説明

回転体のクランプ装置

【課題】回転体のアンクランプ時のピストンの後退時に、クランピングスリーブを確実に弾性復帰できる回転体のクランプ装置を提供する。
【解決手段】基台10と、基台に回転割出し可能に支持された回転体12と、基台および回転体の一方に形成された外周面15aと他方に形成された内周面20aとの間に形成された環状空間部21に配置され、ピストン31によって軸方向に押圧されることにより圧縮して基台および回転体の内外周面に摩擦係合されるクランピングスリーブ30とを備え、クランピングスリーブの一端を、ピストンと一体的に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランピングスリーブを用いて回転体を基台に対してクランプする回転体のクランプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の回転テーブル等においては、回転テーブル等の回転軸部が基台に軸受を介して回転割出し可能に支持され、工作物の加工時に回転テーブルを基台に対して所定の角度位置でクランプするようになっている。回転テーブルをクランプする1つの手段として、特許文献1に記載されているように、クランピングスリーブ(弾性リング5)を用いたものがある。クランピングスリーブは、例えば、弾性変形可能な高弾性鋼によって構成され、複数の環状溝が内外周に交互に形成されたクランク状の断面形状をなすもので、クランピングスリーブを基台に固定された中空円筒体の外周面と回転軸部の内周面との間に形成された環状の空間部に配設して、ピストンにより軸方向に押圧することにより、蛇腹と同じような作用によって内径が縮小するとともに外径が拡大し、これによって、クランピングスリーブの内外周が中空円筒体の外周面と回転軸部の外周面とに緊密に摩擦係合し、回転テーブルを基台に精密かつ強固にクランプするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−77490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものにおいては、ピストンによってクランピングスリーブを軸方向に押圧して回転テーブルを基台にクランプする際には、特に問題ないが、回転テーブルを回転割出しさせるためにアンクランプする際に、ピストンをクランピングスリーブから離間する方向に後退させても、回転テーブルの回転軸部と基台の中空円筒体の内外周面との間で強固に摩擦係合したクランピングスリーブが自身の弾性復帰力によって確実に復帰しない恐れがあった。
【0005】
しかも、クランピングスリーブは、回転テーブルの回転軸部の内周面と基台に固定された中空円筒体の外周面との間に配設されているだけであるので、回転テーブルのアンクランプ時に、クランピングスリーブの径方向位置が定まらず、回転軸部の内周面や中空円筒体の外周面に接触してしまい、このために、高精度加工が要求される超精密加工機のようなものにおいては、摺動抵抗や発熱による精度不良を招く恐れがあり、採用するうえでのネックとなっていた。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたもので、回転体のアンクランプ時のピストンの後退時に、クランピングスリーブを確実に弾性復帰できる回転体のクランプ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明の特徴は、基台と、該基台に回転割出し可能に支持された回転体と、前記基台および前記回転体の一方に形成された外周面と他方に形成された内周面との間に形成された環状空間部に配置され、ピストンによって軸方向に押圧されることにより圧縮して前記基台および前記回転体の内外周面に摩擦係合されるクランピングスリーブとを備え、該クランピングスリーブによって前記回転体を前記基台に対してクランプする回転体のクランプ装置において、前記クランピングスリーブの一端を、前記ピストンと一体的に設けたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記クランピングスリーブの他端を、前記基台側に一体的に連結したことである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2において、前記クランピングスリーブの一端を、前記ピストンにボルトによって一体的に連結し、前記クランピングスリーブの他端を、前記基台側にボルトによって一体的に連結したことである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項2または請求項3において、前記クランピングスリーブの他端を、前記クランピングスリーブによって前記回転体を前記基台に対してクランプした状態で、前記ボルトによって前記基台側に一体的に連結できるように構成したことである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、基台および回転体の一方に形成された外周面と他方に形成された内周面との間に形成された環状空間部に配置したクランピングスリーブの一端を、ピストンと一体的に設けたので、回転体のアンクランプ時に、クランピングスリーブの一端をピストンによって強制的に引張することができ、これによって、クランピングスリーブを、基台および回転体の内外周面との摩擦係合作用に抗して確実にアンクランプさせることができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、クランピングスリーブの他端を、基台側に一体的に連結したので、クランピングスリーブと基台および回転体の内外周面との間にクリアランスを確保することが可能となり、回転体のアンクランプ時にクランピングスリーブを基台および回転体の内外周面に接触しないようにすることができる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、クランピングスリーブの一端を、ピストンにボルトによって一体的に連結し、クランピングスリーブの他端を、基台側にボルトによって一体的に連結したので、別々に製作したクランピングスリーブとピストンを容易に一体連結することができる。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、クランピングスリーブの他端を、クランピングスリーブによって回転体を基台に対してクランプした状態で、ボルトによって基台側に一体的に連結できるように構成したので、回転体のアンクランプ時にクランピングスリーブを環状空間部の径方向の中心位置に確実に保持することができる。これによって、クランピングスリーブが基台および回転体の内外周面に接触しないようにすることができ、摩擦抵抗や発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転体のクランプ装置を示す断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図2の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の回転体のクランプ装置を、回転テーブルのクランプ装置に適用した具体例を示すものである。
【0017】
図1において、10は基台を示し、基台10には軸受11を介して回転体としての回転テーブル12が鉛直軸線の回りに回転可能に支持されている。基台10には、回転テーブル12の中心軸線O1上に中空円筒体13がボルトによって固着されている。中空円筒体13の上部には、フランジ部14が形成され、このフランジ部14の下部に所定の外径を有する中心軸部15が形成されている。
【0018】
回転テーブル12は、上面に工作物が載置される中空円盤状のテーブル部17と、テーブル部17の下面に同軸的に配設され、ボルトによって一体的に固着された段付筒状部18とからなっている。段付筒状部18は、軸受11を構成するクロスローラベアリング19によって基台10に鉛直軸線の回りに回転可能に支持されている。段付筒状部18には、基台10の中空円筒体13のフランジ部14の外周に遊嵌する中空状の回転軸部20が形成され、回転軸部20は中空円筒体13の中心軸部15の外径より大きな内径を有しており、図2に示すように、回転軸部20の内周面20aと中心軸部15の外周面15aとの間に、環状の空間部21を形成している。
【0019】
回転軸部20の外周には、ウォームホイール23がボルトによって一体的に固着され、このウォームホイール23に噛合するウォーム軸24が基台10に回転可能に支持されている。ウォーム軸24には、サーボモータ(図示せず)が連結され、サーボモータを回転指令に基づいて回転させることにより、回転テーブル12を所定の角度位置に割出すことができるようになっている。
【0020】
回転軸部20の内周面20aと中心軸部15の外周面15aとの間に形成された環状の空間部21内には、図2に詳細に図示するように、下部にクランピングスリーブ30が配設されているとともに、このクランピングスリーブ30を軸方向に圧縮および引張するピストン31がクランピングスリーブ30の上部に配設されている。ピストン31のピストン部の両側には油室33、34が形成され、これら油室33、34に中空円筒体13に形成された油路35、36がそれぞれ接続されている。油路35、36には、圧油供給源Pより電磁切替弁38を介して圧油が供給されるようになっており、ピストン31は圧油の作用によって上下方向に摺動できるようになっている。なお、ピストン31の内周と中空円筒体13の外周との間には、複数のオイルシールが装着され、油室33、34をシールしている。
【0021】
クランピングスリーブ30は、例えば、弾性変形可能な高弾性鋼からなり、周知のように、複数の環状溝が内外周に交互に形成されてクランク状の断面形状をなすものである。クランピングスリーブ30は自由状態においては、その径方向の寸法(外径−内径)が、環状の空間部21の径方向の寸法より小さくなっており、回転テーブル12の回転軸部20は基台10の中心軸部15に対して自由に回転できるようになっているが、クランピングスリーブ30がピストン31によって軸方向に押圧されると、蛇腹と同じような作用によって、クランピングスリーブ30の内径が収縮されるとともに外径が拡大される。これによって、クランピングスリーブ30の内周が中心軸部15の外周面15aに緊密に摩擦係合するとともに、クランピングスリーブ30の外周が回転軸部20の内周面20aに緊密に摩擦係合し、回転軸部20(回転テーブル12)が中心軸部15(基台10)に精密かつ強固にクランプされる。
【0022】
クランピングスリーブ30の一端は、図2に示すように、ピストン31にボルト41によって一体的に結合されている。すなわち、クランピングスリーブ30の一端にはねじ穴43が形成され、このねじ穴43に螺合するボルト41がピストン31を挿通してねじ穴43に螺合されている。このように、クランピングスリーブ30の一端がピストン31に結合されていることにより、ピストン31が上方向に移動されると、クランピングスリーブ30の一端は摩擦係合作用に抗して弾性復帰方向に強制的に引張されるので、回転テーブル12のアンクランプを確実に行うことができる。
【0023】
次に、上記した実施の形態における回転体のクランプ装置の動作について説明する。回転テーブル12を所定の角度位置に回転割出しする場合には、電磁切替弁38が図2に示す状態に切替えられ、圧油供給源Pより油路36を介して油室34に圧油が供給され、油室33より油路35を介して油がリザーバRに排出される。これにより、ピストン31が上方向に移動され、これに結合されたクランピングスリーブ30の他端が上方に引張される。これにより、クランピングスリーブ30の一端は、中心軸部15の外周面15aおよび回転軸部20の内周面20aとの摩擦係合作用に抗して弾性復帰方向に強制的に引張され、図2に示すように、回転軸部20(回転テーブル12)がアンクランプされる。
【0024】
その状態で、制御装置からの回転指令に基づいて図略のサーボモータが回転駆動され、ウォーム軸24およびウォームホイール23を介して回転テーブル12が中心軸線O1の回りに所定角度回転される。回転テーブル12の回転量は図略のエンコーダによって検出され、回転テーブル12は定められた角度位置に位置決めされる。
【0025】
回転テーブル12が定められた角度位置に位置決めされると、電磁切替弁38が切替えられて、圧油供給源Pより油路35を介して油室33に圧油が供給され、油室34より油路36を介して油がリザーバRに排出される。これにより、ピストン31が下方向に移動され、クランピングスリーブ30が押圧(圧縮)される。ピストン31によってクランピングスリーブ30が押圧されると、クランピングスリーブ30の内径が縮小されるとともに外径が拡大され、クランピングスリーブ30は、中心軸部15の外周面15aおよび回転軸部20の内周面20aに強固に摩擦係合され、回転軸部20(回転テーブル12)を中心軸部15(基台10)に対してクランプする。
【0026】
上記したように、本実施の形態によれば、クランピングスリーブ30の一端をピストン31にボルト41によって一体的に連結したので、ピストン31がクランピングスリーブ30より離れる方向に移動されると、クランピングスリーブ30は摩擦係合作用に抗して弾性復帰方向に強制的に引張され、回転テーブル12のアンクランプを確実に行うことができる。
【0027】
しかも、ピストン31とクランピングスリーブ30を別々に製作した後に、ピストン31とクランピングスリーブ30をボルト41によって容易に一体連結することができる。
【0028】
図3は、本発明の変形例を示すもので、上記した実施の形態と異なる点は、クランピングスリーブ30の他端を、基台10にボルト42によって一体的に結合したことである。以下、主に実施の形態と異なる点を説明するが、同一の構成については、同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0029】
図3において、クランピングスリーブ30の他端にもねじ穴44が形成され、このねじ穴44に螺合するボルト42が基台10を挿通してねじ穴43に螺合されている。この際、ボルト42を挿通する基台10に形成された挿通穴46はボルト42の軸径より大きな内径を有するバカ穴にて構成され、回転テーブル12をクランピングスリーブ30によってクランプした状態で、クランピングスリーブ30の他端がボルト42によって基台10に一体的に組付けられるようになっている。
【0030】
すなわち、クランピングスリーブ30の他端を基台10に固定する組付け手順として、まず、ピストン31によってクランピングスリーブ30を押圧して、回転テーブル12をクランプし、その状態で、ボルト42を挿通穴(バカ穴)46を挿通してクランピングスリーブ30のねじ穴44にねじ込むことにより、クランピングスリーブ30を環状の空間部21の径方向の中心位置で基台10に結合することができる。このような簡便な方法によって、回転テーブル12をアンクランプした状態においては、クランピングスリーブ30を環状の空間部21の径方向の中心位置に確実に保持することができ、クランピングスリーブ30が中心軸部15の外周面15aに接触したり、回転軸部20の内周面20aに接触したりする事態を確実に回避することができ、摩擦抵抗や発熱を抑制することができる。
【0031】
かかる変形例によれば、クランピングスリーブ30の他端を、クランピングスリーブ30によって回転テーブル12を基台10に対してクランプした状態で、ボルト42によって基台10側に一体的に連結できるように構成したので、クランピングスリーブ30の一端を環状空間部21の径方向の中心位置で基台10に結合することができ、回転テーブル12のアンクランプ時にクランピングスリーブ30を環状の空間部21の径方向の中心位置に保持できる。従って、クランピングスリーブ30が中心軸部15の外周面15aに接触したり、回転軸部20の内周面20aに接触したりする事態を確実に回避することができ、摩擦抵抗や発熱を抑制することができる。
【0032】
上記した実施の形態においては、本発明を基台10に回転割出し可能に支持された回転テーブル12のクランプに適用した例について述べたが、本発明は、ハウジング等の基台に回転体を回転割出し可能に支持した広範な回転体のクランプ装置に適用できるものである。
【0033】
また、上記した実施の形態においては、基台10側に設けた中心軸部15の外周面15aと、回転体(回転テーブル)12側に設けた回転軸部20の内周面20aとの間にクランピングスリーブ30を配設した例について述べたが、クランピングスリーブ30を配設する環状空間部を、基台10側に設けた内周面と回転体12側に設けた外周面との間に形成してもよく、回転体の回転軸線も実施の形態で述べたように、鉛直軸線である必要はなく、水平軸線の回りに回転支持するものにも適用できることは勿論である。
【0034】
また、上記した実施の形態においては、クランピングスリーブ30とピストン31を別々に製作し、クランピングスリーブ30の一端をボルト41によってピストン31に一体的に連結した例について述べたが、連結手段としてはボルトである必要はなく、また、クランピングスリーブ30をピストン31と一体に製造するようにしてもよい。
【0035】
さらに、上記した実施の形態においては、クランピングスリーブ30の他端を環状の空間部21の径方向の中心位置で、基台10に形成したバカ穴(挿通穴46)を挿通するボルト42によって一体的に結合できる例について述べた。しかしながら、このような形態は、特に高精度な加工を必要とする工作機械に好適であるが、本発明にとってクランピングスリーブ30の他端を変形例に示したように基台10側に結合することは必ずしも必要な要件ではない。すなわち、バカ穴を設けずにクランピングスリーブ30の他端を基台10側に単に結合するだけでも、アンクランプ時にクランピングスリーブ30を基台10側の外周面15aおよび回転テーブル12側の内周面20aとの間にクリアランスを確保することが可能である。
【0036】
以上、本発明を実施の形態に即して説明したが、本発明は実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る回転体のクランプ装置は、基台に軸受を介して回転可能に支持された回転体を、所定の角度位置でクランプする工作機械に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0038】
10…基台、11…軸受、12…回転体(回転テーブル)、15…中心軸部、15a…外周面、20…回転軸部、20a…内周面、30…クランピングスリーブ、31…ピストン、41、42…ボルト、46…挿通穴。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、該基台に回転割出し可能に支持された回転体と、前記基台および前記回転体の一方に形成された外周面と他方に形成された内周面との間に形成された環状空間部に配置され、ピストンによって軸方向に押圧されることにより圧縮して前記基台および前記回転体の内外周面に摩擦係合されるクランピングスリーブとを備え、該クランピングスリーブによって前記回転体を前記基台に対してクランプする回転体のクランプ装置において、
前記クランピングスリーブの一端を、前記ピストンと一体的に設け、前記クランピングスリーブの他端を、前記基台側に一体的に連結したことを特徴とする回転体のクランプ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記クランピングスリーブの他端を、前記基台側に一体的に連結したことを特徴とする回転体のクランプ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記クランピングスリーブの一端を、前記ピストンにボルトによって一体的に連結し、前記クランピングスリーブの他端を、前記基台側にボルトによって一体的に連結したことを特徴とする回転体のクランプ装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記クランピングスリーブの他端を、前記クランピングスリーブによって前記回転体を前記基台に対してクランプした状態で、前記ボルトによって前記基台側に一体的に連結できるように構成したことを特徴とする回転体のクランプ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−264516(P2010−264516A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115324(P2009−115324)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】