説明

唾液分泌促進用医薬組成物およびその使用

新しい唾液分泌促進用および口腔乾燥症の予防および/または治療用医薬組成物を提供する。
一般式


[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]で表されるカルボスチリル化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分とする新規な医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は唾液分泌を促進する作用を有し、とくに口腔乾燥症または唾液分泌低下の予防・治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液分泌促進用医薬組成物およびその使用に関する。更に詳しくは、一般式(1)
【化1】

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]で表されるカルボスチリル化合物又はその医薬上許容される塩、好ましくは、2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸又はその医薬上許容される塩を有効成分とする唾液分泌促進用医薬組成物、さらに、該カルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩の、唾液分泌促進のためのおよび口腔乾燥症の予防および/または治療のための使用、ならびに該カルボスチリル化合物を必要な主体に経口投与することを特徴とする唾液の分泌を促進しまたは口腔乾燥症の予防および/または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
唾液は口腔内の環境、口腔機能などの維持に重要な役割を果たしている。即ち、食物摂取機能と口腔環境維持機能があり、食物摂取機能においては食塊形成や消化酵素作用といった消化活動、又、味物質の可溶化やガスチン(それはカーボネート・デヒドロゲナーゼである)の分泌による味覚の維持作用を有する。口腔環境維持機能においては、唾液は歯や粘膜の自浄作用、歯の再石灰化作用、抗菌作用、免疫作用、成長因子等による組織修復促進作用、抗炎症作用を有している。
近年、様々な要因によって唾液分泌の低下を訴える患者が増加している。したがって、その治療に対する社会的欲求が高まっている。唾液分泌低下は、放射線療法や耳下腺炎のような唾液腺自身の異常に加え、バセドウ氏病、糖尿病などの代謝性疾患、また膠原病などの他の疾患に伴って認められ、更にはストレス要因や種々の薬剤の副作用によるものがある。近年の人口の高齢化に伴い、唾液腺機能の加齢による低下に加え、高齢者の有する各種併発疾患に対する各種薬物療法の結果として唾液分泌の低下を訴える患者がますます増加するものと考えられている。
唾液分泌低下は、口腔内の乾燥の結果、舌が発赤して、時にひびが入り、摂食時に痛みを訴え、咀嚼、嚥下困難をきたす。更に口腔内の違和感や、味覚、構音に障害を引き起こし、義歯不安定、う触、歯周炎の発症、口内炎、肺炎、消化機能の低下をも招来することが知られている。
唾液分泌の低下に対する治療方法としては、人工唾液の局所適用があるが一時的限定的な効果しか得られない。唾液分泌促進剤としてはムスカリン受容体アゴニストとして知られているアネトールトリチオンや塩酸セビメリンがあるが、効果が不安定であったり、副作用が懸念されるなどの問題があり、新しい治療剤の開発が望まれている。
【0003】
上記一般式(1)で示されるカルボスチリル化合物及びその製法は特許文献1に記載されており、それらが抗潰瘍剤として有用であることが記載されている。さらに、該カルボスチリル化合物が種々の疾患の治療に有用であること、例えば特許文献2にはそれらの化合物が胃炎治療剤として有用であること、特許文献3には抗糖尿病薬として有用であることが記載されている。さらに、特許文献4にはソマトスタチン増加作用又は低下抑制作用を有することが記載されている。また、特許文献5には腸粘膜障害保護剤として有用であること、特許文献6にはウレアーゼ阻害剤として有用であること、特許文献7にはインターロイキン−8阻害剤として有用であること、特許文献8には発癌抑制剤として有用であること、特許文献9には眼疾患治療剤として有用であることが記載されている。さらに、特許文献10にはADP−リボシル化阻害剤として有用であること、特許文献11には生体内毒素型細菌性感染症治療剤として有用であること、特許文献12にはNADアーゼ阻害剤として有用であることが記載されている。
【特許文献1】特公昭63−35623号公報
【特許文献2】特開平3−74329号公報
【特許文献3】特開平5−148143号公報
【特許文献4】特開平6−509587号公報
【特許文献5】特開平6−211662号公報
【特許文献6】特開平7−101862号公報
【特許文献7】特開平8−12578号公報
【特許文献8】特開平9−71532号公報
【特許文献9】特開平9−301866号公報
【特許文献10】特開平10−231246号公報
【特許文献11】特開平10−231247号公報
【特許文献12】特開平11−228413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、唾液分泌機能の低下は口腔内衛生上、さらには増加が著しい高齢者の生活の質を改善する目的からも大きな問題であり、唾液分泌促進剤あるいは口腔乾燥症の予防または治療剤としてより有効な薬物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、唾液分泌促進作用を有する新しい薬物あるいは口腔乾燥症予防および/または治療剤として有用な新しい薬物を見出すべく種々研究を重ねた結果、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル化合物、なかんずく2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩が優れた唾液分泌促進作用を有することおよび口腔乾燥症予防および/または治療に優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと通常の医薬上許容される希釈剤または担体とからなり、特に唾液分泌低下を示す患者の予防または治療に有用な、唾液分泌促進用医薬組成物を提供するものである。本発明はまた、上記式(1)のカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと通常の医薬上許容される希釈剤または担体とからなる、口腔乾燥症の予防および/または治療用の医薬組成物を提供するものである。さらに、本発明は、式(1)のカルボスチリル化合物の、唾液分泌促進用および口腔乾燥症の予防および/または治療用医薬の製造のための使用、および式(1)のカルボスチリル化合物を必要とする主体に投与することからなる唾液分泌を促進し、また口腔乾燥症の予防および/または治療する方法を提供するものである。本発明は下記の態様のものを含む。
【0006】
1.一般式(1)で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと通常の医薬上許容される希釈剤または担体とからなる経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
2.有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である上記に記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
3.口腔乾燥症の予防または治療薬である上記1または2記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
4.シューグレン症候群に伴って起こる口腔乾燥症ないしは唾液分泌低下の予防および/または治療剤である上記1または2記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
5.式(1)のカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと医薬上許容される希釈剤または担体とからなる経口用口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物。
6.口腔乾燥症が、シェーグレン症候群に伴って起こる口腔乾燥症である上記5記載の経口用口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物。
7.有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸又はその医薬上許容される塩である上記5または6記載の経口用口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物。
8.式(1)のカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩の、唾液分泌促進用および口腔乾燥症予防および/または治療用の医薬品を製造するための使用。
9.有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である上記8記載の使用。
10.式(1)のカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を、それを必要とする主体に経口投与することを特徴とする唾液分泌を促進する方法。
11.式(1)のカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を、それを必要とする主体に経口投与する口腔乾燥症の予防および/または治療方法。
12.有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である上記10または11記載の方法。
【0007】
本発明の唾液分泌促進用または口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物は、前記一般式(I)で示されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、一般的な医薬製剤の形態に調製される。そのような製剤は通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤あるいは賦形剤を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤などが挙げられる。また、樹脂などに配合して徐放性を高めて使用することもできる。本発明の経口用唾液分泌促進用または口腔乾燥症の予防および/または治療用医薬組成物は、全身投与用医薬組成物、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、シロップ剤及びカプセル剤等の経口用医薬組成物にするのが特に好ましい。
【0008】
錠剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸などの賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖などの崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、第四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などが例示できる。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0009】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤、ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などが例示できる。カプセル剤は、常法に従い、上記で例示した各種担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル、(HPMCカプセル)などに充填して調製される。
【0010】
本発明の医薬組成物に含有されるべきカルボスチリル化合物(I)またはその医薬上許容される塩の量はとくに限定されず広範囲に選択されるが、通常全組成物中約0.001〜70重量%、好ましくは0.005〜50重量%である。唾液分泌促進用または口腔乾燥症の予防および/または治療用医薬組成物としてとくに好ましい経口用製剤の場合は、カルボスチリル化合物(1)またはその医薬上許容される塩の量は、製剤組成物全量当り約0.005〜5重量%、好ましくは0.01〜3重量%とするのが良い。
投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年令、性別その他の条件、疾患の程度などに応じた方法で投与される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、シロップ剤およびカプセル剤の場合には経口投与される。
【0011】
本発明の薬物の投与量は、投与方法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜選択されるが、通常カルボスチリル化合物(I)またはその医薬上許容される塩の量は1日当り体重1kg当り0.01〜50mgとするのがよい、また、投与単位形態中に有効成分を1〜1000mg含有せしめるのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の唾液分泌促進用または口腔乾燥症の予防および/または治療用医薬組成物は、唾液分泌機能の低下した患者に投与することにより唾液分泌を促進することができ、また口腔乾燥症の予防および/または治療効果を発揮でき、それにより、本発明の医薬組成物は口腔乾燥感又は口腔内灼熱感、味覚異常、舌痛症、歯周病等種々の口腔内疾病をひき起こす原因となる口腔乾燥症または唾液分泌低下の予防または治療剤として有用である。
本発明の唾液分泌促進用または口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物は、ムスカリンM3受容体(CHRM3)を介した作用が非常に弱く、そのため、経口投与したときに、涙腺への分泌促進作用に比べて唾液分泌促進作用あるいは口腔内乾燥症予防および/または治療効果が強いという特徴を有する。さらに、本発明の組成物は副作用がより少なく、特に、吐き気、嘔吐、拒食症、腹部不快感等の消化管に対する副作用が少なく、したがってきわめて安全に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の唾液分泌促進用または口腔乾燥症予防および/または治療用の経口投与に適した医薬組成物は、上述のとおり種々の形態で調製され、使用に供される。以下に製剤例および薬理実験を挙げて本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
製剤例1
2−(4−クロルベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン
−4−イル)プロピオン酸 150g
アビセル(商標名,旭化成(株)製) 40g
コーンスターチ 30g
ステアリン酸マグネシウム 2g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 10g
ポリエチレングリコール−6000 3g
ヒマシ油 40g
メタノール 40g
本発明化合物、アビセル、コーンスターチおよびステアリン酸マグネシウムを混合研磨後、糖衣R10mmのキネで打錠する。得られた錠剤をヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール−6000、ヒマシ油およびメタノールからなるフィルムコーティング剤で被覆を行ないフィルムコーティング錠を製造する。
【0015】
製剤例2
2−(4−クロルベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン
−4−イル)プロピオン酸 150g
クエン酸 1.0g
ラクトース 33.5g
リン酸二カルシウム 70.0g
プルロニックF−68 30.0g
ポリビニルピロリドン 15.0g
ポリエチレングリコール(カルボワックス1500) 4.5g
ポリエチレングリコール(カルボワックス6000) 45.0g
コーンスターチ 30.0g
乾燥ラウリル硫酸ナトリウム 3.0g
乾燥ステアリン酸マグネシウム 3.0g
エタノール 適 量
【0016】
本発明化合物、クエン酸、ラクトース、リン酸二カルシウム、プルロニックF−68およびラウリル硫酸ナトリウムを混合する。上記混合物をNo.60スクリーンでふるい、ポリビニルピロリドン、カルボワックス1500および6000を含むアルコール性溶液で湿式粒状化する。必要に応じてアルコールを添加して粉末をペースト状塊にする。コーンスターチを添加し、均一な粒子が形成されるまで混合を続ける。No.10スクリーンを通過させ、トレイに入れ100℃のオーブンで12〜14時間乾燥する。乾燥粒子をNo.16スクリーンでふるい、乾燥ラウリル硫酸ナトリウムおよび乾燥ステアリン酸マグネシウムを加え混合し、打錠機で所望の形状に圧縮する。上記の芯部をワニスで処理し、タルクを散布し湿気の吸収を防止する。芯部の周囲に下塗り層を被覆する。内服用のために十分な回数のワニス被覆を行う。錠剤を完全に丸くかつ滑かにするためにさらに下塗層および平滑被覆が適用される。所望の色合が得られるまで着色被覆を行う。乾燥後、被覆錠剤を磨いて均一な光沢の錠剤にする。
【実験例1】
【0017】
下記のようにして、本発明の化合物の麻酔ラットにおける唾液分泌に対する作用を調べた。
【0018】
実験方法:
1)実験モデルの作製:唾液分泌を検討するモデルはマスナガらの方法(Masunaga, H., et al., Long-lasting salivation induced by a novel Muscarinic receptor agonist SNI-201 in rats and dogs. Eur. J. Pharmacol., 339: 1-9, 1997)を参考にして作製した。
すなわち、ラットを試験実施前日より絶食(但し水分摂取に関しては自由飲水)し、ネンブタールで麻酔を行った。仰向けに寝かし、頚部を正中切開した後、6Fr.のアトム栄養カテーテルを気管に挿入し気道を確保した。次に薬剤投与を行うために10μ/mLヘパリン/生理食塩水を満たしたポリエチレンチューブ(Polyethylene tube SP55 Natsume)を頚静脈に挿入した。
2)唾液分泌量の測定:被験薬物として供試化合物(2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸;一般名レバミピド)の0.03mg/mLまたは0.1mg/mLの2%炭酸水素ナトリウム水溶液および対照溶液として溶媒(2%炭酸水素ナトリウム水溶液)を用い、これら被験薬物および対照溶液を1mL/kgの容量で頚静脈に挿入したポリエチレンチューブを介して静脈内投与した。その後、10分間隔で20分間、綿球を用いて分泌唾液量を測定し、その間の総唾液分泌量から1分間当たりの分泌量を計算した。
上記の測定において、分泌された唾液量は、予め秤量した乾燥綿(綿球)をラット口腔内に挿入し、10分ごとに新しい綿球と交換し、口腔内挿入前後の重量差から分泌唾液量を計算する方法を用いた。
【0019】
結果:上記の溶媒投与群(5匹)、0.03mg/kg供試化合物投与群(5匹)、0.1mg/kg供試化合物投与群(4匹)において測定された唾液分泌量の平均を求め、溶媒投与群を100%として供試化合物投与群の百分率を求めた。その結果を表1に示す。
表1に示すとおり、溶媒投与群の唾液分泌量の平均値±標準誤差は0.128±0.008mg/分(n=5)であり、0.03および0.1mg/kg供試化合物投与群の唾液分泌量は、それぞれ0.262±0.084mg/分(n=5)、0.305±0.097mg/分(n=4)であった。従って、供試化合物を0.03あるいは0.1mg/kg静脈内投与することにより、溶媒投与群に対し、205%、239%の唾液分泌量が観察された。
【0020】
【表1】

唾液分泌量は測定値(mg/分)を平均値±標準誤差で示し、溶媒投与群との比較を%で示した。
【0021】
結論:
上記実験結果から明らかなように、麻酔ラットに供試化合物を静脈内投与することにより用量依存的に唾液分泌量が増加した。供試化合物を全身投与することにより唾液分泌促進作用が立証された。
【実験例2】
【0022】
下記のように無麻酔ラットにおける胃内投与における唾液分泌に対する作用を調べた。
【0023】
実験方法:
無麻酔ラットを用いて、食道に留置した憩室に覚醒下4時間嚥下された唾液を採取し唾液分泌量(g)を測定した。
ベヒクル(0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液)またはレバミピド10, 30又は100mg/kgを食道憩室設置手術時に単回胃内投与した結果、唾液分泌量の平均値±標準誤差は、ベヒクル群で、0.88±0.23g(n=7)、レバミピド10mg/kg投与群0.99±0.21g(n=8)、レバミピド30mg/kg投与群で1.37±0.26g(n=7)およびレバミピド100mg/kg投与群で1.72±0.40g(n=8)であった。
【0024】
結論:
上記実験結果から明らかなように、無麻酔ラットにおいて、レバミピドを胃内投与することにより用量依存的に唾液分泌量が増加した。したがって、本発明の化合物が胃内投与することにより唾液分泌促進作用を有することが立証された。
【実験例3】
【0025】
本発明化合物のシェーグレン症候群の患者における口腔乾燥に対する効果を試験した。
(1)実験対象
厚生労働省シェーグレン症候群の改訂診断基準(1999年)により確実例と診断された患者21名(年齢は27〜85歳、性別は全例女性)について実験した。
(2)投与方法
2−(4−クロルベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸100mgを含有する錠剤を1日3回(1回1錠)食後に8週間経口投与した。
(3)判定方法
i)錠剤投与前、投与4週後、8週後に、自覚症状(口腔乾燥感、飲水切望感、口腔内疼痛、味覚異常、食物摂取困難、唾液の異常)の患者評価を調査し、各調査時点の合計スコアからその変化率を次式で求めた。ただし、症状の程度は、0:なし、1:軽度、2:中等度、3:高度の4段階で点数化した。

ii)また錠剤投与前、投与3週後、8週後に、サクソンテストを用いて唾液分泌量を測定し、唾液増加率(%)を次式で求めた。

有用性は、自覚症状の改善と唾液分泌量を総合して判定した。自覚症状改善率と唾液増加率がいずれも50%以上を示す症例を著効、いずれか一方が50%以上示すものを有効、どちらも満たさないものを無効の3段階で評価し、有効以上を示す症例を有用と判定した。統計学的検討は、対応のあるWilcoxon検定を用いた。
(4)結果
自覚症状の合計スコアは、投与前に9.6±4.1であったものが、投与4週後では6.6±3.2、投与8週後では5.2±2.6といずれにおいても有意に改善した。
また、唾液分泌量は、投与前に1.29±1.00であったものが、投与4週後では1.95±1.21、投与8週後では1.93±1.14といずれにおいても有意に増加した。
総合的な判定は、(i)それぞれ投与4週後で著効が2例、有効が9例、無効が10例、(ii)8週後で著効が6例、有効が7例、無効が8例であった。有効性は、投与4週後で52.4%、投与8週後で61.9%であった。
【実験例4】
【0026】
本発明化合物2−(4−クロルベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸のシェーグレン症候群の口腔乾燥症患者における効果:
(1)患者
27歳、女性。
(2)主訴
口渇、眼の異物感。
(3)起死経過
1999年2月頃、口渇、涙がでにくいため、病院で受診した。そこで抗核抗体160倍、抗SSR−A抗体126倍、ガムテスト8mL、唾液腺機能低下、眼科的検査にてシルマーテスト(右4mm,左3mm)、乾燥性角結膜炎にてシェーグレン症候群と診断された。塩酸セビメリンを内服したが、腹部深い、胃痛のため投与中止となった。サリベートスプレーをしようしたが、効果なく中止。結婚による転居により、2003年5月1日に病院を変更した。病院変更前に、乾燥性結膜炎に対してコンドロン点眼を頻繁に行っていた。
(4)新しい病院でテストした際の症状と検査所見
口腔乾燥症状は、舌の乾燥が著明で、唾液分泌量はサクソンテストで0.52gと顕著な低下を示していた。耳下腺部の腫脹はなし。眼乾燥症状は、シルマーテスト:右2mm左1mm、ローズベンガルテスト(3+)であった。眼球結膜の充血はなし。検査値は、ESR17mm/hr,WBC5500/μL,RBC484×10/μL,Hgb13.4g/dL,T.P.8.4g/dL,Alb4.4g/dL,AST17IU/mL,ALT9IU/mL,アミラーゼ140IU/L,CK46IU/L,Cr0.69mg/dL,BUN14.0mg/dL,CRP<0.3mg/dL,ANA640倍(斑点模様)、抗SS−A抗体126倍、抗SS−B抗体陰性、IgG2270mg/dL,IgA368mg/dL,IgM132mg/dL,および免疫複合体Ciq固相法3.3(陽性)であった。
(5)臨床経過
2003年5月1日 サクソンテストによる唾液量が0.52g,2003年5月28日には0.89gと顕著な口腔乾燥症状を呈していたため、2003年5月29日より2−(4−クロルベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸300mg/日を投与開始した。2003年6月25日に唾液分泌量は1.55gと著明に上昇し、自覚症状の改善が認められた。2003年7月23日には、唾液分泌量が1.86gと更に増加し、自覚症状も更に改善した。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の唾液分泌促進用および口腔乾燥症予防および/または治療用の医薬組成物は、唾液の粘稠感、粘性亢進等の口腔乾燥感または口腔内灼熱感;味覚異常;嚥下障害等の食物接種困難;舌の発赤、舌乳頭萎縮、平滑舌等の舌痛症、口腔粘膜痛;口腔粘膜の非薄化;口角びらん、カンシダ症、齲蝕症、齲蝕の高度発現、歯周病、口腔粘膜疾患、義歯不適合、義歯性潰瘍等の自浄作用低下による症状または全身症状を伴うこれらの唾液分泌低下を示す患者の予防および/または治療に有用である。唾液分泌低下は特にストレス、乾燥、発熱時や高度の嘔吐や下痢時等におこる脱水、高温、口呼吸などの症状としてあらわれ、或いは、薬剤の副作用、放射線治療、唾液腺の外科的切除等の治療の過程で起こる。さらに、本発明の医薬組成物は、シェーグレン症候群、関節リウマチ、強皮症、多発性筋炎、全身性エリトマトーデス、糖尿病、腎不全、尿崩症、神経損傷、咀嚼機能の低下、老人性唾液腺の萎縮に伴って起こる口腔乾燥症ないしは唾液分泌低下の予防および/または治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと医薬上許容される希釈剤または担体とからなる経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
【請求項2】
有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である請求項1記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
【請求項3】
口腔乾燥症の予防または治療薬である上記1または2記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
【請求項4】
シューグレン症候群に伴って起こる口腔乾燥症ないしは唾液分泌低下の予防および/または治療剤である請求項1または2記載の経口用唾液分泌促進用医薬組成物。
【請求項5】
一般式

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分とし、それと医薬上許容される希釈剤または担体とからなる経口用口腔乾燥予防および/または治療用医薬組成物。
【請求項6】
口腔乾燥症が、シェーグレン症候群に伴って起こる口腔乾燥症である請求項5記載の経口用口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物。
【請求項7】
有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸又はその医薬上許容される塩である請求項5または6記載の経口用口腔乾燥症予防および/または治療用医薬組成物。
【請求項8】
一般式

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩の、唾液分泌促進用および口腔乾燥症予防および/または治療用の医薬品を製造するための使用。
【請求項9】
有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である請求項8記載の使用。
【請求項10】
一般式

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を、それを必要とする主体に経口投与することを特徴とする唾液分泌を促進する方法。
【請求項11】
一般式

[式中、Rはハロゲン原子を示し、該カルボスチリル骨格上の置換基の置換位置は3位又は4位であり、カルボスチリル骨格の3位と4位の結合は一重結合又は二重結合を示す]
で表されるカルボスチリル化合物またはその医薬上許容される塩を、それを必要とする主体に経口投与することを特徴とする口腔乾燥症の予防および/または治療方法。
【請求項12】
有効成分が2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−(2−キノロン−4−イル)プロピオン酸またはその医薬上許容される塩である請求項10または11記載の方法。

【公表番号】特表2006−528662(P2006−528662A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521775(P2006−521775)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009992
【国際公開番号】WO2005/011811
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】