説明

回転霧化静電塗装機の洗浄方法

【課題】高硬度の顔料を含む塗料を使用する場合にも、回転霧化頭の摩耗を効果的に抑えることができる回転霧化静電塗装機の洗浄方法を提供する。
【解決手段】回転霧化頭に塗料を供給する塗料径路に、洗浄エアと洗浄液とをこの順序でまたは逆の順序で交互に供給して、該塗料経路内に残存する塗料を洗浄する洗浄方法において、洗浄すべき塗料に含まれる顔料の硬度が高い場合は、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間を標準(Aパターン)より長くする(Bパターン)か、または最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を標準よりも低くする(Cパターン)。Bパターンの場合は、塗料径路に残留する塗料の量が減じることで、Cパターンの場合は該センターコーンに衝突する塗料速度が減じることで、それぞれセンターコーンの摩耗が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転霧化頭を高速で回転させて塗料を霧化する回転霧化静電塗装機の洗浄を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボデーの塗装ラインにおいては、一台の回転霧化静電塗装機(以下、単に塗装機という)に供給する塗料を切替えて、いわゆる多色塗装を行うのが一般である。この場合、塗装機に対する塗料の切替え(色替え)は、塗装機に接続した色替バルブ装置のバルブ操作によって自動的に行われるが、色替えごとに塗装機内の塗料径路に残留する前色の塗料を洗浄する必要があることから、前記色替バルブ装置には、洗浄用のエアおよび液(シンナー)を供給するためのバルブも備えられている。
【0003】
そして従来、上記した色替えに際しては、塗装機内の塗料径路から前色を完全に除去する必要があるため、洗浄エアと洗浄液とを交互に塗装機に供給するサイクルを複数回繰返す洗浄パターンが採用される。この場合、一般には高圧の洗浄エアの供給を先行させて、これに洗浄液の供給を続ける洗浄パターンが採用されているが(たとえば、特許文献1参照)、一部では、洗浄液の供給を先行させて、これに洗浄エアの供給を続ける洗浄パターンも採用されている(たとえば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−155349号公報
【特許文献2】特開平10−216567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、色替バルブ装置から塗装機へ供給された塗料は、回転霧化頭を回転させるモータ(通常、エアモータ)の中空回転軸に挿入した塗料フィードチューブを通して回転霧化頭の内底部に吐出されるようになっている。ベル形状をなす回転霧化頭の内底部には平板状のハブによって塗料室が画成されており、前記塗料フィードチューブから吐出された塗料は、前記ハブの背面中央に形成されたセンターコーンに衝突して塗料室内を周辺へ拡散し、ハブの周囲に設けられた塗料吐出孔を通過して回転霧化頭のカップ内面に供給されるようになる。
【0005】
一方、最近、自動車ボデーの塗装においては、光輝な顔料を含む塗料を用いた塗装が増加している。光輝な顔料としては雲母(パールマイカ)が従来より知られているが、最近では、自然雲母(天然雲母)に代わって人工雲母の使用が主流になっている。しかるに、この人工雲母の使用の増加に伴い、回転霧化頭(主として、センターコーン)の摩耗の進行が早まるようになってきている。そして、センターコーンが摩耗すると、洗浄液(水性)の跳ね返りが多くなって回転霧化頭の洗浄が不十分となり、場合によっては塗装機内のエア通路を通じてアース側(ロボット側)へ洗浄液が漏れ出て、その後の静電塗装が不可能になるなどのトラブルが発生し、その対策が望まれていた。この点について、本発明者等は鋭意検討した結果、人工雲母のモース硬度は8.5〜9.0程度で、天然雲母のモース硬度2.5と比べてきわめて高くなっており、これが影響しているとの結論に至った。
【0006】
すなわち、最初に塗料径路に高圧の洗浄エアを供給する一般的な洗浄パターンで塗装機の洗浄を行うと、高硬度の人工雲母を含む塗料(前色)が高速度(10m/sec以上)で回転霧化頭のセンターコーンに衝突する。一方、回転霧化頭は、一般的にアルミ系材料で製作されて、そのモース硬度は、2.7程度となっており、このように低い硬度の回転霧化頭に高硬度の人工雲母を含む塗料が高速で衝突する結果、センターコーンの摩耗進行が早まったものと推定される。また、最初に塗料径路に洗浄液を供給する洗浄パターンを採用する場合は、回転霧化頭のセンターコーンに対する塗料の衝突速度が小さくなるので、ある程度センターコーンの摩耗を抑えることができると考えられる。しかし、この場合は、最初の洗浄液の供給だけでは塗料径路内に多くの塗料が残留するため、次の高圧の洗浄エアの供給によって残留塗料が前記同様に高速でセンターコーンに衝突し、摩耗対策としては不十分である。
【0007】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、高硬度の顔料を含む塗料を使用する場合にも、回転霧化頭の摩耗を効果的に抑えることができる回転霧化静電塗装機の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、回転霧化頭に塗料を供給する塗料径路に、洗浄エアと洗浄液とをこの順序でまたは逆の順序で交互に供給して、該塗料経路内に残存する塗料を洗浄する回転霧化塗装機の洗浄方法において、洗浄すべき塗料の種類に応じて、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を変更することを特徴とする。
【0009】
このように行う回転霧化塗装機の洗浄方法においては、予め、洗浄すべき塗料の種類に応じて、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の最適な供給条件を設定することで、塗料の種類に応じた最適な条件で洗浄を行うことができ、回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
以下に、本発明の態様をいくつか例示し、それらについて項分けして説明する。
【0010】
(1)回転霧化頭に塗料を供給する塗料径路に、洗浄エアと洗浄液とをこの順序でまたは逆の順序で交互に供給して、該塗料経路内に残存する塗料を洗浄する回転霧化塗装機の洗浄方法において、洗浄すべき塗料に含まれる顔料の硬度が所定以上の場合に、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を、前記回転霧化頭の摩耗を抑えることができる条件に変更することを特徴とする回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【0011】
本(1)項記載の回転霧化塗装機の洗浄方法においては、予め、洗浄すべき塗料に含まれる顔料の硬度に応じて、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の最適な供給条件を設定することで、塗料に含まれる顔料の硬度に応じた最適な条件で洗浄を行うことができ、回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
【0012】
(2)洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を変更することを特徴とする(1)項に記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【0013】
回転霧化頭は、一般的にアルミ系材料で製作されることが多いが、アルミ系材料のモース硬度は2.7程度となっている。したがって、(2)項記載のように塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、塗料径路に対する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を変更することで、アルミ製の回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
【0014】
(3)洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、塗料径路内を流通する流体流速が10m/sec以下となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を設定することを特徴とする(2)項記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【0015】
最初に塗料径路に高圧の洗浄エアを供給する一般的な洗浄パターンで塗装機の洗浄を行う場合は、(3)項記載のように最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を標準の圧力より低くすることで、洗浄エアにより押出されて回転霧化頭のハブ(センターコーン)に衝突する塗料の速度が低くなる。この場合、流体流速が10m/sec以下となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を設定することで、塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合でも、回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
【0016】
(4)洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間および/または供給流量を設定することを特徴とする(2)項に記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【0017】
最初に塗料径路に洗浄液を供給する洗浄パターンで塗装機の洗浄を行う場合は、(4)項記載のように最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間を標準の供給時間より長くしまたは洗浄液の供給流量を標準より増やすことで、洗浄液により押出される塗料の量が増し、塗料径路に残留する塗料の量が少なくなり、結果として、次の洗浄エアの供給によって回転霧化頭のハブ(センターコーン)に衝突する塗料の量も少なくなる。この場合、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように洗浄液の供給時間および/または供給流量を設定することで、塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合でも、回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る回転霧化静電塗装機の洗浄方法によれば、高硬度の顔料を含む塗料を使用する場合にも、回転霧化頭の摩耗を効果的に抑えることができるので、塗装機に対する耐久性、信頼性の向上に大きく寄与する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る洗浄方法の実施対象である回転霧化静電塗装機の要部構造を示したものである。回転霧化静電塗装機1(以下、単に塗装機1という)は、アルミ合金製のベル形状の回転霧化頭2と、この回転霧化頭2を回転駆動するエアモータ3と、回転霧化頭2に塗料を供給する塗料フィードチューブ4と、エアモータ3に付与する高電圧を発生する高電圧発生器(図示略)とを備えており、前記エアモータ3、塗料フィードチューブ4および高電圧発生器は、塗装ロボットに対する取付部を後端に有する絶縁性の塗装機本体5内に一括して納められている。塗装機1はまた、回転霧化頭2の背後からその周囲に向けてシェーピングエアを吐出する複数のエア吐出口6aを有するリング部材6を備えており、該リング部材6は、前記塗装機本体5の前端に結合されている。
【0021】
上記エアモータ3の回転軸7は中空構造をなしており、その一端部はモータケーシング8から前方へ引き出されている。中空の回転軸7の一端部にはねじ部が形成されており、前記回転霧化頭2がこのねじ部を利用して回転軸7の一端部に螺合されている。モータケーシング8は金属からなっており、これには、前記高電圧発生器から内部ケーブルを経て静電高電圧(一例として、−90kV)が供給されるようになっている。一方、シェーピングエア吐出用リング部材6は、ここでは金属からなっており、モータケーシング8に接して配置されている。これによりリング部材6にも、モータケーシング8を介して静電高電圧が印加され、したがって、このリング部材6は塗装機1における静電高電圧部となっている。なお、回転霧化頭2を回転させるモータの種類は任意であり、上記したエアモータ3に代えて、油圧モータ、電動モータ等を用いることができる。
【0022】
上記塗料フィードチューブ4は、前記エアモータ3の中空の回転軸7を挿通して延ばされており、その先端部が回転霧化頭2の内底部に挿入されている。塗料フィードチューブ4には、後述の色替バルブ装置20からホースおよび塗装機本体5内の塗料通路(ここでは、両者を統合して接続通路9として示す)を経て所定の塗色の塗料が供給されるようになっており、該塗料は、塗料フィードチューブ4から回転霧化頭2に供給される。
【0023】
回転霧化頭2の内底部には円板状のハブ10よって塗料室11が画成されており、このハブ10によって仕切られた塗料室11内に前記塗料フィードチューブ4の先端部が導入されている。ハブ10は、その背面中央にセンターコーン12を備えると共に、回転霧化頭2の内面との連接部位に円周方向に等配して多数の塗料吐出孔13を備えている。塗料フィードチューブ4から回転霧化頭2に供給された塗料は、前記ハブ10の背面のセンターコーン12に衝突して塗料室11内を周辺へ拡散し、塗料吐出孔13を通過して回転霧化頭2の前側のカップ内面に供給される。
【0024】
色替バルブ装置20は、各塗色(ここでは、6色)を供給する複数(ここでは、6つ)の塗料バルブ21と、洗浄液(シンナー)を供給する液バルブ22と洗浄エア(圧縮エア)を供給するエアバルブ23とを備えている。各塗料バルブ21には対応する塗色の塗料源が、液バルブ22には洗浄液源が、エアバルブ23にはエア源がそれぞれ接続されている。色替バルブ装置20内の各バルブ21、22、23は、図示を略す制御装置によって開閉制御されるようになっており、塗装時には、該制御装置によって所定の塗色の塗料バルブ21が選択的に開かれて回転霧化頭2に所定の塗色の塗料が供給される。また、洗浄時には、同じく制御装置によって液バルブ22とエアバルブ23とが交互に開かれて、回転霧化頭2に洗浄液と洗浄エアとが交互に供給される。
【0025】
上記塗装機1を用いて静電塗装を行う場合は、エアモータ3のモータケーシング8に高電圧発生器で発生した静電高電圧を印加しながら、エアモータ3により回転霧化頭2を高速で回転させると共に、リング部材6からシェーピングエアを吐出させ、回転霧化頭2に色替バルブ装置20から所定の塗色の塗料を供給する。すると、この塗料は、ハブ10の背面のセンターコーン12に衝突して塗料室11内を周辺へ拡散し、塗料吐出孔13を通過して回転霧化頭2の前側のカップ内面に供給される。カップ内面に供給された塗料には、回転霧化頭2の高速回転により遠心力が働いているので、該塗料は、カップ内面に沿って回転霧化頭2の先端(塗料放出端)に向けて流動し、該先端から霧状に放出される。このとき、回転霧化頭2の周りには静電高電圧部としてのリング部材6が配置されているので、回転霧化頭2によって霧化された塗料は負に帯電し、リング部材6から吐出されるシェーピングエアによって被塗物に向けて飛行し、陽極に設定されている被塗物に静電力により付着する。
【0026】
色替えに際しては、色替バルブ装置20から接続通路9およびフィードチューブ4を経て回転霧化頭9に至る一連の塗料径路内に残留する前色の塗料を洗浄する。この洗浄は、色替バルブ装置20内の液バルブ22とエアバルブ23とを操作して、前記塗料径路に洗浄液と洗浄エアとを交互に供給する洗浄パターンで行われる。本実施形態においては、塗料に含まれる顔料の硬度に応じて、そのモース硬度が2.7より低い場合は、図2に示すAパターンを選択して洗浄を行い、該モース硬度が2.7以上の場合は、同じく図2に示すBパターンまたはCパターンを選択して洗浄を行う。なお、モース硬度が2.7以上の顔料としては、例えば、人工雲母(モース硬度8.5〜9.0)がある。
【0027】
より詳しくは。Aパターンは、従来一般的に行われている標準的なもので、最初に洗浄エアを供給し、これに洗浄液の供給を続けるサイクルを所定時間T1ごとに複数回(ここでは、3回)繰返し、最終的に洗浄エアを比較的長い時間T2供給するものである。また、Bパターンは、最初に洗浄液を比較的長時間T2供給し、その後、洗浄エアの供給と洗浄液の供給とを所定時間T1ごとに複数回(ここでは、2回)繰返し、最終的に洗浄エアを比較的長い時間T2供給するものである。さらに、Cパターンは、最初に低圧の洗浄エアを所定時間T1だけ供給し、その後、洗浄液の供給と洗浄エアの供給とを所定時間T1ごとに複数回(ここでは、3回)繰返し、最終的に洗浄エアを比較的長い時間T2供給するものである。ただし、本実施形態では、洗浄に要する総時間TをA〜Cのパターンによらず一定としている。ここで、Cパターンで使用する高圧の洗浄エアは、AまたはBパターンで使用する洗浄エアと同じであり、一例として0.4〜0.6MPa程度の値となっている。一方、Cパターンで使用する低圧の洗浄エアとしては、一例として0.005 〜0.01MPa程度となっている。なお、図示例では、便宜的に供給時間T1、T2をA〜Cパターンによらず同じとしているが、これらは、A〜Cパターンの相互間で変えてもよいものである。
【0028】
標準のAパターンにより洗浄を行う場合は、最初に高圧の洗浄エアを塗料径路に供給することで、該塗料経路内に残留する塗料の大部分が除去され、その後に、洗浄液の供給と洗浄エアの供給とを繰返すことで、塗料径路内から完全に前色の塗料が洗浄除去される。また、最終的に洗浄エアを比較的長時間(T2)供給することで、塗料径路内から水分が完全に除去され、次色の塗料が洗浄液で薄められることはなくなる。
【0029】
Bパターンにより洗浄を行う場合は、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間を標準の供給時間(T1)より長く(T2)することで、洗浄液により押出される塗料の量が増し、塗料径路に残留する塗料の量が少なくなる。この結果、次の洗浄エアの供給によって回転霧化頭2のセンターコーン12(図1)に衝突する塗料の量も少なくなり、その分、センターコーン12の摩耗が抑えられる。この場合、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように洗浄液の供給時間を設定するのが望ましく、これにより塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合でも、回転霧化頭の摩耗を確実に抑えることが可能になる。なお、このBパターンの変形パターンとして、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給流量を設定してもよく、この場合も、Bパターンと同様の効果が得られる。
【0030】
Cパターンにより洗浄を行う場合は、最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を標準の圧力より低くすることで、洗浄エアにより押出されて回転霧化頭1のハブ12に衝突する塗料の速度が低くり、この結果、センターコーン12の摩耗が抑えられる。この場合、流体流速が10m/sec以下となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を設定することで、塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合でも、回転霧化頭の摩耗を抑えることが可能になる。
【実施例1】
【0031】
図1に示した塗装機1を用いて、人工雲母を含む♯209塗料を用いて静電塗装を行った後、最初に塗料径路に供給する洗浄液(シンナー)の流量と供給時間(オン時間)とを表1に示すように種々に変化させて初期洗浄を行った。そして、この初期洗浄後、新鮮なシンナーを再び塗料径路に供給して回転霧化頭2からの噴霧液を採取し、濁度計により濁度を測定すると共に、回転霧化頭2のセンターコーン12の摩耗状況を目視により観察して摩耗程度を判定した。表1には、濁度計による測定結果および摩耗状況の判定結果を併記している。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すテストNo.3,4,5,6の比較より、洗浄液の供給流量を標準(900ml)に設定した場合、洗浄液の供給時間が標準(0.7sec)より長くなるに従って濁度が高くなっている様子が明らかである。また、テストNo.4と7の比較より、洗浄液の供給時間が同じ(1.0sec)場合、洗浄液の供給流量を増大させる(900→1200ml/min)程、濁度が高くなっている。さらに、テストNo.1と6との比較より、洗浄液の供給時間が同じ(1.6sec)場合、洗浄液の供給流量を減少させる(900→800ml/min)程、濁度が低くなっている。
【0034】
一方、濁度とセンターコーン12の摩耗状況とを比較すると、濁度50%付近に評価の分岐点が認められ、センターコーン12の摩耗をできるだけ抑えるには、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間および/または供給流量を設定することが望ましいことが分る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る洗浄方法の実施対象である回転霧化静電塗装機の要部構造を示す断面図である。
【図2】本発明で採用する洗浄パターンを類型的に示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 回転霧化静電塗装機
2 回転霧化頭
3 エアモータ
4 塗料フィードチューブ(塗料径路)
6 シェーピングエア吐出用リング部材
9 接続通路(塗料径路)
10 ハブ
12 センターコーン
20 塗料切替バルブ装置
22 洗浄液用液バルブ
23 洗浄エア用エアバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転霧化頭に塗料を供給する塗料径路に、洗浄エアと洗浄液とをこの順序でまたは逆の順序で交互に供給して、該塗料経路内に残存する塗料を洗浄する回転霧化静電塗装機の洗浄方法において、洗浄すべき塗料に含まれる顔料の硬度が所定以上の場合に、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を、前記回転霧化頭の摩耗を抑えることができる条件に変更することを特徴とする回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【請求項2】
洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、最初に塗料径路に供給する洗浄エアまたは洗浄液の供給条件を変更することを特徴とする請求項1に記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【請求項3】
洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、塗料径路内を流通する流体流速が10m/sec以下となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄エアの圧力を設定することを特徴とする請求項2に記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄すべき塗料に含まれる顔料のモース硬度が2.7以上の場合に、初期洗浄後の塗料径路の汚れ程度が濁度50%以上となるように、最初に塗料径路に供給する洗浄液の供給時間および/または供給流量を設定することを特徴とする請求項2に記載の回転霧化静電塗装機の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−34577(P2009−34577A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199152(P2007−199152)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】