説明

噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置

【課題】レーザー光の伝搬効率を向上させて、安定した加工品質を確保する。
【解決手段】ワークWに噴流液体を噴射するノズル3と、ノズル3に噴流液体を供給する液体供給手段6と、を有し、ノズル3から噴射された噴流液柱F内に導かれたレーザー光Lによるレーザー加工装置であって、噴流液体を層流状態でノズル3に供給する層流形成流路8を有し、層流形成流路8は、液体供給手段6から供給された噴流液体をノズルの軸線G周りに環状に分配する空洞が形成された分配流路81と、ノズルの軸線G方向下流側において分配流路81に連通して設けられ、分配流路81よりも狭い流路で軸線G周りに環状の空洞が形成された連絡流路82と、ノズルの軸線G方向上流側に隣接して設けられ、噴流液体を貯留してノズル3に供給する液体貯留室83と、を備え、液体貯留室83の外周縁部は、環形状の全周にわたって連絡流路82と連通されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置に関し、特にレーザー光の伝搬効率を向上させて、安定した加工品質を確保することができる噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光をジェット液柱で導光することを利用して、めっきまたはエッチング用の電解液のジェット液柱内にレーザー光を照射し、基板にめっきまたはエッチングを行う装置が知られている。また、ウォータージェット内にレーザー光を照射し、レーザー光をウォータージェット内で全反射させて伝搬することにより、ウォータージェット及びレーザー光で治療部位の切開を行う治療装置も知られている。
【0003】
このように、液柱内でレーザー光を全反射させながら、レーザー光を導く技術は様々な分野で応用されており、レーザー加工分野においても、液体を噴射すると同時にレーザー光線を照射して所要のレーザー加工を行なうレーザー加工装置に関して、加工ヘッドの先端に液柱ビーム(噴流液柱)を噴射するノズル通路が形成されたノズルブロックを設け、フォーカスレンズによりレーザー光をノズル通路の入口開口に集光することで、ノズル通路より噴射する液柱ビームにレーザー光線を導光するものが知られている(例えば、特許文献1)。
また、従来、レーザー加工装置において使用されているレーザー光は、YAGレーザー(波長1064nm)やCO2レーザー(波長10.6μm)等が主流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−500903号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、YAGレーザー(波長1064nm)やCO2レーザー(波長10.6μm)は、噴流液柱として通常使用される水に吸収されやすいため、レーザー光の伝搬効率が低い。加えて、レーザー光が水に吸収されるときの発熱により熱レンズ作用が誘発されるため、レーザー光を効率よくウォータージェット(噴流液柱)に導くことが困難になるという問題があった。さらに、熱レンズ作用が誘発されるとレーザー光が屈折され、屈折されたレーザー光がノズルの入口開口部に当たってノズルが損傷されるおそれもある。
この問題を解決するために、特表平10−500903号(特許文献1)公報記載のレーザー加工装置においては、ウォータージェットを噴射するノズルに水を導く通水路である液体供給空間の高さを低くすることにより、レーザー光が通水路を横切る距離を短くして、水によるレーザー光の吸収を抑制している。また、この装置では、液体供給空間の高さを低くすることにより、液体供給空間内を流れる水の流速を上昇させ、レーザー光を吸収した液体供給空間内の水の温度上昇を低く抑え、熱レンズの発生を抑制している。
【0006】
しかしながら、温度上昇を抑制するためにノズルに水を導く液体供給空間内の水の流速を高くすると、ウォータージェットの形状にゆらぎが生じやすくなり、ウォータージェットの表面乱れが生じるという問題がある。即ち、ウォータージェットに乱れが生じると、ウォータージェットにより導かれるレーザー光も影響を受けるため、レーザー加工装置の加工品質が低下してしまう。特に、被加工物の材質や寸法によっては、レーザー加工装置による一回の加工に要する時間が非常に長くなるため、ウォータージェットには、その全期間に亘って乱れが発生しない高い安定性が要求される。また、ウォータージェットの表面に乱れがあると、レーザー光がウォータージェットの表面で全反射せずにウォータージェットから外に飛び出してしまうことがあり、ウォータージェットの乱れによりレーザー光の伝搬効率が低下するという問題もある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、レーザー光を導くウォータージェットを安定して発生させることができるレーザー加工装置を提供することを目的としている。
また、本発明は、レーザー光の伝搬効率を向上させて、安定した加工品質を確保することができる噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る発明は、レーザー光を発生するレーザー発振器と、ワークに噴流液体を噴射するノズルと、このノズルに前記噴流液体を供給する液体供給手段と、を有し、前記ノズルから噴射された噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置であって、前記噴流液体を層流状態で前記ノズルに供給する層流形成流路を有し、前記層流形成流路は、前記液体供給手段から供給された噴流液体を前記ノズルの軸線周りに環状に分配する空洞が形成された分配流路と、前記ノズルの軸線方向下流側において前記分配流路に連通して設けられ、前記分配流路よりも狭い流路で前記軸線周りに環状の空洞が形成された連絡流路と、前記ノズルの軸線方向上流側に隣接して設けられ、前記噴流液体を貯留して前記ノズルに供給する液体貯留室と、を備え、前記液体貯留室の外周縁部は、前記環形状の全周にわたって前記連絡流路と連通されていること、を特徴とする。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、噴流液体を層流状態で前記ノズルに供給する層流形成流路を設けて、ノズル手前に安定した層流状態(レイノルズ数が小さい状態)の流れを作ることで、噴流液柱の表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱をノズルから噴射することができる。
【0010】
具体的には、分配流路により、高圧で供給される噴流液体が一旦ノズルの軸線周りに環状に分配される。そして、噴流液体は、分配流路よりも狭い流路で環形状に形成された連絡流路を流通することで、乱流が抑制された状態で液体貯留室に導入される。液体貯留室に導入された噴流液体の流れは、ここで減速されるので噴流液体の流れのレイノルズ数が低下され、層流状態でノズルまで導かれる。
【0011】
また、前記液体貯留室の外周縁部は、前記環形状の全周にわたって前記連絡流路と連通されているため、連絡流路の全周から満遍なく液体貯留室の外周縁部に導入されることで、噴流液体の流速が減速され、安定した層流状態で液体貯留室に貯留される。
【0012】
このようにして、ノズル手前における流速を低下させることにより安定した層流状態を作り出す層流形成流路を設けることで、噴流液柱の表面に乱れが生じ難くゆらぎのない安定した噴流液柱をノズルから噴射することができ、これにより加工品質の低下を防止することができる。さらに、噴流液柱内に導かれたレーザー光の伝搬効率を向上させることもできる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザー加工装置であって、前記レーザー光は、前記噴流液体を透過する際の吸収係数が0.01[cm-1]以下であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のレーザー加工装置であって、前記噴流液体は水であり、前記レーザー光は、グリーンレーザー、またはUVレーザーであることを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、噴流液体を透過する際のレーザー光の減衰を少なくすることができるため、液体貯留室の厚さを厚く構成した場合にも十分な強度のレーザー光を噴流液柱に導入することができる。また、噴流液体が水である場合には、レーザー光を、水に吸収され難く透過率の高いグリーンレーザー[2倍波(SHG)YAGレーザー、波長532nm]、またはUVレーザー(例えば、波長355nmや266nm)とすることでレーザー光の伝搬効率を向上させることができる。また、噴流液体に吸収され難いレーザー光を使用することにより、熱レンズの発生が抑制され、ノズルの入口開口部に精度よくレーザー光を導くことが容易となる。このため、ノズルが損傷することを防止するとともに、安定した加工品質を確保することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記噴流液体は水であり、前記レーザー光は、波長域が200〜700nmであることを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、水を透過する際のレーザー光の減衰を少なくすることができるため、液体貯留室の厚さを厚く構成した場合にも十分な強度のレーザー光を水に導入することができる。また、水に吸収され難い、波長域が200〜700nmのレーザー光を使用することにより、熱レンズの発生が抑制され、ノズルの入口開口部に精度よくレーザー光を導くことが容易となる。このため、ノズルが損傷することを防止するとともに、安定した加工品質を確保することができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記液体貯留室は、前記ノズルの軸線方向の奥行きが2mm以上であり、前記外周縁部の前記軸方向上流側で前記連絡流路に連通されていること、を特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、液体貯留室における前記ノズルの軸線方向の奥行きを2mm以上確保して、前記外周縁部の前記軸方向上流側で前記連絡流路に連通したことで、噴流液体の流速が奥行き方向で減速されて、ノズルの上流側においてより安定した層流状態で噴流液体が液体貯留室に貯留される。
このため、より噴流液柱の表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱をノズルから噴射することができ、噴流液柱内に導かれたレーザー光の伝搬効率を向上させることができる。
【0019】
また、液体貯留室における前記ノズルの軸線方向の奥行きを2mm以上確保することで、ノズル入口開口部のレーザー集光点から導入窓、レンズ等の光学系装置を隔離することができるため、光学系装置の熱歪み等を回避して安定した光学性能を確保するとともに、耐久性を向上させて安定した加工品質を確保することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記噴流液体が水である場合において、前記液体供給手段は、前記レーザー光の伝搬媒体としての前記噴流液体の均質性を高めるための処理装置を備えていることを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、例えば、前記噴流液体中に不純物として存在する溶存気体およびパーティクル、並びにイオン発光の原因となるイオンを除去して、噴流液柱をレーザー光の伝搬媒体としてガラスのように均質性を高めることができる。
このため、安定した噴流液柱をノズルから噴射することができ、噴流液柱内に導かれたレーザー光の伝搬効率を向上させることができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記レーザー加工装置は、前記噴流液柱に沿ってアシストガスを導入するアシストガス供給装置を有し、前記アシストガス供給装置は、前記ノズルの下流側に設けられ前記噴流液柱を収容するように形成されたガス供給室と、このガス供給室にアシストガスを導入する導入流路と、を備え、前記導入流路は、前記噴流液柱の外周からスパイラル状に沿うように構成したスパイラル状導入流路、または、前記噴流液柱の軸線に漸近するように構成されたコーン状導入流路であること、を特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、噴流液柱に沿ってアシストガスが導入され、噴流液柱に偏ったカが作用しないようにアシストガスを噴流液柱の外周に導くことで、噴流液柱の表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱をノズルから噴射することができ、噴流液柱内に導かれたレーザー光の伝搬効率を向上させることができる。
また、ワーク上面に堆積した加工時に不必要な噴流液体や、加工面より跳ね返った噴流液体を効率よく除去して作業性を向上させることができる。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7の何れか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記液体貯留室は、前記連絡流路の空洞の体積よりも大きな体積を有すること、を特徴とする。
【0025】
かかる構成によれば、連絡流路の空洞から供給された噴流液体が、より大きな体積の液体貯留室に流入する。このため、液体貯留室内での噴流液体の流速が減少して、液体貯留室内で層流状態を作りやすくなり、安定した噴流液柱をノズルから噴射することができ、噴流液柱内に導かれたレーザー光の伝搬効率を向上させることができる。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項1から請求項8の何れか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記分配流路には、前記液体供給手段からの噴流液体が導入される導入管が接続され、前記連絡流路の前記分配流路との連通部は、前記導入管の軸線から外れた位置に配置されること、を特徴とする。
【0027】
かかる構成によれば、連絡流路の分配流路との連通部が、導入管の軸線から外れた位置にあるので、導入管から分配流路に導入された噴流液体が連絡流路に直接流入するのを抑制することができる。このため、分配流路からの噴流液体をノズルの軸線周りの方向から均一に連絡流路に供給することができ、液体貯留室での噴流液体の層流状態を作りやすくすることができる。
【0028】
請求項10に係る発明は、請求項1から請求項9の何れか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記連絡流路の外周面と、前記液体貯留室の外周面は、段差なく連続した面を形成すること、を特徴とする。
【0029】
かかる構成によれば、連絡流路の外周面に沿って移動する噴流液体は、次に液体貯留室の外周面の段差なく連続した面に沿って移動し、液体貯留室に流入する。このため、連絡流路から液体貯留室までの噴流液体の流れを滑らかにすることができるので、液体貯留室での噴流液体の層流状態を作りやすくすることができる。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項1から請求項10の何れか1項に記載のレーザー加工装置であって、前記液体貯留室は、前記ノズルの軸線方向の奥行きが、前記ノズルの直径の20倍以上に構成されていること、を特徴とする。
かかる構成によれば、ノズルからの噴流液体の噴出流量に対して液体貯留室内の十分な流路面積を確保することができるので、液体貯留室内における流速を十分に遅くすることができ、乱れのない流れを容易に生成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置は、レーザー光の伝搬効率を向上させて、安定した加工品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザー加工装置の全体構成を示す側面断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光学装置の他の実施例を説明するための要部拡大図であり、レーザー光の導入窓を装着しない形態を示す。
【図3】本発明の実施形態に係る層流形成流路の形状を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るアシストガス供給装置におけるスパイラル状導入流路の構成を示す図1のA−A断面図である。
【図5】アシストガス供給装置における他の実施例に係るコーン状導入流路の構成を示す側面断面図である。
【図6】本実施形態に係る層流形成流路の軸線方向に沿った断面図である。
【図7】ノズルの軸線G方向の奥行き(高さH、導入窓―ノズル間距離)とレーザー光の伝搬効率との関係を示すグラフである。
【図8】グリーンレーザーを水の液柱ビームに通過させた際の、液体貯留室の高さHに対するグリーンレーザーの伝搬効率を示す。
【図9】本発明の実施形態に係るノズル周辺における液体貯留室(液体供給路)の構造を模式的に示す図である。
【図10】本実施形態に係る液体貯留室内の流速分布を計算するために使用した液体貯留室のモデルを示す図である。
【図11】従来の構造の液体供給路内の流速分布を計算するために使用した液体供給路のモデルを示す図である。
【図12】液体貯留室内の各点における流速をベクトルで表した図である。
【図13】液体貯留室内の空間を、ほぼ同じ流速の領域ごとに区切って表した図である。
【図14】液体供給路内の各点における流速をベクトルで表した図である。
【図15】液体供給路内の空間を、ほぼ同じ流速の領域ごとに区切って表した図である。
【図16】本実施形態に係る液体貯留室に対応するモデルの乱流エネルギの分布のシミュレーション結果を模式的に表した図である。
【図17】従来の構造の液体供給路に対応するモデルの乱流エネルギの分布のシミュレーション結果を模式的に表した図である。
【図18】本実施形態の液体貯留室の構造に対応するモデルにおける流体の移動を表す模式図である。
【図19】従来の液体供給路の構造に対応するモデルにおける流体の移動を表す模式図である。
【図20】ノズルの上方でレーザー光が照射される円錐領域を概略的に示す。
【図21】出力P=10(W)の場合の、点Aからの距離に対する、レーザー光の吸収による水の温度上昇を示した図である。
【図22】点Aからの距離dを4mmに設定した場合の、IRレーザー及びグリーンレーザーの出力Pに対する円錐領域の水の温度上昇ΔTの関係を示した図である。
【図23】本発明の第1実施例に係る加工ヘッドの構成を示す断面側面図である。
【図24】(a)は本発明の第2実施例に係る加工ヘッドにおけるノズル周りの構成を示す部分断面側面図であり、(b)は(a)において封止部材を装着する場合を示す。
【図25】本発明に係る層流形成流路の第1変形例の形状を示す斜視図である。
【図26】本発明に係る層流形成流路の第2変形例の形状を示す斜視図である。
【図27】本発明に係る層流形成流路の第3変形例の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態に係るレーザー光線加工装置について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図面において、図1は本発明の実施形態に係るレーザー加工装置の全体構成を示す側面断面図である。図2は本発明の実施形態に係る光学装置の他の実施例を説明するための要部拡大図であり、レーザー光の導入窓を装着しない形態を示す。図3は本発明の実施形態に係る層流形成流路の形状を示す斜視図である。図4は本発明の実施形態に係るアシストガス供給装置におけるスパイラル状導入流路の構成を示す図1のA−A断面図であり、図5はアシストガス供給装置における他の実施例に係るコーン状導入流路の構成を示す側面断面図である。
【0034】
なお、図1における上下方向を本実施形態におけるレーザー加工装置1の上下方向として表記するが、加工ヘッド4の向きは上下方向に限定されるものではなく、加工ヘッド4が上下方向に対して傾斜したものでもよい。
【0035】
本発明の実施形態に係るレーザー加工装置1は、図1に示すように、グリーンレーザーからなるレーザー光Lを発生するグリーンレーザー発振器2と、ワークWに噴流液体である高圧水を噴射するノズル3が装着された加工ヘッド4と、レーザー光Lをノズル3に導くための光学装置5と、ノズル3に高圧水を供給する液体供給手段6と、ノズルの上流側に隣接して設けられ高圧水を層流状態でノズル3に供給する層流形成流路8と、レーザー光Lの伝搬媒体としての前記噴流液体の均質性を高めるための処理装置9と、噴流液柱Fに沿ってアシストガスASを導入するアシストガス供給装置11と、を備えている。
【0036】
そして、かかる構成により、ノズル3から噴射された噴流液柱F(ウォータージェット)内に導かれたレーザー光LをワークWに照射しながら、テーブルTまたは加工ヘヅド4を図示しない移動手段により移動させてレーザー加工を行なう。
【0037】
グリーンレーザー発振器2は、図1に示すように、レーザー光Lとしてグリーンレーザーを発生する装置である。そして、レーザー光Lは、グリーンレーザー発振器2から光ファイバケーブル21内に導光されて、加工ヘッド4の頂部から下方に配設されたノズル3に向けて集光される。
【0038】
グリーンレーザーは、2倍波(SHG)YAGレーザーであり、波長が532nmである。グリーンレーザーは、YAGレーザー(波長1064nm)やCO2レーザー(波長10.6μm)と異なり、水を通過しやすい特徴を有するため、噴流液体として安価で入手が容易な水を使用する場合には、レーザー光Lの伝搬効率を向上させることができる。また、水に吸収され難いため、熱レンズの発生を抑制することで、ノズル3の入口開口部31に精度よくレーザー光Lを導くことが容易となる。このため、ノズル3を損傷することを防止するとともに、安定した加工品質を確保することができる。
【0039】
加工ヘッド4は、略円筒形状に形成されたハウジング41と、ハウジング41内の上部に収容された光学装置5と、光学装置5の下方に配設された層流形成流路8と、層流形成流路8の下方に配設されたノズル3と、ノズル3の下方に配設されたアシストガス供給装置11と、を備えている。
そして、ハウジング41の頂部から下方に向けて照射されたレーザー光Lは、光学装置5により、ノズル3の入口開口部31に集光され、ノズル3から噴射される噴流液柱F内に導かれて、噴流液柱F内で全反射を繰り返しながら導光されてワークWに照射される。
【0040】
光学装置5は、ハウジング41の頂部から放射されたレーザー光Lを平行光に変換するコリメータレンズ51と、コリメータレンズ51で変換された平行光をノズル3の入口開口部31に集光する集光レンズ52と、層流形成流路8(液体貯留室83)の上方に隣接して配設されレーザー光Lを層流形成流路8に導入する導入窓53と、を備えている。
【0041】
なお、本実施形態においては、図1に示すように、レーザー光Lの導入窓(ウィンドウ)53を液体貯留室83の上方に設けたが、これに限定されるものではなく、図1に示す導入窓53に代えて、この導入窓53の位置に集光レンズ52’を配設することもできる(図2参照)。
【0042】
液体供給手段6は、図示しない給水タンクから水を吸い込んで増圧する高圧水ポンプ61と、増圧された高圧水を層流形成流路8まで供給する高圧配管62と、を備えている。
また、高圧水ポンプ61は、サーボ駆動式のポンプを採用し、ポンプの吐出圧力を検出して吐出圧力が一定となるようにフィードバック制御を行なうことで、サーボモータとボールねじにより一定の流速で水を押し出すように構成されている。
そして、かかる構成により、安定した高圧水の流れを発生して層流形成流路8に送り出すことができる。
【0043】
層流形成流路8は、液体供給手段6から供給された噴流液体である高圧水をノズルの軸線Gの周りに環状に分配する空洞が形成された分配流路81と、ノズルの軸線G方向下流側において分配流路81に連通して設けられ、分配流路81よりも狭い流路でノズルの軸線G周りに環状の空洞が形成された連絡流路82と、ノズルの軸線G方向上流側に隣接して設けられ、高圧水を貯留してノズル3に供給する液体貯留室83と、を備えている。
そして、連絡流路82と液体貯留室83とは、液体貯留室83の外周縁部83aにおいて、環形状の連絡流路82の全周にわたって連通されている。
【0044】
ここで、連絡流路82は、本実施形態においては、ノズルの軸線G方向上流側が分配流路81に連通して設けられ、ノズルの軸線G方向下流側が上流側よりも縮径された円筒形状の流路として形成されている。一方、液体貯留室83は、ノズルの軸線G方向下流側が上流側よりも縮径された逆円錐台形状として形成されている。
【0045】
そして、連絡流路82の外周面82aと液体貯留室83の外周面83bとは、段差がなく同一面上に連続するように延設されている。また、外周面82a,83bに沿う方向は、ノズルの軸線G方向に対して内側(ノズル側)に傾斜している。
【0046】
かかる構成により、分配流路81に貯留された高圧水は連絡流路82から液体貯留室83の外周面83bの傾斜を伝わるように導入されることで、流体の流れが整えられ安定した層流状態で液体貯留室83に貯留されノズル3に高圧水が供給される。
【0047】
液体貯留室83は、ノズルの軸線G方向の奥行き(高さH)が3mmであり、外周縁部83aのノズルの軸線G方向上流側で連絡流路82に連通されている。
なお、液体貯留室83のノズルの軸線G方向の奥行き(高さH)は、2mm以上であることが好ましく、後述するように、大きくすればするほど液体貯留室83内における噴流液体の速度は低下する。このため、液体貯留室83の奥行きを大きくすることは、液体貯留室83内のノズル3上部における層流の形成には有利である。さらに、液体貯留室83の奥行きを大きくすると、小さなスポットに集光される前のレーザー光が導入窓53を透過するので、導入窓53を透過するレーザー光のエネルギー密度を低下され、導入窓53を保護することができる。従って、液体貯留室83のノズルの軸線G方向の奥行き(高さH)は、スペースの制約や応答性を考慮して、2〜40mmの間で適宜設定するのが好ましい。
【0048】
[本実施形態に係る層流形成流路の詳細な形状について]
次に、本実施形態に係る層流形成経路8の好ましい形状についてさらに詳しく説明する。
図6は、本実施形態に係る層流形成流路8の軸線G方向に沿った断面図である。層流形成流路8は、高圧ポンプから供給された高圧水を、渦の生成等を抑制しながら液体貯留室83に一旦滞留させて層流状態を形成し、ノズル3から表面に乱れのない噴流液柱Fを噴射することができるように、形状付けられる。
【0049】
具体的には、図6の断面図に示すように、層流形成流路8の分配流路81は、高圧ポンプからの水が導入される導入管112が接続される外周側壁面114と、外周側壁面114に対向して設けられる内周側壁面116とを有する横断面略矩形の環状に形成されている。外周側壁面114の軸線Gに沿った方向の寸法hは、導入管112の径寸法cよりも大きく設定されている。また、導入管112は、外周側壁面114の軸線G方向上流側で接続されている。内周側壁面116は、導入管112の軸線Mに交差するように配置されている。
ここで、分配流路81は、分配流路81内の水が、全方向から液体貯留室83に導かれるように、分配流路81内の水の流速が、連絡通路82内での水の流速の2〜10分の1になるような横断面積を有する形状とすることが好ましい。
【0050】
連絡流路82は、上流側の連通部118が、分配流路81の内周側壁面116の軸線G方向下流側に接続されるように配置される。これにより、連絡流路82の連通部118は、水の導入管112の軸線M上から外れた位置に配置される。また、連絡流路82は、分配流路81から液体貯留室83に向かって、内側に且つ軸線G方向下流側に傾斜して形成され、分配流路81と液体貯留室83との間で流路を狭める、細い通路を形成する。
【0051】
連絡流路82の下流側の環状端部の径寸法Dは、加工ヘッド4の大きさやレーザー加工装置1の能力等を考慮して設定され、例えば、10mm〜40mmに設定することができる。
また、連絡流路82の長さpは、加工ヘッド4の形状や大きさ、スペースの自由度に応じて適宜選択することができる。なお、連絡流路82の内外周面は、分配流路81からの水流内の渦を押さえる働きを有するので、連絡流路82の長さpは、その機能を有効に発揮できるように設定することが好ましく、具体的には、連絡流路82の内外周面間の隙間寸法sの1〜20倍程度に設定することが好ましい。
【0052】
さらに、連絡流路82の隙間寸法sは、どのような値を取っても、液体貯留室83に接続される連絡流路の径寸法Dとノズル3から流れ出る液体の流量Qが一定であれば、レイノルズ数は変化しない。したがって、連絡流路82の隙間寸法sは、分配流路81の全方向から液体貯留室83に水を導入することができるように、分配流路81の寸法や、供給される水の圧力等の諸条件を勘案して設定することができ、通常、0.3mm〜2mmに設定される。
【0053】
液体貯留室83は、前述のように軸線G方向の奥行きが、例えば前述の特許文献1に記載されたような従来の構造よりも大きく設定され、具体的には2mm以上に設定されることが好ましい。また、液体貯留室83の体積は、連絡流路82の体積よりも大きく設定されている。
【0054】
このような構造の層流形成流路8では、導入管112から高圧ポンプによって水が供給されると、水は、内周側壁面116に向かって進み、分配流路81の全周に行き渡る。ここで、導入管112の軸線M上に内周側壁面116が配置され、連絡流路82は、前記軸線上に配置されていないので、高圧ポンプからの水が直接連絡流路82に入ることがなく、一旦分配流路81全周に分配される。したがって、導入管112からの高圧水の勢いが分配流路81で抑制される。
【0055】
分配流路81からの水は、全方向から連絡流路82に流入する。連絡流路82は、分配流路81で高圧ポンプにより生じる水流内の渦を内外周面で押さえて水流を減速させ、層流にする働きと、液体貯留室83に全方向から水を供給する分配機能とを有する。
連絡流路82に流入した水は、液体貯留室83に流入する。液体貯留室83は、前述のように、水を内部に滞留させて、主に奥行き寸法によって水の流速を減じて層流状態に整える。
このような動作により、ノズル3から噴射される噴流液柱Fは、表面に乱れが生じ難く、ゆらぎのないものとなる。したがって、噴流液柱Fによって導光されるレーザー光Lの伝搬効率の損失も低減される。
【0056】
また、図5に示すように、ノズル3は、円盤形状をなし、上面にレーザー光Lが集光される入口開口部31が形成され、この入口開口部31の下方に次第に拡径された噴射口32が形成されている。そして、噴射口32から下方に向けて噴射された噴流液柱F内にレーザー光Lが導光されワークWに噴射される。
【0057】
処理装置9は、水である噴流液体中に不純物として存在する溶存気体およびパーティクル、並びにイオン発光の原因となるイオンを除去する装置であり、例えば、水処理装置91(脱気装置、イオン交換樹脂)や高圧フィルタ92を備えて構成することができる。
【0058】
アシストガス供給装置11は、図1に示すように、アシストガスASの圧力を調整するエアコントローラ11aと、ノズル3の下流側に設けられ噴流液柱Fを収容するように形成されたガス供給室11bと、このガス供給室11bにアシストガスASを導入するスパイラル状導入流路11cと、を備えている。
スパイラル状導入流路11cは、図4に示すように、噴流液柱Fの軸線に向かう方向に対してずらした位置に導入し、噴流液柱Fの外周からスパイラル状に沿うように構成した導入流路である。
【0059】
また、導入流路の他の実施例として、図5に示すように、ガス供給室11dに収容された噴流液柱Fの軸線に漸近するように構成されたコーン状導入流路11eとして構成することもできる。そして、コーン状導入流路11eは、ガス供給室11dの周りに円環状にアシストガスASを分配する分配流路11fを有し、この分配流路11fから下方に向かうにつれて噴流液柱Fの軸線に漸近するようにアシストガスASが供給される。
【0060】
以上のように構成された本実施形態に係るレーザー加工装置1の動作および作用効果について、主として図3を参照しながら説明する。
レーザー加工装置1は、図1に示すように、高圧水を層流状態でノズル3に供給する層流形成流路8を設けて、ノズル3の手前に安定した層流状態(レイノルズ数が小さい状態)の流れを作り、噴流液柱Fの表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱Fをノズル3から噴射するようにしている。
【0061】
すなわち、図3に示すように、分配流路81により、供給される高圧水が一旦ノズルの軸線G周りに環状に分配される(R1〜R2の流れ)。ここで、分配流路81の流路断面積は、高圧水を分配流路81に導く通水路よりも十分に大きく構成されているので、分配流路81に流入すると導入された高圧水の流速は十分に低下され、分配流路81への流入時に生じる流れの乱れが除去される。さらに、高圧水は、分配流路81よりも狭い流路で環形状に形成された連絡流路82を流通することで、乱流が抑制された状態で液体貯留室83に導入される。
【0062】
また、液体貯留室83の外周縁部における外周面83bは、環形状の全周にわたって連絡流路82と連通されているため、連絡流路82の全周から満遍なく液体貯留室83の外周縁部に導入される(R3の流れ)。ここで、液体貯留室83の高さHは、連絡流路82の高さよりも大きく構成されているので、連絡流路82から液体貯留室83に流入すると、高圧水の流路断面積は広くなり、高圧水の流速が減速され、安定した層流状態で液体貯留室83に貯留される。
【0063】
このようにして、ノズル3手前に安定した層流状態を作り出す液体貯留室83を設けることで、噴流液柱Fの表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱Fをノズル3から噴射することができる。このため、噴流液柱F内に導かれたレーザー光Lの伝搬効率を向上させることができる。
【0064】
[本実施形態に係るグリーンレーザーの伝搬効率について]
次に、図7及び図8を参照して、液体貯留室83を通過するレーザー光の伝搬効率を説明する。図7は、種々の奥行き(高さH、導入窓−ノズル間距離)を有する液体貯留室に19W、24Wのレーザー光を入射させたとき射出されるレーザー光の出力を示すグラフである。また、図8は、種々の奥行き(高さH、導入窓−ノズル間距離)を有する液体貯留室にレーザー光を透過させたときのレーザー光の伝搬効率を示すグラフである。
【0065】
図7は、ノズル径がφ100μm、噴射圧力が10MPa、レーザー光Lの周波数が10kHzの場合において、縦軸にレーザー光Lの出力(ノズル3から20mm下方の位置で計測)を採り、横軸に導入窓−ノズル間距離を採って、両者の関係を表示したものである。
【0066】
図7に示すように、導入窓−ノズル間距離を3mmとした場合には、入力が24Wの場合には約17.2Wの出力を得ることができ、その後は漸増するように推移する。また、入力が19Wの場合には約14.2Wの出力を得ることができ、その後は漸増するように推移する。この結果は、導入窓−ノズル間距離が大きくなると、入射したレーザー光が全液体中を透過する距離が長くなるにも関わらず、液体中を透過することによるレーザー光のパワーの低下は逆に少なくなることを示している。
【0067】
ここで、レーザー光Lの出力は、噴流液柱Fの中を伝搬するレーザー光Lの伝搬効率を意味する。つまり、噴流液柱Fがレーザー光の伝搬媒体としての適格性の程度を示すものであり、レーザー光Lの出力が高いほど、噴流液柱Fが安定した層流状態であると認められる。この点、導入窓−ノズル間距離を大きく採れば、次第に安定した層流状態を形成し、その層流状態を維持するものと認められる。
【0068】
このように、液体貯留室83におけるノズルの軸線G方向の奥行きを2mm以上である3mm確保したことで、高圧水の流速が奥行き方向で減速されて、ノズル3の上流側においてより安定した層流状態で液体貯留室83に貯留される。
このため、より噴流液柱Fの表面に乱れが生じ難くゆらぎのない噴流液柱Fをノズル3から噴射することができ、噴流液柱F内に導かれたレーザー光Lの伝搬効率を向上させることができる(図7参照)。
【0069】
次に、図8を参照して、レーザー光としてグリーンレーザーを使用した場合の伝搬効率について説明する。
図8は、グリーンレーザーを水の噴流液柱に通過させた際の、ノズルの入口開口部からの距離dに対するグリーンレーザーの伝搬効率を示すグラフである。ここで、グリーンレーザーの出力を24W、ノズル径100μm、水圧10MPaとした。
【0070】
この図8に示すように、グリーンレーザーの伝搬効率は、液体貯留室の高さHが高くなるに従って漸増している。前述のように、液体貯留室の高さHが高くなるとレーザー光が液体中を通過する距離が長くなるので、レーザー光が液体により吸収され、レーザー光の伝搬効率が低下するはずであるが、実際には伝搬効率が上昇する。これは、液体貯留室の高さHを高くすることにより、液体貯留室内及び噴流液柱内における流れの乱れが減少したためと考えられる。したがって、グリーンレーザーを使用した場合には、この図8に示すように、液体貯留室の高さHが4mm程度までは、流れの乱れを減少させることによる効果が増大し、伝搬効率が向上することが分かる。
【0071】
一方、液体貯留室の高さHが小さい場合において、レーザー光の伝搬効率が低下しているのは、熱レンズの影響によるものではなく、液体貯留室の高さHが小さくなったことにより、ノズルの入口開口部の上流の流れが不安定になったためと考えられる。即ち、液体貯留室の高さHが小さくなったことにより、ノズルの入口開口部の上流側の領域での水の流れが乱流となって噴流液柱が乱れ、レーザー光を良好に導光することができなかったためと考えられる。
【0072】
以上のことより、レーザー光として水に対する熱吸収率の低いグリーンレーザーを用いた場合には、熱レンズの影響は非常に少なく、またはほとんど影響がない。したがって、水に対する吸収率の低いレーザー光を使用した場合には、特許文献1に記載されている装置のように、液体貯留室の高さHを低くして液体貯留室内における流速を大きくし、熱レンズを抑制する必要がない。逆に、液体貯留室の高さHを大きく設定することにより、液体貯留室内の流速を低下させ、液体貯留室内及び噴流液柱内における流れの乱れを抑制することにより、レーザー光の伝搬効率を向上させることができる。
このように、導入窓−ノズル間距離(液体貯留室の高さH)を大きく採れば採るほど、導入窓の保護とノズル3上部の層流形成には有利であるが、スペースの制約や応答性を考慮すれば、2〜40mmの間、ノズル3の直径との関係ではノズル径の20〜400倍の間で適宜設定するのが好ましい。
【0073】
また、液体貯留室83におけるノズル3の軸線方向の奥行きを2mm以上である3mm確保することで、ノズル3の入口開口部31のレーザー集光点から導入窓53等(図2の実施例においては、集光レンズ52)を隔離することができるため、導入窓53等の熱歪み等を回避して安定した光学性能を確保するとともに、耐久性を向上させて安定した加工品質を確保することができる。
【0074】
なお、本実施形態においては、液体貯留室83におけるノズル3の軸線方向の奥行きを3mmとしたが、ノズル径を考慮して、ノズル径の20倍以上とすることもできる。すなわち、ノズル径が大きくなるとノズル3から噴射される流量が増大するため、ノズル3の軸線方向の奥行きを大きくした方がより層流状態を形成しやすくなるからである。例えば、ノズル径がφ150μmであれば、液体貯留室83におけるノズル3の軸線方向の奥行きを3mm以上である例えば4〜5mmとする方が好ましい。
【0075】
[本実施形態に係る液体貯留室の高さと、液体貯留室内の液体の流速の関係]
次に、図9を参照して、本実施形態に係る液体貯留室83内でレーザー光Lが照射される領域周面での流速と、従来の構造による液体供給路内でレーザー光が照射される領域周面での流速とを比較する。
【0076】
図9は、ノズル周辺における液体貯留室(液体供給路)の構造を模式的に示す図である。この図9において、液体貯留室120内でレーザー光Lが照射される領域Uは、導入窓122とノズル124の入口開口部126との間に形成される円錐台となる。この円錐台領域Uの周面(側面)を通過する液体の平均流速を、本実施形態に係る液体貯留室83を用いた場合と、特許文献1に記載された装置の液体供給路を用いた場合とでそれぞれ算出し、比較する。
【0077】
ここで、本実施形態に係る液体貯留室83では、ノズルの軸線G方向の奥行きHは、好ましい奥行き寸法範囲の最小値であるH=2mmとする。また、従来の構造として特許文献1に記載された液体供給流路では、H=0.5mmとする。なお、その他の条件は、互いに共通の値に設定する。具体的には、噴流液体として水を用い、ノズル径を150μm、水の供給圧力を80バール(8MPa)とする。また、円錐台領域U側面の軸線に対する角度θは、水柱内でレーザー光を全反射させることができ、且つノズル径より小さな集光径を得るために、通常10°前後で使用されるため、ここでは10°に設定する。
【0078】
以上のような条件において、水の流量Qは、次の式1により、1700mm3/sである。
【0079】

【0080】
また、円錐台領域Uの側表面積Aは、次の式2により求められる。ここで、rは円錐台領域Uの頂面の円形半径であり、これはノズルの半径と等しく、r=75μmである。Rは、円錐台領域Uの底面の円形半径であり、R=H・tanθで求められる。また、Lは、円錐台領域Uの側面に沿った長さであり、L=H/cosθで求められる。
【0081】

【0082】
よって、液体貯留室内における円錐台領域Uの周面(側面)を通過する液体の平均流速はQ/Aにより計算されるので、本実施形態に係る液体貯留室83を用いた場合の平均流速V1と、特許文献1に記載された装置の平均流速V2の比Rは、次の式3により求められる。
【0083】

【0084】
以上の式より、比Rを求めると、R=1/10.5となる。また、本実施形態に係る液体貯留室83においては、平均流速は623.3mm/sec、特許文献1に記載された装置においては、平均流速は6542mm/secと計算され、本実施形態のレーザー加工装置は、従来の装置と比較して、平均流速が非常に遅いことがわかる。
即ち、本実施形態に係る液体貯留室83を用いた場合には、液体貯留室83内の水の流速は、従来の構造の液体供給路内の水の流速の約10分の1になる。なお、本実施形態に係る液体貯留室83の奥行きを、より好ましい4mmとすれば、平均流速は更に低下し、平均流速の比Rは約1/38になる。
【0085】
以上のことにより、液体貯留室83の軸線G方向の奥行きを大きく、より具体的には2mm以上、より好ましくは4mm以上とすることにより、従来構造の液体供給路を用いた場合よりも、液体貯留室83内の水の流速を格段に小さくすることができることが分かる。このように、液体貯留室83内に水を滞留させてその流速を小さくすることは、前述のように、ノズル3手前で水の安定した層流状態を作り出すのに効果的である。
【0086】
即ち、特許文献1記載の装置においては、円錐台領域Uにおける熱レンズの発生を抑制することを主眼におき、液体供給路の奥行きを小さく設定して液体供給路内の水の流速を大きくする構造としていた。そのため、液体供給路内の水が乱流となりやすく、噴流液柱が乱れるので、熱レンズの発生を抑制してもレーザー光の伝搬効率をあまり高くすることができなかった。これに対して、本実施形態に係る液体貯留室83では、液体貯留室83の奥行きを大きく設定することにより、液体貯留室83内に水を滞留させて流速を小さくし、層流状態を形成することができる。これにより、乱れのない噴流液柱Fを形成することができ、レーザー光の伝搬効率をも高めることができる。
【0087】
[本実施形態に係る液体貯留室内の水のレイノルズ数について]
次に、図9の例を用いて、本実施形態に係る液体貯留室83内の円錐台領域Uの水のレイノルズ数と、従来の構造による液体供給路内の円錐台領域Uの水のレイノルズ数とを比較する。
前述の図9に示す模式図において、奥行きHを2mm及び4mmとした本実施形態に係る液体貯留室83の構造の場合と、奥行きHを0.5mmとした、特許文献1記載の装置におけるレイノルズ数を計算する。
【0088】
レイノルズ数は、次の式4で表され、ここで、Vは平均流速、Lは、図9に示すように円錐台領域Uにおける周面に沿ったノズルと導入窓の間の長さ、νは20℃における水の動粘性係数である。平均速度Vは、式3を利用して計算した値を使用し、本実施形態に係る液体貯留室83において、奥行きH=2mmの場合には0.623m/s、奥行きH=4mmの場合には0.171m/s、従来の構造の液体供給路の奥行きH=0.5mmの場合には6.542m/sである。また、水の動粘性係数νは、1.01×10ー62/sとする。
【0089】

【0090】
以上の計算により求めた各条件でのレイノルズ数Reは、奥行きH=2mmの場合でRe=1252、奥行きH=4mmの場合でRe=688、奥行きH=0.5mmの場合で3288となった。ここで、ノズル3及び導入窓53の平行な平面で囲まれる加工ヘッド4のような構造では、乱流と層流との境界となる最小臨界レイノルズ数は、平行壁の流れにおける最小管路の最小臨界レイノルズ数と同等であると考えられ、Re=1000とされている。したがって、従来の構造の液体供給路では、レイノルズ数が3288と、最小臨界レイノルズ数を大きく上回る数値となっており、液体供給路内が乱流の発生しやすい状態となっていることがわかる。
【0091】
なお、奥行きH=2mmの場合でも、レイノルズ数Reが、最小臨界レイノルズ数を越えているが、これは、ノズル径を150μmにした場合の数値である。ノズル径をより小さいものにした場合には、ノズルを流れる液体の流量が少なくなるため、レイノルズ数Reも小さくなる。したがって、より小さな径のノズルを使用する場合には、奥行きH=2mmでも乱流を起こさない条件を作ることは可能であり、したがって、奥行き寸法は、使用するノズル径等の設定値に応じて適宜設定する必要がある。その点、奥行きH=4mm以上とすれば、乱流を起こさずに使用することができるノズル径範囲が大きくなるので、液体貯留室を設計する際に奥行きH=4mm以上に設定すれば、加工ヘッドにより汎用性を持たせることができる。
【0092】
[本実施形態に係る液体貯留室内の液体の流速の分布について]
上記のように、本実施形態のレーザー加工装置においては、液体貯留室83内の平均流速が特許文献1記載の装置に比べ非常に遅いことがわかる。
ここでは、数値計算による流体シミュレーションを使用して、更に詳細に、本実施形態に係る液体貯留室83内の流速の分布と、従来の構造による液体供給路内の流速の分布とを比較する。なお、特許文献1に記載された従来の構造による液体供給路は、ノズルの軸線方向の奥行きが、本実施形態に係る液体貯留室83よりも小さい点で、本実施形態に係る液体貯留室83と大きく異なる。
【0093】
図10は、本実施形態に係る液体貯留室83内の流速分布を計算するために使用した液体貯留室83のモデル100を示す。モデル100は、直径10mm、高さ4mmの略円柱に形成され、その底面中央に、ノズル3に対応する直径100μmの孔102が形成されている。流速分布シミュレーションは、モデル100の周面から一様に6.25mm/sの速度で流体が流入し、孔102から一様に100m/sの速度で流体が流出するという条件下で行った。
【0094】
一方、図11は、従来の構造の液体供給路内の流速分布を計算するために使用した液体供給路のモデル104を示す。モデル104は、直径10mm、高さ0.5mmの略円柱に形成され、その底面中央に、ノズルに対応する直径100μmの孔106が形成されている。流速分布シミュレーションは、孔106からの流体の流出速度が、本実施形態における計算条件と同じ100m/sとなるように、モデル104の周面からの流入速度を50mm/sとして行った。
【0095】
図12及び図13は、本実施形態に係る液体貯留室であるモデル100を使用した場合の水の流速分布のシミュレーション結果を示し、図14及び図15は、特許文献1のモデルであるモデル104を使用した場合の水の流速分布のシミュレーション結果を示す。ここで、図12及び図14は、各モデルの孔の軸線に沿った断面における流速分布である。これらの図は、モデル100、104内の各点における流速を、その点から延びるベクトルの向きと大きさで表したものであり、ベクトルの長さが大きいほど、流速が大きいことを示す。図13及び図15は、液体貯留室内、液体供給空間内における液体の流線と、各部における流速の分布をほぼ同じ流速の領域ごとに大まかに区切って表したものである。図13及び図15において、領域Iは流速約0.125m/sec以下の領域を表し、領域IIは流速約0.125〜0.25m/secの領域を表し、領域IIIは流速約0.25〜0.75m/secの領域を表し、領域IVは流速約0.75〜0.875m/secの領域を表し、領域Vは流速が約0.875m/secよりも大きいの領域を表している。なお、図15においては、流速が約0.25m/sec以下となる領域(領域I及びII)は殆ど見られなかった。
【0096】
図12及び図13に示すように、本実施形態に係るモデル100内の水は、孔102の近傍以外で移動が少なく、流速が小さい。また、孔102の上部の広い領域に亘って流速が非常に小さくなっている。
一方、図14乃至図15に示すように、特許文献1のモデルであるモデル104においては、液体供給空間全体に亘って水の流速がモデル100の場合と比較して大きく、特に孔106の上部の領域では、液体供給空間の上端まで流速が非常に大きくなっていることが認められる。また、水の流れは、孔106の外周側から中央の孔106に向かって、孔106の軸線方向に垂直な方向に移動し、孔106の上部で、流れの方向が孔106の軸線方向に垂直な方向から軸線方向に沿った方向に急激に変化している。
【0097】
以上のことより、モデル100、104の円柱の高さ、即ち、液体貯留室、液体供給空間のノズル3の軸線Gに沿った方向の奥行きを、本実施形態に係る液体貯留室83のように従来の構造より大きく設定して、液体貯留室83内に水を滞留させることにより、液体貯留室83内の水の流速を従来の構造の場合より小さくすることができることが分かる。これにより、液体貯留室83内においてノズル3の上流側で層流状態が形成され、ノズル3から噴射される噴流液柱Fの表面の乱れの発生を効果的に抑制することができる。
【0098】
[本実施形態に係る液体貯留室内の液体の乱流エネルギの分布について]
次に、本実施形態に係る液体貯留室83内の乱流エネルギと、特許文献1記載の構造における液体供給路内の乱流エネルギとを比較する。なお、乱流エネルギとは、乱流の各方向における変動速度成分の2乗和の時間平均を2で除することによって計算される量であり、流れの乱れの度合いを表すものである。
【0099】
前述の図10及び図11のモデル100、104を用いて、孔102、106が形成された面から0.01mmの距離における、円柱の軸線に垂直な平面での乱流エネルギの分布を、数値流体シミュレーションによりそれぞれ計算する。
図16は、本実施形態に係る液体貯留室83に対応するモデル100の乱流エネルギの分布のシミュレーション結果を模式的に表し、図17は、従来の構造の液体供給路に対応するモデル104の乱流エネルギの分布のシミュレーション結果を模式的に表す。なお、乱流エネルギの値は、XI、XII、XIII、XIV、XVの順に大きくなっている。
【0100】
図16に示すように、モデル100の乱流エネルギは、孔102近傍を除くほとんどの範囲において均一に小さい値となっており、孔102近傍において乱流エネルギの比較的高い部分が対称に、略円形に認められる。
一方、図17に示すように、モデル104の乱流エネルギは、孔106の周囲の広い範囲で図16よりも高い乱流エネルギを示し、その分布は非対称となっている。これは、モデル104内の流れが均一でなく、巻き込みなどの不均一な流れ(乱れ)が生じていることがわかる。
【0101】
以上のことより、本実施形態に係る液体貯留室83に対応するモデル100では、液体貯留室の高さH、即ち液体貯留室83のノズル3の軸線Gに沿った方向の奥行きを従来の構造よりも大きく設定することにより、液体貯留室83の軸線Gに垂直な方向について均一で且つ乱れの少ない液体の流れを作ることができることが分かる。
また、図10及び図11に示すモデル100、104での流れ場における乱流エネルギの最大値は、図10に示すモデルで124m2/s2であり、図11に示すモデルで307m2/s2である。このことからも、モデル100に対応する本実施形態の液体貯留室83の構造の方が、モデル104に対応する従来の構造よりも乱流の発生を効果的に抑制できることがわかる。
【0102】
[本実施形態に係るノズル近傍の水の移動経路について]
次に、本実施形態に係るノズル近傍での水の移動経路と、従来の構造による近傍での水の移動経路とを実験により比較する。
【0103】
前述の図12乃至図17に示したシミュレーション結果を実際に確認するために、図10及び図11と同様の実際のモデルを作製し、観察粒子として塗料粒子を混入した水を流して、塗料粒子を高速度ビデオカメラでそれぞれ撮影した。このとき、ノズルに対応する孔の径は200μm、水の噴射圧は2MPa、塗料粒子の粒子径は20〜60μmとした。また、高速度ビデオの撮影条件は、Photoron FASTCAM−MAX model120kを用いて、図10のモデルでは、6000fpsの撮影コマ数で、図11のモデルでは4000fpsの撮影コマ数で撮影した。
【0104】
図18は、本実施形態の液体貯留室83の構造に対応する図10の実際のモデルにおける水の移動を撮影した映像を模式的に表した図であり、図19は、従来の液体供給路の構造に対応する図11の実際のモデルにおける水の移動を表した図である。なお、これらの図は、異なる時間において撮影された観察粒子の画像を重ね合わせることにより、観察粒子の移動経路を示したものである。
図18に示すように、本実施形態の液体貯留室83の構造に対応するモデルでは、観察粒子は矢印に沿って、孔108の上方から乱れのない流線を描いて、孔108に向かって移動している。
一方、図19に示すように、従来の構造に対応するモデルでは、観察粒子は、孔110に対して孔110の周囲を巡るように、即ち渦流を起こしながら移動している。
これらのことは、前述の図16及び図17のシミュレーション結果とも一致する。
【0105】
以上のことより、本実施形態に係る液体貯留室83の構造では、ノズルの軸線G方向に沿った奥行きを従来の構造よりも大きく設定することにより、水の巻き込みを防止して、水を均一な流れでノズルに流入させることができることが分かる。
【0106】
[本実施形態に係るレーザー光の水への熱的影響について]
次に、特許文献1の装置において使用されている波長1064nmの基本波と本実施形態のレーザー加工装置において使用されている波長532nmの第二次高調波とを用いて、水中を進むレーザー光の水への熱的影響を説明する。
まず、IRレーザー及びグリーンレーザーについて、レーザー光の吸収による水の温度上昇について比較する。
【0107】
図20(a)は、ノズル3の近傍の領域を模式的に示した図である。この図20(a)に示すように、レーザー光Lは、集光レンズ52で集光されながら導入窓53を通って液体貯留室83内の水中を進み、ノズル3の入口開口部31で集光する。したがって、液体貯留室83内の水中でレーザー光Lが照射される領域Nは、円錐形状となる。そこで、この円錐領域Nにおける水の温度上昇を計算する。
【0108】
図20(b)は、レーザー光Lが照射される円錐領域Nを模式的に示す。この図20(b)において、円錐領域Nの底面中心の点Aから距離d離れたノズル3の入口開口部31の位置に対応する頂点Bまでの領域の水の温度上昇ΔTは、次の式5で求められる。
【0109】

【0110】
ここで、Pはレーザー光の出力(W)、αはレーザー光の水に対する吸収係数(cm-1)で、IRレーザーではαFM=1.44×10-1、グリーンレーザーではαSHG=4.47×10-4である。また、dは点Aからの距離(mm)、Cは水の比熱で、4.18(J/g・K)、ρは水の密度で、1(g・cm-3)、Jはノズル径150μm、噴射圧約4MPaのときの水の流量で、1.7(cm3/sec)、θは図20(a)に示すように、軸線Gに対する円錐領域Nの周面の角度で、tanθ=0.1である。
【0111】
図21は、出力P=10(W)の場合の、点AからBの距離dに対する、レーザー光Lの吸収による水の温度上昇ΔTを示した図である。この図21に示すように、IRレーザーを照射した場合には、距離dが増加するにつれて、水の温度が比例的に上昇し、距離dが4mmの場合には、温度上昇ΔTは16.2℃となる。一方、グリーンレーザーを照射した場合には、距離dが増加しても水の温度はほとんど上昇せず、距離dが4mmの場合でも、温度上昇ΔTは0.05℃となる。このとき、水の温度上昇による屈折率変化Δnは、IRレーザーでΔnFM=1.3×10-3であり、グリーンレーザーではΔnSHG=−4×10-6となる。したがって、グリーンレーザーを使用した場合には、IRレーザーを使用した場合のように屈折率が大きく変化することはなく、レーザー光の透過に対する熱的影響をほとんど受けないことが分かる。
【0112】
なお、IRレーザーを用いて、温度上昇をグリーンレーザーと同等に抑えるためには、点AからBの距離dを13μm程度にする必要がある。しかしながら、一方で、点Aからの距離dをそのように小さく設定すると、前述の通り、液体貯留室83内における流れの乱れが発生することになる。このことからも、グリーンレーザーを使用することが、乱れのない噴流液柱の形成を可能にしながら熱的影響を最小限に抑制するために有利であることがわかる。
【0113】
以上のことより、グリーンレーザーを用いた場合には、距離dを4mmにしても、水の温度がほとんど上昇しないため、温度上昇に伴う水の屈折率の変化による熱レンズの影響を、IRレーザーを用いた場合よりも遙かに抑制することができる。また、グリーンレーザーを使用した場合には、円錐領域Nにおける熱的影響が小さいため、水の温度上昇を防止するよう水の流速を大きく設定する必要がなく、液体貯留室83の軸線G方向の奥行きを大きく設定して水の流速を小さくすることが可能となる。これにより、液体貯留室83内の水を層流状態に維持することができ、安定した乱れのない噴流液柱Fを噴射することができる。
【0114】
次に、IRレーザー及びグリーンレーザーを使用した場合の、出力に対する水の温度変化量の関係について述べる。
図22は、点AからBの距離dを4mmに設定した場合の、IRレーザー及びグリーンレーザーの出力Pに対する円錐領域Nの水の温度変化量ΔTの関係を示した図である。なお、ノズル径は150μm、噴射圧力は4MPa、レーザー光Lの集光角度θは5.7°とした。図22に示すように、IRレーザーを用いた場合では、レーザー光の出力Pが増加するにつれて、水の温度変化量ΔTが比例的に増加する。一方、グリーンレーザーを使用した場合では、レーザー光の出力Pが増加しても、温度変化量ΔTはほとんど変化しない。
以上のことより、IRレーザーを使用する場合に比べ、グリーンレーザーを使用した場合には、距離dに対してだけでなく、レーザー光の出力Pに対しても、熱レンズの発生を抑制するのに有利であることが分かる。
【0115】
続いて、本発明の実施形態に係る加工ヘッドの第1実施例について、図23を参照しながら説明する。図23は本発明の第1実施例に係る加工ヘッドの構成を示す断面側面図である。
なお、図23において、前記した実施形態に係る加工ヘッド4と同様の構成要素については同じ符号を付し詳細な説明は省略する。
【0116】
本発明の第1実施例に係る加工ヘッド44は、図23に示すように、レーザー光Lの中心軸の位置を合わせるアライメント調整機構45とレーザー光Lの集光点の軸方向高さを合わせる軸方向調整機構46を備えている。
加工ヘッド44では、光学装置5を収容するハウジング441は、折れ曲がったクランク形状をなしており、ハウジング441の先端部に軸方向調整機構46を介してノズルヘッド442が装着されている。そして、加工ヘッド44の頂部から下方に放射されたレーザー光L1は、ビームスプリッター511により水平方向に反射される。この水平方向に反射されたレーザー光L2は、ビームスプリッター512により、レーザー光L1と平行な下方へ向けて再度反射される。この反射されたレーザー光L3は、集光レンズ52により、ノズル3の入口開口部31で集光される。
【0117】
ビームスプリッター511,512は、レーザー光Lを反射し、グリーン付近以外の可視光を透過する機能を有する。そして、ビームスプリッター511の背後(図23の右側)には、CCDカメラ513が配置され、ビームスプリッター512の背後(図23の上側)には光源としてLEDライト514が配置されている。
かかる構成により、LEDライト514によりノズル3の入口開口部31を照射し、CCDカメラ513によりレーザー光Lの焦点位置を確認することができる。
【0118】
アライメント調整機構45は、円周上で直交する方向3箇所に配置された調整ねじ45aと、ビームスプリッター512を保持するばね45bと、を備え、調整ねじ45aを押し引きして調整することで、ビームスプリッター512の角度を調整可能に構成されている。
かかる構成により、ノズル3の入口開口部31におけるレーザー光Lの焦点位置をCCDカメラ513で確認しながら、調整ねじ45aでビームスプリッター512の角度を調整することで、レーザー光Lの中心軸の位置をノズル3の入口開口部31に合わせることができる。
【0119】
軸方向調整機構46は、ハウジング441の先端部に螺合されノズルヘッド442を保持する調整ナット46aと、ハウジング441の先端部に螺合され調整ナット46aの上部側を保持するロックナット46bと、調整ナット46aの外周部に螺合されノズルヘッド442を保持するロックナット46cと、を備え、ロックナット46b,46cには、それぞれバックラッシを除去するために軸方向に付勢するばね46d,46eが内蔵されている。
【0120】
かかる構成により、ロックナット46b,46cを緩めた状態で調整ナット46aを回転させることで、ノズルヘッド442の軸方向位置を調整して、容易にレーザー光Lの集光点の軸方向高さをノズル3の入口開口部31に合わせることができる。また、ロックナット46b,46cで強固に固定でき、ばね46d,46eでバックラッシを除去しているため振動や衝撃に対しても強い構造となっている。このため、レーザー光Lを噴流液柱F内に効率よく安定して導光することが可能となる。
【0121】
続いて、本発明の実施形態に係る加工ヘッドの第2実施例について、図24を参照しながら説明する。図24(a)は本発明の第2実施例に係る加工ヘッドにおけるノズル周りの構成を示す部分断面側面図であり、(b)は(a)において封止部材を装着する場合を示す。
なお、図24において、前記した実施形態に係る加工ヘッド4と同様の構成要素については同じ符号を付し詳細な説明は省略する。
【0122】
本発明の第2実施例に係る加工ヘッド48,48’は、ハウジング445の中心軸とノズルの軸線Gとを合わせる調心機構49を備えたものである。
調心機構49は、図24(a),(b)に示すように、ノズル側に形成されたテーパ形状部491とハウジング側に形成されたテーパ形状部492とを係合させることで、ハウジング445の中心軸Gとノズルの軸線Gとが自動的に調心できるように構成されている。そして、ノズルキャップ30aをハウジング445,446に螺入することで、ノズル30,30’をハウジング445,446に固定することができる。
また、加工ヘッド48’は、図24(b)に示すように、封止部材であるOリング32をノズル30’の外周面に配設して、さらにシール性を高めたものである。
【0123】
かかる構成により、調心機構49を備えたことで、ノズル30,30’を安定して保持するとともに、ノズル30,30’の交換を行なうたびにノズル30,30’の中心位置や直角度がずれて、噴流液柱Fが安定しないという問題を解決することができる。
また、ノズル30,30’をハウジング445,446に固定するノズルキャップ30aを備えたことで、ノズル30,30’の交換作業も容易となる。
【0124】
続いて、本発明係る層流形成流路の変形例について、図25乃至図27を参照しながら説明する。図25は、本発明に係る層流形成流路の第1変形例の形状を示す斜視図であり、図26は、本発明に係る層流形成流路の第2変形例の形状を示す斜視図であり、図27は、本発明に係る層流形成流路の第3変形例の形状を示す斜視図である。
【0125】
先ず、図25に示すように、本発明の第1変形例に係る層流形成流路200は、分配流路202の内周側壁面204が、内側且つ軸線Gの下流側に向かって傾斜した傾斜面を形成している。また、連絡流路206の内周面208も、内側且つ軸線Gの下流側に向かって傾斜した傾斜面を形成しており、この内周面208と、内周側壁面204とは、連続した同一平面となっている。このような形状の層流形成流路200により、高圧ポンプから導入管210を通って導入された高圧水は、内側壁面204の傾斜面及び連絡流路206の傾斜面で案内されながら連絡流路206に流入する。したがって、層流形成流路200内の水の流れが滑らかになり、乱流や渦の発生をより一層抑制することができる。
【0126】
次に、図26に示す第2変形例では、層流形成流路220の連絡流路222の外周面224、及び液体貯留室226の外周面228が内側に円弧状に湾曲している。この第2変形例では、連絡流路222の外周面224と液体貯留室226の外周面228は、連続した曲面を形成している。このような形状の層流形成流路220により、連絡流路222から液体貯留室226への水の流れが滑らかになり、乱流や渦の発生をより一層抑制することができる。
【0127】
次に、図27に示す第3変形例では、層流形成流路240の分配流路242及び液体貯留室244の横断面は、それぞれ略矩形に形成されている。層流形成流路240の連絡流路246は、分配流路242の内側且つ軸線Gの下流側部分と、液体貯留室244の外側且つ軸線Gの上流側部分とを連通するように、軸線G方向に沿って形成されている。このような形状の層流形成流路240では、分配流路242に流入した水は、内周側壁面248に当たって分配流路242の全周にわたって行き渡り、また、軸線G方向下流側に向きを変えて内周側壁面248に沿って進み、連絡流路246に流入する。連絡流路246からの水は、液体貯留室244の外周側壁面250に沿って流入する。このような形状の層流形成流路240によれば、水が、分配流路242の内側壁面248及び液体貯留室244の外側壁面250に沿って移動することにより、壁面で水の渦を抑制することができる。これは、特に、連絡流路246を構造上長く形成することができない場合に有効である。
なお、連絡流路は、上述の図3や図25乃至図27のような形状に限らず、液体貯留室に全周から噴流液体が流れ込む形状の流路であれば、その形状は任意である。
【0128】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
例えば、本実施形態においては、レーザー光Lとしてグリーンレーザーを採用しているがこれに限定されるものではなく、レーザー光Lが水に吸収され難いもっと波長の短いUVレーザーを採用することもできる。好ましくは、噴流液体を透過する際の吸収係数が0.01[cm-1]以下になるレーザー光を採用する。
また、本実施形態においては、噴流液体として水を使用したが、これに限定されるものではなく、レーザー光Lが吸収され難いシリコンオイル等を噴流液体として使用することもできる。そして、レーザー光LもグリーンレーザーやUVレーザーに限定されるものではなく、CO2レーザーやYAGレーザーを採用することもできるが、噴流液体として水を使用する場合には、レーザー光が水に吸収されにくいレーザーを採用することが好ましい。ここで、水に吸収されにくいレーザーとして、波長域200〜700nmのレーザーが挙げられる。なお、レーザー光が吸収され難い噴流液体を使用する場合には、CO2レーザーやYAGレーザーを用いてもレーザー光の良好な伝搬効率を得ることができる。
【0129】
本発明は、また、以下のような態様とすることができる。
(1)レーザー光を発生するレーザー発振器と、ワークに噴流液体を噴射するノズルと、このノズルに噴流液体を供給する液体供給手段と、を有し、ノズルから噴射された噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置であって、噴流液体を層流状態でノズルに供給する層流形成流路を有し、層流形成流路は、液体供給手段から供給された噴流液体をノズルの軸線周りに環状に分配する空洞が形成された分配流路と、ノズルの軸線方向下流側において分配流路に連通して設けられ、分配流路よりも狭い流路で軸線周りに環状の空洞が形成された連絡流路と、ノズルの軸線方向上流側に隣接して設けられ、噴流液体を貯留してノズルに供給する液体貯留室と、を備え、液体貯留室の外周縁部は、環形状の全周にわたって連絡流路と連通されていること、を特徴とするレーザー加工装置。
(2)レーザー光は、噴流液体を透過する際の吸収係数が0.01[cm-1]以下であることを特徴とする上記(1)に記載のレーザー加工装置。
(3)噴流液体は水であり、レーザー光は、グリーンレーザー、またはUVレーザーであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のレーザー加工装置。
(4)噴流液体は水であり、レーザー光は、波長域が200〜700nmであることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載のレーザー加工装置。
(5)液体貯留室は、ノズルの軸線方向の奥行きが2mm以上であり、外周縁部の軸方向上流側で連絡流路に連通されていること、を特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のレーザー加工装置。
(6)噴流液体が水である場合において、液体供給手段は、レーザー光の伝搬媒体としての噴流液体の均質性を高めるための処理装置を備えていることを特徴とする(1)から(5)のいずれか1つに記載のレーザー加工装置。
(7)レーザー加工装置は、噴流液柱に沿って導入されるアシストガス供給装置を有し、アシストガス供給装置は、ノズルの下流側に設けられ噴流液柱を収容するように形成されたガス供給室と、このガス供給室にアシストガスを導入する導入流路と、を備え、導入流路は、噴流液柱の外周からスパイラル状に沿うように構成したスパイラル状導入流路、または、噴流液柱の軸線に漸近するように構成されたコーン状導入流路であること、を特徴とする(1)から(6)のいずれか1つに記載のレーザー加工装置。
(8)液体貯留室は、連絡流路の空洞の体積よりも大きな体積を有すること、を特徴とする(1)から(7)の何れか1つに記載のレーザー加工装置。
(9)分配流路には、液体供給手段からの噴流液体が導入される導入管が接続され、連絡流路の分配流路との連通部は、導入管の軸線から外れた位置に配置されること、を特徴とする(1)から(8)の何れか1つに記載のレーザー加工装置。
(10)連絡流路の外周面と、液体貯留室の外周面は、段差なく連続した面を形成すること、を特徴とする(1)から(9)の何れか1つに記載のレーザー加工装置。
(11)液体貯留室は、ノズルの軸線方向の奥行きが、ノズルの直径の20倍以上に構成されていること、を特徴とする(1)から(10)のいずれか1つに記載のレーザー加工装置。
【符号の説明】
【0130】
1 レーザー加工装置
2 グリーンレーザー発振器
3 ノズル
4 加工ヘッド
5 光学装置
6 液体供給手段
8 層流形成流路
9 処理装置
11 アシストガス供給装置
11c スパイラル状導入流路
11eコーン状導入流路
11f 分配流路
31 入口開口部
32 噴射口
81 分配流路
82 連絡流路
83 液体貯留室
83a 外周縁部
91 水処理装置(処理装置)
92 高圧フィルタ(処理装置)
AS アシストガス
F 噴流液柱
L(L1,L2,L3) レーザー光
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を発生するレーザー発振器と、ワークに噴流液体を噴射するノズルと、このノズルに前記噴流液体を供給する液体供給手段と、を有し、前記ノズルから噴射された噴流液柱内に導かれたレーザー光によるレーザー加工装置であって、
前記噴流液体を層流状態で前記ノズルに供給する層流形成流路を有し、
前記層流形成流路は、前記液体供給手段から供給された噴流液体を前記ノズルの軸線周りに環状に分配する空洞が形成された分配流路と、
前記ノズルの軸線方向下流側において前記分配流路に連通して設けられ、前記分配流路よりも狭い流路である空洞が形成された連絡流路と、
前記ノズルの軸線方向上流側に設けられ、前記噴流液体を貯留して前記ノズルに供給する液体貯留室と、を備え、
前記液体貯留室の前記ノズルの軸線方向の奥行きは、2〜40mmであること、
を特徴とするレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−210661(P2012−210661A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171282(P2012−171282)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【分割の表示】特願2008−36507(P2008−36507)の分割
【原出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】