説明

固体試料の作製装置、固体試料の作製方法及び試料の観察方法

【課題】吐出口から液体試料が蒸発することを抑制して、固化する際の検体の組成や構造の変化を抑制し、かつ安定した検体の吐出を可能にする。
【解決手段】固体試料の作製室(1〜3)と、ステージ(14)と、検体を吐出する吐出口を備え、吐出動作により、ステージの表面に検体を供給する検体供給器(16)と、ステージを冷却する冷却器(13)と、を有し、作製室内において、冷却されたステージの表面に検体を供給して、検体を固化させる固体試料の作製装置において、検体供給器の吐出動作の待機時に、検体供給器の吐出口を作製室内の雰囲気から遮蔽した状態で、吐出口から検体を吸引する吸引器(18)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料の作製装置、固体試料の作製方法及び試料の観察方法に関する。より詳しくは、常温常圧で液相を呈する液体中に分散された物質の分散状態を、より正確に観察可能な固体試料の作製装置、作製方法及び観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における機能性デバイスの需要増加とともに、薬剤、エマルジョンなど、固体又は液体の分散物を液体中に分散した検体について、より正確な分散状態の評価や微細な構造解析が望まれている。
【0003】
光学顕微鏡で観察可能な構造よりさらに微細な構造を観察するために、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)が一般的に用いられる。しかし、試料は真空中に置かれるので、通常の試料は液体状態で観察することはできない。したがって、検体としての液体試料を観察する場合には、試料を真空中でも変化しないように固定する必要がある。SEM観察に限らず、観察対象である液体試料を静止状態で観察する場合は、液状の試料を何らかの方法で固定しなければならない。
【0004】
液体試料中の分散物を、液体時の分布密度や凝集・分散の状態を保持した状態で観察する方法の一つとして、液体試料を凍結して固化させる方法がある。液体試料を凍結すると、試料中で結晶化面が移動しながら固化が進行する場合がある。この場合には、結晶面の移動に伴い分散物も液体媒質中を移動するため、固化した試料中の分散物の分散状態は凍結前の液体時の分散状態とは異なり、液体試料中の分散物の正確な観察を行うことができない。
【0005】
特許文献1には、試料ホルダに液体試料を入れ、該試料ホルダを冷却したメタルブロック上に押し付けて急速に冷却する方法が提案されている。しかし、試料観察の際、試料をホルダから取り外して加工・観察装置のステージに移す必要がある。また、試料が微小な場合、ホルダの熱容量を試料の熱容量より小さくするのは困難であるため、ホルダの熱容量によって試料の冷却条件がばらつき、観察すべき試料全体が均一な凍結試料を得ることができない。
【0006】
また、特許文献2には、試料にマイクロ波を照射した直後に該試料を急速に冷却し凍結固化させる方法が開示されている。従来の急速凍結装置においては、水が非晶質となって凍結される領域が銅ブロックと接触した表面からせいぜい20μm程のごく一部に限られるため、特許文献2では、マイクロ波を利用している。
【0007】
このように特許文献2には、マイクロ波の照射により、氷の結晶の成長が妨げられ、非晶質的に凍結される領域が大幅に拡大することが開示されている。
【0008】
しかし、前記手法ではマイクロ波によりエネルギーが試料外から与えられ、人工的な分散状態が形成されてしまうため、得られる固体試料は本来の液体試料における分散状態とは異なる。また、試料全体をアモルファス状態の固体とするには至っていない。
【0009】
いずれにしても、前述したとおり、試料観察の際、試料をホルダから取り外して加工・観察装置のステージに移す必要がある。また、試料が微小な場合、ホルダの熱容量を試料の熱容量より小さくするのは困難であるため、ホルダの熱容量によって試料の冷却条件がばらつき、観察すべき試料全体が均一な固体試料を得ることができない。
【0010】
試料に関する情報を得る主な方法としては、光散乱法、小角X線散乱法等の電磁波散乱を利用して平均的情報を得る方法の他、凍結割断法、クライオミクロトーム法等による断面作成後、光学顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。
【0011】
最近では、SEM装置に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置による加工機能を付加したFIB−SEM装置が開発されている。FIB装置は、イオン源からのイオンビームを細く集束して加工試料に照射し、エッチング等により加工を行う装置である。
【0012】
特許文献3には、FIB加工中、SEM観察中に試料温度を調整して昇温による構造変化やビームダメージを防ぎ試料の断面構造を正確に解析することを可能にしたものが提案されている。
【0013】
また、特許文献4には、断面作成後に温度制御された試料をカバーで覆い、他の装置へ移し所定部の評価を行うことを可能にしたものが提案されている。
【特許文献1】実開昭57−75554号公報
【特許文献2】特公平08−12136号公報
【特許文献3】特許第3715956号公報
【特許文献4】特開2005−148003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図10は本発明者が先に提案した固体試料の作製装置の概略構成図である。
【0015】
導入棒202aと操作部202bは、ステージを移動させる移動機構を構成し、ステージ201を、任意の位置まで動かして固定することができる。
【0016】
第1チャンバー203aにはチャンバーハッチ203bが設けられ、第1チャンバーの空間を気密性を保って隔離することができる。
【0017】
203dはパージ用ガス導入口、203cはパージ用ガス開閉バルブ、203eは、第2チャンバー204aと接触する部分を密閉するためのO−リングである。
【0018】
第2チャンバー204aにはチャンバーハッチ204dが設けられ、更に、パージ用ガス導入口204cがパージ用ガス開閉バルブ204bを介して取り付けられている。第2チャンバー204aは切り替え弁204eを介してリーク口204fと真空ポンプ205に接続している。
【0019】
第2チャンバー204a内には試料ステージ201の冷却器206と検体供給器207が設けられている。検体供給器207は、液体状態の試料を液滴にし、所定の速度でステージ201に向けて噴射する液体噴射ヘッドである。
【0020】
検体供給器207は、吐出制御装置208の制御により液体を吐出口から吐出して、飛翔的液滴を形成する。この液滴が冷却されたステージの表面で固化し、固体試料が作製される。
【0021】
しかし、検体の種類によっては検体供給器207から液体の少なくとも一部が蒸発することにより、検体本来の状態から変化することが判明した。これにより得られる固体試料の組成や構造が検体本来の組成や構造から変化することがある。
【0022】
本発明の目的は、検体供給器の吐出口から液体試料が蒸発することを抑制して、固化する際の検体の組成や構造の変化を抑制し、かつ安定した検体の吐出を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の骨子は、
固体試料の作製室と、
ステージと、
検体を吐出する吐出口を備え、吐出動作により、前記ステージの表面に前記検体を供給する検体供給器と、
前記ステージを冷却する冷却器と、
を有し、
前記作製室内において、冷却された前記ステージの表面に前記検体を供給して、前記検体を固化させる固体試料の作製装置において、
前記検体供給器の吐出動作の待機時に、前記検体供給器の吐出口を前記作製室内の雰囲気から遮蔽した状態で、前記吐出口から前記検体を吸引する吸引器を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の第2の骨子は、固体試料の作製方法において、
上述した固体試料の作製装置を用意する工程、
前記作製室内に乾燥ガスを導入する導入工程と、
前記ステージを冷却する冷却工程と、
前記作製室内で前記検体供給器の吐出動作を実行する工程と、
前記検体供給器の吐出動作の待機時に、前記検体供給器の吐出口を前記作製室内の前記乾燥ガスからなる雰囲気から遮蔽した状態で、前記吐出口から前記検体を吸引する吸引工程と、
を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の第3の骨子は、試料の観察方法において、
上述した固体試料の作製方法を用いて固体試料を作製する工程と、
前記固体試料のアモルファス状態を維持して該固体試料の断面観察を行う観察工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、検体供給器の吐出口からの検体の蒸発を抑制して、検体の組成や構造の変化を抑制することができる。また、吐出口付近の検体に組成や構造の変化が生じても、その部分を吸引除去できるので、検体の液相における組成や構造を反映した固体試料を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施形態1)
(固体試料の作製装置)
図1は、本発明の一実施形態による固体試料の作製装置の概略構成図である。
【0028】
試料の作製室は大きく分けて第1チャンバー1、第2チャンバー2、第3チャンバー3を有する。そして作製室は、第1チャンバー内の雰囲気と第2チャンバー内の雰囲気とを隔離するとともに、第2チャンバー内の雰囲気と第3チャンバー内の雰囲気とを隔離する、少なくとも2つの開閉可能なシャッター4、5を有する。
【0029】
ステージ14は導入棒15に取付けられ、冷却器13に不図示の板バネで押し付けられている。ステージ14の材質は比熱と熱伝導度の高い物質、詳しくはアルミニウム、銅などの金属製であることが望ましい。また、その表面には薄い酸化アルミニウム膜が形成されていてもよい。
【0030】
ここで、ステージ14と導入棒15はネジにより互いに取り付けられており、導入棒15を回すことによりステージ14との分離、結合ができる。ステージ1には、必要に応じて不図示の温度センサーが組み込まれ、導入棒15内部を通じて外部に設置する不図示の温度表示部または温度制御装置に接続することができる。
【0031】
導入棒15は密閉可能な第3チャンバー3に設けられた不図示の貫通穴をO−リング(不図示)を介して貫通し、気密性を保った状態でスライドできる。導入棒15をスライドさせることで、ステージ14を第1チャンバー内の検体供給位置まで移動することができる。
【0032】
第3チャンバー3には開閉可能なシャッター5が設けられ、第3チャンバー3内の空間の気密性を保って隔離することができる。また、第3チャンバー3には第3チャンバー3に隣接する第2チャンバー2と接触する部分を密閉するための不図示のO−リングが設けられている。
【0033】
試料の作製室は、ステージ14を収容するための第3チャンバー3を有しており、第3チャンバー3には、必要に応じてチャンバーの移動機構が設けられ、第2チャンバーに対して切り離し可能に構成されている。また、第2チャンバー2内と第3チャンバー3内とが、同じ雰囲気に設定されるよう構成されている。
【0034】
パージ用のガス導入弁10には不図示のガス配管が接続されおり、密閉可能な第2チャンバー2はガス導入弁10を介して第2チャンバー2内を窒素等の水分を含まない気体で満たすことができる。
【0035】
第1チャンバー1と第2チャンバー2の間には開閉可能なシャッター4が設けられ、第1チャンバー1と第2チャンバー2の空間を個別に雰囲気制御して隔離することができる。また、第2チャンバー2にはガス排出弁8を介して真空ポンプ6と大気に接続されており、これらの接続を切り換えることができる。
【0036】
ステージ14の温度調整手段である冷却器13には、冷媒を必要量注入したデュワー瓶11を温度伝達部12で接続しておく。温度伝達部12の材質は熱伝導度の高い物質、例えば、銅などの金属製であることが好ましい。デュワー瓶11は第2チャンバー2の外、中のどちらに設置しても構わない。冷媒としては液体窒素または液体ヘリウムを使用可能である。
【0037】
また、冷却器13には、必要に応じて、不図示のヒーターと温度センサーが組み込まれ、外部に設置する不図示の温度表示部又は温度制御装置に接続し、所望の温度を制御することができる。また、冷却器13は、ペルチェ素子やヘリウム冷凍機のような冷却機構を組み込んだものでもよい。
【0038】
パージ用のガス導入弁9には不図示のガス配管が接続されおり、密閉可能な第1チャンバー1にはガス導入弁9を介して第1チャンバー1内を窒素等の水分を含まない乾燥した気体で満たすことができる。また、第1チャンバー1内のガスはガス排出弁7を介してチャンバー外に放出可能となっている。
【0039】
第1チャンバー1内には検体供給器16として、例えば、液体噴射ヘッドが設けてある。
【0040】
液体噴射ヘッドには、液体を吐出するための吐出口が少なくとも1つ設けられている。
【0041】
検体供給器16は不図示の制御装置に接続され、任意の条件下における吐出動作により液滴を吐出する。
【0042】
遮蔽部材としてのキャップ17は、検体供給器16の吐出動作の待機時に、検体供給器の吐出口を作製室内の雰囲気から遮蔽する。この吐出口を遮蔽した状態で、その吐出口から検体を吸引する吸引器18を有する。キャップ17はヘッドの待機状態において検体供給器16の吐出口近傍に配置される。キャップ17の機能は、検体の組成や構造変化の抑制だけでなく、吐出口の乾燥防止、チャンバー内の検体による汚染防止などである。
【0043】
キャップ17には検体吸引部18が接続されており、キャップ17内を減圧し、検体供給器16から検体を吸引することにより、目詰まりを回復することができるだけでなく、変質した検体を取り除くことができる。
【0044】
本発明に用いられるキャップとしては、検体供給器としてのヘッドの吐出動作の待機時に、ヘッドの吐出口を作製室内の雰囲気から遮蔽できるものであればよく、各種形状のものが好適に用いられる。キャップの材質は、シリコーンゴムなどの弾性体からなるもの、ヘッドへの密着部のみが弾性体からなりキャップ本体は金属やセラミッスやプラスティックなどの非弾性体からなるものであってもよい。
【0045】
上記弾性体としては、天然ゴム又は合成ゴムが用いられる。合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、エピクロルヒドリンゴム(CHR)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0046】
又、吸引器としては、吐出口を作製室内の雰囲気から遮蔽した状態で、吐出口から検体を吸引することができるものであればよい。具体的には、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復ポンプや、ギヤポンプ、ベーンポンプ、チューブポンプなどの回転ポンプであり得る。
【0047】
第1チャンバー1と検体供給器16には、図中水平方向への移動機構20と図中上下方向への移動機構21を介して接続されている。移動機構20と移動機構21は不図示の移動機構制御部に接続されており、検体供給器16を予め設定された位置に移動可能である。
図中上下方向への移動機構21の代わりにキャップ17を上下に移動させることでも可能である。
【0048】
移動機構21を動作させることで、検体供給器16をキャップ17から離すと同時に、ステージ14との適切な距離を制御することができる。また、移動機構20を動作させることで、検体供給器16を第1チャンバー1内から第2チャンバー2内のステージ近傍に移動させ、検体を吐出し、形成された飛翔的液滴をステージ表面に付着する。
【0049】
このように、検体供給器16の吐出動作を実行するために検体供給器16を第1のチャンバー1から第2のチャンバー2に移動させる検体供給器の移動機構20を有している。また、固体試料を取り出すために、ステージ14を第2のチャンバー2から前記第3のチャンバー3に移動させるステージの移動機構15を有している。
【0050】
そして、固体試料の作製室は、吸引器が付設された第1チャンバー1と、冷却器13が付設された第2チャンバー2と、を有し、第2チャンバー2において、検体供給器の吐出動作が実行される。本発明においては、後述するように、第1チャンバー1内で吐出動作が実行されてもよい。
【0051】
(固体試料)
本発明の固体試料の作製方法により作製される固体試料は、観察すべき領域全体がアモルファス(非晶質)状態で固化している。アモルファスの固体は、液体のランダムな分子配置をそのまま凍結した固体であり、液体試料からなる検体液滴を急速冷却して結晶成長を阻害することにより得ることができる。
【0052】
液体試料中に分散物が分散している場合、アモルファスの状態で固化させることにより結晶面成長が生じないため、結晶面成長に伴う分散物の移動が起きない。しかも、固化させる前にマイクロ波エネルギーを試料に照射したりしないため、得られる固体試料は液体時の分散物の分散状態を正しく反映しており、SEM等で該固体試料を観察する際に、液体状態における分散物の正確な分布観察を行うことができる。
【0053】
固体試料がアモルファスであることは、光学顕微鏡、SEM、及びレーザー顕微鏡等による直接観察、並びに透過型電子顕微鏡、X線解析による回折パターンの測定などから判断することができる。結晶質部分が一部に存在する場合、走査型電子顕微鏡では一定の塊状の結晶を直接観測でき、透過型電子顕微鏡、X線解析では該結晶質部分由来の回折パターンが得られる。これ以外にもラマン分光法によりアモルファスか結晶かを同定することができる。
【0054】
本発明の固体試料のアモルファス状態とは、例えばSEMにより10nm以上の粒径の結晶が観察されない状態をいう。
【0055】
本発明に用いられる、常温常圧で液相を呈する液体(A)としては、例えば、1気圧且つ20℃程度の室温状態で液相を呈する液体であり、代表的には水や水溶性溶剤や有機溶剤である。
【0056】
本発明に用いられる有機溶剤としては、エタノール、メタノール、イソプロパノールなどのアルコール;グリセリン、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;アセトン;エチルエーテル;キシレン;シクロヘキサン;トルエンなどである。
【0057】
本発明に用いられる、常温常圧で固相又は液相を呈する物質(B)としては、例えば、1気圧且つ20℃程度の室温状態で固相又は液相を呈する物質が用いられる。
【0058】
常温常圧で固相を呈する物質(B1)としては、金、銀、銅のような純金属又は合金、シリコン、ゲルマニウムのような半導体、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムのような酸化物、カーボンブラックなどの無機微粒子が挙げられる。或いはアントラキノン誘導体、ポリスチレン樹脂などの有機化合物;銅フタロシアニンなどの金属錯体、などの有機微粒子であってもよい。
【0059】
上記物質(B1)の粒子径は、液体中の分散性が保たれていれば特に規定されないが、10nm以上1μm以下、より好ましくは、10nm以上100nm以下である。
【0060】
これらの粒子径は光散乱法、レーザー回折法などの手法で測定可能である。
【0061】
常温常圧で液相を呈する物質(B2)としては、常温で液体を呈し、急冷により液体(A)とともに固体となる物質であれば特に規定されない。しかし、物質(B2)は、液体(A)中で分散状態が保たれることが可能な物質である必要がある。
【0062】
具体的には、物質(B2)としては、エマルジョン状態の液体であり、例えば、たんぱく質分散液、未反応乳化重合液等が挙げられる。前記液体の物質(B2)の粒子径は、10nm以上1μm以下、より好ましくは、10nm以上100nm以下の範囲内から適宜選択できる。
【0063】
これらの粒子径は光散乱法などの手法で測定可能である。
【0064】
常温常圧で固相又は液相を呈する物質(B)の機能としては、顔料、色材、導電性物質、絶縁性物質、半導体、誘電体、磁性体、エマルジョン、界面活性剤などであり得る。
【0065】
また、物質(B)としては、例えば−40℃以上の凝固点を有する物質、例えば−40℃以上+20℃以下の範囲内から選択される凝固点を有する物質が好ましく用いられる。これらの具体例としては、植物性油脂、シクロヘキサン、などが挙げられる。
【0066】
本発明に用いられる、検体としての液体試料(AB)は、例えば、顔料が分散された顔料インク組成物、銀粒子が熱硬化性樹脂を溶かした有機溶剤中に分散された導電性ペースト組成物、帯電可能な粒子を分散させた溶液などが挙げられる。
【0067】
(固体試料の作製方法)
本発明の固体試料作製方法は、予めステージを冷却し、アモルファス化できる範囲内の所定の体積の検体液滴を吐出装置から吐出させて、当該液滴を前記ステージの上に着弾させ当該液滴を急冷してアモルファスの状態で固化する。
【0068】
この固化するための固化工程は、乾燥ガス雰囲気下で行うことが望ましい。これにより、液滴を急却して凝結固化する際、試料表面での結露発生を抑制することができる。
【0069】
好ましくは、露点が設定するステージ温度以下である−273〜−196℃の範囲内の乾燥ガス雰囲気が好ましい。
【0070】
前記乾燥ガスとしては、水分含量の低い気体であれば特に規定されず、ヘリウム、アルゴンなどの希ガス、或いは窒素から選択される不活性ガスの少なくとも1種を含むガスが好ましいが、水素等の反応性ガスであってもよい。
【0071】
以下、各工程について説明する。
【0072】
まず、予め物質(B)を含む液体(A)、即ち検体としての、液体試料(AB)の液滴の着弾点となるステージを冷却する。
【0073】
ステージは、液体試料(AB)を凝結固化する試料台であり、ステージを冷却可能な冷却器にて予め冷却される。
【0074】
本発明に用いられるステージとしては、液滴が短時間で凍結しアモルファスの固体試料になるのに十分な熱伝導率をもつものであればよく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金のような金属材料からなる表面を有する部材が挙げられる。あるいは、それらの金属材料の表面に金属酸化物のような薄い絶縁性被膜が形成されたものであってもよい。
【0075】
ステージを冷却するための冷却器は、例えば、液体窒素等の冷媒を入れたデュワー瓶や低温に保たれた冷却室であってもよい。また、低温に冷やされた金属塊、ペルチェ素子やヘリウム冷凍機のような冷却機構であってもよい。
【0076】
ステージの冷却温度は、液体窒素温度(−196℃)であれば液体試料(AB)の液滴がステージ上に着弾した際、液滴が急速冷却され、観察すべき試料全体が結晶部分を形成することなくアモルファスとなる。
【0077】
冷却に液体窒素を用いない場合でも、例えば液体が水の場合、1気圧の水のガラス転移点がおよそ−130℃であるため、ステージ温度はおよそ−140℃以下であれば、アモルファスの固体試料が得られる。
【0078】
次に、液体試料(AB)を観察すべき領域全体がアモルファス化できる範囲内の大きさの液滴として検体供給器から吐出し、冷却器で予め冷却したステージに着弾させる。
【0079】
本発明に用いられるステージは、ステージの表面に複数の液滴が互いに離間して付着されるように、液滴の吐出方向と交差する方向に前記表面を移動させる移動機構が付設されたものが好ましいものである。こうして、アモルファス化した固体試料が複数得られる。
【0080】
具体的には、ステージは液滴の吐出方向に交差する方向、より具体的には垂直な方向に移動可能であることが好ましい。液滴吐出時にステージを吐出方向に対して垂直な方向に移動することにより、ほぼ同じ形状で同じ大きさの固体試料が複数得られる。
【0081】
また、ステージを冷却器から分離可能に構成することで、予めステージを冷却器により冷却した後、ステージを自由に移動して複数の液滴を任意の位置に着弾させることができる。
【0082】
液滴の粘度、飛翔速度、体積、飛翔距離を調整することにより、ステージ上に着弾した液滴全体をアモルファス化することもより好ましいものである。
なお、液滴から形成された薄膜の厚さは均一である必要はない。
【0083】
液滴を高速でステージに向けて衝突させることにより、ステージ上で液滴が拡がって薄い被膜になり、その後冷却される。
【0084】
本発明においては、100pl(ピコリットル)以下の体積で、且つ5m/秒以上の飛翔速度で液滴をステージ上に着弾させることが好ましい。例えば、液滴の体積は、10pl(ピコリットル)、液滴の飛翔速度は7m/秒である。
【0085】
この被膜の厚さを十分に小さくすることにより、ステージへの熱の移動が短時間で起きる。このため液滴状の試料(AB)中の液体分子はほとんど瞬時に固化されるが、分子よりはるかに大きい分散物である物質(B)は液体(A)が固化する時間内では空間的に移動し難い。
【0086】
その結果、物質(B)の分散状態がそのまま維持されて固定される。水系液体の場合、液体試料(AB)の粘度としては、表面張力が70mN/m以下、粘度が1×10-2Pa・s以下であることがステージ上で薄膜を形成する上で好ましい。
【0087】
なお、ステージ上に着弾した液滴の薄膜の膜厚は、1μm以上50μm以下、より好ましくは1μm乃至10μmの範囲内から選択しうる。この範囲内であれば、全体がアモルファス固体からなる固体試料を容易に形成できる。また、従来技術とは異なり、着弾面から20μmを超える、例えば、25μm以上50μm以下の範囲内の大きさの観察領域であっても全体をアモルファス化できる。
【0088】
液滴の体積が大きい場合、ステージ上で薄い膜にならず、接触角の大きい盛り上がった液滴として付着する。このとき、ステージとの接触面積に比べて液体の体積が大きく、熱の移動に時間がかかるため、冷却過程で粒子が液中を移動して分散状態が変化してしまう。
【0089】
また、体積の小さな液滴であっても、飛翔速度が小さい場合には、ステージ上で十分に薄い薄膜とならないことがある。このときは、たとえ液量が少なくても分散状態が変化しやすい。通常、液滴の体積は0.1pl以上1nl以下、飛翔速度は3m・s-1以上20m・s-1以下の範囲で適宜調整することが、均一な薄膜形成の観点から好ましい。
【0090】
本発明に用いられる検体供給器としては、液体を吐出して飛翔的液滴を形成する液体噴射ヘッドが好ましく用いられる。この液体噴射ヘッドは、液滴をノズル(吐出口)から吐出させるものであり、所謂、インクジェットヘッドとよばれる。
【0091】
本発明においては、インクジェットと云えども吐出する液体は狭義のインクに限定されない。
【0092】
インクジェットヘッドは微小な液滴を形成するのに適しており、液滴の体積や飛翔速度を調整できるので、本発明の固体試料の作製に適している。インクジェットヘッドとしては、サーマル方式、ピエゾ方式、静電方式等、任意の方式のものが使用できる。
【0093】
本発明に用いられる検体供給器としては、液体噴射ヘッド以外にも、マイクロピペットや、毛細管のような中空筒などを用いることができる。
【0094】
さらに、ステージが冷却器に対して移動し、冷却器からステージが離れた後にステージに液滴が着弾してもよい。着弾した液滴が固化する時に発生する凝固熱は、ステージの熱容量に対して十分に小さいので、冷却器から金属製のステージが離れた後に、ステージに着弾しても液滴全体をアモルファス化できる。
【0095】
要するに、本発明の好適な実施形態における固体試料の作製方法は、
上述及び後述する固体試料の作製装置を用意する工程、
作製室内に乾燥ガスを導入する導入工程と、
ステージを冷却する冷却工程と、
作製室内で検体供給器の吐出動作を実行する工程と、
検体供給器の吐出動作の待機時に、検体供給器の吐出口を作製室内の乾燥ガスからなる雰囲気から遮蔽した状態で、吐出口から検体を吸引する吸引工程と、
を有することを特徴とする。
【0096】
より好ましくは、検体として、常温常圧で液相を呈する液体と、前記液体とは異なる物質であって常温常圧で固相又液相を呈する物質と、を含み、前記物質が前記液体中に分散された検体を用意し、検体を液滴として、冷却されたステージ表面に付着させ、観察すべき領域全体をアモルファス化すると良い。
【0097】
(試料の観察方法)
本発明の一実施形態による試料の観察方法は、
上記試料の作製方法を用いて固体試料を作製する工程と、
前記固体試料の断面観察を行う観察工程と、
を含む。
【0098】
本発明においては、ステージの移動の際に固体試料の温度が変化しないように、必要に応じてステージに温度維持機構が設けられていてもよい。
【0099】
また、加工・観察の際は、必要に応じて、固体試料を載せたステージをそのまま、固体試料作製装置から加工装置、或いは加工・観察装置内に移動し、加工及び/又は観察を行うことも好ましいものである。
【0100】
(固体試料の作製方法)
図2は、図1に示す作製装置を用いた固体試料作製方法の一手順を示すフローチャート図を示す。
【0101】
図3〜図6は図1に示す固体試料の作製装置による固体試料の作製方法における各部分の動作を説明するための概略図である。
【0102】
以下、図1乃至図6に基づいて固体試料の作製の手順を説明する。
【0103】
始めに、第1チャンバー1内の、外部から閉鎖された空間を窒素ガス置換する手順(ステップS1)を説明する。
【0104】
まず、第1チャンバー1と第2チャンバー2の間のシャッター4を閉鎖し、第1及び第2チャンバー内の雰囲気を互いに分離する。
【0105】
そして、ガス排出弁7とガス導入弁9を開放しガス導入弁9から導入された乾燥窒素ガスで第1チャンバー1内のガスを置換する。ここでの乾燥ガスで置換する時間は限定しないが、第1チャンバー1内の水分が完全に除去できるまで、上述した露点を達成し得るに十分な時間をかけてガス置換をすることが必要である。こうすると、検体供給器、検体、更には固体試料への結露を防止できる。
【0106】
次に、デュワー瓶11に液体窒素を充填する(ステップS2)。
【0107】
そして、ステージ14を導入棒15に取付ける(ステップS3)。
【0108】
さらに、導入棒15を操作して第3チャンバー3内にステージ14を移動し収容する(ステップS4)。そして、シャッター5を閉じる。
【0109】
一体となったステージ14と第3チャンバー3の開口部を不図示のO−リングを介して第2チャンバー2の開口部を密閉する位置に設置、結合する(ステップS5)。そして、シャッター5を開けて、第2及び第3チャンバー内を互いに連通させる。
【0110】
以上の手順を完了した状態を図3に示す。
【0111】
続いて第2チャンバー2、第3チャンバー3内の、外部から閉鎖された空間を乾燥窒素ガスで置換する手順(ステップS6)を説明する。
【0112】
最も簡単な手順はガス排出弁8を大気と導通するように開き、ガス導入弁10を開き窒素ガスを流入させる方法であるが、ガスのよどみ等により、十分な窒素ガス置換が行なわれないので、以下の方法が好ましい。
【0113】
まず、ガス導入弁10を閉鎖して、ガス排出弁8を真空ポンプ6に導通するように切換え、真空ポンプ6を作動させてチャンバー内のガスを排出させ、続いて、ガス排出弁8を閉鎖し、ガス導入弁10を開き窒素ガスを流入させる。上記、真空引きとガス導入を数回繰り返せばさらに好ましい。
【0114】
第2チャンバー2と第3チャンバー3内が窒素で置換された後、導入棒15を操作してステージ14を冷却器13上に移動させる(ステップS7)。この状態を図4に示す。
【0115】
なお、ステージ14の温度は、液体窒素温度(−196℃)であれば液体試料の液滴がステージ上に着弾した際、液滴が急速冷却され、結晶部分を形成することなく全体がアモルファスの固体試料を得ることができる。冷却に液体窒素を用いない場合でも、−140℃以下であれば、水系溶媒試料のアモルファスの固体試料を得ることができる。
【0116】
そして、必要であれば冷却器13のヒーターを動作させ、ステージ14の温度を所定温度に安定させる(ステップS8)。例えば、水系溶媒を含む試料の場合、ステージ14の温度を、例えば、−100℃に設定する。この温度は、水のガラス転移点−130℃より高い温度であるので、試料は結晶化した固体試料となる。
【0117】
一方、前記液体窒素温度(−196℃)で凍結させた場合には、固体試料とを比較することで、結晶化状態とアモルファス状態での粒子の分散状態の差が確認ができる。
【0118】
次に、検体供給器16の回復手順(ステップS9)を説明する。
【0119】
吐出動作の待機時において、検体供給器16は試料の液体の蒸発を防止するためにキャップ17で覆われている。しかしながら、例えば微細構造をもつインクジェットヘッドの場合は長時間の放置により、ノズル部のわずかな液体の蒸発により正常な吐出ができないこともある。そこで、キャップ17にチューブを介して接続され、キャップ17の内部とチューブ内を介して連通している試料吸引部18を動作させることにより、検体供給器16の吐出口から試料を吸引する。これにより検体供給器16の吐出口を本来の正常な状態の試料で充満させる。
【0120】
続いてシャッター4を開放し、移動機構21を動作させ、検体供給器16をキャップ17から離す。この際、試料の吐出方向に対し、検体供給器16とステージ14の距離が0.1mm〜3mmになるように移動機構21の移動量を制御する。
【0121】
次に、移動機構20を動作させ、検体供給器16を試料受部19上に移動させ、検体供給器16から試料を吐出させる。試料受部19に試料を予備的に吐出させることにより、検体供給器16からの吐出を更に安定させることができる。
【0122】
さらに、移動機構20を動作させ、検体供給器16をステージ14上に移動させ、検体供給器16から試料を吐出させ(ステップS10)、試料の液滴をステージ14に付着させる。付着した試料の液滴はステージ14に熱を奪われ固化する(ステップS11)。
【0123】
この状態を図5に示す。
【0124】
この時、検体供給器16を動かすことなく固定した状態で試料を付着させることもできる。また、検体供給器16を移動させながら試料(液滴)を付着させることにより、ステージ14上に任意の複数の液滴からなるパターンを描くこともできる。
【0125】
また、検体供給器16を固定した状態で、導入棒15を操作してステージ14を移動させながら試料を付着させることもできる。さらに、検体供給器16、ステージ14の両者を移動させながら試料を付着させる方法でもよい。
【0126】
そして、移動機構20と移動機構21を動作させ、検体供給器16をキャップ17で覆い、検体供給器16からの液体の蒸発を防止する。
【0127】
尚、第1チャンバー1、第2チャンバー2、第3チャンバー3内は乾燥窒素ガスで雰囲気制御されているため、固化した試料に水分が結露することはない。
【0128】
試料が固定されたステージ14を分析装置に移送する手順を以下に説明する。
【0129】
まず、シャッター4を閉鎖し(ステップS12)、ガス導入弁10を閉鎖、ガス排出弁8を真空ポンプ6に切り換え、真空ポンプ6を動作させて、第1チャンバー1と第3チャンバー3内を真空排気する(ステップS13)。
【0130】
次に、第2チャンバー2と第3チャンバー3の内部が十分に排気された後、導入棒15を操作してステージ14を第3チャンバー3内に移動する(ステップS14)。
【0131】
この状態は図3と同じである。
【0132】
そして、シャッター5を閉鎖し(ステップS15)、ガス排出弁8を閉鎖、ガス導入弁10を開放して、第2チャンバー2の内部を大気圧まで窒素ガスでパージする(ステップS16)。そして、第2チャンバー2と第3チャンバー3を切り離す(ステップS17)。この状態を図6に示す。
【0133】
ステージ14上に付着した試料は十分に冷却されているので気化消失することはない。
【0134】
切り離された第3チャンバー3の開口部を不図示のO−リングを介して、不図示の分析装置の試料導入機構に接続し、シャッター5を開いて導入棒15を操作してステージ14をその分析装置の真空容器内に移送する(ステップS18)。
【0135】
さらに、導入棒15を操作してステージ14と導入棒15を切り離すことにより、ステージ14のみを真空容器内に収容することができる。
【0136】
以上の手順により検体供給器内の液体試料の蒸発を抑制して固化することにより試料の内部構造の変化を防止し、所望の分析装置で分析することができる。例えば、分析装置としてのFIB−SEM装置で固化した試料の断面を作成し、断面の状態を観察できる。
【0137】
また、検体供給器から試料を吐出する前に検体供給器を試料吸引部分により吸引して回復操作を行っているため、目詰まりすることなく安定した液体試料の吐出が可能であった。
【0138】
(実施形態2)
本発明の別の実施形態による固体試料の作製装置、固体試料の作製方法及び試料を観察する方法について説明する。
【0139】
(固体試料の作製装置)
図7は固体試料の作製装置の検体供給器をインクジェットヘッドとした場合の概略構成図である。
【0140】
以下に、実施形態1との相違点を中心に、図面を参照して説明する。
【0141】
検体供給器16は第1チャンバー1に固定されており、試料の吐出方向に対し、検体供給器16とステージ14の距離が0.1mm〜3mmになるように組付けられている。
【0142】
また、キャップ17には図中上下方向への移動機構31が接続されており、検体供給器16との接触状態と、非接触状態とを、外部から切り替えるように制御することができる。
【0143】
さらに、導入棒15には図中水平方向への移動機構30が当接されており、不図示の移動制御手段により冷却器13上と検体供給器16の間を任意の速度で移動することができる。
【0144】
要するに、検体供給器16の吐出動作を実行すべく、ステージ14を第2チャンバー2から第1チャンバー1に移動させるとともに、固体試料を取り出すために、ステージ14を第1チャンバー1から第3チャンバー3に移動させるステージの移動機構を有する。
【0145】
尚、本実施形態では導入棒15を駆動してステージ14を移動する方法を説明したが、ステージ14を冷却器13に固定したまま、冷却器13を検体供給器16の下に移動させてもかまわない。
【0146】
上記以外の本実施形態の固体試料の作製装置は実施形態1と同じであり、その詳細な説明は省略する。
【0147】
(固体試料の作製方法)
図8は、図7に示す固体試料の作製装置を用いた固体試料の作製方法の一手順を示すフローチャート図、図9は図7に示す検体試料作製装置による検体試料作製方法のうち、試料をステージに付着固化する一手順を示す概略図である。
【0148】
図8の第2チャンバー内の雰囲気制御(ステップS1)から検体供給器の回復動作(ステップS9)は図2の手順と同じであり、その詳細な説明は省略する。
【0149】
ステップS9の後、まず、シャッター4を開放し、移動機構31を動作させ、検体供給器16をキャップ17から離す。
【0150】
次に、必要に応じて、検体供給器16からキャップ17内に試料(液滴)を予備的に吐出させる。
【0151】
さらに、移動機構30を動作させ、ステージ14を検体供給器16上に移動し(ステップS101)、検体供給器16に吐出動作を実行させて、検体供給器16から試料を吐出させ、試料の液滴をステージ14に付着させる。付着した試料はステージ14に熱を奪われ固化する(ステップS102)。
【0152】
この状態を図9に示す。
【0153】
この時、検体供給器16を固定した状態で試料をステージ14に付着させることもできるが、検体供給器16を移動させながら試料を付着させることにより、ステージ14上に複数の液滴からなるパターンを描くこともできる。
【0154】
そして、移動機構30を動作させ、ステージ14を冷却器13上に移動し、ステージ14の温度を−190℃に制御する。また、移動機構31を動作させ、検体供給器16をキャップ17で覆い、検体供給器16からの液体の蒸発を防止する。
【0155】
尚、第1チャンバー1、第2チャンバー2、第3チャンバー3内は、結露防止のため、乾燥窒素ガス雰囲気となっている。
【0156】
図8のシャッター閉鎖(ステップS12)から第3チャンバーの分析装置への移送(ステップS18)は実施形態1と同じであり、その詳細な説明は省略する。
【0157】
以上の手順により検体供給器内の液体試料の蒸発を抑制することにより、固化した試料の内部構造が検体本来の内部構造に対して変質することを防止できる。
【0158】
また、検体供給器から試料を吐出する前に検体供給器を試料吸引部分により吸引して回復操作を行っているため、目詰まりすることなく安定した液体試料の吐出が可能であった。
【実施例】
【0159】
(実施例1)
図1に示す装置を用意して、図2に示す手順で固体試料を作製した。ステップS18の後、FIB−SEMで固体試料の断面を作成し、その断面を分析した。その結果、固体試料は、固化した溶液中に粒径30〜80nmの顔料粒子が均一に分散しているアモルファス状態であることが観察できた。
【0160】
(実施例2)
図1に示す装置において検体供給器16として液体噴射ヘッドに代えて中空筒を取り付けた。
【0161】
この中空筒は、先端内径0.2mm、後端内径3mm、長さ25mmのテーバー状中空筒であった。
【0162】
中空筒内部を検体で満たした後、図1のステップS1からステップS8を実行した。ステップS9において、吸引部18を動作させ、キャップ17を介して中空筒の先端にある吐出口から検体を吸引した。そして、中空筒内部には約50μlの検体が残るようにした。
【0163】
ステップS10からS11を実行して、中空筒後端に圧力0.2MPaの乾燥窒素ガスの導入系を接続し、乾燥窒素ガスの導入系の途中に設けられた弁を開いて中空筒先端より検体を吐出させた。中空筒先端より吐出された検体は、飛翔的液滴となり、ステージ表面上に着弾し、冷却された。こうして、固体試料を得ることができた。
【0164】
ステップS12からS18を実行した後、FIB−SEMで固体試料の断面を作成し、その断面を分析した。その結果、固体試料は、固化した溶液中に粒径30〜80nmの顔料粒子が均一に分散しているアモルファス状態であることが観察できた。
【0165】
(実施例3)
図7に示す装置を用意して、図8に示す手順で固体試料を作製した。
【0166】
ステップS18の後、FIB−SEMで固体試料の断面を作成し、その断面を分析した。その結果、固体試料は、固化した溶液中に粒径30〜80nmの顔料粒子が均一に分散しているアモルファス状態であることが観察できた。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本発明の固体試料の作製装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す固体試料の作製装置による固体試料の作製方法の一手順を示すフローチャート図である。
【図3】図1に示す装置において、ステージを第3チャンバーに収納した一手順を示す概略図である。
【図4】図1に示す装置において、ステージの温度を制御する一手順を示す概略図である。
【図5】図1に示す装置において、試料をステージに接触固化する一手順を示す概略図である。
【図6】図1に示す装置において、固化した試料を他の装置に移送する一手順を示す概略図である。
【図7】本発明に係る別形態の固体試料の作製装置の概略構成図である。
【図8】本発明に係る別形態の固体試料の作製装置による固体試料の作製方法の一手順を示すフローチャート図である。
【図9】図7に示す固体試料の作製装置において、試料をステージに接触固化する一手順を示す概略図である。
【図10】本発明者が先に発明した固体試料の作製装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0168】
1 第1チャンバー
2 第2チャンバー
3 第3チャンバー
4、5 シャッター
6 真空ポンプ
11 デュワー瓶
12 温度伝達部
13 冷却器
14 ステージ
15 導入棒
16 検体供給器
17 キャップ
18 吸引部
19 試料受部
201 ステージ
202a 導入棒
202b 操作部
203a 第1チャンバー
203b チャンバーハッチ
203c パージ用ガス開閉バルブ
203d パージ用ガス導入口
203e O−リング
204a 第2チャンバー
204b パージ用ガス開閉バルブ
204c パージ用ガス導入口
204d チャンバーハッチ
204e 切り替え弁
204f リーク口
205 真空ポンプ
206 冷却器
207 検体供給器
208 吐出制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体試料の作製室と、
ステージと、
検体を吐出する吐出口を備え、吐出動作により、前記ステージの表面に前記検体を供給する検体供給器と、
前記ステージを冷却する冷却器と、
を有し、
前記作製室内において、冷却された前記ステージの表面に前記検体を供給して、前記検体を固化させる固体試料の作製装置において、
前記検体供給器の吐出動作の待機時に、前記検体供給器の吐出口を前記作製室内の雰囲気から遮蔽した状態で、前記吐出口から前記検体を吸引する吸引器を有することを特徴とする固体試料の作製装置。
【請求項2】
前記作製室は、前記吸引器が付設された第1チャンバーと、前記冷却器が付設された第2チャンバーと、を有し、
前記第1チャンバー又は前記第2チャンバーの少なくともいずれか一方において、前記検体供給器の吐出動作が実行される請求項1に記載の固体試料の作製装置。
【請求項3】
前記作製室は、前記ステージを収容するための第3チャンバーを有しており、
前記第2チャンバー内と前記第3チャンバー内とが、同じ雰囲気に設定される請求項2に記載の固体試料の作製装置。
【請求項4】
前記検体供給器の吐出動作を実行するために、前記検体供給器を前記第1チャンバーから前記第2チャンバーに移動させる検体供給器の移動機構と、
前記固体試料を取り出すために、前記ステージを前記第2チャンバーから前記第3チャンバーに移動させるステージの移動機構と、
を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置。
【請求項5】
前記検体供給器の吐出動作を実行するために、前記ステージを前記第2チャンバーから前記第1チャンバーに移動させるとともに、前記固体試料を取り出すために、前記ステージを前記第1チャンバーから前記第3チャンバーに移動させるステージの移動機構を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置。
【請求項6】
前記検体供給器は、液体噴射ヘッドである請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置。
【請求項7】
前記作製室は、前記第1チャンバー内の雰囲気と前記第2チャンバー内の雰囲気とを隔離するとともに、前記第2チャンバー内の雰囲気と前記第3チャンバー内の雰囲気とを隔離する、少なくとも2つの開閉可能なシャッターを有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置。
【請求項8】
前記作製室は、前記ステージを収容するための第3チャンバーを有しており、
前記第3チャンバーは、前記第2チャンバーに対して切り離し可能に構成されている請求項1乃至7のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置。
【請求項9】
固体試料の作製方法において、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の固体試料の作製装置を用意する工程と、
前記作製室内に乾燥ガスを導入する導入工程と、
前記ステージを冷却する冷却工程と、
前記作製室内で前記検体供給器の吐出動作を実行する工程と、
前記検体供給器の吐出動作の待機時に、前記検体供給器の吐出口を前記作製室内の前記乾燥ガスからなる雰囲気から遮蔽した状態で、前記吐出口から前記検体を吸引する吸引工程と、
を有することを特徴とする固体試料の作製方法。
【請求項10】
前記検体として、常温常圧で液相を呈する液体と、前記液体とは異なる物質であって常温常圧で固相又は液相を呈する物質と、を含み、前記物質が前記液体中に分散された検体を用意し、
前記検体を液滴として、冷却されたステージ表面に付着させ、
観察すべき領域全体をアモルファス化する請求項9に記載の固体試料の作製方法。
【請求項11】
試料の観察方法において、
請求項10に記載の固体試料の作製方法を用いて固体試料を作製する工程と、
前記固体試料のアモルファス状態を維持して該固体試料の断面観察を行う観察工程と、
を含むことを特徴とする試料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−8141(P2010−8141A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165698(P2008−165698)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】