説明

回転式熱処理炉

【課題】炉体の小型化と熱効率の向上を実現した回転式熱処理炉を提供する。
【解決手段】閉鎖された円筒状の炉体1と、当該炉体1の中心に垂直姿勢で設けられて間欠的に回転させられる回転軸2と、当該回転軸2の周方向の複数位置に設けられて回転軸2の回転とともに炉体1内を間欠的に旋回移動する棚板25と、周方向の一箇所で炉体1に設けられ、対面位置に至った棚板25から炉体1外へワークWを搬出するとともに新たなワークWを炉体1外から棚板25へ搬入するための開口3と、当該開口3を開閉するための扉体41〜44と、開口3を除く炉体1の内周に沿って配設された加熱ヒータ5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転式熱処理炉に関し、特に、閉鎖された円筒状炉体内で間欠的に旋回移動させられるワークを、炉体内周に設けた加熱ヒータで加熱処理する回転式熱処理炉の構造改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にこの種の回転式熱処理炉の一例が示されている。本文献1に示された熱処理炉では、閉鎖された円筒状の炉体を備え、当該炉体の中心に間欠的に回転させられる回転軸が垂直姿勢で設けられている。回転軸には上下に複数段でハンガが固定され、ハンガの周方向複数箇所には、ワークを吊り保持するためのフックが設けられている。フックに吊設されたワークは回転軸と一体に間欠的に旋回して、この間に炉体内周に沿って配設されたシーズヒータによって加熱される。炉体の外壁には直近位置に至ったフックにワークを吊設するために当該ワークを炉内へ搬入するための投入扉と、直近位置に至ったフックからワークを外して当該ワークを炉外へ搬出するための排出シャッターがそれぞれ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−180568
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の回転式熱処理炉では、ワークを炉内へ搬入するための搬入口とワークを炉外へ搬出するための搬出口がそれぞれ設けられている。この場合、搬入口や搬出口には加熱ヒータが設置できないため、必要長さの加熱工程を確保するためには炉体の周方向長を長くする必要があって炉の外形が大きくなるという問題があった。また、搬入口や搬出口の扉体はその重量を抑えてスムーズな開閉を可能にするために扉内の断熱材の厚みが薄くなり勝ちであるとともに、扉体のシール部からの外気流入があるため、熱効率が悪いという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、炉体の小型化と熱効率の向上を実現した回転式熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本第1発明では、閉鎖された円筒状の炉体(1)と、当該炉体(1)の中心に垂直姿勢で設けられて間欠的に回転させられる回転軸(2)と、当該回転軸(2)の周方向の複数位置に設けられて前記回転軸(2)の回転とともに炉体(1)内を間欠的に旋回移動するワーク保持部(25)と、前記周方向の一箇所で前記炉体(1)に設けられ、対面位置に至った前記ワーク保持部(25)から前記炉体(1)外へワーク(W)を搬出するとともに新たなワーク(W)を炉体(1)外から前記ワーク保持部(25)へ搬入するための開口(3)と、当該開口(3)を開閉するための扉体(41〜44)と、前記開口(3)を除く前記炉体(1)の内周に沿って配設された加熱ヒータ(5)とを備えている。
【0007】
本第1発明においては、ワークの炉内への搬入と炉外への搬出を一つの開口で行っているから加熱ヒータが設置できない領域を最小限に抑えることができ、炉体の周壁内周に設置される加熱ヒータの必要周方向長をコンパクトな炉体外形で確保することができる。また、断熱材の厚みが薄い扉体を周方向の一箇所に設けるだけで良く、扉体シール部からの外気流入も必要最小限に抑えられるから熱効率を大きく向上させることができる。
【0008】
本第2発明では、前記ワーク保持部(25)は前記複数位置において前記回転軸(2)の軸方向たる上下方向へ複数段で設けられており、前記開口(3)は前記ワーク保持部(25)の少なくとも一つに対応させて上下方向へ複数に分割されて、分割された開口部(31〜34)にそれぞれ扉体(41〜44)が設けられている。
【0009】
本第2発明においては、扉体を、開口を上下方向に区画した各開口部のそれぞれを開閉する小型のものにできるから、ワークの搬入・搬出に必要な最小限の開口を開放するだけで良く、これによって、さらに熱効率を向上させることができる。
【0010】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の回転式熱処理炉によれば、炉体の小型化と熱効率の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における、回転式熱処理炉の垂直断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った水平断面図である。
【図3】従来例を示す回転式熱処理炉の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には本実施形態における回転式熱処理炉の垂直断面図を示し、図2には図1のII−II線に沿った水平断面図を示す。回転式熱処理炉は閉鎖された円筒状の炉体1を備えており、炉体1の底壁11、頂壁12、および周壁13は所定厚の断熱材で主に構成されている。底壁11は下面の外周縁の複数個所が架台14に載置されており、架台14で囲まれた空間内には、駆動機構を収納したケーシング15が配設されている。
【0014】
炉体1の中心には上下方向へ垂直姿勢で回転軸2が設けられており、回転軸2の上端部21は頂壁12を上方へ貫通してその上端は頂壁12上に設けた軸受け部材16に当接し支持されている。回転軸2の下端部22は底壁11を下方へ貫通してケーシング15内に挿入されており、ケーシング15内に位置する回転軸2の下端(図示略)には駆動機構を構成する大径歯車が装着されて、当該歯車の外周に噛合する小径歯車を介して駆動モータに連結されている。駆動モータは一定時間間隔で間欠的に駆動されて、回転軸2を、後述する所定角度毎に間欠的に回転させる。
【0015】
炉体1内に位置する回転軸2の下端部22外周と頂壁12に近い上端部21外周にはそれぞれ同径の円形端板23が固定されている。回転軸2の周囲にはこれと同心状に円筒形の支持体24が配設されて、支持体24の上下の開口縁が上下の端板23の外周に固定されている。支持体24の外周には上下方向へ間隔を置いて複数の円環状の、ワーク保持部としての棚板25(図2)が嵌着されている。
【0016】
棚板25は本実施形態では上下に12段設けられており、これら棚板25は三段づつが互いに近接して群A〜Dをなしている。各棚板25にはその周方向へほぼ等間隔で複数のワークWが載置されている。ワークWは本実施形態ではリング状のもので、各棚板25に周方向へほぼ36度の等角度間隔で10個のワークWが、上下の各棚板25で同一位置に載置されている。
【0017】
炉体1には周方向の一箇所に縦長の開口3が設けられている。開口3は上記棚板群A〜Dに対応させて上下方向へ四段に区画されており、区画された各開口部31,32,33、34にそれぞれこれを開閉する扉体41,42,43,44が設けられている。これら扉体41〜44には断熱材が内設されるとともに、扉体41〜44は図略の開閉駆動機構によって、後述するロボットアームと連動して側縁ヒンジ部45(図2)を中心に外方へ自動開閉させられる。
【0018】
前述したように回転軸2は一定時間間隔(例えば120秒)で間欠的にほぼ角度36度毎に回転させられており、各棚板25も回転軸2と一体に旋回して、周方向で同一位置に載置された各棚板群A〜DのワークWが図1に示すように開口3に対面する位置に間欠的に到達する。炉体1の周壁13内周には、開口3の形成部分を除いて周壁13内周に沿ってシーズヒータ等の加熱ヒータ5が設けられている。
【0019】
上記構造の回転式熱処理炉において、全ての棚板25上にワークWが載っている定常操業時において、炉内を間欠的に旋回移動しつつ加熱処理されたワークWが開口3に対面する位置に至ると、棚板群Aに対応する扉体41が開放されて(図1の鎖線)、ロボットアーム6が開口部31から炉内に進入して棚板群Aの最上位置の棚板25上にあるワークWを把持フィンガ61で掴んで炉外へ搬出する。この後、ロボットアーム6は新たなワークWを掴んで開口部31より再び炉内に進入し、空になった最上位置の棚板25上に新たなワークWを載置搬入するとともに、続いてその直下の棚板25上にあるワークWを把持フィンガ61で掴んで炉外へ搬出する。
【0020】
以下、各棚板群A〜Dに対応した扉体41〜44を順次択一的に開放させて各開口部31〜34から、上記と同様の手順で、新たなワークWを棚板25上に載置するとともにその直下の棚板25上の、加熱処理を終えたワークWを炉外へ取り出す。この過程は回転軸2が停止している時間内に、棚板群Dの最下段の棚板25上へ新たなワークWを載置するまで続けられる。扉体44を閉鎖した後、一定時間の経過によって回転軸が回転して、熱処理を終えたワークWが開口3に至ると、再び扉体41〜44が順次択一的開放されて上述の手順で開口部31〜34を経てワークWの搬入および搬出が行われる。
【0021】
このような本実施形態の回転式熱処理炉によれば、ワークWの炉内への搬入と炉外への搬出を一つの開口3で行っているから加熱ヒータ5が設置できない領域を最小限に抑えることができ、炉体1の周壁13内周に設置される加熱ヒータ5の必要周方向長L(図2)をコンパクトな炉体外形で確保することができる。これに対して炉体1´にワークWの搬入口18と搬出口17をそれぞれ設けた図3に示す従来の回転式熱処理炉では、加熱ヒータ5の必要周方向長Lを確保するためには炉体1´の外形を大きくする必要がある。
【0022】
また、本実施形態の回転式熱処理炉では、断熱材の厚みが薄い扉体41〜44を周方向の一箇所に設けるだけで良く、扉体シール部からの外気流入も必要最小限に抑えられるから熱効率を大きく向上させることができる。そして、本実施形態では、扉体41〜44を、開口3全体を開閉する大型のものとせず、開口3を上下方向に区画した各開口部31〜34のそれぞれを開閉する小型のものにして、ワークの搬入・搬出に必要な最小限の開口を開放するようにしているから、さらに熱効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0023】
1…炉体、2…回転軸、25…棚板(ワーク保持部)、3…開口、31〜34…開口部、41〜44…扉体、5…加熱ヒータ、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖された円筒状の炉体と、当該炉体の中心に垂直姿勢で設けられて間欠的に回転させられる回転軸と、当該回転軸の周方向の複数位置に設けられて前記回転軸の回転とともに炉体内を間欠的に旋回移動するワーク保持部と、前記周方向の一箇所で前記炉体に設けられ、対面位置に至った前記ワーク保持部から前記炉体外へワークを搬出するとともに新たなワークを炉体外から前記ワーク保持部へ搬入するための開口と、当該開口を開閉するための扉体と、前記開口を除く前記炉体の内周に沿って配設された加熱ヒータとを備える回転式熱処理炉。
【請求項2】
前記ワーク保持部は前記複数位置において前記回転軸の軸方向たる上下方向へ複数段で設けられており、前記開口は前記ワーク保持部の少なくとも一つに対応させて上下方向へ複数に分割されて、分割された開口部にそれぞれ扉体が設けられている請求項1に記載の回転式熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−163231(P2012−163231A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22310(P2011−22310)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】