説明

固体からリンを選択的に回収する方法

本発明は、重金属およびリン酸塩を含有する固体からリンを選択的に得る方法に関する。この方法では、重金属およびリン酸塩が固体から放出され、浸出されたリン酸塩がポリリン酸塩集積微生物によって取り込まれてもよいように、浸出微生物およびリン酸塩集積微生物を含む微生物を用いて酸性好気条件下で前記固体が処理される。この方法で得られた、リンが濃縮されたバイオマスは分離されて、例えば有機肥料として利用されてもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属およびリン酸塩含有固体材料からリンを選択的に得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは、植物の成長に制限的な栄養であり、専ら結合した形態で存在し、既知の形態で枯渇し得る堆積物からリン酸塩鉱石の形態で発掘される。鉱石リン酸塩は主に処理されて、植物が利用可能な無機質肥料となる。
【0003】
家庭または産業からの排水処理によって、農業に利用され得る汚泥が生じる。なぜなら、栄養源となる窒素およびリンが汚泥に含まれているからである。しかしながら、汚泥はまた、重金属(例えば鉛やカドミウム)などの汚染物質を含むため、汚泥の農業利用はますます困難である。したがって、選択的な回収によって、重金属から、汚泥に含まれる非常に純度が高いリン酸塩に対する試みが行われている。
【0004】
リンは、溶解しない形態でのみ排水から回収または除去され、後の生物学的方法および化学的−物理的方法が分化し得る。
【0005】
化学的−物理的なリンの除去では、沈殿剤の添加によって、溶解するリン酸塩が沈殿する。沈殿剤としては、Fe3+、Al3+、Fe2+、およびCa2+が好ましく使用される。しかしながら、不利なことに、沈殿剤は部分的に、商業的処理の副生成物または廃棄物であり、したがって、重金属や有機ハロゲン化合物などの不純物を含み、汚泥の汚染物質負荷が増加する。そのうえ、リン酸鉄は植物に取り込まれない。しかしながら、純度が高い形態での沈殿剤の使用は費用がかかる。
【0006】
汚泥焼却灰などの固体からのリンの適度な回収のために、化学的に結合したリンを可溶化させることが必要である。しかしながら、化学的−物理的に結合したリンをかなりの割合で可溶化させるには、酸を用いて低pH値にすることでのみ可能になる。概して、リン酸塩の可溶化は無機酸を用いた酸分解によって実行され、続いて選択的な沈殿工程が行われる。このシーボーン(Seaborne)工程ではたとえば、最初に、酸の添加により、結合するリンが重金属とともに続いて可溶化する嫌気スラッジ処理が実行される。次に、pH値が再び上昇し、HSを用いて重金属が選択的に沈殿されて除去される。さらなる工程では、二価の金属の添加により、リンが選択的に沈殿する。しかしながら、これらの工程は時間を要しかつ費用がかかる。
【0007】
改良された生物学的リンの除去は、ポリリン酸塩貯蔵またはリン酸塩集積微生物(特に細菌)の能力を利用して、粒子の形態でエネルギー豊富なポリリン酸塩としてリンを集積する。このプロセスはバイオ−Pプロセスとして知られており、溶解するリン酸塩の回収のために排水処理に広く利用されている。改良された生物学的リンの除去のプロセスは、例えば、旧東ドイツ専用特許282902A5公報、ドイツ公開特許第A−3602736A1号公報、ドイツ公開特許第19635391A1公報、イギリス公開特許第2351284A号、およびドイツ公開特許第102005007408A1号公報に開示されている。生物学的リン除去によって排水流から除去されたリンは、過剰のスラッジとともに系から除去される。
【0008】
しかしながら、改良された生物学的リンの除去は、化学的に結合したリンの回収に直接応用できない。汚泥焼却灰などのリン含有固体では、しかしながら、リンは少なくとも部分的に、化学的に結合した形態で存在している。汚泥焼却灰では、リンは全体的に、前記灰中で残渣として残っている。Pb,Cd,Cu,Cr,Hg,NiおよびZnなどの重金属は概して、微量元素としてのみ前記灰に存在しているが、それにもかかわらず、肥料のための規則および規制で規定される最大許容値を超えるかもしれない。このことは、前記灰のさらなる処理を必要とさせる。加えて、さらなる処理を行わない場合、前記灰において大部分がリン灰石の形態で存在するリンの利用可能性は、植物の栄養供給のための土壌には不十分である。
【0009】
リンを回収する従来の方法は、多数の連続した沈殿工程と、処理される材料におけるリンの量が異なることに起因して、大規模では技術的に複雑である、沈殿物の正確な計測とを必要とする。そのうえ、沈殿は、費用がかかり、かつ望ましくない環境汚染を引き起こすかもしれない付加的な化学物質の導入を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】旧東ドイツ専用特許282902A5公報
【特許文献2】ドイツ公開特許第A−3602736A1号公報
【特許文献3】ドイツ公開特許第19635391A1公報
【特許文献4】イギリス公開特許第2351284A号公報
【特許文献5】ドイツ公開特許第102005007408A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、リンが重金属から単離された遊離の状態であってもよい、重金属およびリン酸塩を含有する固体からリンを得るための単純でかつ費用効果に優れた方法を提供することである。浸出活動を有する微生物(浸出微生物)およびリン酸塩再固定(特にリン酸塩集積)微生物とともに固体が同時に処理された場合、リンは、このような固体から効率的に放出され、重金属から分離されるかもしれないことが明らかになった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、請求項1で規定される、重金属およびリン酸塩を含有する固体からリンを選択的に得る方法であって、前記方法は、
−前記固体からの重金属およびリン酸塩の放出のため、および、ポリリン酸塩集積微生物による、放出されたリン酸塩の取り込みのために、酸性好気条件下で、浸出微生物および前記リン酸塩集積微生物を含む微生物を用いて重金属およびリンを含有する固体を処理する工程と、
−リンが濃縮されたバイオマスを分離する工程、
を含む。
【0013】
驚くべきことに、リン酸再固定微生物(特にポリリン酸集積微生物)は、重金属およびリン酸塩の浸出が生じる酸性条件下であっても、リン酸塩の生物学的集積が可能であることが明らかになった。この方法では、望ましくない重金属からリンをバイオマスの形態で分離することができ、さらなる利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の方法の模式的な説明である。
【図2】図2は、11日間の処理の後に、硫黄酸化細菌(Acidithiobacillus)を豊富に含む消化スラッジ(AEDS)を用いた、汚泥焼却灰から金属の浸出率を示す。焼却は、汚泥焼却灰における総金属含有量に関する。
【図3】図3は、11日間経過後の純粋な硫黄酸化細菌の培地(四角)と比較した、AEDSに関する溶解リン酸塩の量(丸)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にしたがって用いられる浸出微生物は好気性硫黄酸化微生物、例えば硫黄酸化細菌および古細菌であり、これらは、鉱石から重金属を得るための既知の従来の生物学的浸出工程(生物学的浸出:bioleaching)で使用される。これらの微生物は、硫化物および元素硫黄を、硫酸を最終的に形成する硫酸塩に酸化することにより、重金属硫化物を可溶化することができる。浸出に適した微生物は限定されないが、アシジチオバシラス属(genera Acidithiobacillus)、レプトスピリルム(Leptospirillum)、スルフォバシラス(Sulfobacillus)、アシジマイクロビウム(Acidimicrobium)、フェロプラズマ(Ferroplasma)、スルフォロバス(Sulfolobus)、アシジアヌス(Acidianus)、メタロスファエレア(Metallosphaerea)、フルビモナス(Fulvimonas)、ロダノバクター(Rhodanobacter)、アリシクロバシラス(Alicyclobacillus)、ディエラ(Dyella)、ドクドネラ(Dokdonella)、およびアシジフィリウム(Acidiphilium)である。微生物の種類の例としては、アシジチオバシラス チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)、アシジチオバシラス フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)、アシジチオバシラス カルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシジチオバシラス アルベルテンシス(Acidithiobacillus albertensis)、レプトスピリルム フェロオキシダンス(Leptospirillum ferrooxidans)、レプトスピリルム フェリフィルム(Leptospirillum ferriphilum)、フルビモナス ソリ(Fulvimonas soli)、ロダノバクター チオオキシダンス(Rhodanobacter thiooxydans)、アリシクロバシラス フェロオキシダンス(Alicyclobacillus ferrooxydans)、ディエラ イオジェンシス(Dyella yeojuensis)、ドクドネラ コレエンシス(Dokdonella koreensis)、およびアシジフィルム クリプトム(Acidiphilum cryptum)が挙げられる。硫黄酸化細菌の種としては、例えば、アシジチオバシラス チオオキシダンスおよびアシジチオバシラス フェロオキシダンスが特に好ましい浸出微生物である。
【0016】
リン酸塩再固定微生物、特にリン酸塩集積微生物(例えば、ポリリン酸塩集積細菌(バイオP細菌としても知られている))は、細胞内にリンを通常より多く取り込み保存する好気性微生物である。リン酸塩再固定細菌およびリン酸塩集積細菌はよく知られているように、例えば下水処理プラント(例えば、バイオPタンク)内や嫌気的に安定化された汚泥(消化スラッジ)内で検出され、約95〜99%の水と5〜1%の固体の混合物である。バイオPタンクの活性化スラッジ内または消化塔内における嫌気/アニオン性条件の場合、多数の好気性微生物が栄養の取り込み能力を失っている。このようなストレスがある条件下では、ポリリン酸塩集積微生物は、リン酸塩を放出することによって、蓄えたリン酸塩からエネルギーを利用する。次いで、細胞にとって酸素が再び利用可能である場合、細菌は、リン酸塩の形態でエネルギー貯蔵を再び増やし、このプロセスでは、以前に放出されたよりも多くのリン酸塩を取り込む。好気条件下でリン酸塩を再び貯蔵する好気ストレス条件の後のポリリン酸集積微生物は、以降、「嫌気状態」のポリリン酸集積微生物ともいう。「嫌気状態」の微生物の使用が好ましい。本発明の方法で使用されてもよい例示的なポリリン酸塩集積微生物は限定されないが、シュードモナス属(genera Pseudomonas)、エアロモナス(Aeromonas)、ロドシクルス(Rhodocyclus)、テトラスフェラ(Tetrasphera)、およびアシネトバクター(Acinetobacter)である。
【0017】
本発明によれば、硫黄酸化浸出微生物およびリン酸塩再固定微生物(特にポリリン酸塩集積微生物)はともに浸出液として使用され、本方法の酸性条件下で放出されるリン酸塩は、リン酸塩再固定微生物およびポリリン酸集積微生物によって集積される。微生物は単一の培地に由来していてもよく、または、例えば、土壌サンプルまたはスラッジに由来していてもよい。これらは適切な培地で単独でまたは一緒に培養されてもよく、ポリリン酸集積微生物の場合は、リン酸塩の貯蔵を減らすために、嫌気性ストレスに任意に曝してもよく、次いで、本発明の方法において酸性条件下で混合物として使用してもよい。典型的には、本発明の方法で使用される微生物は、様々な種類の浸出微生物およびリン酸塩再固定微生物(特に、ポリリン酸塩集積微生物)をむ。微生物のための出発材料に応じて、本発明で使用される混合物は、したがって、好気性微生物および嫌気性微生物も含む。
【0018】
しかしながら、好ましくは、本発明の方法で使用される微生物の混合物は、嫌気状態のポリリン酸塩集積微生物を含む水性出発材料中で硫黄酸化浸出微生物を濃縮することによって得られる。ポリリン酸塩集積微生物を含む出発材料の例は、バイオPタンクの嫌気ステージで検出される、嫌気的に安定化された汚泥または材料である。出発物質としては、嫌気的に安定化された汚泥が好ましい。好気条件下で、例えば、易酸化性の硫黄原を添加した状態で、例えば、元素硫黄または硫化物の形態で、好ましくは硫化鉄(二価)(FeSO)とともに、内因性微生物として硫黄酸化微生物(特に、アシジチオバシラス
チオオキシダンスおよびアシジチオバシラス フェロオキシダンス)も通常含む出発物質を培養することにより、硫黄酸化微生物の濃縮が適切に達成される。硫黄酸化微生物は、炭素源としてCOを利用し、これらの条件下で優先的に成長する。しかしながら、任意に、所望の硫黄酸化微生物を出発材料に添加することも可能であり、これによりさらに濃縮される。培養は好ましくは、15℃から37℃の間、好ましくは20℃から30℃の間の温度で達成される。アシジチオバシラス
チオオキシダンスなどの硫黄酸化微生物は、プロセス中で大量の硫酸を生産するため、出発物質のpH値は通常7から8の間であり、2を下回ってもよい。驚くべきことに、ポリリン酸集積微生物は、このような酸性条件下での培養に耐えることが明らかになった。培養は、pHが所望の値に達するまで続けられ、有利には、pH値が4.0未満であり、より好ましくは1.5から3.5の間(例えば1.5から3.5の間または2.0から3.5の間)であり、最も好ましくは1.5から2.5の間(例えば2.2から2.5の間)である。次いで、固体粒子は好ましくは除去される。培養で得られた培養液は、硫黄酸化微生物およびポリリン酸集積微生物を含み、本発明の方法において浸出液として使用されてもよい。このような浸出液はそれに応じて、出発物質に存在する他の好気性微生物または嫌気性微生物も含んでいてもよい。
【0019】
濃縮された硫黄酸化浸出微生物および嫌気状態のポリリン酸塩集積微生物を含む、このように得られた微生物組成物はまた、本発明の主題である。
【0020】
リン酸塩を得るための本発明の方法によって処理され得る固体は、重金属およびリン酸塩を含む浸出可能な固体である。このような固体は自然に生じたものであってもよいし、または、後の熱処理または脱水素化によって得られたものであってもよい。本発明の方法を用いて有利に処理され得る固体の例は、汚泥焼却灰などの燃焼灰、肉および骨肉、産業スラグ、土壌材料、スラッジ(泥)、埋め立てゴミ、および液肥などである。
【0021】
本発明に係る固体の処理では、浸出微生物は、重金属硫化物を酸化して、これにより金属を可溶化する。並行して、化学的に結合したリンは放出され、これらの酸性浸出条件下で同様に放出されかつ可溶化される。処理された固体における硫黄の含有量が非常に低い場合、例えば、元素硫黄または硫化物の形態にて、易酸化性硫黄を添加することによって処理を実行してもよい。
【0022】
本発明の方法は通常、pH値≦4.0で実行され、より好ましくは1.0から3.5の間(例えば1.5から3.5の間または2.0から3.5の間)であり、最も好ましくは1.5から2.5の間(例えば2.2から2.5の間)である。当業者は、簡単な実験によって最適なpH値を決定することができ、かつ、必要に応じてpH値を安定に維持することができると思われる。
【0023】
本発明の方法は通常、15℃から30℃の間(好ましくは20℃から25℃の間)の温度で実行される。
【0024】
リン酸塩再固定細菌およびポリリン酸塩集積細菌による、低いpH値での驚くべき耐性によって、これらの細菌は、放出されたリン酸塩の集積をさらに増加させることができる。これが非常に急速に生じるかもしれないのは、電子受容体としての嫌気性型微生物にとって、酸素が十分に存在するからである。これらの条件は、リン酸再固定細菌およびポリリン酸集積細菌の指数関数的成長をもたらし、浸出したリン酸塩が、内因性エネルギーキャリアとして、ポリリン酸の形態で再固定または集積される。浸出された重金属は溶液に存在したままである。
【0025】
概して、重金属およびリンを含む固体の処理は、硫黄酸化微生物および嫌気状態のポリリン酸集積浸出微生物を含む酸性浸出液を、処理される媒体を介して透過させて行われる。この処理は例えば、ダンプまたは堆積浸出の形態、あるいは堆積ろ過(ウエットスタッキング)の形態を有する。有利には、浸出される固体は、硫黄酸化浸出微生物および嫌気状態のポリリン酸集積微生物を含む酸性浸出液が透過するパーコレーターに存在する。浸出液は貯蔵庫(適切には撹拌反応器)内に存在する。好ましくは、透過された浸出液は、好ましくは貯蔵庫を介してパーコレーター内で再利用される。このような操作仕様は浸出率を改善する。さらに、連続する再利用は、微生物の連続供給とともに、重金属およびリンの最適な溶解率を保証する。
【0026】
このように、生産されたリン酸塩濃縮バイオマスは、例えば遠心分離または濾過によって浸出液から除去される。除去された微生物は、新鮮な微生物と連続的に置換されてもよい。浸出液におけるリン酸塩の濃度が最小値になるとき、リンが濃縮されたバイオマスの適切な除去が達成される。バイオマスに加えて、任意に、重金属が濃縮された浸出液および/または重金属が低減された固体材料は除去されて、再利用のために供給されてもよい。
【0027】
集積されたリンは植物に利用可能であり、望ましくない重金属を含まない。最終的に得られたバイオマスは、植物に利用可能な栄養源(例えば、有機肥料として、または土壌改良剤のために)使用してもよい。したがって、上述した方法は、金属を含みかつリンを豊富に含む固体の生物学的浸出を可能にし、同時に、リンの選択的回収を可能にする。一方、本発明の方法は、コスト面で効率的であり、環境上の互換性がある、栄養源であるリンの再利用方法である。同時に、この方法は、汚染された固体を脱汚染化する点で優れており、重金属を低減し、これにより、土壌改善する。重金属中で低減された固体は直ぐに再利用してもよく、例えば、建設材料として再利用してもよく、特に、道路建設用に再利用してもよい。なぜなら、このような用途に要求される、重金属による汚染の閾値を超えることがないからである。加えて、例えば、最終的に得られる浸出液に含まれる重金属を膜アセンブリによって濃縮することにより、本発明の方法を、効率的な流通および処理された固体材料からの重金属の回収のために同時に使用してもよい。
【0028】
添付の図を参照して、下記の実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されないと理解すべきである。
【実施例】
【0029】
自治体の下水処理プラントから得られた嫌気状態の汚泥(消化スラッジ、固体含量約6%)を出発材料として用いた。消化塔での滞在時間に起因して、この消化スラッジは、空のリン酸塩の貯蔵庫を有する嫌気状態のポリリン酸集積微生物を含む。サンプルは、2リットルのポリプロピレンのビンに収集され、使用するまで4℃で保存した。
【0030】
硫黄酸化浸出微生物は消化スラッジ中に豊富に存在し、エネルギー源として元素硫黄が添加され、炭素源としてCOが供給される。表1に示されるように、2リットルの撹拌反応器(1)中で2リットルの嫌気状態の汚泥に、酸素および二酸化炭素を含有する圧縮空気を用いて好気状態にて撹拌しながら(250rpm)、10g/lの元素硫黄を添加した。濃縮は、さらなる栄養の追加を行わずに室温(25℃)で行われた。細菌の成長を監視するために、pHの測定は毎日行われた。pH値が2.3〜2.4に達した後(約22時間後)、バッチを25,000gで20分間遠心分離した。硫黄酸化浸出微生物中が豊富に存在し、ポリリン酸集積微生物を未だに含む上清(約800ml;以下「AEDS」とする)は第2の撹拌反応器(2)に移されて、浸出液として用いられる。残渣を廃棄した。
【0031】
浸出される固体が存在するガラス製フリット(4)を有するパーコレーター(3)に撹拌反応器(2)を取り付けた。本実施例では、2gの汚泥焼却灰を用いた。
【0032】
蠕動ポンプ(5)(流速25ml/分)を用いて、AEDSは撹拌反応器(2)からパーコレーター(3)に移され、ガラス製フリット(4)を経て、浸出された固体とともに反応器(2)へと回収され、このサイクルが11日間続けられる。この操作モードにおいてpH値は実質的に安定に保持される。0.45μmフィルタによって濾過された試料の採取(約7ml)を24時間毎に行った。
【0033】
濃縮HNOは、重金属分析を行う予定の試料に添加された(1:3の比)。11日間の処理の後、AEDSによって放出される重金属の比率がICP−MS(誘導結合プラズマ−質量スペクトル分析)によって決定された。図2は、汚泥焼却灰における重金属の総含有量に対する、溶液中の重金属の含有量を示す。これにより、汚泥焼却灰に含まれる重金属の40%(銅)から70%(亜鉛)が可溶化された。
【0034】
AEDSのリン含有量は、イオンクロマトグラフィーおよび光度測定を用いて決定された。AEDSに含まれるリン酸集積細菌による溶解したリン酸塩またはリン酸塩の継時的な集積が図3に示されている(丸)。AEDSを用いて汚泥焼却灰を処理した後の約2−4日間、浸出液に存在するリン酸塩集積細菌の成長に起因する、AEDSの顕著な濁りが観測された。これはさらに、生物学的浸出(bio-leaching)の著しい増加によって放出されたリンの生物学的集積の機会である。図3に示されるように、集積に起因して、溶解するリン酸塩の量は、3日目の約300mg/lから11日目の0mg/lに減少した。しかしながら、リン酸塩集積細菌を含まない、特異的に最適化された栄養媒体における硫黄酸化細菌の純粋な培地が使用された場合、溶液からのリンの集積は著しく少なかった(図3、四角)。
【0035】
溶液におけるリンの含有量が最小値に達したとき、リン酸塩を豊富に含むバイオマスが、依然溶解している重金属から遠心分離によって分離された。
【0036】
したがって、本発明の方法は、リンの選択的な回収を可能にすると同時に、金属を含有しかつリンを豊富に含む固体の効率的な生物学的浸出を可能にする。また、処理された固体から、集められた重金属を回収してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属およびリン酸塩を含有する固体からリンを選択的に得る方法であって、
前記固体からの重金属およびリン酸塩の放出のため、および、ポリリン酸塩集積微生物による、放出されたリン酸塩の取り込みのために、酸性好気条件下で、浸出微生物および前記リン酸塩集積微生物を含む微生物を用いて重金属およびリンを含有する固体を処理する工程と、
リンが濃縮されたバイオマスを分離する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ポリリン酸塩集積微生物は、嫌気状態のポリリン酸塩集積微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理される固体は、汚泥焼却灰、産業スラグ、土壌材料、スラッジ、埋め立てゴミ、または液肥である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記固体の処理は、pH値が2.0から3.5の間、好ましくは2.2から2.5の間で実行される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記固体の処理は、15℃から37℃の間、好ましくは20℃から30℃の間の温度で実行される、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理は、易酸化性硫黄の添加により生じる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(a)嫌気状態のポリリン酸塩集積微生物を含む水性出発材料中で培養することにより、硫黄酸化微生物を濃縮する工程と、
(b)前記固体からの重金属およびリン酸塩の放出のため、および、培地に含まれる前記ポリリン酸塩集積微生物によって放出されたリン酸塩の取り込みのために、好気条件下で、前記工程(a)で得られた酸性浸出液を用いて、重金属およびリンを含有する前記固体を処理する工程と、
(c)リンが濃縮されたバイオマスを分離する工程と、
を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記出発材料は、嫌気状態の汚泥である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記固体は、硫黄酸化浸出微生物および嫌気状態のポリリン酸集積微生物を含む酸性浸出液が浸透するパーコレーターに存在する、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
浸透された前記浸出液は、前記パーコレーター内で連続的に再利用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
新鮮な浸出微生物およびポリリン酸集積微生物を供給しながら、前記処理が実行される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記浸出液におけるリン酸塩の濃度が最小値に達したときに、リンが濃縮されたバイオマスの分離が生じる、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
リンが濃縮されたバイオマスに加えて、重金属が濃縮された前記浸出液および/または重金属が低減された前記固体物質が単離される、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
嫌気状態のポリリン酸集積微生物を含む水性出発材料中で硫黄酸化微生物を濃縮することによって得ることができる、微生物組成物。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる、リンが濃縮されたバイオマス。
【請求項16】
植物が利用可能な栄養源としての、請求項15に記載のバイオマスの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−500002(P2012−500002A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522521(P2011−522521)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060562
【国際公開番号】WO2010/018228
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(506010002)ゲオルグ フリッツマイヤー ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲー (4)
【氏名又は名称原語表記】Georg Fritzmeier GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Forststr. 2, 85655 Grosshelfendorf, Germany
【Fターム(参考)】