説明

固体電解質用原料粉体、固体電解質、固体酸化物型燃料電池、並びに、固体電解質用原料粉体の製造方法

【課題】 耐還元性の改善とともに導電性の低下が抑制され、電極性能への悪影響も少ない固体電解質を低コストで作製可能なセリア系の固体電解質用原料粉体、当該セリア系の固体電解質用原料粉体を用いた固体電解質及び固体酸化物型燃料電池を提供する。
【解決手段】 セリア系電解質材料CeOの粉体に対して当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料CaOを混合しながら機械的力を加えて、前記セリア系電解質材料の粉体粒子の表面に前記低電子伝導相形成材料を複合化させた固体電解質用原料粉体、および、当該固体電解質用原料粉体を焼結して作製した固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質用原料粉体、当該固体電解質用原料粉体を用いて作製した固体電解質、当該固体電解質を用いた固体酸化物型燃料電池、並びに、当該固体電解質用原料粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン導電体であるセリア系電解質は低温条件においても比較的高い酸素イオン伝導性を示すので、低温作動型の固体酸化物型燃料電池(以下、適宜、SOFCと略す)用の電解質として期待されている。しかし、セリア系電解質材料は還元雰囲気で還元されて電子伝導性を示すことから、還元条件である燃料電池の作動雰囲気では酸素イオン輸率が低下し、電池性能(出力電圧)が低下する欠点を有している。
【0003】
そこで、従来、セリア系電解質の酸素イオン輸率向上のため、還元雰囲気であるSOFCの燃料極側のセリア系電解質の表面に、安定化ジルコニアなどの酸素イオン輸率が高く耐還元性の強い層(電子伝導の阻止層)を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、耐還元性の強いジルコニア系等の酸素イオン伝導体の薄層で表面が覆われたセリア系電解質原料粉体を成形及び焼結して、SOFC用の固体電解質を作製する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許3218555号(特開平9−82343号)公報
【特許文献2】特開平11−214019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のうち、特許文献1においては、セリア系電解質に比べて導電率の低い安定化ジルコニアなどの層を数ミクロンオーダーの膜として形成する必要があることから、電解質全体としての導電率が大きく低下し、同時に、燃料極近傍に導電率の低い層(安定化ジルコニア等)が形成されることで電極反応が抑制されて電極性能が低下するため、セリア系電解質の本来の性能が十分に発揮されているとはいえない。
【0006】
なお、特許文献2のセリア系電解質原料粉体では、表面を覆う酸素イオン伝導体自体で耐還元性を改善し、電子伝導を抑制して輸率を向上させている。そのため、ジルコニア系等の酸素イオン伝導体で覆われていないセリア系電解質原料粉体の表面同士が接触した状態で焼結等されて耐還元性能が低下するのを避ける必要があり、例えばゾルゲル法等の湿式法を用いてセリア系電解質原料粉体の粒子表面を酸素イオン伝導体で隙間なく覆うようにすることが必要になると考えられる。さらに、特許文献2においては、セリア系電解質材料粉体の表面を覆う被覆材料として、比較的高価なジルコニア系等の酸素イオン伝導体を使用しているため、コスト面での不利がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐還元性の改善とともに導電性の低下が抑制され、電極性能への悪影響も少ない固体電解質を低コストで作製可能なセリア系の固体電解質用原料粉体、当該セリア系の固体電解質用原料粉体を用いた固体電解質及び固体酸化物型燃料電池を提供すること、並びに当該セリア系の固体電解質用原料粉体の作製に適した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る固体電解質用原料粉体の第一特徴構成は、セリア系電解質材料からなる粉体粒子の表面に、当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料が複合化されている点にある。
【0009】
すなわち、本発明に係る固体電解質用原料粉体を焼結等してセリア系固体電解質を作製した場合、セリア系電解質材料からなる粉体粒子の表面に複合化された低電子伝導相形成材料が当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶してセリア系電解質材料の各粉体粒子の界面に電子伝導性の低い相が形成されるので、セリア系固体電解質が還元雰囲気に曝されても、当該電子伝導性の低い相の存在によってセリア系電解質材料の粉体粒子が直接還元雰囲気に曝されて還元されることを防止できる。その結果、セリア系電解質の耐還元性が改善され、電子伝導を抑制して酸素イオン輸率を向上させ、本来の高い酸素イオン導電性を十分に発現させることができる。
【0010】
また、上記低電子伝導相形成材料とセリア系電解質材料が反応あるいは固溶するときに各材料が拡散し広がるので、上記電子伝導性の低い相は、セリア系電解質材料の粉体粒子間の界面に極薄い層として形成することができ、そのため、電解質全体としての導電率の低下が抑制される。同時に、上記電子伝導性の低い相は極めて薄いため、燃料極に対する酸素イオンの導電が妨げられることはなく、電極性能を低下させるおそれも少ない。
さらに、上記低電子伝導相形成材料は、セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な材料であればよいので、高価な酸素イオン伝導体以外の安価な各種材料を使用することができ、固体電解質の低コストでの製作が可能となる。
【0011】
従って、耐還元性の改善とともに導電性の低下が抑制され、電極性能への悪影響も少ない固体電解質を低コストで作製可能なセリア系の固体電解質用原料粉体が提供される。
【0012】
同第二特徴構成は、前記低電子伝導相形成材料が、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属のうちの少なくともいずれか1種の金属元素を含む点にある。
【0013】
すなわち、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属や、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属や、イットリウム、ランタン等の希土類金属に属する各金属元素を単独で、あるいは、複数組み合わせ、当該単独あるいは複数の金属元素の酸化物等を低電子伝導相形成材料としてセリア系電解質材料の表面に複合化する。ここで、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の酸化物等は、セリアと反応して電子伝導性の低いペロブスカイト相を形成したり、あるいは、セリアと固溶することで電子伝導性の低い相を形成するため、電子伝導をブロックし酸素イオン輸率を向上させる効果が大きい。
【0014】
従って、低電子伝導相形成材料の好適な具体例が示されたセリア系の固体電解質用原料粉体の実施形態が提供される。
【0015】
同第三特徴構成は、前記低電子伝導相形成材料が粉体で構成され、前記セリア系電解質材料粉体の粒子径と前記低電子伝導相形成材料粉体の粒子径の比が100:1〜5:1の範囲にある点にある。
すなわち、セリア系電解質材料粉体の粒子径と低電子伝導相形成材料粉体の粒子径との比が100:1〜5:1の範囲に設定することで、セリア系電解質材料粉体の粒子表面を当該セリア系電解質材料と低電子伝導相形成材料の反応層もしくは固溶層で確実に覆うようにすることができる。
従って、セリア系の固体電解質用原料粉体の好適な実施形態が得られる。
【0016】
同第四特徴構成は、前記セリア系電解質材料粉体に対する前記低電子伝導相形成材料の配合割合が、0.1〜5wt%の範囲にある点にある。
【0017】
すなわち、セリア系電解質材料粉体に対する低電子伝導相形成材料の配合割合を0.1〜5wt%の範囲に設定することで、セリア系電解質材料粉体の粒子表面を当該セリア系電解質材料と低電子伝導相形成材料の反応層もしくは固溶層で確実に覆い、過剰な低電子伝導相を生じないようにすることができる。
従って、セリア系の固体電解質用原料粉体の好適な実施形態が得られる。
【0018】
本発明に係る固体電解質の特徴構成は、上記第一から第四特徴構成のいずれかの固体電解質用原料粉体を焼結して作製された点にある。
【0019】
すなわち、上記第一から第四特徴構成のいずれかの固体電解質用原料粉体を焼結して固体電解質が作製されるので、耐還元性の改善とともに導電性の低下が回避され、低コストで作製可能なセリア系固体電解質が提供される。
【0020】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の特徴構成は、上記特徴構成の固体電解質を用いた点にある。
【0021】
すなわち、上記のような優れた性能のセリア系固体電解質を用いて固体酸化物型燃料電池を構成することにより、還元雰囲気に曝される燃料電池において電解質の耐還元性を向上させつつ、低温作動条件での高導電率を維持し、電極性能への悪影響も少なく低コストで高い電池性能を実現することができる固体酸化物型燃料電池が提供される。
【0022】
本発明に係る固体電解質用原料粉体の製造方法の特徴構成は、セリア系電解質材料の粉体に対して当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料を混合しながら機械的力を加えて、前記セリア系電解質材料の粉体粒子の表面に前記低電子伝導相形成材料を複合化させる点にある。
【0023】
すなわち、セリア系電解質材料粉体に対して低電子伝導相形成材料を混合しながら機械的力を加えることにより、当該低電子伝導相形成材料をセリア系電解質材料粉体の粒子表面に極力均一な状態で且つ強力に結合させることができる。その結果、当該固体電解質用原料粉体を焼結等してセリア系電解質を作製するときに、セリア系電解質材料と低電子伝導相形成材料の反応もしくは固溶動作が円滑に進み、セリア系電解質材料の各粉体粒子の界面に電子伝導性の低い相が均一且つ良好に形成される。
従って、第一から第四特徴構成に係る固体電解質用原料粉体の好適な製造方法が提供される。
【0024】
同第二特徴構成は、前記セリア系電解質材料の粉体と前記低電子伝導相形成材料の複合化を乾式状態で行う点にある。
【0025】
すなわち、セリア系電解質材料粉体に対して低電子伝導相形成材料を乾式状態で機械的力を加えながら混合して複合化することにより、例えば湿式状態で混合して複合化した場合には、複合化の後で混合時に使用した液体を除去することが必要になり工程が複雑化する不利があるのに対し工程が簡素化できる利点がある。
従って、固体電解質用原料粉体の作製方法についての好適な実施形態が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る固体電解質用原料粉体、固体電解質、固体酸化物型燃料電池、及び固体電解質用原料粉体の製造方法の実施形態について、以下、図面に基づいて説明する。
【0027】
本発明に係る固体電解質用原料粉体は、図1に示すように、セリア系電解質材料からなる粉体粒子の表面に、当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料が複合化されたものであり、当該低電子伝導相形成材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属のうちの少なくともいずれか1種の金属元素を含む材料である。ここで、低電子伝導相形成材料は粉体で構成されている。図1には、セリア系電解質材料がセリア(CeO)であり、低電子伝導相形成材料が酸化カルシウム(CaO)である例を示す。
【0028】
セリア系電解質材料とは、セリア(CeO)の他に、セリアにサマリア(Sm)をドープしたSDC、セリアにガドリア(Gd)をドープしたGDC、セリアにイットリア(Y)をドープしたYDCなどを指す。
また、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム等であり、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム等であり、希土類金属は、サマリウム、ガドリニウム、イットリウム、ランタン等である。そして、これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属を含む材料の例としては、当該金属の酸化物、例えば酸化カルシウム(CaO)などが挙げられる。
【0029】
上記低電子伝導相形成材料がセリア系電解質材料と反応するとは、両材料が化学的に反応して別の化合物が生成されること、例えば、セリア(CeO)に酸化カルシウム(CaO)が反応して、CeO−CaO系ペロブスカイト型酸化物が生成されるようなことを意味する。
また、上記低電子伝導相形成材料がセリア系電解質材料と固溶するとは、セリア系電解質材料中の金属元素を低電子伝導相形成材料の金属元素で置換して固溶させる(ドープする)こと、例えば、セリア系電解質材料中のセリウム(Ce)の一部を、アルカリ金属のリチウム(Li)、アルカリ土類金属のカルシウム(Ca)やストロンチウム(Sr)、希土類金属のサマリウム(Sm)やランタン(La)で置換することを意味する。
【0030】
さらに、上記セリア系電解質材料粉体の粒子径と低電子伝導相形成材料粉体の粒子径の比が100:1〜5:1の範囲にあり、また、前記セリア系電解質材料に対する低電子伝導相形成材料の配合割合が、0.1〜5wt%の範囲にあることが好ましい。
【0031】
そして、本発明に係る固体電解質用原料粉体の製造方法は、セリア系電解質材料の粉体に対して当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料を混合しながら機械的力を加えて、前記セリア系電解質材料の粉体粒子の表面に前記低電子伝導相形成材料を複合化させるものであり、このセリア系電解質材料の粉体と低電子伝導相形成材料の複合化は乾式状態で行う。図4に、セリア系電解質材料がCe0.8Sm0.2(SDC)であり、低電子伝導相形成材料が酸化カルシウム(CaO)である場合の固体電解質用原料粉体の製作工程図を示す。
【0032】
上記複合化処理は、具体的には、図2に示す粉体処理装置(ホソカワミクロン株式会社製ノビルタ)を用いて行った。以下、当該処理装置について説明するが、他の形式の粉体処理装置を用いて上記複合化処理を行っても良い。
【0033】
上記粉体処理装置は、円筒形のケーシング1の内部に、複数の羽根状の攪拌部材3を外周部に設けた回転軸2を備え、ケーシング1は攪拌部材3に対し微小間隙(クリアランス)を隔てて位置する内周部を有し、回転軸2の回転(図中、矢印で示す)に伴い移動する攪拌部材3によってケーシング1内の処理物を攪拌処理する。尚、回転軸2は軸受部7によって片側で支持され、モーター等で構成される駆動部8と連結している。原料投入口5はケーシング1の端部上面に、製品排出口6は粉体投入口5に対し反対の端部にあたるケーシング1の下面に設けられている。
【0034】
次に、本発明に係る固体電解質は、上記固体電解質用原料粉体を焼結して作製される。図3に当該固体電解質の構造を示すが、焼結したセリア系電解質材料粒子からなるドープセリア主相の粒界層として、当該セリア系電解質材料に低電子伝導相形成材料が反応もしくは固溶して形成され、当該低電子伝導相形成材料の金属元素を多く含む電子伝導性の低い相が存在する。
【0035】
なお、本発明によれば、上記焼結等によるセリア系電解質の作製時に低電子伝導相形成材料とセリア系電解質材料の反応層もしくは固溶層が広がり、セリア系電解質材料の粉体粒子間の界面に電子伝導性の低い相の薄層が形成されるので、前記乾式状態での複合化により、セリア系電解質材料粉体の粒子表面が低電子伝導相形成材料で完全に覆われていない固体電解質用原料粉体が作製されても、電子伝導性の低い相の層を良好に形成することができる利点がある。
【0036】
上記固体電解質の作製は、具体的には、例えば、上記固体電解質用原料粉体を1軸プレス装置等の圧縮装置(図示せず)で圧縮した後、CIP(Cold Isostactic Press、冷間等方圧密という)により圧密状態で板状に成型した後、焼成炉中に投入して所定の焼成温度で焼成処理する。相対密度が98%以上(焼結体が十分に緻密化したと判断できる状態)となる温度を焼成温度とする。最後に、平面研削して板の表面を仕上げる。尚、上記固体電解質の作製に、テープ成形法等を用いることもできる。
【0037】
次に、上記作製した板状の固体電解質の一方の面にNiO−SDCからなる燃料極ペースト材料をスクリーン印刷した後、焼き付けて燃料極を形成し、他方の面にLSCF(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)Oからなる空気極ペースト材料をスクリーン印刷した後、焼き付けて空気極を形成し、燃料電池セルを作製する。以上の固体電解質及び燃料電池セルの製作工程図を図5〜図6に示す。
【0038】
次に、本発明に係る固体電解質用原料粉体、固体電解質、及び固体酸化物型燃料電池の実施例について、比較例と比較しつつ説明する。
【実施例】
【0039】
〔固体電解質用原料粉体の作製〕
実施例では、先ず、(1)BET値:4.5m/g(粒子径185nm相当)、体積基準50%累積粒子径D50:0.7μmのSDC(Ce0.8Sm0.2)粉体と、(2)BET値:51m/g(粒子径35nm相当,上記SDCとの流径比=5.3:1)のCaO粉体を、SDC/CaO=99/1の重量比(CaOの配合割合:1wt%)で混合し、前記粉体処理装置(ホソカワミクロン株式会社製ノビルタ)を用いて複合化して固体電解質用原料粉体を作製した。本装置での主な処理条件は、回転数:3500rpm、処理時間:10minである。また、上記BET値の測定は、(株)マウンテック製Macsorb HM model−1201を使用し、粒度D50の測定は、日機装(株)製マイクロトラック粒子径分布測定装置 9320HRA(X-100)を使用した。
【0040】
比較例では、上記実施例と同等の原料(SDC粉体/CaO粉体)を用い、通常の湿式ボールミルにより粉砕混合を行って固体電解質用原料粉体を作製した。ボールミルの主な処理条件は、1mmφのZrOボールを用い、回転数:70rpm、処理時間;24時間である。
【0041】
〔電解質の作製〕
上記のようにして作製した固体電解質用原料粉体を1軸プレス(圧力:200kg/cm)、および、CIP(荷重:2トン)の条件で圧縮成形した後、相対密度が98%以上となる温度(実施例では1450℃、比較例では1550℃)で焼成し、最後に平面研削して、厚さ:300μm、直径:13mmの電解質板を得た。
【0042】
〔燃料電池単セルの作製〕
電解質板の片面にNiO−SDC燃料極ペースト材料をスクリーン印刷し、1350℃で焼き付け、他方の面にLSCF空気極ペースト材料をスクリーン印刷し、1000℃で焼き付けて、各電極を形成して、燃料電池単セルを得た。
【0043】
〔特性評価〕
(1)直流4端子法による導電率測定
実施例と比較例で同等の結果が得られ、600℃、空気中の条件で0.017S/cmであった。
【0044】
(2)濃淡電池法による酸素イオン輸率測定
濃淡電池法による酸素イオン輸率とは、電解質の両面を異なる酸素分圧下に置いたとき、酸素分圧の差で生じる起電力の理論値を100%とし、実際に生じた起電力の測定値を相対値で表したものある。即ちイオンのみが電荷キャリアになる場合は輸率100%となるが、電子伝導が生じるとその分起電力が低下する。測定の結果、実施例97%に対し、比較例86%であり、実施例の酸素イオン輸率の方が比較例より高く優れていることがわかる。
上記酸素イオン輸率の差は、複合化処理と単純な混合処理の違いによる。即ち、実施例では複合化処理によって均一に混合され、セリア粒子をCaO粒子が被覆するような構造になっているため、焼結温度を低くできるとともに、焼結後も粒界でのCa濃度が均一に高くなる。その結果、セリア粒子間に電子の伝導パスが形成されず、酸素イオン輸率が高くなると解される。これに対し、比較例では均一に混合されていないために焼結温度が高くなりCaが拡散しやすくなる。その結果、セリア粒子間に電子の伝導パスが残り、酸素イオン輸率を低下させていると解される。
【0045】
(3)電池性能の測定
図7に、実施例と比較例について600℃条件でのセル電流とセル電圧の関係を測定した結果を示す。実施例では、酸素イオン輸率の向上により、セル電圧が比較例よりも高く、高い出力(電力)が得られることが分かる。
(4)粒界相の組成測定
透過型電子顕微鏡JEM−2010にて検出器EX−Z03150TJECを用いてエネルギー分散型X線分析を行った結果、実施例では粒界部分に低電子伝導相形成材料(CaO)のCa元素が多く存在するのが検出され、Ca元素の濃度が比較例に比べて高くなっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る固体電解質用原料粉体及び固体電解質は、固体酸化物型の燃料電池以外に、センサー、触媒等の各種用途に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る固体電解質用原料粉体の構造を模式的に示す断面図
【図2】本発明に係る固体電解質用原料粉体の製造に用いる処理装置の正面断面図
【図3】本発明に係る固体電解質の構造を模式的に示す断面図
【図4】本発明に係る固体電解質用原料粉体の製作工程図
【図5】本発明に係る固体電解質の製作工程図
【図6】本発明に係る燃料電池セルの製作工程図
【図7】本発明に係る燃料電池セルの性能を表すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリア系電解質材料からなる粉体粒子の表面に、当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料が複合化されている固体電解質用原料粉体。
【請求項2】
前記低電子伝導相形成材料が、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属のうちの少なくともいずれか1種の金属元素を含む請求項1記載の固体電解質用原料粉体。
【請求項3】
前記低電子伝導相形成材料が粉体で構成され、前記セリア系電解質材料粉体の粒子径と前記低電子伝導相形成材料粉体の粒子径の比が100:1〜5:1の範囲にある請求項1又は2記載の固体電解質用原料粉体。
【請求項4】
前記セリア系電解質材料に対する前記低電子伝導相形成材料の配合割合が、0.1〜5wt%の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質用原料粉体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解質用原料粉体を焼結して作製された固体電解質。
【請求項6】
請求項5記載の固体電解質を用いた固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
セリア系電解質材料の粉体に対して当該セリア系電解質材料と反応もしくは固溶して電子伝導性の低い相を形成可能な低電子伝導相形成材料を混合しながら機械的力を加えて、前記セリア系電解質材料の粉体粒子の表面に前記低電子伝導相形成材料を複合化させる固体電解質用原料粉体の製造方法。
【請求項8】
前記セリア系電解質材料の粉体と前記低電子伝導相形成材料の複合化を乾式状態で行う請求項7記載の固体電解質用原料粉体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−210198(P2006−210198A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22106(P2005−22106)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【Fターム(参考)】