説明

回転子及びこれを用いた攪拌装置

【課題】小型の容器あるいは少量の液体を取り扱う場合であっても効率良く攪拌または反応と行うことができる回転子およびそれを用いた攪拌装置を提供する。
【解決手段】回転子は、溶液を攪拌する攪拌装置に用いる回転子であって、攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、を備える。また、攪拌装置は、溶液を攪拌する攪拌装置であって、攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、を備えた回転子と、前記回転子から送信された測定情報を受信する受信手段と、前記測定情報に応じた管理機能を提供する制御装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学分野において多く利用されている、攪拌しながら濃度調整あるいは化学反応を行う攪拌/反応装置等で使用される攪拌機駆動用の回転子およびそれを用いた攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、理化学反応に用いる攪拌装置では、磁性体を内蔵した回転子を用いる方法が広く普及している。この攪拌装置では、容器の内部に試薬、溶液と共に、磁性体を内蔵した回転子を収納して回転させることによって溶液を攪拌し、濃度の均一化と化学反応の均一化を図るために利用されている。例えば、各種の化学物質は主に水または有機溶剤に溶解させて均一溶液とし、各種分析、化学合成の目的に利用されている。
【0003】
そして、それらの物質の一定の濃度の均一な溶液を作製する通常の方法としては、容器中に目的物質の薬品、水または有機溶剤などの液体と共に、磁性を有した回転子を入れる。次に、上記混合物を入れた容器の外部に、磁性を有した回転子とは別の永久磁石あるいは電磁コイルを有する回転体を設け、この回転体に連結されたモータなどの駆動装置を設置する。次いで、回転体の回転によって磁場変化を生じさせ、容器中の磁性を有する回転子を回転させて、溶液を攪拌して効率のよい溶解または化学反応を行っていた。すなわち溶液中で磁性を有した回転子を回転させることよって、効率の良い攪拌を実現していた(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−73034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の構成では、回転子は回転運動をさせる機能のみを有していた。しかし、溶解あるいは化学反応の制御には、温度、pHなどの制御を行うことが必要であり、通常は温度計、pH計などを別途容器内に設けて温度、pH値などを測定していた。このため、小型の容器で少量の溶液の攪拌を行う時などにおいては安定した測定が困難という課題を有していた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、小型の容器で少量の液体を取り扱う場合であっても効率良く攪拌・反応等を行うことができる回転子およびそれを用いた攪拌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するため、本発明に係る回転子は、溶液を攪拌する攪拌装置に用いる回転子であって、攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、を備える。
【0008】
また、前記センサ部は、温度センサ、pHセンサ又はイオン濃度センサのうち少なくとも一つを備えてもよい。
【0009】
さらに、前記回転子の回転運動に伴う運動エネルギーを電力に変換する発電素子をさらに備えてもよい。
【0010】
またさらに、前記センサ部は、前記回転子の表面と内部とを連絡する流路中に設けられてもよい。この場合、前記回転子は、回転運動に伴って、溶液が前記流路に進入・排出する機能を有してもよい。
【0011】
また、磁性体を備えてもよい。
【0012】
さらに、前記送信手段は、アンテナ部を有してもよい。この場合、前記回転子は、回転時に前記磁性体が前記アンテナ部より下方に位置するように、溶液を攪拌する容器内に設置されることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る攪拌装置は、溶液を攪拌する攪拌装置であって、
攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、を備えた回転子と、
前記回転子から送信された測定情報を受信する受信手段と、
前記測定情報に応じた管理機能を提供する制御装置と、
を備える。
【0014】
さらに、前記センサ部からの前記測定情報に応じた管理機能を提供するためのプログラムおよびデータを記憶しているメモリ部をさらに備えてもよい。
【0015】
前記回転子に外部から非接触で回転駆動力を与えて回転させる回転駆動部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回転子及びそれを用いた攪拌装置では、溶液特性を測定するセンサ部を回転子の内部に内蔵し、このセンサ部からの測定データを、近距離無線通信機能によって外部に取り出すことができる。これによって、小型の容器で少量の液体を取り扱う場合であっても効率良く攪拌・反応できる回転子およびそれを用いた攪拌装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施の形態1)
<回転子>
以下、本発明の実施の形態1における回転子6について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態1における回転子6の断面図である。図1において、回転子6は、溶液特性を感知するセンサ部1と、センサ部1からの測定情報を無線で外部に伝送する送信部2と、センサ部1及び送信部2に電力を供給する電源部3と、外部から非接触で回転駆動力を得て回転する磁性体4と、を備える。また、回転子6の全体を外装部5で覆われている。
【0018】
以下に、回転子6の各構成部材について説明する。
センサ部1では、溶液8の溶液特性、例えば、温度あるいはpH値を測定する。温度を測定する場合にはサーミスタあるいは熱電対などの電気変換センサを用いることが好ましい。また、pH値を電気特性として測定する電気変換センサとしては、表面のイオン濃度に応じて出力電圧が変化するFET素子などがあり、例えば、pH値が下がるほど出力電圧が低下するFET素子が知られている。このように、センサ部1には、測定値が電気的出力として取り出せる小型のセンサ素子を用いることが好ましい。また、温度を測定する場合にはセンサ部1を回転子6の表層部に配置することが好ましく、pH濃度を測定する場合には、センサ部1の検知部が表出する構造とすることが好ましい。
【0019】
このセンサ部1は溶液8の状態変化を速やかに測定できることが好ましい。そこで、センサ部1の溶液特性を検知する領域の一部を回転子6の表層近傍に配置することが好ましい。これに対して、センサ部1を外部に表出させることができない場合には、回転子6の表層から内部のセンサ部1へ通じる少なくとも2つの流路を設け、回転子6の回転に伴って、この流路の内部に溶液8が進入・排出する構造とすることが好ましい。センサ部1をこの流路の内部に配置することで、流路の内部に流れる溶液8の状態変化を速やかに測定できる。
【0020】
次に、センサ部1にて測定された温度またはpH値などの測定情報の電気信号は送信部2に送られ、ここで伝送に適した高周波信号に変換されて送信される。このときの送信手段は近距離無線通信技術を応用することが可能であり、例えば、ブルートゥース(Bluetooth)通信技術、赤外線通信技術などを用いることができる。
【0021】
また、電源部3は、電気二重層コンデンサあるいは小型の充電電池などを用いることができる。これらのデバイスを用いた電源部3には非接触の充電装置を用いて充電できる構造が好ましい。
【0022】
前記構成のように、回転子6の内部にセンサ部1を内蔵し、このセンサ部1によって測定したデータを、近距離無線通信技術を用いて伝送することによって、外部から測定器を挿入する必要がなく、小型容器あるいは少量の液体であっても効率良く攪拌または反応を行うことができる攪拌装置を実現できる。さらに、外部から挿入した測定器が回転運動を阻害したり、回転部と測定器が衝突することによって測定器の一部を破損するなどの問題の発生を回避できる。
【0023】
また、外部から非接触で回転駆動力を受けるための磁性体4を設けている。この磁性体4には着磁した金属磁性体、あるいはバリウムフェライトなどの金属酸化物磁性体などを所定の形状に加工して内蔵させることが好ましい。
【0024】
また、回転子6は、これらの内蔵した各種部材を攪拌および/または反応を行う各種液体から保護するために、全体を外装部5にて被覆した構造としている。この外装部5に用いる材料としては、多くの化学反応に対して安定なフッ素系樹脂が好ましい。また、外装部5は、回転子6の全体をモールドすることが好ましい。
【0025】
また、回転子6は、全体として回転時の回転バランスを安定させるために、対称性を有した重量バランス構造とすることが好ましい。
【0026】
<攪拌装置>
次に、この回転子6を用いた攪拌装置の詳細な図2を用いて説明をする。図2は本発明の実施の形態1における攪拌装置の概念を説明するための断面図である。この攪拌装置は、攪拌又は化学反応を行う溶液8を入れた容器7内に入れた回転子6と、回転子6に外部から非接触で回転駆動力を与える回転磁石10と、回転子6から溶液8の測定情報を受信するアンテナ部14及び受信部15と、受信したデータを処理するデータ処理部16と、制御部17とを備える。なお、図2に示すように、アンテナ部14、受信部15と、データ処理部16と、制御部17とは、一つの端末20を構成してもよい。
【0027】
攪拌あるいは化学反応等を行う容器7の内部には、攪拌等を行う溶液8を入れ、その中に図1の回転子6が入れられる。この容器7としては、通常、ガラスあるいは金属製の容器7が用いられる。また、この容器7の内部に入れられる溶液8としては、攪拌又は化学反応を行う溶液、例えば、薬品などを含んだ溶液8を入れる。容器7は、加熱あるいは保温のためのホットプレート9の上に載置される。このホットプレート9によって容器7の内部の溶液8を加熱又は保温する。なお、この加熱方法は一例であり、加熱の他に冷却手段を設けて、高精度な温度制御をすることも可能である。
【0028】
また、ホットプレート9を挟んで、回転子6に非接触で回転駆動力を伝えるための着磁した回転磁石10を設けている。この回転磁石10は、回転軸11を介して回転駆動力を有するモータ12に連結されている。モータ12を回転させることによって回転軸11を介して回転磁石10を所定の回転数に回転させ、回転磁石10による磁場変化によって、非接触で回転子6を回転させることができる。なお、このような構成からなる攪拌装置はマグネッティックスターラと広く呼ばれており、これらの原理を用いた攪拌装置に広く用いることができる。例えば、回転磁石10の代わりにマグネットにコイルを巻き付け、そのコイルに電流を流すことによって電磁石として用いる電磁コイルを用いることも可能である。
【0029】
また、回転子6の構造は円柱状、多角形あるいは楕円状の丸みを帯びた形状であっても良く、適宜、所定の形状の回転子6を設計して用いることができる。
【0030】
なお、容器7の内部に充填した溶液8の温度を測定したい場合には、図1にて説明した温度センサ1を回転子6に内蔵しておく。この場合、回転子6から送信された温度に関する測定データを受信側であるアンテナ部14にて受信し、受信された電気信号は受信部15を介してデータ処理部16へと伝送される。この伝送された温度に関する測定データを蓄積しておくために、例えばメモリ部(図示せず)を設けておき、このメモリ部に測定データを記憶させておくことも可能である。
【0031】
さらに、このメモリ部には測定のためのプログラムソフトなどを記憶させておき、自動計測のための制御部としても利用することが可能である。また、適宜メモリ部の内容について検討を加え最適なメモリ部を構成することによって、効率が良い、精度の高い測定を実現できる装置を提供できる。
【0032】
次に、測定された温度に関する信号は制御部17へ送られ、所定の温度に加熱したいときには制御部17からホットプレート9に電流を流すように指示することによって、溶液8を加熱できる。
【0033】
また、溶液8のpH値を測定あるいは制御する場合には、回転子6のセンサ部1にpHセンサを内蔵しておく。内蔵されたpHセンサを介して測定された測定値を回転子6から送信し、前記方法と同様の方法によって測定データを受信し、制御部17を介して溶液8のpH値を制御できる。
【0034】
また、近距離無線通信は、赤外線通信技術、ジグビー通信技術、ブルートゥース(Bluetooth)通信技術などを用いることによってデータ通信を行うことができる技術として、数メートルの距離であれば小型のモジュールを利用する技術が普及してきており、これらのモジュールを用いて小型の送受信システムを構築することが可能となっている。この近距離無線通信は、回転子6からの受信状態に適した箇所に配置することが好ましい。特に、電磁波を用いた通信では送受信波が磁性体4を貫通できないので、容器7内で、回転子6の回転中に送受信アンテナ2が磁性体4の上部に位置するように回転子6の上下を合わせることが望ましい。
【0035】
また、回転磁石10に電磁誘導コイルを用い、この回転磁石10と、回転子6の磁性体4とでトランス機能を形成することによって、回転子6の電源部3を構成するコンデンサ素子に電力を供給することができる。これによって、外部から非接触で回転子6に電力を供給できるシステムを構成することが可能であり、小型の回転子6を実現することができる。さらに、攪拌中は常時電力を供給できることから、電池などを内蔵しなくとも良く、耐久性に優れた回転子6を実現できる。
【0036】
また、上記測定データを表示する表示部を端末20に設けることも可能である。この表示部は、液晶、ELなどの小型薄型ディスプレイなどを用いて構成することが好ましい。
【0037】
以上説明してきたように、本実施の形態1における回転子6およびこれを用いた攪拌装置によって、小さな容器であっても、あるいは少量の液体であっても効率良く攪拌あるいは化学反応を行うことができる回転子6およびこれを用いた攪拌装置を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係る回転子およびそれを用いた攪拌装置では、回転子に測定したいセンサを内蔵させ、近距離無線通信にてその測定データを受信できる。これによって、小型あるいは少量の液体であっても効率良く攪拌あるいは化学反応を行うことが可能となるので、広く理化学反応の攪拌あるいは反応装置等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態1における回転子の構成を示す概念図である。
【図2】同攪拌装置の構成概念図である。
【符号の説明】
【0040】
1 センサ部
2 送信部
3 電源部
4 磁性体
5 外装部
6 回転子
7 容器
8 溶液
9 ホットプレート
10 回転磁石
11 回転軸
12 モータ
14 アンテナ部
15 受信部
16 データ処理部
17 制御部
20 端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を攪拌する攪拌装置に用いる回転子であって、
攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、
前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、
を備えた回転子。
【請求項2】
前記センサ部は、温度センサ、pHセンサ又はイオン濃度センサのうち少なくとも一つを備える、請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記回転子の回転運動に伴う運動エネルギーを電力に変換する発電素子をさらに備える、請求項1に記載の回転子。
【請求項4】
前記センサ部は、前記回転子の表面と内部とを連絡する流路中に設けられ、
前記回転子は、回転運動に伴って、溶液が前記流路に進入・排出する機能を有する請求項1に記載の回転子。
【請求項5】
磁性体を備えた、請求項1に記載の回転子。
【請求項6】
前記送信手段は、アンテナ部を有し、
前記回転子は、回転時に前記磁性体が前記アンテナ部より下方に位置するように、溶液を攪拌する容器内に設置される、請求項5に記載の回転子。
【請求項7】
溶液を攪拌する攪拌装置であって、
攪拌する前記溶液の少なくとも一つの溶液特性を感知するためのセンサ部と、前記センサ部からの測定情報を無線で伝送する送信手段と、を備えた回転子と、
前記回転子から送信された測定情報を受信する受信手段と、
前記測定情報に応じた管理機能を提供する制御装置と、
を備えた攪拌装置。
【請求項8】
前記センサ部からの前記測定情報に応じた管理機能を提供するためのプログラムおよびデータを記憶しているメモリ部をさらに備えた、請求項7に記載の攪拌装置。
【請求項9】
前記回転子に外部から非接触で回転駆動力を与えて回転させる回転駆動部をさらに備えた請求項7に記載の攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−17626(P2010−17626A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178983(P2008−178983)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】