説明

固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜とその製造方法および膜電極接合体

【課題】燃料電池セルとしたときに、セルのシール性向上を図ることのできる電解質膜および膜電極接合体、また、シール性の向上した燃料電池セルを提供する。
【解決手段】固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜10に溶融して電解質膜10と一体化する電解質樹脂による10〜500μmの高さのシール用リブ12を一体成形する。それを用いてガス拡散電極及びセパレータから該高分子電解質膜が延出した膜電極接合体20を作り、さらに燃料電池セル30とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜とその製造方法、および該電解質膜を備えた膜電極接合体と燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一形態として固体高分子形燃料電池が知られている。固体高分子形燃料電池は他の形態の燃料電池と比較して作動温度が低く(80℃〜100℃程度)、低コスト、コンパクト化が可能なことから、自動車の動力源等として期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、図8に示すように、膜電極接合体(MEA)50を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータ51,51で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池セル52を形成している。膜電極接合体50は、イオン交換膜である固体高分子電解質膜55の一方側にアノード側の触媒層56aとガス拡散層57aからなるアノード側ガス拡散電極58aを積層し、他方の側にカソード側の触媒層56bとガス拡散層57bからなるアノード側ガス拡散電極58bを積層した構造を有する。
【0004】
単セル52において、ガス拡散電極58a,58bとセパレータ51の間のガス流路を確保しつつ、セル外部へのガスの漏洩や燃料ガスと酸化剤ガスの混入を防止することが必要となる。膜電極接合体50では、電解質膜55の表面にガス拡散電極58a,58bが積層されることから膜電極接合体50に段差が形成され、セパレータ51で膜電極接合体50を挟持して燃料電池セル52を形成する場合に、その段差に起因して形成される隙間をシールする必要がある。通常、そのために、ガス拡散電極58a,58bの端部側から延出する電解質膜55の上にシール用の樹脂材料59をセパレータ51に達する高さに塗布し、加熱硬化することによりシール部を構成してシール性を確保するようにしている。
【0005】
燃料電池セル52における前記段差に起因する隙間をシールするための他の技術として、特許文献1には、図9に示すように、電解質膜55のガス拡散電極58a,58bの端部から側方に延出して部分55aを覆うようにして、突起59bを有するゴム状の弾性体等からなるシール材59aを設け、セパレータ51で膜電極接合体50を挟持して燃料電池セル52としたときに、該突起59bがセパレータ51に形成した凹部51a内に圧着された状態で入り込むようにしている。
【0006】
なお、固体高分子型燃料電池セルにおいて、電解質膜としては、電解質樹脂(イオン交換樹脂)であるパーフルオロスルホン酸ポリマーの薄膜(米国、デュポン社、ナフィオン膜)が主に用いられる。また、電解質樹脂単独の薄膜では十分な強度が得られないことから、特許文献2に記載のように、多孔質補強膜(例えば、PTFEやポリオレフィン樹脂等を延伸して作成した薄膜)に、溶媒に溶解したポリマー(電解質樹脂)を含浸させ、乾燥後に電解質ポリマーにイオン交換基を導入するようにした補強型電解質膜も知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平2006−4677号公報
【特許文献2】特開平9−194609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、膜電極接合体に形成される段差に起因して生じる、電解質膜とセパレータとの間の隙間をシールするために、従来の燃料電池セルでは、別材料であるシール材を電解質膜の縁部に塗布するか、別材料であるシール材で電解質膜の縁部を被覆するようにしている。シール材を塗布し加熱硬化させる方法は、シール材の塗布ムラによる漏れの発生が生じやすく、また、長時間の加熱・加熱硬化が必要となるために、膜電極接合体にダメージを与えやすい。また、シール材の加熱硬化ムラによる漏れも発生する。
【0009】
ゴム状の弾性体等からなるシール材で電解質膜の縁部を覆うようにしたシール手段の場合は、シール材がセパレータ側に圧着されることで高いシール効果が得られるものと期待できるが、その製造は容易でない。また、シール材との位置ずれが生じやすい不都合もある。
【0010】
また、いずれにしても、従来の燃料電池セルでのシール技術には、電解質膜とは異なる材料を電解質膜とセパレータとの間に介在させるようにしており、電解質膜とシール材との間に界面が形成されるのを避けられず、そこからシール破壊が生じる恐れがある。
【0011】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池セルにおいて、膜電極接合体を構成する電解質膜とセパレータとの間に形成される隙間を、より完全に封止することでできる電解質膜およびその製造方法を提供することを目的とする。また、その電解質膜を用いた膜電極接合体と燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による電解質膜は、固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜であって、基本的に、当該電解質膜に、溶融して電解質膜と一体化する樹脂または電解質樹脂による所定高さのシール用リブが一体成形されていることを特徴とする。多孔質補強膜を備えた補強型の電解質膜であってもよい。シール用リブの高さは、この電解質膜を用いて膜電極接合体とするときのガス拡散電極の厚さに応じて設定されるが、通常の固体高分子型の燃料電池セルで用いる膜電極接合体の場合であれば、10〜500μmの範囲である。
【0013】
電解質膜を構成する電解質樹脂は、従来使用されている電解質樹脂であってよいが、後に説明する製造方法を採用する場合には、熱劣化しないフッ素型電解質樹脂が好ましく、その場合、製造された電解質膜に対して、従来知られた方法により加水分解処理などによる電解質ポリマーにイオン交換性を付与する処理が施されて、電解質膜とされる。
【0014】
本発明による電解質膜では、シール用リブは電解質膜本体と界面のない状態で一体に成形されるので、両者間での安定したシール性が確保される。
【0015】
本発明はさらに本発明による電解質膜を備えた膜電極接合体として、上記した電解質膜と、該電解質膜の両面に積層されたガス拡散電極とを備えた膜電極接合体であって、前記電解質膜は前記ガス拡散電極より大きく形成されてガス拡散電極の端部から側方に延出しており、前記所定高さのシール用リブは前記電解質膜の延出部に前記ガス拡散電極の厚さを超える高さで一体成形されている膜電極接合体を開示する。
【0016】
本発明はさらに、上記した膜電極接合体とそれを挟持するセパレータとを有し、前記電解質膜に一体成形されたシール用リブの頂部がセパレータに衝接いる構成を備えることを特徴とする燃料電池セルをも開示する。
【0017】
上記の膜電極接合体および燃料電池セルでは、高いシール性が確保できるので、燃料電池セル外部へのガスの漏洩や燃料ガスと酸化剤ガスの混入(ガスクロス)が生じるのを確実に抑制することができる。
【0018】
本発明は、上記した電解質膜を製造する方法の第1の形態として、樹脂吐出口の両側縁近傍に前記シール用リブに対応する深さの凹溝を有しているダイを用い、加熱溶融した電解質樹脂を前記ダイの樹脂吐出口から押し出すことにより、長尺状の電解質膜の両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形する工程を少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法を開示する。
【0019】
上記第1の形態の製造方法において、従来知られた混練押出し装置により加熱溶融させた電解質樹脂がダイに送られ、加熱溶融した電解質樹脂がダイの樹脂吐出口から薄膜状かつ長尺状に連続して押し出される。ダイの樹脂吐出口の両側縁近傍には、製造しようとする電解質膜に形成する前記シール用リブに対応する深さの凹溝が形成されており、押し出される溶融電解質樹脂の両側縁近傍には、電解質膜本体と一体にシール用リブが凸状に形成される。前記したように、この製造方法による場合は、電解質樹脂として、熱劣化しないフッ素型電解質樹脂を用いることが望ましく、その場合、押し出し後に、冷却および加水分解処理などによる電解質ポリマーにイオン交換性を付与する処理が施されて、電解質膜となる。
【0020】
本発明による電解質膜の製造方法の第2の形態は、多孔質補強膜が通過する膜通過路と、該膜通過路の出口部の両側縁近傍に形成される前記シール用リブに対応する深さの凹溝と、該膜通過路を通過する多孔質補強膜の両側に位置する樹脂吐出口とを有するダイを用い、前記膜通過路に多孔質補強膜を通過させながら、加熱溶融した電解質樹脂を前記ダイの樹脂吐出口から押し出して多孔質補強膜に溶融電解質樹脂を含浸させ、樹脂を含浸した多孔質補強膜が膜通過路の出口部を通過するときに、該樹脂を含浸した多孔質補強膜の両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形して長尺状の補強型電解質膜としてダイから押し出す工程を少なくとも含むことを特徴とする。
【0021】
この製造方法は、いわゆる補強型電解質膜を製造する場合の方法である。使用する電解質樹脂およびダイに加熱溶融した電解質樹脂を供給する方法は、前記した第1の形態の製造方法と同じであってよい。使用する多孔質補強膜は、従来から使用されているものをそのまま用いることができ、例として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やポリオレフィン樹脂等を1軸方向または2軸方向に延伸して作成した多孔質補強膜が挙げられる。厚さは5〜50μm程度が好ましい。
【0022】
この場合も、ダイから押し出される多孔質補強膜を備えた電解質膜の両側縁近傍には、電解質膜本体と一体にシール用リブが凸状に形成される。前記したように、この製造方法による場合も、電解質樹脂として、熱劣化しないフッ素型電解質樹脂を用いることが望ましく、その場合、押し出し後に、冷却および加水分解処理などによる電解質ポリマーにイオン交換性を付与する処理が施されて、補強型電解質膜となる。
【0023】
上記したいずれの製造方法による場合も、長尺状の電解質膜の両側縁近傍にシール用リブが一体成形された電解質膜が得られる。燃料電池セル用の電解質膜として実際に用いる場合には、該長尺状の電解質膜を所定の幅で裁断し矩形状の電解質膜とする。その場合、裁断した方の2つの側辺近傍にはシール用リブが形成されていない。該両側辺に対して、前記特許文献1あるいは特許文献2等に記載される従来法によるシール技術を採用して、燃料電池セルを構成することもできる。しかしその場合、全周縁において、均一なシール性を確保することが困難となる。
【0024】
それを解決するための電解質膜の製造方法として、本発明は、上記のようにして製造された両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形した長尺状の電解質膜を所定幅で裁断して矩形状電解質膜とする工程と、矩形状電解質膜におけるシール用リブが一体成形されていない2つの側辺に沿って重畳部を形成する工程と、少なくとも形成した重畳部を例えば加熱ダイを用いて挟み込み加熱溶融させて電解質樹脂による所定高さのシール用リブ電解質膜に一体形成する工程、とをさらに含むことを特徴とする膜電極接合体の製造方法をも開示する。
【0025】
上記の製造方法において、重畳部を形成する工程は、当該側辺側を側縁に沿って折り曲げるあるいは丸め込む等の手法により行うことができる。重畳して厚みの増した箇所を例えば加熱ダイで挟み込みこむことにより、その領域の電解質樹脂は再び溶融し、加熱ダイに形成した凹溝の形状に応じたシール用リブが電解質膜本体と一体化して形成される。その後、必要な場合には、加水分解処理等を行うことにより、4周に電解質膜本体と一体化した電解質樹脂からなるシール用リブを形成した電解質膜が得られる。加熱ダイに形成する凹溝形状は、当該側縁に求められるシール用リブの形状に応じて、適宜設定する。
【0026】
本発明は、本発明による電解質膜の他の製造方法として、前記シール用リブを備えない電解質膜を作成する工程と、作成した電解質膜におけるシール用リブを形成すべき部位に溶融して電解質膜と一体化する樹脂粒子または電解質樹脂粒子を散布する工程と、および、散布した前記樹脂粒子または電解質樹脂粒子を加熱溶融して前記樹脂粒子または電解質樹脂による所定高さのシール用リブを電解質膜に一体成形する工程、とを少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法をも開示する。
【0027】
この製造方法では、出発材料として上記したようなシール用リブを備えない従来から用いられている電解質膜を用いる。この電解質膜の製造方法は任意であり制限はない。溶融電解質樹脂をダイから押し出して得られる平坦な電解質膜でもよい。多孔質補強膜を備えた補強型電解質膜であってもよい。
【0028】
電解質膜におけるシール用リブを形成すべき部位に所要厚みに溶融して電解質膜と一体化する樹脂粒子または電解質樹脂粒子を散布する。溶融して電解質膜と一体化する樹脂粒子としては、例えばフッ素系樹脂であるPFA,FEP,ETFE,PVDFなどが挙げられる。散布する電解質樹脂粒子は、加熱溶融により電解質膜本体と一体化することを条件に、任意の電解質樹脂粒子を用いることができる。電解質膜本体を形成する電解質樹脂と同じ樹脂の粒子であることは、より好ましい。樹脂粒子の粒径は10μm以上であることが作業性の点から好ましい。
【0029】
散布した樹脂粒子または電解質樹脂粒子を例えば加熱ダイで挟み込み、加熱溶融させることにより、所定高さのシール用リブが電解質膜に一体成形される。この場合も、シール用リブの高さは、電解質膜を用いて膜電極接合体とするときのガス拡散電極の厚さに応じて設定されるが、通常の固体高分子型燃料電池セルで用いる膜電極接合体の場合であれば、10〜500μmの範囲である。
【0030】
なお、この製造方法は、単膜としての電解質膜に対して適用してもよく、その場合には、シール用リブが一体成形された電解質膜に対してガス拡散電極を形成して膜電極接合体とされる。また、予め膜電極接合体を形成し、該膜電極接合体のガス拡散電極の端部から側方に延出している電解質膜に対してこの製造方法を適用することもできる。いずれの場合も、樹脂粒子は加熱溶融処理がされるので、熱劣化しないフッ素型電解質樹脂粒子を用いることが望ましく、その場合、シール用リブが一体成形された電解質膜(あるいは膜電極接合体)に対して、加水分解処理などによる電解質ポリマーにイオン交換性を付与する処理が施される。
【0031】
本発明は、本発明による電解質膜のさらに他の製造方法として、シール用リブを備えない電解質膜を作成する工程と、作成した電解質膜おけるシール用リブを形成すべき部位を除いた部位を電解質膜の軟化点以上の温度でプレスする工程、とを少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法をも開示する。この製造方法によれば、より簡単な工程で所定高さのシール用リブが一体成形された電解質膜を得ることができる。プレスする領域は、プレス後の電解質膜を用いて膜電極接合体とするときに、ガス拡散電極が形成される領域のみであってもよい。その場合、ガス拡散電極の厚みにほぼ等しい深さだけ、電解質膜をプレスして両側に凹陥部を形成することがより好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、燃料電池セルとしたときに、セルのシール性向上を図ることのできる電解質膜および膜電極接合体が得られる。また、シール性の向上した燃料電池セルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明を実施の形態に基づき説明する。図1a,bは本発明による電解質膜の一例を模式的に示す図、図1cは本発明による膜電極接合体の一例を模式的に示す図、図1d,eは本発明による燃料電池セルの一例の断面を模式的に示す図である。図2と図3は本発明による電解質膜を製造する方法の第1の形態を模式的に説明する図、図4は本発明による電解質膜を製造する方法の第2の形態を模式的に説明する図、図5は本発明による電解質膜を製造する方法の第3の形態を模式的に説明する図、図6および図7は本発明による電解質膜を製造する方法のさらに他の形態を模式的に説明する図である。
【0034】
図1aに斜視図を、図1bに図1aのb−b線による断面図示すように、この固体高分子電解質膜10は全体として矩形状であり、矩形状である電解質膜本体11の4つの側縁に沿うようにして、その両面に、電解質膜本体11を構成する電解質樹脂と同じ電解質樹脂からなるシール用リブ12a〜12dが一体に成形されている。また、この例において、電解質膜10は延伸PTFEのような多孔質補強膜13を備えており、補強型電解質膜とされている。多孔質補強膜13は省略することもできる。また、シール用リブ12は、4つの側縁のすべてに沿って形成されなくてもよく、対向する2つの側縁のみに、シール用リブ12a、12bあるいは12c,12dが形成されていてもよい。
【0035】
図1cには、前記電解質膜10とガス拡散電極23a,23bからなる膜電極接合体20の断面が模式的に示される。電解質膜10の一方の面にアノード側の触媒層21aとガス拡散層22aからなるアノード側ガス拡散電極23aが積層され、他方の面にカソード側の触媒層21bとガス拡散層22bからなるアノード側ガス拡散電極23bが積層されている。電解質膜10はガス拡散電極23a,23bより大きく、ガス拡散電極23a,23bの4つの端部から側方に延出している。そして、シール用リブ12a〜12dは電解質膜本体11の前記延出部に、ガス拡散電極23a,23bの厚さを超える高さで一体成形されている。通常の固体高分子型燃料電池セルにおいて、シール用リブ12a〜12dの高さは10〜500μmの範囲である。
【0036】
図1cに示す膜電極接合体20を用いて燃料電池セル30を形成する。図1dに示すように、膜電極接合体20の両側に、ガス流路31を備えたセパレータ32が配置され、必要に応じて、シール用リブ12a〜12dには微量の接着剤が塗布される。その状態で全体を加圧して圧接することにより、図1eに示す燃料電池セル30とされる。前記したように、この燃料電池セル30は、シール用リブ12a〜12dが電解質膜本体11と同じ電解質樹脂で電解質膜本体11に一体成形されており、高いシール性が確保される。なお、シール用リブを構成する樹脂は、加熱溶融することにより電解質膜本体11と一体化する樹脂であればよく、電解質膜本体11を構成すると同じ電解質樹脂である必要はない。例えば、例えばフッ素系樹脂であるPFA,FEP,ETFE,PVDFなどを例として挙げることができる。
【0037】
次ぎに、本発明による電解質膜を製造する方法の一態様を、図2,図3を用いて説明する。この製造方法では、電解質樹脂としてフッ素型電解質樹脂が用いられ、その樹脂粒子が従来知られた樹脂混練押し出し装置(不図示)に投入されて加熱・混練される。それにより溶融した電解質樹脂pが、図2aに示すように、ダイ1に圧送られる。ダイ1は図2bにその断面を示す形状の樹脂吐出口2を有しており、そこから電解質樹脂pが押し出される。
【0038】
図2bに示すように、樹脂吐出口2は全体として縦幅aに比して横幅bが大きい扁平形状であり、その横幅方向の両側縁近傍には凹溝3a,3aが形成されている。従って、ダイ1に送り込まれた溶融電解質樹脂pは、図2aに示すように、厚みa、横幅bである長尺状の電解質薄膜11aとして樹脂吐出口2から押し出され、図2cに図2aのc−cに沿う断面を示すように、押し出された電解質薄膜11aの両面には、その両側辺に沿うようにして、樹脂吐出口2に形成した凹溝3a,3aの形状に応じた形状の突条11b、11bが一体に形成される。なお、図では凹溝3a,3aの断面形状を半円形状として示したが、断面形状は、三角形状、楕円形状、矩形状など任意の形状であってよい。
【0039】
長尺状の電解質薄膜11aは、冷却後に、図3aに示すように、所定の縦長さcで裁断され矩形状の電解質膜10aとされる。この電解質膜10aと図1a,bに示した電解質膜10とを対比すると、電解質薄膜11aが電解質膜本体11に相当し、2つの突条11b、11bがシール用リブ12a,12bに相当する。裁断した2つの側辺14側にはシール用リブを備えないが、燃料電池セルの形態によってはこの形状で電解質膜として使用することもできる。
【0040】
図1a,bに示す電解質膜10のように、4つの側縁に沿ってシール用リブを有する電解質膜とする場合には、図3bに示すように、前記裁断した2つの側辺14,14に沿って丸め込むあるいは折り曲げる等により、重畳した部分15を形成する。次ぎに、加熱ダイ等を用いて、少なくとも形成した重畳部15を加熱溶融する。それにより、図3cに示すように、電解質膜本体11の裁断側の2つの側辺14,14に沿って、シール用リブ16,16が電解質膜11と一体化した状態で成形され、図3dに示すように、4周にシール用リブを備えた電解質膜10bとなる。なお、この電解質膜10bは図1a,bに示した電解質膜10から多孔質補強膜13を除いたものに相当しており、図3dでは、相当する部材には、図1aで用いたと同じ符号を付している。
【0041】
次ぎに、図1a、bに示した多孔質補強膜13を持つ電解質膜10を製造する場合の製造方法の一形態を、図4に基づき説明する。この方法では、図4aに示す形状のダイ1Aを用いる。ダイ1Aは、前記した多孔質補強膜13が通過する膜通過路4と、該膜通過路4を通過する多孔質補強膜13の両側に位置する樹脂吐出口5a,5bとを有している。各樹脂吐出口5a,5bは樹脂供給路6a,6bに連通しており、該樹脂供給路6a,6bには、電解質樹脂の混練押し出し装置から、例えばフッ素型電解質である加熱溶融した電解質樹脂pが所定圧の下で供給される。前記膜通過路4の出口部7の形状は、図2に示したダイ1の樹脂吐出口2と同様であり、図4bに示すように、全体として縦幅aに比して横幅bが大きい扁平形状であり、その横幅方向の両側縁近傍には凹溝3a,3aが形成されている。
【0042】
樹脂供給路6a,6bに供給された溶融電解質樹脂pは、各樹脂吐出口5a,5bから所定圧で押し出され、多孔質補強膜13内に両側から含浸すると共に、当該樹脂pの粘弾性により作られる押し出し力により、樹脂pを含浸した多孔質補強膜13は前記膜通過路4の出口部7から補強型電解質薄膜11cとして長尺状に押し出される。押し出される補強型電解質薄膜11cは、図4cに断面を示すように、厚みa、横幅bであり、かつ内部に多孔質補強膜13を有している。また、補強型電解質薄膜11cの両面には、その両側辺に沿うようにして、樹脂吐出口7に形成した凹溝3a,3aの形状に応じた形状の突条11b、11bが一体に形成される。なお、この場合も、凹溝3a,3aの断面形状は、三角形状、楕円形状、矩形状など任意の形状であってよい。説明は省略するが、得られた長尺状の電解質薄膜11cは、先に図3に基づき説明したと同様な処理が施されて、図1aに示す補強型電解質膜10とされる。
【0043】
次ぎに、本発明による電解質膜を製造する方法の第3の形態を、図5を参照して説明する。ここでは、出発材料として、図5aに示すように、前記したシール用リブを備えない電解質薄膜10sを用いる。電解質薄膜10sは任意の方法で製造したものでよく、図示しないが、多孔質補強膜を備えるものでもよい。この電解質薄膜10sにおけるシール用リブ12を形成すべき部位に、図5bに斜視図および断面図を示すように、好ましくは粒径10μm以上の加熱溶融可能な樹脂粒子paを所定の厚みに散布する。図示の例では、電解質薄膜10sに複数個のガス通過口17を形成し、その周囲に加熱溶融可能な樹脂粒子paを散布するようにしているが、上記した電解質膜10,10aのように4つの側辺に沿うようにして線状に加熱溶融可能な樹脂粒子paを散布してもよい。散布する加熱溶融可能な樹脂粒子paは、加熱溶融により電解質薄膜10sと一体化することを条件に、任意の加熱溶融可能な樹脂粒子を用いることができる。例えば、フッ素系樹脂であるPFA,FEP,ETFE,PVDFなどが挙げられる。加熱溶融可能な樹脂粒子が電解質薄膜10sを形成する電解質樹脂の同じ樹脂の粒子であることがより望ましい。
【0044】
次ぎに、図5cに示すように、散布した加熱溶融可能な樹脂粒子paを、凹溝8を形成した加熱部9a,9aを備えた加熱ダイ9,9で挟み込み、加熱溶融させる。それにより、電解質薄膜10sには、溶融した樹脂粒子paによる所定高さのシール用リブ12が一体に成形され、図5dに示すように、本発明によるシール用リブ付の電解質膜10bが得られる。なお、この場合も、シール用リブ12の高さは、当然に、電解質膜10bを用いて膜電極接合体とするときのガス拡散電極の厚さに応じて設定される。
【0045】
図示しないが、図5dに示す電解質膜10bに対して、ガス拡散電極23a,23bを積層することにより膜電極接合体30とされる。また、予め、電解質薄膜10sにガス拡散電極23a,23bを積層した膜電極接合体20(図1参照)を形成しておき、該膜電極接合体のガス拡散電極の端部から側方に延出している電解質薄膜10aの領域における必要箇所に前記のようにして電解質樹脂粒子paを散布し、加熱溶融処理を施すようにしてもよい。
【0046】
図6は、本発明による電解質膜の製造方法のさらに他の態様を示している。この態様は前記図2に基づき説明した第1の形態を改良したものであり、図6aに示すようにしてダイ1を用いて長尺状に電解質薄膜11aを押し出す過程で、図6bに示すように、所定のタイミングで、ダイ1の樹脂吐出口2を所定幅に拡開し、所定時間後に元に戻す操作を反復する。それにより、図6cに示すように、押し出される電解質薄膜11aの横幅方向に、樹脂吐出口2が拡開している間だけ厚さが厚くなった領域11dが形成される。
【0047】
この方法によれば、長尺状に電解質薄膜11aの長手方向にはダイ1に形成した凹部3a,3aに基づく2本の凸条11b,11bが一体成形され、それと同時に、幅方向には所定の間隔でダイ1の開き幅と開き時間に応じた高さと幅の厚さが厚くなった領域11dを形成することができる。そのために、得られる長尺状の電解質薄膜11aを単に所定箇所で裁断するのみで、図6dに示す形状の電解質膜10bとすることができる。なお、図6dにおいて対応する部材には図1aと同じ符号を付している。
【0048】
図7は、本発明による電解質膜の製造方法のさらに他の2つの態様を示している。ここでは、従来知られた方法により、膜全体がほぼ同一膜厚の電解質膜を予備成形体として作成し、作成した電解質膜おける少なくともシール用リブを形成すべき部位を除いた部位を当該電解質膜の軟化点以上の温度で熱圧プレスして、ガス拡散電極の厚さ程度だけ膜厚を薄くするようにしている。電解質膜の膜厚が薄くされた領域にはガス拡散電極が形成され、周囲の膜厚の厚い部分はシール用リブとしての機能を果たす。
【0049】
具体的には、例えば、側鎖末端基−SOF型電解質前駆体樹脂により例えば膜厚10〜100μm程度のシール用リブを備えないほぼ同一膜厚の電解質薄膜(予備成形体)10sを作り、それを図7aに示すように、上下に熱盤41,41を持つ加熱プレス盤40により、当該電解質樹脂の軟化点以上の温度で、周辺部を残して熱圧プレスする。それにより、図7bに示すように、熱圧プレスされた箇所は薄肉の電解質膜本体部11となり、周辺部は厚みを保ったシール用リブ領域12とされた電解質膜10が得られる。
【0050】
電解質膜本体部11には加水分解処理を施し、側鎖末端基を−SOFから−SOHに置換する。その領域にガス拡散電極(不図示)が形成されて単セルとされる。周囲のシール用リブ領域12は厚さも厚く、かつ前駆体樹脂のままで維持されるので、電極周囲に集中しやすい応力に十分に耐えうる強い強度の電解質膜が得られる。
【0051】
図7cは他の成形方法を示しており、ここでは、予備成形体として、ほぼ同一膜厚の帯状電解質薄膜(予備成形体)10sを予め用意し、それを電極形状の凸部43を設けた上下一対の加熱ロール44,44の間に通過させるようにしている。上下一対の加熱ロール44,44が回転することにより、帯状電解質薄膜(予備成形体)10sの表裏には連続的に厚さの薄くされた領域(薄肉の電解質膜本体部11)がロール形成され、周辺部は厚みを保ったシール用リブ領域12として残される。所要の大きさに裁断することにより、図7bに示したと同様な電解質膜が得られる。
【0052】
なお、図7に示した製造態様において、電解質薄膜(予備成形体)10sとして、多孔質補強膜を備える電解質膜を用いることも当然に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1aは本発明による電解質膜の一例を模式的に示す図、図1bは図1aのb−b線による断面図、図1cは本発明による膜電極接合体の一例を模式的に示す断面図、図1dは本発明による燃料電池セルの一例を製造する過程を示す模式的断面図、図1eは製造後の燃料電池セルを模式的に示す断面図。
【図2】本発明による電解質膜を製造する方法の第1の形態を模式的に説明する図であり、図2aは電解質薄膜がダイから長尺状に押し出される状態を示しており、図2bはダイの樹脂吐出口を断面で示しており、図2cは図2aのc−c線による断面であり、押し出された電解質薄膜を断面で示している。
【図3】図2で得られた電解質膜をさらに加工する態様を示しており、図3aは所定幅に裁断された電解質膜を、図3bはその側辺に重畳部を形成する状態を、図3cは重畳部を加熱処理した後の状態を、図3dは加工処理後の電気脂質膜をそれぞれ示している。
【図4】本発明による電解質膜を製造する方法の第2の形態を模式的に説明する図であり、図4aは補強型電解質薄膜がダイから長尺状に押し出される状態を示しており、図4bはダイの膜通過路出口部を断面で示しており、図4cは押し出された電解質薄膜を断面で示している。
【図5】本発明による電解質膜を製造する方法の第3形態を模式的に説明する図であり、図5a〜図5dはその製造過程をそれぞれ説明している。
【図6】本発明による電解質膜を製造する方法のさらに他の態様を模式的に説明する図であり、図6a〜図3cはその製造過程をそれぞれ説明し、図6dは得られた電解質膜を示している。
【図7】本発明による電解質膜を製造する方法のさらに他の2つの態様を模式的に説明する図であり、図7aは加熱プレス盤を用いる態様を、図7cはロールプレスを用いる態様を模式的に示している。
【図8】従来の燃料電池セルの一例を示す模式的断面図。
【図9】従来の燃料電池セルの他の例を示す模式的断面図。
【符号の説明】
【0054】
p…溶融電解質樹脂、pa…電解質樹脂粒子、1,1A…ダイ、2…樹脂吐出口、3a,3a…凹溝、4…膜通過路、5a,5b…樹脂吐出口、6a,6b…樹脂供給路、7…膜通過路の出口部、9…加熱ダイ、10,10b…固体高分子電解質膜、10a…矩形状の電解質膜、10s…シール用リブを備えない電解質薄膜、11…電解質膜本体、11a…長尺状の電解質薄膜、11b…電解質樹脂からなる突条、11c…長尺状の補強型電解質薄膜、12,12a〜12d,16…シール用リブ、13…多孔質補強膜、14…裁断した側の2つの側辺、15…電解質樹脂が重畳した部分、17…ガス通過口、20…膜電極接合体、23a,23b…ガス拡散電極、30…燃料電池セル、31…ガス流路、32…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜であって、当該電解質膜に、溶融して電解質膜と一体化する樹脂による所定高さのシール用リブが一体成形されていることを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
固体高分子型燃料電池セル用の電解質膜であって、当該電解質膜に、電解質樹脂による所定高さのシール用リブが一体成形されていることを特徴とする電解質膜。
【請求項3】
多孔質補強膜を一体に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の電解質膜。
【請求項4】
シール用リブの高さは10〜500μmの範囲であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電解質膜と、前記電解質膜の両面に積層されたガス拡散電極とを備えた膜電極接合体であって、
前記電解質膜は前記ガス拡散電極より大きく形成されてガス拡散電極の端部から側方に延出しており、前記所定高さのシール用リブは電解質膜の前記延出部に前記ガス拡散電極の厚さを超える高さで一体成形されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体とそれを挟持するセパレータとを有し、前記電解質膜に一体成形されたシール用リブの頂部が前記セパレータに衝接する構成を備えることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項7】
請求項2に記載の電解質膜を製造する方法であって、樹脂吐出口の両側縁近傍に前記シール用リブに対応する深さの凹溝を有するダイを用い、加熱溶融した電解質樹脂を前記ダイの樹脂吐出口から押し出すことにより、長尺状の電解質膜の両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形する工程を少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項2に従属する請求項3に記載の電解質膜を製造する方法であって、
多孔質補強膜が通過する膜通過路と、該膜通過路の出口部の両側縁近傍に形成した前記シール用リブに対応する深さの凹溝と、該膜通過路を通過する多孔質補強膜の両側に位置する樹脂吐出口とを有するダイを用い、
前記膜通過路に多孔質補強膜を通過させながら、加熱溶融した電解質樹脂を前記ダイの樹脂吐出口から押し出して多孔質補強膜に溶融電解質樹脂を含浸させ、樹脂を含浸した多孔質補強膜が膜通過路の出口部を通過するときに、該樹脂を含浸した多孔質補強膜の両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形して長尺状の補強型電解質膜としてダイから押し出す工程を少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の電解質膜の製造方法であって、製造された両側縁近傍に電解質樹脂による所定高さのシール用リブを一体成形した長尺状の電解質膜を所定幅で裁断して矩形状電解質膜とする工程と、該矩形状電解質膜におけるシール用リブが一体成形されていない2つの側辺に沿って重畳部を形成する工程と、および、少なくとも形成した重畳部を加熱ダイで挟み込み溶融させて電解質樹脂による所定高さのシール用リブを電解質膜に一体に形成する工程、とをさらに含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の電解質膜の製造方法であって、前記シール用リブを備えない電解質膜を作成する工程と、作成した電解質膜におけるシール用リブを形成すべき部位に溶融して電解質膜と一体化する樹脂粒子または電解質樹脂粒子を散布する工程と、および、散布した前記樹脂粒子または電解質樹脂粒子を加熱溶融して前記樹脂粒子または電解質樹脂による所定高さのシール用リブを電解質膜に一体成形する工程、とを少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。
【請求項11】
散布する溶融して電解質膜と一体化する樹脂粒子または電解質樹脂粒子として、粒径が10μm以上のものを用いることを特徴とする請求項10に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項12】
請求項2に記載の電解質膜の製造方法であって、前記シール用リブを備えない電解質膜を作成する工程と、作成した電解質膜おける少なくともシール用リブを形成すべき部位を除いた部位を電解質膜の軟化点以上の温度でプレスする工程、とを少なくとも含むことを特徴とする電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−59927(P2008−59927A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236160(P2006−236160)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】