説明

回転部材支持ユニット

【課題】回転部材を軸支する軸受に対して、多孔質部と一体構造を成す常に静止状態に維持された非回転スリンガーを設け、主軸のスリンガーとの対向部分を拡径・拡幅させることで、グリース漏洩を防止し、回転部材を安定して継続回転可能な回転部材支持ユニットを提供する。
【解決手段】立設した主軸8、軸受2,4、歯車G1,G2、これらを収容するケース40、並びに回転部材32を備えた回転部材支持ユニットであって、回転部材に最近接配置された軸受に対し、板状の円環部、その両端部から延出して対向する内径側筒部及び外径側筒部で構成され、これらで囲まれた環状空間に多孔質材66が嵌め込まれた非回転スリンガー65を回転輪10及び歯車と非接触に位置付け、主軸のスリンガー内周面65aとの対向部分8dを主軸の外周よりも当該内周面へ向けて拡径して構成し、円環部を主軸の対向部分の歯車側の側面よりも所定の大きさS1だけ軸方向へ凹ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地表に生育する草木(例えば、芝生や雑草など)を根元付近から刈り払う作業に用いられる草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは電動工具などに関し、特に、これらに取り付けられた刈刃(回転刃)などの回転部材を軸支する回転部材支持ユニットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図4には、このような回転部材支持ユニットが備えられた草刈機の構成が一例として示されている。同図に示す構成において、かかる草刈機Aには、直線状に延出した操作管30と、当該操作管30の一端側に設けられた回転部材支持ユニット(以下、回転刃ユニットという)U2と、当該操作管30の他端側に設けられた駆動装置(エンジン)34とが備えられている。
この場合、操作管30には、その内部にエンジン34で発生された駆動力(回転出力)により回転される駆動軸38が設けられており、当該駆動軸38は、転がり軸受(以下、駆動軸軸受という)6によって回転自在に支持されている。なお、駆動軸38のエンジン34とは反対側の端部には、歯車(以下、駆動軸歯車という)G1が設けられており、駆動軸軸受6は、当該駆動軸歯車G1に外嵌されて、駆動軸38を回転自在に支持している。
【0003】
また、図3(a),(b)に示すように、回転刃ユニットU2には、所定方向に延出して立設された主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する2つの転がり軸受(以下、回転刃側軸受2(図3(a)の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受)という)と、駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(同図の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する1組の歯車(同、駆動軸歯車G1(同図の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車)という)と、主軸8の他端側(同図の下端側)に取り付けられた回転可能な回転部材(刈刃)32とが備えられている。
【0004】
なお、この場合、主軸8は、草刈機Aの使用状態において略垂直方向に延出するように立設されており、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。
また、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と主軸歯車G2の間に位置付けられており、一方、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図3(a)の上端部)に位置付けられている。さらに、操作管30には、作業者を刈刃32から保護するための保護カバー42が、当該刈刃32寄りの所定位置に設けられている。
【0005】
このような構成によれば、エンジン34が駆動軸38を回転させると、当該回転力は駆動軸歯車G1を介して主軸歯車G2に伝達され、当該回転力によって主軸8を回転させることができる。これにより、エンジン34から発生した回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させることができる。そして、作業者は、操作管30のエンジン34寄りの所定位置に取り付けられた操作ハンドル36により草刈機Aの全体を支えるとともに、刈刃32を移動させることで、草木を刈り払うことができる。
【0006】
ところで、このような草刈機に関しては、従来からその利便性の向上や安全性の向上を図るための各種の方策が知られている。例えば、特許文献1においては、連結管(操作管)の角度を任意に変更することが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、傾斜地でも草木の刈り払い作業を軽快に行うことなどを可能とし、当該草刈機における利便性の向上を実現している。一方、例えば、特許文献2においては、容易且つ確実に刈刃(回転刃)を主軸に取り付けることが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、刈刃(回転刃)が主軸から外れることを有効に防止することができ、当該草刈機における安全性の向上を実現している。
【0007】
また、かかる草刈機Aにおいて、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該各軸受2,4,6の潤滑を行うことによっても、結果として、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させることができ、当該草刈機Aにおける利便性の向上や安全性の向上を図ることができる。
【0008】
このため、例えば、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を潤滑すべく、当該歯車G1,G2を取り囲む所定の空間部Sには、極圧剤入りのグリース(以下、歯車潤滑グリースという)が当該空間部Sの空間容積に対して略70%〜100%の体積比となるように充填(封入)されている。この場合、歯車潤滑グリースとしては、アメリカグリース協会(NLGI:National Lubricating Grease Institute)が規定するちょう度No.2(ちょう度番号2号)のグリースが用いられており、当該グリースは、一例として、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系で構成されている。
【0009】
また、例えば、回転刃側軸受2としては、その内外輪10,12間に接触型のゴムシール20,22が介在されているとともに、転動体14として玉が内外輪10,12間に組み込まれた密封玉軸受が適用されており、当該回転刃側軸受2を潤滑するために、一例として、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系で構成されたグリース(以下、軸受潤滑グリースという)が当該軸受内部に封入されている。この場合、ゴムシール20,22は、一例として、その外径部が回転刃側軸受2の外輪12に固定されているとともに、その内径部(リップ部)20l,22lが当該回転刃側軸受2の内輪10に形成されたシール溝に摺接されるように位置付けられている。
【0010】
このように各歯車G1,G2及び各軸受2,4が潤滑された回転刃ユニットU2において、回転刃側軸受2は、ゴムシール(歯車G1,G2側に位置するシール)20を介するだけで、常時歯車潤滑グリースと接触している。
また、草刈機Aの使用状態においては、駆動軸歯車G1と回転刃側軸受2及び主軸歯車G2と回転刃側軸受2が当該歯車G1,G2を上にして縦に並んでいるため、歯車潤滑グリースは、その自重により歯車G1,G2側に位置するゴムシール20の外面(歯車G1,G2側の面)へ大量に堆積し、当該シール20を押圧することとなる。加えて、主軸8の回転による空間部Sの圧力変化、さらには、当該回転刃側軸受2の回転による振動によっても、歯車潤滑グリースが歯車G1,G2側に位置するゴムシール20の外面(歯車G1,G2側の面)へ大量に堆積し、当該シール20は押圧される。
【0011】
そして、歯車潤滑グリースによってゴムシール20の押圧が継続されると、結果として、当該シール20のリップ部20lと回転刃側軸受2のシール溝との摺接部から当該歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)してしまう場合がある。
この場合、例えば、回転刃側軸受2の内部に封入されるグリース(軸受潤滑グリース)として、歯車潤滑グリースと類似した構成のグリースを適用することで、軸受潤滑グリースが当該歯車潤滑グリースと混合することによって生じるグリースの変質や不具合などを最小限に止めることができる。
【特許文献1】特開2004−194521号公報
【特許文献2】特開平8−130959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したような歯車潤滑グリースの軸受内部への漏洩(侵入)が進行すると、回転刃側軸受2内のグリース量が設定値よりも増加し、攪拌や剪断が活発化され、当該グリースが軟化してしまう場合がある。このようなグリースの軟化が発生すると、回転刃側軸受2のゴムシール(刈刃32側に位置するシール)22のリップ部22lと当該回転刃側軸受2のシール溝との摺接部や、当該シール22に設けられた空気孔22hなどから、当該グリースが回転刃側軸受2の外部へ漏洩してしまう場合がある。この場合、例えば、漏洩したグリースが刈刃32に付着し(図3(a)におけるグリースGbの状態)、当該刈刃32の回転精度を悪化させる虞があるだけでなく、草木や土壌に対して悪影響を与える虞もある。
【0013】
また、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部、さらには当該回転刃側軸受2の外部へ継続的に漏洩(侵入)すると、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となり、例えば、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗することで、当該歯車G1,G2がスムーズに回転せず、これらの回転精度が悪化してしまう場合がある。
【0014】
このような不都合を回避するための方策として、例えば、歯車潤滑グリースとして、NLGIちょう度がNo.3やNo.4のグリース、すなわち、NLGIちょう度No.2のグリースよりも硬いグリースなどを適用し、当該グリースが攪拌や剪断されることによる軟化を抑制させ、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部Sの内壁に当該グリースを付着させる方策や、当該グリースの充填量(封入量)を減少させる方策などがある。
【0015】
しかしながら、歯車潤滑グリースの硬度を高めると、当該グリースの流動性が低下し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑に寄与するグリースの量が少なくなり、結果として、当該歯車G1,G2が潤滑不足となって、例えば、上述の場合と同様に、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗してしまう場合がある。また一方、歯車潤滑グリースの充填量(封入量)を減少させると、グリースが充分に空間部S内に行き渡らず、結果として、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となり、同様の事態になってしまう場合がある。
【0016】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、回転部材(例えば、刈刃)を軸支する転がり軸受に対し、多孔質部と一体構造を成す常に静止状態に維持された非回転スリンガーを設けるとともに、当該非回転スリンガーに対する主軸の対向部分を拡径・拡幅させることで、内部に封入したグリースの外部への漏洩を防止するとともに、当該回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることが可能な回転部材支持ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的を達成するために、本発明に係る回転部材支持ユニットは、所定方向に延出して立設された主軸と、相対回転可能に対向配置された静止輪及び回転輪を具備して当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備えている。
かかる回転部材支持ユニットにおいて、少なくとも回転部材に最近接して配置された転がり軸受に対し、その内部への異物の侵入を防止するために、環状を成す金属製の非回転スリンガーが静止輪の歯車側の側面に接触あるいは近接して設けられているとともに、その内部を密封するための環状を成す少なくとも一対の密封部材が、転動体を挟んで静止輪と回転輪との間に介在され、主軸は、少なくとも前記非回転スリンガーの内周面に対向する部分を、当該主軸の外周よりも当該非回転スリンガーの内周面へ向けて拡径して構成されている。この場合、前記非回転スリンガーは、板状の円環部、並びに当該円環部の内径端部及び外径端部にそれぞれ連続されて延出し、相互に対向する内径側筒部及び外径側筒部で構成され、且つ、当該円環部、内径側筒部及び外径側筒部で囲まれた環状空間に多孔質材が嵌め込まれ、当該多孔質材と一体化された構造を成し、前記内径側筒部を前記主軸の対向部分と所定間隔を空けて対向させているのに対し、前記外径側筒部を前記ケースの内壁に当接させ、当該内径側筒部の延出端、及び外径側筒部の延出端を前記密封部材側へ向けて固定され、前記転がり軸受の回転輪及び前記歯車といずれも非接触となるように位置付けられることで、常に静止状態に維持されており、この状態で、前記円環部を前記主軸の対向部分の歯車側の側面よりも、所定の大きさだけ軸方向へ凹ませている。
【0018】
その際、前記非回転スリンガーの内径側筒部には、少なくとも1つの貫通孔を形成することが好ましい。
また、前記回転部材に最近接して配置された転がり軸受には、前記非回転スリンガーに加えて、板状の円環構造を成し、前記主軸及び当該転がり軸受の回転輪とともに回転する金属製の回転スリンガーが設けることが好ましく、当該回転スリンガーは、前記非回転スリンガーの円環部、内径側筒部及び外径側筒部、並びに前記多孔質材及び前記密封部材といずれも非接触となるように、前記主軸及び回転輪に対して位置決め固定すればよい。
【0019】
なお、主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の回転部材支持ユニットによれば、回転部材(例えば、刈刃)を軸支する転がり軸受に対し、多孔質部と一体構造を成す常に静止状態に維持された非回転スリンガーを設けるとともに、当該スリンガーに対する主軸の対向部分を拡径・拡幅させることで、内部に封入したグリースの外部への漏洩を防止することができるとともに、当該回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る回転部材支持ユニットについて、添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、例えば、草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは電動工具など、主軸が所定方向に延出して立設され、当該主軸とともに回転する各種の回転部材を軸支する回転部材支持ユニットに適用することができるが、以下では、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃(回転刃)が、回転部材として主軸へ取り付けられた草刈機に用いられる回転刃ユニットを一例として想定し、当該回転刃ユニットの構成について説明する。なお、この場合、本実施形態に係る草刈機の全体構成としては、上述した従来の草刈機A(図4)と同様の構成を一例として想定する。また、本実施形態に係る回転刃ユニットの基本的な構成は、上述した従来の回転刃ユニットU2(図3(a))と同様であるため、当該回転刃ユニットU2と同一若しくは類似の構成については、図面上で同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0022】
図1(a),(b)には、本発明の第1実施形態に係る草刈機の回転刃ユニットU1(回転部材支持ユニット)が示されており、係る回転刃ユニットU1には、所定方向に延出した主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する複数の転がり軸受2,4と、駆動装置(エンジン34(図4参照))によって回転される駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(図1(a)の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車G1,G2と、主軸8の他端側(図1(a)の下端側)に取り付けられた回転部材(刈刃32)とが備えられている。
【0023】
なお、主軸8、転がり軸受2,4及び歯車G1,G2は、筒状を成す所定のケース40内にそれぞれ収容されており、刈刃32は、締結部材(ねじ)で主軸8に締結固定され、当該ケース40の外側(図1(a)の下側)に取り付けられている。
【0024】
また、主軸8は、草刈機の使用状態において略垂直方向に延出するように立設されているのに対し、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。なお、当該傾斜角度は、例えば、草刈機の使用環境や使用目的などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しないが、一例として、本実施形態においては、駆動軸38が主軸8に対して約120°(別の捉え方をすると、刈刃32に対して約30°)の傾斜角度を成して傾斜するように構成している(図1(a))。
また、図1(a),(b)に示す構成において、主軸8は、所定の段差部8gを境界にして、歯車G1,G2側(同図の上側)に比較的大径の大径部8aを設け、刈刃32側(同図の下側)に比較的小径の小径部8bを設けて構成されている。
【0025】
図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、2つの転がり軸受(回転刃側軸受2(図1(a)の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受))が設けられており、当該回転刃側軸受2及び当該歯車側軸受4は、主軸8に外嵌されるとともに、ケース40に内嵌されて、当該主軸8を回転自在に支持している。この場合、一例として、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と歯車G2(後述する主軸歯車)の間に位置付けられており、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図1(a)の上端部)に位置付けられている。
【0026】
また、図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、1組の歯車(駆動軸歯車G1(図1(a)の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車))が設けられており、当該駆動軸歯車G1は駆動軸38に外嵌され、当該主軸歯車G2は主軸8に外嵌されて、相互に噛合している。これにより、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2は、エンジン34(図4)で発生させた回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させており、いわゆる変速機の機能を果たしている。
【0027】
なお、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の種類、大きさ、形状及び歯の数やピッチなどは、例えば、駆動軸38及び主軸8の大きさ、両軸の位置関係などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、本実施形態に係る草刈機のように、駆動軸38と主軸8とが所定の傾斜角度(例えば、約120°)を成して連結される構成の場合(図1(a)参照)、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2としては、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車及びまがりばかさ歯車などのかさ歯車を適用すればよい。
【0028】
本実施形態において、回転刃側軸受2は、図1(b)に示すように、回転輪(以下、内輪という)10及び静止輪(以下、外輪という)12が相対回転可能に対向して配置され、当該内輪10及び外輪12間へ複数の転動体(玉)14が転動可能に組み込まれて構成されている。この場合、転動体(玉)14は、環状を成す保持器(一例として、波型の合せ保持器)16に形成されたポケット内に1つずつ回転自在に保持された状態で、内輪10及び外輪12の軌道面間へ組み込まれている。これにより、各転動体(玉)14は、その転動面が相互に接触することなく、内外輪10,12間(軌道面間)を転動することができ、結果として、当該各転動体(玉)14が相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や、焼付きなどを防止することができる。
【0029】
なお、回転刃側軸受2、転動体(玉)14及び保持器16の形式や大きさなどは、例えば、草刈機の大きさや駆動装置(エンジン)の回転出力などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、回転刃側軸受2としては、図1(a),(b)に示す単列の深溝玉軸受の他、複列の深溝玉軸受や各種のころ軸受などを適用することができる。また、転動体14としては、図1(a),(b)に示すような玉の他、円筒ころ、円すいころ及び球面ころ(たる形ころ)などのころを適用してもよい。さらに、保持器2cとしては、図1(a),(b)に示すようないわゆる波型の合せ保持器の他、冠型保持器やかご形保持器などを適用してもよい。
【0030】
また、かかる回転刃側軸受2においては、内輪10と外輪12の間に、転動体(玉)14を挟んで、その両側(図1(b)の上側と下側)へ当該回転刃側軸受2を密封するための密封部材(接触型ゴムシール(以下、単にシールという))20,22がそれぞれ設けられている。このようにシール20,22を設けることで、回転刃側軸受2の外部(すなわち、回転刃ユニットU1の外部)から異物(例えば、刈り払った草木の屑、泥水及び塵埃など)が内部に侵入することを防止しているとともに、内部に封入された潤滑剤(例えば、後述する軸受潤滑グリースなど)が外部へ漏洩することを防止している。さらに、後述する歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)し、前記軸受潤滑グリースと混合されることも併せて防止している。
【0031】
図1(b)に示す構成において、シール20,22は、一例として、鋼板等を断面がL字状を成すようにプレス加工などにより成形した環状の芯金20c,22cの一部を、各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結した構造を成している。なお、シール20,22の内径部には、かかる弾性材で構成されたシールリップ20l,22lが形成されている。そして、かかるシール20,22は、その外径部が回転刃側軸受2の外輪12に形成された取付溝に固定され、その内径部が回転刃側軸受2の内輪10に形成されたシール溝に摺接するように位置付けられている。
【0032】
ただし、シール20,22の形状は、上述した形状には特に限定されず、例えば、芯金を平坦状の環状平板として構成してもよいし、芯金の全体を弾性材と連結させてもよい。また、シールリップは、複数個(例えば、3つ)形成してもよい。なお、芯金20c,22と各種の弾性材とを連結する場合、その連結方法としては、接着、かしめ、コーティング及び射出成形など、各種の方法を任意に選択して使用することができる。
【0033】
また、シール20,22の大きさ(例えば、幅(図1(b)の左右方向の距離)や厚さ(同図の上下方向の距離)など)は、例えば、回転刃側軸受2の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。ただし、シール20,22の厚さ(図1(b)の上下方向の距離)は、シール20,22が回転刃側軸受2の内輪10及び外輪12の歯車G1,G2側の側面(同図の上側の面)よりも当該軸受2の内側へ凹んだ状態となる厚さに構成することが好ましい。
一例として、本実施形態においては、前記内外輪10,12の側面からの凹みの深さが約0.25mmとなるように、シール20,22の厚さを設定するとともに、シール20,22が内外輪10,12間に位置決めされている場合を想定する。
【0034】
ここで、本実施形態においては、一例として、密封部材には、図1(b)に示すような接触型のシール20,22を適用したが、例えば、密封部材として、その外径部が外輪12の取付溝に固定され、その内径部が内輪10のシール溝に接触しない非接触型のシール(例えば、鋼板製の芯金の全体若しくは一部を各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結して成るシールなど)や、非接触型のシールド(例えば、ステンレス板、鉄板などの薄い金属板からプレス成形等されたシールド)を適用してもよい。
【0035】
また、2つのシール20,22のうち、回転部材である刈刃32側(図1(b)の下側)に位置するシール22には、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔22hが設けられている。この場合、貫通孔22hは、シール22の外径部及び内径部のうち、少なくとも当該外径部に、当該シール22の内側から外側まで(図1(b)の上側から下側まで)を貫通して形成されている。
【0036】
図1(b)に示す構成において、貫通孔22hは、一例として、シール22の外径部の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)による連結のみから成る部位、すなわち、芯金22cを含まない弾性材のみの部位に形成されている。このように、貫通孔22hを弾性材のみの部位に形成することで、かかる貫通孔22hは、通常時は開口状態とはならず、回転刃側軸受2の内部が加圧若しくは減圧された際にシール22が弾性変形した場合にのみ開口状態となって、当該軸受2の内気を排出若しくは当該軸受2の外気を流入させる、いわゆる空気弁として構成することができる。
【0037】
なお、貫通孔22hの形状、大きさ、位置及び数などは、例えば、シール22の形状や大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、貫通孔22hは、シール22の外径部ではなく、若しくは外径部に加えて、その内径部(具体的には、シール溝の壁部と摺接するシールリップ22l)に形成してもよい。また、例えば、貫通孔22hは、シール22の外径部に1つだけ形成してもよいし、周方向に沿って所定間隔で複数形成してもよい。
【0038】
これに対し、2つのシール20,22のうち、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)に位置するシール20には、その外径部及び内径部のいずれにも、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔、すなわち、上述したシール22に形成された貫通孔22hに相当する貫通孔は設けられていない。
【0039】
このように、回転刃側軸受2において、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)はシール20によって、その内部が完全に密封されているのに対し、刈刃32側(図1(b)の下側)は、シール22に貫通孔22hが形成されているため、完全には密封されていない。すなわち、回転刃側軸受2は、その内部が刈刃32側(図1(b)の下側)のシール22の貫通孔22hを通して、軸受外部に対して開放可能な状態となっており、当該貫通孔22hから内気を軸受外部へ排出することができるとともに、外気を軸受内部へ流入させることができる。
【0040】
これにより、例えば、回転刃側軸受2が回転することによって軸受内部が加圧された場合、シール22(弾性材による連結部位)が弾性変形して貫通孔22hが開口され、当該貫通孔22hから内気を排出することで、軸受内部の圧力が上昇することを抑制し、軸受の内圧を常に一定に保つことができる。この結果、例えば、シール20,22のシールリップ20l,22lが軸受内圧の上昇により、シール溝の壁部から離れてしまうことはない。
一方、例えば、回転刃側軸受2が停止することによって軸受内部が減圧された場合、同様に貫通孔22hが開口され、当該貫通孔22hから外気を流入することで、軸受内部の圧力が低下することを抑制し、軸受の内圧を常に一定に保つことができる。この結果、例えば、シール20,22のシールリップ20l,22lが軸受内圧の低下により、シール溝の壁部に吸着し、回転刃側軸受2の回転トルクが増大してしまうことはない。
【0041】
なお、本実施形態のように、駆動装置としてエンジン34(図4)が搭載された草刈機などにおいては、その駆動力(回転出力)が大きいため、例えば、回転刃側軸受2の回転トルクが増大したとしても、刈刃32の回転精度にはほとんど影響を与えず、当該回転トルクの増大による刈刃32の回転精度の悪化を最小限に抑えることができる。このため、例えば、刈刃32側(図1(b)の下側)のシール22の貫通孔22hからグリース(後述する軸受潤滑グリースなど)が回転刃側軸受2の外部へ漏洩し、当該漏洩グリースが刈刃32に付着した場合に生じる不都合などを考慮し、シール22に貫通孔22hを形成せず、当該シール22を駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)のシール20と同様の構成としてもよい。
これにより、回転刃側軸受2は、その内部が完全に密封され、軸受内に封入されたグリース(前記軸受潤滑グリースなど)の軸受外部への漏洩を確実に防止可能な構成となる。
【0042】
また、回転部材(刈刃32)に最近接して配置された転がり軸受である回転刃側軸受2には、シール20,22に加えて、軸受内部への異物(例えば、歯車潤滑グリースや塵埃など)の侵入を防止するために、環状を成す金属製の非回転スリンガー65が、ケース40の内壁40sに固定して設けられている。
【0043】
かかる非回転スリンガー65は、板状の円環部65r、並びに当該円環部65rの内径端部及び外径端部にそれぞれ連続されて延出し、相互に対向する内径側筒部65i及び外径側筒部65oで構成されており、円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65oで囲まれた環状空間を有する構造、すなわち、当該円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65oによって環状の凹状部65gが形成された構造を成している。
【0044】
この場合、円環部65rは、その外径がケース40の内壁40sの径と略同一寸法に設定され、その内径が主軸8の大径部8aの径よりも僅かに大きな寸法に設定されている。
また、内径側筒部65iは、円環部65rの内径端部(図1(b)の右端部)に連続し、略直角を成して回転刃側軸受2(より具体的には、シール20)へ向けて延出しており、その内周面(以下、スリンガ内周面という)65aを主軸8と所定間隔(同図に示す距離L1)を空けて対向させているとともに、その延出端をシール20と所定間隔を空けて対向させている。この場合、内径側筒部65iには、その外周面からスリンガ内周面65aまでを貫通する貫通孔65hが少なくとも1つ形成されており、当該貫通孔65hは、所定の大きさ及び所定の輪郭形状を成し、内径側筒部65iの周方向へ沿って所定間隔で配置されている。
【0045】
なお、貫通孔65hの数、大きさ、形状、及び配置間隔などは、非回転スリンガー65の大きさや内径側筒部65iの延出長さなどに応じて任意に設定すればよいため、ここでは特に限定しない。ただし、貫通孔65hは、後述する歯車潤滑グリースを多孔質材へ吸着させる際の導入口としての機能を考慮すれば、4つ以上形成することが好ましい。このため、本実施形態においては、一例として、内径側筒部65iに対し、その輪郭形状が円形を成す円孔が周方向に沿って等間隔(90°の位相差)で4つ形成されている場合を想定し、図1(b)に示すように、これらの貫通孔65hを内径側筒部65iの延出長さ(同図の上下方向の距離)の中間部より下側へ配置している。
【0046】
これに対し、外径側筒部65oは、円環部65rの外径端部(図1(b)の左端部)に連続し、略直角を成して回転刃側軸受2(より具体的には、外輪12の駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)の側面12c)へ向けて延出し、その外周面をケース40の内壁40sに当接させているとともに、その延出端を外輪12の側面12cと当接させている。さらに、その延出端には、非回転スリンガー65をケース40の内壁40sへ固定するために、外径側筒部65oを拡径して成る取付部65tが形成されている。かかる取付部65tは、外径側筒部65oの延出端を、その全周に亘って連続して拡径方向へ凸状に突出させて形成されており、一例として、図1(b)に示す構成においては、縦断面の輪郭形状が先細りの台形状を成して取付部65tが構成されている。
【0047】
そして、凹状部65gには、所定の多孔質材が嵌め込まれており、当該多孔質材と一体化されることで、非回転スリンガー65が構成されている。なお、以下の説明においては、凹状部65gに嵌め込まれた状態の多孔質材を便宜上、多孔質部66という。
この場合、多孔質部66を構成する多孔質材としては、いわゆる無機系吸蔵型、有機系天然系吸蔵型、有機系合成系吸蔵型、有機系合成系ゲル化型、及び有機系合成系複合型などに属する各種の素材を任意に選択して用いればよい。
【0048】
例えば、無機系吸蔵型の多孔質材としては、クレー、シリカ及びパーライトなどを用いることができる。また、有機系では、天然系吸蔵型の多孔質材として、ピートモス、綿、カポック、及びパルプなど、合成系吸蔵型の多孔質材として、ポリプロピレンマット、ポリスチレンマット、及びポリウレタン発泡体など、合成系ゲル化型の多孔質材として、金属石けん類、12−ヒドロキシステアリン酸、ベンジリデンソルビトール、及びアミノ酸類など、合成系複合型の多孔質材として、ポリノルボルネン樹脂などを用いることができる。あるいは、多孔質炭素材料であるRBセラミックなどを用いてもよい。
【0049】
その際、多孔質材は、凹状部65gの輪郭形状と略同一の形状で、当該凹状部65gに略隙間なく嵌め込むことが可能な大きさに成形すればよい。図1(b)には、その内径が凹状部65gの内径(内径側筒部65iの外径)と略同一寸法で、その外径が凹状部65gの外径(外径側筒部65oの内径)と略同一寸法に設定されるとともに、その厚さ(同図の上下方向の距離)が凹状部65gの深さ(内径側筒部65iの延出長さ)と略同一寸法に設定され、その縦断面の輪郭形状が矩形(一例として、長方形)を成す円環状に成形した多孔質材で成る多孔質部66の構成例が示されている。
【0050】
このように多孔質部66と一体構造を成した非回転スリンガー65は、外径側筒部65oに形成された取付部65tをケース40の内壁40sに当接させるとともに、内径側筒部65iの延出端、及び外径側筒部65oの延出端をシール20側(図1(b)の下側)へ向けて位置付け、ケース40の内壁40sに対して位置決め固定(一例として、すきま嵌め)されている。なお、内径側筒部65iと外径側筒部65oとは、スリンガー65がケース40の内壁40sに対して位置決め固定(すきま嵌め)された状態で、外径側筒部65oの延出端が内径側筒部65iの延出端よりもシール20に近接して位置付けられるように、その延出長さ寸法が設定されている。
【0051】
また、本実施形態においては、図1(b)に示すように、主軸8が、少なくとも非回転スリンガー65(内径側筒部65i)のスリンガ内周面65aに対向する部分(以下、対向部という)8dを、主軸8の外周よりも当該スリンガ内周面65aへ向けて所定の大きさ(同図に示す距離S2(半径値))だけ拡径して構成されている。
一例として、図1(b)に示す構成においては、対向部8dを境界にして当該対向部8dの軸方向(主軸8の延出方向、すなわち垂直方向(同図の上下方向))の上側を、所定の大きさ(同図に示す距離S2(半径値))だけ縮径させる(いわゆる肉盗みを形成する)ことで、主軸8の対向部8dを非回転スリンガー65のスリンガ内周面65aへ向けて、所定の大きさ(同図に示す距離S2(半径値))だけ突出させた構造としている。なお、この場合、対向部8dは、段差部8gを境界にして大径側、すなわち主軸8の大径部8aに設けられているため、対向部8dの軸方向の下側には、主軸8の小径部8bが設けられた構成となる。
【0052】
一方、この場合、非回転スリンガー65は、ケース40の内壁40sに固定(すきま嵌め)された状態で、円環部65rの歯車G1,G2側の面(図1(a),(b)の上面(以下、スリンガ上面という))65cを、主軸8の対向部8dの歯車G1,G2側の側面(同図の上面(以下、対向部上面という))8tよりも、所定の大きさ(図1(b)に示す距離S1)だけ軸方向(回転刃側軸受2側(同図の下側))へ凹ませて位置付けられている。別の捉え方をすれば、主軸8の対向部8dは、非回転スリンガー65がケース40の内壁40sに固定(すきま嵌め)された状態で、対向部上面8tをスリンガ上面65cよりも歯車G1,G2側(図1(b)の上側)へ距離S1だけ突出させるように構成されている。
【0053】
ここで、主軸8の対向部8dの大きさ(突出距離(図1(b)に示す距離S2)、幅など)、肉盗みの大きさなどは、非回転スリンガー65の大きさや形状などに応じて任意に設定すればよいため、特に限定しない。ただし、主軸8の対向部8と非回転スリンガー65とは、対向部上面8tがスリンガ上面65cと、少なくとも軸方向に対して同一高さ、あるいは、対向部上面8tがスリンガ上面65cよりも軸方向の上側へ位置付けられている必要がある。
【0054】
一例として、本実施形態においては、対向部8dの非回転スリンガー65のスリンガ内周面65aへの突出距離(図1(b)に示す距離S2)が約1.5mm、対向部上面8tのスリンガ上面65cに対する突出距離(図1(b)に示す距離S1)が約1mmとなるように、対向部8dの大きさを設定する(別の捉え方をすれば、肉盗みの大きさを設定する)とともに、非回転スリンガー65が位置付けられた場合を想定する。
【0055】
なお、対向部8dの幅(軸方向(図1(b)の上下方向)の寸法)は、非回転スリンガー65がスリンガー上面65cを対向部上面8tよりも所定の大きさ(一例として、図1(b)に示す距離S1)だけ凹ませた状態で位置付けられる構成である限り、対向する非回転スリンガー65のスリンガ内周面65aの幅(軸方向の寸法)、すなわち内径側筒部65iの延出長さより大きくてもよいし、小さくてもよい。また、同一寸法であってもよい。
【0056】
また、図1(b)に示す構成においては、一例として、対向部8dを対向部上面8tが全周に亘って軸方向のいずれにも傾斜しない平坦面状に形成しているが、対向部8dは、対向部上面8tを軸方向のいずれか一方側へ傾斜させた平坦面状に形成してもよい。さらに、例えば、対向部8dは、対向部上面8tを周方向へ沿って凹凸状(一例として、波形状)に連続させて形成してもよい。
【0057】
このような構成によれば、非回転スリンガー65は、主軸8、内輪10、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が回転した場合であっても、これらとともに回転することなく、非回転状態(すなわち、静止状態)のままで、スリンガ内周面65aを回転状態にある主軸8(大径部8a)の外周面(以下、対向部8dの対向面という)8sと所定間隔(図1(b)に示す距離L1)を空けて対向させることができる。また、非回転スリンガー65は、内径側筒部65iの延出端、外径側筒部65o、及びスリンガ上面65cを、回転状態にある内輪10、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2といずれも所定間隔を空けて対向させることができる。
【0058】
ここで、非回転スリンガー65の大きさは、例えば、主軸8及びケース40の形状、回転刃側軸受2の大きさなどに応じて任意に設定すればよいが、主軸8、内輪10、駆動軸歯車G1、主軸歯車G2及びシール20のいずれにも接触することなく、当該主軸8、内輪10、及び各歯車G1,G2がスムーズに回転可能な範囲で最大限の大きさとすることが好ましい。別の捉え方をすると、非回転スリンガー65は、スリンガ内周面65aと対向部8dの対向面8sとの間隔(図1(b)に示す距離L1)、並びに、スリンガ上面65c及び外径側筒部65oと駆動軸歯車G1との間隔がいずれも極力小さくなるような所定の大きさに設定することが好ましい。
【0059】
なお、図1(b)に示す構成においては、一例として、非回転スリンガー65がケース40の内壁40sに固定(すきま嵌め)された状態において、外径側筒部65oの延出端を外輪12の側面12cと当接させているが、非回転スリンガー65は、内壁40sに固定(すきま嵌め)された状態で、当該延出端を外輪12の側面12cに当接させることなく、所定の間隔を空けて近接させて位置付けてもよい。
【0060】
また、図1(a)に示す構成においては、主軸歯車G2が駆動軸歯車G1よりも主軸8の延出方向(垂直方向(同図の上下方向))の上側に位置付けられているため、非回転スリンガー65の大きさを設定する際には、スリンガ上面65c及び外径側筒部65oと駆動軸歯車G1との間隔を極力小さくすることを考慮すればよい。ただし、駆動軸歯車G1と主軸歯車G2との垂直方向への相対的な位置関係が逆の場合、すなわち、主軸歯車G2が駆動軸歯車G1よりも垂直方向の下側に位置付けられた構成の場合、スリンガ上面65cと当該主軸歯車G2との間隔が極力小さくなるように非回転スリンガー65の大きさを設定すればよい。
【0061】
一例として、本実施形態においては、スリンガ内周面65aと対向部8dの対向面8sとの間隔(図1(b)に示す距離L1)が約0.1mm、スリンガ上面65cと駆動軸歯車G1との間隔が約2mmとなるように、非回転スリンガー65の内外径寸法を設定するとともに、その厚さ(すなわち、外径側筒部65oの延出長さ(同図に示す距離L3))を約5mmに設定した場合を想定する。また、非回転スリンガー65は、外径側筒部65oの延出端が回転刃側軸受2の外輪12の側面12cと当接するように位置付けられているため、当該延出端とシール20との間隔(図1(b)に示す距離L2)は、当該外輪12の側面12cからの凹みの深さと略一致し、約0.25mmとなる。
【0062】
なお、シール20は、非回転スリンガー65と同様、主軸8、内輪10、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が回転した場合であっても、これらとともに回転しないため、非回転スリンガー65は、シール20と接触する構成であってもよい。この場合、多孔質部66の厚さ(図1(b)の上下方向の距離)をシール20に対する当該多孔質部66の対向面が当該シール20と接触可能な所定寸法に設定して、非回転スリンガー65を構成すればよい。同様に、非回転スリンガー65は、多孔質部66をシール20との対向面がシール20と接触可能な形状(例えば、シール20側へ一部突出した形状)として構成してもよい。
【0063】
ここで、非回転スリンガー65は、各種の金属製とすればよく、一例として、本実施形態においては、非回転スリンガー65が鋼製である場合を想定する。この際、非回転スリンガー65は、その具体的な材質などに応じて任意の方法で形成すればよく、その方法は特に限定されない。例えば、鋼製の薄板材を打ち抜き加工した場合、円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65o、並びに、貫通孔65h及び取付部65tを同時に一体成形することができ、非回転スリンガー65を容易に、且つ低コストに形成することが可能となる。その際、貫通孔65hは、円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65oを同時に一体成形した後、当該成形体の内径側筒部65iに対して別途穿孔加工などを施すことにより形成してもよい。また、取付部65tは、円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65oを同時に一体成形した後、当該成形体の外径側筒部65oに対して別途プレス加工などを施すことにより形成してもよい。
【0064】
なお、打ち抜き鋼板の板厚は、当該鋼板の材質などに応じて任意に設定すればよいため、ここでは特に限定しないが、打ち抜き加工時の成形寸法の精度管理を容易に行うことが可能な寸法で、成形後の非回転スリンガー65をケース40に取り付ける際(一例として、すきま嵌めする際)に変形が生じ難い寸法に設定すればよい。また、例えば、非回転スリンガー65を亜鉛メッキ鋼板製とすれば、防錆効果を高めることができる。
【0065】
また、図1(b)に示すように、本実施形態においてケース40の内壁40sには、非回転スリンガー65を取り付けるための取付部40gが設けられており、当該取付部40gは、内壁40sの全周に亘って連続して形成された凹状の溝(以下、取付溝40gという)として形成されている。この場合、一例として、取付溝40gは、ケース40の内壁40sの周方向に沿って連続して凹状に窪んだ底部と、当該底部の両端に全周に亘って連続し、内壁40s方向へ立ち上がって相互に徐々に離間して対向する一対の壁部とで成る、縦断面の輪郭形状が先太り台形状に形成されている。
【0066】
そして、かかる取付溝40gに非回転スリンガー65(外径側筒部65o)の取付部65tを係合させることで、当該非回転スリンガー65がケース40に対して固定(すきま嵌め)されている。具体的には、まず、非回転スリンガー65の外径側筒部65oに対して縮径方向へ押圧力を加え、取付部65tがケース40の径寸法と略同一の径寸法となるまで非回転スリンガー65(取付部65t)を弾性変形させる。この状態で、当該弾性変形した取付部65tが取付溝40gへ位置付けられるまで、ケース40の内壁40sに沿って非回転スリンガー65を所定方向(例えば、軸方向の下側(図1(b)の下方))から移動させる。そして、非回転スリンガー65に対して加えていた押圧力を解除し、弾性変形した取付部65tを弾性変形前の元の状態、すなわち内壁40sの径寸法よりも大きな寸法となる状態まで戻し、当該取付部65tを取付溝40gに係合させることで、非回転スリンガー65をケース40に対して嵌合固定(すきま嵌め)することができる。
【0067】
したがって、非回転スリンガー65(外径側筒部65o)の取付部65t、及びケース40(内壁40s)の取付溝40gは、取付部65tを取付溝40gに係合させて非回転スリンガー65をケース40に対して嵌合固定することが可能となるように、具体的な大きさ(凸出高さ、及び凹状窪みの深さ等)や形状などを相対的に設定して構成すればよい。その際、取付部65tと取付溝40gとは、非回転スリンガー65(外径側筒部65o)とケース40(内壁40s)との嵌め合い許容差がG6(いわゆる、すきま嵌め時の寸法公差域クラス)程度となるように、その大きさ(凸出高さ、及び凹状窪みの深さ等)や形状などを相対的に設定して構成することが好ましい。
例えば、取付部65tの形状、及び取付溝40gの形状は、上述した縦断面の輪郭が台形(先細り台形、及び先太り台形)には特に限定されず、例えば、縦断面の輪郭を相互に係合可能な矩形状や三角形状、曲線状及び略U字状などの凸部及び凹部としてもよい。
【0068】
なお、非回転スリンガー65をより確実にケース40に対して固定させる場合には、例えば、取付部65tを取付溝40gに係合させた後、当該取付部65tをプレスなどにより加締めることで、取付部65tと取付溝40gとの固着力が高められ、非回転スリンガー65をケース40に対して強固に固定することができる。
【0069】
また、図1(b)に示す構成においては、一例として、非回転スリンガー65の取付部65tを外径側筒部65oの延出端に形成しているが、取付部65tは、外径側筒部65oの円環部65rとの連続部分と、延出端との間の任意の位置(例えば、その中間部位)に形成してもよい。さらに、取付部65tの数は、1つに限定されず、外径側筒部65oに対して複数(複列)形成してもよい。その際、当該取付部65tの数に応じて、ケース40の内壁40sに対しても当該取付部65tと同数の取付溝40gを形成すればよい。加えて、取付部65tは、外径側筒部65oの全周に亘って連続して形成しなくともよく、外径側筒部65oの周方向に沿って間欠的(断続的)に形成してもよい。例えば、外径側筒部65oの延出端の周方向に沿って所定の位相差で複数個所(一例として、120°の位相差で3箇所)に間欠的(断続的)に取付部65tを形成してもよい。
【0070】
さらに、図1(b)に示す構成においては、非回転スリンガー65に加えて、板状の円環構造を成し、主軸8及び回転刃側軸受2の回転輪である内輪10とともに回転する金属製の回転スリンガー68が設けられている。この場合、かかる回転スリンガー68は、その内径を主軸8の小径部8bと略同一の径寸法に設定するとともに、その外径を多孔質部66の内径よりも大きく、当該多孔質部66の外径よりも小さな寸法に設定して構成されている。
【0071】
そして、回転スリンガー68は、その内径部を主軸8の段差部8gに当て付けるとともに、主軸8の対向部8dと回転刃側軸受2の内輪10との間に挟み込まれ、非回転スリンガー65の円環部65r、内径側筒部65i及び外径側筒部65o、並びに多孔質部66及びシール20といずれも非接触となるように、主軸8及び内輪10に対して位置決め固定されている。
【0072】
すなわち、回転スリンガー68は、その一側面(図1(b)の上側の面(以下、回転スリンガ上面という))68cを主軸8の対向部8dの回転刃側軸受2側の側面(同図の下面)と密着させる一方で、非回転スリンガー65の内径側筒部65iの延出端及び多孔質部66といずれも接触することなく、主軸8及び内輪10に対して位置決め固定されている。また、回転スリンガー68は、その他側面(図1(b)の下側の面(以下、回転スリンガ下面という))68bを内輪10の駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(同図の上側)の側面10cと密着させる一方で、シール20と接触することなく、主軸8及び内輪10に対して位置決め固定されている。さらに、回転スリンガー68は、その外周部を非回転スリンガー65の多孔質部66及び外径側筒部65o、並びに回転刃側軸受2の外輪12及びシール20といずれも接触することなく、主軸8及び内輪10に対して位置決め固定されている。
【0073】
これにより、回転スリンガー68は、非回転スリンガー65の円環部65r、内径側筒部65i、外径側筒部65o及び多孔質部66、並びに回転刃側軸受2の外輪12及びシール20といずれも接触することなく、主軸8及び内輪10とともに回転する構造となる。
【0074】
ここで、回転スリンガー68の大きさ(内径、外径及び厚さなど)は、例えば、主軸8の形状、回転刃側軸受2(内輪10)の大きさなどに応じて任意に設定すればよいが、非回転スリンガー65の円環部65r、内径側筒部65i、外径側筒部65o及び多孔質部66、並びに回転刃側軸受2の外輪12及びシール20のいずれにも接触することなく、当該主軸8及び内輪10とともにスムーズに回転可能な範囲で最大限の大きさとすることが好ましい。
なお、図1(b)に示す構成においては、回転スリンガー68が回転スリンガ下面68bを内輪10の側面10cと密着するように位置付けられているため、当該回転スリンガ下面68bとシール20との間隔(同図に示す距離L2)は、当該外輪12の側面12cからの凹みの深さと略一致し、約0.25mmとなる。
【0075】
また、回転スリンガー68は、各種の金属製とすればよく、例えば、非回転スリンガー65と同一の鋼製とすることができる。この場合、回転スリンガー68は、その具体的な材質などに応じて任意の方法で形成すればよく、その方法は特に限定されない。例えば、鋼製の薄板材を打ち抜き加工した場合、上述した非回転スリンガー65と同様の作業工程で成形することができ、回転スリンガー68を容易に、且つ低コストに形成することが可能となる。
【0076】
その際、打ち抜き鋼板の板厚は、当該鋼板の材質などに応じて任意に設定すればよいため、ここでは特に限定しないが、打ち抜き加工時の成形寸法の精度管理を容易に行うことが可能な寸法で、成形後の回転スリンガー68を主軸8及び内輪10に取り付ける際に変形が生じ難い寸法に設定すればよい。例えば、上述した非回転スリンガー65と同一の板厚に設定すれば、回転スリンガー68と非回転スリンガー65の鋼板材を共通して使用し、調達コストの削減化を図ることも可能となる。また、例えば、回転スリンガー68を亜鉛メッキ鋼板製とすれば、防錆効果を高めることができる。
【0077】
以上のような構成を成す回転刃ユニットU1において、上述した従来の草刈機Aの場合と同様に、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させるため、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該軸受2の潤滑を行っている。
【0078】
本実施形態においては、一例として、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部Sにアメリカグリース協会(NLGI:National Lubricating Grease Institute)が規定するちょう度No.2(ちょう度番号2号)のグリース(以下、歯車潤滑グリースという)が、当該空間部Sの空間容積に対して略50%、あるいは略80%の体積比となるように充填(封入)されている。
【0079】
なお、歯車潤滑グリースの充填(封入)量は、多すぎると撹拌による発熱によってグリース軟化が促進されてしまい、一方、少なすぎると空間部S内に当該グリースが十分に行き亘らず、潤滑不良となってしまう。このため、空間部Sの空間容積に対して略30〜90%の体積比となる量だけ充填(封入)することが好ましく、さらに、略50〜80%の体積比となる量だけ充填(封入)すれば、なお好ましい。この場合、かかる空間部Sの空間容積は、非回転スリンガー65及び回転スリンガー68の体積に相当する量だけ、従来の回転刃ユニットU2(図3(a))のように非回転スリンガー65及び回転スリンガー68(図1(b))が非装着の場合と比べて小さくなる。一方で、空間部Sの空間容積は、主軸8に設けた肉盗みの体積に相当する量だけ、従来の回転刃ユニットU2(図3(a))のように肉盗みが設けられていない場合と比べて大きくなる。
【0080】
また、回転刃側軸受2の内部にも、同様にNLGIちょう度No.2のグリース(以下、軸受潤滑グリースという)が充填(封入)されている。この場合、軸受潤滑グリースの充填(封入)量は、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに応じて任意に設定すればよいが、回転刃側軸受2内の空間容積に対して略25〜35%の体積比となる量だけ充填(封入)することが好ましい。
【0081】
なお、歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリースの成分構成は、例えば、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリースは、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系のグリースとして構成すればよい。また、この場合、添加剤として、極圧剤を増ちょう剤及び基油に対して添加してもよい。
【0082】
ここで、本実施形態に係る草刈機の使用状態、すなわち回転刃ユニットU1の運転時における歯車潤滑グリースの状態変化について、以下、説明する。
歯車潤滑グリースは、その自重により、並びに駆動軸38及び駆動軸歯車G1が回転するとともに、主軸8及び主軸歯車G2が回転することによる振動により、空間部Sにおいて継続的に攪拌及び剪断される。このように攪拌及び剪断が繰り返された歯車潤滑グリースは、その温度が上昇し、これに伴って軟化するとともに、熱膨張を起こす。
【0083】
この際、回転刃ユニットU1の内部(空間部S)の圧力(内圧)が上昇するため、回転刃ユニットU1の内気や空間部Sに封入された歯車潤滑グリースに対して、回転刃ユニットU1の外部方向への押圧力、具体的には、ケース40の内壁40s、主軸8及び非回転スリンガー65への押圧力が作用し、当該歯車潤滑グリースが対向部上面8t及びスリンガ上面65cに落下して接触する。
この状態において、非回転スリンガー65は静止しているが、その一方で主軸8が回転しているため、対向部上面8tに接触した歯車潤滑グリース、及びスリンガ上面65cに接触した歯車潤滑グリースに対し、当該主軸8並びに対向部上面8tの回転により生じる遠心力が作用する。
【0084】
かかる遠心力が作用された歯車潤滑グリースは、当該遠心力によって、ケース40の内壁40s、駆動軸歯車G1の表面及び主軸歯車G2の表面をそれぞれ伝って、空間部Sの上方へ移動する。そして、当該歯車潤滑グリースは、主軸8の近傍まで達した後、再度、その自重並びに前記回転による振動により、主軸8の対向部上面8t及びスリンガ上面65cに落下して接触する。この結果、歯車潤滑グリースは、空間部S内で循環されることになる。
【0085】
本実施形態においては、駆動軸歯車G1と接触することなく、当該駆動軸歯車G1との間隔を極力狭めて非回転スリンガー65を設ける(一例として、スリンガ上面65cと駆動軸歯車G1との間隔を約2mmに設定する)ことで、歯車潤滑グリースを駆動軸歯車G1に対して容易に引き込ませることができる。これにより、空間部S内において、歯車潤滑グリースの流動を活発化させる(循環を促進させる)ことができ、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となることもなく、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗することも抑制され、当該歯車G1,G2を長期に亘ってスムーズに回転させることができる。結果として、これらの歯車G1,G2の発熱も抑えられ、歯車潤滑グリースの劣化を防止することができ、当該グリースを長期に亘って駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑に寄与させることができる。
【0086】
さらに、本実施形態においては、主軸8に対向部8dを設け(別の捉え方をすれば、肉盗みを設け)、当該対向部8dの対向部上面8tを、非回転スリンガー65のスリンガ上面65cよりも距離S1だけ(一例として、約1mmに設定)軸方向の上側へ位置付けているため、歯車潤滑グリースがスリンガ上面65cに落下する以前に、対向部上面8tに落下した時点で、当該対向部上面8tの回転により生じる遠心力の作用を受けることになる。このため、空間部S内において、歯車潤滑グリースは、その大部分が対向部上面8tに接触して循環することになる。すなわち、空間部S内における歯車潤滑グリースの流動は、対向部上面8tに接触して循環する循環流が主流動となり、スリンガ上面65cに接触して循環する循環流が副流動となる。
【0087】
上述したように、歯車潤滑グリースは、草刈機の使用状態、すなわち回転刃ユニットU1の運転時において、空間部S内で活発に流動し、スリンガ上面65cへほとんど接触されることなく、循環(上述した主流動)を繰り返す。このため、歯車潤滑グリースは、スリンガ上面65c、ひいては、シール20の外面(駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側の面)に滞留(堆積)せず、当該シール20を押圧することがない。この結果、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)することを確実に防止することができる。
【0088】
また、本実施形態においては、対向部8dの対向面8sと接触することなく、当該対向面8sとの間隔を極力狭めて非回転スリンガー65を設ける(一例として、スリンガ内周面65aと対向面8sとの間隔(図1(b)に示す距離L1)を約0.1mmに設定する)ことで、当該スリンガ内周面65aと対向面8sとの間に非回転スリンガー65の内径側筒部65iの延出長さに相当する深さで空気層Lyを形成することができる。なお、この場合、非回転スリンガー65の内径側筒部65iの延出長さは、外径側筒部65oの延出長さ(非回転スリンガー65の厚さL3(一例として、5mm))よりも小さな寸法に設定されているが、その寸法差は極僅かに設定されている。
【0089】
したがって、空気層Lyの深さ(内径側筒部65iの延出長さに相当)と幅(スリンガ内周面65aと対向面8sとの間隔L1に相当)の比は、非回転スリンガー65の厚さ(外径側筒部65oの延出長さ)L3と空気層Lyの幅L1の比と近似でき、その値が十分に大きい(一例として、L3/L1=50)ため、当該空気層Lyには、主軸8の回転に伴って当該回転方向への空気流が発生する。
【0090】
このため、回転刃ユニットU1の内圧上昇により、非回転スリンガー65への押圧力が作用した場合であっても、当該押圧力を空気層Lyの空気流によって負荷する、すなわち、空気層Lyの空気流によって、押圧力に対抗可能な応力を生じさせることができ、歯車潤滑グリースが空気層Lyへ侵入することを有効に防止することができる。なお、上述したように歯車潤滑グリースが軟化し、流動しやすい状態となった場合であっても、空気層Lyの空気流を縦断すれば、縦断後の歯車潤滑グリースは、シール20のシールリップ20lと内輪10のシール溝との摺接部をすり抜けるほどの押圧力を有しない。これにより、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部にまで漏洩(侵入)することを、確実に防止することができる。
【0091】
さらに、本実施形態においては、非回転スリンガー65が多孔質部66を有した構造となっているため、仮に、上述したように歯車潤滑グリースが軟化し、流動しやすい状態となって空気層Lyに侵入した場合であっても、当該歯車潤滑グリースを非回転スリンガー65の内径側筒部65iに形成された貫通孔65hから多孔質部66へ吸着させることができる。
【0092】
なお、軟化した歯車潤滑グリースを貫通孔65hから多孔質部66へ吸着し切れず、当該歯車潤滑グリースが空気層Lyを縦断した場合であっても、縦断後の歯車潤滑グリースは、回転スリンガー68の回転スリンガ上面68cに落下して接触する。回転スリンガ上面68cに落下した歯車潤滑グリースは、回転スリンガー68の回転により生じる遠心力の作用を受け、当該回転スリンガ上面68cの上を外径方向へ流動し、多孔質部66へ導かれることになる。この結果、歯車潤滑グリースが空気層Lyを縦断したとしても、当該歯車潤滑グリースを確実に多孔質部66へ吸着させることができる。これにより、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部にまで漏洩(侵入)することを、さらに確実に防止することができる。
【0093】
また、この場合、回転スリンガー68は、回転スリンガ下面68bとシール20との間隔を極力狭めた(一例として、図1(b)に示す距離L2を略0.25mmに設定した)状態で、当該シール20のシールリップ20lを覆うように設けられているため、歯車潤滑グリースがシールリップ20lを直接押圧することはなく、シールリップ20lと内輪10のシール溝との摺接部に直接接触することもない。この結果、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)することをさらに有効に防止することができる。
【0094】
ここで、空気層Lyの深さ(L3)と幅(L1)の比(L3/L1)は、小さすぎると前記回転刃ユニットU1の内圧上昇による押圧力を空気流によって十分に負荷することができず、歯車潤滑グリースの当該空気層Lyへの侵入を十分に防止することができないため、空間部Sの空間容積などに応じて、可能な限り大きく設定することが好ましい。本実施形態においては、歯車潤滑グリースの空気層Lyへの侵入防止効果を考慮し、上述したように空気層Lyの深さ(L3)と幅(L1)の比(L3/L1)を50に設定している。別の捉え方をすれば、厚さL3、並びにスリンガ内周面65aと対向部8dの対向面8sとの間隔L1との比(L3/L1)が50となるように、非回転スリンガー65を構成するとともに、空間部S内に位置付けている。
【0095】
また、上述したように、本実施形態によれば、回転刃ユニットU1の運転中、歯車潤滑グリースが空間部S内で活発に流動(上述した主流動)し、循環されることで、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑が促進され、これらの歯車G1,G2を長期に亘って良好な潤滑状態に維持することができる。さらに、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)することを防止できるため、回転刃ユニットU1の運転中、回転刃側軸受2は、長期に亘って良好な潤滑状態に維持され、精度よく回転し続けることができる。
【0096】
加えて、上述したように、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)に位置するシール20には、その外径部及び内径部のいずれにも、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔(シール22に形成された貫通孔22hに相当する貫通孔)が設けられていないため、かかる貫通孔から歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)し、軸受潤滑グリースと混合してしまうような不都合は全く生じない。
【0097】
以上のように、本実施形態に係る回転刃ユニットU1によれば、回転刃側軸受2の歯車G1,G2側へ常時静止し、多孔質部66と一体構造を成す非回転スリンガー65を設けるとともに、回転スリンガー68を設け、非回転スリンガー65に対して拡径・拡幅した対向部8d(肉盗み)を主軸8に設けることで、その内部(例えば、空間部S及び回転刃側軸受2の内部)に封入したグリースの外部への漏洩を確実に防止することができる。これにより、回転刃ユニットU1の潤滑状態が良好に維持され、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の摩耗や、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付きなどが長期に亘って発生することなく、回転部材である刈刃32を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
【0098】
なお、上述した第1実施形態においては、非回転スリンガー65と回転スリンガー68の2つのスリンガーを設けて回転刃ユニットU1を構成したが、図2に示す本発明の第2実施形態に係る回転刃ユニットU11のように、回転スリンガー68を省略し、非回転スリンガー65のみを設けた構成としてもよい。
【0099】
かかる回転刃ユニットU11においては、軟化した歯車潤滑グリースが空気層Lyを縦断した場合、第1実施形態のように回転スリンガー68によって歯車潤滑グリースを積極的に多孔質部66へ導き、吸着させる効果はないものの、上述した第1実施形態と同様に、空気層Lyの空気流によって歯車潤滑グリースが当該空気層Lyへ侵入することを有効に防止することができるとともに、当該歯車潤滑グリースを非回転スリンガー65の内径側筒部65iに形成された貫通孔65hから多孔質部66へ吸着させることができる。
【0100】
すなわち、第2実施形態にかかる回転刃ユニットU11によれば、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部にまで漏洩(侵入)することを十分に防止することができるとともに、回転スリンガー68(図1(b))の加工や取り付けなどに相当するコストを低減させることができ、回転刃ユニットU11及び草刈機を低コスト化することができる。
なお、この場合、回転スリンガー68以外の部材構成は、上述した第1実施形態に係る回転刃ユニットU1と同様とすればよいため、図面中で同一の符号を付してこれらの説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1実施形態に係る回転刃ユニットの構成例を示す図であって、(a)は、断面図、(b)は、回転刃側軸受に設けた非回転スリンガー及び回転スリンガーの構成例を示す断面図。
【図2】本発明の第2実施形態に係る回転刃ユニットの回転刃側軸受に設けた非回転スリンガーの構成例を示す断面図。
【図3】従来の回転刃ユニットの構成例を示す図であって、(a)は、断面図、(b)は、回転刃側軸受の構成例を示す断面図。
【図4】従来の草刈機の全体構成例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0102】
2 回転刃側軸受
4 歯車側軸受
8 主軸
8d 対向部
10 内輪
12 外輪
20,22 シール
32 刈刃
34 エンジン
36 駆動軸
65 非回転スリンガー
65h 回転孔
66 多孔質部
68 回転スリンガー
G1 駆動軸歯車
G2 主軸歯車
L1 非回転スリンガー−主軸間距離
L2 非回転スリンガー−シール間距離
L3 非回転スリンガー厚さ
S1 対向部拡幅距離
S2 対向部突出距離
Ly 空気層
U1 回転刃ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延出して立設された主軸と、相対回転可能に対向配置された静止輪及び回転輪を具備して当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備えた回転部材支持ユニットであって、
少なくとも回転部材に最近接して配置された転がり軸受に対し、その内部への異物の侵入を防止するために、環状を成す金属製の非回転スリンガーが静止輪の歯車側の側面に接触あるいは近接して設けられているとともに、その内部を密封するための環状を成す少なくとも一対の密封部材が、転動体を挟んで静止輪と回転輪との間に介在され、主軸は、少なくとも前記非回転スリンガーの内周面に対向する部分を、当該主軸の外周よりも当該非回転スリンガーの内周面へ向けて拡径して構成されており、
前記非回転スリンガーは、板状の円環部、並びに当該円環部の内径端部及び外径端部にそれぞれ連続されて延出し、相互に対向する内径側筒部及び外径側筒部で構成され、且つ、当該円環部、内径側筒部及び外径側筒部で囲まれた環状空間に多孔質材が嵌め込まれ、当該多孔質材と一体化された構造を成し、前記内径側筒部を前記主軸の対向部分と所定間隔を空けて対向させているのに対し、前記外径側筒部を前記ケースの内壁に当接させ、当該内径側筒部の延出端、及び外径側筒部の延出端を前記密封部材側へ向けて固定され、前記転がり軸受の回転輪及び前記歯車といずれも非接触となるように位置付けられることで、常に静止状態に維持されており、この状態で、前記円環部を前記主軸の対向部分の歯車側の側面よりも、所定の大きさだけ軸方向へ凹ませていることを特徴とする回転部材支持ユニット。
【請求項2】
前記非回転スリンガーの内径側筒部には、少なくとも1つの貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転部材支持ユニット。
【請求項3】
前記回転部材に最近接して配置された転がり軸受には、前記非回転スリンガーに加えて、板状の円環構造を成し、前記主軸及び当該転がり軸受の回転輪とともに回転する金属製の回転スリンガーが設けられており、当該回転スリンガーは、前記非回転スリンガーの円環部、内径側筒部及び外径側筒部、並びに前記多孔質材及び前記密封部材といずれも非接触となるように、前記主軸及び回転輪に対して位置決め固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転部材支持ユニット。
【請求項4】
主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転部材支持ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−161177(P2008−161177A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123023(P2007−123023)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】