説明

回転電機の固定子および巻線

【課題】高密度で放熱機能の高いコイル構造を有する回転電機の固定子を提供する。
【解決手段】回転電機の固定子において、分割コア11のティース部15には、被覆層13を介して、コイル12が巻き付けられている。コイル12は、断面形状が六角形または四角形の線材12aと、線材12を被覆するコイル絶縁膜12bとを有している。コイル絶縁膜12bは、BNなどの無機絶縁フィラーを含有した樹脂によって構成されていて、放熱機能の高いコイル構造となっている。被覆層13もフィラーを含有した樹脂によって構成され、より放熱機能の高い分割コア11となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアにコイルを巻き付けてなる回転電機(モータや発電機)の固定子および巻線の構造に係り、特にコイル構造の高密度化や放熱機能向上対策に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電気機器、電気自動車,ハイブリッド車,ロボットなどの新技術の進展に伴い、それらに用いられる回転電機(モータや発電機)に要求される性能が高度化してきている。たとえば、産業用モータ、電気自動車やハイブリッド車などにおいては、大電流を流すことや省スペース化が求められている。その結果、回転電機の作動時に発生する導体発熱がコイルの放熱を上回り、コイルが高温となって、コイルを被覆する絶縁材料の熱劣化を招くおそれがある。
【0003】
たとえば、特許文献1には、回転電機の固定子のスロット領域に巻き付けられるコイルとして、導電性線材の表面に、四三酸化鉄、水酸化アルミニウム、タルク、バリウム化合物、二酸化珪素、アルミナ、炭酸カルシウム、合成雲母、クレー、酸化チタン、などを充填した絶縁塗料の塗布焼き付けによる絶縁膜を設けることにより、耐コロナ性と熱伝導性の向上を図ることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−204823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術においては、スロット領域におけるコイル構造が開示されておらず、コイル構造を高密度化するための、導電性線材の構造と、絶縁膜の特性との関係を十分解明できていない。そのために、特許文献1の技術では、さらなる大電流化と省スペース化には対応が困難である。
【0006】
本発明の目的は、スロット領域におけるデッドスペースをできるだけ低減しつつ、放熱性を向上させる手段を講ずることにより、コイル構造の高密度化と大電力化とに適した回転電機の固定子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回転電機の固定子は、コアに巻き付けられたコイル部材として、導電性の線材と、この線材を被覆するフィラー含有樹脂層を有する絶縁膜とを有し、断面形状が六角形または四角形のコイル部材を設けたものである。
【0008】
これにより、断面形状が六角形または四角形のコイル部材を積層して得られるコイル構造は、熱伝導を妨げる空気層などの隙間がほとんどない状態であり、高密度化されて、省スペースを図ることができる。反面、隙間がほとんどなくなったことで、大電流が流れると単位面積当たりの発熱量も増大するが、高熱伝導のフィラー含有樹脂からなる熱伝導性の高い絶縁膜を介して速やかに外部に熱が放出されるので、コイル温度の過上昇を防ぐことができる。その他、例えば導電性線材の断面形状が円形であっても、コイル絶縁膜の断面の外形が六角形または四角形で、コイル部材全体の断面形状が六角形または四角形となるので、同じ作用により、高放熱性を発揮することができる。
【0009】
コアの壁面上に形成されたフィラー含有樹脂からなる被覆層をさらに備え、コイル部材が被覆層の上に巻き付けられていることにより、コイルの熱が絶縁膜−被覆層を通って、いっそう速やかに外部に放出されることになる。
【0010】
コイル部材が巻き付けられている下地面が、コイル部材の最下層の輪郭に倣った凹凸模様を有していることによっても、同様の作用効果が奏される。下地面は、インシュレータまたは被覆層のいずれの表面でもよい。
【0011】
フィラーが、BN,SiC,AlN,Al,SiN,SiO,MgO,ZnO,TiOのうちから選ばれる材料であることにより、絶縁膜の熱伝導率を確実に高く維持することができる。
【0012】
コイル絶縁膜の熱伝導率は、0.3(W/m・K)以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回転電機の固定子によると、コイルで発生した熱の放出機能が高く、かつ、無駄なスペースが削減された高密度のコイル構造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、実施の形態における回転電機(モータや発電機)の固定子10の概略的な構造を示す断面図である。同図に示すように、固定子10は、複数の分割コア11を環状に組み合わせた後、図示しないリング部材等を用いて外側から囲み込んで組み立てられる。固定子10の内方には、永久磁石を設けたロータ(図示せず)が配置される。分割コア11のバックヨーク側フランジ部11aの内側面と、ロータ側フランジ部11bの内側面と、その間の底面とを含む部分をティース部15といい、被覆層13を介しティース部15によって囲まれる領域(スロット領域Rsl)は、コイル12が巻き付けられる領域である。スロット領域Rslは、一般には台形または長方形である。本実施形態では、コアとして分割コア11を集合させたものを用いているが、コアが分割されずに一体化されたものであってもよい。
【0015】
図2は、分割コア11のスロット領域Rslを拡大して示す部分断面図である。同図に示すように、本実施の形態においては、コイル12は、断面がほぼ正六角形の銅合金からなる導電性の線材12aと、線材12の表面を被覆するフィラー含有樹脂からなるコイル絶縁膜12bとを有している。また、分割コア11のスロット領域Rslを囲むティース部15の壁面には、フィラー含有樹脂からなる被覆層13が形成されていて、コイル12は被覆層13の上に巻き付けられている。図2には断面形状が六角形のコイル12が示されているが、これに代えて、断面形状が正方形のコイルを用いてもよい。また、線材12aの断面形状が円形でも、コイル絶縁膜12bの断面の外形が六角形または四角形として、コイル12の断面形状を六角形または四角形としてもよい。これにより、製造コストを安価に維持しつつ、放熱機能の向上を図ることができる。
【0016】
一般的な構造の固定子では、インシュレータを介してコイル12が巻き付けられている。インシュレータは、電気絶縁性を確保することを主目的として設けられるものであるが、同時にこれに巻き付けられるコイル12を保護する機能も有している。一方、本実施の形態では、インシュレータは装着されておらず、インシュレータに比べて非常に厚さの薄い被覆層13を介して分割コア11にコイル12が巻き付けられている。このため、一般的なティース部の形状では、コイル12を傷めるおそれがある。これを回避するため、本実施の形態では、ティース部15の隅部15aを曲面状に形成し、隅部15aでコイル12が傷むのを防止している。このように、インシュレータを装着しないことにより、占積率の向上を図ることができる。ただし、例えば高熱伝導の樹脂やフィラー含有樹脂からなるインシュレータを備えていてもよい。
【0017】
図3は、図2に示すIII−III線における断面図である。同図に示すように、コイル12が巻き付けられるティース部15の断面の角部15bも大きな曲率半径を有する曲面状に形成されており、これに巻き付けられるコイル12が傷むのを防止している。また、この実施の形態では、ティース部15の外面を段付き状に形成することにより、これに巻き回されるコイル12を隙間なく配列させ、占積率を向上させることができるように構成している。
【0018】
コイル絶縁膜12bは、樹脂材料を溶媒に溶かした樹脂溶液に高熱伝導性を有するフィラーを配合して被覆材を形成したものである。樹脂材料としては、耐熱性の高いポリウレタン,ポリエステル,ポリエステルイミド,ポリアミドイミド,ポリイミド等の熱硬化性樹脂が適しており、これらの樹脂から適宜選択することができる。たとえば、樹脂材料として、ポリアミドイミド塗料HI−406(日立化成工業社製)、ポリイミド塗料Pyre−ML(Industrial Summit Technology 社製)を採用することができる。
【0019】
フィラーとしては、BN,SiC,AlN,Al,SiN,SiO,MgO,ZnO,TiOなどがあり、これらの無機絶縁材料から適宜選択して用いることができる。たとえば、BNの熱伝導率は約210(W/m・K)であり、SiCの熱伝導率は約270(W/m・K)であり、AlNの熱伝導率は約170(W/m・K)であり、樹脂材料の熱伝導率(0.2W/m・K前後)よりも極めて高い。また、Alの熱伝導率は約36(W/m・K)であり、BN等に比べると低いが、価格が安いので、フィラーを混入させるための製造コストの増大を抑制することができる利点がある。
【0020】
コイル12の線材12aの表面には、コイル絶縁膜12b以外の膜が形成されていてもよい。線材12aとコイル絶縁膜12bとの密着性の改善や、コイル絶縁膜12bと接触する部材との摩擦係数改善の目的などのために、他の膜が形成されていてもよいものとする。また、コイル12は、単線巻きされたものであってもよいし、複数の並列接続される電線を巻き付けた構造のものであってもよい。
【0021】
インシュレータに代わる被覆層13の材料は、コイル絶縁膜12bと同じでもよいし、異なっていてもよい。少なくともコイル12で発生する温度に対する耐熱性を備えているものを採用すればよく、たとえば、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂等を採用できる。具体的には、樹脂材料として住友スリーエム社製のジェット・メルト接着材のハイメルトシリーズ7375等を採用し、これにBN,アルミナ、シリカ等のフィラーを配合して、被覆層13を構成することができる。
【0022】
本発明によると、コイル絶縁膜12bが高い熱伝導性を有しているため、コイル12の最上層から最下層に亘って、線材12aおよびコイル絶縁膜12bを通過する放熱機能の高い放熱路が形成されている。これにより、コイル12の温度が過上昇するのを防止することができる。しかも、コイル12の断面形状が六角形または四角形であるので、断面形状が円形のコイルのように、熱伝導率の悪い空気層(隙間)がほとんど存在しない。よって、従来のような単に熱伝導性のよいコイル絶縁膜を設けた構造からは予想し得ない高い放熱機能を有している。特に、図2に示されるように、六角形または四角形のコイル部材を整然と積層することにより、適用することにより、コイル部材間の接触面積が増大して熱伝達率が向上し、さらなる放熱機能の向上を図ることができる。
【0023】
本実施の形態では、分割コア11のティース部15を覆う被覆層13を設けたが、被覆層13に代えてインシュレータを設けてもよい。インシュレータを構成する樹脂材料としては、例えばPPS、LCPなどがあり、樹脂中に熱伝導性向上のためのフィラーを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。いずれの場合であっても、上述の放熱機能の向上効果を発揮しうる。
【0024】
(第1の実施例)
図4は、第1の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。なお、この図では、理解を容易にするため、被覆層13の厚さを大きく表している。同図に示すように、本実施例では、最下層のコイル12が被覆層13に一部埋没した状態で保持されている。
【0025】
本実施例の製造工程では、コイル12として、たとえば1.0mm径の断面六角形の軟導線(線材12a)の表面に、ポリアミドイミド塗料HI−406(日立化成工業社製)に対して、20(vol%)のBNフィラーUHP−SI(昭和電工社製、平均粒径1〜2μm)が配合された塗料を塗布・焼き付けして、厚さ32μm程度のコイル絶縁膜12bを形成する。可撓性,摩擦係数などの特性改善の目的で、コイル絶縁膜12bの内層または外層として、熱伝導性向上のためのフィラーを含まない樹脂からなる絶縁膜を形成してもよい。また、コイル絶縁膜12b自体が、熱伝導性向上のためのフィラーを含まない樹脂からなる絶縁膜を有していてもよい。
【0026】
また、分割コア11のティース部15の表面に、ハイメルトシリーズ7375に対して20(vol%)のBNフィラーUHP−SI(昭和電工社製、平均粒径1〜2μm)が配合された塗料を塗布・焼き付けして、厚さ50μm程度の被覆層13を形成する。
【0027】
コイル12は、被覆層13が完全に硬化してから巻き付けることもできるし、被覆層13が完全に硬化しない状態でコイル12を巻き付けることもできる。被覆層13が完全に硬化しない状態でコイル12を巻き付けることにより、コイル12が被覆層13を介して分割コア11に接着固定されるため、コイル12の変形や移動をより確実に阻止することができる。また、コイル絶縁膜12bが傷むのを防止することもできる。
【0028】
本実施例によると、このように、フィラーを含有した熱伝導性のよい被覆層13が設けられているので、コイル12の最上層から最下層に亘って、線材12aおよびコイル絶縁膜12bを通過した後、被覆層13を経て分割コア11に達する放熱機能の高い放熱路が形成されることになる。よって、さらなる放熱機能の向上を図ることができる。
【0029】
しかも、被覆層13は、樹脂をベースとしているため、硬化後にコイルを巻き付けた場合であっても、ある程度は弾性あるいは塑性変形することができる。特に、被覆層13が完全に硬化しない状態でコイル12を巻き付けることにより、コイル12が被覆層13を介して分割コア11に接着固定される。このため、上述のように最下層のコイル12の一部が被覆層13に食い込んだ状態となっている。断面形状が円形のコイルとは異なり、断面形状が六角形または四角形のコイルの場合、上層のコイルを巻き付ける際に、下層のコイルに大きな曲げモーメントが作用して、その回転や移動により巻崩れが生じるおそれがある。それに対し、本実施例では、最下層のコイル12の一部が被覆層13に食い込んだ状態となっているので、次々とコイル12を積層していく際に、下層のコイルに曲げモーメントが作用しても、最下層のコイル12の回転や移動が被覆層13によって妨げられるので、断面六角形または四角形でありながら巻崩れが生じにくいという著効を発揮することができる。
【0030】
また、最下層のコイル12の一部が被覆層13に食い込んだ状態となっていることから、被覆層13に対するコイル12の接触面積が増加して、放熱機能が益々向上する。しかも、被覆層13は、厚さが従来のインシュレータに比べて極めて小さいため、熱伝導性は格段に高まる。
【0031】
(第2の実施例)
図5は、第2の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。同図に示すように、本実施例では、被覆層13は、最下層のコイル12に対接する外層13Aと、分割コアのティース部15の表面に形成される内層13Bとを有している。外層13Aは、コイル12に接触しており、少なくとも最下層のコイル12から作用する圧力を支持できるように構成されている。なお、外層13Aは、圧力を支持してコイル12を保持できればよく、ある程度の変形は許容される。一方、内層13Bは、外層13Aよりより高い機械的強度を備え、コイル12が、分割コア11の表面に接触するのを阻止できるように形成されている。
【0032】
無機材料からなるフィラーは、樹脂に比べて変形能が低いため、フィラーの割合が増加するほど、被覆層13の硬度も高くなる。また、フィラーの添加量が増加するほど、熱伝導性及び電気絶縁性も高くなる。したがって、内層13Bの形成材料に対する無機フィラーの配合割合を、外層13Aの形成材料の配合割合より多くすることによって、内層13Bの機械的強度を高めることができる。一方、フィラーの添加量があまりに多いと、脆性が出現してクラック等が生じやすくなる。また、硬度が大きくなると、コイルを傷める恐れも生じる。
【0033】
本実施例では、上記の現象を緩和するため、内層13Bよりフィラーの配合割合を少なくした外層13Aを形成している。外層13Aは、フィラーの配合量が少ないため、内層13Bに比べて変形しやすいので、最下層のコイル12の形状によく馴染み、第1の実施例と同様の効果を発揮することができる。接触面積が増加して密着性が高まる。この結果、被覆層全体としての熱伝導性を高めることができる。
【0034】
製造工程では、内層13Bを硬化させてから、外層13Aの材料を塗着し、これが硬化しない間にコイル12を巻き付けることにより、外層13Aを介してコイル12が分割コア11に接着固定されることになる。これにより、最下層のコイル12が分割コア11に固着されるので、上述のような放熱機能の向上効果と、コイル12の巻崩れ防止効果とを確実に発揮することができる。
【0035】
外層13Aと内層13Bの機械的強度は、フィラーの配合量を変えるばかりでなく、異なる種類の樹脂材料を用いて調整することができる。たとえば、内層13Bに、外層13Aに採用される樹脂材料より硬度や機械的強度の高い樹脂材料を採用すればよい。
【0036】
なお、第1および第2の実施例において、被覆層13として、無機質焼成層を採用することもできる。無機質焼成層は、分割コア11の表面に無機質材料を焼成付着させて成形されるものである。無機質焼成層を構成する材料として、たとえば、炭化ケイ素や窒化ケイ素等の絶縁性セラミックあるいは結晶ガラスセラミック等を採用することができる。その場合、無機焼成層からなる被覆層13の表面形状を、最下層のコイル12の輪郭に合致させておくことにより、放熱機能の向上効果と、コイル12の巻崩れ防止効果とを併せて発揮することができる。
【0037】
また、セラミック焼成層は分割コア11を構成する金属より硬度が高く、また、熱膨張係数は小さい。このため、境界層で熱応力が発生するおそれがある場合には、分割コア11の表面と焼成層からなる被覆層13との間に軟質金属等の応力緩和層を設けることができる。
【0038】
(第3の実施例)
図6は、第3の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。同図に示すように、本実施例では、分割コア11のティース部15の表面に、コイル12の断面形状に対応した凹凸模様を設け、この凹凸模様の表面に、ほぼ均一な厚さの被覆層13Cを設けている。この構成を採用することにより、最下層のコイル12,被覆層13および分割コア11を、隙間なく固定することができるので、放熱機能の向上効果と巻崩れ防止効果とを併せて発揮することができる。
【0039】
なお、分割コア11の凹凸模様は、種々の手法を用いて形成することができる。たとえば、金属粉体を焼結して形成されるコアを採用するのであれば、粉体の成形段階で付加することができる。また、成形後に機械加工等で凹凸模様を形成することもできる。
【0040】
(測定例)
図7は、熱伝導率の測定に際し、採用したレーザフラッシュ法の原理を示す図である。同図に示すように、両面にカーボンコートを施した円板試料を作成した。円板試料は、フィラーとしてBNフィラーUHP−SI(昭和電工社製、平均粒径1〜2μm)を含有したポリアミドイミド塗料HI−406(日立化成工業社製)によって構成されている。そして、一方の面からレーザフラッシュ光を照射し、他方の面に取り付けた熱電対によって、温度上昇を測定した。さらに、この温度上昇幅から試料の熱伝導率を求め、周知の金成の式から定まるフィラー含有樹脂の熱伝導率との比較対照を行なった。
【0041】
レーザフラッシュ法を用いた場合、試料の熱拡散率をαとし、試料の密度をρとし、試料の比熱をCpとしたときに、熱伝導率λは、下記式(1)
λ=α・ρ・C (1)
によって表される。一方、温度上昇幅をθとし、θの最大値をθmとし、試料厚さをLとし、フラッシュ照射開始から測定までの経過時間をtとすると、熱拡散率αは、下記式(2)
θ=θ[1+2Σn=1〜∞{(−1)
exp(−n・π・α・t/L)}] (2)
から求められる。すなわち、試料の温度上昇幅θを測定することにより、
試料の熱伝導率がわかることになる。
【0042】
金成の式は、周知の通り、フィラーの体積充填率をφとし、コンパウンド(試料)の熱伝導率をλcとし、フィラーの熱伝導率をλfとし、分散媒体(樹脂)の熱伝導率をλrとし、フィラーの形状パラメータをXとすると、下記式(3)
1−φ=(λ−λ)/(λ−λ)・(λ1/(1+X) (3)
から、試料の熱伝導率λcが求められる。ただし、フィラーの形状パラメータXは、BN系の実測値から約2.82と求められている。
【0043】
図8は、金成の式による理論値(曲線)と、実験値(○,△)とを比較したグラフである。同図において、横軸はフィラーの配合量(vol%)を表し、縦軸は熱伝導率(W/m・K)を表している。実験値の○印で示される熱伝導率は20°Cにおける値であり、実験値の△印で示される熱伝導率は200°Cにおける値である。同図に示すように、理論値と実験値とは極めて近似しており、実験の精度がよいことがわかる。
【0044】
図8からわかるように、樹脂単独の熱伝導率は、約0.25(W/m・K)であるが、フィラーの配合量が増すにつれて熱伝導率が向上し、フィラーの配合量が20(vol%)になると、熱伝導率は0.55(W/m・K)程度まで高くなる。よって、本発明のフィラー含有樹脂からなるコイル絶縁膜や被覆層により、分割コア11の放熱機能が向上することがわかる。特に、熱伝導率が0.4(W/m・K)以上であることにより、本発明の効果を確実に発揮することができる。
【0045】
なお、コイル絶縁膜12aの場合、コイル12の可撓性、耐ヒートショックを考慮すると、20(vol%)程度の含有量が上限に近い。ただし、フィラーの種類、樹脂の種類によって上限値は異なるので、20(vol%)以下でなければならないわけではない。
【0046】
(他の実施の形態)
上記開示された本発明の実施の形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【0047】
図2および図4〜図6に示す断面形状が六角形のコイル12に代えて、断面形状が四角形(ほぼ正方形)のコイルを用いてもよい。その場合にも、ほぼ隙間のないコイル構造が得られるからである。断面形状がほぼ正方形のコイルの場合、2辺が分割コア11の表面に平行である巻き方が通常であるが、各辺が分割コア11の表面に対して約45°傾いていても、図4〜図6に示す構造および製造方法を採用することにより、巻崩れを確実に防止することができる。
【0048】
本発明の実施の形態においては、インシュレータに代えてティース部15を覆う被覆層13を設けたが、被覆層13は必ずしも設けなくてもよい。線材12aをフィラー含有のコイル絶縁膜12bで被覆してなる,断面形状が六角形または四角形のコイル12を備えているだけでも、分割コア11、ひいては回転電機の固定子の放熱機能が向上するからである。
【0049】
図2,図4に示す構造において、コイル12の下地が、被覆層13ではなく、熱伝導性改善のためのフィラーを含んでいない樹脂からなるインシュレータであってもよい。その場合にも、図4に示す被覆層13に代わるインシュレータの表面(コイル12の下地面)が、最下層のコイル12の輪郭に倣った凹凸模様を有していることにより、断面形状が六角形または四角形のコイル12の巻崩れを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の回転電機の固定子は、産業用モータ、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車,ロボットなどに配置されるモータや発電機に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施の形態における回転電機の固定子の概略的な構造を示す断面図である。
【図2】実施の形態における分割コアのスロット領域を拡大して示す部分断面図である。
【図3】図2に示すIII−III線における断面図である。
【図4】第1の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。
【図5】第2の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。
【図6】第3の実施例に係るコイルおよび被覆層の構造を示す断面図である。
【図7】熱伝導率の測定に際し、採用したレーザフラッシュ法の原理を示す図である。
【図8】金成の式による理論値(曲線)と、実験値(○,△)とを比較したグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10 固定子
11 分割コア
11a バックヨーク側フランジ部
11b ロータ側フランジ部
12 コイル
12a 線材
12b コイル絶縁膜
13 被覆層
13A 外層
13A 内層
13C 被覆層
15 ティース部
15a 隅部
15b 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気材料を主成分として構成されたコアと、
前記コアに巻き付けられたコイル部材とを備えた回転電機の固定子であって、
前記コイル部材は、
導電性の線材と、
前記線材を被覆するフィラー含有樹脂層を有するコイル絶縁膜と
を有していて、
断面形状が六角形または四角形である、回転電機の固定子。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機の固定子において、
前記コアの壁面上に形成されたフィラー含有樹脂からなる被覆層をさらに備え、
前記コイル部材は、前記被覆層の上に巻き付けられている、回転電機の固定子。
【請求項3】
請求項1または2記載の回転電機の固定子において、
前記コイル部材が巻き付けられている下地面は、前記コイル部材の最下層の輪郭に倣った凹凸模様を有している、回転電機の固定子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の回転電機の固定子において、
前記コイル絶縁膜のフィラーは、BN,SiC,AlN,Al,SiN,SiO,MgO,ZnOおよびTiOのうちから選ばれる材料である、回転電機の固定子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の回転電機の固定子において、
前記コイル絶縁膜の熱伝導率は、0.3(W/m・K)以上である、回転電機の固定子。
【請求項6】
導電性の線材と、
前記線材を被覆するフィラー含有樹脂層を有する絶縁膜と
を備え、
断面形状が六角形または四角形である、巻線。
【請求項7】
請求項6記載の巻線において、
前記コイル絶縁膜のフィラーは、BN,SiC,AlN,Al,SiN,SiO,MgO,ZnOおよびTiOのうちから選ばれる材料である、巻線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−125277(P2008−125277A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307777(P2006−307777)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】