説明

固体高分子形燃料電池用ガス拡散層部材および固体高分子形燃料電池

【課題】RHバランスのよいガス拡散層部材を提供すること。
【解決手段】厚さが100〜250μmの範囲内にあるシート状の通気性導電性基材を含んでなる固体高分子形燃料電池用のガス拡散層部材であって、JIS L 1099:2006に準拠した測定法による透湿度が1300〜2000g/m/hの範囲内にあることを特徴とするガス拡散層部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用ガス拡散層部材および固体高分子形燃料電池(高分子電解質形燃料電池:PEFC)に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素を利用する燃料電池は、その反応生成物が原理的に水だけであることから、環境負荷の少ないクリーンなエネルギー発生手段として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、取り扱いが容易であり、高出力密度化が期待できるとして研究活動や実用化に向けた試みが活発になっている。その応用分野は幅広く、例えば自動車やバスといった移動体の動力源や、一般家庭における定置用電源、あるいは小型携帯端末の電源等が挙げられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、多数の単セルをスタック(積層)することによって構成される。図1に単セルの典型的な構造を示す。図1において、高分子電解質膜(イオン交換膜)10が両側から一対の触媒層20、21で挟まれており、さらにこれら触媒層20、21は両側から一対の炭素繊維質集電層(多孔質支持層、ガス拡散層ともいう)40、41で挟まれており、これら炭素繊維質集電層40、41の外側は、セパレータ60、61によって形成されるガス流路(燃料ガス流路50、酸素含有ガス流路51)に向けて開放されている。流路50から導入された燃料ガス(H等)は、第1の炭素繊維質集電層(アノード側炭素繊維質集電層)40を通過し、第1の触媒層(アノード、燃料極)20に到達する。ここで燃料ガスは、下記に示すアノード電極反応により電子を放出しながらプロトン(H)を生成する。このプロトンは高分子電解質膜10を通過し、第2の触媒層(カソード、酸素極)21に到達する。ここでプロトンは、下記に示すカソード電極反応により電子を受け取ってHOを生成する。
アノード電極反応: H → 2H + 2e-
カソード電極反応: 1/2O + 2H + 2e- → H
【0004】
高分子電解質膜10としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質や炭化水素系電解質が汎用されている。高分子電解質膜10がプロトンを伝導するためには、HOの同伴が必要である。また、触媒層20、21は、触媒金属及びプロトン伝導電解質で構成されており、これら触媒層20、21で電極反応を促進するためにもHOの存在が必要である。そのため、運転中の燃料電池の高分子電解質膜10と触媒層20、21を適切な含水状態に保つために、通常、供給ガス(燃料ガス50、酸素含有ガス51)を通して水蒸気供給(加湿)が行われる。
【0005】
燃料ガス50に加湿供給されたHOは、アノード層20中の電解質や高分子電解質膜10に溶解し、プロトンの移動とともにカソード側へ移動する。利用されなかったHOの一部は水蒸気として排出ガスとともに系外に排出され、残りは結露水としてドレン(図示せず)から系外に排出される。また、酸素含有ガス51に加湿供給されたHOも同様に、触媒層21中の電解質や高分子電解質膜10に溶解し、利用されなかったHOは排出ガスとともに系外に排出されるか、結露水としてドレン(図示せず)から系外に排出される。加えてカソード触媒層21の電極反応によって生成するHOは、その一部が高分子電解質膜10内を逆拡散してアノード側に移動して利用され、残りはカソード側の炭素繊維質集電層41を通過し、水蒸気又は結露水として系外に排出される。
【0006】
上述のようにHO供給、HO発生およびHO移動が行われる結果、カソード層21は比較的HOリッチな状態になる。したがって、カソード層21におけるHOを、水蒸気圧力差やHO濃度差を駆動力として炭素繊維質集電層41側に移動させるか、またHO濃度差を駆動力として高分子電解質膜10側に移動させることによって、適正な量に維持することが必要である。
【0007】
ところで、自動車等の移動体においては、起動・走行・停止等の間で燃料電池の負荷変動が頻繁に行われるため、この移動体に搭載される燃料電池は、低出力から高出力までの広い運転条件で利用できることが望まれる。また、搭載重量や容量の制約が大きく、コンパクトで軽量であることが必要である。さらに、ガス供給装置(ポンプ等)や加湿装置等の付加装置を低消費電力化及び軽量化することも求められている。例えば、ガス供給装置からのガス流量は、空気利用率で40〜50%程度とするのが一般的であるが、もし空気利用率をより高めることができれば、ガス供給装置の低消費電力化及び軽量化が可能となる。また加湿装置の低消費電力化又は軽量化を実現するには、燃料電池作動時に必要な高分子電解質膜10への加湿量を可能な限り小さくすること(低加湿運転、ドライ運転)が望まれる。
【0008】
しかし、加湿量を少なくすると、触媒層21と炭素繊維質集電層41の水蒸気圧差が増大し、高分子電解質膜10および触媒層21から炭素繊維質集電層41に移動するHO量が増加する。その結果、高分子電解質膜10の含HO率が低下してプロトン伝導性が低下し、あるいは触媒層21が乾燥して有効触媒面積が減少することにより、いわゆるドライアップ状態となり、燃料電池の出力が低下し、発電を維持できなくなる場合もある。
【0009】
ドライ運転条件でない場合であっても、発電量を高くすると(例えば、1A/cm以上程度の電流密度の高出力運転を行うと)、高分子電解質膜10を触媒層21側に向けて移動する同伴HO量が多くなる。さらに、触媒層21の発熱が著しくなり、電極層21と炭素繊維質集電層41間の水蒸気圧差が増加するため、電極層21のHOが大量に炭素繊維質集電層41側に移動し、同様にドライアップ状態が出現する場合がある。
【0010】
ドライアップ状態になると高分子電解質膜10の寿命が低下するため、高加湿条件にせざるを得ない。家庭用途の定置型燃料電池でも、低消費電力の観点からすれば低加湿条件での運転が望ましいが、膜寿命が短くなるため高加湿条件を採用せざるをえない。しかし上述したように、元々、カソード側触媒層21はHOリッチな状態になりやすいため、高加湿条件下で運転するとカソード側触媒層21の水分量が過剰になる、いわゆるフラッディング状態になりやすい。フラッディング状態では、触媒層21や炭素繊維質集電層41が水で濡れるため、触媒金属への酸素含有ガス供給が遮断され、燃料電池の出力が低下してしまう。また高出力運転(1A/cm以上の電流密度での運転)では、高分子電解質膜10から水分が奪われるドライアップと、触媒層21から炭素繊維質集電層41側へのHO排出不足のために起こるフラッディング状態とが同時に発現する場合もある。
【0011】
ドライアップやフラッディングを防止するために、種々の技術が提案されている(特許文献1〜3)。例えば、特許文献1は、第2カーボン電極の空隙率を、酸化剤流路の上流域から下流域に向かって徐々に大きくすることを提唱している。これは、図1に示した燃料電池においては、カソード側の炭素繊維質集電層41の空隙率を、紙面手前側から奥側に向けて徐々に大きくすることを意味している。また特許文献2では、図1を参照しながら説明すると、触媒層20、21と炭素繊維質集電層40、41との間に、フッ素樹脂とカーボンブラックからなる混合層を形成し、燃料ガス及び酸素含有ガス(酸化剤ガス)の入り口側部分50a、51aの混合層の厚さを、出口側部分50b、51bの厚さより大きくすることが提案されている。しかし、特許文献1、2に記載の方式では、炭素繊維質集電層40、41の面方向で空隙率や厚さが傾斜変化しているため、単セルをスタックアップして締め付けたときに圧力分布が不均一になり、性能が安定しない。
【0012】
特許文献3には、図1を参照しながら説明すると、炭素繊維質集電層(ガス拡散基材)40、41の触媒層20、21側に塗工によってカーボン層を形成すること、このカーボン層は面内で島状又は格子状に分割し、これら分割されたカーボン層の間に空隙部を形成することが開示されている。しかし、一般に炭素繊維質集電層の表面は、カーボン繊維が毛羽立っており、多数の凹凸が存在している。特許文献3では、炭素繊維質集電層にカーボン層を塗工しているに過ぎないため、毛羽や凹凸が低減されておらず、スタックアップ時の圧力で触媒層21や高分子電解質膜10が傷つけられる虞がある。ここで、この損傷を防止するため、後述の特許文献4を参考に、予めシート状に形成したカーボン層を炭素繊維質集電層に積層することを思いついたとしても、このシート(カーボン層)は分割する必要があり、分割によって形成される空隙は極めて大きいため、水溜まりが極めて形成されやすくなり、逆にフラッディングが発現しやすくなってしまう。
【0013】
さらに、特許文献1〜3には、高加湿条件から低加湿条件に至る幅広い範囲で、また高ガス流量(低空気利用率)から低ガス流量(高空気利用率)に至る幅広い範囲で、ドライアップとフラッディングの両方を防止するにはどのようにすればよいかという点については、何らの記載も示唆もない。
【0014】
特許文献4には、図1を参照しながら説明すると、予めシート状に形成されたPTFE粉末−カーボンブラック混合物をペースト押出及び圧延することによって得られるシートを、炭素繊維質集電層(カーボンペーパー)40、41に積層一体化することが開示されている。しかし、特許文献4には、ドライアップ防止やフラッディング防止に関する記載は一切ない。また、上記シート状物(PTFE粉末−カーボンブラック混合物)の厚さは0.2mm(200μm)又は0.6mm(600μm)である。
【0015】
特許文献5には、多孔質炭素電極基材の燃料電池内部での水分管理機能の発現を容易にし、かつ、その水分管理機能の平面内での均一性を高めるため、少なくとも2枚のガス透過係数が異なる炭素材からなる導電性多孔質基材を積層した多孔質炭素電極基材が開示されている。しかしながら、特許文献5には、水分管理機能を制御するために、多孔質炭素電極基材の透湿度に着目すべきことについては、何らの教示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平6−267562号公報
【特許文献2】特開2001−135326号公報
【特許文献3】特開2004−164903号公報
【特許文献4】特公平1−12838号公報
【特許文献5】特開2007−227008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
汎用のガス拡散層(GDL)基材として、カーボンクロスやカーボン不織布、カーボンペーパー等が挙げられる。カーボンクロスやカーボン不織布は構造上、ガス透過性が高く、高RH条件での使用に適している。カーボンペーパーは、カーボンファイバーをバインダーで結着させており、孔径分布がカーボンクロスやカーボン不織布に比べて小さいためガス透過性が低く、低RH条件での使用に適している。代表的なGDL基材としてTGP−H−060(東レ株式会社製)が知られている。これらの特徴より、従来は主に使用するRH環境に合わせて、最適なGDL基材を選定していた。
【0018】
しかしながら、燃料電池システムの低コスト化・小型化のためには、加湿器を小さくし供給ガスの入り口でのRHをさげる一方で、発電量を増やすために高電流密度運転を行い生成水が多量に発生し出口でのRHが高くなる等の、複雑なRH条件での運転が要求されている。すなわち、高RH、低RHのいずれの運転条件においても優れた特性をもつGDL基材が求められている。
【0019】
また異なる側面として、カーボンペーパーは、カーボンクロスやカーボン不織布に比べて、面方向や厚さ方向の寸法安定性が高くMEA加工性が優れており、また曲げ剛性が高いためにMEAをスタック化する際のハンドリング性に優れている。さらに、カーボンペーパーは、カーボンクロスやカーボン不織布に比べて薄く成型しやすいため、スタックサイズの小型化が容易である。これらの物理的特徴は、燃料電池を大量生産する自動化プロセス設計において非常に重要である。具体的には、カーボンペーパーは、GDLを所定寸法にカットする工程時のカット後寸法安定性が良好であり、また、ロボットによる搬送工程における易チャック性・易移動性に優れる。
【0020】
以上のように、性能面・生産性を考慮し、RH特性のバランスがよいGDL基材が期待されるが、両立するものは見出されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によると、
(1)厚さが100〜250μmの範囲内にあるシート状の通気性導電性基材を含んでなる固体高分子形燃料電池用のガス拡散層部材であって、JIS L 1099:2006に準拠した測定法による透湿度が1300〜2000g/m/hの範囲内にあることを特徴とするガス拡散層部材が提供される。
【0022】
さらに本発明によると、
(2)該透湿度が1300〜1800g/m/hの範囲内にある、(1)に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0023】
さらに本発明によると、
(3)該透湿度が1450〜1650g/m/hの範囲内にある、(2)に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0024】
さらに本発明によると、
(4)さらに4端子法(1kHz交流、端子間圧力981kPa、室温)による貫通電気抵抗が15mΩcm以下である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0025】
さらに本発明によると、
(5)該通気性導電性基材の厚さが125〜215μmの範囲内にある、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0026】
さらに本発明によると、
(6)該通気性導電性基材の密度が0.22〜0.47g/cmの範囲内にある、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0027】
さらに本発明によると、
(7)該通気性導電性基材が、撥水処理を施したカーボンペーパーを含む、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0028】
さらに本発明によると、
(8)さらに微孔質層(MPL)が積層されている、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0029】
さらに本発明によると、
(9)該MPLが、導電性炭素質粉末とポリテトラフルオロエチレンとを含む湿度調整フィルムである、(8)に記載のガス拡散層部材が提供される。
【0030】
さらに本発明によると、
(10)高分子電解質膜の片面にアノード用触媒層を、その反対面にカソード用触媒層を接合してなる膜電極接合体(MEA)の少なくとも片面に、さらに(1)〜(9)のいずれか1項に記載のガス拡散層部材を配置してなることを特徴とする固体高分子形燃料電池が提供される。
【0031】
さらに本発明によると、
(11)該MEAのカソード側に該ガス拡散層部材を配置してなる、(10)に記載の固体高分子形燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、ガス拡散層部材の透湿度を1300〜2000g/m/hの範囲内に収めることにより、高RH、低RHのいずれの運転条件においても優れた発電性能が得られる。また、本発明によると、カーボンペーパー構造を有する通気性導電性基材と、透湿度をコントロールする湿度調整フィルムとを兼ね備えることにより、より優れた発電特性を提供することができる。特に通気性導電性基材としてカーボンペーパーを使用した場合には、ガス拡散層部材のカット後寸法安定性が良好であり、搬送工程における易チャック性・易移動性に優れる等、燃料電池の大量生産に向けた自動化プロセス設計において非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の燃料電池(単セル)を示す略斜視図である。
【図2】本発明の燃料電池(単セル)の一例を示す略斜視図である。
【図3】透湿度測定法を示す略断面図である。
【図4】透湿度および透気度と発電性能の関係を示す散布図行列である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明による固体高分子形燃料電池用のガス拡散層部材は、厚さが100〜250μmの範囲内にあるシート状の通気性導電性基材を含んでなり、JIS L 1099:2006に準拠した測定法による透湿度が1300〜2000g/m/hの範囲内にあることを特徴とする。
【0035】
一般に、固体高分子形燃料電池用のガス拡散層部材としては、導電性および通気性を有するシート材料が用いられる。そのようなシート材料の代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもでき、そのような多孔性シートの例として、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られたものが挙げられる。本発明者らは、上述のような一般的なガス拡散層部材のうち、特にJIS L 1099:2006に準拠した測定法による透湿度が1300〜2000g/m/hの範囲内にあるものが、固体高分子形燃料電池において高RH、低RHのいずれの運転条件においても優れた発電性能を発揮し得ることを見出した。
【0036】
従来の通気性導電性基材には、特許文献5に記載されているように、そのガス透過性に着目してRH特性の制御を試みられたものがある。しかしながら、ガス透過性カーボン基材の構造、特に孔径分布が大きく異なる場合は、後述の実施例データおよび図4が示すように、ガス透過性とRH特性との間に相関は実質的に無く、むしろ透湿度の方がRH特性との相関が高いことが判明した。特に、ガス透過性の大小とは無関係に、ガス拡散層部材としての透湿度(MVTR)が1300〜2000g/m/hの範囲内において、RH特性のバランスが良好であることが確認された。
【0037】
本発明によるガス拡散層部材は、透湿度が一般に1300〜2000g/m/h、好ましくは1300〜1800g/m/h、より好ましくは1450〜1650g/m/hの範囲内にある。ガス拡散層部材の透湿度が2000g/m/hを上回ると、特に低RH運転時または高出力運転時にドライアップが発生し易くなり、反対に1300g/m/hを下回ると、特に高RH運転時または高出力運転時にフラッディングが発生し易くなる。本発明によるガス拡散層部材の透湿度は、日本工業規格(JIS)L1099:2006に準拠した測定法による値である。
【0038】
本発明によるガス拡散層部材の透湿度は、通気性導電性基材の厚さによって制御することができる。具体的には、ガス拡散層部材の透湿度の上記範囲は、通気性導電性基材の厚さを125〜215μm、好ましくは130〜190μmの範囲内とすることにより制御することができる。また、ガス拡散層部材の透湿度は、通気性導電性基材の密度によって制御することもできる。具体的には、ガス拡散層部材の透湿度の上記範囲は、通気性導電性基材の密度を0.22〜0.47g/cm、好ましくは0.35〜0.40g/cmの範囲内とすることにより制御することができる。通気性導電性基材の厚さが125μmを下回る、またはその密度が0.22g/cmを下回ると、基材の物理強度が不十分となり、その取り扱い性が悪化し、あるいは、燃料電池セルの締結圧縮力で基材が破壊され易くなる。反対に、通気性導電性基材の厚さが215μmを上回る、またはその密度が0.47g/cmを上回ると、基材の電気抵抗が増大するためセル発電時の抵抗が増大し、燃料電池の電圧が低下してしまう。
【0039】
本発明によるガス拡散層部材は、導電性を有する必要がある。定量的には、本発明によるガス拡散層部材は、4端子法(1kHz交流、端子間圧力981kPa、室温)による貫通電気抵抗が、好ましくは15mΩcm以下、より好ましくは13mΩcm以下である。貫通電気抵抗は小さいほど好ましく、理想的な下限値は0mΩcmであるが、実際2mΩcm以下の貫通電気抵抗を実現することは、ガス拡散のための多孔構造維持の観点から困難である。
【0040】
本発明によるガス拡散層部材を構成する通気性導電性基材は、カーボンペーパーを含むことが好ましい。上述したように、カーボンペーパーは、カーボンクロスやカーボン不織布に比べて、寸法安定性が高くMEA加工性が優れており、曲げ剛性が高くハンドリング性に優れており、さらには薄く成型しやすいためスタックサイズの小型化が容易である。このようなカーボンペーパーは以下のようにして製造することができる。石油ピッチ、フェノール、セルロース、アクリルニトリル繊維等を原料とする炭素繊維を所定の長さにカットし、水中に分散させる。その分散物を金網で抄造し、ポリビニルアルコールもしくはポリビニルアルコール短繊維等のバインダーを付着させ、炭素繊維紙を得る。この炭素繊維紙に、熱硬化性樹脂を含浸させ、熱硬化性樹脂含浸炭素繊維紙を得る。熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、フラン系樹脂、メラミン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ユリア系樹脂等を用いることができる。とりわけ、残炭率の高い樹脂は、焼成後においても繊維同士の接点を結着する効果が高く、圧縮時の厚さ変化率の少ない炭素繊維織物が得られ易いので好ましい。残炭率の高い樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が挙げられるが、特にフェノール樹脂が好適である。そしてこのフェノール樹脂含浸炭素繊維紙を平板プレスにて中温度、例えば250℃でプレスし、厚さを調整すると同時にフェノール樹脂を硬化させる。そののち、不活性ガス(窒素)雰囲気中、高温、例えば1500℃以上、好ましくは2000℃以上で炭素化することにより、好ましいカーボンペーパーが得られる。
【0041】
上述したように、本発明によるガス拡散層部材の透湿度は、通気性導電性基材の厚さによって制御することができる。通気性導電性基材がカーボンペーパーを含む場合、上記の炭素繊維の種類や長さ、バインダーの量、フェノール樹脂の量、プレスによる圧縮量、プレス前に積層する樹脂含浸炭素繊維紙の枚数等を制御することにより、カーボンペーパーの厚さおよび/または密度を変化させ、任意の透湿度(MVTR)に調整することができる。
【0042】
ガス拡散層部材は、必要に応じて、フッ素樹脂によって撥水処理してもよい。撥水処理とは、ガス拡散層部材をフッ素樹脂含有液に浸漬し、乾燥する処理のことをいう。所望量のフッ素樹脂が付着するまで、浸漬と乾燥とを繰り返してもよい。フッ素樹脂含有液としては、界面活性剤を用いたフッ素樹脂の水分散液等が使用でき、市販の水性PTFEディスパージョンもフッ素樹脂含有液の好ましい一例である。ガス拡散層部材に確実に撥水性を付与する場合、ガス拡散層部材中のフッ素樹脂の量は、例えば、0.3質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上とすることが推奨される。一方、フッ素樹脂量が過剰になると、排水性が低下してフラッディングが発生しやすくなる。従ってガス拡散層部材中のフッ素樹脂の量は、例えば65質量%以下、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下程度にすることが推奨される。
【0043】
カーボンペーパーを含む通気性導電性基材は、炭素繊維の繊維径や繊維配置の都合上、ある程度表面が荒れており、後述の触媒層と直接接触した場合、接触面積が大きく、接触抵抗が大きくなってしまう。また、触媒層の細孔分布に比べて、通気性導電性基材の細孔分布は極端に大きなため、触媒層で発生した水をスムーズに排出できずに、触媒層近傍で液水による水没が生じ、反応サイトを著しく減少させてしまう。このような問題を克服するために、従来、触媒層と通気性導電性基材の間に、触媒を含まない導電性の微孔質層(MPL)が配置されてきた。具体的には、カーボン粉末と撥水剤を混合して得られたスラリーをコーティング・乾燥固化して形成したコーティングタイプのMPLや、特開2006−252948号公報に記載の湿度調整フィルムのMPLが知られている。本発明においては、例えば、特開2006−252948号公報に記載の湿度調整フィルムを使用することで、通気性導電性基材だけでなく、MPLにおいても透湿度のコントロールが可能となり、設計の自由度が高くなる。このような湿度調整フィルムを用いる場合、本発明によるガス拡散層部材は通気性導電性基材と湿度調整フィルムとの積層体で構成され、ガス拡散層部材の透湿度は、その積層体としての透湿度をさすものとなる。
【0044】
湿度調整フィルムは、導電性炭素質粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から構成されており、全体として導電性、通気性、及び疎水性を示すものであることが好ましい。導電性炭素質粉末は、湿度調整フィルムの導電性、通気性及び疎水性のために使用されるものであり、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、及びグラファイト等が使用でき、これらは単独で用いてもよく2種以上を混合してもよい。好ましい導電性炭素質粉末は、アセチレンブラック又はその混合物である。アセチレンブラック又はその混合物は、導電性、撥水性、及び化学的安定性に優れている。PTFEは、導電性炭素質粉末を結着してフィルム化するために使用されるものであり、導電性炭素質粉末の表面を覆って撥水性を与えることができる点でも好適である。湿度調整フィルムの詳細については、上記特開2006−252948号公報を参照されたい。
【0045】
本発明によるガス拡散層部材は、高分子電解質膜、アノード用触媒層、カソード用触媒層およびセパレータと組み合わせることによって、固体高分子形燃料電池を構成することができる。図2に、任意の湿度調整フィルムを含む本発明による固体高分子形燃料電池の単セルの一例を示す。本発明による好ましい固体高分子形燃料電池の単セルは、高分子電解質膜10の片面にアノード用触媒層20を、その反対面にカソード用触媒層21を接合してなる膜電極接合体(MEA)130の両面に、湿度調整フィルム30、31を介して通気性導電性基材40、41が配置されている。この場合、湿度調整フィルム30、31と通気性導電性基材40、41がそれぞれ積層型ガス拡散層部材110、111を構成する。さらに、通気性導電性基材40、41の外側には、それぞれセパレータ60、61が配置され、アノード側の流路50に燃料ガスを、そしてカソード側の流路51に酸素含有ガスを流すことにより燃料電池が作動する。ガス拡散層部材110、111は、その両方が本発明による特定の透湿度を有するガス拡散層部材であることが好ましいが、いずれか一方、特にカソード側のガス拡散層部材111だけを本発明による特定の透湿度を有するものにしてもよい。また、任意の湿度調整フィルム30、31についても、いずれか一方、特にカソード側だけに配置してもよい。
【0046】
高分子電解質膜としては、パーフルオロ系電解質、炭化水素系電解質等が好ましく、特にパーフルオロ系電解質膜が好ましい。パーフルオロ系電解質膜としては、スルホン酸系電解質膜[例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、GORE−SELECT(登録商標、ジャパンゴアテックス社製)等]が好ましく、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンで補強されたパーフルオロスルホン酸樹脂系電解質膜[GORE−SELECT(登録商標、ジャパンゴアテックス社製)等]が特に好ましい。
【0047】
高分子電解質膜のEW(Equivalent Weight)は、例えば、700以上(好ましくは900以上)、1500以下(好ましくは1300以下)程度であることが推奨される。また高分子電解質膜の厚さは、例えば、5μm以上(好ましくは10μm以上)、100μm以下(好ましくは60μm以下)程度であることが望ましい。
【0048】
触媒層としては従来公知のものが使用でき、例えば、白金あるいは白金と他の金属(例えば、Ru、Rh、Mo、Cr、Fe等)との合金の微粒子(平均粒径は10nm以下が望ましい)が表面に担持されたカーボンブラック等の導電性炭素微粒子(平均粒径:20〜100nm程度)と、パーフルオロスルホン酸樹脂含有液とが適当な溶剤(例えば、アルコール類)中で均一に混合されたペースト状のインクより調製されるものが使用できる。アノード側の触媒層20(燃料極)の白金量は、金属白金に換算して、0.01〜0.5mg/cm程度であり、カソード側の触媒層21(空気極)の白金量は、金属白金に換算して0.1〜0.8mg/cm程度であるのが望ましい。触媒層の厚さは、例えば、5〜30μm程度である。
【0049】
湿度調整フィルムを使用する場合、そのままで単セルに使用してもよく、また、他の機能層[高分子電解質膜10、触媒層20、21、通気性導電性基材40、41等]と予め適宜積層一体化して、複合フィルム化してから単セルに使用してもよい。好ましい複合フィルムとしては、例えば、(1)湿度調整フィルム30、31と触媒層20、21とを積層一体化した電極機能付き湿度調整フィルム100、101;(2)湿度調整フィルム30、31と通気性導電性基材40、41とを積層一体化した積層型ガス拡散層110、111;(3)湿度調整フィルム30、31の片面に通気性導電性基材40、41を積層一体化し、他面に触媒層20、21を積層一体化した電極機能付きガス拡散層120、121;(4)高分子電解質膜10の両側から一対の触媒層20、21で挟んで一体化した膜電極接合体130を、さらにその両側から一対の湿度調整フィルム30、31で挟んで一体化した燃料電池用膜電極接合体140;(5)膜電極接合体140の両外側に通気性導電性基材40、41を積層一体化したガス拡散層一体型膜電極接合体150;(6)高分子電解質膜10の両側からアノード用触媒層20及びカソード用触媒層21で挟んで一体化した膜電極接合体130のカソード側に湿度調整フィルム31を積層一体化した膜電極接合体141;(7)ガス拡散層一体型電極接合体141の両外側に通気性導電性基材40、41を積層一体化したガス拡散層一体型接合体151が挙げられる。各層の積層一体化手段は特に限定されず、従来公知の積層手段(例えば、接着剤を用いた積層、加熱しながら加圧することによる積層等)を適当に採用すればよいが、ガス透過性を考慮すると、加熱・加圧処理することが好ましい。特に湿度調整フィルム30、31と撥水処理した通気性導電性基材40、41とを積層する場合、加熱・加圧処理によれば、撥水性の低下も防止できる。また湿度調整フィルム30、31と通気性導電性基材40、41とを積層する場合、温度300〜400℃程度(特に350℃程度)に加熱しながら加圧することが最も推奨される。湿度調整フィルム30、31は、湿式法によって製造した場合には、界面活性剤が残留し、通気性導電性基材40、41もまた撥水処理した場合には界面活性剤が残留する。温度300〜400℃程度(特に350℃程度)に加熱しながら加圧すると、界面活性剤の炭化と、湿度調整フィルム30、31と通気性導電性基材40、41との積層一体化とを一つの処理で行うことができ、簡便である。
【0050】
また、膜電極接合体130としては、触媒層20、21形成用のペースト状インクを、ドクターブレードやバーコーター等の印刷装置を用いて高分子電解質膜10に直接コーティングすることによって得られるもの、予めポリテトラフルオロエチレンやポリプロピレン等の離型性の良い平滑なフィルムの表面にドクターブレードやバーコーター等の印刷装置を用いてペースト状インクをコーティングし乾燥した後、コーティング層を高分子電解質膜10にホットプレスを用いて転写すること(Decal法)によって得られるもの等を使用してもよい。なお、膜電極接合体(MEA)130は、ジャパンゴアテックス(株)から入手できる「PRIMEA」(登録商標)を使用してもよい。
【0051】
上述のようにして接合して得られたMEAを、アノード側とカソード側が所定の側にくるようにMEAとセパレータ板および冷却部を交互に10〜100セル積層することにより燃料電池スタックを組み立てることができる。燃料電池スタックの組み立ては、従来公知の方法によることができる。
【実施例】
【0052】
実施例における各パラメータの測定法を以下に示す。
膜厚
基材またはガス拡散層部材をミツトヨ製マイクロメーターPMU150-25DMで測定し、膜厚とした。
【0053】
目付量
基材またはガス拡散層部材をφ48mmの大きさに打ち抜き、精密電子天秤で質量を測定した。その質量をサンプルサイズの面積で割り返し、目付け量とした。
【0054】
密度
目付け量を膜厚で割り返し、密度を算出した。
【0055】
貫通抵抗
ガス拡散層部材を一対の金メッキを施した平滑な金属ブロック(面積2cm)で挟み[圧力:981kPa(10kgf/cm)、4端子法]、室温で1kHzの交流(電流:100mA)を流したときの抵抗値をmΩメーター(アデックス(株)製、商品名:Digital Battery mΩ Meter(Model AX−126B)で測定し、下記式にしたがって貫通抵抗を求めた。
貫通抵抗(mΩcm)=測定抵抗値(mΩ)×2(cm
【0056】
透気度
ガス拡散層部材の表裏から内径16mmのSUS製円筒(内径面積2cm)を押し当てた(1MPa)。一方から加圧空気(0.5kPa)を流し、反対側(出口)で空気流量を膜式流量計で測定し、下記式にしたがって透気度を求めた。
透気度(mL/min/cm2/kPa)=流量(mL/min)/2(cm2)/0.5(kPa)
【0057】
透湿度
JIS L 1099:2006に準拠して透湿度を求めた。この透湿度測定法は、酢酸カリウムの吸湿性を利用して水蒸気の移動量を計測することで、水蒸気移動に対するガス拡散層部材の抵抗度合いを定量化するものである。本発明による透湿度は、硬質のガス拡散層部材の測定に適応するように、JIS L 1099:2006記載のB−2法を改変した方法を採用した(図3参照)。空孔率約80%の微多孔質構造をもつ、厚さ約13μmのポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)フィルムを2枚用い、また水温は23℃とした。
【0058】
(基材作製)
1)サンプルA:アクリルニトリル繊維を原料とする炭素繊維(東レ株式会社製、トレカ(登録商標) T300)とポリビニルアルコール短繊維(株式会社クラレ製、ビニロン)を質量比100:25で混合し、目付け量30g/mの炭素繊維紙を作製する。次いでその炭素繊維紙にフェノール系樹脂(住友ベークライト株式会社製、商品名 SUMILITERESIN PR−912)を65g/m含浸させた後、二枚積層し、平板プレスにて250℃でプレス圧縮したのち、不活性ガス(窒素)雰囲気中、2000℃で炭素化することにより、膜厚203μm、密度0.42g/cmのカーボンペーパーを得た。
2)サンプルB:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を30g/m、含浸樹脂量を60g/mに調整して、膜厚211μm、密度0.37g/cmのカーボンペーパーを得た。
3)サンプルC:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を24g/m、含浸樹脂量を48g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚163μm、密度0.38g/cmのカーボンペーパーを得た。
4)サンプルD:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を24g/m、含浸樹脂量を54g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚147μm、密度0.47g/cmのカーボンペーパーを得た。
5)サンプルE:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を24g/m、含浸樹脂量を38g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚150μm、密度0.35g/cmのカーボンペーパーを得た。
6)サンプルF:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を30g/m、含浸樹脂量を27g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚127μm、密度0.31g/cmのカーボンペーパーを得た。
7)サンプルG:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を52g/m、含浸樹脂量を47g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚190μm、密度0.31g/cmのカーボンペーパーを得た。
8)サンプルH:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を52g/m、含浸樹脂量を47g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚160μm、密度0.38g/cmのカーボンペーパーを得た。
9)サンプルI:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を52g/m、含浸樹脂量を47g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚169μm、密度0.35g/cmのカーボンペーパーを得た。
10)サンプルJ:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を34g/m、含浸樹脂量を31g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚138μm、密度0.33g/cmのカーボンペーパーを得た。
11)サンプルK:サンプルAの炭素繊維紙の目付け量を34g/m、含浸樹脂量を38g/mに調整して、さらにプレス圧縮量を適宜調整して、膜厚168μm、密度0.30g/cmのカーボンペーパーを得た。
12)TGP−H−060:東レ株式会社製 燃料電池用電極基材TGP−H−060
13)TGP−H−090:東レ株式会社製 燃料電池用電極基材TGP−H−090
14)TGP−H−120:東レ株式会社製 燃料電池用電極基材TGP−H−120
各カーボンペーパー(基材)の膜厚および密度を下記表1に示した。
【0059】
(基材の撥水処理)
PTFEの水分散液[商品名:D1−E、ダイキン工業(株)製]を水で希釈してPTFE濃度を5%に調製した処理液に、様々な厚さおよび密度を有する上記の各カーボンペーパーを浸漬し、引き上げた。カーボンペーパー表面の過剰な処理液を拭い取った後、150℃で1時間乾燥し、次いで350℃で2時間熱処理することによって、撥水処理が施されたガス拡散層部材(撥水基材)を得た。各撥水基材について膜厚、密度、透気度、貫通抵抗および透湿度を測定し、下記表1に示した。
【0060】
(湿度調整フィルムの作製)
アセチレンブラック(導電性炭素質粉末)を飛散させないようにゆっくりと水中に投じ、攪拌棒でかき混ぜながら水をアセチレンブラックに吸収させた。次いでホモジナイザーでアセチレンブラックを攪拌分散させ、アセチレンブラックの水分散液を作成した。このアセチレンブラックの水分散液に、PTFEの水分散液[商品名:D1−E、ダイキン工業(株)製]を所定量加え、攪拌機でゆっくりかき混ぜ、均一な混合分散液を調製した。次いで攪拌機の回転をあげ、PTFEとアセチレンブラックを共沈させた。共沈物を濾過して集め、ステンレス製バットに薄く広げた後、120℃の乾燥機で1昼夜乾燥することにより、アセチレンブラック(導電性炭素質粉末)とPTFEの混合粉末を得た。この混合粉末に加工助剤としてミネラルスピリッツ(出光興産(株)製、商品名:IPソルベント1016)を加え、予備成型機でペレット化し、ペレットを押し出し機でテープ状に押し出し、さらに2本ロールを用いて圧延してフィルム化した。さらに複数回に亘って2本ロールで圧延して、フィルムの厚さと密度を調整した。圧延物を200℃の乾燥機で8時間乾燥してミネラルスピリッツを除去した後、350℃で5分間熱処理することによって、湿度調整フィルムを得た。得られた湿度調整フィルムは、アセチレンブラックとPTFEの質量比:70/30、平均厚さ:60μm、透湿度:3600g/mhr、貫通抵抗:8.6mΩcmであった。
【0061】
(ガス拡散層部材の作製)
上記湿度調整フィルムと上記撥水基材とをしわが生じないように重ね合わせて、300℃に加熱した2本ロールでプレス処理することにより、積層型ガス拡散層部材を得た。各ガス拡散層部材について貫通抵抗および透湿度を測定し、下記表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
(単セルの作製)
厚さ20μmのジャパンゴアテックス(株)製の商品名「GORE−SELECT(登録商標)」の両面に0.3mg/cmの白金を含有する触媒層を形成することによって得られる「PRIMEA(登録商標、ジャパンゴアテックス(株)製)」を膜電極接合体として用いた。上記積層型ガス拡散層部材を、その湿度調整フィルムが触媒層と接触するように上記膜電極接合体の両側に配置した。さらに、高分子電解質膜の外周部にガスケットを重ね合わせた後、ガス流路が形成された1対のグラファイト製セパレータでさらに両側から挟み込み、次いで集電板を備えた2枚のステンレス製端板で挟み込むことによって単セルを作製した。
【0064】
(発電試験)
得られた単セルに水素ガスと空気を供給するとともに、セル温度およびガスの加湿度を変化させることによりセル内のRHを変化させた。具体的には、セル温度を60℃、水素/空気の加湿度(RHin)を100RH%にすることにより、発電中のセル内のRH(RHout)は225%となり、セル温度を70℃、水素/空気の加湿度を64RH%にすることによりセル内のRHは144%となり、セル温度を80℃、水素/空気の加湿度を42RH%にすることによりセル内のRHは92%となり、セル温度を95℃、水素/空気の加湿度を24RH%にすることによりセル内のRHは52%となった。なお、加湿タンクの温度は、アノード側、カソード側とも60℃とした。上記各運転条件にて電流電圧曲線(IVカーブ)を測定し、0.6Vにおける電流密度を算出した。結果を表2に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
表1のガス拡散層部材の透湿度(MVTR)および撥水基材の透気度と、表2の電流密度との関係を散布図行列として図4に示した。図4から明らかなように、MVTRと発電性能(0.6Vにおける電流密度)との間には相関があるが、透気度と発電性能との間には相関は見られない。また、高RH条件と低RH条件は基本的に背反する運転条件であるが、MVTRが1300〜2000g/m/h、特に1300〜1800g/m/hの範囲内では、高RH(225%)および低RH(92%)のどちらの条件でも発電性能が高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によるガス拡散層部材は、高RH、低RHのいずれの運転条件においても優れた発電性能が得られるので、特に負荷変動の大きな燃料電池や、低加湿運転が可能でコンパクトな燃料電池において有利に使用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10 高分子電解質膜
20、21 触媒層
30、31 湿度調整フィルム
40、41 通気性導電性基材
50 燃料ガス流路
51 酸素含有ガス流路
60、61 セパレータ
100、101 電極機能付き湿度調整フィルム
110、111 積層型ガス拡散層部材
120、121 電極機能付きガス拡散層
130、140 膜電極接合体
150 ガス拡散層一体型膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが100〜250μmの範囲内にあるシート状の通気性導電性基材を含んでなる固体高分子形燃料電池用のガス拡散層部材であって、JIS L 1099:2006に準拠した測定法による透湿度が1300〜2000g/m/hの範囲内にあることを特徴とするガス拡散層部材。
【請求項2】
該透湿度が1300〜1800g/m/hの範囲内にある、請求項1に記載のガス拡散層部材。
【請求項3】
該透湿度が1450〜1650g/m/hの範囲内にある、請求項2に記載のガス拡散層部材。
【請求項4】
さらに4端子法(1kHz交流、端子間圧力981kPa、室温)による貫通電気抵抗が15mΩcm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス拡散層部材。
【請求項5】
該通気性導電性基材の厚さが125〜215μmの範囲内にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス拡散層部材。
【請求項6】
該通気性導電性基材の密度が0.22〜0.47g/cmの範囲内にある、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス拡散層部材。
【請求項7】
該通気性導電性基材が、撥水処理を施したカーボンペーパーを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス拡散層部材。
【請求項8】
さらに微孔質層(MPL)が積層されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス拡散層部材。
【請求項9】
該MPLが、導電性炭素質粉末とポリテトラフルオロエチレンとを含む湿度調整フィルムである、請求項8に記載のガス拡散層部材。
【請求項10】
高分子電解質膜の片面にアノード用触媒層を、その反対面にカソード用触媒層を接合してなる膜電極接合体(MEA)の少なくとも片面に、さらに請求項1〜9のいずれか1項に記載のガス拡散層部材を配置してなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項11】
該MEAのカソード側に該ガス拡散層部材を配置してなる、請求項10に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−29064(P2011−29064A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175254(P2009−175254)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】