説明

四面体パラジウム微粒子、および金属微粒子の製造方法

【課題】高い形状選択性を有する四面体パラジウム微粒子、及び金属微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】四面体の形状の粒子を60〜100%の割合で含有するパラジウム微粒子;該パラジウム微粒子を溶媒中に均一に分散してなるパラジウムコロイド;該微粒子が、セラミックス、カーボン及び有機ポリマーの少なくとも一つを含む担体の表面及び/又は細孔に分散担持されてなる担持触媒;4核の前駆体金属錯体を溶媒中に溶解して均一溶液を得、この均一溶液中で金属錯体を分解することにより形状選択的に四面体粒子を生成させる金属微粒子の製造方法;該コロイドと、セラミックス、カーボン及び有機高分子の少なくとも一つを含む担体とを接触させてなる該触媒の製造方法。該コロイド又は該コロイドを該担体に担持してなる触媒は炭素―炭素結合生成反応や水素化反応等に高活性と高選択性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラジウム微粒子に関する。また本発明は、該パラジウム微粒子を溶媒中に均一に分散してなるパラジウムコロイドおよび該パラジウム微粒子を担体に担持してなる触媒に関する。更に、本発明は金属微粒子の製造方法、および該パラジウムコロイドを担体に担持してなる触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子、特に金属ナノ粒子は、ユニークな物理的、および化学的性質の故に、その産業用途が注目されている。金属微粒子の物性と機能は、主としてその粒子径と形状に左右されるため、制御された粒子径および形状の金属微粒子の製造法の開発に多くの努力が払われてきた。形状に関しては、球形、正八面体の頂点を切り落とした形状の十四面体(cuboctahedral)あるいは正二十面体(icosahedral)の微粒子は生成しやすいが、表面に{111}結晶面のみを有する四面体の金属ナノ粒子の選択的な製造方法に関しては限られた報告しかない。
【0003】
白金の四面体微粒子に関しては、NarayananとEl-Sayedが、白金(IV)錯塩を、有機高分子保護剤を含む水溶液中で、水素還元して、54%(全金属粒子数中の特定の形状の粒子数の割合、即ち形状選択率を%で示す、以下同様)程度の割合の四面体白金ナノ粒子を得た(非特許文献1、非特許文献2)。また白金(II)の塩の水溶液に有機ポリマーを加え水素還元して、形状選択率が11〜63%程度の四面体を含む白金ナノ粒子コロイドを得たという報告(特許文献1)や、類似の製法のコロイドから約50%の四面体形状の白金ナノ粒子のカーボン担持電極触媒を製造したという報告(特許文献2)がある。これらは白金ナノ粒子に関するもので、分散保持の為に有機高分子保護剤を共存させ、白金塩を水素還元して製造された。
【0004】
他方、四面体のパラジウム微粒子の選択的な製造に関してはこれまで殆ど報告がなかった。TorigoeとEsumiは、水不溶性のパラジウム錯体をミセル中で有機高分子ゲルのネットワークを保護剤として光還元して四面体と八面体の混合物を得た(非特許文献3)が、四面体の選択性は不十分であった。
【0005】
一方、パラジウムは、均一系の錯体触媒としてC-C結合生成反応やオレフィンのワッカー型酸化反応等の広範な有機化学反応に優れた触媒作用を示すことが知られている。また、アルミナやカーボンに担持した担持パラジウム触媒も、不均一系の固体触媒として、オレフィン、アセチレン、ニトロ基、ケトン、アルデヒド、ニトリル等の水素化や、水素、炭化水素、一酸化炭素の酸化やオレフィンの酸化的アセトキシ化反応等、広範な用途で実用化されている。
【0006】
パラジウムや白金などの貴金属触媒の結晶面とその触媒反応性に関しては古くから研究がなされ、{111}面が最も高活性とされた(非特許文献4,5)。
【0007】
このように、これまで四面体パラジウム微粒子を形状選択的に調製する技術がなかったために、実用触媒におけるパラジウム{111}面の活用は十分ではなかったと推察される。
【0008】
他方、C−C結合生成反応が、触媒性能の粒子形状への依存性の高い反応として、白金やパラジウムのナノ粒子を触媒として、広範に研究された。ハロゲン化アリールとフェニルほう酸からクロスカップリング生成物ビフェニルを得るスズキカップリング反応では、四面体白金ナノ粒子触媒は、反応の度に四面体の形状が球形へと変化しその割合が急速に低下すると報告された(非特許文献6)。
【0009】
また、球形、あるいは正十四面体のパラジウムナノ粒子を触媒としてスズキカップリングの反応を行うと、パラジウムの粒子径の成長が起こり、回収触媒の活性は大幅に低下すると報告されている(非特許文献7)。
【0010】
元来、スズキカップリング反応は、ホスフィン配位子を持つ均一系の錯体触媒で開発されてきたが、均一系反応では反応後の生成物と触媒との分離操作が煩雑であり、電子材料等の、高純度を要求される生成物の場合、微量のパラジウムやホスフィン配位子の混入が製品の品質に悪影響を与えることがあった。担持触媒の場合は錯体触媒のような煩雑な分離操作は不要であるが、従来のパラジウム担持触媒では錯体触媒ほどの活性が得られなかった。ハロゲン化アリールとフェニルほう酸とのスズキカップリング反応におけるハロゲン化アリールの反応性の序列は、一般に、沃化アリール>臭化アリール>塩化アリールとされるが、従来の担持触媒では、沃化アリールに対する活性は有るが、臭化アリールには活性が不十分だった。まして安価な塩化アリールでは殆ど反応が進まなかった。また、従来のパラジウム担持触媒では、置換基の付いたハロゲン化アリールとフェニルほう酸の反応で、目的のクロスカップリング生成物以外に、ハロゲン化アリール同志、フェニルほう酸同士のホモカップリング反応生成物が副生した。このように従来の担持パラジウム触媒は、反応によってはその活性、選択性および安定性は、必ずしも満足すべきものではなかった。
【特許文献1】特開2005−248203号公報
【特許文献2】特開2002−042825号公報
【非特許文献1】R. Narayanan, M-A.El-Sayed, Abstracts of Papers, 227th ACS Bational Meeting, Anaheim, CA, United States, March 28-April 1, 2004, PHYS-101 (2004).
【非特許文献2】R. Narayanan, M-A.El-Sayed, Langmuir, 21(5), 2027-2033 (2005)
【非特許文献3】K. Torigoe and K.Esumi, Langmuir, 11, 4199-4201 (1995)
【非特許文献4】T.M. Gentle, E.L. Muetterties, J.Phys. Chem., 87, 2469 (1983)
【非特許文献5】T.G.Rucker et al., J.Phys. Chem., 90, 2703 (1986)
【非特許文献6】R. Narayanan and M.A. El-Sayed, Langmuir, 21, 2027 (2005)
【非特許文献7】R. Narayanan and M.A. El-Sayed, J. Am, Chem. Soc., 125, 8340 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
四面体の金属粒子は表面に{111}結晶面のみを有する。これまで、白金に関しては四面体ナノ粒子の製造方法が開発されたが、パラジウムの場合、従来の製法では球形や不定形の粒子となりやすく、四面体の微粒子の選択的な製造方法は知られていなかった。本発明は、形状選択的な四面体パラジウム微粒子、および金属微粒子の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、四面体の形状の粒子を60%〜100%の割合(粒子数換算、以下同様)で含有するパラジウム微粒子を提供する。さらに、本発明は、四面体の形状の粒子を72〜95%の割合で含有するパラジウム微粒子を提供する。また本発明は、平均粒径が0.5〜100nmの範囲にある四面体のパラジウム微粒子を提供する。また、平均粒径が1〜50nmの範囲にある四面体のパラジウム微粒子をも提供する。さらに、平均粒子径が1〜30nmの範囲にある四面体のパラジウム微粒子をも提供する。
【0013】
また、本発明は四面体のパラジウム微粒子を溶媒中に均一に分散してなるパラジウムコロイドを提供する。さらに、非プロトン性の極性溶媒に四面体のパラジウム微粒子を均一に分散してなるコロイドを提供する。さらに本発明は、従来微粒子の生成に汎用されるような、有機高分子の保護剤や界面活性剤ミセルを含まない四面体パラジウムのコロイドを提供する。他方、本発明は保護剤で安定化された四面体パラジウムコロイドをも提供する。
【0014】
また、本発明は、四面体のパラジウム微粒子が、セラミックス、カーボンおよび有機高分子(ポリマー)の少なくとも一つを含む担体の表面及び/または細孔に分散担持されてなる担持触媒を提供する。更に、本発明は、四面体のパラジウム微粒子が、チタニア、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、またはカーボンに分散担持されてなる担持触媒を提供する。
【0015】
さらに本発明は、四面体パラジウム微粒子が、担体に担持されないコロイドの状態で、或は、セラミックス、カーボンまたは有機高分子の少なくとも一つを含む担体の表面及び/または細孔に分散担持された担持触媒の状態で、炭素―炭素結合生成反応、水素添加反応、水素化分解反応、酸化反応、及び脱水素反応のうちの少なくともひとつに用いられる触媒を提供する。
【0016】
本発明は、4核の前駆体金属錯体を溶媒中に溶解して均一溶液を得、この均一溶液中で金属錯体を分解することにより形状選択的に四面体粒子を生成させる金属微粒子の製造方法を提供する。また、4核の前駆体金属錯体の分解を、酸素含有雰囲気中で行うことを特徴とする金属四面体微粒子の製造方法を提供する。さらに、本発明は、カルボニル配位子を含む4核の金属錯体の分解によって金属の四面体微粒子を得る製造方法を提供する。また、脂肪族又は芳香族のカルボキシレート配位子を含む4核の金属錯体の分解によって、金属の四面体微粒子を得る製造方法を提供する。また、本発明は、4核の前駆体金属錯体を非プロトン性の極性溶媒に溶解することを特徴とする金属の四面体微粒子の製造方法を提供する。さらに、該極性溶媒がカルボン酸アミドである金属の四面体微粒子の製造方法を提供する。本発明は、4核のパラジウム錯体の分解によるパラジウムの四面体微粒子の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は、金属の四面体微粒子を溶媒に均一に分散してなるコロイドと、セラミックス、カーボンおよび有機高分子の少なくとも一つを含む担体とを接触させてなる四面体金属微粒子の担持触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
高い形状選択率と良好な分散状態、シャープな粒度分布をもった四面体パラジウム微粒子、それを有機溶媒に分散させたコロイドが得られ、これを用いて各種の触媒反応に高活性、高選択性を発揮する四面体パラジウムコロイド触媒および四面体パラジウム担持触媒が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本発明において「室温」とは15−25℃を意味する。また、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、ポリスチレン換算した重量平均分子量である。更に、「Ar」、「Ph」および「Ac」で表される基はそれぞれアリール基、フェニル基およびアセチル基を表わす。
【0020】
本発明の4面体金属微粒子は、4核の金属錯体を前駆体として製造する。4核の金属錯体は、好ましくはカルボニル(CO)配位子またはカルボキシレート配位子を含み、さらに好ましくは、カルボニル配位子と、カルボキシレート配位子の両方を含む。
【0021】
カルボキシレートは、脂肪族および/または芳香族のカルボキシレートであってよく、脂肪族カルボキシレートR-COO(Rは非置換または置換の脂肪族炭化水素基)の場合、Rの構造には特に限定はないが、C〜C12の範囲のアルキル基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アラルキル基等が好適に使用できる。特に、CH3, CF3, CH2Cl, C2H5, C(CH3)3等が好適である。
【0022】
また芳香族のカルボキシレートAr-COOの場合、Arの構造にも特に限定はないが、Ph, CH3-Ph,Cl-Ph等が好適に使用できる。
【0023】
金属がパラジウムの場合、特に好適な4核の錯体は、パラジウムカルボニルアセテート錯体Pd4(CO)4(OAc)4・2AcOH(以下、PCAと略)やパラジウムカルボニルベンゾエート錯体Pd4(CO)4(OCOPh)4 (以下、PCBと略)である。これらの4核錯体は文献公知の製法で製造できる。例えば、酢酸パラジウムの酢酸溶液中に50℃にて一酸化炭素(CO)を吹き込むとパラジウムの部分的な還元が起こり4核のパラジウムカルボニルアセテート錯体PCAが得られる(例えば、I.I.Moiseev et al, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 27 (1978); I.I.Moiseev, J. Organomet. Chem., 488, 183 (1995))。
【0024】
このPCA錯体を、脂肪族あるいは芳香族のカルボン酸のトルエン溶液に添加し、アルゴン雰囲気下で攪拌するとPCAの配位子のアセテート部分が、対応する脂肪族或は芳香族のカルボキシレートに交換された4核錯体が得られる。
【0025】
4核の金属錯体を、有機溶媒、好ましくは非プロトン性の極性有機溶媒、さらに好ましくは、カルボン酸アミド溶媒に溶解し、均一溶液とし、これを室温で、酸素含有雰囲気下、一定時間攪拌することによって分解して、本発明の四面体金属微粒子を含有する均一なコロイド分散溶液を得る。
【0026】
従来、金属微粒子のコロイドを製造する際には、生成した微粒子の表面に配位または吸着して微粒子同士の凝集や粒径成長を抑制し安定化させる目的で保護剤(分散剤、安定剤とも称す)が良く使われた。また、従来の形状選択的な金属微粒子の製造においては、発生機の金属微粒子核からの結晶成長の方向を制御するために、有機高分子やミセル等の鋳型剤が使用された。
【0027】
これらの金属微粒子コロイドの従来の製造方法と比較して、本発明の製造方法の顕著な特徴は、従来の製造方法では必須成分とされた鋳型剤を共存させなくても、謂わば自己組織的に、単分散の四面体金属微粒子のコロイドを得ることができる点にある。
【0028】
保護剤の添加は、生成した4面体微粒子の分散安定化には寄与するが、4面体微粒子をその後の工程で利用する際に保護剤の配位が障害となることがある。例えば、4面体微粒子を担体に担持して触媒として利用する際、保護剤は触媒の活性点を覆って除去されず活性を阻害しやすいため、添加しないことが望ましい場合がある。
【0029】
本発明の四面体金属微粒子の製造において、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性有機溶媒を用いる場合と比較して、非プロトン性極性溶媒を用いた場合には、4面体の金属微粒子が生成しやすく、また、生成速度が十分に速い。非プロトン性極性溶媒としては、ケトン、エステル、アミド、エーテル等が使用できるが、中でも、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルプロピオンアミド、N-メチルピロリドン等の酸アミド溶媒が好適である。
【0030】
本発明のコロイド溶液中の金属の濃度には、特に制約はないが、一般に0.1 mmol/l〜1mol/l、好ましくは1mmol/l〜500 mmol/l、さらに好ましくは10mmol/l〜200mmol/lである。該濃度がこの範囲内にあると、必要な溶媒が多量となりにくく、また、金属微粒子が凝集しにくくなり、共に好ましい。
【0031】
また、4核錯体の分解反応は、酸素含有雰囲気で行うことが好ましい。酸素の効果は、まだ十分解明されていなが、配位子の一酸化炭素及びカルボキシレートの脱離と4核錯体の金属イオンの0価金属状態への還元とを促進しているものと推定される。酸素含有雰囲気下では、不活性ガス雰囲気下に比べ、異形の金属微粒子の比率が低くなりやすいので好ましい。
【0032】
分解反応の温度は、特に制約はないが、好ましくは−20℃〜120℃、さらに好ましくは0℃〜100℃、さらに好ましくは15℃〜60℃であり、簡便には室温で行うことが好ましい。
【0033】
分解反応の保持時間は、必要な4面体微粒子の粒子径に依存して、適宜選択される。通常30秒〜8時間であり、好ましくは1分〜5時間、さらに好ましくは3分〜2時間である。該保持時間がこの範囲内にあると、4面体微粒子の粒子径の成長を防ぎやすいとともに、凝集したり異形の大粒子が生成したりする確率が低くなりやすく、ナノ粒子の結晶形が安定となりやすく、4面体の結晶面の形成が十分となりやすく、いずれも好ましい。
【0034】
一定時間空気中で攪拌し所定の粒子径の四面体金属微粒子のコロイドを得た後は、コロイド溶液に不活性ガスを吹き込んでパージし不活性ガス中で封をして室温以下の温度で静置保存すれば、粒子径の成長を停止させることができる。
【0035】
他方、本発明の四面体金属微粒子をコロイドの状態で室温で長期間保存する場合、あるいはコロイドの用途によっては保護剤の添加が障害にならない場合は、保護剤を添加してなる四面体金属微粒子のコロイドとすることもできる。保護剤は、四面体金属微粒子の生成前に、予め前駆体の金属錯体溶液に添加しておくこともできるし、四面体金属微粒子の生成後にコロイド溶液に添加することも可能である。要するに、本発明の四面体金属微粒子の生成そのものには、保護剤や鋳型剤の共存は必要なく、生成した四面体微粒子の用途に応じた安定化の目的にのみ、保護剤の採否を選択することができる。
【0036】
本発明の四面体金属微粒子コロイドの保護剤としては、従来から金属コロイドの保護剤として汎用のものが使用できる。例えば、有機高分子や、低分子でも窒素、りん、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含み配位力の強い有機化合物が保護剤として使用できる。有機高分子保護剤としては、ポリアミド、ポリペプチド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ヘテロ環ポリマー、およびポリエステル等の高分子化合物が使用できる。特に好適には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドである。これらは、鎖状ポリマー、グラフトポリマー、コム(櫛型)ポリマー、スターブロックコポリマーまたはデンドリマー等の形態で使用できる。デンドリマーとしては、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリプロピレンイミンデンドリマーやフェニルアゾメチンデンドリマーが好適に使用できる。高分子の分子量は、溶媒に溶解し均一な金属微粒子のコロイドを形成し得る限り、千〜百万の範囲で適宜選択される。
【0037】
他方、低分子・強配位力の保護剤としては、例えば、三級アミン、三級ホスフィンやメルカプタン等の化合物が用途に応じて使用できる。また、シクロデキストリン、クラウンエーテル或いはカリックスアレーン等の包摂化合物も保護剤として用いられてよい。
【0038】
本発明の四面体パラジウム微粒子の粒子形状および粒子径の観察および分布測定は、高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM)あるいは走査型電子顕微鏡(SEM)のうちの一つ、またはふたつ以上を組合わせて行う。
【0039】
本発明のパラジウムのコロイド溶液を、カーボングリッドに滴下してHR-TEMやTEMで粒子形状と粒子径を観察すると、好ましくは、一辺が0.5〜100nm、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは1〜30nmの三角形の結晶が多数分散して観察される。HR-TEMで観察した場合、この三角形の内部にはfccPd{111}面に相当する結晶格子像が観察される。TEMの観察視野中の100個以上の粒子の形状を、三角形、四角形、円形、その他の多角形、及びそれらの凝集物に分類し、それぞれの形状の粒子数を数え、各形状の粒子数を全粒子数で除して得られる割合を計算し、形状分布を求めると、三角形の形状の粒子が、通常60%〜100%の割合で観察され、更に好適には72〜95%の割合で観察される。本明細書では、TEMで観察される、三角形の形状の粒子の割合を持って、四面体粒子の割合と見做す。しかしTEMでは、三角形以外に四角形でも、その陰影から四面体の透過像に相当すると推測される四角形も認められ、これを考慮すると四面体粒子の実際の割合は三角形の割合から計算される割合より更に高いと推定される。
【0040】
また上記コロイドをFE-SEMやSEMで観察すると、三角形の外形の内部にひときわ明るく輝く頂点を持った四面体のナノ粒子が多数分散して観察される。
【0041】
TEM像で三角形の透過像が見えても実は三角プリズムの断面が見えている場合(例えば、J.E. Millstone et al., J Am. Chem. Soc., 127, 5312 (2005))や三角プレートの場合(例えば、Y.Xiong et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 17118 (2005))があり得るが、本発明のパラジウム微粒子の場合、SEM像の観察によってその立体的な陰影から三角プリズムや三角プレートは殆ど存在せず、四面体粒子であることが確認される。
【0042】
本発明の四面体パラジウム微粒子は粒度分布がシャープであるという特徴を持つ。平均粒子径D(nm)に対し、粒子径のばらつきは、好ましくは3σ≦0.3xD(nm)(式中、σは粒度分布の標準偏差を表わす。)であり、更に好ましくは3σ≦0.15xD(nm)である。
【0043】
本発明の四面体パラジウム微粒子担持触媒は、四面体パラジウム微粒子のコロイド溶液を担体と接触させることによって調製される。例えば、4核のパラジウム錯体を、有機溶媒、好ましくは非プロトン性の極性有機溶媒、さらに好ましくはアミド溶媒に、溶解し、均一溶液とし、これを一定温度(例えば、室温)で、酸素含有雰囲気下、一定時間攪拌することによって、四面体パラジウム微粒子を含有する均一なコロイド分散溶液を得て、このコロイド溶液に、粉末状あるいは粒状の触媒担体を添加し、室温で一定時間、攪拌した後、ろ過し洗浄後、乾燥して、触媒担体の表面に四面体微粒子が分散担持された担持触媒を得る。この製造法の一例として、4核の金属錯体と触媒担体の粉末や粒を有機溶媒に同時に仕込み、金属錯体の溶解とそれに続く分解、四面体金属微粒子の生成と同時に、共存する担体に担持させることもできる。
【0044】
成型された触媒担体を用いる場合には、乾燥した触媒担体をインプレグネーター等で攪拌しながらコロイド溶液を滴下して所謂吸水率法で調製することもできる。
【0045】
触媒担体としては、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、シリコンカーバイド、ヒドロキシアパタイト等の汎用のセラミックス担体、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のカーボン担体、或いは、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン・コポリマー等の有機ポリマー担体が使用できる。
【0046】
担体の形状は特には制約されず、粉末、ビーズ、ペレット、ハニカム等、汎用の担体形状が使用できる。
【0047】
ステンレス等の金属ハニカムやメッシュ、あるいはコージェライト、シリコンカーバイド等のセラミックスハニカム等、一体成型体(モノリス)を支持体として、その表面にアルミナやチタニア等の多孔質担体のウォッシュコート層を被覆して、ウォッシュコート層にコロイドを接触させ、コロイド中のパラジウム四面体ナノ粒子を吸着させ、モノリス触媒とすることもできる。
【0048】
この担体への担持工程で、パラジウムの四面体形状や粒子径は変化せずコロイドの状態の形状及び粒子径が保持される。例えば、4核のパラジウム錯体をアミド溶媒に添加して室温で5分間攪拌後、TEM観察で一辺5nmの四面体ナノ粒子が観察されるコロイド溶液を得て、このコロイド溶液に対して重量比で20倍量のチタニア(TiO2)粉末を添加して攪拌し、1時間後ろ過し、洗浄、乾燥して、パラジウム担持チタニア粉末を得て、この担持触媒をTEMで観察すると一辺が5nmのままでパラジウムの四面体ナノ粒子が分散担持されていることが確認される。
【0049】
本発明の四面体パラジウム担持触媒においては、担体へのパラジウムの担持量は特には制約されない。用途と目的に応じて担持量を選択することができる。十分な活性と耐久性が得られる限り担持量は少ない方が好ましい。一般に、パラジウム担持量は触媒全重量に対して0.01〜50重量%の範囲で、好ましくは0.05〜40重量%、更に好ましくは0.1〜20重量%である。
【0050】
本発明のパラジウムコロイドや該パラジウムコロイドを多孔担体に担持してなる担持触媒は、通常のパラジウム触媒で進行する各種の反応、即ち炭素―炭素結合生成反応、水素添加反応、水素化分解反応および酸化反応等において、その結晶構造が{111}面のみからなる四面体であることに由来する特徴的な活性や選択性を発揮する。
【0051】
とりわけ、本発明の四面体パラジウム微粒子のコロイドは、炭素―炭素結合反応に高い触媒活性を示す。ハロゲン化アリールとフェニルほう酸とのスズキカップリング反応において、本発明の四面体パラジウムコロイド触媒は、臭化アリールでも反応は数時間、好ましくは1〜8時間で完結し、ビフェニル生成物を99%の収率で与える。反応性が極めて低いとされる塩化アリールでさえ、十数時間〜24時間で、ビフェニル生成物を30〜50%程度の適度な収率で与える。
【0052】
また本発明の担持触媒を用いれば、スズキカップリング反応が不均一系でも高収率で進行する。従来のパラジウム担持触媒では収率が不十分だった臭化アリールのクロスカップリングが、数時間、好ましくは1〜3時間で、ほぼ定量的に進行する。塩化アリールに対しても、十数時間〜数十時間、好ましくは10〜24時間で、30〜50%程度の適度な収率でビフェニルを与える。
【0053】
本発明のコロイド触媒や担持触媒では、置換基の付いたハロゲン化アリールとフェニルほう酸の反応で、ハロゲン化アリール同志、フェニルほう酸同士のホモカップリング反応生成物の副生は殆ど無く、>99%の選択性で、クロスカップリング生成物を与える。
【0054】
また本発明のコロイド触媒および担持触媒では、触媒反応の前後で、パラジウムの形状や粒子径の変化は殆ど起こらず、反応系へのパラジウムの溶出も無視できるレベルであり、触媒は反応系から濾過によって容易に回収でき、その後、次サイクルの反応に活性、選択性を保持したまま再利用できる。
【0055】
この点は、スズキカップリングの反応を行う度に四面体の形状が球形へと変化しその割合が急速に低下すると報告された既存の四面体白金ナノ粒子触媒(非特許文献6)とは大きな違いがある。また、スズキカップリングの反応後パラジウム粒子径の成長が起こると報告された既存の球形パラジウムナノ粒子触媒に比べても優れている。
【0056】
本発明の四面体パラジウム触媒は、アセチレンのオレフィンへの常温常圧での水素化反応にも高活性を示す。反応条件が温和な為、オレフィンの飽和C-C結合への逐次水素化を避けオレフィンで反応を止めることができる。
【0057】
本発明の保護剤で安定化された四面体パラジウムコロイドは、該保護剤が、目的の反応を阻害しない場合にはコロイド触媒として使用できる。例えば、金属、ガラスまたはプラスチックの基板の表面へ金、銀、白金等の貴金属を無電解めっきするための触媒種結晶として使用できる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<参考例1>パラジウム4核錯体(PCA)の合成
非特許文献4、5の方法に従って、以下のとおりパラジウム4核錯体(PCA)を製造した。0.40gの酢酸パラジウムPd(OAc)2(エヌ・イー ケムキャット製)を酢酸40mlに溶解させ、一酸化炭素流通下50℃にて2時間攪拌して4核のパラジウム錯体PCA0.24gを黄色結晶として得た。
【0060】
<参考例2>パラジウム4核錯体(PCB)の合成
安息香酸2.2gをトルエン20mlに溶解して得た溶液に上記PCA錯体0.36gを添加し、アルゴン流通下45℃で2時間攪拌し、生成した結晶をトルエンで洗浄後真空乾燥して黄褐色のPCB錯体0.12gを得た。
【0061】
<実施例1>四面体パラジウムコロイドPCA(DMA)5minの製造
上記4核パラジウム錯体PCA0.020gをN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)1mlに添加し空気中25℃で攪拌した。最初の黄色溶液は1〜2分後に薄い褐色に変わり、5分後には均一な暗褐色コロイドPCA(DMA)5min を得た。このコロイドをカーボングリッドに滴下し乾燥後TEM(Hitachi H800, 加速電圧200kV)およびHR-TEM(Hitachi H9000, 加速電圧300kV)で観察すると、形状の比較的良く揃った三角形のナノ粒子が良く分散した状態で観察され、その他の形状の粒子は非常に少なかった。代表的な視野の中の150個の粒子に関して形状と粒子径(三角形の場合は1辺、球の場合は直径、その他異形の粒子の場合は幾何学的代表径、即ち、面積円相当径)とをリストアップし、形状を三角形、その他の多角形乃至球形、凝集物、形状判別不能の無定形粒子とに分類し、全粒子数で除して、各形状分布を求め、また数平均粒子径を求めた。その結果、三角形75%、その他の多角形乃至球形17%、凝集物2%、無定形6%であった。この結果から、四面体の形状選択性を75%と見積もられた。粒子径は平均6.0nmで、そのばらつき3σは0.7nmであった。
【0062】
<実施例2>四面体パラジウムコロイドPCA(DMA)70minの製造
実施例1において、空気中での攪拌を5分で止めないで、延長して70分まで攪拌保持した以外は実施例1と同様に処理して、暗褐色コロイドPCA(DMA)70min を得た。これのTEM観察から、実施例1と同様に図形解析して、四面体の形状選択性は70%と見積もられた。粒子径は平均径15nmで、ばらつき3σは2.5nmであった。
【0063】
<実施例3>四面体パラジウムコロイドPCA(DMF)70minの製造
実施例2において、溶媒DMAの代わりに、N,N-ジメチルフォルムアミド(DMF)を用いた以外は実施例2と同様に処理して、四面体パラジウムコロイドPCA(DMF)70min を得た。TEM像から、四面体形状選択性は78%と計算された。粒子径は平均10nmで、ばらつき3σは1.5nmであった。
【0064】
<実施例4>四面体パラジウムコロイドPCB(DMA)0minの製造
実施例1において、PCA0.020gの代わりにPCB0.030gを用いた以外は実施例1と同様に処理して攪拌開始直後に、暗褐色のコロイドPCB(DMA)0minを得た。そのTEM観察から、四面体の形状選択性は80%であった。粒子径は平均4nmでそのばらつき3σは0.5nmであった。
【0065】
<実施例5>四面体パラジウムコロイドPCB(DMA)70min の製造
実施例2において、PCA0.020gの代わりに、PCB0.030gを用いた以外は実施例2と同様に処理して、暗褐色コロイドPCB(DMA)70min を得た。TEM観察で、四面体の形状選択性は74%を示し、粒子径は平均10nmで、ばらつき3σは1.2nmであった。
【0066】
<実施例6>PVP安定化四面体パラジウムコロイドPCA(DMA)5min/PVPの製造
上記4核パラジウム錯体PCA0.020gをN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)1mlに添加し空気中25℃で攪拌した。5分間攪拌後、0.02gのPVP粉末(アルドリッチ製、分子量40,000)を添加し、なお50分間攪拌保持し、暗褐色均一コロイド溶液を得た。このコロイドのTEM観察から、実施例1と同様、四面体の形状選択性は75%、平均粒子径は6.0nmであった。このコロイドを空気中室温で10日間保存した後、再度TEM観察したが、形状選択率、粒子径ともほとんど変化がなかった。
【0067】
<実施例7>四面体パラジウム担持チタニア触媒PCA(DMA)/TiO20min の製造
上記4核パラジウム錯体PCA0.020gと0.154gのチタニア粉末(TiO2, 触媒学会の参照触媒JRC-TIO-2)をN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)1mlに添加し空気中25℃で攪拌した。50分間攪拌後、攪拌を止めて静置させると、青灰色の固体と無色透明な上澄液が得られた。固体を濾過分離しDMAで洗浄し真空乾燥させて、6.2重量%パラジウム担持チタニア触媒PCA(DMA)/TiO20minを得た。この触媒をHR-TEMおよびFE-SEM(Hitachi S-5000L, 加速電圧18.0kV)で観察すると、チタニア表面に四面体の微粒子が凝集することなく均一に分散された状態で担持されていた。TEM像の三角形の一辺の平均の長さは6.4nmであり、コロイドPCA(DMA)5minとほぼ同様の粒子形状分布並びに粒子径分布を示した。即ち、四面体パラジウム微粒子は担体チタニア粒子の存在下でもチタニアがない場合と同様に反応の初期に生成し直ちに共存するチタニア粒子の表面に、形状と粒子径を保持したまま固定化されたと推測される。
【0068】
<実施例8>四面体パラジウム担持チタニア触媒PCA(DMA)/TiO270min の製造
実施例2で得られた四面体パラジウムコロイドに実施例7で用いたのと同じチタニア粉末を0.154g添加し、25℃、空気中で30分攪拌した後、攪拌を止めて静置させて固体と上澄液を得、固体を濾過分離しDMAで洗浄し真空乾燥させて、担持チタニア触媒PCA(DMA)/TiO270minを得た。TEM観察から四面体の形状選択性および粒子径分布は実施例2とほぼ同様と確認された。
【0069】
<実施例9>四面体パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)/TiO20min の製造
実施例7において、錯体PCAを用いる代わりに、錯体PCBをPd換算で0.01g用いた以外は実施例7と同様に処理してPCB(DMA)/TiO20min を得た。TEM像からチタニアに担持されたパラジウム微粒子の形状選択性は実施例4とほぼ同様80%であった。粒子径は平均4nmでそのばらつき3σは0.5nmであった
【0070】
<実施例10>四面体パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)/TiO270min の製造
実施例5で得られたコロイドPCB(DMA)70min 1mlに、実施例7で用いたチタニア粉末0.154gを添加し空気中25℃で30分間攪拌保持した後、攪拌を止めて静置させて固体と上澄液を得、固体を濾過分離しDMAで洗浄し真空乾燥させて、6.2重量%パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)/TiO270min を得た。TEM像からチタニアに担持されたパラジウム微粒子の形状選択性は実施例5と同様74%で、粒子径は平均10nm、バラツキ3σは1.5nmであった。
【0071】
<実施例11>四面体パラジウム担持アルミナ触媒PCA(NMP)/Al2O30min の製造
実施例7において、溶媒DMAの代わりにN-メチルピロリドン(NMP)1mlを、担体チタニアの代わりに0.154gのアルミナ(ICN ファーマシューティカル製、 N. Akt.I )を用いた以外は、実施例7と同様に処理して、パラジウム担持アルミナ触媒PCA(NMP)/Al2O30min を得た。
【0072】
<実施例12>四面体パラジウム担持アルミナ触媒PCA(NMP)/Al2O30min の製造
実施例11において、アルミナ担体としてICN ファーマシューティカル製のアルミナの代わりに、触媒学会の参照触媒JRC-ALO-4を用いた以外は、実施例11と同様に処理してパラジウム担持アルミナ触媒PCA(NMP)/Al2O30min を得た。
【0073】
<実施例13>四面体パラジウム担体ヒドロキシアパタイト触媒PCA(NMP)/HAP0minの製造
実施例7において、溶媒DMAの代わりにN-メチルピロリドン1mlを、担体チタニアの代わりに0.154gのヒドロキシアパタイト(和光純薬工業製)を用いた以外、実施例7と同様に処理してパラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒PCA(NMP)/HAP0min を得た。
【0074】
<実施例14>四面体パラジウムコロイドを用いるC-C結合生成反応
パイレックス(登録商標)フラスコに溶媒DMF5mlを入れ、これに、臭化ベンゼン(1.0mmol)、フェニルほう酸(1.5mmol)および炭酸カルシウム(2.0mmol)を添加して、フラスコ内部をアルゴンガスで置換し攪拌混合した後、オイルバスで加熱昇温し液温130℃迄昇温し、これに実施例3で得られたパラジウムコロイドを0.11ml (Pd換算0.01mmol)添加した。アルゴン流通下130℃で8時間攪拌保持した。室温まで放冷後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)して目的生成物ビフェニルを収率99%で得た。結果を表1に示す。反応スキームは下記のとおりである。
【0075】
【化1】

【0076】
<実施例15>四面体パラジウムコロイドを用いるC-C結合生成反応
実施例14において、臭化ベンゼンの代わりに塩化ベンゼン(1.0mmol)を用いて反応時間を24時間とした以外は実施例14と同様に処理してビフェニルを収率31%で得た。結果を表1に示す。
【0077】
<比較例1>球形パラジウムコロイドを用いるC-C結合生成反応
非特許文献7の方法に従って、以下のように球形パラジウムのPVP保護コロイドを製造した。0.09g の塩化パラジウムと6mlの0.2N塩酸を250mlの脱イオン水に入れ、0.07gのポリビニルピロリドンPVP(アルドリッチ製、分子量40,000)と1N塩酸4滴とを加えて加熱沸騰させ、14mlのエタノールを添加して3時間攪拌保持し、暗褐色のパラジウムコロイド(Pd濃度2mmol/l)を得た。TEM観察で四面体微粒子の割合は10%以下で殆どが球形ナノ粒子であり、平均粒子径は3nmであった。実施例14において、実施例3で得た四面体パラジウムコロイドの代わりにこの球形パラジウムPVP保護コロイドを5ml (Pd換算0.01mmol) 用いた以外は、実施例14と同様に処理してビフェニルを収率27%で得た。結果を表1に示す。
【0078】
<比較例2>球形パラジウムコロイドを用いるC-C結合生成反応
実施例15において、実施例3で得た四面体パラジウムコロイドの代わりに比較例1で得た球形パラジウムPVP保護コロイドをPd換算0.01mmol用いた以外は、実施例15と同様に処理してビフェニルを収率5%で得た。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】


(注)表中のXは上記反応スキーム中のXに該当する。
【0080】
<実施例16>四面体パラジウム担持チタニア触媒を用いるC-C結合生成反応
実施例14において、触媒としてパラジウムコロイドを用いる代わりに、実施例7の四面体パラジウム担持チタニア触媒PCA(DMA)/TiO20minをPd換算0.01mmol用いる以外は、実施例14と同様に処理して、ビフェニルを収率71%で得た。
【0081】
<実施例17>四面体パラジウム担持チタニア触媒を用いるC-C結合生成反応
実施例14において、触媒としてパラジウムコロイドを用いる代わりに、実施例9および実施例10それぞれのパラジウム担持チタニア触媒、すなわち、PCB(DMA)/TiO20minおよびPCB(DMA)/TiO270minを用い、反応時間を5時間とした以外は、実施例14と同様に処理して、ビフェニルをそれぞれ、89%および67%の収率で得た。
【0082】
実施例9の触媒のC-C結合生成反応の前後のFE-SEM像をそれぞれ図8および図9に示す。C-C結合生成反応の後もパラジウムの四面体微粒子が四面体形状、微細な粒子径およびその担体上での分散性を保持していることが確認された。
【0083】
<実施例18>四面体パラジウム担持アルミナ触媒を用いるC-C結合生成反応
実施例14において、触媒としてパラジウムコロイドの代わりに実施例11および12の四面体パラジウム担持アルミナ触媒PCA(NMP)/Al2O30min を用い、反応時間を3時間とした以外は実施例14と同様に処理して生成物ビフェニルをそれぞれ>99%および92%の収率で得た。
【0084】
<比較例3>市販のパラジウム担持アルミナ触媒を用いるC-C結合生成反応
実施例18において、触媒として四面体パラジウム担持アルミナ触媒の代わりに、市販のパラジウム担持アルミナ触媒5%Pd/Al2O3(和光純薬工業製)をPd換算0.01mmol使用した以外は、実施例18と同様に処理して、ビフェニルを収率53%で得た。
【0085】
<実施例19>四面体パラジウム担持ヒドロキシアパタイト触媒を用いるC-C結合生成反応
実施例14において、触媒としてパラジウムコロイドの代わりに実施例13の担持ヒドロキシアパタイト触媒を用い、反応時間を5時間とした以外は、実施例14と同様に処理してビフェニルの収率75%を得た。
【0086】
<実施例20>四面体パラジウムコロイド触媒を用いるアセチレンの水素化反応
パイレックス(登録商標)フラスコに溶媒DMSO 5mlを入れ、これに、フェニルアセチレン(1.0mmol)を添加して、フラスコ内部を水素ガスで置換し攪拌混合した後、オイルバスで加熱昇温し液温40℃迄昇温し、これに実施例7で得られた四面体パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)0min/TiO2の5mg (Pd換算2.5μmol)を添加した。常圧水素流通下3時間後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)してC−C三重結合のみが水素化されて生成したスチレンを収率96%で得た。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の四面体金属微粒子の生成のスキームを示す。
【図2】本発明の四面体パラジウムコロイドPCA(DMA)5minの電子顕微鏡写真(HR-TEM像)を示す。
【図3】本発明の四面体パラジウムコロイドPCA(DMA)70minの電子顕微鏡写真(HR-TEM像)を示す。
【図4】本発明の四面体パラジウムコロイドPCB(DMA)0minの電子顕微鏡写真(HR-TEM像)を示す。
【図5】本発明の四面体パラジウムコロイドPCB(DMA)70minの電子顕微鏡写真(HR-TEM像)を示す。
【図6】(A)および(B)は本発明の四面体パラジウム担持触媒PCA(DMA)/TiO20minの電子顕微鏡写真(それぞれHR-TEM像およびFE-SEM像)を示す。
【図7】(A),(B)および(C)は本発明の四面体パラジウム担持触媒PCA(DMA)/TiO270minの電子顕微鏡写真(それぞれHR-TEM像、FE-SEM像、および高倍率のHR-TEM像)を示す。
【図8】本発明の四面体パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)/TiO20minのC-C結合生成反応前の電子顕微鏡写真(FE-SEM像)を示す。
【図9】本発明の四面体パラジウム担持チタニア触媒PCB(DMA)/TiO20minのC-C結合生成反応後の電子顕微鏡写真(FE-SEM像)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四面体の形状の粒子を60〜100%の割合で含有するパラジウム微粒子。
【請求項2】
四面体の形状の粒子を72〜95%の割合で含有するパラジウム微粒子
【請求項3】
平均粒径が0.5〜100nmの範囲にある請求項1又は2に係るパラジウム微粒子。
【請求項4】
平均粒径が1〜50nmの範囲にある請求項1、2または3に係るパラジウム微粒子。
【請求項5】
平均粒径が1〜30nmの範囲にある請求項1、2または3に係るパラジウム微粒子。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載のパラジウム微粒子を溶媒中に均一に分散してなるパラジウムコロイド。
【請求項7】
溶媒が非プロトン性の極性溶媒である請求項6に係るパラジウムコロイド
【請求項8】
有機高分子保護剤を含まない請求項6または7に係るパラジウムコロイド
【請求項9】
界面活性剤を含まない請求項6または7に係るパラジウムコロイド
【請求項10】
保護剤を含む請求項6または7に係るパラジウムコロイド
【請求項11】
請求項1、2、3、4または5に記載の微粒子が、セラミックス、カーボンおよび有機ポリマーの少なくとも一つを含む担体の表面及び/または細孔に分散担持されてなる担持触媒。
【請求項12】
前記担体が、チタニア、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、またはカーボンである請求項11に係る触媒。
【請求項13】
請求項1、2、3、4または5に記載の微粒子が、請求項6、7、8、9または10のコロイドの状態で、或は、請求項11または12の担持触媒の状態で、炭素―炭素結合生成反応、水素添加反応、水素化分解反応、酸化反応、及び脱水素反応のうちの少なくともひとつに用いられる触媒。
【請求項14】
4核の前駆体金属錯体を溶媒中に溶解して均一溶液を得、この均一溶液中で金属錯体を分解することにより形状選択的に四面体粒子を生成させる金属微粒子の製造方法。
【請求項15】
該前駆体金属錯体の分解を、酸素含有雰囲気中で行うことを特徴とする請求項14に係る製造方法。
【請求項16】
該前駆体金属錯体がカルボニル配位子を含む請求項14または15に係る製造方法。
【請求項17】
該前駆体金属錯体が脂肪族又は芳香族のカルボキシレート配位子を含む請求項14,15、または16に係る製造方法。
【請求項18】
該前駆体金属錯体を非プロトン性の極性溶媒に溶解することを特徴とする請求項14、15、16、または17に係る製造方法。
【請求項19】
該極性溶媒がカルボン酸アミドである請求項18に係る製造方法。
【請求項20】
金属がパラジウムである請求項14、15、16、17,18または19に係る製造方法。
【請求項21】
請求項6、7、8または9のコロイドと、セラミックス、カーボンおよび有機高分子の少なくとも一つを含む担体とを接触させてなる請求項11、12、または13に記載の触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−239054(P2007−239054A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64813(P2006−64813)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月18日 Co−Sponsoring;American Chemical Society,Chemical Society of Japan Canadian Society for Chemistry,Korean Chemical Society,New Zealand Institute of Chemistry,The Royal Australian Chemical Institute 主催の「2005 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月4日 インターネットアドレス「http://www.chemistry.or.jp/journals/chem−lett/cl−cont/advanceview.html」に発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】