説明

固体材料の表面改質方法および装置

【課題】 本願発明では、被改質表面である固体材料表面と紫外線透過窓の間に固定された電極により反応溶液に電圧を印加して、Electro wetting状態にしておき、固体材料表面が反応水溶液と高い密着性を呈している間に、その界面に紫外線を入射させ、被改質面と反応溶液との光化学反応によって材料表面に官能基や原子を置換し、恒久的な改質面を作る。
【解決手段】
そこで、予め、材料表面と反応水溶液との化学的密着性(親水性)あるいは油との密着性(親油性)を強制的に高くした状態で反応溶液と非改質表面の親和性を向上させる為に反応溶液に高電圧を印加してElectro wetting状態にしておき、被改質表面側の電荷をプラス(+)、マイナス(−)あるいは交流を印加した状態で紫外線を化学反応系に照射して、被改質面と反応溶液との光化学反応によって材料表面に官能基や原子を置換し、恒久的な改質面を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料の表面改質方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に高分子表面にグロー放電などの低圧プラズマを照射すると、水に対する濡れ性が向上する。この原因はプラズマボンバリングに起因する物理的な微細な凹凸、あるいは表面の化学的変化である。しかし、それらを空気中に放置しておくと、濡れ性、すなわち水との接触角は徐々に大きくなり、処理効果は減退する。これは、プラズマ照射中に雰囲気中に存在する僅かな酸素と高分子表面に生成したラジカルとが反応し、高分子表面にヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基などの極性基が導入されるが、それらが時間経過と共にバルク内部に移行し、元の疎水性表面に戻る一時的なものとされている。さらにプラズマ照射された面を物理的に拭き去ると濡れ性は元に戻ってしまうと言う欠点があった。
【0003】
一方光反応性ガスや薬品水溶液雰囲気で高分子材料表面に紫外線を照射して反応性ガスや水溶液から光分解された官能基を材料表面に置換する技術が本願発明らによって特許文献1から7に報告されている。
【0004】
さらに最近Electro Wetting といって固体試料方面にたらした水滴に高電圧を印加すると接触角が小さくなると言う学会報告が非特許文献1から3にある。これらは撥水性高分子表面や金属表面に水を垂らすと、蓮の葉の上の水滴のように水玉を形成する。この水玉の試料での接触面と水玉の頂点との間に、高電圧を印加すると水との接触角が小さくなるという現象についての報告である。
【特許文献1】特願平1−015961
【特許文献2】特願平5−238350
【特許文献3】特願平5−238349
【特許文献4】特願平5−238351
【特許文献5】特願平5−080435
【特許文献6】特願平8−194472
【特許文献7】USP−6117497
【特許文献8】特願平10−287742
【非特許文献1】Anke Klingner, Juergen Buehrle, Dagmar Steinhauser, Jean-Christophe Baret, and Frieder Mugele; A Versatile Tool for Microfluidics , Abstract book of 4th International Symposium on Contact Angle Wettability and Adhesion by K.L.Mittal Director (2004.June) p.35
【非特許文献2】Rossen Sedev, Anthony Quinn and John; An Investigation into the Deviations from Ideal Behaviour During Electrowetting, Abstract book of 4th International Symposium on Contact Angle Wettability and Adhesion by K.L.Mittal Director (2004.June) p.36
【非特許文献3】Daiki Kamiya and Mikio Horie; Experimental Observation of the Electrical Properties of Electrowetting on Silicon Single-crystal Substrate, Abstract book of 4th International Symposium on Contact Angle Wettability and Adhesion by K.L.Mittal Director (2004.June) p.37
【非特許文献4】Masayuki Okoshi and Masataka Murahara; Appl. Phys. Lett.,Vol.72(20), 2616 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者村原は固体材料表面に紫外線透過ガラスを被せ、その間隙に毛細管現象を利用して、反応性水溶液の薄液層を形成させ、紫外透過ガラス表面から紫外光を照射して、固体表面と薄液層相互間の光化学反応によって露光部分にのみ官能基を置換する方法を特許文献3および特許文献7で提案している。
【0006】
この方法による官能基置換効果は表面改質されるべき材料の種類あるいは紫外線の入射エネルギー強さや照射時間によって異なる。とくにポリイミドのように吸水性が有り、かつ、酸素結合を有する材料の場合には特許文献8に示してあるように、ArFレーザー光1パルス(10ナノ秒/パルス)で銅原子を置換することが出来る。一方疎水性の高いフッ素樹脂などに銅原子を置換する為には非特許文献4に示してあるように、ArFレーザー光3000パルス照射を必要とする。
【0007】
このように材料によって投入するレーザー光のエネルギー密度や照射パルス回数が大きく異なっている。この理由は被改質材料表面の当該波長での吸収率によることは勿論であるが、その材料表面の水との濡れ性、あるいは当該材料の化学構造式中に存在する酸素との二重結(-C=O)や一重結合(-C-O-)に大きく左右される。すなわち被改質表面と反応溶液とが密着していることが、相互の光化学反応を効果的に行うための必要十分条件である。一時的にせよ、材料表面がこのような条件を満たしている間に、被改質面と反応水溶液との光化学反応によって材料表面に官能基や原子を置換し、恒久的な表面改質面を提供することが本願発明の主願である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、予め、材料表面と反応水溶液との化学的密着性(親水性)あるいは油との密着性(親油性)を強制的に高くした状態で光反応を行えば、容易に官能基を置換することが出来る。そのため、まず材料表面と反応溶液との密着性を高くするために、被改質表面である固体材料表面と紫外線透過窓の間に固定された電極により反応溶液に電圧を印加して、Electro wetting状態にしておき、固体材料表面が反応水溶液と高い密着性を呈している間に、その界面に紫外線を入射させ、被改質面と反応溶液との光化学反応によって材料表面に官能基や原子を置換し、恒久的な改質面を作る。
【0009】
被改質試料表面の裏側には全面に電極板を、紫外線透過窓の光入射側には網目電極を付け、あるいは紫外線透過窓にマスクパターン状の電極や透明電極を蒸着し、紫外線入射と電荷重畳を同時に行う構造にする。被改質試料はプラスチック、セラミック、あるいは金属などの固体材料であり、紫外線透過窓は合成石英が最適である。この2つの固体材料との間隙に毛細管現象を利用して水や所望の官能基や固体材料表面の原子を引き抜く為の原子を有する化合物溶液を挟み、形成された薄液層と試料との界面にArFレーザー、重水素ランプあるいはエキシマランプなどの紫外線を照射して、固体材料界面での光化学反応を促進させ試料表面の露光部に官能基あるいは金属原子を置換させる。
【0010】
紫外線透過窓の反応溶液側に対向電極あるいは櫛型電極を蒸着し、この電極面と固体材料の非改質面との間隙に毛細管現象を利用して水や所望の官能基や固体材料表面の原子を引き抜く為の原子を有する化合物溶液を挟み、形成された薄液層と試料との界面にArFレーザー、重水素ランプあるいはエキシマランプなどの紫外線を照射して、固体材料界面での光化学反応を促進させ試料表面の露光部に官能基あるいは金属原子を置換させる。
【0011】
反応溶液と被改質表面の親和性を向上させる為に反応溶液に電荷を印加して被改質表面側の電荷をプラス(+)、マイナス(−)あるいは交流とすることにより、改質表面と反応溶液との親和性を改善できる。
【0012】
多孔質フッ素樹脂の裏面に平板電極を取り付け、その表面に水を滴下し、その水滴の頂上に針電極を置き、それら両電極間に5kV内外の電圧を印加すると、水が微振動を起こし、試料表面および内孔が親水性を呈するようになる。この試料に水を含ませ、その上に石英ガラス窓を被せ、その上から紫外線を照射すると表面および多孔質内壁を親水性化することが出来る。
【発明の効果】
【0013】
本発明が効果的に行なわれる証拠は、図1に示すように試料4、の上に垂らした水滴3、に試料4、の裏面に取り付けた板状電極5、と水滴3、の頂点部に接触させた針状電極2、に電源1、から針電極側2、に正極あるいは負極または交流を印加することにより水滴3、と試料4、との接触角を小さくすることができる。さらに図3のように試料4、と板状電極5との間に誘電体6、を置くと多孔質フィルムの内孔などの場合均一な高電圧印加ができる。このように水または反応溶液に高電圧の直流または交流を印加すると反応溶液と被試料改質し両面との接触角が小さくなり、その後紫外線入射が行われた時の光化学反応が効率よく行なわれるようになる。
【0014】
本発明によれば、図8の試料4、の被改質表面に存在する反応溶液8、の上に合成石英窓7、を被せ、試料の裏面に取り付けた電極5、と合成石英窓7、のレーザー光入射側に取り付けた網目またはマスクパターン状あるいは透明電極などの電極12、に極性を入れ替えができる直流あるいは交流を印加する電源1、から反応溶液8、に試料4、がプラスチックやセラミックの場合は数kV、試料4、が金属の場合は1kV以下を印加する。この状態でレーザー光やランプ光などから照射される紫外線13、を照射することにより試料4、の被改質面と反応溶液8、の界面での光化学反応を高効率で行なう事ができる。
【0015】
本願発明者は、毛細現象を利用して合成石英窓とプラスチック表面との間隙に反応溶液を挟み、そこに紫外光を照射して、親水基親油基、あるいは酸素原子を介在させて-O-Cuなど金属置換をさせることを提案してきたが、フォトンコストが高いレーザーや出射フォトン数が少ない紫外線ランプなどを光化学反応に使って実用化するには、エネルギーの照射量を少なくすることである。すなわちフォトン数を極端に減らすことは光化学反応の効率を上げることである。そのために反応溶液の光吸収効率を上げれば分解効率は上がるが、その反面、反応溶液の下側に在る試料に到達すべき光量が減衰する。一方被改質表面の光吸収率を高くしたいが、これは材料固有の性質であって、これをいじる事は出来ない。そこでこの光化学的反応効率を向上させるために反応溶液の高電圧印加が効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明の特徴は、反応溶液に高電圧を印加している間は濡れ性を向上するからその間に化学反応系に紫外線を照射する。すなわち『反応溶液が付着している瞬間を利用し、その溶液雰囲気での光表面改質』を行えば、露光部分には官能基が置換され、未露光部は経過時間と共に元の性質に戻ってしまう。従って、結果的に露光部分のみ選択的に表面改質することができる。
【実施例1】
【0017】
図1の試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を用い、その裏面に電極を付け、表面に水滴を滴下し、水滴の頂点に電極として注射針を付けた系を作り、両電極間に±1kVの直流あるいは50Hzの交流を印加して、水滴の接触角変化を測定した。その結果、図2に示すように試料PTFEでは印加電圧0では水の接触角は105度であったが+1kVの時の接触角は67度、−1kVでは65度、1kVの交流では69度と接触角が小さくなった。
【実施例2】
【0018】
図3のように試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を用い、その裏面に厚さ2.7mmの誘電体を付けそのガラスの裏面に電極を付けた状態で、表面に水滴を滴下し、水滴の頂点に針電極とを付けた系を作り、両電極間に±3kVの直流あるいは50Hzの交流を印加して、水滴の接触角変化を測定した。その結果、図4に示すように印加電圧0では水の接触角は105度であったが+3kVの時の接触角は73度、−3kVでは69度、3kVの交流では70度と接触角が小さくなった。
【実施例3】
【0019】
図3の系により試料として多孔質フッ素樹脂フィルム(孔径 10ミクロン、厚さ300クロン)を用い、その裏面に厚さ2.7mmの誘電体を付けそのガラスの裏面に電極を付け、表面に水滴を滴下し、水滴の頂点に針電極を付けた系を作り、両電極間に+電荷を印加し、その電圧を上昇させていった時の水滴の接触角変化を測定した。その結果、図5に示すように印加電圧0では水の接触角は130度であったが+2kVの時の接触角は73度、+4kVでは65度、+5kVでは57度と電圧の上昇に連れて試料と水との接触角が小さくなった。とくに5kV以上の電圧を印加すると水滴の微振動が始まり、水が細孔内に水が入り込む現象が見られた。この水の微振動が観測された試料では図6(a)に示すように、無電荷部すなわち未処理部では撥水性を呈するのに比較して、電圧印加部は親水性を呈するように改質された。またその状態の表面を上から見ると図6(b)のように未処理部は撥水性に、電圧印加部は親水性を呈している。
【実施例4】
【0020】
図7に示した実験系図のように銅板を電極としてその上に直接水滴を適下し、水滴の頂点に針電極を付けた系を作り、針側を正極、針側を負極、交流を夫々印加した。未処理では接触角は80度であったが、100V印加すると接触角は小さくなり、針電極側を正極にした場合40度、負極にした場合は38ど、交流では39度と電圧印加の効果は大である。
【実施例5】
【0021】
上記1から5の実施例からわかる様に、固体試料に接触させた水溶液に高電圧を印加すると試料との接触角が小さくなることが明らかに成った。そこで図8に示すように固体試料と合成石英窓を密着させ、その間隙に反応水溶液を入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料を挟んで高電圧を印加するために、固体試料の裏面と合成石英ガラス窓の光入射部に網電極を取り付け、この電極間に高電圧を印加する。これによって反応溶液に電荷を与えて、試料表面と反応水溶液の親和性を上げた状態でその系に紫外線を照射した。図9に示すように試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を用い、反応溶液として水(H2O)を用い、両電極間に±1kVの直流および50Hzの交流を印加して、エネルギー密度5mJ/cm2のArFレーザー光を0から600ショット連続照射すると、いずれも処理後の水との接触角は小さくなり、水との親和性が良くなる。レーザー照射数が100ショットの時、電圧印加がない場合は95度であったが、石英ガラス側電極12、を負極にした時、接触角は80度、正極の場合は68度、交流では55度と印加電圧の極性によって接触角が顕著に変わることが明らかである。
【実施例6】
【0022】
図8に示すように固体試料と合成石英窓を密着させ、その間隙に反応水溶液として1%アンモニア水を入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料を挟んで高電圧を印加するために、固体試料の裏面と合成石英ガラス窓の光入射部に網電極を取り付け、この電極間に高電圧を印加する。これによって反応溶液に電荷を与えて、試料表面と反応水溶液の親和性を上げた状態でその系に紫外線を照射した。試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を用い、両電極間に±1kVの直流および1kV、50Hzの交流を印加して、エネルギー密度5mJ/cm2のArFレーザー光を0から600ショット連続照射すると、いずれも処理後の水との接触角は小さくなり、水との親和性が良くなる。未処理のPTFEは水との接触角は110度であるが、レーザー照射100ショットでは、レーザーのみ照射した時の水との接触角は90度であったが、+1kVを印加した時は87度、−1kV印加で80度、50Hz の交流で68度と、電荷を印加すると水との接触角は小さくなる。特に光照射に交流の印加を併用すると水との親和性が良くなる。
【実施例7】
【0023】
図8に示すように固体試料と合成石英窓を密着させ、その間隙に水(H2O)を入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を挟んで高電圧を印加するために、固体試料の裏面と合成石英ガラス窓の光入射部に網電極を取り付け、この電極間に+1,+2,+3、+4,+5,+6kVとそれぞれの高電圧を印加しながら、試料表面と反応水溶液の親和性を上げた状態でその系にエネルギー密度5mJ/cm2のArFレーザー光を0から600ショット連続照射すると、未処理のPTFEは水との接触角は110度であるが、レーザー照射100ショットでは、レーザーのみ照射した時の水との接触角は90度であったが、+1kVを印加した時は87度、+1kVを印加した時は87度、+2kVを印加した時は80度、+3kVを印加した時は70度、+4kVを印加した時は63度と、印加電圧の上昇に連れて水との接触角は小さくなる。しかし+4kVを境にして接触角は再び上昇に転ずる傾向にある。特に光照射に交流の印加を併用すると水との親和性が良くなる。
【実施例8】
【0024】
図8に示すように固体試料と合成石英窓を密着させ、その間隙に水(H2O)を入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料としてフッ素樹脂フィルム(PTFE: 厚さ485ミクロン)を挟んで高電圧を印加するために、固体試料の裏面と合成石英ガラス窓の光入射部に網電極を取り付け、図10に示すように電極間に0から+6kVとそれぞれの高電圧を印加しながら、試料表面と反応水溶液の親和性を上げた状態でその系にエネルギー密度5mJ/cm2のArFレーザー光を10ショット照射した時の印加電圧と接触角の関係を示す。電圧を印加せず、ArFレーザー光を10ショット照射した時の水との接触角は95度であるが、+1kVを印加した時は90度と印加電圧が高くなるに連れて水との接触角は小さくなり、+6kVを印加した時は81度と、印加電圧の上昇に連れて水との接触角は小さくなる。
【実施例9】
【0025】
図8に示すように固体試料と合成石英窓を密着させ、その間隙に水(H2O)を入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料として多孔質フッ素樹脂フィルム(孔径 10ミクロン、厚さ300クロン)を用い、両電極間に±4kVの直流および50Hzの交流4kVを印加した。いずれも処理後の水との接触角は小さくなり、水との親和性が良くなる。未処理の多孔質フッ素樹脂フィルムの水との接触角は130度であるが、レーザー照射500ショットでは、レーザーのみ照射した時の水との接触角は126度であったが、−4kVを印加した時は117度、+4kV印加で113度、4kV、50Hz の交流で100度と、電荷を印加すると水との接触角は小さくなる。特に光照射に交流の印加を併用すると水との親和性が良くなる。
【実施例10】
【0026】
図8に示すように固体試料としてポリプロプレンフィルム(厚さ300ミクロン)と合成石英窓を密着させ、その間隙に反応水溶液としてパーフルオロポリエーテルを入れ、毛細管現象により薄液層を形成した。そして固体試料を挟んで高電圧を印加するために、固体試料の裏面と合成石英ガラス窓の光入射部に網電極を取り付け、この電極間に高電圧を印加する。これによって反応溶液に電荷を与えて、試料表面と反応水溶液の親和性を上げた状態でその系に紫外線を照射した。未処理の試料の接触角が94度であったが、両電極間に±1kVの直流および50Hz、1kVの交流を印加して、エネルギー密度5mJ/cm2のArFレーザー光を2000ショット連続照射すると、ArFレーザー光照射のみでは接触角は100度、−1kV印加で105度、+1kV印加で112度と、いずれの場合でも水との接触角は大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明によれば、反応溶液に高電圧を印加している間は濡れ性が向上するから、その間に化学反応系に紫外線を照射すれば、高電圧印加されている時すなわち『反応溶液が付着している瞬間に、その溶液雰囲気での光表面改質』を行なう為、紫外線露光部分には官能基が選択的に置換される。溶液中で高電圧を用いる為工業製品政策と言うよりも、医療用素子などの製作に貢献する。とくに 多孔質フィルム内壁の親水性化には重要な手段である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】試料上の水滴に電圧を印加する実験方法図
【図2】PTFE試料上の水滴に極性の異なる直流および交流電圧(1kV)を印加したときの接触角変化の図
【図3】試料の裏面に誘電体を設置した状態で試料上の水滴に電圧を印加する実験方法図
【図4】PTFE試料の裏側に誘電体を挿入した状態で、PTFE上の水滴に極性の異なる直流および交流電圧(3kV)を印加したときの接触角変化の図
【図5】多孔質PTFE(孔径10μm)試料上の水滴に極性が異なり、かつ、電圧の異なる直流および交流電圧を印加したときの接触角変化の図
【図6】図5において5kVの交流を印加した後の多孔質PTFE表面に水を滴下した場合の未処理部と電圧印加後の接触角を側面から見た図(a)と上部から観測した図(b)。
【図7】銅電極の上の水滴に電圧を印加する実験方法図と水滴に極性の異なる直流および交流電圧(100V)を印加したときの接触角変化の図
【図8】試料上の反応溶液に極性の異なる直流や交流を印加した状態で紫外線を照射する装置略図
【図9】図8の装置により反応溶液として水を用い、PTFE試料上の水に極性の異なる直流および交流電圧(1kV)を印加した状態でArFレーザー光(5mJ/cm2)を500ショットまで照射した時の水と試料表面の接触角変化図
【図10】図8の装置により反応溶液として水を用い、PTFE試料上の水に石英窓側を正極として印加電圧を0から6kVまで変化させた、かつ、5mJ/cm2 のArFレーザー光を10ショット照射した時の、水と試料表面の接触角変化図
【符号の説明】
【0029】
1 電源(±直流、交流)
2 針電極
3 水滴
4 試料
5 平板電極
6 誘電体板
7 合成石英窓
8 反応溶液
9 ArFエキシマレーザー
10 石英レンズ
11 ミラー
12 電極(網目上、パターン状、透明電極)
(a) 未処理部と電圧印加後の接触角を側面から見た図上部から観測した図
(b) 未処理部と電圧印加後の接触角を上部から観測した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料表面と紫外線透過窓との間隙に毛細管現象を利用して反応溶液を挟み、形成された薄液層界面に紫外線を照射して固体材料表面の露光部に官能基あるいは金属原子を置換させるに先立ち、固体材料表面と紫外線透過窓の間に固定された電極により反応溶液に電圧を印加しながら紫外線を入射させ、材料界面での光化学反応を促進させることを特徴とする固体材料の表面改質方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固体材料がプラスチック、セラミック、あるいは金属であることを特徴とする固体材料の表面改質方法。
【請求項3】
請求項1に記載の固体材料表面と紫外線透過窓の間に固定された電極が固体材料裏面と紫外線透過窓の紫外線入射側あるいは反応溶液側に取り付けた網目状または回路パターン状あるいは透明電極であることを特徴とする固体材料の表面改質方法。
【請求項4】
請求項1に記載の固体材料表面と紫外線透過窓の間に固定された電極が紫外線透過窓の反応溶液側に取りつけられたまたは蒸着された対向またはくし型電極であることを特徴とする固体材料の表面改質方法。
【請求項5】
請求項1、3、4に記載の電圧が直流または交流であることを特徴とする固体材料の表面改質方法。
【請求項6】
請求項1に記載の固体材料が多孔質フッ素樹脂であり、その裏面に平板電極を取り付け、その表面に水を滴下し、その水滴の頂上に針電極を置き、それら両電極間に高電圧を印加して親水性に改質した後、試料に紫外線を照射することにより多孔質内壁を親水性化することを特徴とする固体材料の表面改質方法。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−193612(P2006−193612A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6331(P2005−6331)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(303045188)
【Fターム(参考)】