説明

哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための組成物

【課題】 哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 ビタミンP類にD−グルコースが等モル以上結合してなる糖転移ビタミンP類を有効成分とする組成物により前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンP類にD−グルコースが等モル以上結合してなる糖転移ビタミンP類(以下、単に「糖転移ビタミンP類」と言う。)を有効成分とするサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む哺乳類(以下、特に断りがない限り、単に、「哺乳類」と言う。)の体内に存在するサイトカイン類は、生体防御や免疫応答の際の細胞間調節因子として重要な機能を有している。斯かるサイトカイン類は、健常な哺乳類体内に於いては、一定のレベルに維持され、生体を正常な状態に保っている。ところが、哺乳類が病気に罹患したり、何らかの原因で、サイトカイン類が異常産生されると、種々の悪影響を生体に及ぼす場合がある。例えば、非特許文献1に於いて、ズー・エックス等は、高脂血症マウスに於いて、ある種のサイトカイン類が異常産生することを報告している。斯かる状態の哺乳類を正常な状態に戻すためには、その原因となる疾患や病因を治療、排除すればよいのであるが、そのような疾患や病因を特定できない場合、或いは、その疾患、病因を容易に治療又は処置できない場合がある。このような場合ではあっても、サイトカイン類の産生異常に起因する諸症状を緩和乃至解消することが必要とされることが多々ある。その理由は、サイトカイン類の一種であるインターフェロン−γ(IFN−γ)の産生異常は、例えば、白血球減少、血小板減少、貧血等の造血系の異常や、胃腸障害、食欲不振、貧脈、低血圧、肝機能障害等を惹起し、又、サイトカイン類の一種であるインターロイキン−1αやインターロイキン−1βの産生異常は、炎症、発熱、肝機能障害等を、更には、インターロイキン−2の産生異常は、低血糖、コルチゾールの増加、リンパ球減少、肝機能障害等を惹起し、程度の差こそあれ、生体にとって好ましくない諸症状を引き起こすからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ズー・エックスら、『ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)』、第101巻、1,717乃至1,725頁
【0004】
斯かる状況下、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するための容易かつ安全な手段が鶴首されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防し得る手段について鋭意研究した結果、ビタミンPの誘導体である糖転移ビタミンP類が、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ビタミンP類にD−グルコースが等モル以上結合してなる糖転移ビタミンP類が、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するという独自の知見に基づいて為された発明である。前記糖転移ビタミンP類は、従来より、食品、化粧品、医薬品等の分野に広く用いられている化合物であることから、斯かる糖転移ビタミンP類を有効成分とする本発明の組成物は、日常的に副作用なく安全に投与可能な組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】糖転移ビタミンP類としての糖転移ルチン及び糖転移ヘスペリジンによる、サイトカイン類としてのIL−1β産生異常抑制作用及び/予防作用を示す図である。
【図2】糖転移ビタミンP類としての糖転移ルチン及び糖転移ヘスペリジンによる、サイトカイン類としてのIFN−γ産生異常抑制作用及び/又は予防作用を示す図である。
【図3】糖転移ビタミンP類としての糖転移ルチン及び糖転移ヘスペリジンによる、サイトカイン類としてのIL−4産生異常抑制作用及び/又は予防作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、糖転移ビタミンP類を有効成分とする、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための組成物に関するものである。本発明で用いる糖転移ビタミンP自体は、公知の化合物であり、既に、食品、化粧品、医薬品等の分野に広く用いられている物質であって、哺乳類に副作用なく安全に投与可能な物質である。糖転移ビタミンP類は、ビタミンP類と較べ、とりわけ、その安定性、各種溶媒への溶解性が高いなどの優れた種々の特徴を有している。斯かる糖転移ビタミンP類の具体例としては、α−モノグルコシル ヘスペリジン、α−ジグルコシル ヘスペリジン、α−トリグルコシル ヘスペリジン、α−テトラグルコシル ヘスペリジン及びα−ペンタルリコシル ヘスペリジン等のヘスペリジン1モルに対しD−グルコースが1乃至5モル結合してなる糖転移ヘスペリジン、又、α−モノグルコシル ルチン、α−ジグルコシル ルチン、α−トリグルコシル ルチン、α−テトラグルコシル ルチン及びα−ペンタグルコシル ルチン等のルチン1モルに対しD−グルコースが1乃至5モル結合してなる糖転移ルチン、更に、α−モノグルコシル ナリンジン、α−ジグルコシル ナリンジン、α−トリグルコシル ナリンジン、α−テトラグルコシル ナリンジン及びα−ペンタグルコシル ナリンジン等のナリンジン1モルに対しD−グルコースが1乃至5モル結合してなる糖転移ナリンジン、更にα−モノグルコシル ケルセチン、α−ジグルコシル ケルセチン、α−トリグルコシル ケルセチン、α−テトラグルコシル ケルセチン及びα−ペンタグルコシル ケルセチン等のケルセチン1モルに対しD−グルコースが1乃至5モル結合してなる糖転移ケルセチン等を例示できる。これら糖転移ビタミンP類はいずれも、哺乳類体内に於いて、ほぼ同等のサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防する作用を奏する。したがって、本発明の組成物に於いては、上記糖転移ビタミンP類の1種又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0010】
本発明で用いる糖転移ビタミンP類は、種々の方法で調製することができる。例えば、経済性を重視するのであれば、糖転移酵素を用いる生化学的方法が有利に用いられる。この方法は、例えば、澱粉部分加水分解物やマルトオリゴ糖などのα−グルコシル糖化合物の存在下、例えば、ヘスペリジン、ルチン又はナリンジンなどのビタミンP類に、α−グルコシダーゼ、シクロマルトデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ及びα−アミラーゼ等の糖転移酵素を作用させることにより、所望の糖転移ビタミンP類を高収量で得ることができる。斯くして得られる反応物は、通常、未反応のビタミンP類と共に、グルコース重合度が1以上、好ましくは、10以下、より好ましくは、5以下の糖転移ビタミンP類を主として含有する。尚、糖転移ビタミンP類に於けるグルコース重合度は、これにグルコアミラーゼを作用させることにより、糖転移ビタミンP類に於けるグルコース重合度を低減させたり、澱粉部分分解物等のD−グルコース供与体存在下、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ等の糖転移酵素を糖転移ビタミンP類に作用させることにより、糖転移ビタミンP類に於けるグルコース重合度を増加させることができる。又、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、糖転移ビタミンP類に更にD−グルコース以外の単糖類又は多糖類等を付加することにより、修飾糖転移ビタミンP類とすることも可能である。前記生化学的方法による糖転移ビタミンP類の製造方法としては、本出願人と同じ出願人による特開平3−7593号公報、特開平3−27293号公報、特開平3−58790号公報、特開平3−115292号公報、特開平10−70994号公報、特開平10−218777号公報、及び特開平10−323196号公報に開示された方法を例示することができる。斯かる方法により調製された市販品としては、例えば、登録商標『αGルチン』(固形分質量当りの全ルチン含量40乃至82%、東洋精糖株式会社販売)、商品名『αGルチンP』(固形分質量当りの全ルチン含量40乃至46%、株式会社林原商事販売)等の粉末糖転移ルチン、登録商標『αGヘスペリジン』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量22乃至84%、東洋精糖株式会社販売)、商品名『αGヘスペリジンPA』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量74乃至78%、株式会社林原商事販売)、商品名『αGヘスペリジンPS』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量80乃至84%、株式会社林原商事販売)、及び商品名『αGヘスペリジンH』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量22乃至26質量%、株式会社林原商事販売)等の粉末糖転移ヘスペリジンを例示できる。尚、本発明に於いては、糖転移ビタミンP類は必ずしも高度に精製されていなくてもよく、糖転移ビタミンP類による所期の薬理作用が奏される限り、糖転移ビタミンP類の製造方法に固有の物質が混在する粗な状態の糖転移ビタミンP類であってもよい。しかしながら、本願発明に於いて用いる糖転移ビタミンP類の純度は、通常、固形分重量当り20質量%以上、好ましくは、40質量%以上、より好ましくは、50〜99.99質量%のものが好適である。
【0011】
又、本発明の組成物により、その産生異常を抑制及び/又は予防し得る哺乳類に於けるサイトカインとしては、哺乳類内に存在するサイトカン類全般、例えば、インターフェロン(IFN)、インターロイキン、腫瘍壊死因子(TNF−α)、リンホトキシン(TNF−β)、及びケモカイン等を例示できる。これらサイトカイン類の内、IFN−γ、IL−1β及びIL−4の産生異常、とりわけ、高脂血症に罹患した哺乳類に見られるIFN−γ、IL−1β及びIL−4の産生異常は、本発明の組成物により最も効果的に抑制及び/又は予防することができる。
【0012】
本発明の組成物は、有効成分としての糖転移ビタミンP類のみから構成することも、又、他の成分として、糖転移ビタミンP類が奏する機能を実質的に損なわない範囲内で、水、アルコール等の有機溶媒、単糖類(グルコース、ガラクトース、ソルボース、フラクトース等)、二糖類(マルトース、スクロース、α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、β,β−トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール(ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)、サイクロデキストリン、国際公開番号WO01/90338A1号明細書に記載された環状四糖等の糖類、プルランなどの多糖類、澱粉質、繊維質、アミノ酸、賦形剤、希釈剤、増量剤、安定化剤、増粘剤、抗酸化剤、ビタミンP以外のビタミン類、蛋白質、脂質、ミネラル、着香料、着色料、光増感色素などの色素、甘味料、調味料、防腐剤、ホルモン類、アゴニスト類、アンタゴニスト類、抗生物質、及びブルーベリーエキス、茶エキス、松エキス、梅エキス、笹エキス、イチョウエキス、パフィアエキス、藍エキス、キノコエキス、及び人参エキス等のエキス類から選ばれる1種又は2種以上の成分を配合することも随意である。他の配合成分は、糖転移ビタミンP類に対し、通常、0.00001質量%以上、好ましくは、0.001質量%、より好ましくは、0.01〜99.99質量%配合するのが望ましい。
【0013】
本発明の組成物の形態は、粉状、液状、顆粒状、固形状、半固形状、又はペースト状等の粉剤、液剤、固形剤、半固形剤、錠剤、ペースト剤、座剤、軟膏、パップ剤、カプセル剤、フィルム状剤、又はシート状剤などの経口投与、非経口投与、又は経管投与可能な形態のものを例示できる。本発明の組成物の形態が、錠剤、パップ剤、カプセル剤、フィルム状剤、又はシート状剤である場合、有効成分としての糖転移ビタミンP類を複数の層に配置し、多層構造にすることにより、当該組成物を生体に投与したとき、有効性分が比較的長期間に亘って放出されるように構成することもできる。又、本発明の組成物の有効成分の保存安定性を高めるために、最終製品が完成するまでの工程で、除菌、滅菌、乾燥処理を施したり、遮光性素材を配合するか、遮光性素材により最終製品を包装するのが望ましい。これにより、本発明の組成物を室温保存する場合であっても、その保存安定性を更に高めることができる。
【0014】
本発明の組成物の使用方法について説明するに、当該組成物は、経口的に投与しても非経口的に投与しても所期の作用効果を発揮することから、その投与形態は問わない。しかしながら、本発明の組成物を比較的大量に投与する場合、又、投与期間が比較的長期間に亘る場合には、当該組成物を食品の形態にして経口的に投与するのが望ましい。一方、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常が重篤な場合や、即効性が要求される場合には、通常、医薬品の形態、即ち、注射剤や経管投与剤などの形態にして非経口的に投与するのが望ましい。本発明の組成物の投与量は、サイトカイン類の産生異常の程度、対象とする哺乳類の種類により変動するも、通常、ビタミンP換算で、約0.1mg乃至約1,000mg/kg体重/日、望ましくは、1mg乃至500mg/kg体重/日の量を、1乃至5回/日、又は1乃至5回/週の頻度で投与する。投与期間は、サイトカイン類の産生異常が緩和又は解消される期間投与すればよく、予防的に日常的に常用することも可能である。日常的に常用する場合であっても、本発明の組成物が有効成分とする糖転移ビタミンP類は、副作用を懸念することなく摂取することができる安全な化合物である。
【0015】
次に、実験例に基づき、本発明の組成物の有効性と安全性について実験により説明する。
【0016】
<実験1:糖転移ビタミンP類によるサイトカイン類の産生異常改善作用>
<実験1−1:サイトカイン類の産生異常動物実験モデル>
3週齢のC57/BL6雌マウス(日本チャールスリバー株式会社から購入)(以下、単に「マウス」と言う。)16匹を各群4匹からなる4群(A群乃至D群)に分け、市販の標準飼料『MF固形飼料』(オリエンタル酵母株式会社販売)を用いて1週間予備飼育した。次いで、A群のマウスを正常マウス群(対照1)として、MF固形飼料を与えて26週間飼育した。又、B群(対照2)、C群(試験1)及びD群(試験2)のマウスには、高脂血症を惹起させて、サイトカイン類(IL−1β、IFN−γ、及びIL−4)の産生異常を誘発するための後述するHF飼料を与えて26週間飼育した。飼育期間中、A群及びB群のマウスには、通常の飲み水を自由摂取させる一方、C群及びD群のマウスには、後述する糖転移ルチンを添加した飲み水、及び糖転移ヘスペリジンを添加した飲み水をそれぞれ与えて飼育した。尚、A群乃至D群に於いて、本飼育実験期間中、各群間に各群のマウスが自由摂取する水量、及び栄養学的な観点から見た飼料摂取量に統計学上の有意差は認められなかった。
【0017】
<実験1−2:飼料及び飲み水の調製>
MF固形飼料に対し、コレステロール1.25%(w/w)、コール酸ナトリウム0.5%(w/w)、及びココアバター15%(w/w)を添加し、放射線滅菌し、高脂肪飼料(以下、「HF飼料」と言う。)を得た。このHF飼料は、マウスに摂取させて高脂血症を惹起させ、サイトカイン類(IL−1β、IFN−γ、及びIL−4)産生異常を誘発させるための飼料である。
【0018】
A群及びB群のマウスに摂取させる飲み水は、精製水を121℃で15分間オートクレーブ滅菌したものを用いた。又、C群及びD群のマウスに摂取させる飲み水は下記のようにして調製した。即ち、市販の糖転移ルチン『αGルチン』((登録商標)、東洋精糖株式会社販売)、又は市販の糖転移ヘスペリジン『αGヘスペリジン』((登録商標)、東洋精糖株式会社販売)をそれぞれグルコアミラーゼ処理して、ルチン1モル当たりD−グルコースが1モル結合した糖転移ルチン(RG)、及びヘスペリジン1モル当たりD−グルコースが1モル結合した糖転移ヘスペリジン(HG)の含量を高め、これを常法により精製して、RG又はHGの純度が約80%(w/w)の標品を得た。次いで、得られたRG又はHGを121℃15分間オートクレーブ滅菌した精製水に個別に溶解した後、滅菌濾過して、RG又はHGの最終濃度が5%(w/v)水溶液を得、これを飲み水としてマウスに摂取させた。マウスの一日当たりの水の摂取量から換算して、C群及びD群の各群のマウスが摂取したRG及びHGの含量はいずれも500mg/kgマウス体重/日であった。
【0019】
<実験1−3:サイトカイン類の定量>
実験1−1の26週間飼育後のA群(対照1)、B群(対照2)、C群(試験1)、及びD群(試験2)の各群のマウスをエーテル麻酔して、脾臓をそれぞれ摘出し、その一部をそれぞれ機械的に細断し、細胞濃度5×10個/mlとなるように10%(v/v)のウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地中に懸濁し、これを24穴マイクロプレートに1.5ml/穴の割合で播種した。次いで、各穴当たり、リポポリサッカライド(LPS)を10μg/ml又はコンカナバリンA(ConA)を5μg/mlとなるように添加し、37℃、5%(v/v)COインキュベータ内で24時間静置培養した。その後、A群乃至D群の各群マウス由来の脾細胞培養液をそれぞれそれ個別に回収し、遠心分離(3,000r.p.m.×10分)し、上清を回収し、サイトカイン類(IL−1β、IFN−γ、及びIL−4)産生量を常法に従ってエンザイム・イムノアッセイ(ELISA)法によりそれぞれ定量した。尚、有意差検定は、スチューデント・t−テスト(Student’s t−test)法で行った。その結果を図1乃至図3に示す。
【0020】
図1に示すとおり、高脂肪飼料としてのHF飼料(対照2)で飼育し、サイトカイン類の産生異常を惹起したB群(対照2)のマウスと比べ、糖転移ルチンを摂取させたC群(試験1)、及び糖転移ヘスペリジンを摂取させたD群(試験2)のマウスは、サイトカイン類としてのIL−1βの異常産生がB群のマウスの約2/3〜約3/4と効果的に抑制された。このことは、糖転移ビタミンP類が、サイトカイン類の異常産生を効果的に抑制及び/又は予防し得ることを示している。
【0021】
図2に示すとおり、高脂肪飼料としてのHF飼料(対照2)で飼育して、サイトカイン類の産生異常を惹起したB群(対照2)のマウスと比べ、糖転移ルチンを摂取させたC群(試験1)、及び糖転移ヘスペリジンを摂取たせたD群(試験2)のマウスは、サイトカイン類としてのIFN−γの異常産生がB群のマウスの約1/3〜約3/7と極めて効果的に抑制された。又、C群及びD群のマウスのIFN−γ産生量は、市販品の標準飼料で飼育したA群(対照1)のマウスとほぼ同等であった。このことは、糖転移ビタミンP類が、サイトカイン類の異常産生を効果的に抑制及び/又は予防し得ることを示している。
【0022】
図3に示すとおり、高脂肪飼料としてのHF飼料(対照2)で飼育し、サイトカイン類の産生異常を惹起したB群のマウスと比べ、糖転移ルチンを摂取させたC群(試験1)、及び糖転移ヘスペリジンを摂取させたD群(試験2)マウスは、サイトカイン類としてのIL−4の異常産生がB群のマウスの約1/5〜約2/5と極めて効果的に抑制された。又、C群のマウスのIL−4産生量は、市販品の標準飼料で飼育したA群(対照1)のマウスとほぼ同等であった。このことは、糖転移ビタミンP類が、サイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防し得ることを示している。
【0023】
これらの結果は、サイトカイン類の異常産生が惹起される哺乳類に於いて、糖転移ビタミンP類の投与が、サイトカイン類の異常産生を抑制し、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に治療及び/又は予防することを示すものである。又、具体的なデータは示さないが、高脂肪飼料を摂取させつつ、糖転移ビタミンP類を摂取させたマウスに於いては、マウス血中トリグリセリドに顕著な減少を認めた。このことは、本発明の組成物を高脂血症又はその疾患が危惧される哺乳類に投与する場合には、斯かる哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防すると共に、高脂血症をも効果的に抑制又は予防されるものである。
【0024】
<実験2:急性毒性試験>
<実験2−1>
7週齢のdd系マウスを用いて、糖転移ビタミンP類として、特開平3−27293号公報に開示された方法に従って調製した、ルチン1モルにD−グルコースが1モル結合したα−グルコシル ルチンを経口投与して急性毒性試験をしたところ、マウス体重1kg当たり5gまでの投与量では死亡例は見られなかった。また、具体的なデータは示さないが、ルチン1モルにD−グルコースが2乃至5モル結合したα−グルコシル ルチンについても同様の結果が予想される。
【0025】
したがって、糖転移ビタミンP類としての糖転移ルチンの毒性は極めて低く、哺乳類に安全に投与可能な化合物であると言える。
【0026】
<実験2−2>
実験2−1で用いた糖転移ルチンを、特開平3−27293号公報に開示された方法に従って調製した、ヘスペリジン1モルにD−グルコースが1モル結合したα−グルコシル ヘスペリジン(糖転移ヘスペリジン)で置き換えた以外は、実験2−1と同様に経口投与試験したところ、何れの糖転移ヘスペリジンについても、マウス体重1kg当たり5gまでの投与量では死亡例は見られなかった。また、具体的なデータは示さないが、ヘスペリジン1モルにD−グルコースが2乃至5モル結合したα−グルコシル ヘスペリジンについても同様の結果が予想される。
【0027】
したがって、糖転移ビタミンP類としての糖転移ヘスペリジンの毒性は極めて低く、哺乳類に投与可能な物質であると言える。
【0028】
上記した糖転移ビタミンP類の急性毒性試験結果から、糖転移ビタミンP類を有効成分として配合してなる本発明の組成物は、哺乳類に安全に投与可能な組成物であると言える。
【0029】
以下、実施例に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0030】
<健康食品>
α,α−トレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)20質量部、プルラン2質量部、精製水50質量部、糖転移ビタミンP類として粉末糖転移ヘスペリジン(商品名『αGヘスペリジンH』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量22乃至26質量%、株式会社林原商事販売)10質量部、糖転移ビタミンC粉末(商品名『AA−2G』、株式会社林原商事販売)0.5質量部、クエン酸1質量部、及び適量の着色料と着香料とをそれぞれ混合し、濾過滅菌して、ガラス製容器に充填して、飲料タイプの健康食品を得た。
【0031】
風味良好な本品は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するための健康食品として有用である。
【実施例2】
【0032】
<健康食品>
ガムベース3質量部を柔らかくなるまで加熱融解し、これにα,α−トレハロース含量約50質量%の粉末緑黄色野菜(商品名『ニューミックス』、株式会社H+Bライフサイエンス販売)を7質量部、及び緑茶エキス1質量部を加え、さらに、適量の着色料及び着香料とともに、糖転移ビタミンP類として粉末糖転移ルチン(商品名『αGルチンP』(固形分質量当りの全ルチン含量40乃至46%、株式会社林原商事販売)を0.5質量部加えた後、常法により練り合わせ、成型し、包装して糖転移ビタミンPを含有するチューインガムタイプの健康食品を得た。
【0033】
テクスチャー、呈味ともに良好な本品は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するための健康食品として有用である。
【実施例3】
【0034】
<健康食品>
脱脂乳85質量部、脱脂粉乳3質量部、α,α−トレハロース含有シロップ(登録商標『トレハスター』、株式会社林原商事販売)9質量部、寒天0.1質量部、糖転移ビタミンP類として粉末糖転移ルチン(商品名『αGルチンP』(固形分重量当りの全ルチン含量40乃至46%、株式会社林原商事販売)3質量部、粉末糖転移ヘスペリジン(商品名『αGヘスペリジンPA』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量74乃至78%、株式会社林原商事販売)4質量部、ブルーベリーエキス1質量部、及び精製水2質量部を調合タンクに入れ、撹拌しながら55℃に加熱して完全に溶解した。次いで、常法にしたがって混合物を均質化し、殺菌冷却器により殺菌し、スターターを3%(w/w)接種し、プラスチック容器に充填した後、37℃で5時間発酵させて糖転移ビタミンPを含有するヨーグルトタイプの健康食品を得た。
【0035】
風味、呈味ともに良好な本品は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための日常的に摂取する健康食品として有用である。
【実施例4】
【0036】
<健康補助食品>
糖転移ビタミンP類として粉末糖転移ヘスペリジン(商品名『αGヘスペリジンPA』(固形分質重部当りの全ヘスペリジン含量74乃至78%、株式会社林原商事販売)1質量部と結晶性α,α−トレハロース粉末(登録商標『トレハオース』、株式会社林原商事販売)9質量部、及び少量の香料を均一に混合した後、遮光性黒色ガラス瓶に50gずつ充填して粉末タイプの健康補助食品を得た。
【0037】
本品は、そのまま食するか、適量の水又は飲料に溶解して飲むことにより、糖転移ビタミンPを容易に摂取することができる。溶解性と取扱い性に優れた本品は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための粉末タイプの健康補助食品として有用である。
【実施例5】
【0038】
<錠剤>
糖転移ビタミンC粉末(商品名『AA−2G』、株式会社林原商事販売)10質量部に粉末糖転移ヘスペリジン(商品名『αGヘスペリジンPA』((固形分質量当りの全ヘスペリジン含量74乃至78%、株式会社林原商事販売)300質量部、結晶性トレハロース粉末(登録商標『トレハオース』、株式会社林原商事販売)17質量部をそれぞれ均一に混合した後、常法により打錠して、1錠当り糖転移ビタミンPを30mg含有する錠剤を得た。
【0039】
本品は、摂取し易く、溶解性に優れ、ビタミンCの補給作用も兼備する哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するために日常的に常用し得る錠剤として有用である。
【実施例6】
【0040】
<液剤>
塩化ナトリウム6質量部、塩化カリウム0.3質量部、塩化カルシウム0.2質量部、乳酸ナトリウム3.1質量部、結晶性トレハロース粉末(登録商標『トレハオース』、株式会社林原商事販売)44質量部、粉末糖転移ルチン(商品名『αGルチンP』(固形分質量当りの全ルチン含量40乃至46%、株式会社林原商事販売)0.5質量部、粉末糖転移ヘスペリジン(商品名『αGヘスペリジンPS』(固形分質量当りの全ヘスペリジン含量80乃至84%、株式会社林原商事販売)1.5質量部及び糖転移ビタミンC(商品名『AA−2G』、株式会社林原商事販売)0.5質量部を、精製水1,000質量部に溶解し、常法にしたがって、膜濾過した後、滅菌したプラスチック製容器に30mlずつ充填して糖転移ビタミンPを含有する液剤を得た。
【0041】
ビタミン、カロリー及びミネラルの補給作用を兼備する本品は、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を抑制及び/又は予防するための液剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
叙上のとおり、本発明は、ビタミンP類にD−グルコースが等モル以上結合してなる糖転移ビタミンP類が、哺乳類に於けるサイトカイン類の産生異常を効果的に抑制及び/又は予防するという独自の知見に基づいて為された発明である。前記糖転移ビタミンP類は、従来より、食品、化粧品、医薬品等の分野に広く用いられている化合物であることから、斯かる糖転移ビタミンP類を有効成分とする本発明の組成物は、日常的に副作用なく安全に投与可能な組成物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘスペリジン及びルチンから選ばれるいずれかのビタミンP1モルに対しD−グルコースが1乃至5モル結合してなる糖転移ビタミンPを有効成分とする、哺乳類細胞に於けるインターロイキン−4の産生異常抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70568(P2010−70568A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293932(P2009−293932)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2002−220230(P2002−220230)の分割
【原出願日】平成14年7月29日(2002.7.29)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】