説明

固体高分子型燃料電池用電極触媒

【課題】 金属微粒子の分散性が一段と向上され、より優れた触媒性能を発揮する固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供する。
【解決手段】 導電性カーボン担体として、水分子を吸着種として求めたBET比表面積(S1)と窒素分子を吸着種として求めたBET比表面積(S2)との比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にあるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池用電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池用電極触媒として、例えば、特許文献1には、シランカップリング剤を付与した導電性カーボン担体に触媒金属を担持した電極触媒が記載されている。
【特許文献1】特開2006−344553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒は、金属微粒子の分散性が向上し、電極触媒性能が優れている、とされているが、実用化には必ずしも十分満足のいくものではない。
【0004】
本発明の目的は、金属微粒子の分散性が一段と向上され、より優れた触媒性能を発揮する固体高分子型燃料電池用電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの研究によれば、上記目的は下記発明により達成されることがわかった。
(1)導電性カーボン担体に触媒金属が担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該導電性カーボン担体として、水分子を吸着種として求めたBET比表面積(S1)と窒素分子を吸着種として求めたBET比表面積(S2)との比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にあるものを用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(2)導電性カーボン担体は、その表面をSiO 修飾したものである上記(1)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(3)SiO の量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%である上記(2)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(4)触媒金属の量が、導電性カーボン担体とSiO と触媒金属との総質量に対して、0.1〜20質量%である上記(2)または(3)の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
(5)SiO 修飾した導電性カーボン担体の比表面積が100〜800m/gである上記(2)〜(4)のいずれかの固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【0006】
上記比(S1/S2)は、後述するように、導電性カーボン担体表面の親水性を示す指標となるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電極触媒においては、導電性カーボン担体が高い親水性を有しているため、触媒金属が高い分散性をもって担持されている。そのため、本発明の電極触媒は優れた触媒性能を発揮する。
【0008】
ダイレクトメタノール型燃料電池のアノードでは、一般的にPt−Ru合金触媒が用いられているが、この触媒反応機構については、下記式(1)〜(3)のように反応が進行するといわれている。式(1)に示すように、PtがMeOHを酸化し、中間生成物であるCOがPt上に吸着する。式(2)のように、Ruが水と反応し、Ru−OHを生成する。この生成したRu−OHはPt上に吸着したCOをCO に酸化する(式(3))。
【0009】
Pt + MeOH → Pt−CO + 4H + 4e (1)
Ru + HO → Ru−OH + H + e (2)
Pt−CO + Ru−OH → CO + H + e (3)
本発明の電極触媒において、SiO 修飾した導電性カーボン担体を用いることにより、SiO 表面のシラノール基がRuと同様の作用をするため式(3)の反応がより促進され、MeOHの酸化性能が向上すると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電極触媒は、水分子を吸着種として求めたBET比表面積(S1)と窒素分子を吸着種として求めたBET比表面積(S2)との比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にある導電性カーボン担体に触媒金属を担持したものである。
【0011】
上記BET比表面積(S1)は、水蒸気吸着等温線(298K)から、また、上記BET比表面積(S2)は、窒素吸着等温線(77k)から算出したものである。水蒸気吸着等温線および窒素吸着等温線は、日本ベル(株)製のBELSORP18 Plus−Tを用いて測定した。測定条件は次のとおりである。
(測定原理) 定溶法
(前処理条件)
水蒸気吸着:真空、150℃で5時間真空加熱を行い、サンプル中の水の除去を行った。
【0012】
窒素吸着:真空度、200℃で2時間真空加熱を行い、サンプル中の水の除去を行った。
(サンプル量) 50mg〜100mg
上記比(S1/S2)は、導電性カーボン担体の表面が親水性あるいは疎水性であるかを評価する指標となるものであり、この比が大きいほど表面が親水性であり、逆に小さいと疎水性であると評価することができる。
【0013】
本発明の電極触媒の製造に用いる導電性カーボンとしては、特に制限はなく、この種の電極触媒の製造に一般に用いられているものを用いることができる。例えば、カーボンブラック、カーボンナノホン、活性炭カーボン、カーボンナノチューブ、フラレンなどが用いられるが、なかでも、カーボンブラックが好適に用いられる。
【0014】
本発明で用いる、上記比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にある導電性カーボン担体は、一般の導電性カーボンの表面をSiO 修飾することにより容易に得られる。
【0015】
導電性カーボンの表面をSiO 修飾するには、例えば、導電性カーボンを、常法により、シラン化合物および/またはシランカップリング剤で処理すればよい。具体的には、導電性カーボンとシランカップリング剤とを加熱縮合する方法、水熱反応法、プラズマ反応法などが用いられる。
【0016】
上記シラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン等のクロロシラン;テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン;テトラエチルオルトシリケートなどが挙げられる。
【0017】
上記シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。なかでも、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0018】
SiO 修飾導電性カーボン担体において、SiO の量は、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%である。SiO の量が上記範囲をはずれると、比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にあるSiO 修飾導電性カーボン担体が得られない。
【0019】
本発明の電極触媒は、上記SiO 修飾導電性カーボン担体に触媒金属を担持することにより得られる。上記触媒金属としては、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、ニッケル、コバルト、鉄、金などが用いられる。これらは単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。上記触媒金属の担持は、含浸法、イオン注入法など一般に知られている方法にしたがって行うことができる。
【0020】
触媒金属の量は、導電性カーボン担体とSiO と触媒金属との総質量に対して、0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(担体調製例)
エタノール250gに3−アミノプロピルトリエトキシシラン5gおよびカーボンブラック(Cabot社、VulcanXC72)10gを添加し、30分間、室温で攪拌を行った。次に、ろ過、水洗後、窒素雰囲気下、110℃で乾燥し、SiO 修飾導電性カーボン担体を得た。次に、このSiO 修飾導電性カーボン担体を1規定の硝酸水溶液100gに加え、室温で2時間攪拌した後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥した。次に、上記硝酸処理したSiO 修飾導電性カーボン担体を、テトラエチルオルトシリケート21gおよびエタノール230gの溶液に加え、室温で15分間攪拌した後、25%アンモニアすい6.8g、水11.2gを添加し、室温で約10時間攪拌を行った。その後、ろ過、水洗を行い、窒素雰囲気下110℃で乾燥し、担体Aを得た。得られた担体の水蒸気吸着等温線の測定を行った。その結果を表1および図1に示す。
【0022】
【表1】

上記表から、カーボンブラックにSiO の層を形成させることにより、比(S1/S2)の値が大きく、より親水性が高まっていることがわかる。
【0023】
図1には、横軸に水蒸気相対圧を、縦軸に水蒸気吸着量をとり、未処理の上記カーボンブラックと、上記カーボンブラックにシランカップリング剤およびシラン化合物でSiO 層を形成させたもの(担体A;SiO −VulcanXC72)の25℃における水蒸気吸着を検討したグラフを示す。シランカップリング剤およびシラン化合物で処理することにより水蒸気吸着量は未処理より向上している。
(実施例1)
エチレングリコール100mLにNaOH(顆粒状)2gを添加し、窒素雰囲気下、70℃で溶解させた。次に、エチレングリコール100mLにジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(Pt:0.386g)4.79g、硝酸ルテニウム水溶液(Ru:0.270g)5.93gを添加した。このエチレングリコール溶液に、NaOHを溶解させたエチレングリコール溶液を添加し、窒素雰囲気下、室温で1時間攪拌した(脱気)。次に、この溶液を、窒素雰囲気下、90℃(液温)で3時間還流した。冷却後、この溶液に担体Aを0.386g添加し、窒素雰囲気下、室温で、1時間攪拌した(脱気)後で、160℃(液温)で、窒素雰囲気下、3時間還流した。冷却後、攪拌しながら、1N硝酸水溶液を徐々に滴下し、pH1に調整した。固体をろ過し、イオン交換水で十分に洗浄し、窒素雰囲気下110℃で乾燥した後に、水素を用いて300℃で2時間還元処理して触媒Aを作成した。得られた触媒Aを分析したところ、その組成は、Pt:Ru:SiO :カーボンブラック=29:30:10:31(質量%)であった。
(比較例1)
実施例1において、担体Aの代わりに未処理のカーボンブラック(Cabot社、VulcanXC72)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒Bを作成した。得られた触媒Bを分析したところ、その組成は、Pt:Ru:カーボンブラック=29:30:41(質量%)であった。
(比較例2)
実施例1において、担体Aの代わりに未処理のカーボンブラック(Johnson Matthey社、HiSPEC10100)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒Cを作成した。得られた触媒Cを分析したところ、その組成は、Pt:Ru:カーボンブラック=29:30:41(質量%)であった。
(性能評価)
触媒Aの10mgを5%ナフィオン溶液(Aldrich社製)1mLに添加し、超音波により十分に攪拌させ、触媒ペーストを作成した。次に、この触媒ペースト5μLをグラッシーカーボン電極上に塗布し、乾燥させた。この触媒層をグラッシーカーボン電極上に固定化し、試験電極とした。触媒性能の評価は、1規定の硫酸水溶液にメタノールを1mol/Lとなるように添加した。25℃に保持された、この溶液中に上記試験電極を浸漬して作用極とし、対極には白金線、参照極には可逆水素電極(RHE)を用いて電位規制法によりメタノール酸化電流と電極電位の関係を測定し、0.6Vvs.RHEにおける酸化電流値をグラッシーカーボン電極上に塗布した触媒中に含まれる白金質量で除した値(白金質量当たりの酸化電流値)とした。電流値が高い程、触媒性能が優れている。触媒A、Bを用いたときの評価結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

上記結果から、シラン化合物および/またはシランカップリング剤を用いて、導電性カーボンの表面をSiO 修飾して親水性を高めた導電性カーボン担体を用いることにより、未処理の導電性カーボン担体を用いる場合に比べて、より高いメタノール酸化性能が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】担体A(SiO −VulcanXC72)と未処理のカーボンブラック(Cabot社、VulcanXC72)の水蒸気吸着量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボン担体に触媒金属が担持された固体高分子型燃料電池用電極触媒であって、該導電性カーボン担体として、水分子を吸着種として求めたBET比表面積(S1)と窒素分子を吸着種として求めたBET比表面積(S2)との比(S1/S2)が0.4/1〜0.8/1の範囲にあるものを用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
導電性カーボン担体は、その表面をSiO 修飾したものである請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
SiO の量が、導電性カーボン担体とSiO との総質量に対して、1〜40質量%である請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
触媒金属の量が、導電性カーボン担体とSiO と触媒金属との総質量に対して、0.1〜20質量%である請求項2または3に記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。
【請求項5】
SiO 修飾した導電性カーボン担体の比表面積が100〜800m/gである請求項2〜4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用電極触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2010−92814(P2010−92814A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264349(P2008−264349)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】