回転機器の異常診断システム、回転機器の異常診断装置及び回転機器の異常診断方法
【課題】回転機器の異常診断を回転機器から発せられる騒音を非接触で検出し、且つ精度よく回転機器の異常診断を行うことができる回転機器の異常診断システム、回転機器の異常診断装置及び回転機器の異常診断方法を提供する。
【解決手段】設置スペース1の外周部の四辺の各中央部に、4台のスピーカ8a〜8dが設置されており、これらのスピーカ8a〜8dは、設置スペース1の内側に向かって互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を出力する。測定位置で異常診断装置9により回転機器2aが発する振動音響とビーコン信号とを測定する。ビーコン信号に基づいて測定位置を特定し、この測定位置で測定した振動音響の音圧を基準位置で測定したとする音圧に補正する。この補正後の音圧の実効値に基づいて回転機器2aの回転状態の異常診断を行う。
【解決手段】設置スペース1の外周部の四辺の各中央部に、4台のスピーカ8a〜8dが設置されており、これらのスピーカ8a〜8dは、設置スペース1の内側に向かって互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を出力する。測定位置で異常診断装置9により回転機器2aが発する振動音響とビーコン信号とを測定する。ビーコン信号に基づいて測定位置を特定し、この測定位置で測定した振動音響の音圧を基準位置で測定したとする音圧に補正する。この補正後の音圧の実効値に基づいて回転機器2aの回転状態の異常診断を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中の回転機器の異常を診断する異常診断システム、異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器においては運転中の回転機器本体の振動や騒音を測定・解析することにより、該回転機器の異常の有無を診断できることは一般的に知られている。例えば、回転機器の軸受の不良、損傷、劣化などは特徴周波数の検出によって可能である。また、回転機器の騒音に含まれる「うなり成分」を検出することによりロータ側の絶縁不良の検知を行うことができる。
【0003】
回転機器本体の振動を測定・解析して診断するものとして、診断装置本体に接続された振動センサが回転機器に直付けされ、該振動センサが回転機器の振動を検出し、運転中の回転機器の異常を診断する回転機器の診断装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の回転機器の診断装置は、前記振動センサを回転機器の軸受ハウジングに直付けして回転機器の運転中の振動を測定・解析することによって軸受の異常を診断しているが、異常診断をする度に前記振動センサを診断の対象となる回転機器に取り付ける必要がある。このため取り付け作業が煩わしく、しかも手が回転露出部へ接触等するのを避けるため慎重な作業が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−279322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、運転中の回転機器本体の騒音を測定・解析する方法では、回転機器に非接触で異常診断を行うことができるため、上述したような問題は解消されるが、例えばマイクロホン等の受音器を用いて回転機器から発せられる騒音を受音して、回転機器の異常診断を行う場合では、測定する度に騒音の測定位置を一定に保つことが難しく、回転機器と測定位置との間の距離が変動しやすい。これにともない、受音する回転機器の騒音の信号レベルが変動するため、該回転機器の異常を精度よく検知できないという点で信頼性に劣るものであった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、回転機器の異常診断を回転機器が発する振動状態を振動音響により検出し、且つ精度よく回転機器の異常診断を行うことができる回転機器の異常診断システム、回転機器の異常診断装置及び回転機器の異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断システムは、診断対象となる回転機器の設置スペースに少なくとも3個配置され、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する発音器と、移動可能に設けられ前記回転機器の回転状態の異常を診断する異常診断装置とを備え、前記異常診断装置は、前記回転機器の運転中に発せられる振動音響および前記発音器から発せられる前記標識音響を受音する受音器と、前記受音器で受音した少なくとも3個の前記発音器から出力された前記標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器の前記設置スペースでの受音位置を特定する位置特定手段と、前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正する補正手段と、前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断する診断手段と、を有することを特徴とする(請求項1の発明)。
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断装置は、請求項1に記載の回転機器の異常診断システムで使用される異常診断装置であって、前記受音器としてのマイクロホンと、前記マイクロホンが接続可能に構成され、前記位置特定手段、前記補正手段および前記診断手段を備えた本体部と、を備えたことを特徴とする(請求項7の発明)。
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断方法は、診断対象となる回転機器の設置スペースに、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する少なくとも3個の発音器が設けられ、前記回転機器の異常診断の方法であって、回転機器の運転中に発せられる振動音響および発音器から発せられる標識音響を受音器により受音するA行程、受音器で受音した少なくとも3個の標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器による受音位置を特定するB行程、前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正するC行程、前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するD行程、をこの順に行うことを特徴とする(請求項8の発明)。
【発明の効果】
【0011】
上述した発明によれば、回転機器の異常診断を回転機器が発する振動状態を振動音響により非接触で検出し、且つ精度よく回転機器の異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例であり、回転機器の異常診断装置によって回転機器の異常診断を行なう様子を示す図
【図2】回転機器の異常診断装置の概観を示す図
【図3】回転機器の異常診断装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図4】回転機器の異常診断の手順を示すフローチャート
【図5】測定したビーコン信号の例を示す図
【図6】測定した振動音響の例を示す図
【図7】診断データファイルの構成図
【図8】振動音響信号の補正を説明するための図
【図9】本発明の第2実施例であり、図1相当図
【図10】図3相当図
【図11】図4相当図
【図12】振動音響とビーコン信号とを同時に測定した例を示す図
【図13】図8相当図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例に係る回転機器の異常診断システムについて図1乃至図8を参照して説明する。この回転機器の異常診断システムは、設置スペース1に設置されたスピーカ8a〜8dと、スピーカ8a〜8dから発せられる標識音響としてのビーコン信号を受音するとともに、回転機器が発する振動音響を受音、補正、解析、診断を行なう異常診断装置9とを備えて構成されている。
【0014】
図1に示すように、工場などの所定の設置スペース1に複数台(本実施例では4台)の回転機器2a〜2d(例えば誘導電動機)が設置されている。これらの回転機器2a〜2dの回転軸3の先端部及び負荷装置(例えばポンプ)4の回転軸5の先端部には、円柱状の接合板6及び7が固定して装着されており、接合板6及び7が、相互に接合されボルトで固定されることによって、回転機器2a〜2dの回転軸3と負荷装置4の回転軸5とが機械的に連結されている。この設置スペース1の外周部の四辺の各中央部には、4台の発音器たるスピーカ8a〜8dが設置されており、これらのスピーカ8a〜8dは、設置スペース1の内側に向かって互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を出力する。
【0015】
回転機器2a〜2dから発せられる振動音響のうち測定対象は10kHzまでの可聴周波数帯域としており、スピーカ8a〜8dから発せられるビーコン信号は、この振動音響の測定対象の周波数帯域より高い10kHz〜20kHzの超音波の周波数帯域の周波数(fa、fb、fc、fd)に設定されている。
【0016】
図2に示す回転機器の異常診断装置9は、振動音響及びビーコン信号の音圧(Pa)を測定・記憶等するもので、携帯可能に構成された情報端末装置である、所謂PDA(Personal Digital Assistant)10を本体部とし、マイクロホン15、前処理器14、CFカード13及びPDA10がこの順に接続され構成されている。
【0017】
PDA10の上面部には、LCD(Liquid Crystal Display)などの情報表示装置が備えられ、ペンタッチ入力も可能に構成された表示入力部11や、押しボタン方式の操作キー12などが配置されている。また、PDA10の上端部には、CFカード13を接続するためのカードスロット(図示せず)が形成されている。
【0018】
マイクロホン15は、回転機器2a〜2dから発せられる振動音響及びスピーカ8a〜8dから出力されるビーコン信号を受音するために用いられ、可聴音及び超音波の周波数帯域の音が受音可能である。CFカード13がPDA10の前記カードスロットに装着されることによって、マイクロホン15がPDA10に接続され、マイクロホン15が受音した音は、電気信号に変換されてPDA10に入力される。
【0019】
次に、図3に基づいて、異常診断装置9の電気的構成について説明する。
前処理器14は、マイクロホン15からの入力信号をフィルタリングするもので、ジャック17、直流成分カットフィルタ18、バッファ19、切り換えスイッチ20、振動音響用フィルタ21(第2のフィルタ手段)及びビーコン信号用フィルタ22(第1のフィルタ手段)を備えている。直流成分カットフィルタ18、バッファ19及び切り換えスイッチ20は、この順に接続され、直流成分カットフィルタ18にはジャック17を介してマイクロホン15のプラグ16が接続されている。切り換えスイッチ20は、入力された信号を振動音響用フィルタ21及びビーコン信号用フィルタ22のいずれかに切り換えられるように設けられている。
【0020】
直流成分カットフィルタ18は、例えば、遮断周波数0.05Hz、−20dB/decに設定されたハイパスフィルタである。振動音響用フィルタ21は、例えば、遮断周波数10kHz、−40dB/decに設定された2次バタワースローパスフィルタにより構成され、入力信号のうち0Hz〜10kHzの周波数帯域の振動音響信号を通過させる。また、ビーコン信号用フィルタ22は、例えば、−40dB/decに設定された、遮断周波数10kHzの2次バタワースハイパスフィルタと遮断周波数20kHzのアンチエイリアシングフィルタとで構成され、入力信号のうち10kHz〜20kHzの周波数帯域の周波数に設定されたビーコン信号を通過させる。
【0021】
CFカード13は、前処理器14から入力された信号をA/D変換して出力するもので、増幅回路23、A/D変換器24、25、CFカードコントローラ26、CPU27、メモリ28及びコネクタ29を備えている。
【0022】
A/D変換器24は、振動音響の周波数帯域のサンプリングに必要な25kHzのサンプリングレートに設定され、A/D変換器25は、ビーコン信号の周波数帯域のサンプリングに必要な50kHzのサンプリングレートに設定されている。A/D変換器24、25は増幅回路23とCFカードコントローラ26との間で並列に接続されている。振動音響の周波数帯域0Hz〜10kHzは、ビーコン信号の周波数帯域10kHz〜20kHzより低いため、A/D変換器24のサンプリングレートは、A/D変換器25のサンプリングレートより低く設定されている。
【0023】
CPU27には、CFカードコントローラ26、メモリ28がバスを介して接続されている。CPU27は、CFカードコントローラ26、メモリ28の制御を行う。CFカードコントローラ26は、内部のデコーダ(図示せず)によってCPU27より与えられる制御指令をデコードして動作し、CFカード13とPDA10との間でデータの転送を行う。また、CFカードコントローラ26は、A/D変換器24、25より出力されたデータを受けて、コネクタ29を介してPDA10側にデータを転送する。
【0024】
PDA10は、コネクタ30、CPU31、メモリ32、ISAバスI/F33、D/A変換器34及びヘッドホンジャック35を備える。ISAバスI/F33は、CFカード13との間におけるバス制御を行うものである。メモリ32には、オペレーティングシステム(OS)がインストールされており、このOS上で動作するアプリケーションプログラムとして図示はしないが位置特定プログラム(位置特定手段)、振動音響データ補正プログラム(補正手段)及び異常診断プログラム(診断手段)も記憶されている。
【0025】
なお、前記アプリケーションプログラムとしてメディアプレーヤが搭載されており、後述する診断データファイル36(図7参照)に基づいて音声信号の再生出力も可能となっている。音声信号は、D/A変換器34を介してヘッドホンジャック35より出力される。即ち、作業者は、ヘッドホンジャック35に図示しないヘッドフォンを接続することで、振動音響データを音声として聞くことができる。
【0026】
次に、上記構成によるビーコン信号及び振動音響の測定について説明する。
まず、スピーカ8a〜8dのビーコン信号の測定では、PDA10によりビーコン信号測定の操作がなされると、前処理器14においては切り換えスイッチ20によりビーコン信号用フィルタ22側に切り換えられ、CFカード13においてはサンプリングレートが50kHzのA/D変換器25側に切り換えられる。この状態で、マイクロホン15が測定対象であるスピーカ8a(8b〜8d)に向けた状態とされると、そのスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号をマイクロホン15により受音する。受音されたビーコン信号は、前処理器14においてビーコン信号用フィルタ22で10kHz〜20kHzの周波数帯域の信号が通過され、この後、CFカード13においてA/D変換器25によりデジタル信号に変換され、PDA10に入力される。PDA10においては、これらビーコン信号はデジタル信号に変換した波形のデータとしてメモリ32に後述する形式で記憶される。
【0027】
また、回転機器2aの振動音響の測定では、PDA10により振動音響の測定の操作がなされると、前処理器14においては振動音響用フィルタ21に切り換えられ、CFカード13においてはサンプリングレートが25kHzのA/D変換器24に切り換えられる。この状態で、マイクロホン15が測定対象である回転機器2aに向けられると、回転機器2aから発せられる回転状態に応じた振動音響が受音される。受音された振動音響は、0.05Hz〜10kHzまでの周波数帯域の信号が通過され、A/D変換器24を介してデジタル信号に変換される。この振動音響のデジタル信号はPDA10において波形のデータとしてメモリ32に記憶される。
なお、デジタル信号に変換されたビーコン信号及び振動音響の各信号は、音圧(Pa)に対応した信号であり、以下の説明においては、この信号の大きさを信号レベルとして扱う。
【0028】
上記のようにしてビーコン信号及び振動音響の音圧が測定されるが、回転機器2aの回転状態の異常診断に際しては、これに先立って基準となる振動音響の音圧のデータの取得が行われる。すなわち、回転機器2a(2b〜2dも同様)を設置スペース1に設置する際に、正常な状態で運転されているときの振動音響の音圧のデータを基準データP0として取得する。上記と同様にして、振動音響の測定を行うが、測定を行う位置A0は予め決められた位置で行われる。これにより、基準位置A0で測定される基準となる振動音響の基準データP0が得られる。
【0029】
また、設置スペース1内での位置を算出するために必要なデータとして、スピーカ8a〜8dが出力するビーコン信号を基準位置A0において受音して基準となる信号レベルのデータBa0、Bb0、Bc0、Bd0として各スピーカ8a〜8dまでの距離のデータとともに予め記憶しておく。これらの振動音響の基準データP0及びビーコン信号のデータBa0、Bb0、Bc0、Bd0は、回転機器2aの基準となるデータとして予めPDA10のメモリ内に記憶される。他の回転機器2b〜2dについても同様のデータが予め測定され、メモリ32に記憶される。
【0030】
次に、異常診断の測定について図4の手順を参照して説明する。
この実施例においては、マイクロホン15で受音する際に、上述した回転機器2aに対する基準位置A0以外の任意の測定位置A1においても測定可能とするために、初めに測定位置検出のためのビーコン信号を受信し、これによって設置スペース1内における位置A1を算出して基準位置A0との距離の差を判定する。この後、測定位置A1での回転機器の振動音響を測定してその音圧に相当する信号レベルを基準位置A0で受信したときの信号レベルとなるように補正をする。この後、基準位置A0で受信したときに相当する振動音響の音圧pが基準データp0に対して異常なレベルであるか否かが判断される。
【0031】
さて、異常診断の手順としては、まず、ビーコン信号を測定すべくPDA10を操作してビーコン信号用フィルタ22を設定するとともにビーコン信号用のレートとなるようにA/D変換器25を設定する(S1)。次に、マイクロホン15により4個のスピーカ8a〜8dのうちの少なくとも3個として例えばスピーカ8a〜8cについてビーコン信号を測定する。測定に際しては、マイクロホン15を測定対象のスピーカ8a(8b、8c)に向けて所定時間受音する(S2)。これにより、3個のビーコン信号Ba、Bb、Bcのデジタル信号を得ることができる。
【0032】
次に、測定対象となる回転機器2aの振動音響を測定する。同様にしてPDA10を操作して振動音響用フィルタ21及びA/D変換器24に切り換える(S3)。続いて、回転機器2aにマイクロホン15を向けて振動音響を受音する。これにより、振動音響の信号をデジタル信号に変換したデータとして取得することができる(S4)。
【0033】
なお、上述のようにして測定したビーコン信号及び振動音響のデータについては、診断データファイル36としてメモリ32に記憶される。
図7は診断データファイル36のデータ領域構造を示している。診断データファイル36は、例えばRIFF WAVE形式で、情報チャンク37とウェーブチャンク38とからなるデータ領域構造であり、異常診断毎に1つずつ作成されPDA10のメモリ32に記憶される。
【0034】
ウェーブチャンク38は、音声用のデータを記録するためのデータ領域であり、振動音響データ39、3つのビーコン信号データ40、41、42が記録される。一方、情報チャンク37はユーザが任意のデータを記録するための領域であり、基準位置でのビーコン信号の音圧43には、例えばBa0、Bb0、Bc0、Bd0が記録され、測定位置でのビーコン信号の音圧44には、例えばスピーカ8a〜8cのビーコン信号の音圧Ba、Bb、Bcが記録される。
【0035】
次に、測定した3個のビーコン信号Ba、Bb、Bcのデジタル信号のデータから、測定位置A1を算出する(S5)。ここでは、まず、測定した3個のビーコン信号のデータについて、FFT(Fast Fourier Transform)処理をすることでビーコン信号の周波数が特定され、対応する基準となるビーコン信号のレベルBa1、Bb1、Bc1との演算を行って各スピーカ8a、8b、8cまでの各距離を算出する。ここでは、基準位置A0での各スピーカ8a、8b、8cまでの距離La、Lb、Lcのデータを用いて、音圧が音源からの距離の2乗に反比例するという法則に基づいて算出することができる。測定位置A1の設置スペース1における位置が算出できる。これにより、測定位置A1における対象となる回転機器2aとの距離を算出することができる。
【0036】
次に、上述した振動データ補正プログラムを動作させ、測定位置A1で測定された振動騒音の任意の周波数の音圧をp1とした場合の、基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pを求める。音圧は音源からの距離の2乗に反比例するので、音圧p1と音圧pとの関係を下記の式(1)で表すことができる。
p=(L1/L0)2×p1 … (1)
【0037】
なお、本発明者らの実測結果によれば、式(1)は(L1/L0)≧2の条件が満たされているときに有効であり、(L1/L0)<2の条件が満たされているときには、すなわち、測定位置A1と音源である回転機器2aとの距離が基準位置A0からの距離L0と近い場合は下記の式(2)が有効であることが測定により分かっている。これは設置環境などによる音の伝わり方の違いにより反射音などが受音されるためと推測され、音圧は音源からの距離に反比例するものである。このため、(L1/L0)<2のときは、式(2)を用いて、音圧p1を基準位置A0での音圧pに補正する。
p=(L1/L0)×p1 … (2)
【0038】
すなわち、式(1)又は(2)により、測定位置A1で測定された音圧p1は、基準位置A0で測定されたとする音圧pに補正される。後述する回転機器2aの回転状態が異常か否かの判断は、補正後の音圧pに基づいて行われる。図8には、測定位置A1で測定された音圧p1のデータをFFT処理した結果を示している。また、図8中、曲線45は測定位置A1で測定された音圧p1のレベルに相当する曲線を示し、曲線46は基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pのレベルに相当する曲線を示している。
【0039】
振動音響データの実効値による異常判断では、基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pについてその周波数成分から実効値を求め後述する閾値と比較して回転機器2aの回転状態が異常か否かを判断する(S6)。具体的には、上述した異常診断プログラムにより行われ、回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の例えば5倍の値を閾値とする。基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pの実効値とこの閾値とを比較して、この実効値が閾値より小さい否かを判断する。この実効値が閾値より小さい場合、回転機器2aの回転状態は異常なしと判断され(S7:NO)、回転状態の異常診断は終了される。一方、この実効値が閾値より大きいと判断された場合、回転機器2aの回転状態は異常有りと判断され(S7:YES)、手順S8に移行する。
【0040】
振動音響データ解析(S8)では、(1)FFT、(2)兆候パラメータ、(3)ベアリングパス周波数による周知の解析が行われ、回転機器2aのより詳細な回転状態の異常診断が行われる。手順S9では、これらの診断結果がPDA10の表示入力部11に表示される。
【0041】
上記構成によれば、回転機器2aの回転状態の異常診断を、回転機器2aから発せられる振動音響を非接触でマイクロホン15による測定をするだけで行うことができる。このため、異常診断時に作業者が回転機器2aの回転露出部に接触等する心配が無く、安全にしかも作業効率の良い異常診断を行うことができる。
【0042】
また、測定位置A1で測定された回転機器2aの振動音響を、基準位置A0で測定した回転機器2aの振動音響とする補正をするため、回転機器2aの振動音響の測定位置の変動による信号レベルである音圧の誤差を無くすことができ、異常診断を精度良く行うことができる。
さらに、ビーコン信号のサンプリングレートに比べ、回転機器2aの振動音響のサンプリングレートを低くしたため、サンプリングするデータの総数を少なくすることができ、サンプリングしたデータを記憶する異常診断装置9のメモリ32の容量を小さくすることができ、経済的に有利である。
【0043】
(第2実施例)
以下、本発明の第2実施例に係る回転機器の異常診断システムについて図9乃至図13を参照して説明する。上記第1実施例と実質的に同一部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略し、異なる点につき説明する。
本実施例の回転機器の異常診断システムは、設置スペース1に設置された回転機器2a〜2dのそれぞれにビーコン信号を発するスピーカ51a〜51dを一台ずつ設置している点で、第1実施例に係る回転機器の異常診断システムと異なる。
【0044】
図9に示すように、設置スペース1に複数台(本実施例では4台)の回転機器2a〜2dが設置されている。回転機器2aの上面にスピーカ51aが設置されている。回転機器2b〜2dについても回転機器2aと同様に、これらの上面にスピーカ51b〜51dがそれぞれ設置されている。スピーカ51a〜51dは、それぞれ10kHz〜20kHzの超音波の周波数帯域の互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を基準位置に向けて発している。
【0045】
スピーカ51a〜51dのビーコン信号にはそれぞれ位置特定情報(周波数:ea、eb、ec、ed)、回転機器識別用の情報(周波数:ea1、eb1、ec1、ed1)及び運転状況特定用の情報(周波数:ea2、eb2、ec2、ed2)などが重畳されている。なお、本実施例では、前記運転状況は回転機器2a〜2dの回転速度のことを意味する。前記回転機器識別用の情報にあっては、それぞれの回転機器2a〜2dに固有の周波数(ea1、eb1、ec1、ed1)が割り当てられており、例えば、スピーカ51aから発せられるビーコン信号に周波数ea1の信号が重畳されていれば、回転機器2a〜2dの中から回転機器2aを識別できる。
【0046】
回転機器2a〜2dの運転状況特定用の情報にあっては、回転機器2a〜2dの回転速度に対応した固有の周波数が割り当てられており、例えば、スピーカ51aから発せられるビーコン信号に周波数ea2の信号が重畳されていれば、ビーコン信号測定時の回転機器2aの回転速度が周波数ea2に対応した回転速度であることが分かるようになっている。
【0047】
図10には異常診断装置52の電気的構成を示す機能ブロック図を示す。回転機器の異常診断装置52は、携帯可能に構成された情報携帯装置、所謂PDA10を本体部とし、マイクロホン15、前処理器54、CFカード53及びPDA10がこの順に接続され構成されている。
【0048】
前処理器54は、マイクロホン15からの入力信号をフィルタリングするもので、ジャック17、直流成分カットフィルタ18、バッファ19及びアンチエイリアシングフィルタ57がこの順に直列に接続され構成されている。アンチエイリアシングフィルタ57は、−40dB/decに設定された、遮断周波数20kHzのフィルタであり、CFカード53の増幅回路23に接続されている。
【0049】
CFカード53は、前処理器54からの入力信号をA/D変換して出力するもので、増幅回路23、A/D変換器25、CFカードコントローラ26、CPU27、メモリ28及びコネクタ29を備えている。CFカード53に入力された信号は、増幅回路23で増幅された後、A/D変換器25に与えられ、デジタル信号に変換される。
【0050】
A/D変換器25は、周波数帯域0Hz〜10kHzの振動音響信号及び周波数帯域10kHz〜20kHzのビーコン信号のサンプリングに必要な50kHzのサンプリングレートに設定され、振動音響信号及びビーコン信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器25はCFカードコントローラ26に接続され、CFカードコントローラ26は、A/D変換器25より出力されたデータを受けて、コネクタ29を介してPDA10側にデータを転送する。
【0051】
次に、上記構成によるビーコン信号及び振動音響の測定について説明する。
この実施例では、回転機器2a(2b〜2d)の振動音響及びスピーカ8a(8b〜8d)のビーコン信号を同時に測定する。PDA10により振動音響・ビーコン信号の測定の操作がなされると、前処理器54のアンチエイリアシングフィルタ57及びCFカード53のA/D変換器25がアクティブ状態になる。この状態で、マイクロホン15が測定対象である回転機器2a(2b〜2d)に向けた状態とされると、回転機器2a(2b〜2d)から発せられる回転状態に応じた振動音響とスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号とがマイクロホン15により同時に受音される。
【0052】
受音された振動音響及びビーコン信号は、前処理器54においてアンチエイリアシングフィルタ57で0.05Hz〜20kHzの周波数帯域の信号が通過され、この後、CFカード53においてA/D変換器25によりデジタル信号に変換され、PDA10に入力される。PDA10においては、振動音響信号及びビーコン信号はデジタル信号に変換した波形のデータとしてメモリ32に記憶される。
【0053】
上記のようにして振動音響及びビーコン信号の音圧が測定されるが、回転機器2aの回転状態の異常診断に際しては、これに先立って基準となる振動音響の音圧のデータの取得が、上記した第1実施例と同様な方法で行われる。すなわち、基準位置A0で測定される基準となる回転機器2a(2b〜2d)の振動音響の基準データP0が取得される。
【0054】
また、各回転機器2a(2b〜2d)に対応して設けられたスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号についても、基準位置A0で測定されるビーコン信号の位置特定情報の基準データC0が取得される。
【0055】
次に、異常診断の測定について図11の手順を参照して説明する。
この実施例においては、マイクロホン15で受音する際に、上述した回転機器2aに対する基準位置A0以外の任意の測定位置A1においても測定可能とするために、測定位置A1で測定したビーコン信号の位置特定情報の音圧C1と基準データC0に基づいて、測定位置A1で測定した回転機器2aの振動音響の音圧に相当する信号レベルを基準位置A0で受音したときの信号レベルとなるように補正をする。この後、基準位置A0で受信したときに相当する振動音響の音圧pが基準データp0に対して異常なレベルであるか否かが判断される。
【0056】
さて、異常診断の手順としては、まず、振動音響及びビーコン信号を同時に測定すべくPDA10を操作する(S11)。次に、マイクロホン15により回転機器2aの振動音響及びスピーカ8aのビーコン信号を同時に測定する。測定に際しては、マイクロホン15を測定対象の回転機器2aに向けて所定時間受音する(S12)。これにより、振動音響p1、ビーコン信号の位置特定情報の音圧C1、回転機器識別用の情報の音圧及び運転状況特定用の情報の音圧のデジタル信号を得ることができる。
【0057】
次に、デジタル信号として得た振動音響p1とビーコン信号とをFFT処理することにより、0.05Hz〜10kHzの周波数帯域の振動音響p1と10kHz〜20kHzの周波数帯域のビーコン信号とに分離をする(S14)。なお、上述して得た振動音響及びビーコン信号のデータについては、振動データファイル36としてメモリ32に記憶される。
【0058】
振動音響データ補正では、手順S13で分離した振動音響の音圧の補正を行う(S14)。具体的には、測定位置A1での振動音響の音圧を基準位置A0で測定したとする音圧となるように補正を行う。
【0059】
上述したように、一般に、音圧(Pa)は音源からの距離の2乗に反比例するので、式(1)が導入される。
p=(L1/L0)2×p1 … (1)
ここで、ビーコン信号の位置特定情報の音圧の距離減衰の関係は、下記の式(3)により表される。
C0=(L1/L0)2×C1 … (3)
式(3)は、下記の式(4)に変形できる。
(L1/L0)2=C0/C1 … (4)
式(1)及び(4)より下記の式(5)が導かれる。
p=(C0/C1)×p1 … (5)
上述した振動データ補正プログラムを動作させ、測定位置A1で測定された回転機器2aの振動音響の任意の周波数の音圧をp1とした場合、基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pを、式(5)を用いて求める。
【0060】
なお、第1実施例と同様に、本発明者らの実測結果によれば、式(5)は(C0/C1)≧22=4の条件が満たされているときに有効であり、(C0/C1)<4の条件が満たされているときには、すなわち、測定位置A1と回転機器2aとの距離が基準位置A0からの距離と近い場合は、下記の式(6)が測定により有効であることが分かっている。これは設置環境などによる音の伝わり方の違いにより反射音などが受音されるためと推測され、音圧は音源からの距離に反比例するものである。このため、(C0/C1)<4のときは、式(6)を用いて、音圧p1を基準位置A0での音圧pに補正する。
p=(C0/C1)1/2×p1 … (6)
【0061】
即ち、式(5)又は(6)により、測定位置A1で測定された音圧p1に基づいて基準位置A0で測定されたとする音圧pとなるように補正を行う。回転機器2aの回転異常の診断は、補正後の音圧pを用いる。図13には、測定位置A1で測定した振動音響とビーコン信号のデータをFFT処理した結果を示している。また、図13中、曲線55は測定位置A1で測定された音圧p1のレベルに相当する曲線を示し、曲線56は基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pのレベルに相当する曲線を示している。
【0062】
振動音響データの実効値による異常判断では、基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pについてその周波数成分から実効値を求め後述する閾値と比較して回転機器2aの回転状態が異常か否かを判断する(S15)。具体的には、上述した異常診断プログラムにより行われ、回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の5倍の値を閾値とする。基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pの実効値とこの閾値とを比較して、この実効値が閾値より小さい否かを判断する。この実効値が閾値より小さい場合、回転機器2aの回転状態は異常なしと判断され(手順S16:NO)、回転状態の異常診断は終了される。一方、この実効値が閾値より大きいと判断された場合、回転機器2aの回転状態は異常有りと判断され(手順S16:YES)、手順S17に移行する。
【0063】
振動音響データ解析(手順S17)では、(1)FFT、(2)兆候パラメータ、(3)ベアリングパス周波数による周知の解析が行われ、回転機器2aのより詳細な回転状態の異常診断が行われる。手順S18では、これらの診断結果がPDA10の表示入力部11に表示される。
【0064】
上記構成によれば、回転機器2aの振動音響とスピーカ51aから発せられるビーコン信号とを両方同時に測定するため、回転機器2aの回転状態の異常診断を短時間で行うことができ、作業者の作業工数も少なくすることができる。
【0065】
また、異常診断装置52は、1つの周波数帯域を測定するだけなので、前処理器54のフィルタとCFカード53のA/D変換器をそれぞれ1つずつ備えればよく、異常診断装置52の構成を簡単にすることができる。
さらに、位置特定情報の他に、ビーコン信号に回転機器識別用の情報及び回転機器2aの運転状況特定用の情報を重畳しているため、異常診断装置52を用いれば非接触でこれらの情報を得ることができ、回転機器2aの監視をより効率良く行うことができる。
【0066】
(その他の実施例)
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、本願発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
上述した実施例では、設置スペース1は、工場等の屋内にあることを想定しているが、これに限らず、屋外にある設置スペースでも本発明の適用は可能である。
また、上述した実施例では、振動音響データの実効値による異常判断において、閾値を回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の5倍の値に設定したが、これに限ることはなく、当該閾値はユーザが任意に設定することができる。
【0067】
また、上記した第1実施例と第2実施例とを組み合わせて本発明を実施してもよい。即ち、設置スペースに複数台の回転機器を設置し、これらのうち特定の回転機器にビーコン信号を発するスピーカを設置するとともに、この設置スペースの外周部の四方の中央部に少なくとも3台のビーコン信号を発するスピーカを設置するようにしてもよい。
【0068】
また、上述した実施例では、音圧は音源からの距離の2乗に反比例するという法則は、設置環境などによる音の伝わり方の違いにより、音圧は音源からの距離の1乗に反比例するとしているが、「1乗」から「2乗」へと急峻に乗数が変化するため実測値と適合しない場合は、「1乗」と「2乗」との間の乗数を段階的又は連続的に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
図面中、1は設置スペース、2a〜2dは回転機器、8a〜8dはスピーカ(発音器)、9は異常診断装置、10はPDA(本体部)、15はマイクロホン(受音器)、21は振動音響用フィルタ(第2のフィルタ手段)、22はビーコン信号用フィルタ(第1のフィルタ手段)、24、25はA/D変換器、39は振動音響データ(振動音響)、40、41、42はビーコン信号データ(標識音響)、51a〜51dはスピーカ(発音器)、52は異常診断装置、57はアンチエイリアシングフィルタである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中の回転機器の異常を診断する異常診断システム、異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器においては運転中の回転機器本体の振動や騒音を測定・解析することにより、該回転機器の異常の有無を診断できることは一般的に知られている。例えば、回転機器の軸受の不良、損傷、劣化などは特徴周波数の検出によって可能である。また、回転機器の騒音に含まれる「うなり成分」を検出することによりロータ側の絶縁不良の検知を行うことができる。
【0003】
回転機器本体の振動を測定・解析して診断するものとして、診断装置本体に接続された振動センサが回転機器に直付けされ、該振動センサが回転機器の振動を検出し、運転中の回転機器の異常を診断する回転機器の診断装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の回転機器の診断装置は、前記振動センサを回転機器の軸受ハウジングに直付けして回転機器の運転中の振動を測定・解析することによって軸受の異常を診断しているが、異常診断をする度に前記振動センサを診断の対象となる回転機器に取り付ける必要がある。このため取り付け作業が煩わしく、しかも手が回転露出部へ接触等するのを避けるため慎重な作業が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−279322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、運転中の回転機器本体の騒音を測定・解析する方法では、回転機器に非接触で異常診断を行うことができるため、上述したような問題は解消されるが、例えばマイクロホン等の受音器を用いて回転機器から発せられる騒音を受音して、回転機器の異常診断を行う場合では、測定する度に騒音の測定位置を一定に保つことが難しく、回転機器と測定位置との間の距離が変動しやすい。これにともない、受音する回転機器の騒音の信号レベルが変動するため、該回転機器の異常を精度よく検知できないという点で信頼性に劣るものであった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、回転機器の異常診断を回転機器が発する振動状態を振動音響により検出し、且つ精度よく回転機器の異常診断を行うことができる回転機器の異常診断システム、回転機器の異常診断装置及び回転機器の異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断システムは、診断対象となる回転機器の設置スペースに少なくとも3個配置され、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する発音器と、移動可能に設けられ前記回転機器の回転状態の異常を診断する異常診断装置とを備え、前記異常診断装置は、前記回転機器の運転中に発せられる振動音響および前記発音器から発せられる前記標識音響を受音する受音器と、前記受音器で受音した少なくとも3個の前記発音器から出力された前記標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器の前記設置スペースでの受音位置を特定する位置特定手段と、前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正する補正手段と、前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断する診断手段と、を有することを特徴とする(請求項1の発明)。
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断装置は、請求項1に記載の回転機器の異常診断システムで使用される異常診断装置であって、前記受音器としてのマイクロホンと、前記マイクロホンが接続可能に構成され、前記位置特定手段、前記補正手段および前記診断手段を備えた本体部と、を備えたことを特徴とする(請求項7の発明)。
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明に係る回転機器の異常診断方法は、診断対象となる回転機器の設置スペースに、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する少なくとも3個の発音器が設けられ、前記回転機器の異常診断の方法であって、回転機器の運転中に発せられる振動音響および発音器から発せられる標識音響を受音器により受音するA行程、受音器で受音した少なくとも3個の標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器による受音位置を特定するB行程、前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正するC行程、前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するD行程、をこの順に行うことを特徴とする(請求項8の発明)。
【発明の効果】
【0011】
上述した発明によれば、回転機器の異常診断を回転機器が発する振動状態を振動音響により非接触で検出し、且つ精度よく回転機器の異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例であり、回転機器の異常診断装置によって回転機器の異常診断を行なう様子を示す図
【図2】回転機器の異常診断装置の概観を示す図
【図3】回転機器の異常診断装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図4】回転機器の異常診断の手順を示すフローチャート
【図5】測定したビーコン信号の例を示す図
【図6】測定した振動音響の例を示す図
【図7】診断データファイルの構成図
【図8】振動音響信号の補正を説明するための図
【図9】本発明の第2実施例であり、図1相当図
【図10】図3相当図
【図11】図4相当図
【図12】振動音響とビーコン信号とを同時に測定した例を示す図
【図13】図8相当図
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例に係る回転機器の異常診断システムについて図1乃至図8を参照して説明する。この回転機器の異常診断システムは、設置スペース1に設置されたスピーカ8a〜8dと、スピーカ8a〜8dから発せられる標識音響としてのビーコン信号を受音するとともに、回転機器が発する振動音響を受音、補正、解析、診断を行なう異常診断装置9とを備えて構成されている。
【0014】
図1に示すように、工場などの所定の設置スペース1に複数台(本実施例では4台)の回転機器2a〜2d(例えば誘導電動機)が設置されている。これらの回転機器2a〜2dの回転軸3の先端部及び負荷装置(例えばポンプ)4の回転軸5の先端部には、円柱状の接合板6及び7が固定して装着されており、接合板6及び7が、相互に接合されボルトで固定されることによって、回転機器2a〜2dの回転軸3と負荷装置4の回転軸5とが機械的に連結されている。この設置スペース1の外周部の四辺の各中央部には、4台の発音器たるスピーカ8a〜8dが設置されており、これらのスピーカ8a〜8dは、設置スペース1の内側に向かって互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を出力する。
【0015】
回転機器2a〜2dから発せられる振動音響のうち測定対象は10kHzまでの可聴周波数帯域としており、スピーカ8a〜8dから発せられるビーコン信号は、この振動音響の測定対象の周波数帯域より高い10kHz〜20kHzの超音波の周波数帯域の周波数(fa、fb、fc、fd)に設定されている。
【0016】
図2に示す回転機器の異常診断装置9は、振動音響及びビーコン信号の音圧(Pa)を測定・記憶等するもので、携帯可能に構成された情報端末装置である、所謂PDA(Personal Digital Assistant)10を本体部とし、マイクロホン15、前処理器14、CFカード13及びPDA10がこの順に接続され構成されている。
【0017】
PDA10の上面部には、LCD(Liquid Crystal Display)などの情報表示装置が備えられ、ペンタッチ入力も可能に構成された表示入力部11や、押しボタン方式の操作キー12などが配置されている。また、PDA10の上端部には、CFカード13を接続するためのカードスロット(図示せず)が形成されている。
【0018】
マイクロホン15は、回転機器2a〜2dから発せられる振動音響及びスピーカ8a〜8dから出力されるビーコン信号を受音するために用いられ、可聴音及び超音波の周波数帯域の音が受音可能である。CFカード13がPDA10の前記カードスロットに装着されることによって、マイクロホン15がPDA10に接続され、マイクロホン15が受音した音は、電気信号に変換されてPDA10に入力される。
【0019】
次に、図3に基づいて、異常診断装置9の電気的構成について説明する。
前処理器14は、マイクロホン15からの入力信号をフィルタリングするもので、ジャック17、直流成分カットフィルタ18、バッファ19、切り換えスイッチ20、振動音響用フィルタ21(第2のフィルタ手段)及びビーコン信号用フィルタ22(第1のフィルタ手段)を備えている。直流成分カットフィルタ18、バッファ19及び切り換えスイッチ20は、この順に接続され、直流成分カットフィルタ18にはジャック17を介してマイクロホン15のプラグ16が接続されている。切り換えスイッチ20は、入力された信号を振動音響用フィルタ21及びビーコン信号用フィルタ22のいずれかに切り換えられるように設けられている。
【0020】
直流成分カットフィルタ18は、例えば、遮断周波数0.05Hz、−20dB/decに設定されたハイパスフィルタである。振動音響用フィルタ21は、例えば、遮断周波数10kHz、−40dB/decに設定された2次バタワースローパスフィルタにより構成され、入力信号のうち0Hz〜10kHzの周波数帯域の振動音響信号を通過させる。また、ビーコン信号用フィルタ22は、例えば、−40dB/decに設定された、遮断周波数10kHzの2次バタワースハイパスフィルタと遮断周波数20kHzのアンチエイリアシングフィルタとで構成され、入力信号のうち10kHz〜20kHzの周波数帯域の周波数に設定されたビーコン信号を通過させる。
【0021】
CFカード13は、前処理器14から入力された信号をA/D変換して出力するもので、増幅回路23、A/D変換器24、25、CFカードコントローラ26、CPU27、メモリ28及びコネクタ29を備えている。
【0022】
A/D変換器24は、振動音響の周波数帯域のサンプリングに必要な25kHzのサンプリングレートに設定され、A/D変換器25は、ビーコン信号の周波数帯域のサンプリングに必要な50kHzのサンプリングレートに設定されている。A/D変換器24、25は増幅回路23とCFカードコントローラ26との間で並列に接続されている。振動音響の周波数帯域0Hz〜10kHzは、ビーコン信号の周波数帯域10kHz〜20kHzより低いため、A/D変換器24のサンプリングレートは、A/D変換器25のサンプリングレートより低く設定されている。
【0023】
CPU27には、CFカードコントローラ26、メモリ28がバスを介して接続されている。CPU27は、CFカードコントローラ26、メモリ28の制御を行う。CFカードコントローラ26は、内部のデコーダ(図示せず)によってCPU27より与えられる制御指令をデコードして動作し、CFカード13とPDA10との間でデータの転送を行う。また、CFカードコントローラ26は、A/D変換器24、25より出力されたデータを受けて、コネクタ29を介してPDA10側にデータを転送する。
【0024】
PDA10は、コネクタ30、CPU31、メモリ32、ISAバスI/F33、D/A変換器34及びヘッドホンジャック35を備える。ISAバスI/F33は、CFカード13との間におけるバス制御を行うものである。メモリ32には、オペレーティングシステム(OS)がインストールされており、このOS上で動作するアプリケーションプログラムとして図示はしないが位置特定プログラム(位置特定手段)、振動音響データ補正プログラム(補正手段)及び異常診断プログラム(診断手段)も記憶されている。
【0025】
なお、前記アプリケーションプログラムとしてメディアプレーヤが搭載されており、後述する診断データファイル36(図7参照)に基づいて音声信号の再生出力も可能となっている。音声信号は、D/A変換器34を介してヘッドホンジャック35より出力される。即ち、作業者は、ヘッドホンジャック35に図示しないヘッドフォンを接続することで、振動音響データを音声として聞くことができる。
【0026】
次に、上記構成によるビーコン信号及び振動音響の測定について説明する。
まず、スピーカ8a〜8dのビーコン信号の測定では、PDA10によりビーコン信号測定の操作がなされると、前処理器14においては切り換えスイッチ20によりビーコン信号用フィルタ22側に切り換えられ、CFカード13においてはサンプリングレートが50kHzのA/D変換器25側に切り換えられる。この状態で、マイクロホン15が測定対象であるスピーカ8a(8b〜8d)に向けた状態とされると、そのスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号をマイクロホン15により受音する。受音されたビーコン信号は、前処理器14においてビーコン信号用フィルタ22で10kHz〜20kHzの周波数帯域の信号が通過され、この後、CFカード13においてA/D変換器25によりデジタル信号に変換され、PDA10に入力される。PDA10においては、これらビーコン信号はデジタル信号に変換した波形のデータとしてメモリ32に後述する形式で記憶される。
【0027】
また、回転機器2aの振動音響の測定では、PDA10により振動音響の測定の操作がなされると、前処理器14においては振動音響用フィルタ21に切り換えられ、CFカード13においてはサンプリングレートが25kHzのA/D変換器24に切り換えられる。この状態で、マイクロホン15が測定対象である回転機器2aに向けられると、回転機器2aから発せられる回転状態に応じた振動音響が受音される。受音された振動音響は、0.05Hz〜10kHzまでの周波数帯域の信号が通過され、A/D変換器24を介してデジタル信号に変換される。この振動音響のデジタル信号はPDA10において波形のデータとしてメモリ32に記憶される。
なお、デジタル信号に変換されたビーコン信号及び振動音響の各信号は、音圧(Pa)に対応した信号であり、以下の説明においては、この信号の大きさを信号レベルとして扱う。
【0028】
上記のようにしてビーコン信号及び振動音響の音圧が測定されるが、回転機器2aの回転状態の異常診断に際しては、これに先立って基準となる振動音響の音圧のデータの取得が行われる。すなわち、回転機器2a(2b〜2dも同様)を設置スペース1に設置する際に、正常な状態で運転されているときの振動音響の音圧のデータを基準データP0として取得する。上記と同様にして、振動音響の測定を行うが、測定を行う位置A0は予め決められた位置で行われる。これにより、基準位置A0で測定される基準となる振動音響の基準データP0が得られる。
【0029】
また、設置スペース1内での位置を算出するために必要なデータとして、スピーカ8a〜8dが出力するビーコン信号を基準位置A0において受音して基準となる信号レベルのデータBa0、Bb0、Bc0、Bd0として各スピーカ8a〜8dまでの距離のデータとともに予め記憶しておく。これらの振動音響の基準データP0及びビーコン信号のデータBa0、Bb0、Bc0、Bd0は、回転機器2aの基準となるデータとして予めPDA10のメモリ内に記憶される。他の回転機器2b〜2dについても同様のデータが予め測定され、メモリ32に記憶される。
【0030】
次に、異常診断の測定について図4の手順を参照して説明する。
この実施例においては、マイクロホン15で受音する際に、上述した回転機器2aに対する基準位置A0以外の任意の測定位置A1においても測定可能とするために、初めに測定位置検出のためのビーコン信号を受信し、これによって設置スペース1内における位置A1を算出して基準位置A0との距離の差を判定する。この後、測定位置A1での回転機器の振動音響を測定してその音圧に相当する信号レベルを基準位置A0で受信したときの信号レベルとなるように補正をする。この後、基準位置A0で受信したときに相当する振動音響の音圧pが基準データp0に対して異常なレベルであるか否かが判断される。
【0031】
さて、異常診断の手順としては、まず、ビーコン信号を測定すべくPDA10を操作してビーコン信号用フィルタ22を設定するとともにビーコン信号用のレートとなるようにA/D変換器25を設定する(S1)。次に、マイクロホン15により4個のスピーカ8a〜8dのうちの少なくとも3個として例えばスピーカ8a〜8cについてビーコン信号を測定する。測定に際しては、マイクロホン15を測定対象のスピーカ8a(8b、8c)に向けて所定時間受音する(S2)。これにより、3個のビーコン信号Ba、Bb、Bcのデジタル信号を得ることができる。
【0032】
次に、測定対象となる回転機器2aの振動音響を測定する。同様にしてPDA10を操作して振動音響用フィルタ21及びA/D変換器24に切り換える(S3)。続いて、回転機器2aにマイクロホン15を向けて振動音響を受音する。これにより、振動音響の信号をデジタル信号に変換したデータとして取得することができる(S4)。
【0033】
なお、上述のようにして測定したビーコン信号及び振動音響のデータについては、診断データファイル36としてメモリ32に記憶される。
図7は診断データファイル36のデータ領域構造を示している。診断データファイル36は、例えばRIFF WAVE形式で、情報チャンク37とウェーブチャンク38とからなるデータ領域構造であり、異常診断毎に1つずつ作成されPDA10のメモリ32に記憶される。
【0034】
ウェーブチャンク38は、音声用のデータを記録するためのデータ領域であり、振動音響データ39、3つのビーコン信号データ40、41、42が記録される。一方、情報チャンク37はユーザが任意のデータを記録するための領域であり、基準位置でのビーコン信号の音圧43には、例えばBa0、Bb0、Bc0、Bd0が記録され、測定位置でのビーコン信号の音圧44には、例えばスピーカ8a〜8cのビーコン信号の音圧Ba、Bb、Bcが記録される。
【0035】
次に、測定した3個のビーコン信号Ba、Bb、Bcのデジタル信号のデータから、測定位置A1を算出する(S5)。ここでは、まず、測定した3個のビーコン信号のデータについて、FFT(Fast Fourier Transform)処理をすることでビーコン信号の周波数が特定され、対応する基準となるビーコン信号のレベルBa1、Bb1、Bc1との演算を行って各スピーカ8a、8b、8cまでの各距離を算出する。ここでは、基準位置A0での各スピーカ8a、8b、8cまでの距離La、Lb、Lcのデータを用いて、音圧が音源からの距離の2乗に反比例するという法則に基づいて算出することができる。測定位置A1の設置スペース1における位置が算出できる。これにより、測定位置A1における対象となる回転機器2aとの距離を算出することができる。
【0036】
次に、上述した振動データ補正プログラムを動作させ、測定位置A1で測定された振動騒音の任意の周波数の音圧をp1とした場合の、基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pを求める。音圧は音源からの距離の2乗に反比例するので、音圧p1と音圧pとの関係を下記の式(1)で表すことができる。
p=(L1/L0)2×p1 … (1)
【0037】
なお、本発明者らの実測結果によれば、式(1)は(L1/L0)≧2の条件が満たされているときに有効であり、(L1/L0)<2の条件が満たされているときには、すなわち、測定位置A1と音源である回転機器2aとの距離が基準位置A0からの距離L0と近い場合は下記の式(2)が有効であることが測定により分かっている。これは設置環境などによる音の伝わり方の違いにより反射音などが受音されるためと推測され、音圧は音源からの距離に反比例するものである。このため、(L1/L0)<2のときは、式(2)を用いて、音圧p1を基準位置A0での音圧pに補正する。
p=(L1/L0)×p1 … (2)
【0038】
すなわち、式(1)又は(2)により、測定位置A1で測定された音圧p1は、基準位置A0で測定されたとする音圧pに補正される。後述する回転機器2aの回転状態が異常か否かの判断は、補正後の音圧pに基づいて行われる。図8には、測定位置A1で測定された音圧p1のデータをFFT処理した結果を示している。また、図8中、曲線45は測定位置A1で測定された音圧p1のレベルに相当する曲線を示し、曲線46は基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pのレベルに相当する曲線を示している。
【0039】
振動音響データの実効値による異常判断では、基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pについてその周波数成分から実効値を求め後述する閾値と比較して回転機器2aの回転状態が異常か否かを判断する(S6)。具体的には、上述した異常診断プログラムにより行われ、回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の例えば5倍の値を閾値とする。基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pの実効値とこの閾値とを比較して、この実効値が閾値より小さい否かを判断する。この実効値が閾値より小さい場合、回転機器2aの回転状態は異常なしと判断され(S7:NO)、回転状態の異常診断は終了される。一方、この実効値が閾値より大きいと判断された場合、回転機器2aの回転状態は異常有りと判断され(S7:YES)、手順S8に移行する。
【0040】
振動音響データ解析(S8)では、(1)FFT、(2)兆候パラメータ、(3)ベアリングパス周波数による周知の解析が行われ、回転機器2aのより詳細な回転状態の異常診断が行われる。手順S9では、これらの診断結果がPDA10の表示入力部11に表示される。
【0041】
上記構成によれば、回転機器2aの回転状態の異常診断を、回転機器2aから発せられる振動音響を非接触でマイクロホン15による測定をするだけで行うことができる。このため、異常診断時に作業者が回転機器2aの回転露出部に接触等する心配が無く、安全にしかも作業効率の良い異常診断を行うことができる。
【0042】
また、測定位置A1で測定された回転機器2aの振動音響を、基準位置A0で測定した回転機器2aの振動音響とする補正をするため、回転機器2aの振動音響の測定位置の変動による信号レベルである音圧の誤差を無くすことができ、異常診断を精度良く行うことができる。
さらに、ビーコン信号のサンプリングレートに比べ、回転機器2aの振動音響のサンプリングレートを低くしたため、サンプリングするデータの総数を少なくすることができ、サンプリングしたデータを記憶する異常診断装置9のメモリ32の容量を小さくすることができ、経済的に有利である。
【0043】
(第2実施例)
以下、本発明の第2実施例に係る回転機器の異常診断システムについて図9乃至図13を参照して説明する。上記第1実施例と実質的に同一部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略し、異なる点につき説明する。
本実施例の回転機器の異常診断システムは、設置スペース1に設置された回転機器2a〜2dのそれぞれにビーコン信号を発するスピーカ51a〜51dを一台ずつ設置している点で、第1実施例に係る回転機器の異常診断システムと異なる。
【0044】
図9に示すように、設置スペース1に複数台(本実施例では4台)の回転機器2a〜2dが設置されている。回転機器2aの上面にスピーカ51aが設置されている。回転機器2b〜2dについても回転機器2aと同様に、これらの上面にスピーカ51b〜51dがそれぞれ設置されている。スピーカ51a〜51dは、それぞれ10kHz〜20kHzの超音波の周波数帯域の互いに異なる周波数に設定されたビーコン信号を基準位置に向けて発している。
【0045】
スピーカ51a〜51dのビーコン信号にはそれぞれ位置特定情報(周波数:ea、eb、ec、ed)、回転機器識別用の情報(周波数:ea1、eb1、ec1、ed1)及び運転状況特定用の情報(周波数:ea2、eb2、ec2、ed2)などが重畳されている。なお、本実施例では、前記運転状況は回転機器2a〜2dの回転速度のことを意味する。前記回転機器識別用の情報にあっては、それぞれの回転機器2a〜2dに固有の周波数(ea1、eb1、ec1、ed1)が割り当てられており、例えば、スピーカ51aから発せられるビーコン信号に周波数ea1の信号が重畳されていれば、回転機器2a〜2dの中から回転機器2aを識別できる。
【0046】
回転機器2a〜2dの運転状況特定用の情報にあっては、回転機器2a〜2dの回転速度に対応した固有の周波数が割り当てられており、例えば、スピーカ51aから発せられるビーコン信号に周波数ea2の信号が重畳されていれば、ビーコン信号測定時の回転機器2aの回転速度が周波数ea2に対応した回転速度であることが分かるようになっている。
【0047】
図10には異常診断装置52の電気的構成を示す機能ブロック図を示す。回転機器の異常診断装置52は、携帯可能に構成された情報携帯装置、所謂PDA10を本体部とし、マイクロホン15、前処理器54、CFカード53及びPDA10がこの順に接続され構成されている。
【0048】
前処理器54は、マイクロホン15からの入力信号をフィルタリングするもので、ジャック17、直流成分カットフィルタ18、バッファ19及びアンチエイリアシングフィルタ57がこの順に直列に接続され構成されている。アンチエイリアシングフィルタ57は、−40dB/decに設定された、遮断周波数20kHzのフィルタであり、CFカード53の増幅回路23に接続されている。
【0049】
CFカード53は、前処理器54からの入力信号をA/D変換して出力するもので、増幅回路23、A/D変換器25、CFカードコントローラ26、CPU27、メモリ28及びコネクタ29を備えている。CFカード53に入力された信号は、増幅回路23で増幅された後、A/D変換器25に与えられ、デジタル信号に変換される。
【0050】
A/D変換器25は、周波数帯域0Hz〜10kHzの振動音響信号及び周波数帯域10kHz〜20kHzのビーコン信号のサンプリングに必要な50kHzのサンプリングレートに設定され、振動音響信号及びビーコン信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器25はCFカードコントローラ26に接続され、CFカードコントローラ26は、A/D変換器25より出力されたデータを受けて、コネクタ29を介してPDA10側にデータを転送する。
【0051】
次に、上記構成によるビーコン信号及び振動音響の測定について説明する。
この実施例では、回転機器2a(2b〜2d)の振動音響及びスピーカ8a(8b〜8d)のビーコン信号を同時に測定する。PDA10により振動音響・ビーコン信号の測定の操作がなされると、前処理器54のアンチエイリアシングフィルタ57及びCFカード53のA/D変換器25がアクティブ状態になる。この状態で、マイクロホン15が測定対象である回転機器2a(2b〜2d)に向けた状態とされると、回転機器2a(2b〜2d)から発せられる回転状態に応じた振動音響とスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号とがマイクロホン15により同時に受音される。
【0052】
受音された振動音響及びビーコン信号は、前処理器54においてアンチエイリアシングフィルタ57で0.05Hz〜20kHzの周波数帯域の信号が通過され、この後、CFカード53においてA/D変換器25によりデジタル信号に変換され、PDA10に入力される。PDA10においては、振動音響信号及びビーコン信号はデジタル信号に変換した波形のデータとしてメモリ32に記憶される。
【0053】
上記のようにして振動音響及びビーコン信号の音圧が測定されるが、回転機器2aの回転状態の異常診断に際しては、これに先立って基準となる振動音響の音圧のデータの取得が、上記した第1実施例と同様な方法で行われる。すなわち、基準位置A0で測定される基準となる回転機器2a(2b〜2d)の振動音響の基準データP0が取得される。
【0054】
また、各回転機器2a(2b〜2d)に対応して設けられたスピーカ8a(8b〜8d)が発するビーコン信号についても、基準位置A0で測定されるビーコン信号の位置特定情報の基準データC0が取得される。
【0055】
次に、異常診断の測定について図11の手順を参照して説明する。
この実施例においては、マイクロホン15で受音する際に、上述した回転機器2aに対する基準位置A0以外の任意の測定位置A1においても測定可能とするために、測定位置A1で測定したビーコン信号の位置特定情報の音圧C1と基準データC0に基づいて、測定位置A1で測定した回転機器2aの振動音響の音圧に相当する信号レベルを基準位置A0で受音したときの信号レベルとなるように補正をする。この後、基準位置A0で受信したときに相当する振動音響の音圧pが基準データp0に対して異常なレベルであるか否かが判断される。
【0056】
さて、異常診断の手順としては、まず、振動音響及びビーコン信号を同時に測定すべくPDA10を操作する(S11)。次に、マイクロホン15により回転機器2aの振動音響及びスピーカ8aのビーコン信号を同時に測定する。測定に際しては、マイクロホン15を測定対象の回転機器2aに向けて所定時間受音する(S12)。これにより、振動音響p1、ビーコン信号の位置特定情報の音圧C1、回転機器識別用の情報の音圧及び運転状況特定用の情報の音圧のデジタル信号を得ることができる。
【0057】
次に、デジタル信号として得た振動音響p1とビーコン信号とをFFT処理することにより、0.05Hz〜10kHzの周波数帯域の振動音響p1と10kHz〜20kHzの周波数帯域のビーコン信号とに分離をする(S14)。なお、上述して得た振動音響及びビーコン信号のデータについては、振動データファイル36としてメモリ32に記憶される。
【0058】
振動音響データ補正では、手順S13で分離した振動音響の音圧の補正を行う(S14)。具体的には、測定位置A1での振動音響の音圧を基準位置A0で測定したとする音圧となるように補正を行う。
【0059】
上述したように、一般に、音圧(Pa)は音源からの距離の2乗に反比例するので、式(1)が導入される。
p=(L1/L0)2×p1 … (1)
ここで、ビーコン信号の位置特定情報の音圧の距離減衰の関係は、下記の式(3)により表される。
C0=(L1/L0)2×C1 … (3)
式(3)は、下記の式(4)に変形できる。
(L1/L0)2=C0/C1 … (4)
式(1)及び(4)より下記の式(5)が導かれる。
p=(C0/C1)×p1 … (5)
上述した振動データ補正プログラムを動作させ、測定位置A1で測定された回転機器2aの振動音響の任意の周波数の音圧をp1とした場合、基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pを、式(5)を用いて求める。
【0060】
なお、第1実施例と同様に、本発明者らの実測結果によれば、式(5)は(C0/C1)≧22=4の条件が満たされているときに有効であり、(C0/C1)<4の条件が満たされているときには、すなわち、測定位置A1と回転機器2aとの距離が基準位置A0からの距離と近い場合は、下記の式(6)が測定により有効であることが分かっている。これは設置環境などによる音の伝わり方の違いにより反射音などが受音されるためと推測され、音圧は音源からの距離に反比例するものである。このため、(C0/C1)<4のときは、式(6)を用いて、音圧p1を基準位置A0での音圧pに補正する。
p=(C0/C1)1/2×p1 … (6)
【0061】
即ち、式(5)又は(6)により、測定位置A1で測定された音圧p1に基づいて基準位置A0で測定されたとする音圧pとなるように補正を行う。回転機器2aの回転異常の診断は、補正後の音圧pを用いる。図13には、測定位置A1で測定した振動音響とビーコン信号のデータをFFT処理した結果を示している。また、図13中、曲線55は測定位置A1で測定された音圧p1のレベルに相当する曲線を示し、曲線56は基準位置A0で測定されたとする補正後の音圧pのレベルに相当する曲線を示している。
【0062】
振動音響データの実効値による異常判断では、基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pについてその周波数成分から実効値を求め後述する閾値と比較して回転機器2aの回転状態が異常か否かを判断する(S15)。具体的には、上述した異常診断プログラムにより行われ、回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の5倍の値を閾値とする。基準位置A0で測定されたとする補正後の振動音響の音圧pの実効値とこの閾値とを比較して、この実効値が閾値より小さい否かを判断する。この実効値が閾値より小さい場合、回転機器2aの回転状態は異常なしと判断され(手順S16:NO)、回転状態の異常診断は終了される。一方、この実効値が閾値より大きいと判断された場合、回転機器2aの回転状態は異常有りと判断され(手順S16:YES)、手順S17に移行する。
【0063】
振動音響データ解析(手順S17)では、(1)FFT、(2)兆候パラメータ、(3)ベアリングパス周波数による周知の解析が行われ、回転機器2aのより詳細な回転状態の異常診断が行われる。手順S18では、これらの診断結果がPDA10の表示入力部11に表示される。
【0064】
上記構成によれば、回転機器2aの振動音響とスピーカ51aから発せられるビーコン信号とを両方同時に測定するため、回転機器2aの回転状態の異常診断を短時間で行うことができ、作業者の作業工数も少なくすることができる。
【0065】
また、異常診断装置52は、1つの周波数帯域を測定するだけなので、前処理器54のフィルタとCFカード53のA/D変換器をそれぞれ1つずつ備えればよく、異常診断装置52の構成を簡単にすることができる。
さらに、位置特定情報の他に、ビーコン信号に回転機器識別用の情報及び回転機器2aの運転状況特定用の情報を重畳しているため、異常診断装置52を用いれば非接触でこれらの情報を得ることができ、回転機器2aの監視をより効率良く行うことができる。
【0066】
(その他の実施例)
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、本願発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
上述した実施例では、設置スペース1は、工場等の屋内にあることを想定しているが、これに限らず、屋外にある設置スペースでも本発明の適用は可能である。
また、上述した実施例では、振動音響データの実効値による異常判断において、閾値を回転機器2aの初期状態の振動音響の音圧p0の実効値の5倍の値に設定したが、これに限ることはなく、当該閾値はユーザが任意に設定することができる。
【0067】
また、上記した第1実施例と第2実施例とを組み合わせて本発明を実施してもよい。即ち、設置スペースに複数台の回転機器を設置し、これらのうち特定の回転機器にビーコン信号を発するスピーカを設置するとともに、この設置スペースの外周部の四方の中央部に少なくとも3台のビーコン信号を発するスピーカを設置するようにしてもよい。
【0068】
また、上述した実施例では、音圧は音源からの距離の2乗に反比例するという法則は、設置環境などによる音の伝わり方の違いにより、音圧は音源からの距離の1乗に反比例するとしているが、「1乗」から「2乗」へと急峻に乗数が変化するため実測値と適合しない場合は、「1乗」と「2乗」との間の乗数を段階的又は連続的に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
図面中、1は設置スペース、2a〜2dは回転機器、8a〜8dはスピーカ(発音器)、9は異常診断装置、10はPDA(本体部)、15はマイクロホン(受音器)、21は振動音響用フィルタ(第2のフィルタ手段)、22はビーコン信号用フィルタ(第1のフィルタ手段)、24、25はA/D変換器、39は振動音響データ(振動音響)、40、41、42はビーコン信号データ(標識音響)、51a〜51dはスピーカ(発音器)、52は異常診断装置、57はアンチエイリアシングフィルタである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象となる回転機器の設置スペースに少なくとも3個配置され、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する発音器と、
移動可能に設けられ前記回転機器の回転状態の異常を診断する異常診断装置とを備え、
前記異常診断装置は、
前記回転機器の運転中に発せられる振動音響および前記発音器から発せられる前記標識音響を受音する受音器と、
前記受音器で受音した少なくとも3個の前記発音器から出力された前記標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器の前記設置スペースでの受音位置を特定する位置特定手段と、
前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断する診断手段と、
を有することを特徴とする回転機器の異常診断システム。
【請求項2】
前記標識音響は、前記回転機器の運転中に発せられる前記振動音響の周波数帯域より高い周波数帯域の周波数に設定されていることを特徴とする請求項1記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項3】
前記受音器で受音した信号から前記標識音響の周波数帯域の信号を抽出する第1のフィルタ手段と、
前記受音器で受音した信号から前記振動音響の周波数帯域の信号を抽出する第2のフィルタ手段とを備え、
前記位置特定手段は、前記受音器で受音した信号から前記第1のフィルタ手段により抽出される前記標識音響の信号を用いて前記位置特定の処理を行い、
前記補正手段は、前記受音器で受音した信号から前記第2のフィルタ手段により抽出される前記振動音響の信号を用いて、前記位置特定手段により特定された受音位置情報に基づいて前記振動音響の信号レベルの補正を行うことを特徴とする請求項2記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項4】
前記第1および第2のフィルタ手段により抽出された前記標識音響および前記振動音響の信号を診断用のデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、
前記A/D変換器は、
前記標識音響のサンプリングを、前記標識音響の周波数帯域の信号をサンプリングするのに必要なサンプリングレートで行い、
前記振動音響のサンプリングを、前記標識音響のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで行うことを特徴とする請求項3記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項5】
前記受音器で受音した前記標識音響および前記振動音響の信号を、前記標識音響の周波数帯域の信号をサンプリングするのに必要なサンプリングレートでサンプリングして診断用のデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、
前記位置特定手段は、前記A/D変換器より得たデジタル信号から、前記標識音響の周波数帯域に存在する前記標識音響の信号を抽出し、この抽出した前記標識音響の信号を用いて前記位置特定の処理を行い、
前記補正手段は、前記A/D変換器より得たデジタル信号から、前記振動音響の周波数帯域に存在する前記振動音響の信号を抽出し、前記位置特定手段により特定された前記位置特定情報に基づいて前記振動音響の信号レベルの補正を行うことを特徴とする請求項2記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項6】
前記回転機器から前記受音位置までの距離を受音距離とし、
前記回転機器から前記基準位置までの距離を基準距離とし、
前記受音距離が前記基準距離の2倍を超えない所定距離であるときの前記補正手段は、
前記信号レベルとしての音圧が音源からの距離に反比例する測定結果に基づき、前記受音位置で受音した前記振動音響の信号レベルを、前記基準位置で受音したとする前記振動音響の信号レベルに補正することを特徴とする請求項1、3及び5のいずれかに記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項7】
前記標識音響には、前記回転機器識別用の情報および前記回転機器の運転状況特定用の情報が異なる周波数の標識音響として重畳されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項8】
請求項1に記載の回転機器の異常診断システムで使用される異常診断装置であって、
前記受音器としてのマイクロホンと、
前記マイクロホンが接続可能に構成され、前記位置特定手段、前記補正手段および前記診断手段を備えた本体部と、
を備えたことを特徴とする回転機器の異常診断装置。
【請求項9】
診断対象となる回転機器の設置スペースに、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する少なくとも3個の発音器が設けられ、
前記回転機器の異常診断の方法であって、
回転機器の運転中に発せられる振動音響および発音器から発せられる標識音響を受音器により受音するA行程、
受音器で受音した少なくとも3個の標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器による受音位置を特定するB行程、
前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正するC行程、
前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するD行程、
をこの順に行うことを特徴とする回転機器の異常診断方法。
【請求項1】
診断対象となる回転機器の設置スペースに少なくとも3個配置され、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する発音器と、
移動可能に設けられ前記回転機器の回転状態の異常を診断する異常診断装置とを備え、
前記異常診断装置は、
前記回転機器の運転中に発せられる振動音響および前記発音器から発せられる前記標識音響を受音する受音器と、
前記受音器で受音した少なくとも3個の前記発音器から出力された前記標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器の前記設置スペースでの受音位置を特定する位置特定手段と、
前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断する診断手段と、
を有することを特徴とする回転機器の異常診断システム。
【請求項2】
前記標識音響は、前記回転機器の運転中に発せられる前記振動音響の周波数帯域より高い周波数帯域の周波数に設定されていることを特徴とする請求項1記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項3】
前記受音器で受音した信号から前記標識音響の周波数帯域の信号を抽出する第1のフィルタ手段と、
前記受音器で受音した信号から前記振動音響の周波数帯域の信号を抽出する第2のフィルタ手段とを備え、
前記位置特定手段は、前記受音器で受音した信号から前記第1のフィルタ手段により抽出される前記標識音響の信号を用いて前記位置特定の処理を行い、
前記補正手段は、前記受音器で受音した信号から前記第2のフィルタ手段により抽出される前記振動音響の信号を用いて、前記位置特定手段により特定された受音位置情報に基づいて前記振動音響の信号レベルの補正を行うことを特徴とする請求項2記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項4】
前記第1および第2のフィルタ手段により抽出された前記標識音響および前記振動音響の信号を診断用のデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、
前記A/D変換器は、
前記標識音響のサンプリングを、前記標識音響の周波数帯域の信号をサンプリングするのに必要なサンプリングレートで行い、
前記振動音響のサンプリングを、前記標識音響のサンプリングレートよりも低いサンプリングレートで行うことを特徴とする請求項3記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項5】
前記受音器で受音した前記標識音響および前記振動音響の信号を、前記標識音響の周波数帯域の信号をサンプリングするのに必要なサンプリングレートでサンプリングして診断用のデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、
前記位置特定手段は、前記A/D変換器より得たデジタル信号から、前記標識音響の周波数帯域に存在する前記標識音響の信号を抽出し、この抽出した前記標識音響の信号を用いて前記位置特定の処理を行い、
前記補正手段は、前記A/D変換器より得たデジタル信号から、前記振動音響の周波数帯域に存在する前記振動音響の信号を抽出し、前記位置特定手段により特定された前記位置特定情報に基づいて前記振動音響の信号レベルの補正を行うことを特徴とする請求項2記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項6】
前記回転機器から前記受音位置までの距離を受音距離とし、
前記回転機器から前記基準位置までの距離を基準距離とし、
前記受音距離が前記基準距離の2倍を超えない所定距離であるときの前記補正手段は、
前記信号レベルとしての音圧が音源からの距離に反比例する測定結果に基づき、前記受音位置で受音した前記振動音響の信号レベルを、前記基準位置で受音したとする前記振動音響の信号レベルに補正することを特徴とする請求項1、3及び5のいずれかに記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項7】
前記標識音響には、前記回転機器識別用の情報および前記回転機器の運転状況特定用の情報が異なる周波数の標識音響として重畳されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転機器の異常診断システム。
【請求項8】
請求項1に記載の回転機器の異常診断システムで使用される異常診断装置であって、
前記受音器としてのマイクロホンと、
前記マイクロホンが接続可能に構成され、前記位置特定手段、前記補正手段および前記診断手段を備えた本体部と、
を備えたことを特徴とする回転機器の異常診断装置。
【請求項9】
診断対象となる回転機器の設置スペースに、互いに異なる周波数に設定された標識音響を出力する少なくとも3個の発音器が設けられ、
前記回転機器の異常診断の方法であって、
回転機器の運転中に発せられる振動音響および発音器から発せられる標識音響を受音器により受音するA行程、
受音器で受音した少なくとも3個の標識音響の信号レベルに基づいて当該受音器による受音位置を特定するB行程、
前記受音器により受音した前記振動音響の信号レベルを、前記位置特定手段により特定した前記受音位置に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するための基準位置で受音したときの信号レベルとなるように補正するC行程、
前記補正手段により補正された前記振動音響の信号に基づいて前記回転機器の回転異常を診断するD行程、
をこの順に行うことを特徴とする回転機器の異常診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−191181(P2011−191181A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57561(P2010−57561)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
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