説明

嚥下食用の麺様食品の製造方法

【課題】 嚥下食でありながら、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを楽しめる麺様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る嚥下食用の麺様食品の製造方法は、すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺と、前記麺の110〜140重量%の水と、前記麺の8〜12重量%の豆腐と、前記麺の4〜6重量%の小麦粉と、を撹拌して、これらの混合物を作った後、当該混合物を85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状の麺様食品を得ることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や脳梗塞の後遺症を持つ方など、咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)の機能が低下している人向けの食品(以下、これを「嚥下食」という。)として好適な麺様食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、嚥下食として、食材を細かく刻んだ「キザミ食」や、食材をミキサーでペースト状にした「ミキサー食」が良く知られている。これらの嚥下食は、食する人が、食材を噛み砕く必要等が無いため、このような食形態とすることで、咀嚼・嚥下の機能が低下している人にも、様々な食品を提供することができる。そのため、キザミ食やミキサー食は、嚥下食として、病院や介護施設等において、ごく一般的に提供されている。
【0003】
しかしながら、これらの嚥下食は、食材が細かく刻まれた状態や、粘性の高いペースト状態となっているため、これらを食べる人にとって、食塊形成が困難で、非常に飲み込みづらい食形態である、という問題がある。そして、この問題は、これらを食する人の咳やムセの回数を多くしてしまい、場合によっては、細かく刻まれた食材等が食する人の気管に入ってしまうこと(誤嚥)の原因や、最悪の場合、誤嚥性肺炎を引き起こす原因ともなってしまっている。
【0004】
また、これらの嚥下食は、食する人が「何を食べているのかわからない」という不満を抱きやすく、食する人に、食事の楽しみや満足感等を与えづらい食形態である、という問題もある。この問題は、嚥下食を食べる人の食欲低下の原因ともなり、本来、嚥下食を食べることによって、体力を維持・回復すべき人らに、食事による充分な恩恵を与えられない、という問題もある。
【0005】
特に、この問題は、うどん等に代表される麺類を、嚥下食とした場合に顕著に表れることになる。麺類をキザミ食等としてしまうと、それは、もはや麺類とは言えず、このような食形態では、これを食する人達に、麺類本来のおいしさを提供することができないからである。
【0006】
本発明者は、このような実情のもと、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを有しながらも、嚥下食として好適な麺類の製造方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者は、従来には無いまったく新しい方法によって、嚥下食でありながら、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを楽しめる麺様食品を製造することができる、という知見を得、本発明を創作するに至った。
【0007】
なお、本発明を出願するにあたって、出願人において過去の特許文献等を調査したところ、嚥下食に関する技術について、下記の文献を発見することができたが、本発明に係る技術的思想等を詳述したものについては、発見することができなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2007−228834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、嚥下食でありながら、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを楽しめる麺様食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明に係る嚥下食用の麺様食品の製造方法は、すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺と、前記麺の110〜140重量%の水と、前記麺の8〜12重量%の豆腐と、前記麺の4〜6重量%の小麦粉と、を撹拌して、これらの混合物を作った後、当該混合物を85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状の麺様食品を得ることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る嚥下食用の麺様食品の製造方法は、すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺と、前記麺の110〜140重量%の水と、前記麺の8〜12重量%の豆腐と、前記麺の4〜6重量%の小麦粉と、を撹拌して、これらの混合物を作った後、当該混合物を85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷ましてうどん状の麺様食品を得ることも特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、嚥下食でありながら、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを楽しめる麺様食品の製造方法を提供することができる。また、本発明に係る嚥下食用の麺様食品は、所定の形状を有することになるので、食べる人にとって、食塊形成が容易であって、非常に飲み込みやすい食形態とすることができる。そのため、これらを食する人の咳やムセの回数を減らすことができ、誤嚥や、誤嚥性肺炎を引き起こす原因を排除することができる。
【0013】
また、本発明に係る嚥下食用の麺様食品は、従来の麺類と変わらない外観やおいしさを有しているので、これを食する人に、食事の楽しみや満足感等を与えることができる。さらに、これにより、嚥下食を食べる人の食欲を増進させ、これらの人の体力の維持・回復も期待できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る嚥下食用の麺様食品の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明において、「麺様食品」とは、麺に似た外観及び味を呈するように作られる食品のことをいう。
【0015】
まず、乾麺のうどん麺を茹でて、これを水で洗い、茹でたうどん麺を用意する。なお、この際、茹でたうどん麺を柔らかくし、後で他の材料とミキサーにて混ぜやすくするため、乾麺のうどん麺は、規定の時間より10分以上長く茹でた後、さらに、30分以上茹で湯の中に放置しておくことが好ましい。
【0016】
次に、この茹でたうどん麺に対して、110〜140重量%の水と、8〜12重量%の木綿豆腐と、4〜6重量%の薄力粉と、をそれぞれ用意する。
【0017】
そして、用意したこれらの材料をミキサーに入れて良く撹拌し、これらについてのペースト状の混合物を得る。その後、この混合物を計量してから鍋に入れ、85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜる。
【0018】
なお、この際、増粘多糖類を、混合物内において確実に溶解させるため、一度、増粘多糖類を加えた混合物を沸騰させることが好ましい。また、増粘多糖類は、麺様食品が、嚥下食として好適な硬さである、500〜2000N/mとなるようにするため、計量した混合物に対して分量を調節して加えることが好ましい。
【0019】
その後、増粘多糖類を加えた混合物を鍋から出し、ラップでくるんだ後、麺棒で薄く延ばし、これを平面状に形成した後、冷まして固める。このようにして、本実施形態に係る嚥下食用の麺様食品を得る。
【0020】
なお、以上の実施形態においては、平面状に形成した麺様食品を得ているが、こうして得た麺様食品を、所定の幅に切断することによって、うどん状の麺様食品を得ることもできる。また、これ以外にも、切断する幅を適宜調整することによって、ひやむぎ状や、きしめん状等の麺様食品を得ることもできる。すなわち、本実施形態に係る麺様食品は、平面状、細ひも状、帯ひも状等、おおよそ麺類に存在し得る形状にて、自由に形成することができる。
【0021】
また、以上の実施形態においては、乾麺のうどん麺を茹でた麺として使用しているが、本発明においては、すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺であれば、どんな麺でも使用することができる。例えば、生麺やゆで麺、また、きしめんの麺、ひやむぎの麺等を使用しても構わない。
【0022】
さらに、以上の実施形態においては、木綿豆腐を使用しているが、本発明においては、豆腐であれば、それ以外の豆腐、例えば、絹豆腐等を使用しても構わない。また、以上の実施形態においては、薄力粉を使用しているが、薄力粉以外の小麦粉、例えば、中力粉等を使用しても構わない。
【0023】
本発明において使用される「増粘多糖類」とは、食品にとろみを付けるための食品添加物をいい、これには、増粘安定剤や、ゲル化剤等と呼ばれるものが含まれる。なお、このような増粘多糖類として、例えば、株式会社フードケア(神奈川県相模原市)の商品「ホットゼリーパウダー」などがある。
【実施例】
【0024】
次に、以下に示す実施例により、本発明について更に詳細に説明を行う。
【0025】
乾麺を茹でて得たうどん麺400g、水500g、木綿豆腐40g、薄力粉20gをそれぞれ用意し、これらをミキサーでよく撹拌し、これらの混合物を得た。得た混合物を、計量して鍋に入れ、これらを加熱しながら、株式会社フードケア(神奈川県相模原市)の商品「ホットゼリーパウダー」48gを、増粘多糖類としてこの鍋に加え、ホットゼリーパウダーを入れた混合物を、沸騰させた。
【0026】
その後、沸騰させた混合物を、ラップを敷いた浅めのバットに入れ、その上からラップをかぶせた。そして、ラップをかぶせた混合物を、バットから取りだした後、麺棒を使って薄く延ばし、その後、所定の幅に切断して、うどん状の麺様食品を得た。
【0027】
このうどん状の麺様食品は、一般的なうどん麺と、ほとんど変わらない外観をしていた。また、このうどん状の麺様食品は、箸で掴んだ際に、ブツブツと途中で切れてしまうことが無かった。さらに、このうどん状の麺様食品を食したところ、舌圧だけで潰すことができ、嚥下食として良好な状態であることを確認できた。また、うどん麺そのもののおいしさを味わうこともできた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺と、前記麺の110〜140重量%の水と、前記麺の8〜12重量%の豆腐と、前記麺の4〜6重量%の小麦粉と、を撹拌して、これらの混合物を作った後、当該混合物を85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷まして所定形状の麺様食品を得ることを特徴とする、嚥下食用の麺様食品の製造方法。
【請求項2】
すでに茹でた麺であって小麦粉を原材料とする麺と、前記麺の110〜140重量%の水と、前記麺の8〜12重量%の豆腐と、前記麺の4〜6重量%の小麦粉と、を撹拌して、これらの混合物を作った後、当該混合物を85℃以上に加熱しながら、これに増粘多糖類を加えて混ぜた後、これを冷ましてうどん状の麺様食品を得ることを特徴とする、嚥下食用の麺様食品の製造方法。

【公開番号】特開2009−219362(P2009−219362A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64049(P2008−64049)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月14日〜9月15日 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会主催の「第13回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月15日 インターネットアドレス「http://www.conventionーj.com/jsdr2007/index.html」に発表
【出願人】(506102983)東京海上日動サミュエル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】