説明

固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法

【課題】長期に亘り安定した電圧特性を示すと共に、寿命特性を向上を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック201に対して水素を含む燃料ガスの供給及び排出を行う燃料ガス系と酸化剤ガスの供給及び排出を行う酸化剤ガス系を含む反応ガス供給部と、前記燃料電池スタックと外部負荷を通電可能となるように接続して電力を得る電力回路部と、前記反応ガス供給部や電力回路部を含む付属機器の運転条件の設定や監視による運転状態の維持修正を行う制御部とを備えた固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、連続発電中の前記燃料電池スタックに供給される酸化剤ガス中に還元性ガスを還元性ガス添加用の配管304を通じて、常時含有させて運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素イオン伝導性を有する固体高分子を電解質とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率のエネルギー変換装置として、燃料電池が注目を集めている。この燃料電池は、電解質の相違により幾つかの種類に分類されるが、このうち水素イオン伝導性を有する固体高分子を電解質とする固体高分子電解質型燃料電池は、コンパクトな構造で高出力密度を得ることができ、また簡素なシステムによる運転が可能であることから、宇宙用や車両用あるいは家庭用電源として大きく注目されている。
【0003】
最近、高分子電解質として、パーフルオロカ―ボンスルホン酸膜(例えば、ナフィオン:商品名、デュポン社製)等が用いられている。
【0004】
このような高分子電解質を電解質膜として用いた固体高分子電解質型燃料電池は、通常図11に示すような単位セル101を複数積層した積層体による電池スタック構造として構成されている。
【0005】
ここで、図11において、単位セル101中の膜・電極接合体102は、高分子電解質膜103と、この高分子電解質膜103の両面側を挟持するように配置された燃料極104及び酸化剤極105から構成される。この燃料極104及び酸化剤極105は、導電性多孔質材からなる基板106,107と、この基板106,107の内面側にカーボン粉と撥水材を含むガス拡散層108,109がそれぞれ形成されている。さらに、これらガス拡散層108,109の内面側に触媒と電解質、あるいは更に撥水材も加えた触媒層110,111をそれぞれ担持した構造となっている。
【0006】
また、膜・電極接合体102の形成方法としては、燃料極104及び酸化剤極105を高分子電解質膜103に加熱圧着して接合し、一体化する方法が行われている。
【0007】
さらに、単位セル101は、膜・電極接合体102を挟持するように燃料極104の背面に接触させて配置されたセパレータ燃料極面112と、酸化剤極105の背面に接触させて配置されたセパレータ酸化剤極面113とで構成されている。
【0008】
上記セパレータ燃料極面112には、燃料ガスを分配供給する複数のガス流路として燃料ガス供給溝114が形成されており、セパレータ酸化剤極面113には、酸化剤ガスを分配供給する複数のガス流路として酸化剤ガス供給溝115が形成されている。
【0009】
これらセパレータ燃料極面112とセパレータ酸化剤極面113とは表裏一体としたセパレータを形成している場合が多く、膜・電極接合体102とセパレータを交互に積層しながら単位セル101を複数積層した積層体として電池スタックを構成する。
【0010】
このような構成の固体高分子電解質型燃料電池において、電池反応として、反応ガス特に燃料ガスである水素は、燃料極側ガス拡散層を経由して燃料極側触媒層中を拡散し、カーボン担持体上の白金等の触媒に到達すると反応して水素イオンと電子に分離される。
【0011】
このようにして分離された電子は、燃料極側から外部回路を通り酸化材極へ移動すると共に、水素イオンは燃料極側触媒層中の触媒に接近する電解質を伝達経路として電解質膜中へ移動し酸化剤極に到達して酸化剤極側触媒層中の電解質を伝達経路として拡散して触媒上で酸素と反応して生成水となる。この生成水は触媒層及びガス拡散層中を移動し、あるいは蒸発してガス拡散層基板の外部へ除去される。
【0012】
一方、上記電池スタックを用いた燃料電池システムの基本構成としては、燃料電池スタック、この燃料電池スタックに対して水素を含む燃料ガスの供給及び排出を行う燃料ガス系と酸化剤ガスを供給及び排出を行う酸化剤ガス系を含む反応ガス供給部、及び冷却水の供給及び排出を行う冷却水系、燃料電池スタックと外部負荷とが通電可能となるように接続して電力を得る電力回路部、及び反応ガス供給部や電力回路部を含む付属機器の運転条件の設定や監視による運転状態の維持修正を行う制御部により構成される。
【0013】
図12は、かかる燃料電池システムの一例を示す構成図である。
【0014】
図12に示すように燃料電池スタック201には、当該燃料電池スタック内部の単位セルの燃料ガス供給及び排出流路、酸化剤ガス供給及び排出流路、及び冷却水の供給及び排出流路に対して、それぞれ燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水を分配または合流するマニホールドが燃料ガス系、酸化剤ガス系及び冷却水系の系統毎に連通して設置されており、マニホールドには燃料電池スタック外部に対して接続する供給口及び排出口がそれぞれ系統毎に設置されている。
【0015】
燃料ガス系については、精製された水素を使用するか、或いは天然ガス等の原料ガスを燃料生成器202に導入し、燃料生成器202中の触媒作用等を利用した改質反応により水素を含む燃料ガスとして改質して使用する。この際、改質する前後において改質反応や燃料電池スタック201の電池反応が阻害されないように原料ガスや燃料ガス中の不純物を除去するためのフィルターや変成器、或いは燃料電池スタック201に水分を供給する加湿器を燃料生成器に隣接して具備している場合もある。
【0016】
次に燃料ガスは燃料電池スタック201内に導入された後、各単位セル面内の電池反応に使用されると共に、余剰分は燃料排出ガスとして当該燃料電池スタック201から排出される。更に、燃料排出ガスは燃料生成器202中の燃焼部203に導入されて、改質反応のための加熱燃料として再利用された後、燃料電池システム外に排出される。
【0017】
また、酸化剤ガス系については、酸化剤ガスとして大気中の空気が酸化剤ガス系ブロア204により燃料電池システム内に導入され、燃料電池スタック201に供給される。このとき、燃料電池スタック201導入前に酸化剤ガス空気を加湿するための加湿器を設置する場合もある。
【0018】
酸化剤ガス空気は、燃料電池スタック201に供給された後、各単位セル面内の電池反応に使用されると共に、余剰分は酸化剤排出ガスとして当該燃料電池スタック201から排出される。
【0019】
冷却水系については、冷却水を冷却水ポンプ205により燃料電池システム外部より導入するか、燃料電池システム内に設置された冷却水タンクを介して還流させて燃料電池スタック201に供給する。この供給された冷却水は加熱ヒータにより昇温されて燃料電池スタック201を設定温度に保温すると共に、当該燃料電池スタック201内で発生する熱を回収し、スタック温度を調節する。更に、燃料電池スタック201内で各セルに加湿を行うため、冷却水系から各セルに対する加湿水の供給経路が設置される場合には、冷却水の一部が加湿水として使用される。
【0020】
冷却水が燃料電池スタック201に供給された後は、熱交換器やイオン交換器等を介して冷却水タンクに回収されて冷却水として再利用されるか、燃料電池システム外に排出される。
【0021】
このように燃料電池スタック201に連通する燃料ガス系、酸化剤ガス系及び冷却水系を構成する各機器の前後には、流量の制御及び遮断を行う燃料ガス供給バルブ206及び排出バルブ207、酸化剤ガス供給バルブ208及び排出バルブ209、更に冷却水供給バルブ210及び排出バルブ211がそれぞれ設置されている。
【0022】
次に従来の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法について説明する。
【0023】
燃料電池システムの起動前の状態として、原料ガス供給バルブ212、燃料ガス供給バルブ206及び排出バルブ207、酸化剤ガス供給バルブ208及び排出バルブ209、更に冷却水供給バルブ210及び排出バルブ211はそれぞれ閉じている。
【0024】
起動時には、まず冷却水供給バルブ210及び排出バルブ211を開とし、冷却水を加熱ヒータで昇温しながら冷却水ポンプ205により燃料電池スタック201に供給する。
【0025】
当該燃料電池スタック201の温度が所定値に達すると、天然ガス等の原料ガス供給バルブ212が開となり、燃料生成器202に原料ガスが供給される。この燃料生成器202で所定の組成基準を満たした燃料ガスが生成されると、燃料ガス供給バルブ206及び排出バルブ207が開となり、燃料ガスが燃料電池スタック201に供給される。また、燃料ガスとして精製された水素を使用する場合には、直接燃料電池スタック201に供給する場合もある。
【0026】
更に、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給バルブ208及び排出バルブ209が開となると共に、酸化剤ガス系ブロア204により大気中の空気が燃料電池スタック201に供給される。この際、燃料電池スタック201の直前には加湿器が所定の温度に昇温されており、水蒸気を含んだ酸化剤ガス空気が燃料電池スタック201に供給される場合もある。
【0027】
このように燃料ガスに引続き酸化剤ガス空気が燃料電池スタック201に供給されると、当該燃料電池スタック201内部の各単位セルのセル電圧が上昇する。更に、燃料ガス、酸化剤ガス空気の流量や供給時間、あるいはセル電圧が所定の状態に達したことを制御部が判断すると、電力回路部では燃料電池スタックを外部の負荷に接続して通電を開始する。
【0028】
また、制御部は、通電の際に所定の出力が得られるように燃料電池スタックに流れる電流値或いは電圧値を調節し、継続して設定条件を安定に保持する。更に制御部は、発電を継続して行う場合、所定の出力値に応じて燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水の供給が安定して行われるように流量や組成、温度等の状態を各機器やバルブ等に付属のセンサーで監視しながら管理制御を行う。
【0029】
燃料電池システムを停止する場合には、外部負荷に対する出力を下げるため、電力回路部の通電を減少または遮断して無負荷状態とする。次に燃料ガス系及び酸化剤ガス系の各供給バルブ及び排出バルブを閉とすると共に、燃料生成器202、酸化剤ガス系ブロア204、冷却水ポンプ205や加熱ヒータ等のシステム機器の順次停止して、当該燃料電池スタックや付属機器を降温して保温状態へ移行し停止を完了する。
【0030】
このような従来の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法としては、以下の問題が挙げられる。
【0031】
すなわち、燃料電池の起動あるいは停止時におけるそれぞれの通電開始前あるいは遮断時の無負荷接続状態で燃料ガス及び酸化剤ガスが燃料電池スタックに供給される段階では各セルは電位変動を経て高電位の開回路状態へ移行する。
【0032】
開回路状態での酸化剤極の電位は、理論的に水素と酸素の反応による1.23Vとされているが、実際の起動及び停止時には不純物など共存する反応種の影響による活性低下や電極中の反応ガスの拡散阻害による電圧降下により1.23V以下の混成電位を示す。
【0033】
このため、酸化剤極は酸化剤ガス雰囲気で開回路状態に曝されて1V近傍の高電位になると、触媒層中のPt触媒粒子は徐々に酸化し溶出する。
【0034】
起動時の酸化剤極に空気が存在する状態で燃料極に水素を供給し始めた初期において、燃料極の水素が到達した領域では通常動作状態と同様の反応が生じて酸化剤極は0.8V以上の電位が発生する一方、燃料極では水素が未到達の領域ではセル面内における局所的な反応ガス分布の不均一により燃料ガスが不足して、
酸化剤極で C+2HO→CO+4H+4eの反応が生じると共に、
燃料極で O+4H+4e→HOの反応が生じる。これらの反応により酸化剤極の触媒層内のPt等の触媒を担持するカーボン担体などのカーボン腐蝕が発生する。この結果、触媒担持カーボン担体が損耗し、Pt粒子の溶解や脱落を助長して活性低下を誘発させる。
【0035】
また、燃料ガス及び酸化剤ガスの反応ガス中の不純物がセル内に混入したり、セル及び燃料電池システム内の構成基材の溶出物が電極内に侵入し、触媒表面に付着して触媒反応活性を低下させたり、金属イオンなどが電解質膜の官能基に置換して吸着し、イオン導電性を低下させることにより、電池反応を阻害する懸念がある。
【0036】
更に、起動時の高電位状態から移行して所定電位とした連続発電中においても、高電位状態の履歴を経ることに伴いPt酸化物がPt触媒粒子表面に形成されたまま残留し、触媒活性を阻害する要因となることが懸念される。
【0037】
そこで、最近では上記のような問題を解決するため、電池の起動時や停止中における高電位状態により電極に付着形成された酸化物等の不純物を除去したり、触媒の酸化や溶解による性能低下を抑制したりする方法として、次のような方法が提案されている。
【0038】
(1)運転開始時に電極の電位を下げることにより電極に付着した酸化物等の不純物を溶出して除去する方法(例えば、特許文献1)。
【0039】
(2)起動時の酸化剤極の劣化を抑制するために、システム起動時に少なくとも燃料ガス流路に水素ガスが行き渡る以前に酸化剤ガス流路への水素ガスの供給を開始し、かつ少なくとも燃料ガス流路に水素ガスが行き渡った後に酸化剤ガス流路への酸化剤ガスの供給に切り替える方法(例えば、特許文献2)。
【0040】
(3)停止中に燃料極と酸化剤極の反応ガスをそれぞれ不活性ガスで置換する方法(例えば、特許文献3)。
【0041】
(4)停止及び保管状態で燃料極及び酸化剤極の電位を制御する方法(例えば、特許文献4)。
【0042】
(5)運転中やメンテナンス中に実施するセル特性回復方法として、金属イオンなどの不純物イオンが電解質膜のイオン伝導性や含水率を低下させ、触媒活性を劣化させることを防止するために、酸化剤ガスに二酸化炭素を混入させることで酸化剤極を所定の時間酸性雰囲気にする方法(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特開2005―085662号公報
【特許文献2】特開2005―149838号公報
【特許文献3】特開2005―222707号公報
【特許文献4】特開2005―251434号公報
【特許文献5】特開2002―042849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
しかしながら、上記のような固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法では、次のような課題があった。
【0045】
固体高分子電解質型燃料電池を長期に亘り発電する際にセル電圧特性が低下する問題があり、原因としてセル電極部材である触媒層のPtを含むカーボン担持体触媒の劣化が懸念されている。この劣化の要因としては、連続発電中の使用によりPt触媒粒子表面には不純物やPt酸化物が吸着・被覆し、Pt表面積が減少して触媒活性が低下する現象が考えられている。
【0046】
これに対して、上述した特許文献1〜特許文献5で開示されているような起動停止の操作方法等の対策では、Pt表面のPt酸化物を除去してPt触媒活性を一時的に回復させていた。
【0047】
しかし、上述の如く従来の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法に関しては、触媒に付着した不純物やPt酸化物の除去操作の際にはPt触媒粒子の一部が溶解してしまうと共に、更に発電を継続することにより再びPt触媒粒子表面を被覆するPt酸化物等が形成されて、不純物やPt酸化物の除去操作が繰返される度に触媒粒子が損耗してしまう問題があった。
【0048】
また、連続発電中の所定電位においても、酸化剤極の触媒層では混成電位の影響によりPt触媒粒子表面におけるPt酸化物の形成が徐々に進行する恐れがある。そこで、この触媒に付着した酸化物を除去する必要があるが、その度に触媒粒子が損耗し、Pt反応表面積が減少して活性が低下し、セル特性が低下する懸念がある。
【0049】
更に、連続運転中のセル特性の経時的な低下に対して複雑な操作手順を経ることなく、触媒性能劣化を防止する対策が必要である。
【0050】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、長期に亘り安定した電圧特性を示すと共に、寿命特性を向上させることができる固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0051】
固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法は、燃料極及び酸化剤極相互で高分子電解質膜を挟持するように配置された膜・電極接合体と燃料極に燃料ガスを供給及び排出すると共に酸化剤極に酸化剤ガスを供給及び排出するセパレータとを積層して構成された燃料電池スタックと、この燃料電池スタックに対して水素を含む燃料ガスの供給及び排出を行う燃料ガス系と酸化剤ガスの供給及び排出を行う酸化剤ガス系を含む反応ガス供給部と、前記燃料電池スタックと外部負荷を通電可能となるように接続して電力を得る電力回路部と、前記反応ガス供給部や電力回路部を含む付属機器の運転条件の設定や監視による運転状態の維持修正を行う制御部とを備えた固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、連続発電中の前記燃料電池スタックに供給される酸化剤ガス中に還元性ガスを常時含有させて運転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、電極触媒の活性劣化を防止し、長期に亘り安定した活性を得ることができるので、電池特性が安定し、寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第1の実施形態を示す構成図。
【図2】同実施形態における還元性ガス添加用の配管と酸化剤ガス系の供給側配管との合流部を示す断面図。
【図3】同実施形態において、還元性ガス添加用の配管の他の接続例を示す構成図。
【図4】同実施形態において、水素を還元性ガスとして酸化剤ガスに添加した場合と添加しない場合の発電条件におけるセル電圧・電流特性を示す図。
【図5】同じく固体高分子電解質型燃料電池の単セルについて、Pt触媒を用いた触媒層を有する酸化剤極のサイクリックボルタモグラムを示す図。
【図6】同じく図4の定格設定電流値において、水素を還元性ガスとして酸化剤ガスに添加した場合と添加しない場合のセル電圧差を酸化剤ガス中の水素濃度をパラメータとして集計して示した図。
【図7】同じく連続発電状態におけるセル電圧の経時特性を示す図。
【図8】本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第2の実施形態を示す構成図。
【図9】本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第3の実施形態を示す構成図。
【図10】同実施形態における加湿器内部の構造を示す断面図。
【図11】従来の固体高分子電解質型燃料電池の構造を示す断面図。
【図12】従来の固体高分子電解質型燃料電池システムを示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0055】
図1は本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第1の実施形態を示す構成図で、図12と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0056】
第1の実施形態では、図1に示すように燃料電池スタック201より燃料ガスを排出する燃料ガス排出側配管302を分岐して燃料ガスの一部を、酸化剤ガスを燃料電池スタック201に供給する酸化剤ガス供給側配管301に還流させるようにしたものである。
【0057】
すなわち、図1に示すように燃料ガス排出バルブ207より下流の燃料ガス排出側配管302に設けられた分岐点303に還元性ガス添加用の配管304の一端を接続し、燃料電池スタック201に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給側配管301の酸化剤ガス供給バルブ208の上流に設けられた合流点305に還元性ガス添加用の配管304の他端を接続する。この還元性ガス添加用の配管304の途中には、還元性ガスの逆流を防止するための逆止弁306と流量を制御するための還元性ガス添加バルブ307が設けられている。
【0058】
この場合、燃料電池スタック201より排出される燃料ガスとしては、精製水素あるいは改質ガスを用いる場合には燃料電池スタック201内での燃料消費により排出ガス中のCO濃度が増える可能性があるため、CO除去装置を介して供給される水素を含む改質ガスを還元性ガスとして用いる。更に、還元性ガス添加バルブ307によって流量制御を行うことにより、連続発電中の当該燃料電池スタックに対して、常時水素を含む還元性ガスが酸化剤ガス中に含まれるように供給することが可能であると共に、還元性ガスとして添加される水素の酸化剤ガス中濃度は4%以下に制御可能となっている。
【0059】
ここで、還元性ガスを酸化剤ガスに混合して燃料電池スタック201に供給するための合流点305において、上記還元性ガス添加用の配管304は図2に示すように酸化剤ガス系の供給側配管301に対して直交するように挿入されている。また、この還元性ガス添加用の配管304は、酸化剤ガスに比べて少流量添加される還元性ガスが滞留することのないように酸化剤ガス系の供給側配管301のほぼ中央部にノズル形状の供給口308を設けた構成となっている。
【0060】
図1は、燃料電池スタック201より燃料ガスを排出する燃料ガス排出側配管302を分岐して燃料ガスの一部を、酸化剤ガスを燃料電池スタック201に供給する酸化剤ガス供給側配管301に還流させる構成を示したが、排出される燃料ガスが少ない条件で燃料電池スタックが運転される場合には、図3に示すように燃料電池スタック201に燃料ガスを供給する燃料ガス供給側配管309の燃料ガス供給バルブ206より上流に設けられた分岐点310に還元性ガス添加用の配管311の一端を接続し、燃料電池スタック201に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給側配管301の酸化剤ガス供給バルブ208の上流に設けられた合流点305に還元性ガス添加用の配管311の他端を接続する構成としても良い。この場合、図1と同様に還元性ガス添加用の配管311の途中には、還元性ガスの逆流を防止するための逆止弁306と流量を制御するための還元性ガス添加バルブ307が設けられる。
【0061】
次に上記のように構成された固体高分子電解質型燃料電池システムの作用について述べる。
【0062】
第1の実施形態では、燃料ガスに含まれる水素が還元性ガスとして酸化剤ガスに添加されて燃料電池スタック201に供給されている。
【0063】
図4は、水素を還元性ガスとして酸化剤ガスに添加した場合と添加しない場合の発電条件におけるセル電圧・電流特性を示している。
【0064】
この特性から分かるように水素の添加量が増えるにつれて低電流側及び無負荷状態におけるセル電圧は減少傾向にある。この場合、セル電圧は燃料極に対する酸化剤極の電位差として検出されているため、水素の添加により酸化剤極の電位が低下し高電位状態が緩和された状態を示している。無負荷条件での酸化剤極の高電位状態を緩和することで、高電位状態ではPt触媒表面上に形成されるPt酸化物の生成を抑制すると共に、電位変化に伴うPt酸化物の溶出を防止する。
【0065】
図5は、固体高分子電解質型燃料電池の単セルについて、Pt触媒を用いた触媒層を有する酸化剤極のサイクリックボルタモグラムを示したものである。
【0066】
水素が存在した状態で電位が上昇すると、酸化電流が検出される。更に、電位が上昇するとPt酸化物が生成される。発電時の燃料電池スタック中の単セルについては、酸化剤極の電位は通常0.5〜1V付近となる状態で使用される場合が多く、Pt触媒表面上では吸着した水素とPt酸化物等が共存し混成電位を形成すると考えられる。
【0067】
この状態において、本発明で示しているように水素または水素と同様な吸着特性を示す還元性ガスを酸化剤ガスに添加する場合には、酸化剤極のPt触媒粒子表面の一部を水素を含む還元性ガスが吸着して被覆する作用により、Pt触媒粒子表面のPt酸化物の生成の進行を抑制する。
【0068】
したがって、発電開始時より還元性ガスの供給を開始することで、酸化剤極が高電位状態となることを抑制し、更に連続発電中についても還元性ガスの供給を継続して行うことにより、Pt触媒表面の一部を水素を含む還元性ガスが吸着して被覆する状態が保持されるので、Pt触媒表面の酸化物の形成や溶解を低減し、触媒の劣化を抑制することが可能となる。
【0069】
図6は、図4の定格設定電流値(例えば、0.2A/cm)において、水素を還元性ガスとして酸化剤ガスに添加した場合と添加しない場合のセル電圧差を、酸化剤ガス中の水素濃度をパラメータとして集計したものである。
【0070】
上記に示したような作用を維持しながら、従来と同様な定格設定電流値でセル出力特性が低下しない条件として、水素濃度4%以下の条件において所定の出力を好適に得ることが可能となっている。また、更に酸化剤ガス中に含まれる水素濃度を4%以下にすることで、爆発濃度限界以下として安全性が確保できる。
【0071】
また、還元性ガスを添加する際に、燃料電池システム内で使用されている水素を含む燃料ガスを用いることにより、還元性ガスのボンベ等の設置を省略することができ、還元性ガスの供給構造を簡素化できる。
【0072】
更に、還元性ガス添加用の配管は、ノズル形状の供給口とし、酸化剤ガス系の供給側配管のほぼ中央部に位置させることで、添加した還元性ガスの滞留を防止して均一に混合可能となる。
【0073】
このように本発明の第1の実施形態によれば、固体高分子電解質型燃料電池の運転方法に関して、セル電圧低下要因として懸念されている酸化剤極のPt触媒表面を被覆するPt酸化物を含む反応阻害生成物の形成を抑制すると共に、起動停止時など電位変動によるPt酸化物の溶解を伴うPt粒子の損耗やシンタリング等に起因するPt表面積の減少を防止できる。
【0074】
上記した作用により、図7に示すように連続発電状態におけるセル電圧の経時特性について、水素を還元性ガスとして酸化剤ガスに添加した場合と添加しない場合を比較すると水素を添加した場合の方がセル電圧の低下傾向は少なく、より安定な経時特性を示した。
【0075】
この結果、電極触媒の活性劣化を防止し長期にわたり安定した活性を得ることができるので、電池特性が安定し、寿命を向上させることができる。
【0076】
図8は本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第2の実施形態を示す構成図で、図12及び図1と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0077】
第2の実施形態では、図8に示すように燃料電池スタック201より燃料ガスを排出する燃料ガス排出側配管302に設けられた燃料ガス排出バルブ207とこの燃料ガス排出バルブ207より下流に設けられた分岐点303との間の配管に燃料ガスリサイクルブロア401を設け、また分岐点303より還元性ガス添加用の配管304を通して燃料ガスの一部を燃料電池スタック201の酸化剤ガス供給側配管301に還流させる合流点305と酸化剤ガス系ブロア204との間に加湿器402を設け、この加湿器402により加湿された酸化剤ガスに燃料ガスの一部を混合して燃料電池スタック201に酸化剤ガス供給バルブ208を介して供給するようにしたものである。
【0078】
このような構成としても、第1の実施形態と同様の作用および効果が得られることに加えて、合流点305付近を加湿水蒸気により湿度の高い雰囲気とすることができるので、酸化剤ガスに不純物微細粒子が混入した場合に懸念されるような当該不純物微細粒子等を反応起点とした酸化剤ガスと燃料ガスとの直接燃焼反応の発生を防止でき、還元性ガスとして添加した水素を含む燃料ガスが消費されて効果が低下することを抑制できる。
【0079】
図9は本発明による固体高分子電解質型燃料電池システムの第3の実施形態を示す構成図で、図12及び図1と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる点について述べる。
【0080】
第3の実施形態では、図9に示すように燃料電池スタック201より燃料ガスを排出する燃料ガス排出側配管302に設けられた燃料ガス排出バルブ207とこの燃料ガス排出バルブ207より下流に設けられた分岐点303との間の配管に燃料ガスリサイクルブロア501を設け、また分岐点303より燃料ガスの一部を還元性ガス添加用の配管304を通して燃料電池スタック201の酸化剤ガス供給側配管301に還流させる合流点503となる各配管部を加湿器502内部に挿入した構成とするものである。
【0081】
図10はかかる加湿器502内部の構造を示すものである。
【0082】
図10において、容器504には加湿水505が収容されており、この容器504内では配管燃料電池スタック201に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給側配管301を分離してその一方の配管の酸化剤ガス供給口506と還元性ガス添加用の配管304の供給口507を加湿水505中に没入させて挿入し、酸化剤ガス供給側配管301を分離した他方を容器504内の加湿水505の上部空間部に挿入して酸化剤ガスと還元性ガスとの混合ガスが燃料電池スタック201に供給可能になっている。
【0083】
従って、かかる構成の加湿器502にあっては、酸化剤ガス供給側配管301と還元性ガス添加用の配管304の供給口506,507が互いに接することなく加湿水505を介して酸化剤ガスと還元性ガスとを混合することができる。
【0084】
このような構成としても、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の作用及び効果が得られることに加えて、さらに次のような作用効果を得ることができる。
【0085】
上記のように還元性ガス添加用の配管304を通して燃料ガスの一部を燃料電池スタック201の酸化剤ガス供給側配管301に還流させる合流点503となる各配管部を加湿器502内部に挿入した構成とすることにより、酸化剤ガスに混入する懸念がある不純物微細粒子を加湿器内の加湿水でトラップすることで除去でき、さらに加湿水蒸気によって湿度の高い雰囲気とすることにより当該不純物微細粒子を反応起点とした酸化剤ガスと燃料ガスとの直接燃焼反応の発生を防止することが可能となるので、還元性ガスとして添加した水素を含む燃料ガスの消費による本発明にかかる効果の低下を抑制することができる。この場合、加湿器内の加湿水は定期的に交換することにより、不純物の蓄積をなくすことができる。
【0086】
前述した第2の実施形態あるいは第3の実施形態は、燃料電池スタックの連続発電中におけるセル電圧の低下を抑制する場合であるが、本発明はこれに限らず、燃料電池システムの起動あるいは停止時におけるセル特性の劣化防止操作及び特性回復操作にも適用が可能である。すなわち、特開2005−149838号公報などに示されているように酸化剤ガス流路への水素ガスの供給を開始するような場合には、当該酸化剤ガス流路への水素ガスの供給口を、加湿された酸化剤ガスの通過する部分あるいは加湿器内部に設けることで実現できる。
【0087】
このようにすれば、第2の実施形態及び第3の実施形態と同様の作用効果が得られることに加えて、従来のセル特性の劣化防止操作及び特性回復操作についても、より安全に酸化剤ガス流路への水素ガスの供給が可能となる。
【0088】
上記第1乃至第3の実施形態では、燃料電池スタック201に水素を含む燃料ガスの供給及び排出を行う燃料ガス系の燃料ガス排出側配管302あるいは燃料ガス供給側配管309の一方を分岐し、この分岐点と燃料電池スタック201に酸化剤ガスの供給及び排出を行う酸化剤ガス系の酸化剤ガス供給側配管301との間を還元性ガス添加用配管311により接続して酸化剤ガスに燃料ガスの一部を水素を含む還元性ガスとして添加するようにしたが、他の実施形態として酸化剤ガス系の酸化剤ガス供給側配管301に還元性ガス添加用配管311の一端を接続し、この還元性ガス添加用配管311の他端に還元性ガス供給源、例えば水素供給源を接続し、この水素供給源より逆止弁306及び還元性ガス添加バルブ307を介して還元性ガスとして水素を酸化剤ガス中に含有させるようにしても前述した各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0089】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で種々変形して実施できるものである。
【符号の説明】
【0090】
101…単位セル、102…膜・電極接合体、103…高分子電解質膜、104…燃料極、105…酸化剤極、106…燃料極基板、107…酸化剤極基板、108…燃料極ガス拡散層、109…酸化剤極ガス拡散層、110…燃料極触媒層、111…酸化剤極触媒層、112…セパレータ燃料極面、113…セパレータ酸化剤極面、114…燃料ガス供給溝、115…酸化剤ガス供給溝、201…燃料電池スタック、202…燃料生成器、203…燃焼部、204…酸化剤ガス系ブロア、205…冷却水ポンプ、206…燃料ガス供給バルブ、207…燃料ガス排出バルブ、208…酸化剤ガス供給バルブ、209…酸化剤ガス排出バルブ、210…冷却水供給バルブ、211…冷却水排出バルブ、212…原料ガス供給バルブ、301…酸化剤ガス供給側配管、302…燃料ガス排出側配管、303,310…分岐点、304,311…還元性ガス添加用の配管、305,503…合流点、306…逆止弁、307…還元性ガス添加バルブ、308…ノズル形状の供給口、309…燃料ガス供給側配管、401,501…燃料ガスリサイクルブロア、402…加湿器、502…加湿器、504…容器、505…加湿水、506…酸化剤ガス供給口、507…還元性ガス添加用の配管の供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極及び酸化剤極相互で高分子電解質膜を挟持するように配置された膜・電極接合体と燃料極に燃料ガスを供給及び排出すると共に酸化剤極に酸化剤ガスを供給及び排出するセパレータとを積層して構成された燃料電池スタックと、この燃料電池スタックに対して水素を含む燃料ガスの供給及び排出を行う燃料ガス系と酸化剤ガスの供給及び排出を行う酸化剤ガス系を含む反応ガス供給部と、前記燃料電池スタックと外部負荷を通電可能となるように接続して電力を得る電力回路部と、前記反応ガス供給部や電力回路部を含む付属機器の運転条件の設定や監視による運転状態の維持修正を行う制御部とを備えた固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
連続発電中の前記燃料電池スタックに供給される酸化剤ガス中に還元性ガスを常時含有させて運転することを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
還元性ガスとして水素を添加することを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法。
【請求項3】
請求項1記載の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
水素を含む還元性ガスとして前記燃料ガス系の燃料ガスを用い、この燃料ガスは水素又は改質ガスであることを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法。
【請求項4】
請求項3記載の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
酸化剤ガスに水素を含む還元性ガスが添加される合流部分をその上流側で加湿された酸化剤ガスが通過するようにしたことを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法。
【請求項5】
請求項3記載の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
酸化剤ガスに水素を含む還元性ガスが添加される合流部分に設けられた加湿器内で酸化剤ガスを加湿することを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の固体高分子電解質型燃料電池システムの運転方法において、
還元性ガスとして添加される水素の酸化剤ガス中の濃度は、4%以下であることを特徴とする固体高分子電解型燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−101945(P2013−101945A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−281360(P2012−281360)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2006−249718(P2006−249718)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】