間、例えば10〜12日間、それらの細胞を培養すると、その外植組織中に存在するUCM由来幹細胞は、上記組織から、そこからの移動の結果として、もしくは細胞分裂の結果として、または両方の結果として、成長していることになる。その後、最初に使用したものと同じまたは異なるタイプの新たな培地が入っている別々の培養容器にこれらのUCM由来幹細胞を移してもよく、そこでUCM由来幹細胞集団を有糸分裂で増幅させることができる。
【0031】
UCM由来幹細胞を培養するための1つの実施形態では、そのディッシュの底にスライドガラスが入っている組織培養ディッシュに臍帯組織切片を配置し、20%FBSを加えたダルベッコMEM中で、または10%FBSと胚性幹細胞に使用できる品質の5%FBSと抗菌化合物とを含有するRPMI 1640中で、培養する。その組織を、好ましくは、37〜39℃および5%COで10〜12日間インキュベートする。
【0032】
もう1つの実施形態では、完全に切開して血液を除去した臍帯を酵素的に(例えば、40U/mL ヒアルロニダーゼおよび0.4mg/mL コラゲナーゼの溶液で)および機械的に(例えば、乳棒と40メッシュのスクリーンで)消化する。このようにして得た単個細胞懸濁液を、58%低グルコースDMEM、40%MCDB201(Sigma、ミズーリ州セントルイス)、1x インスリン−トランスフェリン−セレン−A(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)、0.15mg/mL AlbuMAX I(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)、1nM デキサメタゾン、100uM アスコルビン酸2−リン酸、100U ペニシリン、1000U ストレプトマイシンと、2%FBS、10ng/mL EGFおよび10ng/mL 血小板由来成長因子BB(PDGF−BB)を含有する合成培地(Defined Mdeia:DM)に懸濁させる。その後、それらの細胞を播種し、DM中で増幅させる。
【0033】
本発明では、幹細胞を培養で樹立してしまえば、成熟細胞または細胞系のプロジェニターとしての役割を果たすそれらの能力を、例えば、それらの細胞培養物が適切な密度もしくは集密率に達したら新たな培地に規則的に継代することによって、または適切な成長因子で処理することによって、または培養基もしくは培養プロトコルを修正することによって、または上述の何らかの組み合わせによって維持できると考えられる。
【0034】
脂肪幹細胞
脂肪組織から脂肪幹細胞(ASC)を得る方法は、米国特許第6,153,432号、同第6,391,297号、同第6,429,013号、同第6,555,374号、同第6,841,150号、同第7,001,746号および同第7,033,587号に提示されており、これらの開示は、それら全体が参照により本明細書に援用されている。簡単に言うと、一例では、組織を獲得したら、それを分画遠心分離に付し、培養で増幅させる。概して、たった1グラムの組織から、培養24時間以内に50,000個から100,000個の間の幹細胞を生じる。増幅培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリンおよび5ng/mL セレン、10−9M デキサメタゾン、10ng/mL 上皮増殖因子(EGF)、10−4M アスコルビン酸2−リン酸、100U/mL ペニシリン、ならびに100U/mL ストレプトマイシンを補充した、60%DMEM(低グルコース)および40%MCDB−201を好ましくは含む。理論に拘束されるまたは縛られることなく、この培地へのEGFの添加は、後にインスリン産生島細胞に分化するASCの能力を強化すると考えられる。アスコルビン酸2−リン酸は、ASCに対して同様の効果を及ぼし得る。
【0035】
プロジェニター細胞のインスリン産生膵細胞への分化
本明細書において用いる場合の用語「膵島β様」細胞または「インスリン産生膵島」細胞は、膵島β細胞を示す少なくとも2つのマーカーを発現する細胞を指す。実例となる膵島β細胞マーカーとしては、膵臓十二指腸ホメオボックス−1(PDX−1)、インスリン、ソマトスタチン、グルコース輸送体−2(glut2)、グリコーゲン、アミラーゼ、およびニューロゲニン3(Ngn3)の発現が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実例となるマーカーとしては、球形形状などの形態学的特徴が挙げられる。尚、さらなる実例となるマーカーとしては、インスリン産生などの特徴が挙げられる。従って、一定の実施形態において、膵島b様細胞は、インスリン産生などの、より成熟した膵島β細胞機能を発現する。
【0036】
一定の実施形態において、本発明の肝細胞様細胞は、本明細書に記載するような肝細胞マーカーを2つ以上発現する。他の実施形態において、上記膵β島様細胞は、本明細書に記載するような膵島β様細胞マーカーを3つ以上発現する。一定の実施形態において、本発明の膵β島様細胞は、本明細書に記載するような肝細胞マーカーを5、6、7、8、9、10以上発現する。当業者に理解されるように、本発明の膵島β様細胞は、他の公知マーカーまたは機能も発現してもよい。
【0037】
1つの実施形態では、次の方法を用いて上記プロジェニター細胞を分化させる。誘導前に、上記プロジェニター細胞を、それらが組織培養プレートに付着するために十分な時間、0.5〜10g/L 低(好ましくは、1g/L)グルコースDMEM、MCDB201 pH7.4、1x インスリン−トランスフェリン−セレン(ITS、Invitrogen)、0.1〜5mg/mL(好ましくは、0.15mg/mL)アルブミン(例えば、Albumax、Invitrogen)、0.5〜5nM(好ましくは、1nM)デキサメタゾン、25〜250μM(好ましくは、100μM)アスコルビン酸−2−リン酸、5〜50ng/mL(好ましくは、10ng/mL)EGF、5〜50ng/mL(好ましくは、10ng/mL)PDGF、1〜5%(好ましくは2%)FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep)を含有する合成培地中で培養する。その後、それらのプロジェニター細胞を、約24時間、無血清イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、1〜5mM(好ましくは、2mM)酪酸ナトリウムおよびPen/Strepを含有する誘導前用培地中で培養する。その後、それらの細胞を、3から36時間、しかし好ましくは約24時間以上、IMDM、1〜5%(好ましくは2%)ノックアウト置換血清(KSR、Gibco)およびPen/Strepを含有する分化培地中で培養する。
【0038】
酪酸ナトリウムは、多数の遺伝子の発現を調節する強力なヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACI)である。本発明に適する他のHDACIは、酪酸フェニル、レチノイン酸、バルプロ酸、APHA Compound 8、アピシジン(Apicidin)、(−)デプデシン(Depudecin)、スクリプタイド(Scriptaid)、シルチノール(Sirtinol)、およびトリコスタチン(Trichostatin)である。
【0039】
もう1つの実施形態では、次の方法を用いて上記プロジェニター細胞を分化させる。誘導前に、上記プロジェニター細胞を、それらが組織培養プレートに付着するために十分な時間、低(1g/L)グルコースDMEM、MCDB201 pH7.4、1x インスリン−トランスフェリン−セレン(ITS、Invitrogen)、0.15g/mL Albumax(Invitrogen)、1nM デキサメタゾン、100μM アスコルビン酸−2−リン酸、10ng/mL EGF、10ng/mL PDGF、2%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep)を含有する合成培地中で培養する。その後、それらのプロジェニター細胞を、約24時間、「低」1g/Lグルコース−DMEM、5〜25mM(好ましくは、10mM)ニコチンアミド、0.5〜5mM(好ましくは、1mM)β−メルカプトエタノール、2%FBSおよびPen/Strepを含有する誘導前用培地中で培養する。その後、それらの細胞を、10時間以上、無血清1g/Lグルコース−DMEM、10mmol/L ニコチンアミド、1mmol/L β−メルカプトエタノール、およびPen/Srepを含有する分化培地中で培養する。
【0040】
分化中の細胞の三次元培養を可能にする足場の存在下で、上記プロジェニター細胞を分化させることができる。上記足場材料は、自然に発生する成分を含む場合があり、または合成材料から成る場合があり、または両方である場合がある。上記足場材料は、生体適合性である場合もある。実例となる足場材料としては、細胞外マトリックスおよびに記載されている材料が挙げられる。本発明に関連して使用することができる他の足場材料としては、次のうちの1つ、または2つ以上のものの混合物が挙げられるが、それらに限定されない。コラーゲン(例えば、I、III、IV、VおよびVI型コラーゲン)、ゼラチン、アルジネート、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン/ニドゲン、テネイシン、トロンボスポンジン、SPARC、アンジュリン(undulin)、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン(例えば、ヒアルロナン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸およびデルマタン硫酸)、ポリプロピレン、TERポリマー、アルジネート−ポリL−リシン、コンドロイチン硫酸、キトサン、MATRIGEL(Becton−Dickinson)または他の市販の細胞外マトリックス材料。
【0041】
1つの特定の実施形態において、UCMの肝細胞様細胞への分化に使用するための細胞外マトリックスは、コラーゲンIである。コラーゲン被覆プレートは、Becton−Dickinsonから市販されている。
【0042】
本明細書に記載の培地の1つ以上において、次のマーカーの少なくとも2つの発現に十分な時間、上記プロジェニター細胞を培養し、それは、PDX−1、インスリン、ソマトスタチン、glut2、グリコーゲン、アミラーゼ、およびNgn3、ならびに形態学的特徴、例えば円形形状およびインスリン産生である。
【0043】
1つの特定の実施形態では、コラーゲンIマトリックス上の2%KSRおよびPen/Strepを含むIMDM分化培地中での培養により、上記プロジェニター細胞をインスリン産生膵島細胞に分化させる。
【0044】
概して、インスリン産生などの膵島β細胞様機能特性を獲得するために十分な時間、上記細胞を培養する。これに関しては、当分野において公知の技術を用いてインスリン産生などの機能特性を測定することにより、分化を評定する。インスリンは、膵臓で見られるb島細胞によって唯一産生されて(インビボでは)血液にまたは(インビトロでは)培地に分泌される小さなペプチドホルモンである。インスリン分泌を実証するために、分化細胞を抗ヒトインスリン抗体で染色することができる。標準ELISA技術を用いて、培地に分泌されるインスリンの量を検出し、定量することもできる。
【0045】
簡単に言うと、ストリップをマイクロタイタープレート上に集め、それぞれのウエルを300μLのHRP洗浄緩衝液で満たし、それらのプレートを室温で5分間インキュベートする。その後、その緩衝液を除去し、20μLのサンプルを20μLの検出抗体と共にそれらのウエルに添加する。その後、オービタルシェーカーを用いてそれらのプレートを室温で1時間インキュベートする。それらのウエルの内容物をデカントし、HRP洗浄緩衝液で3回洗浄する。100μLの酵素溶液をそれぞれのウエルに添加し、オービタルシェーカーを用いて室温で30分間インキュベートさせておく。再び、それらのウエルをHRP緩衝液で5回洗浄する。次に、100μLの基質溶液をそれらのウエルに添加し、オービタルシェーカーを用いて室温で10分間インキュベートする。概して、そのとき、化学反応から青色が生ずる。100μLの「停止溶液」で反応を停止させる。溶液は、市販されている。それらのプレートを450nmで分析する。
【0046】
免疫組織化学を次のように行う。細胞をメタノールまたはパラホルムアルデヒド中で2分間固定し、その後、PBSで洗浄する。3%過酸化水素を添加し、60分間インキュベートする。その溶液を洗浄したら、PBS/5%blotto/0.3%Tween中の1:500希釈の一次抗体を適用し、60分間インキュベートさせておく。再び、それらの細胞をPBSで3回洗浄してその溶液を除去し、PBS/5%blotto/0.3%Tween中の1:400希釈の二次抗体を60分間適用する。
【0047】
本開示を読めば当業者にはわかるように、遺伝子発現アッセイ、例えばPCR、RT−PCR、定量的PCR、免疫組織化学を含むタンパク質発現分析、免疫蛍光アッセイなどをはじめとする(しかし、これらに限定されない)当分野において公知の様々な技術のいずれを用いて膵b島細胞マーカーおよび細胞形態の発現を判定してもよい。そのような技術は、当分野において公知であり、ここでさらに詳しく述べる必要はない。
【0048】
本発明の細胞の分化は、様々な技術、例えば、フローサイトメトリー法、免疫組織化学、免疫蛍光技術、インサイチューハイブリダイゼーション、および組織学的または細胞生物学的技術の少なくとも一つ(しかし、これらに限定されない)によって検出することができる。本発明によると、上記プロジェニター細胞の30%より多く、好ましくは上記細胞の約50%より多く、さらに好ましくは上記細胞の約75%より多く、および最も好ましくは上記細胞の約90%より多くをインスリン産生膵島細胞に分化させることができる。
【0049】
インスリン産生膵細胞を使用する方法
本発明の分化膵β島様細胞を、多岐にわたる遺伝的背景の個体からの多数の異なる源(例えば、臍帯、肝臓)に由来するおよび異なる動物源にさえ由来する膵β島様細胞のパネルとして提供することもできる。例えば、UMC由来膵β島様細胞のパネルは、薬物代謝酵素および薬物輸送体をコードする遺伝子の多型性を有することがわかっている個体からのUMC源に由来する膵β島様細胞を含んでもよい。本発明の上記パネルを、例えば本明細書に記載する培養基のいずれかを含む試薬および例えばインスリン発現を検出するための試薬などの薬物スクリーニング用の試薬を含む薬物スクリーニングキットの一部として提供することができる。
【0050】
1つの実施形態では、本発明の膵β島様細胞を遺伝子修飾することができる。この実施形態によると、本発明の膵β島様細胞を、トランスジーンを含む核酸を含む遺伝子移送ベクターに暴露するので、上記トランスジーンが上記細胞内で発現されるために適する条件下で上記核酸は上記細胞に導入される。一般に、上記トランスジーンは、適するプロモーターに作動可能に連結されたコーディングポリヌクレオチドを含む発現カセットである。上記コーディングポリヌクレオチドは、タンパク質をコードする場合があり、または生物活性RNA、例えばアンチセンスRNA、siRNAもしくはリボザイムをコードする場合がある。
【0051】
従って、上記コーディングポリヌクレオチドは、例えば毒素もしくは感染因子に対する耐性を付与する遺伝子、ホルモン(例えば、ペプチド成長ホルモン、ホルモン放出因子、性ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、サイトカイン、例えばインターフェロン、インターロイキンおよびリンホカイン)、細胞表面結合細胞内シグナリング部分、例えば細胞接着分子およびホルモン受容体、ならびに所定の分化系統を促進する因子、または配列がわかっている任意の他のトランスジーンをコードする場合がある。
【0052】
次に説明するように、本発明のプロジェニター細胞から分化したインスリン産生膵島細胞は、薬物スクリーニング、薬物相互作用についてのスクリーニング、移植、組織/器官再生、および肝損傷または他の肝障害の治療をはじめとする、様々な状況で有用である。
【0053】
1つの実施形態において、本発明は、化合物(例えば、薬物または候補薬)の活性を試験する方法を提供する。化合物の活性は、本発明の膵β島様細胞の生存度および代謝活性の少なくとも一方に対するその薬物の効果、または薬物輸送用輸送体に対するその薬物の効果を測定することによって、評定することができる。本開示に鑑みて当業者には理解されるように、本発明の膵β島様細胞は、任意の公知薬物スクリーニングアッセイ、例えば、インスリン産生に対するアッセイ、島細胞を使用する現行薬物スクリーニングアッセイなどにおいて使用することができる。本発明は、本発明の膵β島様細胞が、容易に手に入れられる、および多岐にわたる遺伝的背景を有する個体からの多岐にわたる組織から得ることができるという利点をもたらす。
【0054】
1つの実施形態において、本発明は、本発明の膵β島様細胞を化合物と接触させること、および上記膵β島様細胞の生存度を測定することによる、化合物の活性(例えば、毒性)の試験方法を提供する。試験化合物の不在下での生存度と比較して上記試験化合物の存在下での生存度の減少は、上記化合物がインビボで毒性であることを示す。当業者に周知の技術、例えば、染色、続いて、フローサイトメトリー、または血球計数器を用いる顕微鏡での細胞の単純な可視化を用いて、細胞の生存度を判定することができる。
【0055】
もう1つの実施形態において、本発明は、本発明の膵β島様細胞を化合物と接触させること、および同細胞の代謝活性を測定することによる、化合物の活性の試験方法を提供する。試験化合物の不在下での代謝活性と比較して上記試験化合物の存在下での代謝活性の減少または増加は、インビボでの薬物活性を示す。
【0056】
本発明のさらなる実施形態は、薬物相互作用を評価する方法を提供する。本発明の細胞を2つの化合物と接触させること、および一方の化合物の細胞に対する効果が、もう一方の化合物の存在による影響を受けるかどうかを判定することによって、薬物相互作用を評価することができる。例えば、上記方法は、膵β島様細胞の第一の集団を第一の化合物と接触させること、膵β島様細胞の第二の集団を第二の化合物と接触させること、および膵β島様細胞の第三の集団を上記第一と第二両方の化合物と接触させること、および上記集団のそれぞれにおいて特定の効果(例えば、細胞生存度、代謝活性、インスリン産生)を測定することをさらに含んでもよく、この場合、第一または第二いずれかの集団と比較して両方の化合物と接触させた第三の集団における効果の統計的に有意な増加または減少は、薬物相互作用を示す。薬物相互作用は、一方の薬物によるもう一方の薬物の阻害を含む場合もあり、または一方の薬物によるもう一方の薬物の活性増加を含む場合もある。
【0057】
当業者にはわかるように、遺伝子発現は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QC−PCRまたはQC−RT PCR)などの(しかし、これに限定されない)、当分野において公知の様々な技術のいずれかを用いて測定することができる。mRNA発現を検出するための他の方法は、当分野において周知であり、確立されており、それらとしては、転写媒介増幅(TMA)、ポリメラーゼ連鎖反応増幅(PCR)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応増幅(RT−PCR)、リガーゼ連鎖反応増幅(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、および核酸配列ベース増幅(NASBA)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
例えば細胞を試験化合物と接触させて上清を回収することなどの、当分野において公知の技術を用いて、代謝活性の測定を行うことができる。適切なタイプの高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によるものなどの公知の技術を用いて、上記上清中に存在する上記化合物の代謝産物を測定する。培養細胞によるチミジンの取り込みを測定して、細胞増殖をインビトロで評定することができる。
【0059】
本発明は、膵島β細胞の喪失から生ずる障害または疾病の治療方法をさらに提供する。これに関しては、I型とII型の両方の糖尿病をはじめとする(しかし、これらに限定されない)、膵島細胞の喪失から生ずる任意の疾病の治療に、本発明の分化インスリン産生膵島細胞を使用することができる。
【0060】
本発明は、その必要がある個体に本発明の分化膵β島様細胞の有効量を投与することによる、島細胞障害の治療方法を提供する。有効量とは、治療を受ける個体に有益な効果をもたらすために十分な量、例えば、糖尿病の症状を改善して肝機能を向上させる量を意味する。一定の実施形態において、有効量は、機能性膵島β細胞を再生するために十分な量である。「治療的」処置は、病変の徴候を示す被験者に、それらの徴候を減少させるまたは除去するために、施与される処置である。
【0061】
1つの実施形態において、本発明は、本発明の分化膵β島様細胞の有効量を投与することによる、膵臓のインスリン産生の向上または回復方法を提供する。これに関しては、本明細書に記載するおよび当分野において実施されている方法による組織適合性レシピエントへの自家移植(適切な細胞が出生時に回収され保管されている状況でのもの)または同種移植のために、本明細書に記載するような方法を用いて、プロジェニター、好ましくは個々の患者のプロジェニターから膵β島様細胞を分化させる。
【0062】
それらの細胞を、本明細書に記載するように培養し、回収し、そしてウイルス感染、毒物摂取または先天性代謝異常などに引き続いて起こる任意の原因のインスリン産生の減少または低下を被っている患者の脾臓、循環および腹膜の少なくとも一つに導入することができる。可能な場合は必ず、放射線誘導式最小侵襲法を用いて細胞を体内埋植する。肝機能を向上させるように設計された酵素をコードする遺伝子で遺伝子操作された細胞もここでは考えられる。
【0063】
1つの特定の実施形態では、β島細胞の移植を受けている個体に本発明の膵β島様細胞を投与する。本発明のそれらの細胞を単独で投与してもよいし、希釈剤との組み合わせおよび他の成分、例えば島細胞成長因子(例えば、BMP、TGF−ベータ1、IGF、FGF)または他のホルモンもしくは細胞集団との組み合わせの少なくとも一方で医薬組成物として投与してもよい。
【0064】
簡単に言うと、本発明の組成物は、本明細書に記載するような膵β島様細胞集団を、1つ以上の医薬的にまたは生理的に許容される担体、希釈剤または賦形剤との組み合わせで含む場合がある。そのような組成物は、緩衝液、例えば中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水など;炭水化物、例えばグルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン、マンニトール;タンパク質;ポリペプチドまたはアミノ酸、例えばグリシン;抗酸化物質;キレート剤、例えばEDTAまたはグルタチオン;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);および保存薬を含んでもよい。本発明の組成物を静脈内もしくは非経口投与用に、または肝臓への直接投与用に調合することができる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、治療(または予防)すべき疾病に適する様式で投与することができる。投与量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾病のタイプおよび重症度などの要因によって決まるが、臨床試験によって適切な投薬量を決定することができる。
【0066】
「有効量」または「治療量」を指示するとき、医師が、患者(被験者)の年齢、体重、疾病、感染または肝損傷の程度、および状態の個人差を考慮して、投与すべき本発明の組成物の正確な量を決定できる。一定の実施形態では、本明細書に記載する細胞を含む医薬組成物を、10から10細胞/kg体重および一定の実施形態では10から10細胞/kg体重の投薬量(これらの範囲内のすべての整数値を含む)で投与することができる。上記細胞組成物をこれらの投薬量で多回投与することもできる。医学技術分野の技術者は、患者の疾病の徴候をモニターし、相応じて治療を調節することにより、個々の患者についての最適な投薬量および治療レジメを容易に決定することができる。
【0067】
対象組成物の投与は、注射、輸注、体内埋植または移植によるものをはじめとする任意の従来の様式で行うことができる。本明細書に記載する組成物を、患者に、皮下投与、皮内投与、腫瘍内投与、節内投与(intranodally)、骨髄内投与、筋肉内投与、静脈内(i.v.)注射により投与、または腹腔内投与することができる。
【0068】
任意の数のマトリックスを使用して、本発明の細胞組成物を投与することもできる。マトリックスは、組織工学の場面で長年にわたって用いられている。本発明は、β島機能を維持するまたは調節する、人工支持体として作用する新たな場面で、そのようなマトリックスを利用する。従って、本発明は、組織工学において有用性が実証されているマトリックス組成物および調合物を利用することができる。
【0069】
本明細書ではマトリックスを生体適合性物質の一例として用いる。しかし、本発明はマトリックスに限定されず、従って、用語マトリックスが出現するときは必ず、これらの用語を、細胞保持または細胞通過を可能にするおよび生体適合性である装置および他の物質であって、その物質自体が半透膜であるような上記物質によって直接、または特定の半透性物質と併用して、高分子を通過させることができるものである装置および他の物質を含むと読み取るべきである。
【0070】
本発明の一定の実施形態では、抗ウイルス剤、化学療法、放射線、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサートおよびミコフェノレートなどの作用因子での治療をはじめとする(しかし、これらに限定されない)任意の数の関連する治療様式と共に(例えば、それらの前に、それらと同時に、またはそれらの後に)、本発明の細胞組成物を個体に投与する。
【実施例1】
【0071】
肝幹細胞のインスリン産生膵細胞への分化
この実施例は、ヒト肝幹細胞の膵β島様細胞への分化を説明するものである。
【0072】
InvitrogenからのStemPro(登録商標)EZPassage(商標)Toolを使用して、全肝臓細胞の混合集団から胎性幹細胞を機械的に解離させた。それらの幹細胞をプールし、コラーゲンI被覆12ウエルディッシュ上に配置した。それらの細胞を一晩付着させ、その後、分化を誘導した。より具体的には、0.1%コラーゲンI被覆組織培養プレートに2.0〜3.0x10細胞/プレートの密度で細胞を播種し、一晩接着させた。その後、無血清イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、2mmol/L 酪酸ナトリウムおよびPen/Strepから成る誘導前用培地中で2日間、細胞を処理した。IMDM、2%KSRおよびPen/Strepを含有する分化培地中で少なくとも24時間それらの細胞を培養することによって、分化を果たした。3日ごとに培地を交換し、分化を経時的に(すなわち、第1日、第2日および第3日に)評定した。
【0073】
分化誘導の1日または3日後に細胞分解産物を単離した。これらの溶解産物からcDNAを調製して、膵臓特異的遺伝子の発現についてスクリーニングした。第3日の時点でPdx−1およびソマトスタチン発現が検出された(図1、それぞれレーン1および4)。クボタ発現培地のみ(対照)で成長させた細胞は、Pdx−1およびソマトスタチンを発現しなかった。しかし、Glut−2は発現した(レーン5)。これは、Glut−2が肝幹細胞ならびに膵細胞において発現することを示している。
【実施例2】
【0074】
HUMCのインスリン産生膵細胞への分化
この実施例は、ヒト臍帯マトリックス幹細胞の膵β島様細胞への分化を説明するものである。
【0075】
臍帯の調製:臍帯を計量し、測定し、冷滅菌PBS(500mL)中で5分間、入念に2回洗浄した。その後、その臍帯を5分間、(500mL)ベタジン溶液中で再び1回洗浄し、その後、冷滅菌PBS(500mL)中で5分間、入念に2回すすいでベタジンを除去した。その後、その臍帯のクランプした末端を、1/2〜1インチ(約1.27〜約2.54cm)以内クランプ領域より大きく、外科用ブレードで除去した。血液を排出し、その後、ゲージの大きな針および50mL注射器を使用して血管をVIASPAN(登録商標)でフラッシュして一切の血液/血餅を除去した。
【0076】
臍帯細胞の単離:その臍帯の反対の端を滅菌ホフマンクランプでクランプし、三方型ルアーロックを針/カニューレ末端に配置した。その後、コラゲナーゼ(collogenase)溶液(0.3〜1%)を有する注射器をその三方型ロックに取り付け、臍帯が中等度に膨潤した状態になるまでの間、その溶液を適用した。その後、コラゲナーゼ溶液の濃度に依存して0.5から3時間(すなわち、酵素溶液の濃度が高いほど、消化を完了する時間が短い)、加湿37℃、5%COインキュベーターの中で、その臍帯をインキュベートした。「コラゲナーゼ溶液」は、次のものを1つ以上含む場合があり、それは、コラゲナーゼ(0.3〜1.0%)、ディスパーゼ(0.4%〜1.0%)、ヒアルロニダーゼ(0.1〜1.0%)、DNアーゼ(0.03%)である。
【0077】
消化したらホフマンクランプを臍帯から取り外し、その溶液を滅菌容器に排液した。その後、その臍帯を滅菌PBSでフラッシュし、その洗液を取っておいた。臍帯の末端をホフマンクランプで再びクランプし、その臍帯が中等度に膨潤した状態になるまでの間、上記ロックを通してヒアルロニダーゼ(0.1〜1.0%)/DNアーゼ(0.3%)を適用した。再び、その臍帯を1〜12時間インキュベートした。インキュベーション時間の後、臍帯および存在する溶液を洗浄し、滅菌容器に回収した。
【0078】
消化緩衝液中の0.25%ヒアルロニダーゼ/0.25%コラゲナーゼIの中での4時間までの、37℃でのさらなる消化によって、挿管法での不十分な消化を改善することができる。その後、細胞解離用篩を使用して40〜60メッシュのスクリーンに通して組織を粉末にする(titurated)。
【0079】
その後、このようにして得られた細胞からCD31細胞を発現する細胞を枯渇させた(CD−31は、内皮細胞、血小板、マクロファージおよびクッパー細胞、顆粒球、T/NK細胞、リンパ球、巨核球、線維芽細胞、破骨細胞、好中球、およびHUVEC細胞上で一般に発現されるマーカーである)。その後、細胞のCD31枯渇懸濁液をCD44細胞について濃縮した。CD44は、ヒアルロン酸の受容体である。
【0080】
プラスチック接着選択:その後、その細胞懸濁液をプレーティングする。単離の24〜48時間後、滅菌PBSでの3回の洗浄によって非接着細胞を除去した。新たなDMを添加し、2日ごとに交換した。培養物が50〜80%の集密度に達したら、0.05%トリプシン/0.53mM EDTA溶液を使用してそれらの細胞を回収し、DM中でのさらなる増幅のためにT75ゼラチン被覆培養フラスコに再びプレーティングした。培養物を、増殖のために、5%COを有する37℃の加湿インキュベーターの中で50〜80%の集密度で維持した。
【0081】
分化:誘導の前に、細胞を0.1%コラーゲンI被覆組織培養プレートに2.0〜3.0x10細胞/プレートの密度で播種し、一晩接着させた。その後、無血清イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、2mmol/L 酪酸ナトリウムおよびPen/Strepから成る誘導前用培地中で2日間、細胞を処理した。IMDM、2%KSRおよびPen/Strepを含有する分化培地中で少なくとも24時間それらの細胞を培養することによって、分化を果たした。3日ごとに培地を交換し、分化を経時的に(すなわち、第1日、第2日および第3日に)評定した。
【0082】
細胞の分化は、次のように評定した。
【0083】
免疫細胞化学。分化細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、その後、PBSで洗浄した。5分間、PBS中の0.2%Triton X−100で細胞を透過性にし、洗浄し、その後、PBS中の0.2%Triton X−100、2%正常血清の中で1時間ブロックし、その後、インスリンに対する抗体と共にインキュベートした。PBSで3回洗浄した後、細胞を二次抗体と共にインキュベートした。図2における円形形状の細胞の濃い着色は、それらの細胞におけるインスリン発現を示している。未分化UCM細胞は、抗ヒトインスリンで着色しない。
【0084】
RNA単離および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR):RNeasy Quickスピンカラムを用いて細胞からRNAを単離し、ランダムヘキサマーおよびSuperScriptII逆転写酵素を使用してcDNAに転換させた。2%アガロースゲル電気泳動によってPCR産物を分離し、臭化エチジウム染色によって視覚化した。Pdx−1、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、glut2およびGADPH(cDNA負荷対照)をはじめとする非常に多数の膵島β細胞特異的遺伝子の発現を分析した。図3参照。
【0085】
インスリンの細胞分泌:培養基中のインスリンの濃度は、上で説明したようにELISAによって測定した。図4参照。
【0086】
本発明を、本発明の特定の実施形態に関連して説明したが、さらなる変形が可能であること、ならびにこの出願が、下記の本発明の任意の様々な変法、使用または変更を包含すると解釈されることは、理解される。一般に、本発明の原理、ならびに本発明が属する技術分野の中で公知または慣例になるような本発明の開示からの逸脱を含む原理、ならびに本明細書における上記のおよび添付の特許請求の範囲における下記のとおりの本質的特徴に適用することができるような本発明の開示からの逸脱を含む原理。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させる方法であって、
(a)酪酸ナトリウムを含む誘導前用無血清培地(serum−free pre−induction media)中で前記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、その後、
(b)ノックアウト置換血清を含む誘導培地中で前記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、
を含み、
前記プロジェニター細胞をインスリン生産産生膵細胞に分化させるために十分な時間インキュベートする、
分化方法。
【請求項2】
前記プロジェニター細胞が、ヒトプロジェニター細胞である、請求項1に記載の分化方法。
【請求項3】
前記プロジェニター細胞が、肝幹細胞である、請求項1に記載の分化方法。
【請求項4】
前記プロジェニター細胞が、臍帯マトリックス幹細胞である、請求項1に記載の分化方法。
【請求項5】
前記プロジェニター細胞が、脂肪幹細胞である、請求項1に記載の分化方法。
【請求項6】
前記誘導培地が、約2%ノックアウト置換血清を含む、請求項1に記載の分化方法。
【請求項7】
プロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させる方法であって、
(a)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACI)を含む誘導前用無血清培地中で前記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、その後、
(b)ノックアウト置換血清を含む誘導培地中で前記プロジェニター細胞をインキュベートすることと、
を含み、
前記プロジェニター細胞をインスリン産生膵細胞に分化させるために十分な時間インキュベートする、
分化方法。
【請求項8】
前記HDACIが、酪酸ナトリウム、酪酸フェニル、レチノイン酸、バルプロ酸、APHA Compound 8、アピシジン(Apicidin)、( )デプデシン(Depudecin)、スクリプタイド(Scriptaid)、シルチノール(Sirtinol)、およびトリコスタチン(Trichostatin)である、請求項7に記載の分化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−520470(P2011−520470A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510704(P2011−510704)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/044856
【国際公開番号】WO2009/143353
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(505024017)ヴェスタ セラピューティクス,インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】