説明

嚥下物包装体および可食性フィルム接合体

【課題】より短時間で崩壊し、口腔内が粘ついて不快感を与えることがない、すなわち、口溶け性に優れ、嚥下が容易な嚥下物包装体および可食性フィルム接合体を提供する。
【解決手段】ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルム11の内部に、水溶性微粒子12が分散状態で存在する可食性フィルム1によって、嚥下物6が包装されてなる嚥下物包装体100、および前記可食性フィルムが袋状に加工された可食性フィルム接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口溶け性に優れ、嚥下が容易な嚥下物包装体および可食性フィルム接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品や医薬品等の包装材や担体等として可食性フィルムが用いられるようになってきている。例えば、香料等を含有させた口中清涼フィルムや消臭成分等を含有させた口臭予防フィルムとして可食性フィルムが使用されている。また、医薬活性成分を含有させたフィルム状製剤についても開発が行われている。
【0003】
従来、可食性フィルムとしてオブラートが知られている。これは、α化デンプンを薄膜状にしたものであり、薬を服用する際における補助製品として使用されているものである。また、このα化デンプンを利用して、袋状の容器として食品や医薬品を包装することが特許文献1に開示されている。さらに、セルロース系の高分子物質等を用いた速溶性フィルム状製剤が特許文献2に開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の可食性フィルムで嚥下物を包みこんだものを服用した場合においては、口腔内において可食性フィルムが崩壊するまでに時間を要し、口腔内が粘ついて不快感を与える場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−12217号公報
【特許文献2】特開2004−43450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、より短時間で崩壊し、口腔内が粘ついて不快感を与えることがない、すなわち、口溶け性に優れ、嚥下が容易な、嚥下物包装体および可食性フィルム接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムは、口溶け性に優れることを見出した。さらに、このフィルムは、ヒートシール性にも優れるため、この可食性フィルムを用いて、嚥下物包装体および可食性フィルム接合体を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(6)の嚥下物包装体、および下記(7)の可食性フィルム接合体が提供される。
(1)ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムによって、嚥下物が包装されてなる嚥下物包装体。
(2)前記フィルム形成剤の5質量%水溶液の37℃における粘度が、1,000〜100,000mPa・sである可食性フィルムを用いる、(1)に記載の嚥下物包装体。
(3)前記水溶性微粒子の5質量%水溶液の37℃における粘度が、10mPa・s以下である可食性フィルムを用いる、(1)又は(2)に記載の嚥下物包装体。
【0009】
(4)前記水溶性微粒子が、マルトデキストリンおよびマンニトールのいずれか一方又は両方の微粒子を含むものである可食性フィルムを用いる、(1)〜(3)のいずれかに記載の嚥下物包装体。
(5)前記水溶性微粒子の配合割合が、可食性フィルム全体に対して、35〜70質量%である可食性フィルムを用いる、(1)〜(4)のいずれかに記載の嚥下物包装体。
(6)前記フィルム形成剤の配合割合が、可食性フィルム全体に対して、25〜60質量%である可食性フィルムを用いる、(1)〜(5)のいずれかに記載の嚥下物包装体。
(7)ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムが、袋状に加工されてなる可食性フィルム接合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の嚥下物包装体および可食性フィルム接合体は口溶け性に優れるため、嚥下が容易であり、服用に際し、口腔内が粘ついて不快感を与えることがない。
また、用いる可食性フィルムがヒートシール性に優れるため、製造が容易なものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の嚥下物包装体の構造断面図である。
【図2】本発明の可食性フィルム接合体を製造する方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の可食性フィルム接合体の連続製造方法を示す図である。
【図4】連続体を製造し、該連続体を切断することによる、本発明の可食性フィルム接合体の連続製造方法を示す図である。
【図5】本発明の嚥下物包装体の連続製造方法を示す図である。
【図6】連続体を製造し、該連続体を切断することによる、本発明の嚥下物包装体の連続製造方法を示す図である。
【図7】本発明の嚥下物包装体を製造する方法の一例を示す図である。
【図8】本発明の嚥下物包装体を製造する方法の一例を示す図である。
【図9】エンボス加工を施す方法を示す図である。
【図10】エンボス加工された長尺のフィルムの一例の上面図である。
【図11】連続製造方法により得られる本発明の嚥下物包装体の断面図である。
【図12】嚥下物包装体の連続体をダイカットする方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の嚥下物包装体および可食性フィルム接合体を詳細に説明する。
1)嚥下物包装体
本発明の嚥下物包装体は、ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムによって、嚥下物が包装されてなる。
【0013】
(可食性フィルム)
本発明に用いる可食性フィルムは、ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在した構造を有する。
ここで、「分散状態で存在」とは、水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が微粒子状で存在することを意味する。
【0014】
水溶性フィルムは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含むフィルム形成剤を含有する材料から形成されたフィルムである。
【0015】
ヒドロキシプロピルセルロースは、セルロースに酸化プロピレンを反応させて得られるヒドロキシエーテルであり、2005年に食品添加物として指定されたものである。
ヒドロキシプロピルセルロースは、市販されているものをそのまま使用することができる。
【0016】
フィルム形成剤中におけるヒドロキシプロピルセルロースの含有割合は、フィルム形成剤全体に対して、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0017】
前記フィルム形成剤には、ヒドロキシプロピルセルロース以外に、他の可食性高分子を含有していてもよい。
【0018】
他の可食性高分子としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース−ナトリウム(CMC−Na)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、アルギン酸−Na等が挙げられる。
これらの他の可食性高分子は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
また、フィルム形成剤の5質量%水溶液の37℃における粘度は、1000〜100000mPa・sであることが好ましい。
さらには、前記フィルム形成剤は、可食性フィルム全体に対して、25〜60質量%含有することが好ましい。フィルム形成剤の含有量をこのような範囲にすることにより、薄いフィルムであっても取り扱い時に破れたりしない十分な強度を持たせることができる。
【0020】
水溶性微粒子としては、常温において固体でかつ体温付近の温度で水に溶解するものであれば特に制限はないが、水溶性微粒子の5質量%水溶液の37℃における粘度が、10mPa・s以下であるものが好ましい。
なお、本明細書において粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠して測定されたものである。
【0021】
また、水溶性微粒子は、後述する製造方法により可食性フィルムを製膜するために、炭素数2〜4の脂肪族アルコール系溶媒に不溶性であることが好ましい。
【0022】
この水溶性微粒子を構成する材料としては、例えば、マルトデキストリン、D−マンニトール、D−ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、デオキシリトール、スクラロース、シュークロース、マルチトール、ラクトース、ラクチトール等が挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、マルトデキストリンおよびマンニトールのいずれか一方を含むものが好ましく、口溶け性に優れ、後味が良いことからマルトデキストリンを含むものがより好ましく、マルトデキストリンおよびマンニトールの両方を含むものが特に好ましい。
【0023】
この水溶性微粒子の平均粒径は、コールカウンター法による測定で、通常1〜300μmであり、好ましくは5〜50μmである。
また、水溶性微粒子は、可食性フィルム全体に対して、35〜70質量%含有することが好ましい。これにより、口溶け性に優れ、嚥下が容易な嚥下物包装体を得ることができる。
【0024】
本発明に用いる可食性フィルムは可塑剤を含有していてもよい。可塑剤を添加することにより、可食性フィルムの口溶け性及びヒートシール性をさらに向上させることができる。
【0025】
用いる可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール、トリアセチレン、ポリソルベート80等が挙げられる。
これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
可食性フィルムが可塑剤を含む場合、その含有量は、可食性フィルム全体に対して1〜20質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。
【0027】
また、本発明に用いる可食性フィルムは、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等の甘味料や、種々の香料、酸化チタン等の着色剤、各種色素等(以下、これらをまとめて「他の添加剤」という。)を含有していてもよい。
【0028】
他の添加剤の配合量は、可食性フィルムに対して、通常0.001〜10質量%程度である。
【0029】
可食性フィルムは、保持基材上に、可食性フィルム用組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥して成膜することにより得ることができる。
【0030】
可食性フィルム用組成物は、例えば、炭素数2〜4の脂肪族アルコール系溶媒(以下、「脂肪族アルコール系溶媒」という。)に、該脂肪族アルコール系溶媒に難溶性又は不溶性である水溶性微粒子を分散させた液に、ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤、及び、所望により、可塑剤、他の添加剤を添加し、混合することにより得ることができる。
【0031】
炭素数2〜4の脂肪族アルコール系溶媒としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、エタノールが特に好ましい。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
フィルム形成剤の添加量は、フィルム形成剤が、用いる脂肪族アルコール系溶媒に完全に溶解する量以下の量であれば特に制限されない。フィルム形成剤の添加量は、脂肪族アルコール系溶媒100質量部に対して、通常5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部である。
【0033】
また、水溶性微粒子の添加量は、水溶性微粒子が、水溶性フィルムの内部に分散状態で存在できる量の範囲内であれば、特に限定されない。
【0034】
一般的に、水溶性微粒子の添加量を多くすれば、口腔内における可食性フィルムの崩壊時間を短くでき、水溶性微粒子の添加量を少なくすれば、口腔内における可食性フィルムの崩壊時間を長くすることができる。
水溶性微粒子の添加量は、脂肪族アルコール系溶媒100質量部に対して、通常5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部である。
【0035】
用いる保持基材としては、本発明の可食性フィルムを担持することができるものであれば、特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルム;グラシン紙、クレーコート紙、ポリエチレンラミネート紙等の紙類;等および、これらのプラスチックフィルム等に必要に応じてシリコーン系剥離剤等で剥離処理したものが挙げられる。
用いる保持基材の厚みは、通常5〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
【0036】
可食性フィルム用組成物を保持基材上に塗工する方法としては、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、アプリケーター等の公知の塗工装置を用いて塗布する方法が挙げられる。
可食性フィルム用組成物の塗布量は、乾燥後において、10〜100g/m、好ましくは20〜60g/mとなる量である。
【0037】
可食性フィルム用組成物の塗膜を形成後、溶媒を乾燥除去して可食性フィルムを形成することができる。
溶媒を乾燥除去するときの温度は、通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃である。
乾燥時間は、通常数十秒から数分間である。
【0038】
可食性フィルムの厚さは、特に限定されないが、通常20〜400μm、好ましくは30〜150μmである。
【0039】
本発明に用いる可食性フィルムは、後述するように、ヒートシール性に優れるため、嚥下物包装体および可食性フィルム接合体を容易に製造することができる。
【0040】
(嚥下物包装体)
本発明の嚥下物包装体は、前記可食性フィルムによって、嚥下物が包装されてなるものである。
【0041】
嚥下物としては、特に限定されず、例えば、各種医薬活性成分、健康食品(ビタミン、ミネラル、繊維、酵母、サプリメント等)、香料やその材料等が挙げられる。
【0042】
医薬活性成分としては、特に制限されず、例えば、アルプラゾラム、フルジアゼパム、ロラゼパム等のマイナートランキライザー;酒石酸ゾルピデム等の入眠剤;カベルコリン、塩酸メチキセン等の抗パーキンソン剤;塩酸ドネペジル等のアルツハイマー型痴呆治療剤;コルヒチン等の痛風治療剤;塩酸クレンブテロール、硫酸サルブタモール、臭化水素酸フェノテロール、塩酸プロカテロール等の気管支拡張剤;ラベプラゾールNa、ファモチジン、ラフチジン等の消化性潰瘍治療剤;ボグリボース等の糖尿病用剤;塩酸インデノロール、塩酸ブフェトロール等の不整脈用剤;マレイン酸エナラプリル、塩酸キナプリル、シラザプリル、ニフェジピン、フェロジピン、塩酸ベニジピン等の降圧剤;シンバスタチン等の高脂血症用剤;塩酸チアミン、酢酸ヒドロキソコバラミン等のビタミン剤;タクロリムス水和物等の免疫抑制剤;アトピー性皮膚治療剤;エチニルエストラジオール・メチルエストレノロン等のホルモン剤;塩酸ロメリジン等の片頭痛治療剤;酒石酸イフェンプロジル等の鎮うん剤;クロペラスチン、塩酸クロフェダノール等の鎮咳剤;塩酸ロペラミド等の止瀉剤;ピコスルファートNa等の下剤;塩酸アザセトロン、塩酸グラニセトロン、塩酸ラモセトロン等の制吐剤;メキタジン、塩酸ホモクロルシクリジン、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤;塩酸セチリジン、フマル酸エメダスチン等の抗アレルギー剤;塩酸エチルモルヒネ、塩酸モルヒネ等のアヘンアルカロイド系鎮痛鎮咳剤;塩化セチルピリジニウム等の殺菌剤;ビタミン類;等が挙げられる。
【0043】
嚥下物の形状は特に制約はなく、錠剤、粉体等のいずれであってもよい。
また、用いる嚥下物の量は、特に制約はなく、嚥下物包装体1個あたり、通常、0.01mgから10gである。
【0044】
嚥下物包装体の形状は、前記可食性フィルムによって嚥下物が外部に露出なく包み込まれたものであれば、特に制約はない。例えば、球状、直方体状、円柱状、多角体状、円盤状、巾着状等が挙げられる。
【0045】
嚥下物包装体の大きさは、特に制約はなく、用途、嚥下物、嚥下する者等によって適宜決定すればよい。
【0046】
本発明の嚥下物包装体の一例の構造断面図を図1に示す。図1の嚥下物包装体100において、1は可食性フィルム、11は水溶性微粒子、12は水溶性フィルム、6は嚥下物である。
【0047】
本発明の嚥下物包装体は、口溶け性に優れるため、水なしでも口腔内の唾液で短時間に崩壊し、嚥下物の嚥下を容易にする。また、嚥下を行った後も口腔内が粘つくことがなく快適である。
【0048】
本発明の嚥下物包装体は、例えば、以下のようにして製造することができる。
(i)前記可食性フィルムを、開口部を有する袋体(以下、「可食性フィルム接合体」ということがある。)に成形した後、嚥下物を、前記開口部から袋体の中空部に充填し、開口部をシールする方法、
(ii)前記可食性フィルムを2枚用意し、一方の可食性フィルムの中央部に、嚥下物を充填する凹部を形成し、その凹部に嚥下物を充填し、もう一方の可食性フィルムを上から重ね合わせて、可食性フィルムの外周部を接合する方法、
【0049】
(iii)その他、可食性フィルムを包装紙のように用いて嚥下物を包む方法、
等が挙げられる。
【0050】
前記(i)の方法において、可食性フィルムを、可食性フィルム接合体に成形する方法としては、例えば、図2(a)、(b)、(c)に示す方法が挙げられる。
【0051】
すなわち、図2(a)に示すように、四角形の同面積の2枚の可食性フィルム1a、1bを重ね合わせ、三方の端部2aを接合することにより、開口部3aを有する可食性フィルム接合体4aを形成することができる。
【0052】
また、図2(b)に示すように、四角形の可食性フィルム1cを二つに折り曲げ、二方の端部2b、2cを接合することにより、開口部3bを有する可食性フィルム接合体4bを形成することができる。
【0053】
さらに、図2(c)に示すように、四角形の可食性フィルム1dをまるめて端と端を重ね合わせ、その重ね合わさった部分と、底部となる部分2dを接合することにより、一方に開口部3cを有する可食性フィルム接合体4cを形成することができる。
【0054】
端部を接合する方法としては、特に制約はなく、ヒートシールする方法、可食性の接着剤を用いて接着する方法等が挙げられる。本発明においては、用いる可食性フィルムがヒートシール性に優れるため、ヒートシールする方法が好ましい。
【0055】
ヒートシールする際の温度は、通常60〜200℃、好ましくは80〜150℃であり、その際の圧力は、通常0.1〜5MPa、好ましくは0.3〜1MPaである。
本発明に用いる可食性フィルムは、このような条件で、簡便かつ強固にシールすることができる。
【0056】
上記の例においては、可食性フィルムが四角形の場合を示したが、可食性フィルムの形状は特に制約されず、三角形、円形等他の形であっても構わない。
【0057】
また、可食性フィルムとしては、前記保持基材を剥離したものを用いても、剥離していないものを用いてもよい。保持基材を剥離していないものを用いる場合には、保持基材を外側にして接合体を形成する。保持基材は、嚥下するまでの適当な時期に剥離すればよい。
【0058】
上記のようにして可食性フィルム接合体を得た後、嚥下物を、開口部から接合体の中空部に充填し、開口部を接合する。開口部を接合する方法としては、前記と同様ヒートシールする方法が好ましいが、開口部を折り曲げたりねじって封鎖する方法等でも構わない。
【0059】
また、前記(i)の方法により、前記可食性フィルム接合体を連続して製造することもできる。
例えば、図3(a)に示す連続製造装置を用いることによって実施することができる。
【0060】
先ず、図3(a)に示すように、長尺の可食性フィルム1eを、図中、下方向に一定速度で搬送しながら、折り曲げ成形機Aによって長尺方向に連続的に二つ折りにしていく。
【0061】
次に、ヒートシール機Bにより、二つ折りにしたフィルム1eの端部分2eおよび袋の底部となる部分2fを、それぞれシールする。
【0062】
その後、二方がシールされたフィルム1eを、点線P部分で、例えば、ヒートシール機B付近に設けられた切断機(図示を省略)により切断すれば、図3(b)に示すように、可食性フィルム接合体4dを得ることができる。
【0063】
このような操作を連続的に行うことで、図3(c)に示すように、可食性フィルム接合体4d、4e・・・を、連続的に製造することができる。なお、図3(b)、(c)においては、折り曲げ成形機Aおよびヒートシール機Bの図示を省略している(以下の図においても同様。)。
【0064】
また、図4(d)、(e)に示すように、切断を行わずに、二つ折りにした可食性フィルム1eを連続的にシールし、可食性フィルム接合体の連続体5aを得、嚥下物を封入する際に、図4(f)に示すように、個々(または、複数個ずつ)に切断してもよい。
【0065】
用いるフィルム1eとしては、保持基材から剥離していない可食性フィルムを用いてもよい。その場合、保持基材側を外側(1g側)とする。保持基材があると、可食性フィルムが湿気により膨潤するのを防止でき、かつ、衛生的に可食性フィルム接合体を製造し、さらに運搬・保管等をすることができる。保持基材は、嚥下するまでの適当な時期に剥離すればよい。
【0066】
次いで、先と同様に、可食性フィルム接合体の開口部から、嚥下物を接合体の中空部に入れ、開口部をシールすることにより、嚥下物包装体を製造することができる。
【0067】
また、前記可食性フィルム接合体を製造しながら、嚥下物を充填していき、嚥下物包装体を連続的に製造することもできる。
【0068】
先ず、図5(a)、(b)に示すように、前記と同様に、可食性フィルム1hを連続的に二つ折りにし、二つ折りにした端部分2gおよび袋の底部となる部分2hを、それぞれシールする。可食性フィルムの二つ折りにされた背部分、シールされた端部分2g、およびシールされた袋の底となる部分2hにより区画される袋部分の内部に、上部の開口部から嚥下物6aを投入する。
【0069】
次に、図5(c)に示すように、同様に、二つ折りにした端部分2i、および、次に形成される接合体の底部となる部分2jをそれぞれシールし、可食性フィルムの二つ折りにされた背部分、シールされた端部分2i、およびシールされた袋の底となる部分2jにより区画される袋部分の内部に、上部の開口部から嚥下物6bを投入する。
【0070】
そして、切断機により、前記シールした部分2jの中央部を通る点線Q1で切断すると、図5(d)に示すように、嚥下物6aが封入された嚥下物包装体4fを得ることができる。
【0071】
シール部2jは、点線Q1で切断されることにより、次に形成される接合体の底部となる部分2j(1)と、嚥下物包装体4fの開口部を閉じる部分2j(2)とに切断される。すなわち、シール部2jは、一つの接合体の底部を形成すると同時に、隣り合う接合体(袋体)の開口部を閉じる役目も果たす。
【0072】
さらに、図5(e)に示すように、二つ折りにした端部分2k、および、次に形成される接合体の底部となる部分2lをそれぞれシールし、二方をシールしたことによって形成された中空部に、上部開口部から嚥下物6cを投入し、前記シールした部分2lの中央部を通る点線Q2を切断すると、図5(f)に示すように、嚥下物6bが封入された嚥下物包装体4gを得ることができる。
【0073】
また、点線Q1、Q2部分での切断を行わずに、図6(g)に示すように、シールと嚥下物の封入を連続的に行い、嚥下物包装体の連続体5bを得、嚥下物を服用する際等の必要な時期に、図6(h)に示すように、個々(または、複数個ずつ)に切断して、嚥下物包装体を得てもよい。
【0074】
前記(ii)の方法は、具体的には、図7に示すように行うことができる。
先ず、前述のようにして、保持基材10上に可食性フィルム1Aを形成する(図7(a))。
次に、形成した可食性フィルム1A上の所定部分に凹部を形成する(図7(b)。凹部を形成することにより、嚥下物を効率よくロスなく充填することができる。
【0075】
可食性フィルム1Aの所定部分に凹部を形成する方法としては、可食性フィルム1Aの所定部分を押圧する方法が挙げられる。
【0076】
形成される凹部の形状は、特に制限はなく、上から見たときに丸型であっても角型であっても多角形状であっても構わない。
【0077】
形成される凹部の容積は、特に制約はなく、中に入れる嚥下物の種類、投入量、可食性フィルムの厚み、最終的に形成される嚥下物包装体の大きさ、用途等に合わせて適宜決定すればよい。通常、3〜50mmφで深さ0.2〜10mm、好ましくは、5〜20mmφで深さ0.3〜6mmである。
【0078】
可食性フィルム1Aの所定部分を押圧して凹部を形成する方法としては、特に制約はないが、作業効率の観点から、エンボス加工を施す方法が好ましい。
【0079】
エンボス加工は、型押し等の方法により、シートの表面に凹凸をつける加工である。
エンボス加工する方法としては、例えば、平板プレス機、ロールエンボス機等の公知の各種プレス機、エンボス機を用いて、熱又は圧力によりエンボス板(エンボスロール)の凹凸形状を賦形する方法が挙げられる。
【0080】
エンボス加工を施す前には、可食性フィルム1A表面を保護するために、可食性フィルム1A上に保護フィルムをラミネートしておくのも好ましい。
【0081】
用いる保護フィルムとしては、前記保持基材として例示したのと同様のものが挙げられる。保護フィルムは、嚥下物を充填する前に剥がせばよい。
【0082】
次いで、前記形成した凹部内に嚥下物6を充填し(図7(c))、その上に、前記可食性フィルム1Aを保持基材上に形成したのと同様の方法で、可食性フィルム1Bを形成し、前記凹部の周縁部を接合することにより、本発明の嚥下物包装体を得ることができる(図7(d))。
【0083】
周縁部を接合する方法としては、特に制約はないが、前述したように、本発明の可食性フィルムはヒートシール性に優れるため、ヒートシールする方法が好ましい。
【0084】
また、例えば、図8に示すように、本発明の嚥下物包装体を連続的に製造することもできる。
【0085】
先ず、長尺の保持基材10C上に、長尺の可食性フィルム1Cを、前記と同様にして形成する(図8(a))。
次いで、前記可食性フィルム1Cの所定部分に複数の所定形状の凹部30を形成することにより、図8(b)に示す構造を有する構造体を得る。
【0086】
すなわち、表面に可食性フィルム1Cが形成された構造体を一定方向に搬送しながら、例えば、図9に示すごとき形状を有する複数の凸部を有する加工ロール300及び下ロール200を用いて、可食性フィルム1Cの表面側からエンボス加工を施して、所定部分に複数の凹部30を連続的に形成することにより、図8(b)に示す構造体を得ることができる。
【0087】
複数の凹部を形成した長尺のシートの一例の上面図を図10に示す。図10(a)に示すものは、横列に1個の丸型の凹部を形成したものである。図10(b)に示すものは、横列に3個の丸型の凹部を形成したものである。
【0088】
なお、前記と同様に、エンボス加工を施す前に、可食性フィルム1Cを保護するために、前記可食性フィルム1C上に保護フィルムをラミネートしてもよい。
【0089】
次いで、形成された複数の凹部30内に、嚥下物6を連続的に充填して、図8(c)に示す断面構造を有する帯状の構造体を得、さらに嚥下物の上に、前記と同様にして可食性フィルム1Dを形成し、前記凹部の周縁部を接合することにより、図11(d)に示す断面構造を有する嚥下物包装体の連続体を得ることができる。
【0090】
以上のようにして得られる嚥下物包装体の連続体は、通常、所定の大きさにダイカットされ、保持基材が剥離されて用いられる。
【0091】
ダイカットのパターンは特に制約はなく、横方向にのみダイカットするパターン、縦横両方向にダイカットするパターン等が挙げられる。図12にダイカットのパターンの一例を示す。図12(a)は、点線が示すように、横方向にダイカットされ嚥下物包装体が3個ずつに分けられる場合、図12(b)は、縦方向、横方向にダイカットされ嚥下物包装体が1個ずつに分けられる場合を示している。
【0092】
2)可食性フィルム接合体
本発明の可食性フィルム接合体は、ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムが袋状に加工されてなるものである。
本発明の可食性フィルム接合体の形状は特に制限されず、直方体状、円筒状、四面体状などが挙げられる。
【0093】
可食性フィルムを袋状に加工する方法としては、開口部を有する袋体を得ることができるものであれば特に制限されない。例えば、上述した、図2(a)、(b)、(c)に示す方法が挙げられる。
【0094】
本発明の可食性フィルム接合体は、ヒートシール性に優れる可食性フィルムを用いるため、製造が容易である。また、口溶け性に優れる可食性フィルムを用いるため、嚥下が容易であり、服用に際し、口腔内が粘ついて不快感を与えることがない。
【実施例】
【0095】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらより何ら制限されるものではない。
【0096】
(実施例1)
エタノール270質量部に、水溶性微粒子としてのマルトデキストリン(商品名:アミコールNo.19、日澱化学社製)37.6質量部を、ホモジナイザーを用い攪拌しながらゆっくりと添加して分散させた。次に、フィルム形成剤としてヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達社製)56.4質量部と、可塑剤としてグリセリン6質量部を攪拌しながらゆっくりと添加して溶解させ、可食性フィルム用組成物を調製した。
【0097】
次に、上記で得た可食性フィルム用組成物を、乾燥後の塗布量が40g/mとなるようにギャップを調整し、アプリケータを用いて、保持基材のポリエチレンテレフタレートフィルム(SP−PET381031、リンテック社製)上に展延塗布し、得られた塗膜を80℃で5分間乾燥して、可食性フィルム積層体を得、保持基材を剥離除去することにより、可食性フィルムを得た。
【0098】
次に、得られた可食性フィルムを2枚用意し、一方の可食性フィルムに対して、エンボス加工により直径8mmφ、深さ3mmの凹部を形成し、嚥下物としてビタミンCとビタミンB2とを含む顆粒をその凹部に入れた。その上に、もう一方の可食性フィルムを重ねて、凹部の外周部にある可食性フィルム同士を、温度120℃、圧力0.5MPaの条件でヒートシールし、凹部が中央部になるように、直径15mmの円形状に裁断して、嚥下物が封入された嚥下物包装体を得た。
【0099】
(実施例2〜6)
各材料の種類、含有量を第1表に示す量とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜5の嚥下物包装体を得た。
【0100】
(比較例1)
エタノール270質量部に、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC、日本曹達社製)94質量部と、可塑剤としてのグリセリン6質量部を攪拌しながらゆっくりと添加して溶解させ、可食性フィルム用組成物を調製した。得られた可食性フィルム形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして嚥下物包装体の作製を試みた。しかしながら、可食性フィルムにヒートシール性がなく、袋体を作製することができなかった。
【0101】
実施例1〜6及び比較例1で用いた可食性フィルムの組成、水溶性微粒子の5質量%水溶液の37℃における粘度およびフィルム形成剤の5質量%水溶液の37℃における粘度を下記第1表にまとめた。
【0102】
第1表中、各記号は次の意味を表す。
De:マルトデキストリン
Ma:マンニトール
HPC:ヒドロキシプロピルセルロース
G:グリセリン
また、「粒径」は平均粒径を表す。
※実施例6では、水溶性微粒子として、Ma(平均粒径30μm)37.6質量部、およびDe(平均粒径35μm)9.4質量部を使用した。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例1〜6で得た嚥下物包装体を用いて、以下の評価試験を行った。比較例1では、嚥下物包装体を作製することができなかったので、可食性フィルム単体を評価した。
(1)口腔内崩壊時間の測定
実施例1〜6の嚥下物包装体及び比較例1の可食性フィルム(以下、「嚥下物包装体等」という。)を、それぞれ水なしで口腔内に含ませ、嚥下物包装体等が口腔内の唾液で崩壊するまでの時間を測定した。試験は3回行い、その平均値を算出した。
【0105】
(2)口溶け性の評価試験
実施例1〜6及び比較例の嚥下物包装体等を水なしで口腔内に含ませ、嚥下物包装体等が口腔内で唾液により崩壊した後、嚥下を行った後の口の中の感覚を、下記の4段階の基準で評価した。
【0106】
◎:口腔内がさっぱりとしていた。
○:口腔内がはじめは粘ついたがすぐにさっぱりとした。
△:口腔内がやや粘つく感じがした。
×:口腔内が粘ついて感触が悪かった。
評価結果を第2表に示す。
【0107】
(3)ヒートシール性評価試験
実施例1〜6及び比較例1で用いた可食性フィルムに、伸び防止用ポリエステル基材粘着テープをラミネートした後に裁断して、幅15mm×長さ200mmの試験片をそれぞれ作成した。各試験片の可食性フィルム面同士が接触するようにして折畳み、温度120℃、圧力0.5MPaの条件でヒートシールした後、手で引き剥がしたときのシール強度を、下記の4段階の基準で評価した。
◎:強力な接着強度でシールされていた。
○:十分な接着強度でシールされていた。
△:接着強度がやや弱い。
×:接着強度が不足しており簡単に剥がれてしまった。
【0108】
【表2】

【0109】
第2表より、実施例1〜6の嚥下物包装体は、比較例1の可食性フィルムに比して、口腔内崩壊時間が短く、口溶け性、ヒートシール性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0110】
1、1a〜1d、1A、1B・・・可食性フィルム、11・・・水溶性フィルム、12・・・水溶性微粒子、1e、1h、1C、1D・・・長尺の可食性フィルム、1f、1i・・・長尺の可食性フィルムの内側、1g、1j・・・長尺の可食性フィルムの外側、2a〜2l・・・シール部、3a〜3c・・・開口部、4a〜4g・・・接合体、5a、5b・・・可食性フィルム接合体の連続体、6、6a〜6c・・・嚥下物、10、10C・・・保持基材、30・・・凹部、200・・・下ロール、300・・・加工ロール、A・・・折り曲げ成形機、B・・・ヒートシール機、P、Q1、Q2・・・切断線、100・・・嚥下物包装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムによって、嚥下物が包装されてなる嚥下物包装体。
【請求項2】
前記フィルム形成剤の5質量%水溶液の37℃における粘度が、1000〜100000mPa・sである可食性フィルムを用いる、請求項1に記載の嚥下物包装体。
【請求項3】
前記水溶性微粒子の5質量%水溶液の37℃における粘度が、10mPa・s以下である可食性フィルムを用いる、請求項1または2に記載の嚥下物包装体。
【請求項4】
前記水溶性微粒子が、マルトデキストリンおよびマンニトールのいずれか一方又は両方の微粒子を含むものである可食性フィルムを用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の嚥下物包装体。
【請求項5】
前記水溶性微粒子の配合割合が、可食性フィルム全体に対して、35〜70質量%である可食性フィルムを用いる、請求項1〜4のいずれかに記載の嚥下物包装体。
【請求項6】
前記フィルム形成剤の配合割合が、可食性フィルム全体に対して、25〜60質量%である可食性フィルムを用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の嚥下物包装体。
【請求項7】
ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルム形成剤を含有する材料から形成された水溶性フィルムの内部に、水溶性微粒子が分散状態で存在する可食性フィルムが、袋状に加工されてなる可食性フィルム接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−172256(P2010−172256A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18105(P2009−18105)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】