説明

固体電解質薄膜の作製方法、及び固体電解質薄膜

【課題】リチウムイオン二次電池の無機固体電解質として有望なLiSiO−LiPOの薄膜形成条件を見出すとともに、当該LiSiO−LiPOからなる固体電解質薄膜を提供する。
【解決手段】ノズル12を備えたチャンバ10の内部に基板Aを配置する準備工程と、前記チャンバ10を減圧する減圧工程と、前記ノズル12から前記基板Aの表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルを吹き付ける吹付工程と、前記ノズル12に対して前記基板Aを相対移動させ、当該基板Aの表面全体に前記LiSiO−LiPOの薄膜を形成する膜形成工程と、を包含する固体電解質薄膜の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電解質として利用可能な固体電解質薄膜の作製方法、及び当該方法によって得られる固体電解質薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電解質として、従来、LiPF等のリチウム塩を有機溶媒に溶解させた電解液が知られている。ところが、このような電解液を使用する二次電池は、液漏れ等の心配がつきまとうことになる。さらに、電解液を電極間に密封しておく必要があるため、使い勝手が悪い場合がある。例えば、電解液を使用した二次電池は、ICカードや電子ペーパー等のフレキシブルデバイスや、小型化・薄型化された電子デバイスに実装することは容易ではない。
【0003】
一方、近年、ハイブリッドカーや電気自動車のバッテリーとして大容量のリチウムイオン二次電池の開発が盛んに行われている。自動車分野においては、リチウムイオン二次電池に対してより高度な安全性が求められる。そこで、リチウムイオン二次電池に使用可能な安全性の高い電解質として、電解質を固体化した無機固体電解質が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
無機固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として利用するためには、正極と負極との間に無機固体電解質の薄膜を形成する必要がある。従来の薄膜の形成方法としては、例えば、ゾル−ゲル法、真空蒸着法、ブラスト法、パルスレーザーデポジション法、スプレー熱分解法等が挙げられる。これらの手法で得られる薄膜では、未だに固体電解質として長期使用に耐えるものは得られておらず、無機固体電解質薄膜の製膜技術は確立されていない。一方、薄膜形成方法の一つであるエアロゾルデポジション法は、室温程度の比較的低温の環境下で、高速に薄膜を形成することができ、基板材料や下地に熱損傷を与えることなく、任意の厚さに膜厚をコントロールできるため、将来的に有望視されている。
【0005】
特許文献1においても、無機固体電解質を形成する手法として、エアロゾルデポジション法が適用可能であることが開示されている。ただし、エアロゾルデポジション法に関する具体的な実施例は示されておらず、詳細な成膜方法は不明である。なお、特許文献1では、無機固体電解質として、リチウム、リン、及び硫黄を含有する固体電解質が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−21424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、リチウムイオン二次電池の無機固体電解質として、ケイ酸リチウムとリン酸リチウムとからなる固溶体(LiSiO−LiPO)が有望な物質であることに着目した。LiSiO−LiPOは、構造上、高いリチウムイオン濃度を保有することができる。そのため、LiSiO−LiPOをリチウムイオン二次電池の固体電解質として用いた場合、室温において約10−6S・cm−1程度の高い導電率を得ることができる。
【0008】
一方、LiSiO−LiPOを長期使用に耐え得るリチウムイオン二次電池の固体電解質薄膜として形成することは容易ではない。特許文献1においても、LiSiO−LiPOに関する知見は全く言及されていない。また、特許文献1には、エアロゾルデポジション法による薄膜形成の可能性が示唆されているものの、上述のように具体的な実施例の記載は一切見られない。このように、現状の技術では、エアロゾルデポジション法による具体的な製膜条件等は全く解明されていない。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、リチウムイオン二次電池の無機固体電解質として有望なLiSiO−LiPOの薄膜形成条件を見出すとともに、当該LiSiO−LiPOからなる固体電解質薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法の特徴構成は、
ノズルを備えたチャンバの内部に基板を配置する準備工程と、
前記チャンバを減圧する減圧工程と、
前記ノズルから前記基板の表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルを吹き付ける吹付工程と、
前記ノズルに対して前記基板を相対移動させ、当該基板の表面全体に前記LiSiO−LiPOの薄膜を形成する膜形成工程と、
を包含することにある。
【0011】
課題の項目で述べたように、リチウムイオン二次電池の無機固体電解質として有望な物質であるLiSiO−LiPOを長期使用に耐え得る固体電解質薄膜として形成することは容易ではなく、従来技術では製膜技術は確立されていなかった。
この点、本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、ノズルを備えたチャンバの内部に基板を配置する準備工程の後、チャンバを減圧する減圧工程を実行し、ノズルから基板の表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルを吹き付ける吹付工程を実行している。さらに、ノズルに対して基板を相対移動させ、当該基板の表面全体にLiSiO−LiPOの薄膜を形成する膜形成工程を実行している。
このように、本発明は、エアロゾルデポジション法により、基板表面の全体にLiSiO−LiPO薄膜を形成するものであるが、LiSiO−LiPOは、サブミクロンオーダーまで微粒子化することができるため、エアロゾルデポジション法とのマッチングに優れている。従って、本発明によれば、LiSiO−LiPOを長期使用に耐え得るリチウムイオン二次電池の固体電解質薄膜として良好に形成することができる。
【0012】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記減圧工程において、前記チャンバの内部圧力を20〜80Paに調整することが好ましい。
【0013】
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、チャンバの内部圧力を20〜80Paに調整することにより、ノズルから基板表面に向けて吹き出されるLiSiO−LiPOを含むエアロゾルの気流が良好に形成されるため、品質の高い固体電解質薄膜を確実に形成することができる。
【0014】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記吹付工程において、前記ノズルの直径を0.15〜0.25mmに設定することが好ましい。
【0015】
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、ノズルの直径を0.15〜0.25mmに設定することにより、エアロゾルの気流が必要以上に拡大せず、またエアロゾルの流速を製膜に好適な条件に維持することができる。その結果、基板上に強固な固体電解質薄膜を安定して形成することができる。
【0016】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記吹付工程において、エアロゾルの流量を200〜500ml/分に調整することが好ましい。
【0017】
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、エアロゾルの流量を200〜500ml/分に調整することにより、ノズルから吹き出されたエアロゾルが基板上で無駄なく薄膜化される。その結果、固体電解質薄膜の収率を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記膜形成工程において、前記基板の相対移動速度を0.5〜1.0mm/秒に調整することが好ましい。
【0019】
基板表面にエアロゾルが衝突すると、当該エアロゾルが破壊されて活性な新生面が生成する。
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、基板の相対移動速度を0.5〜1.0mm/秒に調整することにより、活性な新生面に後から到来したエアロゾルが衝突する確率が高くなる。このため、LiSiO−LiPO膜が成長し易く、緻密で強固な固体電解質薄膜を安定して形成することができる。
【0020】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記膜形成工程を複数回反復することが好ましい。
【0021】
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、膜形成工程を複数回反復することにより、基板上に形成したLiSiO−LiPO膜をさらに成長させ、膜厚を増大させることができる。
【0022】
本発明に係る固体電解質薄膜の作製方法において、
前記膜成形工程において、前記ノズルに振動を付与することが好ましい。
【0023】
本構成の固体電解質薄膜の作製方法によれば、膜成形工程において、ノズルに振動を付与することにより、ノズルの詰まりを防止することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明に係る固体電解質薄膜の特徴構成は、
減圧チャンバの内部に配置した基板の表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルをノズルから吹き付けることにより得られることにある。
【0025】
本構成の固体電解質薄膜によれば、上記固体電解質薄膜の作製方法と同様の優れた作用効果を得ることができる。
すなわち、本発明は、エアロゾルデポジション法により、基板表面の全体にLiSiO−LiPO薄膜を形成するものであるが、LiSiO−LiPOは、サブミクロンオーダーまで微粒子化することができるため、エアロゾルデポジション法とのマッチングに優れている。従って、本発明によれば、LiSiO−LiPOを長期使用に耐え得るリチウムイオン二次電池の固体電解質薄膜として良好に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、固体電解質薄膜原料の(a)X線回折(XRD)パターンを示すグラフ、及び(b)走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明の固体電解質薄膜の作製方法を実施するために使用する薄膜作製装置の模式図である。
【図3】図3は、吹付工程の実行中にステージをノズルに対してジグザグ状に相対移動させる様子を示す模式図である。
【図4】図4は、薄膜形成のメカニズムを説明するための模式図である。
【図5】図5は、各基板上に形成したLiSiO−LiPO薄膜の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、条件1及び条件2で形成したLiSiO−LiPO薄膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、本発明の作製方法によって得られた固体電解質薄膜の導電率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に関する実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、それらと均等な構成も含む。
【0028】
<固体電解質薄膜原料の合成>
初めに、本発明において使用する固体電解質薄膜原料(LiSiO−LiPOからなる微粒子)の合成方法を説明する。
【0029】
出発物質として、炭酸リチウム(LiCO)、二酸化ケイ素(SiO)、及びリン酸リチウム(LiPO)を使用した。出発物質のモル比がLiCO:SiO:LiPO=2:1:1となるように秤量し、これらの混合物を乳鉢で擂り潰した後、750℃で12時間焼成した(仮焼)。次いで、この仮焼物を湿式ミリングした。湿式ミリング後の試料を乾燥させ、400℃及び800℃で夫々1時間焼成し、さらに1100℃で2時間焼成した(本焼)。本焼物をさらに湿式ミリングし、乾燥後、メッシュ径60μmの篩にかけて分級した。これらの作業により、エアロゾルデポジション法に使用する固体電解質薄膜原料を得た。
【0030】
図1は、上記合成方法によって得られた固体電解質薄膜原料の(a)X線回折(XRD)パターンを示すグラフ、及び(b)走査型電子顕微鏡写真である。仮焼物及び本焼物は、50LiSiO・50LiPOの回折パターンとよく一致した。また、固体電解質薄膜原料としての50LiSiO・50LiPOは、サブミクロンオーダーの微粒子であることが確認された。このようなサブミクロンオーダーの微粒子は、エアロゾルデポジション法に好適に使用することができる。
【0031】
<固体電解質薄膜の作製方法>
図2は、本発明の固体電解質薄膜の作製方法を実施するために使用する薄膜作製装置100の模式図である。薄膜作製装置100は、主に、減圧チャンバ10、エアロゾルチャンバ20、ガスボンベ30、メカニカルブースターポンプ40、及びロータリーポンプ50から構成される。
【0032】
減圧チャンバ10の内部には基板を配置するためのステージ11が設けられ、当該ステージ11の上方にエアロゾルを吹き付けるためのノズル12が設けられている。ステージ11は可動式であり、ステージ11の上に載置したサンプルをノズル12に対して縦方向(Y方向)及び横方向(X方向)に相対移動させることができる。
【0033】
ここで、固体電解質薄膜の作製に先立ち、準備工程として、ステージ11上に基板Aを配置する。この基板Aとして、例えば、石英ガラス基板を使用することができる。後述の実施形態で詳しく説明するが、基板上に形成する固体電解質薄膜の膜質は、基板の材質に依存する。石英ガラス基板は、緻密で厚みのある固体電解質薄膜を形成するために好ましい。石英ガラス基板の表面に、導電性を有する材料(例えば、金、ITO等)や、リチウムイオン二次電池の正極活物質又は負極活物質をコーティングしておくことも可能である。
【0034】
ステージ11上に基板Aを配置した後、減圧工程として、メカニカルブースターポンプ40及びロータリーポンプ50を作動させ、減圧チャンバ10の内部圧力を20〜300Paに調整する。好ましい内部圧力範囲は20〜80Paであり、より好ましい内部圧力範囲は40〜60Paであり、最も好ましい内部圧力は50Paである。内部圧力が20Pa未満の場合、後段の吹付工程におけるエアロゾルの吹き出し量が少なくなるため、製膜が困難になる場合がある。また、内部圧力が300Paを超えると、運転条件によってはエアロゾル流路内が一時的に加圧状態となる場合があり、薄膜作製装置100の継続運転に支障をきたすおそれがある。
【0035】
エアロゾルチャンバ20の内部には、上記合成方法によって得られた固体電解質薄膜原料(50LiSiO・50LiPO)が予め導入されている。また、エアロゾルチャンバ20には、フローガスとしての不活性ガス(例えば、ヘリウム、窒素等)を供給するガスボンベ30が接続されている。エアロゾルチャンバ20の内部にガスボンベ30から不活性ガスを導入すると、固体電解質薄膜原料はエアロゾルチャンバ20中に吹き上げられて不活性ガスと混合状態(エアロゾル)となり、上方のホース21を通って下流のノズル12に供給される。減圧チャンバ10内では、ノズル12からステージ11上に配置された基板Aに向けてエアロゾルが吹き付けられる(吹付工程)。
【0036】
ここで、ノズル12の直径を0.15〜1.5mmに設定する。好ましいノズル径は0.15〜0.25mmであり、より好ましいノズル径は0.18〜0.23mmであり、最も好ましくは0.21mmである。このような範囲に設定することにより、エアロゾルの気流が必要以上に拡大せず、またエアロゾルの流速を製膜に好適な条件に維持することができる。その結果、基板A上に強固な固体電解質薄膜を安定して形成することができる。
【0037】
また、エアロゾルの流量を200〜1500ml/分に調整する。好ましいエアロゾル流量は200〜500ml/分であり、より好ましいエアロゾル流量は250〜400ml/分であり、最も好ましくは300〜350ml/分である。このような範囲に調整することにより、ノズル12から吹き出されたエアロゾルが基板A上で無駄なく薄膜化されるので、固体電解質薄膜の収率を向上させることができる。
【0038】
吹付工程の実行中にステージ11をノズル12に対して相対移動させる。ステージ11の動かし方は、例えば、図3に示すように基板Aの所定方向に沿ったジグザグ状の移動とすることが好ましい。ステージ11を縦方向(Y方向)及び横方向(X方向)に順次動かすことで、基板A上には連続的なジグザグ状の薄膜パターンが形成される。基板Aの一端から他端までジグザグ移動が終了したら、基板Aを90°回転させ、再び所定方向に沿ってジグザグ移動を行っても構わない。この操作により、基板Aの表面全体にLiSiO−LiPOの薄膜が形成される(膜形成工程)。なお、本発明では、基板Aの一端から他端までジグザグ移動が終了した場合、1回の膜形成工程が終了したものとする。
【0039】
薄膜形成のメカニズムについては、図4を参照して説明する。基板Aの表面にエアロゾルが衝突すると、当該エアロゾルが破壊されて薄膜化する。このとき、薄膜の表面には活性な新生面が生成する。この活性な新生面に後から到来した別のエアロゾルが衝突すると、新生面の上に新たなLiSiO−LiPO膜が形成される。そして、この衝突が繰り返されることにより薄膜が成長し、緻密で強固な固体電解質薄膜となる。
【0040】
膜形成工程における基板Aの相対移動速度については、0.2〜2.0mm/秒に調整することが好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mm/秒に調整する。この範囲の相対移動速度であれば、活性な新生面に後から到来したエアロゾルが衝突する確率が高くなるため、LiSiO−LiPO膜が成長し易く、緻密で強固な固体電解質薄膜を安定して形成することができる。また、膜成形工程において、ノズル12に振動を付与することにより、ノズル12の詰まりを防止することができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例では、種々の条件下において、固体電解質薄膜原料である50LiSiO・50LiPO微粒子からLiSiO−LiPO薄膜を作製した。なお、以下の作製条件については、各実施例において共通とする。
(1)ノズル−基板間距離 :3mm
(2)ノズル径 :0.21mm
(3)基板に対するノズル角度:90°
(4)フローガス :ヘリウムガス
(5)エアロゾル流量 :300〜350ml/分
(6)減圧チャンバ内圧力 :60Pa
【0042】
<実施例1>
実施例1では、固体電解質薄膜を形成するための基板として、(a)石英ガラス基板、(b)金をコーティングした石英ガラス基板、及び(c)ITOをコーティングした石英ガラス基板の3種類を使用した。基板の移動速度を0.5mm/秒とし、膜形成回数を5回とした。図5に、(a)〜(c)の各基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜の走査型電子顕微鏡写真を示す。(d)は、(a)の石英ガラス基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜の拡大写真である。
【0043】
(a)石英ガラス基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜は、約6μmの膜厚を有していた。一方、(b)金をコーティングした石英ガラス基板、(c)ITOをコーティングした石英ガラス基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜の膜厚は、夫々600nm、800nmに過ぎなかった。また、図4(d)と図1(b)とを比較すると、石英ガラス基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜を構成する微粒子は、固体電解質薄膜原料である50LiSiO・50LiPO微粒子よりさらに微小化していた。しかも、微粒子間の隙間が少ない緻密な構造となっていた。これらの結果から、基板として石英ガラス基板を使用すると、LiSiO−LiPO薄膜を成長させ易く、緻密で強固な固体電解質薄膜を作製できることが判明した。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、基板の移動速度による膜質の相違を確認した。基板として、実施例1の(a)石英ガラス基板を使用し、以下の「条件1」及び「条件2」でLiSiO−LiPO薄膜の形成を行った。なお、条件1及び条件2に関して、トータルの膜形成時間は同一である。
〔条件1〕基板移動速度:0.5mm/秒 膜形成回数:5回
〔条件2〕基板移動速度:1.0mm/秒 膜形成回数:10回
図6に、(e)条件1で形成したLiSiO−LiPO薄膜の走査型電子顕微鏡写真、及び(f)条件2で形成したLiSiO−LiPO薄膜の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0045】
(e)条件1、及び(f)条件2におけるLiSiO−LiPO薄膜の膜厚は、夫々約4μm、及び約0.3μmであった。このように、トータルの膜形成時間が同一であっても、基板の移動速度を小さくした方がLiSiO−LiPO薄膜を成長させ易く、大きな膜厚を実現できることが判明した。
【0046】
<実施例3>
実施例3では、本発明の作製方法によって得られた固体電解質薄膜の導電率を測定した。測定に用いた試料は、実施例1の(c)ITOをコーティングした石英ガラス基板に形成したLiSiO−LiPO薄膜である。この試料は、実施例2の条件1で形成したものである。形成したLiSiO−LiPO薄膜の表面に銀ペーストを塗布し、これを乾燥させて電極を形成した。そして、交流インピーダンス測定により、LiSiO−LiPO薄膜の内部抵抗を求めた。測定は、大気圧下、室温(25℃)で、0.1Hz〜1MHzの範囲で周波数を変化させながら、試料に開回路電圧を印加して行った。測定結果を図7のグラフに示す。
【0047】
図7より、高周波数側で円弧の立ち上がりを確認できた。この高周波数側の円弧にフィッティングすることで算出した抵抗値Rは、R=3.42×10Ωであった。この抵抗値Rから、室温における固体電解質薄膜の膜厚方向の導電率σを算出すると、σ=9.4×10−10S・cm−1となった。この導電率σの値は、「固体電解質薄膜原料の合成」の項目で説明した750℃での仮焼後の試料の室温における導電率の値(2.2×10−9S・cm−1)に近い値である。このことから、本発明の作製方法によって得られたLiSiO−LiPO薄膜は、750℃で熱処理した場合の焼結体に匹敵するほどの充分な緻密性を有していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の固体電解質薄膜の作製方法、及び当該方法によって得られる固体電解質薄膜は、各種二次電池の製造において利用可能であり、特に、リチウムイオン二次電池における固体電解質薄膜の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 減圧チャンバ
11 ステージ
12 ノズル
20 エアロゾルチャンバ
30 ガスボンベ
40 メカニカルブースターポンプ
50 ロータリーポンプ
100 薄膜作製装置
A 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを備えたチャンバの内部に基板を配置する準備工程と、
前記チャンバを減圧する減圧工程と、
前記ノズルから前記基板の表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルを吹き付ける吹付工程と、
前記ノズルに対して前記基板を相対移動させ、当該基板の表面全体に前記LiSiO−LiPOの薄膜を形成する膜形成工程と、
を包含する固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項2】
前記減圧工程において、前記チャンバの内部圧力を20〜80Paに調整する請求項1に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項3】
前記吹付工程において、前記ノズルの直径を0.15〜0.25mmに設定する請求項1又は2に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項4】
前記吹付工程において、エアロゾルの流量を200〜500ml/分に調整する請求項1〜3の何れか一項に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項5】
前記膜形成工程において、前記基板の相対移動速度を0.5〜1.0mm/秒に調整する請求項1〜4の何れか一項に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項6】
前記膜形成工程を複数回反復する請求項1〜5の何れか一項に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項7】
前記膜成形工程において、前記ノズルに振動を付与する請求項1〜6の何れか一項に記載の固体電解質薄膜の作製方法。
【請求項8】
減圧チャンバの内部に配置した基板の表面にLiSiO−LiPOを含むエアロゾルをノズルから吹き付けることにより得られる固体電解質薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−14885(P2012−14885A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148415(P2010−148415)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 日本化学会 刊行物名:日本化学会第90春季年会(2010) 講演予稿集 発行年月日:2010年3月12日
【出願人】(000115500)ラサ工業株式会社 (19)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】