説明

回路基板およびその製造方法

【課題】
液晶ポリマーを絶縁体シートとして有する回路基板であって液晶ポリマーフィルムの脆化が抑制され耐久性に優れるものと、その様な回路基板を製造するための方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る回路基板の製造方法は、当該回路基板を構成する絶縁体シートのうち、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い、当該液晶ポリマーフィルムを熱圧着するに当たり、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いることを特徴とする。また、本発明の回路基板は、当該方法により製造されるものであって、耐久性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマーフィルムを用いた回路基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、導体と絶縁体から構成されるものであり、絶縁体シートの片面に回路が形成されている片面板、両面に回路が形成されている両面板、および複数の絶縁体シートからなり3層以上の回路が形成されている多層板に分類される。この絶縁体としては、従来、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂など高耐熱性を有する樹脂をガラスクロスに含浸させた複合材料からなるもの等が用いられてきた。
【0003】
斯かる従来技術において、多層板は、先ず基材に樹脂を含浸して半硬化させたプリプレグを製造した上で、片面または両面に回路パターンを形成したコアシート等と共に積層し、熱圧着するなどして製造される。また、コアシートとして厚めのガラスエポキシ基板を用い、ここへ銅箔に樹脂を塗布してBステージ化したものを張り合わせた積層体を熱圧着する場合もある。この際、熱圧着装置の熱圧部と積層体との間には、剥離を容易にするために離型材を挟む。
【0004】
この離型材として、特許文献1には多孔質フッ素樹脂シートからなる離型材(ホットプレス積層用離型保護シート)が開示されている。当該技術では、クッション性を有する離型材によって、異物の存在によるくぼみの解決が図られている。また、回路基板に関するものではないが、熱硬化性樹脂と補強材からなるプリプレグを用いてプレス成形する際の離型材として、特許文献2には、多孔質樹脂フィルムからなり通気性等を有する離型材(離型フィルム)が記載されている。当該技術では、多孔質の離型材によりガス抜きが可能になるとされている。
【0005】
ところで、先に述べた回路基板としての絶縁体シートに用いられる樹脂は非熱可塑性のものであるため、加熱により溶融することができない。従って、回路を形成する銅、ガラス繊維や樹脂などを効率的に分離することができないことからリサイクルは困難であり、資源の有効利用や環境保護の観点から満足できるものではない。また、いったんプリプレグを経由した上で多層回路基板を製造するという方法は、決して効率的といえるものではない。
【0006】
その他の絶縁体シートとしては、ポリイミドなどの非熱可塑性樹脂からなるフィルムを使用した回路基板も開発されている。しかし、斯かる技術ではプリプレグを用いる必要はないもののリサイクルが困難である点はかわらず、また、積層するに当たっては接着剤が必要となる場合があるため、やはり効率的ではない。その上、接着剤の使用は電気特性を貶める原因となる。
【0007】
一方、基板材料として熱可塑性樹脂からなるものを用いれば、加熱により溶融させることができるため、リサイクルが可能になる。さらに、シートを積層した後に熱圧着して樹脂を溶融軟化させることによって、接着剤を用いることなく各シートを簡便に融着させることができる。そこで近年、熱可塑性樹脂を基板材料として用いた回路基板の開発が行なわれており、全ての絶縁材料を熱可塑性樹脂としたオール熱可塑性回路基板など、絶縁材料として熱可塑性樹脂を用いた回路基板に関する技術も開発されている。
【0008】
例えば特許文献3には、熱可塑性樹脂からなるフィルムに回路パターンを形成したものを積層し、これを熱圧着するに当たって、熱圧着装置の熱圧部と積層体との間に緩衝材を配置する技術が開示されている。この緩衝材は、金属繊維等を板状に成形したものであり、回路パターンの部分的な存在の有無による局所的な応力集中を抑制できる。その結果、回路パターンの位置ずれという問題を解決することができる。また、樹脂フィルム間に残ったエアを放出することによって、ボイドの発生を抑制するという効果も有する。さらに、この緩衝材と熱圧着装置の熱圧部との間に離型材を配置してもよいとの記載もある。
【0009】
ところで、熱可塑性樹脂の中でも、低吸水性、耐熱性、電気特性および寸法安定性に優れたものとして、液晶ポリマーを主要成分とするフィルム(以下、「液晶ポリマーフィルム」という)が注目されている。この液晶ポリマーフィルムは、回路基板のカバーシートやコアシートとして利用することができる。
【0010】
特に、近年における情報処理の高速化に対応するためには誘電率を低減することが必要であり、また、伝送時の損失を低減するためには誘電正接(誘電損失)の少ない材料を使用することが効果的である。液晶ポリマーはこれら特性に優れる上に、電気特性を貶める原因となる接着剤を使用することなくカバーシートを形成したり、多層回路基板を構成することができる。
【特許文献1】特開平4−179520号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−31744号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開平2003−273511号公報(請求項1、3、5、段落[0051]、[0073]、[0142])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に、特許文献3には、熱可塑性樹脂フィルムを構成要素とする積層回路基板を製造するための技術が開示されている。しかし、特許文献3で主に用いられている熱可塑性樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とポリエーテルイミド樹脂との混合物であり、液晶ポリマーの記載もあるが単なる例示にすぎない。また、離型材としてポリテトラフルオロエチレンも例示されているが、この樹脂等自体は多孔質ではなく、熱圧着時に生じたガスを放出することはできない上に、当該技術ではむしろポリイミドの使用が推奨されている。さらに、当該技術では緩衝材と離型材として別の材料を用いているが、回路面に直接接する離型材にクッション性がなければ、特に微細な回路を有する基板を製造する場合には、たとえ離型材を用いても回路の変形などの問題が生じ得る。また、緩衝材と離型材の両方を用いる場合には両者にシワが発生し易く、このシワが回路基板に転写されてしまうおそれがある。
【0012】
また、特許文献1と2には、離型材として多孔質のポリテトラフルオロエチレンシート(フィルム)が記載されている。しかし、これら技術で使用されている熱圧着されるべき材料は、ガラスクロス等にエポキシ樹脂やポリイミド樹脂を含浸させたプリプレグであり、液晶ポリマーフィルムについては記載も示唆もされていない。
【0013】
つまり、液晶ポリマーフィルムを絶縁体材料とし、液晶ポリマーフィルムを溶融軟化させてシート同士を一体化することにより回路基板を製造する場合に、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いた例はなかった。
【0014】
斯かる状況下、例えば、積層体の最表面に液晶ポリマーフィルムを配して熱圧着する場合、離型材としてポリイミド等からなるフィルムを用いると、当該液晶ポリマーフィルムが著しく脆化することが本発明者により明らかにされた。斯かる脆化は歩留の低下につながるのみでなく、製品寿命が短くなるなど実際の使用の場面で大きな問題となる。
【0015】
そこで、本発明が解決すべき課題は、絶縁体シートとして液晶ポリマーフィルムを有する回路基板であって、液晶ポリマーフィルムの脆化が抑制され耐久性に優れるものと、その様な回路基板を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく、回路基板の製造工程における液晶ポリマーフィルムの熱圧着条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、従来技術における表面液晶ポリマーフィルムの脆化は、離型材や当該液晶ポリマーフィルム自体に由来する水による加水分解反応が原因であり、この反応を抑制する条件を採用すれば上記課題を解決できることを見出して本発明を完成した。
【0017】
即ち、本発明に係る回路基板の製造方法は、当該回路基板を構成する絶縁体シートのうち、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い、当該液晶ポリマーフィルムを熱圧着するに当たり、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いることを特徴とする。フッ素系多孔質フィルムは、低吸水性であることから水をほとんど有しないばかりでなく、多孔質であることからシート材料由来の水を外部に放出することができる。その結果、液晶ポリマーフィルムの加水分解を抑制し、その脆化を顕著に抑制するなど、回路基板の耐久性を顕著に向上させることができる。
【0018】
上記液晶ポリマーフィルムとしては、実質的に液晶ポリマーのみからなるものを用いることが好ましい。液晶ポリマーの優れた特性を有効に利用できるからである。
【0019】
上記回路基板の各絶縁体シートは、すべて液晶ポリマーフィルムにより構成することが好ましい。また、液晶ポリマーフィルムの片面または両面に回路パターンを形成し、当該回路パターン上に液晶ポリマーフィルムを配置し熱圧着するのも好適な態様である。低誘電率で且つ誘電損失の少ないフレキシブル回路基板が得られるからである。
【0020】
上記フッ素系多孔質フィルムとしては、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムを用いることが好ましい。後述する実施例によって、その高い効果が実証されているからである。
【0021】
本発明の回路基板は、上記方法で製造されるものであり、耐久性に優れることを特徴とする。当該回路基板は、液晶ポリマーフィルムの脆化が抑制されていることから、耐折性や脆性が改善されており、優れた耐久性を有するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る回路基板の製造方法は、低吸水性であり且つ多孔質であるフッ素系多孔質フィルムを離型材として用いる。よって、表面液晶ポリマーフィルムの熱圧着時において液晶ポリマーフィルムに水分を与えることがなく、また、液晶ポリマーフィルムが有する水分を外部へ放散できることから、加水分解反応を抑制できる。その結果、従来技術に比して回路基板の耐折性や靭性が改善され、その耐久性を顕著に向上させることが可能になる。また、フッ素系多孔質フィルムは、離型材としての作用と緩衝材としての作用の両方を発揮することができるため、熱圧着装置の熱圧部と回路基板との剥離を容易にするのみならず、そのクッション性から特に回路面に対する圧力を均一化できる。その結果、回路パターンの変形が抑制されるため、正確な回路パターンを有する回路基板を製造することが可能になる。また、離型材と緩衝材の両方を使用しなければいけない技術に比して、特に緻密な回路パターンを有する回路基板の製造に有効である上に、両者の使用を原因とするシワの発生がなく、このシワが回路基板の表面に転写されるおそれがない。さらに、必要部材の低減や工程の簡略化が可能になり、コストを抑制することができる。
【0023】
また、当該方法により製造される回路基板は、その構成要素である表面液晶ポリマーフィルムの脆化が顕著に抑制され高い耐久性を有しており、且つ正確な回路パターンを有するなど、優れた特性を有する。特に本発明に係るフレキシブル回路基板は、耐折性や靭性に優れることから、携帯電話などコンパクトな機器へ挿入する場合に基板自体や回路の破損防止を達成することができる。
【0024】
従って、本発明に係る回路基板とその製造方法は、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る回路基板の製造方法は、当該回路基板を構成する絶縁体シートのうち、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い、当該液晶ポリマーフィルムを熱圧着するに当たり、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いる点に要旨を有する。
【0026】
回路基板は、主に片面板、両面板および多層板に分類されるが、本発明では、回路基板を構成する絶縁体シートのうち、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い、当該フィルムを熱圧着することを特徴の1つとする。
【0027】
片面板または両面板では、コアとなるシートの片面または両面に回路を形成し、一般的には、当該回路面上にカバー層を設ける。本発明では、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用いることから、片面板の場合にはコアシートのみまたはカバーシートのみを液晶ポリマーフィルムとするか、コアシートとカバーシートの両方を液晶ポリマーフィルムとする。両面板の場合には、少なくとも一方の表面カバー層を液晶ポリマーフィルムとする。
【0028】
多層板の場合も同様であり、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用いる。従って、カバー層を設ける場合にはカバーシートを液晶ポリマーフィルムとし、カバー層を設けない場合には、最表面のコアシート(その上に回路を設けるシート)のうち少なくとも一方を液晶ポリマーフィルムで構成する。
【0029】
ここで、表面シートとは、回路基板を構成する絶縁体シートのうち熱圧着時において最表面に存在するシートをいい、カバーシートである場合とその表面に回路を有するコアシートである場合がある。この表面シートを液晶ポリマーフィルムとする回路基板を製造する場合、表面の液晶ポリマーフィルムは、熱圧着時において離型材の影響を直接受ける。しかし、従来、液晶ポリマーフィルムを回路基板材料として用いる場合に離型材としてフッ素系多孔質フィルムが用いられた例はなかった。つまり、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い、且つ離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いるという要件によって、本発明は従来技術と明確に区別することができる。
【0030】
絶縁体シートの材料として用いることができるものであって、液晶ポリマー以外のものとしては、セラミック;シリコン;炭素繊維やガラス繊維などの繊維にエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、BT樹脂などを含浸させたもの;ポリイミドシート、ポリエーテルエーテルケトンシート、ポリエーテルイミドシート、ポリエチレンナフタレートシート、ポリエチレンテレフタレートシートおよびこれらの混合樹脂シート(以上、「シート」には、フィルムも含まれるものとする)などを挙げることができる。
【0031】
上記の態様において、両面板のコアシートおよび多層板の内層には、親水性の樹脂を主要成分とするシートを用いないことが好ましい。この様なシートは、水分を比較的多く含有していることから、多層板の内層に用いると、熱圧着時において水分が外部に放散されず、近傍の液晶ポリマーフィルムを脆化するおそれがあるからである。親水性樹脂としては、ポリイミド樹脂やポリエーテルイミド樹脂がある。但し、斯かる影響は、離型材としてのポリイミドシート等が表面液晶ポリマーフィルムに与えるものよりも小さい。
【0032】
好適には、接着剤を用いず熱圧着できることから、全ての絶縁体シートを熱可塑性樹脂からなるものを用い、さらに、電気特性等の点から、全て液晶ポリマーフィルムで構成することが好ましい。
【0033】
本発明で用いる液晶ポリマーフィルムは、液晶ポリマーを主要成分とするものである。ここで、「主要成分とする」とは、フィルム全体に占める液晶ポリマーの割合が50質量%以上と定義することができ、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。特に、本発明の液晶ポリマーフィルムは、実質的に液晶ポリマーのみからなるものが好適である。液晶ポリマーは、低吸水性、耐熱性、電気特性および寸法安定性に優れるからである。また、液晶ポリマーは熱可塑性であることから、接着剤を用いず熱圧着が可能であり、回路基板の生産性を向上することができる。接着剤を用いないことは、誘電率や誘電損失を低減するという点においても意義を有する。ここで、「実質的」とは、不可避的な不純物を除いた全てが液晶ポリマーで構成されていることをいう。
【0034】
液晶ポリマーフィルムを構成する液晶ポリマーとしては、例えば、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーがある。本発明ではサーモトロピック液晶ポリマーが好適であり、より具体的には、サーモトロピック液晶ポリエステルやサーモトロピック液晶ポリエステルアミドが好ましい。
【0035】
サーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、テレフタル酸と、4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。
【0036】
【化1】

【0037】
本発明に係る液晶ポリマーとしては、液晶性(特にサーモトロピック液晶性)を示すものであれば、例えば、上記(1)〜(3)式に示すユニットを主体(例えば、液晶ポリマーの全構成ユニット中、50モル%以上)とし、他のユニットも有する共重合タイプのポリマーであってもよい。他のユニットとしては、例えば、エーテル結合を有するユニット、イミド結合を有するユニット、アミド結合を有するユニットなどが挙げられる。
【0038】
液晶ポリマーフィルムを得るに当たっては、これを構成する樹脂に応じた公知の各種方法を採用すればよい。また、本発明法において特に好適な上記例示の液晶ポリエステルを用いたフィルムとしては、例えば、ジャパンゴアテックス社製の「BIAC(登録商標)」などの市販品を用いることができる。
【0039】
また、液晶ポリエステルアミドとしては、他のユニットとしてアミド結合を有する上記液晶ポリエステルが該当し、例えば、下式(4)の構造を有するものが挙げられる。例えば、式(4)中、sのユニット、tのユニットおよびuのユニットのモル比が、70/15/15のものが知られている。
【0040】
【化2】

【0041】
本発明の液晶ポリマーフィルムが液晶ポリマー以外のポリマーを含む場合には、当該ポリマーは、液晶ポリマーと単に混合されているのみであっても、化学結合していてもよい。この様なアロイ用ポリマーとしては、融点が220℃以上、好ましくは280〜360℃のポリマー、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレートなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。液晶ポリマーと上記アロイ用ポリマーの混合割合は特に制限されないが、例えば、質量比で50:50〜90:10であることが好ましく、70:30〜90:10であることがより好ましい。液晶ポリマーを含むポリマーアロイも、液晶ポリマーによる優れた特性を保有し得る。
【0042】
上記液晶ポリマーフィルムでは、フィルム平面に平行な方向の線膨張係数が25ppm/℃以下に調整されていることが好ましい。より好ましくは21ppm/℃以下である。また、液晶ポリマーフィルムの上記線膨張係数の下限は、8ppm/℃であることが望ましい。液晶ポリマーフィルムの線膨張係数は、機器分析(TMA法、Thermal Mechanical Analysis)により、試験片幅:4.5mm、チャック間距離:15mm、荷重:1gとし、室温から200℃まで昇温後(昇温速度:5℃/分)、降温速度:5℃/分で冷却する際に、160℃から25℃の間で測定される試験片の寸法変化から求めた値であり、例えば、フィルムのMD方向(フィルム製造時の走行方向)およびTD方向(MD方向に直交する方向)の線膨張係数のいずれもが、上記範囲を満足していればよい。
【0043】
液晶ポリマーフィルムの厚さは特に制限されないが、10μmから1000μmが好ましい。10μm未満であると強度が不足するおそれがあり、また、1000μmを超えるフィルム化は困難である場合があるからである。
【0044】
以下では、本発明方法の各工程について図1を参照しつつ説明するが、図1は単なる例示であり、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0045】
先ず、回路パターンシート1を構成する絶縁体シート(コアシート)の片面または両面上に、常法に従って、導体により回路パターンを形成する。回路パターンシートの絶縁材料の種類は特に制限されず、従来のものを使用することができる。好適には、液晶ポリマーフィルムを用いる。
【0046】
回路パターンを形成するための導体としては、銅、アルミニウム、金、銀、およびこれら金属を主体とする合金を挙げることができる。回路パターンは、これら金属からなる薄膜を回路パターンシートの上に設けた上でエッチングを施すことなど、従来の方法を用いることができる。金属薄膜の形成法としては、絶縁体シートと金属板(金属箔、金属フィルムなどを含む)を貼り合わせる方法の他、絶縁体シート表面に、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、めっき法、CVD法などにより形成する方法も採用できる。
【0047】
回路パターンシート1の絶縁体シートとして熱可塑性樹脂を用いる場合、金属板を貼り合わせる方法としては、熱融着法が好適である。熱融着法としては、熱可塑性樹脂表面を加熱軟化させ、その上に金属板を積層した後冷却する方法や、絶縁体シートと金属板を重ね、これを加熱した一対のロール間に通して熱融着させ、その後冷却する方法などが採用できる。
【0048】
また、金属箔などの金属板の少なくとも絶縁体シートへ接する側の表面を粗化したものを用いれば、絶縁体シートと金属板の密着性をより一層高めることができる。
【0049】
本発明方法では、絶縁体シート上の片面または両面に金属層を設けた後、エッチングにより所望の回路パターンを形成する。回路パターンを形成する金属層は単層でもよく、2種以上の金属層を積層したものであってもよい。
【0050】
図1に示す態様では、回路パターンシート1の上にカバー層2を設けているが、本発明では、少なくとも一方のカバー層2を液晶ポリマーフィルムで構成する。液晶ポリマーの優れた低吸水性、耐熱性および寸法安定性を有効に利用するためである。また、熱圧着時において、表面に存在する液晶ポリマーフィルムを脆化させないという離型材としてのフッ素系多孔質フィルムの特性を発揮させるためでもある。なお、積層体を構成するシートの一部として非熱可塑性樹脂からなるものを複数用い、それらを相互に接着する必要がある場合には、事前に接着剤を用いるなどして接着しておく。しかし、液晶ポリマーフィルムのシート配置を工夫することによって、次工程で接着剤を用いることなく熱圧着することも可能である。その結果、製造工程を簡略化できるのみでなく、接着剤による電気特性の低下を防ぐことができる。また、全ての絶縁体シートを液晶ポリマーフィルムで構成すれば、低誘電率で低誘電損失といった電気特性に特に優れた回路基板が得られる。
【0051】
また、液晶ポリマーフィルムの片面または両面に回路パターンを形成し、当該回路パターン上にカバー層として液晶ポリマーフィルムを配置した積層体からは、液晶ポリマーフィルムのみをシートとし且つシート積層数が2または3と薄いことから、特に電気特性に優れたフレキシブル回路基板を製造できる。
【0052】
積層する各シートにおいて、互いに接する面の密着性を高めるために、紫外線やプラズマなどを用いて表面処理することが好ましい。
【0053】
次に、熱圧着装置により積層体を熱圧着する。熱圧着時の条件は、常法に従えばよく、例えば、圧力は0.1〜10MPa、時間は1〜30分程度とすればよい。熱圧着温度は、液晶ポリマーが十分に軟化する温度が好ましいものの、融点を超えると圧力により樹脂が流動する可能性がある。斯かる観点からは、用いる液晶ポリマーにつきDMA法(Dynamic Mechanical Analysis)の引張モードで測定した弾性率が、室温域の1/10〜1/1000の範囲内にある温度とすることが好ましい。具体的な温度は、用いる液晶ポリマーの種類により異なるが、200〜350℃程度である。
【0054】
熱圧着装置の種類は特に問わないが、例えば、平板プレス機、連続ベルトプレス機、ロールラミネータ等を用いることができる。これらの中では、水分を効率よく除去できることから、真空式の平板プレス機を好適に用いることができる。
【0055】
コアシートとしてセラミックシートを用い、カバーシートとして液晶ポリマーフィルムを用いるような場合には、液晶ポリマーフィルム側のみから加熱して熱圧着することも考えられる。しかし、熱の均一性を高めるために、斯かる場合であっても両面から加熱することが好ましい。
【0056】
また、一方の表面に液晶ポリマーフィルムを配し、他方の表面に親水性樹脂を主要成分とするシートを用いる場合には、親水性樹脂シート側にも離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いることが好適である。親水性樹脂シートの水分を外部に放散し、近傍の液晶ポリマーフィルムへの影響を低減するためである。
【0057】
なお、本発明では、少なくとも表面シートとして液晶ポリマーフィルムを用い当該液晶ポリマーフィルムを熱圧着することを要件としているが、内層に液晶ポリマーフィルムのみならず熱可塑性樹脂からなる絶縁体シートを有する多層板の製造においては、一般的に、当該内層も表面の液晶ポリマーフィルムと共に一度に熱圧着することができる。
【0058】
熱圧着により回路基板を製造する場合には、熱圧着装置と熱可塑性樹脂との融着を防止するために、耐熱性の高い離型材が必要となる。そこで、従来、離型材としてはポリイミドが用いられていた。ところが、上述した様に、液晶ポリマーフィルムの熱圧着時には200〜350℃という高温を要する。よって、離型材としてポリイミドなど保水性や親水性が高く通気性の無いものを用いると、ポリイミド等に由来する水の存在下で高温にさらされることによって、表面の液晶ポリマーフィルムを構成する分子が加水分解されてしまう。これが、回路基板の耐久性を劣化させる原因であった。
【0059】
また、熱圧着の際には、回路パターンの凹凸に起因して、回路パターンシートへ加えられる圧力が不均一となる。その結果、回路パターンの流動や、部分的な圧力不足による層間の接着不良が生じる。そこで従来、緩衝材が用いられてきた。しかし、離型材と緩衝材を両方用いると、特に微細な回路基板を製造する際には回路パターンに乱れが生じたり、また、これらを重ねた場合にシワが発生し、このシワが回路基板の表面に転写されるおそれがあった。
【0060】
本発明は、先行技術のこれら問題を認識した上で完成されたものであり、液晶ポリマーフィルムを熱圧着するに当たり、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いる点に最大の特徴を有する。フッ素系多孔質フィルムは、その製造条件や高い疎水性故に水をほとんど含まない上に、液晶ポリマー由来の水を外部に放出できることから、熱圧着時における加水分解反応を抑制することができる。また、フッ素系多孔質フィルムは、高いクッション性を有することから離型材としての作用と共に緩衝材としての作用も発揮することができる。
【0061】
フッ素系多孔質フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PTFE−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、PTFE−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、PTFE−エチレン共重合体などを挙げることができる。これらの中でも、PTFEが好ましく、特に延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(EPTFE)を好適に用いる。これら樹脂のフィルム成形方法や多孔質化の方法は、常法を用いることができる。
【0062】
フッ素系多孔質フィルムの厚さは特に制限されないが、例えば、50〜500μmとすることができる。50μm以上であれば、離型材として十分な強度があり、熱融着後に回路基板から剥離する際に破断するおそれがない上に、十分なクッション性も発揮できるからである。一方、500μmを超えると、コスト面で不利になる。
【0063】
フッ素系多孔質フィルムの空孔率も特に制限されないが、60〜98%が好ましく、70〜90%がより好ましい。60%未満であると熱圧着時に空孔が潰れ、水分を外部へ放出し難くなるおそれがあり、98%を超えると強度が不足し、空孔内に液晶ポリマーが流入して剥離し難くなる場合があるからである。
【0064】
当該フッ素系多孔質フィルムと熱圧着装置の熱圧部との間には、装置のメンテナンス性を向上し、同時に熱圧着後における回路基板の品質を高めるために、金属板を設けても良い。なお、フッ素系多孔質フィルムと金属板の両方を用いても、シワ転写の原因とはならない。
【0065】
当該フッ素系多孔質フィルムを用いて上記積層体を熱圧着した後は、フッ素系多孔質フィルムにより被覆されたままの積層体を熱圧着装置から取り出し、十分に冷却した後、フッ素系多孔質フィルムを剥離する。
【0066】
最表面に回路が露出している場合、液晶ポリマーフィルムの熱圧着後においては、導電部のブリッジ防止や回路面の保護のために、常法に従いソルダーレジスト層を設けてもよい。
【0067】
上記方法により得られた回路基板は、その構成要素である液晶ポリマーフィルムの熱圧着時における脆化が抑制され耐久性が顕著に向上している。従って、製造時における不良の発生が抑制されるのみでなく、実際の使用における基板自体や回路の破損なども低減される。特に、本発明方法でフレキシブル回路基板を製造する場合には、主要な構成要素である液晶ポリマーフィルムの脆化が顕著に抑制されることから、回路基板の耐折性や靭性が改善され、耐久性が顕著に向上される。よって、本発明に係るフレキシブル回路基板を携帯電話やパーソナルコンピュータなどコンパクトな機器へ挿入する場合において、基板自体や回路の破損の発生が低減され、回路基板自身の寿命も延びることになる。この点において、本発明の回路基板は、近年における電子機器のコンパクト化や長寿命化の要求に対応できるものとして、非常に有用である。
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
製造例1 本発明方法による液晶ポリマーフィルム回路基板の製造
液晶ポリマーフィルムの両面銅張板(ジャパンゴアテックス社製、BIAC CC BC050F−B12B17、基材厚:50μm、銅箔厚:12μm、液晶ポリマー融点:310℃)の銅箔を両面エッチングし、ライン/スペースが100/100μmの直線回路パターンを形成した。別途、液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス社製、BIAC BC050F、厚さ:50μm)の片面に、低圧水銀灯を用いて4,000mJ/cm2の積算光量で紫外線処理を行なった。当該液晶ポリマーフィルムの紫外線処理面を接着面として上記銅張板に積層した。さらに離型材として、表1に示す延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製、HRCF−090)を両側に配置し、熱圧着装置(北川精機社製、真空ホット・コールドプレスVH3−1377)を用いて、温度:285℃、圧力:3MPaで5分間熱圧着した。得られた積層フィルムを15×130mmの長方形に切断し、試験片とした。
【0070】
比較製造例1
離型材として、表1に示すポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン200EN)を延伸多孔質PTFEフィルムの代わりに使用した他は上記製造例1と同様の方法によって、積層フィルムを製造した。さらに、当該積層フィルムを切断して、製造例1と同様の試験片を得た。
【0071】
比較製造例2
上記製造例1で用いた延伸多孔質PTFEフィルム(ジャパンゴアテックス社製、HRCF−090)を3枚重ね、熱圧着装置(北川精機社製、真空ホット・コールドプレスVH3−1377)を用いて、温度:330℃、圧力:4MPaで5分間熱圧着することによって、無孔化したPTFEフィルムを得た。
【0072】
得られた無孔PTFEフィルムを、上記製造例1の方法において延伸多孔質PTFEフィルムの代わりに離型材として使用し、積層フィルムを製造した。さらに、当該積層フィルムを切断して、製造例1と同様の試験片を得た。
【0073】
試験例1 耐折性試験
JIS C6471に従って、上記製造例1および比較製造例1と2で得た試験片について、耐折性試験を行なった。詳しくは、MIT試験機(東洋精機製作所製、MIT−D)に試験片を取り付け、R=0.4、荷重:500gの条件でフィルムが破断するまでの直線回路に平行な方向(MD)と直交する方向(TD)の折り曲げ回数を測定した。また、当該試験前における熱圧着による回路パターンの変形の有無と、試験後における回路面保護層(最表面の液晶ポリマーフィルム)の剥離の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
当該結果の通り、ポリイミドフィルムまたはフッ素系無孔フィルムを離型材として用いた場合には、試験前の時点において回路パターンの変形が見られた。これは、ポリイミドフィルムと無孔PTFEフィルムのクッション性が十分でないことから、熱圧着時に回路面へ不均一な圧力がかかったことに原因があると考えられる。また、試験後において、回路面保護層の剥離がみられた。これも、回路パターンの変形と同様に圧力の不均一さに起因すると考えられる。
【0076】
一方、延伸多孔質PTFEフィルムを離型材として用いた場合には、パターン変形も回路面保護層の剥離も観察されなかった。これは、延伸多孔質PTFEフィルムはクッション性に優れることから、熱圧着時の圧力が均等であったことによるものである。
また、延伸多孔質PTFEフィルムを離型材として用いた場合における積層板の耐折性は、他の素材を離型材とした場合よりも顕著に向上している。これは、延伸多孔質PTFEフィルムはほとんど水分を含まず、且つ多孔質であることから液晶ポリマーフィルム由来の水分を熱圧着時に放出することによって、液晶ポリマーの加水分解を抑制したことによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る回路基板の一態様を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 : 回路パターンシート
2 : カバー層
3 : 離型材としてのフッ素系多孔質フィルム
4 : 熱圧着装置の熱圧部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の製造方法であって、
当該回路基板を構成する絶縁体シートのうち、少なくとも一方の表面シートとして液晶ポリマーを主要成分とするフィルム(以下、「液晶ポリマーフィルム」という)を用い、当該液晶ポリマーフィルムを熱圧着するに当たり、離型材としてフッ素系多孔質フィルムを用いることを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項2】
上記液晶ポリマーフィルムとして、実質的に液晶ポリマーのみからなるものを用いる請求項1に記載の回路基板の製造方法。
【請求項3】
上記回路基板の各絶縁体シートを、すべて液晶ポリマーフィルムにより構成する請求項1または2に記載の回路基板の製造方法。
【請求項4】
液晶ポリマーフィルムの片面または両面に回路パターンを形成し、当該回路パターン上に液晶ポリマーフィルムを配置し熱圧着する請求項1〜3のいずれかに記載の回路基板の製造方法。
【請求項5】
上記フッ素系多孔質フィルムとして、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムを用いる請求項1〜4のいずれかに記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造されるものであり、耐久性に優れる回路基板。


【図1】
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【公開番号】特開2006−305921(P2006−305921A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132574(P2005−132574)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】