説明

回路劣化試験装置および回路劣化試験方法

【課題】高温の耐イオンマイグレーション性試験を行っても駆動源の故障が少ない回路劣化試験装置および回路劣化試験方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る回路劣化試験装置1は、可撓性を有する配線板60を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構10と、屈曲運動付与機構10を駆動する駆動源31と、配線板60の絶縁された回路間に電圧を印加する電圧印加手段40と、配線板60の絶縁された回路間の電気抵抗を測定する絶縁抵抗測定手段50と、屈曲運動付与機構10を収容した恒温槽35とを備え、駆動源31は恒温槽35外に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路劣化試験装置および回路劣化試験方法、特にイオンマイグレーションを発生させる雰囲気中でフレキシブルプリント配線板を連続して屈曲させつつフレキシブルプリント配線板の電気抵抗を測定することができる回路劣化試験装置および回路劣化試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板は、ポリイミド等の可撓性を有する絶縁層の表面に銅箔を張り合わせた後、銅箔をエッチングする等により回路を形成したものである。
【0003】
フレキシブルプリント配線板は、高い可撓性を有するため、ヒンジ部を有する折りたたみ式の携帯電話機、ノートパソコンや、可動部を有するHDDやプリンタ等の電子機器に用いられる。
【0004】
折りたたみ式の携帯電話機やノートパソコン等は、通常、本体と蓋体とがヒンジ部で接続されている。フレキシブルプリント配線板は、たとえば、ヒンジ部内に、ヒンジ部の形状に沿って丸めて挿入されることにより、本体と蓋体とを電気的に接続することができるようになっている。
【0005】
HDDでは、フレキシブルプリント配線板は、高速で移動するスイングアームに接続され、スイングアームの動作に追従可能になっている。
【0006】
フレキシブルプリント配線板は、水分の存在等に起因して、横方向に隣接した回路間でイオンマイグレーションによるデンドライトが発生し、回路間にデンドライトが掛け渡されて回路の短絡が生じることがある。また、多層フレキシブルプリント配線板の場合には、絶縁層を介して深さ方向に隣接する回路層間にもイオンマイグレーションによるデンドライトが発生して短絡するおそれがある。
【0007】
イオンマイグレーションは、リジッドプリント配線板でも生じる。しかし、可撓性を有するフレキシブルプリント配線板では、電子機器の使用中での屈曲により、イオンマイグレーションがより発生しやすくなる。
【0008】
屈曲によるイオンマイグレーションの発生の増加は、イオンマイグレーションの発生を抑制するポリイミド等の樹脂層が、フレキシブルプリント配線板の屈曲により、回路層との間で微小な剥離が生じる等によるものと推測される。
【0009】
また、イオンマイグレーションは、電子機器の使用により、フレキシブルプリント配線板がさらされる80℃程度の高温下では、常温よりも発生しやすくなる。これは、ポリイミド等の樹脂層が、ガラス転移点付近の高温になることにより、イオンマイグレーションの抑制効果が低下するためと推測される。
【0010】
このため、フレキシブルプリント配線板は、イオンマイグレーションの測定のため、高温雰囲気下で、屈曲回数と回路の絶縁抵抗との関係を示す耐イオンマイグレーション性を測定することが必要になっている。
【0011】
従来、フレキシブルプリント配線板の耐屈曲性を測定する装置としては、たとえば、特許文献1(特開平4−121639号公報)に開示されたものが知られている。
【0012】
特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板の耐屈曲性測定装置は、フレキシブルプリント配線板の一方側を固定翼に固定させ、その他方側を可動翼に接合固定させる装置である。可動翼は固定翼と一定間隔を隔てて対向配置され、固定されたフレキシブルプリント配線板を0°から180°の曲げ角度に繰り返し折り曲げ可能になっている。フレキシブルプリント配線板の導体には、定電流が通電され、抵抗上昇が検出されるようになっている。
【0013】
特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板の耐屈曲性測定装置によれば、フレキシブルプリント配線板の0°から180°までの曲げ作業を機械で自動かつ連続して行うことができる。
【特許文献1】特開平4−121639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板の耐屈曲性測定装置は、常温下で、連続した屈曲で回路内に生じたクラック等により回路の絶縁抵抗が高くなることを測定するものである。
【0015】
すなわち、特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板の耐屈曲性測定装置は、高温下で、隣接する回路間に生じたデンドライト等により回路間の絶縁抵抗がゼロになることを測定する耐イオンマイグレーション性を測定するものではない。
【0016】
また、特許文献1に開示されたフレキシブルプリント配線板の耐屈曲性測定装置を、耐イオンマイグレーション性の測定のために、このまま恒温槽中に載置すると、可動翼の開閉操作等を行う駆動源等が、恒温槽中の高温高湿により故障を生じやすい。
【0017】
本発明は、高温の耐イオンマイグレーション性試験を行っても駆動源の故障が少ない回路劣化試験装置および回路劣化試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る回路劣化試験装置は、上記課題を解決するものであり、可撓性を有する配線板を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構と、この屈曲運動付与機構を駆動する駆動源と、前記配線板の絶縁された回路間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記配線板の前記絶縁された回路間の電気抵抗を測定する絶縁抵抗測定手段と、前記屈曲運動付与機構を収容した恒温槽とを備え、前記駆動源は前記恒温槽外に配置されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る回路劣化試験方法は、上記課題を解決するものであり、可撓性を有する配線板を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構を恒温槽内に配置するとともに、駆動源を前記恒温槽外に配置し、前記屈曲運動付与機構に前記配線板を取り付け、前記駆動源で前記屈曲運動付与機構を駆動してこの配線板を繰り返し屈曲させるとともに、前記配線板の絶縁された回路間に電圧を印加し、前記配線板の前記絶縁された回路間の電気抵抗を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温の耐イオンマイグレーション性試験を行っても駆動源の故障が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る回路劣化試験装置の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る回路劣化試験装置を示す断面図である。図2は、本発明に係る回路劣化試験装置の一部を示す斜視図である。
【0023】
回路劣化試験装置1は、恒温槽35内に、可撓性を有する配線板60を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構10が配置される。
【0024】
ここで、可撓性を有する配線板60とは、銅箔等から形成された回路層とポリイミド等の樹脂から形成された絶縁層とが積層されてなる、可撓性を有する回路基板を意味する。配線板60は、回路層が単層であっても多層であってもよい。配線板60は、回路層が多層である場合は、回路層間に絶縁層が形成される。
【0025】
配線板60としては、たとえば、フレキシブルプリント配線板(FPC)、フレキシブルフラットケーブル(FFC)等のフレキシブル配線板が用いられる。
【0026】
図3は、配線板60である矩形のフレキシブルプリント配線板の一例を模式的に示す平面図である。
【0027】
配線板60は、配線板60の一方端61側の幅広基部63から他方端62側に向かって櫛歯状に延びる細線状の回路層65aおよび65bが設けられる。また、配線板60は、配線板60の他方端62側の幅広基部64から一方端61側に向かって櫛歯状に延びる細線状の回路層66a、66bおよび66cが設けられる。
【0028】
一方の櫛歯状の回路層65aおよび65bと、他方の櫛歯状の回路層66a、66bおよび66cとは交互に噛み合う。
【0029】
櫛歯状の回路層65aおよび65bと、櫛歯状の回路層66a、66bおよび66cとの間にはジクザグ状の絶縁層67が形成され、櫛歯状の回路層同士は絶縁される。すなわち、配線板60は、配線板60の表面に平行な方向で隣接する回路間の少なくとも一部が絶縁層67で絶縁される。
【0030】
また、配線板60は、回路層が図示しない多層構造である場合には、さらに、配線板60の表面に垂直な深さ方向で隣接する回路間の少なくとも一部も絶縁層で絶縁される。
【0031】
イオンマイグレーションは、配線板60の表面に平行な方向で隣接する回路間にある絶縁層67や、配線板60の表面に垂直な深さ方向で隣接する回路間にある絶縁層で生じることがある。
【0032】
図4は、配線板(フレキシブルプリント配線板)60にイオンマイグレーションが発生した様子の一例を模式的に示す平面図である。
【0033】
図4に示す配線板60は、幅広基部63から延設された細線状の回路層65bと、幅広基部64から延設された細線状の回路層66aとの間に、回路層66aからのイオンマイグレーションにより発生したデンドライト68が掛け渡されている。回路層65bと回路層66aは、このデンドライト68により短絡している。
【0034】
屈曲運動付与機構10は、配線板60の一方端の表面が固定される第1の支持板11と、配線板60の他方端の表面が固定される第2の支持板12と、アーム機構20とからなる。
【0035】
第1の支持板11は、恒温槽35内の天井部36に設けられ、表面が螺刻された螺刻ロッド15、15のそれぞれに、ナット16、17で表裏面から締め付けることにより固定される。
【0036】
第1の支持板11は、螺刻ロッド15に対するナット16、17の締め付け位置を変えて、図中の上下方向の任意の高さに固定することができるようになっている。第1の支持板11は、ナット16、17の締め付け位置の変更により、第2の支持板12との離間間隔を調整することができるようになっている。
【0037】
第2の支持板12は、第1の支持板11に対向して平行に配置され、かつ第2の支持板12の表面が第1の支持板11の表面に対して平行に往復するように設けられる。
【0038】
第2の支持板12の表面を、第1の支持板11の表面に対して平行に往復させる方法としては、たとえば、図示しない複数本の案内ロッドを第1の支持板11の表面に対して平行に配置し、第2の支持板12を、この案内ロッドに案内させる方法が挙げられる。
【0039】
第2の支持板12の端部近傍には、アーム機構20の連結アーム21と回動可能に連結するための挿通孔18が形成される。
【0040】
アーム機構20は、第2の支持板12を動かして、第1の支持板11および第2の支持板12に固定された配線板60を繰り返し屈曲させるものである。
【0041】
配線板60は、配線板60の一方端61側の表面が第1の支持板11の表面に固定され、配線板60の他方端62側の表面が第2の支持板12の表面に固定される。
【0042】
配線板60を第1の支持板11の表面および第2の支持板12の表面に固定する方法としては、たとえば、IPC−FC241C、JIS−C5016等に準拠した屈曲試験機等に用いられる公知の方法を採用することができる。
【0043】
アーム機構20は、駆動源31で駆動されて回転する回転盤22と、回転盤22の表面に回動可能に取り付けられ、回転盤22の回転運動を往復運動に変換して第2の支持板12を動かす連結アーム21とから構成される。
【0044】
駆動源31としては、駆動モータ、アクチュエータ等が用いられる。
【0045】
駆動源31は、恒温槽35内の温度、湿度や腐食ガス等により故障することを防ぐため、恒温槽35外に配置される。恒温槽35外の駆動源31と恒温槽35内の回転盤22とは、恒温槽35の底面37の貫通穴47を貫通して恒温槽35内に延設される駆動軸32で接続される。
【0046】
回転盤22は、全体が円盤状であり、駆動源31から突き出た駆動軸32の先端部が円盤の背面側の中心部に取り付けられる。回転盤22は、駆動源31の駆動により回転可能になっている。回転盤22の表面の一部には、連結アーム21を取り付けるための挿通孔44が設けられる。
【0047】
連結アーム21の一方端21a近傍には、連結アーム21を回転盤22の表面に取り付けるための挿通孔45が設けられる。
【0048】
連結ピン24が、回転盤22の挿通孔44と、回転盤22の表面上に配置された連結アーム21の挿通孔45とに挿入され、連結ピン24の先端部にナット26が取り付けられると、連結アーム21が回転盤22の表面上に取り付けられる。
【0049】
連結ピン24は、回転盤22と連結アーム21の間にワッシャ25を介在させた状態で挿通される。ワッシャ25を介在させることにより、連結アーム21は、回転盤22に直接接触せず、回転盤22に対して連結ピン24を中心にして回動可能になっている。
【0050】
回転盤22の挿通孔44および連結アーム21の挿通孔45と、挿通される連結ピン24との間には、図示しないベアリング等が介在される。これにより、連結アーム21は、連結ピン24を中心にして回転盤22に対してスムーズに回動可能になっている。
【0051】
連結アーム21は、連結ピン24を中心にして回転盤22に対して回動可能であるため、回転盤22の回転運動を、第2の支持板12の往復運動に変換することができるようになっている。
【0052】
連結アーム21の他方端21b近傍には、第2の支持板12の端部に取り付けるための挿通孔46が設けられる。
【0053】
連結アーム21の挿通孔46と、第2の支持板12の挿通孔46とに連結ピン27が挿入され、連結ピン27の先端部にナット29が取り付けられると、連結アーム21に第2の支持板12が取り付けられる。
【0054】
連結ピン27は、連結アーム21と第2の支持板12との間にワッシャ28を介在させた状態で挿通される。ワッシャ28を介在させることにより、第2の支持板12は、連結アーム21に直接接触せず、連結アーム21に対して連結ピン27を中心にして回動可能になっている。
【0055】
連結アーム21の挿通孔46および第2の支持板12の挿通孔18と、挿通される連結ピン27との間には、図示しないベアリング等が介在される。これにより、第2の支持板12は、連結ピン27を中心にして連結アーム21に対してスムーズに回動可能になっている。
【0056】
第2の支持板12は、回転盤22の回転運動を往復運動に変換する連結アーム21に接続されるとともに、図示しない案内ロッド等により表面が第1の支持板11の表面に対して平行に往復するように規制される。
【0057】
このため、第2の支持板12は、駆動源31の回転に伴い、第1の支持板11の表面に対して連続して平行に往復するようになっている。
【0058】
第2の支持板12の周辺には、第2の支持板12の往復回数、すなわち、配線板60の屈曲回数をカウントするカウンターが適宜設けられる。
【0059】
第1の支持板11および第2の支持板12に固定された配線板60の絶縁された回路間には、電圧を印加する電圧印加手段40と電気抵抗を測定する絶縁抵抗測定手段50とが接続される。
【0060】
ここで、絶縁された回路間とは、配線板60の表面に平行な方向で絶縁層を介して隣接する回路間および、配線板60の表面に垂直な深さ方向で絶縁層を介して隣接する回路間の少なくともいずれかを意味する。
【0061】
電圧印加手段40としては、たとえば、定電流装置等の公知の手段を用いることができる。また、絶縁抵抗測定手段50としては、たとえば、絶縁抵抗計等の公知の手段を用いることができる。
【0062】
電圧印加手段40および絶縁抵抗測定手段50は、通常、電圧印加手段40および絶縁抵抗測定手段50が配線板60にそれぞれ独立の接続端子を有する4端子法で接続する。4端子法を用いると、電圧印加手段40および絶縁抵抗測定手段50が端子を共有する2端子法に比べて配線板60の絶縁抵抗を正確に測定することができる。
【0063】
4端子法による配線板60への接続は、たとえば、配線板60の表面にはんだ付け端子41、42、51および52を設け、はんだ付け端子41および42と電圧印加手段40のプラス端子およびマイナス端子とを接続し、はんだ付け端子51および52と絶縁抵抗測定手段50のプラス端子およびマイナス端子とを接続する方法が用いられる。
【0064】
はんだ付け端子41、42、51および52は、必要により、プローブピン等としてもよい。配線板60の端子41、42、51および52が、はんだ付け端子であると接触抵抗が少ない点で好ましく、プローブピンであるとはんだ付けが不要であるという点で好ましい。
【0065】
恒温槽35は、槽内の少なくとも温度を一定に保つ機能を有する筐体である。恒温槽35には、適宜、図示しない扉が設けられる。電子機器中のフレキシブルプリント配線板はたとえば80℃程度の高温下で用いられることがあり、イオンマイグレーションは、高温になるほど発生しやすいため、恒温槽35を用いることにより電子機器中のフレキシブルプリント配線板におけるイオンマイグレーションの発生状況を再現しやすくなる。
【0066】
次に、回路劣化試験装置1の作用について図面を参照して説明する。
【0067】
はじめに、図3に示す配線板60を、回路層66a等が内側になるように断面U字状に屈曲させた状態で、第1の支持板11および第2の支持板12の表面に取り付ける。
【0068】
次に、配線板60と電圧印加手段40、および配線板60と絶縁抵抗測定手段50を、はんだ付け端子41、42、51および52で接続する。
【0069】
すなわち、配線板60の一方端61側の幅広基部63に電圧印加手段40に接続するはんだ付け端子41を作製し、他方端62側の幅広基部64に電圧印加手段40に接続するはんだ付け端子42を作製する。
【0070】
また、配線板60の一方端61側の幅広基部63に絶縁抵抗測定手段50に接続するはんだ付け端子51を作製し、他方端62側の幅広基部64に絶縁抵抗測定手段50に接続するはんだ付け端子52を作製する。
【0071】
次に、恒温槽35内の温度を所定の温度に保ち、配線板60に電圧印加手段40で電圧を印加し、絶縁抵抗測定手段50で絶縁抵抗を測定する。
【0072】
配線板60にイオンマイグレーションが発生していない状態では、回路層65aおよび65bと、回路層66a、66bおよび66cとの間に電気が流れないため、配線板60の絶縁抵抗は非常に高くなっている。
【0073】
さらに、駆動源31を回転させて、回転盤22を矢印Pの向きに回転させると、連結アーム21および第2の支持板12が、それぞれ矢印Qおよび矢印Rに示す往復運動を行う。
【0074】
第2の支持板12が矢印Rに示す往復運動を行うと、配線板60は、図5に示すように、断面U字状に屈曲したまま屈曲部分を変えて符号Sの方向に往復運動を行う。配線板60は、この符号Sの方向の往復運動により連続して屈曲動作を受ける。屈曲回数は、図示しないカウンターでカウントされる。
【0075】
所定の温度下で屈曲試験を連続的に行い、イオンマイグレーションが発生して回路層65bと回路層66aとの間に図4に示すようなデンドライト68が掛け渡されると、回路層65bと回路層66aとが短絡し、絶縁抵抗は非常に小さくなる。絶縁抵抗が所定値以下になった時点で耐イオンマイグレーション性試験を終了する。この時点の屈曲回数は、図示しないカウンターでカウントされている。
【0076】
なお、耐マイグレーション性試験中、恒温槽35内は高温下にあるが、第2の支持板12を駆動する駆動源31は恒温槽35の外に配置されるから、駆動源31が高温下にさらされて故障を起こすことがない。
【0077】
回路劣化試験装置1によれば、高温の耐イオンマイグレーション性試験を行っても駆動源の故障が少ない。
【0078】
回路劣化試験装置1は、第1の支持板11の固定を、螺刻ロッド15にナット16、17で締め付ける以外の公知の方法で行ってもよい。
【0079】
回路劣化試験装置1は、第1の支持板11をアーム機構20で第2の支持板12の表面に対して平行に動かす構成にしてもよい。第1の支持板11および第2の支持板12を平行方向の逆方向にそれぞれ動かすようにすると、配線板60に同じ屈曲ストロークを加える場合に、第1の支持板11および第2の支持板12の往復ストロークをたとえば半分に減少させることができ、省スペース性に優れるため好ましい。
【0080】
恒温槽35は、温度に加えて湿度も一定にすることが可能な恒温恒湿槽としてもよい。イオンマイグレーションは、一般的に空気中の水分が多いと発生しやすくなるため、イオンマイグレーション発生の加速試験を行うことができる。
【0081】
駆動源31は恒温恒湿槽の外に配置されるから、駆動源31が高温高湿下にさらされて故障を起こすことがない。
【0082】
恒温槽35は、腐食性ガスの封入が可能である構成としてもよい。イオンマイグレーションは、一般的に腐食性ガス雰囲気で発生しやすくなるため、イオンマイグレーション発生の加速試験を行うことができる。腐食性ガスとしては、たとえば、HS,SO,NO,Cl、もしくはこれらの混合ガス等が用いられる。
【0083】
駆動源31は恒温槽35の外に配置されるから、駆動源31が腐食性ガス雰囲気にさらされて故障を起こすことがない。
【0084】
[第2の実施形態]
次に本発明に係る回路劣化試験装置の第2の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0085】
図6は、本発明に係る回路劣化試験装置の第2の実施形態の一部を示す斜視図である。
【0086】
第2に示された実施形態の回路劣化試験装置1Aは、第1の実施形態に示された回路劣化試験装置1に対し、屈曲運動付与機構10を屈曲運動付与機構10Aに代えた点、および、駆動源31の取り付け位置を回路劣化試験装置1の恒温槽35の底面37下から恒温槽35の背面38の裏に変更した点以外の構成および作用は、回路劣化試験装置1と同様である。このため、第2に示された実施形態の回路劣化試験装置1Aは第1に示された実施形態の回路劣化試験装置1と同じ部材に同じ符号を付し、回路劣化試験装置1Aの説明を省略または簡略化する。
【0087】
回路劣化試験装置1Aの屈曲運動付与機構10Aは、回動盤71と、チャック機構72とからなる。
【0088】
回動盤71は、駆動軸32を介して駆動源31で駆動され、可逆回転(図6中、符号U)を連続して行うことが可能になっている。
【0089】
駆動源31は、恒温槽35内の温度、湿度や腐食ガス等により故障することを防ぐため、恒温槽35外に配置される。恒温槽35外の駆動源31と恒温槽35内の回動盤71とは、恒温槽35の背面38の貫通穴48を貫通して恒温槽35内に延設される駆動軸32で接続される。
【0090】
回動盤71の表面には、チャック機構72が設けられる。チャック機構72は、チャック部材72aおよび72bからなる。チャック部材72aと72bとの間には、配線板60を表裏両面から挟み込む挟持部73が設けられる。
【0091】
チャック部材72aおよび72bには、それぞれ、ラウンド加工された先端部74aおよび74bが設けられる。このため、チャック機構72は、一対の先端部74a、74bを有する。
【0092】
チャック機構72の一対の先端部74a、74bは、それぞれ、回動盤71の表面の回動中心の近傍に設けられる。
【0093】
チャック機構72の挟持部73は、隣接するチャック部材72aとチャック部材72bとの間に形成されたスリット状の空間が、一対の先端部74a、74bから回動盤71の表面の径方向に向かって形成される。このため、チャック機構72の挟持部73は、回動盤71の表面の回動中心よりも周辺部に設けられる。
【0094】
チャック機構72には、配線板60の厚さに応じて挟持部73の離間間隔を調整する調整ねじ77が設けられる。
【0095】
次に、回路劣化試験装置1Aの作用について図面を参照して説明する。
【0096】
はじめに、図3に示す配線板60の一方端61をチャック機構72の挟持部73で挟み込み、配線板60の他方端62を図示しない挟持部材で挟み込む。配線板60には、図示しない挟持部材側から所定の荷重で引っ張られることにより、図6中の符号Tの向きに張力が生じ、弛まないようになっている。
【0097】
次に、配線板60と電圧印加手段40、および配線板60と絶縁抵抗測定手段50を、はんだ付け端子41、42、51および52で接続する。
【0098】
さらに、恒温槽35内の温度を所定の温度に保ち、配線板60に電圧印加手段40で電圧を印加し、絶縁抵抗測定手段50で絶縁抵抗を測定する。
【0099】
配線板60にイオンマイグレーションが発生していない状態では、回路層65aおよび65bと、回路層66a、66bおよび66cとの間に電気が流れないため、配線板60の絶縁抵抗は非常に高くなっている。
【0100】
次に、駆動源31を回転させて、回動盤71を矢印Uの向きに可逆回転を連続して行わせる。回動盤71が正回転をしたときは、配線板60は、チャック部材72aの先端部74aに当接し、先端部74aを支点とした屈曲運動を行う。
【0101】
一方、回動盤71が逆回転をしたときは、配線板60は、チャック部材72bの先端部74bに当接し、先端部74bを支点とした屈曲運動を行う。
【0102】
このため、回動盤71が可逆回転を連続して行うと、配線板60は、先端部74aを支点とした屈曲運動と、先端部74bを支点とした屈曲運動とを交互に連続して行う。屈曲回数は、図示しないカウンターでカウントされる。
【0103】
所定の温度下で屈曲試験を連続的に行い、イオンマイグレーションが発生した後の作用は、回路劣化試験装置1と同じであるため、説明を省略する。
【0104】
回路劣化試験装置1Aによれば、高温の耐イオンマイグレーション性試験を行っても駆動源の故障が少ない。また、回路劣化試験装置1Aは、配線板60の表裏両面に屈曲させることができ、回路劣化試験装置1よりも過酷な条件で屈曲試験を行うため、回路劣化試験装置1よりも耐イオンマイグレーション性試験の結果を早く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に係る回路劣化試験装置の第1の実施形態を示す断面図。
【図2】本発明に係る回路劣化試験装置の第1の実施形態の一部を示す斜視図。
【図3】配線板である矩形のフレキシブルプリント配線板の一例を模式的に示す平面図。
【図4】配線板である矩形のフレキシブルプリント配線板にイオンマイグレーションが発生した様子の一例を模式的に示す平面図。
【図5】本発明に係る回路劣化試験装置の第1の実施形態の動作を説明する図。
【図6】本発明に係る回路劣化試験装置の第2の実施形態の一部を示す斜視図。
【符号の説明】
【0106】
1 回路劣化試験装置
10、10A 屈曲運動付与機構
11 第1の支持板
12 第2の支持板
15 螺刻ロッド
16、17 ナット
18 挿通孔
20 アーム機構
21 連結アーム
21a 連結アームの一方端
21b 連結アームの他方端
22 回転盤
24、27 連結ピン
25、28 ワッシャ
26、29 ナット
31 駆動源
32 駆動軸
35 恒温槽
36 恒温槽の天井部
37 恒温槽の底面部
38 恒温槽の背面部
40 電圧印加手段
41、42、51、52 はんだ付け端子
43、44、45 挿通孔
47、48 貫通穴
50 絶縁抵抗測定手段
60 配線板
61 配線板の一方端
62 配線板の他方端
63、64 配線板の幅広基部
65a、65b、65c、66a、66b、66c 配線板の回路層
67 配線板の絶縁層
68 デンドライト(イオンマイグレーション発生部)
71 回動盤
72 チャック機構
72a、72b チャック部材
73 チャック機構の挟持部
74、74a、74b チャック部材の先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する配線板を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構と、
この屈曲運動付与機構を駆動する駆動源と、
前記配線板の絶縁された回路間に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記配線板の前記絶縁された回路間の電気抵抗を測定する絶縁抵抗測定手段と、
前記屈曲運動付与機構を収容した恒温槽とを備え、
前記駆動源は前記恒温槽外に配置されることを特徴とする回路劣化試験装置。
【請求項2】
前記屈曲運動付与機構は、
前記配線板の一方端の表面が固定される第1の支持板と、
この第1の支持板に対向して配置され、前記配線板の他方端の表面が固定される第2の支持板と、
前記第1の支持板および第2の支持板の少なくとも一方を動かして、前記第1の支持板および第2の支持板に固定された前記配線板を繰り返し屈曲させるアーム機構とからなることを特徴とする請求項1記載の回路劣化試験装置。
【請求項3】
前記第2の支持板は、前記第1の支持板に対向して平行に配置されるとともに、前記第1の支持板の表面に対して平行に往復するように設けられ、
前記アーム機構は、前記第2の支持板を前記第1の支持板の表面に対して平行に往復させることを特徴とする請求項2記載の回路劣化試験装置。
【請求項4】
前記屈曲運動付与機構は、
可逆回転を連続して行う回動盤と、
この回動盤の表面に設けられ、前記配線板を表裏両面から挟み込む挟持部およびラウンド加工された一対の先端部を有するチャック機構とからなり、
このチャック機構は、前記先端部が前記回動盤の表面の回動中心近傍に設けられるとともに、前記挟持部が前記回動盤の表面の回動中心よりも周辺部に設けられることを特徴とする請求項1記載の回路劣化試験装置。
【請求項5】
前記恒温槽は、恒温恒湿槽であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の回路劣化試験装置。
【請求項6】
前記恒温槽は、腐食性ガスの封入が可能であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の回路劣化試験装置。
【請求項7】
可撓性を有する配線板を繰り返し屈曲させる屈曲運動付与機構を恒温槽内に配置するとともに、駆動源を前記恒温槽外に配置し、
前記屈曲運動付与機構に前記配線板を取り付け、
前記駆動源で前記屈曲運動付与機構を駆動してこの配線板を繰り返し屈曲させるとともに、前記配線板の絶縁された回路間に電圧を印加し、
前記配線板の前記絶縁された回路間の電気抵抗を測定することを特徴とする回路劣化試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−8742(P2008−8742A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179250(P2006−179250)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】