固体レーザ発振装置
【課題】シングルパス吸収率の低い固体レーザ媒質を備えた固体レーザ発振装置において、高い励起光実効吸収率を実現し、小型かつ高出力な出力光を得る。
【解決手段】固体レーザ媒質4の両端面4a、4bが、励起光7を共振させる共振ミラーとして機能する共振器3を構成するものとし、励起手段2を、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力し、共振器3内で共振するように固体レーザ媒質4に入力するものとする。
【解決手段】固体レーザ媒質4の両端面4a、4bが、励起光7を共振させる共振ミラーとして機能する共振器3を構成するものとし、励起手段2を、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力し、共振器3内で共振するように固体レーザ媒質4に入力するものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体レーザ発振装置に関し、特に高効率動作が可能な固体レーザ発振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体レーザ(LD)を励起光源とし、希土類イオン(あるいは遷移金属イオン)をホストに添加した固体レーザ媒質を利用した固体レーザ装置が活発に開発されてきている。その多くがネオジム(Nd)を活性イオンとし、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)やイットリウム・バナデート(YVO4)などのホスト結晶(あるいはガラス)にこれらのイオンを添加した固体レーザ結晶(固体レーザ媒質)を用いている。この場合、励起光の吸収係数αが比較的高く(5〜30cm-1)、数mmの結晶長(媒質長)dでLDからの励起光の光パワーをほぼ吸収することができる。ここで固体レーザ媒質におけるシングルパスでの吸収率ηabsは次式(1)で表される。
【0003】
ηabs=1−exp(−αd)・・・(1)
例えば、Nd:YVO4(1at%添加濃度)では、励起光吸収係数α=30cm-1(励起波長808.9nm)が得られ、結晶長1mmにて、シングルパス吸収率ηabsは95%にも達する。つまり、励起パワーを結晶長1mmで効率良く吸収することができる。Nd:YAG(濃度1at%)では、励起光吸収係数α=5cm-1(励起波長808nm)であるため、結晶長2mm程度で、シングルパス吸収率ηabs=63%が得られる。一般的には、励起光の吸収率を高めることが、高い固体レーザ装置の総合効率(電気入力から光出力への効率)向上のために必須である。また短い結晶長で励起光を吸収できるため、小型LD励起固体レーザ装置が実現可能である。
【0004】
それに対し、吸収係数の低い固体レーザ媒質では、数mm程度の結晶長ではシングルパス吸収率が1〜20%程度と著しく小さくなってしまう場合がある。たとえば、Nd:YAGでのホットバンド励起(励起波長885nm)を行う場合、吸収係数α=1.6cm-1であり、1mm長の結晶では15%程度の吸収になる。さらにTi:Sapphireレーザ結晶(チタンイオン添加サファイア固体レーザ媒質)においては、吸収係数α=0.6cm-1(励起波長532nm)であり、結晶長2mmで吸収率ηabs =11%、結晶長3mmでも吸収率ηabs =16%と非常に低い。なお、吸収係数αが小さい媒質でも、結晶長dを大きくして、吸収係数と結晶長の積αdが2.3以上となるようにすれば、シングルパス吸収率ηabs >90%と高くすることはできるが、結晶が大型になることからコストが増大するという欠点がある。
【0005】
また吸収係数が比較的高い場合でも、準3準位レーザ発振をさせる場合、結晶長dを伸長することは、レーザ発振光に対する自己吸収、ひいては発振閾値の増大に繋がるため、できる限り避けたい。例えば、Nd:YAGの946nm発振(4F3/2→4I9/2)や、Yb:YAG(2F5/2→2F7/2)は準3準位系であり、励起光の高い吸収と、低い発振閾値を両立させることは難しい。Nd:YAG以外にも、準3準位系レーザ発振を呈するレーザ結晶は多くあり、Pr:YLF(LiYF4)での青色発振(480nm、3P0→3H4)、Pr:YAGでの青色発振(488nm、3P0→3H4)、Tm:YLFでの青色発振(482nm、1G4→3H6)、Er:YLFでの緑色発振(551nm、4S3/2→4I15/2)などの可視発光は準3準位系レーザ発振に相当する。
【0006】
従来から、励起光の吸収率を上げる幾つかの工夫が提案されている。例えば、励起光を結晶端面または外部に設けられたミラーなどにより折り返して、ダブルパスさせる手法が最も簡便でよく用いられる方法である(非特許文献1)。この場合、吸収長が結晶長の2倍になり、吸収率も向上する。しかし吸収係数がごく低い場合では、2倍程度の吸収長の伸長では効果が薄い場合が多い。例えば、先のNd:YAGホットバンド励起では、媒質長Lを1mmから2mmへと拡大したとしても、ηabs=27%と約2倍にはなるものの、非常に低いことには変わりない。これ以上のマルチパス化は、簡便な光学系では難しい。
【0007】
一方、軸をずらしながら像転送(イメージリレー)を用いて、励起光をマルチパスさせる方法が実現されている。実際、薄ディスク型のYb:YAG結晶(厚み0.2〜0.5mm)を16回通過させる光学系が提案されている(非特許文献2参照)。しかしこの場合、非常に複雑な光学系を、精密な位置合わせにより配置しなければならない。
【0008】
以上の例は励起光をインコヒーレントな光として扱う場合である。一方、励起レーザのコヒーレンス(可干渉性)を利用する例としては、狭線幅の単一周波数(単一縦モード)発振している半導体レーザを用いて、外部共振器による共振効果を利用するものが提案され、実証されている。この場合、励起レーザの発振周波数は温度あるいは電流制御により外部共振器の縦モードに同調され、外部共振器における励起レーザに対する共振状態を維持している。レーザ結晶はこの外部共振器内に配置され、励起光は外部共振器内を多重回往復する。このことで、レーザ結晶のシングルパス吸収率が低くても、実効的に、吸収長が10から100倍程度に伸長したのと同じ効果が得られ、励起光が効率よく吸収される(非特許文献3、4および特許文献1)。
【0009】
非特許文献3に記載の従来例では、図14に示すように、単一周波数発振半導体レーザ(波長810nm)を励起光源101とし、Nd:YAG結晶102を励起する。Nd:YAG結晶102のリア側(LD側)102aと出力鏡103で、レーザ発振光108に対する共振器を組むと同時に、励起光107に対する外部共振器としても動作させている。Nd:YAGリア側102aは、レーザ発振光108に対して高反射、810nm励起光107に対して部分反射(反射率85%)とし、出力鏡103は、レーザ発振光108に対しては部分反射(99.5%)し、励起光107に対しては高反射としている。共振器長は10mmであった。Nd:YAG結晶102は0.3mm厚み、Nd濃度1at%である。励起パワー10mWに対し、出力光109の出力パワーとして1mW(波長946nm)が得られている。シングルパス吸収は記載が無いが15%と推定できる。この例では、946nm発振は準3準位系であり、シングルパス吸収をより高く取ると、レーザ下準位による自己吸収損失が増え、発振効率低下を来たすため、敢えて非常に薄いレーザ結晶を採用している。
【0010】
非特許文献4および特許文献5では、同じくNd:YAG結晶を用いて946nm発振を実現している。図15に示すように、0.33mm厚みのレーザ結晶105の端面を共振器ミラーとし、励起光107とレーザ発振光108両方に対する共振器を構成している。また、図示していないが、波長同調回路を設けることで安定した動作を実現している。この例では、励起パワー60mWに対し、出力30mWの946nm発振109を得ている。シングルパス吸収は18%であった。
【0011】
図14および図15に示した従来例では、単一周波数(単一縦モード)連続発振LDを励起光源として使用している。しかし、単一周波数発振の励起レーザの高出力化は難しい。単一周波数発振させるためには、共振器内にエタロン、回折格子や分布帰還(DFB)構造を設け、所望のレーザ発振周波数のみ発振させ、他の周波数に対し損失を被らせる必要があり、励起レーザ光出力の低下を招くことが多い。これは必然的に、この励起レーザを用いた固体レーザの出力低下を招くことになる。一般的に単一周波数発振半導体レーザの出力は10mW〜100mW程度に限定されている。
【特許文献1】米国特許第5048047号明細書
【非特許文献1】T.Taira et al., IEEE J. Selected Topics on Quantum Electronics vol.3 No.1 (1997) pp.100-104.
【非特許文献2】C. Stewen et al., IEEE J. Selected Topics on Quantum Electronics vol.6 No.4 (2000) pp.650-657.
【非特許文献3】J. P. Cuthbertson et al.,Optics Letters vol.16 no.6 (1991) pp.396-398.
【非特許文献4】W. J. Kozlovsky et al.,IEEE J. Quantum Electron. vol.28 no.4 (1992) pp.1139-1141.
【非特許文献5】T. Skettrup,Journal of optics A:Pure and Applied Optics vol.2 (2000) pp. 546-549.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、従来、シングルパス吸収率の低い固体レーザ媒質に対して、実効吸収率を高めるためには、(1)多重パス励起光学系を用いる、(2)狭線幅の単一周波数励起レーザを用いて外部共振器による吸収増強を行う、という2つの手法が提案あるいは実現されている。
【0013】
しかしながら、(1)の手法では励起光学系が著しく複雑あるいは大型になるという問題があり、(2)の手法では、励起光の狭帯域化により励起パワーが低減し、レーザ出力を高く取れないという問題があり、小型で高出力な固体レーザ装置は実現されていない。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、シングルパス吸収率の低い固体レーザ媒質に対し、高い実効吸収率を実現しつつ、小型・高出力な固体レーザ発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
さて、レーザ光のコヒーレンス長Lcは、ローレンツ型のスペクトル分布を考慮すると、スペクトル線幅Δνの関数として次式(2)で与えられる。
【数1】
【0016】
ただし、c:光速、Δν:光源のスペクトル線幅(周波数幅)である。(非特許文献5の(2)式、あるいはA.Yariv著、「光エレクトロニクスの基礎」、第10章、 原書第三版、丸善 参照のこと)
一般的に、単一周波数連続発振LDのスペクトル線幅は、100kHzから10MHz程度であるため、その場合のコヒーレンス長は、Lc=9.5m(10MHz)〜950m(100kHz)と非常に長く取れる。このため、報告例のレーザ装置(外部共振器の共振器長<1cm)では、励起光は実効的に外部共振器内を完全にコヒーレント光として往復することになり、先に述べた励起光が強めあう効果が期待できる。
【0017】
一方、本発明者は、上記(2)式から、励起光の高い吸収率を実現するために必要な励起光のスペクトル線幅は、外部共振器の共振器長および所望の実効吸収率の関数であるため、励起レーザは狭線幅の単一周波数発振していなくとも良いことを見出した。また励起レーザとして、単一縦モードではない、例えばマルチ縦モードのファブリペロー型LDは、出力パワーとして数100mWから1W程度まで発振可能である。
【0018】
本発明は、上記発明者による知見に基づいてなされたものであり、本発明の固体レーザ発振装置は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質が内部に配置され、該固体レーザ媒質からの出力光をレーザ発振させるための第1の共振器と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備えた固体レーザ発振装置において、
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記第2の共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とするものである。
【0019】
上記構成の本発明の固体レーザ発振装置では、狭線幅の単一周波数発振の励起光を用いる従来技術に比べて励起光のコヒーレンス長を短くすることができ、コヒーレンス長は9.5m(10MHz)以下とすることができる。
【0020】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記固体レーザ媒質として、その励起光に対する吸収率がシングルパスで40%以下、さらには20%以下、さらには10%以下であるものを用いる場合に好適である。
【0021】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記第2の共振器を構成する共振ミラーのうち、前記励起光を該共振器内に導入する入力ミラーの励起光強度反射率R1が、
【数2】
【0022】
ただし、Rm:前記第2の共振器を構成する入力ミラー以外のミラーの励起光強度反射率と共振器周回での伝搬効率の積、γ=αdcosθ:前記固体レーザ媒質での周回あたりの励起光電界減衰係数、d:前記固体レーザ媒質の媒質長、α:前記励起光の前記固体レーザ媒質における吸収係数、θ:前記固体レーザ媒質への入射角、L:前記第2の共振器の共振器長、Lc:前記励起光のコヒーレンス長
を満たすものであることが望ましい。
【0023】
なお、前記第2の共振器が、複数の共振ミラーによりリング型共振器が構成されている場合、Rmは入力ミラー以外のミラー全ての励起光強度反射率と周回伝搬効率の積を表す。Lはラウンドトリップ共振器長である。
【0024】
前記固体レーザ媒質が可視光を発光するものであることが望ましい。また、励起手段がGaN系半導体レーザを備えていることが望ましい。GaN系半導体レーザとしては、例えばGaN半導体レーザ、InGaN半導体レーザ、AlGaN半導体レーザ等が挙げられる。
【0025】
さらに、前記固体レーザ媒質の両端面が、前記第1の共振器をも構成するものであることが望ましい。
【0026】
前記第1の共振器内に、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質を備えてもよい。非線形媒質は、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を第2高調波に変換する第2高調波発生非線形媒質であってもよいし、前記励起光と前記固体レーザ媒質からの発振光との和周波あるいは差周波を発生する非線形媒質であってもよい。
【0027】
本発明の第2の固体レーザ発振装置は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備え、
前記固体レーザ媒質の一端面と前記非線形媒質の一端面とが接合されており、
前記固体レーザ媒質の他端面と前記非線形媒質の他端面とにより、前記発振光および前記励起光の両者を共振させる共振器が構成されており、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とするものである。
【0028】
上記構成の本発明の固体レーザ発振装置では、狭線幅の単一周波数発振の励起光を用いる従来技術に比べて励起光のコヒーレンス長を短くすることができ、コヒーレンス長は9.5m(10MHz)以下とすることができる。
【0029】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記励起手段と、前記固体レーザ媒質とが同一のパッケージに搭載されていることが望ましい。また、この場合、前記励起手段と前記固体レーザ媒質とが単一の支持体もしくは接合されて一体化した支持体により保持されていることが望ましい。
【0030】
さらに、本発明の固体レーザ発振装置は、前記励起手段と固体レーザ媒質とを温度調節する温度調整手段を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の固体レーザ発振装置は、固体レーザ媒質の両端面が、励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、励起手段が、励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、第2の共振器内に入力するものであり、励起光が固体レーザ媒質を通過して複数回往復するように共振させるものであることから、シングルパス吸収率の低い固体レーザ結晶においても、実効吸収率を高めることが出来るため、高効率動作が可能となる。
【0032】
励起光として、縦単一モードのレーザ光を用いる場合と比較して、励起手段の構成を小型にすることができ、また、励起光を高出力にすることができることから、装置全体として小型かつ高出力な固体レーザ発振装置および固体レーザ増幅装置を構成することができる。固体レーザ媒質によるエタロン効果を利用することから、励起手段に半導体レーザからのレーザ光を狭帯域化するための狭帯域化手段を用いなくてもよく、さらなる装置の小型化を図ることができる。
【0033】
本発明の固体レーザ発振装置においては、シングルパス吸収率が、40%以下、20%以下、さらには10%以下と小さいものほど高効率化の効果を顕著に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1に、本発明の第1の実施形態の固体レーザ発振装置1の概略構成を示す。固体レーザ発振装置1は、固体レーザ媒質(固体レーザ結晶)を励起する励起手段である励起用レーザ2と、両端面にコートを施された固体レーザ結晶4と、励起用レーザ2からの励起光7の共振状態を検知し、励起用レーザ2にフィードバックを加える温度調節手段である温度制御器5(以下、制御器5という。)を有している。なお、共振状態とは、概念的には、励起光の周波数と外部共振器の周波数が一致し、位相が整合した状態であるが、実際には反射光7’が最小になった状態を共振状態として判断する。
【0036】
ここでは、レーザ結晶4のリア側端面4a、出力側端面4bにはそれぞれ所定のコートが施され、励起光7、発振光8それぞれの波長に対する高反射ミラーあるいは部分反射ミラーが構成され、このリア側端面4a(ミラーM1と称する。)と出力側端面4b(ミラーM2と称する。)とにより、励起光7および発振光8の両光を共振させる共振器3が構成されている。
【0037】
制御器5は、ミラーM1からの励起光7をハーフミラー10で反射させて得られた反射光7’を受光素子6により受光し、モニタすることにより、温度調節を行うものであり、ここでは励起用レーザ2に備えられている図示しないペルチェ素子等の冷却手段を制御するものであるが、励起用レーザ2および/またはレーザ結晶4の温度調整を行うことができればよい。
【0038】
励起用レーザ2は、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力し、共振器3内で共振するように固体レーザ結晶4に入力するものであり、図2に示すように、半導体レーザ11と、該半導体レーザ11からの励起光を平行光化するコリメートレンズ12と、平行光化された励起光のスペクトル幅を狭帯域化する波長選択フィルタ13と、全反射ミラー14とから構成されている。なお、図2では外部に出力される(ハーフミラー10に向かう)励起光7を模式的に矢印で表し、固体レーザ結晶4に入力するための光学系の図示を省略している。さらに、半導体レーザ11からの出力光のスペクトル幅を狭帯域化するために外部共振器構造および回折格子、エタロンなどのさらなる狭帯域化手段を備えてもよいが、本実施形態においては、半導体レーザ11から出力されるレーザ光のスペクトル幅をそれほど狭帯域化する必要はない。なお、波長選択フィルタ13も必須ではない。
【0039】
本実施形態では、レーザ結晶4はNd:YAG (Nd濃度0.1at%)とし、946nm準3準位発振を行うものとする。レーザ結晶4の結晶長d=0.5mm、励起光の吸収係数α=0.5cm-1であった。励起光7の吸収率は、シングルパスでηabs=1−exp(αd)=2.5%である。ここでは共振器長Lは結晶長dに等しく0.5mm、励起光7の波長は810nmとする。
【0040】
このとき、励起光のコヒーレンス長Lcを0mm(インコヒーレントな状態)から100mmまで変化させたときの、固体レーザ結晶4での実効吸収率の入力ミラーM1の励起光強度反射率R1依存性の計算結果を図3に示す(図3中、上からコヒーレンス長Lcが100mm、50mm、5mm、2mm、1mm、0.5mm、0mmの場合を示す)。ただし、共振器3内の散乱損失はシングルパス吸収より十分に小さいとして無視した。また出力ミラーM2の励起光強度反射率はR2=1とした。計算手法は、吸収がある場合のファブリーペロー干渉計理論(T. Skettrup著、Journal of Optics A: Pure and Applied Optics vol.2 (2000) pp. 546-549)を参考とした。この共振器から反射されるコヒーレント成分の光電界は、コヒーレンス長を考慮して、次式(3)のように書かれる。ただし空間モードは平面波と仮定している。第1項は、ミラーM1での反射、第2項は、一往復した励起光がミラーM1で透過する成分(吸収とコヒーレンス長によるコヒーレント成分の減少効果、周回による位相差が含まれる)、以下同様に多数回周回する成分を加え合わせている。
【数3】
【0041】
ただし、Ein:入射電界、r1:入力ミラーM1の励起光電界反射率、t1:入力ミラーM1の励起光電界透過率、rm=r2r3(1−EL):入力ミラー以外の全てのミラーの電界反射率の積と共振器周回での伝搬効率の積=入力ミラーを除く共振器周回に伴う伝搬効率、r2:ミラーM2の励起光電界反射率、r3:ミラーM3の励起光電界反射率、EL:共振器周回での電界散乱損失、φ=2・2π/λL:往復あたりの位相差、γ=αdcosθ:レーザ結晶での周回あたりの励起光電界減衰係数、L:共振器長、d:結晶長(結晶厚み)、θ:結晶入射角である。同様に、透過するコヒーレント電界、インコヒーレント成分光電界などを計算することができ、最終的に、吸収パワーが算出できる。計算では、位相差φ=2pπ(ただしp:整数)とした。
【0042】
この場合、コヒーレンス長が共振器長(0.5mm)以上、または共振器長と同程度以上、望ましくは2倍程度であれば、実効吸収率はシングルパス吸収の12倍〜20程度に増強される。コヒーレンス長1mmで、入力ミラーM1の励起光強度反射率R1=0.5とすると、実効吸収率56%を得ること出来ることが図3より分かる。さらに共振器長の10倍程度のコヒーレンス長(5mm)があれば、励起光強度反射率R1=0.8近傍で90%以上の吸収率が得られることが理解される。もちろんコヒーレンス長が、共振器長に比べ十分長いとみなせる場合(100倍以上=50mm以上)では、励起光強度反射率R1を適切に選択すればほぼ全励起パワーが吸収されることになる(なお、ここでは散乱損失を無視している)。
【0043】
吸収率が最大になるミラーM1の励起光強度反射率R1の値は、コヒーレンス長が共振器長に対し十分長い場合は下式(4)で与えられる。なお、ここで、共振器内の散乱損失を無視するとRmは、ミラーM2の励起光強度反射率R2である。
【数4】
【0044】
ただし、必ずしもこの値でのみ、コヒーレント効果による増強が発現されるのではなく、この値近傍であることが、より望ましいという意味である。具体的には下式(5)の範囲であれば、十分なコヒーレント効果が得られる。
【数5】
【0045】
コヒーレンス長0.5mmというのは励起用レーザのから出力される励起光7であるレーザ光のスペクトル幅Δν=190GHzに相当する。波長で表すと、0.4nm(800nm波長において)である。この程度の波長幅であれば、狭線幅のDFBレーザや外部共振器半導体レーザを使用する必要が全く無いことを示している。この線幅は容易に達成できる値であり、狭帯域化に伴う損失による励起パワー低下は低く抑えられるため、高出力化が可能である。励起用レーザに外部共振器を備えて回折格子や波長選択フィルタなどを挿入した場合、共振器長は5cm程度になる。このとき、自由スペクトルレンジは、3GHzであり、単一周波数ではなく、60本程度の縦モードが発振する。
【0046】
実験では、ファブリペロー型半導体レーザ11(フリーランニング発振でスペクトル幅1nm)を波長選択フィルタ12(透過帯域幅0.5nm)のみで狭帯域化した結果、容易にスペクトル幅0.04nm程度の発振を実現し、出力500mW、線幅20GHz(800nm波長、コヒーレンス長4.7mm)が得られた。これを励起用レーザ2として用いた図1に示す固体レーザ発振装置1では、吸収パワーは450mW(吸収率90%)、閾値は100mW、出力光9のレーザ出力は160mW(スロープ効率45%)が波長946nmにおいて得られた。励起光を共振させる共振器を備えていない場合、レーザ結晶の励起光の吸収率はシングルパスで2.5%であるので、吸収される励起パワーは僅か12.5mWである。従って、発振に必要な閾値を越えず、レーザ発振は得られなかった。励起光を共振させる共振器を備えていない場合、吸収率90%に必要な吸収長は4.6cm、つまり、0.5mmの結晶を92パス(46往復)する分の励起パスが必要であるが、共振器を用いずにこれを実現することは非常に難しい。なお、このときの共振器構成は、ミラーM1:フラットミラー、ミラーM2:フラットミラー、結晶4での励起スポット半径72μmであった。各ミラーには以下のコートが施した。ミラーM1:励起光7に対して反射率80%、かつ946nm波長に対して高反射(HR)、ミラーM2:励起光7に対してHR、かつ946nmに対して反射率99%。
【0047】
またさらに、結晶厚み0.25mm程度とすると、吸収率は1.2%程度に下がるが、図4のような実効吸収率の反射率R1依存性になる。ここで要求されるコヒーレンス長は0.25mm以上で、スペクトル幅は0.8nm(381GHz)と著しく広がる。この程度であれば、横シングルモードで発振するファブリーペローレーザをほんの僅か狭帯域化したものか、場合によっては、そのまま使用することも可能である。
【0048】
具体的な実験では、1W程度の出力を有するファブリーペロー半導体レーザに外部共振器を設け、0.5nmスペクトル幅の体積ブラッグ回折格子を挿入することで、容易に0.1nm発振を実現し、出力パワーは800mW程度が得られることを確認した。なお、これを励起用レーザとして用いて、結晶長(エタロン厚み)を0.25mmとした固体レーザ結晶を励起したところ、実効吸収率80%が得られ、吸収パワー640mWに対し、レーザ発振効率40%、250mWの946nm光が得られた。この場合、946nm波長におけるエタロン(の厚み)で決まる自由スペクトルレンジ(FSR)は600GHz(スペクトル幅1.8nm)であり、これはレーザ利得幅0.5nmより広いため、レーザ発振は単一縦モードで実現された。
【0049】
このように、レーザ結晶をエタロンと見なしたとき、FSR=600GHzでフィネスはおよそ25となる。共振に必要な同調レンジは、このエタロンの共振幅=FSR/フィネス=24GHz程度に同調させる必要があるが、本発明によれば、それより著しく広い幅においても、十分コヒーレント効果が得られることを示しており、実用的に有効な手段である。FSRの半分程度の同調範囲でも十分に可能あるため、それほど厳密な半導体レーザの温度調整やエタロンの温度調整が無くとも、コヒーレント効果が容易に得られる。したがって、図1(および以下の実施形態)には同調を最適に取るための制御器5が明示されているが、必ずしもこれは必須要件ではなく、場合によっては不要になる。
【0050】
なお、本発明のように、励起光を共振させる外部共振器を備える場合、外部共振器に励起レーザの発振周波数を同調させるか、その逆に、外部共振器の周波数を励起レーザに合致させる必要があるが、これを維持する手法としてPound-Drever法などが挙げられる。これは、外部共振器の入力ミラーの反射光を検知し、それが最小になるように、共振器長を微細に制御する手法である。また上記の共振が最適に成立するためには、1)励起光と発振光の空間的モード整合、2)インピーダンス整合(入力ミラーM1の励起光強度反射率R1=共振器内部損失:式(4)に相当)が必要と考えられる(より詳しくは文献(W. P. Risk et al.著、”Compact Blue-Green Lasers”、Cambridge University Press、第4章)を参照のこと)。前者に関しては、外部共振器の共振器モードに励起レーザのモードを整合させれば良く、TEM00モード同士であるので、比較的容易である。具体的には、外部共振器で形成される共振器モードを光線行列などで計算し、そのモードスポット径およびウエスト位置を算出する。この位置とスポット径に励起レーザのビームが集光されるよう、外部のレンズ系でビーム整形する。後者に関しては、図3で示すように、必ずしも完全に整合していない状態でも、十分に共振効果が発現することが本発明者の研究により明らかになった。
【0051】
また、シングルパス吸収が10%以上ある場合でも、本発明のコヒーレント効果で、吸収の増加が得られる。図5、図6にシングルパス吸収が10%(α=2.1cm-1)と20%(α=4.5cm-1)の場合を示す(結晶長0.5mm)。しかしながら、シングルパス吸収が低い方がむしろ、コヒーレント効果による吸収増強の割合は大きくなることが分かる。例えば、図3と図5を比較すると、コヒーレンス長0.5mmの場合で、実効吸収率はそれぞれ最大32%、43%で、シングルパス吸収からの増強度を考えると、それぞれ12倍、4.3倍である。これは、シングルパス吸収が大きいと、外部共振器内の損失が大きくなり、励起光が周回できる回数も減るためである。言い換えると実効的な共振器のフィネスが下がることと等価である。
【0052】
シングルパス吸収が40%より大きければ、外部共振器を用いない通常のダブルパス構成で65%以上の吸収が得られる。従って、40%以下のシングルパス吸収率の場合は、本発明を用いることで、シングルパス吸収の2倍〜20倍程度の増強が得られるため非常に有益であるといえる。
【0053】
上述の実施形態においては、レーザ結晶として、Nd:YAG結晶を用いた例を示したが、他の如何なるレーザ結晶でも本発明は適用可能である。例えば、Pr:YLF(LiYF4)結晶では、波長440nmで励起し、639.5nm(3P0→3F2)、522nm(3P1→3H5)、480nm(3P0→3H4)で発振する。特に、480nm発振では準3準位系エネルギー構造を取るので、本発明を適用する効果が大きい。図1と同様の固体レーザ発振装置を構成し、440nm波長GaN半導体レーザからのレーザ光(出力40mW)を周波数幅100GHz程度(波長幅0.06nm)まで狭帯域化した。その結果、シングルパス吸収が5%程度の結晶に対し、70%以上の実効吸収率を得ることが出来た。吸収パワー25mWにおいて、1mWの青色480nm発振が得られた。他にも、Pr:YAG(488nm、3P0→3H4)、Ho:YLF(540nm、5S2→5I8)、Tm:YLF(482nm、1G4→3H6)、Er:YLF(551nm、4S3/2→4I15/2)など可視域の発光を有する固体レーザ結晶は、特に準3準位発振が多く、本発明を適用することで、大幅な特性改善が見込める。
【0054】
なお、第1の実施形態の固体レーザ発振装置1においては、平面−平面カットされた固体レーザ結晶4を用いるものとしたが、固体レーザ結晶の、片方あるいは両方の端面に曲率を持たせてもよい。この例を、図7に第2の実施形態の固体レーザ発振装置20として示す。なお、以下の実施形態においては、図1に示した固体レーザ発振装置と同一要素には同一符号を付し詳細な説明を省略する。
【0055】
第2の実施形態の固体レーザ発振装置20においては、固体レーザ結晶24として、一方の端面24aが平面であり、他方の端面24bが曲面のものを用いている点でのみ第1の実施形態と異なる。この場合、例えば、熱レンズが小さい場合は、大きな曲率(数10cmから数m)で安定な共振器モードの形成が可能であり、また熱レンズが強い場合、一方あるいは両方の端面を凹面とすることで、熱レンズを補償し、共振器を安定動作させることが出来る。ここで、熱レンズとは、レーザ結晶が励起された状態において、励起分布に応じた温度勾配に起因する光学収差のことであり、通常レンズ効果を発現することから、熱レンズと呼ばれる。
【0056】
次に、本発明の第3の実施形態の固体レーザ発振装置30について説明する。図8は固体レーザ発振装置30の概略構成を示す図である。本固体レーザ発振装置30は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質(レーザ結晶)31と、該レーザ結晶31からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質(非線形結晶)32と、レーザ結晶31を励起する励起光7を出力する励起手段とを備えている。
【0057】
励起手段は、励起光として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力する、第1の実施形態の固体レーザ発振装置の励起用レーザ2と同一である。
【0058】
レーザ結晶31の一端面31bと非線形結晶32の一端面32aとが接合されており、レーザ結晶31の他端面であるリア側端面31a(ミラーM1)と非線形結晶32の他端面である出力側端面32b(ミラーM2)とにより、発振光8および励起光7の両者を共振させる共振器33が構成されている。
【0059】
励起光7はミラーM1およびM2により構成される外部共振器33内を共鳴的に周回し、レーザ結晶によるレーザ発振を引き起こすこと点では第1の実施形態の装置と同様である。ただし、本実施形態では発振したレーザ発振光8は、引き続き、非線形結晶32で第2高調波に変換され、出力光9が第2高調波である点で第1の実施形態の装置と異なる。
【0060】
本構成の固体レーザ発振装置30において、レーザ結晶31として、Nd:YAG (Nd濃度0.1at%)を用い、946nm準3準位発振を行うものとし、レーザ結晶31は結晶長d=0.5mm、励起光の吸収係数α=0.5cm-1であり、励起光7の波長は810nmとし、非線形結晶32としてKNbO3結晶を用い、第一種位相整合を用い、位相性合角60.5度、KNbO3の結晶長を2mmとして実験を行った。このとき、励起パワー300mWにて、青色領域(473nm)の第2高調波9は70mW程度と非常に高効率な青色光が得られた。このとき、ミラーM1には、励起光7に対して反射率80%、かつ発振光8に対して高反射率(HR)のコート、ミラーM2には、励起光7に対して高反射率(HR)、発振光8に対して高反射率(HR)、かつ第2高調波9に対しては無反射(AR)のコートを施した。
【0061】
なお、同様の構成の固体レーザ発振装置において、GaN半導体レーザ(440nm)を励起光源とし、固体レーザ結晶31として、Nd:YAGに換えてPr:YLF結晶を用いることにより、480nm発振光8に対し、第2高調波を発生させ240nmの深紫外光9を得ることができた。この場合、レーザ出力は0.1mWと低いものの、非常にコンパクトな構成で紫外レーザを実現できた。
【0062】
上記第3の実施形態の固体レーザ発振装置においては、レーザ結晶31のリア側端面31aおよび非線形結晶32の出力側端面32bにより、励起光7と発振光8の両光を共振させる共振器33を構成するものとしたが、励起光7はレーザ結晶のみに吸収されればよいので、励起光7についてはレーザ結晶のみを周回すればよい。この例を第4の実施形態の固体レーザ発振装置40として説明する。
【0063】
図9は、第4の実施形態の固体レーザ発振装置40の概略構成を示すものである。本固体レーザ発振装置40はレーザ結晶41と第2高調波を発生させる非線形結晶42を備え、両者が互いの一端面41bおよび42aで接合されている点では第3の実施形態と同様である。ただし、発振光と励起光を共振させる共振器が個別に構成されている点で異なる。具体的には、レーザ結晶41のリア側端面41a(ミラーM1)と出力側端面41b(ミラーM2)とにより励起光7を共振させる共振器43が構成され、レーザ結晶41のリア側端面41a(ミラーM1)と非線形結晶42の出力側端面42b(ミラーM3)により発振光8を共振させる共振器45が構成されている。各ミラーはそれぞれ以下のコートが施されている。ミラーM1:励起光7に対して反射率80%、発振光8に対して高反射率(HR)、ミラーM2: ミラーM3:発振光8に対して高反射率(HR)、かつ第2高調波に対して無反射(AR)。
【0064】
このように、励起光7に対する外部共振器43(ミラーM1−M2)と、発振光8に対する外部共振器45(ミラーM1−M3)を分離させれば、励起用レーザ2はレーザ結晶の長さで決まるコヒーレンス長を有すればよいので、この図9に示す第4の実施形態の固体レーザ発振装置においては、図8に示す第3の実施形態の固体レーザ発振装置の場合より励起光のコヒーレンス長は短くてよい。
【0065】
第5の実施形態の固体レーザ発振装置50の概略構成を図10に示す。本固体レーザ発振装置50は、固体レーザ媒質(レーザ結晶)51と、励起光と発振光との和周波あるいは差周波を発生させる非線形結晶52を備えており、レーザ結晶51の一端面51bと非線形結晶52の一端面52aとが接合されている。ここでは、レーザ結晶51のリア側端面51a(ミラーM1)と非線形結晶52の出力側端面52b(ミラーM2)とにより励起光7と発振光8との両光を共振させる共振器53が構成されている。
【0066】
例えば固体レーザ結晶51としてNd:YAGを用いた場合、Nd:YAGの1064nm発振では、809nm励起光7と1064nm発振光8の和周波発生においては波長459.5nmの青色領域、差周波発生においては、3375nmの中赤外領域の発生が可能である。459.5nmは各種光化学反応、ディスプレイ、医療生体応用に適しており、3375nmは分子の振動遷移の共鳴線が多く存在するため、化学物質同定などに使用可能である。Nd:YAGの946nm発振では、809nmの励起光7と946nmの発振光8との和周波(436nm)、差周波(5586nm)と、上記と同様に、実用上有益な波長帯域が非常にコンパクトな構成で得られる。
【0067】
次に、第6の実施形態の固体レーザ発振装置60として、上述の第2の実施形態の固体レーザ発振装置と略同様の構成において、半導体レーザのパッケージ61(例えばキャンパッケージやバタフライパッケージ)内にレーザ結晶21を同梱した例を図11に示す。非常に薄いレーザ結晶を用いることが出来るという利点を生かしたものであり、レーザ結晶を薄くする(例えば0.5mm以下とする)ことで、励起光7に対するスペクトル幅の要求は大幅に緩和され、ほとんど狭帯域化することなく実効吸収率を高めることが出来る。従って、ここでは、励起用レーザ2’は半導体レーザ11と集光レンズ15のみで構成している。支持体であるヒートシンク62上に励起用レーザ2’とレーザ結晶21とが搭載され、1つのパッケージ61に内包された非常にコンパクトな構成の固体レーザ発振装置とすることができる。
【0068】
上述の各実施形態においては、固体レーザ媒質として、主としてNd:YAGを用いるものとして説明したが、もちろん固体レーザ媒質はこれに限定されることなく、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質であればよい。なお、シングルパス吸収率の低いレーザ結晶、あるいは準3準位レーザ媒質などのように、吸収率を上げるとレーザ下準位による自己吸収損失が増え、レーザ発振効率が下がる媒質にも広く適用可能である。
【0069】
また、上述の実施形態では、主として、共振器は励起光と発振光との両者を共振させるものとしたが、必ずしもこれに限定されることなく、励起光と発振光それぞれに別々の共振器を構成しても良い。
【0070】
第7の実施形態の固体レーザ発振装置70の概略構成を図12に示す。本固体レーザ発振装置70は、励起用レーザ2と、固体レーザ媒質71と、凹面出力ミラー72とを備えている。固体レーザ媒質71のリア側端面71a(ミラーM1)と凹面出力ミラー72のミラー面72a(ミラーM3)により発振光8を共振させる第1の共振器75が構成されており、固体レーザ媒質71のリア側端面71a(ミラーM1)と出力側端面71b(ミラーM2)とにより励起光7を共振させる第2の共振器73が構成されている。
【0071】
第8の実施形態の固体レーザ発振装置80の概略構成を図13に示す。第7の実施形態の固体レーザ発振装置70の第1の共振器75中に、固体レーザ媒質71からの発振光8を第2高調波に変換する第2高調波変換素子である非線形媒質86を備えた構成であり、出力光9として第2高調波を発振するものである。
【0072】
これら、第7および第8の実施形態の固体レーザ発振装置においても、励起光7を固体レーザ媒質71の両端面71aおよび71bにより構成された共振器73により共振させ、固体レーザ媒質71中を往復させることにより固体レーザ媒質71における励起光7の吸収率を増加させる効果を得ることができ、また、励起用レーザ2は、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力するものであることから、縦単一モードの励起用レーザを励起手段として備える場合と比較してコンパクトで高出力な装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図2】励起用レーザの概略構成図
【図3】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=2.5%)
【図4】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=1.2%)
【図5】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=10%)
【図6】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=20%)
【図7】第2の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図8】第3の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図9】第4の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図10】第5の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図11】第6の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図12】第7の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図13】第8の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図14】従来例(その1)
【図15】従来例(その2)
【符号の説明】
【0074】
1、20、30、40、50、60、70、80 固体レーザ発振装置
2 励起用レーザ
3 共振器
4 固体レーザ媒質(レーザ結晶)
5 制御器
6 受光素子
7 励起光
8 発振光
9 出力光
10 ハーフミラー
M1、M2、M3 ミラー
【技術分野】
【0001】
本発明は固体レーザ発振装置に関し、特に高効率動作が可能な固体レーザ発振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体レーザ(LD)を励起光源とし、希土類イオン(あるいは遷移金属イオン)をホストに添加した固体レーザ媒質を利用した固体レーザ装置が活発に開発されてきている。その多くがネオジム(Nd)を活性イオンとし、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)やイットリウム・バナデート(YVO4)などのホスト結晶(あるいはガラス)にこれらのイオンを添加した固体レーザ結晶(固体レーザ媒質)を用いている。この場合、励起光の吸収係数αが比較的高く(5〜30cm-1)、数mmの結晶長(媒質長)dでLDからの励起光の光パワーをほぼ吸収することができる。ここで固体レーザ媒質におけるシングルパスでの吸収率ηabsは次式(1)で表される。
【0003】
ηabs=1−exp(−αd)・・・(1)
例えば、Nd:YVO4(1at%添加濃度)では、励起光吸収係数α=30cm-1(励起波長808.9nm)が得られ、結晶長1mmにて、シングルパス吸収率ηabsは95%にも達する。つまり、励起パワーを結晶長1mmで効率良く吸収することができる。Nd:YAG(濃度1at%)では、励起光吸収係数α=5cm-1(励起波長808nm)であるため、結晶長2mm程度で、シングルパス吸収率ηabs=63%が得られる。一般的には、励起光の吸収率を高めることが、高い固体レーザ装置の総合効率(電気入力から光出力への効率)向上のために必須である。また短い結晶長で励起光を吸収できるため、小型LD励起固体レーザ装置が実現可能である。
【0004】
それに対し、吸収係数の低い固体レーザ媒質では、数mm程度の結晶長ではシングルパス吸収率が1〜20%程度と著しく小さくなってしまう場合がある。たとえば、Nd:YAGでのホットバンド励起(励起波長885nm)を行う場合、吸収係数α=1.6cm-1であり、1mm長の結晶では15%程度の吸収になる。さらにTi:Sapphireレーザ結晶(チタンイオン添加サファイア固体レーザ媒質)においては、吸収係数α=0.6cm-1(励起波長532nm)であり、結晶長2mmで吸収率ηabs =11%、結晶長3mmでも吸収率ηabs =16%と非常に低い。なお、吸収係数αが小さい媒質でも、結晶長dを大きくして、吸収係数と結晶長の積αdが2.3以上となるようにすれば、シングルパス吸収率ηabs >90%と高くすることはできるが、結晶が大型になることからコストが増大するという欠点がある。
【0005】
また吸収係数が比較的高い場合でも、準3準位レーザ発振をさせる場合、結晶長dを伸長することは、レーザ発振光に対する自己吸収、ひいては発振閾値の増大に繋がるため、できる限り避けたい。例えば、Nd:YAGの946nm発振(4F3/2→4I9/2)や、Yb:YAG(2F5/2→2F7/2)は準3準位系であり、励起光の高い吸収と、低い発振閾値を両立させることは難しい。Nd:YAG以外にも、準3準位系レーザ発振を呈するレーザ結晶は多くあり、Pr:YLF(LiYF4)での青色発振(480nm、3P0→3H4)、Pr:YAGでの青色発振(488nm、3P0→3H4)、Tm:YLFでの青色発振(482nm、1G4→3H6)、Er:YLFでの緑色発振(551nm、4S3/2→4I15/2)などの可視発光は準3準位系レーザ発振に相当する。
【0006】
従来から、励起光の吸収率を上げる幾つかの工夫が提案されている。例えば、励起光を結晶端面または外部に設けられたミラーなどにより折り返して、ダブルパスさせる手法が最も簡便でよく用いられる方法である(非特許文献1)。この場合、吸収長が結晶長の2倍になり、吸収率も向上する。しかし吸収係数がごく低い場合では、2倍程度の吸収長の伸長では効果が薄い場合が多い。例えば、先のNd:YAGホットバンド励起では、媒質長Lを1mmから2mmへと拡大したとしても、ηabs=27%と約2倍にはなるものの、非常に低いことには変わりない。これ以上のマルチパス化は、簡便な光学系では難しい。
【0007】
一方、軸をずらしながら像転送(イメージリレー)を用いて、励起光をマルチパスさせる方法が実現されている。実際、薄ディスク型のYb:YAG結晶(厚み0.2〜0.5mm)を16回通過させる光学系が提案されている(非特許文献2参照)。しかしこの場合、非常に複雑な光学系を、精密な位置合わせにより配置しなければならない。
【0008】
以上の例は励起光をインコヒーレントな光として扱う場合である。一方、励起レーザのコヒーレンス(可干渉性)を利用する例としては、狭線幅の単一周波数(単一縦モード)発振している半導体レーザを用いて、外部共振器による共振効果を利用するものが提案され、実証されている。この場合、励起レーザの発振周波数は温度あるいは電流制御により外部共振器の縦モードに同調され、外部共振器における励起レーザに対する共振状態を維持している。レーザ結晶はこの外部共振器内に配置され、励起光は外部共振器内を多重回往復する。このことで、レーザ結晶のシングルパス吸収率が低くても、実効的に、吸収長が10から100倍程度に伸長したのと同じ効果が得られ、励起光が効率よく吸収される(非特許文献3、4および特許文献1)。
【0009】
非特許文献3に記載の従来例では、図14に示すように、単一周波数発振半導体レーザ(波長810nm)を励起光源101とし、Nd:YAG結晶102を励起する。Nd:YAG結晶102のリア側(LD側)102aと出力鏡103で、レーザ発振光108に対する共振器を組むと同時に、励起光107に対する外部共振器としても動作させている。Nd:YAGリア側102aは、レーザ発振光108に対して高反射、810nm励起光107に対して部分反射(反射率85%)とし、出力鏡103は、レーザ発振光108に対しては部分反射(99.5%)し、励起光107に対しては高反射としている。共振器長は10mmであった。Nd:YAG結晶102は0.3mm厚み、Nd濃度1at%である。励起パワー10mWに対し、出力光109の出力パワーとして1mW(波長946nm)が得られている。シングルパス吸収は記載が無いが15%と推定できる。この例では、946nm発振は準3準位系であり、シングルパス吸収をより高く取ると、レーザ下準位による自己吸収損失が増え、発振効率低下を来たすため、敢えて非常に薄いレーザ結晶を採用している。
【0010】
非特許文献4および特許文献5では、同じくNd:YAG結晶を用いて946nm発振を実現している。図15に示すように、0.33mm厚みのレーザ結晶105の端面を共振器ミラーとし、励起光107とレーザ発振光108両方に対する共振器を構成している。また、図示していないが、波長同調回路を設けることで安定した動作を実現している。この例では、励起パワー60mWに対し、出力30mWの946nm発振109を得ている。シングルパス吸収は18%であった。
【0011】
図14および図15に示した従来例では、単一周波数(単一縦モード)連続発振LDを励起光源として使用している。しかし、単一周波数発振の励起レーザの高出力化は難しい。単一周波数発振させるためには、共振器内にエタロン、回折格子や分布帰還(DFB)構造を設け、所望のレーザ発振周波数のみ発振させ、他の周波数に対し損失を被らせる必要があり、励起レーザ光出力の低下を招くことが多い。これは必然的に、この励起レーザを用いた固体レーザの出力低下を招くことになる。一般的に単一周波数発振半導体レーザの出力は10mW〜100mW程度に限定されている。
【特許文献1】米国特許第5048047号明細書
【非特許文献1】T.Taira et al., IEEE J. Selected Topics on Quantum Electronics vol.3 No.1 (1997) pp.100-104.
【非特許文献2】C. Stewen et al., IEEE J. Selected Topics on Quantum Electronics vol.6 No.4 (2000) pp.650-657.
【非特許文献3】J. P. Cuthbertson et al.,Optics Letters vol.16 no.6 (1991) pp.396-398.
【非特許文献4】W. J. Kozlovsky et al.,IEEE J. Quantum Electron. vol.28 no.4 (1992) pp.1139-1141.
【非特許文献5】T. Skettrup,Journal of optics A:Pure and Applied Optics vol.2 (2000) pp. 546-549.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、従来、シングルパス吸収率の低い固体レーザ媒質に対して、実効吸収率を高めるためには、(1)多重パス励起光学系を用いる、(2)狭線幅の単一周波数励起レーザを用いて外部共振器による吸収増強を行う、という2つの手法が提案あるいは実現されている。
【0013】
しかしながら、(1)の手法では励起光学系が著しく複雑あるいは大型になるという問題があり、(2)の手法では、励起光の狭帯域化により励起パワーが低減し、レーザ出力を高く取れないという問題があり、小型で高出力な固体レーザ装置は実現されていない。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、シングルパス吸収率の低い固体レーザ媒質に対し、高い実効吸収率を実現しつつ、小型・高出力な固体レーザ発振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
さて、レーザ光のコヒーレンス長Lcは、ローレンツ型のスペクトル分布を考慮すると、スペクトル線幅Δνの関数として次式(2)で与えられる。
【数1】
【0016】
ただし、c:光速、Δν:光源のスペクトル線幅(周波数幅)である。(非特許文献5の(2)式、あるいはA.Yariv著、「光エレクトロニクスの基礎」、第10章、 原書第三版、丸善 参照のこと)
一般的に、単一周波数連続発振LDのスペクトル線幅は、100kHzから10MHz程度であるため、その場合のコヒーレンス長は、Lc=9.5m(10MHz)〜950m(100kHz)と非常に長く取れる。このため、報告例のレーザ装置(外部共振器の共振器長<1cm)では、励起光は実効的に外部共振器内を完全にコヒーレント光として往復することになり、先に述べた励起光が強めあう効果が期待できる。
【0017】
一方、本発明者は、上記(2)式から、励起光の高い吸収率を実現するために必要な励起光のスペクトル線幅は、外部共振器の共振器長および所望の実効吸収率の関数であるため、励起レーザは狭線幅の単一周波数発振していなくとも良いことを見出した。また励起レーザとして、単一縦モードではない、例えばマルチ縦モードのファブリペロー型LDは、出力パワーとして数100mWから1W程度まで発振可能である。
【0018】
本発明は、上記発明者による知見に基づいてなされたものであり、本発明の固体レーザ発振装置は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質が内部に配置され、該固体レーザ媒質からの出力光をレーザ発振させるための第1の共振器と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備えた固体レーザ発振装置において、
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記第2の共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とするものである。
【0019】
上記構成の本発明の固体レーザ発振装置では、狭線幅の単一周波数発振の励起光を用いる従来技術に比べて励起光のコヒーレンス長を短くすることができ、コヒーレンス長は9.5m(10MHz)以下とすることができる。
【0020】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記固体レーザ媒質として、その励起光に対する吸収率がシングルパスで40%以下、さらには20%以下、さらには10%以下であるものを用いる場合に好適である。
【0021】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記第2の共振器を構成する共振ミラーのうち、前記励起光を該共振器内に導入する入力ミラーの励起光強度反射率R1が、
【数2】
【0022】
ただし、Rm:前記第2の共振器を構成する入力ミラー以外のミラーの励起光強度反射率と共振器周回での伝搬効率の積、γ=αdcosθ:前記固体レーザ媒質での周回あたりの励起光電界減衰係数、d:前記固体レーザ媒質の媒質長、α:前記励起光の前記固体レーザ媒質における吸収係数、θ:前記固体レーザ媒質への入射角、L:前記第2の共振器の共振器長、Lc:前記励起光のコヒーレンス長
を満たすものであることが望ましい。
【0023】
なお、前記第2の共振器が、複数の共振ミラーによりリング型共振器が構成されている場合、Rmは入力ミラー以外のミラー全ての励起光強度反射率と周回伝搬効率の積を表す。Lはラウンドトリップ共振器長である。
【0024】
前記固体レーザ媒質が可視光を発光するものであることが望ましい。また、励起手段がGaN系半導体レーザを備えていることが望ましい。GaN系半導体レーザとしては、例えばGaN半導体レーザ、InGaN半導体レーザ、AlGaN半導体レーザ等が挙げられる。
【0025】
さらに、前記固体レーザ媒質の両端面が、前記第1の共振器をも構成するものであることが望ましい。
【0026】
前記第1の共振器内に、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質を備えてもよい。非線形媒質は、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を第2高調波に変換する第2高調波発生非線形媒質であってもよいし、前記励起光と前記固体レーザ媒質からの発振光との和周波あるいは差周波を発生する非線形媒質であってもよい。
【0027】
本発明の第2の固体レーザ発振装置は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備え、
前記固体レーザ媒質の一端面と前記非線形媒質の一端面とが接合されており、
前記固体レーザ媒質の他端面と前記非線形媒質の他端面とにより、前記発振光および前記励起光の両者を共振させる共振器が構成されており、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とするものである。
【0028】
上記構成の本発明の固体レーザ発振装置では、狭線幅の単一周波数発振の励起光を用いる従来技術に比べて励起光のコヒーレンス長を短くすることができ、コヒーレンス長は9.5m(10MHz)以下とすることができる。
【0029】
本発明の固体レーザ発振装置は、前記励起手段と、前記固体レーザ媒質とが同一のパッケージに搭載されていることが望ましい。また、この場合、前記励起手段と前記固体レーザ媒質とが単一の支持体もしくは接合されて一体化した支持体により保持されていることが望ましい。
【0030】
さらに、本発明の固体レーザ発振装置は、前記励起手段と固体レーザ媒質とを温度調節する温度調整手段を備えていることが望ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の固体レーザ発振装置は、固体レーザ媒質の両端面が、励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、励起手段が、励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、第2の共振器内に入力するものであり、励起光が固体レーザ媒質を通過して複数回往復するように共振させるものであることから、シングルパス吸収率の低い固体レーザ結晶においても、実効吸収率を高めることが出来るため、高効率動作が可能となる。
【0032】
励起光として、縦単一モードのレーザ光を用いる場合と比較して、励起手段の構成を小型にすることができ、また、励起光を高出力にすることができることから、装置全体として小型かつ高出力な固体レーザ発振装置および固体レーザ増幅装置を構成することができる。固体レーザ媒質によるエタロン効果を利用することから、励起手段に半導体レーザからのレーザ光を狭帯域化するための狭帯域化手段を用いなくてもよく、さらなる装置の小型化を図ることができる。
【0033】
本発明の固体レーザ発振装置においては、シングルパス吸収率が、40%以下、20%以下、さらには10%以下と小さいものほど高効率化の効果を顕著に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0035】
図1に、本発明の第1の実施形態の固体レーザ発振装置1の概略構成を示す。固体レーザ発振装置1は、固体レーザ媒質(固体レーザ結晶)を励起する励起手段である励起用レーザ2と、両端面にコートを施された固体レーザ結晶4と、励起用レーザ2からの励起光7の共振状態を検知し、励起用レーザ2にフィードバックを加える温度調節手段である温度制御器5(以下、制御器5という。)を有している。なお、共振状態とは、概念的には、励起光の周波数と外部共振器の周波数が一致し、位相が整合した状態であるが、実際には反射光7’が最小になった状態を共振状態として判断する。
【0036】
ここでは、レーザ結晶4のリア側端面4a、出力側端面4bにはそれぞれ所定のコートが施され、励起光7、発振光8それぞれの波長に対する高反射ミラーあるいは部分反射ミラーが構成され、このリア側端面4a(ミラーM1と称する。)と出力側端面4b(ミラーM2と称する。)とにより、励起光7および発振光8の両光を共振させる共振器3が構成されている。
【0037】
制御器5は、ミラーM1からの励起光7をハーフミラー10で反射させて得られた反射光7’を受光素子6により受光し、モニタすることにより、温度調節を行うものであり、ここでは励起用レーザ2に備えられている図示しないペルチェ素子等の冷却手段を制御するものであるが、励起用レーザ2および/またはレーザ結晶4の温度調整を行うことができればよい。
【0038】
励起用レーザ2は、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力し、共振器3内で共振するように固体レーザ結晶4に入力するものであり、図2に示すように、半導体レーザ11と、該半導体レーザ11からの励起光を平行光化するコリメートレンズ12と、平行光化された励起光のスペクトル幅を狭帯域化する波長選択フィルタ13と、全反射ミラー14とから構成されている。なお、図2では外部に出力される(ハーフミラー10に向かう)励起光7を模式的に矢印で表し、固体レーザ結晶4に入力するための光学系の図示を省略している。さらに、半導体レーザ11からの出力光のスペクトル幅を狭帯域化するために外部共振器構造および回折格子、エタロンなどのさらなる狭帯域化手段を備えてもよいが、本実施形態においては、半導体レーザ11から出力されるレーザ光のスペクトル幅をそれほど狭帯域化する必要はない。なお、波長選択フィルタ13も必須ではない。
【0039】
本実施形態では、レーザ結晶4はNd:YAG (Nd濃度0.1at%)とし、946nm準3準位発振を行うものとする。レーザ結晶4の結晶長d=0.5mm、励起光の吸収係数α=0.5cm-1であった。励起光7の吸収率は、シングルパスでηabs=1−exp(αd)=2.5%である。ここでは共振器長Lは結晶長dに等しく0.5mm、励起光7の波長は810nmとする。
【0040】
このとき、励起光のコヒーレンス長Lcを0mm(インコヒーレントな状態)から100mmまで変化させたときの、固体レーザ結晶4での実効吸収率の入力ミラーM1の励起光強度反射率R1依存性の計算結果を図3に示す(図3中、上からコヒーレンス長Lcが100mm、50mm、5mm、2mm、1mm、0.5mm、0mmの場合を示す)。ただし、共振器3内の散乱損失はシングルパス吸収より十分に小さいとして無視した。また出力ミラーM2の励起光強度反射率はR2=1とした。計算手法は、吸収がある場合のファブリーペロー干渉計理論(T. Skettrup著、Journal of Optics A: Pure and Applied Optics vol.2 (2000) pp. 546-549)を参考とした。この共振器から反射されるコヒーレント成分の光電界は、コヒーレンス長を考慮して、次式(3)のように書かれる。ただし空間モードは平面波と仮定している。第1項は、ミラーM1での反射、第2項は、一往復した励起光がミラーM1で透過する成分(吸収とコヒーレンス長によるコヒーレント成分の減少効果、周回による位相差が含まれる)、以下同様に多数回周回する成分を加え合わせている。
【数3】
【0041】
ただし、Ein:入射電界、r1:入力ミラーM1の励起光電界反射率、t1:入力ミラーM1の励起光電界透過率、rm=r2r3(1−EL):入力ミラー以外の全てのミラーの電界反射率の積と共振器周回での伝搬効率の積=入力ミラーを除く共振器周回に伴う伝搬効率、r2:ミラーM2の励起光電界反射率、r3:ミラーM3の励起光電界反射率、EL:共振器周回での電界散乱損失、φ=2・2π/λL:往復あたりの位相差、γ=αdcosθ:レーザ結晶での周回あたりの励起光電界減衰係数、L:共振器長、d:結晶長(結晶厚み)、θ:結晶入射角である。同様に、透過するコヒーレント電界、インコヒーレント成分光電界などを計算することができ、最終的に、吸収パワーが算出できる。計算では、位相差φ=2pπ(ただしp:整数)とした。
【0042】
この場合、コヒーレンス長が共振器長(0.5mm)以上、または共振器長と同程度以上、望ましくは2倍程度であれば、実効吸収率はシングルパス吸収の12倍〜20程度に増強される。コヒーレンス長1mmで、入力ミラーM1の励起光強度反射率R1=0.5とすると、実効吸収率56%を得ること出来ることが図3より分かる。さらに共振器長の10倍程度のコヒーレンス長(5mm)があれば、励起光強度反射率R1=0.8近傍で90%以上の吸収率が得られることが理解される。もちろんコヒーレンス長が、共振器長に比べ十分長いとみなせる場合(100倍以上=50mm以上)では、励起光強度反射率R1を適切に選択すればほぼ全励起パワーが吸収されることになる(なお、ここでは散乱損失を無視している)。
【0043】
吸収率が最大になるミラーM1の励起光強度反射率R1の値は、コヒーレンス長が共振器長に対し十分長い場合は下式(4)で与えられる。なお、ここで、共振器内の散乱損失を無視するとRmは、ミラーM2の励起光強度反射率R2である。
【数4】
【0044】
ただし、必ずしもこの値でのみ、コヒーレント効果による増強が発現されるのではなく、この値近傍であることが、より望ましいという意味である。具体的には下式(5)の範囲であれば、十分なコヒーレント効果が得られる。
【数5】
【0045】
コヒーレンス長0.5mmというのは励起用レーザのから出力される励起光7であるレーザ光のスペクトル幅Δν=190GHzに相当する。波長で表すと、0.4nm(800nm波長において)である。この程度の波長幅であれば、狭線幅のDFBレーザや外部共振器半導体レーザを使用する必要が全く無いことを示している。この線幅は容易に達成できる値であり、狭帯域化に伴う損失による励起パワー低下は低く抑えられるため、高出力化が可能である。励起用レーザに外部共振器を備えて回折格子や波長選択フィルタなどを挿入した場合、共振器長は5cm程度になる。このとき、自由スペクトルレンジは、3GHzであり、単一周波数ではなく、60本程度の縦モードが発振する。
【0046】
実験では、ファブリペロー型半導体レーザ11(フリーランニング発振でスペクトル幅1nm)を波長選択フィルタ12(透過帯域幅0.5nm)のみで狭帯域化した結果、容易にスペクトル幅0.04nm程度の発振を実現し、出力500mW、線幅20GHz(800nm波長、コヒーレンス長4.7mm)が得られた。これを励起用レーザ2として用いた図1に示す固体レーザ発振装置1では、吸収パワーは450mW(吸収率90%)、閾値は100mW、出力光9のレーザ出力は160mW(スロープ効率45%)が波長946nmにおいて得られた。励起光を共振させる共振器を備えていない場合、レーザ結晶の励起光の吸収率はシングルパスで2.5%であるので、吸収される励起パワーは僅か12.5mWである。従って、発振に必要な閾値を越えず、レーザ発振は得られなかった。励起光を共振させる共振器を備えていない場合、吸収率90%に必要な吸収長は4.6cm、つまり、0.5mmの結晶を92パス(46往復)する分の励起パスが必要であるが、共振器を用いずにこれを実現することは非常に難しい。なお、このときの共振器構成は、ミラーM1:フラットミラー、ミラーM2:フラットミラー、結晶4での励起スポット半径72μmであった。各ミラーには以下のコートが施した。ミラーM1:励起光7に対して反射率80%、かつ946nm波長に対して高反射(HR)、ミラーM2:励起光7に対してHR、かつ946nmに対して反射率99%。
【0047】
またさらに、結晶厚み0.25mm程度とすると、吸収率は1.2%程度に下がるが、図4のような実効吸収率の反射率R1依存性になる。ここで要求されるコヒーレンス長は0.25mm以上で、スペクトル幅は0.8nm(381GHz)と著しく広がる。この程度であれば、横シングルモードで発振するファブリーペローレーザをほんの僅か狭帯域化したものか、場合によっては、そのまま使用することも可能である。
【0048】
具体的な実験では、1W程度の出力を有するファブリーペロー半導体レーザに外部共振器を設け、0.5nmスペクトル幅の体積ブラッグ回折格子を挿入することで、容易に0.1nm発振を実現し、出力パワーは800mW程度が得られることを確認した。なお、これを励起用レーザとして用いて、結晶長(エタロン厚み)を0.25mmとした固体レーザ結晶を励起したところ、実効吸収率80%が得られ、吸収パワー640mWに対し、レーザ発振効率40%、250mWの946nm光が得られた。この場合、946nm波長におけるエタロン(の厚み)で決まる自由スペクトルレンジ(FSR)は600GHz(スペクトル幅1.8nm)であり、これはレーザ利得幅0.5nmより広いため、レーザ発振は単一縦モードで実現された。
【0049】
このように、レーザ結晶をエタロンと見なしたとき、FSR=600GHzでフィネスはおよそ25となる。共振に必要な同調レンジは、このエタロンの共振幅=FSR/フィネス=24GHz程度に同調させる必要があるが、本発明によれば、それより著しく広い幅においても、十分コヒーレント効果が得られることを示しており、実用的に有効な手段である。FSRの半分程度の同調範囲でも十分に可能あるため、それほど厳密な半導体レーザの温度調整やエタロンの温度調整が無くとも、コヒーレント効果が容易に得られる。したがって、図1(および以下の実施形態)には同調を最適に取るための制御器5が明示されているが、必ずしもこれは必須要件ではなく、場合によっては不要になる。
【0050】
なお、本発明のように、励起光を共振させる外部共振器を備える場合、外部共振器に励起レーザの発振周波数を同調させるか、その逆に、外部共振器の周波数を励起レーザに合致させる必要があるが、これを維持する手法としてPound-Drever法などが挙げられる。これは、外部共振器の入力ミラーの反射光を検知し、それが最小になるように、共振器長を微細に制御する手法である。また上記の共振が最適に成立するためには、1)励起光と発振光の空間的モード整合、2)インピーダンス整合(入力ミラーM1の励起光強度反射率R1=共振器内部損失:式(4)に相当)が必要と考えられる(より詳しくは文献(W. P. Risk et al.著、”Compact Blue-Green Lasers”、Cambridge University Press、第4章)を参照のこと)。前者に関しては、外部共振器の共振器モードに励起レーザのモードを整合させれば良く、TEM00モード同士であるので、比較的容易である。具体的には、外部共振器で形成される共振器モードを光線行列などで計算し、そのモードスポット径およびウエスト位置を算出する。この位置とスポット径に励起レーザのビームが集光されるよう、外部のレンズ系でビーム整形する。後者に関しては、図3で示すように、必ずしも完全に整合していない状態でも、十分に共振効果が発現することが本発明者の研究により明らかになった。
【0051】
また、シングルパス吸収が10%以上ある場合でも、本発明のコヒーレント効果で、吸収の増加が得られる。図5、図6にシングルパス吸収が10%(α=2.1cm-1)と20%(α=4.5cm-1)の場合を示す(結晶長0.5mm)。しかしながら、シングルパス吸収が低い方がむしろ、コヒーレント効果による吸収増強の割合は大きくなることが分かる。例えば、図3と図5を比較すると、コヒーレンス長0.5mmの場合で、実効吸収率はそれぞれ最大32%、43%で、シングルパス吸収からの増強度を考えると、それぞれ12倍、4.3倍である。これは、シングルパス吸収が大きいと、外部共振器内の損失が大きくなり、励起光が周回できる回数も減るためである。言い換えると実効的な共振器のフィネスが下がることと等価である。
【0052】
シングルパス吸収が40%より大きければ、外部共振器を用いない通常のダブルパス構成で65%以上の吸収が得られる。従って、40%以下のシングルパス吸収率の場合は、本発明を用いることで、シングルパス吸収の2倍〜20倍程度の増強が得られるため非常に有益であるといえる。
【0053】
上述の実施形態においては、レーザ結晶として、Nd:YAG結晶を用いた例を示したが、他の如何なるレーザ結晶でも本発明は適用可能である。例えば、Pr:YLF(LiYF4)結晶では、波長440nmで励起し、639.5nm(3P0→3F2)、522nm(3P1→3H5)、480nm(3P0→3H4)で発振する。特に、480nm発振では準3準位系エネルギー構造を取るので、本発明を適用する効果が大きい。図1と同様の固体レーザ発振装置を構成し、440nm波長GaN半導体レーザからのレーザ光(出力40mW)を周波数幅100GHz程度(波長幅0.06nm)まで狭帯域化した。その結果、シングルパス吸収が5%程度の結晶に対し、70%以上の実効吸収率を得ることが出来た。吸収パワー25mWにおいて、1mWの青色480nm発振が得られた。他にも、Pr:YAG(488nm、3P0→3H4)、Ho:YLF(540nm、5S2→5I8)、Tm:YLF(482nm、1G4→3H6)、Er:YLF(551nm、4S3/2→4I15/2)など可視域の発光を有する固体レーザ結晶は、特に準3準位発振が多く、本発明を適用することで、大幅な特性改善が見込める。
【0054】
なお、第1の実施形態の固体レーザ発振装置1においては、平面−平面カットされた固体レーザ結晶4を用いるものとしたが、固体レーザ結晶の、片方あるいは両方の端面に曲率を持たせてもよい。この例を、図7に第2の実施形態の固体レーザ発振装置20として示す。なお、以下の実施形態においては、図1に示した固体レーザ発振装置と同一要素には同一符号を付し詳細な説明を省略する。
【0055】
第2の実施形態の固体レーザ発振装置20においては、固体レーザ結晶24として、一方の端面24aが平面であり、他方の端面24bが曲面のものを用いている点でのみ第1の実施形態と異なる。この場合、例えば、熱レンズが小さい場合は、大きな曲率(数10cmから数m)で安定な共振器モードの形成が可能であり、また熱レンズが強い場合、一方あるいは両方の端面を凹面とすることで、熱レンズを補償し、共振器を安定動作させることが出来る。ここで、熱レンズとは、レーザ結晶が励起された状態において、励起分布に応じた温度勾配に起因する光学収差のことであり、通常レンズ効果を発現することから、熱レンズと呼ばれる。
【0056】
次に、本発明の第3の実施形態の固体レーザ発振装置30について説明する。図8は固体レーザ発振装置30の概略構成を示す図である。本固体レーザ発振装置30は、希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質(レーザ結晶)31と、該レーザ結晶31からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質(非線形結晶)32と、レーザ結晶31を励起する励起光7を出力する励起手段とを備えている。
【0057】
励起手段は、励起光として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力する、第1の実施形態の固体レーザ発振装置の励起用レーザ2と同一である。
【0058】
レーザ結晶31の一端面31bと非線形結晶32の一端面32aとが接合されており、レーザ結晶31の他端面であるリア側端面31a(ミラーM1)と非線形結晶32の他端面である出力側端面32b(ミラーM2)とにより、発振光8および励起光7の両者を共振させる共振器33が構成されている。
【0059】
励起光7はミラーM1およびM2により構成される外部共振器33内を共鳴的に周回し、レーザ結晶によるレーザ発振を引き起こすこと点では第1の実施形態の装置と同様である。ただし、本実施形態では発振したレーザ発振光8は、引き続き、非線形結晶32で第2高調波に変換され、出力光9が第2高調波である点で第1の実施形態の装置と異なる。
【0060】
本構成の固体レーザ発振装置30において、レーザ結晶31として、Nd:YAG (Nd濃度0.1at%)を用い、946nm準3準位発振を行うものとし、レーザ結晶31は結晶長d=0.5mm、励起光の吸収係数α=0.5cm-1であり、励起光7の波長は810nmとし、非線形結晶32としてKNbO3結晶を用い、第一種位相整合を用い、位相性合角60.5度、KNbO3の結晶長を2mmとして実験を行った。このとき、励起パワー300mWにて、青色領域(473nm)の第2高調波9は70mW程度と非常に高効率な青色光が得られた。このとき、ミラーM1には、励起光7に対して反射率80%、かつ発振光8に対して高反射率(HR)のコート、ミラーM2には、励起光7に対して高反射率(HR)、発振光8に対して高反射率(HR)、かつ第2高調波9に対しては無反射(AR)のコートを施した。
【0061】
なお、同様の構成の固体レーザ発振装置において、GaN半導体レーザ(440nm)を励起光源とし、固体レーザ結晶31として、Nd:YAGに換えてPr:YLF結晶を用いることにより、480nm発振光8に対し、第2高調波を発生させ240nmの深紫外光9を得ることができた。この場合、レーザ出力は0.1mWと低いものの、非常にコンパクトな構成で紫外レーザを実現できた。
【0062】
上記第3の実施形態の固体レーザ発振装置においては、レーザ結晶31のリア側端面31aおよび非線形結晶32の出力側端面32bにより、励起光7と発振光8の両光を共振させる共振器33を構成するものとしたが、励起光7はレーザ結晶のみに吸収されればよいので、励起光7についてはレーザ結晶のみを周回すればよい。この例を第4の実施形態の固体レーザ発振装置40として説明する。
【0063】
図9は、第4の実施形態の固体レーザ発振装置40の概略構成を示すものである。本固体レーザ発振装置40はレーザ結晶41と第2高調波を発生させる非線形結晶42を備え、両者が互いの一端面41bおよび42aで接合されている点では第3の実施形態と同様である。ただし、発振光と励起光を共振させる共振器が個別に構成されている点で異なる。具体的には、レーザ結晶41のリア側端面41a(ミラーM1)と出力側端面41b(ミラーM2)とにより励起光7を共振させる共振器43が構成され、レーザ結晶41のリア側端面41a(ミラーM1)と非線形結晶42の出力側端面42b(ミラーM3)により発振光8を共振させる共振器45が構成されている。各ミラーはそれぞれ以下のコートが施されている。ミラーM1:励起光7に対して反射率80%、発振光8に対して高反射率(HR)、ミラーM2: ミラーM3:発振光8に対して高反射率(HR)、かつ第2高調波に対して無反射(AR)。
【0064】
このように、励起光7に対する外部共振器43(ミラーM1−M2)と、発振光8に対する外部共振器45(ミラーM1−M3)を分離させれば、励起用レーザ2はレーザ結晶の長さで決まるコヒーレンス長を有すればよいので、この図9に示す第4の実施形態の固体レーザ発振装置においては、図8に示す第3の実施形態の固体レーザ発振装置の場合より励起光のコヒーレンス長は短くてよい。
【0065】
第5の実施形態の固体レーザ発振装置50の概略構成を図10に示す。本固体レーザ発振装置50は、固体レーザ媒質(レーザ結晶)51と、励起光と発振光との和周波あるいは差周波を発生させる非線形結晶52を備えており、レーザ結晶51の一端面51bと非線形結晶52の一端面52aとが接合されている。ここでは、レーザ結晶51のリア側端面51a(ミラーM1)と非線形結晶52の出力側端面52b(ミラーM2)とにより励起光7と発振光8との両光を共振させる共振器53が構成されている。
【0066】
例えば固体レーザ結晶51としてNd:YAGを用いた場合、Nd:YAGの1064nm発振では、809nm励起光7と1064nm発振光8の和周波発生においては波長459.5nmの青色領域、差周波発生においては、3375nmの中赤外領域の発生が可能である。459.5nmは各種光化学反応、ディスプレイ、医療生体応用に適しており、3375nmは分子の振動遷移の共鳴線が多く存在するため、化学物質同定などに使用可能である。Nd:YAGの946nm発振では、809nmの励起光7と946nmの発振光8との和周波(436nm)、差周波(5586nm)と、上記と同様に、実用上有益な波長帯域が非常にコンパクトな構成で得られる。
【0067】
次に、第6の実施形態の固体レーザ発振装置60として、上述の第2の実施形態の固体レーザ発振装置と略同様の構成において、半導体レーザのパッケージ61(例えばキャンパッケージやバタフライパッケージ)内にレーザ結晶21を同梱した例を図11に示す。非常に薄いレーザ結晶を用いることが出来るという利点を生かしたものであり、レーザ結晶を薄くする(例えば0.5mm以下とする)ことで、励起光7に対するスペクトル幅の要求は大幅に緩和され、ほとんど狭帯域化することなく実効吸収率を高めることが出来る。従って、ここでは、励起用レーザ2’は半導体レーザ11と集光レンズ15のみで構成している。支持体であるヒートシンク62上に励起用レーザ2’とレーザ結晶21とが搭載され、1つのパッケージ61に内包された非常にコンパクトな構成の固体レーザ発振装置とすることができる。
【0068】
上述の各実施形態においては、固体レーザ媒質として、主としてNd:YAGを用いるものとして説明したが、もちろん固体レーザ媒質はこれに限定されることなく、希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質であればよい。なお、シングルパス吸収率の低いレーザ結晶、あるいは準3準位レーザ媒質などのように、吸収率を上げるとレーザ下準位による自己吸収損失が増え、レーザ発振効率が下がる媒質にも広く適用可能である。
【0069】
また、上述の実施形態では、主として、共振器は励起光と発振光との両者を共振させるものとしたが、必ずしもこれに限定されることなく、励起光と発振光それぞれに別々の共振器を構成しても良い。
【0070】
第7の実施形態の固体レーザ発振装置70の概略構成を図12に示す。本固体レーザ発振装置70は、励起用レーザ2と、固体レーザ媒質71と、凹面出力ミラー72とを備えている。固体レーザ媒質71のリア側端面71a(ミラーM1)と凹面出力ミラー72のミラー面72a(ミラーM3)により発振光8を共振させる第1の共振器75が構成されており、固体レーザ媒質71のリア側端面71a(ミラーM1)と出力側端面71b(ミラーM2)とにより励起光7を共振させる第2の共振器73が構成されている。
【0071】
第8の実施形態の固体レーザ発振装置80の概略構成を図13に示す。第7の実施形態の固体レーザ発振装置70の第1の共振器75中に、固体レーザ媒質71からの発振光8を第2高調波に変換する第2高調波変換素子である非線形媒質86を備えた構成であり、出力光9として第2高調波を発振するものである。
【0072】
これら、第7および第8の実施形態の固体レーザ発振装置においても、励起光7を固体レーザ媒質71の両端面71aおよび71bにより構成された共振器73により共振させ、固体レーザ媒質71中を往復させることにより固体レーザ媒質71における励起光7の吸収率を増加させる効果を得ることができ、また、励起用レーザ2は、励起光7として2つ以上の縦モードを有するレーザ光を出力するものであることから、縦単一モードの励起用レーザを励起手段として備える場合と比較してコンパクトで高出力な装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図2】励起用レーザの概略構成図
【図3】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=2.5%)
【図4】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=1.2%)
【図5】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=10%)
【図6】第1の実施形態における、実効吸収率の入力ミラー反射率依存性(シングルパス吸収=20%)
【図7】第2の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図8】第3の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図9】第4の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図10】第5の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図11】第6の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図12】第7の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図13】第8の実施形態に係る固体レーザ発振装置の概略構成図
【図14】従来例(その1)
【図15】従来例(その2)
【符号の説明】
【0074】
1、20、30、40、50、60、70、80 固体レーザ発振装置
2 励起用レーザ
3 共振器
4 固体レーザ媒質(レーザ結晶)
5 制御器
6 受光素子
7 励起光
8 発振光
9 出力光
10 ハーフミラー
M1、M2、M3 ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質が内部に配置され、該固体レーザ媒質からの出力光をレーザ発振させるための第1の共振器と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備えた固体レーザ発振装置において、
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記第2の共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とする固体レーザ発振装置。
【請求項2】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで40%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項3】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで20%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項4】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで10%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項5】
前記第2の共振器を構成する共振ミラーのうち、前記励起光を該共振器内に導入する入力ミラーの励起光強度反射率R1が、
【数1】
ただし、Rm:前記第2の共振器を構成する入力ミラー以外のミラーの励起光強度反射率と共振器周回での伝搬効率の積、γ=αdcosθ:前記固体レーザ媒質での周回あたりの励起光電界減衰係数、d:前記固体レーザ媒質の媒質長、α:前記励起光の前記固体レーザ媒質における吸収係数、θ:前記固体レーザ媒質への入射角、L:前記第2の共振器の共振器長、Lc:前記励起光のコヒーレンス長
を満たすものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項6】
前記固体レーザ媒質が可視光を発光するものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項7】
前記励起手段がGaN系半導体レーザを備えていることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項8】
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記第1の共振器をも構成するものであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項9】
前記第1の共振器内に、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質を備えたことを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項10】
希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備え、
前記固体レーザ媒質の一端面と前記非線形媒質の一端面とが接合されており、
前記固体レーザ媒質の他端面と前記非線形媒質の他端面とにより、前記発振光および前記励起光の両者を共振させる共振器が構成されており、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とする固体レーザ発振装置。
【請求項11】
前記励起手段と、前記固体レーザ媒質とが同一のパッケージに搭載されていることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項12】
前記励起手段と前記固体レーザ媒質とが単一の支持体もしくは接合されて一体化した支持体により保持されていることを特徴とする請求項11記載の固体レーザ発振装置。
【請求項13】
前記励起手段と固体レーザ媒質とを温度調節する温度調節手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から12いずれか記載の固体レーザ発振装置。
【請求項1】
希土類イオンあるいは遷移金属イオンを添加した固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質が内部に配置され、該固体レーザ媒質からの出力光をレーザ発振させるための第1の共振器と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備えた固体レーザ発振装置において、
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記励起光を共振させる共振ミラーとして機能する第2の共振器を構成するものであり、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記第2の共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記第2の共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とする固体レーザ発振装置。
【請求項2】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで40%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項3】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで20%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項4】
前記固体レーザ媒質の前記励起光に対する吸収率がシングルパスで10%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体レーザ発振装置。
【請求項5】
前記第2の共振器を構成する共振ミラーのうち、前記励起光を該共振器内に導入する入力ミラーの励起光強度反射率R1が、
【数1】
ただし、Rm:前記第2の共振器を構成する入力ミラー以外のミラーの励起光強度反射率と共振器周回での伝搬効率の積、γ=αdcosθ:前記固体レーザ媒質での周回あたりの励起光電界減衰係数、d:前記固体レーザ媒質の媒質長、α:前記励起光の前記固体レーザ媒質における吸収係数、θ:前記固体レーザ媒質への入射角、L:前記第2の共振器の共振器長、Lc:前記励起光のコヒーレンス長
を満たすものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項6】
前記固体レーザ媒質が可視光を発光するものであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項7】
前記励起手段がGaN系半導体レーザを備えていることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項8】
前記固体レーザ媒質の両端面が、前記第1の共振器をも構成するものであることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項9】
前記第1の共振器内に、前記固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質を備えたことを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項10】
希土類イオンあるいは遷移金属イオンが添加された固体レーザ媒質と、該固体レーザ媒質からの発振光の波長を変換する波長変換素子である非線形媒質と、前記固体レーザ媒質を励起する励起光を出力する励起手段とを備え、
前記固体レーザ媒質の一端面と前記非線形媒質の一端面とが接合されており、
前記固体レーザ媒質の他端面と前記非線形媒質の他端面とにより、前記発振光および前記励起光の両者を共振させる共振器が構成されており、
前記励起手段が、前記励起光として2つ以上の縦モードを有するとともに前記共振器の共振器長以上のコヒーレンス長を有するレーザ光を出力し、前記共振器内で共振するように前記固体レーザ媒質に入力するものであることを特徴とする固体レーザ発振装置。
【請求項11】
前記励起手段と、前記固体レーザ媒質とが同一のパッケージに搭載されていることを特徴とする請求項1から10いずれか1項記載の固体レーザ発振装置。
【請求項12】
前記励起手段と前記固体レーザ媒質とが単一の支持体もしくは接合されて一体化した支持体により保持されていることを特徴とする請求項11記載の固体レーザ発振装置。
【請求項13】
前記励起手段と固体レーザ媒質とを温度調節する温度調節手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から12いずれか記載の固体レーザ発振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−34459(P2008−34459A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203383(P2006−203383)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]