説明

固体高分子型燃料電池およびその製造方法

【課題】空気拡散層の内部における、液相水の通過抵抗及び充填量を同時に低減して酸素ガスが円滑に供給され、出力電圧が向上した固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】この発明に係る固体高分子型燃料電池における空気極は、表面が撥水化処理されたカーボン繊維を有する空気拡散層6と、この空気拡散層6の高分子電解質膜側の面に接触した空気極触媒層とから構成され、空気拡散層6には、内壁面が酸化処理により親水化され電池反応により前記空気極触媒層で生成された水を空気極側セパレータの溝に導く空気拡散層内水経路15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素と酸素とが反応して発電するときに生成する水を外部に排出する固体高分子型燃料電池、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池と略称する)は、空気極、燃料極、ガス流路が形成されたセパレータ及び両極間を隔てる高分子電解質膜から構成されている。空気極および燃料極は、触媒及び固体電解質成分からなる触媒層と、導電性多孔材料のカーボン繊維からなるガス拡散層とから構成されている。
なお、空気極、燃料極の各ガス拡散層は、触媒層側にさらに微細なカーボン粒子からなる導電性多孔層が設けられる場合もある。
【0003】
空気極のガス拡散層である空気拡散層は、空気極触媒層と接触して集電する集電機能と、空気極触媒層に反応ガスである酸素ガスを供給するガス供給機能と、反応によって生成した水を排出する排水機能とを有している。
空気拡散層は、導電性の高い多孔材料であるカーボン繊維が用いられており、その繋がった空孔を通じて空気極側セパレータの空気流路から酸素ガスが空気極触媒層に供給される。一方、空気極触媒層上で生成した水もその空孔を通じて空気極側セパレータの空気流路に排出される。
【0004】
燃料電池内の水は気相と液相の両方の状態で存在しているが、高分子電解質膜が良好なイオン伝導を保持するために、燃料電池を高い加湿状態で運転する場合には、特に反応生成水が空気拡散層内に滞留し易く、酸素ガスの空気極触媒層への供給の妨げとなる。
従って、空気拡散層において、内部に水が滞留して酸素ガスの通路を閉塞させることがないように、反応生成水を速やかに空気極側セパレータの空気流路に排出することが好ましい。
【0005】
従来の燃料電池として、このような不都合を解消すべく、空気拡散層を構成するカーボン繊維の表面に撥水処理が施された燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−295728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の燃料電池は、カーボン繊維の表面に撥水処理を施すことで空気拡散層の内部における水の滞留が低減されるものの、液相の水の通過抵抗が極めて高くなり、水が空気拡散層から円滑に排出されない、即ち滞留した水が酸素ガスの通路を塞いでしまい、酸素ガスは円滑に供給されないという問題点があった。
逆に、カーボン繊維の表面に親水性処理を施した場合には、水の通過抵抗は小さくなるものの、空気拡散層の内部に液相水が充填されてしまう、つまり多量の水がカーボン繊維の各空孔に充填、保持され、酸素ガスの通路を塞いでしまい、この場合にも同様に酸素ガスは円滑に供給されないという問題点があった。
【0008】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、空気拡散層の内部における、液相水の通過抵抗及び充填量を同時に低減して酸素ガスが円滑に供給され、出力電圧が向上した固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【0009】
また、この固体高分子型燃料電池を簡単に製造することができる固体高分子型燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の一面に面接触した燃料極と、この燃料極に面接触しているとともに燃料極に供給される水素ガスが流通する溝を有する燃料極側セパレータと、前記高分子電解質膜の他面に面接触した空気極と、この空気極に面接触しているとともに空気極に供給される空気が流通する溝を有する空気極側セパレータとを備え、前記空気極は、表面が撥水化処理されたカーボン繊維を有する空気拡散層と、この空気拡散層の前記高分子電解質膜側の面に接触した空気極触媒層とから構成された固体高分子型燃料電池において、前記空気拡散層には、前記空気極側セパレータの前記溝に連通する、内壁となる前記カーボン繊維の表面が酸化処理により親水化された空気拡散層内水経路が形成されている。
【0011】
この発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、空気拡散層の製造工程は、カーボン繊維を撥水化処理液に浸漬し、表面を撥水化処理する撥水化処理工程と、撥水化処理された前記カーボン繊維を密閉された電解槽の電解液中に浸漬し、電解槽内を加圧して空気拡散層内水経路を形成する経路形成工程と、前記空気拡散層内水経路のカーボン繊維の表面を電気化学的酸化により酸化処理して親水化する親水化処理工程とを含む。
【0012】
この発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、燃料拡散層の製造工程は、カーボン繊維を撥水化処理液に浸漬し、表面を撥水化処理する撥水化処理工程と、撥水化処理されたカーボン繊維を密閉された電解槽の電解液中に浸漬し、電解槽内を加圧して燃料拡散層内水経路を形成する経路形成工程と、前記燃料拡散層内水経路のカーボン繊維の表面を電気化学的酸化により酸化処理して親水化する親水化処理工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係わる固体高分子型燃料電池によれば、空気拡散層の内部における、液相水の通過抵抗及び充填量を同時に低減して酸素ガスが円滑に供給され、出力電圧が向上する。
特に、水が滞留し易い高加湿運転時や反応生成水が多量の高負荷運転時の出力電圧が著しく向上する。
【0014】
また、この発明に係わる固体高分子型燃料電池の製造方法によれば、酸素ガスが円滑に供給され、電池性能が向上した、固体高分子型燃料電池を簡単に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態について、図に基づいて説明する。
図1は固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池と略称する)のセルの部分断面図である。
この燃料電池は、図1に示されたセルが複数段積層されて構成されている。
セルは、酸素ガスが通過する酸素ガス用溝1aを有する空気極側セパレータ1と、この空気極側セパレータ1に面接触した空気極2と、この空気極2に面接触した高分子電解質膜3と、この高分子電解質膜3に面接触した燃料極4と、この燃料極4に面接触し反応ガスである水素ガスが通過する水素ガス用溝5aを有する燃料極側セパレータ5とを備えている。
空気極2は、空気拡散層6及び空気極触媒層7で構成されている。燃料極4は、燃料拡散層8及び燃料極触媒層9で構成されている。
空気拡散層6及び燃料拡散層8は、共に導電性の高い多孔材料であるカーボン繊維で構成されており、表面に粒子状のフッ素樹脂を付着することで撥水化処理が施されているとともに、部分的に撥水性を低下させた親水化処理が施されている。
【0016】
図2は撥水化処理工程を経た後のガス拡散層材料11の一部を親水化処理する一例を示した概略図である。この例は、撥水処理後に加圧しながら、電解酸化により親水化処理する例である。
電解液である希硝酸溶液が入った電解槽10は、密閉された容器であり、この電解槽10内には、加圧された窒素が圧入される。電解槽10内には、直流電源13と電気的に接続された対極12が浸漬されている。
この電解槽10の希硝酸溶液中に、表面が撥水化処理されたガス拡散層材料11を浸漬保持し、加圧下で直流電源13によりガス拡散層材料11と対極12との間で電圧を印加することで、ガス拡散層材料11の一部は親水化処理される。
【0017】
図3(A)〜図3(C)は、空気拡散層6に空気拡散層内水経路15が形成される各工程を示す図である。
図3(A)はカーボン繊維で構成されたガス拡散層材料11が希硝酸溶液中に浸漬されたときの様子を示しており、加圧前の状態である。
フッ素樹脂の粒子が付着して撥水処理されたガス拡散層材料11を、希硝酸溶液中に常圧下で浸漬した場合には、ガス拡散層材料11の各空孔には空気が保持した状態となり、ガス拡散層材料11の内部には希硝酸溶液が浸入しにくい。
しかしながら、希硝酸溶液全体に圧力を印加すると、圧力に応じて希硝酸溶液がガス拡散層材料11の内部に浸入する。希硝酸溶液が浸入し易い部位は、比較的大きい連続空間が外部に開口している部位や、撥水処理のむらによって撥水効果が比較的低い部位であり、こうした部位に優先的に希硝酸溶液が侵入する。圧力を上げると希硝酸溶液の浸入量は増大し、最終的にはガス拡散層材料11の両面を繋ぐ空気拡散層内水経路15が形成される(図3(B) 経路形成工程)。
希硝酸溶液の浸入量は、圧力計14を見ながら加圧力を調整することで、調整可能であり、適切な圧力が設定される。
この空気拡散層内水経路15は、加圧によって自動的に形成された経路であり、電池運転時における液相水の通過抵抗が小さい排水経路でもある。
【0018】
この状態で、ガス拡散層材料11と対極12との間で電圧を印加することで、希硝酸溶液が浸入した空気拡散層内水経路15のカーボン繊維表面は、親水基が付与されて親水化処理が施される(親水化処理工程)。この親水化処理により、空気拡散層内水経路15のカーボン繊維表面は撥水性が低下する、即ち水の通過抵抗は小さくなる。最後にこのガス拡散層材料11を乾燥することで空気拡散層6が製造される(図3(C))。
図3(C)において点線で示された空気拡散層内水経路15により、空気極触媒層7と空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aとは連通している。
希硝酸溶液が浸入しなかったガス拡散層材料11の部位、即ち親水化処理がされなかった部位では、撥水性が確保されて、相対的に水が浸入しにくく、ガス拡散層材料11の各空孔内に水が滞留しにくいので、酸素ガスが通過し易い部位となる。
【0019】
この空気拡散層内水経路15は、空気拡散層6に形成されているが、燃料拡散層8についても、カーボン繊維表面が親水化処理され、空気拡散層内水経路15と同じ機能を有する燃料拡散層内水経路が形成されている。
空気拡散層内水経路15の場合には、空気極触媒層7で生成された水を空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aを通じて外部に排出する必要性があるために、空気拡散層内水経路15は空気極触媒層7と空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aとに接続されている。
これに対して、燃料拡散層内水経路の場合には、多くは燃料拡散層8の下流側で液相に相変化した水を燃料極側セパレータ5の燃料ガス用溝5aに導くものであり、燃料拡散層内水経路は、燃料極触媒層9と燃料極側セパレータ5の燃料ガス用溝5aとを必ずしも接続する必要性はない。
【0020】
次に、上記構成の燃料電池の動作について説明する。
加温、加湿された空気は、燃料電池の空気入口マニホールド(図示せず)から内部に侵入し、各セルの空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aを通過する。この空気は、引き続き空気拡散層6の繋がった空孔を通って空気極触媒層7に達する。
一方、加温、加湿された燃料である水素ガスは、燃料電池の燃料入口マニホールド(図示せず)から内部に侵入し、各セルの燃料側セパレータ5の燃料ガス用溝5aを通過する。この水素ガスは、繋がった空孔の燃料拡散層8を通過し、燃料極触媒層9では、下式(1)に示すように、水素ガスは、水素陽イオンガスとなり、この水素陽イオンガスが高分子電解質膜3を通過して空気極触媒層7に達する。
そして、空気極触媒層7上では、下式(2)に示すように、空気拡散層6を通過した空気中の酸素ガスと水素陽イオンガスとが反応し、水が生成される。
【0021】
(燃料極) H→2H+2e‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
(空気極) 1/2 O+2H+2e→HO‥(2)
【0022】
上式(1)、(2)による電池反応後の空気は、電池反応により生じた水分を多く含有した残空気として、空気出口マニホールド(図示せず)から外部に排出される。
また、電池反応後の未反応の水素ガスは、燃料出口マニホールド(図示せず)から外部に排出される。
【0023】
また、上記電池反応により、空気極2の空気極触媒層7では、多量の液相水が生じるが、この水は、空気拡散層内水経路15を通じて空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aに導かれ、引き続き外部に排出される。
また、燃料極4の燃料拡散層内の液相水は、燃料拡散層内水経路を通じて燃料極側セパレータ5の燃料ガス用溝5aに導かれ、引き続き外部に排出される。
【0024】
以上説明したように、この燃料電池によれば、空気拡散層6には、内壁面が電気化学的酸化処理により親水化され電池反応により空気極触媒層7で生成された反応生成水を空気極側セパレータ1の酸素ガス用溝1aに導く空気拡散層内水経路15が形成されている。
従って、反応生成水は、水の通過抵抗の小さい空気拡散層内水経路15を通じて円滑に外部に排出され、それだけ空気拡散層6内に滞留する生成水が占める割合が低減される、即ち空気拡散層6における空孔割合が増加し、酸素ガスは空気極触媒層7に円滑に送られるので、出力電圧が向上する。
【0025】
また、燃料拡散層8には、内壁面が電気化学的酸化処理により親水化され燃料拡散層8内の水を燃料極側セパレータ5の燃料ガス用溝5aに導く燃料拡散層内水経路が形成されているので、空気拡散層6と同様に、燃料拡散層8内に滞留する液相水が占める割合が低減される、即ち燃料拡散層8における空孔割合が増加し、水素ガスは空気極触媒層9に円滑に送られるので、出力電圧が向上する。
【0026】
また、撥水化処理された、カーボン繊維からなるガス拡散層材料11を密閉された電解槽10の希硝酸溶液中に浸漬し、電解槽10内を加圧して空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路を形成したので、空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路は、水が通過し易い部位、即ち水の通過抵抗の小さい部位に、空気拡散層内水経路15及び燃料拡散層内水経路が自動的に形成される。
しかも、この空気拡散層内水経路15及び燃料拡散層内水経路に希硝酸溶液が浸入するので、親水化処理を必要とするそれぞれの内壁面は、効率良く親水化される。
【0027】
また、撥水化処理液としてフッ素樹脂ディスパージョンが用いられているので、カーボン繊維表面の一部に島状にフッ素樹脂が付着し、表面にフッ素樹脂が付着していない、即ち撥水化されていない部位では、効率良く親水化処理を行うことができる。
【0028】
なお、この実施の形態の燃料電池では、ガス拡散層材料11は導電性のカーボン繊維で構成されているので、直流電源13によりガス拡散層材料11と対極12との間で電圧を印加することで、電気化学的酸化によって親水基を空気拡散層内水経路15の内壁面に付与して親水化処理を施したが、ガス拡散層材料11を単に酸化力の高い水溶液中に浸漬することで親水化処理を施すようにしてもよい。
また、電解液として希硝酸溶液以外のものであってもよいのは勿論であり、硫酸やリン酸などの他の種類の無機酸やアルカリ水溶液、無機塩水溶液等も用いることが出来る。
また、空気拡散層6は、空気極触媒層7側にカーボン粒子からなる導電性多孔層が設けられたものでもよい。
また、燃料拡散層8は、燃料極触媒層9側にカーボン粒子からなる導電性多孔層が設けられたものでもよい。
【0029】
さらに、親水化処理工程の前に、ガス拡散層材料11の一面から内部に通じる孔を予め形成するようにしてもよい。
このように、ガス拡散層材料11に予め物理的に孔を形成した場合には、電解槽10内を加圧して空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路を形成する際の時間が短縮されるとともに、空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路は、液相水が多量に滞留し易い部位を予め選択して形成することで、液相水を効率よく外部に排出することができる。
【0030】
さらに、ガス拡散層材料11の一面から他面まで貫通した貫通孔を予め形成するようにした場合には、加圧して空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路を形成する工程は不要になるとともに、空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路は、液相水が多量に滞留し易い部位を予め選択して形成することができる。しかも、空気拡散層内水経路15、燃料拡散層内水経路は直線状であり、液相水の通過抵抗はそれだけ小さくなり、液相水を効率よく外部に排出することができる。
【0031】
次に、この発明の実施の形態1に係る燃料電池、及び関連した燃料電池の具体例である実施例1〜3、及び比較例1〜3について説明する。
実施例1.
空気拡散層6の材料としてはカーボンペーパー(東レ製 TGP-H090)を用いた。
この空気拡散層6の材料を希釈したフッ素樹脂ディスパージョン液に浸漬し、約400℃で焼成することでフッ素樹脂をカーボン繊維表面に定着させた。フッ素樹脂のコーティング量はカーボンペーパー重量の約5%であった。
この撥水処理済みのカーボンペーパー(ガス拡散層材料11)を電解槽10内の0.5mol/lの濃度の希硝酸溶液中に浸漬し、浮き上がらないように治具で保持した。但し、端部の一部を液面から上に出し電気的接合が行えるようにした。
電解槽10を圧力計14で10kPaに調節した窒素ガスラインに接続し、電解層10内全体を加圧した。
このカーボンペーパーを陽極とし、浸漬したカーボン板からなる対極12との間で電圧を印加し、約15分保持しカーボンペーパーの接液表面を酸化親水処理した。
フッ素樹脂で撥水処理したカーボンペーパーの表面は、フッ素樹脂が付着している部分とカーボン繊維が露出している部分とが混在している。このカーボンペーパー表面の親水/撥水性は、フッ素樹脂及びカーボン繊維表面の濡れ性のバランスで決まる。
こうした電解酸化によって親水処理を行った部分は、処理前に比較して相対的に撥水性が低下する。
なお、燃料拡散層8についても、空気拡散層6と同じ手順で製造した。
【0032】
次に、空気極触媒層7を形成するために、空気触媒粒子として白金をカーボンブラック上に50wt%担持したものを用意し、燃料極触媒層9を形成するために、燃料触媒粒子として白金-ルテニウム系金属をカーボンブラック上に50wt%担持したものを用意した。
そして、空気触媒粒子1重量部に水1重量部、パーフルオロ系高分子電解質溶液3重量部を添加し、攪拌混合して均一な状態の空気触媒ペーストを得た。
また、燃料触媒粒子1重量部に水1重量部、パーフルオロ系高分子電解質溶液6重量部を添加し、攪拌混合して均一な状態の燃料触媒ペーストを得た。
その後、上記空気触媒ペースト及び上記燃料触媒ペーストをそれぞれ別々にPETフィルム上に所定サイズにスクリーン印刷した後に乾燥して空気極触媒層7、燃料極触媒層9を得た。
【0033】
次に、高分子電解質膜3と触媒層7,9とが接合された、所謂膜−触媒接合体の製造手順について説明する。
高分子の高分子電解質膜3として厚さ50μmのデュポン社製Nafion(登録商標)膜を用いた。高分子電解質膜3の大きさは空気極触媒層7及び燃料極触媒層9の外形よりも全周で7mm大きくなるようにトリミングした。
次に、高分子電解質膜3と、空気極触媒層7及び燃料極触媒層9がそれぞれ形成されたPETフィルムとを、空気極触媒層7及び燃料極触媒層9がそれぞれ高分子電解質膜3に接触するように積層し、140℃で3分間ホットプレスした。このプレスによって空気極触媒層7及び燃料極触媒層9はPETフィルムから高分子電解質膜上に転写され、空気極触媒層7、燃料極触媒層9および高分子電解質膜3が一体化した膜−触媒接合体を得た。
【0034】
次に、空気拡散層6及び燃料拡散層8にガスシール部を形成するために、空気拡散層6及び燃料拡散層8の外形寸法が、空気極触媒層7及び燃料極触媒層9の外形寸法よりも一周の長さが2mm大きくなるように加工する。また、厚み240μmのポリオレフィン系熱可塑樹脂シートを、外形寸法が、空気拡散層6及び燃料拡散層8の外形寸法よりも一周の長さが20mm大きくなるように加工する。さらに、この熱可塑樹脂シートの中央部に空気極触媒層7及び燃料極触媒層8の外形と同じ大きさの窓を開けた。
そして、熱可塑樹脂シートと空気拡散層6とをカーボン粒子からなる導電性多孔層が熱可塑樹脂シート側にくるようにして全周の重なりが均一になるように積層し、全体を120℃で2分間ホットプレスすることでガスシール付き空気拡散層6を得た。
また、熱可塑樹脂シートと燃料拡散層8とをカーボン粒子からなる導電性多孔層が熱可塑樹脂シート側にくるようにして全周の重なりが均一になるように積層し、全体を120℃で2分間ホットプレスすることでガスシール付き燃料拡散層8を得た。
【0035】
次に、高分子電解質膜3の両面にそれぞれ空気極2及び燃料極4が接合された、所謂膜電極接合体の製造手順について説明する。
ガスシール付き空気拡散層6とガスシール付き燃料拡散層8とで膜−触媒接合体をガスシールが膜−触媒接合体に面するようにして挟み込み、全体を120℃で1分間ホットプレスすることで膜電極接合体を得た。
【0036】
次に、性能評価用セルの製造について説明する。
この膜電極接合体をカーボン製のセパレータ1,5で両側から挟み、その外部から、発熱体を内蔵した金属板で面圧をかけて、性能評価用セルを製造した。
セパレータ1,5のガス流路を形成する溝1a,5aは、サーペンタイン型であり、溝1a,5aの幅は0.8mm、隣接した溝1a,5a間の幅も0.8mmとした。
【0037】
次に、性能評価用セルの運転と特性の評価について説明する。
性能評価用セルを外部負荷に接続し、燃料極4側には常圧の水素ガスを、空気極2側には常圧の空気を供給して発電を行った。
水素ガスの利用率は70%に、空気の酸素利用率は40%になるように流量を設定した。水素ガス、空気は、共に外部加湿器で加湿を行ってからセルに供給した。また、セルの温度は75℃になるように発熱体によって温度調節した。
水素ガス、空気の湿度については両極2,4ともに露点75℃となるように外部加湿器を調節した。そして、運転開始後24時間時点で電流密度250mA/cmと500mA/cmにおける電圧を測定した。
【0038】
実施例2.
この実施例2は、親水化処理工程の前に、撥水化処理されたカーボン繊維の一面から他面に貫通した貫通孔を形成した例である。
ガス拡散層材料11に対して予め貫通孔を穿孔しておくと、その部分には電解酸化処理時に優先的に電解液が侵入するため、親水パスを積極的に設計することが可能になる。
このことを検証するために撥水処理後のカーボンペーパーを穿孔加工した。
次に、空気拡散層6への穿孔方法について説明する。
貫通孔を形成するための貫通孔形成用金型として厚さ10mmの金属板の表面に機械加工によって多数の突起を形成したものを用いた。突起の形状は、相対する面のなす角度が30°の正方形断面の四角錐である。この四角錐を格子間距離1.2mmの正方格子状に配列した。
【0039】
カーボンペーパーを厚さ25μmのPETフィルムで挟んで貫通孔用金型の上に置き、さらにその上に厚さ200μmの軟質ポリエチレンフィルムと厚さ5mmのポリカーボネート板を重ね、平板プレスで全体を加圧した。
加圧時に貫通孔用金型の突起はPETフィルム、カーボンペーパーを貫通し、突起の先端がポリエチレンフィルムの中にくい込んでいた。
次に、穿孔されたカーボンペーパーを超音波洗浄して脱落した炭素繊維を除去した。カーボンペーパーには頭切の四角錐の貫通孔が穿孔され、顕微鏡観察を行ったところ、一方の開口部は一辺約240μm、他方の開口部は一辺約80μmの正方形状であった。このカーボンペーパーに対して加圧せず、それ以外は実施例1と同条件下で電解酸化処理を行った。
また、燃料拡散層8についても空気拡散層6と同様にして製造した。
そして、大きな方の開口部をセパレータ1,5の面に、小さな開口部を触媒層7,9の面に接するように膜電極接合体を作製した。
その後、実施例1と同じ手順で性能評価用セルを製造し、同じ条件下で運転を行った。
【0040】
実施例3.
この実施例3は、親水化処理工程の前に、穿孔及び加圧を併用した例である。
この実施例3では、電解酸化による親水処理の際に10kPaの加圧を行うこと以外は実施例2と同様にして膜電極接合体を作製し、また実施例1と同じ手順で性能評価用セルを製造した。
この性能評価用セルについても、同じ条件下で運転を行い、電圧を測定した。
【0041】
比較例1.
この比較例1は、撥水化処理のみを行い、穿孔及び親水化処理をしなかった例である。
この比較例1では、撥水処理を行い、親水化処理を行わないカーボンペーパーから、膜電極接合体を作製した。
その後、実施例1と同じ手順で性能評価用セルを製造し、同じ条件下で運転を行った。
【0042】
比較例2.
この比較例2は、親水化処理を行うも、撥水化処理によりフッ素樹脂の付着量が多い場合の例である。
この比較例では、フッ素樹脂のカーボン繊維表面上のコーティング量はカーボンペーパー重量の約20%であり、実施例1と比較して約4倍のフッ素樹脂のコーティング量であり、その他は実施例1と同様にして膜電極接合体を作製した。
その後、実施例1と同じ手順で性能評価用セルを製造した。
この性能評価用セルについても、同じ条件下で運転を行い、電圧を測定した。
【0043】
比較例3.
この比較例3は、穿孔を行わず、また親水化処理の際、加圧しない例である。
この比較例3では、カーボンペーパー親水化処理する際に、加圧することなく、常圧で電解酸化を行った。その他は実施例1と同様にして膜電極接合体を作製した。
その後、実施例1と同じ手順で性能評価用セルを製造した。
この性能評価用セルについても、同じ条件下で運転を行い、電圧を測定した。
【0044】
以上、実施例1〜3、比較例1〜3の測定結果を図4に示す。
運転開始後24時間時点で電流密度250mA/cmと500mA/cmにおける測定電圧を比較すると、貫通孔を予め形成されたガス拡散層材料11について、加圧下で親水化処理した実施例1の例の電圧値が、一番大きく、貫通孔の無いガス拡散層材料11について、加圧無しに親水化処理した比較例3の例の電圧値が、一番小さいことが分かる。
この測定結果からも本願発明による燃料電池を用いることで出力電圧が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施の形態1の固体高分子型燃料電池のセルを示す部分断面図である。
【図2】撥水化されたガス拡散層材料の一部を親水化処理する例を示した概略図である。
【図3】図3(A)〜図3(C)は、ガス拡散層材料から空気拡散層内水経路を有する空気拡散層が形成されるまでの様子を示す図である。
【図4】固体高分子型燃料電池の実施例、及び比較例における出力電圧の測定値を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 空気極側セパレータ、2 空気極、3 高分子電解質膜、4 燃料極、5 燃料極側セパレータ、6 空気拡散層、7 空気極触媒層、8 燃料拡散層、9 燃料極触媒層、10 電解槽、11 ガス拡散層材料、15 空気拡散層内水経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の一面に面接触した燃料極と、この燃料極に面接触しているとともに燃料極に供給される水素ガスが流通する溝を有する燃料極側セパレータと、前記高分子電解質膜の他面に面接触した空気極と、この空気極に面接触しているとともに空気極に供給される空気が流通する溝を有する空気極側セパレータとを備え、
前記空気極は、表面が撥水化処理されたカーボン繊維を有する空気拡散層と、この空気拡散層の前記高分子電解質膜側の面に接触した空気極触媒層とから構成された固体高分子型燃料電池において、
前記空気拡散層には、前記空気極側セパレータの前記溝に連通する、内壁となる前記カーボン繊維の表面が酸化処理により親水化された空気拡散層内水経路が形成されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
前記空気拡散層は、前記空気極触媒層側にカーボン粒子からなる導電性多孔層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
前記燃料拡散層には、前記燃料極側セパレータの前記溝に連通する、内壁となる前記カーボン繊維の表面が酸化処理により親水化された燃料拡散層内水経路が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項4】
前記燃料拡散層は、前記燃料触媒層側にカーボン粒子からなる導電性多孔層が設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項5】
請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法であって、
前記空気拡散層の製造工程は、
前記カーボン繊維を撥水化処理液に浸漬し、表面を撥水化処理する撥水化処理工程と、
撥水化処理された前記カーボン繊維を密閉された電解槽の電解液中に浸漬し、電解槽内を加圧して前記空気拡散層内水経路を形成する経路形成工程と、
前記空気拡散層内水経路内のカーボン繊維の表面を電気化学的酸化により酸化処理して親水化する親水化処理工程と
を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法であって、
前記燃料拡散層の製造工程は、
カーボン繊維を撥水化処理液に浸漬し、表面を撥水化処理する撥水化処理工程と、 撥水化処理された前記カーボン繊維を密閉された電解槽の電解液中に浸漬し、電解槽内を加圧して前記燃料拡散層内水経路を形成する経路形成工程と、
前記燃料拡散層内水経路内のカーボン繊維の表面を電気化学的酸化により酸化処理して親水化する親水化処理工程と
を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記親水化処理工程の前に、撥水化処理された前記カーボン繊維の一面から内部に通じる孔を形成することを特徴とする請求項5または6に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記孔は、前記カーボン繊維の一面から他面まで貫通した貫通孔であることを特徴とする請求項7に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記撥水化処理工程では、前記撥水化処理液としてフッ素樹脂ディスパージョンが用いられることを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−32542(P2009−32542A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195650(P2007−195650)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高温熱利用型MEAの研究開発」委託契約、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】