説明

固体高分子形燃料電池

【課題】ガス拡散路の圧力損失を少なくすることによって十分なガス供給機能を確保し、高出力化も図り得る固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】固体高分子形燃料電池10は、アノード触媒層30aとアノードセパレータ80aとの間にアノード電極部材50aを配置し、カソード触媒層30cとカソードセパレータ80cとの間にカソード電極部材50cを配置してある。アノード電極部材およびカソード電極部材のそれぞれは、微細な溝120a、120cが並列に複数本形成された導電性の織物100であって、溝のピッチp1が0.2〜1mm、かつ、溝の深さdが0.2〜1mmである織物から構成してある。そして、発電に寄与する反応部の少なくとも一部の領域において、アノード触媒層、高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、アノード60a側の溝120aと、カソード60c側の溝120cとを交差させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルはそれぞれ、(1)高分子電解質膜(例えば、Nafion(登録商標)膜)、(2)これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層(「電極触媒層」とも称される)、(3)さらにこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層(GDL)、を含む膜電極接合体(MEA)を有する。そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータを介して隣接する単セルのMEAと電気的に接続している。このようにして単セルを積層・接続することによって、燃料電池スタックを構成する。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能しうる。かような燃料電池スタックにおいて、セパレータは、上述したように、隣接する単セルどうしを電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノードおよびカソードに燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。
【0003】
PEFCの発電メカニズムを簡単に説明すると、PEFCの運転時には、単セルのアノード側に燃料ガス(例えば水素ガス)を供給し、カソード側に酸化剤ガス(例えば大気、酸素)を供給する。その結果、アノードおよびカソードのそれぞれにおいて、下記反応式で表される電気化学反応が進行し、電気を生み出する。
【0004】
すなわち、
アノード反応:H→2H+2e・・・(1)
カソード反応:2H+2e+(1/2)O→HO・・・(2)
である。
【0005】
上記の電気化学反応を進行させるために、GDLは、燃料ガスや酸化剤ガスを効率的に拡散して触媒層に供給するガス供給機能が必要である。
【0006】
特許文献1は、GDLとして発泡金属多孔体を用いる構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−542591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発泡金属多孔体は、形成される細孔がランダムであるので、圧力損失が比較的大きい。このため、ガス拡散速度が遅くなって、十分なガス供給機能を得ることができず、電気化学的反応が妨げられ、結果として電池出力が低下する。
【0009】
本発明の目的は、ガス拡散路の圧力損失を少なくすることによって十分なガス供給機能を確保し、高出力化も図り得る固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜のそれぞれの面に設けられるアノード触媒層およびカソード触媒層と、導電性を備えガスを遮断するためのアノードセパレータおよびカソードセパレータと、を有している。前記アノード触媒層と前記アノードセパレータとの間には、前記アノード触媒層とともにアノードを形成するアノード電極部材を配置してある。前記カソード触媒層と前記カソードセパレータとの間には、前記カソード触媒層とともにカソードを形成するカソード電極部材を配置してある。前記アノード電極部材および前記カソード電極部材のそれぞれは、微細な溝が並列に複数本形成された導電性の織物であって、溝のピッチが0.2〜1mm、かつ、溝の深さが0.2〜1mmである織物から構成してある。そして、発電に寄与する反応部の少なくとも一部の領域において、前記アノード触媒層、前記高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、前記アノード電極部材を構成する前記織物におけるアノード側の溝と、前記カソード電極部材を構成する前記織物におけるカソード側の溝とを交差させている。
【発明の効果】
【0011】
アノード電極部材およびカソード電極部材のそれぞれは、微細な溝が並列に複数本形成された導電性の織物であって、溝のピッチが0.2〜1mm、かつ、溝の深さが0.2〜1mmである織物から構成してあるので、溝が伸びる方向に対して直交する方向の断面において見ると、織物には溝を形成するための頂点部が規則的に連続して現れることになる。これによって、ガス拡散路が均等ないし規則的な流路となり、ガス拡散路の圧力損失が少なくなる。このため、ガスを効率的に拡散して、十分なガス供給機能を確保することができる。電気化学的反応の進行が促進される結果、高出力化を図ることができる。
【0012】
さらに、アノード側の溝とカソード側の溝とが交差することから、アノード電極部材を構成する織物の頂点部と、カソード電極部材を構成する織物の頂点部とを、アノード触媒層、高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、向かい合わせて接触させることができる。これによって、織物の頂点部同士がずれている場合に比べると、アノード電極部材とカソード電極部材との間の接触面圧を十分に確保することができ、接触点数も十分に確保することができる。このため、内部抵抗であるセル抵抗が低くなり、セル電圧を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(A)は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)の基本構成を示す概略断面図、図1(B)は、図1(A)に破線によって囲んだ領域1Bを拡大して示す断面図である。
【図2】アノード電極部材およびカソード電極部材のそれぞれを構成する織物の一例を拡大して示す平面図である。
【図3】図3(A)は、図1(A)に示されるアノード電極部材を構成する織物を示す平面図、図3(B)は、図3(A)の3B−3B線に沿う断面図である。
【図4】図4(A)は、図1(A)に示されるカソード電極部材を構成する織物を示す平面図、図4(B)は、図4(A)の4B−4B線に沿う断面図である。
【図5】アノード側の溝と、カソード側の溝とが、平面視において交差している状態を示す平面図である。
【図6】図6(A)は、対比例に係る固体高分子形燃料電池であって、アノード側の溝と、カソード側の溝とが、平面視において交差していない状態を示す平面図、図6(B)は、図6(A)の6B−6B線に沿う断面図である。
【図7A】マイクロエンボス装置を示す平面図である。
【図7B】マイクロエンボス装置を示す正面図である。
【図7C】マイクロエンボス装置を示す右側面図である。
【図8】図8(A)は、平面視において波状の流路を形成しているアノード側の溝を示す図、図8(B)は、平面視において波状の流路を形成しているカソード側の溝であって、カソード側の溝がなす波状の流路の曲率を、アノード側の溝がなす波状の流路の曲率よりも小さくした例を示す図である。
【図9】平面視において波状の流路を形成しているアノード側の溝と、平面視において直線状の流路を形成しているカソード側の溝とを、平面視において交差させた例を示す平面図である。
【図10】実施例および比較例の各評価用単セルの発電試験を行った評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、理解の容易のために、図面上における各部材の寸法比率は誇張して示してあり、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1(A)を参照して、実施形態に係るPEFC10は、概説すれば、高分子電解質膜20と、高分子電解質膜20のそれぞれの面に設けられるアノード触媒層30aおよびカソード触媒層30cと、導電性を備えガスを遮断するためのアノードセパレータ80aおよびカソードセパレータ80cと、を有している。触媒層30a、30cは、集電性向上のためのカーボン粒子層31a、31cを含んでいる。アノード触媒層30aとアノードセパレータ80aとの間には、アノード触媒層30aとともにアノード60aを形成するアノード電極部材50aを配置してある。カソード触媒層30cとカソードセパレータ80cとの間には、カソード触媒層30cとともにカソード60cを形成するカソード電極部材50cを配置してある。アノード電極部材50aおよびカソード電極部材50cのそれぞれは、微細な溝120a、120cが並列に複数本形成された導電性の織物100であって、溝120a、120cのピッチp1が0.2〜1mm、かつ、溝120a、120cの深さdが0.2〜1mmである織物100から構成してある。そして、発電に寄与する反応部の少なくとも一部の領域において、アノード触媒層30a(カーボン粒子層31aを含む)、高分子電解質膜20およびカソード触媒層30c(カーボン粒子層31cを含む)を介して、アノード電極部材50aを構成する織物100におけるアノード60a側の溝120aと、カソード電極部材50cを構成する織物100におけるカソード60c側の溝120cとを交差させている。アノード触媒層30a、高分子電解質膜20およびカソード触媒層30cを、以下、単に「積層体40」という。
【0016】
高分子電解質膜20、一対の触媒層30a、30c(アノード触媒層30aおよびカソード触媒層30c)、一対の電極部材50a、50c(アノード電極部材50aおよびカソード電極部材50c)は、積層された状態で膜電極接合体70(MEA)を構成する。MEA70は、一対のセパレータ80a、80c(アノードセパレータ80aおよびカソードセパレータ80c)によって挟持してある。複数のMEA70をセパレータ80a、80cを介して順次積層することによって、燃料電池スタックを構成する。燃料電池スタックにおいては、セパレータ80a、80cと高分子電解質膜20との間などにガスシール部を配置している。図1(A)には、燃料電池スタックおよびガスシール部の図示を省略してある。以下、詳述する。
【0017】
[アノード電極部材50a、カソード電極部材50c]
アノード電極部材50aは、燃料ガスをアノード触媒層30aに供給するガス供給機能と、集電機能とを備えている。カソード電極部材50cも同様に、酸化剤ガスをカソード触媒層30cに供給するガス供給機能と、集電機能とを備えている。
【0018】
図3(A)(B)を参照して、アノード電極部材50aは、微細な溝120aが並列に複数本形成された導電性の織物100から形成してある。織物100は、溝120aが並列に複数本形成されているので、溝120aが伸びる方向に対して直交する方向の断面において見ると、織物100には溝120aを形成するための頂点部111、112が規則的に連続して現れることになる。これによって、アノード電極部材50aのガス拡散路が均等ないし規則的な流路となり、ガス拡散路の圧力損失が少なくなる。
【0019】
図4(A)(B)を参照して、カソード電極部材50cも同様に、溝120cが伸びる方向に対して直交する方向の断面において見て、織物100には溝120cを形成するための頂点部111、112が規則的に連続して現れる。これによって、カソード電極部材50cのガス拡散路が均等ないし規則的な流路となり、ガス拡散路の圧力損失が少なくなる。
【0020】
溝120a、120cが伸びる方向に対して直交する方向の断面において見て、溝120a、120cは、波型形状を有している。波型形状の溝120a、120cのピッチp1は0.2〜1mm、かつ、溝120a、120cの深さdは0.2〜1mmが好ましい。発泡金属多孔体を用いた場合には、細孔径が比較的大きいのでカーボンペーパを必要とするが、溝120a、120cのピッチp1が0.2〜1mm、かつ、溝120a、120cの深さdが0.2〜1mmを満たすことによって、カーボンペーパを使わずとも集電することが可能となる。つまり、ガス(燃料ガスや酸化剤ガス)を流しつつ触媒層30a、30cとの接触面積を確保できる。比較的高価で作製も煩雑なカーボンペーパを用いなくてよいことから、アノード60a、カソード60cの作製コストを低減することができる。またカーボンペーパを必要としないため厚み方向のサイズを低減することができる。
【0021】
図1(B)および図2を参照して、織物100は、交錯した線材102同士の間に形成される多数の開口部103を有している。この開口部103も、溝120a、120cと同様に、ガス供給機能を発揮する。開口部103から構成されるガス拡散路は、織物100の面の法線方向で見て均等ないし規則的な流路となるので、かかるガス拡散路の圧力損失も少なくなる。
【0022】
アノード電極部材50aは、図1(A)において上側の頂点部111においてアノード触媒層30aに対して接触することによって、アノード触媒層30aとの間の導電性を確保する。アノード電極部材50aは、下側の頂点部112においてにおいてアノードセパレータ80aに対して接触することによって、アノードセパレータ80aとの間の導電性を確保する。
【0023】
カソード電極部材50cは、図1(A)において下側の頂点部111においてカソード触媒層30cに対して接触することによって、カソード触媒層30cとの間の導電性を確保する。カソード電極部材50cは、上側の頂点部112においてカソードセパレータ80cに対して接触することによって、カソードセパレータ80cとの間の導電性を確保する。
【0024】
PEFC10において、発電に寄与する反応部は、MEA70をセパレータ80a、80cを介して積層した部分である。図1(A)および図5に示すように、この反応部の少なくとも一部の領域において、積層体40を介して、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを交差させている。アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを交差させることによって、アノード電極部材50aを構成する織物100の頂点部111と、カソード電極部材50cを構成する織物100の頂点部111とを、積層体40を介して、向かい合わせて接触させることができる。これによって、織物の頂点部同士がずれている場合に比べると、アノード電極部材50aとカソード電極部材50cとの間の接触面圧を十分に確保することができ、接触点数も十分に確保することができる。その結果、内部抵抗であるセル抵抗を低くして、セル電圧を高めることが可能となる。
【0025】
反応部のすべての領域において、積層体40を介して、アノード60a側の溝120aと、カソード60c側の溝120cとが交差していることが好ましい。アノード電極部材50aとカソード電極部材50cとの間の接触面圧をより十分に確保することができ、接触点数もより十分に確保することができ、その結果、内部抵抗であるセル抵抗を低くして、セル電圧を一層高めることが可能となるからである。
【0026】
また、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cのうちの一方の溝120a(120c)が、または、両方の溝120a、120cのそれぞれが、平面視において波状の流路を形成することが好ましい。アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを簡単に交差させることができ、セル抵抗を低くして、セル電圧を高めるという効果を確実に得ることができるからである。
【0027】
具体的に、本実施形態にあっては、図3(A)および図4(A)に示すように、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cのそれぞれが、平面視において波状の流路を形成している。波状の流路のピッチp2、幅w、および溝120a、120cのピッチp1は、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cともに同じである。一方、波状の流路の位相は、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとの間で逆にしてある。同一の織物100を表裏反転して用いることによって、波状の流路の位相を逆にすることができる。したがって、同一部材を用いることによって、コストの低減を図ることが可能となる。
【0028】
なお、本明細書においては、溝120a、120cが伸びる方向に対して直交する方向の波の形状については「波型」の文言を用い、平面視において平面方向の波の形状については「波状」の文言を用いる。
【0029】
上記構成のアノード電極部材50a、カソード電極部材50cによれば、圧力損失を少なくし、セル抵抗を低くしてセル電圧を高める効果を奏する。
【0030】
すなわち、アノード電極部材50aのガス拡散路は、発泡金属多孔体におけるランダムな流路に比べて格段に均等ないし規則的な流路であるので、ガス拡散路の圧力損失が少なくなる。このため、ガス拡散速度が低下しないので、燃料ガスを効率的に拡散して、十分なガス供給機能を確保することができる。電気化学的反応の進行が促進される結果、高出力化を図ることができる。圧力損失が少なくなるので、燃料ガスの流量分布が均一になり、電圧の安定化を図ることもできる。
【0031】
カソード電極部材50cのガス拡散路も同様に、発泡金属多孔体におけるランダムな流路に比べて格段に均等ないし規則的な流路であるので、ガス拡散路の圧力損失が少なくなる。このため、ガス拡散速度が低下しないので、酸化剤ガスを効率的に拡散して、十分なガス供給機能を確保することができる。電気化学的反応の進行が促進される結果、高出力化を図ることができる。ガス拡散速度が低下しないことから、カソード60cにおける生成水をガス拡散方向の下流側に押し出して排出し易く、生成水が滞留するフラッディング現象を十分に抑制することができる。この観点からも、電気化学的反応の進行を促進し、高出力化を図ることができる。圧力損失が少なくなるので、酸化剤ガスの流量分布が均一になり、電圧の安定化を図ることもできる。
【0032】
アノード電極部材50aを介して、アノード触媒層30aとアノードセパレータ80aとの間の導電性が確保され、カーボンペーパを設けなくてもセル抵抗が低くなる。このため、アノード触媒層30aにおいて発生した電流を容易にアノードセパレータ80a側に通電させることができる。
【0033】
カソード電極部材50cを介して、カソード触媒層30cとカソードセパレータ80cとの間の導電性が確保され、カーボンペーパを設けなくてもセル抵抗が低くなる。このため、カソード触媒層30cにおいて発生した電流を容易にカソードセパレータ80c側に通電させることができる。
【0034】
図6(A)には、対比例に係る固体高分子形燃料電池における織物130を示してある。対比例にあっては、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cはともに、平面視においてストレートの流路を形成している。織物100、130には部品公差があり、織物100、130を組み付けるときにも組み付け公差がある。このため、このような織物130をアノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを交差させずに組み付ける場合には、アノード電極部材50aを構成する織物130の頂点部111と、カソード電極部材50cを構成する織物130の頂点部111とが、ずれてしまうことが生じ得る。図6(B)の符号Δは、織物130の頂点部111同士のずれを示している。織物130の頂点部111同士がずれてしまうと、積層方向に加圧しても、積層体40が弾性変形するだけであり、アノード電極部材50aとカソード電極部材50cとの間の接触面圧が比較的小さなものとなる。さらに、接触点数も少なくなる。このため、内部抵抗であるセル抵抗が高くなり、セル電圧が低くなってしまう。
【0035】
これに対して、本実施形態にあっては、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを交差させていることから、アノード電極部材50aを構成する織物100の頂点部111と、カソード電極部材50cを構成する織物100の頂点部111とを、積層体40を介して、向かい合わせて接触させることができる(図1(A)および図5を参照)。これによって、織物130の頂点部111同士がずれている場合に比べると、アノード電極部材50aとカソード電極部材50cとの間の接触面圧を十分に確保することができ、接触点数も十分に確保することができる。このため、内部抵抗であるセル抵抗が低くなり、セル電圧を高めることが可能となる。
【0036】
図1(B)を参照して、電極部材50a、50cの表面は、導電性防食処理がされていることが好ましい。電極部材50a、50cに導電性防食処理を施すことによって、電極部材50a、50cが腐食せず、セルの耐久性を高めることができるからである。導電性防食処理は、金または導電性炭素のコーティング140である。導電性腐食処理が金メッキ、金クラッド、導電性炭素層であるため、燃料電池内の環境下で腐食することがなく、セルの耐久性を高めることができるからである。
【0037】
織物100は、図2に示されるメタルメッシュ101から形成することができる。使用するメタルメッシュ101の寸法は適宜選択できるが、例えば、メッシュ数が200〜500メッシュである。メタルメッシュ101の織り方は特に限定されず、平織、綾織、平畳織、綾畳織など何れでもよい。
【0038】
織物100を構成する導電性材料について特に制限はなく、金属セパレータの構成材料として用いられているものが適宜用いられ得る。織物100の構成材料としては、例えば、鉄、チタン、およびアルミニウム並びにこれらの合金が挙げられる。これらの材料は、機械的強度、汎用性、コストパフォーマンスまたは加工容易性などの観点から好ましく用いられ得る。ここで、鉄合金にはステンレスが含まれる。なかでも、織物100はステンレスから構成することが好ましい。
【0039】
溝120a、120cは平面視において波状の流路を形成しているが、この波状の流路における揺らぎの寸法も適宜選択できる。図3および図4に示したように、波状の流路のピッチp2、つまり揺らぎのピッチは、例えば、2〜30mmである。また、波状の流路の幅w、つまり揺らぎの振幅は、例えば、0.5〜5mmである。
【0040】
アノード触媒層30aとともにアノード60aを形成するために上記構成のアノード電極部材50aを用いることによって、上述したように、圧力損失を少なくし、セル抵抗を低くし、さらにセル電圧を高めたPEFC10を得ることができる。カソード電極部材50cについても同様のことがいえる。
【0041】
[織物100のエンボスロール成型]
織物100の折り曲げ加工に関しては、織物100をエンボスロール成型することによって、波型形状を賦形することが好ましい。エンボスロール成型は、コストが比較的安く、大量生産に適しているからである。
【0042】
図7A、図7B、図7Cに、マイクロエンボス装置200の平面図、正面図、右側面図を概略示してある。
【0043】
図示するように、マイクロエンボス装置200は、ロールクリアランスを隔てて配置される一対のエンボスロール211、212と、一対のエンボスロール211、212の間に素材を供給する供給部220と、一のエンボスロール212を回転駆動する駆動モータ230と、を有している。
【0044】
一対のエンボスロール211、212は、ロールクリアランスを隔てて上下に配置される上エンボスロール211と、下エンボスロール212とである。ベース210に取り付けたロール支持部213は、上下のエンボスロール211、212の軸を回転自在に保持している。ロール支持部213はまた、ロールクリアランスを調整するために、上エンボスロール211を下エンボスロール212に対して接近離反移動自在に保持している。図中の符号214は、ロールクリアランスを調整するための調整ねじを表している。
【0045】
供給部220は、素材である織物100を上下のエンボスロール211、212の間に向けて供給するテーブル221と、テーブル221に設けられた供給ガイド222とを含んでいる。
【0046】
駆動モータ230は、ベース210上に取り付けている。駆動モータ230の駆動シャフト231は、下エンボスロール212の回動軸に連結してある。
【0047】
マイクロエンボス装置200によってエンボスロール成型を行う成形工程の一例を説明する。
【0048】
まず、ジュラルミン製の上下のエンボスロール211、212を製作する。エンボスロール211、212の製作方法は、同時4軸制御のマシニングセンターによる切削加工である。上下のエンボスロール211、212の寸法は、直径50mm、面長90mmである。ロール表面に彫られる溝のピッチは0.3mmであり、溝深さは0.3mmである。溝加工に用いるエンドミルはφ0.1mmの2枚刃ボールエンドミルで、主軸の回転数35000〜50000RPM、1回転あたりの切り込みは0.01mm〜0.03mm、ロールを加工するチャック付加軸の回転数は1〜3RPMである。
【0049】
加工が完了した上下のエンボスロール211、212を、溶剤洗浄した後、ロール支持部213にセットする。まず、下エンボスロール212の軸位置を決め、駆動モータ230の駆動シャフト231に固定する。その後、上エンボスロール211をロール支持部213にセットし、上下のエンボスロール211、212の溝が凹凸で合致した位置において、上エンボスロール211の位置を固定する。
【0050】
調整ねじ214によって、素材である織物100の肉厚(例えば、0.06mm)分の隙間をあける。
【0051】
使用する素材は、例えば、ステンレス製平織り300メッシュで、90mm×340mmに予め切断しておく。
【0052】
マイクロエンボス装置200の供給テーブル221に素材をセットする。次いで、駆動モータ230の駆動を開始する。
【0053】
駆動モータ230の回転スピードを8〜13RPMに調整した後、供給テーブル221上の素材を上下のエンボスロール211、212の間に供給する。素材を供給するときは、供給ガイド222に沿わせながら素材を送り込み、上下のエンボスロール211、212に対して垂直に素材を供給する。素材の送り込み、および上下のエンボスロール211、212の回転によって、素材に波型形状を賦形し、立体的な織物100を得る。
【0054】
成型完了後、波型形状に賦形された織物100の破れ、ささくれなどの有無の確認を行う。形状・品質に問題がないことを確認したのち、金メッキ処理工程に移行する。
【0055】
金メッキの厚みは例えば100nmであり、メッキ処理後、メッキの厚み、メッキの未処理の部分が無いかを確認する。これによって、電極部材の作製が完了する。
【0056】
[カーボン粒子層31a、31c]
図1(A)を参照して、カーボン粒子層31a、31c(マイクロポーラス層;MPL)は、集電性向上のため、触媒層30a、30c上に圧着によって設けている。
【0057】
MPLは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔体に、アセチレンブラックと、PTFE微粒子と、増粘剤とからなる水分散液を含侵し、焼成処理を行って作製する。
【0058】
[セパレータ80a、80c]
セパレータ80a、80cは、単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列接続する機能を有する。また、セパレータ80a、80cは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互いに遮断する隔壁としての機能も有する。
【0059】
セパレータ80a、80cを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく用いることができる。図示例にあっては、アノードセパレータ80aおよびカソードセパレータ80cは、ともに金属製である。
【0060】
セパレータ80a、80cは、電極部材50a、50cの頂点部112が接触する側の面82を平面に形成してある。電極部材50a、50cによって十分なガス供給機能を得ることができるので、セパレータ80a、80cにリブを形成する必要がない。このため、セパレータ80a、80cを簡単かつ安価に製造することができる。つまり、実施形態のように金属製セパレータの場合にはリブをプレス加工によって形成する必要がなく、カーボン製セパレータの場合にはリブを切削加工によって形成する必要がなくなるからである。さらに、リブを形成する必要がないため、セパレータ80a、80cの高さ方向のサイズ、ひいてはPEFC10の高さ方向のサイズを小さくすることができる。
【0061】
図1に示されるPEFC10の他の構成要素、すなわち電解質層、触媒層30a、30cについて概説する。
【0062】
[電解質層]
電解質層は、固体高分子電解質膜20から構成される。この高分子電解質膜20は、PEFC10の運転時にアノード触媒層30aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層30cへと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜20は、アノード60a側に供給される燃料ガスとカソード60c側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0063】
高分子電解質膜20の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。高分子電解質膜20として、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜20を用いることができる。
【0064】
[触媒層30a、30c]
触媒層30a、30cは、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層30aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層30cでは酸素の還元反応が進行する。触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および高分子電解質を含む。
【0065】
アノード触媒層30aに用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層30cに用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いることができる。
【0066】
触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子を挙げることができる。
【0067】
高分子電解質は、特に限定されないが、例えば、上述した電解質層を構成するイオン交換樹脂が、高分子電解質として触媒層に添加することができる。
【0068】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0069】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましい。
【0070】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータ80a、80cを介して膜電極接合体70を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0071】
本実施形態のPEFC10やこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、自動車に駆動用電源として搭載することができる。燃料電池スタックを自動車に搭載するには、例えば、車体中央部の座席下に搭載すればよい。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができる。燃料電池スタックを搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームであってもよい。上述したPEFC10や燃料電池スタックは出力特性・耐久性に優れる。したがって、長期間にわたって信頼性の高い燃料電池搭載車両を提供することができる。
【0072】
(平面視における流路形状の改変例1)
平面視における流路形状は、上述した実施形態の流路形状に限定されるものではない。
【0073】
アノード電極部材50aとカソード電極部材50cとを、同一構造の織物100から構成する必要はない。例えば、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cのそれぞれが、平面視において波状の流路を形成し、波状の流路のピッチp2、幅w、位相、および溝120a、120cのピッチp1の少なくとも一つが、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとの間でずれていればよい。このような流路形状においても、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを簡単に交差させることができ、セル抵抗を低くして、セル電圧を高めるという効果を確実に得ることができる。
【0074】
(平面視における流路形状の改変例2)
また、平面視における流路形状は、次のようにも改変できる。
【0075】
図8(A)(B)を参照して、アノード60a側の溝120aおよびカソード60c側の溝120cのそれぞれが、平面視において波状の流路を形成し、カソード60c側の溝120cがなす波状の流路の曲率(1/曲率半径rc)が、アノード60a側の溝120aがなす波状の流路の曲率(1/曲率半径ra)よりも小さくなるようにしてもよい(曲率半径の大小関係はrc>raである)。このような流路形状においても、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを簡単に交差させることができ、セル抵抗を低くして、セル電圧を高めるという効果を確実に得ることができる。さらには、カソード60c側の溝120cにおける圧力損失を小さくすることができ、空気を供給するコンプレッサーの負荷を下げて、システム効率を高めることが可能となる。
【0076】
(平面視における流路形状の改変例3)
さらに、平面視における流路形状は、次のようにも改変できる。
【0077】
図9を参照して、アノード60a側の溝120aが、平面視において波状の流路を形成し、カソード60c側の溝120cが、平面視において直線状の流路(曲率がゼロ)を形成するようにしてもよい。このような流路形状においても、アノード60a側の溝120aとカソード60c側の溝120cとを簡単に交差させることができ、セル抵抗を低くして、セル電圧を高めるという効果を確実に得ることができる。さらには、カソード60c側の溝120cにおける圧力損失をより小さくすることができ、空気を供給するコンプレッサーの負荷を下げて、システム効率を一層高めることが可能となる。
【0078】
(その他の改変例)
織物100の波型形状は、図示した三角形状のような波型形状に限定されるものではなく、適宜の形状を選択することができる。例えば、サインカーブのような波型形状でもよい。さらには、矩形形状のような波型形状でもよい。織物100の波型形状が矩形形状の場合でも、織物100は多数の開口部103を有しているので、触媒層30a、30cに接している部位に開口部103が臨んでいる。織物100が触媒層30a、30cに接している部位においても、開口部103を介して、触媒層30a、30cにガスを直接供給することができる。このため、触媒層30a、30cの全面を均一に利用することができ、これによって、セル電圧を高めることができる。
【0079】
規則的に折り曲げた織物100から電極部材50a、50cを構成した実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。例えば、開口部103の開孔率を部分的に変えたり、波型形状のピッチを部分的に変えたりした織物から電極部材50a、50cを構成することもできる。開口部103の開孔率や波型形状のピッチが異なる複数種類の織物を並べて配置することによって、1つの電極部材50a、50cを構成してもよい。このような形態の電極部材50a、50cによれば、通気抵抗を部分的に変えたり、触媒層30a、30cやセパレータ80a、80cとの接触面積を部分的に変えたりすることができる。燃料電池スタックを構成する場合に、セパレータ80a、80cを介して積層した複数のMEA70を均等に押圧するために、溝120a、120cの深さdつまり波型形状の高さを部分的に変えた織物から電極部材50a、50cを構成することもできる。
【0080】
(実施例)
以下、本発明による効果を、実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0081】
[実施例1]
固体高分子電解質膜として、ナフィオンCS(登録商標、デュポン社製))を用いた。この電解質膜に、白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製 TEC10E50E、白金含量50質量%)を塗布したテフロン(登録商標)シートをホットプレス法にて転写し、触媒層を形成した。白金触媒使用量は、アノード、カソードともに、0.4mg/cmとした。
【0082】
触媒層の保護および集電性向上のため、カーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL)を触媒層上に圧着し、固体高分子電解質膜、触媒層、およびMPLの接合体を作製した。MPLは、PTFE多孔体ポアフロン(住友電工製)に、アセチレンブラック(電気化学工業製)と、PTFE微粒子Polyflon(ダイキン工業製)と、適量の増粘剤とからなる水分散液を含侵し、350℃、30分焼成処理を行ったものである。
【0083】
メッシュ数300のステンレスメッシュ(綾織、線径25μm、目開き26μm)を、エンボスロールによって、図1(A)に示した三角形状の波型形状に加工した。溝深さ200μm、ピッチ200μmとした。
【0084】
ステンレスメッシュは、図3(A)および図4(A)のような、アノード側の溝およびカソード側の溝のそれぞれが平面視において波状の流路を形成するように加工した。波状の流路のピッチp2、幅w、および溝のピッチp1は、アノード側の溝およびカソード側の溝ともに同じとし、波状の流路の位相は、アノード側の溝とカソード側の溝との間で逆位相とした。
【0085】
このステンレスメッシュに、腐食防止と接触抵抗低減のために、100nm厚みの金メッキを施して、電極部材を作製した。
【0086】
触媒層のMPL上に電極部材を配置し、一対のセパレータによって挟持し、評価用単セルとした。セパレータとして、切削カーボン(メカニカルカーボン製)を用いた。セパレータの形状はリブのない平面状とした。図1(A)に示したように、アノードおよびカソードをともに、触媒層と電極部材とから構成し、カーボンペーパ製、カーボン不織布製、あるいはカーボンファイバー製のガス拡散層は用いなかった。
【0087】
[実施例2]
アノード側のステンレスメッシュとして、溝が平面視において波状の流路を形成するように加工したものを使用した。カソード側のステンレスメッシュとして、溝が平面視においてストレートの流路を形成するように加工したものを使用した。これら以外は、実施例1と同様である。
【0088】
[比較例]
アノード側のステンレスメッシュおよびカソード側のステンレスメッシュともに、溝が平面視においてストレートの流路を形成するように加工したものを使用した。これら以外は、実施例1と同様である。
【0089】
実施例および比較例の各評価用単セルの発電試験を行った。アノードに水素、カソードに空気を供給し、相対湿度アノード100%R.H./カソード100%R.H.、セル温度70℃、両ガスの供給圧力を大気圧とした。水素流量は0.78nL/min、空気流量は2.5nL/minの流量一定とした。
【0090】
評価結果を図10に示す。また、カソードの圧力損失は、実施例1が88.0kPa、実施例2が30.0kPa、比較例が30.0kPaであった。
【0091】
図10に示すように、比較例の電極部材を用いたセルは、セル電圧が低かった。比較例では、アノードの流路構造およびカソードの流路構造がともにストレート状であるので、部品公差や組み付け公差によって、アノード電極部材における頂点部と、カソード電極部材における頂点部とが、ずれてしまうことがある。このため、アノード電極部材とカソード電極部材との間の接触面圧が小さく、さらに、接触点数も少なく、接触抵抗が上昇したために、内部抵抗であるセル抵抗が高くなったからである、と推察できる。
【0092】
一方、実施例1、2の電極部材を用いたセルは、アノード側の溝とカソード側の溝とが平面視において交差する。アノード電極部材における頂点部と、カソード電極部材における頂点部とが、アノード触媒層、高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、向かい合って接触する。このため、アノード電極部材とカソード電極部材との間の接触面圧が大きく、さらに、接触点数も多く、接触抵抗が低下したために、内部抵抗であるセル抵抗が低くなったからである、と推察できる。
【0093】
実施例1、2の電極部材を用いたセルは、フラッディングが生じやすい高加湿条件においてもセル電圧が急激に低下していない。このため、フラッディング現象が発生せず、セル抵抗が低いため、高電流密度においてもセル電圧が高く、良好な性能を示す、と推察できる。
【0094】
さらに実施例2では、カソードの流路構造がストレート状であるため、カソードの圧力損失が、実施例1よりも小さかった。このことによって、空気を供給するコンプレッサーの負荷を下げることができ、システム効率を高めることができる。
【0095】
以上から、アノード側の溝とカソード側の溝とを交差させて配置した燃料電池セルは、交差させない燃料電池セルに比べて、アノード電極部材とカソード電極部材との間の接触面圧を十分に確保するとともに接触点数も十分に確保し、内部抵抗であるセル抵抗を低くして、セル電圧を高め、良好な性能を示すことがわかった。さらに、カソード側の溝を平面視においてストレート状とすることによって、空気を供給するコンプレッサーの負荷を下げることができ、システム効率を高めることができることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
10 固体高分子形燃料電池(PEFC)、
20 高分子電解質膜、
30a アノード触媒層、
30c カソード触媒層、
31a カーボン粒子層、
31c カーボン粒子層、
40 積層体(アノード触媒層、高分子電解質膜およびカソード触媒層)、
50a アノード電極部材、
50c カソード電極部材、
60a アノード、
60c カソード、
70 膜電極接合体(MEA)、
80a アノード平板セパレータ、
80c カソード平板セパレータ、
82 平面、
100 織物、
101 メタルメッシュ(織物)、
102 線材、
103 開口部、
111 頂点部、
112 頂点部、
120a アノード側のメッシュ溝、
120c カソード側のメッシュ溝、
140 導電性防食処理のためのコーティング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜のそれぞれの面に設けられるアノード触媒層およびカソード触媒層と、
導電性を備えガスを遮断するためのアノードセパレータおよびカソードセパレータと、
前記アノード触媒層と前記アノードセパレータとの間に配置されて前記アノード触媒層とともにアノードを形成するアノード電極部材と、
前記カソード触媒層と前記カソードセパレータとの間に配置されて前記カソード触媒層とともにカソードを形成するカソード電極部材と、を有し、
前記アノード電極部材および前記カソード電極部材のそれぞれは、微細な溝が並列に複数本形成された導電性の織物であって、溝のピッチが0.2〜1mm、かつ、溝の深さが0.2〜1mmである織物から構成され、
発電に寄与する反応部の少なくとも一部の領域において、前記アノード触媒層、前記高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、前記アノード電極部材を構成する前記織物におけるアノード側の溝と、前記カソード電極部材を構成する前記織物におけるカソード側の溝とが交差している、固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
前記反応部のすべての領域において、前記アノード触媒層、前記高分子電解質膜およびカソード触媒層を介して、前記アノード側の溝と、前記カソード側の溝とが交差している、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記アノード側の溝および前記カソード側の溝のうちの一方の溝が、または、両方の溝のそれぞれが、平面視において波状の流路を形成する、請求項1または請求項2に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項4】
前記アノード側の溝および前記カソード側の溝のそれぞれが、平面視において波状の流路を形成し、
前記波状の流路のピッチ、幅、位相、および溝のピッチの少なくとも一つが、前記アノード側の溝と前記カソード側の溝との間でずれている、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
前記アノード側の溝および前記カソード側の溝のそれぞれが、平面視において波状の流路を形成し、
前記波状の流路のピッチ、幅、および溝のピッチが、前記アノード側の溝および前記カソード側の溝ともに同じで、前記波状の流路の位相が、前記アノード側の溝と前記カソード側の溝との間で逆である、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
前記アノード側の溝および前記カソード側の溝のそれぞれが、平面視において波状の流路を形成し、
前記カソード側の溝がなす前記波状の流路の曲率が、前記アノード側の溝がなす前記波状の流路の曲率よりも小さい、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
前記アノード側の溝が、平面視において波状の流路を形成し、前記カソード側の溝が、平面視において直線状の流路を形成している、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−48936(P2011−48936A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194405(P2009−194405)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(591032219)株式会社三木製作所 (4)
【Fターム(参考)】