説明

固体間接触部の評価方法

【課題】
従来の熱伝達係数の評価法は、界面での変化を直接測定するものではなく、界面の有無による物性値の差から推測する方法に過ぎない。又、従来の熱伝達係数の評価法では、界面熱抵抗の原因である非常に小さな面積率を占める固体−固体真実接触部とほとんどの面積を占める固体−気体−固体接触部を分けて議論することはできなかった。
【解決手段】
固体間界面の気体(例えば大気)を熱拡散率の異なる気体(例えばHeやNe、Xe、CO2等)に置換させたり、気体の平均自由行程が接触界面の空隙厚さ程度になるクヌーセン領域で気圧を変化させることにより生じる界面熱伝達の変化を、一方に周期的な加熱源を置くことにより空間的に減衰する熱波を発生させ、もう一方の温度を位相検波により測定することにより、測定する固体界面の局所的な熱伝達係数や真実接触面積を評価することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触する固体間の熱伝達係数を見積もる方法を与えると共に、その熱伝達を構成する固体−固体間熱接触と固体−気体−固体間熱接触部の局所的な割合を求める方法を与え、さらに固体接触界面やクラッド材の接合界面における局所的な真実接触面積の割合や局所的な接合度の評価を可能とする技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
一般に固体間に接触界面が存在した場合、固体中を伝わる熱は、バルク中とは異なり、熱が流れにくくなる。これは接触部では固体と固体が直接接する真実接触面積が小さくなるため、比較的熱拡散率の良い固体−固体接触界面での熱伝達が少なくなり、逆に接触面積の大半を占める固体−気体−固体接触部において気体を介しての熱伝達率が小さいために生じる現象である。
【0003】
このため固体間の接触界面では、熱抵抗が高くなり、温度は急激な勾配を示す。マクロ的には接触界面における温度は不連続とみなされる。界面間を流れる熱流束は、この温度差に比例することから、この比例係数kを熱伝達係数と呼ぶ。
【0004】
熱伝達係数は、熱伝達率のような物性値とは異なり、固体間の接触圧力や介在物に大きく影響され、クラッド材においては製造プロセスに大きく依存する量である。また固体間の熱伝達を問題とする工業的な利用において、その量を知ることは重要である。
【0005】
ところで、近年、材料の異なる特性を生かすため、異なる金属を圧延等で接合されたクラッド材が多数使用されている。クラッド材は主として厚み方向に固体同士の接触界面を持ち、この接触界面が熱伝達等の性質に様々な特質や問題を与える。
【0006】
又、近年、部品の精密化や信頼性の向上や長寿命化の観点から、工作機械を始めとする機械一般の精度の向上が求められているが、動力等の発熱による熱膨張の影響を極力抑えるためには、精密な温度制御が重要となる。
【0007】
一般に、ほとんどの機械製品は生産プロセスの必要性から複数の部品から構成されており、隣接する部品間の接触熱抵抗は、温度制御上、重要な因子である。
【0008】
バルクとしての理解が比較的容易な板材や機械部品も、クラッド材や構成後の機械全体では、接触界面における熱抵抗の存在から、熱特性等の全体の性質は複雑になる。そのため固体間界面での熱伝達係数の定量的な評価は、設計上、重要となる。
【0009】
これまで物質内部の重要な熱的性質である熱拡散率は、温度の関数ではあるものの物質によって固有の値を持ち、様々な手法で測定が試みられてきた。また熱拡散率の測定法は、インパルス的や周期的な加熱を利用する方法を始めとして、レーザーフラッシュ法やACカロリーメトリー法、温度波熱分析法を始めとする様々な手法が提案され、公知である。例えば特許文献1や非特許文献1がある。
【0010】
【特許文献1】特開2006−214921号公報
【0011】
【非特許文献1】最新熱測定 基礎から応用まで アグネ技術センター アルバック理工株式会社、八田一郎著 (2003)
【0012】
しかし、固体間界面の熱の流れやすさを表す指標である熱伝達係数は、全体の熱的性質がバルク部の熱拡散率にも影響されることから、測定が困難であり、あまり多くの手法が開発されてこなかった。
【0013】
固体−固体間の熱伝達係数の測定方法については、接するバルク材の熱伝達率について測定やデータ等を通してあらかじめ調べておき、その後、固体間を流れる熱流を従来の熱物性の測定法で評価するものであった。近年提案されている方法には、例えば特許文献2や特許文献3、特許文献4にみられるようなパルス的な加熱や周期的な加熱後の表面や背面での温度変化を調べるものや特許文献5にみられるような定常状態での温度差を測定する方法などが公知である。
【0014】
【特許文献2】特開2002−122559号公報
【0015】
【特許文献3】特開2001−108641号公報
【0016】
【特許文献4】特開2001−116711号公報
【0017】
【特許文献5】特開2006−145446号公報
【0018】
一方、クラッド材等の製造工程では、圧延等による接合の適切な条件を探ることにより、いかに空隙が少なく、真実接触面積の大きな接合界面を作るかが、プロセス上重要となる。そして、
より接合性の良い界面を作るには、クラッド材界面の真実接触面積を評価する必要があり、そのために様々な評価法が提案されてきた。
【0019】
なかでも超音波の透過率を用いるクラッド欠陥の評価法は、非特許文献2にも示されるように、JISにもなっており、広く使われている非破壊的評価手法である。
【0020】
【非特許文献2】超音波探傷試験:JIS G0801
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、従来の熱伝達係数の評価法は、界面での変化を直接測定するものではなく、界面の有無による物性値の差から推測する方法に過ぎない。特に近年盛んに取り上げられている周期的加熱やパルス的加熱による熱物性の測定の場合、熱波の接触界面での反射や干渉などの効果が存在し、界面の存在は単なる界面部での差に留まらない。
【0022】
さらに従来の熱伝達係数の評価法では、界面熱抵抗の原因である非常に小さな面積率を占める固体−固体真実接触部とほとんどの面積を占める固体−気体−固体接触部を分けて議論することはできなかった。両者の熱伝達率は大きく異なり、そのため熱応答等に差を生じさせることから、周期的加熱やパルス的加熱による熱物性の測定の場合、両者を明確に区別する必要があった。また従来の方法では、界面における熱抵抗におけるこれら二つの機構を分けて考えることができず、界面熱伝達に関わる両者の比を明らかにすることができなかった。
【0023】
一方、クラッド材における接合界面の評価の場合、超音波等を用いた手法では、波としての特性を持つことから、透過率が界面の形状や波長に大きく依存し、真実接触面積や接合度についての正確な値を見積もることができなかった。また音波の透過を議論するため、接合面における熱の透過度については直接に議論することはできなかった。そのためクラッド材の応用として多い熱物性での評価ができなかった。さらに超音波が固体中を低減衰で広がることから、局所的な接合度の評価には向かなかった。
【0024】
またクラッド材の作製には高温下での圧延や拡散焼鈍等のプロセスが必要となるが、熱処理の際に生じる熱応力は、接合面における空隙を逆に大きくする可能性があるため、より最適なクラッド製造プロセスを確立するためには、各工程での真実接触面積の変化を定量的に評価する必要があり、従来の方法ではこれが解決できなかった。
【0025】
さらに原子力発電における圧力容器に使われるクラッド材を考えた場合、この材料は絶えず中性子照射を受け続けることから、強度の脆化が進み、特に接合界面における接合強度を常時モニターする必要があるが、従来の超音波を利用した評価法では、検査のために原子炉を止める必要性があり、また超音波源を炉内部に設置することが難しいため、反射法を利用するしかなく精度に問題があった。
【0026】
そこで、本発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法は、そのような従来の方法が有する問題点を解決するために考えられたものである。

【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法は、固体間界面の気体(例えば大気)を熱拡散率の異なる気体(例えばHeやNe、Xe、CO2等)に置換させたり、気体の平均自由行程が接触界面の空隙厚さ程度になるクヌーセン領域で気圧を変化させることにより生じる界面熱伝達の変化を、一方に周期的な加熱源を置くことにより空間的に減衰する熱波を発生させ、もう一方の温度を位相検波により測定することにより、測定する固体界面の局所的な熱伝達係数や真実接触面積を評価することを特徴とする。
【0028】
接触する2枚の板の一方から周期的に振幅を変化させた熱波を流入させ、他面における熱波の振幅及び/又は位相差の変化を位相検波法により測定することにより、前記2枚の板接触部における熱伝達係数を測定する方法である。そして、接触する2枚の板の間隙に熱拡散率の異なるガスを流入させる、又は接触する2枚の板の界面間隙部の気圧をクヌーセン領域で変化させることを特徴としている。次に、測定された熱伝達係数から接触する2枚の板の真実熱接触部面積を求める方法であり、さらに、接触する2枚の板がクラッド材であり、熱伝達係数からクラッド材の接合度を求める方法であり、この際に、クラッド材に流入させる熱流を局所的に絞る、又は熱波を検出する領域を局所的にし、クラッド材に対して熱流源と検出器をクラッド材の面で走査させることにより、クラッド材の局所的な接合度を評価する方法である。

【発明の効果】
【0029】
この発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法によれば、一方に周期的な加熱源を置き、もう一方の温度を測定することにより、熱波の振幅や位相差の変化から、固体間接触界面やクラッド材界面における熱伝達係数を局所的に評価することができる。
【0030】
それにより近年、冷却の必要性が増している高密度集積回路や超LSI、CPU等に対する冷却部の熱抵抗を評価することができ、熱接触部の不具合や経年劣化を局所的にモニターすることができる。
【0031】
またこれら熱波の振幅や位相差の変化から、非特許文献3に表される橘の式を基礎として、この界面伝熱機構である固体−固体熱接触と固体−気体−固体熱接触部の割合、さらに固体間接触界面やクラッド材界面の真実接触面積を局所的に評価することができる。
【0032】
【非特許文献1】最新熱測定 基礎から応用まで アグネ技術センター アルバック理工株式会社、八田一郎著 (2003)
【0033】
それにより、クラッド材における接合界面の真実接触面積や接合度を熱的観点から局所的に評価することができ、クラッド材の製造プロセスの際に発生する熱応力等による真実接触面積の変化を局所的に最適化することができる。
【0034】
さらにこの手法により、原子力発電における炉内の発電量の変化と炉外間に生じる熱波の位相差や振幅の変化から、圧力容器に使われるクラッド材界面のアンダークラッド・クラッキングや経年劣化を連続運転下で局所的に評価することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1に示すように、接触させた板やクラッド材の一方にチョッパーや電子制御を用いて周期的に変化させた加熱光を当て、もう一方に赤外線半導体や熱電対等の温度センサーを置き、裏面での温度変化をモニターする。例えば、ここではMCT赤外線半導体を使い、可視光をSi窓で遮って影響を抑え、裏面の温度変化を放出される赤外線の量として測定する。温度センサーとして熱電対や電気抵抗センサーを用いる場合、こういった光学的な窓等の工夫の必要はない。
【0036】
その際、板の間にはバネや荷重等の工夫により、一定の接触圧を与える。また試料接触部の表面粗さは別に測定しておく。またクラッド材等の場合はそのまま測定することができる。
【0037】
加熱源の周波数は試料が厚いほど低くする必要があるが、同時に位相差の分解能が低くなることから、状況により適切な値を選択する。この際、周波数を固定して以下の情報を測定するが、温度波熱分析法と同様に周波数を走査させた測定も有効である。
【0038】
センサーからの出力をロックインアンプ等に入力することにより、加熱源の出力を基準とした温度変化を測定することにより、接触させた板やクラッド材の厚み方向から伝わる熱波の振幅や位相差を評価する。この際、熱波は進行に伴い減衰するため、センサーが捉える熱物性の変化は、減衰距離程度の局所的な情報に限られる。そのためセンサーを走査させることによって測定試料の熱物性の分布を得ることができる。
【0039】
次に図2に示すように、接触させた板やクラッド材にHeガスやNe、Xe、CO2ガス等を吹き付けて接触界面におけるガスを置換させるか、これらの試料周りの気圧をクヌーセン領域まで低下させるなどして、界面熱伝達係数を変化させて測定を行う。その後、接触させた板やクラッド材に大気や窒素ガス等を吹き付けるか、元の気圧に戻すなどして、接触界面におけるガスを元の状態に戻す。これを交互におこない、その際の熱波の振幅や位相差を評価する。この際、置換するガスは熱拡散率の異なるものほど良い。
【0040】
ガスを置換させた際の、熱波の振幅や位相差の変化は、非特許文献3にある橘の式を用いて、固体間接触界面空隙部における気体の熱伝達が変化したことによる熱伝達係数の変化として理解される。橘は、固体間接触界面における熱の流れを固体−固体間熱接触部における固体伝熱としての熱流と固体−気体−固体間接触部における気体伝熱としての熱流の和であると考え、それぞれの寄与を単位面積あたりの真実接触面積である真実接触面積率SRと固体間接触部の空隙高さhを用いて、図3のように単純化した。
【0041】
このモデル化により、接触する固体の熱伝達率をλs、空隙に満たされている気体の熱拡散率をλgとすると、固体間接触界面における熱伝達係数kは、以下の式(1)により表される。ちなみにここでは単純化のため、両側の固体の熱伝達率を等しくλsとおいた。
【0042】
【数1】

【0043】
ここで空隙に満たされているガスが置換して、その熱拡散率がλgとなった場合、固体間接触界面における熱伝達係数kは、同様に式(1)で表されるため、界面熱伝達の変化Δkは以下の式(2)のように変化する。
【0044】
【数2】

【0045】
接触する両固体の表面粗さをδとすると、固体間接触部の空隙高さは、粗さδの数倍程度であることから、h=pδと推定される。ここで係数pは通常3程度の値を用いる。クラッド材の場合は、接合前の試料の表面粗さから推定する。これらの推定値は熱伝達係数の全体の評価に大きな影響を与えないことから、この手法では係数αを誤差要因として取り扱う。
【0046】
他方、ACカロリーメトリー法、温度波熱分析法を始めとする周期的な加熱を利用した熱拡散係数の評価法でも示されているように、半無限固体の一方の面を周期的に加熱した場合、固体内部に熱波が生成し、固体内部の温度T は深さ方向x に対して、式(3)の様に変化する。ここでωは、加熱源の変調角周波数であり、αsは固体の熱拡散率である。またT0は定常状態での加熱面の温度振幅である。一般に固体の熱伝達率λと熱拡散係数αは、比熱C、密度ρとの間にα=λ/Cρの関係式が成り立つ。
【0047】
【数3】

【0048】
いま試料を厚さdの板とした場合、もう一方の面からの熱波の反射が無視されるとすると、この面での温度は以下の式で表される。
【0049】
【数4】

【0050】
一般に温度T からの赤外線放射量はT4 に比例することが知られているが、加熱面の反対側における温度の上昇分ΔT は、室温よりも極端に小さいことから、加熱面の反対側における赤外線放射量の増加量ΔI はΔT に比例すると考えて差し支えない。
【0051】
よって、加熱側の温度と厚さdの板の反対側の温度とを比較した場合、赤外線放射強度の比r=ΔI/Iとして式(5)が、位相差Δθとして式(6)が得られる。
【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
ここで、試料が接触した2枚の板であったり、クラッド材であった場合、内部に接触界面が存在し、界面における熱抵抗が存在する。上記で述べたようにこの界面熱抵抗は、熱伝達係数によって表される。
【0055】
この界面によって熱波の振幅や位相がどれだけ変化するかがここでは問題となるが、ここでは単純に界面の熱伝達の効果が界面部分に連続してバルク体が存在したときの効果として議論をおこなう。
【0056】
熱伝達係数の変化Δk は、式(2)で定義されることから、この界面と同じ働きを熱伝達率λsのバルク材でおこなうとすると、以下の式で表される厚さの変化Δd0と等価となる。
【0057】
【数7】

【0058】
この厚さの変化Δd0の領域により減衰される熱波の振幅は式(8)に表され、遅延する位相差は式(9)で表される。
【0059】
【数8】

【0060】
【数9】

【0061】
以上の考察から、逆にガス置換したことにより得られた赤外線放射強度の比がr=ΔI/I であった場合、ここから推測される界面熱伝達係数は、以下の式(10)で表される。
【0062】
【数10】

【0063】
また同様に位相差の変化がΔθであった場合、ここから推測される界面熱伝達係数は、以下の式(11)で表される。
【0064】
【数11】

【0065】
これら二つの結果は、同じ程度の値を示すことが望まれるが、仮定の不適切さや測定誤差等の要因から、両者に重み付けをして平均を取ったり、一方を主として取り扱う方が適切な場合がある。特に赤外線放射強度の変化量ΔI は温度センサーのバックグラウンド分だけ誤差を生じやすいので、測定周波数を増加させた際の収束値を0とするなどの工夫が必要である。
【0066】
以上のようにガス置換で得られた界面熱伝達係数の変化は、式(1)でも示されるように、主として界面の空隙部分におけるガスの熱拡散係数が変化したことに依存している。このことから、界面熱伝達係数の変化から空隙領域の面積率(1-SR)が推定でき、これは式(12)によって表される。また真実接触面積率SRはここから簡単に算出できる。
【0067】
【数12】

【0068】
この値は、界面空隙厚さhの変化によって多少の誤差を生じ、この測定では誤差要因となるが、一般に接触平面の空隙厚さは大きく変化しないため、あまり影響を与えない。
【0069】
また本手法における最適な変調周波数は試料厚さに依存しており、例えば位相差Δθ以上の分解能を得るためには、式(6)から導かれるように以下の式(13)で表される周波数以下の外部加熱を要する。
【0070】
【数13】

【0071】
さらに熱波は、式(3)にも示されるように、波の進行に依存して指数関数的に減少することから、加熱源の照射領域や温度センサーの測定領域を制限することにより、局所的な領域の界面の熱伝達係数や接合度を評価することができ、センサーを走査させる等の工夫によって測定試料の熱伝達係数や接合度の分布を得ることができる。
【0072】
以上の測定とデータの解析から、固体間界面の局所的な熱伝達係数や真実接触面積や空隙率の推定ができる。

【実施例1】
【0073】
本発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法により、固体間の接触界面における熱伝達係数や真実接触面積を求めることができる。
【0074】
いま、0.2mm厚のアルミ板一枚および0.1mm厚のアルミ板2枚を10kPaの押し付け力で2層に重ねた場合について考える。ハロゲンランプをチョッパーで20Hzの断続光として試料の片面から熱波を入力させる。この際、裏面の温度変化を放出される赤外線の量として測定し、ロックインアンプを用いることにより、裏面まで届いた熱波の振幅と加熱源との位相差をモニターした。
【0075】
図4に示すように、空気を用いた大気圧下での測定値に対して、1気圧のHeガスで置換したところ、アルミ板2枚を2層に重ねた試料については、熱波の位相は急激に減少し、熱波の振幅は急激に増加した。一方、図5に示すように、アルミ板1枚の1層の試料については、両者に大きな変化は現れなかった。また1層の試料については、熱波の振幅はわずかに減少したが、位相差は変化しなかった。
【0076】
2層における熱波の振幅の増加は、接触界面の気体が熱伝導率が0.02598 W/(m・K)の空気(窒素)から、熱伝導率が0.152W/(m・K)のHeガスに置換されたことにより、熱波が減衰せずに、より伝わりやすくなったことを意味する。また熱波の位相の減少も同様な効果により生じる。
【0077】
ちなみに1層の試料における熱波の振幅の減少は、周囲の気体が熱拡散率の良いHeガスに置換された結果、冷却効果が生じたためと考えられ、試料の配置等に依存して変化するものと考えられる。この現象は界面での熱抵抗の現象とは逆向きであるため、界面現象との理解を損なわせるものではないが、真実接触面積を求める際に誤差として働くことから、注意する必要がある。
【0078】
以上の結果を式(12)に代入し、空気とHeの熱伝達率の値を代入して計算すると、アルミ板2枚を重ねた場合の真実接触面積SRは0.00234と推定された。
【0079】
従来からの真実接触面積の推定法として、塑性流動圧から見積もる方法があるが、アルミニウムの降伏強度を71MPaとすると、押し付け強度30Nで押されたアルミ板界面の真実接触面積は0.0013となり、今回得られた値がオーダー的に妥当であることが分かる。これまでの推定法が、流動変形を仮定した推定式であったのに対し、今回の熱による測定は、実測値から求めるより確かな方法といえる。
【0080】
今回、Heの置換に際し、赤外線の放出強度は約1秒の遷移時間を経て変化した。今回の測定法にはロックインアンプによる位相検波を利用していることから、その時定数(今回は0.3秒)以上には時間分解能を得ることはできない。また式(13)に表されるように、試料の厚さによって最適な変調周波数が存在することから、厚い試料ほど、時間分解能は悪くなる傾向にある。
【0081】
しかしながら、本手法により秒オーダーの熱伝達係数の変化を測定できることから、経時的に変化する接触界面の熱物性の変化をモニターするには良い方法であることが分かる。

【実施例2】
【0082】
本発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法により、クラッド材の接触界面における熱伝達係数や真実接触面積を求めることができ、クラッド材の接合度を推定することができる。
【0083】
これまで様々な工業的用途から、異なる金属の特性を生かすために、数多くのクラッド材が開発されているが、ここでは例としてCuとニクロム合金を接合させたクラッド材に付いて考える。一般にクラッド材の製法は、初期の熱間圧延による強加工の後、還元雰囲気下で表面光沢化を伴った焼鈍処理をおこない、その後、仕上げ圧延により最終製品を得る。これらのクラッド材は、熱間圧延により強加工することによって、接合界面の酸化膜等が取れ、新生面が押し付けられることによって接合されると考えられ、焼鈍処理により、さらに両者の拡散が進み、接合度が進むものと考えられている。
【0084】
いま、ハロゲンランプをチョッパーで20Hzの断続光として、Cuとニクロム合金を接合させた0.3mm厚のクラッド材試料の片面から熱波を入力させる。この際、裏面の温度変化を放出される赤外線の量として測定し、ロックインアンプを用いることにより、裏面まで届いた熱波の振幅と加熱源との位相差をモニターした。
【0085】
図6に示すように、空気を用いた大気圧下での測定値に対して、1気圧のHeガスで置換したところ、熱波の位相は急激に減少し、熱波の振幅は急激に増加した。
【0086】
クラッド材における熱波の振幅の増加と位相の減少は、試料周囲をHeガスに置換した際に、熱波が減衰せずに、より伝わりやすくなったことを示す。これはクラッド材の接触界面の気体が熱伝導率の悪い空気から、熱伝導率が良いHeガスに置換されたことを意味し、これによりクラッド材のように密着した素材においても本手法が適応可能であることが分かった。
【0087】
次に、初期の熱間圧延直後やその後の焼鈍処理後の試料、さらに仕上げ圧延後の試料といった具合に、クラッド材を製造するそれぞれの工程における試料について測定をおこなった。その後、測定した信号の強度比や位相差の変化から、各試料における接合部の真実接触面積率を見積もり、図7に示した。
【0088】
その結果、初期の熱間圧延直後の試料では、クラッド材界面の真実接触面積は大きかったのに対して、焼鈍処理後の試料について真実接触面積は減少する傾向にあった。またこの真実接触面積は仕上げ圧延により、再び大きくなる傾向にあった。
【0089】
このことから、今回の試料については、焼鈍処理により、クラッド材をなす金属の熱膨張係数の違いから生じる熱応力により、界面の接合度がかえって悪くなる傾向にあったことが示唆された。
【0090】
この様に本手法により、クラッド材の各プロセスにおける接合度の変化を評価することが可能となる。またクラッド材界面の熱伝達係数が見積もられることから、熱等の用途におけるクラッド材の性能評価に使えることが分かる。

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明である固体間接触部の真実接触面積の評価方法は、接合部の局所的な熱伝達係数を評価したり、接合度を評価することができる。したがって前記で挙げたクラッド材の製造工程の最適化のほか、より効率の良い冷却を要する超LSIの分野、原子力発電やLNG用タンカー等、クラッド材を多用する分野の検査等に応用され、産業に資すること大である。
【0092】
近年、超LSIを始めとする高集積化回路の出現により、高速な演算が実現されており、より早い演算を実現する目的から、回路等の集積化が進み、これによる超LSI回路等からの発熱が大きな問題となっている。コンピューターの演算を決める電圧は熱によって揺らぎが生じることから、CPU等の超LSI回路の発熱を抑えないでいるとコンピューター等の暴走を生じかねない。
【0093】
より早い演算はより効率的な冷却装置の開発にかかっており、CPU等、超LSIから発生する熱を効率よく取り除くために様々な冷却装置が考案されている。
【0094】
しかしながらこれらの冷却装置は、肝心の超LSIと固体間接触を経てつながっている場合が多く、計算機の暴走を防ぐ意味からも、この接触界面での熱伝達を高効率に管理する必要がある。
【0095】
出来上がった製品の冷却装置の熱接触が十分であるかを調べる目的で、プログラム等により計算機のCPUに周期的な計算負荷を与え、これにより生じる熱波の位相差や強度を冷却装置側の温度センサーによりモニターさせる。この際、HeやCO2等のガスを接触界面に吹き付けることにより、その変化から、冷却装置の熱接合の様子を管理することができる。またこれらの装置を自動化して組み込むことにより、計算機内部の熱接触の状態を絶えずモニターすることが可能となる。
【0096】
一方、近年、大型タンカーや原子力発電所の圧力容器等、大規模な装置にクラッド材が使用されることが多く、その製造には、大掛かりな圧延、焼鈍装置が用いられている。その際、従来のクラッド材の検査法では、超音波の透過度を用いた方法や抜き取りによる破壊試験によるものが多かった。
【0097】
このクラッド材の製造には、ライン上で焼鈍や熱間圧延に伴う加熱等のプロセスが含まれるが、この加熱工程に一方向からの周期的な加熱を取り入れ、反対側で、製品の幅方向一列の温度検出をおこなうことで、本手法を実現させることができ、製造工程でのクラッド材の接合検査を製造ライン上に組み入れることが可能となる。
【0098】
これにより、クラッド材製造時に製品の全数検査ができ、製品製造時の温度や圧延荷重などのパラメーターを最適化することができる。
【0099】
他方、クラッド材は高強度で信頼性が必要な用途にも使用されることから、製品として使用時にも界面接合度のモニターや検査が必要となることが多い。特に原子力発電の圧力容器に使われるこの素材は、しばしば接合界面の割れであるアンダー・クラッド・クラッキング(UCC)が問題とされてきた。
【0100】
原子炉などは内部に加熱源があることから、この出力を変調させ、圧力容器外部の温度変化をモニターすることで、本手法を利用できる可能性が高い。特に常時の運転状態での出力変化をスペクトル解析することによって、本手法と同様な解析が可能となることから、UCCの検査法として簡便な手法を提供するものと考えられる。
【0101】
この際、ガス等は、内壁に吹き付けるなどの手法が考えられる。また本手法は加熱源の周波数を低下させることで、厚い素材についても適応可能であり、クラッド材についてもその作製法にはよらず、広くクラッド下の欠陥の状態を検出することが可能となる。
【0102】
最後に本手法は、クラッド材の熱特性を計ることにより、最適な製品を作る際の指針を与える。
【0103】
最近、家庭用に広く普及してきた電磁調理器は、渦電流による加熱の必要性から、ステンレスとアルミを始めとする様々なクラッド材が使用されているが、加熱部での熱を如何に調理部に伝えるかは、この接触界面の熱特性に関わる。特に調理食材の焦げにくくするためには、より熱が伝わらないようにする工夫も必要である。また早い調理を目指すには良い熱伝導が必要な場合もある。
【0104】
また電気ポットを始めとする商品は、耐食性を向上させる意味で、クラッド材が用いられているが、界面の空隙を増加させることで、熱伝達を遅らせた保温機能をもたせた素材開発も可能である。
【0105】
本手法は、こうした様々な要求を持った素材開発に威力を発揮する。また使用中のクラッド材調理器具の損傷の具合を計るのにも本手法は応用可能である。

【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の一形態を示した周波数変調された加熱源による熱物性測定装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の一形態を示した試料部の気密フォルダーを示す図である。
【図3】橘のモデルにおける単純化された固体間接触部の模式図である。
【図4】本発明の実施をした際のガス置換した際のアルミニウム2層における赤外線強度と位相の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施をした際のガス置換した際のアルミニウム1層における赤外線強度と位相の変化を示す図である。
【図6】本発明の実施をした際のガス置換した際のクラッド材における赤外線強度の変化を示す図である。
【図7】クラッド材の各工程における接合部の真実接触面積率を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1 加熱用光源
2 加熱光

3 試料部気密フォルダー

4 赤外線検出器

5 プリアンプ

6 チョッパー

7 チョッパー制御器

8 ロックインアンプ
9 オシロスコープ
10 コンピューター
11 加熱光
12 ガラス
13 試料
14 赤外線透過窓
15 ベアリング
16 バネ
17 気体流入口
18 流入ガス
19 気密フォルダー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触する2枚の板の一方から周期的に振幅を変化させた熱波を流入させ、他面における熱波の振幅及び/又は位相差の変化を位相検波法により測定することにより、前記2枚の板接触部における熱伝達係数を測定する方法。
【請求項2】
請求項1において、接触する2枚の板の間隙に熱拡散率の異なるガスを流入させることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達係数測定方法。
【請求項3】
請求項1において、接触する2枚の板の界面間隙部の気圧をクヌーセン領域で変化させることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達係数測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3において測定された熱伝達係数から接触する2枚の板の真実熱接触部面積を求める方法。
【請求項5】
請求項4において、接触する2枚の板がクラッド材であり、熱伝達係数からクラッド材の接合度を求める方法。
【請求項6】
請求項5において、クラッド材に流入させる熱流を局所的に絞る、又は熱波を検出する領域を局所的にし、クラッド材に対して熱流源と検出器をクラッド材の面で走査させることにより、クラッド材の局所的な接合度を評価する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−261697(P2008−261697A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103962(P2007−103962)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】