説明

回転機の振動監視装置および振動監視方法

【課題】回転機の回転数を計測するための専用の付帯設備を設けることなく回転機の回転数を正確に判定し、当該回転数に基づいて回転機の一定回転速度における振動状態の判定を可能にする振動監視装置および振動監視方法を提供する。
【解決手段】振動加速度センサ2は回転機の振動を検出する。増幅部3は、振動加速度センサ2から振動の検出結果として出力されたアナログ信号を増幅する。A/D変換部4は、増幅部3により増幅されたアナログ信号をデジタル変換する。周波数分析部82は、A/D変換部4により変換されたデジタル信号をFFT処理により周波数分析を行い、周波数分析データを出力する。回転数判定部831は周波数分析データに基づいて回転機の回転数を判定する。状態判定部832は、回転数判定部831により判定された回転数に基づいて、回転機の振動の状態判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント等における回転機の振動状態を無線通信により遠隔監視する振動監視装置および振動監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの回転機が設置されているプラントでは、設備の異常による操業停止を防止するため、主要な回転機の振動の監視が行われている。その監視の周期としては、回転機の振動の変化をオンラインで常時監視したり、或いはオフラインで定期的に監視する方法がとられている。また、解析手法としては、コンピュータ等によるデータ収集装置で回転機の振動波形の信号を収集し、当該収集された信号に対してFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)等の解析処理が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特に、大規模なシステムでは長距離のケーブル布設を避けるため、無線タグを検出部に設置した異常監視システムなどもある(例えば、特許文献2、3参照)。
ここで、振動の異常状態判定は、検出した振動波形からFFT処理によって振動速度や振動変位等を示す周波数解析データを算出し、それらのトレンドの変化や周波数解析データから検知された判定データと予め設定した閾値との比較判定で行われる。その判定データとして用いられる代表的な振動周波数としては、回転軸のアンバランスや負荷機とのミスアライメント等によって発生する回転周波数成分fnおよびその2倍、3倍成分と、駆動電源周波数の2倍の周波数で振動する電磁振動である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−83972号公報
【特許文献2】特開2005−24441号公報
【特許文献3】特開平10−19655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記判定データをFFT処理した振動の周波数解析データから検知するには、回転機の回転数や駆動電源周波数が事前に判明している必要がある。このため、可変速運転される回転機では、計測時の回転数を制御電源から得るか、回転計を回転機に取り付け、その出力を監視システムに取り込む必要があった。このため、設備コストの増大や既存回転機への取り付けができないといった問題があった。
【0006】
その他、計測振動の周波数スペクトルから回転数を自動検出する方法として、周波数スペクトルの最大値を回転周波数として検出する最大ピーク周波数法や、ピーク周波数の各次数成分の周波数間隔を順次求めていき、その中で最も多く現れた周波数間隔を回転速度の1次成分と判断し回転周波数を決定する、周波数間隔法がある。
しかし、必ずしも回転周波数成分が最大値になるとは限らず、例えば回転周波数成分の2次高調波成分(回転周波数の2倍成分)の方が1次成分より大きくなることや、外乱成分によるノイズレベルが最大ピークになる場合もあり、誤判定する事がある。
【0007】
また、回転数間隔法では、1次成分と2次成分のどちらかのレベルが小さく、ピークとして検出できない場合がある。更に、ピークと見なす条件が明確でなく、多くの外乱ノイズがピークとなる場合は正確な判定ができないといった問題があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、回転機の回転数を計測するための専用の付帯設備を設けることなく回転機の回転数を正確に判定し、当該回転数に基づいて回転機の一定回転速度における振動状態の判定を可能にする振動監視装置および振動監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の振動監視装置は、回転機の直交する2方向の振動をそれぞれ個別に検出する振動加速度センサと、前記振動加速度センサから前記振動の検出結果として出力されたアナログ信号を増幅する増幅部と、前記増幅部により増幅されたアナログ信号をデジタル変換するA/D変換部と、前記A/D変換部により変換されたデジタル信号を周波数分析し、該周波数分析の結果として前記振動の周波数分析データを出力する周波数分析部と、前記周波数分析部から出力された周波数分析データに基づいて前記回転機の回転数を判定する回転数判定部と、前記回転数判定部により判定された回転数に基づいて、前記回転機の振動の状態判定を行う状態判定部とを備え、前記回転数判定部は、前記振動の周波数分析データから検知される周波数のうち、前記回転機の最大回転周波数の2以上である整数倍の周波数以下で、かつ、ピーク振幅の大きさの順番が所定の順番までに含まれる複数の周波数に基づいて、前記回転機の回転数を判定することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ノイズによるピーク振幅がある場合でも、1番目からn番目(nは整数)に大きいピーク振幅の何れかに回転周波数成分が含まれるため、回転機の回転数を計測するための専用の付帯設備を設けることなく、周波数分析データに基づいて回転機の回転数を正確に判定し、当該回転数に基づいて回転機の振動状態の判定を行うことが可能となる。また、回転制御信号や回転検出器などの外部信号で検出した回転数と比較して、時間差がない回転数検知が可能であり、変速運転される回転機の振動状態監視を正確に行うことができ、コスト低減にも貢献できる。
また、上記の構成において、前記回転数判定部は、連続して2回以上前記周波数分析部から出力された前記周波数分析データに基づいて、前記回転機の回転数を判定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数の周波数分析データに基づく判定結果をもとに、回転数を比較判定することができるため、回転が停止している場合や回転速度変化中の判定が可能となる。
また、上記の構成において、前記回転数判定部で前記振動の周波数分析データから検知される回転周波数のピーク振幅は、該ピーク振幅の周波数における予め定められた第1の前後所定周波数間の振幅の2乗和平方根に対し、該第1の前後所定周波数間よりも狭い予め定められた第2の前後所定周波数間の振幅の2乗和平方根が占有する割合が、予め定められた所定値以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ノイズによる誤判定を防ぐことができる。
また、上記の構成において、前記回転数判定部は、前記ピーク振幅を示す周波数の1/2倍および2倍の周波数におけるピーク振幅を検出し、該検出したピーク振幅の周波数の中で最も低い周波数を、前記回転機の回転周波数として算出することを特徴とする。
本発明によれば、最大ピーク値が回転数成分の1次成分ではなく、2次成分の場合でも、1次成分を回転周波数と判定することができる。
【0012】
また、上記の構成において、前記状態判定部は、前記回転機の最大回転数を前記回転数判定部により判定された回転数で除算した後に2乗した係数を、前記判定された回転数の振動値に乗算した値を、前記最大回転数の振動値として算出することを特徴とする。
本発明によれば、最大回転数で運転する前に、回転機を最大回転数で運転した場合の振動状態を把握することができ、トラブルを未然に防ぐことができる。
また、上記の構成において、前記状態判定部は、回転周波数と前記回転機の極数との関係から求めた駆動電源周波数の2倍成分の振動値を、電磁振動成分の振動値として算出することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、可変速運転される回転機の電磁振動も状態監視することができる。
また、本発明の振動監視方法は、振動監視装置が行う回転機の振動監視方法であって、振動加速度センサによりそれぞれ個別に検出された回転機の直交する2方向の振動を示すデジタル信号を、高速フーリエ変換処理により周波数分析を行い、該周波数分析の結果として前記振動の周波数分析データを出力する周波数分析ステップと、前記周波数分析ステップにおいて出力された周波数分析データに基づいて前記回転機の回転数を判定する回転数判定ステップと、前記回転数判定ステップにおいて判定された回転数に基づいて、前記回転機の振動の状態判定を行う状態判定ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の振動監視装置によれば、高速フーリエ変換処理により回転機の振動の周波数分析を行い、該周波数分析の結果としての振動の周波数分析データから検知される周波数のうち、前記回転機の最大回転周波数の2倍の周波数以下で、かつ、1番目からn番目(nは整数)に大きいピーク振幅を示す周波数に基づいて回転機の回転数を判定し、該判定された回転数に基づいて回転機の振動の状態判定を行うため、回転機の回転数を計測するための専用の付帯設備を設けることなく回転機の回転数を正確に判定し、当該回転数に基づいて回転機の振動状態の判定を行うことが可能となる。また、回転制御信号や回転検出器などの外部信号で検出した回転数と比較して、時間差がない回転数検知が可能であり、変速運転される回転機の振動状態監視を正確に行うことができ、コスト低減にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るRFIDタグと振動監視部とで構成された振動監視装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態に係る振動監視装置が行う振動監視処理の手順を示す全体フロー図である。
【図3】同実施形態に係る回転周波数判定処理の手順を示すフロー図である。
【図4】同実施形態に係る回転周波数判定処理の手順を詳細に示すフロー図である。
【図5】同実施形態に係るピーク占有周波数を説明するための周波数スペクトルを示す図である。
【図6】同実施形態に係るピーク振幅のピーク占有率を示す度数分布図である。
【図7】同実施形態に係る回転周波数判定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(振動監視装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る振動監視装置の構成を示すブロック図である。振動監視装置は、RFIDタグ1と、振動監視部8とで構成される。
図において、RFIDタグ1は、圧電素子で構成され図示せぬ回転機の振動を検出するための振動加速度センサ2と、その振動加速度センサ2から出力されたアナログ信号を増幅する増幅部3と、増幅部3から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するためのA/D変換部4と、変換されたデジタル信号を一旦記憶するデータ記憶部5と、外部からの指令に基づいて、データ記憶部5に記憶されたデジタル信号を無線伝送するための無線送受信部6と、バッテリーで構成された電源供給部7とを備えている。ここで、振動加速度センサ2は、少なくとも2つの圧電素子が直交する2方向に設けられており、回転機の直交する2方向の振動をそれぞれ個別に検出できる。なお、振動加速度センサ2は、3つの圧電素子がそれぞれ直交する3方向に設けられ、回転機のそれぞれ直交する3方向の振動をそれぞれ個別に検出できるようにしても良い。
【0017】
増幅部3は、振動加速度センサ2の電荷出力を電圧に変換するチャージアンプ31と、チャージアンプ31の出力信号に振動監視周波数範囲の上限付近をカットオフ周波数としたローパスフィルタ32と、その出力電圧信号を増幅する電圧増幅器33とを備えている。
また、振動監視部8は、RFIDタグ1のデータ記憶部5に記憶されているデジタル信号を無線送受信部6を介して伝送させるための送受信部81と、CPUとプログラムとで構成され、送受信部81を介して受信したデジタル信号をFFT処理により周波数分析を行う周波数分析部82と、CPUとプログラムとで構成され、その周波数分析の結果として出力された振動変位、振動速度、振動加速度等を示す振動の周波数スペクトルを示す周波数分析データから、回転機の回転数を算出し、回転機の振動状態の判定を行う演算部83と、演算結果、判定結果、レベルのトレンドグラフ等を表示する表示部84とを備えている。また、演算部83は、回転機の回転数を判定する回転数判定部831と、回転機の振動状態判定を行う状態判定部832とで備えている。
【0018】
(振動監視処理)
以上のような構成の振動監視装置が行う、回転機の振動監視処理の全体の手順について、図2を参照して説明する。
FRIDタグ1から振動監視部8に伝送されたデジタル信号は、周波数分析部82でFFTによる周波数分析が行われ(ステップS101)、周波数分析データが出力される。
その後、ステップS102においては、演算部83の回転数判定部831は、周波数分析部82から出力された周波数分析データに基づいて、回転機の回転数を判定する。なお、ステップS102における回転数判定の詳細な手順については、後述する。
ステップS103においては、判定結果に基づいて、回転機が定速度で回転しているか否かを判定する。定速度で回転していると判定した場合に、次のステップに進む。
【0019】
ステップS104においては、演算部83の状態判定部832は、回転機の性能として予め設定されている最大回転数における振動振幅(振動値)を推定する。回転軸の固有振動数が最大回転周波数以上にある剛性軸からなる回転機の場合、回転周波数成分の振動は、回転周波数の2乗に概略比例することから、状態判定部832は、回転数判定出部831で判定された回転数で最大回転数を除算した値の2乗を求め、それを算出された回転周波数の振動振幅に乗算することで、最大回転数における振動振幅を推定する。これにより、最大回転数で運転する前に、回転機を最大回転数で運転した場合の振動状態を把握することができ、トラブルを未然に防ぐことができる。
【0020】
ステップS105においては、状態判定部832は、電磁振動振幅(電磁振動成分の振動値)を算出する。回転機が交流電動機の場合は、回転数Nと回転機の極数P、および駆動電源周波数fとの間に、N=(120・f)/Pの関係がある。これを利用して、状態判定部832は、回転数から駆動電源周波数fを求めることで、可変速運転の回転機においても、駆動電源周波数fの2倍の周波数で励振される電磁振動振幅を求めることができる。これにより、可変速運転される回転機の電磁振動も状態監視することができる。
【0021】
ステップS106においては、状態判定部832は、回転機の回転周波数成分fnの2fn,3fnにおける振動変位を検出し、振動速度実効値(ISO10816−1、JIS B 0906に規定)などと予め設定された判定基準値(閾値)とを比較する。比較した結果、回転機のアンバランスやミスアライメント等の回転機の振動の状態判定を行う。
ステップS107においては、ステップ106に行った状態判定の結果を表示部84で表示する(ステップS107)。
また、ステップS108で、表示部84では算出された実効値、振動変位をメモリに記憶し、ステップS109で図示しないトレンド画面にその数値グラフを表示する。
このように、回転機の回転数を、計測した複数回の振動の周波数分析データから求めることで、ステップ状に変化する可変速で運転される回転機の一定速度における回転周波数成分の振動を求めることができ、回転機の振動の状態判定が可能になる。
【0022】
(回転数判定処理)
ここで、図3に示すフロー図を参照して、図2のステップS102において演算部83の回転数判定部831が実行する回転数判定処理について説明する。
ここでは、振動加速度センサ2は、回転機の垂直方向及び水平方向の振動を各2回計測する。これにより、振動監視部8の送受信部81は、1回目及び2回目の計測によりRFID1から送信されたデジタル信号を続けて2回受信する。周波数分析部82は、続けて2回受信された各回のデジタル信号をFFTにより解析して、垂直方向及び水平方向の振動の周波数スペクトルデータを示す周波数分析データを生成する(ステップS201)。なお、ここで回転機の垂直方向と水平方向とは、回転機の回転軸に直交する面における垂直方向と水平方向、回転機の回転軸のラジアル方向とアキシャル方向、の2つのパターンが含まれる。
【0023】
演算部83の回転数判定部831は、周波数分析部82から2回続けて出力される周波数分析データに基づいて、回転機の回転数を判定する。
まず、回転数判定部831は、その振動の周波数スペクトルから、それぞれ、振動振幅の最大ピーク値と2番目のピーク値とを検出する(ステップS202)。なお、本実施形態では2番目までのピーク値としているが、予め定めた3番目以降のピーク値まで検出するようにしても良い。
回転数判定部831は、検出したピーク値に対して、レベル判定と(ステップS203)スペクトルのパターン判定を行うことにより(ステップS204)、ノイズとの判別を行う。
【0024】
その後、ステップS205における回転次数判定で、回転基本成分(1次成分)とその2倍成分(2次成分)を判別し、1次成分を回転周波数として検出する。
以上のステップS202〜S205までの処理を、垂直方向及び水平方向各々2回分(V1:垂直1回目、V2:垂直2回目、H1:水平1回目、H2:水平2回目)の、全部で4つの振動の周波数スペクトルについて行う。
全ての振幅スペクトルについて処理が終了した場合(ステップS206:Yes)、ステップS207の回転数判定において、ステップS205で得られた4つの回転周波数(fV1:垂直1回目の回転周波数、fV2:垂直2回目の回転周波数、fH1:水平1回目の回転周波数、fH2:水平2回面の回転周波数)の検出結果を例えば図7に示すように最終判定し、回転周波数を決定し、回転数を判定する。
【0025】
図7に示すような判定を行ことで、以下のようなメリットがある。
(1)複数回の回転周波数の検出結果をもとに回転周波数を決定しているので、回転が停止している場合や回転速度変化中の判定が可能である。
(2)最大ピーク振幅が回転2次成分で、2番目のピーク振幅がノイズ成分の場合、又はその逆の場合、回転次数判定では回転周波数を回転2次成分(又はノイズ成分)と判定するが、どれか1つあるいは2つが異なる結果になると、その回転周波数にピーク振幅がないか再検出するので、誤判定を避けることができる。
なお、図7では、複数個の検出結果を一致とみなす範囲を、±1.875Hzとしているが、計測の目的や対象回転機の運用に応じて適宜設定することができる。
【0026】
(回転数判定処理の詳細)
次に、図4に示すフロー図を参照して、図3のステップS202〜S206までの処理の詳細について説明する。
まず、回転機の性能に関する情報として予め最低回転周波数と最大回転周波数とが設定されており、ステップS301においては、当該最低回転周波数から、当該最大回転周波数の2倍の周波数間における、最大ピーク振幅Amaxとその周波数Fmax、および2番目のピーク振幅Amax2とその周波数Fmax2を検出する。ここで、振幅は変位振幅(μm)で表示しているが、加速度振幅でもよい。なお、検出した最大ピーク振幅が複数ある時は、最も周波数が低いピーク振幅をAmaxおよびFmaxとし、2番目のピークは少なくともFmaxより±1.875Hz以上離れているピークとする。ここで、最大ピーク振幅と2番目のピーク振幅とを検出するのは、ノイズによるピーク値がある場合でも、どちらかに回転周波数成分が含まれるという前提に則っている。もちろん、繁雑でない範囲で3番目、4番目のピーク振幅を検出してもよいが、通常の回転機では、回転周波数成分およびその高調波成分がピーク振幅を示すことから問題はない。
【0027】
ステップS302におけるピークレベル判定では、Amaxを、事前に設定した最大ピーク振幅の閾値と比較し、閾値以下の場合は、回転周波数fnを0として終了する(ステップS317)。これにより、回転中か停止中かを判定する。なお、この閾値は、周波数スペクトルの振幅分解能以上とし、ここでは変位振幅1μmとしている。
Amaxが閾値以上の場合(ステップS302:Yes)、ピークパターン判定では、Fmaxの±1.875Hz間における2乗和平方根Poa1を求めるとともに(ステップS303)、Fmaxの±0.625Hz間の2乗和平方根Poa2を求め(ステップS304)、ピーク占有率Poa2/Poa1が80%以上の値の時にピーク振幅と判定し、ステップS306に進む。そうでない場合はノイズと判定し、2番目のピーク振幅について、同様にピーク値判定を行う(ステップS314、S316、S302、・・・)。
【0028】
ここで、Poaは、例えば、サンプリング周波数2560Hz,サンプリング点数4096のデータによる周波数スペクトルの場合、周波数分解能は0.625Hzとなり、図5に示すように、Poa1,Poa2として、Fmaxからそれぞれ±3ポイントと±1ポイント間の振幅の2乗和平方根を求め、ピークパターン判定を行うこととなる。
これは、振動加速度センサ2で振動を検出する場合、変位変換することにより、20Hz以下の低い周波数成分のノイズレベルが、最大ピーク値になる場合などに有効となる。
【0029】
実験調査によると、図6に示す度数分布のように、ピーク占有率(Poa2/Poa1)は、回転周波数成分が80%以上に分布しており、ノイズによるピーク占有率と分離できることが分かる。これにより、特に低域のノイズによる誤判定を防ぐことができる。
なお、ピーク占有率は、計測の目的や対象回転機の運用に応じて適宜設定することができる。また、Poa1,Poa2のバンド幅は、周波数分解能によって異なるが、Poa2を数Hz間にすると回転周波数成分以外の外乱ノイズが入り込む可能性があり、±1Hz以下がよくPoa1はその2倍程度でよい。
【0030】
最大ピーク値がピーク振幅と判定されなかった場合は(ステップS305:No)、2番目のピーク値を判定し(ステップS314:No、ステップS316、ステップS302、・・・)、そこでもピーク振幅と判定されなかった場合は(ステップS305:No)fn=0として終了する(ステップS314:Yes、ステップS315)。
一方、ピーク振幅と判定された場合は(ステップS305:Yes)、ステップS306に進み、回転次数判定を行う。
【0031】
ステップS306〜S313においては、判定されたピーク振幅のFmaxの2倍および1/2の周波数について、同様にピーク振幅の判定を行い、ピーク振幅と判定された最も周波数が低いAmaxにおけるFmaxを、回転周波数fnおよび振幅faとして検出する。これにより、最大ピーク値が回転数成分の1次成分ではなく、2次成分の場合でも、1次成分を回転周波数と決定し、回転数を判定することができる。
【0032】
以上の回転数検出を、少なくとも順次2回以上計測した振動データで行う。
なお、上記回転数判定処理の詳細説明においては、最大回転周波数の2倍の周波数間における、最大ピーク振幅Amaxとその周波数Fmax、および2番目のピーク振幅Amax2とその周波数Fmax2を検出しているが、最大回転周波数のN倍(Nは2以上の整数)の周波数間における、M番目(M2以上の整数)のピーク振幅AmaxMとその周波数FmaxMmで検出するようにしても良い。ここで、NおよびMは予め定めておくこととする。
【0033】
以上説明したように、振動監視装置は、FFT処理後の振動周波数成分から、回転数を判定するようにしているので、回転機の回転数を計測するための専用の付帯設備を設けることなく、周波数分析データに基づいて回転機の回転数を算出し、当該回転数に基づいて回転機の振動状態の判定を行うことが可能となる。また、回転制御信号や回転検出器などの外部信号で検出した回転数と比較して、時間差がない回転数検知が可能であり、変速運転される回転機の振動状態監視を正確に行うことができ、コスト低減にも貢献できる。さらに、最大回転数における振動値を、低速度回転での振動値から推定し、状態判定するようにしているので、回転数に関係ない状態判定が可能になる。また、回転数から駆動電源周波数を算出し電磁振動成分を検出していることから、常時監視が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 RFIDタグ
2 振動加速度センサ
3 増幅部
31 チャージアンプ
32 ローパスフィルタ
33 電圧増幅器
4 A/D変換部
5 データ記憶部
6 無線送受信部
7 電源供給部
8 振動監視部
81 送受信部
82 周波数分析部
83 演算部
84 表示部
831 回転数判定部
832 状態判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の直交する2方向の振動をそれぞれ個別に検出する振動加速度センサと、
前記振動加速度センサから前記振動の検出結果として出力されたアナログ信号を増幅する増幅部と、
前記増幅部により増幅されたアナログ信号をデジタル変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部により変換されたデジタル信号を周波数分析し、該周波数分析の結果として前記振動の周波数分析データを出力する周波数分析部と、
前記周波数分析部から出力された周波数分析データに基づいて前記回転機の回転数を判定する回転数判定部と、
前記回転数判定部により判定された回転数に基づいて、前記回転機の振動の状態判定を行う状態判定部とを備え、
前記回転数判定部は、
前記振動の周波数分析データから検知される周波数のうち、前記回転機の最大回転周波数の2以上である整数倍の周波数以下で、かつ、ピーク振幅の大きさの順番が所定の順番までに含まれる複数の周波数に基づいて、前記回転機の回転数を判定することを特徴とする振動監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動監視装置において、
前記回転数判定部は、連続して2回以上前記周波数分析部から出力された前記周波数分析データに基づいて、前記回転機の回転数を判定することを特徴とする振動監視装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動監視装置において、
前記回転数判定部で前記振動の周波数分析データから検知される前記ピーク振幅は、該ピーク振幅の周波数における予め定められた第1の前後所定周波数間の振幅の2乗和平方根に対し、該第1の前後所定周波数間よりも狭い予め定められた第2の前後所定周波数間の振幅の2乗和平方根が占有する割合が、予め定められた所定値以上であることを特徴とする振動監視装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の振動監視装置において、
前記回転数判定部は、前記ピーク振幅を示す周波数の1/2倍および2倍の周波数におけるピーク振幅を検出し、該検出したピーク振幅の周波数の中で最も低い周波数を、前記回転機の回転周波数として算出することを特徴とする振動監視装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の振動監視装置において、
前記状態判定部は、前記回転機の最大回転数を前記回転数判定部により判定された回転数で除算した後に2乗した係数を、前記判定された回転数の振動値に乗算した値を、前記最大回転数の振動値として算出することを特徴とする振動監視装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の振動監視装置において、
前記状態判定部は、回転周波数と前記回転機の極数との関係から求めた駆動電源周波数の2倍成分の振動値を、電磁振動成分の振動値として算出することを特徴とする振動監視装置。
【請求項7】
振動監視装置が行う回転機の振動監視方法であって、
振動加速度センサによりそれぞれ個別に検出された回転機の直交する2方向の振動を示すデジタル信号を、周波数分析を行い、該周波数分析の結果として前記振動の周波数分析データを出力する周波数分析ステップと、
前記周波数分析ステップにおいて出力された周波数分析データに基づいて前記回転機の回転数を判定する回転数判定ステップと、
前記回転数判定ステップにおいて判定された回転数に基づいて、前記回転機の振動の状態判定を行う状態判定ステップとを備えたことを特徴とする振動監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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