固体電解質形燃料電池
【課題】 安定な空気極を備え、且つ接合部を形成するロウ材が耐熱性に優れるため、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明の固体電解質形燃料電池は、固体電解質層11(ScSZ等からなる。)と、燃料極12(Ni及びScSZ等からなる。)と、空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備え、空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の接合部は金属ロウ材(60質量%以上のNiを含有する。)により形成されている。
【解決手段】 本発明の固体電解質形燃料電池は、固体電解質層11(ScSZ等からなる。)と、燃料極12(Ni及びScSZ等からなる。)と、空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備え、空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の接合部は金属ロウ材(60質量%以上のNiを含有する。)により形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質形燃料電池に関する。更に詳しくは、本発明は、ロウ付けが、真空雰囲気及びアルゴン雰囲気等の酸素分圧が低い雰囲気においてなされた場合も安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池に関する。また、燃料ガスの流路と支燃性ガスの流路とを隔離すること等を目的として接合部を形成するためのロウ付けに用いるロウ材として、耐熱性に優れるNiを含有する金属ロウ材を用いた場合は、良好な発電効率がより長期に渡って維持される。
【背景技術】
【0002】
平板型の固体電解質形燃料電池(以下、「平板型SOFCスタック」ということもある。)は、セパレータを用いて複数の単セル(以下、「SOFC」ということもある。)を積層することにより形成されている。この平板型SOFCスタックでは、燃料極に供給される燃料ガスの流路と空気極に供給される支燃性ガスの流路とを隔離するためのガスシールがなされ、このガスシール等を目的とするロウ付けに用いられるロウ材には耐熱性等が要求される。ガスシールにはガラス質のガスシール材が用いられることもあり、セラミックスファイバーが使用されることもある(例えば、特許文献1参照。)。また、耐熱性を向上させるため、金属間のロウ付けに用いられることが多い銀を主成分とする金属ロウ材が用いられることもある。
【0003】
更に、近年、イットリア安定化ジルコニア等からなる固体電解質層をできるだけ薄層として内部抵抗を低減し、800℃以下の比較的低温域でSOFCを動作させる研究もなされている。この場合、ガスシールには上記のガラス質のガスシール材及び銀を主成分とする金属ロウ材を用いることができる。また、セラミック製ではなく金属製のセパレータを使用することができ、特に、安価なステンレス鋼からなるセパレータを用いることができれば、コストを引き下げることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−199554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のようにガラス質のシール材を用いたときは、熱応力により破損することがある。更に、セラミックスファイバーでは十分に気密にシールすることができない場合がある。また、銀を主成分とする金属ロウ材にはパラジウムが含有されているが、このパラジウムは高価でありコスト面で不利である。更に、銀を主成分とする金属ロウ材は十分な耐熱性を有するが、高出力が期待される800℃以上の運転温度においてはやや耐熱性が不足することも考えられる。
【0006】
また、上述のロウ材の耐熱性の他に、良好な発電効率を維持するためには空気極の組成を検討する必要もある。即ち、耐熱性に優れる金属ロウ材を用いたロウ付けは一般に酸素分圧の低い雰囲気においてなされるが、空気極として用いられることが多いペロブスカイト酸化物は酸素が欠損し易く、空気極の組成によってはロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気において分解することがあり、化学的安定性が不十分な場合がある。このように、平板型SOFCスタックのガスシールにおいては、ロウ材の耐熱性の他、空気極の組成についても併せて検討する必要がある。
【0007】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、ロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気においても安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。更に、燃料ガスの流路と支燃性ガスの流路とを隔離すること等を目的とした接合部を形成するロウ材として、耐熱性に優れるNiを含有する金属ロウ材を用いることで、良好な発電効率がより長期に渡って維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
1.固体電解質層11と、該固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、該固体電解質層11の他面に設けられた空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備える固体電解質形燃料電池において、該空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦δ<1である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の該接合部は金属ロウ材により形成されていることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
尚、上記「部品」は、固体電解質層11、燃料極12及び空気極13、並びに固体電解質形燃料電池を構成するその他のすべての部品を意味する。
2.上記金属ロウ材はNiとB又はPとを含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Niの含有量は60質量%以上である上記1.に記載の固体電解質形燃料電池。
3.上記金属ロウ材は更にCrを含有する上記2.に記載の固体電解質形燃料電池。
4.上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、上記金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Tiのみを含有する場合の該Tiの含有量、該Zrのみを含有する場合の該Zrの含有量、又は該Ti及び該Zrを含有する場合の合計含有量は各々0.5〜10質量%である上記2.又は3.に記載の固体電解質形燃料電池。
5.上記接合部は、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、該一の金属部品及び該他の金属部品の各々の該接合部に近接する部分にCrが偏析している上記3.又は4.に記載の固体電解質形燃料電池。
6.上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、該接合部及び該接合部と該セラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、上記金属ロウ材に含有される金属及び該金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出している上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
7.上記接合部は、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された上記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体電解質形燃料電池は、ロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気においても安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される。
また、金属ロウ材がNiとB又はPとを含有し、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Niの含有量が60質量%以上である場合は、特に耐熱性に優れる接合部を形成することができ、高出力が期待される800℃以上の運転温度においても、良好な発電効率がより長期に渡って維持される。
更に、金属ロウ材が更にCrを含有する場合は、ロウ材の耐熱性がより向上し、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
また、接合部が、金属部品とセラミック部品とを接合しており、金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Tiのみを含有する場合のTiの含有量、Zrのみを含有する場合のZrの含有量、又はTi及びZrを含有する場合の合計含有量が0.5〜10質量%である場合は、接合強度がより向上し、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
更に、接合部が、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、一の金属部品及び他の金属部品の各々の接合部に近接する部分にCrが偏析している場合は、十分な接合強度を有する接合部が形成されており、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
また、接合部が、金属部品とセラミック部品とを接合しており、接合部及び接合部とセラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、金属ロウ材に含有される金属及び金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が生成している場合も、十分な接合強度を有する接合部が形成されており、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
更に、接合部が、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された場合、本発明において用いられている特定の空気極用材料は分解することなく安定であり、良好な発電効率が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図1〜16を用いて詳細に説明する。
上記「固体電解質形燃料電池101(図10参照)、102(図11〜13参照)、103(図14〜16参照)」は、複数の単セルが積層されて形成されている。また、各々の単セルは発電層を備え、それぞれの発電層は、固体電解質層11と、この固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、他面に設けられた空気極13とを有する。更に、各々の単セルは、電池構造にもよるが、燃料ガスの流路21と支燃性ガスの流路22とを備える積層用セパレータ141、燃料ガスの流路21と支燃性ガスの流路22とを隔離するための隔離セパレータ16、18、19又は各々の単セル間に配設される中間セパレータ1441、1442、1443を介して積層されている。
【0011】
これらの積層用セパレータ141、隔離セパレータ16、18、19、中間セパレータ1441、1442、1443、及びその他の部品、例えば、後記の蓋部材15及び底部材17等は、いずれもステンレス鋼等の金属により形成されている。また、それぞれの単セルの発電層の間を電気的に絶縁するため、絶縁性セラミックからなる枠体5が、積層方向の所定部分に積層されて、短絡が防止されることもある。この固体電解質形燃料電池では、固体電解質層と隔離セパレータ、及び隔離セパレータ、中間セパレータ、枠体、蓋部材、底部材等のその他の部品間は、直接又は間接的に金属ロウ材により接合され、接合部が形成されている。
【0012】
上記「固体電解質層11」は、電池の作動時に燃料極に導入される燃料ガス又は空気極に導入される支燃性ガスのうちの一方の一部をイオンとして移動させることができるイオン伝導性を有する。どのようなイオンを伝導することができるかは特に限定されないが、イオンとしては、例えば、酸素イオン及び水素イオン等が挙げられる。また、上記「燃料極12」は、水素源となる燃料ガスと接触し、SOFCにおける負電極として機能する。更に、上記「空気極13」は、酸素源となる支燃性ガスと接触し、SOFCにおける正電極として機能する。
【0013】
固体電解質層11の形成に用いる材料はSOFCの使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、ZrO2系セラミック、LaGaO3系セラミック、BaCeO3系セラミック、SrCeO3系セラミック、SrZrO3系セラミック及びCaZrO3系セラミック等が挙げられる。これらの材料のうちでは、ZrO2系セラミックが好ましく、Sc、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたZrO2系セラミックが好ましく、Scにより安定化されたZrO2系セラミックが特に好ましい。
尚、この固体電解質層の厚さは電気抵抗と強度とを勘案し、5〜100μm、特に5〜50μm、更に5〜30μmとすることができる。
【0014】
燃料極12の形成に用いる材料もSOFCの使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属と、Sc、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア等のZrO2系セラミック、CeO2系セラミック及び酸化マンガン等のセラミックのうちの少なくとも1種との混合物などが挙げられる。また、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属が挙げられる。これらの金属は1種のみでもよいし、2種以上の金属の合金でもよい。更に、これらの金属及び/又は合金と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物(サーメットを含む。)が挙げられる。また、Ni及びFe等の金属の酸化物と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物などが挙げられる。これらの材料のうちでは、Ni及びFe等の金属と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物が好ましく、NiとScにより安定化されたZrO2系セラミックとの混合物が特に好ましい。
この燃料極の平面形状は特に限定されないが、固体電解質層及び空気極と同じ形状であることが好ましい。また、燃料極と固体電解質層とは各々の全面で積層されていることが好ましい。
【0015】
空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5である。)で表される空気極用材料により形成される。尚、δは酸素過剰量又は酸素欠損量を表し、通常、0≦δ<1、特に0≦δ≦0.1である。
【0016】
AとしてはLaが用いられることが多く、BとしてはSr又はCa、特にSrが用いられることが多い。更に、xは通常0.5≦x≦0.8である。また、CとしてはCo又はNiが用いられることが多く、DとしてはFeとMnとが同様に用いられる。更に、yは通常0.2≦y≦0.4である。このような(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ系複合酸化物としては、例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3、La0.6Sr0.4Co0.2Mn0.8O3、La0.6Sr0.4Ni0.2Fe0.8O3、La0.5Sr0.5FeO3、La0.7Sr0.3MnO3、La0.8Sr0.2MnO3等が挙げられる。
【0017】
この空気極の平面形状は特に限定されないが、固体電解質層及び燃料極と同じ形状であることが好ましい。また、その平面方向の寸法は、固体電解質形燃料電池の構造によっては、固体電解質層及び燃料極と同じにすることもできる。更に、隔離セパレータが固体電解質層の一表面の周縁に接合される場合は、空気極は固体電解質層及び燃料極より小さく形成される。この空気極と固体電解質層とは各々の全面で積層されていることが好ましい。
【0018】
固体電解質形燃料電池において、各々の単セルが有する発電層は、強度の観点から過度に薄層とすることは好ましくない。また、発電性能の観点では固体電解質層を厚くすることは好ましくない。そのため、燃料極支持型とすることができ、この燃料極支持型では、燃料極は固体電解質層の20倍以上の厚さであることが好ましい。20倍未満であると発電層の機械的強度が不十分となる傾向にある。この燃料極の厚さは200〜3000μm、特に500〜2000μmであることが好ましい。200μm未満であると基板として有効に機能せず、3000μmを越えると、体積当たりの発電効率が低下する傾向にある。一方、下記のように空気極支持型とすることもでき、この場合は、燃料極の厚さは、10〜50μm、特に20〜40μmであることが好ましい。この厚さが10〜50μmであれば、電極として十分に機能し、50μmを越えて厚くする必要はない。
【0019】
固体電解質形燃料電池では、空気極を発電層の強度を支持する基板として形成することもできる。空気極支持型である場合は、空気極の厚さは固体電解質層の20倍以上の厚さであることが好ましい。20倍未満であると発電層の機械的強度が不十分となる傾向にある。この空気極の厚さは200〜3000μm、特に500〜2000μmであることが好ましい。200μm未満であると基板として有効に機能せず、3000μmを越えると、体積当たりの発電効率が低下する傾向にある。一方、燃料極支持型である場合は、空気極の厚さは10〜100μm、特に20〜50μmであることが好ましい。10μm未満であると電極として十分に機能しないことがあり、100μmを越えると固体電解質層から剥離することがある。
【0020】
固体電解質形燃料電池は各種の上記「部品」を備え、上記「接合部」(金属部品間を接合する接合部81、及び金属部品とセラミック部品との間を接合する接合部82とがある。)は、前記のように、固体電解質形燃料電池において、固体電解質層11と隔離セパレータ16、18、19との間、及び隔離セパレータ16、18、19、中間セパレータ1441、1442、1443、枠体5、蓋部材15、底部材17等のその他の部品の各々の間を直接又は間接的に接合する部分である。また、少なくとも一部の接合部は上記「金属ロウ材」により形成されており、すべての接合部が金属ロウ材により形成されていることが好ましい。金属ロウ材は耐熱性が高く、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池とすることができる。
【0021】
金属ロウ材は特に限定されず、Ni系金属ロウ材(以下、「Ni系ロウ材」という。)及びAg系金属ロウ材(以下、「Ag系ロウ材」という。)等を用いることができる。この金属ロウ材としては、より耐熱性に優れるNi系ロウ材が好ましい。このNi系ロウ材としては、NiとB又はPとを含有し、このNi系ロウ材を100質量%とした場合に、Niの含有量が60質量%以上であるものを用いることができる。このNiの含有量は70質量%以上とすることができ、80質量%以上とすることもできる(Bを含有するときは、通常、95質量%以下であり、Pを含有するときは、通常、85質量%以下である。)。Niの含有量が60質量%以上であれば、十分に耐熱性の高いNi系ロウ材とすることができ、運転温度が800℃程度である場合に、900℃近くに昇温する部分があっても、更には800〜1000℃のより高温で運転させる場合であっても耐えられる固体電解質形燃料電池とすることができる。
【0022】
Ni系ロウ材にはNiの他にB又はPが含有されている。B又はPを含有することで、流動性が向上し、金属部品間及び金属部品とセラミック部品との間を十分に密着させることができ、接合強度をより大きくすることができる。B又はPの含有量は特に限定されないが、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Bの場合は1〜5質量%、特に1.5〜4質量%、更に2〜3.5質量%とすることができる。Bの含有量が1〜5質量%であれば、Ni系ロウ材の流動性を十分に高くすることができる。また、Pの場合は5〜15質量%、特に6.5〜13.5質量%、更に8〜12質量%とすることができる。Pの含有量が5〜15質量%であれば、Ni系ロウ材の流動性を十分に高くすることができる。
【0023】
Ni系ロウ材には、Ni及びB又はPの他に更にCrが含有されていてもよい。適量のCrを含有することにより、Ni系ロウ材の耐熱性をより高くすることができる。Crの含有量は特に限定されないが、Ni系ロウ材を100質量%とした場合に、5〜20質量%、特に10〜18質量%、更に12〜16質量%とすることができる。Crの含有量が8〜20質量%であれば、Ni系ロウ材の耐熱性を十分に高くすることができる。
【0024】
また、Ni系ロウ材を用いて金属部品とセラミック部品とを接合する場合、Ni系ロウ材には更にTi及びZrのうちの少なくとも一方が含有されていてもよい。このNi系ロウ材を100質量%とした場合に、Tiのみが含有されるときのTiの含有量、Zrのみが含有されるときのZrの含有量、又はTi及びZrが含有されるときの合計含有量の各々は0.5〜10質量%とすることができ、1〜8質量%とすることが好ましい。これらの含有量が0.5〜10質量%であれば、接合強度を十分に向上させることができる。
【0025】
金属ロウ材としてはAg系ロウ材を用いることもできる。このAg系ロウ材には通常Pdが含有され、AgとPdとの合計を100質量%とした場合に、Pdは2〜10質量%、特に3〜7質量%含有される。Pdの含有量が2〜10質量%であれば、耐酸化性等に優れるAg系ロウ材とすることができ、十分な耐久性を有する接合部を形成することができる。更に、接合時にAg系ロウ材が十分に流動し、接合部のシール性を向上させることができる。
【0026】
Ag系ロウ材には更にCuが含有されていてもよい。Cuが含有されている場合のAg、Pd及びCuの各々の含有量は特に限定されないが、Ag、Pd及びCuの合計を100質量%とした場合に、Agの含有量は45〜65質量%、特に50〜60質量%、Pdの含有量は15〜35質量%、特に20〜30質量%、Cuの含有量は10〜30質量%、特に15〜25質量%であることが好ましい。Cuが含有されている場合、含有されていないAg系ロウ材に比べてより多量のPdを含有していても、十分な流動性を有し、優れたシール性が維持される。また、AgとCuの合計は65質量%以上であることが好ましく、即ち、Pdの含有量が35質量%以下であれば、Ag系ロウ材が十分に流動し、接合部のシール性を向上させることができる。
【0027】
Ag系ロウ材には更にTiが含有されていてもよい。適量のTiを含有することにより、接合温度が比較的低い場合でも、特に大きな接合強度が得られる。このTiの含有量は、Ag、Pd及びTiの合計を100質量%とした場合に、又はCuが含有されているときは、Ag、Pd、Cu及びTiの合計を100質量%とした場合に、0.05〜10質量%であることが好ましく、特に0.05〜8質量%、更に0.05〜6質量%であることがより好ましい。Tiの含有量が0.05〜10質量%であれば、接合雰囲気が酸素分圧の低い雰囲気であっても、実用上、十分な強度を有する接合部を形成することができる。
【0028】
尚、Ni系ロウ材の熱膨張率は、組成にもよるが、(11〜14)×10−6/℃である。一方、Ag系ロウ材の熱膨張率は、通常、(16〜20)×10−6/℃である。更に、金属部品として用いられることが多いステンレス鋼の熱膨張率は(12〜17)×10−6/℃であり、セラミック部品となるZrO2系、CeO2系等のセラミックの熱膨張率は(10〜11.5)×10−6/℃である。このように、Ni系ロウ材の熱膨張率と、ステンレス鋼及びセラミックの各々の熱膨張率との差は、Ag系ロウ材の熱膨張率と、ステンレス鋼及びセラミックのそれぞれの熱膨張率との差より小さい。従って、Ni系ロウ材を用いた場合は、熱応力がより緩和され易く、より良好な接合状態が維持される。
【0029】
Ni系ロウ材及びAg系ロウ材には、上記の各種の金属の他に、接合強度及びガスシール性等が低下しない範囲で他の金属が含有されていてもよい。そのような金属としてはSn、In、Nb等が挙げられる。これらの他の金属は、Ni系ロウ材及びAg系ロウ材の各々を100質量部とした場合に、10質量部以下、特に0.1〜10質量部、更には0.5〜5質量部含有させることができる。
【0030】
接合の際の雰囲気は酸素分圧の低い雰囲気であれば特に限定されず、真空雰囲気、窒素雰囲気及びアルゴン雰囲気等とすることができる。金属ロウ材を用いる場合、接合雰囲気は酸素分圧の低い雰囲気であることが好ましく、そのような接合雰囲気であれば接合強度を大きく向上させることができる。一方、接合雰囲気の酸素分圧は空気極が分解しない程度に低いことが好ましい。接合の際の雰囲気における酸素分圧は特に限定されないが、10〜10−15Pa、特に10〜10−10Paであることが好ましい。本発明の固体電解質形燃料電池は、酸素分圧の低い雰囲気における接合時に分解することのない安定な空気極を備えており、接合雰囲気の酸素分圧が10〜10−15Paである場合に、本発明の作用、効果が特に顕著に奏される。
【0031】
本発明の固体電解質形燃料電池において金属部品としては、燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21及び空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22を備える積層用セパレータ141、空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22を備える上部セパレータ142、燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21を備える下部セパレータ143(図10参照)、一部が隣り合う発電層のそれぞれの固体電解質層11に接合され、且つ一方の発電層の燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21と他方の発電層の空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22とを形成するための隔離セパレータ16、18、19(図12、13、15、16参照)、積層された複数の単セルの間に介在する中間セパレータ1441、1442、1443(図12〜16参照)、固体電解質形燃料電池の最上面を形成する蓋部材15(図11〜16参照)(この最上部の単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合は、中間セパレータとして機能する。)、及び固体電解質形燃料電池の底面を形成する底部材17(図11〜16参照)(この単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合は、中間セパレータとして機能する。)等が挙げられる。
【0032】
金属部品を構成する金属は特に限定されず、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等が挙げられる。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS434、SUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410、SUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS201、SUS301、SUS305等が挙げられる。更に、ニッケル基合金としては、インコネル600、インコネル718、インコロイ802等が挙げられる。クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(94質量%Cr−5質量%Fe−1質量%Y2O3)等が挙げられる。これらの各種の金属は、それぞれ固体電解質形燃料電池の構造等によって選択することができる。
【0033】
また、セラミック部品としては、固体電解質層11を形成するセラミック及び少なくとも一部の中間セパレータと隔離セパレータとの間に配設される枠体5(図12、13、15、16参照)等が挙げられる。このセラミック部品を構成するセラミックは特に限定されず、前記の固体電解質層の形成に用いられる各種のセラミックが挙げられる。また、枠体として用いられることが多いMgO、MgAl2O4、ZrO2及びAl2O3並びにこれらの混合物等が挙げられる。これらのセラミックは、固体電解質形燃料電池の構造等によって選択することができる。
【0034】
Crを含有するNi系ロウ材を用いて金属部品と金属部品とを接合した場合、各々の金属部品の接合部に近接する部分にCrが偏析し、Cr偏析層9411、9412(実施例の欄の[2]接合層(この接合層は、固体電解質形燃料電池における金属部品間又は金属部品とセラミック部品との間を接合する接合部と同様に金属と金属との間又は金属とセラミックとの間を接合する部分である。)等の組成の評価、における図3及び図4参照)が形成される。これはNi系ロウ材とそれぞれの金属部品との間が十分に密着し、接合強度が大きい良好な接合部が形成されていることを裏付けるものである。尚、各々の金属部品の接合部に「近接」する部分とは、それぞれの金属部品の接合部との界面から厚さ方向に100μmまでの部分を意味する。
【0035】
更に、Ni系ロウ材を用いて金属部品とセラミック部品とを接合した場合、接合部及び接合部とセラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、金属ロウ材に含有される金属及び金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出し、金属酸化物析出部942が形成される(実施例の欄の[2]接合層等の組成の評価、における図4及び図6参照、尚、図4、6では、金属酸化物析出部942は接合層93の内部及び接合層93とセラミック焼結体92との界面近傍に析出しているが、金属酸化物析出部942は主に接合層93の内部のみに析出することもあり、主に界面近傍のみに析出することもある。)。この金属酸化物析出部942は層状に形成されることもあり、接合部の内部及び界面近傍の各々に部分的に形成されることもある。これはNi系ロウ材とセラミック部品との間が十分に密着し、接合強度が大きい良好な接合部が形成されていることを裏付けるものである。尚、接合部とセラミック部品との「界面近傍」とは、接合部とセラミック部品との界面から接合部及びセラミック部品の各々の厚さ方向に50μmまでの部分を意味する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]空気極用材料の評価
実験例1〜12及び比較実験例1〜2
固体電解質形燃料電池では、固体電解質層の一面に空気極を形成する際の界面での反応を防止するため、通常、Sm0.2Ce0.8O2等のサマリウムドープセリア(SDC)からなる反応防止層が設けられる。これを模して、直径20mm、厚さ500μmの円盤状のSDC焼結体を作製し、その後、表面を研磨して平滑にし、この平滑面の中心部に表1に記載の空気極用材料を100質量部、バインダとしてエチルセルロースを5質量部及び溶剤としてブチルカルビトールを30質量部含有するセラミックスラリーを調製し、このスラリーをスクリーン印刷して塗膜を形成した。次いで、大気雰囲気下、表1に記載の温度で60分間加熱して焼き付け、直径15mm、厚さ30μmの皮膜(固体電解質形燃料電池における空気極に相当する。)を形成した。その後、ロウ付け時の熱処理と同様の真空雰囲気(圧力1Pa以下)において1100℃で30分間熱処理した。次いで、空気極用材料及び皮膜の各々の結晶相をX線回折により確認した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果によれば、前記の一般式で表される空気極用材料を用いた実験例1〜12では、焼き付け後の皮膜の結晶相はペロブスカイト酸化物単相であり、真空雰囲気において加熱しても安定であることが分かる。一方、比較実験例1、2では、一部が分解していることが確認された。
【0039】
[2]接合層等の組成の評価
(1)被接合材及び金属ロウ材
被接合材としては、固体電解質形燃料電池における金属部品として用いられることが多いSUS430の成形体91と、セラミック部品として用いられることが多い8質量%のイットリアにより安定化されたジルコニア(YSZ)焼結体92とを用いた。SUS430成形体91は15×15×20mmの寸法のものを使用し、15×15mmの面を接合面として接合体9の作製に用いた。また、YSZ焼結体92は常法により原料粉末を成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、15×15mmの面を接合面として接合体9の作製に用いた。金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものであり、(a)89質量%のNiと11質量%のPとを含有するもの、(b)82質量%のNi、15質量%のCr及び3質量%のBを含有するもの、(c)95質量%のAgと5質量%のPdとを含有するもの、及び(d)54質量%のAg、25質量%のPd及び21質量%のCuを含有するもの、を使用して印刷し、その後、熱処理して接合層93を形成した。
【0040】
(2)ロウ付け
SUS430成形体91の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面にペースト状の金属ロウ材(a)〜(d)の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成し、この塗膜上にSUS430成形体91又はYSZ焼結体92を各々その15×15mmの面が接するように載置した。そして、それぞれの部材が各々の接触面で相互にずれないように、上部のSUS430成形体91又はYSZ焼結体92の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、各々のロウ材に最適な温度、(a)1000℃、(b)1100℃、(c)1050℃、(d)950℃で30分保持して接合し、接合体9を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。
【0041】
(3)接合層等の組成
上記(2)で作製した接合体9を用いて、金属ロウ材(a)及び(d)の場合は、それぞれSUS430成形体91間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。また、金属ロウ材(b)及び(c)の場合は、それぞれSUS430成形体91間及びSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。更に、金属ロウ材(a)を用いた接合体では、接合体を800℃で100時間加熱し、その後、SUS430成形体91間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。
【0042】
以下、各々の接合層等の組成を断面の模式図である図1〜7により説明する。
金属ロウ材(a)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図1によれば、接合層93の厚さ方向の中心部にPが偏析して形成されたP偏析層943が確認された。この接合体9を800℃で100時間加熱した場合は、図2のように、(1)各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるNiが拡散して形成されたNi拡散層9441、9442、(2)接合層93のそれぞれのSUS430成形体91との界面側に、SUS430に含有されるFeとCrとが拡散して形成されたFe/Cr拡散層9451、9452が形成され、且つ(3)接合層93、Ni拡散層9441、9442及びFe/Cr拡散層9451、9452に、金属ロウ材に含有されるPが偏析してなるP偏析物946が散在しているのが確認された。
【0043】
また、金属ロウ材(b)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図3によれば、(1)接合層93のそれぞれのSUS430成形体91との界面側に、SUS430に含有されるFeが拡散して形成されたFe拡散層9471、9472、及び(2)各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるCrが偏析して形成されたCr偏析層9411、9412が確認された。また、金属ロウ材(b)を用いたときのSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面の模式図である図4によれば、(1)接合層93のSUS430成形体91との界面側には同様にFe拡散層9471が形成され、(2)接合層93の内部及びYSZ焼結体92と接合層93との界面近傍にはSUS430及び金属ロウ材に含有されているCrの酸化物が析出して形成された金属酸化物析出部942、並びに(3)SUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるCrが偏析して形成されたCr偏析層9411が確認された。
【0044】
更に、金属ロウ材(c)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図5によれば、各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるPdが拡散して形成されたPd拡散層9481、9482が確認された。また、金属ロウ材(c)を用いたときのSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面の模式図である図6によれば、(1)SUS430成形体91の接合層93との界面側には同様にPd拡散層9481が形成され、(2)YSZ焼結体92と接合層93との界面近傍にはSUS430に含有されているCrの酸化物が析出して形成された金属酸化物析出部942が確認された。更に、金属ロウ材(d)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図7によれば、接合層93の各々のSUS430成形体91との界面側に、FeとCuとPdとが反応して生成したFe−Cu−Pd反応層9491、9492が確認された。
【0045】
[3]SUS430と、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体との接合強度の評価
実験例13〜30及び比較実験例3〜4
表2に記載の金属ロウ材により、セパレータ等として用いられることが多い金属と、SOFCの固体電解質層として使用されることが多いYSZ焼結体、又は枠体として用いられることが多いMgOとMgAl2O4との混合物(MgOとMgAl2O4との合計を100質量%とした場合に、90質量%のMgOと10質量%のMgAl2O4とを含有する。)とを接合し、その接合強度を評価した。金属としてはフェライト系ステンレス鋼であるSUS430を用いた。
【0046】
(1)被接合材及び金属ロウ材
SUS430としては厚さ0.3mmのシートを使用し、15×15mmの大きさに切断して試験片の作製に用いた。また、YSZ焼結体は常法により原料粉末を成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、これを試験片の作製に用いた。更に、MgO−MgAl2O4焼結体の原料粉末としては、90質量%のMgO粉末と10質量%のMgAl2O4粉末との混合粉末を使用し、常法により成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、これを試験片の作製に用いた。金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものを試験片の作製に用いた。
【0047】
(2)ロウ付け(接合体の作製)
SUS430シートの両面に表2に記載のペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。一方、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面に、両面に塗膜が形成されたSUS430シートの一面を載置し、このSUS430シートの他面に他のYSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体を各々その15×15mmの面が接するように載置した。そして、各々の部材がそれぞれの接触面で相互にずれないように、上部のYSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、表2に記載の温度で30分保持して接合し、接合体を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。また、比較実験例3、4では、SUS430の、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体と接合されることとなる両面に結晶化ガラスペーストを塗布し、大気雰囲気の熱処理炉に収容し、1000℃で1時間保持して熱処理した他は、実験例と同様にして接合体を作製した。尚、この比較実験例3、4では昇降温速度は200℃/時間とした。
【0048】
(3)接合強度の測定
上記(2)において作製した接合体を、各々の接合体のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの試験片とし、4点曲げ法により接合強度を測定した。結果を4本の試験片の平均値として表2に併記する。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果によれば、実験例13〜30では接合強度は71〜221MPaであり、比較実験例3〜4の接合強度28〜31MPaに比べて十分に大きいことが分かる。また、金属ロウ材が0.5〜10.0質量%のTiを含有する実験例15〜18では、接合強度が136〜201MPaとより大きく、金属ロウ材が2.0〜5.0質量%のTiを含有する実験例16〜17では、接合強度が197〜201MPaと特に大きい。更に、金属ロウ材が2.0〜5.0質量%のZrを含有する実験例20〜21でも、Tiを含有するときと同様に接合強度が162〜186MPaと大きく向上している。また、実験例22〜24によれば、YSZ焼結体の場合もMgO−MgAl2O4焼結体と同様に金属ロウ材にTiを含有させることで接合強度がより向上している。更に、Ag系ロウ材を用いた実験例25〜30でも、2.0〜5.0質量%のTiを含有させることで接合強度がより向上している。
【0051】
[4]耐熱性の評価
実験例31〜35
表3に記載の金属ロウ材により、SOFCのセパレータ等として用いられることが多い金属間を接合し、その接合強度を評価した。金属としてはフェライト系ステンレス鋼であるSUS430の成形体及びシートを用いた。また、接合体を大気雰囲気において800℃で1000時間加熱した場合に接合層に発生する亀裂の表面からの距離により金属ロウ材の耐熱性(表3では「劣化距離」と表す。)を評価した。
【0052】
(1)被接合材、金属ロウ材及びロウ付け
SUS430成形体は15×15×20mmの寸法のもの、及びSUS430シートは厚さ0.3mmのものを試験片の作製に用いた。更に、金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものを使用した。また、下記の方法でロウ付けした。
SUS430成形体の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面にペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。その後、この塗膜上に15×15×0.3mmのSUS430シートを載置し、このシート上に更にペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜上にSUS430成形体をその15×15mmの面が接するように載置した。そして、各々の部材がそれぞれの接触面で相互にずれないように、上部のSUS430成形体の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、表3に記載の温度で30分保持して接合し、接合体9(図8参照)を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。
【0053】
(2)接合強度の測定
上記(1)において作製した接合体9を、各々の接合体のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの試験片とし、4点曲げ法により接合強度を測定した。結果を4本の試験片の平均値として表3に併記する。
【0054】
(3)劣化距離の評価
上記(1)と同様にして作製した接合体9(図8参照)を、各々の接合体9のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの棒状体とした。次いで、この棒状体を熱処理炉に収容し、大気雰囲気において800℃で1000時間加熱した。その後、それぞれの棒状体を、容器に収容された液状のエポキシ樹脂に浸漬し、次いで、エポキシ樹脂を硬化させて各々の棒状体の全周面をエポキシ樹脂により被覆した。その後、それぞれの棒状体を長さ方向に切断し、断面を鏡面研磨し、この研磨面を目盛り付きの接眼レンズを備える光学顕微鏡により観察し、接合層93の端部からの亀裂の長さ(劣化距離)を測定した(図9参照)。結果を表3に併記する。
【0055】
【表3】
【0056】
表3の結果によれば、実験例31〜33のNi系ロウ材及び実験例34〜35のAg系ロウ材のいずれの場合も接合強度は十分であった。一方、劣化距離は、実験例31〜33のNi系ロウ材では15〜30μm、実験例34〜35のAg系ロウ材では105〜330μmであって大差があった。このようにNi系ロウ材は特に高い耐熱性を有しており、高出力が期待される800℃以上の運転温度においても良好な発電効率が維持される。
【0057】
[5]固体電解質形燃料電池
実施例1(燃料ガス及び支燃性ガスの流路を有するセパレータを備え、2個の発電層が積層された燃料電池)
(1)燃料電池の構造
2個の発電層が積層された平板型SOFCスタック101の断面を図10に模式的に示す。
この平板型SOFCスタック101では、2個の発電層が積層用セパレータ141を介して積層された構造を備える。各々の発電層は、Scにより安定化されたジルコニア(ScSZ)からなり、厚さが200μmの固体電解質層11と、その下面に設けられ、NiとScSZとからなり、厚さが30μmの燃料極12と、上面に設けられ、La0.8Sr0.2MnO3からなり、厚さが30μmの空気極13とを有する。固体電解質層11、燃料極12及び空気極13は、いずれも平面形状が正方形であり、固体電解質層11は燃料極12及び空気極13より面積が大きく、燃料極12と空気極13は同じ大きさであって、対向した位置に設けられている。
【0058】
2個の発電層は、SUS430からなる積層用セパレータ141を介して積層されている。この積層用セパレータ141の上面には燃料ガスの流路21が、下面には支燃性ガスの流路22が形成されている。また、上層の発電層の上側には、SUS430からなる上部セパレータ142が配設されており、その下面には支燃性ガスの流路22が形成されている。更に、下層の発電層の下側には、SUS430からなる下部セパレータ143が配設されており、その上面には燃料ガスの流路21が形成されている。
【0059】
また、上層の発電層の固体電解質層11の周縁と、上部セパレータ142及び積層用セパレータ141の各々の周縁、並びに下層の発電層の固体電解質層11の周縁と、下部セパレータ143及び積層用セパレータ141の各々の周縁は、それぞれ接合され、接合部82が形成されている。金属ロウ材としては、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合した。
【0060】
(2)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池においては、2個の発電層の各々の固体電解質層が、YSZの2倍ほどのイオン導電率を有するScSZにより形成されており、750℃程度の作動温度でも安定して電流を取り出すことができる。そのため、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼からなるセパレータを使用することができ、固体電解質層とセパレータとを上記Ni系ロウ材により強固に接合することができる。そして、各々の接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0061】
実施例2(積層された2個の単セルを有し、燃料極を基板とする外部マニホールド型燃料電池)
(1)燃料電池の構造
(a)発電層及び各種セパレータ
2個の発電層が積層された実施例1の燃料電池とは異なる他の構造を備える平板型SOFCスタック102の外観を図11に斜視図により示す。また、図12は、図11におけるA−A断面の模式図であり、図13は、図11におけるB−B断面の模式図である。
この平板型SOFCスタック102では、2個の単セルが中間セパレータ1441を介して積層されている。各々の単セルが備える発電層は、それぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面形状が正方形であり、厚さが1000μmの燃料極12を基板としている。この燃料極12の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状、寸法が燃料極12と同じであり、厚さが30μmの固体電解質層11が形成されている。更に、この固体電解質層11の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状が固体電解質層11と同じであり、寸法が固体電解質層11より小さく、厚さが30μmの空気極13が形成されている。
【0062】
上部の単セルは、中間セパレータ1441の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13、インコネル繊維メッシュ層4及び蓋部材15をこの順に備える。また、インコネル繊維メッシュ層4の周面を取り囲み、下面が固体電解質層11と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5を介して蓋部材15と接合されている上部単セル用隔離セパレータ16を有する。一方、下部の単セルは、底部材17の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、インコネル繊維メッシュ層4の周面を取り囲み、下面が固体電解質層11と接合され、上面が枠体5を介して中間セパレータ1441と接合されている下部単セル用隔離セパレータ18を有する。
【0063】
蓋部材15、上部単セル用隔離セパレータ16、中間セパレータ1441、下部単セル用隔離セパレータ18及び底部材17は、いずれもSUS430により形成されている。更に、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441、及び下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17は、それぞれ上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部81が形成されている。また、蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16、及び中間セパレータ1441と下部単セル用隔離セパレータ18は、それぞれ枠体5を介して接合されており、この場合は、それぞれ上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0064】
(b)燃料ガス導入管又は排出管、及び支燃性ガス導入管又は排出管
上部単セルにおいて、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441との間に形成された空間には、上部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図12参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部とは対角線方向の位置には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図13参照)。更に、上部単セル用隔離セパレータ16の一方の側面側には、上部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための貫通孔161が設けられ(図12参照)、対向する他方の側面側の対角線方向には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための貫通孔162が設けられている(図13参照)。これらの貫通孔161、162は、それぞれ蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16との間に形成された空間に連通されており、各々の空間には、支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73(図12参照)、又は排気するための支燃性ガス排出管74(図13参照)が開口している。
【0065】
一方、下部単セルにおいて、下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17との間に形成された空間には下部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図12参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部とは対角線方向の位置には、下部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図13参照)。更に、下単セル用隔離セパレータ18の一方の側面側には、下部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための貫通孔181が設けられ(図12参照)、対向する他方の側面側の対角線方向には、下部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための貫通孔182が設けられている(図13参照)。これらの貫通孔181、182は、それぞれ中間セパレータ1441と下部単セル用隔離セパレータ18との間に形成された空間に連通されており、各々の空間には、支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73(図12参照)、又は排出するための支燃性ガス排出管74(図13参照)が開口している。
尚、この実施例2の燃料電池では、上部単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合、蓋部材が中間セパレータとして機能することになる。また、下部単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合、底部材が中間セパレータとして機能することになる。
【0066】
また、上部単セル及び下部単セルの各々に燃料ガス又は支燃性ガスを導入し、又は排出するためのそれぞれの管は、本管に側管が取り付けられた構造であり、上部発電層及び下部発電層に燃料ガス又は支燃性ガスが同時に導入され、且つ排出される。更に、燃料ガス導入管と燃料ガス排出管、及び支燃性ガス導入管と支燃性ガス排出管は、この実施例2の場合は、燃料ガス及び支燃性ガスがそれぞれ対角線方向に流通するような位置に取り付けられる。これにより、上部発電層及び下部発電層の各々の燃料極と燃料ガス、及び空気極と支燃性ガスをそれぞれ効率よく接触させることができる。
【0067】
(2)燃料電池からの電力の取り出し
この平板型SOFCスタックでは、上部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1441と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1441は、インコネル繊維メッシュ4を介して下部単セルの空気極13と電気的に接続されている。このように上部単セルと下部単セルは直列に接続されている。また、スタックを所定の作動温度に昇温させ、燃料ガス導入管71に水素等の燃料ガスを導入して燃料極と接触させ、支燃性ガス導入管73に空気等の支燃性ガスを導入して空気極と接触させることにより、燃料極と空気極との間に起電力が生じ、この電力を外部に取り出すことにより発電装置として機能させることができる。電力は、燃料極側においては下部単セルの下面に配設されたニッケルフェルト3を介して底部材17に取り出され、空気極側においては上部単セルの上面に配設されたインコネル繊維メッシュ4を介して蓋部材15に取り出され、蓋部材15と底部材17との間でスタック全体の電力を取り出すことができる。
【0068】
(3)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池では、2個の発電層がそれぞれ燃料極支持型であり、この構造の場合、750℃程度の作動温度でも電流を取り出すことができる。そのため、蓋部材、各種セパレータ及び底部材を、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼により形成することができる。上部単セル及び下部単セルの各々において、固体電解質層と隔離セパレータとは、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0069】
更に、上部単セル用隔離セパレータ16と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と蓋部材15、並びに下部単セル用隔離セパレータ18と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と中間セパレータ1441も、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。また、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441、及び下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17は、上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、それぞれの接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0070】
実施例3(積層された3個の単セルを有し、燃料極を基板とする内部マニホールド型燃料電池)
(1)燃料電池の構造
(a)発電層及び各種セパレータ
3個の発電層が積層された、実施例1及び2の燃料電池とは更に異なる他の構造を備える平板型SOFCスタック103の外観を図14に斜視図により示す。また、図15は、図14におけるA−A断面の模式図であり、図16は、図14におけるB−B断面の模式図である。
この平板型SOFCスタック103では、3個の単セルが中間セパレータ1442、1443を介して積層されている。各々の単セルが備える発電層は、それぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面形状が正方形であり、厚さが1000μmの燃料極12を基板としている。この燃料極12の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状、寸法が燃料極12と同じであり、厚さが30μmの固体電解質層11が形成されている。更に、この固体電解質層11の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状が固体電解質層11と同じであり、寸法が固体電解質層11より小さく、厚さが30μmの空気極13が形成されている。
【0071】
上部の単セルは、中間セパレータ1442の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13、インコネル繊維メッシュ層4及び蓋部材15をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体62と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5及び金属製枠体61を介して蓋部材15と接合されている上部単セル用隔離セパレータ16を有する。
中間の単セルは、中間セパレータ1443の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体64と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5及び金属製枠体63を介して中間セパレータ1442と接合されている中間単セル用隔離セパレータ19を有する。
下部の単セルは、底部材17の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体66と接合され、上面が枠体5及び金属製枠体65を介して中間セパレータ1443と接合されている下部単セル用隔離セパレータ18を有する。
【0072】
蓋部材15、上部単セル用隔離セパレータ16、下部単セル用隔離セパレータ18、中間単セル用隔離セパレータ19、中間セパレータ1442、1443、金属製枠体61、62、63、64、65、66及び底部材17は、いずれもSUS430により形成されている。更に、蓋部材15と金属製枠体61、上部単セル用隔離セパレータ16と金属製枠体62、金属製枠体62と中間セパレータ1442、中間セパレータ1442と金属製枠体63、中間単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体64、金属製枠体64と中間セパレータ1443、中間セパレータ1443と金属製枠体65、下部単セル用隔離セパレータ18と金属製枠体66、及び金属製枠体66と底部材17、はそれぞれ上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部81が形成されている。また、金属製枠体61と上部単セル用隔離セパレータ16、金属製枠体63と中間単セル用隔離セパレータ19、及び金属製枠体65と下部単セル用隔離セパレータ18、はそれぞれ枠体5を介して接合されており、この場合は、それぞれ上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0073】
(b)燃料ガス導入管又は排出管、及び支燃性ガス導入管又は排出管
上部単セルにおいて、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1442との間に形成された空間には、上部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。更に、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。また、蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16との間に形成された空間には、上部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。更に、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
【0074】
また、中間部単セルにおいて、中間部単セル用隔離セパレータ19と中間セパレータ1443との間に形成された空間には、中間部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。更に、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。また、中間セパレータ1442と中間部単セル用隔離セパレータ19との間に形成された空間には、中間部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。更に、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
【0075】
更に、下部単セルにおいて、下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17との間に形成された空間には、下部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、下部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。更に、中間セパレータ1443と下部単セル用隔離セパレータ18との間に形成された空間には、下部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。また、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、下部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
尚、この実施例3の燃料電池では、上部単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合、蓋部材が中間セパレータとして機能することになる。更に、下部単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合、底部材が中間セパレータとして機能することになる。
【0076】
また、上部単セル、中間部単セル及び下部単セルの各々に燃料ガス又は支燃性ガスを導入し、又は排出するためのそれぞれの管は、本管に側管が取り付けられた構造であり、上部発電層、中間部発電層及び下部発電層に燃料ガス又は支燃性ガスが同時に導入され、且つ排出される。更に、燃料ガス導入管と燃料ガス排出管、及び支燃性ガス導入管と支燃性ガス排出管は、この実施例5の場合は、燃料ガス及び支燃性ガスがそれぞれ対向方向に流通するような位置に取り付けられている。これにより、上部発電層、中間部発電層及び下部発電層の各々の燃料極と燃料ガス、及び空気極と支燃性ガスをそれぞれ効率よく接触させることができる。
【0077】
(2)燃料電池からの電力の取り出し
この平板型SOFCスタックでは、上部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1442と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1442は、インコネル繊維メッシュ4を介して中間部単セルの空気極13と電気的に接続されている。更に、中間部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1443と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1443は、インコネル繊維メッシュ4を介して下部単セルの空気極13と電気的に接続されている。このように上部単セル、中間部単セル及び下部単セルは各々直列に接続されている。また、スタックを所定の作動温度に昇温させ、燃料ガス導入管71に水素等の燃料ガスを導入して燃料極12と接触させ、支燃性ガス導入管73に空気等の支燃性ガスを導入して空気極13と接触させることにより、燃料極12と空気極13との間に起電力が生じ、この電力を外部に取り出すことにより発電装置として機能させることができる。電力は、燃料極側においては下部単セルの下面に配設されたニッケルフェルト3を介して底部材17に取り出され、空気極側においては上部単セルの上面に配設されたインコネル繊維メッシュ4を介して蓋部材15に取り出され、蓋部材15と底部材17との間でスタック全体の電力を取り出すことができる。
【0078】
(3)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池では、3個の発電層がそれぞれ燃料極支持型であり、この構造の場合、750℃程度の作動温度でも電流を取り出すことができる。そのため、蓋部材、各種セパレータ、金属製枠体及び底部材を、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼により形成することができる。上部単セル、中間部単セル及び下部単セルのそれぞれにおいて、固体電解質層と隔離セパレータとは、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0079】
更に、上部単セル用隔離セパレータ16と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体61、中間部単セル用隔離セパレータ19と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体63、並びに下部単セル用隔離セパレータ18と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体65も、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。また、蓋部材15と金属製枠体61、上部単セル用隔離セパレータ16と金属製枠体62、金属製枠体62と中間セパレータ1442、中間セパレータ1442と金属製枠体63、中間部単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体64、金属製枠体64と中間セパレータ1443、中間セパレータ1443と金属製枠体65、下部単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体66、及び金属製枠体66と底部材17は、上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、それぞれの接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0080】
また、実施例1、実施例2及び実施例3の固体電解質形燃料電池を用いて発電させる場合、燃料極側には燃料ガスを導入し、空気極側には支燃性ガスを導入する。燃料ガスとしては、水素、水素源となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。更に、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びペンタン等の炭素数が1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4の飽和炭化水素、並びにエチレン及びプロピレン等の不飽和炭化水素を主成分とするものが好ましく、飽和炭化水素を主成分とするものが更に好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、50体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0081】
支燃性ガスとしては、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。また、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの支燃性ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
【0082】
尚、本発明では上記の実施例に限られず、目的、用途等によって本発明の範囲内において種々変更した実施例とすることができる。例えば、発電層等の平面形状は、長方形、円形及び楕円形等とすることができ、同様の平面形状を有する固体電解質形燃料電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】Ni系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図2】Ni系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合し、800℃で100時間加熱した後の接合部等の断面を示す模式図である。
【図3】Crを含有するNi系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図4】Crを含有するNi系ロウ材を用いてSUS430成形体とYSZ焼結体とを接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図5】Ag系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図6】Ag系ロウ材を用いてSUS430成形体とYSZ焼結体とを接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図7】Cuを含有するAg系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図8】Ni系ロウ材又はAg系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した接合体の断面を示す模式図である。
【図9】図8の接合体を800℃で1000時間加熱した後の断面を示す模式図である。
【図10】実施例1の固体電解質形燃料電池101の断面を示す模式図である。
【図11】実施例2の固体電解質形燃料電池102の外観を示す斜視図である。
【図12】図11の固体電解質形燃料電池102のA−A断面を示す模式図である。
【図13】図11の固体電解質形燃料電池102のB−B断面を示す模式図である。
【図14】実施例3の固体電解質形燃料電池103を示す斜視図である。
【図15】図14の固体電解質形燃料電池103のA−A断面を示す模式図である。
【図16】図14の固体電解質形燃料電池103のB−B断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0084】
101、102、103;平板型SOFCスタック、11;固体電解質層、12;燃料極、13;空気極、141;積層用セパレータ、142;上部セパレータ、143;下部セパレータ、1441、1442、1443;中間セパレータ、15;蓋部材、16;上部単セル用隔離セパレータ、161、162;貫通孔、17;底部材、18;下部単セル用隔離セパレータ、181、182;貫通孔、19;中間単セル用隔離セパレータ、21;燃料ガスの流路、22;支燃性ガスの流路、3;ニッケルフェルト層、4;インコネル繊維メッシュ層、5;枠体、61、62、63、64、65、66;金属製枠体、71;燃料ガス導入管、72;燃料ガス排気管、73;支燃性ガス導入管、74;支燃性ガス排気管、81;金属部品間の接合部、82;金属部品とセラミック部品との間の接合部、9;接合体、91;金属シート又は金属成形体、92;セラミック焼結体、93;接合層、931;接合層に発生する亀裂、9411、9412;Cr偏析層、942;金属酸化物析出部、943;P偏析層、9441、9442;Ni拡散層、9451、9452;Fe/Cr拡散層、946;P偏析物、9471、9472;Fe拡散層、9481、9482;Pd拡散層、9491、9492;Fe−Cu−Pd反応層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質形燃料電池に関する。更に詳しくは、本発明は、ロウ付けが、真空雰囲気及びアルゴン雰囲気等の酸素分圧が低い雰囲気においてなされた場合も安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池に関する。また、燃料ガスの流路と支燃性ガスの流路とを隔離すること等を目的として接合部を形成するためのロウ付けに用いるロウ材として、耐熱性に優れるNiを含有する金属ロウ材を用いた場合は、良好な発電効率がより長期に渡って維持される。
【背景技術】
【0002】
平板型の固体電解質形燃料電池(以下、「平板型SOFCスタック」ということもある。)は、セパレータを用いて複数の単セル(以下、「SOFC」ということもある。)を積層することにより形成されている。この平板型SOFCスタックでは、燃料極に供給される燃料ガスの流路と空気極に供給される支燃性ガスの流路とを隔離するためのガスシールがなされ、このガスシール等を目的とするロウ付けに用いられるロウ材には耐熱性等が要求される。ガスシールにはガラス質のガスシール材が用いられることもあり、セラミックスファイバーが使用されることもある(例えば、特許文献1参照。)。また、耐熱性を向上させるため、金属間のロウ付けに用いられることが多い銀を主成分とする金属ロウ材が用いられることもある。
【0003】
更に、近年、イットリア安定化ジルコニア等からなる固体電解質層をできるだけ薄層として内部抵抗を低減し、800℃以下の比較的低温域でSOFCを動作させる研究もなされている。この場合、ガスシールには上記のガラス質のガスシール材及び銀を主成分とする金属ロウ材を用いることができる。また、セラミック製ではなく金属製のセパレータを使用することができ、特に、安価なステンレス鋼からなるセパレータを用いることができれば、コストを引き下げることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−199554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のようにガラス質のシール材を用いたときは、熱応力により破損することがある。更に、セラミックスファイバーでは十分に気密にシールすることができない場合がある。また、銀を主成分とする金属ロウ材にはパラジウムが含有されているが、このパラジウムは高価でありコスト面で不利である。更に、銀を主成分とする金属ロウ材は十分な耐熱性を有するが、高出力が期待される800℃以上の運転温度においてはやや耐熱性が不足することも考えられる。
【0006】
また、上述のロウ材の耐熱性の他に、良好な発電効率を維持するためには空気極の組成を検討する必要もある。即ち、耐熱性に優れる金属ロウ材を用いたロウ付けは一般に酸素分圧の低い雰囲気においてなされるが、空気極として用いられることが多いペロブスカイト酸化物は酸素が欠損し易く、空気極の組成によってはロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気において分解することがあり、化学的安定性が不十分な場合がある。このように、平板型SOFCスタックのガスシールにおいては、ロウ材の耐熱性の他、空気極の組成についても併せて検討する必要がある。
【0007】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、ロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気においても安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。更に、燃料ガスの流路と支燃性ガスの流路とを隔離すること等を目的とした接合部を形成するロウ材として、耐熱性に優れるNiを含有する金属ロウ材を用いることで、良好な発電効率がより長期に渡って維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
1.固体電解質層11と、該固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、該固体電解質層11の他面に設けられた空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備える固体電解質形燃料電池において、該空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦δ<1である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の該接合部は金属ロウ材により形成されていることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
尚、上記「部品」は、固体電解質層11、燃料極12及び空気極13、並びに固体電解質形燃料電池を構成するその他のすべての部品を意味する。
2.上記金属ロウ材はNiとB又はPとを含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Niの含有量は60質量%以上である上記1.に記載の固体電解質形燃料電池。
3.上記金属ロウ材は更にCrを含有する上記2.に記載の固体電解質形燃料電池。
4.上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、上記金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Tiのみを含有する場合の該Tiの含有量、該Zrのみを含有する場合の該Zrの含有量、又は該Ti及び該Zrを含有する場合の合計含有量は各々0.5〜10質量%である上記2.又は3.に記載の固体電解質形燃料電池。
5.上記接合部は、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、該一の金属部品及び該他の金属部品の各々の該接合部に近接する部分にCrが偏析している上記3.又は4.に記載の固体電解質形燃料電池。
6.上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、該接合部及び該接合部と該セラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、上記金属ロウ材に含有される金属及び該金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出している上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
7.上記接合部は、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された上記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体電解質形燃料電池は、ロウ付け時の酸素分圧の低い雰囲気においても安定な空気極を備え、良好な発電効率が維持される。
また、金属ロウ材がNiとB又はPとを含有し、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Niの含有量が60質量%以上である場合は、特に耐熱性に優れる接合部を形成することができ、高出力が期待される800℃以上の運転温度においても、良好な発電効率がより長期に渡って維持される。
更に、金属ロウ材が更にCrを含有する場合は、ロウ材の耐熱性がより向上し、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
また、接合部が、金属部品とセラミック部品とを接合しており、金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Tiのみを含有する場合のTiの含有量、Zrのみを含有する場合のZrの含有量、又はTi及びZrを含有する場合の合計含有量が0.5〜10質量%である場合は、接合強度がより向上し、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
更に、接合部が、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、一の金属部品及び他の金属部品の各々の接合部に近接する部分にCrが偏析している場合は、十分な接合強度を有する接合部が形成されており、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
また、接合部が、金属部品とセラミック部品とを接合しており、接合部及び接合部とセラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、金属ロウ材に含有される金属及び金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が生成している場合も、十分な接合強度を有する接合部が形成されており、良好な発電効率が長期に渡って維持される。
更に、接合部が、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された場合、本発明において用いられている特定の空気極用材料は分解することなく安定であり、良好な発電効率が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図1〜16を用いて詳細に説明する。
上記「固体電解質形燃料電池101(図10参照)、102(図11〜13参照)、103(図14〜16参照)」は、複数の単セルが積層されて形成されている。また、各々の単セルは発電層を備え、それぞれの発電層は、固体電解質層11と、この固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、他面に設けられた空気極13とを有する。更に、各々の単セルは、電池構造にもよるが、燃料ガスの流路21と支燃性ガスの流路22とを備える積層用セパレータ141、燃料ガスの流路21と支燃性ガスの流路22とを隔離するための隔離セパレータ16、18、19又は各々の単セル間に配設される中間セパレータ1441、1442、1443を介して積層されている。
【0011】
これらの積層用セパレータ141、隔離セパレータ16、18、19、中間セパレータ1441、1442、1443、及びその他の部品、例えば、後記の蓋部材15及び底部材17等は、いずれもステンレス鋼等の金属により形成されている。また、それぞれの単セルの発電層の間を電気的に絶縁するため、絶縁性セラミックからなる枠体5が、積層方向の所定部分に積層されて、短絡が防止されることもある。この固体電解質形燃料電池では、固体電解質層と隔離セパレータ、及び隔離セパレータ、中間セパレータ、枠体、蓋部材、底部材等のその他の部品間は、直接又は間接的に金属ロウ材により接合され、接合部が形成されている。
【0012】
上記「固体電解質層11」は、電池の作動時に燃料極に導入される燃料ガス又は空気極に導入される支燃性ガスのうちの一方の一部をイオンとして移動させることができるイオン伝導性を有する。どのようなイオンを伝導することができるかは特に限定されないが、イオンとしては、例えば、酸素イオン及び水素イオン等が挙げられる。また、上記「燃料極12」は、水素源となる燃料ガスと接触し、SOFCにおける負電極として機能する。更に、上記「空気極13」は、酸素源となる支燃性ガスと接触し、SOFCにおける正電極として機能する。
【0013】
固体電解質層11の形成に用いる材料はSOFCの使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、ZrO2系セラミック、LaGaO3系セラミック、BaCeO3系セラミック、SrCeO3系セラミック、SrZrO3系セラミック及びCaZrO3系セラミック等が挙げられる。これらの材料のうちでは、ZrO2系セラミックが好ましく、Sc、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたZrO2系セラミックが好ましく、Scにより安定化されたZrO2系セラミックが特に好ましい。
尚、この固体電解質層の厚さは電気抵抗と強度とを勘案し、5〜100μm、特に5〜50μm、更に5〜30μmとすることができる。
【0014】
燃料極12の形成に用いる材料もSOFCの使用条件等により適宜選択することができる。この材料としては、例えば、Ni及びFe等の金属と、Sc、Y及び希土類元素のうちの少なくとも1種により安定化されたジルコニア等のZrO2系セラミック、CeO2系セラミック及び酸化マンガン等のセラミックのうちの少なくとも1種との混合物などが挙げられる。また、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni及びFe等の金属が挙げられる。これらの金属は1種のみでもよいし、2種以上の金属の合金でもよい。更に、これらの金属及び/又は合金と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物(サーメットを含む。)が挙げられる。また、Ni及びFe等の金属の酸化物と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物などが挙げられる。これらの材料のうちでは、Ni及びFe等の金属と、上記セラミックの各々の少なくとも1種との混合物が好ましく、NiとScにより安定化されたZrO2系セラミックとの混合物が特に好ましい。
この燃料極の平面形状は特に限定されないが、固体電解質層及び空気極と同じ形状であることが好ましい。また、燃料極と固体電解質層とは各々の全面で積層されていることが好ましい。
【0015】
空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5である。)で表される空気極用材料により形成される。尚、δは酸素過剰量又は酸素欠損量を表し、通常、0≦δ<1、特に0≦δ≦0.1である。
【0016】
AとしてはLaが用いられることが多く、BとしてはSr又はCa、特にSrが用いられることが多い。更に、xは通常0.5≦x≦0.8である。また、CとしてはCo又はNiが用いられることが多く、DとしてはFeとMnとが同様に用いられる。更に、yは通常0.2≦y≦0.4である。このような(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ系複合酸化物としては、例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3、La0.6Sr0.4Co0.2Mn0.8O3、La0.6Sr0.4Ni0.2Fe0.8O3、La0.5Sr0.5FeO3、La0.7Sr0.3MnO3、La0.8Sr0.2MnO3等が挙げられる。
【0017】
この空気極の平面形状は特に限定されないが、固体電解質層及び燃料極と同じ形状であることが好ましい。また、その平面方向の寸法は、固体電解質形燃料電池の構造によっては、固体電解質層及び燃料極と同じにすることもできる。更に、隔離セパレータが固体電解質層の一表面の周縁に接合される場合は、空気極は固体電解質層及び燃料極より小さく形成される。この空気極と固体電解質層とは各々の全面で積層されていることが好ましい。
【0018】
固体電解質形燃料電池において、各々の単セルが有する発電層は、強度の観点から過度に薄層とすることは好ましくない。また、発電性能の観点では固体電解質層を厚くすることは好ましくない。そのため、燃料極支持型とすることができ、この燃料極支持型では、燃料極は固体電解質層の20倍以上の厚さであることが好ましい。20倍未満であると発電層の機械的強度が不十分となる傾向にある。この燃料極の厚さは200〜3000μm、特に500〜2000μmであることが好ましい。200μm未満であると基板として有効に機能せず、3000μmを越えると、体積当たりの発電効率が低下する傾向にある。一方、下記のように空気極支持型とすることもでき、この場合は、燃料極の厚さは、10〜50μm、特に20〜40μmであることが好ましい。この厚さが10〜50μmであれば、電極として十分に機能し、50μmを越えて厚くする必要はない。
【0019】
固体電解質形燃料電池では、空気極を発電層の強度を支持する基板として形成することもできる。空気極支持型である場合は、空気極の厚さは固体電解質層の20倍以上の厚さであることが好ましい。20倍未満であると発電層の機械的強度が不十分となる傾向にある。この空気極の厚さは200〜3000μm、特に500〜2000μmであることが好ましい。200μm未満であると基板として有効に機能せず、3000μmを越えると、体積当たりの発電効率が低下する傾向にある。一方、燃料極支持型である場合は、空気極の厚さは10〜100μm、特に20〜50μmであることが好ましい。10μm未満であると電極として十分に機能しないことがあり、100μmを越えると固体電解質層から剥離することがある。
【0020】
固体電解質形燃料電池は各種の上記「部品」を備え、上記「接合部」(金属部品間を接合する接合部81、及び金属部品とセラミック部品との間を接合する接合部82とがある。)は、前記のように、固体電解質形燃料電池において、固体電解質層11と隔離セパレータ16、18、19との間、及び隔離セパレータ16、18、19、中間セパレータ1441、1442、1443、枠体5、蓋部材15、底部材17等のその他の部品の各々の間を直接又は間接的に接合する部分である。また、少なくとも一部の接合部は上記「金属ロウ材」により形成されており、すべての接合部が金属ロウ材により形成されていることが好ましい。金属ロウ材は耐熱性が高く、良好な発電効率が維持される固体電解質形燃料電池とすることができる。
【0021】
金属ロウ材は特に限定されず、Ni系金属ロウ材(以下、「Ni系ロウ材」という。)及びAg系金属ロウ材(以下、「Ag系ロウ材」という。)等を用いることができる。この金属ロウ材としては、より耐熱性に優れるNi系ロウ材が好ましい。このNi系ロウ材としては、NiとB又はPとを含有し、このNi系ロウ材を100質量%とした場合に、Niの含有量が60質量%以上であるものを用いることができる。このNiの含有量は70質量%以上とすることができ、80質量%以上とすることもできる(Bを含有するときは、通常、95質量%以下であり、Pを含有するときは、通常、85質量%以下である。)。Niの含有量が60質量%以上であれば、十分に耐熱性の高いNi系ロウ材とすることができ、運転温度が800℃程度である場合に、900℃近くに昇温する部分があっても、更には800〜1000℃のより高温で運転させる場合であっても耐えられる固体電解質形燃料電池とすることができる。
【0022】
Ni系ロウ材にはNiの他にB又はPが含有されている。B又はPを含有することで、流動性が向上し、金属部品間及び金属部品とセラミック部品との間を十分に密着させることができ、接合強度をより大きくすることができる。B又はPの含有量は特に限定されないが、金属ロウ材を100質量%とした場合に、Bの場合は1〜5質量%、特に1.5〜4質量%、更に2〜3.5質量%とすることができる。Bの含有量が1〜5質量%であれば、Ni系ロウ材の流動性を十分に高くすることができる。また、Pの場合は5〜15質量%、特に6.5〜13.5質量%、更に8〜12質量%とすることができる。Pの含有量が5〜15質量%であれば、Ni系ロウ材の流動性を十分に高くすることができる。
【0023】
Ni系ロウ材には、Ni及びB又はPの他に更にCrが含有されていてもよい。適量のCrを含有することにより、Ni系ロウ材の耐熱性をより高くすることができる。Crの含有量は特に限定されないが、Ni系ロウ材を100質量%とした場合に、5〜20質量%、特に10〜18質量%、更に12〜16質量%とすることができる。Crの含有量が8〜20質量%であれば、Ni系ロウ材の耐熱性を十分に高くすることができる。
【0024】
また、Ni系ロウ材を用いて金属部品とセラミック部品とを接合する場合、Ni系ロウ材には更にTi及びZrのうちの少なくとも一方が含有されていてもよい。このNi系ロウ材を100質量%とした場合に、Tiのみが含有されるときのTiの含有量、Zrのみが含有されるときのZrの含有量、又はTi及びZrが含有されるときの合計含有量の各々は0.5〜10質量%とすることができ、1〜8質量%とすることが好ましい。これらの含有量が0.5〜10質量%であれば、接合強度を十分に向上させることができる。
【0025】
金属ロウ材としてはAg系ロウ材を用いることもできる。このAg系ロウ材には通常Pdが含有され、AgとPdとの合計を100質量%とした場合に、Pdは2〜10質量%、特に3〜7質量%含有される。Pdの含有量が2〜10質量%であれば、耐酸化性等に優れるAg系ロウ材とすることができ、十分な耐久性を有する接合部を形成することができる。更に、接合時にAg系ロウ材が十分に流動し、接合部のシール性を向上させることができる。
【0026】
Ag系ロウ材には更にCuが含有されていてもよい。Cuが含有されている場合のAg、Pd及びCuの各々の含有量は特に限定されないが、Ag、Pd及びCuの合計を100質量%とした場合に、Agの含有量は45〜65質量%、特に50〜60質量%、Pdの含有量は15〜35質量%、特に20〜30質量%、Cuの含有量は10〜30質量%、特に15〜25質量%であることが好ましい。Cuが含有されている場合、含有されていないAg系ロウ材に比べてより多量のPdを含有していても、十分な流動性を有し、優れたシール性が維持される。また、AgとCuの合計は65質量%以上であることが好ましく、即ち、Pdの含有量が35質量%以下であれば、Ag系ロウ材が十分に流動し、接合部のシール性を向上させることができる。
【0027】
Ag系ロウ材には更にTiが含有されていてもよい。適量のTiを含有することにより、接合温度が比較的低い場合でも、特に大きな接合強度が得られる。このTiの含有量は、Ag、Pd及びTiの合計を100質量%とした場合に、又はCuが含有されているときは、Ag、Pd、Cu及びTiの合計を100質量%とした場合に、0.05〜10質量%であることが好ましく、特に0.05〜8質量%、更に0.05〜6質量%であることがより好ましい。Tiの含有量が0.05〜10質量%であれば、接合雰囲気が酸素分圧の低い雰囲気であっても、実用上、十分な強度を有する接合部を形成することができる。
【0028】
尚、Ni系ロウ材の熱膨張率は、組成にもよるが、(11〜14)×10−6/℃である。一方、Ag系ロウ材の熱膨張率は、通常、(16〜20)×10−6/℃である。更に、金属部品として用いられることが多いステンレス鋼の熱膨張率は(12〜17)×10−6/℃であり、セラミック部品となるZrO2系、CeO2系等のセラミックの熱膨張率は(10〜11.5)×10−6/℃である。このように、Ni系ロウ材の熱膨張率と、ステンレス鋼及びセラミックの各々の熱膨張率との差は、Ag系ロウ材の熱膨張率と、ステンレス鋼及びセラミックのそれぞれの熱膨張率との差より小さい。従って、Ni系ロウ材を用いた場合は、熱応力がより緩和され易く、より良好な接合状態が維持される。
【0029】
Ni系ロウ材及びAg系ロウ材には、上記の各種の金属の他に、接合強度及びガスシール性等が低下しない範囲で他の金属が含有されていてもよい。そのような金属としてはSn、In、Nb等が挙げられる。これらの他の金属は、Ni系ロウ材及びAg系ロウ材の各々を100質量部とした場合に、10質量部以下、特に0.1〜10質量部、更には0.5〜5質量部含有させることができる。
【0030】
接合の際の雰囲気は酸素分圧の低い雰囲気であれば特に限定されず、真空雰囲気、窒素雰囲気及びアルゴン雰囲気等とすることができる。金属ロウ材を用いる場合、接合雰囲気は酸素分圧の低い雰囲気であることが好ましく、そのような接合雰囲気であれば接合強度を大きく向上させることができる。一方、接合雰囲気の酸素分圧は空気極が分解しない程度に低いことが好ましい。接合の際の雰囲気における酸素分圧は特に限定されないが、10〜10−15Pa、特に10〜10−10Paであることが好ましい。本発明の固体電解質形燃料電池は、酸素分圧の低い雰囲気における接合時に分解することのない安定な空気極を備えており、接合雰囲気の酸素分圧が10〜10−15Paである場合に、本発明の作用、効果が特に顕著に奏される。
【0031】
本発明の固体電解質形燃料電池において金属部品としては、燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21及び空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22を備える積層用セパレータ141、空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22を備える上部セパレータ142、燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21を備える下部セパレータ143(図10参照)、一部が隣り合う発電層のそれぞれの固体電解質層11に接合され、且つ一方の発電層の燃料極12に燃料ガスを導入するための流路21と他方の発電層の空気極13に支燃性ガスを導入するための流路22とを形成するための隔離セパレータ16、18、19(図12、13、15、16参照)、積層された複数の単セルの間に介在する中間セパレータ1441、1442、1443(図12〜16参照)、固体電解質形燃料電池の最上面を形成する蓋部材15(図11〜16参照)(この最上部の単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合は、中間セパレータとして機能する。)、及び固体電解質形燃料電池の底面を形成する底部材17(図11〜16参照)(この単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合は、中間セパレータとして機能する。)等が挙げられる。
【0032】
金属部品を構成する金属は特に限定されず、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等が挙げられる。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS434、SUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410、SUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS201、SUS301、SUS305等が挙げられる。更に、ニッケル基合金としては、インコネル600、インコネル718、インコロイ802等が挙げられる。クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(94質量%Cr−5質量%Fe−1質量%Y2O3)等が挙げられる。これらの各種の金属は、それぞれ固体電解質形燃料電池の構造等によって選択することができる。
【0033】
また、セラミック部品としては、固体電解質層11を形成するセラミック及び少なくとも一部の中間セパレータと隔離セパレータとの間に配設される枠体5(図12、13、15、16参照)等が挙げられる。このセラミック部品を構成するセラミックは特に限定されず、前記の固体電解質層の形成に用いられる各種のセラミックが挙げられる。また、枠体として用いられることが多いMgO、MgAl2O4、ZrO2及びAl2O3並びにこれらの混合物等が挙げられる。これらのセラミックは、固体電解質形燃料電池の構造等によって選択することができる。
【0034】
Crを含有するNi系ロウ材を用いて金属部品と金属部品とを接合した場合、各々の金属部品の接合部に近接する部分にCrが偏析し、Cr偏析層9411、9412(実施例の欄の[2]接合層(この接合層は、固体電解質形燃料電池における金属部品間又は金属部品とセラミック部品との間を接合する接合部と同様に金属と金属との間又は金属とセラミックとの間を接合する部分である。)等の組成の評価、における図3及び図4参照)が形成される。これはNi系ロウ材とそれぞれの金属部品との間が十分に密着し、接合強度が大きい良好な接合部が形成されていることを裏付けるものである。尚、各々の金属部品の接合部に「近接」する部分とは、それぞれの金属部品の接合部との界面から厚さ方向に100μmまでの部分を意味する。
【0035】
更に、Ni系ロウ材を用いて金属部品とセラミック部品とを接合した場合、接合部及び接合部とセラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、金属ロウ材に含有される金属及び金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出し、金属酸化物析出部942が形成される(実施例の欄の[2]接合層等の組成の評価、における図4及び図6参照、尚、図4、6では、金属酸化物析出部942は接合層93の内部及び接合層93とセラミック焼結体92との界面近傍に析出しているが、金属酸化物析出部942は主に接合層93の内部のみに析出することもあり、主に界面近傍のみに析出することもある。)。この金属酸化物析出部942は層状に形成されることもあり、接合部の内部及び界面近傍の各々に部分的に形成されることもある。これはNi系ロウ材とセラミック部品との間が十分に密着し、接合強度が大きい良好な接合部が形成されていることを裏付けるものである。尚、接合部とセラミック部品との「界面近傍」とは、接合部とセラミック部品との界面から接合部及びセラミック部品の各々の厚さ方向に50μmまでの部分を意味する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]空気極用材料の評価
実験例1〜12及び比較実験例1〜2
固体電解質形燃料電池では、固体電解質層の一面に空気極を形成する際の界面での反応を防止するため、通常、Sm0.2Ce0.8O2等のサマリウムドープセリア(SDC)からなる反応防止層が設けられる。これを模して、直径20mm、厚さ500μmの円盤状のSDC焼結体を作製し、その後、表面を研磨して平滑にし、この平滑面の中心部に表1に記載の空気極用材料を100質量部、バインダとしてエチルセルロースを5質量部及び溶剤としてブチルカルビトールを30質量部含有するセラミックスラリーを調製し、このスラリーをスクリーン印刷して塗膜を形成した。次いで、大気雰囲気下、表1に記載の温度で60分間加熱して焼き付け、直径15mm、厚さ30μmの皮膜(固体電解質形燃料電池における空気極に相当する。)を形成した。その後、ロウ付け時の熱処理と同様の真空雰囲気(圧力1Pa以下)において1100℃で30分間熱処理した。次いで、空気極用材料及び皮膜の各々の結晶相をX線回折により確認した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の結果によれば、前記の一般式で表される空気極用材料を用いた実験例1〜12では、焼き付け後の皮膜の結晶相はペロブスカイト酸化物単相であり、真空雰囲気において加熱しても安定であることが分かる。一方、比較実験例1、2では、一部が分解していることが確認された。
【0039】
[2]接合層等の組成の評価
(1)被接合材及び金属ロウ材
被接合材としては、固体電解質形燃料電池における金属部品として用いられることが多いSUS430の成形体91と、セラミック部品として用いられることが多い8質量%のイットリアにより安定化されたジルコニア(YSZ)焼結体92とを用いた。SUS430成形体91は15×15×20mmの寸法のものを使用し、15×15mmの面を接合面として接合体9の作製に用いた。また、YSZ焼結体92は常法により原料粉末を成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、15×15mmの面を接合面として接合体9の作製に用いた。金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものであり、(a)89質量%のNiと11質量%のPとを含有するもの、(b)82質量%のNi、15質量%のCr及び3質量%のBを含有するもの、(c)95質量%のAgと5質量%のPdとを含有するもの、及び(d)54質量%のAg、25質量%のPd及び21質量%のCuを含有するもの、を使用して印刷し、その後、熱処理して接合層93を形成した。
【0040】
(2)ロウ付け
SUS430成形体91の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面にペースト状の金属ロウ材(a)〜(d)の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成し、この塗膜上にSUS430成形体91又はYSZ焼結体92を各々その15×15mmの面が接するように載置した。そして、それぞれの部材が各々の接触面で相互にずれないように、上部のSUS430成形体91又はYSZ焼結体92の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、各々のロウ材に最適な温度、(a)1000℃、(b)1100℃、(c)1050℃、(d)950℃で30分保持して接合し、接合体9を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。
【0041】
(3)接合層等の組成
上記(2)で作製した接合体9を用いて、金属ロウ材(a)及び(d)の場合は、それぞれSUS430成形体91間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。また、金属ロウ材(b)及び(c)の場合は、それぞれSUS430成形体91間及びSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。更に、金属ロウ材(a)を用いた接合体では、接合体を800℃で100時間加熱し、その後、SUS430成形体91間の接合層93等の断面をX線マイクロアナライザーにより観察した。
【0042】
以下、各々の接合層等の組成を断面の模式図である図1〜7により説明する。
金属ロウ材(a)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図1によれば、接合層93の厚さ方向の中心部にPが偏析して形成されたP偏析層943が確認された。この接合体9を800℃で100時間加熱した場合は、図2のように、(1)各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるNiが拡散して形成されたNi拡散層9441、9442、(2)接合層93のそれぞれのSUS430成形体91との界面側に、SUS430に含有されるFeとCrとが拡散して形成されたFe/Cr拡散層9451、9452が形成され、且つ(3)接合層93、Ni拡散層9441、9442及びFe/Cr拡散層9451、9452に、金属ロウ材に含有されるPが偏析してなるP偏析物946が散在しているのが確認された。
【0043】
また、金属ロウ材(b)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図3によれば、(1)接合層93のそれぞれのSUS430成形体91との界面側に、SUS430に含有されるFeが拡散して形成されたFe拡散層9471、9472、及び(2)各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるCrが偏析して形成されたCr偏析層9411、9412が確認された。また、金属ロウ材(b)を用いたときのSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面の模式図である図4によれば、(1)接合層93のSUS430成形体91との界面側には同様にFe拡散層9471が形成され、(2)接合層93の内部及びYSZ焼結体92と接合層93との界面近傍にはSUS430及び金属ロウ材に含有されているCrの酸化物が析出して形成された金属酸化物析出部942、並びに(3)SUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるCrが偏析して形成されたCr偏析層9411が確認された。
【0044】
更に、金属ロウ材(c)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図5によれば、各々のSUS430成形体91の接合層93との界面側に、金属ロウ材に含有されるPdが拡散して形成されたPd拡散層9481、9482が確認された。また、金属ロウ材(c)を用いたときのSUS430成形体91とYSZ焼結体92との間の接合層93等の断面の模式図である図6によれば、(1)SUS430成形体91の接合層93との界面側には同様にPd拡散層9481が形成され、(2)YSZ焼結体92と接合層93との界面近傍にはSUS430に含有されているCrの酸化物が析出して形成された金属酸化物析出部942が確認された。更に、金属ロウ材(d)を用いたときのSUS430成形体91間の接合層93等の断面の模式図である図7によれば、接合層93の各々のSUS430成形体91との界面側に、FeとCuとPdとが反応して生成したFe−Cu−Pd反応層9491、9492が確認された。
【0045】
[3]SUS430と、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体との接合強度の評価
実験例13〜30及び比較実験例3〜4
表2に記載の金属ロウ材により、セパレータ等として用いられることが多い金属と、SOFCの固体電解質層として使用されることが多いYSZ焼結体、又は枠体として用いられることが多いMgOとMgAl2O4との混合物(MgOとMgAl2O4との合計を100質量%とした場合に、90質量%のMgOと10質量%のMgAl2O4とを含有する。)とを接合し、その接合強度を評価した。金属としてはフェライト系ステンレス鋼であるSUS430を用いた。
【0046】
(1)被接合材及び金属ロウ材
SUS430としては厚さ0.3mmのシートを使用し、15×15mmの大きさに切断して試験片の作製に用いた。また、YSZ焼結体は常法により原料粉末を成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、これを試験片の作製に用いた。更に、MgO−MgAl2O4焼結体の原料粉末としては、90質量%のMgO粉末と10質量%のMgAl2O4粉末との混合粉末を使用し、常法により成形し、焼成して、15×15×20mmの十分に緻密化された直方体の焼結体とし、これを試験片の作製に用いた。金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものを試験片の作製に用いた。
【0047】
(2)ロウ付け(接合体の作製)
SUS430シートの両面に表2に記載のペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。一方、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面に、両面に塗膜が形成されたSUS430シートの一面を載置し、このSUS430シートの他面に他のYSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体を各々その15×15mmの面が接するように載置した。そして、各々の部材がそれぞれの接触面で相互にずれないように、上部のYSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、表2に記載の温度で30分保持して接合し、接合体を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。また、比較実験例3、4では、SUS430の、YSZ焼結体又はMgO−MgAl2O4焼結体と接合されることとなる両面に結晶化ガラスペーストを塗布し、大気雰囲気の熱処理炉に収容し、1000℃で1時間保持して熱処理した他は、実験例と同様にして接合体を作製した。尚、この比較実験例3、4では昇降温速度は200℃/時間とした。
【0048】
(3)接合強度の測定
上記(2)において作製した接合体を、各々の接合体のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの試験片とし、4点曲げ法により接合強度を測定した。結果を4本の試験片の平均値として表2に併記する。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果によれば、実験例13〜30では接合強度は71〜221MPaであり、比較実験例3〜4の接合強度28〜31MPaに比べて十分に大きいことが分かる。また、金属ロウ材が0.5〜10.0質量%のTiを含有する実験例15〜18では、接合強度が136〜201MPaとより大きく、金属ロウ材が2.0〜5.0質量%のTiを含有する実験例16〜17では、接合強度が197〜201MPaと特に大きい。更に、金属ロウ材が2.0〜5.0質量%のZrを含有する実験例20〜21でも、Tiを含有するときと同様に接合強度が162〜186MPaと大きく向上している。また、実験例22〜24によれば、YSZ焼結体の場合もMgO−MgAl2O4焼結体と同様に金属ロウ材にTiを含有させることで接合強度がより向上している。更に、Ag系ロウ材を用いた実験例25〜30でも、2.0〜5.0質量%のTiを含有させることで接合強度がより向上している。
【0051】
[4]耐熱性の評価
実験例31〜35
表3に記載の金属ロウ材により、SOFCのセパレータ等として用いられることが多い金属間を接合し、その接合強度を評価した。金属としてはフェライト系ステンレス鋼であるSUS430の成形体及びシートを用いた。また、接合体を大気雰囲気において800℃で1000時間加熱した場合に接合層に発生する亀裂の表面からの距離により金属ロウ材の耐熱性(表3では「劣化距離」と表す。)を評価した。
【0052】
(1)被接合材、金属ロウ材及びロウ付け
SUS430成形体は15×15×20mmの寸法のもの、及びSUS430シートは厚さ0.3mmのものを試験片の作製に用いた。更に、金属ロウ材としては、250メッシュ通過の粉末をペースト化したものを使用した。また、下記の方法でロウ付けした。
SUS430成形体の15×15mmの面が上面になるように縦置きし、この面にペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。その後、この塗膜上に15×15×0.3mmのSUS430シートを載置し、このシート上に更にペースト状の金属ロウ材の各々をスクリーン印刷してそれぞれ厚さ50μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜上にSUS430成形体をその15×15mmの面が接するように載置した。そして、各々の部材がそれぞれの接触面で相互にずれないように、上部のSUS430成形体の上面に質量500gのタングステンを主成分(含有量;95質量%)とする錘を載せ、これを雰囲気制御熱処理炉に収容し、真空雰囲気下(圧力1Pa以下)、表3に記載の温度で30分保持して接合し、接合体9(図8参照)を作製した。昇降温速度は500℃/時間とした。
【0053】
(2)接合強度の測定
上記(1)において作製した接合体9を、各々の接合体のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの試験片とし、4点曲げ法により接合強度を測定した。結果を4本の試験片の平均値として表3に併記する。
【0054】
(3)劣化距離の評価
上記(1)と同様にして作製した接合体9(図8参照)を、各々の接合体9のそれぞれの接合面に対して垂直方向に切断し、7.5×7.5×40mmの寸法の4本の棒状体とした。その後、JIS R 1624に従って棒状体の側面を研磨し、6×6×40mmの棒状体とした。次いで、この棒状体を熱処理炉に収容し、大気雰囲気において800℃で1000時間加熱した。その後、それぞれの棒状体を、容器に収容された液状のエポキシ樹脂に浸漬し、次いで、エポキシ樹脂を硬化させて各々の棒状体の全周面をエポキシ樹脂により被覆した。その後、それぞれの棒状体を長さ方向に切断し、断面を鏡面研磨し、この研磨面を目盛り付きの接眼レンズを備える光学顕微鏡により観察し、接合層93の端部からの亀裂の長さ(劣化距離)を測定した(図9参照)。結果を表3に併記する。
【0055】
【表3】
【0056】
表3の結果によれば、実験例31〜33のNi系ロウ材及び実験例34〜35のAg系ロウ材のいずれの場合も接合強度は十分であった。一方、劣化距離は、実験例31〜33のNi系ロウ材では15〜30μm、実験例34〜35のAg系ロウ材では105〜330μmであって大差があった。このようにNi系ロウ材は特に高い耐熱性を有しており、高出力が期待される800℃以上の運転温度においても良好な発電効率が維持される。
【0057】
[5]固体電解質形燃料電池
実施例1(燃料ガス及び支燃性ガスの流路を有するセパレータを備え、2個の発電層が積層された燃料電池)
(1)燃料電池の構造
2個の発電層が積層された平板型SOFCスタック101の断面を図10に模式的に示す。
この平板型SOFCスタック101では、2個の発電層が積層用セパレータ141を介して積層された構造を備える。各々の発電層は、Scにより安定化されたジルコニア(ScSZ)からなり、厚さが200μmの固体電解質層11と、その下面に設けられ、NiとScSZとからなり、厚さが30μmの燃料極12と、上面に設けられ、La0.8Sr0.2MnO3からなり、厚さが30μmの空気極13とを有する。固体電解質層11、燃料極12及び空気極13は、いずれも平面形状が正方形であり、固体電解質層11は燃料極12及び空気極13より面積が大きく、燃料極12と空気極13は同じ大きさであって、対向した位置に設けられている。
【0058】
2個の発電層は、SUS430からなる積層用セパレータ141を介して積層されている。この積層用セパレータ141の上面には燃料ガスの流路21が、下面には支燃性ガスの流路22が形成されている。また、上層の発電層の上側には、SUS430からなる上部セパレータ142が配設されており、その下面には支燃性ガスの流路22が形成されている。更に、下層の発電層の下側には、SUS430からなる下部セパレータ143が配設されており、その上面には燃料ガスの流路21が形成されている。
【0059】
また、上層の発電層の固体電解質層11の周縁と、上部セパレータ142及び積層用セパレータ141の各々の周縁、並びに下層の発電層の固体電解質層11の周縁と、下部セパレータ143及び積層用セパレータ141の各々の周縁は、それぞれ接合され、接合部82が形成されている。金属ロウ材としては、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合した。
【0060】
(2)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池においては、2個の発電層の各々の固体電解質層が、YSZの2倍ほどのイオン導電率を有するScSZにより形成されており、750℃程度の作動温度でも安定して電流を取り出すことができる。そのため、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼からなるセパレータを使用することができ、固体電解質層とセパレータとを上記Ni系ロウ材により強固に接合することができる。そして、各々の接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0061】
実施例2(積層された2個の単セルを有し、燃料極を基板とする外部マニホールド型燃料電池)
(1)燃料電池の構造
(a)発電層及び各種セパレータ
2個の発電層が積層された実施例1の燃料電池とは異なる他の構造を備える平板型SOFCスタック102の外観を図11に斜視図により示す。また、図12は、図11におけるA−A断面の模式図であり、図13は、図11におけるB−B断面の模式図である。
この平板型SOFCスタック102では、2個の単セルが中間セパレータ1441を介して積層されている。各々の単セルが備える発電層は、それぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面形状が正方形であり、厚さが1000μmの燃料極12を基板としている。この燃料極12の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状、寸法が燃料極12と同じであり、厚さが30μmの固体電解質層11が形成されている。更に、この固体電解質層11の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状が固体電解質層11と同じであり、寸法が固体電解質層11より小さく、厚さが30μmの空気極13が形成されている。
【0062】
上部の単セルは、中間セパレータ1441の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13、インコネル繊維メッシュ層4及び蓋部材15をこの順に備える。また、インコネル繊維メッシュ層4の周面を取り囲み、下面が固体電解質層11と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5を介して蓋部材15と接合されている上部単セル用隔離セパレータ16を有する。一方、下部の単セルは、底部材17の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、インコネル繊維メッシュ層4の周面を取り囲み、下面が固体電解質層11と接合され、上面が枠体5を介して中間セパレータ1441と接合されている下部単セル用隔離セパレータ18を有する。
【0063】
蓋部材15、上部単セル用隔離セパレータ16、中間セパレータ1441、下部単セル用隔離セパレータ18及び底部材17は、いずれもSUS430により形成されている。更に、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441、及び下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17は、それぞれ上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部81が形成されている。また、蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16、及び中間セパレータ1441と下部単セル用隔離セパレータ18は、それぞれ枠体5を介して接合されており、この場合は、それぞれ上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0064】
(b)燃料ガス導入管又は排出管、及び支燃性ガス導入管又は排出管
上部単セルにおいて、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441との間に形成された空間には、上部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図12参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部とは対角線方向の位置には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図13参照)。更に、上部単セル用隔離セパレータ16の一方の側面側には、上部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための貫通孔161が設けられ(図12参照)、対向する他方の側面側の対角線方向には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための貫通孔162が設けられている(図13参照)。これらの貫通孔161、162は、それぞれ蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16との間に形成された空間に連通されており、各々の空間には、支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73(図12参照)、又は排気するための支燃性ガス排出管74(図13参照)が開口している。
【0065】
一方、下部単セルにおいて、下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17との間に形成された空間には下部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図12参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部とは対角線方向の位置には、下部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図13参照)。更に、下単セル用隔離セパレータ18の一方の側面側には、下部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための貫通孔181が設けられ(図12参照)、対向する他方の側面側の対角線方向には、下部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための貫通孔182が設けられている(図13参照)。これらの貫通孔181、182は、それぞれ中間セパレータ1441と下部単セル用隔離セパレータ18との間に形成された空間に連通されており、各々の空間には、支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73(図12参照)、又は排出するための支燃性ガス排出管74(図13参照)が開口している。
尚、この実施例2の燃料電池では、上部単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合、蓋部材が中間セパレータとして機能することになる。また、下部単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合、底部材が中間セパレータとして機能することになる。
【0066】
また、上部単セル及び下部単セルの各々に燃料ガス又は支燃性ガスを導入し、又は排出するためのそれぞれの管は、本管に側管が取り付けられた構造であり、上部発電層及び下部発電層に燃料ガス又は支燃性ガスが同時に導入され、且つ排出される。更に、燃料ガス導入管と燃料ガス排出管、及び支燃性ガス導入管と支燃性ガス排出管は、この実施例2の場合は、燃料ガス及び支燃性ガスがそれぞれ対角線方向に流通するような位置に取り付けられる。これにより、上部発電層及び下部発電層の各々の燃料極と燃料ガス、及び空気極と支燃性ガスをそれぞれ効率よく接触させることができる。
【0067】
(2)燃料電池からの電力の取り出し
この平板型SOFCスタックでは、上部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1441と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1441は、インコネル繊維メッシュ4を介して下部単セルの空気極13と電気的に接続されている。このように上部単セルと下部単セルは直列に接続されている。また、スタックを所定の作動温度に昇温させ、燃料ガス導入管71に水素等の燃料ガスを導入して燃料極と接触させ、支燃性ガス導入管73に空気等の支燃性ガスを導入して空気極と接触させることにより、燃料極と空気極との間に起電力が生じ、この電力を外部に取り出すことにより発電装置として機能させることができる。電力は、燃料極側においては下部単セルの下面に配設されたニッケルフェルト3を介して底部材17に取り出され、空気極側においては上部単セルの上面に配設されたインコネル繊維メッシュ4を介して蓋部材15に取り出され、蓋部材15と底部材17との間でスタック全体の電力を取り出すことができる。
【0068】
(3)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池では、2個の発電層がそれぞれ燃料極支持型であり、この構造の場合、750℃程度の作動温度でも電流を取り出すことができる。そのため、蓋部材、各種セパレータ及び底部材を、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼により形成することができる。上部単セル及び下部単セルの各々において、固体電解質層と隔離セパレータとは、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0069】
更に、上部単セル用隔離セパレータ16と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と蓋部材15、並びに下部単セル用隔離セパレータ18と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と中間セパレータ1441も、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。また、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1441、及び下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17は、上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、それぞれの接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0070】
実施例3(積層された3個の単セルを有し、燃料極を基板とする内部マニホールド型燃料電池)
(1)燃料電池の構造
(a)発電層及び各種セパレータ
3個の発電層が積層された、実施例1及び2の燃料電池とは更に異なる他の構造を備える平板型SOFCスタック103の外観を図14に斜視図により示す。また、図15は、図14におけるA−A断面の模式図であり、図16は、図14におけるB−B断面の模式図である。
この平板型SOFCスタック103では、3個の単セルが中間セパレータ1442、1443を介して積層されている。各々の単セルが備える発電層は、それぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面形状が正方形であり、厚さが1000μmの燃料極12を基板としている。この燃料極12の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状、寸法が燃料極12と同じであり、厚さが30μmの固体電解質層11が形成されている。更に、この固体電解質層11の表面にはそれぞれ実施例1の燃料電池と同じ材質からなり、平面方向の形状が固体電解質層11と同じであり、寸法が固体電解質層11より小さく、厚さが30μmの空気極13が形成されている。
【0071】
上部の単セルは、中間セパレータ1442の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13、インコネル繊維メッシュ層4及び蓋部材15をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体62と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5及び金属製枠体61を介して蓋部材15と接合されている上部単セル用隔離セパレータ16を有する。
中間の単セルは、中間セパレータ1443の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体64と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO−MgAl2O4焼結体からなる枠体5及び金属製枠体63を介して中間セパレータ1442と接合されている中間単セル用隔離セパレータ19を有する。
下部の単セルは、底部材17の上面に配設されたニッケルフェルト層3、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及びインコネル繊維メッシュ層4をこの順に備える。また、下面が固体電解質層11及び金属製枠体66と接合され、上面が枠体5及び金属製枠体65を介して中間セパレータ1443と接合されている下部単セル用隔離セパレータ18を有する。
【0072】
蓋部材15、上部単セル用隔離セパレータ16、下部単セル用隔離セパレータ18、中間単セル用隔離セパレータ19、中間セパレータ1442、1443、金属製枠体61、62、63、64、65、66及び底部材17は、いずれもSUS430により形成されている。更に、蓋部材15と金属製枠体61、上部単セル用隔離セパレータ16と金属製枠体62、金属製枠体62と中間セパレータ1442、中間セパレータ1442と金属製枠体63、中間単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体64、金属製枠体64と中間セパレータ1443、中間セパレータ1443と金属製枠体65、下部単セル用隔離セパレータ18と金属製枠体66、及び金属製枠体66と底部材17、はそれぞれ上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部81が形成されている。また、金属製枠体61と上部単セル用隔離セパレータ16、金属製枠体63と中間単セル用隔離セパレータ19、及び金属製枠体65と下部単セル用隔離セパレータ18、はそれぞれ枠体5を介して接合されており、この場合は、それぞれ上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0073】
(b)燃料ガス導入管又は排出管、及び支燃性ガス導入管又は排出管
上部単セルにおいて、上部単セル用隔離セパレータ16と中間セパレータ1442との間に形成された空間には、上部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。更に、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。また、蓋部材15と上部単セル用隔離セパレータ16との間に形成された空間には、上部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。更に、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
【0074】
また、中間部単セルにおいて、中間部単セル用隔離セパレータ19と中間セパレータ1443との間に形成された空間には、中間部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。更に、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、上部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。また、中間セパレータ1442と中間部単セル用隔離セパレータ19との間に形成された空間には、中間部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。更に、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、上部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
【0075】
更に、下部単セルにおいて、下部単セル用隔離セパレータ18と底部材17との間に形成された空間には、下部単セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管71が開口している(図15参照)。また、この空間の燃料ガス導入管71の開口部と対向する側には、下部単セルの燃料極12から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管72が開口している(図15参照)。更に、中間セパレータ1443と下部単セル用隔離セパレータ18との間に形成された空間には、下部単セルの空気極13に支燃性ガスを導入するための支燃性ガス導入管73が開口している(図16参照)。また、この空間の支燃性ガス導入管73の開口部と対向する側には、下部単セルの空気極13から支燃性ガスを排出するための支燃性ガス排出管74が開口している(図16参照)。
尚、この実施例3の燃料電池では、上部単セルの上面に更に他の単セルが積層された場合、蓋部材が中間セパレータとして機能することになる。更に、下部単セルの下面に更に他の単セルが積層された場合、底部材が中間セパレータとして機能することになる。
【0076】
また、上部単セル、中間部単セル及び下部単セルの各々に燃料ガス又は支燃性ガスを導入し、又は排出するためのそれぞれの管は、本管に側管が取り付けられた構造であり、上部発電層、中間部発電層及び下部発電層に燃料ガス又は支燃性ガスが同時に導入され、且つ排出される。更に、燃料ガス導入管と燃料ガス排出管、及び支燃性ガス導入管と支燃性ガス排出管は、この実施例5の場合は、燃料ガス及び支燃性ガスがそれぞれ対向方向に流通するような位置に取り付けられている。これにより、上部発電層、中間部発電層及び下部発電層の各々の燃料極と燃料ガス、及び空気極と支燃性ガスをそれぞれ効率よく接触させることができる。
【0077】
(2)燃料電池からの電力の取り出し
この平板型SOFCスタックでは、上部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1442と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1442は、インコネル繊維メッシュ4を介して中間部単セルの空気極13と電気的に接続されている。更に、中間部単セルの燃料極12は、ニッケルフェルト3を介して中間セパレータ1443と電気的に接続されている。また、中間セパレータ1443は、インコネル繊維メッシュ4を介して下部単セルの空気極13と電気的に接続されている。このように上部単セル、中間部単セル及び下部単セルは各々直列に接続されている。また、スタックを所定の作動温度に昇温させ、燃料ガス導入管71に水素等の燃料ガスを導入して燃料極12と接触させ、支燃性ガス導入管73に空気等の支燃性ガスを導入して空気極13と接触させることにより、燃料極12と空気極13との間に起電力が生じ、この電力を外部に取り出すことにより発電装置として機能させることができる。電力は、燃料極側においては下部単セルの下面に配設されたニッケルフェルト3を介して底部材17に取り出され、空気極側においては上部単セルの上面に配設されたインコネル繊維メッシュ4を介して蓋部材15に取り出され、蓋部材15と底部材17との間でスタック全体の電力を取り出すことができる。
【0078】
(3)燃料電池の作用
この固体電解質形燃料電池では、3個の発電層がそれぞれ燃料極支持型であり、この構造の場合、750℃程度の作動温度でも電流を取り出すことができる。そのため、蓋部材、各種セパレータ、金属製枠体及び底部材を、セラミックではなくSUS430等のステンレス鋼により形成することができる。上部単セル、中間部単セル及び下部単セルのそれぞれにおいて、固体電解質層と隔離セパレータとは、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。
【0079】
更に、上部単セル用隔離セパレータ16と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体61、中間部単セル用隔離セパレータ19と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体63、並びに下部単セル用隔離セパレータ18と、絶縁性セラミックからなる枠体5の一面及び枠体5の他面と金属製枠体65も、上記[2]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例16のNi系ロウ材を使用し、実験例16と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、接合部82が形成されている。また、蓋部材15と金属製枠体61、上部単セル用隔離セパレータ16と金属製枠体62、金属製枠体62と中間セパレータ1442、中間セパレータ1442と金属製枠体63、中間部単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体64、金属製枠体64と中間セパレータ1443、中間セパレータ1443と金属製枠体65、下部単セル用隔離セパレータ19と金属製枠体66、及び金属製枠体66と底部材17は、上記[4]に記載の特定の金属ロウ材のうちの実験例31のNi系ロウ材を使用し、実験例31と同様に真空雰囲気下、1100℃で接合され、それぞれの接合部においては圧縮応力が残留しているものと考えられ、種々の外力に耐えられる強靭なスタック構造を形成することができる。
【0080】
また、実施例1、実施例2及び実施例3の固体電解質形燃料電池を用いて発電させる場合、燃料極側には燃料ガスを導入し、空気極側には支燃性ガスを導入する。燃料ガスとしては、水素、水素源となる炭化水素、水素と炭化水素との混合ガス、及びこれらのガスを所定温度の水中を通過させ加湿した燃料ガス、これらのガスに水蒸気を混合させた燃料ガス等が挙げられる。炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス化ガス等が挙げられる。更に、メタン、エタン、プロパン、ブタン及びペンタン等の炭素数が1〜10、好ましくは1〜7、より好ましくは1〜4の飽和炭化水素、並びにエチレン及びプロピレン等の不飽和炭化水素を主成分とするものが好ましく、飽和炭化水素を主成分とするものが更に好ましい。これらの燃料ガスは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。また、50体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
【0081】
支燃性ガスとしては、酸素と他の気体との混合ガス等が挙げられる。また、この混合ガスには80体積%以下の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていてもよい。これらの支燃性ガスのうちでは安全であって、且つ安価であるため空気(約80体積%の窒素が含まれている。)が好ましい。
【0082】
尚、本発明では上記の実施例に限られず、目的、用途等によって本発明の範囲内において種々変更した実施例とすることができる。例えば、発電層等の平面形状は、長方形、円形及び楕円形等とすることができ、同様の平面形状を有する固体電解質形燃料電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】Ni系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図2】Ni系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合し、800℃で100時間加熱した後の接合部等の断面を示す模式図である。
【図3】Crを含有するNi系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図4】Crを含有するNi系ロウ材を用いてSUS430成形体とYSZ焼結体とを接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図5】Ag系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図6】Ag系ロウ材を用いてSUS430成形体とYSZ焼結体とを接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図7】Cuを含有するAg系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した場合の接合部等の断面を示す模式図である。
【図8】Ni系ロウ材又はAg系ロウ材を用いてSUS430成形体間を接合した接合体の断面を示す模式図である。
【図9】図8の接合体を800℃で1000時間加熱した後の断面を示す模式図である。
【図10】実施例1の固体電解質形燃料電池101の断面を示す模式図である。
【図11】実施例2の固体電解質形燃料電池102の外観を示す斜視図である。
【図12】図11の固体電解質形燃料電池102のA−A断面を示す模式図である。
【図13】図11の固体電解質形燃料電池102のB−B断面を示す模式図である。
【図14】実施例3の固体電解質形燃料電池103を示す斜視図である。
【図15】図14の固体電解質形燃料電池103のA−A断面を示す模式図である。
【図16】図14の固体電解質形燃料電池103のB−B断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0084】
101、102、103;平板型SOFCスタック、11;固体電解質層、12;燃料極、13;空気極、141;積層用セパレータ、142;上部セパレータ、143;下部セパレータ、1441、1442、1443;中間セパレータ、15;蓋部材、16;上部単セル用隔離セパレータ、161、162;貫通孔、17;底部材、18;下部単セル用隔離セパレータ、181、182;貫通孔、19;中間単セル用隔離セパレータ、21;燃料ガスの流路、22;支燃性ガスの流路、3;ニッケルフェルト層、4;インコネル繊維メッシュ層、5;枠体、61、62、63、64、65、66;金属製枠体、71;燃料ガス導入管、72;燃料ガス排気管、73;支燃性ガス導入管、74;支燃性ガス排気管、81;金属部品間の接合部、82;金属部品とセラミック部品との間の接合部、9;接合体、91;金属シート又は金属成形体、92;セラミック焼結体、93;接合層、931;接合層に発生する亀裂、9411、9412;Cr偏析層、942;金属酸化物析出部、943;P偏析層、9441、9442;Ni拡散層、9451、9452;Fe/Cr拡散層、946;P偏析物、9471、9472;Fe拡散層、9481、9482;Pd拡散層、9491、9492;Fe−Cu−Pd反応層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層11と、該固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、該固体電解質層11の他面に設けられた空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備える固体電解質形燃料電池において、
該空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦δ<1である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の該接合部は金属ロウ材により形成されていることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
【請求項2】
上記金属ロウ材はNiとB又はPとを含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Niの含有量は60質量%以上である請求項1に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項3】
上記金属ロウ材は更にCrを含有する請求項2に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項4】
上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、上記金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Tiのみを含有する場合の該Tiの含有量、該Zrのみを含有する場合の該Zrの含有量、又は該Ti及び該Zrを含有する場合の合計含有量は各々0.5〜10質量%である請求項2又は3に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項5】
上記接合部は、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、該一の金属部品及び該他の金属部品の各々の該接合部に近接する部分にCrが偏析している請求項3又は4に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項6】
上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、該接合部及び該接合部と該セラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、上記金属ロウ材に含有される金属及び該金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出している請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項7】
上記接合部は、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項1】
固体電解質層11と、該固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、該固体電解質層11の他面に設けられた空気極13と、部品間の少なくとも一部がロウ付けされてなる接合部とを備える固体電解質形燃料電池において、
該空気極13は、一般式(AxB1−x)(CyD1−y)O3−δ(但し、AはLa、Y、Sm、Gd、Pr及びCaのうちの少なくとも1種、BはSr、Ba及びCaのうちの少なくとも1種、CはMn、Co、Ni及びCeのうちの少なくとも1種、DはFe及びMnのうちの少なくとも一方であり、0.4≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦δ<1である。)で表される空気極用材料からなり、少なくとも一部の該接合部は金属ロウ材により形成されていることを特徴とする固体電解質形燃料電池。
【請求項2】
上記金属ロウ材はNiとB又はPとを含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Niの含有量は60質量%以上である請求項1に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項3】
上記金属ロウ材は更にCrを含有する請求項2に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項4】
上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、上記金属ロウ材は更にTi及びZrのうちの少なくとも一方を含有し、該金属ロウ材を100質量%とした場合に、該Tiのみを含有する場合の該Tiの含有量、該Zrのみを含有する場合の該Zrの含有量、又は該Ti及び該Zrを含有する場合の合計含有量は各々0.5〜10質量%である請求項2又は3に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項5】
上記接合部は、一の金属部品と他の金属部品とを接合しており、該一の金属部品及び該他の金属部品の各々の該接合部に近接する部分にCrが偏析している請求項3又は4に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項6】
上記接合部は、金属部品とセラミック部品とを接合しており、該接合部及び該接合部と該セラミック部品との界面近傍のうちの少なくとも一方に、上記金属ロウ材に含有される金属及び該金属部品に含有される金属のうちの少なくとも1種の金属の酸化物が析出している請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【請求項7】
上記接合部は、酸素分圧が10〜10−15Paの雰囲気において形成された請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の固体電解質形燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−24436(P2006−24436A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201134(P2004−201134)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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