説明

回転装置

【課題】本発明は、軸線周りで相対的に回転可能に配設された回転体およびハウジングと、該ハウジングに固定され該回転体と対向する電磁石と、を備えた回転装置を提供する。
【解決手段】本回転装置は、前記回転体と前記ハウジング、前記回転体と前記電磁石、の隙間には前記電磁石により磁路が通過すると粘度が向上する磁気粘性流体が充填され、該磁気粘性流体はナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子を含む磁性粒子を含有する。この前記磁気粘性流体に接する前記電磁石及び/又は前記回転体の表面の一部は、非磁性絶縁体で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの磁性粒子を含む磁気粘性流体とこれに磁場を与える電磁石等を用いることによって、回転軸をその周囲のハウジング等に対して制動するロータの回転装置、特に磁気粘性流体を封入する隙間に面した部材の一部を絶縁体で形成するロータの回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に軸受装置のような回転装置では、シャフト等の回転軸の軸周りにハウジングや軸受等の固定体が配設され、固定体に対して回転軸が相対的に軸周り回転する構成を有している。このような回転装置において回転軸と固定体との間には環状の隙間が存在し、この隙間に磁気粘性流体を封入した回転装置が存在する。
【0003】
例えば、特許文献1ではケーシングと、ケーシングの回転体と、電磁石とを備え、電磁石と回転体との隙間に磁気粘性流体を封入している。電磁石は、概ね磁束を発生するコイルと、コイルを巻き取るボビンと、磁路を誘導する磁性体のヨークとで構成され、回転体の制動を担う役割を有するものである。このヨークに誘導された磁路が電磁石と回転体との隙間を通過することで磁気粘性流体の粘度が発現し、トルクを伝達する。したがって、トルクの応答速度すなわち回転体の制動性能は、磁気粘性流体への磁束付与に依存するものであり、磁路を効率良く形成することが要求される。
【0004】
また、通常の磁気粘性流体を封入した場合、磁性粒子が他の部材とこすれあい、磨耗を引き起こすおそれがある。そこで、磁気粘性流体に接する部材は、耐磨耗性のある金属部材を使用するのが一般的である。
【0005】
しかしながら、磁気粘性流体に接する部材を金属部材にすると電気コイルに対する通電によって渦電流が発生し、これによりトルク伝達の応答性を遅延させるという問題がある。また、金属部材は重いため回転装置全体としての軽量化が困難となるという問題も並存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−202744号公報
【特許文献2】特開2009−117797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電磁石と回転体との隙間にナノサイズの磁性粒子を含む磁気粘性流体を封入する回転装置において、高効率の磁路を形成しつつ耐磨耗性と軽量化とを同時に達成し得る構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の回転装置は、軸線周りで相対的に回転可能に配設された回転体およびハウジングと、該ハウジングに固定され該回転体と対向する電磁石と、を備えた回転装置を提供する。
この回転装置は、前記回転体と前記ハウジング、前記回転体と前記電磁石、の隙間には前記電磁石により磁路が通過すると粘度が発現する磁気粘性流体が充填され、該磁気粘性流体はナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子を含む磁性粒子を含有し、前記磁気粘性流体に接する前記電磁石及び/又は前記回転体の表面の一部は、非磁性絶縁体で構成される。
【0009】
上記磁気粘性流体に接する非磁性絶縁体は、樹脂材料、例えばプラスティック材料であることが好ましい。
【0010】
本回転装置は回転体がハウジングに対して軸周りに回転し、ハウジング側に電磁石が固定される構成である。また、ハウジングと回転体、電磁石と回転体との隙間には磁気粘性流体が充填され、電磁石が通電して磁路が磁気粘性流体を通過することで粘性が発現し、回転体を制動する。この回転装置において磁気粘性流体と接する電磁石及び/又は回転体の一部は非磁性絶縁体で構成されている。ここで示す非磁性絶縁体とは、例えばプラスティック等の樹脂材料である。このような材料を使用すれば、導電体のように通電時に渦電流が発生することを避けることができ、コイルに対する応答速度ひいては回転体制動の応答速度を向上させることができる。なお、ここで使用する磁気粘性流体はこれに含有される金属粒子がナノサイズであることが特徴であり、この磁気粘性流体を使用すれば樹脂材料のような軟材を使用しても金属粒子による磨耗の問題を大幅に軽減できる。また、電磁石及び/又は回転体の一部をプラスティックの樹脂材料にすると装置全体の軽量化にもつながる。
【0011】
また、前記磁気粘性流体に接する前記ハウジングの表面は、非磁性絶縁体で構成されることが好ましい。
ハウジングに電磁石が固定される本回転装置の場合、電磁石、回転体のみならずハウジング表面を非磁性絶縁体にすれば、さらに軽量化を図ることができる。
【0012】
また、電磁石が回転体に固定され、ハウジングと対向する型の本回転装置の場合もあり得る。この場合、磁気粘性流体に接する前記電磁石及び/又は前記ハウジングの表面の一部は、非樹脂等の非磁性絶縁体で構成される。また、回転体の表面の一部が、非磁性絶縁体で構成されることが好ましい点も同様である。
【0013】
また、本発明の回転装置は、記前記回転体が中空円板状である前記ハウジングの内側でハウジングに対して相対的に軸回転する環状部材であっても良く、前記ハウジングと前記回転体との間で、前記回転体と供に軸回転するように該回転体側に結合された磁性体のディスクを有し、前記電磁石は、前記ディスクを挟むように配設され、通電時において該ディスクを挟持する方向に磁路を付与し、前記ディスクは、該ディスクを挟む方向以外に前記磁路が分散しないように該ディスクに溝が配設されることが好ましい。
【0014】
これにより本回転装置では、電磁石が通電すると磁性体であるディスクとヨークとの間にせん断力が作用し、その結果、ディスクと結合する回転体の回転も制動できることとなる。また、ディスクには挟持方向に物理的な溝が形成されているため、溝を境界として回転半径方向の磁力が遮断される。このディスクに形成される溝は、回転側(回転体やディスク)と固定側(ハウジングや電磁石)との隙間を流体的に接続するものであり、内部に透磁率の比較的低い磁気粘性流体が保持されているためディスク内で磁路が分散することを回避できる。その結果、電磁石とディスクとの間で強い挟持力が作用するような強い磁路を形成することができる。
また、本回転装置ではディスクと電磁石との隙間が狭くなる傾向にあり、通電時に粘度が増大した場合、せん断力が過大になるがナノ金属粒子を含有する磁気粘性流体を使用するため磨耗のおそれは回避できる点は上述同様である。
【0015】
また、上述のような本回転装置、すなわち回転体が中空円板状である前記ハウジングの内側でハウジングに対して相対的に軸回転する環状部材である回転装置の他の例としては、
前記ハウジングに固定される前記電磁石と前記回転体との両者において前記磁気粘性流体を介して対向する部分の一部が、それぞれ非磁性絶縁体で構成され、前記回転体の他の部分が磁性体で構成され、前記電磁石から付与される磁路は、前記非磁性絶縁体を回避して電磁石から回転体を経由して電磁石に戻るように形成される構成であっても良い。
【0016】
この回転装置によれば、磁気粘性流体と接する電磁石と回転体との対向する部分が樹脂等の非磁性絶縁体で構成される。これにより電磁石のヨークを通過してきた磁束の多くは、磁気粘性流体をわたって回転体の磁性体部分を通過し(回転体の非磁性体部分を回避し)、再びヨークに戻ってくる。この装置において、電磁石と対向する回転体の部分は樹脂等であり絶縁体でもあるため渦電流の発生を抑制することができる点では上述の場合と同様である。したがって、コイル電流に対して回転制動の応答速度が向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の回転装置によれば、ハウジング、電磁石、回転体の隙間にナノサイズの磁性粒子を含む磁気粘性流体を封入し、磁気粘性流体に接する部材の一部を樹脂等の非磁性絶縁体する。このため通電による渦電流の発生を抑えることができコイル電流に対する応答性が高いと同時に耐磨耗性も確保することができる。さらに、本回転装置では樹脂等の使用による装置の軽量化も達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の回転装置の第1の実施形態の軸線に沿った断面図である。
【図2】図1に示すエリアAについての拡大図である。
【図3】ディスクを図1の紙面上方から見た概略を示した例示図であり、(a)は間欠的な溝を設けた場合のディスクの一例を示しており、(b)は円周に亘って連続的に形成された溝を設けた場合のディスクの一例を示したものである。
【図4】本発明の回転装置の第2の実施形態の軸線に沿った断面図である。
【図5】図4に示すエリアA´についての拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪使用する磁気粘性流体について≫
まず、本発明の回転装置について説明する前提として本発明の回転装置で使用する磁気粘性流体について言及する。
ここで使用する磁気粘性流体は特許文献2に開示されるものであり、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、特にその磁性粒子がナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。
【0020】
金属ナノ粒子は、その平均粒子径が、20〜500nmであることが望ましく、より好ましくは、70〜200nmである。また、磁性粒子には、金属ナノ粒子が凝集した凝集体を含んでいても良く、特に金属ナノ粒子が塊状に凝集した凝集体を含んでいても良い。塊状の凝集体は、例えば棒状又は鎖状の凝集体が磁気粘性流体に含まれる場合と比較して、基底粘度を低下させることになる。凝集体の大きさは、レーザー回折散乱法による平均粒子径が、10μm以下であることが望ましく、5μm以下であることがより好ましい。
【0021】
分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。採用する分散媒の種類に応じて、磁性粒子に対し、その分散媒と親和性の高い表面改質を施すようにすればよい。こうすることで、磁性粒子の分散安定性が高まる。例えば疎水性のシリコーンオイルを分散媒として採用する場合、磁性粒子にはカップリング剤による表面改質を施すことが好ましい。
【0022】
磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3〜40vol%とすればよい。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0023】
≪本回転装置の第1本実施形態について≫
まず、図1を参照すれば本発明の回転装置10の第一の実施形態が示されている。具体的には、本回転装置10の回転軸線に沿った断面図を示している。なお、図1は軸線Xを中心に左右対称であり、左右いずれかに示された部材はこれに対称となる位置の部材と同一の部材を示している。また、図2を参照すれば概ね図1の回転装置10の点線Aを示した拡大断面図である。
【0024】
まず、本実施形態の回転装置10では、主として軸回転する回転体12と、その周囲を覆う固定状態のハウジング18と、回転体12と結合された環状のディスク26と、回転体12とハウジング18等との隙間に保持された磁気粘性流体28と、通電するとディスク26や磁気粘性流体28に磁場を付与する電磁石20とで構成されている。上述するようにこの磁気粘性流体28に含有される磁性粒子はナノサイズであり、この磁気粘性流体28によれば接する部材の磨耗を低減できる。
【0025】
まず、回転体12は、軸線Xを中心に回転する棒状のシャフト14と、シャフト14から半径方向に拡がり略環状板を形成するロータ16と、で構成されている。このシャフト14とロータ16とは一体に形成されており非磁性体が使用される。非磁性体としては概ねオーステナイト系ステンレス(SUS304)が使用されているが、先端部材16aについては絶縁体であるプラスティック等の樹脂材料を使用することもできる。シャフト14は強度確保のため金属材料であることが必要であるが、後述するようにロータ16については磁路が分散してこないようにするために非磁性体であることが好ましいからである。さらに、先端部材16aは非磁性体であるうえにプラスティックのごとく絶縁体であると通電による渦電流の発生を回避することができる。なお、プラスティック等の軟材にしたことによる耐磨耗性の問題については本磁気粘性流体28がナノ金属粒子含有であることで解決される点は上記の通りである。
【0026】
またハウジング18は、回転体12のケーシング部材として機能し、軸回転する回転体12に対して固定されている。ここでは回転体12が軸回転しハウジング18が固定されるが、両者が相対的に軸回転すればよく、ハウジング18が軸線X周りに回転し、回転体12が固定されていてもよい。さらに詳細にはハウジング18は、内部でロータ16が回転できるようにロータ16の外周囲を覆う構造を有しており、互いに対向するように配置された2つの皿状部材18a、18bをネジ等(図示せず)で結合することで構成されている。
【0027】
このハウジング18は非磁性体である点では回転体12と同様であるがプラスティック等の樹脂材料が使用されている。詳細には後述するがハウジング18を樹脂等にすると軽量化、十分な磁路の確保に有利である。さらに、上述するように本実施形態に使用する磁気粘性流体28はナノ金属粒子を含有するものであるため樹脂材料のような軟材を使用しても磨耗を防止することができる。
【0028】
また、ハウジング18には軸線Xを回転中心とする環状の回転軸受32が上下に1つずつ配設されている。この2つの回転軸受32にシャフト14が内挿し軸回転することでハウジング18に対して回転体12が軸回転し得る。なお、以下、説明していくハウジング18の中に配設される各部材は、回転軸受32の場合と同様に、軸線X方向に形成された2つで1組の環状の部材である。
【0029】
ロータ16の回転半径方向の外縁端部には、複数枚で1組の環状板部材であるディスク26が結合されている。ここで図2を参照すれば、図1の点線の囲まれたエリアAの拡大図を示している。この図2や図1からも理解されるように、ディスク26はその内縁側26cの一部をロータ16の外縁端部(先端部材)に結合させ、また該ディスク26の外縁側26bはロータ16の外縁端部から突出されて電磁石20(後述)に挿入される。ディスク26とロータ16とは、ロータ16の先端部とディスク26の内縁側26cとを介して図示しないネジ等で結合することで固定される。
【0030】
また、ロータ16の外縁端部から回転半径方向外側に突出したディスク26の外縁側26bは電磁石20に介挿されている。ここで電磁石20は、ボビン23を介してコイル22の周囲をヨーク24で包囲している。このヨーク24は純鉄等の磁性体を用いている。また、コイル22とヨーク24との間のボビン23は、コイル22の天面側と内面側(底面側と内面側でも良い)を環方向全域に亘って覆うように介挿されている。一般的に電磁石ではボビンに相当する部材は磁性体が用いられているが、ここではヨーク24内に磁束を集中させて十分な磁路L(図1、図2の矢印L参照)を形成するために非磁性材料を採用している。
【0031】
さらに、非磁性体としてSUS304などの金属部材も考えられるが上述してきたように導電性を有する部材を採用すると渦電流の発生を招き十分な磁路形成を妨げる要因となる。したがって、ここではボビン23には樹脂等の絶縁材料を使用している。また、プラスティック等の樹脂は金属部材よりも軽量であるためボビン23に使用すると回転装置10全体の軽量化を図ることもできる。なお、本実施形態に使用する磁気粘性流体28はナノ金属粒子を含有するものであるため樹脂のような軟材料を使用してもボビン23の磨耗を防止することができる点は上述してきた通りである。
【0032】
ここでコイル22を通電した際の磁路Lについて図1、2を参照しつつ説明する。上述したようにコイル22から発生した磁力線(磁束)は非磁性体である補助部材23およびハウジング18の存在により主としてヨーク24内を循環し、磁路Lを生成する。本回転装置10の場合、さらに磁力線を分散させず磁路Lに集中させるための手段が設けられており、詳細については後述する。
【0033】
まず、図2に示すようにヨーク24は、ロータ16側に開いたコの字断面形状であり、上下に2分割し得る第一ヨーク24aと、この第一ヨーク24aと相俟ってディスク26の外縁側26bを挟む第二ヨーク24bとで構成されている。また、第一ヨーク24aは概ねハウジング18と隙間を設けず固定されている。第二ヨーク24bは、前述のボビン23に結合され一体化している。第一ヨーク24a内を進行してきた磁力線はディスク26の外縁側26bに屈曲して進行する。図2において左方向から略直角下向きに屈曲して進行する磁路Lに示されるとおりである。これは第一ヨーク部材24aから放出する磁力線はパーマロイ(Fe-Ni合金)などの透磁率の大きい材質で形成されたディスク26側に向かうからである。
【0034】
但し、磁路Lは通電時において内部を進行する磁力線が外部に分散放出されないような形状が好ましい。次に第一ヨーク部材24aからディスク26の外縁側に進行した磁路Lは、概ねそのままディスク26内を進行して第二ヨーク部材26bに到達する。具体的には図1よび図2磁路Lに参照する通りである。ここでディスク26の外縁側26bと内縁側26bとは紙面下方に向かう溝26aにより磁気的に分断されている。即ち、ディスク26の溝26aの内部には透磁率の比較的低い磁性粘性流体が保持されるので溝26aで磁力線を遮断する。これによりディスク26内で矢印Lの方向以外に磁路が分散せず、第一ヨーク部材24aから進行してきた磁路Lはそのままディスク26内を紙面下方に直進することとなる。なお、ディスク26やロータ16と、ハウジング18や電磁石20との「隙間」には磁気粘性流体28が保持されるが、図1〜図2において磁気粘性流体として参照番号28を付した部分は全てここで言う「隙間」に位置しており、溝26aも「隙間」の一部を形成していると言える(以下、「隙間28」と参照番号を付して表記する場合もある)。
【0035】
再びディスク26の溝26aについて言及する。
図3を参照すればディスク26を上方(図1〜図2紙面視)から見た天面図である。但し、理解し易さを考慮し、r0〜r3の寸法は図1〜図2の寸法と一致するものではないことに留意する。
【0036】
まず図3(a)に示すディスク26は、環方向に間欠的に溝26bが配設されている。このディスク26の場合、中心Oが図1〜図2に示す回転軸線Xに相当し、中心Oからディスク26の内縁側26cに到達するまでの径距離がr0であり、さらに溝26aまでの内縁側26cの幅がr1、溝26aの幅がr2、ディスク26の外縁側26bの幅がr3となっている。この溝26aの幅r2が大きいほど外縁側26bから内縁側26cへの磁力線の分散は少なくなってくるが、その反面、溝26aの幅r2を大きくしたことで外縁側26bの幅r3が小さくなると第一ヨーク部材24aと第二ヨーク部材24bとの間でディスク26に生じるせん断力(既述)も小さくなり回転装置10としての制動性能が低下する。
【0037】
なお、この図3(a)の場合、溝26aが環方向に間欠的であるためディスク26全体としてある程度の強度が担保される。また、図2に示すように溝26aはディスク26を貫通していない。これはディスク26の内縁側26bと外縁側26bとの物理的な結合を確保するためのものであり、図3(a)のように間欠的な溝26aの場合、ディスク26を貫通する溝26aであっても良い。また、図1〜図2ではディスク26は複数の環状板が積層されているように表現されているが一枚ものとして形成されても良い。
【0038】
また、上記図3(a)の変形例としてディスク26−1が示されている。このディスク26−1の場合、溝26a−1は環方向全域に亘って繋がっている。このディスク26の場合、ディスク26内の磁力線の分散を防止するという点では外縁側26b−1と内縁側26c−1とが物理的分断が進んでおり好ましいが、溝26a−1がディスク26を貫通するとディスク26´が一体化しないという弊害がある。特にこのディスク26の場合、図2に示すような環状板の積層構造より一枚ものの方が好ましい。
【0039】
再び図2に戻って説明する。ディスク26を通過して進行した磁路Lは、第二ヨーク部材24bに侵入し、そのまま下方に直進する。そして回転平面Yの位置を通過する。その後、回転平面Yに対して上下に対称であるため磁路Lも対称に進行する。また、他の部材の構成や構成の意義についても上下に対称である。このことは図2を参照すれば理解されよう。
【0040】
ディスクや電磁石、ロータ等の組立方法について
次に、ロータ16、電磁石20、ディスク26の組立方法について説明する。まず、ロータ16の下面にディスク26を機械的に結合する。例えば、ネジ結合等である。次に、下側のハウジング18の皿状部材18bに第一ヨーク24aを固定する。また、下側のハウジング18の皿状部材18bにはロータ16も固定する。このとき第一ヨーク24aの真上にディスク26が位置することになる。第一ヨーク24aは前述のように概ね隙間なくハウジング18の皿状部材18bの上に固定されるため、ディスク26と第一ヨーク24aの間の隙間は、所定の間隔に保たれる。
【0041】
さらに、第二ヨーク24bと一体化したボビン23が、第一ヨーク24aの上に配設される。ボビン23の位置を基準として、ディスク26と第二ヨーク24bの間の隙間は所定の隙間に保たれる。また、ロータ16の上面にはディスク26が結合される。このとき第二ヨーク24bの上にディスク26が位置することになる。第一ヨーク24aはボビン23の上に配設され、さらに上方からハウジング18の皿状部材18aで覆い、上下のハウジング18同士をネジ止めする。このように下から順に組み立てることが可能であるため、組立作業が容易で、ディスク26とヨーク24の間の隙間も、高精度に所定の間隔にすることができる。
【0042】
磁気粘性流体の充填について
ここでロータ16やディスク26とハウジング18や電磁石20(特にヨーク24)との隙間に保持される磁気粘性流体28の充填方法について説明する。図1に示すようにシャフト14は回転平面Yより紙面下方の内部に流路12aを備え、流路12aの下端部で外部に開放される中空構造である。また、ロータ16も回転平面Yに沿って内部に流路12bを備えている。流路12bはロータ16の半径方向外側に延びており、流路12cによってロータ16の外縁端部近傍で下方に開放されている。これらの流路12aと流路12bと流路12cとは流体的に連結的にしている。図1においては図示されていないが流路12bと流路12cとは回転軸線Xを中心に放射状に複数存在しても良い。
【0043】
次に磁気粘性流体の充填について説明する。前述のように本回転装置を組み立てた後、磁気粘性流体を流路12aの開放端から注射器等を用いて圧入する。磁気粘性流体はまず最初に流路12aの中に充填される。磁気粘性流体は流路12aから流路12bに到達すると回転軸線Xの位置から回転半径外側に向かって進行する。そして流路12cを介して磁気粘性流体はロータ16の外縁端部下方から隙間28に放出される。この隙間28は、全て流体的に連結するため磁気粘性流体が順次補充されていくこととなる。
【0044】
≪本回転装置の第2本実施形態について≫
図4を参照すれば本発明の回転装置の第二の実施形態10´が示されている。なお、図4は軸線Xを中心に左右対称であり、左右いずれかに示された部材はこれに対称となる位置の部材と同一の部材を示している。また、図5を参照すれば概ね図4の回転装置10´の点線A´を示した拡大断面図である。図4〜図5に示す本回転装置10´は、その構成の大部分は図1〜図2に示す本回転装置10(第一の実施形態)と同一であり、図4〜図5において同一の参照番号を示す部材は図1〜図2に示す同番号の部材と同一のものを示している。また、図4〜図5において同一の参照番号に´(ダッシュ)を付した部材は図1〜図2に示す同番号(´なし)の部材と類似の部材(同機能)を示している。したがって、ここでは´表示をした部材についてのみ言及する。
【0045】
第一の実施形態では、ロータ16の回転半径方向の外縁端部にはディスク26が結合されていたが、第二の実施形態の本回転装置10´では採用されない。本回転装置10´ではヨーク24´がボビン23´を包囲してロータ16´側に開放するコの字断面形状であるが、ボビン23´の内壁側で磁気粘性流体と直接接している点が異なる。ヨーク24´は純鉄等の磁性体を用いているが、ボビン23´には樹脂等の非磁性絶縁体を採用している点は第一の実施形態と同様である。なお、ロータ16´の先端部材16´a以外は磁路の確保のため(後述)、純鉄等の金属磁性体を使用する。
【0046】
また回転装置10´では、磁気粘性流体28を介してボビン23´と対向するロータ16´の先端部材16a´も非磁性絶縁体としてプラスティック等の樹脂を使用している。したがって、同じく樹脂等を使用するボビン23´と相まって渦電流の発生を防止し、コイル22への通電に対する応答速度を速めることができる。また、プラスティック等の樹脂を使用すると回転装置10´全体の軽量化を図ることができる点と、磁気粘性流体28がナノ金属粒子を含有するものであるため樹脂のような軟材料を使用しても磨耗を防止することができる点と、については上述してきた通りである。
【0047】
ここでコイル22を通電した際の磁路L´について図4〜図5を参照しつつ説明する。上述したようにコイル22から発生した磁束はヨーク24内を進行し、ボビン23´の手前で進路変更し、磁気粘性流体28をわたってロータ16´の先端部材16a´に進入する。進入した磁束はロータ16´内を先端部材16´aを回避しながら進行し、再び磁気粘性流体28をわたってヨーク24´に戻って循環する。これは磁気粘性流体28に対して対向するボビン23´と先端部材16´aとが非磁性体であり、周囲の部材よりも透磁性が低いからである。
【0048】
以上、本発明の2つの実施形態について説明してきたが、本発明の本回転装置はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の精神と教示との範囲を逸脱しない他の変形例と改良例とが存在することは当業者に明白であろう。
【符号の説明】
【0049】
10、10´…回転装置
12、12´…回転体
14…シャフト
16、14´…ロータ
18…ハウジング
20、20´…電磁石
22…コイル(回転軸)
23、23´…ボビン
24、24´…ヨーク
26…ディスク
26a…溝
28…磁気粘性流体(隙間)
X…回転軸線
Y…回転平面
L、L´…磁路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線周りで相対的に回転可能に配設された回転体およびハウジングと、該ハウジングに固定され該回転体と対向する電磁石と、を備えた回転装置であって、
前記回転体と前記ハウジング、前記回転体と前記電磁石、の隙間には前記電磁石により磁路が通過すると粘度が発現する磁気粘性流体が充填され、該磁気粘性流体はナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子を含む磁性粒子を含有し、
前記磁気粘性流体に接する前記電磁石及び/又は前記回転体の表面の一部は、非磁性絶縁体で構成される、ことを特徴とする回転装置。
【請求項2】
前記磁気粘性流体に接する前記ハウジングの表面は、非磁性絶縁体で構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
軸線周りで相対的に回転可能に配設された回転体およびハウジングと、該回転体に固定され該ハウジングと対向する電磁石とを備えた回転装置であって、
前記回転体と前記ハウジング、前記回転体と前記電磁石、の隙間には前記電磁石により磁路が通過すると粘度が発現する磁気粘性流体が充填され、該磁気粘性流体はナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子を含む磁性粒子を含有し、
前記磁気粘性流体に接する前記電磁石及び/又は前記ハウジングの表面の一部は、非磁性絶縁体で構成される、ことを特徴とする回転装置。
【請求項4】
前記磁気粘性流体に接する前記回転体の表面の一部は、非磁性絶縁体で構成される、ことを特徴とする請求項3に記載の回転装置。
【請求項5】
前記回転体が、中空円板状である前記ハウジングの内側でハウジングに対して相対的に軸回転する環状部材である請求項1又は2に記載に記載の回転装置であって、
前記ハウジングと前記回転体との間で、前記回転体と供に軸回転するように該回転体側に結合された磁性体のディスクを有し、
前記電磁石は、前記ディスクを挟むように配設され、通電時において該ディスクを挟持する方向に磁路を付与し、
前記ディスクは、該ディスクを挟む方向以外に前記磁路が分散しないように該ディスクに溝が配設される、
ことを特徴とする回転装置。
【請求項6】
前記回転体が、中空円板状である前記ハウジングの内側でハウジングに対して相対的に軸回転する環状部材である請求項1又は2に記載の回転装置であって、
前記ハウジングに固定される前記電磁石と前記回転体との両者において前記磁気粘性流体を介して対向する部分の一部が、それぞれ非磁性絶縁体で構成され、前記回転体の他の部分が磁性体で構成され、
前記電磁石から付与される磁路は、前記非磁性絶縁体を回避して電磁石から回転体を経由して電磁石に戻るように形成される、ことを特徴とする回転装置。
【請求項7】
前記磁気粘性流体に接する非磁性絶縁体は、樹脂材料であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転装置。
【請求項8】
前記磁気粘性流体に接する非磁性絶縁体は、プラスティック材料であることを特徴とする請求項7に記載の回転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202429(P2012−202429A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65220(P2011−65220)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】