説明

回転電機

【課題】ベルトによりエンジンに連結され、発電動作と駆動動作との何れをも行うことができ、しかもベルトの張力変動を抑えことができる回転電機を提供する。
【解決手段】ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記エンジンと前記回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とするように前記回転電機の界磁電流に基づいて制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構を備えた回転電機に関するものである
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの燃費改善のためのアイドル回転数の低下や燃料の直噴化、サーペンタイン方式の補機レイアウト等により、エンジンと回転電機との間に設けられるベルトに掛かるトルク変動が増加する傾向にある。従来、特に、ベルトを介して回転電機によりエンジンを駆動して始動する場合には、ベルトの滑り防止のため、ベルトの張力を強くしておくことが一般的である。又、エンジン補機を繋げるベルトの負荷増大に対する対策として、回転電機のプーリ部にエンジンからのトルクのみを伝える一方向クラッチを内蔵し、エンジンの回転変動によるベルトの張力変動を抑制することが行われている。
【0003】
又、従来、発電機としての機能と電動機としての機能の双方を備えた回転電機を車両に搭載し、停止中のエンジンの始動やアイドリングストップからのエンジンの再始動を行う場合には、回転電機を電動機として駆動動作をさせてエンジンの始動を行ない、エンジンが動作している時には、回転電機を発電機として発電動作をさせてバッテリーの充電等を行なうことが提案されている。この様に、1つの回転電機によりエンジンの始動と発電と
を行なわせる場合、双方の動作において必要とされる特性が異なるため、回転電機とエンジンとの間にトルク伝達機構を搭載し、回転電機の動作状態に応じて、トルク伝達機構によるエンジンと回転電機との接続状態を電磁クラッチにより切り換えるようにした装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に示された従来の回転電機は、トルク伝達機構として遊星歯車機構を使用し、回転電機の駆動動作時と発電動作時のエンジンと回転電機の変速比を換えるようにし、大型化せずに特性を最適化するものである。
【0005】
他方、特許文献2に示された従来の動力伝達装置は、回転電機からのトルクを伝達する一方向クラッチを持つ第1のトルク伝達部と相互にトルクを伝達する第2のトルク伝達部とから構成されたトルク伝達機構を用い、エンジンの始動と回転アシスト動作を行なう回転電機の駆動動作と、発電を行なう回転電機の発電動作とに応じて、第1のトルク伝達部と第2のトルク伝達部とを切り換えるようにしたものであり、小形且つ安価な構造を得るものである。
【0006】
【特許文献1】特開2001−298900号公報
【特許文献2】特開2004−122925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回転電機のプーリ部にエンジンからのトルクのみを伝える一方向クラッチを内蔵し、エンジンの回転変動によるベルトの張力変動を抑制するようにした従来の装置の場合、回転電機からのトルクをエンジンに伝えることができないため回転電機によりエンジンを始動することができず、従がって、発電機機能と電動機機能とを備えた回転電機には使用することができなかった。
【0008】
又、特許文献1及び特許文献2に示された従来の装置の場合、回転電機とエンジンと間に夫々トルク伝達機構を備え、回転電機の発電動作時と駆動動作時とに対応して、電磁ク
ラッチによりトルク伝達機構の接続状態を変更するようにしているが、特許文献1に示さ
れた装置ではトルク伝達機構内部に遊星歯車機構による変速を行なうようにしているため、回転電機とエンジンは常に相方向にトルクを伝達できるようにしておかなければならず、一方向クラッチの使用によるベルト張力変動の抑制を得ることができない。又、特許文献2に示された装置の場合、回転電機による発電動作とアシスト動作である駆動動作とを同一のトルク伝達部で行うため、特許文献1に示された装置と同じく、回転電機の発電動作時に一方向クラッチを使用することができないという課題があった。
【0009】
この発明は、従来の装置における前述のような課題を解決するもので、ベルトによりエンジンに連結され、発電動作と駆動動作との何れをも行うことができ、しかもベルトの張力変動を抑えことができる回転電機を得ることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による回転電機は、ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記エンジンと前記回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とするものである。
【0011】
又、この発明による回転電機は、ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンと前記回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記回転電機から前記エンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とするものである。
【0012】
更に、この発明による回転電機は、ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記回転電機から前記エンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明による回転電機によれば、クラッチ機構は、回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、回転電機の駆動動作時にはエンジンと回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とするよう、回転電機の界磁電流に基づいて制御されるので、回転電機の発電動作時にはエンジンと回転電機を連結するベルトに発生するトルク変動を押さえることによるベルト寿命の向上や、騒音の発生を押さえる効果が利用できると共に、回転電機の駆動動作時にはエンジンと回転電機が相互にトルクを伝達でき、エンジンからの駆動力伝達のみが可能な一方向クラッチではできない回転電機によるエンジン駆動を実現することができる。又、クラッチ機構を回転電機の界磁電流に基づいて制御するようにしているので、クラッチ機構に流れる電流を制御する制御回路を簡素化することができ、コストを低減することができる。
【0014】
又、この発明による回転電機によれば、クラッチ機構は、回転電機の発電動作時にはエ
ンジンと回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とし、回転電機の駆動動作時には回転電機からエンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、回転電機の界磁電流に基づいて制御されるので、回転電機の駆動動作時にベルトに掛かるトルク変動を押さえることができ、ベルトの寿命を向上することができると共に、エンジンが着火し回転速度が上がった場合に、回転電機が負荷とならず、エンジンの効率が向上し、燃費が良くなる。又、クラッチ機構を回転電機の界磁電流に基づいて制御するようにしているので、クラッチ機構に流れる電流を制御する制御回路を簡素化することができ、コストを低減することができる。
【0015】
更に、この発明による回転電機によれば、クラッチ機構は、回転電機の発電動作時にはエンジンから回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、回転電機の駆動動作時には回転電機からエンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されるので、回転電機の発電動作時にはエンジンと回転電機を連結するベルトに発生するトルク変動を押さえることによるベルト寿命の向上や、騒音の発生を押さえる効果が利用できる。又、回転電機の駆動動作時にベルトに掛かるトルク変動を押さえることができ、ベルトの寿命を向上することができると共に、エンジンが着火し回転速度が上がった場合に、回転電機が負荷とならず、エンジンの効率が向上し、燃費が良くなる。更に、回転電機の発電動作時と駆動動作時の双方とも、ベルトのトルク変動を押さえることができ、より以上にベルトの寿命を延ばすことができる。又、クラッチ機構を回転電機の界磁電流に基づいて制御するようにしているので、クラッチ機構に流れる電流を制御する制御回路を簡素化することができ、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る回転電機を示す構成図で、ベルトを介してエンジンに連結されている状態を示している。図1に於いて、エンジン1は、その出力軸の端部にエンジン側のプーリ11を備えている。三相交流回転電機である回転電機2は、発電機機能と電動機機能とを備えており、その回転子軸に後述の電磁クラッチを内蔵したクラッチ機構3が装着されている。クラッチ機構3に設けられた回転電機側のプーリ5は、ベルト6を介してエンジン側のプーリ11に連結されている。回転電機制御部4は、回転電機1を所望の動作状態とすべく、回転電機1の固定子巻線(図示せず)に流れる電機子電流Ia及び回転子に設けられた界磁巻線(図示せず)に流れる界磁電流Ifを制御する。
【0017】
前述のように、実施の形態1では、エンジン1と回転電機2とはベルト6を介して連結され、又、ベルト6に結合する回転電機側のプーリ5と回転電機2との間にクラッチ機構3が設けられており、以下述べるように、クラッチ機構3によってエンジン1と回転電機2の接続状態を切り換えることができる。
【0018】
図2はクラッチ機構3の内部構成示す説明図で、(a)は回転電機2の発電動作時、(b)は回転電機2の駆動動作時の状態を示している。図2に於いて、回転電機2の回転子軸に連結される第1の回転軸31と、プーリ5に連結された第2の回転軸32とは、同一の軸心上にあって夫々クラッチ機構3のハウジング30に回動自在に支持されている。第1の回転軸31の端部には、第1のクラッチ板33が軸方向移動可能で且つ周方向には移動不可能に設置され、第2の回転軸32の端部には、第2のクラッチ板34が軸方向移動可能で且つ周方向には移動不可能に設置されている。
【0019】
第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とは軸方向で互いに対向して配置されており、その何れか一方若しくは双方が軸方向に移動自在に設けられており、互いに接触することにより結合して第1の回転軸31と第2の回転軸32とを連結して一体に回転させ、或いは互いに離反して第1の回転軸31と第2の回転軸32との連結を解くことができ
る。
【0020】
第1の回転輪35は、第1の回転軸31に固定されており第1の回転軸と一体に回転する。第2の回転輪36は、第2の回転軸32に固定されており第2の回転軸と一体に回転する。第1の回転輪35の外周面は、第2の回転輪36の内周面に対向して配置されている。一方向クラッチ9は、第1の回転輪35の内周面と第2の回転輪36の内周面との間に設けられており、ベルト6を介してエンジン1により駆動されるプーリ5からのトルクを第2の回転輪36を介して第1の回転輪35へ伝達するが、回転電機2からのトルクを第1の回転輪35を介して第2の回転輪36へ伝達することはできない構成とされている。
【0021】
クラッチコイル7は、後述する所定の閾値以上のクラッチ制御電流が流されると、その電磁力により第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とを結合させて第1の回転軸31と第2の回転軸32とを連結させるように構成されている。クラッチコイル7と第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とは、電磁クラッチ8を構成している。
【0022】
クラッチコイル7は、回転電機2の界磁コイルに直列に接続されており、クラッチコイル7に回転電機2の界磁電流Ifを直接流すように構成されている。即ち、クラッチ機構3のクラッチ制御電流Icは、回転電機2の界磁電流Ifに等しい。この構成により、回転中のクラッチ機構3に対して通電するための構造要素(例えばスリップリング等)を回転電機2の回転子と共通化することができ、回転電機2を小型化できる。
【0023】
又、クラッチ機構3のクラッチコイル7と回転電機2の界磁コイルとを直列接続することにより、後述するように界磁電流Ifを制御するだけでクラッチ機構3の接続状態を制御することが可能となり、回転電機2の各運転状態において、クラッチ機構3を最適な接続状態を保つことができると共に、必要な接続状態に遅れなく切り換えできる。更に、クラッチ機構3の接続状態を切り換えるために、特別な制御装置を必要としないため、回転電機を小型化することができる。
【0024】
通常、発電機としての機能と電動機としての駆動機能の双方を備えた車両用の回転電機は、動作状態が発電動作と駆動動作に於いて必要とされる性能が異なっており、これを両立させるために、回転電機2の界磁電流Ifが発電時と駆動時で異なる。一般的には発電機として発電動作をしているときには界磁電流Ifは少なく、電動機として負荷を駆動しているときには界磁電流Ifは大きくなる。このため、クラッチ機構3は、回転電機2の発電状態と駆動状態が切り換わるときの界磁電流の値を閾値Xとし、その閾値Xに対する現在の界磁電流Ifの大小によって、エンジン1と回転電機2の接続状態を切り換えることで、回転電機2の運転状態に応じた適切な接続状態を実現することができる。この場合、界磁電流Ifの判定条件は、If<X、及びIf≧Xの2種類のみでよく、クラッチ機構3の制御回路を簡素化でき、小型化することができる。
【0025】
次に、この発明の実施の形態1に係る回転電機の動作について説明する。界磁電流Ifを閾値X未満とし回転電機2を発電動作させるときには、クラッチ機構3は、エンジン1から回転電機2へトルクを伝達するのみの状態に制御される。即ち、このときクラッチコイル7に流れるクラッチ制御電流Icとしての界磁電流Ifは、閾値X未満(If<X)であり、第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とは結合するに至らず離反した状態にある。従って、エンジン1からベルト6を介してプーリ5、第2の回転軸32、及び第2の回転輪36に伝達されたトルクは、一方向クラッチ9により第1の回転輪35、第1の回転軸31を介して回転電機2の回転子に伝達される。このときのトルクの伝達方向は、エンジン1から回転電機2への一方向であり、図2の(a)に矢印T1にて表示される。
【0026】
次に、回転電機2を駆動動作させるときには、クラッチ機構3は、回転電機2とエンジン1とが相互にトルクを伝達できる状態に制御される。即ち、回転電機2の電動機運転により界磁電流Ifが増大し、従ってクラッチ制御電流Icが増大し、その電流値が閾値X以上となると、図2の(b)に示すように、第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とがクラッチコイル7の電磁力により結合され、クラッチ機構3は、一方向クラッチ9を介せずに第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34によりエンジン1と回転電機2とを連結する状態となる。このときのトルクの伝達方向は、エンジン1と回転電機2との間で双方向であり、図2の(b)に矢印T2にて表示される。
【0027】
尚、前述の説明では、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを直列接続し、界磁電流Ifをクラッチ制御電流Icとして直接クラッチコイル7に流すようにした場合について説明したが、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを独立させ、クラッチコイル7に流れるクラッチ電流Icを界磁電流Ifに対応して制御するようにしてもよい。この場合、クラッチ制御電流Icと比較する閾値Xは、発電機動作と電動機動作とが切り換わるときの界磁電流Ifに対応する値として設定される。
【0028】
以上のように、この発明の実施の形態1に係る回転電機によれば、回転電機の界磁電流に対応してクラッチ機構のクラッチ電流を制御し、回転電機を発電動作させるときはトルクの伝達方向をエンジンから回転電機へのトルクの伝達のみとし、回転電機を駆動動作させるときはトルクの伝達方向をエンジンと回転電機との間で双方向とするようにしたので、発電時には回転電機に掛かるベルトの張力変動を押さえることができ、ベルト寿命を延ばすことができる。また、駆動時には双方向にトルクを伝達でき、回転電機によるエンジン駆動が可能となる。
【0029】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係る回転電機に於けるクラッチ機構3の内部構成を示す説明図で、(a)は回転電機2の発電動作時、(b)は回転電機2の駆動動作時の状態を示している。図3に於いて、クラッチ機構3は、第1のクラッチ板33を第1のクラッチ板34側に常時押圧するクラッチスプリング10を備えている。クラッチコイル7は、実施の形態1の場合と同様に回転電機2の界磁コイルに直列接続されているが、クラッチ制御電流Icが流されて付勢されると、その電磁力は第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とを離反させる方向に作用するように構成されている。第1の回転輪35と第2の回転輪36との間には一方向クラッチ91が設けられている。この一方向クラッチ91は、第1の回転輪35側から第2の回転輪36側へのみトルクの伝達が可能となっている。
【0030】
クラッチコイル7の電磁力は、クラッチコイル7に流れるクラッチ制御電流Icが閾値X未満のときはクラッチスプリング10の付勢力より小さく、クラッチ電流Icが閾値X以上のときはクラッチスプリング10の付勢力以上となるように設定されている。ここで、閾値Xは、実施の形態1の場合と同様に、回転電機2の発電状態と駆動状態が切り換わるときの界磁電流Ifの値に設定されている。その他の構成は、実施の形態1の構成と同様である。
【0031】
次に実施の形態2に係る回転電機の動作について説明する。界磁電流Ifを閾値X未満とし回転電機2を発電動作させるときには、クラッチ機構3は、エンジン1と回転電機2とが相互にトルクの伝達が可能となる状態に制御される。即ち、このときクラッチコイル7に流れるクラッチ制御電流Icとしての界磁電流Ifは、閾値X未満(If<X)であり、クラッチコイル7の電磁力はクラッチスプリング10の付勢力よりも小さく、図3の
(a)に示すように、第1のクラッチ板33はクラッチスプリング10の付勢力により第2のクラッチ板34に押圧され、第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34とは結合状態にある。
【0032】
従って、回転電機2とエンジン1とは一方向クラッチ9を介せずに第1のクラッチ板33と第2のクラッチ板34により連結された状態となり、トルクはエンジン1と回転電機2との双方向に伝達可能である。このときのトルクの伝達方向は、エンジン1と回転電機2との間で双方向であり、図3の(a)に矢印T2にて表示される。
【0033】
次に、回転電機2を駆動動作させるときには、クラッチ機構3は、回転電機2からエンジン1へのトルクの伝達のみが可能となる状態に制御される。即ち、回転電機2の電動機運転により界磁電流Ifが増大し、従ってクラッチ制御電流Icが増大し、その電流値が閾値X以上となると、図3の(b)に示すように、クラッチコイル7の電磁力がクラッチスプリング10の付勢力より大きくなる。これにより、第1のクラッチ板33は、クラッチコイル9の電磁力により図3の(b)に矢印Aの方向に移動して第2のクラッチ板34から離反し、第1の回転軸31と第2の回転軸32との結合を解く。その結果、クラッチ機構3は、回転電機2のトルクを一方向クラッチ91を介してエンジン1へ伝達するが、エンジン1のトルクを回転電機2へ伝達することはできない状態となる。このときのトルクの伝達方向は、図3の(b)に矢印T3にて表示される。
【0034】
尚、前述の説明では、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを直列接続し、界磁電流Ifをクラッチ制御電流Icとして直接クラッチコイル7に流すようにした場合について説明したが、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを独立させ、クラッチコイル7に流れるクラッチ電流Icを界磁電流Ifに対応して制御するようにしてもよい。この場合、クラッチ制御電流Icと比較する閾値Xは、発電機動作と電動機動作とが切り換わるときの界磁電流Ifに対応する値として設定される。
【0035】
以上のように、この発明の実施の形態2に係る回転電機によれば、回転電機の界磁電流に対応してクラッチ機構のクラッチ電流を制御し、回転電機を発電動作させるときはトルクの伝達方向をエンジンと回転電機との間で双方向とし、回転電機を駆動動作させるときはトルクの伝達方向をエンジンから回転電機へのトルクの伝達のみとするようにしたので、回転電機の駆動動作で、エンジンを始動またはアシストをすることができ、このとき、エンジンが回転電機よりも高回転になった場合に回転電機によるブレーキが掛からず、損失を低減することができる。またベルトの張力変動も抑制でき、ベルト寿命を延ばすことができる。
【0036】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3に係る回転電機に於けるクラッチ機構3の内部構成を示す説明図で、(a)は回転電機2の発電動作時、(b)は回転電機2の駆動動作時の状態を示している。図3に於いて、回転電機2の回転子軸に連結される第1の回転軸31と、プーリ5に連結された第2の回転軸32とは、同一の軸心上にあって夫々クラッチ機構3のハウジングに回動自在に支持されている。第1の回転軸31の端部には、第1のクラッチ板33が軸方向移動可能で且つ周方向には移動不可能に設置され、第2の回転軸32の端部には、第2のクラッチ板34が軸方向移動可能で且つ周方向には移動不可能に設置されている。第1のクラッチ板33は、後述の第1の回転輪351の内側面に結合するようにばね手段(図示せず)により常時付勢されている。第2のクラッチ板34は、後述の第2の回転輪361の内側面に結合するようにばね手段(図示せず)により常時付勢されている。
【0037】
第1の回転輪351は、クラッチ機構3のハウジング30に回動自在に支持され、中心部に第1の回転軸31を貫通させる貫通孔を備えている。第2の回転輪361は、クラッチ機構3のハウジング30に回動自在に支持され、中心部に第2の回転軸32を貫通させる貫通孔を備えている。第1の回転輪351の外周面は、第2の回転輪361の内周面に間隙を介して対向している。第3の回転輪352は、第1の回転輪351の内部に回動自在に設けられている。第4の回転輪362は、第3の回転輪352の内部に回動自在に設けられており、中心部に第2の回転軸32を貫通させる貫通孔を備えている。第4の回転輪362の外周面は、第3の回転輪352の内周面に間隙を介して対向している。
【0038】
第1の一方向クラッチ92は、第1の回転輪351の外周面と第2の回転輪361の内周面との間に設けられており、第2の回転輪362から第1の回転輪351への方向にのみトルクの伝達を可能とする。第2の一方向クラッチ93は、第3の回転輪352の内周面と第4の回転輪362の外周面との間に設けられており、第3の回転輪352から第4の回転輪362への方向にのみトルクの伝達を可能とする。
【0039】
第4の回転輪362の内部に設けられたクラッチコイル7は、それに流されるクラッチ制御電流Icが閾値X未満のときは、第1のクラッチ板33を第1の回転輪351の内側面に結合させた状態を維持し、且つ、第2のクラッチ板34を第2の回転輪361の内側面に結合させた状態を維持している。クラッチ制御電流Icが閾値X以上の値になると、クラッチコイル7の電磁力により、第1のクラッチ板33は軸方向に移動して第3の回転輪352の外側面に結合し、第2のクラッチ板34は軸方向に移動して第4の回転輪362の外側面に結合する。
【0040】
クラッチコイル7は、回転電機2の界磁コイルに直列に接続されており、クラッチコイル7に回転電機2の界磁電流Ifを直接流すように構成されている。即ち、クラッチ機構3のクラッチ制御電流Icは、回転電機2の界磁電流Ifに等しい。尚、その他の構成は、実施の形態1の構成と同様である。
【0041】
次に実施の形態3に係る回転電機の動作について説明する。界磁電流Ifを閾値X未満とし回転電機2を発電動作させるときには、クラッチ機構3は、エンジン1から回転電機2へトルクを伝達するのみの状態に制御される。即ち、この場合、クラッチコイル7に流されるクラッチ制御電流Ic、即ち界磁電流Ifは閾値X未満であり、第1のクラッチ板33は、図4の(a)に示すように第1の回転輪351の内側面に結合された状態にあり、且つ、第2のクラッチ板34は第2の回転輪361の内側面に結合された状態にある。
【0042】
従って、エンジン1のトルクは、第2の回転輪361から第1の一方向クラッチ92、第1の回転輪351を介して回転電気2の回転子に伝達されるが、回転電機2のトルクはエンジン1には伝達されることはない。このときのトルクの伝達方向は、図4の(a)に矢印T1にて表示される。この接続状態にすることにより、エンジンと回転電機間のベルトに掛かる張力の変動を抑制することができ、ベルトの寿命を延ばすことができる。
【0043】
次に、回転電機2を駆動動作させるときには、クラッチ機構3は、回転電機2からエンジン1へのトルクの伝達のみが可能となる状態に制御される。即ち、回転電機2の電動機運転により界磁電流Ifが増大し、従ってクラッチ制御電流Icが増大し、その電流値が閾値X以上となると、図4の(b)に示すように、クラッチコイル7の電磁力により、第1のクラッチ板33は軸方向に移動して第1の回転輪351との結合を解くと同時に第3の回転輪352の外側面に結合する。又、第2のクラッチ板34は、クラッチコイル7の電磁力により軸方向に移動し、第2の回転輪361との結合をとくと同時に第4の回転輪362の外側面に結合する。
【0044】
その結果、クラッチ機構3は、回転電機2のトルクを第2の一方向クラッチ93を介してエンジン1へ伝達するが、エンジン1のトルクを回転電機2へ伝達することはできない状態となる。このときのトルクの伝達方向は、図4の(b)に矢印T3にて表示される。
【0045】
尚、前述の説明では、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを直列接続し、界磁電流Ifをクラッチ制御電流Icとして直接クラッチコイル7に流すようにした場合について説明したが、回転電機2の界磁コイルとクラッチ機構3のクラッチコイル7とを独立させ、クラッチコイル7に流れるクラッチ電流Icを界磁電流Ifに対応して制御するようにしてもよい。この場合、クラッチ制御電流Icと比較する閾値Xは、発電機動作と電動機動作とが切り換わるときの界磁電流Ifに対応する値として設定される。
【0046】
以上のように、この発明の実施の形態3に係る回転電機によれば、回転電機の界磁電流に対応してクラッチ機構のクラッチ電流を制御し、回転電機を発電動作させるときはトルクの伝達方向をエンジンから回転電機への方向のみとし、回転電機を駆動動作させるときはトルクの伝達方向を回転電機からエンジンへの方向のみとするようにしたので、常にエンジンと回転電機が片側からだけトクルを伝達する一方向クラッチとして働くため、よりベルトに掛かるトルク変動を押さえることができ、ベルト寿命を延ばすことができる。又、エンジンを始動、又は、アシストをすることができ、エンジンが回転電機よりも高回転になった場合に回転電機によるブレーキが掛からず、損失を低減することができる。
【0047】
実施の形態4.
この発明の実施の形態4では、クラッチ機構3が回転電機2の界磁コイルに流れる界磁電流に応じてエンジン1と回転電機2の接続状態を切り換える場合、クラッチ機構3の内部で、エンジン1と回転電機2の変速比も同時に切り替わる変速比切換手段(図示せず)を備えるものである。この変速比切換手段は、回転電機2を駆動動作から発電動作に切換えたときには、エンジン1側から回転電機2側への変速比を大きくするように変速比を同時に切換え、一方、回転電機2を発電動作から駆動動作に切換えたときは、回転電機2側からエンジン1側への変速比を大きくするように変速比を同時に切換えるものである。その他の構成は、実施の形態1乃至3の何れかの構成と同様である。
【0048】
この実施の形態4による回転電機によれば、回転電機の発電動作及び駆動動作夫々に最適な変速比を実現でき、回転電機を要求される性能に最適化することが可能となる。一般にエンジンと回転電機の変速比が固定されている場合、発電動作、駆動動作夫々に要求される性能のうち、高いほうの性能に合わせて回転電機を設計しなければならず、回転電機が大型化してしまうが、変速比を動作に合わせて変更することにより、回転電機を小型化でき、コスト削減、小型化による車両の重量低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の実施の形態1に係る回転電機を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る回転電機に於けるクラッチ機構の構成示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る回転電機に於けるクラッチ機構の構成示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る回転電機に於けるクラッチ機構の構成示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 回転電機
3 クラッチ機構
4 回転電機の制御部
5、11 プーリ
6 ベルト
7 クラッチコイル
8 電磁クラッチ
9、91 一方向クラッチ
10 クラッチスプリング
30 ハウジング
31 第1の回転軸
32 第2の回転軸
33 第1のクラッチ板
34 第2のクラッチ板
35、351 第1の回転輪
36、361 第2の回転輪
352 第3の回転輪
362 第4の回転輪
92 第1の一方向クラッチ
93 第2の一方向クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記エンジンと前記回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記回転子の回転子軸に連結された第1の回転軸と、前記第1の回転軸に設けられた第1のクラッチ板と、前記ベルトに連結された第2の回転軸と、前記第2の回転軸に設けられ前記第1のクラッチ板に結合及び離反自在に構成された第2のクラッチ板と、前記第1の回転軸に固定された第1の回転輪と、前記第2の回転軸に固定された第2の回転輪と、前記第1の回転輪と前記第2の回転輪との間に設けられ前記第2の回転輪から前記第1の回転輪への一方向にのみトルクの伝達を可能とする一方向クラッチと、前記界磁電流に基づく電流により付勢されるクラッチコイルとを備え、前記クラッチコイルは、前記発電動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは前記第1のクラッチ板と前記第2のクラッチ板とを離反させ、前記駆動動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは前記第1のクラッチ板と前記第2のクラッチ板とを結合させることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンと前記回転電機との間で相互にトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記回転電機から前記エンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
前記クラッチ機構は、前記回転子の回転子軸に連結された第1の回転軸と、前記第1の回転軸に設けられた第1のクラッチ板と、前記ベルトに連結された第2の回転軸と、前記第2の回転軸に設けられ前記第1のクラッチ板に結合及び離反自在に構成された第2のクラッチ板と、前記第1の回転軸に固定された第1の回転輪と、前記第2の回転軸に固定された第2の回転輪と、前記第1の回転輪と前記第2の回転輪との間に設けられ前記第1の回転輪から前記第2の回転輪への一方向にのみトルクの伝達を可能とする一方向クラッチと、前記界磁電流に基づく電流により付勢されるクラッチコイルとを備え、前記クラッチコイルは、前記発電動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは前記第1のクラッチ板と前記第2のクラッチ板とを結合させ、前記駆動動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは前記第1のクラッチ板と前記第2のクラッチ板とを離反させることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【請求項5】
ブラケットに固定された固定子と、前記ブラケットに回転自在に支持されベルトを介してエンジンの出力軸に連結される回転子と、前記回転子と前記ベルトとの間のトルクの伝達を制御するクラッチ機構とを備えた回転電機であって、前記クラッチ機構は、前記回転電機の発電動作時には前記エンジンから前記回転電機への一方向にのみトルクの伝達を可能とし、前記回転電機の駆動動作時には前記回転電機から前記エンジンへの一方向にのみトルクの伝達を可能とするよう、前記回転電機の界磁電流に基づいて制御されることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
前記クラッチ機構は、前記回転子の回転子軸に連結された第1の回転軸と、前記第1の回転軸に設けられた第1のクラッチ板と、前記ベルトに連結された第2の回転軸と、前記第2の回転軸に設けられた第2のクラッチ板と、前記第1の回転軸に固定された第1の回転輪と、前記第2の回転軸に固定された第2の回転輪と、前記第1の回転輪と前記第2の回転輪との間に設けられ前記第2の回転輪から前記第1の回転輪への一方向にのみトルクの伝達を可能とする第1の一方向クラッチと、回転自在に設けられた第3の回転輪及び第4の回転輪と、前記第3の回転輪と前記第4の回転輪との間に設けられ前記第3の回転輪から前記第4の回転輪への一方向にのみトルクの伝達を可能とする第2の一方向クラッチと、前記界磁電流に基づく電流により付勢されるクラッチコイルとを備え、前記第1のクラッチ板は、前記第1の回転輪と前記第3の回転輪とのうちの何れか一方に結合し得るように構成され、前記第2のクラッチ板は、前記第2の回転輪と前記第4の回転輪とのうちの何れか一方に結合し得るように構成され、前記クラッチコイルは、前記発電動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは、前記第1のクラッチ板を前記第1の回転輪に結合させると共に前記第2のクラッチ板を前記第2の回転輪に結合させ、前記駆動動作時に於ける前記界磁電流に基づいて付勢されるときは、前記第1のクラッチ板を前記第3の回転輪に結合させると共に前記第2のクラッチ板を前記第4の回転輪に結合させることを特徴とする請求項5に記載の回転電機。
【請求項7】
前記クラッチコイルは、前記回転電機に設けられた界磁コイルに接続されていることを特徴とする請求項2、4、6の何れかに記載の回転電機。
【請求項8】
前記回転電機の発電動作時と駆動動作時とに対応して、前記回転電機側と前記エンジン側との間の変速比を切換えるようにしたことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168067(P2009−168067A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4496(P2008−4496)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】