説明

回転磁場を利用した反応促進方法

【課題】 特定成分を高感度に検出やその濃度等の測定することができ、反応時間を大幅に短縮することができ、しかも試薬類の使用量も節約できる、新しい回転磁場を用いた反応促進方法を提供する。
【解決手段】磁場の水平成分と垂直成分の比を設定して、反応器の外部上方もしくは下方に、少なくとも1つ以上の磁石を配置し、磁石を回転させて回転磁場を発生させ、反応器内に充填されている磁性ビーズを回転させるとともに、磁場方向に整列した棒状磁性ビーズクラスタとして形成させ、反応器内に導入されている試料溶液中の特定成分と、磁性ビーズの活性成分とを反応させ、反応後の生成物を、回転磁場による試料溶液の流れで磁性ビーズクラスタから離間させることを含むことを特徴とする回転磁場を利用した反応促進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転磁場を利用した反応促進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーや環境分析等のように微量分析が重要、かつ、迅速に行われることが求められており、そのため携帯が可能な小型分析機器の中枢部としてとしてマイクロ分析チップの研究、開発が進められている。また、微細加工技術によって作製された、マイクロリアクターによる合成反応に関する研究も進められている。
【0003】
従来より、液体中の微量成分を分析する場合は、光や電気信号を検出する素子の反応は迅速で、実用性が高いと期待されているが、分析の対象成分が分散媒中を拡散して、触媒や抗体、酵素等と分子レベルで衝突して反応する過程進行は遅いため、分析時間が長くなる原因となっていた。たとえば、狂牛病の検査には、ELISA(酵素標識免疫法)が利用されるが、この方法では、抗体-抗原反応の反応時間に数時間以上を要するため、結果の判明にも長時間を要することとなり、大きな問題となっていた。
【0004】
また、従来の生化学的分析方法では、マイクロウェルと呼ばれるミリメートル単位の半径および深さを有するウェルを複数具備された、マイクロウェルプレート等が利用されており、このウェル内に100μlオーダーの液体サンプルを入れ、あらかじめウェルの壁面に固定化された抗体等と結合反応させる。だが、サンプル溶液中の結合分子が、ウェル壁面に固定化された抗体と結合反応をほぼ完了するには、数時間前後の長い時間を要するといった問題があった。
【0005】
そこで、磁性ビーズの表面に抗体等を固定化し、この抗体固定化済磁性ビーズと反応物を含有するサンプルとを反応させる、反応時間の短縮の方法(特許文献1)が提案されている。この方法では、所定の測定容器内にあらかじめ被測定物質を固定化させ、そして被測定物質と結合する抗体を磁性ビーズに固定させた抗体固定化マーカー磁性ビーズを反応させる。そして、磁石を作用させ、抗体固定化マーカー磁性ビーズの沈降速度を増大させることによって短時間で反応が完了する。試料中の被測定物質が抗体と反応する場合は、抗体−抗原反応により、抗体固定化マーカー磁性ビーズと被測定物質とが結合し、被測定物質は所定容器内の全体に固定化されているため、一様に広がった沈降パターンを形成し、サンプル中に存在する被測定物質を高感度に判定することができるとしている。
【特許文献1】特許第2614997号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法は、サンプル中に目的とする被測定物質の存在の有無を判定することを主たる目的とし、反応時間の短縮については考慮していない。つまり、攪拌や反応をその都度停止し、磁性ビーズを試験管(反応器)の壁に磁石で引き寄せて上澄み溶液中の生成物(すなわち被測定物質)を分離するというバッチ式処理であるため、依然として反応(分析)時間は長いという問題があった。さらに、この場合、検出や測定の感度、使用する試薬量の節約においても問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、従来の問題点を解消し、反応時間を大幅に短縮することができ、しかも試薬類の使用量も節約できる、新しい回転磁場を利用した反応促進方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決する手段として、第1には、試料溶液中の特定成分と反応する活性成分が固定された磁性ビーズに回転磁場を印加して、特定成分と活性成分との反応を促進させる回転磁場を利用した反応促進方法であって、以下の工程:
<1>磁場の水平成分と垂直成分の比を設定して、平面基板上に構築されている特定成分と活性成分との反応の場である反応器の外部上方もしくは下方に、少なくとも1つ以上の磁石を配置し;
<2>磁石を回転させることで回転磁場を発生させ、これによって反応器内に充填されている磁性ビーズを回転させるとともに、磁場方向に整列した棒状磁性ビーズクラスタとして形成させ、回転磁場の中心軸近傍に収束させ;
<3>反応器内に導入されている試料溶液中の特定成分と、磁性ビーズの活性成分とを反応させ;
<4>反応後の生成物を、回転磁場による試料溶液の流れで磁性ビーズクラスタから離間させる;
ことを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、第2には、磁石の配置は、4つの磁石を用い、それぞれが回転磁場の中心軸を中心にして対称的に配置されていることを特徴とし、第3には、磁場の水平成分/垂直成分の比は、1/3以下であることを特徴とし、第4には、磁石は、永久磁石であることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明は、第5には、磁性ビーズの表面には、生体分子と親和性を有するポリマー成分が被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のとおりの本発明によって、特定成分を高感度に検出やその濃度等の測定することができ、反応時間を大幅に短縮することができ、しかも試薬類の使用量も節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について詳しく説明する。
【0013】
本発明は、試料溶液中の特定成分と反応する活性成分が固定された磁性ビーズに回転磁場を印加して、特定成分と活性成分との反応を促進させる回転磁場を利用した反応促進方法であり、少なくとも以下の工程を含むことを特徴としている。すなわち:
<ステップ1>磁場の水平成分と垂直成分の比を設定して、平面基板上に構築されている特定成分と活性成分との反応の場である反応器の外部上方もしくは下方(つまり、反応器を磁性ビーズ含有の試料溶液を水平に置いた場合の上方もしくは下方)に、少なくとも1つ以上の磁石を配置する。通常、磁石は、図1に例示したように、反応器よりも一定の距離dをおいて設置されている磁石ホルダに保持されている。この距離dは、たとえば、1〜10mmに設置することで、効率のよい反応促進効果を得ることができるが、特に1〜5mmに設定することが好ましい。また、1つの磁石を用いる場合には、本発明の効果を十分に得るためには、ステップ2における回転磁場の中心軸(回転軸)から離して配置することが好ましい。さらに、この反応器は、マイクロ反応器とすることで、μlオーダーの反応においても実施することができる、高い省試薬効果があることも特徴としている。
<ステップ2>次に、磁石ホルダ(つまり、磁石)を回転させることで回転磁場を発生させ、これによって反応器内に充填されている磁性ビーズを回転させるとともに、図2に例示したように、磁場方向に整列した棒状磁性ビーズクラスタとして形成させ、回転磁場の中心軸近傍に収束させる。なお、本発明の効果を十分に得るために、この回転磁場の中心軸は、反応器の中心軸と合わせることが好ましい。
<ステップ3>反応器内に導入されている試料溶液中の特定成分と、磁性ビーズの活性成分とを反応させる。
<ステップ4>特定成分と活性成分との反応後の生成物を、回転磁場による試料溶液の流れで磁性ビーズクラスタから離間させる。このとき、磁性ビーズクラスタは、回転磁場の中心軸に保持された状態を維持している。
【0014】
さらに、上記ステップ1における磁石の配置について説明すると、図1の例のように、4つの磁石を用い、この4つの磁石それぞれが回転磁場の中心軸を中心にして対称的に配置されていることが好ましい。つまり、回転磁場の中心軸から等距離に90°づつ離して配置する。そして、さらに効率よく本発明の効果を発揮するために、磁石が有する極性(N極、S極)を考慮して、磁石を不均質な磁場を発生させるように配置することがさらに好ましい。具体的には、たとえば、4つの磁石配置を、磁石の極性を非対称的に配置、つまり、「NNNS配置」や「SSSN配置」とすることが挙げられ、NおよびSは反応器に近い側の磁石の極性(N極またはS極)を示している。つまり、「NNNS配置」は、反応器を中心にしてみて、その上側にN極、左側にN極、下側にもN極、右側にはS極となるように磁石を配置している。また、「SSSN配置」の場合は、上側にS極、左側にS極、下側にもS極、右側にはN極となるように磁石を配置している。このように磁石を配置することで、磁性ビーズは、ディスク状に凝集し、試料溶液を流しても、磁性ビーズは回転磁場の中心(すなわち、反応器の中心)に保持された状態を維持することができ、反応後の生成物を、回転磁場による試料溶液の流れで磁性ビーズクラスタから離間させる。この結果、特定成分を高感度に検出やその濃度等の測定することができ、反応時間を大幅に短縮することができ、しかも試薬類の使用量も節約できる。
【0015】
上記のような極性を非対称的に配置とするために磁石の形状は、特に制限はされないが、棒状(たとえば、寸法としては直径1〜2mmで長さ10mmの棒磁石等)であることが都合がよく好ましい。
【0016】
また、本発明における磁場の水平成分/垂直成分の比は1/3以下(磁場の水平成分/垂直成分≧1/3)であることが好ましい。このとき、水平成分が垂直成分より強い配置とすることで、反応促進という観点にさらに効果がある。なお、本発明における、水平成分とは、基板に対する磁場の水平成分であり、また垂直成分も基板に対する磁場の垂直成分である。なお、本発明における水平成分と垂直成分、さらに磁場の強度は、磁場に対する反応器の設置場所に依存して変化する。
【0017】
本発明において使用する磁石は、永久磁石であることが好ましい。この「永久磁石」とは、磁場をゼロにしても50〜80%程の磁化が残る残留磁束があり、保磁力のある強磁性体である。「残留磁束」の密度としては、特に限定されるものではないが、たとえば、磁束密度0.01から0.3テスラの範囲であることが挙げられる。
【0018】
本発明においては、磁石として、電磁石を用いて均質な磁場を発生させて反応促進を図ることもできる。「電磁石」とは、軟鉄製の鉄心周囲にコイルを巻き、この鉄心の先端には目的等に応じた適当な形状の磁極が設置され、電流を通じると磁化し、電流を切ると磁化が消える磁石のことであり、残留磁束がある。なお、この電磁石における発生磁場の強度は、コイルの巻き数と電流との積に比例し、また鉄心や磁極の形状、大きさにも影響される。
【0019】
この電磁石を用いる場合における磁性ビーズクラスタについて説明すると、磁場強度と磁場回転周波数の関係はMason数といわれる、無次元数Maによって整理される(次式(I))。
【0020】
【数1】

【0021】
(ここで、式中のμ0は真空の透磁率、ηは分散媒(試料溶液)の粘性率、ωは磁場の回転速度(radian/s)、Mは磁性粒子の磁化を表す)
この式を基に、磁性ビーズクラスタについて検討してみると、磁性ビーズ体積分率が低い(10-4〜0.02)場合には、分率に関係なく、Ma1が分岐点になる。Ma≧1では棒状磁性ビーズクラスタ(鎖状クラスタ)の形状が保持されるが、Ma≦1では棒状磁性ビーズクラスタ(鎖状クラスタ)が、粒子状に分解され、等方的なクラスタ(球形に近い形状)に再編成される。さらに、高体積分率になると、棒状磁性ビーズクラスタは凝集して太くなり、クラスタ構造と動的挙動は変化する。そして、外部場の周波数が高くなると、分極に遅れが生じ、クラスタはディスク状に形成される。
【0022】
ここで、直流磁場で形成される磁性ビーズクラスタを図3に例示する。この図3に示したとおり、直流磁場では、磁場方向に整列した棒状磁性ビーズクラスタ(鎖状クラスタ)が形成される(図3a)。回転周波数が0.1Hz(Ma=1.3×10-3)程度の低い場合では、棒状磁性ビーズクラスタ(鎖状クラスタ)は回転磁場を追随するようにして回転し、磁性ビーズの体積分率が高いので回転するクラスタは互いに衝突して太いクラスタを形成するものもある(図3b)。一方、回転磁場周波数が2Hz(Ma=2.5×10-2)に達すると、棒状磁性ビーズクラスタは分解して短くなり、最終的に凝集してディスク状クラスタに形成される(図3c)。また、10Hz(Ma=0.13)では、さらに凝集した状態となった(図3d)。このディスク状クラスタの表面では、磁性ビーズが短い棒状磁性ビーズクラスタを形成しており、それが外部磁場によって表面上を回転しながら移動する。
【0023】
このように、高密度の磁性クラスタ(磁性コロイド)を均質磁場におき、その磁場を回転させ回転磁場を発生させると、まず、棒状磁性ビーズクラスタが形成され、これが回転する。これは、磁性ビーズクラスタに固定化された活性成分と、試料溶液中の特定成分との衝突頻度を高め、反応を促進させることができる。この棒状磁性ビーズクラスタは互いに引力を及ぼし合い、上記のとおり、ディスク状クラスタへと形成される。その表面の粒子は、短い棒状磁性ビーズクラスタを形成し、ディスク状クラスタの表面を回転しながら巡回する。この棒状磁性ビーズクラスタの回転の結果、ディスク状クラスタもゆっくりと回転するのである。なお、この場合は、ディスク状クラスタの表面部分で反応が促進するのである。また、このMason数は、永久磁石にも適用することができる。
【0024】
そして、本発明における「特定成分」とは、試料溶液中における各種反応の目的の対象となる物質のことであり、たとえば、アルブミン、プロスタグランジン、ステロイドホルモンや各種免疫抗体(IgG、IgA、IgM、IgE等)等の生体物質、また各種のアミノ酸(グルタミン酸、ロイシンやフェニルアラニン、バリン、アラニン、γ―アミノ酪酸等)や各種の化学物質等が挙げられる。また、この出願の方法において、促進効果が得られるとする「特定成分における反応」とは、試料溶液中の目的とする物質の抗体-抗原反応等を利用した濃度測定反応や物質検出反応、触媒反応を利用した化学合成反応、また磁性ビーズの磁性を利用した特定成分の分離反応等の各種反応のことを意味する。「活性成分」とは、前記の特定成分と反応する物質である。たとえば、生体反応や化学反応の促進効果を有する触媒物質(たとえば、プロテインキナーゼ、チロシンキナーゼやMAPキナーゼ等の各種酵素等)、各種抗体(抗アルブミン抗体、抗プロスタグランジン抗体、抗ステロイドホルモン抗体や抗IgG抗体、抗IgA抗体、抗IgM抗体、抗IgE抗体等)等の生体物質や各種の化学物質等が挙げられる。この活性成分が固定化された磁性ビーズは、特定成分の量より過剰添加されることによって、反応がより大きく促進することができるため好ましい。
【0025】
「磁性ビーズ」は、水溶液中で不溶性であり、かつ、磁性を示すものであれば特に限定されることはない。従来より用いられている強磁性ビーズでもよいが、超常磁性の微粒子は、外部磁場がゼロになると磁気双極子もゼロになり、磁性による磁気凝集が生じないため、より好ましい。そして、この超常磁性ビーズに磁場を加えることによって、棒状磁性ビーズクラスタが形成され、この棒状磁性ビーズクラスタに磁場を印加して、磁性ビーズクラスタを回転して、上記の特定成分と磁性ビーズに固定化された活性成分との衝突頻度が上がり、その結果、各種の反応促進が実現される。この磁性ビーズの粒径は、特に限定はされるものではないが、たとえば、10μmから1μmの範囲が好ましく、さらにはこの磁性ビーズの粒径は、nmオーダーのものであってもよい。
【0026】
また、前記の特定成分が生体分子の場合には、特定成分との結合がより促進させるため、磁性ビーズの表面に、生体分子と親和性を有するポリマー成分が被覆されていてもよく、分析対象や目的、条件等に合わせて適宜に選択することができる。「ポリマー成分」としては、たとえば、ビオチンと特異的に結合するアビジン等の各種タンパク質、DNAやRNA等の核酸、またタンパク質と高い結合性を有するエポキシ基、トシル基、アミノ基、カルボキシル基等の各種活性基等が挙げられる。
【0027】
そして、この磁性ビーズに上記の各活性成分の固定化方法としては、物理的吸着、化学的共有結合の形成等のいずれの方法を適宜に採択できる。抗体や高分子量タンパク質等のような物理的吸着能が高い活性成分には、物理的吸着による固定化が好ましく、ホルモン類等のような物理的吸着能が低い活性成分には、化学的共有結合による固定化が好ましい。固定化の方法は、すでに多くの方法が提案されており、固定化する活性成分の種類や特性に応じて、公知の方法から固定化方法を採択してもよい。
【0028】
本発明において、活性成分または磁性ビーズ直接に標識物質を結合させ、この標識物質を分析することによって、試料溶液中の特定成分の濃度やその存在の検出等を実施することもできる。「標識物質」としては、各種の蛍光物質や化学発光物質、酵素等が利用できる。たとえば、蛍光物質としては、緑色蛍光タンパク質や赤色蛍光タンパク質、クロロフィル、レセルピン、葉酸等、およびこれらの誘導体等が使用でき、また化学発光物質としては、ルミノール、インドール、ロフィン等、酵素としては、β-Dガラクトシターゼ、アルカリフォスファターゼ等が使用できる。
【0029】
なお、本発明の反応促進方法においては、磁場勾配の効果に基づいて、個々の磁性ビーズまたは/および磁性ビーズクラスタの泳動効果を利用することを特徴としてもよく、「磁場勾配」とは、磁石や電流が周囲の他の磁石や電流に影響をおよぼす強度の傾きを意味する。
【0030】
また、磁石ホルダは、モーター(駆動機)によって駆動される。「モーター」は、電気等をエネルギー源として動力を発生させることができ、その動力によって磁石を保持する磁石保持体等の部材を回転させること等ができるものであれば、そのサイズ等は限定されるものではない。たとえば、小型モーター(マブチ社製:回転速度7800rpm、130回転/秒)等が使用できる。もちろん、このモーターは、より大きな動力を得るため、1つ以上のモーターを設置することもできる。
【0031】
以下、本発明の反応促進方法について実施例を示して、さらに詳細、かつ、具体的に説明する。もちろん、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)マイクロ反応器(反応室)の設計と、磁性ビーズの攪拌効率の検討
(1)マイクロ反応室の作成
EB装置で描画したクロムフォトマスクをポジ型に現像し、スピンコートした紫外線感光樹脂である、SU-8の上から紫外線照射を行った。これにより、反応室が八角形となる型(凸型)を作成した。続いて、SU-8の型にPDMS(ポリジメチルシリコーン)を流し込んで一晩放置して固化させ、PDMSの型(凹型)を作成し、Aspect比(深さ/直径)が大きく、断面が円形に近い反応室における、本発明の反応促進効果を検討した。
【0033】
次に、図4aに例示したように、A型マイクロ反応室をプレパラート上に固化したPDMSを貼り付けて作成した。このA型マイクロ反応室のAspect比は、0.0021であった。
【0034】
また、図4bに例示したように、ベルトポンチでPDMSに穴を開け、上下をプレパラートで挟んだ、B型マイクロ反応室を作成した。反応室の容積は、A型もB型も同じになるよう、PDMSの厚さを調節した。なお、B型については、Aspect比が小さいB-L型(Aspect比=0.29)と、Aspect比が大きいB-H型(Aspect比=0.81)の2種類を作成した。
【0035】
なお、A型、B-L型およびB-H型いずれにおいても、各3つの試作を作成し、検討した。
(2)反応速度の測定
活性成分として0.5mg/mlの一次抗体(Anti-RAT IgG)5μlを、4℃で1晩かけて磁性ビーズに固定化させた。この磁性ビーズと、特定成分として100ng/mlの抗原(RAT IgG)を含む試料溶液を、マイクロ反応室に注入し、1分間かけて撹拌・結合させ、その後0.6mg/mlの二次抗体(Anti-RAT IgG)5μlを、反応室内で1分間固定化した。最後に基質(ABTS)を反応室に注入し、20℃の温度条件下で1分間撹拌した。撹拌後の反応液の吸光度を計測し、反応速度の確認をした。なお、抗原・抗体・基質は、リアクターの容積にあわせ、それぞれ2〜3μlずつ注入した。
(3)測定結果
3種類のマイクロ反応室(A型、B-L型およびB-H型)で、それぞれ3回ずつ吸光度の計測をし、その平均を求めた。
【0036】
結果は、表1に示した。この表1に示した結果から、図5の結果を導くことができた。図5の括弧内の数値は、各反応室のAspect比である。この表1および図5より、反応室のAspect比が1に近いほど吸光度の値(吸光度係数)が大きい、つまり反応速度が速いことが確認できた。なお、Aspect比が小さい扁平な反応室の場合は磁場の水平成分が重要となる。
【0037】
【表1】

【0038】
また、図には示していないが、B型の反応室における磁性ビーズの動きをCCDカメラで観察したところ、反応室内に凝集した磁性ビーズが、回転磁場中で漏れ出すことなく、効果的に動いていることも確認できた。
(実施例2)磁場の印加条件における攪拌効果の検討
(1)試薬および装置
磁性ビーズ Dynabeads MyOne Streptavidin、1 次抗体ANTI-RAT IgG biotin Conjugate、抗原IgG from rat serum , 2 次抗体 ANTI-RAT IgG-POD Conjugate、基質 ABTS solution、分光光度計 Nano Drop (NanoDrop Technologies 社)、ガウスメーター (F.W.BELL.社)、磁石A(ネオジム磁石φ10×5 4200 ガウス)、磁石B(ネオジム磁石φ2×10 3600 ガウス)を使用した。
(2)磁場強度の測定と酵素反応の測定
(A)磁場強度測定
磁場強度測定は、XYステージにスライドガラスを、アルミ製の台に撹拌器を固定し、ガウスメーターで磁場強度を測定した。
【0039】
測定結果は、図6a、bに示した磁力線ベクトル図のとおりであった。
【0040】
図6aは、磁石Aによる磁場を示している。中央の長方形が磁石を、両端の点線が撹拌器の回転軸を、回転軸上の線は反応器の位置を示している。測定したものは実線で示した。点線の矢印は縦軸で線対称にしたものを示している。
【0041】
また、図6bは、4本の磁石Bによる磁場(配置NSSS極)を示している。図の下方の2つの長方形が磁石、右がN極、左がS極を示している。また、回転軸は中心の縦線、矢印の基の部分が下から磁石の距離が、1、1.5、2、2.5、5、7.5mmをそれぞれ示している。
(B)酵素反応測定
酵素反応測定は、予め2次抗体まで結合させた磁性ビーズをマイクロ反応器の中に入れ、ABTSを流量2μl/minで流し、2分ごとに酵素反応生成物の吸光係数を測定した。
【0042】
測定結果は、図7a、bに示したとおりであった。
【0043】
図7aは、磁石Aで撹拌したときの吸光係数の時間経過を、図7bは、4本の磁石B(NSSS極配置)で撹拌したときの吸光係数の時間経過を示している。また、攪拌機までの距離dの変化によっても、反応促進効果が異なることも確認できた。
(C)結果
撹拌器を設計するにあたり、リアクターに対して水平の磁場ベクトルが加わるようにすることで、双極子では1.5mmおよび2.5mm において、水平ベクトルが大きく、吸光係数が比較的高い値となっていることが確認できた。NSSS 極では、0mm において、通常できる磁性ビーズの集まりができず、撹拌効率が高かったことが確認できた。
(実施例3)磁性ビーズクラスタの攪拌を利用したELISA法バイオセンサー
酵素免疫標識分析方法(ELISA法)において、磁性ビーズクラスタを形成し、この磁性ビーズクラスタを利用した攪拌を行い、フロー法(連続法)とした。なお、本発明においては、フロー法でも磁性ビーズが流れ出ない磁気撹拌系である。
【0044】
具体的には、フォトリソグラフィ法で加工した型にPDMS を注入してマイクロリアクター(マイクロ反応器)を作成した。永久磁石を小型モーターで回して回転磁場を発生させ、磁性ビーズを撹拌し、反応を促進した。
【0045】
反応器への試料溶液(試薬)の導入には、シリンジポンプ/バルブ系を用いて試薬を5μL/min の流量で流して導入した。リアクター壁面は、ブロッキング処理(MPC ポリマー)しており、抗原RAT-IgG を用い、磁性ビーズは予め一次抗体までコンジュゲートしたものを使用した。
【0046】
結果、一次抗体-抗原反応(1分)→洗浄(2分)→抗原-二次抗体(1分)→洗浄(2分)→酵素反応(4分)と洗浄時間込みで10分という迅速測定が可能になった。フロー法で基質の供給と生成物搬出、磁性ビーズ撹拌による効果的な反応促進によるものである。反応の速さの一例として図8a、bに基質注入後の生成物濃度の時間経過を示した。この結果から、ELISAに適した省試薬・迅速分析技術の基礎を確立することができた。
【0047】
もちろん、本発明は以上の例によって限定されるものではなく、その細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明における反応促進装置の一実施形態を模式的に例示した平面図および側面図である。
【図2】本発明における棒状磁性ビーズクラスタの形状を例示した図であり、aは理論シミュレーション図、bは図1における反応器内を模式的に例示した拡大断面図である。
【図3】本発明において、電磁石を用いた場合の磁性ビーズクラスタの形状を例示した図であり、aは直流磁場における棒状磁性ビーズクラスタの形状を、bは回転周波数が0.1Hz(Ma=1.3×10-3)における棒状磁性ビーズクラスタの形状を、cは回転周波数が2Hz(Ma=2.5×10-2)における棒状磁性ビーズクラスタ(ディスク状に形成)の形状を、dは回転周波数が10Hz(Ma=0.13)における棒状磁性ビーズクラスタ(ディスク状に形成)の形状を示している。
【図4】本発明におけるマイクロ反応室の形状を例示した模式図であり、aはA型マイクロ反応室、bはB型マイクロ反応室を示している。
【図5】反応室のAspect比と反応促進効果(吸光度)の関係を示したグラフ図である。
【図6】実施例2における磁石Aと磁石Bそれぞれにおける磁力線ベクトル図であり、aは磁石Aの場合を、bは磁石B(4個)の場合を示している。
【図7】実施例2における磁石Aと磁石Bそれぞれにおける吸光係数の時間経過を示した図であり、aは磁石Aの場合を、bは磁石B(4個)の場合を示している。
【図8】基質注入後の生成物濃度の時間経過を示したグラフ図であり、aは吸光係数と酵素反応時間との関係を、bは吸光係数と抗原濃度との関係を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の特定成分と反応する活性成分が固定された磁性ビーズに回転磁場を印加して、特定成分と活性成分との反応を促進させる回転磁場を利用した反応促進方法であって、以下の工程:
<1>磁場の水平成分と垂直成分の比を設定して、平面基板上に構築されている特定成分と活性成分との反応の場である反応器の外部上方もしくは下方に、少なくとも1つ以上の磁石を配置し;
<2>磁石を回転させることで回転磁場を発生させ、これによって反応器内に充填されている磁性ビーズを回転させるとともに、磁場方向に整列した棒状磁性ビーズクラスタとして形成させ、回転磁場の中心軸近傍に収束させ;
<3>反応器内に導入されている試料溶液中の特定成分と、磁性ビーズの活性成分とを反応させ;
<4>反応後の生成物を、回転磁場による試料溶液の流れで磁性ビーズクラスタから離間させる;
ことを含むことを特徴とする回転磁場を利用した反応促進方法。
【請求項2】
磁石の配置は、4つの磁石を用い、それぞれが回転磁場の中心軸を中心にして対称的に配置されている請求項1の反応促進方法。
【請求項3】
磁場の水平成分/垂直成分の比は、1/3以下である請求項1または2の反応促進方法。
【請求項4】
磁石は、永久磁石である請求項1から3のいずれかの反応促進方法。
【請求項5】
磁性ビーズの表面には、生体分子と親和性を有するポリマー成分が被覆されている請求項1からの4のいずれかの反応促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−247535(P2006−247535A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68231(P2005−68231)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】