説明

嚢胞性線維症の治療のための組成物

本発明は、嚢胞性線維症の予防または治療において使用するための、プロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物またはそれらの製剤学的に認容性の塩を含む組成物を提供する。本発明は、患者における嚢胞性線維症に関連する状態を治療または予防するための、プロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物を含むキットの使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚢胞性線維症の予防または治療において使用するための、プロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物またはそれらの製剤学的に認容性の塩を含む組成物を提供する。
【0002】
嚢胞性線維症(CF)は、上皮膜内で塩化物チャネルとしてはたらく嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)として知られる1480アミノ酸ポリペプチドをコード化する染色体7上の230kb遺伝子における突然変異から生じる遺伝子疾患である。1000を超える突然変異対立遺伝子が現在までに同定されている。最も一般的な突然変異、ΔF508は、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)タンパク質におけるコドン508でのフェニルアラニン残基の欠失である。この突然変異は、CFTR機能における重篤な低下をもたらし、且つ、外分泌腺機能における異常、例えば汗塩化物の上昇、気管支拡張症を伴う再発性呼吸器感染、および膵機能不全の早期発症を特徴とする古典型嚢胞性線維症表現型をみちびく。
【0003】
臨床的に、CFは通常、1つまたはそれより多くの典型的なCF表現型の特徴が患者に存在する場合に疑われる。これは、慢性肺疾患のみか、または非常に頻繁に胃腸の異常および栄養の異常(例えば膵機能不全および再発性膵炎)、塩喪失症候群、および男性の尿生殖器異常(即ち、閉塞性無精子症)と関連することがある。ヒトの肺において、濃い粘着性の分泌物が末端の気道および粘膜下腺を妨害し、それがCFTRを発現する。それらの腺の小管膨張(粘液による閉塞に関連)および濃い粘性の好中球優性の粘液膿のデブリスによって気道表面が塗られることは、該疾患の病理学的な特徴のうちである。肺炎は、嚢胞性線維症を有する患者における呼吸機能の衰えの他の主な原因であり、且つ、慢性の感染症の発症に先立つことがある。膵管内の粘液塞栓および厚い結石は、慢性繊維症、腺の脂肪置換、またはその両方を、突発性またはアルコール性膵炎が以前に診断された患者の大部分群においてみちびく。
【0004】
嚢胞性繊維症は、白人の中で最も一般的な致命的な遺伝性疾患であり、10000人の子供のうち約4人が罹患している。米国においては、死亡時の中央年齢は1969年の8.4歳から、1998年の14.3歳に上昇している。死亡平均年齢は、1969年の14歳から、2003年の32.4歳に上昇している (嚢胞性線維症財団)。1990年代生まれの子供については、生存期間中央値は40年を超えると予測されている。平均余命における著しい上昇に主に寄与しているのは、慢性気道感染症の治療の改善、およびCF患者における粘液の排出、並びに栄養の改善およびより早期の診断である。
【0005】
気道上皮の頂端膜からの、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)のアニオンコンダクタンスの損失は、気道表面の液体層の制御を攪乱する。これは、粘液線毛クリアランスの障害、気道の感染、および嚢胞性線維症(CF)の特徴的な炎症をみちびく。CFTRの共通のΔF508突然変異は、CF患者の>90%における少なくとも1つの対立遺伝子上に存在し、且つ、患者の>50%はΔF508についてホモ接合であり、残りは複合ヘテロ接合である。CF疾患における中心的な問題は、小胞体(ER)から出て、上皮細胞頂端膜へと通行する、この共通のCFTR変異体が天然のフォールディング状態に達することができないことである。
【0006】
本来のコンフォメーションの獲得が遅れると、CFTRは、分子シャペロンとの過剰なまたは引き延ばされた相互作用を維持すると考えられ、該分子シャペロンはその際、ミスフォールドされた、または不完全に錯化されたタンパク質についてのERを管理する(police)機構によって分解のためのタンパク質を目標にしている。ER関連分解(ERAD)は、異常タンパク質のユビキチン化および消化のためのプロテアソームへのそれらの送達を含む。ERADがタンパク質の合成速度に遅れをとる場合、またはプロテアソーム阻害薬での治療の間に、突然変異のタンパク質の集合体が蓄積する。CFTRは、ユビキチン−プロテアソーム媒介分解のための基質として同定されるべき第一の内在性膜哺乳類タンパク質であり、且つ、それは、多様な病理学的原因を説明するタンパク質コンフォメーションの疾患の増殖リスト(growing list)のための型としてはたらく。
【0007】
細胞によって生成される本質的に全てのΔF508 CFTRは、ERADによって破壊される。さらに、複雑なフォールディングパターンのために、60〜70%の野生型(wt)タンパク質は同様に劣化することがあるが、これは細胞の種類の間で変動することがある。未熟な形態のwtおよびΔF508 CFTRのタンパク質分解切断パターンは類似している一方、成熟したwt CFTRの消化パターンは異なっている。この知見は、少なくとも1部のER保持突然変異CFTRが、異なるタンパク質構造の形成に対して、正常なCFTRのフォールディング経路に沿って形成される中間体のコンフォメーション中に存在するという考えを支持する。ΔF508 CFTRについては、この中間体コンフォメーションは、フォールディング工程における臨界段階を超えて進行することができないが、しかし、これはΔF508 CFTRが、もしこの段階を容易にすることが可能ならば、レスキューされ得るということを暗示している。様々な実験条件、例えば下げられた温度、化学シャペロンを用いた培養、または薬理学的中和剤(corrector)は、機能性アニオンのチャネルを細胞表面で産出しながら、ERからのΔF508 CFTRの離脱を促進できる。さらには、研究者らは、様々な部分的なCFTR構造物またはwt CFTRからのサブドメインの共発現によるΔF508 CFTR機能の回復を報告している。
【0008】
しかしながら、CFTRサブドメインが突然変異タンパク質におけるレスキューに効果的であるという統一見解は明らかではなく、且つ、この効果の機構は不明確なままである。さらに、CFTR断片誘導レスキューは、主に、CFTR断片と全長のΔF508 CFTRとの両方を外因的に過剰発現する細胞において観察されている。
【0009】
プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン; エポプロステノール、PGI2)は、シクロオキシゲナーゼおよびPGIシンターゼ酵素の順次の添加によって、酵素により形成されるアラキドン酸の酸素化代謝物である。それは、血管内皮および平滑筋細胞によって構成的に生成され、且つ、血管細胞およびマクロファージ内の炎症性の条件下で誘導される。
【0010】
PGI2は、効力のある血管拡張剤且つ抗血栓剤であり、その効果は、Iプロスタノイド(IP)4受容体と称される特有の7重螺旋のGタンパク質結合受容体への結合から生じる。この受容体は、Gs−に結合され、且つアデニルシクラーゼを活性化し、細胞内cAMPの急性破裂を生じる。CFTRおよび突然変異されたCFTRの発現がcAMP依存性に依存するので、cAMPの細胞内レベルを高める物質は、CFの治療のための薬の開発のために興味深い。しかしながら大半のそれらの物質、例えばフォルスコリンは、むしろ、cAMPの非特異的な上昇を誘発し、それは非常に有害な作用、例えば炎症も有することがある。従って、肺の上皮細胞におけるcAMPの特定のエンハンサーの未だ満たされていないニーズがある。
【0011】
トレプロスチニルは、効力のあるIP受容体作用薬であるが、この受容体についてのその特異性は未知である。Sprague R.S.et al.,2008は、プロスタサイクリン類似物(UT−15、リモジュリン)が、受容体媒介cAMP合成、およびウサギおよびヒトの赤血球からのATP放出を刺激することを示した。
【0012】
WO08/098196号は、トレプロスチニルを使用した肺線維症の治療を記載している。しかしながら肺線維症は、肺内での膠原線維の蓄積によって引き起こされる間質性の肺疾患であり、吸入する空気に対する肺の容量を制限する: 肺は、コンプライアンスを喪失し、且つ、気道抵抗が上昇する(コンプライアンス=1/抵抗)。疾患が進行すると、血管抵抗における上昇もある。肺線維症におけるトレプロスチニルの作用部位は、血管系および肺胞内の間質スペースである。
【0013】
Tissieresらは、嚢胞性繊維症および続発性の肺高血圧症を有する患者の治療のためにイロプロストを使用した研究を記載している。空気化された(aerolised)イロプロストが、肺動脈圧の低下に効果的であったことが開示されている(The annals of thoracic surgery, vol, 78, no.3, E48−E50)。
【0014】
US2001/006979号A1は、プロスタサイクリン誘導体、例えばイロプロストまたはシカプロストを、線維疾患の治療のために用いる使用を記載している。
【0015】
嚢胞性繊維症は、肺線維症とは関連しておらず、なぜなら、それは気管支上皮内に起因する疾患だからである。CFTRの不在のために、気管支上皮を覆う粘液中の水が少なすぎ、従って線毛が濃い粘液を動かすことができず、且つ粘液線毛クリアランスが壊れる(粘液線毛クリアランスはコンベヤベルトのように動作し、線毛は粘液を気管および咽頭(そこからそれを嚥下または咳等によって取り除くことができる)へと戻す動きのために集中してリズミカルに脈打つ)。粘液線毛が壊れると、気管支から細菌を除去することができず、その気管支にバクテリアが入植し、肺を破壊する肺感染の発作が繰り返される。その状況は、気管支上皮へのClフラックスを回復することによって治療され得る。従って、嚢胞性繊維症においては、作用部位は気管支の気道上皮である。作用部位は解剖学上明確であり(肺間質に対して気管支の気道)、異なる細胞の集合(線維芽細胞、血管平滑筋細胞、内皮に対して、吸収および分泌性気管支上皮細胞)を含み、且つ、恐らく異なる受容体も含む(プロスタサイクリン受容体に対して多分EP2受容体)。
【0016】
現在、患者の生活の質を長期にわたって著しく改善することが可能な嚢胞性繊維症の治療はない。従って、本発明の課題は、ΔF508 CFTRの発現および/または肺の上皮細胞内の塩化物チャネル機能を高めることができる治療のための組成物を提供することである。
【0017】
発明の簡単な説明:
本発明の課題は、プロスタサイクリンまたはそれらの類似物、誘導体または製剤学的に認容性の塩を含む組成物を、嚢胞性繊維症の予防または治療において使用するために提供することによって解決される。
【0018】
本発明の特定の実施態様によれば、プロスタサイクリン類似物はトレプロスチニル、イロプロスト、シカプロスト(Cisaprost)またはベラプロストまたはそれらの製剤学的に認容性の塩からの群から選択される。
【0019】
より特定には、トレプロスチニル誘導体は、酸誘導体、プロドラッグ、徐放性の形態、吸入形態、経口形態、トレプロスチニルの多形体または異性体からの群から選択されてよい。
【0020】
本発明の組成物は、静脈内投与、吸入によって投与され得るか、または錠剤またはカプセルの群から選択される経口的に利用可能な形態で投与され得る。
【0021】
特に、該組成物は、少なくとも1.0ng/体重1kg/分である、効果的な量のトレプロスチニルまたはその誘導体、またはそれらの製剤学的に認容性の塩を含む。
【0022】
さらには、本発明によれば、患者において嚢胞性繊維症に関連する状態を治療または予防するための、(i) 効果的な量のプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物または誘導体またはそれらの製剤学的に認容性の塩、特にトレプロスチニルの製剤学的に認容性の塩、(ii) 1つまたはそれより多くの製剤学的に認容性の担体および/または添加剤、および(iii) 嚢胞性繊維症の治療または予防において使用するための指示書を含むキットの使用が同様に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】トレプロスチニルを用いた培養後のIB3−1細胞中のcAMPの蓄積
【図2】CFTR−wtを一時的に発現している、ヒトの気管支上皮IB3−1細胞株におけるトレプロスチニルによるCl流の活性化。
【0024】
発明の詳細な説明
意外なことに、本発明者らは、プロスタサイクリン、またはそれらの類似物または誘導体または製剤学的に認容性の塩を、嚢胞性繊維症の治療のために使用できることを見出した。合成のプロスタサイクリン類似物は、例えば、限定されずに、トレプロスチニル、イロプロスト、シカプロストまたはベラプロストであってよい。
【0025】
適したプロスタサイクリン誘導体は、限定されずに、酸誘導体、プロドラッグ、徐放性の形態、吸入形態および経口形態のトレプロスチニル、イロプロスト、シカプロストまたはベラプロストを含む。
【0026】
本発明のプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物の製剤学的に認容性の塩は、酸と化合物の塩基性基、例えばアミノ官能基との間、または塩基と化合物の酸性基、例えばカルボキシル官能基との間で形成され得る。他の実施態様によれば、該化合物は製剤学的に認容性の酸付加塩である。
【0027】
本発明によれば、特にトレプロスチニルまたはその誘導体が有用である。トレプロスチニルは、ΔF508 CFTRの発現および/または嚢胞性繊維症の患者の肺の上皮細胞内での塩化物チャネル機能をうまく高めることができる。
【0028】
特に、トレプロスチニルの生理的に認容の塩は、塩基から誘導される塩を含む。塩基性塩は、アンモニウム塩(例えば四級アンモニウム塩)、アルカリ金属塩、例えばナトリウムおよびカリウムの塩、アルカリ土類金属塩、例えばカルシウムおよびマグネシウムの塩、有機塩基、例えばジシクロヘキシルアミンおよびN−メチル−D−グルカミンを有する塩、およびアミノ酸、例えばアルギニンおよびリシンを有する塩を含む。
【0029】
意外にも、プロスタサイクリンまたはそれらの類似物または誘導体が、気管支上皮細胞内でのcAMP生成の刺激をみちびくことが示された。この作用方式はIP受容体の誘導された活性化を介するかもしれない。興味深いことに、ホスホジエステラーゼ阻害剤(PDE3阻害剤)、アナグレリドは、実験においていかなる蓄積cAMPも誘導しない。
【0030】
IP受容体によるcAMP生成を刺激するこの能力、および少数の細胞種(例えば上皮肺細胞)に限定された存在のIP受容体ということからして、プロスタサイクリンまたはそれらの類似物、例えばトレプロスチニルまたはそれらの誘導体または塩は、CFTRの発現およびゲーティングを誘導でき、且つ、特定の方法でmutCFTRをCFの治療のために使用することができる。
【0031】
従って、当該の発明は、嚢胞性線維症の治療において使用するためのプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物、特にトレプロスチニルまたはその誘導体、またはそれらの製剤学的に認容性の塩を含む組成物、並びにプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物、特にトレプロスチニルまたはその誘導体、またはそれらの製剤学的に認容性の塩を使用する嚢胞性線維症の療法にも関する。
【0032】
トレプロスチニルはプロスタサイクリンの合成の類似物である。トレプロスチニルはリモジュリン(商標)として販売されている。トレプロスチニルは、(1R,2R,3aS,9aS)−[[2,3,3a,4,9,9a−ヘキサヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(3S)−3−ヒドロキシオクチル]−1H−ベンズ[f]インデン−5−イル]オキシ]酢酸モノナトリウム塩である。
【0033】
本発明によれば、トレプロスチニルの誘導体は例えばトレプロスチニルの酸誘導体、トレプロスチニルのプロドラッグ、トレプロスチニルの徐放性の形態、トレプロスチニルの吸入形態、トレプロスチニルの経口形態、トレプロスチニルの多形体またはトレプロスチニルの異性体であってよい。
【0034】
本発明の組成物は、投与のために使用できる任意の形態で存在できる。
【0035】
本発明の組成物を、液体または粉末として投与できる。それを、局所的に、静脈内に、皮下に、吸入によって、またはネブライザを使用することによって、または経口的に可能な形態、例えば錠剤またはカプセルで投与できる。いくつかのプロスタサイクリン類似物、例えばトレプロスチニルの代謝安定性が高いので、またはプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物の脂質ベースまたはペグ化形態として提供される場合、該物質をデポ薬剤として投与することもできる。
【0036】
プロスタサイクリン類似物のエーロゾル化された送達は、肺の深いところへの送達が得られるので、該剤の肺内でのより均質な分布をもたらすことができる。従って、投与用量を、肺内の作用部位での該剤の持続的存在へと低減できるかもしれない。
【0037】
該組成物を、当該技術分野で公知の通り、任意の製剤学的に認容性の物質または担体または賦形剤と共に投与できる。それらは例えば、制限されずに、水、中和剤、例えばNaOH、KOH、安定剤、DMSO、塩水、ベタイン、タウリン等であってよい。
【0038】
用語「製剤学的に認容性の」とは、連邦政府または州政府の規制機関によって認可されているもの、または米国において挙げられているものを意味する。
【0039】
用語「担体」とは、それを用いて製剤学的組成物を投与する、希釈剤、補助剤、賦形剤またはベヒクルを示す。食塩水および水性デキストロースおよびグリセロール溶液を、特に注射可能な溶液のための液体担体として用いることもできる。適した賦形剤は、スターチ、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールおよびその種のものを含む。適した製剤学的担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」内に記載されている。配合は投与の方式によって選択されるべきである。
【0040】
トレプロスチニルは、代謝安定性が高く、そのことが特に様々な経路による投与を可能にする。
【0041】
本発明の組成物の量は当業者なら誰でも選択することができ、好ましくはプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物、またはそれらの、特にトレプロスチニルの製剤学的に認容性の塩の量は少なくとも1.0ng/体重1kg/分である。
【0042】
本発明はさらに、患者における嚢胞性繊維症に関連する状態を治療または予防するための、(i) 効果的な量のプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物または誘導体またはそれらの製剤学的に認容性の塩、(ii) 1つまたはそれより多くの製剤学的に認容性の担体および/または添加剤、および(iii) 嚢胞性繊維症の治療または予防において使用するための指示書を含むキットの使用を提供する。
【0043】
本発明の実施態様によれば、(i) 効果的な量のプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物またはそれらの製剤学的に認容性の塩、(ii) 1つまたはそれより多くの製剤学的に認容性の担体および/または添加剤、および(iii) 嚢胞性繊維症の治療または予防において使用するための指示書を含むキットが、患者、好ましくはヒトにおける嚢胞性繊維症と関連する状態の治療または予防において使用するために提供される。
【0044】
前記組成物(i)は、静脈内投与のために、吸入のために、または経口投与のために適した形態であってよい。該組成物(i)は、静脈内投与のために、吸入のために、または経口投与のために適した形態であってよい。
【0045】
より特定には、本発明は、(i) 効果的な量のトレプロスチニルまたはそれらの製剤学的に認容性の塩、(ii) 1つまたはそれより多くの製剤学的に認容性の担体および/または添加剤、および(iii) 嚢胞性繊維症の治療または予防において使用するための指示書を含むキットの、患者、好ましくはヒトにおける嚢胞性繊維症と関連する状態の治療または予防における使用を提供する。特に、成分(i)はトレプロスチニルの製剤学的に認容性の塩である。該キットを使用するための特定の実施態様によれば、成分(i)は、静脈内投与のために適した形態、または吸入のために適した形態、または経口投与のために適した形態である。
【0046】
ここで記載される実施例は、本発明の説明であり、且つ、それに限定されることを意図しているのではない。本発明の種々の実施態様が、本発明により記載される。本発明の意図および範囲から逸脱することなく、ここに記載され且つ説明される技術に、多くの修正および変更をすることができる。従って、実施例は単に説明だけであり、本発明の範囲を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0047】
実施例
実施例1:
IB3−1細胞を、6ウェルプレート(0.2*106細胞/ウェル)上、完全増殖培地内で平板培養した(LHC−8 +5% FCS)。次の日、アデニンヌクレオチドプールを代謝的に、[3H]アデニン(1μCi/ウェル)を用い、アデノシンデアミナーゼ(1ユニット/ml)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で4時間、培養によって標識付けした。環状AMPの形成を、20μMのフォルスコリンまたはPGI2−類似物トレプロスチニル(リモジュリン(登録商標))によって刺激した。その評価を、3重に行った。
【0048】
3H]cAMPの形成を、連続クロマトグラフィーにより、Dowex 50WX−4および中性アルミナカラム上で、次に溶離液の液体シンチレーション計数をして測定した。
【0049】
トレプロスチニルは、IB3−1細胞中でcAMPの濃度に依存する蓄積を引き起こす(図1)。最大値の半分の刺激は、0.3〜1μmMの範囲内で見られた。
【0050】
実施例2:
IB3−1細胞は、突然変異されたCFTR−ΔF508のみを内因的に発現し、それは細胞内で保持される。適切な処置(例えば薬理学的シャペロンまたは低温培養)を使用して、突然変異CFTR−ΔF508を小胞体からERに転座することが可能であり、細胞表面で挿入された際、Cl−コンダクタンスはcAMPを高めることによって刺激され得る。しかしながら生じるCl−コンダクタンスは小さい。トレプロスチニルによって誘導されるcAMPの蓄積がCFTRの活性化へと変換されることを明確に証明するために、我々は野生型CFTRのGFP標識バージョンを一過的に発現した (該GFP標識は、細胞表面でタンパク質を発現する細胞の同定を可能にした)。図2からわかるように、トレプロスチニルは−40mVの保持電位から+60mVへと、脱分極によって誘導される電流の強い活性化を引き起こした。最大の効果は遅延した、即ち、それは化合物のウォッシュイン後、数秒で観察されただけであった。同様に、ターンオフ反応におけるヒステリシスもあり、電流はウォッシュアウト後、〜100秒だけで基底へと減衰した。それらの遅延した応答は、(i) 介在シグナルカスケード(即ち、受容体に依存するGsの活性化、cAMP形成のGαsに依存する活性化、および次のタンパク質キナーゼAに依存するCFTRのリン酸化反応)および(ii) ホスホジエステラーゼによる、増加されたcAMPの失活の遅延を反映する。細胞がフォルスコリン、アデニリルシクラーゼの直接の活性化剤(ポジティブコントロールとして使用された)で刺激された場合も、類似の遅延が見られた。それらの観察は、トレプロスチニルが気管支上皮細胞内でCFTRを活性化できることを証明する。
【0051】
手段:
電気生理学
ホールセルパッチクランプ技術を使用して、22±1.5℃で、Axoclamp 200Bパッチクランプ用増幅器(Axon Instruments)を使用して電流の記録を行った。ピペットは、記録ピペット溶液(組成: 110mM CsCl、5mM EGTA、2mM MgCl2、1mM K2-ATP、10mM Hepes、pH CsOHを用いて7.2に調整)で充填された際、1〜2MΩの抵抗を有した。電圧固定プロトコルおよびデータ取得を、pclamp 6.0ソフトウェア(Axon Instruments)を用いて実施した。データは、2kHz(−3dB)で低域フィルタをかけられ、そして10〜20kHzでデジタル化された。細胞を連続的に外部溶液で潅流した(組成: 145mM NaCl、4.5mM KCl、2mM CaCl2、1mM MgCl2、5mM グルコース、10mM Hepes、pH NaOHを用いて7.4に調整)。指定される場合、外部溶液はトレプロスチニル(10μM)またはフォルスコリン(5μM)を含有し、溶液の切り替えは電子制御圧力バルブによって達成された。
【0052】
細胞培養:
I3B−1細胞を、フィブロネクチン(10μg/mL)、ラットコラーゲンI(30μg/mL)、およびBSA(10μg/mL) (5%のウシ胎児血清(FCS)を含有するLHC−8培地(Gibco)内)で被覆された皿(Nunc、3.5cm 直径)の上で増殖させた。製造元の指示書に従って、細胞を、ヒトのGFP標識野生型CFTRの発現を駆り立てるプラスミドで、Lipofectamine plus(登録商標)(Invitrogen)を使用して一過的にトランスフェクションした。
【0053】
代表的な電流の振幅を、+60mVでホールセルパッチクランプコンフィギュレーションにおいて記録した。GFP標識野生型CFTRを発現する一過的にトランスフェクションされたIB3−1細胞を、蛍光灯下で選択し、−40mVで保持電圧に固定した。脱分極を、50msで+60mVへの電圧段階によって誘導し、且つ、電流振幅を記録した。トレプロスチニル(10μMの最終濃度、TP)のウォッシュインを、50秒の時点で開始し、そして125秒で停止させた。
【0054】
フォルスコリンは、275秒でウォッシュインされ、375秒で除去された。結果を図2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症の予防または治療において使用するための、プロスタサイクリンまたはそれらの類似物または誘導体または製剤学的に認容性の塩を含む組成物。
【請求項2】
前記プロスタサイクリン類似物が、トレプロスチニル、イロプロスト、シカプロストまたはベラプロストまたはそれらの誘導体または製剤学的に認容性の塩の群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記誘導体が、トレプロスチニルの酸誘導体、トレプロスチニルのプロドラッグ、トレプロスチニルの徐放性の形態、トレプロスチニルの吸入形態、トレプロスチニルの経口形態、トレプロスチニルの多形体またはトレプロスチニルの異性体の群から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
静脈内投与のための、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
吸入のための、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、錠剤またはカプセルの群から選択される経口的に利用可能な形態である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
効果的な量のトレプロスチニルまたはその誘導体、またはそれらの製剤学的に認容性の塩が、少なくとも1.0ng/体重1kg/分である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
患者における嚢胞性繊維症に関連する状態を治療または予防するための、(i) 効果的な量のプロスタサイクリンまたはプロスタサイクリン類似物またはそれらの誘導体または製剤学的に認容性の塩、(ii) 1つまたはそれより多くの製剤学的に認容性の担体および/または添加剤、および(iii) 嚢胞性繊維症の治療または予防において使用するための指示書を含むキットの使用。
【請求項9】
成分(i)が、トレプロスチニルの製剤学的に認容性の塩である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
成分(i)が、静脈内投与のために適した形態である、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
成分(i)が、吸入のために適した形態である、請求項8または9に記載の使用。
【請求項12】
成分(i)が、経口投与のために適した形態である、請求項8または9に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−501032(P2013−501032A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523343(P2012−523343)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061428
【国際公開番号】WO2011/015630
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512031482)サイファーム ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ (1)
【氏名又は名称原語表記】SciPharm S.a r.l.
【住所又は居所原語表記】33, rue Hiel, L−6131 Junglinster, Luxembourg
【Fターム(参考)】