説明

固体電解質型燃料電池

【課題】失火しやすい燃料電池セル構造において燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの温度状態に応じて失火判定を正確に且つ迅速に行うことができる固体電解質型燃料電池(SOFC)を提供する。
【解決手段】本発明は燃料電池セル集合体12と、改質器20と、燃料ガス供給手段38と、改質用空気供給手段44と、発電用空気供給手段45と、着火手段83と、燃焼ガスの燃焼に起因する温度を検出する温度検出手段140,152と、起動時に、この着火手段により着火させて燃料ガスを発電用空気により燃焼させる燃焼運転を行い、POX運転、ATR運転、SR運転を順次行う制御部110と、を有し、この制御部は、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定時間内に所定の温度降下量しきい値以上に降下したとき失火と判定すると共に上記所定の温度降下量しきい値を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が低温である程大きな値となるように設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池に係わり、特に、燃料ガスと空気を反応させて発電する固体電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」とも言う)は、電解質として酸化物イオン導電性固体電解質を用い、その両側に電極を取り付け、一方の側に燃料ガスを供給し、他方の側に酸化剤(空気、酸素等)を供給して、比較的高温で動作する燃料電池である。
【0003】
このSOFCにおいては、酸化物イオン導電性固体電解質を通過した酸素イオンと燃料との反応によって水蒸気又は二酸化炭素を生成し、電気エネルギー及び熱エネルギーが発生する。電気エネルギーは、SOFC外部に取り出されて、各種電気的用途に使用される。一方、熱エネルギーは、燃料、SOFC及び酸化剤等に伝達され、これらの温度上昇に使用される。
【0004】
従来のSOFCにおいては、燃料電池モジュール内の密閉空間の下方部分に発電室が配置され、この発電室内に複数の燃料電池セルを備えた燃料電池セル集合体が配置されている。そして、これらの燃料電池セル集合体の上方には燃焼室が形成され、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤ガス(空気)とが燃料電池セル集合体の上部自体で直に燃焼し、燃焼室内で排気ガスが生成されるようになっている。
また、燃焼室の上方には、燃料ガスを水素に改質する改質器が配置され、燃焼室内の燃焼熱によって改質器が改質可能な温度となるように加熱されるようになっている。
【0005】
しかしながら、このような従来のSOFCにおいては、燃料電池セル集合体の上部自体で直に残余の燃料ガスと残余の酸化剤ガスを燃焼させる以外には、燃焼室や改質器を別途加熱したり、冷間起動時の着火や失火防止を支援したりするバーナー等の加熱手段が設けられていない。したがって、セル自体の構造のばらつきによる着火部分の形状相違や冷間起動時の燃焼室内の不安定性等起因して、100本を越える複数の燃料電池セルの全体にまんべんなく確実に着火させることは非常に難しく、着火しても気流等が少し乱れるだけですぐに失火してしまう等、安定した着火、及び安定した着火状態を維持することは非常に困難性が高いものであった。
【0006】
そこで、このような着火不良を抑制するために、従来のSOFCにおいては、例えば、特許文献1に記載されているように、着火時に燃料電池セルの火炎を吹き消すおそれのある空気の供給量を減らすことにより、気流による着火不良を抑制したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−135268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1のSOFCにおいては、着火不良を抑制するための対策として着火時の燃料電池セルに供給する空気の量を低下させただけでは、複数のセルのうちの一部のセルに着火した後にセルの全体に亘って確実に火移りさせることが難しく、失火もしやすいという問題がある。
そして、着火時およびその直後は、燃料ガスと空気の混合ガスによる燃焼であるが、この燃焼による温度上昇に伴い改質器内での改質反応が開始され、それによって燃料ガスの成分が変化し、水素成分が増加を始める。しかしながら、改質器の温度が低温領域の間は特に改質器内部での改質反応が均一に発生されることが無く、燃料ガスの成分変化もそれに伴い不安定に変動するため、改質器が低温領域の間は、失火しやすい。
また、このような従来のSOFCでは、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が低温である程、燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールも蓄熱量が少ないため、失火が生じた場合は素早く温度降下が生じる一方、燃焼温度が比較的高温のときには、燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの蓄熱量が大きいため、失火が生じた場合でも燃料電池モジュール内の温度が顕著に下がりにくく、失火状態を判定することが非常に難しいという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、失火しやすい燃料電池セル構造において燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの温度状態(蓄熱量)に応じて失火判定を正確に且つ迅速に行うことができる固体電解質型燃料電池(SOFC)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、燃料ガスと空気を反応させて発電する固体電解質型燃料電池であって、燃料電池モジュール内の発電室に配置され、複数の固体電解質型の燃料電池セルを備えた燃料電池セル集合体と、燃料ガスを水蒸気改質して上記燃料電池セル集合体に供給する改質器と、上記改質器に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、純水を生成して上記改質器に供給する水供給手段と、上記改質器に改質用空気を供給する改質用空気供給手段と、上記燃料電池セル集合体に発電用空気を供給する発電用空気供給手段と、上記改質器から燃料電池セル集合体の上部に至る燃料ガスを着火して燃焼させる着火手段と、起動時に、上記着火手段により着火させて燃料ガスを改質用空気により燃焼させる燃焼運転を行い、次に、改質器内に燃料ガスと改質用空気を供給して部分酸化改質反応(POX)運転を行い、次に、改質器内に燃料ガス、空気、水を供給してオートサーマル改質反応(ATR)運転を行い、次に、改質器内に燃料と水を供給して水蒸気改質反応(SR)運転を行う制御手段と、を有し、上記制御手段は、上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定時間内に所定の温度降下量しきい値以上に降下したとき失火と判定すると共に上記所定の温度降下量しきい値を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が低温である程大きな値となるように設定することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、燃焼ガスの燃焼に起因する温度(排気温度センサ、着火温度センサにより検出された温度等)が低温である程、燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールも蓄熱量が少ないため、失火が生じた場合は素早く温度降下が生じ、一方、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が比較的高温のときには、燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの蓄熱が大きいため温度降下が生じ難いことに着目して、失火の判定に用いられる温度降下量しきい値を燃焼ガスの燃焼に起因する温度が低温である程大きな値となるように設定している。この結果、本発明によれば、燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの温度状態、言い換えると蓄熱量に応じて正確で迅速な失火判定を行うことができ、失火から素早く回復させることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、制御手段は、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定の温度しきい値以下であるとき失火と判定する。
このように構成された本発明においては、燃料ガスの燃焼熱のゆらぎによっても温度降下が発生し、それにより失火を誤判定することがあり、そのため、失火判定のための時間を長くとる必要があるが、失火以外には考えられない燃焼ガスの燃焼に起因する温度を失火判定のための温度しきい値とすることにより、確実に失火を判定することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、制御手段は、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定の温度降下量しきい値以上に降下した状態が所定時間継続した場合において失火と判定する。
このように構成された本発明においては、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定の温度降下量しきい値以上に降下した状態が所定時間継続した場合に失火と判定するため、確実で迅速な失火判定を行うことが可能となり、誤判断を確実に防止することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、更に、燃料ガスが燃焼して生成した排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段を有し、上記制御手段は、この排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用い、失火を判定する。
このように構成された本発明においては、排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用いているので、燃料電池セル集合体の熱容量や蓄熱量の影響を受けないので、迅速かつ正確に失火を判定することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、更に、上記燃料電池セル集合体の上端に着火された燃焼の状態を直接検出することにより温度を検出する着火検出手段を有し、上記制御手段は、この着火検出手段により検出された燃料電池セル集合体の上端の温度を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用い、失火を判定する。
このように構成された本発明においては、着火検出手段により検出された燃料電池セル集合体の上端の温度を燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用いて、燃料電池セル集合体の上端の着火状態を直接検出しているので、確実に失火を判定することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、温度しきい値の継続時間が温度降下量しきい値の継続時間より短い。
このように構成された本発明においては、温度しきい値を用いて失火判定を行う場合には、比較的継続時間が短くても失火判定を行うことができ、迅速に失火判定を行うことができ、一方、温度降下量しきい値を用いて失火判定を行う場合には比較的長い継続時間より正確に失火判定を行うことができる。すなわち、温度しきい値と温度降下量しきい値のそれぞれが持つ確実な失火判定を行うための得意な継続時間の領域を活かしながら、不得意な領域を互いに担保し合うことにより、一層の誤判定防止と迅速で正確な失火判定を行うことができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、制御手段は、排気温度検出手段により検出された排気ガス温度により失火判定を行う場合、上記燃料電池モジュール内の発電室温度が高い程上記温度降下量しきい値の値が大きくなるように補正する。
このように構成された本発明においては、排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を用いて失火判定を行う場合、発電室温度が高い程温度降下量しきい値の値が大きくなるように補正したので、より正確に失火を判定することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、制御手段は、排気温度検出手段により検出された排気ガス温度により失火判定を行う場合、燃料電池モジュール内の発電室温度が高い程継続時間が長くなるように補正する。
このように構成された本発明においては、同様に、より正確に失火を判定することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、制御手段は、失火と判定したとき、燃料ガスを増量して供給し、このとき、燃焼ガスの燃焼に起因する温度が上昇しない場合に本失火と判断し、この時点で着火による再起動を行う。
このように構成された本発明においては、燃料電池セルの本数が非常に多く、失火の判定が非常に難しい場合においても、燃料ガスを増量して供給して燃焼ガスの燃焼に起因する温度が上がらないことを確認することにより、確実に本失火を判定することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、上記制御手段は、更に、改質器の温度を検出する改質器温度検出手段を備え、上記排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を燃焼ガスの燃焼に起因する温度として失火を判定し、上記改質器温度検出手段により検出された改質器の温度によって着火を判定する。
このように構成された本発明においては、失火と共に着火の判定も確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、失火しやすい燃料電池セル構造において燃料電池セル集合体や燃料電池モジュールの温度状態に応じて失火判定を正確に且つ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す正面断面図である。
【図3】図2のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
【図9】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理手順の一例を示す動作テーブルである。
【図10】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【図11】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(排気温度と温度降下量との関係)の一例を示す。
【図12】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と温度降下量との関係)の一例を示す。
【図13】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と絶対温度との関係)の一例を示す。
【図14】本発明の一実施形態において、固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる着火判定しきい値に関するマップ(改質器温度センサ温度と温度降下量との関係)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
【0023】
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材(図示せず但し断熱材は必須の構成ではなく、なくても良いものである。)を介して密封空間8が形成されている。なお、断熱材は設けないようにしても良い。この密閉空間8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
【0024】
燃料電池モジュール2の密封空間8の上述した発電室10の上方には、燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。
また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱を受けて空気を加熱するための空気用熱交換器22が配置されている。
【0025】
次に、補機ユニット4は、水道等の水供給源24からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料ガスを遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤である空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)とを備えている。
なお、本実施形態のSOFCにおいては、改質器20に供給される改質用空気や発電室10に供給される発電用空気を加熱して起動時の昇温を効率よく行うためのヒータ等の加熱手段や、改質器20を別途加熱する加熱手段は設けられていない。
【0026】
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
【0027】
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内の密閉空間8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
【0028】
改質器20は、その上流端側に純水を導入するための純水導入管60と改質される燃料ガスと改質用空気を導入するための被改質ガス導入管62が取り付けられ、また、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20aと改質部20bを形成され、改質部20bには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
【0029】
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。
【0030】
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
【0031】
次に、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。この空気用熱交換器22は、上流側に空気集約室70、下流側に2つの空気分配室72を備え、これらの空気集約室70と空気分配室72は、6個の空気流路管74により接続されている。ここで、図3に示すように、3個の空気流路管74が一組(74a,74b,74c,74d,74e,74f)となっており、空気集約室70内の空気が各組の空気流路管74からそれぞれの空気分配室72へ流入する。
【0032】
空気用熱交換器22の6個の空気流路管74内を流れる空気は、燃焼室18で燃焼して上昇する排気ガスにより予熱される。
空気分配室72のそれぞれには、空気導入管76が接続され、この空気導入管76は、下方に延び、その下端側が、発電室10の下方空間に連通し、発電室10に余熱された空気を導入する。
【0033】
次に、マニホールド66の下方には、排気ガス室78が形成されている。また、図3に示すように、ハウジング6の長手方向に沿った面である前面6aと後面6bの内側には、上下方向に延びる排気ガス通路80が形成され、この排気ガス通路80の上端側は、空気用熱交換器22が配置された空間と連通し、下端側は、排気ガス室78と連通している。また、排気ガス室78の下面のほぼ中央には、排気ガス排出管82が接続され、この排気ガス排出管82の下流端は、図1に示す上述した温水製造装置50に接続されている。
図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。また、燃焼室18は、燃焼室18や燃料電池セルユニット16を別途加熱して起動時の着火や失火防止を支援したりするバーナー等の加熱手段は設けられていない。
【0034】
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0035】
燃料電池セル16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路98が形成されている。
【0036】
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
【0037】
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
【0038】
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
【0039】
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の下支持板68及び上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴68a及び100aがそれぞれ形成されている。
【0040】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面全体と電気的に接続される空気極用接続部102bとにより一体的に形成されている。空気極用接続部102bは、外側電極層92の表面を上下方向に延びる鉛直部102cと、この鉛直部102cから外側電極層92の表面に沿って水平方向に延びる多数の水平部102dとから形成されている。また、燃料極用接続部102aは、空気極用接続部102bの鉛直部102cから燃料電池セルユニット16の上下方向に位置する内側電極端子86に向って斜め上方又は斜め下方に向って直線的に延びている。
【0041】
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側及び手前側)に位置する2個の燃料電池セルユニット16の上側端及び下側端の内側電極端子86には、それぞれ外部端子104が接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の外部端子104(図示せず)に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
【0042】
次に図6により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)に取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)を示すブロック図である。
図6に示すように、固体電解質型燃料電池1は、制御部110を備え、この制御部110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
【0043】
次に、制御部110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
【0044】
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
【0045】
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
【0046】
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。なお、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられる発電室温度センサ142は、一つでもよいが、正確性を高めるために複数設けられることが好ましい。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体電解質型燃料電池(SOFC)が屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
着火センサ152は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の上端部の近傍に数ヵ所設けられ、点火装置83を点火したときにおける燃料電池セル集合体12の上端部近傍の温度を検出して、この温度に基づいて着火状態を判定するものである。なお、着火センサ152は、一つでもよいが、正確性を高めるために複数設けられることが好ましい。
【0047】
これらのセンサ類からの信号は、制御部110に送られ、制御部110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
また、制御ユニット110は、インバータ54に、制御信号を送り、電力供給量を制御するようになっている。
【0048】
次に図7により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)による起動時の動作を説明する。図7は、本発明の一実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の起動時の動作を示すタイムチャートである。
最初は、燃料電池モジュール2を温めるために、無負荷状態で、即ち、燃料電池モジュール2を含む回路を開いた状態で、運転を開始する。このとき、回路に電流が流れないので、燃料電池モジュール2は発電を行わない。
【0049】
先ず、改質用空気流量調整ユニット44から改質用空気を燃料電池モジュール2の改質器20へ供給する。また、同時に、発電用空気流量調整ユニット45から発電用空気を燃料電池モジュール2の空気用熱交換器22へ供給し、この発電用空気が、発電室10及び燃焼室18に到達する。
この直ぐ後、燃料流量調整ユニット38からも燃料ガスが供給され、改質用空気が混合された燃料ガスが、改質器20及び燃料電池セルスタック14、燃料電池セルユニット16を通過して、燃焼室18に到達する。
【0050】
次に、点火装置83により着火して、燃焼室18にある燃料ガスと空気(改質用空気及び発電用空気)とを燃焼させる。この燃料ガスと空気との燃焼により排気ガスが生じ、この排気ガスにより、発電室10が暖められ、また、排気ガスが燃料電池モジュール2の密封空間8内を上昇する際、改質器20内の改質用空気を含む燃料ガスを暖めると共に、空気熱交換器22内の発電用空気も暖める。
【0051】
このとき、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、改質用空気が混合された燃料ガスが改質器20に供給されているので、改質器20において、式(1)に示す部分酸化改質反応POXが進行する。この部分酸化改質反応POXは、発熱反応であるので、起動性が良好となる。また、この昇温した燃料ガスが燃料ガス供給管64により燃料電池セルスタック14の下方に供給され、これにより、燃料電池セルスタック14が下方から加熱され、また、燃焼室18も燃料ガスと空気が燃焼して昇温されているので、燃料電池セルスタック14は、上方からも加熱され、この結果、燃料電池セルスタック14は、上下方向において、ほぼ均等に昇温可能となっている。この部分酸化改質反応POXが進行しても、燃焼室18では継続して燃料ガスと空気との燃焼反応が持続される。
【0052】
mn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
【0053】
部分酸化改質反応POXの開始後、改質器温度センサ148により改質器20が所定温度(例えば、600℃)になったことを検知したとき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38及び改質用空気流量調整ユニット44により、燃料ガスと改質用空気と水蒸気とを予め混合したガスを改質器20に供給する。このとき、改質器20においては、上述した部分酸化改質反応POXと後述する水蒸気改質反応SRとが併用されたオートサーマル改質反応ATRが進行する。このオートサーマル改質反応ATRは、熱的に内部バランスが取れるので、改質器20内では熱的に自立した状態で反応が進行する。即ち、酸素(空気)が多い場合には部分酸化改質反応POXによる発熱が支配的となり、水蒸気が多い場合には水蒸気改質反応SRによる吸熱反応が支配的となる。この段階では、既に起動の初期段階は過ぎており、発電室10内がある程度の温度まで昇温されているので、吸熱反応が支配的であっても大幅な温度低下を引き起こすことはない。また、オートサーマル改質反応ATRが進行中も、燃焼室18では燃焼反応が継続して行われている。
【0054】
式(2)に示すオートサーマル改質反応ATRの開始後、改質器温度センサ146により改質器20が所定温度(例えば、700℃)になったことを検知したとき、改質用空気流量調整ユニット44による改質用空気の供給を停止すると共に、水流量調整ユニット28による水蒸気の供給を増加させる。これにより、改質器20には、空気を含まず燃料ガスと水蒸気のみを含むガスが供給され、改質器20において、式(3)の水蒸気改質反応SRが進行する。
【0055】
mn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
mn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
【0056】
この水蒸気改質反応SRは吸熱反応であるので、燃焼室18からの燃焼熱と熱バランスをとりながら反応が進行する。この段階では、燃料電池モジュール2の起動の最終段階であるため、発電室10内が十分高温に昇温されているので、吸熱反応が進行しても、発電室10が大幅な温度低下を招くこともない。また、水蒸気改質反応SRが進行しても、燃焼室18では継続して燃焼反応が進行する。
【0057】
このようにして、燃料電池モジュール2は、点火装置83により点火した後、部分酸化改質反応POX、オートサーマル改質反応ATR、水蒸気改質反応SRが、順次進行することにより、発電室10内の温度が徐々に上昇する。次に、発電室10内及び燃料電池セル84の温度が燃料電池モジュール2を安定的に作動させる定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、燃料電池モジュール2を含む回路を閉じ、燃料電池モジュール2による発電を開始し、それにより、回路に電流が流れる。燃料電池モジュール2の発電により、燃料電池セル84自体も発熱し、燃料電池セル84の温度も上昇する。この結果、燃料電池モジュール2を作動させる定格温度、例えば、600℃〜800℃になる。
【0058】
この後、定格温度を維持するために、燃料電池セル84で消費される燃料ガス及び空気の量よりも多い燃料ガス及び空気を供給し、燃焼室18での燃焼を継続させる。なお、発電中は、改質効率の高い水蒸気改質反応SRで発電が進行する。
【0059】
次に、図8により本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を説明する。図8は、本実施形態により固体電解質型燃料電池(SOFC)の運転停止時の動作を示すタイムチャートである。
図8に示すように、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、先ず、燃料流量調整ユニット38及び水流量調整ユニット28を操作して、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させる。
【0060】
また、燃料電池モジュール2の運転停止を行う場合には、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給量を減少させると同時に、改質用空気流量調整ユニット44による発電用空気の燃料電池モジュール2内への供給量を増大させて、燃料電池セル集合体12及び改質器20を空気により冷却し、これらの温度を低下させる。その後、発電室の温度が所定温度、例えば、400℃まで低下したとき、燃料ガス及び水蒸気の改質器20への供給を停止し、改質器20の水蒸気改質反応SRを終了する。この発電用空気の供給は、改質器20の温度が所定温度、例えば、200℃まで低下するまで、継続し、この所定温度となったとき、発電用空気流量調整ユニット45からの発電用空気の供給を停止する。
【0061】
このように、本実施形態においては、燃料電池モジュール2の運転停止を行うとき、改質器20による水蒸気改質反応SRと発電用空気による冷却とを併用しているので、比較的短時間に、燃料電池モジュールの運転を停止させることができる。
【0062】
次に、図9と共に図7を再び参照して、本発明の実施形態による固体電解質型燃料電池1の起動処理を詳細に説明する。図9は、固体電解質型燃料電池1の起動処理手順を示す動作テーブルである。
図7の時刻t0において固体電解質型燃料電池1を起動すると、制御部110は、改質用空気供給手段である改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気供給手段である発電用空気流量調整ユニット45に信号を送ってこれらを起動させ、改質用空気及び発電用空気を燃料電池モジュール2に供給する。なお、本実施形態においては、時刻t0において供給が開始される改質用空気の供給量は10L/min、発電用空気の供給量は100L/minに設定されている。
【0063】
次いで、時刻t1において、制御部110は、燃料ガス供給手段である燃料流量調整ユニット38に信号を送って、改質器20への燃料供給を開始する。これにより、改質器20へ送り込まれた燃料ガス及び改質用空気は、改質器20、燃料ガス供給管64、マニホールド66を介して各燃料電池セルユニット16内に送り込まれる。各燃料電池セルユニット16内に送り込まれた燃料ガス及び改質用空気は、各燃料電池セルユニット16の燃料ガス流路98上端から夫々流出する。なお、本実施形態においては、時刻t1において供給が開始される燃料ガスの供給量は6L/minに設定されている(図9の「燃焼運転」状態参照)。
【0064】
さらに、時刻t2において、制御部110は、点火装置83に信号を送り、燃料電池セルユニット16の燃料ガス流路98上端から流出した燃料ガスに点火する。これにより、燃焼室18内で燃料ガスが燃焼され、その上方に配置された改質器20が加熱されると共に、燃焼室18、発電室10、及びその中に配置された燃料電池セルスタック14の温度も上昇する(図7の時刻t2〜t3及び図9の「燃焼運転」状態参照)。
改質器20が加熱されることにより、改質器20の温度が300゜C程度まで上昇すると、改質器20内においては、部分酸化改質反応(POX)が発生する(図7の時刻t3)。部分酸化改質反応は発熱反応であるため、改質器20は、部分酸化改質反応の発生により、その反応熱によっても加熱されるようになる(図9の「POX1」状態参照)。
【0065】
なお、時刻t2においては、すべての燃料電池セルユニット16が完全に着火されたか否かにかかわらず、点火装置83による点火が行われた時刻を暫定的に「着火タイミング」の時刻としてみなしている。
したがって、すべての燃料電池セルユニット16が完全に着火されたか否か、及び、失火しているか否かについての実質的な着火状態及び失火状態の判定については、制御部110による所定の失火着火判定制御(詳細は後述する)によって行われる。
【0066】
さらに、POX1期間において、温度が上昇し、改質器20の温度が350゜Cに達すると、制御部110は、燃料流量調整ユニット38及び発電用空気流量調整ユニット45に信号を送り、燃料供給量及び発電用空気供給量を一定量に維持した状態で、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気供給量を増加させる(図7の時刻t4参照)。
これにより、燃料供給量は6L/minに維持され、発電用空気供給量は100L/minに維持され、改質用空気供給量は18L/minに変更される(図9の「POX2」状態参照)。これらの供給量は、部分酸化改質反応(POX2)を安定的に発生させるために適正な供給量である。
【0067】
また、特に、燃料供給量ついては、燃焼運転期間からPOX1、POX2、及び、ATR1(詳細は後述する)を経てATR2(詳細は後述する)が開始される時刻t6までの期間において変化させずに一定量(6L/min)に保持され、
さらに、発電用空気供給量ついては、燃焼運転期間からPOX1、POX2、ATR1(詳細は後述する)、ATR2(詳細は後述する)、及び、SR1(詳細は後述する)を経てSR2(詳細は後述する)が開始される時刻t8までの期間において一定量(100L/min)に保持される。
即ち、燃焼運転期間及び暫定的な部分酸化改質反応(POX1)が発生し始める初期の温度領域に相当するPOX1期間においては、燃料供給量をATR2よりも多い一定量にすると共に、発電用空気供給量をSR2よりも多い一定の大風量にし、改質用空気供給量をPOX2よりも少ない一定量にすることにより、燃料ガスに確実に着火される状態を形成し、燃料電池セルユニット16の上端部における気流を安定させている。これにより、安定した火移りを生じさせ、着火を安定させている(図9の「POX1」状態参照)。
【0068】
また、発電用空気供給量ついては、燃焼運転期間からPOX1、POX2、ATR1(詳細は後述する)、ATR2(詳細は後述する)、及び、SR1(詳細は後述する)を経てSR2(詳細は後述する)が開始される時刻t8までの期間において一定の大風量(100L/min)に保持されており、特に、着火タイミングを含む燃焼運転期間において火移り性を高めて、燃料電池セルスタック14のうちの一部の燃料電池セルユニット16の燃料ガス流路98上端が着火した状態であっても、燃料電池セルスタック14の全体に対して火移りを生じさせて完全着火とすることができるようになっている。
さらに、発電用空気の風量を増量させた当初(図7の時刻t0〜t1)は、燃料電池セルユニット16の上端部の気流が乱れる傾向にあるが、気流が安定する期間を待ってから着火を行うことにより(図7の時刻t2)、確実な着火を確保している。
【0069】
また、燃焼運転期間と暫定的な部分酸化改質(POX1)が行われているPOX1期間において、改質用空気及び発電用空気の供給量を共に変動させずに一定に保持することにより、燃料電池セルユニット16の上端部における気流の安定化が図られている。
さらに、燃焼運転期間とPOX1期間における改質用空気の供給量が、発電用空気の供給量よりも少なく且つ安定的な部分酸化改質(POX2)に用いられる改質用空気の量よりも少ない量で保持されており、火移り性を高めている。
また、着火タイミングを含む燃焼運転期間とPOX1期間において、ATR2よりも燃料ガスを増やした状態で改質用空気をPOX2よりも減らして燃料ガスを濃くすることにより、着火性の悪い燃料電池セルユニット16の上端部において確実な着火性を担保している。
【0070】
次に、図7の時刻t5において、改質器20の温度が600゜C以上、且つ、燃料電池セルユニット16の温度が250゜C以上になると、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気供給量を減少させると共に、水供給手段である水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給を開始させる。これにより、改質用空気供給量は8L/minに変更され、水供給量は2cc/minにされる(図9の「ATR1」状態参照)。改質器20内に水(水蒸気)が導入されることにより、改質器20内で水蒸気改質反応も発生するようになる。
即ち、図9の「ATR1」状態においては、部分酸化改質反応と水蒸気改質反応が混在したオートサーマル改質(ATR)が発生するようになる。
【0071】
本実施形態においては、燃料電池セルユニット16の温度は、発電室10内に配置された温度検出手段である発電室温度センサ142によって測定されている。発電室10内の温度と燃料電池セルユニットの温度は、厳密には同一ではないが、発電室温度センサ142によって検出される温度は燃料電池セルユニット16の温度を反映したものであり、発電室10内に配置された発電室温度センサ142により燃料電池セルユニット16の温度を把握することができる。なお、本明細書において、燃料電池セルユニットの温度とは、燃料電池セルユニットの温度を反映した値を指示する任意のセンサにより測定された温度を意味するものとする。
【0072】
さらに、図7の時刻t6において、改質器20の温度が600゜C以上、且つ、燃料電池セルユニット16の温度が400゜C以上になると、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料供給量を減少させる。
また、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量を増加させる。これにより、燃料ガス供給量は4L/minに変更され、改質用空気供給量は4L/minに変更され、水供給量は3cc/minにされる(図9の「ATR2」状態参照)。改質用空気供給量が減少され、水供給量が増加されることにより、改質器20内においては、部分酸化改質反応の割合が減少し、水蒸気改質反応の割合が増加する。
【0073】
次に、図7の時刻t7において、改質器20の温度が650゜C以上、且つ、燃料電池セルユニット16の温度が600゜C以上になると、制御部110は、改質用空気流量調整ユニット44に信号を送り、改質用空気の供給を停止する。
また、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量を増加させる。これにより、燃料ガス供給量は3L/minに変更され、水供給量は8cc/minに変更される(図9の「SR1」状態参照)。改質用空気の供給が停止されることにより、改質器20内においては、部分酸化改質反応は発生しなくなり、水蒸気改質反応のみが発生するSRが開始される。
【0074】
さらに、図7の時刻t8において、改質器20の温度が650゜C以上、且つ、燃料電池セルユニット16の温度が700゜C以上になると、制御部110は、燃料流量調整ユニット38に信号を送り、燃料ガス供給量を減少させると共に、水流量調整ユニット28に信号を送り、水の供給量も減少させる。
また、制御部110は、発電用空気流量調整ユニット45に信号を送り、発電用空気の供給量も減少させる。これにより、燃料ガス供給量は発電待機燃料ガス供給量である2.3L/minに変更され、水供給量は5.8cc/minに変更され、発電用空気供給量は80L/minに変更される(図9の「SR2」状態参照)。
【0075】
制御部110は、これらの供給量を所定の発電移行時間以上維持した後、燃料電池モジュール2からインバータ54に電力を出力させ、発電を開始する(図7の時刻t9参照)。
【0076】
つぎに、図10〜図14を参照して、上述した本実施形態の固体電解質型燃料電池1の起動処理における失火着火判定制御の内容について詳細に説明する。
図10は本実施形態の固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御の手順の一例を示すフローチャートである。
また、図11は本実施形態の固体電解質型燃料電池の起動処理における失火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(排気温度と温度降下量との関係)の一例を示し、図12は本実施形態の固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と温度降下量との関係)の一例を示し、図13は本実施形態の固体電解質型燃料電池の起動処理における失火着火判定制御に用いられる失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と絶対温度との関係)の一例を示す。
さらに、図14は本実施形態の固体電解質型燃料電池の起動処理における着火判定制御に用いられる着火判定しきい値に関するマップ(改質器温度センサ温度と温度降下量との関係)の一例を示す。
【0077】
まず、図10において、Sは各ステップを示している。S1において、排気温度センサ140が、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度(以下「排気温度(Ta)」)を検出する。また、着火センサ152が燃料電池セル集合体12の上端部近傍の温度(以下「着火センサ温度(Tb)」)を検出する。ここで、排気温度センサ140が検出した排気温度(Ta)、及び、着火センサ152が検出した着火センサ温度(Tb)の双方は、燃焼ガスの燃焼に起因する温度を意味している。
さらに、発電室温度センサ142が燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度(以下「スタック温度(Tc)」)を推定する。また、改質器温度センサ148が改質器20の温度(以下「改質器温度(Td)」)を検出する。
【0078】
つぎに、S2に進み、フラグFが0か否かを判定し、S2において、フラグFが0であると判定した場合にはS3に進む。
S3では、S1において検出された排気温度(Ta)が図11に示す失火判定しきい値に関するマップ(排気温度と温度降下量との関係)に当てはめられ、失火判定の判断に用いられる温度降下量(ΔT1)とこの温度降下量(ΔT1)を判定する判定時間(t1)が設定される。
より具体的に説明すると、排気温度(Ta)がTa1未満の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT1)が100℃に設定されると共にその判定時間(t1)が3secに設定される。また、排気温度(Ta)がTa1以上Ta2未満の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT1)が70℃に設定されると共にその判定時間(t1)が1minに設定される。さらに、排気温度(Ta)がTa2以上の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT1)が30℃に設定されると共にその判定時間(t1)が3minに設定される。
すなわち、排気温度センサ140によって検出された排気温度(Ta)によって設定される失火判定のしきい値(ΔT1、t1)については、検出された排気温度(Ta)が低温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT1)が大きく、検出された排気温度(Ta)が高温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT1)を判定する判定時間(t1)が長くなるように設定されている。
【0079】
さらに、S3では、S1において検出された着火センサ温度(Tb)が図12に示す失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と温度降下量との関係)に当てはめられ、失火判定の判断に用いられる温度降下量(ΔT2)とこの温度降下量(ΔT2)を判定する判定時間(t2)が設定される。
より具体的に説明すると、着火センサ温度(Tb)がTb1未満の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT2)が100℃に設定されると共にその判定時間(t2)が5secに設定される。また、着火センサ温度(Tb)がTb1以上Tb2未満の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT2)が70℃に設定されると共にその判定時間(t2)が1minに設定される。さらに、着火センサ温度(Tb)がTb2以上の温度帯域にある場合には、温度降下量(ΔT2)が30℃に設定されると共にその判定時間(t1)が3minに設定される。
【0080】
すなわち、着火センサ152によって検出された着火センサ温度(Tb)によって設定される失火判定のしきい値(ΔT2、t2)については、検出された着火センサ温度(Tb)が低温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT2)が大きく、検出された着火センサ温度(Tb)が高温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT2)を判定する判定時間(t2)が長くなるように設定されている。
また、図11の排気温度(Ta)がTa1未満の温度帯域にある場合においては、温度降下量(ΔT1)が100℃に設定されると共にその判定時間(t1)が3secに設定されているのに対して、図12の着火センサ温度(Tb)がTb1未満の温度帯域にある場合においては温度降下量(ΔT2)が100℃に設定されると共にその判定時間(t2)が5secに設定されており、着火センサ温度(Tb)が低温である状態における温度降下量(ΔT2)の判定時間(t2)が排気温度(Ta)による温度降下量(ΔT1)の判定時間(t1)よりも長く設定されることにより、誤判断を防ぐようにしている。
【0081】
また、S3では、S1において検出された着火センサ温度(Tb)が図13に示す失火判定しきい値に関するマップ(着火センサ温度と絶対温度との関係)に当てはめられ、失火判定の判断に用いられる絶対温度(T3)とこの絶対温度(T3)を判定する判定時間(t3)が設定される。
より具体的に説明すると、着火センサ温度(Tb)がTb1未満の温度帯域にある場合には、絶対温度(T3)が100℃に設定されると共にその判定時間(t3)が1secに設定される。また、着火センサ温度(Tb)がTb1以上Tb2未満の温度帯域にある場合には、絶対温度(T3)が300℃に設定されると共にその判定時間(t3)が20secに設定される。さらに、着火センサ温度(Tb)がTb2以上の温度帯域にある場合には、絶対温度(T3)が400℃に設定されると共にその判定時間(t3)が40secに設定される。
すなわち、着火センサ152によって検出された着火センサ温度(Tb)によって設定される失火判定のしきい値(T3、t3)については、検出された着火センサ温度(Tb)が高温側の温度帯域に属する程、絶対温度(T3)が高くその判定時間(t3)が長くなるように設定されている。
なお、着火センサ温度(Tb)がTb1以上の温度領域、一例として、100℃以上の中高温領域にある場合には、失火判定のしきい値である絶対温度(T3)と判定時間(t3)に基づく失火判定を省略してもよい。
【0082】
さらに、図12及び図13に示すように、着火センサ温度(Tb)の同一の温度帯域における失火判定しきい値の温度降下量(ΔT2)を判定する判定時間t2と失火判定しきい値の絶対温度(t3)を判定する判定時間t3を比較すると、t3がt2よりも短くなっている。
【0083】
つぎに、S3からS4へ進み、S1で検出されたスタック温度(Tc)が500℃以上である場合には、図11に示す排気温度(Ta)の失火判定しきい値に関するマップの温度降下量(ΔT1)と判定時間(t1)のそれぞれに補正係数1.25を乗じて、排気温度(Ta)の失火判定しきい値に関するマップを変更し、S5へ進む。
一方、S4では、S1において検出されたスタック温度(Tc)が500℃未満である場合には、図11に示す排気温度(Ta)の失火判定しきい値に関するマップを変更せずに、S5へ進む。
すなわち、燃料電池モジュール2内のスタック温度(Tc)が高くなる程、排気温度(Ta)の失火判定しきい値(ΔT1、t1)が大きく設定されるようになっている。
【0084】
つぎに、S5において、所定時間間隔における排気温度センサ140が検出した排気温度(Ta)に基づいて温度降下量を測定し、この温度降下量の測定値とS4で設定された排気温度(Ta)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT1)(図11参照)とを比較する。
同様に、所定時間間隔における着火センサ152が検出した着火センサ温度(Tb)に基づいて温度降下量を測定し、この温度降下量の測定値とS4で設定された着火センサ温度(Tb)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT2)(図12参照)とを比較する。
そして、排気温度(Ta)に関する温度降下量の測定値がS4で設定された排気温度(Ta)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT1)以上である場合、又は、着火センサ温度(Tb)に関する温度降下量の測定値がS4で設定された着火センサ温度(Tb)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT2)以上である場合には、S6に進み、フラグFが1として判定される。
一方、S5において、排気温度(Ta)に関する温度降下量の測定値がS4で設定された排気温度(Ta)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT1)未満である場合、及び、着火センサ温度(Tb)に関する温度降下量の測定値がS4で設定された着火センサ温度(Tb)の失火判定しきい値の温度降下量(ΔT2)未満の温度降下であった場合には、S7に進む。
【0085】
つぎに、S7において、着火センサ152が検出した着火センサ温度(Tb)の測定値とS3で設定された着火センサ温度(Tb)の失火判定しきい値の絶対温度(T3)(図13参照)とを比較し、着火センサ温度(Tb)の測定値が失火判定しきい値の絶対温度(T3)以下である場合には、S6に進み、フラグFが1として判定される。
【0086】
つぎに、S2において、フラグFが0でないと判定した場合にはS8に進み、フラグFが1か否かを判定する。
S8において、フラグFが1であると判定した場合にはS9に進み、排気温度センサ140が検出した排気温度(Ta)に基づく温度降下量の測定値、及び、着火センサ152が検出した着火センサ温度(Tb)の測定値とこの着火センサ温度(Tb)の測定値に基づく温度降下量の測定値のそれぞれがS3及びS4で設定された各失火判定しきい値(ΔT1、ΔT2、T3)と抵触しているか否かを判定し、抵触していると判定した場合には、失火判定しきい値の所定の判定時間(t1、t2、t3)が経過しているか否かを判定する。
【0087】
さらに、S9において、各失火判定しきい値(ΔT1、ΔT2、T3)と抵触している状態で失火判定しきい値の所定の判定時間(t1、t2、t3)が経過した場合には、S10に進む。
S10においては、制御部110が、燃料ガス供給手段である燃料流量調整ユニット38に信号を送って、改質器20への所定量の燃料ガスの追加供給が行われ、S11に進み、排気温度センサ140及び着火センサ152のそれぞれが検出した排気温度(Ta)及び着火センサ温度(Tb)が所定温度上昇したか否かについて判定される。
【0088】
つぎに、S11において、排気温度センサ140及び着火センサ152のそれぞれが検出した排気温度(Ta)及び着火センサ温度(Tb)が、S10で燃料ガスの追加供給が行われてからも所定温度上昇していない場合には、S12に進み、失火状態であることが判定され、着火制御が実行される。そして、S13に進み、フラグFが2として判定される。
一方、S11において、排気温度センサ140及び着火センサ152のそれぞれが検出した排気温度(Ta)及び着火センサ温度(Tb)の少なくともいずれか一方が、S10で燃料ガスの追加供給が行われてから所定温度上昇している場合には、S14に進み、フラグFが0として判定される。
【0089】
つぎに、S8において、フラグが2であると判定した場合にはS15に進む。
S15では、S1において改質器温度センサ148によって検出された改質器温度(Td)が図14に示す着火判定しきい値に関するマップ(改質器温度センサ温度と温度降下量との関係)に当てはめられ、着火判定の判断に用いられる温度上昇量(ΔT4)とこの温度上昇量(ΔT4)を判定する判定時間(t4)が設定される。
より具体的に説明すると、改質器温度(Td)がTd1未満の温度帯域にある場合には、温度上昇量(ΔT4)が100℃に設定されると共にその判定時間(t4)が3secに設定される。また、改質器温度(Td)がTd1以上Td2未満の温度帯域にある場合には、温度上昇量(ΔT4)が70℃に設定されると共にその判定時間(t4)が6secに設定される。さらに、改質器温度(Td)がTd2以上の温度帯域にある場合には、温度上昇量(ΔT4)が30℃に設定されると共にその判定時間(t4)が10secに設定される。
すなわち、改質器温度センサ148によって検出された改質器温度(Td)によって設定される着火判定のしきい値(ΔT4、t4)については、検出された改質器温度(Td)が高温側の温度帯域に属する程、温度上昇量(ΔT4)が少なくその判定時間(t4)が長くなるように設定されている。
【0090】
つぎに、S16に進み、所定時間間隔における改質器温度センサ148が検出した改質器温度(Td)に基づいて温度上昇量を測定し、この温度上昇量の測定値とS15で設定された改質器温度(Td)の着火判定のしきい値の温度上昇量(ΔT4)(図14参照)とを比較する。
そして、改質器温度(Td)の温度上昇量の測定値がS15で設定された改質器温度(Td)の着火判定のしきい値の温度上昇量(ΔT4)以上していると判定された場合には、S17に進む。
【0091】
つぎに、S17において、改質器温度センサ148が検出した改質器温度(Td)に基づく温度上昇量の測定値がS15で設定された着火判定のしきい値の温度上昇量(ΔT4)と抵触しているか否かを判定し、抵触していると判定した場合には、着火判定のしきい値の所定の判定時間(t4)が経過しているか否かを判定する。
また、S17において、着火判定のしきい値の温度上昇量(ΔT4)と抵触している状態で着火判定のしきい値の所定の判定時間(t4)が経過した場合には、S18に進み、着火状態であることが判定され、フラグFが0として判定される。
【0092】
一方、S16において、改質器温度(Td)の温度上昇量の測定値がS15で設定された改質器温度(Td)の着火判定のしきい値の温度上昇量(ΔT4)以上していないと判定された場合には、S19に進み、制御部110が点火装置83に信号を送り、着火をリトライする。なお、この着火のリトライについては5回まで行われ、その後は着火異常として処理される。
【0093】
上述した本発明の実施形態の固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、燃料ガスの燃焼に伴う燃焼温度が低温である程、燃料電池セル集合体12や燃料電池モジュール2も低温となり、失火によって素早く温度降下が生じやすくなる一方、燃焼温度が比較的高温である状態では、燃料電池セル集合体12や燃料電池モジュール2の蓄熱が大きいため温度降下が生じにくいが、失火の判定に用いられる失火判定しきい値(ΔT1、ΔT2)を燃焼温度が低温である程大きくなるように構成されているため、燃料電池セル集合体12や燃料電池モジュール2の温度状態に応じて正確で迅速な失火判定を行うことができ、失火から素早く回復させることができる。
【0094】
また、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、失火の判定に用いられる失火判定しきい値(ΔT1、t1、ΔT2、t2、T3、t3)が各センサ140、152、142によって検出される排気温度(Ta)、着火センサ温度(Tb)、及び、スタック温度(Tc)のそれぞれに依存して設定されているため、確実で迅速な失火判定を行うことが一層可能となり、誤判断を一層防止することができる。
【0095】
さらに、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、温度降下に基づく失火判定では、燃焼熱のゆらぎによっても温度降下が発生するため、誤判定をすることがあり、判定時間を長くとる必要があるが、失火以外には考えられない所定の失火判定のしきい値の絶対温度(T3)を下回った状態を判定して失火とみなすことにより、確実に判定することができる。
【0096】
また、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、比較的低温の雰囲気中においては、燃料電池セル集合体12や燃料電池モジュール2内の温度も低く、この低い絶対温度に基づいて失火判定をすることもできるが、比較的高温の雰囲気中においては、絶対温度による失火判定が難しいため、失火判定のしきい値を温度降下量とすることにより、失火時に確実に小さな量でも降下を生じるため確実に判定することができる。
【0097】
さらに、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、失火判定のしきい値(ΔT1、t1、ΔT2、t2、T3、t3)が各センサ140、152、142によって検出される排気温度(Ta)、着火センサ温度(Tb)、及び、スタック温度(Tc)のそれぞれに依存して設定され、それぞれの失火判定のしきい値が持つ得意な領域を活かしつつ、不得意な領域を互いに担保し合うことができるため、確実な失火判定を行うことができる。さらに、判定時間(t1、t2、t3)をそれぞれに最適化することにより、誤判定をより一層防止することができ、迅速で正確な失火判定を行うことができる。
【0098】
また、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、排気ガス温度(Ta)を検出することにより、迅速な判定を行うことができ、スタック温度(Tc)が500℃以上である場合には、図11に示す排気温度(Ta)の失火判定しきい値に関するマップの温度降下量(ΔT1)と判定時間(t1)のそれぞれに補正係数1.25を乗じて、排気温度(Ta)の失火判定しきい値に関するマップを変更することができるため、、一層正確に失火を判定することができる。
【0099】
さらに、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、排気温度センサ140によって検出された排気温度(Ta)によって設定される失火判定のしきい値(ΔT1、t1)については、検出された排気温度(Ta)が低温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT1)が大きく、検出された排気温度(Ta)が高温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT1)を判定する判定時間(t1)が長くなるように設定され、検出された着火センサ温度(Tb)が低温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT2)が大きく、検出された着火センサ温度(Tb)が高温側の温度帯域に属する程、温度降下量(ΔT2)を判定する判定時間(t2)が長くなるように設定されているため、より一層正確に失火を判定することができる。
【0100】
また、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、排気温度センサ140及び着火センサ152のそれぞれが検出した排気温度(Ta)及び着火センサ温度(Tb)が、燃料ガスの追加供給が行われてからも所定温度上昇していない場合には、失火状態であることが判定され、着火制御が実行される。この結果、燃料電池セル84の本数が非常に多く、着火センサ152の取付数にも限度があり、失火の判定は非常に難しい場合においても、燃料ガスを増加して燃焼温度が上がらないことを確認することにより、確実に失火を判定することができる。
【0101】
さらに、本実施形態による固体電解質型燃料電池(SOFC)によれば、制御部110が、排気温度センサ140及び着火センサ152によって失火を判定し、改質器温度センサ148によって着火を判定するため、失火と着火の判定を確実に行うことができる。
【0102】
なお、上述した本実施形態の固体電解質型燃料電池(SOFC)においては、一例として、排気温度センサ140及び着火センサ152によってそれぞれ検出される排気温度(Ta)及び着火センサ温度(Tb)に基づいて失火判定しきい値を設定して失火の判定を行うような形態について説明したが、排気温度センサ140又は着火センサ152のいずれか一方による失火判定でもよい。
【符号の説明】
【0103】
1 固体電解質型燃料電池
2 燃料電池モジュール
4 補機ユニット
8 密封空間
10 発電室
12 燃料電池セル集合体
14 燃料電池セルスタック
16 燃料電池セルユニット
18 燃焼室
20 改質器
22 空気用熱交換器
24 水供給源
26 純水タンク
28 水流量調整ユニット
30 燃料供給源
38 燃料流量調整ユニット
40 空気供給源
44 改質用空気流量調整ユニット
45 発電用空気流量調整ユニット
50 温水製造装置
52 制御ボックス
54 インバータ
83 点火装置
84 燃料電池セル
110 制御部
112 操作装置
114 表示装置
116 警報装置
126 電力状態検出センサ
142 発電室温度センサ
150 外気温度センサ
152 着火センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと空気を反応させて発電する固体電解質型燃料電池であって、
燃料電池モジュール内の発電室に配置され、複数の固体電解質型の燃料電池セルを備えた燃料電池セル集合体と、
燃料ガスを水蒸気改質して上記燃料電池セル集合体に供給する改質器と、
上記改質器に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
純水を生成して上記改質器に供給する水供給手段と、
上記改質器に改質用空気を供給する改質用空気供給手段と、
上記燃料電池セル集合体に発電用空気を供給する発電用空気供給手段と、
上記改質器から燃料電池セル集合体の上部に至る燃料ガスを着火して燃焼させる着火手段と、
燃焼ガスの燃焼に起因する温度を検出する温度検出手段と、
起動時に、上記着火手段により着火させて燃料ガスを改質用空気により燃焼させる燃焼運転を行い、次に、改質器内に燃料ガスと改質用空気を供給して部分酸化改質反応(POX)運転を行い、次に、改質器内に燃料ガス、空気、水を供給してオートサーマル改質反応(ATR)運転を行い、次に、改質器内に燃料と水を供給して水蒸気改質反応(SR)運転を行う制御手段と、を有し、
上記制御手段は、上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定時間内に所定の温度降下量しきい値以上に降下したとき失火と判定すると共に上記所定の温度降下量しきい値を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が低温である程大きな値となるように設定することを特徴とする固体電解質型燃料電池。
【請求項2】
上記制御手段は、上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定の温度しきい値以下であるとき失火と判定する請求項1記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項3】
上記制御手段は、上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が所定の温度降下量しきい値以上に降下した状態が所定時間継続した場合において失火と判定する請求項1記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項4】
更に、燃料ガスが燃焼して生成された排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段を有し、上記制御手段は、この排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用い、失火を判定する請求項1に記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項5】
更に、上記燃料電池セル集合体の上端に着火された燃焼の状態を直接検出することにより温度を検出する着火検出手段を有し、上記制御手段は、この着火検出手段により検出された燃料電池セル集合体の上端の温度を上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度として用い、失火を判定する請求項2記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項6】
上記温度しきい値の継続時間が上記温度降下量しきい値の継続時間より短い請求項2記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項7】
上記制御手段は、上記排気温度検出手段により検出された排気ガス温度により失火判定を行う場合、上記燃料電池モジュール内の発電室温度が高い程上記温度降下量しきい値の値が大きくなるように補正する請求項4記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項8】
上記制御手段は、上記排気温度検出手段により検出された排気ガス温度により失火判定を行う場合、上記燃料電池モジュール内の発電室温度が高い程上記継続時間が長くなるように補正する請求項7記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項9】
上記制御手段は、失火と判定したとき、燃料ガスを増量して供給し、このとき、上記燃焼ガスの燃焼に起因する温度が上昇しない場合に本失火と判断し、この時点で着火による再起動を行う請求項1記載の固体電解質型燃料電池。
【請求項10】
上記制御手段は、更に、改質器の温度を検出する改質器温度検出手段を備え、上記排気温度検出手段により検出された排気ガス温度を燃焼ガスの燃焼に起因する温度として失火を判定し、上記改質器温度検出手段により検出された改質器の温度によって着火を判定する請求項4記載の固体電解質型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−277845(P2010−277845A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129165(P2009−129165)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】