説明

回転電機

【課題】コイル絶縁物の電気的特性を確保するために絶縁層の沿層方向に配向して配置させても、熱伝導性をより向上させることができる回転電機を提供する。
【解決手段】鉄心スロット内に、導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えたものにおいて、前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体と、前記マイカ層と前記六方晶窒化ホウ素の粉体を一体化せしめる熱硬化性の高分子有機樹脂とからなり、前記六方晶窒化ホウ素の粉体がコイル長手方向に配向して配置されるようにした回転電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル絶縁物として結晶化指数1.8以上の六方晶窒化ホウ素粉体を、コイル長手方向あるいはマイカテープ積層方向に対して沿層方向に配向して絶縁中に配置した回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
大型あるいは高電圧回転電機のコイルには、マイカと熱硬化性の高分子有機樹脂を主成分とした絶縁が適用されるケースが多い。しかし、金属やセラミックに比較して耐熱性に劣る有機樹脂を絶縁の主構成材料の一つとして使用しており、機器の運転中、ジュール損によるコイル温度の上昇によって劣化作用を受ける。このため、回転電機、特に大型の発電機ではさまざまなコイル冷却方式を採用し、劣化作用を抑制している。
【0003】
この冷却方式は、導体を中空構造にし、水あるいは水素を循環させてコイルを直接冷却する直接冷却方式と、コイル導体に発生したジュール熱をコイル絶縁を経由して鉄心に放熱して冷却するか、鉄心内部を循環する水素あるいは空気によって冷却する間接冷却方式の2種類に大別される。
【0004】
最近では、その構造がシンプルでメンテナンス性に優れ、かつ低価格な間接冷却方式が注目され、かつその大容量化が進んでいる。
【0005】
しかし、間接冷却方式はコイル絶縁を経由してジュール熱を放熱するため、金属やセラミックに比較して熱伝導性に劣る絶縁によって放熱が妨げられ、直接冷却方式に比較して冷却能力が劣る場合が多い。そのため、一例として以下に記述するような絶縁の熱伝導性を改善する手法が、特許文献1に開示されている。
【0006】
図6および図7は、これを説明するための図である。互いに隣接して配列され、しかも導線相互間の絶縁のための導線絶縁19、ならびに機器のスロットに対する導線束を取り巻く主絶縁20を施した多数の導線21の束22を含んで成り、該主絶縁は導線束の周囲を数層をなして巻いてあり、かつ小さなマイカフレーク(剥がしマイカ)23を有する層24を含んで成るテープ形状またはシート形状の絶縁材料の包装材を含んで成り、該マイカフレーク層24、ならびに包装材中の該マイカフレーク層24間の空間25は硬化された含浸樹脂を含有するものである。
【0007】
回転電機の固定子または回転子におけるスロット内に配列するためのコイル、特に高電圧コイルにおいて少なくともマイカ層間の空間25に配置される含浸樹脂の部分が少なくとも5W/mKの固有熱伝導度と充填材の少なくとも90重量%において、0.1〜15μmの粒子の粒径とを有する充填材の粒子26を含有することを特徴としている。
【0008】
ここで、5W/mK以上の熱伝導率を有する充填材に六方晶窒化ホウ素の粉体を用いる場合、当該物質は熱伝導性に異方性があり、結晶軸のZ軸方向の熱伝導率が低いので、熱伝導性改善の観点からは、前記マイカフレーク層24の積層方向と結晶のZ軸が垂直、つまり、マイカフレーク層24の積層方向に対して貫層方向に配向して配置されることがより望ましい。
【0009】
一方、当該物質は鱗片状であるため、電気的には課電劣化の原因である電気トリーの進展経路長が延長するように、マイカフレーク層24の積層方向と結晶のZ軸が平行、つまり、マイカフレーク層24の積層方向あるいはコイル長手方向に対して沿層方向に配向して配置されることが望ましく、電気的特性と熱伝導性を両立することが困難であった。
【0010】
特許文献2には、粒径30〜100μmの窒化ホウ素粉体をマイカシート中に配合し、エポキシ樹脂積層品とした時の熱伝導率が、未配合品に比較して熱伝導率が向上したと記載されている。しかしながら、上記粉体の粒径を明細書記載の粒径厚さ1〜50μm、大きさ0.1〜1.5mmのマイカと共に抄造しマイカシートとすると、マイカシート中のマイカ鱗片と同じ方向に配向して、コイル絶縁とした時に、マイカシート積層方向あるいはコイル長手方向の沿層方向に配向して六方晶窒化ホウ素粉体が配置されるので、窒化ホウ素の熱伝導率がより低い方向で用いることになる。この場合には、未配合品に比較して電気特性、熱伝導性共に改善がみられるが、熱伝導性をより改善する余地もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−110929号公報
【特許文献2】特開昭55−53802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の例では、高熱伝導な材料を充填することにより熱伝導性は向上するものの、熱伝導性に異方性がありかつ鱗片状の材料である六方晶窒化ホウ素を充填する場合には、熱伝導率の改善の程度が配向によって抑制されることがある。
【0013】
特に、回転電機のコイル絶縁物絶縁に使われる場合には、電気的特性の観点から、熱伝導率が小さくなるように配向させると都合が良いため、この傾向が顕著に現われる。また、高熱伝導マイカテープ製造の観点からも、マイカテープ表面に刷毛やバーコーターによって塗布したり、滴下によって塗布するので、配向しやすい。
【0014】
特許文献2の例では、鱗片形状を有するマイカ片と共に同じく鱗片形状を有する六方晶窒化ホウ素を抄紙するため、特許文献1の例に比較してより一層配向し、熱伝導率の改善が抑制される傾向にある。
【0015】
このように、結晶構造や熱伝導性に異方性を有する六方晶窒化ホウ素を用いた回転電機絶縁においては、配向によって熱伝導性の改善が阻害される例がある。よって、電気的特性を確保するために配向させ、かつ熱伝導性も大きく改善することのできる回転電機絶縁が望まれていた。
【0016】
本発明はこのような事情に基づいてなされたもので、六方晶窒化ホウ素の粉末をコイル絶縁物として使用している回転電機において、電気的特性を確保しつつ熱伝導性をさらに改善した回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、請求項1に対応する発明は、回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体と、前記マイカ層と前記六方晶窒化ホウ素の粉体を一体化せしめる熱硬化性の高分子有機樹脂とからなり、前記六方晶窒化ホウ素の粉体がコイル長手方向に配向して配置されるようにしたことを特徴とする回転電機である。
【0018】
前記目的を達成するため、請求項2に対応する発明は、回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記マイカ層と織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを構成し、前記マイカテープの織布の対向面あるいは前記マイカ層の対向面の少なくとも一方に、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂を塗布した樹脂塗布マイカテープを、前記導線束に巻回した後、前記マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得られることを特徴とする回転電機である。
【0019】
前記目的を達成するため、請求項3に対応する発明は、回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカペーパと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記集成マイカペーパと織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記導線束に巻回した後、前記マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得られることを特徴とする回転電機である。
【0020】
前記目的を達成するため、請求項4に対応する発明は、回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記マイカ層と織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記織布と対向する面あるいはマイカ層と対向する面の少なくとも一方に、少なくとも結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂で塗布したマイカテープで、前記導線束に巻回した後、加圧成形し、かつ加熱硬化して得られることを特徴とする回転電機である。
【0021】
前記目的を達成するため、請求項5に対応する発明は、回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記集成マイカと織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記導線束に巻回した後、加圧成形・加熱硬化して得られることを特徴とする回転電機である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る回転電機は、回転子鉄心又は固定子鉄心のスロット内に配設されるコイル絶縁物を、六方晶窒化ホウ素の粉体の結晶化指数を1.8以上とすることにより、電気的特性を確保するために絶縁層の沿層方向に配向して配置させても、熱伝導性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図5及び表1、表2を参照して説明する。本発明の回転電機は、回転子鉄心又は固定子鉄心のスロット内に配設されるコイル絶縁物を、以下のようにしたものである。すなわち、導線を束ねて導線束を構成し、該導線束を複数個回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に配設され、前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する導線束を取り巻く主絶縁を施こすためのものであって、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体と、前記マイカ層と六方晶窒化ホウ素の粉体を一体化せしめる熱硬化性の高分子有機樹脂とからなり、前記六方晶窒化ホウ素の粉体がコイル長手方向に配向して配置されるようにしたものであり、これについて具体的に説明する。
【0024】
ここで、結晶化指数(GI:graphtization index)とは、X線回折像において、窒化ホウ素の(100)面、(101)面、(102)面のピーク面積を用いて(2)式で表される値のことである。
【0025】
GI=(S(100)+S(101))/S(102) …(2)式
ここで、S(100)は(100)面のピーク面積を示す。
【0026】
図1は、本発明に使用する高熱伝導性のマイカテープを説明するための図である。マイカテープは、マスコバイトを素材とした硬質無焼成集成マイカペーパ1とガラスクロス2に、エピコート1001およびエピコート828(油化シェルエポキシ製)を重量比で10対90になるように配合され、なおかつ溶剤のメチルエチルケトンで希釈されたエポキシ樹脂接着剤3を含浸、この溶剤を乾燥・揮発させてマイカテープ4を製造される。
【0027】
そしてさらに、同じ配合のエポキシ樹脂接着剤3中に表1の比較例1の欄に示す性状の六方晶窒化ホウ素の粉体5を配合、前記マイカテープ4のガラスクロス2の面に塗布、同様に溶剤を再度揮発・乾燥して粉体層6を形成し、高熱伝導マイカテープ7を得る。なお、塗布時には、六方晶窒化ホウ素粉末5が、マイカシートやガラスクロスの積層方向に対して沿層方向に配向するように配慮した。
【0028】
この高熱伝導マイカテープの詳細仕様は、表2に示すように、マイカ重量160(g/m)、ガラスクロス重量25(g/m)、ガラスクロス厚さ0.030(mm)、接着剤重量25(g/m)、六方晶窒化ホウ素重量55(g/m)、マイカテープ重量265(g/m)、マイカテープ幅30(mm)、マイカテープ厚さ0.20(mm)である。
【0029】
このようにして得られた高熱伝導マイカテープ7を、回転電機のコイル導体を模擬したアルミニウム製のバー8(10×50×1000mm)へ、図2に示すように当該テープがテープ幅の1/2分だけ重なるようにして10回、テープ層数で20層になるように巻回し、エポキシ樹脂組成物(TVB2632、東芝ケミカル製)を真空加圧含浸した。真空引きの条件は13.3Paで10時間、加圧は0.5MPaで15時間である。この後、加熱硬化後の絶縁層9の厚さが3.5mmになるよう、上下左右の4面に離型処理をしたステンレス板10を図3に示すように当てて、圧縮しながら加熱硬化し、ステンレス板10を除去して回転電機の例えば電機子の絶縁コイル11を得た。加熱は熱風循環式恒温槽にて150℃、20時間で実施した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
なお、表1において、平均粒径はレーザ回折法により測定した値であり、比表面積はBET法により測定した値であり、結晶化指数はX線回折像から求めた値であり、熱伝導率はASTM D4351により測定した値である。
【0033】
比較例2は、比較例1のように六方晶窒化ホウ素の粉末の結晶化指数を0.9とせずに、1.4とした場合であり、この場合比較例1の熱伝導率は、0.41W/mKであり、また比較例2の熱伝導率は、0.43W/mKである。
【0034】
これに対して本発明の実施例1における六方晶窒化ホウ素の粉末の結晶化指数を2.0とし、実施例2は3.0としたものであり、実施例1の熱伝導率は、0.49W/mKであり、実施例2の熱伝導率は、0.60W/mKと、本発明の実施例1、2の方が比較例1、2に比べて熱伝導率が高いことがわかる。
【0035】
このようにして得られたコイルの絶縁層9の断面をそれぞれの例について観察したところ、マイカテープ層の沿層方向に配向していた。
【0036】
同じコイルの長手方向中央部の絶縁層9より、直径が35mm、厚さ3.5mmの円板をそれぞれ切り出し、マイカテープ層貫層方向について定常法による熱伝導率(ASTM D4351に準拠)を測定した。この結果、図4に示すように結晶化指数が高くなるほど熱伝導率が増大し、特に結晶化指数1.4から2.0の間で急激に増大する傾向を示すことから、結晶化指数は1.8以上であることが好ましい。
【0037】
さらに、作製したぞれぞれのコイルについて、誘電正接の電圧依存性、絶縁破壊電圧、課電寿命を評価したところ、比較例1、2、実施例1、2のすべてが同等の結果を示した。
【0038】
次に、比較例3と実施例3について説明する。比較例3は結晶化指数を0.9とし且つ一部の条件を次のようにしたものであり、また実施例3は2.0とし且つ一部の条件を次のようにしたものである。
【0039】
ここで使用した高熱伝導性マイカテープ12は、図5に示すように焼成集成マイカ13を100部、芳香族ポリアミドフィブリッド(漏水度60゜SR)14を40部および前記表1の比較例1欄に記載の六方晶窒化ホウ素15を20部混合した分散液を円網式抄紙機にて抄造して得られた厚さ0.08mmの硬質焼成集成マイカペーパー16と、ガラスクロス(厚さ0.030mm)17に、エピコート1001およびエピコート828(油化シェルエポキシ製)を重量比で10対90になるように配合され、なおかつ溶剤のメチルエチルケトンで希釈されたエポキシ樹脂接着剤18を含浸、この溶剤を乾燥・揮発させて製造される。
【0040】
このようにして得られた厚さ0.12mm、幅25mmの高熱伝導性マイカテープ12を用いて、コイルを製造した。コイル製造方法はマイカテープ巻回数を15回とした以外は比較例1と同様である。
【0041】
このようにして得られた比較例3および実施例3の電機子絶縁コイル絶縁層の断面について観察したところ、マイカペーパー中のマイカ鱗片と同じ方向に、つまりマイカテープ層の沿層方向に配向していることを確認した。
【0042】
同じコイルの長手方向中央部の絶縁層より、直径が35mm、厚さ3.5mmの円板をそれぞれ切り出し、マイカテープ層貫層方向について定常法による熱伝導率(ASTM D4351に準拠)を測定した。この結果、比較例3の熱伝導率は0.40W/mK、実施例3の熱伝導率は0.47W/mKと、後者の熱伝導率が高いことを確認した。
【0043】
以上述べた回転電機の実施形態によれば、コイル絶縁物を六方晶窒化ホウ素の粉体の結晶化指数を1.8以上とすることにより、電気的特性を確保するために絶縁層の沿層方向に配向して配置させても、熱伝導性をより向上させることができる。
【0044】
本発明は、以上述べた実施形態以外に、次のようにしてもよい。
【0045】
例えば図6に示すように、絶縁被覆導線を束ねて導線束22を構成し、該導線束22を複数個回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット(図示しない)内に配設され、前記導線21相互間の絶縁並びに前記スロットに対する導線束を取り巻く主絶縁20を施こす場合に次のように行なえばよい。すなわち、剥がしマイカ(マイカフレーク)あるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布例えばガラスクロスと、マイカ層と織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを構成し、マイカテープの織布の対向面あるいは前記マイカ層の対向面の少なくとも一方に、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂を塗布した樹脂塗布マイカテープを、前記導線束に巻回した後、該マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得るようにしてもよい。
【0046】
また、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカペーパと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布例えばガラスクロスと、集成マイカペーパと織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを、導線束に巻回した後、該マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得るようにしてもよい。
【0047】
さらに、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布例えばガラスクロスと、マイカ層と織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、織布と対向する面あるいはマイカ層と対向する面の少なくとも一方に、少なくとも結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂で塗布したマイカテープで、導線束に巻回した後、加圧成形し、かつ加熱硬化して得るようにしてもよい。
【0048】
また、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布例えばガラスクロスと、集成マイカと織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、導線束に巻回した後、加圧成形・加熱硬化して得るようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る回転電機に使用されるコイル絶縁物の実施例における主構成部材である高熱伝導性マイカテープの断面図。
【図2】図1のマイカテープを導体に巻回した状態を示す部分断面図。
【図3】図1に係る回転電機に使用されるコイル絶縁物を製造する場合における加熱硬化時の圧縮成形状況を表す模式図。
【図4】本発明に係る回転電機に使用されるコイル絶縁物における、熱伝導率の結晶化指数依存性を示す特性図。
【図5】本発明に係わる回転電機に使用されるコイル絶縁物の主構成部材である高熱伝導性マイカテープの断面図。
【図6】従来の技術である回転電機の電機子コイルの断面図。
【図7】図6のコイル絶縁物である、高熱伝導マイカテープを用いた電機子コイル絶縁の部分断面図。
【符号の説明】
【0050】
1…硬質無焼成集成マイカペーパ、2…ガラスクロス、3…エポキシ樹脂接着剤、4…マイカテープ、5…六方晶窒化ホウ素の粉末、6…粉体層、7…高熱伝導マイカテープ、8…導体(導線)、9…絶縁層、10…ステンレス板、11…絶縁コイル、12…高熱伝導性マイカテープ、13…焼成集成マイカ、14…芳香族ポリアミドフィブリッド、15…六方晶窒化ホウ素、16…硬質焼成集成マイカペーパー、17…ガラスクロス、18…エポキシ樹脂接着剤、19…導線絶縁、20…主絶縁、21…導線、22…導線束、23…マイカフレーク、24…マイカフレーク層、25…空間、26…粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体と、前記マイカ層と前記六方晶窒化ホウ素の粉体を一体化せしめる熱硬化性の高分子有機樹脂とからなり、前記六方晶窒化ホウ素の粉体がコイル長手方向に配向して配置されるようにしたことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記マイカ層と織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを構成し、前記マイカテープの織布の対向面あるいは前記マイカ層の対向面の少なくとも一方に、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂を塗布した樹脂塗布マイカテープを、前記導線束に巻回した後、前記マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得られることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカペーパと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記集成マイカペーパと織布を接着する高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記導線束に巻回した後、前記マイカテープに熱硬化性の高分子有機樹脂を含浸し、且つ硬化して得られることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、剥がしマイカあるいは集成マイカの少なくとも一つから構成されるマイカ層と、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記マイカ層と織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記織布と対向する面あるいはマイカ層と対向する面の少なくとも一方に、少なくとも結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を含む有機樹脂で塗布したマイカテープで、前記導線束に巻回した後、加圧成形し、かつ加熱硬化して得られることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
回転電機の回転子鉄心又は固定子鉄心に有するスロット内に、絶縁被覆導線を束ねて構成した導線束が配設され、かつ前記導線相互間の絶縁並びに前記スロットに対する前記導線束を取り巻く主絶縁を施こしたコイル絶縁物を備えた回転電機において、
前記コイル絶縁物は、結晶化指数が1.8以上の六方晶窒化ホウ素の粉体を混抄、抄造した集成マイカと、無機物あるいは有機物の少なくともいずれか一つからなる織布と、前記集成マイカと織布を接着する半硬化した熱硬化性の高分子有機樹脂からなるマイカテープを、前記導線束に巻回した後、加圧成形・加熱硬化して得られることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
前記結晶化指数(GI)は、X線回折像において、前記窒化ホウ素の(100)面、(101)面、(102)面のピーク面積を用いて(1)式で表される値GI(graphtization index)である請求項1〜5のいずれか一項に記載の回転電機。
GI=(S(100)+S(101))/S(102) …(1)式
ここで、S(100)は(100)面のピーク面積を示す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−166809(P2010−166809A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46265(P2010−46265)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【分割の表示】特願2007−56181(P2007−56181)の分割
【原出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】